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特開2023-161914積層線材架線体、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161914
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】積層線材架線体、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 12/06 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
H01B12/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072558
(22)【出願日】2022-04-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「航空機用先進システム実用化プロジェクト/次世代電動推進システム研究開発/高効率かつ高出力電動推進システム」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】町 敬人
(72)【発明者】
【氏名】和泉 輝郎
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA02
5G321AA04
5G321BA02
5G321BA03
5G321BA06
5G321CA04
5G321CA24
5G321CA27
5G321CA28
5G321CA42
(57)【要約】
【課題】接続抵抗を一定の範囲に収め、臨界電流を劣化させることなく積層線材を複数接続した新しい積層線材架線体の提供を目的とする。
【解決手段】積層線材架線体は、第1超電導層を有する長尺状の第1線材と、第2超電導層を有する長尺状の第2線材とを積層した積層線材を、長さ方向に複数本接続した積層線材架線体であり、積層線材どうしの架線部は、第1線材および第2線材の間に、第3超電導層を有し、かつ隣接する2つの第1線材を接続するための第1バイパスと、第4超電導層を有し、かつ隣接する2つの第2線材を接続するための第2バイパスと、を有し、第1バイパスの第3超電導層は、隣接する2つの第1線材の第1超電導層に向かい合うように配置されており、第2バイパスの第4超電導層は、隣接する2つの第2線材の第2超電導層に向かい合うように配置されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素を含む第1超電導層を有する長尺状の第1線材と、希土類元素を含む第2超電導層を有する長尺状の第2線材とを積層した積層線材を、長さ方向に複数本接続した積層線材架線体であり、
前記積層線材どうしの架線部は、前記第1線材および前記第2線材の間に、
希土類元素を含む第3超電導層を有し、かつ隣接する2つの前記第1線材を接続するための第1バイパスと、
希土類元素を含む第4超電導層を有し、かつ隣接する2つの前記第2線材を接続するための第2バイパスと、
を有し、
前記第1バイパスの前記第3超電導層は、隣接する2つの前記第1線材の前記第1超電導層に向かい合うように配置されており、
前記第2バイパスの前記第4超電導層は、隣接する2つの前記第2線材の前記第2超電導層に向かい合うように配置されている、
積層線材架線体。
【請求項2】
各前記積層線材は、第1金属基板、前記第1超電導層、第1安定化層、中間接続層、第2安定化層、前記第2超電導層、および第2金属基板を、この順に含む、
請求項1に記載の積層線材架線体。
【請求項3】
前記第1バイパスは、第3金属基板、前記第3超電導層、および第3安定化層をこの順に含み、
前記第2バイパスは、第4金属基板、前記第4超電導層、および第4安定化層をこの順に含む、
請求項1または2に記載の積層線材架線体。
【請求項4】
前記第1線材どうしの架線部、および前記第2線材どうしの架線部が、平面視したときに異なる位置にある、
請求項1または2に記載の積層線材架線体。
【請求項5】
前記第1バイパスおよび前記第2バイパスが重ならないように配置されている、
請求項1または2に記載の積層線材架線体。
【請求項6】
各前記架線部の前記第1バイパスおよび前記第2バイパスの間に、スペーサが配置されている、
請求項5に記載の積層線材架線体。
【請求項7】
前記第1バイパスの端部および前記第2バイパスの端部が互いに接するように配置されている、
請求項5に記載の積層線材架線体。
【請求項8】
希土類元素を含む第1超電導層を有する長尺状の第1線材、および希土類元素を含む第2超電導層を有する長尺状の第2線材を積層した積層線材を複数準備する工程と、
希土類元素を含む第3超電導層を有する第1バイパス、および希土類元素を含む第4超電導層を有する第2バイパスを準備する工程と、
前記複数の積層線材のうちの1つの積層線材の端部における、前記第1線材および前記第2線材を分離する工程と、
