(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161557
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】硫酸コバルトの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20231030BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20231030BHJP
C22B 3/38 20060101ALI20231030BHJP
C01G 51/10 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/44 101B
C22B3/38
C01G51/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025717
(22)【出願日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2022071504
(32)【優先日】2022-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 高志
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 寛人
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】工藤 敬司
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 達也
【テーマコード(参考)】
4G048
4K001
【Fターム(参考)】
4G048AA07
4G048AB02
4G048AB08
4G048AC06
4G048AE05
4K001AA07
4K001BA19
4K001DB22
4K001DB24
4K001DB31
4K001DB34
(57)【要約】
【課題】電解工程を用いることなく純度の高い硫酸コバルトを製造する方法を提供する。
【解決手段】銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムの1種以上の不純物を含む塩化コバルト溶液から不純物を除去して硫酸コバルトを得る製造方法であって、(1)前段工程は、塩化コバルト溶液に硫化剤を添加し銅の硫化物の沈殿を生成させて分離除去する脱銅工程S1と、塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する第1溶媒抽出工程S2を含んでおり、(2)後段工程は、前段工程を経た塩化コバルト溶液のpHを4.0~7.0に調整し、次いで脂溶性の酸化防止剤を0.05重量%以上含むカルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒に接触させ、有機溶媒にコバルトを抽出させた後、硫酸でコバルトを逆抽出して硫酸コバルト溶液を得る第2溶媒抽出工程S3からなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムの1種以上の不純物を含む塩化コバルト溶液から前記不純物を除去して硫酸コバルトを得る製造方法であって、
前段工程は、前記塩化コバルト溶液に硫化剤を添加し銅の硫化物の沈殿を生成させて分離除去する脱銅工程と、前記塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する第1溶媒抽出工程を含んでおり、
後段工程は、前記前段工程を経た塩化コバルト溶液のpHを4.0~7.0に調整し、次いで脂溶性の酸化防止剤を0.05重量%以上含んだカルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒に接触させ、該有機溶媒にコバルトを抽出させた後、硫酸でコバルトを逆抽出して硫酸コバルト溶液を得る第2溶媒抽出工程からなる
ことを特徴とする硫酸コバルトの製造方法。
【請求項2】
前記前段工程が、前記脱銅工程および前記第1溶媒抽出工程の順に実行される
ことを特徴とする請求項1記載の硫酸コバルトの製造方法。
【請求項3】
前記前段工程が、前記第1溶媒抽出工程および前記脱銅工程の順に実行される
ことを特徴とする請求項1記載の硫酸コバルトの製造方法。
【請求項4】
前記第2溶媒抽出工程を経て得た硫酸コバルト溶液を晶析工程に付し、硫酸コバルトの結晶を得る
ことを特徴とする請求項1記載の硫酸コバルトの製造方法。
【請求項5】
前記脱銅工程において、硫化剤を添加した塩化コバルド溶液に酸化剤および中和剤を添加して酸化還元電位を-100~200mV(Ag/AgCl電極基準)に、かつpHを1.3~3.0に調整する
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の硫酸コバルトの製造方法。
【請求項6】
前記第1溶媒抽出工程におけるアルキルリン酸系抽出剤が、リン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)であり、
銅が除去された塩化コバルト溶液のpHを1.5~3.0に調整して前記抽出剤を用いた溶媒抽出に付し、不純物元素を有機溶媒中に抽出する
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の硫酸コバルトの製造方法。
【請求項7】
前記第2溶媒抽出工程における前記抽出工程に続けて、コバルトを抽出した有機溶媒に硫酸溶液を接触させて、pHを2.0~4.5に調整し、コバルトを硫酸溶液に逆抽出する逆抽出工程を実行する
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の硫酸コバルトの製造方法。
【請求項8】
前記脂溶性の酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤と硫黄系酸化防止剤の組合せ、フェノール系酸化とリン系酸化防止剤の組合せのうちのいずれか、である
