(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161899
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】二次電池用絶縁フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/417 20210101AFI20231031BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20231031BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20231031BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20231031BHJP
【FI】
H01M50/417
H01M50/403 D
H01M50/434
H01M50/446
H01M50/403 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072535
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】青木 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】森 春菜
(72)【発明者】
【氏名】吉野 賢二
(72)【発明者】
【氏名】今井 正人
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 篤史
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021BB12
5H021EE04
5H021EE22
5H021HH01
5H021HH04
5H021HH06
(57)【要約】
【課題】所望の絶縁性や耐熱性を発揮し、膜厚がさほど増大せず電池の高エネルギー密度化に資する二次電池用絶縁フィルムおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】二次電池用絶縁フィルム1は、ポリオレフィン製の微多孔膜から成る基材フィルム10と、基材フィルム10に含まれる金属酸化物20を有する。絶縁フィルム1において、金属酸化物10は少なくとも一部の微孔10pに収容され、微孔10pの内壁にに存在している。
二次電池用絶縁フィルムの製造方法は、金属酸化物の金属に対応するアルキル化合物および/またはアルキル化合物の部分加水分解物を含む溶液を基材フィルムに噴霧および乾燥する方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の微孔を有するポリオレフィン製の基材フィルムからなり、上記微孔の少なくとも一部の微孔に金属酸化物を含む二次電池用絶縁フィルムであって、
上記金属酸化物が上記微孔の内壁に存在している二次電池用絶縁フィルム。
【請求項2】
上記微孔の断面観察において、金属酸化物部位の断面積/微孔の断面積×100(%)で表される、微孔に対する金属酸化物の占有率が5~20%である請求項1に記載の二次電池用絶縁フィルム。
【請求項3】
上記金属酸化物の含有量が、フィルム全重量に対して1~5質量%である請求項1または2に記載の二次電池用絶縁フィルム。
【請求項4】
上記金属酸化物が当該フィルム内部の表面または裏面近傍に偏在している請求項1または2に記載の二次電池用絶縁フィルム。
【請求項5】
上記金属酸化物が酸化アルミニウムである請求項1または2に記載の二次電池用絶縁フィルム。
【請求項6】
上記酸化アルミニウムがアルキルアルミニウム化合物の部分加水分解によって生成されたものである請求項5に記載の二次電池用絶縁フィルム。
【請求項7】
請求項1または2項に記載の二次電池用絶縁フィルムを製造するに当たり、
上記金属酸化物の金属に対応するアルキル化合物および/または該アルキル化合物の部分加水分解物を含む非水系溶液を上記基材フィルムに噴霧および乾燥し、この乾燥を室温~80℃で行う二次電池用絶縁フィルムの製造方法。
【請求項8】
上記金属酸化物の金属に対応するアルキル化合物が、アルキルアルミニウム化合物である請求項7に記載の二次電池用絶縁フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用絶縁フィルムおよびその製造方法に係り、更に詳細には、リチウムイオン二次電池のセパレータとして好適に用いることができ、良好な絶縁性と耐熱性を発揮するのみならず薄膜化を実現でき、電池の高密度エネルギー化を促進できる、二次電池用絶縁フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン電池用セパレータの耐熱性を向上させ、電池の高エネルギー密度化に伴うセパレータの劣化を防止して安全性を向上すべく、ポリオレフィン多孔膜の表裏面の少なくとも一方に、特定バインダを用いて形成した無機粒子層を積層したセパレータが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、所定粒径のコロイド無機粒子を含むポリオレフィン膜と、この膜の少なくとも一部を覆う層であって、所定のヒュームド無機粒子を含む水系分散体で形成された微多孔質無機表層と、を備えるリチウムイオンバッテリー用のセパレータが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5354735号公報
