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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161310
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】メソフェーズピッチの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10C 3/02 20060101AFI20231030BHJP
【FI】
C10C3/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071620
(22)【出願日】2022-04-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和3年9月2日に開催された「令和2年度 石炭開発部 成果報告会および現場技術支援報告会」、WEB方式(CISCO社WEBEX) (2)令和3年9月2日に開催された「令和2年度 石炭開発部 成果報告会および現場技術支援報告会」の講演資料であり、令和3年9月2日にウェブサイトにて公開された「褐炭改質技術によるPCI炭等の製鉄用高付加価値代替品の製造可能性の検討」 (3)令和3年11月11日にウェブサイトにて公開された『公開版令和二年度石炭現場ニーズ等に対する技術支援事業「褐炭改質技術によるPCI炭等の製鉄用高付加価値代替品の製造可能性の検討」に関する共同スタディ報告書』
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】松岡 秀一
(72)【発明者】
【氏名】松尾 浩
(72)【発明者】
【氏名】作左部 皓輔
【テーマコード(参考)】
4H058
【Fターム(参考)】
4H058DA02
4H058DA03
4H058DA07
4H058DA16
4H058DA19
4H058EA12
4H058EA14
4H058GA23
4H058HA03
4H058HA13
(57)【要約】
【課題】褐炭合成油及び石油系残渣もしくは当該石油系残渣の改質物を出発原料として、実用性のあるメソフェーズピッチを製造することができるメソフェーズピッチの製造方法を提供すること。
【解決手段】褐炭及び水を含む混合物を加圧下で水熱処理することで得られる褐炭合成油を第1の原料とし、水素供与性を有する石油系残渣又は当該石油系残渣の改質物を第2の原料とし、前記第1の原料と、前記第2の原料とを混合して混合原料を得る混合工程と、前記混合原料を加圧下で加熱して共ピッチ化反応を行う共ピッチ化工程と、前記共ピッチ化工程で得られた反応生成物を回収する反応生成物回収工程と、回収した前記反応生成物を減圧蒸留することにより、メソフェーズピッチを調製するピッチ調製工程と、を有する、メソフェーズピッチの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
褐炭及び水を含む混合物を加圧下で水熱処理することで得られる褐炭合成油を第1の原料とし、水素供与性を有する石油系残渣又は当該石油系残渣の改質物を第2の原料とし、
前記第1の原料と、前記第2の原料とを混合して混合原料を得る混合工程と、
前記混合原料を加圧下で加熱して共ピッチ化反応を行う共ピッチ化工程と、
前記共ピッチ化工程で得られた反応生成物を回収する反応生成物回収工程と、
回収した前記反応生成物を減圧蒸留することにより、メソフェーズピッチを調製するピッチ調製工程と、を有する、
メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、
前記共ピッチ化工程は、0.5MPa以上6.4MPa以下、260℃以上450℃以下、及び30分以上6時間以下の条件で行う、
メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、
前記共ピッチ化工程は、前記混合原料を攪拌しながら行う、
メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、
前記ピッチ調製工程における前記減圧蒸留は、200Torr以下、150℃以上300℃以下、及び60分以上180分以下の条件で行う、
メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、
前記混合工程における前記第1の原料と前記第2の原料との混合比(前記第1の原料/前記第2の原料)は、質量比で、10/25以上75/25以下である、
メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、
前記反応生成物回収工程は、
前記共ピッチ化工程で得られた前記反応生成物を溶媒に溶解させて溶液を得る工程と、
前記溶液から不純物を除去する工程と、を有する、
メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、
製造された前記メソフェーズピッチを炭化する炭化工程をさらに有する、メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、
前記炭化工程は、処理温度が450℃以上650℃以下、かつ前記処理温度の保持時間が30分以上4時間以下の条件で行う、
メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項9】
請求項1または請求項2に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、
前記石油系残渣は、流動接触分解装置を用いて重質原油を分解する際に生じる分解残油、原油の常圧蒸留残渣を更に減圧して蒸留した減圧蒸留残渣、当該減圧蒸留残渣から重質留分をプロパンで抽出した後の残渣、及びエチレンボトム油からなる群から選択される少なくとも1種である、
メソフェーズピッチの製造方法。
【請求項10】
請求項1または請求項2に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、
製造された前記メソフェーズピッチ中の酸素原子の含有率は、3.0質量%以下である、
メソフェーズピッチの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソフェーズピッチの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高機能炭素材用のメソフェーズピッチの原料としては、石炭系ピッチ及び石油系ピッチが実用化されている。例えば、製鉄用コークス製造時の副産物のコールタールを改質したピッチが知られている。また、石油精製での水素化残渣、及び溶剤脱歴残渣等の重質成分を改質したピッチが知られている。
上記ピッチをコーカーでコーキングしたニードルコークスから各種電極材が製造される。また、上記ピッチを熱間で紡糸することにより、メソフェーズ系炭素繊維が製造される。
【0003】
高機能炭素材を得るためのメソフェーズピッチの製造方法、及び高機能炭素材の製造方法について様々な検討がなされている。
例えば、特許文献1には、ビトリニットの平均最大反射率Roが1以上である第1の石炭、ビトリニットの平均最大反射率Roが1未満である第2の石炭、及び芳香族溶媒を混合する工程と、上記混合物から第1の石炭及び第2の石炭の可溶成分を加熱抽出する工程とを備え、上記第1の石炭の石炭全体に対する配合率が30質量%以上70質量%以下である炭素繊維製造用原料ピッチの製造方法が開示されている。
特許文献2には、石炭の溶剤抽出処理により無灰炭を得る工程と、上記無灰炭を水素化する工程と、上記水素化した無灰炭を熱処理する工程と、上記熱処理した無灰炭を溶融紡糸する工程とを備え、上記水素化前の無灰炭の炭素含有量に対する水素含有量のモル比(H/C)が0.91以下である炭素繊維の製造方法が開示されている。
