(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161342
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び物品
(51)【国際特許分類】
C08L 83/06 20060101AFI20231030BHJP
C08K 5/5425 20060101ALI20231030BHJP
C08K 5/544 20060101ALI20231030BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231030BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20231030BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20231030BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231030BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20231030BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20231030BHJP
C09J 183/04 20060101ALI20231030BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20231030BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
C08L83/06
C08K5/5425
C08K5/544
C08K3/013
C09D183/04
C09D7/63
C09D7/61
C09J11/04
C09J11/06
C09J183/04
C09K3/10 G
H05K3/28 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071681
(22)【出願日】2022-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】打它 晃
【テーマコード(参考)】
4H017
4J002
4J038
4J040
5E314
【Fターム(参考)】
4H017AA04
4H017AB15
4H017AC05
4H017AD06
4H017AE05
4J002CP061
4J002DA036
4J002DE146
4J002DE236
4J002DJ016
4J002EN019
4J002ER029
4J002EU039
4J002EX017
4J002EX037
4J002EX068
4J002EX078
4J002EX079
4J002EX088
4J002FB086
4J002FD016
4J002FD149
4J002GH00
4J002GJ01
4J002GQ00
4J038DL031
4J038HA266
4J038HA446
4J038JC32
4J038KA03
4J038KA04
4J038KA08
4J038KA20
4J038MA07
4J038NA02
4J038NA12
4J038PB06
4J038PB07
4J038PB09
4J038PC02
4J038PC08
4J040EK031
4J040HA176
4J040HA306
4J040HD32
4J040JA01
4J040JB02
4J040KA03
4J040KA14
4J040KA16
4J040KA42
4J040MA02
4J040MA10
4J040MA12
4J040MB09
4J040MB11
4J040NA12
4J040NA15
4J040NA19
5E314AA21
5E314AA43
5E314GG01
5E314GG03
5E314GG11
5E314GG19
(57)【要約】
【課題】従来の脱アルコール型や脱オキシム型の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物と同等の硬化性を有するとともに、人体に対する有害性や環境負荷を軽減し、硬化後に良好なゴム物性、接着性、耐LLC性及び耐湿性を有するシリコーンゴム硬化物を与える室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、及びこの組成物又はこの組成物の硬化物を有する各種物品等を提供する。
【解決手段】下式(2)の脱離基として環状ケトン化合物を脱離・放出する加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物と有機強塩基性硬化触媒を含み、ロングライフクーラントの50質量%水溶液に100℃、1,000時間浸漬した後の引張り強度及び切断時伸びの変化率が、初期状態と比較してそれぞれ-40%以上、+80%以下である硬化物を与える室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
(R
2は炭素数1~10の一価炭化水素基、nは1~8、mは3又は4。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で示される23℃における粘度が20~1,000,000mPa・sのオルガノポリシロキサン:100質量部、
HO-(SiR
1
2O)
a-H (1)
(式中、R
1は炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、各R
1は互いに同一であっても異種の基であってもよい。aは50以上の整数である。)、
(B)下記一般式(2)で示される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:1~40質量部、
【化1】
(式中、R
2は炭素数1~10の一価炭化水素基であり、nは1~8の整数であり、mは3又は4である。)
(C)有機強塩基性硬化触媒:0.01~1質量部、
(D)下記一般式(3)で示されるシランカップリング剤及び/又はその部分加水分解縮合物:0.01~10質量部、及び
R
3R
4
bSiX
3-b (3)
(式中、R
3は窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれる1種以上のヘテロ原子を含む官能性基(但し、グアニジル基を除く)を少なくとも1個有する炭素数1~20の一価炭化水素基である。R
4は炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、Xは加水分解性基である。bは0、1又は2である。)
(E)無機質充填剤:1~500質量部
を含有し、ロングライフクーラントの50質量%水溶液に100℃、1,000時間浸漬した後の引張り強度及び切断時伸びの変化率が、初期状態と比較してそれぞれ-40%以上、+80%以下である硬化物を与えるものである室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
85℃、85%RHの環境下に1,000時間暴露した後の引張り強度及び切断時伸びの変化率が、初期状態と比較してそれぞれ-40%以上、+80%以下である硬化物を与えるものである請求項1に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物が、加水分解によって環状ケトン化合物を脱離するものである請求項1に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
脱離する環状ケトン化合物がシクロブタノン又はシクロペンタノンである請求項3に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項5】
