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特開2023-161897解析方法、探針及びその製造方法、近接場光発生装置並びに解析システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161897
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】解析方法、探針及びその製造方法、近接場光発生装置並びに解析システム
(51)【国際特許分類】
   G01Q 60/20 20100101AFI20231031BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20231031BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20231031BHJP
   G01N 21/65 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
G01Q60/20
G01N21/17 N
G01N21/64 G
G01N21/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072532
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】板坂 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 健二
【テーマコード(参考)】
2G043
2G059
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043AA03
2G043CA05
2G043EA01
2G043EA03
2G043EA14
2G043FA01
2G043FA02
2G043HA01
2G043JA04
2G043KA01
2G043KA02
2G043KA03
2G043KA09
2G043LA01
2G043LA02
2G043LA03
2G043MA01
2G043NA01
2G059AA01
2G059AA05
2G059BB08
2G059EE02
2G059EE03
2G059EE07
2G059FF01
2G059FF03
2G059GG01
2G059HH01
2G059HH02
2G059HH03
2G059JJ05
2G059JJ11
2G059KK01
2G059KK02
2G059KK04
2G059MM01
2G059NN01
(57)【要約】
【課題】近接場分光法を用いた試料解析を高感度で行う方法、探針及びその製造方法、近接場光発生装置並びに解析システムを提供する。
【解決手段】本発明は、近接場分光法により試料を解析する方法であり、試料20及び探針本体10の間に、試料20及び探針本体10の少なくとも一方に接触するように微小粒子部5を配置し、探針本体10及び微小粒子部5のうちの少なくとも微小粒子部5に光を照射して、微小粒子部5の表面で近接場光を発生させ、近接場光で照らされた試料20の表面で生じた散乱光又は蛍光を分光装置により解析する方法である。探針本体10と微小粒子部5とを一体化させるか、あるいは、探針本体10と微小粒子部5とを分離可能とすることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近接場分光法により試料を解析する方法であって、
前記試料及び探針本体の間に、前記試料及び前記探針本体の少なくとも一方に接触するように微小粒子部を配置し、前記探針本体及び前記微小粒子部のうちの少なくとも前記微小粒子部に光を照射して、該微小粒子部の表面で近接場光を発生させ、該近接場光で照らされた前記試料の表面で生じた散乱光又は蛍光を分光装置により解析する、解析方法。
【請求項2】
前記探針本体と前記微小粒子部とが一体化している請求項1に記載の解析方法。
【請求項3】
前記探針本体と前記微小粒子部とが分離可能である請求項1に記載の解析方法。
【請求項4】
前記微小粒子部に隣接する前記探針本体の先端部は凸状曲面を有し、前記微小粒子部の粒径の半分長さは、前記探針本体の前記先端部の曲率半径より小さい請求項1に記載の解析方法。
【請求項5】
前記光の波長が200~25000nmの範囲にある請求項1に記載の解析方法。
【請求項6】
前記分光装置がラマン分光装置、蛍光分光装置又は赤外分光装置である請求項1に記載の解析方法。
【請求項7】
請求項1に記載の解析方法で用いられる探針であって、
探針本体部と、該探針本体部の一端側に接合された微小粒子部とを備える探針。
【請求項8】
前記探針本体部の前記一端側が凸状曲面を有し、
前記微小粒子部の粒径の半分長さは、前記探針本体部の前記凸状曲面の曲率半径より小さい請求項7に記載の探針。
【請求項9】
前記探針本体部の表面、及び/又は、前記微小粒子部の表面が、Au、Ag、Pt、Cu、Pd、Ti、Cr、In及びAlから選ばれた少なくとも1種の元素からなる請求項7に記載の探針。
【請求項10】