特許文献3には、(1)前記高温コールタールから塩分及びキノリン不溶分を取り除き、デカントオイルを取得し、(2)前記デカントオイルに対して、(2a)デカントオイルを水素化供給油とする、または、(2b)デカントオイルを予備蒸留し、沸点が230℃を上回る塔底成分を取得し、前記塔底成分と、コールタールの留分油、コールタール留分油の水素化生成物というグループ中の1つまたは複数の成分を含む調整油とを混合して水素化供給油を取得する、という2つの方法のいずれかを行うことにより水素化供給油を取得し、前記水素化供給油を接触水素化精製して水素化精製油を取得し、(3)前記水素化精製油を蒸留して水素化ピッチを取得し、(4)前記水素化ピッチを熱重合させてメソフェーズピッチを取得することを含む方法が開示されている。
特許文献4には、軟化点(SP)が100℃以上かつ115℃未満、キノリン不溶分(QI)量が12.0質量%以上かつ20.0質量%未満、固定炭素(FC)量が58.0質量%以上、および360℃留分が5.0質量%以下であるバインダーピッチが開示されている。
特許文献5には、石炭から得られ、溶融紡糸により炭素繊維を製造するためのピッチであって、酸素の含有率が1.0質量%以上、かつトルエン可溶分の含有率が20質量%以上であることを特徴とする炭素繊維製造用原料ピッチが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-95595号公報
【特許文献2】特開2018-16921号公報
【特許文献3】特開2015-513320号公報
【特許文献4】特開2017-218486号公報
【特許文献5】特開2016-210925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
メソフェーズピッチの主要供給元は石油精製業、製鉄業、及びコークス製造業であるが、それぞれ燃料油需要の減少や、良質な原料炭の資源量の低下と高騰、並びにGHG負荷が低い電炉法等へのシフトによるコークスレス操業の世界的な進展に伴い、副産物であるピッチ原料の供給が先細りになり、将来の需要を賄いきれなくなるとの予測がある。
このような実情に鑑み、未利用のままになっている褐炭を利用しようという試みがある。褐炭は、その性状に鑑み、世界に多量に存在し、安価であるにも関わらず十分に利用されていないのが現状である。このような褐炭を、メソフェーズピッチの製造に使用できれば、未利用資源のノーブルユースと同時に、将来のピッチ原料不足の解消を図ることが期待される。
特許文献1、特許文献3及び特許文献4に記載の技術は、褐炭を用いることについて何ら着目していない。特許文献2及び特許文献5には、褐炭を原料に使用し得ることが記載されているが、メソフェーズピッチの製造について具体的な記載がない。
【0006】
本発明の目的は、褐炭合成油及び石油系残渣もしくは当該石油系残渣の改質物を出発原料として、実用性のあるメソフェーズピッチを製造することができるメソフェーズピッチの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]褐炭及び水を含む混合物を加圧下で水熱処理することで得られる褐炭合成油を第1の原料とし、水素供与性を有する石油系残渣又は当該石油系残渣の改質物を第2の原料とし、前記第1の原料と、前記第2の原料とを混合して混合原料を得る混合工程と、前記混合原料を加圧下で加熱して共ピッチ化反応を行う共ピッチ化工程と、前記共ピッチ化工程で得られた反応生成物を回収する反応生成物回収工程と、回収した前記反応生成物を減圧蒸留することにより、メソフェーズピッチを調製するピッチ調製工程と、を有するメソフェーズピッチの製造方法。
【0008】
[2]前記[1]に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、前記共ピッチ化工程は、0.5MPa以上6.4MPa以下、260℃以上450℃以下、及び30分以上6時間以下の条件で行う、メソフェーズピッチの製造方法。
【0009】
[3]前記[1]または[2]に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、前記共ピッチ化工程は、前記混合原料を攪拌しながら行う、メソフェーズピッチの製造方法。
【0010】
[4]前記[1]から[3]のいずれか一項に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、前記ピッチ調製工程における前記減圧蒸留は、200Torr以下、150℃以上300℃以下、及び60分以上180分以下の条件で行う、メソフェーズピッチの製造方法。
【0011】
[5]前記[1]から[4]のいずれか一項に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、前記混合工程における前記第1の原料と前記第2の原料との混合比(前記第1の原料/前記第2の原料)は、質量比で、10/25以上75/25以下である、メソフェーズピッチの製造方法。
【0012】
[6]前記[1]から[5]のいずれか一項に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、前記反応生成物回収工程は、前記共ピッチ化工程で得られた前記反応生成物を溶媒に溶解させて溶液を得る工程と、前記溶液から不純物を除去する工程と、を有する、メソフェーズピッチの製造方法。
【0013】
[7]前記[1]から[6]のいずれか一項に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、製造された前記メソフェーズピッチを炭化する炭化工程をさらに有する、メソフェーズピッチの製造方法。
【0014】
[8]前記[7]に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、前記炭化工程は、処理温度が450℃以上650℃以下、かつ前記処理温度の保持時間が30分以上4時間以下の条件で行う、メソフェーズピッチの製造方法。
【0015】
[9]前記[1]から[8]のいずれか一項に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、前記石油系残渣は、流動接触分解装置を用いて重質原油を分解する際に生じる分解残油、原油の常圧蒸留残渣を更に減圧して蒸留した減圧蒸留残渣、当該減圧蒸留残渣から重質留分をプロパンで抽出した後の残渣、及びエチレンボトム油からなる群から選択される少なくとも1種である、メソフェーズピッチの製造方法。
【0016】
[10]前記[1]から[9]のいずれか一項に記載のメソフェーズピッチの製造方法において、製造された前記メソフェーズピッチ中の酸素原子の含有率は、3.0質量%以下である、メソフェーズピッチの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、褐炭合成油及び石油系残渣もしくは当該石油系残渣の改質物を出発原料として、実用性のあるメソフェーズピッチを製造することができるメソフェーズピッチの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】亜臨界水熱触媒反応プロセスの一例を示す図。
図2】A炭由来、B炭由来及びC炭由来の褐炭合成油の蒸留曲線を示すグラフ。
図3】A炭由来、B炭由来及びC炭由来の褐炭合成油の留分割合を示すグラフ。
図4】実施例1-1、1-2及び1-5のピッチ炭化物の偏光顕微鏡写真。
図5】実施例1-2~1-4のピッチ炭化物の偏光顕微鏡写真。
図6】実施例1-7~1-8のピッチ炭化物の偏光顕微鏡写真。
図7】ナフテン環数及び芳香環数の比(Rn/Ra)と芳香族指数faとの関係を示すグラフ。
図8】鉄鋼用バインダーの性能評価に用いた小型炭化装置の概略図。
図9】実施例1-4のAピッチを鉄鋼用バインダーピッチとして用いたときの評価結果を示す写真。