(E)成分が、炭酸カルシウム、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、カーボンブラック及び酸化アルミニウムから選ばれる1種又は2種以上の無機質充填剤である請求項1に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物を有する電気・電子部品。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を含有する電気・電子部品用接着剤。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を含有する電気・電子部品用ポッティング剤。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を含有する電気・電子部品用コーティング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温(23℃±15℃)において大気中の湿気(水分)により加水分解・縮合反応にて架橋(硬化)する縮合硬化型の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、特には、硬化時の加水分解反応によって架橋剤(硬化剤)から脱離・発生する脱離化合物がシクロブタノンやシクロペンタノン等の環状ケトン化合物であり、縮合反応によって良好に硬化し、かつ接着性に優れ、良好な耐ロングライフクーラント(以下、LLC)性、耐湿熱性を有するシリコーンゴム硬化物(エラストマー状オルガノポリシロキサン硬化物)を与える室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、及び該組成物又はその硬化物(シリコーンゴム)を有する各種物品等に関する。特に本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、電気・電子部品のシール剤(接着剤、ポッティング剤、コーティング剤)等として好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
室温で硬化してシリコーンゴムとなる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は従来から知られており、産業界で広く使用されてきた。室温で硬化する機構には、ヒドロシリル化付加反応によって硬化する機構、紫外線によってラジカル硬化する機構、ケイ素原子に結合する加水分解性基と水酸基との縮合反応によって硬化する機構などが知られている。中でも、縮合反応により硬化する室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、室温にて容易に硬化することができ、また、ヒドロシリル化付加反応などで起こる不純物による硬化阻害を起しにくいという利点を有する。そのため、車載ガスケットやシール材、建築用シーラント、電気・電子部品などの分野で幅広く使用されている。
【0003】
縮合反応により硬化する室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、硬化剤(架橋剤)として分子中に加水分解性基を有する加水分解性オルガノシラン化合物を該組成物中に含有するものであり、すでに広く利用されている硬化剤としては、硬化時に2-ブタノンオキシム等のオキシム化合物を放出する脱オキシム型の加水分解性オルガノシラン化合物や、メタノール等のアルコール化合物を放出する脱アルコール型の加水分解性オルガノシラン化合物などが知られている。これらの硬化剤を含有する組成物を硬化して得られるゴム状硬化物は、シリコーン(シロキサン構造)由来の高い耐熱性、耐薬品性、耐候性を有しているため、電気・電子部品用のシール剤として広く用いられている。
一方で、脱オキシム型の硬化剤が硬化時に発生する2-ブタノンオキシムなどのオキシム化合物は発がん性のおそれが疑われており、脱アルコール型の硬化剤が硬化時に発生するメタノール等は人体に対して有毒で、劇物に指定されていることから、人体の健康の観点から好ましくない。更に、これらの組成物では、硬化触媒として、環境負荷物質として規制が強化されている錫触媒を使用するケースもあり、環境保護の観点から好ましくない。
【0004】
更に、脱アルコール型の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に使用される硬化剤(架橋剤)は、脱オキシム型の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に使用される硬化剤と比較して反応性に劣るため硬化が遅く、脱オキシム型は脱離する化合物が銅系物質を腐食することから、電気・電子部品用途では適用範囲が限られる。また、これらの従来の硬化系では耐湿性や耐LLC性が十分でないケースがあった。
近年では、自動車の急速な電動化や、5Gなどの次世代通信の普及を見越して、電気・電子用用途へのシリコーン接着剤の適用が進んでいる。電気・電子用途では特に耐LLC性や耐湿熱性など、水分に対する耐性が求められる。
環境保護や作業員の健康被害抑制及び電子部品の生産性・信頼性向上の観点からより環境・安全に配慮され、かつ硬化性や耐久性に優れた製品が特に望まれており、脱離する化合物の安全性が高く、性能に優れる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に対する需要が高まっている。
【0005】
特表2018-515634号公報(特許文献1)では、脱アルコール型、脱オキシム型硬化剤の代替として、乳酸エチルを代表とするα-ヒドロキシカルボン酸エステル化合物を放出する、縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物を提案している。こちらの系では脱離基である乳酸エチルは安全性の高い化合物であるが、触媒として錫触媒の使用を必須としている。錫触媒は水生生物に対しての有害性が指摘されており、環境保護の観点から錫触媒の使用は好ましくない。
【0006】
特公昭51-39673号公報(特許文献2)では、アセトンを代表とするケトン系化合物を放出する、縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物を提案している。アセトンは2-ブタノンオキシムやメタノールと比較して、人体に対しては有害性の低い化合物であり、更に従来の硬化形態よりも速硬化で耐久性に優れる組成物を提供している。しかし、アセトンの引火点は-20℃と低く、揮発性が高いため、使用環境に制限があるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2018-515634号公報
【特許文献2】特公昭51-39673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物において、人体に対しての発がん性や生殖毒性など健康有害性、水生生物毒性など環境有害性の報告例がなく、比較的引火点の高い、シクロブタノンやシクロペンタノン等の環状ケトン化合物を脱離基(脱離化合物)とする加水分解性オルガノシラン化合物を硬化剤として使用することで、錫触媒を用いずとも従来の脱アルコール型や脱オキシム型の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物と同等の硬化性を有するとともに、なおかつ人体に対する有害性や環境負荷を軽減し、硬化後に良好なゴム物性、接着性、耐LLC性及び耐湿性を有するシリコーンゴム硬化物を与えることができる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、及びこの組成物又はこの組成物を硬化させることにより得られる硬化物(シリコーンゴム)を有する電気・電子部品、接着剤、ポッティング剤、コーティング剤等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物において、下記一般式(2)で示される、脱離基(脱離化合物)としてシクロブタノンやシクロペンタノン等の環状ケトン化合物を脱離・放出する加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を硬化剤(架橋剤)として含有する室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物が、上記人体・環境に対する有害性や安全性の問題を解決するものであることを見出し、更にはこの組成物に塩基性の有機化合物を硬化触媒として添加した場合でも錫触媒を添加した場合と同等の硬化性及び硬化物性能を示し、更に硬化物が耐LLC性、耐湿熱性(高温・高湿環境下における耐久性)に優れることを見出し、本発明をなすに至った。
【化1】
(式中、R
2は炭素数1~10の一価炭化水素基であり、nは1~8の整数であり、mは3又は4である。)
【0010】
即ち、本発明は、下記の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、及び該組成物又はその硬化物を有する電気・電子部品、接着剤、ポッティング剤、コーティング剤等を提供するものである。