ことを特徴とする請求項1記載の硫酸コバルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸コバルトの製造方法に関する。更に詳しくは、塩化コバルト溶液中に含まれる不純物元素を除去して、純度の高い硫酸コバルトを得る製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルトは、特殊合金の添加元素としての用途以外に、磁性材料やリチウムイオン二次電池の原料として工業的用途に広く使用されている有価金属である。とくに最近では、リチウムイオン二次電池がモバイル機器や電気自動車のバッテリーとして多く用いられ、これに伴ってコバルトの需要も急速に拡大している。しかしながらコバルトはニッケル製錬や銅製錬の副産物として産出されるものが大半を占めているため、コバルトの製造においてはニッケルや銅を始めとする不純物との分離が重要な要素技術となっている。
【0003】
たとえば、ニッケルの湿式製錬において副産物としてのコバルトを回収する場合、まずニッケルとコバルトを含む溶液を得るため、原料を鉱酸や酸化剤等を用いて溶液に浸出または抽出するかもしくは溶解処理に付される。さらに、得られた酸性溶液中に含まれるニッケルとコバルトは、従来から公知の方法により各種の有機抽出剤を用いた溶媒抽出法によって分離回収されることが多い。
しかし、得られたコバルト溶液には処理原料に由来する各種不純物が含有されることが多い。
【0004】
そこで、上記溶媒抽出法によってニッケルが分離回収された後のコバルト溶液から、更にマンガン、銅、亜鉛、カルシウムおよびマグネシウム等の不純物元素を除去することが必要になる。
しかも、不純物含有量の少ない高純度コバルト製品を製造するためには、予めコバルトを含有するニッケル溶液から分離回収されたコバルト溶液中の不純物元素を除去した後、電解工程あるいは晶析等によってコバルトを製品化する必要があった。
【0005】
コバルト溶液中の不純物元素の除去方法として、特許文献1、2に記載の従来技術がある。
特許文献1には、(1)コバルト溶液に硫化剤を添加し、酸化還元電位(ORP)(Ag/AgCl電極基準)を50mV以下且つpHを0.3~2.4に調整して、硫化銅沈殿と脱銅精製液とを得る脱銅工程、(2)該脱銅精製液に酸化剤と中和剤を添加し、酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準)を950~1050mV且つpHを2.4~3.0に調整して、マンガン沈殿と脱マンガン精製液とを得る脱マンガン工程、(3)該脱マンガン精製液に抽出剤としてアルキルリン酸を用い、脱マンガン精製液中の亜鉛、カルシウム及び微量不純物を抽出分離する溶媒抽出工程、を含むコバルト溶液の精製方法が開示されている。
特許文献2には、塩酸濃度2~6mol/Lの塩化コバルト溶液を陰イオン交換樹脂に接触させ、陰イオン交換樹脂に対する分配係数がコバルト塩化物錯体のそれよりも大きい錯体を形成する鉄、亜鉛、スズ等の金属不純物を吸着させて分離する技術が記載されている。
【0006】
上記特許文献1に記載された抽出剤としてアルキルリン酸を用いる溶媒抽出方法は、亜鉛やカルシウムに対して高い分離性能を有している。しかし、塩酸濃度2~6mol/Lの塩化コバルト溶液の場合には、陰イオン交換樹脂によるイオン交換法やアミン系抽出剤による溶媒抽出法の方が、上記アルキルリン酸を用いる溶媒抽出法に比べてより高い亜鉛とコバルトの分離性能を有している。
また、塩化コバルト溶液中のごく微量の亜鉛を除去する場合は、イオン交換法による方が工程及び操作が簡単であるため、効率的且つ経済的である。
【0007】
このような観点から、マンガン、銅、亜鉛を含有する塩化コバルト溶液から、これら不純物元素を除去する方法として、上記特許文献1の精製方法と特許文献2の分離技術を組み合わせた方法が提案されている(たとえば特許文献3)。
特許文献3の段落0022に記載する高純度塩化コバルト製造方法は、ニッケルとコバルトを分離する溶媒抽出工程、マンガンを除去する脱マンガン工程、銅を除去する脱銅工程、亜鉛を除去する脱亜鉛工程および電解工程を含んでいる。
脱亜鉛工程では、脱銅工程で得られた塩化コバルト水溶液を陰イオン交換樹脂に接触させて亜鉛を吸着除去する。電解工程では脱亜鉛工程で得た高純度塩化コバルト水溶液を電解給液として用い、金属コバルト(電気コバルトともいわれる)を製造するものである。
【0008】
一方、前述したように、最近ではリチウムイオン二次電池の原料用としてコバルトの需要が拡大し、硫酸コバルト溶液あるいは硫酸コバルト結晶の形態が望まれる。
特許文献3の従来技術で得られた金属コバルトから硫酸コバルト結晶を得ようとすれば、金属コバルトを硫酸で溶解して硫酸コバルト溶液を得、さらにこの溶液を晶析して、硫酸コバルト結晶を得ることができる。しかしながら、この製法を用いると、工程の増加や薬剤費の増加により製造コストが高くなる。また、板状の金属コバルトは、耐蝕合金に用いられるように硫酸への溶解速度が遅く、短時間で溶解するためには、板状の金属コバルトをアトマイズ処理等によって粉末状にする必要がある。
【0009】
このため、金属コバルトを経由することなく、直接的に塩化コバルト溶液から硫酸コバルト溶液を得る方法が望まれてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004-285368号公報
【特許文献2】特開2001-020021号公報
【特許文献3】特開2020-19664号号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みて提案されたものであり、不純物を含む塩化コバルト溶液から、電解工程を用いることなく不純物とコバルトを分離し、純度の高い硫酸コバルトを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明の硫酸コバルトの製造方法は、銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムの1種以上の不純物を含む塩化コバルト溶液から前記不純物を除去して硫酸コバルトを得る製造方法であって、前段工程は、前記塩化コバルト溶液に硫化剤を添加し銅の硫化物の沈殿を生成させて分離除去する脱銅工程と、前記塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する第1溶媒抽出工程を含んでおり、後段工程は、前記前段工程を経た塩化コバルト溶液のpHを4.0~7.0に調整し、次いで脂溶性の酸化防止剤を0.05重量%以上含んだカルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒に接触させ、該有機溶媒にコバルトを抽出させた後、硫酸でコバルトを逆抽出して硫酸コバルト溶液を得る第2溶媒抽出工程からなることを特徴とする。