図10】実施例3-1~3-1で製造したコンポジット及び参考例1~2で用いたニードルコークスの水蒸気ガス化による重量減少プロファイルを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前に記載される数値を下限値とし、「~」の後に記載される数値を上限値として含む範囲を意味する。
【0020】
〔第1実施形態〕
本実施形態に係るメソフェーズピッチの製造方法(以下、本実施形態の製造方法とも称する)は、褐炭及び水を含む混合物を加圧下で水熱処理することで得られる褐炭合成油を第1の原料とし、水素供与性を有する石油系残渣又は当該石油系残渣の改質物を第2の原料とし、第1の原料と、第2の原料とを混合して混合原料を得る混合工程と、混合原料を加圧下で加熱して共ピッチ化反応を行う共ピッチ化工程と、前記共ピッチ化工程で得られた反応生成物を回収する反応生成物回収工程と、回収した前記反応生成物を減圧蒸留することにより、メソフェーズピッチを調製するピッチ調製工程と、を有する。
本実施形態の製造方法は、混合原料を得る混合工程と、共ピッチ化工程と、反応生成物回収工程と、ピッチ調製工程と、この順に有することでメソフェーズピッチが製造される。
【0021】
本明細書において、「メソフェーズピッチ」とは、ピッチを炭化させることで得られる炭化物(以下、ピッチ炭化物、又は単に炭化物とも称する)を偏光顕微鏡で観察した場合に、光学的異方性組織を形成し得るピッチを意味する。偏光顕微鏡によるピッチ炭化物の観察方法は、実施例の項に記載する。なお、「等方性ピッチ」とは、ピッチ炭化物を偏光顕微鏡で観察した場合に、通常、光学的等方性組織のみしか出現させ得ないピッチを意味する。
【0022】
本実施形態の製造方法では、原料として、特定のプロセス(亜臨界水熱触媒反応プロセス)で製造された褐炭合成油(第1の原料)と、水素供与性を有する石油系残渣又は当該石油系残渣の改質物(第2の原料)との混合材料を用いる。共ピッチ化工程では、混合材料の熱改質反応が進み、ピッチ調製工程では、反応生成物回収工程で回収した反応生成物(好ましくは不純物が除去された反応生成物)を減圧蒸留する際に、軽質分が分離されると共に、再度の熱改質反応が進む。このように、本実施形態の製造方法では、混合原料が少なくとも2回熱改質されることでピッチの構造が調製され、その結果、炭化した時に流れ構造を有する(すなわち実用性のある)ピッチ炭化物が得られると考えられる。
本実施形態の製造方法で得られたメソフェーズピッチは、高機能炭素材(例えば、ニードルコークス、鉄鋼用バインダー及び黒鉛電極材料等)として利用できる。
また、本実施形態の製造方法によれば、未利用のままになっている褐炭を有効に利用できる。このような褐炭の利用は、未利用資源のノーブルユースの観点、及び将来のピッチ原料不足を解消する観点からも極めて有用である。
【0023】
始めに、褐炭、第1の原料及び第2の原料について説明する。
【0024】
<褐炭>
本明細書において、褐炭とは、無水無灰基準において、総発熱量が5,800kcal/kg以上7,300kcal/kg未満の石炭を意味する。なお、瀝青炭とは、無水無灰基準において、総発熱量が8,100kcal/kg以上8,400kcal/kg未満の石炭を意味する。亜瀝青炭とは、無水無灰基準において、総発熱量が7,300kcal/kg以上8,100kcal/kg未満の石炭を意味する。
【0025】
<第1の原料>
本明細書において、褐炭合成油とは、褐炭に由来する合成油であって、具体的には、褐炭及び水を含む混合物を加圧下で水熱処理することで得られる合成油を意味する。この「褐炭及び水を含む混合物を加圧下で水熱処理する」というプロセスは、亜臨界水熱触媒反応プロセスとも呼ばれている。
図1は、亜臨界水熱触媒反応プロセス(以下、「Cat-HTRプロセス」とも称する)の概要である。図1は、Cat-HTRプロセスの一例である。
図1に示すCat-HTRプロセスにおいては、まず、褐炭及び水を混合した褐炭水スラリーを、触媒の存在下で、240気圧、350℃で亜臨界水熱処理を行い、圧力を瞬時に大気圧まで降下させ、ガスを分離する(約15質量%、主体はCO)。得られた反応物スラリーから水を分離し、更に450℃で蒸留すると、約60質量%の改質炭、及び約20質量%~30質量%の褐炭合成油が得られる。
通常、コークス炉から得られるコールタールの収率は、約7質量%~8質量%とされているが、このCat-HTRプロセスで得られる褐炭合成油の収率は、約20質量%~30質量%と高い。したがって、本実施形態の製造方法によれば、コールタールからピッチを製造する場合に比べ、褐炭を効率よく利用することができる。
なお、図1に示すCat-HTRプロセスにおいて、亜臨界水熱処理における圧力(240気圧)、温度(350℃)及び圧力を瞬時に降下させたときの圧力(大気圧)、並びに蒸留温度(450℃)はこれに限定されない。
【0026】
(褐炭合成油の性状)
褐炭合成油に含まれる芳香族炭化水素の割合は、通常、40質量%以上60質量%以下である。褐炭合成油に含まれる脂肪族炭化水素の割合は、通常、40質量%以上60質量%以下である。芳香族炭化水素及び脂肪族炭化水素の割合(質量%)は、公知の13C-NMR法により測定することができる。
褐炭合成油の元素分析値は、通常、炭素原子が82質量%以上84質量%以下、水素原子が8質量%以上10質量%以下、及び酸素原子が6質量%以上8質量%以下である。元素分析値は、JIS M8813(2004)に基づき測定することができる。
褐炭合成油の沸点留分は、通常、170℃以上620℃以下である。
【0027】
表1は、A炭(インドネシア産の褐炭)、B炭(インドネシア産の褐炭)及びC炭(インドネシア産の褐炭)を用いてCat-HTRプロセスで製造された褐炭合成油の各元素含有量である。
以下、A炭、B炭及びC炭を用いてCat-HTRプロセスで製造された褐炭合成油を「A炭由来の褐炭合成油」、「B炭由来の褐炭合成油」及び「C炭由来の褐炭合成油」と称することがある。
表2は、IFO(Intermediate Fuel Oil) RMG380(Residual Marine fuel oil の動粘度380mm/sグレード)の主な規格値、並びにA炭由来、B炭由来及びC炭由来の褐炭合成油の物性値である。
図2に、A炭由来、B炭由来及びC炭由来の褐炭合成油の蒸留曲線を示す。
図3に、A炭由来、B炭由来及びC炭由来の褐炭合成油の留分割合を示す。
【0028】
【表1】
【0029】
・表1の説明
<1は、1ppm未満であることを示す。
n/aは、分析していないことを示す。
dafとはdry ash free ベースを意味する。
【0030】
【表2】
【0031】
・表2の説明
<1は、1ppm未満であることを示す。
n/aは、分析していないことを示す。
【0032】
褐炭合成油は、亜臨界水熱触媒反応プロセスで得られたものであれば表1~2及び図1~3に示す性状に限定されない。
【0033】
<第2の原料>
本明細書において、石油系残渣とは、石油精製プロセス及び石油化学プロセスのいずれかで生じる残渣物を意味する。「水素供与性を有する石油系残渣」とは、石油系残渣のうち、水素供与性を有する残渣物を意味する。水素供与性とは、ラジカルに対して水素を供与しやすい性質をいう。
本実施形態の製造方法において、水素供与性を有する石油系残渣は、流動接触分解装置(FCC)を用いて重質原油を分解する際に生じる分解残油(例えばCLO等)、原油の常圧蒸留残渣を更に減圧して蒸留した減圧蒸留残渣(例えばVR等)、当該減圧蒸留残渣から重質留分(好ましくは潤滑油に適した重質留分)をプロパンで抽出した後の残渣(例えばPDAS等)、及びエチレンボトム油からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
FCCは、Fluid Catalytic Crackingの略称である。