請求項7に記載の探針を製造する方法であって、
探針本体部を構成することとなる探針本体用素材と、微小粒子部を構成することとなる微小粒子とを用いて、前記探針本体用素材の一端側に前記微小粒子を圧着する工程を備える探針の製造方法。
【請求項11】
請求項7に記載の探針を備える近接場光発生装置。
【請求項12】
請求項11に記載の近接場光発生装置と、分光装置とを備える解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接場分光法を用いた試料解析を高感度で行う方法、探針及びその製造方法、近接場光発生装置並びに解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光の回折限界を超える空間分解能で試料の表面をイメージングする近接場顕微鏡が知られている。この近接場顕微鏡では、探針の先端に局在する近接場光を試料に照射し、試料の表面における光の反射又は散乱を利用して試料の表面状態を検出している。近接場顕微鏡と、光源と、ラマン分光、赤外分光、蛍光分光等の分光器、検出器とを組み合わせると、試料の微細表面の分光特性を検出する分光装置とすることができる。この場合、光を探針に照射して近接場光を発生させ、試料表面で反射又は散乱した近接場光を採光し分光することとなる。例えば、散乱型の近接場分光法において、先端が鋭利な探針に光を照射することで、プラズモン共鳴を励起し、探針先端に近接場光を発生させるが、このとき、探針は、鋭利な先端に近接場光を集光する光ナノアンテナとして機能し、その近接場光強度が近接場分光法における分析感度に大きく影響することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-161548
【特許文献2】WO2017-159593
【特許文献3】WO2018-3991
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H. Itasaka, et al., J. Electrochem. Soc. 165, D711-D715 (2018)
【非特許文献2】M. Nishi, et al., MRS Advances 1, 1865-1869 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子機器等の微細化に伴い、ナノスケールで、デバイスや材料の歪み・欠陥等の微視構造評価が行われている。近接場分光における測定感度は、探針の先端における近接場光の強度に大きく依存することから、より高強度な近接場光を発生させて、高感度の試料解析を可能とする探針及びその製造方法、近接場光発生装置、解析システム並びに解析方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、例えば、走査プローブ顕微鏡用の探針と、試料との間に、微小粒子を配置させて光照射を行うと、微小粒子を不使用とした場合に比べて近接場光の強度が高くなることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、以下に示される。
(1)近接場分光法により試料を解析する方法であって、
試料及び探針本体の間に、試料及び探針本体の少なくとも一方に接触するように微小粒子部を配置し、探針本体及び微小粒子部のうちの少なくとも微小粒子部に光を照射して、微小粒子部の表面で近接場光を発生させ、近接場光で照らされた試料の表面で生じた散乱光又は蛍光を分光装置により解析する、解析方法。
(2)上記探針本体と上記微小粒子部とが一体化している上記(1)に記載の解析方法。
(3)上記探針本体と上記微小粒子部とが分離可能である上記(1)に記載の解析方法。
(4)上記微小粒子部に隣接する上記探針本体の先端部は凸状曲面を有し、上記微小粒子部の粒径の半分長さは、上記探針本体の上記先端部の曲率半径より小さい上記(1)に記載の解析方法。
(5)上記光の波長が200~25000nmの範囲にある上記(1)に記載の解析方法。
(6)上記分光装置がラマン分光装置、蛍光分光装置又は赤外分光装置である上記(1)に記載の解析方法。
(7)上記(1)に記載の解析方法で用いられる探針であって、
探針本体部と、該探針本体部の一端側に接合された微小粒子部とを備える探針。
(8)上記探針本体部の上記一端側が凸状曲面を有し、
上記微小粒子部の粒径の半分長さは、上記探針本体部の上記凸状曲面の曲率半径より小さい上記(7)に記載の探針。
(9)上記探針本体部の表面、及び/又は、上記微小粒子部の表面が、Au、Ag、Pt、Cu、Pd、Ti、Cr、In及びAlから選ばれた少なくとも1種の元素からなる上記(7)に記載の探針。
(10)上記(7)に記載の探針を製造する方法であって、
探針本体部を構成することとなる探針本体用素材と、微小粒子部を構成することとなる微小粒子とを用いて、上記探針本体用素材の一端側に上記微小粒子を圧着する工程を備える探針の製造方法。
(11)上記(7)に記載の探針を備える近接場光発生装置。
