(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161447
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】治療計画評価システム、治療計画評価方法および治療計画評価システムを備える放射線治療システム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20231030BHJP
【FI】
A61N5/10 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071855
(22)【出願日】2022-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴啓
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼尾 聖心
(72)【発明者】
【氏名】安田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 康一
(72)【発明者】
【氏名】小橋 啓司
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AN01
(57)【要約】
【課題】治療計画を選択する際の判断を支援することができるようにした治療計画評価システムを提供すること。
【解決手段】放射線治療システムRTSでの治療計画を評価する治療計画評価システム1は、選択された治療計画を、過去の治療計画の採否が判断された実績と比較する機能を有し、選択された治療計画と実績との比較結果を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療の治療計画を評価する治療計画評価システムであって、
選択された治療計画を、過去の治療計画の採否が判断された実績と比較する機能を有し、
前記選択された治療計画と前記実績との比較結果を提供する
治療計画評価システム。
【請求項2】
過去の治療計画の採否実績に基づく分類モデルを保持し、
選択された治療計画を前記モデルにより分類する機能を有し、
前記選択された治療計画が前記モデルにより分類された評価結果を提供する
請求項1に記載の治療計画評価システム。
【請求項3】
前記選択された治療計画には、先に作成された第1治療計画と、前記第1治療計画よりも後に作成された第2治療計画とが含まれる
請求項2に記載の治療計画評価システム。
【請求項4】
前記選択された治療計画には、最初に作成された第1治療計画と、前記第1治療計画の後にそれぞれ時間をおいて作成されたn(nは2以上の自然数)個の第2治療計画とが含まれており、
前記n個の第2治療計画を1つずつ増加させながらnまで選択し、前記選択された第2治療計画が前記モデルにより分類された評価結果と前記第1治療計画が前記モデルにより分類された評価結果とが提供される、
請求項2に記載の治療計画評価システム。
【請求項5】
前記第1治療計画が前記モデルにより分類された評価結果と、前記第2治療計画が前記モデルにより分類された評価結果とは対比されて提供される
請求項3に記載の治療計画評価システム。
【請求項6】
前記モデルにより分類された評価結果は、採用の可否を示す情報と、前記採用の可否の理由を示す情報とを含む
請求項3に記載の治療計画評価システム。
【請求項7】
前記治療計画は、患部と正常組織とが近接しており、かつ所定の複数の線量分布指標にしたがって放射線が照射される計画である
請求項2に記載の治療計画評価システム。
【請求項8】
前記放射線治療とは、オンラインアダプティブ放射線治療である
請求項2に記載の治療計画評価システム。
【請求項9】
放射線を照射する放射線治療システムであって、
請求項2~8のいずれか一項に記載の治療計画評価システムにより評価されて選択された治療計画にしたがって、患部へ放射線を照射する
放射線治療システム。
【請求項10】
放射線治療の治療計画を計算機により評価する治療計画評価方法であって、
前記計算機は、
選択された治療計画を、過去の治療計画の採否が判断された実績と比較し、
前記選択された治療計画と前記実績との比較結果をユーザの使用する端末へ提供する
治療計画評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療計画評価システム、治療計画評価方法および治療計画評価システムを備える放射線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
オンラインアダプティブ放射線治療とは、治療日の患者の体内状況に応じて、その場で治療計画を再作成する治療方法である。特許文献1では、オンラインアダプティブ放射線治療のワークフローとして、治療計画を表す指令を取得し、前記指令を用いて、段階的に患者モデルを生成し、第一および第二の治療計画を生成し、治療計画を選択するステップを自動で実行することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0121951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