前記複数の積層線材のうちの他の積層線材の端部における、前記第1線材および前記第2線材を分離する工程と、
前記第1バイパスの前記第3超電導層が、前記2つの積層線材の前記第1超電導層に向かい合うように、前記第1バイパスを配置し、前記第2バイパスの前記第4超電導層が、前記2つの積層線材の前記第2超電導層に向かい合うように、前記第2バイパスを配置する工程と、
を含む、
積層線材架線体の製造方法。
【請求項9】
前記1つの積層線材の前記第1線材および前記第2線材を分離する工程において、前記第1線材および前記第2線材を分離後、前記第1線材の一部を切断して、前記第1線材の長さを短くし、
前記他の積層線材の前記第1線材および前記第2線材を分離する工程において、前記第1線材および前記第2線材を分離後、前記第2線材の一部を切断して、前記第2線材の長さを短くし、
前記第1バイパスおよび前記第2バイパスを配置する工程において、前記第1バイパスおよび前記第2バイパスが重ならないように配置する、
請求項8に記載の積層線材架線体の製造方法。
【請求項10】
前記第1バイパスおよび前記第2バイパスを配置する工程において、前記第1バイパスおよび前記第2バイパスの間に、スペーサを配置する、
請求項9に記載の積層線材架線体の製造方法。
【請求項11】
前記第1バイパスおよび前記第2バイパスを配置する工程において、
前記第1バイパスの端部および前記第2バイパスの端部が接触するように前記第1バイパスおよび前記第2バイパスを配置する、
請求項9に記載の積層線材架線体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層線材架線体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温超電導体は、その臨界温度が液体窒素温度を超えることから超電導マグネット、超電導ケーブル、電力機器、およびデバイス等への応用が期待されており、多くの研究結果が報告されている。
【0003】
高温超電導体を上記の分野に適用するためには、長尺状の線材とする必要がある。また特に、高温超電導化合物として希土類(Rare Earth(RE))を含む化合物を使用する場合には、金属テープ等からなる金属基板上に高温超電導化合物を積層して、テープ状の線材とすることが一般的である。
【0004】
近年、希土類を含む超電導層を有する、RE系超電導線材を、超電導層どうしが向かい合うように2枚貼り合わせた積層線材(face to face double stacked線材、以下「FFDS線材」とも称する)が提案されている(非特許文献1~3参照)。RE系高温超電導線材は,長尺に渡る薄膜形成プロセスで作製されるために現在の技術では線材中に存在する欠陥(Icを低下させる部位)を完全には排除できない。これに対し、上記FFDS線材では、一方の線材に欠陥が生じても、電流が対向する他方の線材に移行し、欠陥を回避して進むことができる。つまり、線材中の欠陥の影響を減らすことができる。また、FFDS線材では、超電導層が応力中心に近いことから、曲げ強度が強い。さらに、FFDS線材は、超電導線材を2枚貼り合わせていることから、通常の超電導線材の2倍の臨界電流(Ic)を有する。ただし、このようなFFDS線材を、マグネット、ケーブル、回転機等に適用するためには何kmもの長い線材が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Takanobu Kiss, et.al., "Analysis and Modeling of Current Transport Properties in Long Length Coated Conductors", International Symposium on Superconductivity 2017
【非特許文献2】木須隆暢、外7名、「Face-to-Face Double Stack(FFDS)構造を有する1mm幅細線加工REBCOコート線材の電流-電圧特性(Current-Voltage Characteristics in Face-to-Face Double Stacked (FFDS) 1-mm-Wide REBCO Coated Conductor Tapes)」、第96回2018年度春季低温工学・超電導学会、2018年5月