【特許文献2】特許第6761341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のようなセパレータにあっては、無機粒子層が積層されていることからも明らかなように、無機粒子をポリオレフィン多孔膜内部へ含浸させることについては意図されていない。よって、少なからずセパレータの膜厚が増大してしまい、結局は当該電池のエネルギー密度を低下させてしまうことがあった。
【0006】
一方、特許文献2に記載のセパレータにおいては、ポリオレフィン膜を覆う微多孔質無機表層の分だけ膜厚が増大し、また、無機粒子の粒径サイズいかんによってはポリオレフィン膜の細孔内に進入できないこともあり、セパレータ膜厚の増大を招く。
更には、一般にリチウムイオン電池の製造では、原料の管理や処理工程において、水分の存在が規制されているが、この従来技術による表面処理によれば、後工程として多大な乾燥工程と残存水分の管理が必要になってしまい、煩雑で製品品質の不均質化や製造効率の低下が懸念される。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、所望の絶縁性や耐熱性を発揮し、膜厚がさほど増大せず電池の高エネルギー密度化に資する二次電池用絶縁フィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、金属酸化物の前駆体溶液を用い、この金属酸化物を微多孔膜の微孔内に適切に存在させることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 多数の微孔を有するポリオレフィン製の基材フィルムからなり、上記微孔の少なくとも一部の微孔に金属酸化物を含む二次電池用絶縁フィルムであって、
上記金属酸化物が上記微孔の内壁に存在している二次電池用絶縁フィルム。
(2) 上記微孔の断面観察において、金属酸化物部位の断面積/微孔の断面積×100(%)で表される、微孔に対する金属酸化物の占有率が5~20%である上記(1)に記載の二次電池用絶縁フィルム。
(3) 上記金属酸化物の含有量が、フィルム全重量に対して1~5質量%である上記(1)または(2)に記載の二次電池用絶縁フィルム。
(4) 上記金属酸化物が当該フィルム内部の表面または裏面近傍に偏在している上記(1)~(3)のいずれかの項に記載の二次電池用絶縁フィルム。
(5) 上記金属酸化物が酸化アルミニウムである上記(1)~(4)のいずれかの項に記載の二次電池用絶縁フィルム。
(6) 上記酸化アルミニウムがアルキルアルミニウム化合物の部分加水分解によって生成されたものである上記(5)に記載の二次電池用絶縁フィルム。
(7) 上記(1)~(6)のいずれかの項に記載の二次電池用絶縁フィルムを製造するに当たり、
上記金属酸化物の金属に対応するアルキル化合物および/または該アルキル化合物の部分加水分解物を含む非水系溶液を上記基材フィルムに噴霧および乾燥し、この乾燥を室温~80℃で行う二次電池用絶縁フィルムの製造方法。
(8) 上記金属酸化物の金属に対応するアルキル化合物が、アルキルアルミニウム化合物である上記(7)に記載の二次電池用絶縁フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属酸化物の前駆体溶液を用い、この金属酸化物を微多孔膜の微孔内に適切に存在させることとしたため、所望の絶縁性や耐熱性を発揮し、膜厚がさほど増大せず電池の高エネルギー密度化に資する二次電池用絶縁フィルムおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の二次電池用絶縁フィルムの概略形状を示す部分拡大断面図である。
【
図2】実施例1の絶縁フィルムのTEM写真である。
【
図3】実施例1の絶縁フィルムの走査透過型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光分析器(STEM/EDX)分析の結果を示す写真である。
【
図4】実施例1の絶縁フィルムのXPS分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の二次電池用絶縁フィルムについて説明する。
上述のように、本発明の二次電池用絶縁フィルムは、多数の微孔を有するポリオレフィン製の基材フィルムからなる。
本発明の二次電池用絶縁フィルムは、金属酸化物が上記微孔の少なくとも一部の微孔に含まれており、上記微孔の内壁に存在している。
【0012】
<構造等>