(12)上記(11)に記載の近接場光発生装置と、分光装置とを備える解析システム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の解析方法によれば、試料、微小粒子部及び探針本体を特定の配置としているので、探針本体及び微小粒子部のうちの少なくとも微小粒子部に光を照射すると、探針本体及び微小粒子部の電磁場相互作用により、微小粒子部の表面から発生する近接場光の強度が高くなる。これにより、照度の高い近接場光を試料表面に照射することができるため、分光装置(ラマン分光装置、蛍光分光装置、赤外分光装置等)による試料解析を高感度で行うことができる。
本発明の探針によれば、微小粒子部に光を照射すると、高い強度の近接場光を発生させることができるので、高感度の試料解析に用いる探針として好適である。また、高い強度の近接場光を発生させる近接場光発生装置の部品として有用である。
本発明の探針の製造方法によれば、高感度の試料解析に用いる探針を効率よく製造することができる。
また、本発明の解析システムによれば、より高い強度の近接場光を発生させることができる近接場光発生装置と、分光装置とを併用することにより、試料を高感度で解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の解析方法の1例を示す概略説明図(要部拡大図)である。
図2】本発明の探針の先端部の1例を示す概略断面図(要部拡大図)である。
図3】本発明の探針の先端部の他例を示す概略断面図(要部拡大図)である。
図4】本発明の探針の先端部の他例を示す概略断面図(要部拡大図)である。
図5】本発明の探針の先端部の他例を示す概略断面図(要部拡大図)である。
図6】本発明の探針の先端部の他例を示す概略断面図(要部拡大図)である。
図7】本発明の探針の先端部の他例を示す概略断面図(要部拡大図)である。
図8】〔実施例〕における時間領域差分法(FDTD法)による光電場強度のシミュレーション結果を示す画像であり、波長633nmの光を、銀粒子(微小粒子部)を含む複合型探針の先端部に放射した場合の光電場強度分布を示す画像である。
図9】〔実施例〕における時間領域差分法(FDTD法)による光電場強度のシミュレーション結果を示す画像であり、波長633nmの光を、銀粒子を不使用として探針本体のみに放射した場合の光電場強度分布を示す画像である。
図10】〔実施例〕における時間領域差分法(FDTD法)による光電場強度のシミュレーション結果を示すグラフであり、波長633nmの光を、直径の異なる銀粒子(微小粒子部)を含む複合型探針の先端部に放射した場合の相対光強度を示すグラフである。
図11】〔実施例〕における時間領域差分法(FDTD法)による光電場強度のシミュレーション結果を示す画像であり、波長532nmの光を、銀粒子(微小粒子部)を含む複合型探針の先端部に放射した場合の光電場強度分布を示す画像である。
図12】〔実施例〕における時間領域差分法(FDTD法)による光電場強度のシミュレーション結果を示す画像であり、波長532nmの光を、銀粒子を不使用として探針本体のみに放射した場合の光電場強度分布を示す画像である。
図13】〔実施例〕における時間領域差分法(FDTD法)による光電場強度のシミュレーション結果を示すグラフであり、波長532nmの光を、直径の異なる銀粒子(微小粒子部)を含む複合型探針の先端部に放射した場合の相対光強度を示すグラフである。
図14】実験例1で得られたグラフェンのラマンスペクトルである。
図15】実験例2で得られたシリコンのラマンスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の解析方法は、近接場分光法により試料を解析する方法であり、試料及び探針本体の間に、試料及び探針本体の少なくとも一方に接触するように微小粒子部を配置し、探針本体及び微小粒子部のうちの少なくとも微小粒子部に光を照射して、微小粒子部の表面で近接場光を発生させ、近接場光で照らされた試料の表面で生じた散乱光又は蛍光を分光装置により解析する。尚、試料の性状は、特に限定されず、固体、液体、気体及びこれらの混合物のいずれでもよい。
【0011】
図1は、探針本体10、微小粒子部5及び試料20を配置して、試料20を解析する、本発明の解析方法の1例を示す概略説明図である。尚、微小粒子部5は、後述するように、粒径の最大長さが500nm以下と小さく、該粒径の半分長さが探針本体10の先端部の曲率半径より小さい(短い)ことが好ましいため、図1において、探針本体10は、微小粒子部5に隣接する(直接的又は間接的に隣り合う)先端部を拡大して表示している。
図1に示す構成で、探針本体10及び微小粒子部5のうちの少なくとも微小粒子部5に光を照射すると、微小粒子部5の表面で近接場光が発生する。微小粒子部5のサイズが小さいため、通常、微小粒子部5及び探針本体10の両方が受光することになり、受光時には各々において電子の振動が発生するため、この振動が増幅され、微小粒子部5及び探針本体10の電磁場相互作用により、発生する近接場光の強度及び照度が高くなる。従って、照度の高い近接場光が試料20を照らすと、より詳細な試料情報を含む散乱光又は蛍光が得られ、分光装置(図1に非表示)を用いた試料解析を高感度で行うことが可能となる。
