(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161580
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】水素及び複数種の集束イオンビームを使用した粒子誘起X線放出(PIXE)
(51)【国際特許分類】
H01J 37/252 20060101AFI20231030BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20231030BHJP
H01J 27/16 20060101ALI20231030BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20231030BHJP
G01N 23/2257 20180101ALI20231030BHJP
G01N 23/2252 20180101ALI20231030BHJP
G01N 23/2206 20180101ALI20231030BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
H01J37/252 A
H01J37/08
H01J27/16
H01J37/28 Z
H01J37/28 B
G01N23/2257
G01N23/2252
G01N23/2206
H01J37/317 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023070956
(22)【出願日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】17/728,869
(32)【優先日】2022-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル トトンジャン
(72)【発明者】
【氏名】オーレリアン フィリップ ジーン マクロウ ボトマン
(72)【発明者】
【氏名】ミロス トス
【テーマコード(参考)】
2G001
5C101
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001AA05
2G001AA09
2G001AA10
2G001BA05
2G001CA01
5C101AA03
5C101AA07
5C101AA22
5C101BB11
5C101DD03
5C101DD20
5C101DD31
5C101DD33
5C101EE22
5C101EE35
5C101EE44
5C101EE73
5C101GG04
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5C101GG15
5C101GG33
5C101GG42
5C101GG44
(57)【要約】 (修正有)
【課題】集束イオンビーム装置における、又は集束イオンビーム及び走査顕微鏡機能の両方を備えるデュアルビーム装置における、粒子誘起X線放出(PIXE)の実用的な実装。
【解決手段】分析方法は、陽子と非水素イオンとの混合物を含むイオンを試料上に導くことであって、混合物のイオンの運動エネルギーが50キロ電子ボルト(keV)以下である、導くことと、陽子及び非水素イオンの、試料上への衝突に応答して試料から放出されるX線を検出及び測定することと、を含む。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析方法であって、
陽子と非水素イオンとの混合物を含むイオンを試料上に導くことであって、前記混合物のイオンの運動エネルギーが50キロ電子ボルト(keV)以下である、導くことと、
前記陽子及び前記非水素イオンの、前記試料上への衝突に応答して前記試料から放出されるX線を検出及び測定することと、を含む、分析方法。
【請求項2】
前記イオンを導くことが、別個の陽子及び非水素イオンビームを前記試料上に導くことを含み、前記別個の陽子及び非水素イオンビームが重なっている、請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記イオンを導くことが、独立型の集束イオンビーム顕微鏡の集束イオンビームカラムによって行われる、請求項1に記載の分析方法。
【請求項4】
陽子と非水素イオンとの前記混合物が、水素ガスと第2のガスとの混合物をプラズマイオン源に通すことによって発生する、請求項1に記載の分析方法。
【請求項5】
前記プラズマイオン源が、誘導結合プラズマイオン源である、請求項4に記載の分析方法。
【請求項6】
前記水素ガスが、精製された水素ガスの供給源から提供され、前記第2のガスが、精製された第2のガスの供給源から提供され、前記水素ガス及び前記第2のガスが、前記誘導結合プラズマイオン源に流体結合されたマニホールド内で混合される、請求項5に記載の分析方法。
【請求項7】
前記イオンを構成するイオン種の割合を測定することを更に含む、請求項1に記載の分析方法。
【請求項8】
前記イオン種の割合を測定することが、
前記イオンのビームを複数の個々のビームレットに分離することであって、それによって、前記イオン種がそれぞれの質量電荷比に従って分離される、分離することと、
各それぞれのビームレットの電流を測定することと、を含む、請求項7に記載の分析方法。
【請求項9】
前記各それぞれのビームレットの電流を測定することが、各ビームレットを単離用ファラデーカップに導入することを含み、前記単離用ファラデーカップが、
動作時に、中を通して前記ビームレットを一度に1つずつ受け取るアパーチャを有する、接地された第1の電極と、
前記第1の電極から離隔されており、電荷収集キャビティを備える第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間の1つ以上の電気絶縁体と、
前記第2の電極に電気的に結合された電位計と、を備える、請求項8に記載の分析方法。
【請求項10】
前記各それぞれのビームレットの電流を測定することが、前記接地された第1の電極の前記アパーチャにわたって前記各ビームレットを走査することを含む、請求項9に記載の分析方法。
【請求項11】
前記各それぞれのビームレットの電流を測定することが、前記単離用ファラデーカップを移動させ、その結果次に、各ビームレットが、前記接地された第1の電極の前記アパーチャを通過して前記第2の電極に到達することを含む、請求項9に記載の分析方法。
【請求項12】
前記イオンを導くことが、走査型電子顕微鏡カラム(SEMカラム)も含むデュアルビーム装置の集束イオンビームカラムによって行われる、請求項1に記載の分析方法。
【請求項13】
前記陽子及び前記非水素イオンが前記試料上に衝突する、前記試料上の位置を取り囲む試料領域の画像を発生させることを更に含み、前記画像が、前記試料によって放出された二次電子又は前記試料によって後方散乱された電子のいずれかを検出しながら、前記試料領域にわたって電子ビームのラスタ走査を行うことによって発生する、請求項12に記載の分析方法。
【請求項14】
前記試料領域の強化された組成分析を生み出すことであって、
前記SEMカラムから試料領域上への電子の衝突に応答して前記試料から放出されるX線を検出及び測定することと、
前記陽子及び前記非水素イオンの、前記試料上への衝突に応答して前記試料から放出されるX線を検出及び測定することから導出された情報を、前記SEMカラムから前記試料領域上への電子の衝突に応答して前記試料から放出されるX線を検出及び測定することから導出された情報と組み合わせることによって、前記試料領域の強化された前記組成分析を生み出すことと、を更に含む、請求項12に記載の分析方法。
【請求項15】
前記イオンのビームを構成するイオン種の割合を測定することであって、
前記イオンのビームを前記SEMカラムの磁場浸漬レンズによって発生した浸漬磁場に通過させ、それによって前記イオンのビームが複数の個々のビームレットに分離され、前記イオン種がそれぞれの質量電荷比に従って前記ビームレットに分離されることと、
各それぞれのビームレットの電流を測定することと、によって、前記イオンのビームを構成する前記イオン種の割合を測定することを更に含む、請求項12に記載の分析方法。
【請求項16】
前記各それぞれのビームレットの電流を測定することが、各ビームレットを単離用ファラデーカップに導入することを含み、前記単離用ファラデーカップが、
動作時に、中を通して前記ビームレットを一度に1つずつ受け取るアパーチャを有する、接地された第1の電極と、
前記第1の電極から離隔されており、電荷収集キャビティを備える第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間の1つ以上の電気絶縁体と、
前記第2の電極に電気的に結合された電位計と、を備える、請求項15に記載の分析方法。
【請求項17】
前記混合物のイオンの運動エネルギーが、30keV以下である、請求項1に記載の分析方法。
【請求項18】
前記混合物のイオンの運動エネルギーが、24keV以下である、請求項1に記載の分析方法。
【請求項19】
陽子と非水素イオンとの前記混合物を含む前記イオンを前記試料上に導くことが、陽子と非水素イオンとの前記混合物を含むビームを前記試料上に集束させることを含む、請求項1に記載の分析方法。
【請求項20】
前記非水素イオンが、Ar+イオン、Xe+イオン又はKr+イオンを含む、請求項1に記載の分析方法。
【請求項21】
試料の表面(試料表面)の領域をミリングする方法であって、
陽子と非水素イオンとの混合物を含むイオンを前記領域上に導くことであって、前記混合物のイオンの運動エネルギーが50キロ電子ボルト(keV)以下であり、前記イオンのビームが前記領域にわたってラスタ走査され、前記非水素イオンの衝突が前記領域内の前記試料表面のスパッタリングを引き起こす、導くことと、
前記陽子及び前記非水素イオンの、前記試料上への衝突に応答して前記試料から放出されるX線を検出及び測定することと、を含む、試料表面の領域をミリングする方法。
【請求項22】
前記イオンを前記領域上に導くことが、別個の陽子及び非水素イオンビームを前記領域上に導くことを含み、前記別個の陽子及び非水素イオンビームが重なっている、請求項21に記載の試料表面の領域をミリングする方法。
【請求項23】
前記イオンを前記領域上に導くことが、前記イオンを前記領域上に集束させることを含む、請求項21に記載の試料表面の領域をミリングする方法。
【請求項24】
放出された前記X線の変化を検出すると、前記イオンを前記領域上に導くことを停止することを更に含む、請求項21に記載の試料表面の領域をミリングする方法。
【請求項25】
前記非水素イオンが、Ar+イオン、Xe+又はKr+イオンのいずれかを含む、請求項21に記載の試料表面の領域をミリングする方法。
【請求項26】
前記イオンを導くことが、走査型電子顕微鏡(SEM)カラムも含むデュアルビーム装置の集束イオンビームカラムによって行われる、請求項21に記載の試料表面の領域をミリングする方法。
【請求項27】
前記領域の画像を発生させることを更に含み、前記画像が、前記試料によって放出された二次電子又は前記試料によって後方散乱された電子のいずれかを検出しながら、前記領域にわたって電子ビームのラスタ走査を行うことによって発生する、請求項21に記載の試料表面の領域をミリングする方法。
【請求項28】
前記混合物のイオンの運動エネルギーが、30keV以下である、請求項21に記載の試料表面の領域をミリングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオンビーム装置及びそのような装置の使用方法に関する。より詳細には、本発明は、粒子誘起X線放出の方法を使用した、陽子と他のイオン種との混合物を含む集束イオンビームによる、及び独立型集束イオンビーム装置と走査型電子顕微鏡機能も含むデュアルビーム装置との両方を含む集束イオンビーム装置による、試料の元素分析に関する。
【背景技術】
【0002】
集束イオンビーム(Focused Ion Beam、FIB)機器は、試料調製、ナノ製作、及び材料分析にとって重要である。独立型FIB装置が知られているが、それらは、典型的には、走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope、SEM)構成要素[1]と組み合わせて、より最近ではフェムト秒レーザアブレーションシステム構成要素と組み合わせて、デュアルビーム又はトリプルビーム顕微鏡の構成要素として用いられる。[2]FIB機器は、小規模電子ビーム加工と大規模バルク加工との中間の立場において半導体の製作及び加工用途で優位に立っており、集束ビームは、反応性イオンエッチング(reactive ion etching、RIE)などのバルク加工ではアクセス不可能な小サイズの特徴形状のマスクフリー加工を可能にする。このような用途において、FIB装置は、電子ビームリソグラフィ及び集束電子ビーム誘起加工(Focused Electron Beam Induced Processing、FEBIP)などの、電子ビームを使用した加工によってもたらされるよりも格段に高いスループットを提供する。[3,4]この理由のために、FIB機器は、典型的には、断面形成、断層撮影、又はTEM薄片調製が比較的小規模で必要とされ、高スループットをコスト的な理由から基本とする、半導体故障解析などの産業用途において使用される。集束イオンビーム装置はまた、クライオTEM分析のための生物学的試料の調製、原子プローブ断層撮影のための試料の調製、又は固浸レンズなどの光学部品の製作などの用途で、研究開発の場になっている。このように、FIB機器は遍在しており、世界中の多数の工場及び研究所で見つけることができる。[3,5,6,7]
【0003】
FIB装置は、走査電子顕微鏡に類似しており、走査電子顕微鏡と同様の方法で用いられ得る。このような装置のいずれかの動作において、荷電粒子の密に集束されたビームが、対象となる試料の表面にわたって走査又はラスタされる。試料の表面上へのビームのエネルギーの衝突は、各それぞれの焦点からの粒子の後方散乱又は二次荷電粒子(イオン若しくは電子)の放出のいずれかを誘起する。各それぞれの点から後方散乱又は放出された粒子は、各点から検出された粒子の相対量の測度を提供する粒子検出器によって検出され得る。検出することができるそのような粒子の数、したがって信号強度は、試料のトポグラフィ及び組成に依存し得る。このようにして、試料のトポグラフィ及び/又は組成のマップが展開され得る。しかしながら、SEMが試料を撮像するために集束電子ビームを利用するのに対して、FIBはその代わりにイオンの集束ビームを利用する。このビーム組成の違いのために、FIB装置は、SEM画像よりもいくらか低い解像度の画像を発生させ、SEM装置とは対照的に、スパッタリングのプロセスを通して試料に損傷を引き起こす可能性がある。それにもかかわらず、スパッタリングプロセスは、マイクロエッチング又はマイクロミリング用途において有利に使用され得る。したがって、多くのデュアルビームシステムは、FIB構成要素又はサブシステム、並びにSEM構成要素又はサブシステムの両方を備える。このようなデュアルビームシステムでは、SEM部分を使用して、FIB部分によって実施されるマイクロエッチング又はマイクロミリング手順を、そのイメージング能力によって監視し得る。
【0004】