[1]
(A)下記一般式(1)で示される23℃における粘度が20~1,000,000mPa・sのオルガノポリシロキサン:100質量部、
HO-(SiR
1
2O)
a-H (1)
(式中、R
1は炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、各R
1は互いに同一であっても異種の基であってもよい。aは50以上の整数である。)、
(B)下記一般式(2)で示される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:1~40質量部、
【化2】
(式中、R
2は炭素数1~10の一価炭化水素基であり、nは1~8の整数であり、mは3又は4である。)
(C)有機強塩基性硬化触媒:0.01~1質量部、
(D)下記一般式(3)で示されるシランカップリング剤及び/又はその部分加水分解縮合物:0.01~10質量部、及び
R
3R
4
bSiX
3-b (3)
(式中、R
3は窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれる1種以上のヘテロ原子を含む官能性基(但し、グアニジル基を除く)を少なくとも1個有する炭素数1~20の一価炭化水素基である。R
4は炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、Xは加水分解性基である。bは0、1又は2である。)
(E)無機質充填剤:1~500質量部
を含有し、ロングライフクーラントの50質量%水溶液に100℃、1,000時間浸漬した後の引張り強度及び切断時伸びの変化率が、初期状態と比較してそれぞれ-40%以上、+80%以下である硬化物を与えるものである室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[2]
85℃、85%RHの環境下に1,000時間暴露した後の引張り強度及び切断時伸びの変化率が、初期状態と比較してそれぞれ-40%以上、+80%以下である硬化物を与えるものである[1]に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[3]
(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物が、加水分解によって環状ケトン化合物を脱離するものである[1]又は[2]に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[4]
脱離する環状ケトン化合物がシクロブタノン又はシクロペンタノンである[3]に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[5]
(E)成分が、炭酸カルシウム、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、カーボンブラック及び酸化アルミニウムから選ばれる1種又は2種以上の無機質充填剤である[1]~[4]のいずれかに記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物を有する電気・電子部品。
[7]
[1]~[5]のいずれかに記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を含有する電気・電子部品用接着剤。
[8]
[1]~[5]のいずれかに記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を含有する電気・電子部品用ポッティング剤。
[9]
[1]~[5]のいずれかに記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を含有する電気・電子部品用コーティング剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、硬化時の加水分解・縮合反応によって硬化剤(架橋剤)から発生する化合物(脱離化合物)が安全性の高いシクロブタノンやシクロペンタノン等の環状ケトン化合物であり、組成物の硬化性や硬化後の接着性に優れ、耐久性も良好であるシリコーンゴム硬化物(エラストマー状オルガノポリシロキサン硬化物)を与えるため、人体の健康や安全性に配慮された、各種接着剤、ポッティング剤、コーティング剤等として好適に使用できる。更に、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、錫触媒を用いずとも、塩基性の有機化合物を硬化触媒として用いることで、十分な硬化性及び硬化物性能を示し、更に硬化物の耐LLC性や耐湿熱性(高温・高湿環境下における耐久性)に優れるため、環境保護(負荷軽減)に配慮し、かつ耐久性に優れた、電気・電子部品用各種接着剤、ポッティング剤、コーティング剤等として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、粘度は、JIS Z 8803に規定する方法に順じた回転粘度計による測定値である。特に記述がない限り、「室温」とは温度23℃±15℃、湿度50%RH±5%RHの状態をいう。
【0013】
[(A)成分 オルガノポリシロキサン]
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に用いられる(A)成分は、下記一般式(1)で示される23℃における粘度が20~1,000,000mPa・sのオルガノポリシロキサンである。
HO-(SiR1
2O)a-H (1)
(式中、R1は炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、各R1は互いに同一であっても異種の基であってもよい。aは50以上の整数である。)
【0014】
(A)成分は、式(1)に示すように主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)で封鎖されている、23℃における粘度が20~1,000,000mPa・sの、直鎖状のジオルガノポリシロキサンであり、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の主剤(ベースポリマー)として作用するものである。
【0015】
上記式(1)中、R1は炭素数1~10、特に炭素数1~6の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基が挙げられる。あるいはこれらの炭化水素基の水素原子が部分的に塩素、フッ素、臭素といったハロゲン原子等で置換された基、例えばトリフルオロプロピル基などが挙げられる。R1の非置換又は置換の一価炭化水素基としては、脂肪族不飽和結合を含まないものが好ましく、具体的には、メチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。このR1は同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0016】
上記式(1)中、主鎖を構成する2官能性のジオルガノシロキサン単位(SiR1
2O2/2)の繰り返し数(又は重合度)を示すaは50以上の整数であり、好ましくは50~2,000の整数であり、より好ましくは100~1,500の整数であり、特に好ましくは200~1,200の整数である。
本発明において、重合度(又は分子量)は、例えば、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)等を展開溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる。
【0017】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、23℃における粘度が20~1,000,000mPa・sであり、好ましくは100~300,000mPa・sであり、更に好ましくは1,000~200,000mPa・sであり、特に好ましくは10,000~100,000mPa・sである。オルガノポリシロキサンの粘度が上記下限値(20mPa・s)未満であると、後述する(C)成分が多量に必要となるため、経済的に不利となる。また、オルガノポリシロキサンの粘度が上記上限値(1,000,000mPa・s)超では、作業性が低下するので、好ましくない。
【0018】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