【0012】
本発明の解析方法において、光照射前には、微小粒子部5が、試料20及び探針本体10の間であって、試料20及び探針本体10の少なくとも一方に接触するように配置される。即ち、微小粒子部5が、試料20及び探針本体10の両方に接触した状態、又は、微小粒子部5が、試料20及び探針本体10のいずれか一方に接触した状態とする。これらの態様の具体例は、以下の(ア)、(イ)、(ウ)及び(エ)に例示される。
(ア)探針本体10及び微小粒子部5が一体化されてなる探針の微小粒子部5と試料20とが接触した状態
(イ)探針本体10及び微小粒子部5が一体化されてなる探針の微小粒子部5と試料20とが接触せずに接近した状態
(ウ)探針本体10と一体化していない微小粒子部5が試料20の上に配置され、この微小粒子部5が探針本体10に接触した状態
(エ)探針本体10と一体化していない微小粒子部5が試料20の上に配置され、この微小粒子部5が探針本体10に接触せずに接近した状態
【0013】
上記のように、光照射前には、探針本体10及び微小粒子部5は、一体化していてよいし、分離可能であってもよい。上記態様(ウ)及び(エ)の場合、微小粒子部5及び探針本体10が、それぞれ、準備される。
【0014】
上記態様(イ)において、微小粒子部5と試料20との間隔は、特に限定されないが、微小粒子部5で発生した近接場光が高い強度で試料20に照らされることから、好ましくは50nm以下、より好ましくは10nm以下、更に好ましくは1nm以下である。この態様(イ)では、微小粒子部5と試料20とが非接触であるため、試料20の解析を非破壊で行うことができる。
上記態様(エ)において、微小粒子部5と探針本体10との間隔は、特に限定されないが、微小粒子部5の表面で発生する近接場光の強度が高くなることから、好ましくは50nm以下、より好ましくは10nm以下、更に好ましくは1nm以下である。
【0015】
本発明において、微小粒子部5の形状、サイズ及び構成材料は、特に限定されない。また、探針本体10に接触する微小粒子部5の数は1つに限定されず、2つ以上でもよい。
【0016】
微小粒子部5の概形形状は、球体、楕円球体、多面体、円柱及びこれらの変形体、半球等とすることができる。
【0017】
微小粒子部5の最大長さ(例えば、球体、多面体及び半球の場合、直径又は外接球直径であり、楕円球体の場合、長径である。)の上限は、好ましくは500nm、より好ましくは300nm、特に好ましくは160nmである。下限は、好ましくは5nm、より好ましくは10nm、特に好ましくは20nmである。
【0018】
本発明において、微小粒子部5は、好ましくは中実体からなる球体、楕円球体又は多面体である。この微小粒子部5は、単一材料の粒子からなるもの(中実体、中空体、多孔体等)、又は、互いに異なる材料で構成されたコア・シェル構造を有する粒子からなるものとすることができる。
【0019】
微小粒子部5について、放射される光を受光する表面は、近紫外から近赤外までの光領域で表面プラズモン活性を有する金属元素を含むことが好ましい。表面プラズモン活性を有する金属元素としては、Au、Ag、Pt、Cu、Pd、Ti、Cr、In、Al等が挙げられる。これらの金属元素は、単独で、又は、2種以上の組み合わせで含むことができる。
【0020】
上記のように、微小粒子部5は、互いに異なる材料で構成されたコア・シェル構造を有することができるが、この場合、シェル部が、表面プラズモン活性を有する金属元素を含むことが好ましい。コア部の構成材料は、特に限定されず、無機材料、有機材料又はこれらの組合せからなるものとすることができ、表面プラズモン活性を有する金属元素で構成されるものであってもよい。
【0021】
微小粒子部5の概形形状が球体、楕円球体、半球等の場合、通常、曲面の表面が探針本体10の先端部に隣接する。半球の場合、平面又は端部が探針本体の先端部に隣接してもよい。一方、微小粒子部5の概形形状が多面体の場合、探針本体10の先端部に隣接する位置は、多面体における平面の表面及び稜線のいずれでもよい。
【0022】
本発明において、探針本体10の形状、サイズ及び構成材料は、特に限定されない。
【0023】
探針本体10の先端は、円錐、角錐又はこれらの変形体等の先端に由来するものとすることができる。微小粒子部5と隣接する探針本体10の先端部は、通常、尖状であるが、高倍率で拡大して見た場合、概ね、凸状曲面(半球状等)を有する。この「凸状曲面」は、探針本体10の先端部断面を見た場合に、外形線として、凸状曲線が描かれることを意味し、図2に示すように、折れ線を含まない滑らかな外形線が描かれるもの、及び、図3に示すように、頂点に小さな凹部を有するが、探針本体10の先端部の外形線として凸状曲線が描かれるものが好ましい。
外形線として、凸状曲線が描かれる凸状曲面は、通常、曲率を有する凸状曲面である。探針本体10の先端部の曲率半径は、特に限定されないが、好ましくは2.5~250nmである。
【0024】