別の観点によれば、FIBと粒子加速器との両方の主な目的が、イメージング、加工、及びイオンビーム分析の目的のためにイオンを発生させ加速することであることを考慮すると、FIBは、小型で比較的低いエネルギーの粒子加速器であると考えることができる。イオンマイクロプローブ(マイクロメートルレベルの分解能が可能な集束ビームを生成するために粒子加速器ビームラインに接合されるモジュール)の出現により、FIBと粒子加速器との間のラインはなおも更に不鮮明になっている。[8]しかしながら、FIB機器と比較して、粒子加速器は、いくぶん珍しく、2014年現在、約30,000台の加速器しか動作しておらず、小型卓上粒子加速器から大型ハドロン衝突器の範囲にわたり、それらの意図された使用及び用途において著しく異なり、そのコストは数十億ドルに達し得る。[9,10]
【0005】
多くの粒子加速器設備の主要な機能の1つは、イオンビーム分析(ion
beam analysis、IBA)であり、これは、高エネルギー粒子と試料との相互作用、及びこれらの相互作用の結果として発生する信号の分析を伴う一連の技法である。これらの技法には以下が含まれる。[11]
●ラザフォード後方散乱分光(Rutherford
backscattering spectroscopy、RBS)、試料から動力学的に散乱された一次イオンの分析
●一次イオンビームによる正孔対の生成と、それに続く試料内の電荷輸送の分析とを伴う、イオンビーム誘起電荷(ion beam induced charge、IBIC)
●核反応分析(nuclear reaction analysis、NRA)、一次イオンと標的核との相互作用に続く核反応の結果として放出される荷電粒子の分析
●粒子誘起ガンマ線放出(particle induced gamma
ray emission、PIGE)、一次イオンと標的核との相互作用に続いて放出されるガンマ線の分析
●粒子誘起X線放出(particle induced X-Ray
emission、PIXE)、一次イオンによる標的原子のイオン化の結果として放出される特徴的なX線の分析。
【0006】
本開示にとって特に興味深いのは、粒子誘起X線放出(PIXE)の技法である。この技法は、微量元素分析に理想的であり、特に、100~500ppmの感度で、走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)で行われるエネルギー分散分光法などの同様のX線分光技法と比較した場合、試料組成を1ppm(part per million)以下の感度で決定することができる[12,13]。[14]PIXE分析技法は、典型的には、試料表面にイオンビームを衝突させながら、放出されたX線を検出することによって行われる。理論的には、ビームは、任意のタイプのイオンを含み得る。しかしながら、実際には、X線生成断面積(X-ray production cross section、XRPCS)がイオン速度に比例するので、陽子などの非常に軽いイオンが、所与の加速電位下でのそれらの高い速度のために用いられる。より重いイオンを用いることもできるが、陽子速度に一致させるために非常に高い加速電位が必要とされ[15]、著しい試料損傷が生じる可能性がある[16]。
【0007】
典型的には、PIXE分析技法は、数メガ電子ボルト(mega
electron-volt、MeV)の入射粒子エネルギーで行われる。なぜなら、X線生成断面積は、そのような高エネルギーで著しく増加するからである[17]。PIXEの最適エネルギー範囲は、X線生成断面積が最大化される一方でバックグラウンド寄与が十分に低いままである3MeVであることが分かっている。[18]しかしながら、これらの高い一次イオンエネルギーは、これまで、PIXE技法の使用を粒子加速器設備に制限してきており、粒子加速器設備は、上述したように、利用可能性及びコストの点で制限されている。その結果、PIXE技法は、現在のところ、一般的な実験室ユーザにはいくぶんアクセスできない可能性がある。
【0008】
低エネルギーPIXE(low energy PIXE、LE-PIXE)は、はるかに低いエネルギー、例えば1MeV未満で行われる。必要とされる粒子エネルギーがより低いにもかかわらず、LE-PIXE技法は、それでもなお典型的には、減速された加速器ビームライン又は修正されたイオン注入装置を使用して行われる。したがって、LE-PIXEの一般的な使用は、コスト及び利用可能性の点でPIXEと同じ多くの問題を抱えている。[19,20]。より低いエネルギーでPIXEを行うことは、多くの利点を提供する。特に、LE-PIXEは、より高いエネルギーのPIXEと比較して、軽元素に対してより高い感度を提供する。この改善された軽元素感度は、主に、2つの主要な要因、すなわち、非常に低い制動放射信号及び低エネルギーでの低い二次蛍光収率に起因する。[19]Moriyaらは、2MeV陽子と比較して、180keVの陽子で励起することによって、より軽い元素に対する感度が著しく高いことを実証し、180keVの陽子に対して50、2MeVの陽子に対して0.9のPKαX線輝線に対する信号対雑音比について記載している。これらの著者らは、原子番号Zが18以下である全ての元素に対する感度は、2MeVと比較して150keVの励起エネルギーに対して優れており、これは、2MeVの陽子と比較して150keVの陽子に対するより低いバックグラウンド放射線に起因すると結論付けた。[21]Be、B、C、N、及びOなどのより低いエネルギーで単一のX線遷移のみを有する軽元素は、制動放射などのバックグラウンド信号によって不明瞭になることが多い。より高いエネルギーのPIXEはまた、一次ビームエネルギーまでのエネルギーを有し得る後方散乱イオンを遮断するために厚いマイラー窓を必要とする。そのような厚い窓を通る低エネルギーX線の透過は、窓によるX線吸収のために不十分であり、したがって、軽元素によって発生するX線信号の測定は不可能である。したがって、PIXE技法は、多くの場合、Alより大きい質量を有する元素に限定される。[20,22]
【0009】
上述の潜在的な利点のある軽元素分析にもかかわらず、LE-PIXE及び超低エネルギーPIXE(very-low-energy PIXE、VLE-PIXE)の欠点、例えば、そのような低エネルギーでX線信号が著しく減少したこと、感度が低いこと、及び1keVを超える特性ピークを効果的に検出できないことがしばしば利点を上回るので、LE-PIXEについては限られた研究しか行われておらず、VLE-PIXEについてはほとんど研究が行われていない。[20]したがって、SEM-EDSなどの代替的な特性化方法が典型的に使用されるか、又は研究者らは、1MeVを超えるエネルギーでのPIXEに頼っている。今日まで、文献に記載されているように、減速加速器ビームライン又はイオン注入システムを利用する少数のLE-PIXEシステムしか開発されていない。[22,23,24,25,26]結果として、約140keVを下回る加速エネルギーでの実験データが全体的に欠如しており、これにより、そのような低エネルギーでのイオン化メカニズムの分析が非常に困難になっている。Lapickiは、既存のモデルを明確にするのを助けるために、これらのエネルギーでの拡張された実験データを求め、特に、これらのモデルの拡張のための動機付け因子の1つとしてLE-PIXEの使用を引用した。[27]
【0010】
Ga+イオンを利用するFIB顕微鏡におけるPIXEの観測の先の請求項[28]は、反証されている。その結果は、帯電絶縁した試料から生じる後方散乱イオンによって引き起こされるアーチファクトである。これらのイオンは、帯電した試料から離れるように加速され、接地表面(例えば、磁極片)と衝突すると、III型二次電子として知られる二次電子を発生させる。次いで、二次電子は、正に帯電した試料に向かって加速され、特性X線を発生させる。このような絶縁した試料によって発生する静電電位は、数十kV程度であることが示されている。[29]信号が試料へのGa+イオンの衝突に由来しなかった別の指標は、強い制動放射バックグラウンドの存在であり、これはSEM-EDSスペクトルに典型的であるが、そのような低エネルギーではPIXEスペクトルに存在しないことが知られている。帯電した試料に向かう二次電子の再加速によるX線の発生及び分析は、電荷誘導X線(charge induced X-rays、CHIX)と称されるものもある。[30]
【0011】
集束イオンビーム機器上でPIXEを行う能力は、PIXE技法の進歩における大きなステップを意味し、PIXEの利用可能性を様々な追加の設備に開き、SEM-EDSに対する相補的な技法を提供し、それによって微量元素に対する著しく改善された感度を与える。本明細書では、超低エネルギーPIXE(VLE-PIXE)という用語が導入され、これは、標準的な市販のFIB機器に利用可能なエネルギー範囲である50keV以下で行われるPIXEを説明する。この超低エネルギー範囲でPIXEを行うと、標的原子のイオン化に関与するメカニズムに起因してX線生成が著しく低減されるという犠牲を払うことになる。実際、陽子のみを用いてそのような低エネルギーで行われたPIXEは、予想される極めて低いX線生成断面のために不可能であると考えられた。[29]結果として、そのような低エネルギーでPIXEを開発するための努力は本質的になされていない。したがって、はるかに高いエネルギーで行われるPIXEに利用可能な感度で、FIB顕微鏡上でVLE-PIXEを行うことができることは、PIXE分析における顕著な画期的進歩を意味する。したがって、超低エネルギーでのPIXEによるX線生成を増強するための方法の開発が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0012】
上記の背景を考慮して、本発明者らは、ビームドーピングメカニズムの開発を通じて当技術分野における上記の必要性に対処し、それによって、水素ビームへのAr又はXeなどの少量の重イオン種の添加が、50keV以下のエネルギー範囲におけるPIXE技法のX線生成の劇的な向上をもたらす。本発明者らは、Ar又はXeなどの、わずかな割合の重イオン種が、陽子を発生させるために使用される水素ビームに加えられ、次いで陽子が集束イオンビーム(FIB)装置内の試料上に集束される場合であっても、PIXE技法の性能が従来の予想を数桁上回ることを発見し、最終的に実証した。PIXE信号は、ビームを構成する重イオンの割合とともに増加し、約80%の重イオン種で最大に達する。PIXE信号がFIBミリング中に収集される場合、これは、3D断層撮影ワークフローにおいて利用することができる終点検出及びリアルタイム元素マッピングの可能性につながる。
【0013】
本教示の第1の態様によれば、分析方法は、
陽子と非水素イオンとの混合物を含むイオンのビームを試料上に導く及び集束させることであって、混合物のイオンの運動エネルギーが50キロ電子ボルト(keV)以下である、導く及び集束させることと、
陽子及び非水素イオンの、試料上への衝突に応答して試料から放出されるX線を検出及び測定することと、を含む。
【0014】
本教示の第2の態様によれば、試料表面の領域をミリングする方法は、
陽子と非水素イオンとの混合物を含むイオンのビームを領域上に導く及び集束させることであって、混合物のイオンの運動エネルギーが50キロ電子ボルト(keV)以下であり、イオンビームが領域にわたってラスタ走査され、非水素イオンの衝突が領域内の試料表面のスパッタリングを引き起こす、導く及び集束させることと、
陽子及び非水素イオンの、試料上への衝突に応答して試料から放出されるX線を検出及び測定することと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の上記の及び様々な他の態様は、例としてのみ与えられ、必ずしも一定の縮尺で描かれていない添付の図面を参照する以下の説明から明らかになるであろう。
【
図1A】本教示による方法が実施され得る第1の装置の概略図であり、その装置は、集束イオンビーム(FIB)カラムと、ガスの混合物からイオンを発生させ、イオンをFIBカラムに提供するように適合されたプラズマイオン源と、X線検出器と、を備える。
【
図1B】本教示による方法が実施され得るデュアルビーム装置の概略図であり、その装置は、FIBカラムと、走査型電子顕微鏡カラムと、ガスの混合物からイオンを発生させ、イオンをFIBカラムに提供するように適合されたプラズマイオン源と、X線検出器と、を備える。
【
図2】イオンを発生させ、発生したイオンをFIBカラムに提供するための既知の誘導結合プラズマイオン源の概略図である。
【
図3】デュアルビーム走査顕微鏡及び/又はミリング装置のSEMカラム及びFIBカラムの試料に面する端部の概略図であり、複数のイオン種を有するイオンビームの複数のビームレットへの分離を示し、各ビームレットは、イオンと浸漬磁場との相互作用によるイオン種のサブセットを含む。
【
図4】水素ビームのH
3
+イオン成分の測定された横方向偏差を、イオンがFIBカラムを出た後に通過させられる浸漬磁場の相対磁場強度の関数としてプロットしたものである。
【
図5】200Wの誘導プラズマイオン源から発生した650pAの水素ビームから発生した分離されたビームレットの測定された電流のプロットである。
【
図6A】様々な分離されたビームレットの測定された電流強度の割合の変化を、誘導結合プラズマイオン源に印加される無線周波数(radio-frequency、RF)電力の関数としてプロットしたものである。
【
図6B】
図6Aにプロットされた全てのビームレットの積分測定電流を、誘導結合プラズマイオン源に印加されるRF電力の関数としてプロットしたものである。
【
図6C】多種イオンビームを構成する複数のイオン種の各々の割合の変化を、総ビーム電流の関数としてプロットしたものである。
【0016】
【数1】
X線ピークに対する、いくつかのイオンビーム成分の各々の測定されたスペクトル寄与のグラフ図であり、単一イオンビーム内の他のイオン種と比較して、H
+イオンから生じる優勢なX線信号を実証する。
【
図8A】単一イオンビームに集束された複数のイオン種への曝露によって引き起こされた試料上の重なった焼け跡の電子顕微鏡写真である。
【
図8B】複数のイオン種からなる単一ビームを別個の「ビームレット」に分離するように、浸漬磁場の大きさを調整することによって引き起こされる、試料上の分離された焼け跡の電子顕微鏡写真であり、各ビームレットは、イオン種のサブセットを含む。
【
図8C】NIST標準物質SRM 654bの試料を重イオンドープ陽子ビームに曝露することによって発生したいくつかの顕著なX線ピークの測定強度のプロットであり、測定強度は、ビームを複数のビームレットに分離させる浸漬磁場の相対磁場強度に対してプロットされている。
【
図9】窒素、アルゴン及びキセノンドーパントによるビームの光ドーピングについて観測された、NIST標準物質SRM 654bのいくつかのX線ピークの、99%超の水素からなるイオンビームに対するX線信号増強因子のグラフ表示である。
【
図10】イオンビーム内の種々のイオン種の割合を、FIB装置のイオン源及びカラム内の残留アルゴンの濃度を徐々に減少させるために用いられるプラズマ源排気サイクルの数に対してプロットしたものである。
【
図11】NIST標準物質SRM 654bの試料を、Arドーパントの割合が徐々に減少する水素イオンビームに繰り返し曝露することによって発生するいくつかの顕著なX線ピークの測定強度のプロットであり、Arの割合は、ビーム組成が
図10に示されるようなものとなるように繰り返しプラズマ源排気サイクルによって制御されている。
【
図12A】FIB二次電子(secondary electron、SE)コントラストイメージングを使用して観測された、Si(100)ウエハ上で剥離されたMoS
2薄片を再描画したバージョンである。
【
図12B】本明細書に記載のVLE-PIXE技法によって決定された、
図12Aの視野内のモリブデンの元素マップである。
【