[(B)成分 加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物]
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に用いられる(B)成分は、下記一般式(2)で示される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物で、架橋剤(硬化剤)として用いられるものであり、加水分解によってシクロブタノンやシクロペンタノン等の環状ケトン化合物を脱離基(脱離物質)として放出するものであることを特徴とする。
なお、本発明において「部分加水分解縮合物」とは、該加水分解性オルガノシラン化合物を部分的に加水分解・縮合して生成する、分子中に残存加水分解性基を3個以上、好ましくは4個以上有するオルガノシロキサンオリゴマーを意味する。
【化3】
(式中、R
2は炭素数1~10の一価炭化水素基であり、nは1~8の整数であり、mは3又は4である。)
【0020】
上記一般式(2)において、R2は炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の、一価炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数6~10のアリール基又は炭素数7~10のアラルキル基であり、このR2としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基などを例示することができる。これらの中でも、メチル基、エチル基、ビニル基、フェニル基が好ましく、メチル基、ビニル基、フェニル基が特に好ましい。
【0021】
上記一般式(2)において、nは1~8の整数、好ましくは2~6の整数、より好ましくは2~4の整数、更に好ましくは2又は3である。nが0では環状構造とならない。nが9以上の整数となると、加水分解性オルガノシランの分子量が大きくなり、蒸留による精製が困難となったり、保存性を確保するのに必要な添加量が多くなり、コスト的に不利になる。
【0022】
また、上述したとおり、mは3又は4である。この数が3未満である場合(即ち、mが0、1又は2である場合)は架橋反応によるゴム硬化が起こらず、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の架橋剤として不適である。
【0023】
また、上記一般式(2)で示される加水分解性オルガノシラン化合物の加水分解によって生じる脱離基(脱離化合物)は、シクロプロパノン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロノナノン、シクロデカノンなどの環状ケトン化合物であり、好ましくはシクロブタノン、シクロペンタノンであり、更に好ましくはシクロペンタノンである。シクロブタノン、シクロペンタノンは人体に対しての発がん性や生殖毒性など健康有害性、水生生物毒性など環境有害性の報告例がない。また、シクロペンタノンは、工業的に大量生産されており、入手も容易でコスト競争力が高いため、後述するように(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物の製造にも有利である。
【0024】
(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物は、例えば、生成物である一般式(2)で示される加水分解性オルガノシラン化合物に対応するクロロシラン化合物と環状ケトン化合物を触媒及び塩基性物質の存在下に反応(例えば脱塩酸反応)させることで製造できる。この反応式は、例えば下記式[1]で表される。
【0025】
【化4】
(式中、R
2、n、mは前記の通りである。)
【0026】
ここで、クロロシラン化合物としては、下記に示すものが例示できる。
【化5】
【0027】
また、環状ケトン化合物としては、下記に示すものが例示できる。
【化6】
【0028】
クロロシラン化合物と反応させる環状ケトン化合物の添加量は、クロロシラン化合物中の塩素原子数1モルに対して、0.95~3.0モルが好ましく、0.99~2.5モルがより好ましく、1.0~2.0モルが更に好ましい。環状ケトン化合物の添加量が少ないと反応が終結しないおそれがあり、環状ケトン化合物の添加量が多すぎると精製に時間がかかり、製造時間が増加してしまう場合がある。
【0029】
反応に使用する触媒としては、1価もしくは2価の金属銅化合物が挙げられ、例えば、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、硫酸銅、硝酸銅、炭酸銅、塩基性炭酸銅、ギ酸銅、酢酸銅、酪酸銅などが例示できるがこれらに限られるものではない。
触媒(金属銅化合物)の添加量としては、クロロシラン化合物1モルに対して0.001~0.5モルが好ましく、0.002~0.2モルがより好ましく、0.003~0.1モルが更に好ましい。触媒の添加量が少ないと反応が終結しないおそれがあり、触媒の添加量が多すぎるとコスト的に不利となる。
【0030】
反応に使用する塩基性物質としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、尿素、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネンなどの求核性の低い塩基性物質が使用できる。この中でもトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンが好ましく、特にトリエチルアミンが好ましい。
塩基性物質の添加量としては、クロロシラン化合物中の塩素原子数1モルに対して0.95~2.5モルが好ましく、0.99~2.0モルがより好ましく、1.0~1.5モルが更に好ましい。塩基性物質の添加量が少ないと反応が終結しないおそれがあり、塩基性物質の添加量が多すぎると経済的に不利である。
【0031】
(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物の製造には、一般に使用される溶剤を使用してもよく、溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ノナン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素類、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、パークロロエタン、パークロロエチレン、トリクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル類などの有機溶剤が挙げられる。
溶剤の使用量としては特に限定されないが、通常、使用する環状ケトン化合物100質量部に対して、10~500質量部、好ましくは30~400質量部、より好ましくは50~300質量部等の範囲で使用される。
【0032】
クロロシラン化合物と環状ケトン化合物との反応条件としては、通常、0~120℃、好ましくは0~100℃の温度下でクロロシラン化合物を環状ケトン化合物に滴下し、50~120℃、好ましくは60~100℃で1~48時間、更に好ましくは3~30時間程度反応させることが好ましい。反応時の温度が低すぎると反応が完結しない場合があり、反応時の温度が高すぎると生成物の着色が大きくなる場合がある。また、反応時間が短すぎると反応が完結しない場合があり、反応時間が長すぎると生産性に不利に働く。
また、反応終了後の精製は減圧環境下で目的物を蒸留することで可能であり、減圧度は好ましくは1×10-5~3,000Pa、より好ましくは1×10-5~2,000Paであり、精製時の温度は好ましくは100~250℃、より好ましくは120~230℃である。減圧時の圧力(減圧度)が高すぎると蒸留が困難となる場合がある。また、精製時の温度が低すぎると、蒸留による精製が困難となる場合があり、高すぎると反応物の着色や分解を招くおそれがある。
【0033】
(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物の具体例としては、例えば、下記式で表されるものが挙げられる。なお、Meはメチル基を示す。
【化7】
【0034】