第2発明の硫酸コバルトの製造方法は、第1発明において、前記前段工程が、前記脱銅工程および前記第1溶媒抽出工程の順に実行されることを特徴とする。
第3発明の硫酸コバルトの製造方法は、第1発明において、前記前段工程が、前記第1溶媒抽出工程および前記脱銅工程の順に実行されることを特徴とする。
第4発明の硫酸コバルトの製造方法は、第1発明において、前記第2溶媒抽出工程を経て得た硫酸コバルト溶液を晶析工程に付し、硫酸コバルトの結晶を得ることを特徴とする。
第5発明の硫酸コバルトの製造方法は、第1、第2、第3または第4発明において、前記脱銅工程において、硫化剤を添加した塩化コバルド溶液に酸化剤および中和剤を添加して酸化還元電位を-100~200mV(Ag/AgCl電極基準)に、かつpHを1.3~3.0に調整することを特徴とする。
第6発明の硫酸コバルトの製造方法は、第1、第2、第3または第4発明において、前記第1溶媒抽出工程におけるアルキルリン酸系抽出剤が、リン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)であり、銅が除去された塩化コバルト溶液のpHを1.5~3.0に調整して前記抽出剤を用いた溶媒抽出に付し、不純物元素を有機溶媒中に抽出することを特徴とする。
第7発明の硫酸コバルトの製造方法は、第1、第2、第3または第4発明において、前記第2溶媒抽出工程における前記抽出工程に続けて、コバルトを抽出した有機溶媒に硫酸溶液を接触させて、pHを2.0~4.5に調整し、コバルトを硫酸溶液に逆抽出する逆抽出工程を実行することを特徴とする。
第8発明の硫酸コバルトの製造方法は、第1発明において、前記脂溶性の酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤と硫黄系酸化防止剤の組合せ、フェノール系酸化とリン系酸化防止剤の組合せのうちのいずれか、であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1発明によれば、不純物を含む塩化コバルト溶液から、前段工程に含まれる脱銅工程と第1溶媒抽出工程により銅、亜鉛、マンガンおよびカルシウムが除去でき、後段工程に含まれる第2溶媒抽出工程によってマグネシウムを除去できる。したがって、電解工程を用いることなく高純度の硫酸コバルトを製造することができる。また、抽出剤に有機溶媒に脂溶性の酸化防止剤を0.05重量%以上含むことで、酸化した3価の形態のコバルトイオンの発生を抑制することができ、逆抽出工程でのコバルトの回収効率を高く維持できる。
第2発明によれば、不純物を含む塩化コバルト溶液から、脱銅工程と第1溶媒抽出工程をその順で実行することで、銅、亜鉛、マンガンおよびカルシウムを分離除去できるので、第2溶媒抽出工程でマグネシウムを分離除去すれば不純物が除去された高純度の硫酸コバルト溶液を得ることができる。
第3発明によれば、不純物を含む塩化コバルト溶液から、第1溶媒抽出工程と脱銅工程をその順で実行することで、銅、亜鉛、マンガンおよびカルシウムを分離除去できるので、第2溶媒抽出工程でマグネシウムを分離除去すれば不純物が除去された高純度の硫酸コバルト溶液を得ることができる。
第4発明によれば、さらに晶析工程を実行することで硫酸コバルト溶液から高純度の硫酸コバルト結晶を得ることができる。
第5発明によれば、酸化還元電位とpHを適正範囲に調整することで、塩化コバルト溶液から銅の硫化物を沈殿させて充分に除去すると共にコバルトの共沈殿を抑制することができる。
第6発明によれば、pHを1.5~3.0に調整することで、コバルトを水相に残して、亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出してコバルトと分離することができる。
第7発明によれば、pHを4.0~7.0という低pH側に調整しても、コバルトをカルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒に接触させて抽出することができる。また、低pH側で抽出できるので、水酸化物などの澱物が発生しづらく、その結果クラッドが形成されにくくなるので操業が安定する。
第8発明によれば、使用する脂溶性の酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤と硫黄系酸化防止剤の組合せ、フェノール系酸化とリン系酸化防止剤の組合せのうちのいずれかを用いることにより、排水の水質を向上できることに加え、市場価格が安く入手が容易なため硫酸コバルトの製造価格も低下する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る硫酸コバルトの製造方法の原理図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る硫酸コバルトの製造方法を示す工程図である。
【
図3】
図2に示す硫酸コバルトの製造方法を示す詳細工程図である。
【
図4】
図3に示す第1溶媒抽出工程S2の詳細工程図である。
【
図5】
図3に示す第2溶媒抽出工程S3の詳細工程図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る硫酸コバルトの製造方法を示す工程図である。
【
図7】
図6に示す硫酸コバルトの製造方法を示す詳細工程図である。
【
図8】
図7に示す第1溶媒抽出工程S2の詳細工程図である。
【
図9】
図7に示す第2溶媒抽出工程S3の詳細工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0016】
(本発明の基本原理)
本発明に係る硫酸コバルトの製造方法の基本原理を、
図1に基づき説明する。
本発明は、銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムの1種以上の不純物を含む塩化コバルト溶液から前記不純物を除去して硫酸コバルトを得る製造方法であって、