図1は、本発明の二次電池用絶縁フィルムの一実施形態を示す部分拡大断面図であり、絶縁フィルムをその厚さ方向に平行な面で切断した状態を示している。
同図において、本実施形態の絶縁フィルム1は、複数の微孔10pを有する微多孔膜である基材フィルム10を備えるが、微孔10pの内壁には金属酸化物20が存在している。典型的には、微孔内壁と金属酸化物20とはほぼ隙間なく密着しており、金属酸化物同士も密着している。
なお、微孔10pは紙面に垂直な方向など、ランダムな方向にも連なっていてもよいが、その状態は図示していない。
【0013】
ここで、基材フィルム10に存在する複数の微孔10pは、その大部分の微孔が他の微孔と連通しており(図示せず)、このような微孔-微孔で形成される経路としては、基材フィルム10の表面10fから裏面10bに通じているもの(以下、「貫通経路」ということがある。)が極めて多い。かかる貫通経路は、基材フィルム10の表裏面間や微孔間を迂回したり曲がりくねって連通していることが多いが、直線的に連通していてもよい。
【0014】
このような貫通経路を形成していれば、この絶縁フィルムが電池用セパレータとして使用された場合、電解液の流通を確保することができる。
但し、本実施形態の絶縁フィルム1において、微孔10pの全てが上述の貫通経路を形成している必要はなく、表面10fおよび裏面10bの一方にしか開放していない経路が存在してもよい。
【0015】
この絶縁フィルム1においては、微孔10pの内壁に金属酸化物20が存在している。換言すると、金属酸化物20は、微孔10pの内壁に密着し、内壁表面の全部ないし一部、好ましくは大部分の領域を覆って層状に存在している。
このような金属酸化物の存在により、絶縁フィルム全体としての均一的な絶縁性や耐熱性の発現を実行することができる。また、基材フィルム10の厚さを殆ど増大させることなく金属酸化物の含有量を増大できるので、絶縁性や耐熱性を向上できるのみならず、使用する電池のエネルギー密度を向上させることができる。
なお、従来、フィルム表面に酸化物層を形成する場合には、酸化物層の緻密さを制御して電解液が内部に入り込むようにしなければならなかった。また、電解液とフィルムとの濡れ性が不十分な場合は、酸化物を浸透(進入)させるための特殊工程が必要であったが、本発明によれば、かかる手間暇を無くして簡易に酸化物の進入を実現できる。
【0016】
絶縁フィルム1としては、その断面観察において、金属酸化物部位20の断面積/微孔10pの断面積×100(%)で表される、微孔に対する金属酸化物の占有率が5~20%であることが好ましい。
この占有率が5~20%であることにより、フィルム全体としての所期の絶縁・耐熱性がより得られることになり、電解液流通がより適切となる。
【0017】
本発明においては、絶縁フィルムにおける金属酸化物の含有量は、絶縁フィルム全重量に対して1~5質量%であることが好ましい。
金属酸化物の含有量が1~5質量%であることにより、フィルム全体としての所期の絶縁・耐熱効果がより得られることになり、電解液流通がより適切となる。
【0018】
また、本発明においては、金属酸化物20を当該絶縁フィルム1の表面10f側または裏面10b側に偏在させることができる。
このような偏在により、例えば、正極と対向する面側の金属酸化物を増加させたり、負極と対向する面側の金属酸化物を増加させることができ、それぞれ耐熱性を効率的に向上させたりデンドライト形成による短絡の発生を抑制することができる。
【0019】
<材質等>
次に、以上に説明した二次電池用絶縁フィルムの材質等につき説明する。
基材フィルムは、ポリオレフィン製であり微孔を多数有する。
ここで、基材フィルムを形成するポリオレフィンとしては、代表的にポリエチレン、ポリプロピレンを挙げることができる。
【0020】
本発明の二次電池用絶縁フィルムをリチウム二次電池用のセパレータとして使用する場合、基材フィルムの厚さは5~25μmとすることが好ましい。
基材フィルムの厚さが5~25μmであることにより、金属酸化物の前駆体溶液の含浸と乾燥工程でフィルムの変形をより防止し、内部への金属酸化物の分散状態の均一性をより維持することができる。
また、同様にセパレータとして使用する場合、微孔としては、孔径が1μm以下程度の微孔が好ましいが、これに限定されるわけではない。
【0021】
上述のような微多孔質ポリオレフィン膜である基材フィルムとしては、例えば、従来公知の方法で作成されたポリオレフィンフィルムに1方向以上の延伸処理を行うことによって作製することができる。
かかる基材フィルムは市場で入手することも可能であり、例えば、「Celgard」(旭化成社製、商品名)を使用することが可能である。
【0022】
次に、金属酸化物としては、絶縁性と耐熱性を併有する材料が好適であり、具体的には酸化アルミニウムを挙げることができる。
なお、本発明においては、上記の酸化アルミニウムは、後述するようにアルキルアルミニウム化合物および/またはアルキルアルミニウム化合物の部分加水分解物を含む溶液を用いて生成され得る。
【0023】
<二次電池用絶縁フィルムの製造方法>