CLOは、Clarified Oilの略称であり、分解残油と称される。また、CLOは、一般にはデカントオイルと呼称され、鉄鋼用バインダーピッチの研究によく用いられる。VRは、Vacuum Residueの略称であり、減圧残渣と称される。PDASは、Propane Deasphalted Asphaltの略称であり、プロパン脱瀝アスファルトと称される。
エチレンボトム油とは、ナフサ分解によってエチレンと併産される液体であり、ナフサ分解留分の中では最も沸点温度が高い重質留分を意味する。
【0034】
「石油系残渣の改質物」は、石油系残渣(好適にはCLO)を加圧熱処理した後、回収した石油系残渣を減圧蒸留したときの残渣分であることが好ましい。
また、「石油系残渣の改質物」は、石油系残渣(好適にはCLO)を加圧熱処理した後、回収した石油系残渣を減圧蒸留したときの残渣分のうち、軟化点が250℃以下の軽質留分であることも好ましい。
【0035】
本実施形態の製造方法の各工程について説明する。
【0036】
<混合工程>
混合工程は、第1の原料(褐炭合成油)と、第2の原料(水素供与性を有する石油系残渣又は当該石油系残渣の改質物)とを混合して混合原料を得る工程である。
混合工程における第1の原料と第2の原料との混合比(前記第1の原料/前記第2の原料)は、質量比で、好ましくは20/80以上80/20以下、より好ましくは10/25以上75/25以下、さらに好ましくは40/60以上60/40以下である。
第2の原料(好適にはCLO又はCLOの改質物)の混合割合が多いほど、流れ構造を有するピッチ炭化物が得られ易くなるが、褐炭をより多く利用する観点から、第1の原料(褐炭合成油)の混合割合をなるべく多くすることが望まれる。褐炭をより多く利用する観点では、混合工程における第1の原料と第2の原料との混合比(前記第1の原料/前記第2の原料)は、質量比で、40/60以上60/40以下であることが好ましい。
混合方法は特に限定されない。
【0037】
<共ピッチ化工程>
共ピッチ化工程は、混合原料を加圧下(好適にはN加圧下)で加熱して共ピッチ化反応を行う工程である。
共ピッチ化工程における圧力、温度、昇温速度、反応時間、及び混合原料の撹拌速度は、混合原料の熱改質反応を良好に進行させる観点から、以下の範囲が好ましい。
【0038】
・圧力
共ピッチ化工程における圧力(好適にはN圧力)は、好ましくは0.5MPa以上6.4MPa以下、より好ましくは1.7MPa以上6.2MPa以下、さらに好ましくは3.2MPa以上4.9MPa以下である。
【0039】
・温度
共ピッチ化工程における温度は、好ましくは260℃以上450℃以下、より好ましくは270℃以上430℃以下、さらに好ましくは280℃以上420℃以下である。
【0040】
・昇温速度
昇温速度は、好ましくは5℃/分以上20℃/分以下、より好ましくは5℃/分以上15℃/分以下である。
【0041】
・反応時間
共ピッチ化工程における反応時間は、好ましくは30分以上6時間以下、より好ましくは60分以上5時間以下、さらに好ましくは2時間以上5時間以下である。
【0042】
共ピッチ化工程は、0.2MPa以上1.0MPa以下、260℃以上450℃以下、及び30分以上6時間以下の条件で行うことが好ましい。
【0043】
・混合原料の撹拌速度
共ピッチ化工程は、混合原料を攪拌しながら行うことが好ましい。攪拌手段は特に限定されない。
撹拌速度は、好ましくは300rpm以上1200rpm以下、より好ましくは500rpm以上1200rpm以下であり、さらに好ましくは700rpm以上1100rpm以下である。
【0044】
共ピッチ化工程は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等が挙げられる。不活性ガスは、1種のガスでも、2種以上を混合した混合ガスでもよい。不活性ガスとしては、窒素が好ましい。
【0045】
<反応生成物回収工程>
反応生成物回収工程は、共ピッチ化工程で得られた反応生成物を回収する工程である。共ピッチ化工程で得られた反応生成物は、ピッチと共に不純物を含む。以降、共ピッチ化工程で得られた「ピッチ及び不純物を含む反応生成物」を「ピッチ含有物」と称することがある。
反応生成物回収工程では、例えば、後述の不純物を除去する工程の実施により、反応生成物(ピッチ含有物)から不純物が除去されることが好ましい。続くピッチ調製工程では、不純物が除去された反応生成物を減圧蒸留することが好ましい。
反応生成物回収工程は、共ピッチ化工程で得られた反応生成物(ピッチ含有物)を降温した後、実施することが好ましい。
反応生成物を回収する方法としては特に限定されないが、例えば、減圧加熱法、減圧蒸留法、常圧蒸留法、溶媒抽出法、濾別、及び遠心分離法等が挙げられる。これらの方法は、より多くの不純物を除去する観点から、組み合わせ実施することが好ましい。
【0046】
本実施形態の製造方法において、反応生成物回収工程は、共ピッチ化工程で得られた反応生成物を溶媒に溶解させて溶液を得る工程と、前記溶液から不純物を除去する工程と、を有することが好ましい。
【0047】
(溶液を得る工程)
溶液を得る工程で用いる溶媒としては、例えば、水、ピリジン、テトラヒドロフラン(THF)、脂肪族炭化水素(例えば、ペンタン及びヘキサン等)、芳香族炭化水素(例えば、トルエン及びキシレン等)、アルコール(例えば、エタノール等)及びアセトン等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても組み合わせて用いてもよい。溶液を得る工程で用いる溶媒は、水及び有機溶媒(例えばピリジン)の混合溶媒であることが好ましい。
【0048】
(溶液から不純物を除去する工程)
不純物としては、例えば、固形分(反応機の腐食により溶出した金属等)、水溶性不純物(例えば塩化物)、及び混合原料が触媒を含む場合には触媒に起因する不純物(例えば、残量塩素分、及び残量塩基分)等が挙げられる。
溶液から不純物を除去する方法としては、反応生成物を回収する方法と同様の方法(例えば、減圧加熱法、減圧蒸留法、常圧蒸留法、溶媒抽出法、濾別、及び遠心分離法等)が挙げられる。
溶液から不純物を除去する方法(不純物除去手段)の一例としては、溶液から固形物を濾別した後、常圧蒸留法により溶液から溶媒を除去し、さらに、溶媒が除去された反応生成物(ピッチ含有物)を水洗する方法が挙げられる。濾別では、不純物としての固形物が除去され、水洗では水溶性不純物が除去される。このように、溶液から不純物を除去する方法は、不純物除去手段を組み合わせて実施することが好ましい。
溶液を得る工程及び溶液から不純物を除去する工程は、それぞれ複数回実施してもよい。
【0049】
<均一化処理工程>
本実施形態の製造方法は、反応生成物回収工程の後、かつピッチ調製工程の前に、反応生成物(好ましくは不純物が除去された反応生成物)を、再度、溶媒に溶解させ、分散手段を用いて、溶媒中にピッチを均一に分散させる工程(均一化処理工程)を有することが好ましい。
分散手段としては特に限定されないが、超音波分散が好ましい。
【0050】
<ピッチ調製工程>
ピッチ調製工程は、回収した反応生成物(好ましくは不純物が除去された反応生成物、より好ましくは不純物が除去され、均一化処理工程が実施された反応生成物)を減圧蒸留することにより、メソフェーズピッチを調製する工程である。このピッチ調製工程により、メソフェーズピッチが得られる。
減圧蒸留における圧力は、200Torr以下(26664.4Pa以下)であることが好ましく、100Torr以下(13332.2Pa以下)であることがより好ましく、50Torr以下(6666.1Pa以下)であることがさらに好ましく、10Torr以下(1333.22Pa以下)であることがさらに好ましい。
減圧蒸留における温度は、150℃以上300℃以下であることが好ましく、180℃以上2700℃以下であることがより好ましい。
減圧蒸留における処理時間は、60分以上180分以下であることが好ましく、90分以上150分以下であることがより好ましい。