(1)前段工程は、前記塩化コバルト溶液に硫化剤を添加し銅の硫化物の沈殿を生成させて分離除去する脱銅工程S1と、前記塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する第1溶媒抽出工程S2を含んでおり、
(2)後段工程は、前記前段工程を経た塩化コバルト溶液のpHを4.0~7.0に調整し、次いで酸化防止剤を0.05重量%以上含んだカルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒に接触させ、該有機溶媒にコバルトを抽出させた後、硫酸でコバルトを逆抽出して硫酸コバルト溶液を得る第2溶媒抽出工程S3からなることを特徴とする。
前記前段工程は、脱銅工程S1および第1溶媒抽出工程S2の順に実行されるものであってもよく、第1溶媒抽出工程S2および脱銅工程S1の順に実行されるものであってもよい。後段工程に含まれる第2溶媒抽出工程S3は、前段工程の後で実行される。
【0017】
本発明では、前記各工程S1~S3の後で、必要に応じて硫酸コバルト溶液から結晶を析出させる晶析工程S4を実行する。晶析工程S4を実行すれば、溶液から結晶を析出させて硫酸コバルト結晶を得ることができる。
【0018】
本発明において、第1溶媒抽出工程S2の後、および(または)第2溶媒抽出工程S3の後で、液中に混入した有機成分を分離除するために活性炭カラム等の油水分離装置に供する工程を追加してもよい。
【0019】
本発明において出発原料とする塩化コバルト溶液は、不純物元素として銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムのうち1種類以上を含むものである。このような不純物を含む塩化コバルト溶液であれば本発明の適用に何ら限定されるものではないが、とくにニッケル製錬の溶媒抽出工程において、コバルトを含有したニッケル溶液からアルキルリン酸系抽出剤やアミン系抽出剤によってニッケルが分離回収された後の塩化コバルト溶液に好適に適用される。
【0020】
本発明によれば、塩化コバルト溶液から、脱銅工程S1により銅の硫化物沈殿を生成させて銅を除去し、第1溶媒抽出工程S2により亜鉛、マンガンおよびカルシウムを分離除去し、第2溶媒抽出工程S3によりマグネシウムを分離除去して、高純度の硫酸コバルト溶液を得ることができる。したがって、電解工程を用いることなく不純物とコバルトを分離して直接に高純度の硫酸コバルト溶液を製造することができる。
【0021】
(第1実施形態)
硫酸コバルトの製造方法の第1実施形態について、
図2~
図5に基づき説明する。
図2は第1実施形態における全工程を示す図であり、
図3は、
図2に示す各工程S1~S3の詳細をまとめて示したものである。
第1実施形態は、
図2に示すように、前段工程において、先に脱銅工程S1、ついで第1溶媒抽出工程S2の順で実行するものである。
【0022】
(脱銅工程S1)
脱銅工程S1を
図3に基づき説明する。
脱銅工程S1は、出発原料である銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムの1種類以上の不純物を含む塩化コバルト溶液に硫化剤を添加することにより行う。また、酸化剤および中和剤を添加して、塩化コバルト溶液の酸化還元電位を-100~200mV(Ag/AgCl電極基準)に、かつpHを1.3~3.0に調整する。
本工程により、塩化コバルト溶液から銅の硫化物の沈殿を生成させて分離し、銅が除去された塩化コバルト溶液を得ることができる。
【0023】
塩化コバルト溶液中の銅は、下記式1、式2あるいは式3に従って硫化銅の沈殿物を生成して、溶液中から除去される。
CuCl2+H2S→CuS↓+2HCl・・・(式1)
CuCl2+Na2S→CuS↓+2NaCl・・・(式2)
CuCl2+NaHS→CuS↓+NaCl+HCl・・・(式3)
【0024】
上記脱銅工程S1では、塩化コバルト溶液の酸化還元電位を-100~200mV(Ag/AgCl電極基準)に、かつpHを1.3~3.0に調整しておくと、硫化物として銅を充分に除去することができ、しかもコバルトの共沈殿を抑制することができる。
仮に、酸化還元電位が200mVを超えると溶液中の銅の除去が不十分となり、酸化還元電位が-100mV未満ではコバルトの共沈殿量が増加するため好ましくない。また、pHが1.3未満では、溶液中の銅の除去が不十分となると共に、生成する硫化物沈殿のろ過性が悪化する。pHが3.0を超えると、銅の除去に伴うコバルト共沈殿量が増加するため好ましくない。
【0025】
上記酸化還元電位の調整は、硫化剤の添加量を調整することにより行うことができる。硫化剤としては、とくに限定されるものではないが、硫化水素ガス、硫化ナトリウムや水硫化ナトリウムの結晶や水溶液等を用いることができる。
また、上記pHの調整は、硫化剤として硫化水素や水硫化ナトリウムを用いる場合は、硫化剤の添加量調整と中和剤の添加によって行われる。中和剤としては、とくに限定されるものではなく、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸コバルト等のアルカリ塩を用いることができる。また、硫化剤の投入により、酸化還元電位が所望した値より低くなった場合、酸化剤の添加により調整できる。たとえば、溶液中に空気を導入して撹拌する、あるいは過酸化水素溶液を添加する、ことで調整できる。
【0026】
(第1溶媒抽出工程S2)
第1溶媒抽出工程S2を
図3および
図4に基づき説明する。
第1溶媒抽出工程S2は、前記脱銅工程S1を経た塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する工程である。
【0027】
有機溶媒としては、アルキルリン酸系抽出剤を希釈剤で希釈したものが用いられる。アルキルリン酸系抽出剤として、リン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)(商品名D2EHPA)、(2-エチルヘキシル)ホスホン酸2-エチルヘキシル(商品名PC-88A)、ジ(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(商品名CYANEX272)が挙げられる。これらの中でも、銅が除去された塩化コバルト溶液から、亜鉛、マンガンおよびカルシウムを分離する場合、コバルトとの分離性が高いリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)を抽出剤として用いることが好ましい。