次に、本発明の二次電池用絶縁フィルムの製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、上述した本発明の二次電池用絶縁フィルムを製造する方法であって、上記の金属酸化物の金属に対応するアルキル化合物および/または該アルキル化合物の部分加水分解物と非水溶媒を含む溶液と、好ましくはこの溶液の非水溶媒を利用する製造方法である。
この製造方法では、上記の溶液を基材フィルムに噴霧および乾燥し、この乾燥を室温~80℃で実行する。この際、噴霧と乾燥は同時に行うことができるが、噴霧後に乾燥を行うことも可能である。噴霧と乾燥を同時に行う方が表面堆積層を減少させてフィルムの厚膜化を防止し易くなるが、噴霧後の乾燥であってもフィルムの厚膜化を有効に防止することは可能である。
【0024】
また、本発明の製造方法においては、上記溶液の噴霧・乾燥に続けて、この溶液の非水溶媒を噴霧および乾燥させることが好ましい。かかる溶液と非水溶媒の噴霧・乾燥から成る連続工程は少なくとも1回実行することが望ましいが、このような非水溶媒の噴霧・乾燥により、金属酸化物を基材フィルムの微孔内への充填を促進することができる。
なお、非水溶媒の乾燥も上記溶液と同様の温度で行えばよい。
【0025】
ここで、金属酸化物の金属に対応するアルキル化合物としては、アルキルアルミニウム化合物、具体的にはトリメチルアルミニウム(以下「TMAL」と略すことがある)、トリエチルアルミニウム、トリ-n-プロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ-t-ブチルアルミニウム、トリ-n-ペンチルアルミニウム、トリ-n-ヘキシルアルミニウム、トリ-n-ヘプチルアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウム等を挙げることができる。
また、非水溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(以下「NMP」と略すことがある)、1,3-ジメチル-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン等の環状アミド;n-ヘキサン、オクタン、n-デカン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族炭化水素;ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、ケロシン、石油エーテル等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、ジ-n-ブチルエーテル、ジアルキルエチレングリコール、ジアルキルジエチレングリコール、ジアルキルトリエチレングリコール等のエーテル;グライム、ジグライム、トリグライム系溶媒等挙げることができる。
また、非水溶媒としては、好ましくは、上記化合物を1種単独でまたは適宜に混合して用いることができる。これらの非水溶媒は製造条件や使用条件によって種々選択することが可能であり、例えば、N-メチル-2-ピロリドンのようなアミド系溶媒は電極の製造時に常用されているため好適であり、トルエンはキシレン等の芳香族炭化水素溶媒は工業的に汎用されているため好ましく、テトラヒドロフランやグライム等のエーテル系溶媒はアルキルアルミニウムの部分加水分解物に配位して安定化するため好適に使用できる。
【0026】
本発明の製造方法において、上記の溶液は、金属酸化物の前駆体溶液として機能する。
かかる溶液、特にアルキルアルミニウム化合物および/またはアルキルアルミニウム化合物の部分加水分解物を含む溶液調製は、特許第6756634号公報に記載の方法に従って調製することができる。
【0027】
かかる溶液としては、アルミニウム濃度が0.5~4質量%のものが好ましい。アルミニウム濃度が0.5質量%未満ではフィルム内部に所望の金属酸化物が得られないことがあり、4質量%を超えると塗布した表面に多量の金属酸化物が堆積することがある。
また、この溶液の濁度は0~20.9NTUであることが好ましく、粘度は1.743~2.790mPa・sであることが好ましい。濁度、粘度を上記範囲とすることにより、溶媒に不溶なゲルまたは固体の析出をより防止できる。
【0028】
本発明の製造方法においては、基材フィルム、典型的には基材フィルムの表面に、上記の非水系溶液を、好ましくは非水溶媒と連続して噴霧することにより、金属酸化物が基材フィルムの表面にあまり残存することなく微孔を通じてフィルム中に深く広く浸透し、金属酸化物と微孔内壁との密着を実現できる。
しかも、上記の噴霧後に乾燥(非水溶媒の乾燥を含む)を行っても、基材フィルムの表面に金属酸化物被膜は殆ど形成されない。
【実施例0029】
以下、本発明の二次電池用絶縁フィルムを実施例および比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
<原料>