減圧蒸留における処理時間とは、減圧蒸留における温度に到達してからの保持時間である。
ピッチ調製工程において、減圧蒸留は、200Torr以下、150℃以上300℃以下、及び60分以上180分以下の条件で行うことが好ましい。
【0051】
(メソフェーズピッチの特性)
製造されたメソフェーズピッチ中の酸素原子の含有率は、3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましい。
製造されたメソフェーズピッチは、ブラウンラドナー法で測定した芳香族指数faが0.55以上であることが好ましく、0.65以上であることがより好ましい。
製造されたメソフェーズピッチは、単環構造パラメータの芳香環数Raに対するナフテン環数Rnの比(Rn/Ra)が0.55以下であることが好ましく、0.45以下であることがより好ましい。
メソフェーズピッチ中の酸素原子の含有率、芳香族指数fa及びRnの比(Rn/Ra)の測定方法は実施例の項に記載する。
【0052】
〔第2実施形態〕
第2実施形態の製造方法は、第1実施形態に対し、さらに炭化する工程(以下、「炭化工程」とも称する)を有する点が第1実施形態と異なる。その他の点については第1実施形態と同様であるので、その説明を省略または簡略化する。
【0053】
<炭化工程>
炭化工程は、製造されたメソフェーズピッチを炭化する工程である。
炭化方法としては特に限定されないが、例えば、不活性ガス雰囲気下でメソフェーズピッチを加熱する方法が挙げられる。不活性ガスとしては、第1実施形態の共ピッチ化工程の項で列挙した不活性ガスと同様のものが挙げられる。
【0054】
炭化工程における処理温度、処理温度の保持時間、及び昇温速度は、炭化を良好に進行させる観点から、以下の範囲が好ましい。
【0055】
・処理温度
炭化工程における処理温度は、好ましくは450℃以上650℃以下、より好ましくは470℃以上650℃以下、さらに好ましくは500℃以上650℃以下である。
【0056】
・処理温度の保持時間
処理温度の保持時間は、好ましくは30分以上4時間以下、より好ましくは30分以上3時間以下、さらに好ましくは30分以上2時間以下である。
【0057】
・昇温速度
炭化工程における昇温速度は、好ましくは1℃/分以上5℃/分以下、より好ましくは1℃/分以上4℃/分以下、さらに好ましくは1℃/分以上3℃/分以下である。
【0058】
炭化工程は、処理温度が450℃以上650℃以下、かつ前記処理温度の保持時間が30分以上4時間以下の条件で行うことが好ましい。
炭化装置としては、メソフェーズピッチを低酸素雰囲気下(好ましくは不活性ガス雰囲気下)で炭化できる装置であれば特に限定されず、公知の炭化装置を用いることができる。
【0059】
炭化されたメソフェーズピッチ(ピッチ炭化物)の光学組織は、モザイク構造、流れ構造及びドメイン構造を有する順に異方性が高い組織とされている。表3に、光学的異方性構造の分類例を示す。なお、表3に示す分類は、持田勲、松岡秀一、前田恵子他 第16回石炭科学会議・第46回燃料協会合同大会発表論文集(1979)200頁~206頁に基づく。
表3に示すように、モザイク構造及び流れ構造は、サイズに応じて、さらに分類される。モザイク構造は、超々微細モザイク、超微細モザイク、微細モザイク、中粒モザイク、粗粒モザイク及び超粗粒モザイクの順に異方性が高くなる。流れ構造は、粗粒流れ構造及び流れ構造の順に異方性が高くなる。
本実施形態の製造方法においては、混合工程、共ピッチ化工程、反応生成物回収工程、ピッチ調製工程、及び炭化工程を順に実施することにより、後述の実施例に示す通り、流れ構造を有するピッチ炭化物が製造される。ピッチ炭化物は、高機能炭素材に適用することができる。
【0060】
【表3】
【0061】
〔メソフェーズピッチ及びピッチ炭化物の用途〕
本実施形態の製造方法で製造されたメソフェーズピッチ及びピッチ炭化物は、例えば、高機能能炭素材に適用することができる。
メソフェーズピッチは、その炭化物の高弾性及び高伝導性等の性質を活かし、高機能炭素材に好適に用いることができる。
高機能炭素材としては、ピッチ炭化物のニードルコークスから製造される炭素材(例えば黒鉛電極材、リチウムイオン電池負極材およびキャパシタ用炭素材等)、あるいはピッチのまま使用する炭素繊維原料ピッチ、黒鉛電極の含浸ピッチへの利用が挙げられる。また、汎用性炭素材しては、鉄鋼用バインダーピッチ等のバインダーとしての利用が挙げられる。
後述する〔他の実施形態〕で製造されたメソフェーズピッチ及びピッチ炭化物も同様に、汎用炭素材及び高機能炭素材に適用することができる。
【0062】
〔他の実施形態〕
第1実施形態又は第2実施形態の製造方法において、混合原料は、さらに触媒を含んでもよい。触媒は、ハロゲン含有化合物であることが好ましい。ハロゲン含有化合物は、ハロゲン含有有機化合物及びハロゲン含有無機化合物に分類される。
ハロゲン含有有機化合物としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリスチレン、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-塩化エチレン共重合体、塩化ビニル-塩化プロピレン共重合体、塩化ビニル-スチレン共重合体、及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
ハロゲン含有無機化合物としては、例えば、塩化アルミニウム(AlCl)、臭化アルミニウム(AlBr)、塩化チタン(TiCl)、塩化ジルコニウム(ZrCl)、フッ化アンチモン(SbF)、塩化鉄(FeCl)、塩化亜鉛(ZnCl)、フッ化ホウ素(BF)、塩化ホウ素(BCl)、ヨウ化アルミニウム(AlI)、塩化ガリウム(GaCl)、臭化ガリウム(GaBr)、塩化アンチモン(SbCl)、塩化スズ(SnCl)、臭化チタン(TiBr)、臭化亜鉛(ZnBr)、臭化スズ(SnBr)、臭化鉄(FeBr)、フッ化アルミニウム(AlF)、フッ化チタン(TiF)、フッ化亜鉛(ZnF)、及びフッ化スズ(SnF)等が挙げられる。
ハロゲン含有化合物としては、混合原料の共ピッチ化を促進する観点から、ポリ塩化ビニル(PVC)又は塩化アルミニウム(AlCl)であることが好ましい。
混合原料中における触媒の含有量は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは0.8質量%以下である。下限値は0.08質量%以上であることが好ましい。
混合原料中における触媒の含有量が8質量%以下であると、メソフェーズピッチの収率を確保しつつ、流れ構造を有するピッチ炭化物が得られ易くなる。
【0063】
本発明は、上述の実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変更、改良等は、本発明に含まれる。
【実施例0064】
以下、本発明に係る実施例を説明する。本発明はこれらの実施例によって何ら限定されない。
【0065】
〔メソフェーズピッチ及びピッチ炭化物の製造〕
〔実施例1-1〕
第1の原料として、図1に示す亜臨界水熱触媒反応プロセスで製造した褐炭合成油を用いた。この褐炭合成油は、表1~2及び図2~3に示す性状のA炭由来の褐炭合成油である。第2の原料として、流動接触分解装置を用いて重質原油を分解する際に生じる分解残油(CLO)を用いた。
【0066】
褐炭合成油とCLOとの混合比(褐炭合成油/CLO)が、質量比で、10/25になるように、褐炭合成油とCLOとを混合した(混合工程)。褐炭合成油とCLOとの混合原料の全量は35gである。
混合原料をオートクレーブに投入し、オートクレーブ内を反応雰囲気ガス(Nガス)で5回置換した後、系内を室温(25℃)で、初期圧0.5MPaとした。
次に、バンドヒーターを用いて混合原料を1000rpmで撹拌しながら、10℃/分の昇温速度で400℃まで昇温し、400℃で1時間加熱し、混合原料を共ピッチ化した。反応中の圧力は1.7MPa~6.9MPaの範囲で制御した。(共ピッチ化工程)。