【0028】
希釈剤は抽出剤を溶解可能なものであればとくに限定されない。希釈剤として、たとえば、ナフテン系溶剤、芳香族系溶剤を用いることができる。抽出剤の濃度は、10~60体積%に調整することが好ましく、20~50体積%に調整することがより望ましい。抽出剤の濃度がこの範囲であると、濃度の高い不純物元素も分配比(有機中の元素濃度/溶液中の元素濃度)が低い不純物元素も充分に抽出できる。一方、抽出剤の濃度が10%未満では、濃度の高い不純物元素や分配比が低い不純物元素を十分に抽出できず、塩化コバルト溶液に残留しやすくなる。また、抽出剤の濃度が60%を超えると有機溶媒の粘度が高くなり、有機溶媒(有機相)と塩化コバルト溶液(水相)の抽出操作後の相分離性が悪化する。
【0029】
アルキルリン酸系抽出剤のような酸性抽出剤は、式4に示すように、その抽出剤の持つ-Hが水相中の陽イオンと置換して金属塩を形成することによって金属イオンを抽出する抽出剤である。一般的に、pHが高くなると金属イオンが有機相に抽出されやすくなり、pHを低くすると式4の反応が逆方向に進み、有機相に抽出された金属イオンが水相に逆抽出されやすくなる。
金属イオンの種類によって、抽出されるpHが異なるため、酸性抽出剤を用いた溶媒抽出工程ではpHを制御することで目的の元素と不純物元素の分離を行う。
nRHorg + Mn+
aq → MRnorg + nH+
aq・・・(式4)
ここで、式中のRHは酸性抽出剤、Mn+はn価の金属イオン、orgは有機相、aqは水相を示す。
【0030】
そこで、第1溶媒抽出工程S2では、銅が除去された塩化コバルト溶液のpHを1.5~3.0に調整することが望ましい。このpH領域では、亜鉛、マンガンおよびカルシウムの抽出率は、コバルトの抽出率より高い傾向を示し、コバルトを水相に残し、これらの不純物元素を有機相に抽出することでコバルトと分離することが可能である。
pHが1.5未満では、これらの不純物の抽出率が低く、コバルトとの分離が困難となり、pHが3.0を超えると、コバルトの抽出率も大きくなり、不純物との分離性が低下する。pHが1.5~3.0に調整した場合、コバルトの一部が抽出される場合もあるが、抽出後の有機相を抽出時より低いpHの塩酸溶液と接触させ、コバルトを逆抽出して回収し、コバルトのロスを低減することもできる。
さらに、この有機相とpH1以下の酸性溶液を接触させると、抽出されたほとんどの金属イオンを水相に逆抽出することができ、逆抽出後の有機相を再利用できる。
【0031】
なお、コバルトのロスとはいっても回収できずに処分されてしまう場合に限らない。たとえば、抽出剤からコバルトを回収できずに抽出剤中にコバルトが残留することで、抽出剤が次回のコバルト抽出に付される際の抽出能力が減少し、効率的にコバルトを回収できないことがある。このような生産効率の低下に起因して生産コストが増加する場合も、本発明では最適に回収できないものに含めて「ロス」とした。
【0032】
(第2溶媒抽出工程S3)
第2溶媒抽出工程S3を
図3および
図5に基づき説明する。
第2溶媒抽出工程S3は、前記第1溶媒抽出工程S2を経た塩化コバルト溶液のpHを4.0~7.0に調整し、次いで脂溶性の酸化防止剤を0.05重量%以上含んだカルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒に接触させ、該有機溶媒にコバルトを抽出させた後、硫酸でコバルトを逆抽出して硫酸コバルト溶液を得る工程である。
【0033】
有機溶媒としては、カルボン酸系抽出剤を希釈剤で希釈したものが用いられる。カルボン酸系抽出剤として、バーサチック酸やナフテン酸等が挙げられる。これらは、COOH基を有する分岐型の構造をもつ酸性抽出剤である。さらに、有機溶媒の一部に脂溶性の酸化防止剤を含ませることで、後述するように、コバルトの酸化を抑制することができる。
【0034】
酸化防止剤とは、自らが酸化することで他のものの酸化を防ぐ添加物であり、水溶性のものと脂溶性のものに大別できる。
本発明では脂溶性の酸化防止剤が用いられる。これにはフェノール系の酸化防止剤のほか、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤と硫黄系酸化防止剤の組合せ、フェノール系酸化とリン系酸化防止剤の組合せのいずれかを用いることができ、任意に選択すればよい。
フェノール系酸化防止剤には、東京化成工業株式会社製の商品名「ブチルヒドロキシトルエン」、株式会社ADEKA製の商品名「アデカスタブ AO-20」、「アデカスタブ AO-30」、川口化学工業株式会社製の商品名「ANTAGE BHT」、「ANTAGE DAH」などがある。
アミン系酸化防止剤には、富士フイルム和光純薬株式会社製の商品名「N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン」などがある。
硫黄系酸化防止剤には、東京化成工業株式会社製の商品名「3,3’-チオジプロピオン酸ジドデシル」などがある。
リン系酸化防止剤には、東京化成工業株式会社製の商品名「亜リン酸トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)」などがある。
【0035】
脂溶性の酸化防止剤の有機溶媒中における含有量は0.05重量%以上である。酸化防止剤を有機溶媒に添加して所望の含有量とする場合、その添加割合とは有機溶媒に対する酸化防止剤の割合を意味する。具体的には、30体積%の抽出剤と70体積%の希釈剤と混合した有機溶媒に対し、0.05重量%以上の酸化防止剤を添加することを意味する。脂溶性の酸化防止剤は、0.05重量%以上添加すれば、後述するようにコバルトの酸化を抑制できる。
【0036】
一般に、カルボン酸系抽出剤は、金属イオンを抽出させる際、金属の価数に応じたプロトンを水相に放出し、金属イオンはカルボニル酸素に配位する。多くのカルボン酸は、無極性溶媒中でお互いに水素結合によって2量体、3量体を形成している。また、金属イオンを抽出する際、金属イオンに配位している水和水を除去するように酸解離していないカルボン酸が配位することがある。たとえば、6配位の2価の金属イオンM2+が2量体のカルボン酸系抽出剤R2H2により抽出される反応は、式5のように表される。