図12C】本明細書に記載のVLE-PIXE技法によって決定された、
図12Aの視野内の硫黄の元素マップである。
【
図13】NIST標準物質SRM 654bの試料のビームへの曝露前のXeドープ水素ビーム内のイオン種の割合のグラフ及び表の表示であり、割合は、いくつかの分離されたビームレットの各々について測定されたイオン電流から決定されており、各ビームレットは、イオン種の完全なセットのサブセットを含む。
【
図14A】本明細書に教示される分析方法を使用して得られた、NIST標準物質SRM 654bの24keV VLE-PIXEスペクトルと、同じ試料の5keVのSEM-EDSスペクトルとの比較である。
【
図14B】本明細書に教示される分析方法を使用して得られた、NIST標準物質SRM 654bの24keV VLE-PIXEスペクトルと、同じ試料の30keVのSEM-EDSスペクトルとの比較である。
【
図15】NIST標準物質SRM 1242の試料のビームへの曝露前のXeドープ水素ビーム内のイオン種の割合のグラフ及び表の表示であり、割合は、いくつかの分離されたビームレットの各々について測定されたイオン電流から決定されており、各ビームレットは、イオン種の完全なセットのサブセットを含む。
【
図16A】本明細書に教示される分析方法を使用して得られた、NIST標準物質SRM 1242の24keVのVLE-PIXEスペクトルと、同じ試料の5keVのSEM-EDSスペクトルとの比較である。
【
図16B】本明細書に教示される分析方法を使用して得られた、NIST標準物質SRM 1242の24keV VLE-PIXEスペクトルと、同じ試料の30keVのSEM-EDSスペクトルとの比較である。
【
図17】SEM-EDSによって決定されたNIST標準物質SRM 654b中のいくつかの元素の検出の下限を、Xeドープ水素イオンVLE PIXEによって決定された同じ元素の検出の下限と比較したヒストグラムであり、後者の測定値は、
図13に示されたビーム組成を使用して得られたものである。
【
図18】本教示による方法及び装置で使用するための単離用ファラデーカップ電流検出器装置の基本設計及び動作原理の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の説明は、当業者が本発明を作成及び使用することを可能にするために提示され、特定の用途及びその要件の文脈で提供される。説明された実施形態に対する様々な変形は、当業者には容易に明らかであり、本明細書における一般原理は、他の実施形態に適用され得る。したがって、本発明は、示された実施形態及び実施例に限定されることを意図するものではなく、示され説明された特徴及び原理に従って最も広い可能な範囲を与えられるものである。本発明の特徴をより詳細に十分に理解するために、以下の説明と併せて
図1A~
図18を参照されたい。
【0018】
本明細書中の本発明の説明において、別段、暗黙的又は明示的に理解又は記載しない限り、単数で現れる語は、その複数の同等のものを包含し、複数で現れる語は、その単数の同等のものを包含することが理解される。更にまた、別段、暗黙的又は明示的に理解又は記載しない限り、本明細書において説明される任意の所与の構成要素又は実施形態について、その構成要素について列挙された可能な候補又は代替物のいずれかが、一般に個々に又は互いに組み合わせて使用され得ることが理解される。更に、本明細書で示した図は、必ずしも縮尺通りに描画されておらず、要素のいくつかは、単に本発明を明確にするために描画されている場合があることが理解されるべきである。また、対応するか又は類似する要素を示すために、様々な図の中で参照符号が繰り返されている場合がある。追加的に、別段、暗黙的又は明示的に理解又は記載されない限り、候補又は代替物のいかなる列挙も、単なる図示であり、限定ではないことが理解されよう。
【0019】
装置の実施形態
図1A~
図1Bは、本教示による装置の2つの例を概略的に示しており、それら装置上において、本教示による方法が実施され得る。装置1a及び装置1b(
図1B)の両方において、真空チャンバ13内に収容されたFIBカラム6は、動作中に無線周波数(RF)電圧波形が印加されるコイル状電極5を含む誘導結合プラズマイオン源4から、少なくとも水素イオン(すなわち、陽子)2並びに陽子より重いイオン3を含むイオンの混合物を受け取る。イオンは、ガス入口管11から受け取られ、かつ水素分子2mを含む水素と、分子3mを含む少なくとも1種の他の非水素ガスとの混合物を含むガスから発生する。これら異なるガスは、精製された形態で提供され、ガス入口管11に導入される前に、ガス混合マニホールド(図示せず)において適切な割合で混合され得る。あるいは、ガスは、予め混合された形態で提供されてもよく、それによって、比例混合のために必要とされるガス混合マニホールド及び任意の計量弁の必要性を排除する。コイル状電極5に適切なRF電圧を印加すると、イオン源4内で公知の方法でプラズマが点火される。
【0020】
引き続き
図1A及び
図1Bを参照すると、イオン2、3は、ビーム7に集束され、イオンレンズ及びイオンガイドを備え得る一連のイオン光学系15に印加される電場及び/又は磁場によって、試料8の表面上のビーム焦点に向かってFIBカラム6の長さに沿って案内される。イオン光学系は、イオンを試料に向けて加速させ、イオンビームのイオンを50keV以下の運動エネルギーで試料表面に衝突させる。以下でより詳細に説明するように、陽子2とより重いイオン3との両方が試料8上の同じ焦点に衝突すると、測定可能な量のX線光子9が発生し、このX線光子は、既知の方法で、試料の原子の内殻電子を放出し、得られた電子孔を高エネルギー電子殻からの電子で満たすことによって導出される。結果として生じるX線は、エネルギー分散型X線検出器10によって検出され、エネルギー分散型スペクトルとして記録される。このようにして、ビーム焦点での試料の元素組成が決定され得る。装置1bは、同じ焦点上に、又は電子ビームのラスタリングを介して、イオンビーム7の焦点を取り囲む試料の領域上に、電子ビームを導く及び集束させるために用いられる、真空チャンバ内の走査電子顕微鏡(SEM)カラム12を更に含む。電子検出器(図示せず)による二次電子又は後方散乱電子の検出を使用して、既知の方法で試料の領域の画像を作成してもよい。
【0021】
イオン源の選択
液体金属イオン源
集束イオンビーム(FIB)顕微鏡タイプを区別する主な因子は、イオン源である。これは、顕微鏡の形態及び機能、並びに加工及び分析におけるその意図された使用を支持する。集束イオンビーム顕微鏡における最も一般的なイオン源タイプは、液体金属イオン源(liquid metal ion source、LMIS)である。これらの用途のために最も一般的に使用される金属はガリウム(Ga)であり、これは主に、その低い融点(29.8℃)、及び高い質量、したがってスパッタ収率に起因する。[4]次いで、大きな負電位が針先端と抽出電極との間に印加されると、抽出バイアスは、Ga液体の表面張力によって平衡され、テイラーコーンとして知られる固定点に液体を締め付け、カスプは、テイラーコーンの先端に約5nmの先端半径を形成する。[5]高真空において、この電位は、カスプからのGa+イオンの電界放出を発生させるのに十分である。[31,32,33]現代のLMISベースのFIB機器は、約10nm程度のビームスポットサイズを有する。[7]LMISは液体金属源でしか動作させることができないので、LMISは、VLE-PIXE技法によってX線を発生させるために必要な陽子などの軽イオンを生成することができない。
【0022】
ガス電界イオン化源
ガス電界イオン化源(Gaseous Field Ionization
Source、GFIS)は、先端の最終半径がちょうど3原子である金属針を利用する。[34]非常に低い分圧のガスが針に導入され、そこでガス分子が先端表面に急速に吸着する。次いで、強い電界が先端に印加され、その結果、電界放出は、先端の最終半径に吸着された3つのガス原子からのみ生じる。[35]典型的にはヘリウムガスで動作するが、これらのイオン源は、より高速なFIB加工のためにより高いスパッタ収率でネオンなどのより重いイオンを生成することも可能である。[35]陽子などのより軽いイオンに関して、Moritaniら及びMatsubaraらは、GFIS源における陽子の生成を実証した。しかしながら、発生した陽子は、H2
+及びH3
+イオンに対して非常にわずかな割合でしか生じない。[36,37,38]
【0023】
典型的なFIBは、固定された電流で動作し、アパーチャのサイズを変更してビーム電流を修正するが、GFIS源の電流は、先端を取り囲むガスの圧力を変化させることによって変更される。より高い圧力は、先端上のガス原子のより速い補充を可能にし、より速い抽出速度及びより高い電流をもたらす。しかしながら、ガス圧力が増加するにつれて、電界イオン化のための電位障壁も増加し、約100pAの最大動作電流をもたらす。[39,40]このイオン源によって生成される少数の陽子は、GFISに利用可能な非常に小さい電流と相まって、このイオン源をVLE-PIXE分析に適さないものにする。更に、GFISは、一度に1つのソース種しかホストすることができず、本発明によって必要とされるようなドープビームVLE-PIXEに利用することができない。
【0024】
誘導結合プラズマイオン源
プラズマは、電子及びイオンからなる完全に又は部分的にイオン化されたガスとして定義され、FIBシステムで使用するための容易に利用可能なイオン源として識別されている。プラズマ源は、いくつかのタイプのうちの1つであり、プラズマを発生させるために使用される技法にちなんで名付けられている。プラズマイオン源の1つの主な利点は、ドープビームVLE-PIXEの要件である複数のイオン種を受け入れることができることである。誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma、ICP)は、プラズマチャンバの外部にあるアンテナ(例えば、
図1A~
図1Bのコイル状電極5)の使用によって発生することができる。ICPイオン源の構成の主な利点は、プラズマ自体がアンテナと接触しないことであり、アンテナの寿命を明らかに増加させ、取り得るプラズマの範囲を、酸化ガスを含むものに拡大する。ICPは、誘電絶縁体、典型的には低誘電損失及び高コイル温度に対する良好な耐性を有する高品質石英の使用によってガスから分離された螺旋又はコイル状導電性アンテナにRF波を印加することによって形成される。
【0025】
比較的低いRF電力では、アンテナからのRF電界は誘電体を貫通して、ガスをイオン化するのに十分な電界を提供する。これは「Eモード」として知られているが、これは一次励起メカニズムがRFコイルの電界であり、DC放電のそれに類似しているためである。より高いRF電力では、エネルギーは、スキン層としても知られる誘電体の縁部付近のシース内の電子を加速するのに十分である。アンテナとプラズマとの間に真の誘導結合が形成され、それによって非常に高密度のプラズマが発生するので、これは「Hモード」として知られている。理想的なICPは、一次巻線がアンテナであり、プラズマ内の誘導電界が単巻き二次コイルを形成する変圧器のように動作する。ICPは、非常に高密度のプラズマが必要とされる用途で使用され、高輝度イオン源としての使用に適し、VLE-PIXE用のイオン源としての使用に理想的である。
【0026】
イオン源の比較
表1は、最も一般的なFIB源、LMIS、GFIS、及びICPについての文献からの測定されたイオンビーム源メトリックの選択を示している。下線が引かれた種は、列挙されたメトリックに使用されたソースを示している。この表に基づいて、一般に、高分解能が可能な機器は、供給可能な電流に関して制限され、逆もまた同様であることが分かる。VLE-PIXEでは、そのような低エネルギーでの技法の低効率のために、ICPは、ICPイオン源による試料への非常に高い有効電流送達のために不可欠な開発である。水素前駆体を利用することによって陽子を生成する能力はまた、FIB顕微鏡におけるVLE-PIXEに必要とされる本質的な開発であり、複数のソース種を同時にホストする能力は、ドープビームVLE-PIXE実験にとって重要である。
【0027】
【0028】
選択されたプラズマ源の構成
イオン源間の上記の比較に基づいて、本発明者らは、米国特許第8,076,650号及び米国特許第8,822,913号に記載されているような、本明細書でPFIB装置と称される、ICPイオン源及びガス混合装置を装備した既知のFIB装置が、VL-PIXE動作に最適であることを認識した。
図2は、そのようなPFIB装置で使用されるイオン源100の概略図である。所定のガス混合物が、ガス混合システム220によって提供される。ガス混合物は、外部ガス供給ライン104からガスフィルタ106を通ってソース管103内のプラズマチャンバ102に提供され、次いで、流量制限器110を有する毛細管108に提供される。エネルギーは、アンテナコイル114によってRF電源113からプラズマチャンバ102に供給され、イオンは、引き出し電極120によってソース電極118内のソース電極アパーチャ116を通して抽出される。分割ファラデーシールド121は、コイル114とチャンバ102内のプラズマとの間の容量結合を低減し、チャンバ102内において、抽出されたイオンのエネルギー拡散を低減する。電源113は、好ましくは、「平衡した」様式でアンテナ114を駆動し、すなわち、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,670,455号に記載されているように、アンテナにわたる電気的位相シフトは、プラズマ電位の変調を低減するように調整される。平衡アンテナは、好ましくは、プラズマ内の無線周波数エネルギー場にヌル点を提供し、これは、プラズマチャンバ102から抽出されるイオンのエネルギー拡散を低減する。
【0029】
プラズマチャンバ102の内外へのガスコンダクタンスは、(ソース管103の上部にある)毛細管内の流量制限器110と、ソース電極118内のアパーチャ116(典型的には直径1/4mm未満)とを通る。バルブ123を介してガス供給ライン104に接続されたポンプ122は、毛細管108及びガス供給ライン104を介してプラズマチャンバ102からガスを除去する。イオンカラムポンプ(図示せず)は、ソース電極アパーチャ116を通してプラズマチャンバ102からガスを抽出する。
【0030】
ガス混合システム220は、ガス貯蔵部130A、ガス貯蔵部130B、ガス貯蔵部130C及びガス貯蔵部130Dなどの複数のガス源からガスを受け取り、対応するバルブ131A~131Dを通してガス供給ライン104にガスを供給する。バルブ131A~131Dは、所望のガス混合物をガス供給ライン104に提供してガスをプラズマチャンバ106に提供するように調整される。バルブ131A~131Dのうちの複数のバルブを同時に開いて、複数のガス種をプラズマチャンバに同時に提供し得る。バルブ131A~131Dは、ガス入口104へのガスの比率を制御する計量バルブであることが好ましい。
【0031】
ビーム電圧源132は、チャンバ102内のプラズマに高電圧を供給し、抽出電圧源134は、抽出電極120に電圧を供給する。抽出されたイオン又は電子は、集束電極136によって集束される。集束カラム及び試料チャンバの更なる詳細は示されていない。
【0032】
プラズマチャンバの内部からガスを除去するために、ガス供給ライン104は、示されるようにポンプ圧送されて、毛細管108内の流量制限器110上方のソース管内のガスを除去する。ソース電極118の下方のFIBシステムの容積も、主チャンバ真空ポンプ(図示せず)を使用して適切にポンプ圧送され得る。
【0033】