がんなどの患部へ粒子線またはX線などの放射線を照射する治療方法が知られている。粒子線には陽子線または炭素線などがある。放射線照射に用いられる放射線照射システムでは、腫瘍などの標的の形状に適した線量分布を形成する。患者は、カウチと呼ばれる患者用ベッドの上に固定されており、患者の体内の標的の形状に適した線量分布が形成されるように放射線が照射される。
【0005】
標的の形状の変化、腸管のガスポケットの変化など、患者の体内の状況は日々変化している。放射線の照射精度を高めるために、治療日の患者の体内状況に応じて治療計画を再作成するアダプティブ治療が普及し始めている。治療日に、患者をカウチに固定した状態で、治療計画を再計画する治療をオンラインアダプティブ治療と呼ぶ。
【0006】
特許文献1には、オンラインアダプティブ治療の自動ワークフローが記載されている。このワークフローでは、患者の固定、患部の撮像、患部の輪郭作成、治療計画の作成、治療計画の選択、放射線の照射というステップが順次実施される。従来の治療では、患者の固定、患部の撮像、放射線の照射という3つのステップで治療が行われる。これに対し、オンラインアダプティブ治療では、実施するステップが増えるため、治療時間が増大する可能性がある。
【0007】
さらに、治療日では、オペレータは、最初に作成された治療計画と治療当日に作成された治療計画とのどちらを治療に用いるのかを決定しなければならない。この選択に際して、最初の治療計画の線量分布の指標と治療当日に作成された治療計画の線量分布の指標とは、それぞれ複数の基準にしたがって比較される。
【0008】
この基準は、標的または正常組織ごとに設定されるものであり、一部の基準が目標を達成していない治療計画であっても、臨床的な判断によってその治療計画を採用する場合がある。ただし、一部の基準が目標を達成していない場合、最初の治療計画と治療当日に作成された治療計画とのどちらか一方を一意に選択することは難しくなり、その判断に時間を要する可能性がある。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたもので、治療計画を選択する際の判断を支援することができるようにした治療計画評価システム、治療計画評価方法および治療計画評価システムを備える放射線治療システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明に従う治療計画評価システムは、放射線治療の治療計画を評価する治療計画評価システムであって、選択された治療計画を、過去の治療計画の採否が判断された実績と比較する機能を有し、選択された治療計画と実績との比較結果を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、選択された治療計画と過去の治療計画の採否が判断された実績とを比較することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】オンラインアダプティブ治療の処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図3中の治療プランを選択する処理の詳細を示すフローチャートである。
【
図5】治療計画を選択する判断を支援する情報を提供する画面例である。
【
図6】治療結果を分類した結果を提供する画面例である。
【
図7】治療結果を分類した結果を提供する他の画面例である。
【
図8】第2実施例に係り、オンラインアダプティブ治療の処理を示すフローチャートである。
【
図9】第3実施例に係り、放射線治療計画評価システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態では、選択された治療計画を、過去の治療計画の採否が判断された実績と比較し、選択された治療計画と実績との比較結果を提供する。本実施形態では、アダプティブ治療を短時間で実施可能な放射線治療システムRTSを提供する。そのために、放射線治療システムRTSは、放射線治療計画評価システム1を有する。放射線治療計画評価システム1は、治療計画を分類するモデルに基づいて治療計画を分類し、治療計画の分類結果をユーザ70へ提供する。本実施形態によれば、当初の治療計画と治療日の当日に新しく作成された治療計画とをそれぞれ評価することができる。ユーザ70は、評価結果に基づいて、複数の治療計画のいずれを選択すべきか適切かつ短時間で判断できるため、アダプティブ治療に要する時間を低減でき、患者の負担を軽減できる。
【実施例0014】
図1~
図7を用いて第1実施例を説明する。以下の記載および図面は、一つの例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本開示で明示された構成に限定されない。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でもよい。
【0015】
図面に示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。本開示は、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。同一あるいは同様な機能を有する構成要素が複数ある場合に、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0016】