ポリオレフィン製微多孔膜から成る基材フィルムとしてCelgard2400(旭化成社製、商品名)を用いた。この基材フィルムの形状および寸法は25×25mmの正方形で、その厚さは20μmであり、微孔の開口寸法は50~250nmであった。
また、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶媒のトリメチルアルミニウム(TMAL)部分加水分解物(メチルアルミノキサン(MAO))溶液、すなわちMAO/NMP溶液としてはAl分を1量%の割合で含む1%Al-MAO/NMP溶液を用いた。この際、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)はキシダ化学株式会社製を用い、TMALは(TRIMETHYLALUMINIUM)はLAKE MATERIALS社製を用いた。
なお、1%Al-MAO/NMP溶液の濁度は20.9NTU、粘度は2.790mPa・sであった。また、NMP溶液の濁度は10.0NTU、粘度は1.824mPa・sであった。
【0031】
<製造操作>
ガラス製の基板上に上記の基材フィルムを載置し、この基材フィルムを50℃に加熱した後、表面側(上面側)に、上記1%Al-MAO/NMP溶液1mlを10ml/hの供給速度下に流量8l/minのキャリアガス(窒素ガス)を用いて噴霧し、同時に乾燥して、本例の二次電池用絶縁フィルムを得た。
【0032】
(実施例2)
実施例1における1%Al-MAO/NMP溶液の噴霧・乾燥に続けて、NMP溶媒をMAO/NMP溶液と同様に1ml噴霧して乾燥させ、本例の二次電池用絶縁フィルムを得た。
【0033】
<性能評価>
[微孔内観察]
上記の二次電池用絶縁フィルムについてTEM観察を行った。得られた結果を
図2に示す。
図2は、実施例1の絶縁フィルムをその厚さ方向に平行な面で切断して薄膜化し、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した結果を示す写真である。
絶縁フィルムの主成分であるカーボンと酸化アルミニウムの電子線吸収の差異によってTEM像にコントラストが生じている。すなわち、観察方向に平行な微孔の内壁に密着している酸化アルミニウムは、深さ方向(電子線透過方向)に厚みがあるので、コントラストが強くなっている。
【0034】
図2に示すように、本発明の範囲に属する実施例1の絶縁フィルムは、フィルムの厚さ方向と平行な断面において、微孔の内壁に酸化アルミニウムが密着していることが明らかであり、且つ微孔の空間部も比較的大きな容積で残存していることも明らかである。よって、フィルム全体として良好な絶縁性および耐熱性を発揮でき、且つこの絶縁フィルムをセパレータに用いた場合には、電解液の良好な流通も確保することができる。
【0035】
[金属酸化物(成分・組成)の確認]
実施例1の絶縁フィルムについて、走査透過型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光分析器(STEM/EDX)分析を行い、得られた結果を
図3に示す。
STEM像においては、フィルム内の微孔周囲でコントラストが強くなっており、当該領域では、STEM/EDX分析により高濃度のAlとOが検出された。また、AlとOの組成比は酸化アルミニウムの組成である0.4に近似した値であった。この点からも、絶縁フィルム内部の微孔内壁に酸化アルミニウムが密着していることが明らかである。
【0036】
なお、上述のSTEM/EDXの正式名称と概略内容は下記の通りである。
・STEM:Scanning Transmission Electron Microscope
サブナノメートルのビーム径に集束した電子線プローブで試料面上を走査し、試料を透過した電子を検出して像を得る。
・EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscope
電子線照射により発生する特性X線を検出し、エネルギーを分光することによって、元素分析や組成分析を行う。
・STEM/EDX
STEMにより電子線を走査しながらEDX分析を行うことにより、広範囲の元素分析が可能となり、これを行う。
【0037】
[金属酸化物の存在位置(深さ位置)]
実施例1の絶縁フィルムについてXPS分析を行い、得られた結果を
図4に示す。
なお、XPSの正式名称と概略内容は下記の通りであった。
・XPS:X-ray Photoelectoron Spectroscopy
軟X線を物質に照射し、放出される光電子を補足しエネルギー分析を行うことにより、定量・定積分析および化学結合状態分析を行う。Arイオンでスパッタエッチングすることにより深さ方向分析ができる。
【0038】
図4に示すように、実施例1の絶縁フィルムでは、酸化アルミニウムがフィルム表面から1μm以上の深さに位置していることが明らかであり、微孔内部にまで有意に進入していることが分かった。
【0039】
(フィルムの厚さ増加)
各例の絶縁フィルムにおいて、基材フィルムからの厚さ増加率は、実施例1で約1%以下、実施例2でも約1%以下であり、ほとんど厚さが増加していないことが分かった。