ソース電極アパーチャ116及び流量制限器110は両方とも小さい直径を有し、それに対応して非常に低いガスコンダクタンスを有するので、ソース管103の内部を迅速にポンプ排気することは不可能である。これは、特に、異なるイオン種を用いて連続的なプロセスステップを行うことが望ましい場合がある生成FIBシステムにとって不利である。第一に、ベース圧力が第2のプロセスガスを導入するのに十分に低くなる前に、ソース管103から第1のプロセスガスを排気するのにはるかに長い時間がかかる場合がある。ガスのパージが不十分であると、イオン化によってプラズマが汚染される可能性がある。参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,633,452号は、ガスが真空チャンバに出入りするための代替経路を提供することによって、プラズマ源内のガスを急速に変化させるプラズマチャンバ設計を説明している。
【0034】
質量フィルタ202は、イオン源の下方に含まれている。質量フィルタ202は、E×Bフィルタであることが好ましいが、他のタイプの質量フィルタを使用することもできる。質量フィルタ202は、電界を提供する電極204と、交差磁場を提供するために紙面の上方及び下方に位置決めされた磁石(図示せず)とを含む。コネクタ206は、電極204への電気的接続を提供し、電極204の位置を調整するための機械的接続を提供する。電界は、偏向されずにフィルタを通過し、かつビーム経路内のアパーチャを通過するイオンの質量を選択するように調整可能である。選択された質量以外の質量を有するイオンは偏向され、アパーチャを通過しない。質量フィルタ202は、概略的に示されているが、より複雑な質量フィルタ、又はビーム軸に沿って分離されたE×B場の2つ以上の領域を有する複合フィルタを備えることができる。
【0035】
ガス送達システム
図2に示すように、プラズマイオン源100とガス混合システム220との組み合わせの出現により、最大4つの平行ソース種の適用が可能になった。典型的には、Xe、Ar、O
2及びN
2は、従来のFIB動作で用いられるガス貯蔵ユニット130A~130Dから提供される。ガスXe及びArは、一般に、それらの高い質量のために選択され、それらを、それらの高いスパッタ収率及び非反応性の性質に起因する迅速な試料加工(例えば、エッチング、ミリング)にとって理想的にし、それによって、試料の化学的及び電子的特性にわたる影響を低減させる。ガスO
2及びN
2は、一般に、それらの入手可能性及びこれらの種の化学的に活性な性質に起因する興味深い用途の可能性のために選択される。これらの種のスパッタ収率は、Xe及びArよりもはるかに低いが、それらは依然として無視できず、FIBミリングによる材料の加工及び調製に使用することができる。一例は、酸素種の化学的性質が、スパッタされた種の揮発を可能にし、炭素系材料の再堆積を防止するので、有機材料の加工のためのO
2ビームの使用である。[47]
【0036】
本明細書で教示されるVLE-PIXE技法は、より重いイオン種も含むビーム中の陽子などの軽いイオン種の生成に依拠する。
図2に示される結合プラズマイオン源100は、そのような結合イオンビームを発生させる能力を提供する。伝統的に、水素は、その質量が非常に小さく、したがってスパッタ収率が非常に低いため、従来のFIB動作下での材料の調製及び加工には適していない。しかしながら、本発明者らは、水素含有イオンビームの真の可能性が、代わりに、VLE-PIXEなどの多くの可能な用途を有する材料の分析にあることを認識した。いくつかの先の試みが、H
+イオンを、ガス電界イオン化源(GFIS)を使用したFIBに導入するために以前よりなされている。[36,37,38,39,40]しかしながら、利用可能な非常に低い電流、特に陽子の電流は、そのような機器を用いた材料分析を困難にする。
【0037】
本明細書に記載されるようなVLE-PIXEを実施するためには、陽子からの電流がかなりの量であることが望ましく、それは、そのような低エネルギーでの低いXRPCSは、所与の時間枠においてそこに入射する陽子の数を増加させることによってある程度補償することができるからである。ドープビームVLE-PIXEを実施するために、組み合わされたプラズマイオン源100及びガス混合システム220によって提供されるような、複数のイオン種を同時に支持する能力は、うまくいくために有利である。しかしながら、上述したように、水素は、その質量が非常に小さく、スパッタ収率が非常に低いため、従来のFIB動作下での材料の調製及び加工には適していない。現在記載されている方法は、水素を必要とするので、標準的な供給酸素ボンベを単に高純度水素のボンベに置き換えた。酸素ボンベの除去は、同様に安全性の目的のためであり、同じシステム上の酸素と水素の組み合わせは、爆発の可能性を生じさせた。
【0038】
本教示による装置によれば、VLE-PIXE分析に必要な水素ガスは、プラズマチャンバ内の圧力を最終的に制御する計量オリフィスを介してプラズマチャンバの入口に移送される。水素ガス及び別のより重いガスは、一連の遮断バルブを介して、結果として生じるガス混合物を計量オリフィスに供給するガス送達マニホールドに移送される。ガス送達システムによって提供される、このオリフィス上の背圧は、オリフィスを通る流量を決定し、本発明者らの特定の装置に関して、正圧ゲージ(圧電ベースのゲージ)上でオリフィスの直前に測定されるように、2~4×103mbarの範囲で最適であることが見出された。プラズマチャンバの排気速度は、ターボ分子ポンプ(図示せず)のポンプ圧送速度によって固定され、それによって、計量オリフィスとプラズマチャンバの出口アパーチャとの間の圧力の低下がもたらされる。プラズマチャンバ内の正確な圧力は分からないが、本発明者らの特定の装置を使用して、プラズマチャンバの後の冷陰極真空計上の6~7×10-6mbarの測定圧力が水素プラズマ点火にとって最適であることが実証された。
【0039】
プラズマ源の動作
プラズマチャンバ内のガスの安定した圧力が確立されると、プラズマが点火される。この点火プロセスは、典型的には、ガス種の切り替えに続いて自動的に行われる。以下は、本発明者らの装置を使用して決定される典型的なRFプラズマ動作パラメータであり、決して限定することを意図するものではない。
●RFインピーダンス整合コンデンサは、点火前値に設定される。
●RF発生器は、所望のパワー及び頻度でRF波を提供する。
●プラズマ点火器が放電され、これは、チャンバ内のプラズマを点火する。
●プラズマ検出ロジックが適用され、これは、プラズマ点火時の反射されたRF電力の増加に依拠する。
●RFインピーダンス整合コンデンサは、点火後値に移動し、反射電力を最小化するように自動的に同調する。
点火されると、プラズマは、最も安定したビームを達成するための使用の前に15~30分の期間にわたって安定化させられる。ビームドーピング中のプラズマ源の動作は、典型的には、プラズマを消滅させ、新しい前駆体ガス混合物を確立し、プラズマ源を再点火することを伴った。プラズマシステムの最適同調値が単一のガス種に対して確立されるので、ある量の手動RFキャパシタ同調も必要であった。
【0040】
ビームドーピング実験全体を通して、ソースプラズマへのドーパント種の添加は、プラズマ組成、したがってビーム組成に予想外の影響を及ぼし得ることが観測された。以下で更に説明するように(例えば、
図10参照)、プラズマ源におけるArの分圧を変化させることにより、ビーム中の水素分子種の割合が、純粋な水素ビームに基づいて予想された割合とはいくらか異なることになる。これは、Baiらが、プラズマパラメータが、誘導結合プラズマにおける混合比とともに著しく変化し得ることを説明したように、マルチガスプラズマにかなり典型的である。[48]
【0041】
イオンビームの特性化
集束イオンビームの分子及び同位体組成を理解することは、VLE-PIXE技法の成功した実施を検証すること、並びにビームと試料との相互作用及び結果として生じる物理的プロセスを理解することの基本である。特に、ドープビームVLE-PIXE実験では、プラズマは、H+イオン(すなわち陽子)、並びにH2
+及びH3
+イオン、並びにある割合のドーパント種を発生させ、その比率は、プラズマパワー、圧力、及びガス状前駆体の分圧などのいくつかの要因に依存する。試料に入射する際のビームの特性化は、実験条件を決定する最良の方法である。このセクションは、ビーム組成を特性化するために使用される技法を教示する。
【0042】
ビーム化学
様々な一次水素イオンの形成をもたらす、プラズマ内で生じるいくつかの反応経路が存在する。[49]これらの種の比率は、圧力、パワー、電子密度、チャンバサイズ、及び電子温度などのプラズマ条件に大きく依存する。Fukumasaらは、ソース圧を1×10-4mbarから1×10-3mbarに変化させると、他の全てのパラメータは一定で、H+、H2
+及びH3
+の分子比を70%/15%/15%~10%/30%/60%に劇的にシフトさせることができることを実証した。[49]この理由のために、水素分子種の比率の決定は、試料における各個別の水素種の電流の正確な特性化によって行われるべきである。そのような手順を実行するために、上記種から構成される単一イオンビームは、個々のビームレットに分離されるべきであり、各ビームレットのイオンビーム電流は、特性化されるべきである。そうするための方法は、以下のサブセクションで説明される。
【0043】
イオンビームの「ビームレット」への分割
電子カラム(例えば、
図3のSEMカラム12)の磁場浸漬レンズ(magnetic
immersion lens、MIL)は、電子ビームのための最終レンズとして機能するとともに、カラム内に位置する検出器によって収集される電子を案内するのを助けるために、強力な磁場を利用する。[50、51]この磁場は、
図3に概略的に示されるように、正に帯電したイオンに印加されるローレンツ力の結果として、イオンがFIBカラムから試料に移動する際にイオンの偏向を引き起こすことが知られている。重要なことに、このローレンツ力は、イオンの質量電荷比に依存し、重いイオンよりも軽いイオンに大きな力が加えられる。
【0044】
MILによって発生する磁場の強度は、MILを流れる電流を増加又は減少させることによって調整することができ、正極性及び負極性の両方で印加することができる。この手順は、典型的には、試料上の電子ビームの焦点を調整するために使用される。しかしながら、磁場浸漬レンズは、コイルによって発生する磁場を強化する役割を果たす強磁性コアを含む。その結果、レンズコイルに印加された電流が除去されるとき、残留磁場が依然として存在する。したがって、電流が、残留磁場を補償するように作用するレンズコイルに印加されなければならず、その結果、効果的な磁場自由状態がもたらされる。これは、典型的には、
図1Bの装置1bなどの従来のデュアルビーム装置のFIB動作中に適用され、イオンビームは、偏向することなく試料に自由に移動する。
【0045】
しかしながら、MILの電流を変化させることは、ビーム内のイオンへの偏向を意図的に誘導する可能性を生み出す。磁場は、偏向がビーム走査視野に対してX方向のみであるように位置合わせされる。これは、質量/電荷比によるイオンビーム成分の分離をもたらし、最も重い成分はビーム軸の最も近くに落下し、最も軽い成分はある距離離れて落下する。
図3は、SEMカラム12及びFIBカラム6の試料隣接端部の近傍における磁場浸漬レンズ21及び結果として生じる浸漬磁場23の概略図であり、イオンビーム7の複数の偏向ビームレットへの分離を示している。偏向の程度は、ローレンツ方程式を使用して説明することができ、したがって、試料8の表面上に生成する焼け跡の位置から様々な分離種を同定するために使用することができる。
【0046】
磁場のない位置からのイオンの測定された横偏向H
3
+は、
図4に示されている。これらの値から、ローレンツ方程式を解くことによって、磁場の強度を決定することができる。次いで、この情報を使用して、いくつかの共通質量成分の横偏向が、特定の相対磁場強度に対して予測され得る。計算された偏向は、分離されたビームのスポット焼け画像と比較して非常に正確であることが見出された。逆に、種の質量は、分離されたビームのスポット焼け画像を使用して同定される、それらの横偏向に基づいて計算することができる。
【0047】
質量計算に続いて、最も可能性の高い分子又は同位体候補を単離するために、いくつか考慮しなければならない。そのような考慮事項の1つは、ソースガスからプラズマ中に発生したイオンの大部分が単独でイオン化されるかどうかである。質量同定は、単にイオン質量ではなく、質量電荷比(m/z)に基づくので、この決定は重要である。したがって、二重荷電イオンは、その実際の質量の半分を有するイオンとして誤って同定され得る。以前に報告されたHelios Hydra PFIB源の初期バージョンの性能は、300WのRF電力でXeを用いて動作するICP源に対してわずか0.75%の二重イオン化の割合を示した。[46]この電力は、このICP源の商用バージョンでXeとともに典型的に使用される37Wよりも著しく高く、したがって、二重イオン化Xeの割合は、0.75%よりも更に低いと予想される。その最も豊富な同位体に基づいて66個のトムソンの平均m/zを有する二重荷電Xeはまた、他の候補種が、ビーム中に存在すべきではない単一荷電銅、亜鉛又はガリウムなどの遷移金属であることを考慮すると、任意の他の可能性のあるビーム種から明確に区別することができる。
【0048】
Arは、200Wの典型的な動作電力で二重イオン化種を生成し得ることが示された。20Thのm/zにおけるAr2+スポットもまた、Ne+に起因し得るが、PFIBシステムにおいてNeが利用されないことを考慮すると、このピークは、Ar2+として明確に同定され得る。最大400Wの電力での窒素ICP源に関する研究は、N2
2+種の生成が検出不能であり、解離したN+種ははるかに可能性が高いことを実証した。[52]窒素種N2
2+はまた、N+と重なり、区別が不可能である。最大300Wの電力での酸素ICP源に関する研究も、二重イオン化O2
2+を検出することができず、ここでも、O及びO+種への解離がはるかに起こりやすいことを実証している。[53]H2分子を二重にイオン化することは不可能であり、それは、結合を容易にする電子が残っておらず、これは2つの遊離H+イオンと等価だからである。
【0049】
考えなければならない別のプロセスは、プラズマ源で起こる化学反応の可能性である。ガス状Arは、典型的には非反応性希ガスであると考えられているが、プラズマ中の様々な他の種と分子を形成することが可能である。これらの分子は、多原子干渉と称され、Arキャリアガスが検体種と分子を形成することができるICP質量分析において特に優勢である。これらの干渉分子は、52Cr、56Fe、75As、及び80Seとして誤って同定された、40Ar12C、40Ar16O、40Ar35Cl、及び40Ar40Arなどの種の不正確な同定をもたらし得る。[54]これらの多原子は、40ThでのArの一次m/zピークと132ThでのXeの一次ピークとの間に入る。これら2つの質量の間に他のイオンは予想されないので、これはAr多原子の同定を簡単にする。
【0050】
ビーム成分電流の測定
ビーム成分が同定されると、各ビームレット種の定量化を行うことができる。これらの測定に対して、標準的なファラデーカップ設計は、カップの上面に当たる全ての荷電粒子が電流を記録し、総ビーム電流のみが測定されるので、機能しない。特別なファラデーカップを使用して、カップの上面に衝突する粒子が拒絶され、アパーチャを通って入る粒子のみが測定されるようにしなければならない。そこで、「分離」ファラデーカップと呼ばれる特別なファラデーカップがこの目的のために設計された。