本発明において、光照射により、微小粒子部5の表面で発生する近接場光の強度が高くなることから、微小粒子部5の粒径の半分長さ(上記最大長さの半分長さ)は、探針本体10の先端部の曲率半径より小さいことが好ましい。具体的には、微小粒子部5の粒径の半分長さは、探針本体10の先端部の曲率半径の好ましくは100%未満、より好ましくは50%以下である。
【0025】
探針本体10は、単一材料からなるもの、又は、互いに異なる材料で構成されたコア・シェル構造を有するものとすることができる。
【0026】
探針本体10の表面は、近紫外から近赤外までの光領域で表面プラズモン活性を有する金属元素を含むことが好ましい。即ち、微小粒子部5を構成することができるとしたAu、Ag、Pt、Cu、Pd、Ti、Cr、In、Al等を、単独で、又は、2種以上の組み合わせで含むことができる。
【0027】
微小粒子部5は、微小粒子部5及び探針本体10が一体化しているしないにかかわらず、探針本体10の先端部の頂点、又は、頂点から少しずれた周辺に配置されることが好ましい。
【0028】
一般的に、分光装置において適用する光の波長は、蛍光分光の場合は200~800nm、ラマン分光の場合は200~1500nm、赤外分光の場合は800~25000nmであるため、本発明において、照射する光の波長は、好ましくは200~25000nmである。従って、探針本体10及び微小粒子部5のうちの少なくとも微小粒子部5に照射する光は、紫外光、可視光、赤外光、レーザー等とすることができる。
尚、光照射条件(時間、温度、照度、出力等)は、特に限定されず、試料の性状、解析目的等に応じて、適宜、設定することができる。
【0029】
光照射によって、微小粒子部5の表面から近接場光が発生し、瞬時に試料表面を照らすこととなる。そして、試料の表面から発せられる散乱光又は蛍光を、ラマン分光装置、蛍光分光装置、赤外分光装置等の分光装置により解析する。
本発明において、上記態様(ア)及び(イ)に示された探針本体10と微小粒子部5とを一体化させてなる探針を用いると、試料表面における走査が容易となるため、2次元的なイメージングを行うことができる。
【0030】
本発明における近接場分光法の感度の向上は、好ましい態様である、表面プラズモン活性を有する金属元素を含む微小粒子部5に励起された自由電子の集団的振動によって発生する電磁場と、表面プラズモン活性を有する金属元素を含む探針本体10に励起された自由電子の集団振動によって発生する電磁場の共鳴的な相互作用の結果として、微小粒子部5のない探針本体10のみの場合よりも高い強度の電磁場(近接場光)が試料20側の微小粒子部5の表面に発生することによるものである。
【0031】
本発明の解析方法では、以下に示す解析システムを用いることができる。
(S1)探針本体10及び微小粒子部5が一体化された探針と、試料20がセットされるステージ又は容器と、光源とを含む近接場光発生装置(Q1)、並びに、分光器と検出器とを含む分光装置を備える解析システム
(S2)互いに独立して準備された探針本体10及び微小粒子部5と、試料20がセットされるステージ又は容器と、光源とを含む近接場光発生装置(Q2)、並びに、分光器と、検出器とを含む分光装置を備える解析システム
【0032】
解析システム(S1)及び(S2)において、探針本体10、微小粒子部5及び試料の構成、配置等によっては、近接場光発生装置(Q1)又は(Q2)の内部を減圧又は加圧条件とするために、真空ポンプ等の圧力調整手段を備えることができ、試料20の温度変化を解析する場合には、ヒーター等の温度調整手段を備えることができ、試料20の表面処理等を行うために反応ガス供給手段を備えることができる。更に、探針を介して試料20に電圧を印加するための電圧印加手段等を備えることができる。
【0033】
解析システム(S1)は、近接場光発生装置(Q1)を用いて、上記態様(ア)及び(イ)の状態で光照射し、散乱光又は蛍光を分光装置により解析する方法に好適である。
解析システム(S1)で用いる探針としては、図2図7に示される探針1A~1Fを用いることができる。これらの探針は、「本発明の探針」として後述される。
解析システム(S1)において、上記態様(イ)を実施するために、微小粒子部5と、試料20との間隔を調整する手段を備えることができる。
解析システム(S1)は、後述の「本発明の解析システム」とすることができる。また、近接場光発生装置(Q1)は、後述の「本発明の近接場光発生装置」とすることができる。
【0034】
解析システム(S2)は、近接場光発生装置(Q2)を用いて、上記態様(ウ)及び(エ)の状態で光照射し、散乱光又は蛍光を分光装置により解析する方法に好適である。
解析システム(S2)において、上記態様(エ)を実施するために、微小粒子部5と、探針本体10との間隔を調整する手段を備えることができる。
【0035】
本発明の探針は、上記態様(ア)及び(イ)において好適な探針であり、探針本体部と、該探針本体部の一端側に接合された微小粒子部とを備える一体化物(複合型探針)である。本発明の探針に係る微小粒子部及び探針本体部は、それぞれ、上記の「本発明の解析方法」における、微小粒子部5及び探針本体10の記載が適用される。従って、本発明の探針においても、微小粒子部5及び探針本体部10として、以下に説明する。