【非特許文献3】鬼塚雄大、外9名、「Face-to-Face Double Stack構造によるREBCO線材の電流輸送特性のロバスト性向上(Improvement of Robustness of Current Transport Properties in REBCO Coated Conductor by Face-to-Face Double Stack Structure)」、第98回2019年度春季低温工学・超電導学会、2019年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現在の技術では、RE系超電導線材およびFFDS線材の単長を数kmとすることが困難であり、FFDS線材の接続方法の確立が急務である。また超電導線材の応用においては、コイル間の接続等、様々な状況においても接続が求められており、積層線材架線体やその製造方法の提供が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、臨界電流(Ic)を劣化させることなく積層線材を複数接続した新しい積層線材架線体、およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、希土類元素を含む第1超電導層を有する長尺状の第1線材と、希土類元素を含む第2超電導層を有する長尺状の第2線材とを積層した積層線材を、長さ方向に複数本接続した積層線材架線体であり、前記積層線材どうしの接続部は、前記第1線材および前記第2線材の間に、希土類元素を含む第3超電導層を有し、かつ隣接する2つの前記第1線材を接続するための第1バイパスと、希土類元素を含む第4超電導層を有し、かつ隣接する2つの前記第2線材を接続するための第2バイパスと、を有し、前記第1バイパスの前記第3超電導層は、隣接する2つの前記第1線材の前記第1超電導層に向かい合うように配置されており、前記第2バイパスの前記第4超電導層は、隣接する2つの前記第2線材の前記第2超電導層に向かい合うように配置されている、積層線材接続体を提供する。
【0009】
また、本発明は、希土類元素を含む第1超電導層を有する長尺状の第1線材、および希土類元素を含む第2超電導層を有する長尺状の第2線材を積層した積層線材を複数準備する工程と、希土類元素を含む第3超電導層を有する第1バイパス、および希土類元素を含む第4超電導層を有する第2バイパスを準備する工程と、前記複数の積層線材のうちの1つの積層線材の端部における、前記第1線材および前記第2線材を分離する工程と、前記複数の積層線材のうちの他の積層線材の端部における、前記第1線材および前記第2線材を分離する工程と、前記第1バイパスの前記第3超電導層が、前記2つの積層線材の前記第1超電導層に向かい合うように、前記第1バイパスを配置し、前記第2バイパスの前記第4超電導層が、前記2つの積層線材の前記第2超電導層に向かい合うように、前記第2バイパスを配置する工程と、を含む、積層線材接続体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、臨界電流(Ic)を劣化させることなく、複数の積層線材を接続した新しい積層線材接続体、およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1Aは、第1線材および第2線材の概略断面図であり、図1Bは、積層線材の概略断面図である。
図2図2A図2Dは、本発明の実施形態に係る積層線材接続体の積層線材どうし接続部の構成を説明するための概略断面図である。
図3図3A図3Eは、本発明の一実施形態に係る積層線材接続体の製造方法の一例を示す斜視図である。
図4図4A図4Fは、本発明の他の実施形態に係る積層線材接続体の製造方法の一例を示す斜視図である。
図5図5A図5Fは、本発明の他の実施形態に係る積層線材接続体の製造方法の一例を示す斜視図である。
図6図6A図6Fは、本発明の他の実施形態に係る積層線材接続体の製造方法の一例を示す斜視図である。
図7図7Aは、比較例の積層線材接続体の構成を示す斜視図であり、図7Bは、当該積層線材接続体の電流-電圧特性を示すグラフである。
図8図8Aは、実施例の積層線材接続体の接続部の概略断面図であり、図8Bは、当該積層線材接続体の電流-電圧特性を示すグラフである。
図9図9Aは、実施例の積層線材接続体の接続部の概略断面図であり、図9B図9Dは、当該積層線材接続体の条件を変えたときの電流-電圧特性を示すグラフである。
図10図10Aは、曲げ強度測定の方法を説明するための概略図であり、図10Bは、曲げ強度測定を行ったときの電流-電圧特性を示すグラフであり、図10Cは、曲げ強度測定における治具の径と臨界電流(Ic)との関係を示すグラフである。
図11図11Aは、実施例の積層線材接続体の接続部の概略断面図であり、図11Bは、曲げ強度測定を行ったときの電流-電圧特性を示すグラフであり、図11Cは、曲げ強度測定における治具の径と臨界電流(Ic)との関係を示すグラフである。
図12図12Aは、実施例の積層線材接続体の接続部の概略断面図であり、図12Bは、曲げ強度測定を行ったときの電流-電圧特性を示すグラフであり、図12Cは、曲げ強度測定における治具の径と臨界電流(Ic)との関係を示すグラフである。
図13図13は、積層線材を23本つないだ本発明の積層線材接続体の電流電圧特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「~」で示す数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を含む数値範囲を意味する。
【0013】
1.積層線材接続体