【0051】
図18は、本教示による単離用ファラデーカップ400の概略断面図であり、装置の動作原理を示している。ファラデーカップ400は、第1の電極401と、第1の電極401から離隔され、かつ1つ以上の電気絶縁スペーサ402によって第1の電極から分離された第2の電極403と、を備える。例えば、装置は、概して円筒形の形状(又は何らかの他の形状)であってもよく、その場合、装置は、単一のリング状スペーサ402を備えてもよく、第1の電極は、円形プレートの形態であってもよい。第1の電極は、個々の分離されたビーム成分(すなわち、ビームレット)間の間隔よりも小さい直径を有するアパーチャを備え、そのうちの5つである7a、7b、7c、7d及び7eが示されている。したがって、1つのみのそのようなビームレット(例えば、ビームレット7a)のイオンが、いつでもアパーチャを通過し得る。他のビームレットのイオンは、第1の電極401の表面に衝突させられる。第1の電極401は、導電体407を介して接地されているので、第1の電極に当たるビーム成分のイオンに由来する電流は、接地に直接流れる。アパーチャ404に入るビーム成分(例えば、個々のビームレット)の電荷のみが、単離用ファラデーカップ400によって収集され、電荷コレクタキャビティ405に入る。アパーチャ404を通過する単一ビーム成分を介してキャビティに入る電流は、導電体408によって第2の電極403に電気的に結合されたピコ電流計などの電位計(図示せず)によって測定され得る。同様の設計が、イオンビームの形状の測定のために以前から実装されている。[76]
【0052】
第2の電極403の電荷コレクタキャビティ405は、
図18に示される特定の形状で提供される必要はない。より一般的には、キャビティは、イオン及び/又は二次電子をキャビティ開口に向かって上に導くのではなく、キャビティの内壁に導くことによって、デバイスの収集効率及び精度を高めるように設計された形状であってもよい。したがって、キャビティは、
図18に示されるキャビティ壁のいずれかに必ずしも平行ではない追加のキャビティセグメント及び追加のキャビティ壁を含んでもよい。
【0053】
イオンビームの各個々の成分に関連する電流を測定するために、分離されたビームレットは、単離用ファラデーカップ400の面にわたって、及びアパーチャ404にわたって走査されてもよい。矢印406は、ビームレットの組と単離用ファラデーカップ400との間の相対運動を概略的に示す。走査プロセスは、市販のFIB又はSEM顕微鏡装置の内蔵走査パターン発生器を使用することによって達成され得る。あるいは、イオンビームレットが静止したままである間に、単離用ファラデーカップを可動ステージアセンブリによって小さなステップでプログラム的に移動させてもよい。
【0054】
図5は、200Wの水素プラズマに対するビームレット電流測定値を示しており、各ビームレットの電流は、総ビーム組成の割合に変換することができる。この走査では、種H
+、H
2
+及びH
3
+は、N
2
+、O
2
+Ar
+及びXe
+種からの寄与と同様に同定することができる。このビームの組成割合を表2に示す。
【0055】
ソースプラズマを発生させるために使用されるRF電力は、ソースプラズマ内の反応経路に影響を及ぼすプラズマ密度及び電子温度の変化に起因して、水素イオンビームの組成を変更させ得ることが知られている。[49]そこで、
図6Aに示すように、陽子生成のための最適なRF電力を確立するために、プラズマ源RF電力の関数としてビーム組成を測定した。
図6Aのトレース31、32、33、34及び35は、それぞれの種の測定された割合に関する。
【0056】
【表2】
H
3
+、H
2
+、N
2
++O
2
+、Xe
+及びH
+。
図6Bに示すように、プラズマRF電力を増加させると、ビーム中のH
+イオンの割合が増加し、それに対応して総ビーム電流が増加することが観測される。したがって、プラズマ源を可能な限り高いRF電力で動作させることにより、最大ビーム電流と水素ビーム中の陽子の最大割合との両方が達成される。しかしながら、プラズマパワーを増加させると、プラズマチャンバの温度も上昇し、その結果、プラズマ源に永久的な損傷を与える場合がある。この理由から、200Wの電力が最大安全動作RF電力であると考えた。
【0057】
ビーム内のH
+イオン(陽子)の割合が比較的低いため、VLE-PIXE測定中の分析のための十分なX線信号を発生させるために高電流を使用しなければならない。したがって、組成電流測定を行って、ビーム電流の増加がビーム中の種の割合に影響を及ぼすかどうかを判定した。その測定の結果を
図6Cに示す。
図6Cのトレース41、42、43、44、45及び46は、それぞれ、種H
3
+、H
2
+、H
+、N
2
++O
2
+、Xe
+及びAr
+の測定された割合に関する。これらの測定値は、ビーム組成の小さな変化のみが、ビーム電流の数桁の大きさの変化にわたって生じることを実証する。この理由から、ビームスポットサイズがより小さい低電流でビームレットの特性化を効果的に行うことができ、ビームレット間の分離をより良好にするとともに、特に重いイオン種の存在に起因してより大きなスパッタ収率を有するドープビームを特性化するときに、単離用ファラデーカップへの損傷を低減する。
【0058】
ビーム純度の制御
ソース種の切り替え中のFIB源内に残留する残留汚染のために、高純度水素ビームを達成することは、重大な課題となった。大気汚染からのようなN2
+及びO2
+、並びに、以前のイオン源種及び以前のビームドーピング実験からの残留汚染によるAr+及びXe+などのいくつかの汚染物質種がビーム中に共通して観測された。
【0059】
ガス送達システム及びプラズマ源は、ガス源切り替え中にPFIB真空システムを使用してポンプ圧送されるが、このポンプ圧送による汚染低減の有効性は、次のガス状ソース種の導入前のポンプ圧送時間に依存する。この状況におけるポンプ圧送速度は、ポンプによってではなく、ガス流量によって制限され、システムのコンダクタンスによって決定される。[55]ガス送達ラインに使用される長くて細い管、プラズマチャンバの入口における計量オリフィス、及びFIBカラム内の差動ポンプ圧送ゾーンを分離するアパーチャなどのいくつかの因子は、真空システムのコンダクタンスを制限し、結果として、十分に長いポンプ圧送サイクルが使用されない場合には汚染ガス分子がシステム内に残ってしまう。高純度水素ビームが必要とされる用途では、ガス送達システム及びプラズマ源チャンバは、長期間、典型的には一晩にわたって真空ポンプ圧送によって排気された。一晩の真空ポンプ圧送サイクルは、Ar値をビーム組成の1%未満に減少させることが見出された。
【0060】
汚染物質種を更に減少させるためには、複数のパージサイクルによって、所望のガス種を導入し、システムからの残留ガスのスクラビングを可能にするために数回ポンプ排気するなど、追加の努力が必要とされる。しかしながら、複数のパージサイクルは、かなりの量の高純度ソースガスを浪費し、コストがかかり、ソースガスボンベの頻繁な交換を必要とし得る。他のビーム種が存在しないことが望まれる重要な実験を行うために、イオンビームを別個のビームレットに分割する技法を用いて、異なるビーム成分(すなわち、異なるイオン種)を試料上の異なる領域に導いてもよい。この技法は、例えば、特定のイオン種によって試料領域上に発生するX線信号を単離するために有利に使用された。
【0061】
より短い真空ポンプサイクルを利用することは、少量のArがビーム中に残ることを可能にし、これは、典型的には、高純度水素ビームが必要とされるときに望ましくない。しかしながら、短い真空ポンプ圧送サイクルは、ソースガス送達システムにおいて追加のガス混合を必要とすることなく、低濃度ドープされた水素ビームを達成する簡単な方法を提供することが見出された。低濃度ドープされた(10%未満)ビームは、所望のドーパント種から構成されるソースから開始し、水素ビームに切り替えることによって、Arガスの送達を停止し、水素ガスの送達に変更することによって、修正されたポンプ圧送サイクル(例えば、以下のセクションで提案されるような)を使用して、ドーパント種のかなりの割合がプラズマ源及びガス送達ラインに残るように、簡単に達成することができた。この方法は、ドーパント種の割合に対してかなりの量の制御を与えなかったが、ビーム組成の事後特性化が典型的に行われ、測定されたビーム組成は、任意の実験データにおいて説明することができた。より高濃度にドープされたビームを達成するには、プラズマチャンバ内でガスを混合する必要があった。
【0062】
最適化されたビーム化学制御パラメータ
以下は、本発明者らの装置を使用して決定される典型的な動作パラメータとして提示され、決して限定することを意図するものではない。
【0063】
ソースプラズマ
ガス供給調節器は、2~4×10-3mbarを達成するように調整されるべきである。プラズマチャンバ出口圧力は、6~7×10-3mbarの範囲であるべきである。プラズマパワーは、損傷の危険性がない場合、200W以上に設定されるべきである。
【0064】
ビーム分割
ビーム分割は、個々の成分を単離するために使用されるべきである。ビーム分割のために、隣接するSEMカラム電流の浸漬レンズコイルは、浸漬磁場の強度を修正するように調整されるべきである。約2.04アンペアターンのコイル電流は、収束ビームに対応し、ユーセントリックでの30keVに対する0アンペアターンのコイル電流は、最も軽い種(H+)と約550μmの最も重い種(Xe+)との間の分離に対応する。
【0065】
高純度水素ビーム
集束イオンビームガス送達ライン及びプラズマチャンバは、残留ガス種を除去するために、理想的には一晩真空ポンプ圧送されるべきである。非常に純粋なビームの場合、所望のガスがシステム内に導入され、次いで長時間にわたってポンプ排気され、次いでプラズマ点火のために再導入されるべきである。
【0066】
低濃度ドープされた水素ビーム
所望のドーパント種のソースから開始して、ビームは、変更されたポンプ圧送サイクルで水素に切り替えられるべきである。一次真空ポンプの遅延が10秒であり、ターボ分子ポンプの遅延が10秒であると、約10%のドーパント種をもたらし、残りの水素である。
【0067】
ビーム散乱の最小化
集束イオンビーム装置のチャンバは、実験を開始する前に、目標真空圧力に到達した後、最低2時間ポンプ排気されるべきである。一般にイオンゲッターポンプによって維持される下部FIBカラム内の圧力は、実験中のビーム電流又は組成の変化を回避するために、実験の開始前に監視され、平衡化されるべきである。
【0068】
VLE-PIXE信号発生の検証
以下に概説するように、実験を行って、検出されたX線信号が、実際に試料への陽子衝突の結果として発生していることを検証した。更に、顕微鏡及び関連機器によって発生した、漂遊電子、中和されたイオン、及び後方散乱イオンなどのスプリアス信号の役割が分析され、EDS検出器自体から生じるものなど、他のスペクトルアーチファクトも分析された。VLE-PIXE測定に対するこれらのスプリアス信号の影響を低減するための最適化された動作パラメータが説明される。
【0069】
信号への陽子寄与
所与の加速エネルギーに対して、X線生成断面(XRPCS)は、それらの低質量及び結果的に高速の結果として、より重いイオンと比較して、陽子に対して最大であることが周知である。XRPCSは、イオン質量を増加させるにつれて、急速に減少するので、2amuの質量を有するHe+イオンでさえも分析のために十分なX線を発生させることは不可能であるということが成立する。[56]この理由から、VLE-PIXE信号は、陽子によって発生すると予想される。しかしながら、上述したように、誘導結合プラズマイオン源から生じるドープビームは、様々なイオン種を含む。ビームの陽子成分が、そのようなビームが試料上に導かれたときに観測されるX線スペクトルの強度のほとんど又は全ての発生に関与することを実験的に検証することが必要である。
【0070】
本明細書で前述したように、イオンビームに近接する磁場浸漬レンズによって生成される浸漬磁場は、イオンビームをその個々の質量成分に空間的に分離させることができる。次いで、ビームの分離されたイオン成分は、結果として生じるX線放出を測定しながら、試料に向かって個々に導かれ得る。特に、分離されたビーム成分が、単結晶Cu(100)基板の半分の上にスパッタコーティングされた1μmアルミニウム層を含むバイナリ試料に向けて導かれた実験が実施された。バイナリ試料上の異なる材料間の界面にわたって分離されたビームレットを移動させることによって、各ビーム種からのX線信号寄与を決定することができた。
【0071】
上記実験に先立って、2nAプリセット、30keVの水素ビームを実験前に測定したところ、ビームは、検出可能なArシグナルがなく、10.84%のH+、11.94%のH2
+、53.14%のH3
+、5.69%のO2
+及びN2
+、及び18.37%のXe+からなることが示された。ビームは、H+成分のみがAl膜上に落ち、ビームの残りがCu基板上に落ちるように位置合わせされた。X線スペクトルを20分間捕捉した。次に、H+成分及びH2
+成分の両方がAl膜上に落ちるように、試料が取り付けられたステージを移動させた。残りのビーム成分に対してステージ移動を繰り返し、各条件に対するスペクトルを比較した。各種からの寄与を単離することができるように、連続的な各照射からのスペクトルを前のものから減算した。最も高い強度のAlピークであるAl
【0072】
【数2】
線を、Al膜からの信号の同定のために使用した。Al
【0073】
【数3】
線が検出器のノイズピークに近接しているため、ノイズピークをこれらのスペクトルから減算した。
【0074】
図7に示すように、AlのX線信号の大部分は、試料へのH
+イオン(すなわち、陽子)の衝突から生じる。H
+イオンよりも割合が高いにもかかわらず、H
2
+及びH
3
+分子の信号への寄与は無視できることも観測される。この実験におけるビーム分離のための磁場浸漬レンズの使用はまた、残留ガス分子とのイオン衝突の結果として発生する任意の漂遊電子が、試料から離れるように偏向されるであろうという追加の利点を有する。
【0075】
陽子のみによって発生する信号は、スペクトルへの主要な寄与であるが、水素ビームがより重いイオン種でドープされるときに発生する信号よりも依然としてはるかに弱い。これは、NIST標準物質の試料のドープビームスペクトルにおける顕著なAl K
α線と比較して(例えば、
図14A)、陽子のみによって発生したX線スペクトルにおける1.486keVでのAl K
α線が全く存在しないことによって決定することができるが、後者の試料におけるAlの濃度は著しく低い(例えば、表4を参照)。NIST試料中のAl K
α線の存在は、Al
【0076】
【数4】
線よりもはるかに低いXRPCSを有し、ビームドーピング、特にドープされたビーム成分の重なりが、VLE-PIXE測定中に大量のX線を生成するのに不可欠であり、試料中の副元素及び微量元素の同定に重要であることを実証する。
【0077】
後方散乱イオンからの干渉
24keVより大きい加速電圧では、広く強いバックグラウンド信号が、低いX線エネルギーで現れ、3~4keVのエネルギーまで広がることが見出された。最初は試料表面への一次イオン衝突の結果としての制動放射であると考えられていたが、そのような低エネルギーでの陽子衝突は、感知できる制動放射を発生させることは期待されていない。加えて、バックグラウンドは、標的質量:Mg(Z=12)、Cu(Z=29)、及びAu(Z=79)の増加に伴って、強度をはっきりとスケーリングすることが示され、これは、制動放射では、そのような程度まで典型的には観測されない現象である。