図1は、本実施例に係る放射線治療システムRTSの全体構成図である。放射線治療システムRTSは、放射線治療計画評価システム1と、放射線治療装置2と、ワークフローマネージャ7を備える。
【0017】
放射線治療計画評価システム1は、放射線治療に用いられる治療計画をモデルにより分類して評価し、その評価結果をワークフローマネージャ7を介して、「ユーザ」としてのオペレータ70へ提供するシステムである。放射線治療計画評価システム1は、それぞれ後述のように、例えば患者位置決めシステム11、再計画システム12、患者検証(QA:Quality Assurance)システム13を備える。
【0018】
放射線治療装置2は、選択された治療計画に基づいて、患者60の患部(標的)61へ放射線を照射する装置である。放射線治療装置2は、それぞれ後述のように、例えば、撮像装置20、撮像制御装置21、照射装置30、照射制御装置31、回転ガントリ40、ガントリ制御装置41、カウチ50、カウチ制御装置51を備える。
【0019】
患者60を載せるベッドをカウチ50と呼ぶ。カウチ50は、カウチ制御装置51からの指示に基づき、直交する3軸の方向へ移動することができ、さらにそれぞれの軸を中心として回転することができる。これらの移動と回転により、標的61の位置を所望の位置に移動することができる。
【0020】
撮像装置20は、撮像制御装置21の指示に基づき、カウチ50に固定された患者60および標的61の3次元画像を計測する。3次元画像とは、CT画像やコーンビームCT画像、MRI画像であり、以下では治療日画像と記す。
【0021】
照射装置30は照射制御装置31の指示に基づき治療に用いる放射線を生成する。具体的には、放射線の照射位置および照射量を制御することで、標的61に対して所望の線量分布を形成する。照射装置30の一部は回転ガントリ40に設置されており、回転ガントリ40と共に回転することができる。回転ガントリ40は、ガントリ制御装置41の指示に基づき所望の角度に移動させられる。回転ガントリ40の角度を変更することで、所望の角度から放射線を照射することができる。
【0022】
放射線治療計画評価システム1の構成を説明する。患者位置決めシステム11は、治療計画時のCT画像(以下、治療計画時の画像)と治療日画像とに基づき、照射装置30に対する患者60の位置補正量を計算する。オペレータ70は計算結果を確認し、位置補正量を決定する。決定された位置補正量に基づき、カウチ50の設置位置がカウチ制御装置51に設定され、カウチ50の位置が補正される。
【0023】
再計画システム12は、治療計画時の画像と治療日の画像とに基づき、再計画に用いる合成CT画像を生成する。再計画とは、治療計画を改めて作成し直すことである。再計画システム12は、さらに、合成CT画像上で標的および正常組織の領域を特定し、それらの輪郭データを作成する。再計画システム12は、合成CT画像と輪郭データとに基づき、放射線の照射パラメータを最適化して、治療計画を作成する。
【0024】
以下では、治療日当日に作成された治療計画を最新プランと表記する。治療日より前に作成された元の治療計画をオリジナルプランと表記する。最新プランは、治療日に作成された治療計画であるから、当日プランと呼ぶこともできる。
【0025】
再計画システム12は、最新プランの線量分布をワークフローマネージャ7の画面を介してオペレータ70に提供する。オペレータ70は、提供された情報に基づいて、最新プランをその日の治療に用いるか否かを判断する。
【0026】
患者QAシステム13は、最新プランを検証し、その検証結果をワークフローマネージャ7の画面を介してオペレータ70へ提供する。オペレータ70は、最新プランの検証結果を確認して承認する。
【0027】
ワークフローマネージャ7は、撮像制御装置21、照射制御装置31、ガントリ制御装置41、カウチ制御装置51、患者位置決めシステム11、再計画システム12および患者QAシステム13に双方向通信可能に接続されており、治療のワークフローの進行状況を監視および管理する。
【0028】
ワークフローマネージャ7は、例えば、コンピュータ端末である。ワークフローマネージャ7は、各種パラメータ等を入力するための入力装置、表示装置、メモリ(記憶媒体)、データベース(記憶媒体)、ワークフローの進行状況監視、管理を実施する演算処理装置(演算素子である制御装置)、通信装置(いずれも図示せず)を有する。ワークフローマネージャ7は、デスクトップ型パーソナルコンピュータ、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、タブレット型パーソナルコンピュータ、携帯情報端末(いわゆるスマートフォンを含む。)、眼鏡型ウェアラブルデバイスなどのように構成される。
【0029】
後述の
図2では、再計画システム12をコンピュータシステムとして構成する例を説明する。ワークフローマネージャ7、患者位置決めシステム11および患者検証システム13も、
図2に示すようなコンピュータシステムとして構成される。ただし、メモリに記憶されるコンピュータプログラムおよびデータは、ワークフローマネージャ7、患者位置決めシステム11および患者検証システム13のそれぞれで相違する。