本発明の積層線材接続体(以下、「FFDS線材接続体」とも称する)は、希土類元素を含む第1超電導層を有する長尺状の第1線材と、希土類元素を含む第2超電導層を有する長尺状の第2線材とを積層した積層線材(以下、「FFDS線材」とも称する)を長さ方向に複数本接続した構造体である。FFDS線材接続体中のFFDS線材の数は特に制限されず、例えば2本であってもよく、3本以上であってもよい。また、各FFDS線材の長さも特に制限されず、一例として、長さ100m~150mのFFDS線材が挙げられる。以下、FFDS線材接続体が含む、各FFDS線材の構造を説明し、その後、FFDS線材どうしの接続部について説明する。
【0014】
(FFDS線材について)
FFDS線材は、2つの線材(本明細書では、第1線材および第2線材とも称する)を、その超電導層どうしが向かい合うように貼り合わせた構造を有する。なお、本明細書において、「超電導層どうしが向かい合うように」とは、2つの超電導層の間に、金属基板を挟まずに対向していることを意味し、2つの超電導層の間には他の層(例えば、安定化層や中間層等)を含んでいてもよい。
【0015】
図1Aに第1線材101および第2線材102の長さ方向に垂直な断面図を示し、図1Bに、FFDS線材100の長さ方向に垂直な断面図を示す。
【0016】
図1Aに示すように、第1線材101は、第1金属基板11a、第1バッファ層12a、第1超電導層13a、および第1安定化層14aがこの順に積層された構造を有する。第2線材102も同様に、第2金属基板11b、第2バッファ層12b、第2超電導層13b、および第2安定化層14bがこの順に積層された構造を有する。
【0017】
また、図1Bに示すように、2つの線材(第1線材101および第2線材102)は、第1安定化層14a、第2安定化層14bの間に中間層15を配置することで、貼り合わせられている。
【0018】
上記第1金属基板11aおよび第2金属基板11b(以下、これらをまとめて「金属基板11」とも称する)は、長尺状の基板であって、その上に配置される各層を支持可能であれば、その種類は特に制限されない。ただし、金属基板11は、低磁性、高い耐熱性、および高い強度を兼ね備えることが好ましい。金属基板11がこれらを兼ね備えると、FFDS線材接続体を種々の用途に適用しやすくなる。金属基板11は、単層で構成されていてもよく、多層で構成されていてもよい。また、第1金属基板11aおよび第2金属基板11bは同じ種類の基板であってもよく、異なる種類の基板であってもよい。
【0019】
金属基板11の材料の例には、ニッケル(Ni)や、ニッケル合金、タングステン合金、ステンレス鋼、銀(Ag)、銅(Cu)等が含まれる。より具体的には、ハステロイ(登録商標)B、ハステロイ(登録商標)C、ハステロイ(登録商標)X等のNi-Cr系合金;W-Mo系合金;オーステナイト系ステンレス鋼等のFe-Cr系合金;非磁性のFe-Ni系合金;等が含まれる。金属基板11は、強度の観点からビッカース硬度(Hv)が150以上であることが好ましい。また、金属基板11の厚みは、通常100μm以下が好ましい。
【0020】
上記第1バッファ層12aおよび第2バッファ層12b(以下、これらをまとめて「バッファ層12」とも称する)は、第1超電導層13aや第2超電導層13b(以下、これらをまとめて「超電導層13」とも称する)を金属基板11上に形成しやすくするための層である。第1バッファ層12aおよび第2バッファ層12bは、互いに同じ種類の層であってもよく、異なる種類の層であってもよい。
【0021】
バッファ層12は、二軸配向性を有することが好ましく、単層で構成されてもよく、複数層で構成されていてもよい。バッファ層12が複数層で構成される場合、金属基板11から超電導層13側への元素の拡散を抑制するための拡散防止層や、バッファ層12に二軸配向性を付与するための配向層等を含むことが好ましい。
【0022】
複数層からなるバッファ層12の一例として、金属基板11側から順に、Al層またはGdZrO層(第1の層)/Y層(第2の層)/MgO層(第3の層)/LaMnO層(第4の層)/CeO層(第5の層)をこの順に積層した積層体等が挙げられる。ただし、バッファ層12は当該構成に限定されず、例えば、CeO層(第5の層)がないものや、Al/Yが第1の層および第2の層を兼ねるもの等、種々の構成とすることができる。また、各層の厚みは適宜選択される。上記バッファ層12の総厚みは、通常1.5μm未満が好ましい。
【0023】
上記超電導層13(第1超電導層13aおよび第2超電導層13b)は、希土類元素を含む超電導体を含む層であれば特に制限されない。超電導層13の例には、超電導体としてREBaCu系化合物(REは、Gd、Eu、Y、Sm、Nd、Dy、Er、Yb、Ho、La、Tb、Tm、およびLuからなる群から選択される、少なくとも1種の元素を表し、xは6.2~7.0を表す)を含む層が含まれる。ここで、REは、上記のいずれの元素であってもよいが、Y、Gd、EuまたはYおよびGdの併用が好ましく、Y、またはYおよびGdの併用が特に好ましい。また、超電導層13中のREBaCu系化合物の量は、70体積%以上が好ましく、80~100体積%がより好ましい。第1超電導層13aおよび第2超電導層13bは、互いに同じ種類の層であってもよく、異なる種類の層であってもよい。