(B)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して1~40質量部であり、好ましくは3~30質量部であり、更に好ましくは5~20質量部である。(B)成分の配合量が上記下限値の1質量部未満であると、密封容器中に保管した際の保存性が悪化する場合がある。また、(B)成分の配合量が上記上限値の40質量部を超えると、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化性が著しく低下し、更には接着性が悪化する場合がある。
なお、(B)成分の加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物は、分子中に、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれる1種以上の原子を含む官能性基を少なくとも1個有する一価炭化水素基を有しないものである点において、後述する任意成分としての(D)成分のシランカップリング剤及び/又はその部分加水分解縮合物とは明確に区別されるものである。
【0035】
[(C)成分 有機強塩基性硬化触媒]
(C)成分は有機強塩基性物質からなる硬化触媒であり、本発明の組成物に良好な硬化性を付与する。(C)成分としては、例えば、トリエチルアミン、ヘキシルアミン、テトラメチルグアニジン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)等のアミン化合物、γ-テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン、γ-テトラメチルグアニジルプロピルトリエトキシシラン等のグアニジル基含有アルコキシシラン化合物やこれらの塩(有機強塩基性硬化触媒)が挙げられ、これらの少なくともいずれか1つ、即ち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、0.01~1質量部であり、好ましくは0.1~0.8質量部であり、より好ましくは0.2~0.6質量部である。(E)成分の配合量が上記下限値の0.01質量部未満であると、触媒効果が得られず、上記上限値の1質量部を超えると組成物の耐久性が悪化する。
【0037】
[(D)成分 シランカップリング剤及び/又はその部分加水分解縮合物]
(D)成分は、下記一般式(3)で示されるシランカップリング剤(即ち、官能性基含有一価炭化水素基を有する加水分解性オルガノシラン化合物又はカーボンファンクショナルシラン)及び/又はその部分加水分解縮合物であり、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物に良好な接着性を発現させるための必須成分である。
R3R4
bSiX3-b (3)
(式中、R3は窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれる1種以上のヘテロ原子を含む官能性基(但し、グアニジル基を除く)を少なくとも1個有する炭素数1~20の一価炭化水素基である。R4は炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、Xは加水分解性基である。bは0、1又は2である。)
【0038】
上記式(3)中、R3は、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれる1種以上のヘテロ原子を含む官能性基(例えば、非置換又は置換アミノ基、非置換又は置換イミノ基、アミド基、ウレイド基、メルカプト基、エポキシ基、(メタ)アクリロキシ基等であるが、グアニジル基を除く)を少なくとも1個有する炭素数1~20の一価炭化水素基であり、具体的には、β-(2,3-エポキシシクロヘキシル)エチル基、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、γ-グリシドキシプロピル基、γ-メタクリロキシプロピル基、γ-アクリロキシプロピル基、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピル基[別名:N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピル基]、γ-アミノプロピル基、N-フェニル-γ-アミノプロピル基、γ-ウレイドプロピル基、γ-メルカプトプロピル基、γ-イソシアネートプロピル基等の窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれるヘテロ原子の少なくとも1種を含む、好ましくは炭素数3~20、より好ましくは炭素数3~14の一価炭化水素基が挙げられる。R5としては、γ-グリシドキシプロピル基、γ-アミノプロピル基、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピル基が特に好ましい。
【0039】
また、上記式(3)中、R4は、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基が挙げられる。あるいはこれらの炭化水素基の水素原子が部分的に塩素、フッ素、臭素といったハロゲン原子等で置換された基、例えばトリフルオロプロピル基などが挙げられる。これらの中でもメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が好ましい。なお、R4は同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0040】
上記式(3)中、加水分解性基Xとしては、例えば、ケトオキシム基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基等が挙げられる。具体的には、ジメチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、メチルイソブチルケトオキシム基等の炭素数3~8のケトオキシム基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等の炭素数1~4、好ましくは1又は2のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基等の炭素数2~4のアルコキシアルコキシ基、アセトキシ基、プロピオノキシ基等の炭素数2~4のアシロキシ基、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、プロペノキシ基、イソプロペノキシ基等の炭素数2~4のアルケニルオキシ基などが例示できる。Xとして、好ましくはメトキシ基である。なお、加水分解性基Xは同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0041】
(D)成分の式(3)で示されるシランカップリング剤として、具体的には、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-2-(アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン[別名:N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン]等のアミノシラン類、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン類、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリルシラン類、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン類、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等のイソシアネートシラン類などが挙げられる。
【0042】
(D)成分のシランカップリング剤及び/又はその部分加水分解縮合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、0.01~10質量部であり、好ましくは0.1~8質量部である。0.01質量部未満では、硬化物が十分な接着性能を示さないものとなり、10質量部を超えて配合すると、硬化後のゴム強度が低下したり、硬化性が低下したりする。
【0043】
[(E)成分 無機質充填剤]