次に、バンドヒーターを外し、反応生成物を60℃以下まで風冷し系内のガス抜きを行った。
【0067】
次に、反応生成物を直接回収して定量した。また、ピリジンを用いて、攪拌機等への付着物を回収して定量した。回収した反応生成物全量(直接回収と付着物の合計量)をナスフラスコに入れ、超音波で分散させた後、エバポレータで蒸留してピリジンを除去しした(反応生成物回収工程)。
【0068】
ピリジンを除去した後の反応生成物(ピッチ含有物)を乾燥させた後、ピリジンに再度反応生成物を溶解させ、超音波でピリジン中にピッチを分散させた(均一化処理)。
【0069】
ピッチが分散した溶液を圧力1Torr、昇温速度3℃/分で温度220℃まで加熱した後、220℃で2時間(保持時間)、減圧蒸留し、溶液からピリジン及びタール分を除去し、ピッチを調製した(ピッチ調製工程)。
以上のようにして、メソフェーズピッチを得た。
【0070】
得られたメソフェーズピッチから試料3gを採取し、以下の条件で炭化処理を行い、ピッチ炭化物を得た。(炭化工程)。
-条件-
・装置 :炭化装置(KRI社作製、電気加熱式横型炭化炉を備える炭化装置)
・昇温速度:1.5℃/分
・炭化温度:600℃
・保持時間:1時間
・雰囲気ガス:窒素(300mL/分)
【0071】
〔実施例1-2〕
褐炭合成油とCLOとの混合比(褐炭合成油/CLO)が、質量比で、50/50になるように、褐炭合成油とCLOとを混合したこと以外、実施例1-1と同様の方法で実施例1-2のメソフェーズピッチ及びピッチ炭化物を得た。
【0072】
〔実施例1-3〕
褐炭合成油とCLOとの混合原料の軟化点(℃)が115℃となるように、ピッチ調製工程における220℃での保持時間を2hrから6hrに変更して行った。軟化点が115℃に調整された混合原料を用いたこと以外、実施例1-2と同様の方法で実施例1-3のメソフェーズピッチ及びピッチ炭化物を得た。
【0073】
〔実施例1-4〕
褐炭合成油とCLOとの混合原料の軟化点(℃)が120℃となるように、ピッチ調製工程における220℃での保持時間を2hrから8hrに変更して行った。軟化点が120℃に調整された混合原料を用いたこと以外、実施例1-2と同様の方法で実施例1-4のメソフェーズピッチ及びピッチ炭化物を得た。
実施例1-4のメソフェーズピッチを「Aピッチ」とも称する。
【0074】
〔実施例1-5〕
褐炭合成油とCLOとの混合比(褐炭合成油/CLO)が、質量比で、75/25になるように、褐炭合成油とCLOとを混合したこと以外、実施例1-1と同様の方法で実施例1-5のメソフェーズピッチ及びピッチ炭化物を得た。
【0075】
〔実施例1-6〕
第2の原料として、改質したCLO(以下、CLO改質1と称する)を用いたこと以外、実施例1-2と同様の方法で実施例1-6のメソフェーズピッチ及びピッチ炭化物を得た。
CLO改質1はCLO改質3の軟化点250℃以下の軽質留分である。CLO改質3は後述する。
【0076】
〔実施例1-7〕
第2の原料として、表4に示す手順及び条件で改質したCLO(以下、CLO改質3と称する)を用いたこと以外、実施例1-2と同様の方法で実施例1-7のメソフェーズピッチ及びピッチ炭化物を得た。実施例1-7のメソフェーズピッチを「Bピッチ」とも称する。
CLO改質3は以下のように作製した。
CLO50gを、表4に示す通り、加圧熱処理した後、冷却して回収し、その後、減圧蒸留することによりCLO改質3を得た
表4中、TOPは、蒸留塔の頂部を示し、BTMは、蒸留塔の底部を示す。表5も同様である。
【0077】
【表4】
【0078】
〔実施例1-8〕
第2の原料として、褐炭合成油とCLO改質3との混合比(褐炭合成油/CLO改質3)が、質量比で、75/25になるように、褐炭合成油とCLO改質3とを混合したこと以外、実施例1-7と同様の方法で実施例1-8のメソフェーズピッチ及びピッチ炭化物を得た。
【0079】
〔比較例1-1〕
原料として褐炭合成油5gのみを用いた。この点以外、実施例1-1と同様の方法で比較例1-1のピッチ及びピッチ炭化物を得た。
【0080】
〔比較例1-2〕
原料として、褐炭合成油とPVCとの混合物を用いた。
褐炭合成油3gに対して、PVCが8.0質量%になるように、褐炭合成油とPVCとを混合したこと以外、実施例1-1と同様の方法で、比較例1-2のピッチ及びピッチ炭化物を得た。PVCは、触媒であり、ポリ塩化ビニルの略称である。
【0081】
〔参考例1-1〕
原料として、CLO(3g)のみを用いた。この点以外、実施例1-1と同様の方法で参考例1-1のピッチ及びピッチ炭化物を得た。
【0082】
〔参考例1-2〕
原料として、CLO改質1(3g)のみを用いた。この点以外、実施例1-1と同様の方法で参考例1-2のピッチ及びピッチ炭化物を得た。
【0083】
〔参考例1-3〕
原料として、表5に示す手順及び条件で改質したCLO(以下、CLO改質2と称する)を用いたこと以外、実施例1-1と同様の方法で参考例1-3のピッチ及びピッチ炭化物を得た。
CLO改質2は以下のように作製した。
CLO50gを、表5に示す通り、加圧熱処理した後、冷却して回収し、その後、減圧蒸留することによりCLO改質2を得た。
【0084】
【表5】
【0085】
〔参考例1-4〕
原料として、CLO改質3(3g)のみを用いた。この点以外、実施例1-1と同様の方法で参考例1-4のピッチ及びピッチ炭化物を得た。
【0086】
〔評価〕
メソフェーズピッチ収率及びピッチ炭化物収率を求めた。
以降、メソフェーズピッチをピッチと称し、メソフェーズピッチ収率をピッチ収率と称することがある。
【0087】
<ピッチ収率及びピッチ炭化物収率>
ピッチ収率(Y)、ピッチ炭化物収率(ピッチ基準)(Y)及びピッチ炭化物収率(原料基準)(Y)を以下の方法で算出した。
いずれの収率も灰分を除外して算出した。すなわち、ピッチ収率(Y)、ピッチ炭化物収率(ピッチ基準)(Y)及びピッチ炭化物収率(原料基準)(Y)は、無灰ベースでの収率である。結果を表6に示す。
【0088】
〔灰分量の測定〕
原料、ピッチ及びピッチ炭化物に含まれる灰分量は以下の条件で測定した。乾燥質量基準の灰分量は、下記式(10)により算出した。
乾燥質量基準の灰分量[wt%]=Wash/Wdry×100…(10)
dry:120℃乾燥質量[g]
ash:燃焼灰質量[g]
-条件-
・装置:示差熱天秤TG-DTA(マックサイエンス社製)
・雰囲気:大気雰囲気、200mL/min
・120℃乾燥質量Wdryの温度条件
昇温速度:10℃/minで、室温(25℃)から120℃まで昇温
保持時間:120℃、20min
・燃焼灰質量Washの温度条件
昇温速度:10℃/minで、120℃から950℃まで昇温
【0089】
〔ピッチ収率(Y)〕
ピッチ収率(Y)は、式(1)により算出した。
(wt%)={W*(100-A)/100}/{W*(100-A)/100}…(1)
:原料の投入量(g)
:ピッチの収量(g)
:原料の灰分(wt%)
:ピッチの灰分(wt%)
【0090】
〔ピッチ炭化物収率(ピッチ基準)(Y)〕
ピッチ炭化物収率(Y)は、式(2)により算出した。
(wt%)={Wc*(100-A)/100}/{W*(100-A)/100}…(2)
:炭化前のピッチの質量(g)
:ピッチ炭化物の質量(g)
:ピッチの灰分(wt%)
:ピッチ炭化物の灰分(wt%)
【0091】
〔ピッチ炭化物収率(原料基準)(Y)〕
ピッチ炭化物収率(Y)は、前記式(1)及び式(2)の結果から、式(3)により算出した。
(wt%)= Y×Y/100…(3)
:前記式(1)で算出したピッチ収率(wt%)
:前記式(2)で算出したピッチ炭化物収率(ピッチ基準)(wt%)
【0092】
【表6】
【0093】
実施例1-2~実施例1-8のピッチ炭化物収率(ピッチ基準)(Y)は、原料として、CLO改質1及びCLO改質3を用いた参考例1-2及び1-4のピッチ炭化物収率(ピッチ基準)(Y)とほぼ同等もしくはそれ以上に増加する傾向が見られた。