【0030】
図2は、再計画システム12の構成図である。再計画システム12は、ワークフローマネージャ7と同様にコンピュータシステムとして構成される。再計画システム12は、例えば、演算装置としてのプロセッサ120、記憶装置としてのメモリ121、通信装置としての通信インターフェース(図中、通信IF)122を備える。
【0031】
プロセッサ120は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等である。メモリ122は、ここでは、主記憶装置および補助記憶装置を含む。メモリ122は、例えばHDD(Hard Disk Drive)などの磁気記憶媒体、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)などの半導体記憶媒体等を有する。DVD(Digital Versatile Disk)等の光ディスク及び光ディスクドライブの組み合わせも記憶媒体として用いられる。その他、磁気テープメディアなどの記憶媒体を用いてもよい。
【0032】
メモリ121には、ファームウェアおよびオペレーティングシステム、所定のコンピュータプログラム1211~1216などのコンピュータプログラムが格納されている。再計画システム12の動作開始時(例えば電源投入時)に、プロセッサ120は、ファームウェア等のコンピュータプログラムをメモリ121から読み出して実行し、再計画システム12として要求される機能を実現する。プロセッサ120とメモリ122および通信インターフェース123は、例えば内部バスなどの通信手段123を介して相互に接続されている。
【0033】
再計画システム12のメモリ121に記憶される所定のコンピュータプログラムとしては、例えば、輪郭作成モジュール1211、計画用画像作成モジュール1212、照射パラメータ最適化モジュール1213、線量分布指標計算モジュール1214、分類モデル保持部1215、分類計算モジュール1216を有する。
【0034】
輪郭作成モジュール1211は、CT画像に基づいて患部および周辺臓器などの輪郭を作成するコンピュータプログラムである。計画用画像作成モジュール1212は、治療計画を作成するための画像を作成するコンピュータプログラムである。照射パラメータ最適化モジュール1213は、放射線を患部へ向けて照射する場合の各パラメータを最適化するコンピュータプログラムである。線量分布指標計算モジュール1214は、線量分布の指標を計算するコンピュータプログラムである。分類モデル保持部1215は、治療計画の適否を分類するモデルを保持するコンピュータプログラムである。分類計算モジュール1216は、分類モデル保持部1215により保持されているモデルを用いて、入力された治療計画を分類するコンピュータプログラムである。
【0035】
記憶媒体MMは、例えば、フラッシュメモリまたはハードディスクドライブのような長時間の記憶が可能な記憶装置である。メモリ121に記憶されたコンピュータプログラムおよびデータの全部または一部を記憶媒体MMに転送して記憶させることができる。記憶媒体MMを図外の計算機に接続し、記憶媒体MMに記憶されたコンピュータプログラムおよびデータの全部または一部を図外の計算機へ転送して記憶させることもできる。
【0036】
再計画システム12の一部の機能を他の計算機に分散して配置し、その計算機と再計画システム12とを通信ネットワークで接続してもよい。すなわち、複数の計算機を連携させることで、再計画システム12を構築することができる。なお、後述の実施例で述べるように、放射線治療計画評価システム1を一つの計算機に設けることもできる。
【0037】
図3は、オンラインアダプティブ治療処理のフローチャートである。まず最初に、患者60がカウチ50に固定され、撮像装置20を用いて治療日の画像が取得される。患者位置決めシステム11は、治療計画画像と当日撮影された画像(当日画像)とに基づき、患者60の位置を補正する(S101)。
【0038】
患者位置決めシステム11は、治療日画像に基づき、標的および正常組織の領域を特定し、それらの輪郭データを作成する(S102)。さらに、患者位置決めシステム11は、治療計画画像と治療日画像とに基づき、再計画に用いる合成CT画像を生成する(S102)。例えば、非剛体レジストレーションDIR(Deformable Image Registration)を用いて、治療日画像から治療計画画像を変形することで、合成CT画像を生成する。その際、作成した輪郭データを用いてもよい。
【0039】
ステップS103では、照射パラメータ最適化モジュール1213により、合成CT画像および輪郭データに基づき、目標分布を実現する照射パラメータを最適化計算により求める。
【0040】
線量分布指標計算モジュール1214は、最適化計算により得られた照射パラメータにしたがって放射線を照射した場合の線量分布を計算して表示する(S104)。
【0041】
ステップS105では、オペレータ70により選択されたプランの入力を受け付け、どの治療プランが選択されたのか確認する。オペレータ70は、オリジナルプランの線量分布および線量分布指標と最新プランの線量分布及び線量分布指標とに基づき、その日の治療に用いる治療計画を選択する。
【0042】