(E)成分の無機質充填剤は、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物にゴム物性を付与するための補強性、非補強性充填剤である。(E)成分の無機質充填剤としては、表面疎水化処理又は無処理の、焼成シリカ、煙霧質シリカ等の乾式シリカ、沈降性シリカ、ゾル-ゲル法シリカ等の湿式シリカなどのシリカ系充填剤、カーボンブラック、タルク、ベントナイト、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム等が例示され、その中でも炭酸カルシウム、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、カーボンブラック、酸化アルミニウムが好ましく、より好ましくは無機質充填剤の表面が疎水化処理された、炭酸カルシウム、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、カーボンブラック、酸化アルミニウムである。この場合、これら無機質充填剤は、水分量が少ないことが好ましい。
なお、該表面処理剤(疎水化処理剤)の種類、量や処理方法等については特に制限はないが、代表的には、クロロシラン、アルコキシシラン、オルガノシラザン等の有機ケイ素化合物や、脂肪酸、パラフィン、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等の処理剤が適用できる。
【0044】
(E)成分の無機質充填剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(E)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、1~500質量部であり、好ましくは3~400質量部であり、より好ましくは5~300質量部であり、更に好ましくは10~250質量部である。1質量部未満では十分なゴム強度が得られないため、使用用途に適さないという問題が生じ、500質量部を超えるとカートリッジからの吐出性が悪化し、並びに保存安定性が低下するほか、得られるゴム物性の機械特性も低下してしまう。
【0045】
[その他の成分]
また、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物には、上記成分以外に一般に知られている添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で使用しても差し支えない。添加剤としては、チクソ性向上剤としてのポリエーテル、可塑剤としてのシリコーンオイル(無官能性オルガノポリシロキサン)、イソパラフィン等が挙げられ、必要に応じて顔料、染料、蛍光増白剤等の着色剤、防かび剤、抗菌剤、海洋生物忌避剤等の生理活性添加剤、ブリードオイルとしてのフェニルシリコーンオイル、フロロシリコーンオイル、シリコーンと非相溶の有機液体等の表面改質剤、溶剤揮発油、低沸点イソパラフィン等の溶剤も添加できる。なお、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、硬化触媒として錫触媒、チタン触媒、有機ビスマス触媒等の有機金属触媒を含まないことが好ましい。
【0046】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、上記各成分、更にはこれに上記各種添加剤の所定量を、乾燥雰囲気中において均一に混合することにより得ることができる。また、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、室温で放置することにより硬化するが、その成形方法、硬化条件などは、組成物の種類に応じた公知の方法、条件を採用することができる。
【0047】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、特に1成分型の組成物は、水分の非存在下、即ち湿気を遮断した密閉容器中で保存し、使用時に空気中の水分に曝すことによって室温(23℃±15℃)で容易に硬化する。
【0048】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、その硬化物をロングライフクーラントの50質量%水溶液に100℃、1,000時間浸漬した後の引張り強度及び切断時伸びの変化率(((耐久後物性-初期物性)/初期物性)×100%)が、初期状態と比較してそれぞれ-40%以上、+80%以下、好ましくは-30%以上、+50%以下のものである。引張り強度及び切断時伸びの変化率が-40%未満であるとロングライフクーラント(LLC)のシール剤等として十分な物性が得られず、+80%を超えると初期物性との変化が大きくなりすぎ、製品設計上好ましくない。
なお、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物は、該組成物を2mmの型枠に流し込み、23℃、50%RHで7日間養生して得られた2mm厚さのゴムシートであり、引張り強度及び切断時伸びは、JIS K 6249に準じて測定した値である。
本発明において、ロングライフクーラントの50質量%水溶液に100℃、1,000時間浸漬した後の引張り強度及び切断時伸びの変化率を上記範囲とするためには、環状ケトンを脱離基として有する特定の有機ケイ素化合物((B)成分)の特定量を架橋成分として用い、硬化触媒として有機強塩基性触媒((C)成分)を特定の範囲((A)成分100質量部に対して0.01~1質量部)で添加し、更に(E)成分の無機充填剤を特定の範囲((A)成分100質量部に対して1~500質量部)で併用することによって達成することができる。特に(C)成分の有機強塩基性触媒の配合量が(A)成分100質量部に対して1質量部を超える場合にはロングライフクーラントに対する耐性が低下する。
【0049】
また、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、その硬化物を85℃、85%RHの環境下に1,000時間暴露した後の引張り強度及び切断時伸びの変化率(((耐久後物性-初期物性)/初期物性)×100%)が、初期状態と比較してそれぞれ-40%以上、+80%以下のものであることが好ましく、-25%以上、+40%以下のものであることがより好ましい。引張り強度及び切断時伸びの変化率が-40%未満であると気密シール剤として十分な物性が得られない場合があり、80%を超えると初期物性との変化が大きくなりすぎ、製品設計上好ましくない場合がある。
なお、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物は、該組成物を2mmの型枠に流し込み、23℃、50%RHで7日間養生して得られた2mm厚さのゴムシートであり、引張り強度及び切断時伸びは、JIS K 6249に準じて測定した値である。
本発明において、85℃、85%RHの環境下に1,000時間暴露した後の引張り強度及び切断時伸びの変化率を上記範囲とするためには、環状ケトンを脱離基として有する特定の有機ケイ素化合物((B)成分)の特定量を架橋成分として用い、硬化触媒として有機強塩基性触媒((C)成分)を特定の範囲((A)成分100質量部に対して0.01~1質量部)で添加し、更に(E)成分の無機充填剤を特定の範囲((A)成分100質量部に対して1~500質量部)で併用することが有効である。特に(C)成分の有機強塩基性触媒の配合量が(A)成分100質量部に対して1質量部を超える場合には湿熱試験に対する耐性が低下する場合がある。
【0050】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、硬化時の加水分解反応によって架橋剤から発生する化合物が安全性の高いシクロペンタノン等の環状ケトン化合物であり、人体、環境に配慮されているものである。更に、シクロペンタノンでは、引火点が35℃と、組成物の硬化時にメタノール等のアルコール化合物を放出する脱アルコール型のものよりも引火点が高く、安全性の高いものである。このような本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、既存の様々な触媒を使用することで良好な硬化性を示し、その硬化物(シリコーンゴム)は接着性、耐LLC性、耐湿熱性にも優れる。また、錫触媒を用いておらず、更に環境負荷に考慮した組成物を与えることが可能である。
【0051】
そのため、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、特に電気・電子用途向け接着剤、ポッティング剤、又はコーティング剤等として有用である。本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を接着剤、ポッティング剤、又はコーティング剤として使用する方法は、従来公知の方法に従えばよい。