【0036】
図2図7は、本発明の探針を例示する概略断面図である。図1と同様に、図2図7においても、探針本体部10は、微小粒子部5に隣り合う先端部を拡大して表示している。尚、図2図7における微小粒子部5(図6の場合、粒子被覆層8がコア粒子部6の表面に形成されてなる微小粒子部)は、探針本体部10の先端部の頂点に隣接しているが、本発明の探針は、これらの構造に限定されず、頂点から少しずれた周辺に微小粒子部5が接合されたものであってもよい。また、微小粒子部5の数は1つでも2つ以上でもよく、更に、探針本体部10の先端部側ではない根元側の形状及び構造は、特に限定されず、直線状(棒状)、折れ線状、曲線状等とすることができる。
【0037】
図2の探針1A及び図3の探針1Bは、好ましくは、先端部が凸状曲面であり、いずれも、近紫外から近赤外までの光領域で表面プラズモン活性を有する金属元素を含む探針本体部10及び微小粒子部5が、直接、接合された態様を示す。図2の探針1Aは、微小粒子部5が点接触しつつ探針本体部10に接合された態様であり、図3の探針1Bは、探針本体部10が頂点に小さな凹部を有し、この凹部の内表面を沿うように球体の微小粒子部5が嵌りつつ接合された態様である。
【0038】
図4の探針1Cは、好ましくは、先端部が凸状曲面であり、いずれも、近紫外から近赤外までの光領域で表面プラズモン活性を有する金属元素を含む探針本体部10及び微小粒子部5が、接着層9を介して接合された態様を示す。接着層9を構成する材料は、特に限定されず、表面プラズモン活性を有する金属元素を含んでもよい無機材料、有機材料又はこれらの組合せ等、例えば、従来、公知の接着剤に由来するものとすることができる。接着層9の厚さは、特に限定されないが、通常、50nm以下である。
【0039】
図5の探針1Dは、好ましくは、互いに異なる材料で構成されたコア・シェル構造を有する探針本体部であって、近紫外から近赤外までの光領域で表面プラズモン活性を有する金属元素を含む探針部被覆層13が、他の材料(無機材料、有機材料又はこれらの組合せ)からなるコア探針部11の表面に形成されてなる探針本体部と、探針部被覆層13の表面に接合された、表面プラズモン活性を有する金属元素を含む微小粒子部5とを備える態様を示す。探針部被覆層13の厚さは、特に限定されない。
【0040】
図6の探針1Eは、好ましくは、互いに異なる材料で構成されたコア・シェル構造を有する探針本体部であって、近紫外から近赤外までの光領域で表面プラズモン活性を有する金属元素を含む探針部被覆層13が、他の材料(無機材料、有機材料又はこれらの組合せ)からなるコア探針部11の表面に形成されてなる探針本体部と、互いに異なる材料で構成されたコア・シェル構造を有する微小粒子部であって、表面プラズモン活性を有する金属元素を含む粒子被覆層8が、他の材料(無機材料、有機材料又はこれらの組合せ)からなるコア粒子部6の表面に形成されてなる微小粒子部とが、探針部被覆層13及び粒子被覆層8どうしで接合された態様を示す。探針部被覆層13及び粒子被覆層8の厚さは、特に限定されない。
【0041】
図7の探針1Fは、好ましくは、表面プラズモン活性を示さなくてもよい材料で構成されたコア探針部11及びコア粒子部6の接合体(一体化物)の表面に、表面プラズモン活性を有する金属元素を含む被覆層15が形成されてなる態様を示す。被覆層15の厚さは、特に限定されない。
【0042】
図2図7においても、微小粒子部5(図6の場合、粒子被覆層8がコア粒子部6の表面に形成されてなる微小粒子部)の粒径の半分長さ(微小粒子部の最大長さの半分長さ)は、探針本体部10(図5及び図6の場合、探針部被覆層13がコア探針部11の表面に形成されてなる探針本体部)の先端部の曲率半径より小さいことが好ましい。
【0043】
本発明の探針を製造する方法は、特に限定されず、その構造又は微小粒子部5及び探針本体部10の各構成材料により、適宜、方法を選択して製造することができる。
【0044】
図2の探針1A及び図3の探針1Bの場合、いずれも、表面プラズモン活性を有する金属元素を含む、微小粒子部5用の微小粒子と、探針本体部10用の素材(走査プローブ顕微鏡用探針等、微小粒子部を備えないもの)とを、圧着、溶接、静電吸着、気相成長等に供することにより製造することができる。
【0045】
特に、本発明の探針製造方法は、例えば、図2の探針1A及び図3の探針1Bを製造すべく、探針本体部10を構成することとなる探針本体用素材と、微小粒子部5を構成することとなる微小粒子とを用いて、上記探針本体用素材の一端側に上記微小粒子を圧着する工程を備える。この場合、原子間力顕微鏡等の走査プローブ顕微鏡を用いることができる。例えば、1つ又はそれ以上の微小粒子を配列させたところへ、走査プローブ顕微鏡の探針を走査させ、微小粒子のトポグラフィー像を作製し、次いで、得られたトポグラフィー像から、微小粒子の位置を特定し、探針の先端が、所望の微粒子の表面の所望の位置の真上となるように移動させ、その後、探針先端を微小粒子に押し付ける方法を適用することができる。