[M(H2O)6]2+
aq+3(R2H2)org
→ (MR2・4RH)org+2H+
aq+6H2Oaq・・・(式5)
ここで、式中のorgは有機相、aqは水相を示す。
【0037】
(抽出工程)
第2溶媒抽出工程S3では、銅、亜鉛、マンガン、カルシウムが除去された塩化コバルト溶液に中和剤としてアルカリ溶液を添加して、pHを4.0~7.0に調整する。
【0038】
本発明では、pHが上記範囲に調整されているので、脂溶性の酸化防止剤を含む有機溶媒に接触させて、コバルトを有機相に抽出することができる。このときマグネシウムは抽出されず水相に残留する。pHが4未満では、コバルトの抽出が困難であり、一方pHが7を超えると、コバルトの溶解度が低下し、沈殿が発生することがある。
なお、pH調整に用いるアルカリ溶液として、具体的には水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの溶液を用いることができる。
また、抽出中の酸化を防ぐために、窒素ガスやアルゴンガスや炭酸ガスなどの不活性ガスを用いてバブリングを行っても良い。
【0039】
上記抽出工程において、酸化防止剤を使用しない場合、コバルトが酸化して3価のコバルトイオンとなりやすいが、酸化防止剤を使用すると、コバルトの酸化が抑制され、水酸化物のクラッド発生を抑止し操業を安定させることができる。このため、後述するように逆抽出工程でのコバルトの回収効率を高く維持できる。
【0040】
酸化防止剤としては、脂溶性の酸化防止剤のほかに例えば直鎖カルボン酸が知られている。この直鎖カルボン酸は、直鎖の炭素数が少ない場合、酸化防止効果はあるものの水相への溶解が発生する課題があった。水相に酸化防止剤などの有機成分が溶解した場合、溶媒抽出によって有価金属を回収した後の抽残液を排水処理工程に付して処理する際に、排水中の全有機体炭素(TOC)が充分に低下しきれず、水質面で排水による海域等への環境負荷を増加させる懸念があった。
これに対し本発明で用いる脂溶性の酸化防止剤は、水相への溶解が実質的にないので、有機溶媒からコバルトを逆抽出して得た逆抽出液からさらに硫酸コバルトを回収後に得られた残液(以下まとめて逆抽出液と称す)における全有機体炭素成分(TOC)値の増加を防止できる。このため、排水の水質低下を防止できるという環境面での利点も大きい。また、市場価格が安く入手が容易なため硫酸コバルトの製造価格を低廉化させることもできる。
【0041】
(逆抽出工程)
前記抽出工程の後、有機相に抽出したコバルトと硫酸溶液を接触させて、pHを2.0~4.5に調整する。これにより、コバルトを硫酸溶液に逆抽出することができる。こうして高純度の硫酸コバルト溶液が得られる。
pHが2未満でも逆抽出可能であるが、コバルトより低いpHで抽出された微量の不純物の逆抽出量が増加するため好ましくない。一方、pHが4.5を超えるとコバルトを逆抽出率が低下し、コバルトの回収量が減少するので好ましくない。
【0042】
また、仮に前記抽出工程でコバルトが酸化により3価のコバルトイオンになっていると、有機相中で安定するので一度還元しないと回収することができず、回収に余分な操作が必要となる。
これに対し、本発明では、既述のごとくコバルトの酸化は抑制されるので、3価のコバルトイオンの有機相中での蓄積は生じず、抽出工程でのコバルトが確実に抽出される。よって、コバルトの回収効率を高く維持できる。
【0043】
なお、抽出後の有機相には、分相後も微細な水相が混入しているため、逆抽出の前にこの水相を除去するための洗浄工程を追加してもよい。洗浄工程の水相には、たとえば硫酸コバルト溶液を用いることができる。また、逆抽出後の有機相は、抽出工程の有機相として再利用できる。
上記の方法で、不純物の少ない高純度の硫酸コバルト溶液を製造することができる。
【0044】
(晶析工程S4)
晶析工程S4を
図2に基づき説明する。
晶析工程S4では、第2溶媒抽出工程S3で得られた硫酸コバルト溶液から硫酸コバルトの結晶を析出させる。晶析方法は特に限定されるものではなく、一般的な結晶化方法を用いて行うことができる。
【0045】
たとえば、硫酸コバルト溶液を晶析缶に収容し、その晶析缶内で晶析することにより結晶を得る方法が挙げられる。晶析缶は、所定圧力下で硫酸コバルト溶液中の水分を蒸発させることにより結晶を析出させるものであり、たとえばロータリーエバポレーターやダブルプロペラ型の晶析缶が用いられる。真空ポンプ等により内部の圧力を減圧し、ロータリーエバポレーターではフラスコを回転しながら、ダブルプロペラで撹拌しながら晶析が進行する。なお、晶析缶内では、硫酸コバルト溶液に硫酸コバルトの結晶が混合したスラリーとなっている。
【0046】
晶析缶から排出されたスラリーは、濾過器や遠心分離機等により硫酸コバルトの結晶と母液とに固液分離される。その後、硫酸コバルトの結晶を乾燥機で乾燥し、水分を除去する。
上記の方法で、硫酸コバルト溶液から硫酸コバルト結晶を製造することができる。もちろん、硫酸コバルト溶液は不純物の小なり高純度なものなので、得られる硫酸コバルト結晶も不純物の少ない高純度なものとなっている。
【0047】
(第2実施形態)
硫酸コバルトの製造方法の第2実施形態について、
図6~
図9に基づき説明する。
図6は第2実施形態における全工程を示す図であり、
図7は
図6に示す各工程S2、S1、S3の詳細をまとめて示したものである。
第2実施形態は、
図6に示すように、前段工程において、先に第1溶媒抽出工程S2、ついで脱銅工程S1の順で実行するものである。
【0048】
(第1溶媒抽出工程S2)
第1溶媒抽出工程S2を
図7および
図8に基づき説明する。
第1溶媒抽出工程S2は、出発原料である銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムの1種類以上の不純物を含む塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、この有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する工程である。なお、銅の一部も抽出され分離除去できる。