【0052】
対象となる物品としては、例えば、自動車用部品、電気・電子部品等が挙げられる。
【実施例0053】
以下、合成例と実施例及び比較例を挙げ、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。また、粘度はJIS Z 8803に規定する方法に準じた23℃における回転粘度計による測定値である。なお、Meはメチル基を示す。
【0054】
[合成例1]加水分解性オルガノシラン化合物1の合成
機械攪拌機、温度計、還流管及び滴下ロートを備えた5,000mLの四つ口セパラブルフラスコに、シクロペンタノン834g(9.9mol)、トリエチルアミン825g(8.2mol)、塩化銅(I)5g(0.05mol)、ヘキサン1,500mlを仕込み、40~60℃の範囲でビニルトリクロロシラン400g(2.47mol)を約2時間かけて滴下した。その後、80℃で12時間撹拌後、生成したトリエチルアミン塩酸塩を濾過して取り除き、ろ液から100℃、常圧の条件でヘキサンを留去したのち、180℃、300Paの条件で蒸留することで加水分解性オルガノシラン化合物1を得た(収量532g、収率69%)。この反応式は、下記式[2]で表される。
【化8】
【0055】
[合成例2]加水分解性オルガノシラン化合物2の合成
機械攪拌機、温度計、還流管及び滴下ロートを備えた5,000mLの四つ口セパラブルフラスコに、シクロペンタノン834g(9.9mol)、トリエチルアミン825g(8.2mol)、塩化銅(I)5g(0.05mol)、ヘキサン1,500mlを仕込み、40~60℃の範囲でメチルトリクロロシラン368g(2.47mol)を約2時間かけて滴下した。その後、80℃で12時間撹拌後、生成したトリエチルアミン塩酸塩を濾過して取り除き、ろ液から100℃、常圧の条件でヘキサンを留去したのち、170℃、300Paの条件で蒸留することで加水分解性オルガノシラン化合物2を得た(収量519g、収率71%)。この反応式は、下記式[3]で表される。
【化9】
【0056】
[合成例3]加水分解性オルガノシラン化合物3の合成
機械攪拌機、温度計、還流管及び滴下ロートを備えた5,000mLの四つ口セパラブルフラスコに、シクロペンタノン834g(9.9mol)、トリエチルアミン825g(8.2mol)、塩化銅(I)5g(0.05mol)、ヘキサン1,500mlを仕込み、40~60℃の範囲でフェニルトリクロロシラン522g(2.47mol)を約2時間かけて滴下した。その後、80℃で12時間撹拌後、生成したトリエチルアミン塩酸塩を濾過して取り除き、ろ液から100℃、常圧の条件でヘキサンを留去したのち、200℃、300Paの条件で蒸留することで加水分解性オルガノシラン化合物3を得た(収量568g、収率65%)。この反応式は、下記式[4]で表される。
【化10】
【0057】
[実施例1]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(前記一般式(1)において、R1=メチル基、a=約620に該当するジメチルポリシロキサン)100質量部に、(E-2)表面がジメチルジクロロシランにて処理された煙霧質シリカ(製品名;MU-215、信越化学工業(株)製)を10質量部加えて十分に混合した後、(B-1)前記加水分解性オルガノシラン化合物1を8質量部加え、十分に混合した。最後に(D-1)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-903、信越化学工業(株)製)を1質量部、(C-1)γ-テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシランを0.4質量部加え、減圧下で完全に混合し、組成物1を得た。
【0058】
[実施例2]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(前記一般式(1)において、R1=メチル基、a=約620に該当するジメチルポリシロキサン)100質量部に、(E-1)表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)を100質量部、(E-2)表面がジメチルジクロロシランにて処理された煙霧質シリカ(製品名;MU-215、信越化学工業(株)製)を10質量部加えて十分に混合した後、(B-1)前記加水分解性オルガノシラン化合物1を8質量部加え、十分に混合した。最後に(D-1)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-903、信越化学工業(株)製)を1質量部、(C-1)γ-テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシランを0.4質量部加え、減圧下で完全に混合し、組成物2を得た。
【0059】
[実施例3]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(前記一般式(1)において、R1=メチル基、a=約620に該当するジメチルポリシロキサン)100質量部に、(E-1)表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)を100質量部、(E-2)表面がジメチルジクロロシランにて処理された煙霧質シリカ(製品名;MU-215、信越化学工業(株)製)を10質量部加えて十分に混合した後、(B-1)前記加水分解性オルガノシラン化合物1を8質量部加え、十分に混合した。最後に(D-1)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-903、信越化学工業(株)製)を1質量部、(C-2)ジアザビシクロウンデセンを0.25質量部加え、減圧下で完全に混合し、組成物3を得た。
【0060】
[実施例4]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(前記一般式(1)において、R1=メチル基、a=約620に該当するジメチルポリシロキサン)100質量部に、(E-1)表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)を100質量部、(E-2)表面がジメチルジクロロシランにて処理された煙霧質シリカ(製品名;MU-215、信越化学工業(株)製)を10質量部加えて十分に混合した後、(B-1)前記加水分解性オルガノシラン化合物1を8質量部加え、十分に混合した。最後に(D-2)N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-603、信越化学工業(株)製)を1質量部、(C-2)ジアザビシクロウンデセンを0.25質量部加え、減圧下で完全に混合し、組成物4を得た。
【0061】
[実施例5]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(前記一般式(1)において、R1=メチル基、a=約620に該当するジメチルポリシロキサン)100質量部に、(E-1)表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)を100質量部、(E-2)表面がジメチルジクロロシランにて処理された煙霧質シリカ(製品名;MU-215、信越化学工業(株)製)を10質量部加えて十分に混合した後、(B-2)前記加水分解性オルガノシラン化合物2を8質量部加え、十分に混合した。最後に(D-1)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-903、信越化学工業(株)製)を1質量部、(C-1)γ-テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシランを0.4質量部加え、減圧下で完全に混合し、組成物5を得た。
【0062】
[実施例6]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(前記一般式(1)において、R1=メチル基、a=約620に該当するジメチルポリシロキサン)100質量部に、(E-1)表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)を100質量部、(E-2)表面がジメチルジクロロシランにて処理された煙霧質シリカ(製品名;MU-215、信越化学工業(株)製)を10質量部加えて十分に混合した後、(B-3)前記加水分解性オルガノシラン化合物3を8質量部加え、十分に混合した。最後に(D-2)N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-603、信越化学工業(株)製)を1質量部、(C-1)γ-テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシランを0.4質量部加え、減圧下で完全に混合し、組成物6を得た。