【0078】
このバックグラウンドの性質を確認するために、窓付きEDS検出器及び窓なしEDS検出器を用いて、同じ単結晶Cu試料上で2つのスペクトルを、このバックグラウンドの閾値を下回る、8.1keVで収集した。スペクトルが窓なし検出器で捕捉されたときにはバックグラウンドが存在するが、窓付き検出器が使用されたときには存在しないことが見出された。この結果は、窓がバックグラウンド信号を遮断する役割を担っていることを実証している。
【0079】
この広いバックグラウンド信号は、試料から後方散乱し、かつEDS検出器表面に衝突し、それによって信号を発生させるイオンに起因すると結論付けられた。窓付き検出器が使用される場合、この信号は、窓を通る後方散乱イオンの透過閾値に起因して、24keVのエネルギーまで現れない。しかしながら、窓なし検出器が使用される場合、後方散乱イオンは、検出器表面に自由に衝突する。薄い検出器窓が、依然として非常に低いエネルギーのX線の透過を可能にしながら、24keVのエネルギーまでの全ての後方散乱イオンを遮断することが可能であるという事実は、LE-PIXE及びPIXE技法に対するVLE-PIXEの顕著な利点である。VLE-PIXEスペクトルは、典型的には24keV未満のエネルギーで行って、後方散乱イオンバックグラウンドの影響を回避した。しかしながら、後方散乱イオンバックグラウンドと分析物ピークとの間に干渉のリスクがない場合、スペクトルは、少なくとも50keVまでの30keVより上で取られてもよい。
【0080】
結合された陽子/重イオンビームの重なりに対する信号の依存性
本明細書で上述したように、イオンの軌道は、イオンがFIBカラムから試料に移動する際にイオンを浸漬磁場に通過させることによって、イオンの質量対電荷値に従って示差的に偏向させ得る。その結果、
図8A~
図8Bに示されるように、ビームを個々の質量成分に分離することができる。磁場強度は、ビーム成分が完全に重なるように(
図8A)、又は磁場強度が増加するときに互いに分離されるように(
図8B)、調整することができる。VLE-PIXEの場合、本発明者らの最初の予想は、陽子とドーパント種との空間的分離(例えば、
図8B)が、VLE-PIXE信号強度に何ら顕著な影響を及ぼさないであろうということであった。実際に観測されたことは、陽子及び重イオン種が徐々に分離されるにつれて、X線信号が急速に減少するということである。これは
図8Cに示されており、ここで、NIST標準物質SRM 654bのVLE-PIXEスペクトル(本明細書の微量元素分析のサブセクションにおいて以下で更に論じられ、表4を参照されたい)が、相対磁場強度(ビーム分離と相関する)の関数として示されている。具体的には、
図8Cは、磁場強度が増加するにつれて、いくつかの顕著なX線ピークの強度が変化することを示している。このプロットに示される特定のピークは、それらが全てのスペクトルに存在したままであるように選択された。これらの結果は、試料上の同じ位置への陽子及び重イオンドーパント種の衝突が、水素及び重イオンドーパント信号の合計よりも大きいX線信号をもたらすことを実証している。
図8A~
図8Bに示される照射スポットの焼け跡の走査型電子顕微鏡画像は、磁場強度の増加に伴うビーム成分の重なりの変化を実証している。
【0081】
更に、
図8Cのデータは、VLE-PIXE信号の減少がX線スペクトル全体にわたって等しくないことを示している。代わりに、この減少は、約1keVより大きいX線エネルギーを有するピークを含むスペクトルの部分について主に観測される。この低エネルギー領域におけるピークの強度は、磁場強度に対して比較的不変である。例えば、
図8Cに見られるように、Ti
【0082】
【数5】
線は、磁場強度に関して変化しない。重要な観測は、1keVより上のピークが主にK殻X線ピークであり、1keVより下のピークが主にL殻ピークであることである。この証拠は、約1keVのエネルギーを下回って観測されるピークは、これらのピークが、ビーム成分が分離されている場合であっても観測されるので、陽子単独の影響による可能性が高いという結論につながる。
【0083】
図8Cにプロットされたデータから、磁場強度を有する最大X線強度は、ゼロ相対磁場位置から約20%オフセットされていることにも留意されたい。このオフセットは、調整されたときにゼロ相対磁場強度の基準点になる、磁場浸漬レンズコイルの残留磁場を打ち消すために必要な磁場強度の設定におけるオフセットに起因すると考えられる。ゼロ相対磁場強度位置は、全てのビーム成分二次電子像が視覚的に収束するまで、磁場浸漬レンズコイルの強度を手動で変更することによって設定される。より強いH
2
+及びH
3
+種に対するH
+ビームの非常に弱い強度は、H
+イオンによって発生した画像を視覚的に位置合わせすることを非常に困難にする。したがって、ビーム画像を視覚的に位置合わせすることは、ゼロ相対磁場強度点において、H
+種と残りのビーム成分との完全な重なりをもたらさない場合がある。
【0084】
図8Cに示されるピーク強度挙動(具体的には、約1keVを上回るエネルギーレベルに関連付けられるX線ピークのX線強度における、ビームレット分離の増加に伴う減少)が、陽子及びドーパントイオンの両方と試料との複雑な相互作用に関して正確に説明されると確信して結論付けるために、本発明者らは、可能な非試料関連代替説明を除外する必要があった。そのような代替説明は、(a)イオンビームをビームレットに分離するために使用される磁場の強度の増加に伴って総ビーム電流を変化させることと、(b)真空チャンバ及びFIBカラム内のガス散乱から発生する漂遊電子の影響と、を含む。
【0085】
総ビーム電流に対する磁場強度の影響を試験するために、この電流は、全ての成分ビームレットの個々の電流測定値を積分することによって、相対磁場強度のいくつかの値で測定された。これらの実験から、総ビーム電流は磁場強度の変化とともに変動するが、その変動は、磁場強度によるX線強度の変化に関して
図8Cで観測された挙動とは反対であることが観測された。
【0086】
VLE-PIXEスペクトル上のビーム電流のそのような変化の影響を更に決定するために、SRM 654bのいくつかのVLE-PIXEスペクトルを、1桁を超えるビーム電流の関数として取得した。これらの実験に基づき、
図8Cにおける最も強いスペクトルと最大磁場強度におけるスペクトルとの間の総X線カウント数の減少を考慮して、VLE-PIXE信号(
図8C)の測定された変化を観測するために、総ビーム電流の90%超の減少が必要とされることが決定された。一連のSRM 654bスペクトルの収集中に、全範囲の磁場強度にわたって全電流の20%以下の変化が観測されたので、磁場による電流の変化は、観測された効果の原因とはなり得ない。更に、一連のSRM 654bスペクトルの収集中に総イオン電流に関して観測されたVLE-PIXE信号の変化は、スペクトル全体に等しく影響を及ぼすことが見出された。この結果は、磁場浸漬レンズによって発生する磁場の強さの一般的な観測変化が約1keVを上回るスペクトル領域のみに影響を及ぼすこととは対照的である。これは、ビーム電流の変化が、変化する磁場によるVLE-PIXE信号の減少の原因ではあり得ないという追加の証拠を提供する。
【0087】
最後に、
図8Cで観測されるX線強度挙動が試料上への漂遊電子の加速に関連するという別の仮説は、電子がVLE-PIXE信号の増強を引き起こし得るが、制動放射バックグラウンドの増加を犠牲にしてそうするという本発明者らの一般的な観測によって除外された。そのような制動放射バックグラウンドの増加は、VLE-PIXEスペクトルでは観測されない。したがって、ビームドーピングによって誘導されるVLE-PIXE信号の増強は、したがって、例えば、ドーパント重イオン種によるガス分子からの増強された散乱に起因する、下部カラムにおける電子の生成の増加には基づき得ないと結論付けられる。
【0088】
VLE-PIXE性能に対する重イオン種の同一性の影響
上記で確立されたように、試料の同じ領域に対する陽子及び重イオンドーパント種の効果は、増強されたX線信号を発生させるために不可欠である。X線生成におけるドーパントイオン種の影響を確立するために、ビームは、99%超の水素、並びにN、Ar、及びXeでドープされた水素を用いて調製された。磁場浸漬レンズによって発生する浸漬磁場を増加させる効果を、各ビーム組成について調査した。99%超の水素ビームを確立するために、FIBカラムを一晩排気して残留ガス種を除去した。低濃度ドープされたビームを確立するために、上述のガス混合手順が使用された。測定前後のこれらのビームの組成を以下の表3に示す。
【0089】
全てのスペクトルに対する磁場強度の増加に関する強度は、再び、
図8Cに示されるものと同様の傾向に従い、最初に増加し、次いで減少する。しかしながら、増加する磁場強度に対するドープされていない(99%超の水素)VLE-PIXEスペクトルの応答は、1keVより大きいEDSスペクトルの部分におけるピーク強度の中程度の減少のみを示す。この応答は、非常にクリーンなビームを確立するための最善の努力にもかかわらず、いくらかの残留汚染が依然として存在することを示し、また、微量の汚染であってもX線の生成を強化するのに十分であることを実証している。ドープされていないスペクトル及び窒素スペクトルは、窒素発射体からの放出に起因し得る約0.392keVでの顕著に増強されたピークを除いて、非常に類似している。これら両方のスペクトルに対する磁場に関する同様の変化は、窒素がVLE-PIXEスペクトルの増強に対して無視できる効果を有すること、及び分離されたビームに対する任意の増強が残留Ar又はXe汚染物質に起因し得ることを示唆している。Arドープ及びXeドープスペクトルは、1keVより大きいスペクトル全体にわたって、完全に分離されたビームと比較して、顕著なピーク増強を示している。Xeドープスペクトルと比較すると、約0.22keVのX線エネルギーで強いピークが、Arドープスペクトルにおいて観測され、Ar発射体からの放出に起因する。しかしながら、Xeドープスペクトルは、いかなる追加のピークも示さず、したがって、Ar又はNの影響が試料特性ピークを不明瞭にし得る領域における低エネルギーピークの分析のための好ましい種であると決定される。
【0090】
【0091】
ドープされていない水素ビームに対する増強係数が、各ドーパント種について
図9に示されている。この図に示されるように、X線生成の顕著な増加は、Ar種及びXe種の導入によって実証されるが、N種の影響は無視できた。窒素の低いスペクトル増強は、Ar及びXeと比較して、N電子構造の単純な性質に起因し得、準分子の形成に起因して、標的原子の電子構造におけるより少ない有意な変化をもたらす。N種のより高い速度、並びにより小さい原子半径はまた、Ar又はXeと比較してより短い寿命の準分子をもたらし得る。本発明者らは、Nの衝突時間がArの衝突時間の約0.58倍、Xeの衝突時間の約0.37倍であると計算しており、これも試料との同時相互作用の確率を低下させる。全てのこれらの要因は、
図9に反映されているように、Ar及びXeと比較してNの性能の低下をもたらす。
【0092】
Arドーパント種とXeドーパント種との間の性能の増加は小さかった。この効果は、衝突中に達成される最小核間距離として定義される、Arと比較してXeの最接近距離がはるかに大きいことに起因し得る。Ar及びXeについてそれぞれ5.76×10-11m及び5.18×10-10mとして計算されるこのメトリックは、準分子の形成に関連するエネルギーレベルのシフトに影響し、最接近の距離が小さいほど、発射体及び標的エネルギーレベルのシフトが大きくなる。Nの場合、8.71×10-12mでAr及びXeと比較して非常に短い最接近距離にもかかわらず、N電子構造及び短寿命の準分子の単純な性質は、より短い最接近距離の影響を打ち消す。
【0093】
VLE-PIXE性能に対するドーパント種の割合の影響
VLE-PIXE性能に対するドーパント種の割合の影響を決定するために実験を行った。この実験は、Arドープスペクトルに見られる追加のピークが存在しないためにXeが好ましいにもかかわらず、XeではなくドーパントとしてArを使用して行われた。キセノンは、Xe源プラズマの制限のために使用されなかった。しかしながら、Xeは、
図9に示すように、99%超の水素ビームに対する性能の増加によって実証されるように、Arと同様の結果を与えることが予想される。実験の第1の部分では、VLE-PIXEスペクトルを、99%超のArビームを用いてNIST標準物質SRM 654b(表4)で取得した。以前のソース種からの汚染は、いくらかの量の水素が依然として存在し、それがいくらかの量のX線の発生をもたらし得ることを意味した。プラズマ源のガス供給ラインを完全にArで満たした状態で、水素ビームのスイッチを入れ、少量の水素ガスを導入した。ビーム組成を測定し、VLE-PIXEスペクトルを捕捉した。次いで、ソースプラズマのスイッチを切り、ガス供給ラインの小部分を、プラズマ源真空システムを使用して排気した。プラズマ源をもう一度点火し、初期Ar含有量を残りの水素で希釈した。これを数回行い、水素中のアルゴンの分圧に対する多数のVLE-PIXEスペクトルを得た。各真空ポンプ圧送サイクルでのビームの組成割合が
図10に示されており、Ar含有量は、測定の過程で99%から1.7%に減少することが示されている。
【0094】
上の段落で説明した実験方法を使用すると、一般に、水素ガス源ボンベまでのガス送達ラインに著しい汚染がもたらされることに留意されたい。この測定に続いて、ラインの完全な流動及びポンプ圧送が推奨される。ドーパント種に対する水素の所望の割合が必要とされる商業用途では、理想的には、実験の過程でビーム組成が固定されたままであり、ビーム組成をより予測可能な方法で再現することができるように、予め混合されたガス源が使用される。より柔軟なビーム混合のために、質量流量コントローラ(mass flow controllers、MFC)を使用して、各ビーム種の混合比を正確に決定し得る。
【0095】
総信号強度の増加は、
図11に示されるように、Arの割合が1%から約80%に増加していることから、実証されている。これに続いて、Ar含有量が99%に近づき、ビーム中の水素含有量が0に近づくにつれて、VLE-PIXE信号が急速に減少する。この結果は、VLE-PIXE信号を発生させるためにある割合の水素が必要であることを実証している。水素ビームへのわずかな割合の重イオン種の追加であっても、VLE-PIXE信号の顕著な増強をもたらす。逆に、わずかな割合の水素を重イオン種ビームに追加することは、特性X線信号を生成することもできる重イオンビームをもたらすことができる。これは、X線信号が重イオンビームによるFIBミリング中に分析されることができ、試料の除層に対する正確な制御を可能にするエンドポインティング方法などの技術の可能性を開く。また、これにより、ミリングステップ及び特性化ステップの両方を1つに組み合わせることができ、この技法を行うためにかかる実験時間を潜在的に短縮する、連続断層撮影の代替法を提供することができた。
【0096】
単離された重イオンのスペクトル強度寄与の決定
X線信号強度は、主に水素から構成されるイオンビームへの少ない割合のドーパント重イオンの追加とともに増加することが観測されるので、増加した信号強度がドーパントのみにどの程度起因するかを決定することが重要である。したがって、重イオン種単独のX線生成に対する影響を決定するために、ビームの大部分がドーパント種N、Ar、及びXeから構成されるビームを用いてVLE-PIXEスペクトルを取得した。第1の実験では、FIBプラズマチャンバを一晩真空ポンプ圧送することによって、高純度(99%超)窒素ビームが確立された。実験前のビーム組成を上述の方法で測定した。これらの測定は、ビーム中の種の大部分がN2