【0094】
<ピッチ炭化物の光学組織>
ピッチ炭化物を偏光顕微鏡(ライカマイクロシステムズ社製、DM2700P)を用いて以下の方法で観察した。
各例で得られたピッチ炭化物から試料0.5gを採取した。この試料を樹脂で包含して樹脂を研磨し、顕微鏡観察用試料を作製した。
偏光顕微鏡をクロスニコルの状態とし、石英検板を入れて顕微鏡観察用試料を観察した。
【0095】
図4は、実施例1-1、1-2及び1-5のピッチ炭化物の偏光顕微鏡写真である(倍率100倍、500倍)。
図5は、実施例1-2~1-4のピッチ炭化物の偏光顕微鏡写真である(倍率100倍、500倍)。
図6は、実施例1-7~1-8のピッチ炭化物の偏光顕微鏡写真である(倍率100倍、500倍)。
実施例1-1のピッチ炭化物は、全面が流れ構造であり、実施例1-2~1-4及び1-7~1-8のピッチ炭化物は、ほぼ全面が流れ構造であった。実施例1-5のピッチ炭化物は、流れの質及び幅が小さかったが、ほぼ流れ構造であった。
【0096】
<構造解析>
(芳香族指数fa、芳香環数Ra、ナフテン環数Rn、及び比Rn/Ra)
ピッチの芳香族指数fa、芳香環数Ra、ナフテン環数Rn、並びにナフテン環数及び芳香環数の比(Rn/Ra)をBrown-Ladner法(以下、BL法とも称する)で算出した。結果を表7に示す。
芳香族指数faは、THFとピリジンとの混合溶媒(1:1)に対するピッチ0.1gの可溶分を用いてH-NMR(ブルカー・ジャパン社製(品番:DRX500)にて得られた化学シフトピークより芳香族水素(Ha)並びにα位、β位及びγ位の脂肪族水素(Hα、Hβ及びHγ)を算定した。
表7中の平均構造中の環数は、前記芳香族指数faと同様の方法で、芳香族水素(Ha)及び脂肪族水素(Hα、Hβ及びHγ)を算定し、さらに、元素分析値(JIS M8813(2004))およびゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(東ソー社製、HLC-8220型))に基づく分子量分布のデータを加えて算出した。
【0097】
(ナフテン環数及び芳香環数の比(Rn/Ra)と芳香族指数faとの関係)
図7は、ナフテン環数及び芳香環数の比(Rn/Ra)と芳香族指数faとの関係を示すグラフである。
【0098】
【表7】
【0099】
表7及び図7より、実施例1-4のAピッチ及び実施例1-7のBピッチは、比較例1-1、1-2及び参考例1-1のピッチに比べ、芳香族指数faが高い値を示した。
図7に示すように、実施例1-4のAピッチ及び実施例1-7のBピッチは、参考例1-4(CLO改質3)のメソフェーズピッチと同等に近い芳香族指数fa及びRn/Raを示した。
【0100】
〔鉄鋼用バインダーピッチとしての用途評価〕
実施例1-4のAピッチを鉄鋼用バインダーピッチとして用い、その性能を評価した。
図8は、鉄鋼用バインダーの性能評価に用いた小型炭化装置(50kg炉)の概略図である。
実施例2-1~2-2、参考例2-2及び2-4について、50kg炉試験の場合は石炭1kgに対して、バインダーが3質量%になるようにバインダーを添加して共炭化した。試験管試験の場合は石炭3gに対して、バインダーが3質量%になるようにバインダーを添加して共炭化した。
参考例2-1及び2-3について、50kg炉試験の場合は石炭単味1kgを炭化した。試験管試験の場合は石炭単味3gを炭化した。
【0101】
〔実施例2-1〕
カナダの準強粘炭CV炭(以下、CV炭とも称する)に対し、Aピッチが3質量%となるようにAピッチを添加して共炭化した。得られた炭化物を評価に用いた。
【0102】
〔参考例2-1〕
CV炭を単味で炭化し、炭化物を評価に用いた。
【0103】
〔参考例2-2〕
CV炭に対し、市販の鉄鋼用バインダーピッチ(以下、ASPと称する)が3質量%となるようにASPを添加して共炭化した。得られた炭化物を評価に用いた。
【0104】
〔実施例2-2〕
豪州のセミソフトBB炭(以下、BB炭とも称する)に対し、Aピッチが3質量%となるようにAピッチを添加して共炭化した。得られた炭化物を評価に用いた。
【0105】
〔参考例2-3〕
BB炭を単味で炭化し、炭化物を評価に用いた。
【0106】
〔参考例2-4〕
BB炭に対し、市販の鉄鋼用バインダーピッチ(ASP)が3質量%となるようにASPを添加して共炭化した。得られた炭化物を評価に用いた。
【0107】
〔評価〕
実施例2-1~2-2、参考例2-2及び2-4の混合物、並びに参考例2-1及び2-3の石炭を以下の条件で炭化し、以下の評価を行った。結果を表8及び図9に示す。
【0108】
(炭化条件)
・装置 :図8に示す小型炭化装置(50kg炉試験)
・昇温速度:1.5℃/分
・熱処理温度 :1000℃
【0109】
(CRI及びCSR)
CRI(Coke Reactivity Index)及びCSR(Coke Strength after Reaction)はコークスの熱間強度の指標とされる。
CRIおよびCSRは、日鐵法を用いて測定した。具体的には、以下の方法で測定した。
【0110】
(CRIの測定)
粒径を20±1mmに調製した試料200gを反応温度1100℃で2時間、COと反応させた後に取り出して、冷却後、後に残った試料(反応後の試料)の質量A(g)を測定し、下記数式(数100)からCRIを算出した。
CRI(%)=((200-A)/200)×100…(数100)
【0111】
(CSRの測定)
CRIの測定で用いた「反応後の試料の質量A(g)」をI型ドラム(内径130mm×長さ700mm)に導入し、20rpmで30分間回転させた後、標準篩(9.52mm)を用いて、篩い分け、篩上に残った試料の質量B(g)を測定し、下記数式(数101)からCSRを算出した。
CSR(%)=(B/A)×100…(数101)
【0112】
(見掛け密度及び真密度)
見掛け密度および真密度は、JIS K 2151(2004)に準拠した方法で測定した。
【0113】
【表8】
【0114】
・表8中の説明
・試験管試験とは、50kg炉試験に先駆けて行う基礎試験であり、試験管を用いて炭化を行うため、少量のサンプルで炭化物の歩留まりや性状を得ることができる。50kg炉試験では少量サンプルでは得られないCRIやCSRなどの強度試験に使用する塊サンプルを製造する。
・dbは、ドライベースを示す。
【0115】
表8に示すように、CV炭にAピッチを添加したセミコークス(実施例2-1)は、CV炭に市販のASPを添加したセミコークス(参考例2-2)よりも、熱間強度(CRI及びCSR)を同等以上に向上させることができた。
BB炭にAピッチを添加したセミコークス(実施例2-2)は、BB炭に市販のASPを添加したセミコークス(参考例2-4)と、同等の熱間強度(CRI及びCSR)を達成できた。
図9に示すように、CV炭にAピッチを添加したセミコークス(実施例2-1)と、市販のASPを添加したセミコークス(参考例2-2)との間に、外観の差は見られなかった。
同様に、BB炭にAピッチを添加したセミコークス(実施例2-2)と、市販のASPを添加したセミコークス(参考例2-4)との間に、外観の差は見られなかった。
【0116】
〔黒鉛材料としての用途評価〕
実施例1-7のBピッチを黒鉛材料として用い、黒鉛化度を評価した。
【0117】
〔実施例3-1〕
Bピッチ(軟化点:160℃~162℃)7.5gのうち、6.00g(80wt%)を第1の炭化条件で炭化した。Bピッチ7.5gのうち、1.50g(20wt%)をクロロホルム5mLに溶解させ、乳鉢を用いて粉砕した。粉砕したBピッチ1.50gをバインダー1とする。
【0118】
(第1の炭化条件)
・装置:三段温度制御方式横型管状電気炉(石英反応管、内径40mm×800mm)
・昇温速度:140℃から600℃まで1.5℃/分で昇温
・温度 :600℃で2時間保持
【0119】