【0063】
[比較例1]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(前記一般式(1)において、R1=メチル基、a=約620に該当するジメチルポリシロキサン)100質量部に、(E-2)表面がジメチルジクロロシランにて処理された煙霧質シリカ(製品名;MU-215、信越化学工業(株)製)を10質量部加えて十分に混合した後、(B’)メチルトリスメチルエチルケトオキシムシランを8質量部加え、十分に混合した。最後に(D-1)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-903、信越化学工業(株)製)を1質量部、(C’)ジオクチル錫ジラウレートを0.1質量部加え、減圧下で完全に混合し、組成物7を得た。
【0064】
[比較例2]
(A’)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がメチルジメトキシ基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(前記一般式(1)において、R1=メチル基、a=約620に該当するジメチルポリシロキサン)100質量部に、(E-1)表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)を100質量部、(E-2)表面がジメチルジクロロシランにて処理された煙霧質シリカ(製品名;MU-215、信越化学工業(株)製)を10質量部加えて十分に混合した後、(B'')メチルトリメトキシシランを8質量部加え、十分に混合した。最後に(D-1)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-903、信越化学工業(株)製)を1質量部、(C’)ジオクチル錫ジラウレートを0.1質量部加え、減圧下で完全に混合し、組成物8を得た。
【0065】
[比較例3]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(前記一般式(1)において、R1=メチル基、a=約620に該当するジメチルポリシロキサン)100質量部に、(E-1)表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)を100質量部、(E-2)表面がジメチルジクロロシランにて処理された煙霧質シリカ(製品名;MU-215、信越化学工業(株)製)を10質量部加えて十分に混合した後、(B-1)前記加水分解性オルガノシラン化合物1を8質量部加え、十分に混合した。最後に(D-2)N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-603、信越化学工業(株)製)を1質量部、(C-1)γ-テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシランを2質量部加え、減圧下で完全に混合し、組成物9を得た。
【0066】
[試験方法]
上記実施例1~6、比較例1~3で調製された各組成物(室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物)について、下記の評価を行った。実施例1~6、比較例1~3の配合量と共に、下記評価結果を表1に示す。
【0067】
(初期評価)
初期評価として上記調製直後の各組成物を用いて以下のタックフリータイム、硬化速度、ゴム物性、接着性、電気特性を評価した。
タックフリータイム
上記実施例、比較例で調製された各組成物を用いて、JIS A 5758に規定する方法に準じてタックフリータイム(指触乾燥時間)を測定した。
【0068】
硬化速度
硬化速度試験方法は、内径10mmのガラスシャーレに、上記実施例、比較例で調製された各組成物を充填し、23℃、50%RHで1日(24時間)後に、探針を差し込むことで空気に触れた部分から硬化した厚さ(深さ)を測定した。
【0069】
ゴム物性
上記実施例、比較例で調製された各組成物を2mmの型枠に流し込み、23℃、50%RHで7日間養生して2mm厚さのゴムシートを得た。JIS K 6249に準じてゴム物性(タイプAデュロメータ硬さ、引張強度、切断時伸び)を測定した。
【0070】
接着性
上記実施例、比較例で調製された各組成物を、幅25mm、長さ100mmのアルミニウム板2枚の間で23℃、50%RHで7日間養生して硬化させ、上下それぞれのアルミニウム板との接着面積2.5cm2、接着厚さ1mmのシリコーンゴム硬化物層を形成して、せん断接着試験体を作製した。この各試験体を用いてアルミニウムに対するせん断接着力と凝集破壊率をJIS K 6249に規定する方法に準じて測定した。
【0071】
電気特性(絶縁破壊電圧・体積抵抗率)
上記実施例、比較例で調製された各組成物を1mmの型枠に流し込み、23℃、50%RHで7日間養生して1mm厚さのゴムシートを得た。JIS K 6249に準じて絶縁破壊電圧及び体積抵抗率を測定した。
【0072】
(耐湿熱性評価)
耐湿熱性能を確認するため、得られた硬化後のシリコーンゴムシート及びせん断接着試験体を85℃、85%RHの環境に暴露し、1,000時間劣化させて、その後製造初期(初期評価)と同様の試験(ゴム物性、接着性)を行うことで、耐湿熱性の確認試験を行った。
【0073】
(耐LLC性評価)
耐LLC性能を確認するため、得られた硬化後のシリコーンゴムシート及びせん断接着試験体を、ロングライフクーラント(トヨタ純正スーパーロングライフクーラント、トヨタ自動車(株)製)の50質量%水溶液に浸漬し、100℃、1,000時間加熱劣化させて、その後製造初期(初期評価)と同様の試験(ゴム物性、接着性)を行うことで、耐LLC性の確認試験を行った。
【0074】
(変化率及び判定)
初期状態と比較して、耐LLC試験後及び85℃、85%RH試験後の引張り強度、切断時伸びそれぞれの変化率が-40%以上、+80%以下である組成物を合格、それ以外を不合格と判定した。
なお、変化率は((耐久後物性-初期物性)/初期物性)×100%とした。
【0075】
【0076】
上記の結果から、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物が、錫触媒を用いずとも、初期評価において良好な硬化性(タックフリータイム、硬化速度)、ゴム物性及び接着性を有し、耐湿熱性試験、耐LLC試験でも良好な特性を有することが示された。本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の特性は、汎用されている脱オキシム型、脱アルコール型の比較例1,2の組成物より、耐湿熱性、耐LLC性で優位な結果を得た。しかし、硬化触媒である強塩基触媒の添加量が多い比較例3の組成物では、本発明の組成物よりも耐久性に劣る結果となった。なお、電気特性に関しては実施例と比較例で差はなく、シリコーン特有の高い絶縁性を有する結果となった。
また、実施例の組成物が硬化中に放出する化合物は、シクロペンタノンであり、人体に対しての発がん性や生殖毒性など健康有害性、水生生物毒性など環境有害性の報告例がなく安全性の高い化合物である。一方で、比較例1、2の組成物が硬化中に放出する化合物はいずれもSDS(安全データシート)等で健康有害性が表示されており、発がん性のおそれ、水生生物への毒性を有する2-ブタノンオキシム、劇物に指定され、人体に強い有害性を有しているメタノールである。このことから、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、人体の健康、環境保護の観点からより優れていることが分かる。
【0077】
以上の結果から、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、硬化時により安全性の高い化合物を脱離し、錫触媒を用いずとも良好な硬化性を有し、その硬化物は、良好な物性・接着性・耐久性(耐湿熱性、耐LLC性)、絶縁性を有していることが確認され、電気・電子用途(接着剤、ポッティング剤、コーティング剤等)において好適に使用できることが分かった。