【0046】
図4の探針1Cの場合、表面プラズモン活性を有する金属元素を含む微小粒子部5用の微小粒子と、探針本体部10用の素材(走査プローブ顕微鏡用探針等、微小粒子部を備えないもの)とを、接着剤を用いて接合することにより製造することができる。
【0047】
図5の探針1Dの場合、無機材料、有機材料又はこれらの組合せからなるコア探針部11用素材の表面に、蒸着、メッキ等を行って、表面プラズモン活性を有する金属元素を含む探針部被覆層13を形成させて複合体(以下、「複合体(W1)」という)を作製した後、この複合体(W1)と、表面プラズモン活性を有する金属元素を含む微小粒子部5用の微小粒子とを、圧着、溶接、静電吸着、気相成長等に供することにより製造することができる。
【0048】
図6の探針1Eの場合、無機材料、有機材料又はこれらの組合せからなるコア粒子部6用の微小粒子の表面に、蒸着、メッキ等を行って、表面プラズモン活性を有する金属元素を含む粒子被覆層8を形成させてコア・シェル構造を有する微小粒子部5用のコア・シェル型粒子を作製し、このコア・シェル型粒子と、複合体(W1)とを、圧着、溶接、静電吸着、気相成長等に供することにより製造することができる。
【0049】
図7の探針1Fの場合、無機材料、有機材料又はこれらの組合せからなるコア探針部11用素材の表面に、無機材料、有機材料又はこれらの組合せからなるコア粒子部6を接合して複合体(以下、「複合体(W2)」という)を作製した後、この複合体(W2)の表面に、蒸着、メッキ等を行って、表面プラズモン活性を有する金属元素を含む被覆層15を形成することにより製造することができる。
【0050】
本発明の探針に対し、光を照射すると、高強度の近接場光を発生させることができるので、本発明の解析方法において、有用である。特に、本発明の探針は、微小粒子部5及び探針本体部10が接合されてなる点において、優れた形状安定性を有することから、近接場光発生装置の構成部品として好適である。
【0051】
本発明の近接場光発生装置は、本発明の探針を備える装置であり、上記の近接場光発生装置(Q1)がそのまま適用される。即ち、本発明の近接場光発生装置は、探針と、試料20がセットされるステージ又は容器と、光源とを備え、更に、装置内の圧力を変化させる圧力調整手段、試料20の温度を調整する温度調整手段、試料20の表面処理等を行うための反応ガス供給手段、探針を介して試料20に電圧を印加するための電圧印加手段等を備えることができる。
【0052】
光源としては、白色LED等の発光ダイオード(LED)、レーザー、白熱光、蛍光灯、プロジェクタ用電球、キセノン、キセノン水銀、メタルハライドランプ等のアーク灯、コヒーレント又はインコヒーレント光源等を用いることができる。
【0053】
本発明の解析システムは、本発明の近接場光発生装置と、分光装置とを備える、本発明の解析方法を実現する複合装置であり、上記の解析システム(S1)がそのまま適用される。分光装置は、分光器(回折格子等)及び検出器(CCD、CMOSイメージセンサ、光電子増倍管、フォトダイオード、イメージングプレート等)を含み、更に、光検出器が検出した電気信号等の分光測定結果を解析し出力するプログラムを含むデータ処理手段を備えることができる。
【0054】
本発明の解析システムにおいて、近接場光発生装置及び分光装置は、独立に配置されたものでも、分光装置の中に近接場光発生装置を備えるものでも、更には、近接場光発生装置の中に分光装置を備えるものでもよい。
【実施例0055】
1.時間領域差分法(FDTD法)による光電場強度のシミュレーション
モデル化探針として、先端部が図2に示す構造を有する複合型探針1Aを用いた。この複合型探針1Aは、先端が凸状曲面(先端半径150nm)である、銀製の探針本体10の該先端に球体の銀粒子5(半径20nm)が直接、接触したものである。
時間領域差分法(FDTD法)は、電磁場の逐次的な時間変化をシミュレートする数値解法であり、図2の右側から、波長633nm及び532nmの光を、それぞれ、銀粒子5を含む複合型探針1Aの先端部に放射した際の光電場強度分布を計算した。比較のため、銀粒子5を不使用として探針本体10のみに上記光を放射した場合の光電場強度分布を計算した。
【0056】
図8及び図9は、波長633nmの光を、それぞれ、銀粒子5を含む複合型探針1Aの先端部に、及び、銀粒子5を不使用として探針本体10のみに放射した場合の光電場強度分布である。
また、図11及び図12は、波長532nmの光を、それぞれ、銀粒子5を含む複合型探針1Aの先端部に、及び、銀粒子5を不使用として探針本体10のみに放射した場合の光電場強度分布である。
【0057】
図8及び図11によると、いずれも、探針本体10の先端の銀粒子5に生じる電場強度が大きいことが分かる。これは、探針本体10及び銀粒子5のプラズモン相互作用によって、より高強度の近接場が生じたものと考えられる。
【0058】