【0049】
有機溶媒としてのアルキルリン酸系抽出剤は第1実施形態で使用のものと同一でよく、希釈剤も第1実施形態と同じものでよい。また、pHの調整範囲を含め、本工程S2の実行は第1実施形態と同じ要領で行われる。
【0050】
この第1溶媒抽出工程S2において、塩化コバルト溶液のpHを1.5~3.0に調整すると、亜鉛、マンガンおよびカルシウムの抽出率は、コバルトの抽出率より高い傾向を示し、コバルトを水相に残し、これらの不純物元素を有機相に抽出することでコバルトと分離することが可能である。pHが1.5~3.0に調整した場合、コバルトの一部が抽出される場合もあるが、抽出後の有機相を抽出時より低いpHの塩酸溶液と接触させ、コバルトを逆抽出して回収し、コバルトのロスを低減することもできる。
【0051】
(脱銅工程S1)
脱銅工程S1を
図7に基づき説明する。
脱銅工程S1は、第1溶媒抽出工程S2を経た塩化コバルト溶液に硫化剤を添加することにより行う。また、酸化剤および中和剤を添加して、塩化コバルト溶液の酸化還元電位を-100~200mV(Ag/AgCl電極基準)に、かつpHを1.3~3.0に調整する。
本工程S1により、塩化コバルト溶液から銅の硫化物の沈殿を生成させて分離し、銅が除去された塩化コバルト溶液を得ることができる。
【0052】
酸化還元電位の調整方法やpHの調整方法は第1実施形態と同様でよく、硫化剤も第1実施形態で使用のものを用いればよい。
本工程を実施することで、第1実施形態で示した式(1)、式(2)あるいは式(3)に従って硫化銅の沈殿物を得て、銅を溶液中から除去することができる。
【0053】
(第2溶媒抽出工程S3)
第2溶媒抽出工程S3を
図7および
図9に基づき説明する。
第2溶媒抽出工程S3は、前記第1溶媒抽出工程S2および前記脱銅工程S1を経た塩化コバルト溶液のpHを4.0~7.0に調整し、次いで脂溶性の酸化防止剤を0.05重量%以上含んだカルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、この有機溶媒にコバルトを抽出させた後、硫酸でコバルトを逆抽出して硫酸コバルト溶液を得る工程である。
【0054】
有機溶媒には、第1実施形態と同じく脂溶性の酸化防止剤を0.05重量%以上含んだカルボン酸抽出剤を含む有機溶媒が用いられる。また、有機溶媒の一部に脂溶性の酸化防止剤を添加することでコバルトの酸化を抑制することができるとともに、脂溶性の酸化防止剤は水相への溶解が実質的にないので、逆抽出液における全有機体炭素成分(TOC)値の増加を防止できる。このため、水質の低下を防止でき、硫酸コバルトの製造価格を低廉化できるという利点も第1実施形態と同様である。
そして、第1実施形態と同様に、水酸化物のクラッド発生を抑止し操業を安定させることができる。
脂溶性の酸化防止剤としては、第1実施形態と同様にフェノール系の他にもアミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤と硫黄系酸化防止剤の組合せ、フェノール系酸化とリン系酸化防止剤の組合せのうち、いずれかを用いることができる。
【0055】
第2溶媒抽出工程S3における抽出工程でのアルカリ溶液の添加やpHの調整範囲などの実施要領は第1実施形態と同様でよい。
また、逆抽出工程での硫酸溶液との接触とpHの調整範囲などの実施要領も第1実施形態と同様でよい。
以上の各工程を実行することで、マグネシウムを水相中に残留させて、不純物を少なくした高純度の硫酸コバルト溶液を得ることができる。そして、第2溶媒抽出工程S3では、操業中にpHが上昇して水酸化物の生成をさせたり、それに伴うクラッド発生などの操業に好ましくない事態を避けることができため、操業が安定するという利点を奏することができる。しかも、コバルトの回収効率を高く維持できることも、第1実施形態と同様である。
【0056】
(晶析工程S4)
晶析工程S4を
図6に基づき説明する。
晶析工程S4では、第2溶媒抽出工程S3で得られた硫酸コバルト溶液から硫酸コバルトの結晶を析出させる。晶析方法は特に限定されるものではなく、一般的な結晶化方法を用いて行うことができる。したがって、第1実施形態と同様に晶析缶を用いる晶析法を利用できる。
【0057】
上記の方法で、硫酸コバルト溶液から硫酸コバルト結晶を製造することができる。もちろん、硫酸コバルト溶液は不純物の小なり高純度なものなので、得られる硫酸コバルト結晶も不純物の少ない高純度なものとなっている。
【実施例0058】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例1は第1実施形態の製法に含まれるものである。
【0059】
[実施例1]
(脱銅工程S1)
pH2.5に調整した表1の元液Aに示す組成からなる塩化コバルト溶液2Lに硫化剤として水硫化ナトリウム溶液を添加して、酸化還元電位を-50mV(Ag/AgCl電極基準)に調整して、銅の硫化物の沈殿を生成させた。濾過器で沈殿物を分離除去し、表1の硫化後Bに示す組成の濾液を得た。銅の濃度は0.001g/L未満であり、銅を分離除去することができた。
【0060】
(第1溶媒抽出工程S2)
アルキルリン酸系抽出剤(商品名D2EHPA、大八化学工業株式会社製)の濃度が40体積%となるように希釈剤(商品名テクリーンN20、JX日鉱日石エネルギー株式会社製)で希釈した有機相を準備した。脱銅工程S1で得られた塩化コバルト溶液からなる水相0.9Lと有機相1.8Lを混合し、pHが1.7になるように水酸化ナトリウム溶液を添加して調整し、不純物を抽出した。抽出後の水相0.9Lと新たな有機相1.8Lで同様の抽出操作を繰り返し、合計3回の抽出操作を行なった。その結果、表1の第1SX後Cに示す組成の塩化コバルト溶液を得た。亜鉛、マンガンおよびカルシウムの濃度は、いずれも0.001g/L未満であり、これらの不純物を分離除去することができた。
なお、SXは「溶媒抽出」を意味する。
【0061】
(第2溶媒抽出工程S3)