【0024】
また、超電導層13の厚みは、0.5μm以上5.0μm以下が好ましく、1.0μm以上2.0μm以下がより好ましい。超電導層13の厚みが当該範囲であると、FFDS線材接続体を各種用途に使用しやすくなる。
【0025】
上記第1安定化層14aおよび第2安定化層14b(以下、これらをまとめて「安定化層14」とも称する)は、超電導層13の変質等を抑制するための層であり、例えば超電導層13中の超電導体と反応し難い銀を含む層である。安定化層14は、銀からなる層の他に、銅、金、白金、あるいはこれらの合金等を含む層をさらに含んでいてもよい。第1安定化層14aおよび第2安定化層14bは、互いに同じ種類の層であってもよく、異なる種類層であってもよい。また、安定化層14の厚みは、数μm以上が好ましい。
【0026】
中間接続層15は、はんだや合金ペースト等、導電性を有する材料によって形成された層であることが好ましい。また後述するように、複数のFFDS線材100を接続する際には、FFDS線材100の端部において、第1線材101の第1安定化層14aおよび第2線材102の第2安定化層14bの間で分離を行う必要がある。そのため、中間接続層15は熱によって容易に溶融しやすい層であることが好ましく、はんだによって形成された層であることが好ましい。
【0027】
また、中間接続層15の抵抗は、通常100nΩ以下が好ましく、50nΩ以下がより好ましい。中間接続層15の抵抗が100nΩ以下であると、一方の超電導層13が欠陥を有している場合に、他方の超電導層13側に超電導流が流れ込みやすく、FFDS線材架線体の臨界電流(Ic)が低下し難くなる。
【0028】
中間接続層15の厚みは、2μm以上20μm以下が好ましい。中間接続層15の厚みが当該範囲であると、複数のFFDS線材100を接続する際に、FFDS線材100の端部で、第1線材101および第2線材102を分離しやすくなる。
【0029】
なお、各FFDS線材は、必要に応じて、上述の各層以外の層を含んでいてもよい。例えば、各金属基板11のバッファ層と反対側に、さらに銀や銅を含む層(図示せず)が配置されていてもよく、さらにその外側にはんだ層(図示せず)が配置されていてもよい。
【0030】
(隣り合う2つのFFDS線材の架線部について)
次に、隣り合う2つのFFDS線材100を接続する架線部の構造について、図2A図2Dを参照して説明する。図2A図2Dは、いずれも、FFDS線材架線体1の架線部2の近傍を長さ方向に平行に切断したときの断面図である。図2A図2Dでは、互いに異なる方法で2つの線材(以下、一方の線材を「第1のFFDS線材100」と称し、他方の線材を「第2のFFDS線材200」とも称する)を接続している。FFDS線材架線体では、通常、同一の種類かつ同一の構造のFFDS線材を接続する。したがって、以下では、第1のFFDS線材100および第2のFFDS線材が同一の構成を有し、それぞれの第1線材101、201や、第2線材102、202が、同一の種類かつ同一の構成であるものとして説明する。ただし、本発明のFFDS線材架線体の構造や、FFDS線材架線体の製造方法は、異なる種類のFFDS線材どうしを接続する場合にも適用可能である。
【0031】
本発明のFFDS線材架線体1の架線部2は、いずれの態様においても、隣接する2つの第1線材101、201を接続するための第1バイパス310と、隣接する2つの第2線材102、202を接続するための第2バイパス320と、を有し、これらが、第1線材101、201および第2線材102、202の間に挿入されている。また、第1バイパス310は、希土類元素を含む超電導層(図示せず、本明細書では「第3超電導層」とも称する)を含んでおり、当該超電導層は、隣接する2つの第1線材101、201の第1超電導層(図示せず)に向かい合うように配置されている。同様に、第2バイパス320も、希土類元素を含む超電導層(図示せず、本明細書では「第4超電導層」とも称する)を有し、当該超電導層は、隣接する2つの第2線材102、202の第2超電導層(図示せず)に向かい合うように配置されている。
【0032】
ここで、第1バイパス310および第2バイパス320の構造は特に制限されず、それぞれ超電導層を含んでいればよいが、上述の第1線材101や第2線材102と同様の構成であることが好ましい。具体的には、第1バイパス310が、第3金属基板、第3バッファ層、第3超電導層、および第3安定化層を有していることが好ましい。同様に第2バイパス320が、第4金属基板、第4バッファ層、第4超電導層、および第4安定化層を有していることが好ましい。また、第1バイパス310および第2バイパス320の各層の種類(組成)は、第1線材101、201や第2線材102、202と同一であってもよく、異なっていてもよい。第1バイパス310および第2バイパス320が含む各層については、上述のFFDS線材で説明した各層と同様であるので、ここでの詳しい説明を省略し、架線部2の第1の態様~第4の態様の詳しい構造について、以下説明する。