また、銀粒子5における光強度の絶対値を、放射した光強度の絶対値で除した値を「相対光強度」として、図10(波長633nmの光)及び図13(波長532nmの光)に示した。これらの図10及び図13には、球体の銀粒子5の粒径を30nm、40nm、50nm又は60nmとした場合、及び、銀粒子を不使用として探針本体10のみに光照射した場合(図中、「探針のみ」と表記)のシミュレーション結果から算出した相対光強度も示した。
図10及び図13によると、探針本体の先端に微小粒子部を配置することにより、より高い強度の近接場が得られることが分かる。
【0059】
2.試料解析
以下、グラフェンシート及びシリコン基板を測定試料として、近接場ラマン分光測定を行った例を示す。
【0060】
実験例1
シリコン基板の上に載置した原子8層分のグラフェンシートに、平均粒径が約40nmの銀粒子を含む水分散液を滴下して乾燥させた。次いで、原子間力顕微鏡を用いて、シリコンからなるコア部の表面を銀コーティングさせてなる探針(Ag被覆探針)を走査し、下方向きのAg被覆探針の先端(下端)をグラフェンシート上の銀粒子の上面に接触させ、この状態で静止した。その後、Ag被覆探針の先端及び銀粒子に向かって、波長633nmのHe-Neレーザーを、対物レンズを通して、出力247μWにて照射し、散乱光をラマン分光装置で検出しラマンスペクトルを得た。
図14の(a)は、得られたラマンスペクトルから、Ag被覆探針を接触させずに測定して得られたラマンスペクトル(バックグラウンドスペクトル)を差し引いた差スペクトルであり、グラフェンのDバンド、Gバンド及び2Dバンドのピークが明瞭であることが分かる。
一方、図14の(b)は、Ag被覆探針をグラフェンシートに直接、接触させて測定して得られたラマンスペクトルから、Ag被覆探針を接触させずに測定して得られたラマンスペクトル(バックグラウンドスペクトル)を差し引いた差スペクトルであり、2Dバンドのピークが明瞭ではなかった。そして、Dバンド及びGバンドの各ピーク強度に着眼すると、図14の(a)のほうが、26倍程度高いことから、グラフェンシートのようなナノ材料に対する近接場ラマン分光において、微小粒子部が試料及び探針本体の間に配置された光ナノアンテナを利用すると、高感度の材料解析が可能であることが明らかである。
【0061】
実験例2
シリコン基板の上に、平均粒径が約40nmの銀粒子を含む水分散液を滴下して乾燥させた。次いで、実験例1と同様にして、原子間力顕微鏡を用いて、シリコンからなるコア部の表面を銀コーティングさせてなる探針(Ag被覆探針)を走査し、下方向きのAg被覆探針の先端(下端)をシリコン基板上の銀粒子の上面に接触させ、この状態で静止した。その後、Ag被覆探針の先端及び銀粒子に向かって、波長633nmのHe-Neレーザーを、対物レンズを通して、出力247μWにて照射し、散乱光をラマン分光装置で検出しラマンスペクトルを得た。
図15の(a)は、得られたラマンスペクトルから、Ag被覆探針を接触させずに測定して得られたラマンスペクトル(バックグラウンドスペクトル)を差し引いた差スペクトルであり、シリコンのF2gモードのピークが明瞭であることが分かる。
一方、図15の(b)は、Ag被覆探針をグラフェンシートに直接、接触させて測定して得られたラマンスペクトルから、Ag被覆探針を接触させずに測定して得られたラマンスペクトル(バックグラウンドスペクトル)を差し引いた差スペクトルであり、F2gモードのピーク強度は小さかった。そして、この強度に関しては、図15の(a)のほうが、2.5倍程度高いことから、シリコン基板のようなバルク材料に対する近接場ラマン分光において、微小粒子部が試料及び探針本体の間に配置された光ナノアンテナを利用すると、高感度の材料解析が可能であることが明らかである。
【0062】
3.複合型探針の製造
実施例1
シリコン基板上に、平均粒径が約40nmの銀粒子を含む水分散液を滴下して乾燥させた。次いで、原子間力顕微鏡を用いて、タッピングモードを利用して、シリコンからなるコア部の表面を銀コーティングさせてなる探針を走査し、銀粒子が載置されたシリコン基板のトポグラフィー像を計測した。その後、得られたトポグラフィー像からシリコン基板上の銀粒子の位置を特定した。そして、原子間力顕微鏡により、探針を、その先端が銀粒子の真上に位置するように移動させ、コンタクトモードを利用して、シリコン基板面に対して垂直方向の探針位置制御によって探針先端を銀粒子に押し付ける(圧着する)ことにより複合型探針を得た。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によると、従来、公知の探針を用いた場合に比べてより高い強度の近接場光を発生させることができるので、例えば、半導体材料等の、微細加工された材料に対する、ナノスケールの構造・化学状態の詳細な解析又は評価に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1A,1B,1C,1D,1E,1F:(複合型)探針
5:微小粒子部
6:コア粒子部
8:粒子被覆層
9:接着層
10:探針本体又は探針本体部
11:コア探針部
13:探針部被覆層
15:被覆層
20:試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15