+イオン及びN+イオンに起因し得ることを決定した。水素種などの微量の他のビーム種が存在している可能性があったが、それらは測定の検出閾値未満であった。
【0097】
試料から放出されたX線の測定は、試料がほぼ完全に窒素から構成されるイオンビームで照射されたときに、かなりの量のX線が生成されることを示す。試料のX線スペクトルは、チタン
【0098】
【0099】
【数7】
アルミニウム(Al K
α)及びケイ素(Si K
α)に起因するピークを含む。しかしながら、これらのX線が、窒素イオンに対するクーロンX線生成断面が非常に小さいと予想されるエネルギーで生成されていることを考慮すると、これらのX線は、準分子相互作用を介して、又はビーム中に残留する微量の水素の結果として生成されている可能性が非常に高い。Brandt及びLaubertが説明したように、発射体と標的原子との間の準分子相互作用に起因して、重イオンX線生成のための断面は、そのような低エネルギーにおける陽子よりも著しく高いであろう[57]。加えて、0.39keVのエネルギーにおける広く強いピークの出現は、N発射体イオンから標的原子への空孔移動から生じる分子軌道放出に起因する可能性が高い。この分子軌道放出は、Saris及びMacdonald[58,59]によって最初に観測された。
【0100】
Arビームを使用して同様の実験を行ったが、ここでも比較的高純度のビームが確立された。高純度窒素ビーム実験で観測されたのと同じTi、V、Al及びSiピークが、高純度アルゴンビーム実験によって誘導されたX線スペクトルでも観測されている。更に、強いX線ピークが約0.22keVのエネルギーで観測され、これは、0.2217eVでのAr Lηピーク及び0.2201eVでのAr
【0101】
【数8】
ピークの近くに位置する。このピークは、再び、窒素VLE-PIXEスペクトルの場合について論じたように、発射体と標的原子との間の相互作用からの分子軌道放出に起因する可能性が高い。いくつかの弱い特性ピークも観測され、これは、空孔移動に起因し得る。
【0102】
最後に、高純度Xeビームを使用して同様の実験を行った。37WでのXeプラズマのRF電力は、他の種に使用される200Wよりも著しく低いことに留意されたい。他のビーム種のイオン化ポテンシャルがはるかに高いため、このXeビームはほぼXeのみから構成されている可能性が高く、この仮説は、Xe+種のみが検出された分析の前にビーム組成を分析することによって裏付けられる。Ti、Al、Si及びVに起因する弱いX線ピークが観測される。X線スペクトルはまた、Xeが水素ビームに対するドーパントとして良好に機能し、スペクトルバックグラウンドが大幅に低減された結果として、N又はArと比較して、最適なドーパント種であると考えられることを示す。しかしながら、Xeの使用は、高いスパッタ収率に起因して、より大きな試料損傷をもたらし得ることに留意されたい。加えて、Xeプラズマに印加され得るRF電力に対する制限は、水素分子の効果的なイオン化及び陽子の形成のためにより高いRF電力が必要とされる水素又はXeのいずれかの高い分圧でのドーパントとしてのXeの使用を制限する。
【0103】
ドープされた水素ビームによる照射下で観測されたスペクトルの信号強度が、各成分による別々の照射によって生成されたスペクトルの合計より実際に大きいかどうかを決定するために、高純度水素ビーム実験からの最も強いスペクトル及び高純度Xeビームからの最も強いスペクトルを、人工的に発生したXeドープされた水素スペクトルを発生させるために比例して加えた。結果は、個々の純粋なH及び純粋なXeスペクトルが一緒に加えられ、ビーム中の各種の割合に調整された場合、得られる強度は、水素ビームにわずかな割合のXeをドープした場合に達成されるVLE-PIXEスペクトルよりも著しく低いことを示し、それによって、高品質のVLE-PIXEスペクトルを得るためには、別々の陽子及び重イオンビームが重ならなければならず、X線放出のメカニズムの任意の詳細な理論が両方の種と試料との相互作用を説明しなければならないという仮説を確証する。
【0104】
最適化されたドープビームVLE-PIXEパラメータ
以下は、本発明者らの装置を使用して決定される典型的な装置動作パラメータであり、決して限定することを意図するものではない。
【0105】
ビーム構成
●SEMカラムの浸漬磁場は、存在する場合、最も高いX線信号を達成するように調整することができ、これは、収束ビームを生じさせるレンズ設定に対して約20パーセントオフセットされ得る。
【0106】
ドーパント種
●Xeは、この種によって発生する追加の分子軌道ピークがないため、ドーパント種として理想的に使用される。
●Arは、高いRF電力Xeプラズマがプラズマ源に永久的な損傷を引き起こし得るので、高いRF電力が必要とされる状況において使用され得る。
【0107】
重い種がドープされた水素ビーム
●プラズマチャンバ及びFIBカラムを一晩排気する。
●イオン源入力を30分以上の期間にわたって所望のドーパント種に切り替える。
●10秒のPVP遅延及び10秒のTMP遅延のための真空ポンプ圧送サイクルを修正する。
●イオン源入力を水素に切り替える。これにより、約10%のドーパント種及び残りの水素が得られ、これは微量元素分析に最適である。
【0108】
水素ドープされた重い種ビーム
●理想的には、80%の重イオン種及び残りの水素種のビーム組成が達成されるように、予混合されたガス源が使用される。
●あるいは、プラズマ源ガス送達ラインは、低圧の水素で満たすことができ、重イオン種プラズマは、残りの重イオン種を導入するためにオンにされる。
●より柔軟なガス混合のために、マイクロ流量コントローラを使用して、ガス前駆体種の割合を制御することができる。
【0109】
VLE-PIXEの応用
EDSマッピング
SEM-EDS及びマイクロPIXEなどのマイクロ及びナノスケール分析技法の重要な能力は、試料中の元素成分を空間的に分解する能力である。これは、試料内の元素の分布が、使用されている機器によって制限される分解能で確立され得るという点で、バルク分析技法を上回る顕著な利点を提供する。
【0110】
約50nAのXeドープ水素ビーム(約6%のXe及び残りの水素)で収集されたVLE-PIXE元素マップの例を
図12B~
図12Cに示す。
図12Aは、FIB二次電子(SE)コントラストイメージングを使用して観測された、Si(100)ウエハ上で剥離されたMoS
2薄片を再描画したバージョンである。コントラスト画像のみを使用して、主要な薄片より上にあるいくつかのより小さい薄片を最初に同定することはできなかった。しかしながら、
図12B~
図12Cに示されるMo及びSの元素マップは、複数の薄片の存在及び同一性を同定し、SE画像とよく相関する。これらのマップは、提供されたOxford Instruments AZtec(商標)ソフトウェアパッケージ及び対応する外部走査発生器(これらはFIB顕微鏡に標準としてインストールされた)を使用して自動化された様式で捕捉された。したがって、このような実験は、本質的に機器に修正を加えることなく行われ得る。
【0111】
克服する必要があるVLE-PIXEマッピング能力に関連するいくつかの課題がある。特に、VLE-PIXE測定のために必要とされる高電流は、FIBのための最適イメージング条件と比較して、著しく低減された分解能をもたらす。しかしながら、PFIB機器における世代の進歩は、高電流分解能を改善する。また、ドープされた水素ビームによってさえ発生する比較的低い信号に起因して、マップ捕捉時間は、非常に顕著であり、
図12B~
図12Cに示されるマップに対して1時間程度に達する。検出器感度の改善は、マップ捕捉時間を短縮するのに役立つ。更に、ドーパント種の割合を増加させることにより、上述したように、発生するX線信号を増加させることができる。しかしながら、信号強度の改善は、スパッタリングによる試料損傷の増加を犠牲にして達成される。
【0112】
VLE-PIXEマッピングに使用されるイオンビーム中のドーパント種の存在は、必然的に、下にある試料のスパッタリングをもたらすことになり、これは、試料がマップ捕捉中に連続的に修正されることを意味する。この現象は、ドープビームVLE-PIXEマッピング中に考慮されなければならないが、それでもなお、特定の状況、例えば、各マップが試料の後続の層から生じ得る状況では重要であり得る。次いで、これらのマップを積み重ねると、三次元元素マップを確立することができ、これは断層撮影として知られている技法である。現在の断層撮影作業は、典型的には、最初に材料の層を除去し、続いて試料分析を行うことによって、連続的に行われる。しかしながら、ドープビームVLE-PIXEマッピングの使用は、連続断層撮影手順を、同時層除去及び分析の単一ステップ方法で置き換えることができる。
【0113】
VLE-PIXEマッピングはまた、エンドポインティング手順と併せて使用されてもよく、それによって、X線信号がミリング中に分析される。この手順は、次の層の開始に対応する新しい特性X線ピークの出現に起因して、ミリングが2つの層の界面で正確に停止されることを可能にし、また、連続的な除層及び分析を必要とし得る他の方法とは対照的に、リアルタイムで行うことができる。
【0114】
微量元素分析
走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)を用いて行われるエネルギー分散分光法は、PIXEに類似した手法であり、両方とも内殻イオン化のための粒子の衝突に依拠し、分析される元素に特徴的なX線の放出をもたらす。PIXEがイオン化のためにイオン、典型的には陽子を使用するのに対し、SEM-EDSは同じ目的のために電子を利用する。[60]
【0115】
電子に対するX線生成断面は、VLE-PIXEで使用されるエネルギー範囲(すなわち、50keV以下)で陽子に対するよりも1桁大きい。したがって、電子によるX線の発生は、はるかに効果的であると予想される。[61,62]しかしながら、SEM-EDSはまた、顕著な欠点、すなわち、低強度X線ピークを不明瞭にし得る強い制動放射の出現を有する。制動放射バックグラウンドは、1ppm付近の又は1ppmを下回るMeV範囲のPIXEの検出下限(Lower Limit of Detection、LOD)と比較して[14]、約100~500ppm(parts per million)のLODまでSEM-EDSの感度を効果的に低下させる。[13]VLE-PIXEについてのLODは、VLE-PIXEエネルギー範囲における陽子についてのXRPCSの減少に起因して、PIXEについてのものよりも数桁高いと予想される。[63]
【0116】
PIXEとSEM-EDSとの直接比較は、2つの技法間の器具類における有意な差異のために、しばしば困難である。しかしながら、デュアルビームPFIB/SEM顕微鏡へのVLE-PIXEの実装は、同じ検出器、X線窓、ソフトウェア、及び真空条件を使用して両方の技法が連続的に行われることを可能にし、それによって、より直接的な比較を可能にする。2つの技法を比較するために、National Institute of Standards and Technology(NIST)によって提供される2つの標準物質(standard referencemAterial、SRM)の分析を実施した。これらの材料は両方とも、ある範囲の主元素、副元素、及び微量元素を有する、十分に調整され認定された組成を有する。以下において、VLE-PIXEの結果は、SEMにおける元素分析のために通常的に行われる類似の技法であるSEM-EDSと直接比較され、2つの技法の相対感度が、以下に説明するように評価される。
【0117】
測定された最初の試料は、NIST SRM 654bであり、これは、ある範囲のバルク元素及び微量元素を有するTi系合金である。認定された組成を表4に示し、組成の残りはTi(記載せず)である。表4中の濃度は、アスタリスク(*)で印が付けられていない限り、質量分率として割合で表されており、アスタリスク(*)で印が付けられている場合、濃度はmg/kgで与えられる。括弧内に示された値は、情報目的のためだけのものである。
【0118】
分析前のビーム組成測定は、ビームレット分離の関数として
図13にグラフで示され、
図13内に埋め込まれた表において総ビーム電流の割合として表されている。この測定は、約6.9%のXeでドープされた水素ビームの存在を確立した。本明細書で前述した
【0119】
【0120】
ように、ドーパント種の割合が大きいほど、X線信号生成が強化されるが、それは、より重いイオン種によるスパッタリングに起因する試料損傷の増加を犠牲にする。したがって、試料の完全性を維持するために、これらの実験のためにわずかな割合のドーパント種を選択した。より少ない割合のドーパント種による比較的低いX線生成を説明するために、それぞれが20分及び4時間のSEM-EDS及びドープビームVLE-PIXEの捕捉時間は、両方のスペクトルが同様の数の総X線カウント(約10Mカウント)で取得されるように選択された。
【0121】
24keVの加速電圧でのXeドープVLE-PIXEスペクトルは、5keVの加速電圧でのSEM-EDSスペクトルと比較して、
図14Aに示されている。X線検出器窓を通る後方散乱イオンの透過を最小限に抑えるために24keVのイオンビームを使用し、過電圧比として知られる効果である、2.5keV未満のX線エネルギー範囲内のピークに対する感度を高めるために5keVの電子ビームを選択した。[64]X線エネルギー範囲4~10keVにおける同等の比較は、
図14Bに示されており、この範囲内のX線ピークに対する感度を高めるために30keVの電子ビームが使用されている。SEM-EDSスペクトルは、30keVの値まで続くが、制動放射バックグラウンドのみが、10keVより大きいエネルギーでSEM-EDSスペクトルにおいて観測されている。したがって、スペクトルは明確にするために切り捨てられている。
【0122】
定性的には、VLE-PIXEスペクトルは、SEM-EDSスペクトルに典型的な広く強い制動放射バックグラウンドとは対照的に、制動放射バックグラウンドがほぼ完全に存在しないことによって特性化することができる。この制動放射バックグラウンドの例が
図14Aにラベル付けされている。結果として、SEM-EDSスペクトルにおいて同定することができないいくつかのピークがVLE-PIXEスペクトルに存在し、2つの追加の副成分である、Ni及びCuの同定をもたらす。Niは、Ni Lαピーク、並びにNi K
αピーク及びK
βピークの存在に基づいて、VLE-PIXEスペクトルにおいて同定することができる。Cuは、Cu L
αピークに基づいてVLE-PIXEスペクトルにおいて同定することができる。
【0123】
追加のピーク、Fe Lα及びFe Kβの同定は、重なったピークの場合の重要な特徴である、試料中のFeの存在を確認するために使用することができる。分析の認定に概説されていない元素に対応するピーク、例えば2.013keVでのP Kαピークも観測された。しかしながら、認定の欠如は、この要素の同定を推測的にする。3keVのX線エネルギーでは、既知のX線特性ピークのいずれとも一致しないため、検出器アーチファクトであると考えられるいくつかのスペクトル特徴が存在する。この理由から、スペクトルのこの部分は明確にするために除去されている。
【0124】