第1の炭化条件で炭化したBピッチを、乳鉢で250μm以下に粉砕した。粉砕したBピッチ6.00gを骨材1とする。
骨材1とバインダー1を80:20の割合で混合及び混練し、乾固した後、成形条件1で成形した。
【0120】
(成形条件1)
・温度 :190℃
・圧力 :30MPa
・時間 :5分間
【0121】
成形後、冷却し、段階的に減圧して常圧にした。
成形した炭素成型物(以下、C/Cコンポジットとも称する)を第2の炭化条件で炭化した。第2の炭化条件では、Bピッチの軟化溶融域(250℃~550℃)での昇温速度を0.08℃/分と小さくした。
【0122】
(第2の炭化条件)
・装置:三段温度制御方式横型管状電気炉(石英反応管、内径40mm×800mm)
・昇温速度:20℃から140℃まで5℃/分で昇温
140℃から250℃まで1.5℃/分で昇温
250℃から550℃まで0.08℃/分で昇温
550℃から800℃まで5℃/分で昇温
・温度 :800℃で10分間保持
【0123】
その後、黒鉛化条件1でC/Cコンポジットを黒鉛化処理した。
黒鉛化処理したC/Cコンポジットを「C/C-1(1600℃)」と表記する。
【0124】
(黒鉛化条件1)
・装置 :(株)IHI機械システムの直接通電式超高温黒鉛化炉(HHP)
・昇温速度:20℃から800℃まで25℃/分で昇温
800℃から1600℃まで5℃/分で昇温
・温度 :1600℃で30分間保持
【0125】
〔実施例3-2〕
黒鉛化条件1を黒鉛化条件2に変更した以外、実施例3-1と同様にして、黒鉛化処理したC/Cコンポジットを得た。実施例3-2における黒鉛化処理したC/Cコンポジットを「C/C-1(2800℃)」と表記する。
【0126】
(黒鉛化条件2)
・装置 :(株)IHI機械システムの直接通電式超高温黒鉛化炉(HHP)
・昇温速度:20℃から800℃まで25℃/分で昇温
800℃から2800℃まで5℃/分で昇温
・温度 :2800℃で30分間保持
【0127】
〔実施例3-3〕
第1の炭化条件で炭化したBピッチを、メノウ乳鉢で10μm程度に粉砕したこと、第2の炭化条件を第2の炭化条件Aに変更したこと、及び黒鉛化条件1を実施例3-2の黒鉛化条件2に変更したこと以外、実施例3-1と同様にして、黒鉛化処理したC/Cコンポジットを得た。第2の炭化条件では、Bピッチの軟化溶融域(250℃~550℃)での昇温速度を0.08℃/分と小さくした。
実施例3-3における黒鉛化処理したC/Cコンポジットを「C/C-2(2800℃)」と表記する。
【0128】
(第2の炭化条件A)
・装置:三段温度制御方式横型管状電気炉(石英反応管、内径40mm×800mm)
・昇温速度:20℃から140℃まで5℃/分で昇温
140℃から250℃まで1.5℃/分で昇温
250℃から550℃まで0.08℃/分で昇温
550℃から800℃まで5℃/分で昇温
・温度 :800℃で10分間保持
【0129】
〔実施例3-4〕
Bピッチ(軟化点:160℃~162℃)7.5gのうち、5.25g(70wt%)を実施例3-1の第1の炭化条件で炭化した。Bピッチ7.5gのうち、2.25g(30wt%)をクロロホルム5mLに溶解させ、乳鉢を用いて粉砕した。粉砕したBピッチ2.25gをバインダー2とする。
【0130】
第1の炭化条件で炭化したBピッチを、乳鉢で10μm程度に粉砕した。粉砕したBピッチ5.25gを骨材2とする。
骨材2とバインダー2とを混合及び混練し、乾固した後、実施例3-1の成形条件1で成形した。成形後、冷却し、段階的に減圧して常圧にした。
成形した炭素成型物(C/Cコンポジット)を実施例3-3の第2の炭化条件Aで炭化した。
その後、実施例3-2の黒鉛化条件2でC/Cコンポジットを黒鉛化処理した。
実施例3-4における黒鉛化処理したC/Cコンポジットを「C/C-3(2800℃)」と表記する。
【0131】
〔評価〕
実施例3-1~3-4で得られたC/Cコンポジットについて以下の評価を行った。
【0132】
(外観、かさ密度、及び真密度)
表9に、実施例3-1~3-4で得られたC/Cコンポジットの外観、かさ密度、及び真密度を示す。
【0133】
【表9】
【0134】
表9に示すように、熱処理温度が上がるほど、C/Cコンポジットのかさ密度および真密度が増大した。
2800℃で黒鉛化処理した実施例3-2~3-4のC/Cコンポジットは、真密度(2.1745g/m以上2.2099g/m以下)が、市販の黒鉛電極の真密度(2.22g/m以上2.25g/m以下)と同等であった。
【0135】
(黒鉛結晶子の面間隔、格子定数、及び結晶子サイズ)
XRD(X-ray Diffraction Analisis X線回折分析)を用いて、黒鉛結晶子の面間隔、格子定数、及び結晶子サイズを測定した。黒鉛化度Pはd002を用い、B.E.Warrenらにより提唱された下記数式(1)を用いて算出した。XRDは、リガク社製、SmartLabを用いた。結果を表10に示す。
【0136】
【数1】
【0137】
【表10】
【0138】
実施例3-1は、ニードルコークスとの比較のために、C/Cコンポジットをニードルコークスと同じ熱処理温度(1600℃)でか燃したものであり、黒鉛化の程度は低い。実施例3-2~3-4のC/Cコンポジットを2800℃で黒鉛化した炭化物は黒鉛化度Pが0.83以上0.84以下、結晶子サイズLcが852Å以上994Å以下となり、人造黒鉛のスペックにほぼ相当することが確認された。
【0139】
〔ニードルコークス材料としての用途評価〕
(水蒸気ガス化による重量減少プロファイル)
図10に、実施例3-1で製造したC/Cコンポジット(C/C-1(1600℃))、実施例3-2で製造したC/Cコンポジット(C/C-1(2800℃))、1600℃で熱処理された日本製の石炭系ニードルコークス(以下、石炭系NC(日本製)とも称する)、及び1600℃で熱処理された中国製の石炭系ニードルコークス(以下、石炭系NC(中国製)とも称する)の水蒸気ガス化(CASGa法;Carbon Analysis by Steam Gasification)による重量減少プロファイルを示す。
また、表11に、C/C-1(1600℃)、C/C-1(2800℃)、石炭系NC(日本製)、及び石炭系NC(中国製)の性状を示す。
【0140】
CASGa法は、(株)KRIが開発した熱天秤による水蒸気ガス化反応性の違いによる炭素質の同定法である。重量減少開始温度が高いほど反応性が低く、傾きが垂直に近いほど均一性がある炭素材とされており、簡便な方法で炭素質の同定ができる。参考例1、2とした日本製ニードルコークス及び中国製ニードルコークスは1600℃でか焼されている。
CASGa法では、T1(5%重量減少温度)、T2(95%重量減少温度)およびその温度の差ΔTで評価する。反応性が速い成分が多いほどT1が低く、反応性が遅い成分が多いほどT2が高く、ΔTが大きいほど炭素質が不均一であるとされる。
図10に示すように、同じ1600℃の熱履歴であるC/C-1(1600℃)、石炭系NC(日本製)及び石炭系NC(中国製)の内、C/C-1(1600℃)と石炭系NC(日本製)は、ほぼ同程度の炭素質や均一性を有するが、石炭系NC(中国製)は反応しやすく、かつ不均一であると考えられる。
従って、実施例3-1で製造したC/C-1(1600℃)は石炭系NC(中国製)より優れ、石炭系NC(日本製)と同等であると考えられる。
【0141】
【表11】
【0142】
・表11の説明
「-」は測定していないことを示す。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の製造方法は、原料として、未利用とされることが多い褐炭を利用するメソフェーズピッチを製造する方法である。製造されたピッチは、高機能炭素材等に適用し得るので、本発明の製造方法は、産業上の利用可能性を有している。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10