ここで、線量分布指標とは、標的の容積の95%を包含する線量を示すD95や、20Gy以上照射される体積の全体積に対する割合を示すV20、平均肺線量MLDなどのDVH(Dose Volume Histogram)から計算される指標である。線量分布指標は、TCP(Tumor Control Probability)やNTCP(Normal Tissue Complication Probability)であってもよい。ステップS105の詳細は後述する。
【0043】
ステップS105で最新プランが選択された場合、ステップS106に進む。ステップS106では、患者QAシステム13によって最新プランが検証され、オペレータ70は検証結果を確認する。
【0044】
オペレータ70は、選択された治療計画に従って放射線治療装置2へ指示し、患部61へ放射線を照射させる(S107)。
【0045】
図4を用いて、ステップS105におけるプラン選択方法を説明する。
【0046】
ステップS1051では、線量分布指標計算モジュール1214によって、合成CT画像に基づきオリジナルプランを照射した場合の線量分布が計算される。
【0047】
ステップS1052では、線量分布指標計算モジュール1214によって、計算された線量分布からオリジナルプランの線量分布指標が計算される。
【0048】
分類モデル保持部1215から読み出された分類モデルにより、オリジナルプランの線量分布指標と最新プランの線量分布指標とから、それぞれの特徴量が抽出される(S1053)。特徴量とは、以降のステップでの計算に用いるパラメータであり、線量分布指標から代表的な指標を抽出したものであってもよいし、あるいは、線量分布指標を組み合わせて計算される新たな指標であってもよい。
【0049】
分類計算モジュール1216は、ステップS1053で抽出された特徴量に基づいて、オリジナルプランと最新プランをそれぞれ分類し、予め決定された複数のグループのいずれに所属するかを計算する(S1054)。複数のグループとは、過去の治療の実績に基づき決定される。
【0050】
ここで
図5を参照する。ステップS1055では、
図5に示すように、線量分布の計算結果を示す画面G1がワークフローマネージャ7に表示される。
図G11は、オリジナルプランの線量分布を示す。
図G12は、最新プランの線量分布を示す。表G13には、オリジナルプランの線量分布指標と、最新プランの線量分布指標が表示される。
図G14には、オリジナルプランのDVHと、最新プランのDVHが表示される。
【0051】
オペレータ70は、
図G11および
図G12に表示される位置と内容とをそれぞれ変更することができる。
図G11に表示される位置および内容と、
図G12に表示される位置および内容とは、連動させることもできる。すなわち、いずれか一方の図に表示される位置または内容が変更された場合、他方の図に表示される位置および内容が同様に変更されてもよい。
図G11に表示される位置および内容と、
図G12に表示される位置および内容とが、互いに独立してもよい。
【0052】
線量分布指標は、あらかじめ設定された基準を達成しているか否かも併せて、表G13に表示される。さらに、画面G1には、治療に用いる治療計画をオペレータ70が選択するためのボタンG15が表示される。
【0053】
図4に戻る。ステップS1056において、オペレータ70は、再計画システム12はから提供された分類結果を確認し、オリジナルプランと最新プランのどちらを治療に用いるかを選択する。
【0054】
分類モデルの作成方法の例を説明する。分類モデルは、過去に再計画の要否を判断した際の線量分布指標に基づいて作成される。例えば、オンラインアダプティブ治療ではない従来の治療では、その治療期間中に、撮影されたCT画像に対して元の治療計画を適用した場合の線量分布を計算し、その線量分布から算出される線量分布指標に基づき、再計画の要否を判断することがある。再計画の要否を判断した際の線量分布指標と、実際に再計画したか否かの結果との組み合わせを教師データとして、分類モデルを構築する。
【0055】
再計画の要否判断に用いられる線量分布指標は数十個あるため、必要に応じて変数選択を行うことにより、分類モデルを作成する線量分布指標の数を低減する。選択された線量分布指標に基づき主成分分析することで、新たな特徴量を生成することもできる。主成分分析以外の手法を用いることもできる。
【0056】
分類モデルを作成する際の、これら変数選択や特徴量作成の手順は分類モデル保持部1215に保存される。アダプティブ治療におけるプラン選択の際は、同様の計算がステップS1053で実行される。このように抽出された特徴量と、実際に再計画をしたか否かの結果との組み合わせを教師データとして分類モデルが作成される。
【0057】
分類モデルは、オンラインアダプティブ治療時に、最新プランとオリジナルプランのいずれを選択した際の線量分布指標に基づいて作成されてもよい。
【0058】
図6に、分類結果画面G2の例を示す。分類結果画面G2では、代表的な特徴量の分布G21と分類の境界G22とが表示される。「採用の可否の理由を示す情報」の例である特徴量分布G21に表示させる特徴量は、オペレータ70により選択可能である。
【0059】