カルボン酸系抽出剤(商品名Versatic Acid 10、オクサリスケミカルズ社製)の濃度が30体積%となるように希釈剤(テクリーンN20)で希釈した有機相を準備した。また、有機相に脂溶性の酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤であるブチルヒドロキシトルエン(東京化成工業株式会社製、略称BHT)を用い、表1に示すように、比較例としての添加なしも含めて、実施例として0.01重量%添加、0.05重量%添加、2重量%添加、4重量%添加、の5条件で変化させた。
【0062】
次に各試料に、第1溶媒抽出工程S2で得られた塩化コバルト溶液からなる水相0.44Lと有機相1Lを混合し、pHが6.5になるように水酸化ナトリウム溶液を添加して調整し、コバルトを有機相に抽出した。
同時に有機相と塩化コバルト溶液の混合直後と164時間経過後にそれぞれ有機相を分取し、逆抽出に付して、有機相から逆抽出できないコバルトは酸化されたと判断し、その割合を確認した。
【0063】
次いで、抽出した有機相0.06Lとコバルト濃度10g/Lの塩化コバルト溶液0.06Lを混合し、抽出後の有機相に混入していた水相を洗浄した。続いて、この有機相と純水0.009Lの純水を混合し、硫酸を添加してpH4に調整し、コバルトを逆抽出した。その結果を表2に示す。表2の第2SX後Dに示す銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウム濃度はいずれも0.001g/L未満であり、不純物を効果的に分離除去することができた。
【0064】
表1に示すように、脂溶性の酸化防止剤であるフェノール系酸化防止剤の添加量を増やすのに伴い、特に0.05重量%以上のフェノール系酸化防止剤を添加した場合、164時間経過後もコバルトの酸化を抑制することができ、逆抽出工程でのコバルトロスを抑制できることが分かった。
【0065】
【0066】
【0067】
(晶析工程S4)
ロータリーエバポレーターに硫酸コバルト溶液を挿入し、内部を真空ポンプで減圧にするとともに、温度40℃に維持してフラスコ部を回転しながら水分を蒸発させ、硫酸コバルトの結晶を析出させた。固液分離後、得た硫酸コバルトの結晶を乾燥機で乾燥した。その結果、表3に示すような高純度の硫酸コバルト結晶を得た。
【0068】
【0069】
[実施例2]
第2溶媒抽出工程S3において、有機相に添加する脂溶性の酸化防止剤をアミン系酸化防止剤であるN-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製、略称IPPD)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で硫酸コバルト溶液を得た。なお、上記アミン系酸化防止剤には富士フイルム和光純薬株式会社製の試薬を用いた。
【0070】
表4に示すように、アミン系酸化防止剤であるN-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンの添加量を増やすのに伴い、特に0.05wt%以上のN-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンを添加した場合、168時間経過後もコバルトの酸化を抑制することができ、逆抽出工程でのコバルトロスを抑制できることが分かった。
【0071】
【0072】
[実施例3]
第2溶媒抽出工程S3において、有機相に添加する脂溶性の酸化防止剤を硫黄系酸化防止剤である3,3’-チオジプロピオン酸ジドデシル(東京化成工業株式会社製、略称DLTDP)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で硫酸コバルト溶液を得た。
表5に示すように、硫黄系酸化防止剤である3,3’-チオジプロピオン酸ジドデシルの添加量を増やすのに伴い、168時間経過後のコバルトの酸化を抑制することができ、逆抽出工程でのコバルトロスを抑制できることが分かった。
【0073】
【0074】
[実施例4]
第2溶媒抽出工程S3において、有機相に添加する脂溶性の酸化防止剤をリン系酸化防止剤亜リン酸トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)(東京化成工業株式会社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で硫酸コバルト溶液を得た。
表6に示すように有機溶媒に対して亜リン酸トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)を添加した場合、168時間経過後のコバルトの酸化を抑制することができ、逆抽出工程でのコバルトロスを抑制することができた。
【0075】
【0076】
[実施例5]
第2溶媒抽出工程S3において、有機相に添加する脂溶性の酸化防止剤を一次酸化防止剤であるフェノール系酸化防止剤ジブチルヒドロキシトルエンと二次酸化防止剤である硫黄系酸化防止剤3,3’-チオジプロピオン酸ジドデシルの組み合わせに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で硫酸コバルト溶液を得た。
表7に示すように有機溶媒に対して組み合わせた酸化防止剤を添加した場合、168時間経過後のコバルトの酸化を抑制することができ、逆抽出工程でのコバルトロスを抑制することができた。
【0077】
【0078】
[実施例6]
第2溶媒抽出工程S3において、有機相に添加する脂溶性の酸化防止剤を一次酸化防止剤であるフェノール系酸化防止剤ジブチルヒドロキシトルエンと二次酸化防止剤であるリン系酸化防止剤亜リン酸トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)の組み合わせに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で硫酸コバルト溶液を得た。
表8に示すように有機溶媒に対して組み合わせた酸化防止剤を添加した場合、168時間経過後のコバルトの酸化を抑制することができ、逆抽出工程でのコバルトロスを抑制することができた。
【0079】
【0080】
以上の第1実施形態に係る硫酸コバルトの製造方法に属する実施例1~6の結果によれば、コバルトの回収効率を高く維持して不純物を充分に除去できた純度の高い硫酸コバルトが得られることが分かった。
また、逆抽出液における全有機体炭素成分(TOC)値は増加せず、排水の水質低下は生じないことも確認された。