ドープビームVLE-PIXE技法の有効性を評価するために、第2のNIST標準物質SRM 1242の試料を、上記と同じ手順を利用して測定した。この試料は、SRM 654bの主成分であるチタンがSRM 1242中に存在せず、SRM 1242の主成分であるコバルト及びタングステンがSRM 654b中に存在しないように選択された。追加の試料のこの選択はまた、両方の試料がそのような状況において同一のX線スペクトルを生成する可能性が高いので、X線スペクトルがシステムの何らかのアーチファクトに起因する可能性を排除するのに役立った。SRM 1242の完全な組成を表5に示す。表5中の濃度は、質量分率として割合で表されている。括弧内に示された値は、情報目的のためだけのものである。
【0125】
分析前のビーム組成測定は、
図15においてビームレット分離の関数として示され、その図に埋め込まれた表において総ビーム電流の割合として表されている。NIST 654b試料と同様に、6.2%Xeのドーパント割合で水素ビームを確立した。第2のNIST試料についてのSEM-EDS及びVLE-PIXEスペクトルの比較を
図16A~
図16Bに示すが、ここでも、低エネルギー領域におけるピーク比較のために5keV電子ビームを利用し、高エネルギー領域において30keV電子ビームを利用している。
【0126】
【0127】
SRM 1242のVLE-PIXEスペクトルをSRM 654bのVLE-PIXEスペクトルと比較すると、各特定の試料に固有であり、それぞれの試料の主成分と副成分との両方として同定された、いくつかのピークを確認することができる。SRM 1242試料のスペクトルにおいて、タングステンM系列のピーク並びにCo K及びL系列のピークを明確に同定することができ、これらのいずれもSRM 654bのスペクトルには存在しなかった。Cr Kαピークの強度もまた、この第2の試料中のCrのより高い濃度に応じて、第1のNIST試料中のその強度に対して有意に増加した。重元素タングステンは、外殻M及びN遷移の存在のために特に興味深いものであり、1つの試料中に存在するK、L、M及びNのX線遷移の全範囲を実証している。
【0128】
W及びCoに対応する新しいピークの出現は、この技法の有効性を実証し、機器のアーチファクトの結果として生じるX線信号の可能性を排除する。約3keVでの同定されていない同じスペクトル特徴が依然として存在しており、しかしながら、低エネルギー領域におけるスペクトル線をより良好に同定するために、
図16A~
図16Bにおいて再び切り取られている。
【0129】
SRM 1242の特性化において、存在すべきではないいくつかのピーク、具体的にはTi及びAl Kαピークが現れた。本明細書で前述したように、Tiピークは、X線検出器窓支持グリッドに衝突する粒子、又はX線検出器窓をコーティングする再スパッタされた材料に衝突する粒子から生じ得る。このTiピークがVLE-PIXE及びSEM-EDSスペクトルの両方に存在するという事実は、これがその通りであり、このピークが無視されるべきであることを示唆する。これらの明らかなアーチファクトピークの存在は、電子エネルギーが増加するにつれて、いくつかの後方散乱電子が電子トラップをバイパスし、Ti Kα信号を発生させ始める場合があることを示唆する。
【0130】
信号対雑音比(signal to noise ratio、SNR)及び検出下限(LOD)を、3σの標準閾値[65]を使用して、
図14A~
図14B及び
図16A~
図16Bに示されるスペクトルにおいて同定された元素について計算した。SRM 654b試料については表6に、SRM 1242については表7に、2つの技法のうち良好な方に下線を付して、値のフルセットを列挙する。これらの結果は、
図17にも要約されており、そこではドープビームVLE-PIXE及びSEM-EDSを使用して測定された各元素の最小LODが比較されている。
表5.NIST SRM 1242認定濃度値。
【0131】
【0132】
大部分の元素について、LODは、SEM-EDSと比較してドープビームVLE-PIXEについてより低く、ドープビームVLE-PIXEについてより高い感度を実証していることが分かる。この結果は、主に、電子と比較してイオンの衝突中に発生する制動放射バックグラウンドがないことに起因する。低減されたバックグラウンドは、バックグラウンドが存在する場合に可能であるよりも低い濃度で元素ピークの同定を可能にする。更なる副成分及び微量成分を同定した。しかしながら、ピークの重なりのために、これらの副成分及び微量成分のSNR及びLODの決定を行うことができなかった。一例は、リンKαピークとタングステンMγピークとの重なりである。
【0133】
SEM-EDSと比較したドープビームVLE-PIXEについてのLODの最大の改善は、Siについて14.66倍であり、平均的な改善は、両方の技法によって検出された元素について4.30倍である(n=10)。XeドープVLE-PIXEについての最小LODは、SRM 654b試料上のSiについての132.86ppmにおけるEDSについての最小LODと比較して、SRM 1242試料上のCuについて2.78ppmであった。これらのLOD値は、
【0134】
【表7】
EDSについて100~500ppm[14]、PIXEについて1ppm付近又は1ppmを下回るが、この値は、MeVエネルギーで行われたPIXEについて引用されている、と予想した文献と一致する。[13]これらの結果は、水素ビームへの少量(約6%)のXeの追加が、VLE-PIXEの感度を、MeVエネルギーで行われるPIXEに近いレベルまで増加させることができることを実証している。El Ghawiらは、250keVの陽子のLODは、2MeVの陽子についてのものよりも数桁高いはずであり[63]、30keVの場合のLODもやはり高いと予想されることを記載した。
【0135】
VLE-PIXEは、本発明者らによって、SEM-EDSよりも感度が高いことが示されているが、それでもなお、ドープビームVLE-PIXEには、2つの技法の間で選択するときに考えなければならないいくつかの欠点がある。
●このエネルギーでの陽子と比較して電子のXRPCSが大きいことは、ドープビームVLE-PIXEと比較してSEM-EDSの場合の実験時間が著しく短縮される。
●SEM-EDSの空間分解能は、はるかに小さい電子プローブサイズに起因して、ドープビームVLE-PIXEよりもかなり良好である。
●ドープビームVLE-PIXEで使用されるイオンは、陽子及び重イオンによる注入、並びに重イオンによるスパッタリングに起因する試料損傷をもたらす。
したがって、ドープビームVLE-PIXE及びSEM-EDSは、相補的な技法とみなすことができ、SEM-EDSは、バルク成分及び副成分の迅速な同定又は高い空間分解能が必要とされる状況において有用であり、VLE-PIXEは、実験時間を犠牲にして微量元素の同定が必要とされる用途を見出す。
【0136】
LE及びPIXEデータは、これらの実験で測定された特定のSRM試料について入手できなかったが、表8は、ドープビームVLE-PIXEと比較するためのいくつかの文献の従来のPIXE LOD値の集合を列挙している。このリストは網羅的なものではなく、単にVLE-PIXE技法の比較を提供するためのものである。列挙されたLOD値は、所与の実験条件についての最適LOD値である。
【0137】
1~10ppmの典型的なLODは、1MeV以上のエネルギーで行われるPIXEについて一貫して与えられる。しかしながら、LE-PIXEによって達成されるLODに関する情報は非常に限られている。Nouliらは、600keVでLE-PIXEについて850ppmのPについてのLODを実証した。[71]Zahramanらは、測定されたSNRが、エネルギーを750keVまで減少させるとともに増加し、その結果、LODが減少することを実証した。[72]彼らは、これを、基礎となるPIXEシグナルをより良好に同定するのに役立つエネルギーの減少に伴ってバックグラウンドシグナルが減少したことに起因すると考えた。全体として、この文献の結果の表は、2.78ppmで上記にて計算されたドープビームVLE-PIXEの最良のLODが、はるかに高いエネルギーで行われたPIXEと同様の性能を示すことを実証している。
【0138】
本発明者らの実験結果は、低濃度ドープされたXeビームを用いて行われたVLE-PIXEの感度が、はるかに高いエネルギーで行われたPIXEに匹敵することを実証している。SEM-EDSと比較すると、ドープビームVLE-PIXEの感度は、ほとんど全ての場合において優れていることが見出された。しかしながら、この感度は、非常に低いX線生成に起因して実験時間が著しく増加するという犠牲を払って達成された。したがって、ドープビームVLE-PIXEは、SEM-EDSスペクトルに典型的な制動放射バックグラウンドによって不明瞭になる元素の同定のために利用することができる、SEM-EDSに対する相補的な技法と考えることができる。
【0139】
【0140】
エンドポインティング及びリアルタイム断層撮影
ドープビームVLE-PIXE技法の潜在的な商業的用途は、リアルタイム元素マッピングプロセス又はエンドポインティング法であり得る。強いVLE-PIXE信号を発生させるために、少量の水素をAr又はXeなどの重イオン種ビームに加えることができることが上で示されている。このVLE-PIXE信号を層状試料に対するミリングプロセス中に監視する場合、ミリング中の特性ピークの変化の分析は、試料の1つの層が終了し、次の層が開始する場所を確立することができる。このような「エンドポインティング」技法は、半導体産業において重要な用途を有し得る。[73]加えて、水素と重イオン種との混合物のビームによって誘発される潜在的な化学効果は、試料の除層、半導体加工及び故障解析における別の重要なプロセスに対してある程度の制御を提供することができる。[74]この方法は、高速スパッタリングを誘発するためのXeビーム、化学効果を誘発するための窒素ビーム、及び分析X線信号を発生させるための水素ビームなど、3種以上のイオン種の混合物を含むイオンビームを提供することによって拡張され得る。
【0141】
リアルタイム元素マッピングは、X線元素マップが試料ミリング中に収集されるエンドポインティング技法のより高度なバージョンである。X線元素マッピングは、試料全体にわたる元素組成の局在化を可能にする。X線マップの収集中にビームを試料にわたって走査させるとき、H+、H2
+及びH3
+よりも大きいスパッタリング収率を有する重イオン種の割合は、後続の各X線マップが試料の異なる層から生じるように、いくつかの材料を除去する。各マップは、組み合わされたときに材料の元素組成の三次元マップを確立する材料の「スライス」を形成する。
【0142】
典型的には、このような三次元マッピングは逐次的に行われ、材料の層が試料から除去され、次いで露出した層が電子後方散乱回折又はEDSなどの代替手段によって分析される。この技法は、シリアルセクショニング断層撮影として知られており、FIBミリング法と試料分析法との間で繰り返し切り替える必要があるために遅いことで知られている。[7]水素と重イオン種とを混合したビームを用いるVLE-PIXE法を利用して、ミリング及び分析ステップを単一の動作に組み合わせることができ、マッピング結果をリアルタイムで捕捉することができる。これは、断層撮影作業のスループットを著しく増加させる可能性を有する。
【0143】
結論
本発明者らの実験的調査は、市販の集束イオンビーム顕微鏡でのドープビームVLE-PIXE技法の実施及び応用を実証した。この技法は、はるかに高いエネルギーで行われるPIXEに匹敵する性能を有する微量元素分析と、同時FIBミリング及び試料分析の可能性とを提供する。本明細書で教示される新しい方法は、PIXE技法の利用可能性を、従来の比較的アクセスしにくい粒子加速器設備から、標準的な実験室設備に配置することができるFIB顕微鏡に有利に拡張する。
【0144】
本明細書に記載の新しいVLE-PIXE技法は、FIB顕微鏡上で陽子ビーム及び陽子/重イオン混合ビームを実施するために、マルチガス入口誘導結合プラズマイオン源を使用することによって可能になる。ビーム組成の特性化は、プラズマFIBシステムによる陽子の高電流の発生を実証しており、この結果は、PIXE技法の性能にとって重要であり、GFISなどの以前の水素FIB発現と比較してプラズマFIBに特有である。
【0145】
漂遊電子、後方散乱イオン、及び中性化粒子などの様々なスプリアス信号源の役割が調査され、SEM浸漬磁場クランプ及びFIBカラムレンズバイアスを操作するなど、そのような信号を排除する方法が開発された。また、FIB加速電圧を24keVに低減することにより、X線スペクトル上の後方散乱イオンの影響を制限することが可能である。実験の前にFIBカラム及び顕微鏡チャンバ内に十分な真空が確立されることを保証することは、FIBカラム及びチャンバ内のイオン-ガス衝突の結果として発生する二次粒子の衝突を有利に低減することが分かった。
【0146】
低濃度でXeをドープした水素ビームを使用して行った標準物質の微量元素分析により、信号対雑音比及び検出限界などのメトリックを利用して、この技法の性能を検証することができた。類似の技法であるSEM-EDS間の直接比較を行い、ドープされたVLE-PIXEの感度が、電子X線スペクトルに典型的な広い制動放射バックグラウンドが存在しないために、分析されたほとんど全ての元素についてEDSよりも優れていることを確立した。制動放射バックグラウンドが存在しないことはまた、SEM-EDSを使用して同定することができなかったVLE-PIXEを使用していくつかのピークの同定を可能にし、感度が顕著に増加することを実証した。これらの観測は、いくつかの元素を定量化するためにSEM-EDSを採用し、他の元素を定量化するためにVLE-PIXEを採用することによって、デュアルビーム装置を使用して試料の強化された元素組成分析を生み出す可能性を開き、各元素の定量化技法は、その元素に対して優れた結果を提供する方法を使用する。VLE-PIXE技法の組成マッピング能力を調査し、いくつかの状況において有用であることを決定した。ドープビームVLE-PIXE技法の性能は、陽子のみのビームに対してX線生成断面が著しく増加したことによって示されるように、はるかに高いエネルギーで行われたPIXEに匹敵することが確立された。
【0147】
ビームドーピング法の調査は、陽子及び重イオンの両方が試料上の同じ位置に入射するときに生成される信号が、個々の成分の合計よりも大きいことを実証した。Xeは、その比較的高い性能及びXe発射体によって発生する追加のX線ピークが存在しないことにより、最適なドーパント種であると決定された。ドーパント種の割合は、試料からのX線の発生を著しく増加させることが示され、約80%のAr種で最大に達し、残りは水素であった。これは、重い種がドープされた水素ビーム及び水素がドープされた重い種ビームの両方の可能性を生み出し、それぞれが固有の潜在的な用途を有する。重イオンの信号増強効果の背後にあるメカニズムに関する理論的モデルは、将来の研究において調査される。
【0148】
この出願に含まれる説明は、基本的な説明として役立つことを意図している。本発明は、本発明の個々の態様の単一の例示として意図される、本明細書に記載される特定の実施形態によって範囲が限定されることは意図されない。機能的に等価な方法及び成分は、本発明の範囲内である。本明細書に示され、記載されたものに加えて、本発明の様々な他の変形は、前述の説明及び添付の図面から当業者に明らかになるであろう。本明細書に提示される装置動作パラメータの特定の数値は、特定の装置に対して決定されるような典型的な動作パラメータとして提供され、決して限定することを意図していない。
【0149】
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