特徴量分布G21では、分類モデルの作成に用いたデータが再計画をした場合のデータなのか、それとも再計画しなかった場合のデータなのかが分かるように、区別して表示される。再計画しなかったデータは、例えば「採用可」と表記される。再計画したデータは、例えば「採用不可」と表記される。最新プランとオリジナルプランについても、分布G21では区別して表示される。さらに、最新プランとオリジナルプランの分類結果が「採用の可否を示す情報」の例として、文章G23で表示される。
【0060】
図7を用いて、他の分類結果画面G3を示す。この分類結果画面G3では、代表的な線量分布指標の分布
図G31と分類の境界G22とが表示される。分布G31に表示させる線量分布指標は、オペレータ70が自由に選択可能である。分布G31には、ガイドラインや施設ごとに設定される基準G33も表示される。
【0061】
図7の場合、CTV V90%は基準より大きい方が良く、OAR Dmaxは基準より小さい方がよい。表示される点は、分類モデルの作成に用いたデータが再計画した場合のデータか、それとも再計画しなかった場合のデータなのかが分かるように、区別して表示される。再計画しなかったデータは、例えば「採用可」と表記される。再計画したデータは、例えば「採用不可」と表記されうる。最新プランとオリジナルプランについても分布G31では区別して表示される。さらに、最新プランとオリジナルプランの分類結果が文章G34として表示される。
【0062】
特徴量の分布方法、再計画の実施の有無、分類結果の文章などは、
図6,
図7に示す例に限定されない。
【0063】
このように構成される本実施例によれば、治療計画を分類するモデルを用いることにより、選択された治療計画を評価する情報をオペレータ70に提供することができる。これにより、オペレータが治療計画を選択する際の判断を支援することができ、オペレータにとっての使い勝手を向上させることができる。さらに、オペレータが治療計画の選択に要する時間を短縮できるため、治療当日の患者の治療時間も短くすることができ、患者の負担を軽減できる。
【0064】
本実施例の治療計画評価システム1を用いる放射線治療システムRTSでは、放射線治療の標的61とその周辺に存在する正常組織とは、日々状況が変化する。例えば腹部などでは、消化管の位置または内容物などの状況によって、日々、標的61と正常組織の位置およびや大きさが変動する。
【0065】
例えば、子宮体がん治療においては、膀胱、直腸、小腸、大腸が標的の周辺に存在する正常組織である。膵臓がん治療においては、脊髄、胃、十二指腸、肝臓、腎臓などが周辺に存在する正常組織である。標的61の周辺に正常組織が近接している場合、オンラインアダプティブ治療であっても、標的についての線量分布指標の基準と正常組織についての線量分布指標の基準との両方を満たすことができない場合がある。
【0066】
例えば、標的61の位置とOARの位置とが治療計画時よりも近づいた場合、
図7の分布
図G31に示すように、オリジナルプランではCTVの基準を達成しているが、OARの基準を達成できない場合がある。
【0067】
一方、治療当日の画像に基づき再計画した最新プランであっても、OARの近接により、OARの基準は達成できても、CTVの基準を達成できない場合がある。最新プランとオリジナルプランの両者でこのような状況になった場合、どちらかの治療計画を一意に選択することは難しくなり、判断に時間を要する。
【0068】
しかし、本実施例では、過去の治療における判断の実績に基づいて、最新プランおよびオリジナルプランをそれぞれ評価することができるため、オペレータは治療日に使用するプランを容易に選択することができる。そして、本実施例では、オペレータの判断を支援することができるため、治療時間を短縮することができる。
再計画システム12は、その患者の治療について過去に作成されたプラン(治療計画)をn日分取得する(S113)。初めての治療の場合、nは0である。初めての治療で治療計画が新たに作成された状態で開始される2回目の治療の場合、nは1となる。
オペレータは、過去に作成されたプランのうちいずれか一つのプランが使用できると判断すると、オペレータによる選択結果が再計画システム12に入力される(S115:YES,S116)。そして、オペレータは、選択した過去のプランにしたがって、放射線治療装置2を操作する(S117)。
一方、過去に作成されたプランの中に、今日の治療で使用できるプランが見当たらないとオペレータが判断した場合、その判断結果が再計画システム12へ入力される(S115:NO)。
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例では、治療日当日の最新プランを作成する前に、その患者について作成された過去のプランを再利用できないか判断し、過去のプランを使用できる場合はその過去のプランを使用する。したがって、放射線治療を開始するまでの時間を第1実施例よりも短縮できる場合があり、患者の負担を軽減できる。放射線治療システムRTSでは、同一患者の同一患部に対して十数回、数十回といった複数回の放射線治療を行うため、過去に作成されたプランが再使用できる可能性がある。本実施例は、周辺の正常組織との関係などが日々変化する標的に対して、時間をおいて複数回放射線を照射するという放射線治療の特殊な性質を利用して、プランの選択に要する時間を短縮している。