【0033】
・第1の態様
図2Aに示す第1の態様では、第1線材101、201、および第2線材102、202の間に、第1バイパス310および第2バイパス320が積層された状態で挿入されている。このとき、第1バイパス310および第2バイパス320は、金属基板(図示せず)どうしが向かい合うように配置されている。
【0034】
本態様の第1バイパス310および第2バイパス320(以下、これらをまとめて「バイパス310、320」とも称する)の長さ(図2Aにおいて、L2で示す長さ)は、互いに同じであってもよく、異なっていてもよいが、通常同じである。また、各バイパス310、320の長さは、電流が第1のFFDS線材100から第2のFFDS線材200側に流れる場合、各線材(第1線材101または第2線材102)を流れる電流が、バイパス310、320を通り、再び線材(第1線材201または第2線材202)に戻ることが可能な長さであればよく、通常3~16cm程度が好ましく、6~12cm程度がより好ましい。バイパス310、320の長さが3cm以上であると、線材を流れる電流がバイパス310、320に移行し、さらに再度線材側に戻りやすくなる。一方、バイパス310、320の長さが16cm以下であると、架線部2の長さが過度に長くならないという利点がある。
【0035】
また平面視したとき、バイパス310、320の長さ方向中央部と、2つの第1線材101、201の架線部2aおよび2つの第2線材102、202の架線部2bとが、それぞれ同じ位置になるように、バイパス310、320が配置されていることが好ましい。各架線部2a、2bの両側に、同じ長さのバイパスが配置されることで、電流がバイパス310、320に移行しやすくなったり、戻りやすくなったりする。
【0036】
また、当該FFDS線材架線体1を平面視したときの架線部2a、2bの形状は特に制限されず、FFDS線材架線体1の長さ方向に略垂直な直線状であってもよく、垂直でなくてもよく、曲線状であってもよい。ただし、架線部2a、2bの形状が、FFDS線材架線体1の長さ方向に略垂直な直線状であることが好ましい。この場合、臨界電流値(Ic)が高くなりやすい。さらに、FFDS線材架線体1を断面視したときの、2つの第1線材101、201の架線部2aの幅、および2つの第2線材102、202の架線部2bの幅は、本発明の目的および効果を損なわない範囲であれば、特に制限されない。
【0037】
なお、第1線材101、201(第1安定化層)と第1バイパス310(第1安定化層)との間、第1バイパス310(金属基板)と第2バイパス320(金属基板)との間、さらに第2バイパス320(第2安定化層)と第2線材102、202(第2安定化層)との間は、通常、溶融はんだ、はんだめっき、インジウムめっき、金属ペースト由来の層等で固定されている。
【0038】
・第2の態様
図2Bに示す第2の態様では、隣り合う2つの第1線材101、201の架線部2aと、隣り合う2つの第2線材102、202の架線部2bとが、平面視したときに、離れた位置にある。さらに、第1線材101、201、および第2線材102、202の間に、第1バイパス310および第2バイパス320が重ならないように、所定の間隙(図2Bにおいて、L3で表される長さ)をあけて配置されている。このように、第1バイパス310および第2バイパス320が重ならないように、かつ2つの線材の架線部2a、2bを離れた位置に配置することで、架線部2の厚みを薄くできる。さらに、各線材の架線部2a、2bを離れた位置に配置することで、後述の実施例で示すように、2つの線材をまたぐ臨界電流(Ic)が、接続前の線材と同程度になる。また、このような構成とすることで、各線材の架線部2a、2bでFFDS線材が折れ難くなり、強度も格段に高くなる。当該態様では、2つの線材の架線部2a、2bの距離(図2Bにおいて、L1で示す長さ)は、3~16cm程度が好ましく、6~12cmがより好ましい。架線部2a、2bの距離L1が3cm以上であると、第1バイパス310および第2バイパス320の長さを十分に長くすることができる。一方、架線部2a、2bの距離L1が16cm以下であると、架線部2の長さが過度に長くならないという利点がある。
【0039】
また、本態様において、第1バイパス310および第2バイパス320の長さは、互いに同じであってもよく、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。また、バイパス310、320の長さ(図2Bにおいて、L2で示す長さ)は、通常3~16cm程度が好ましく、6~12cm程度がより好ましい。バイパス310、320の長さが3cm以上であると、第1線材101、201や第2線材102、202を流れる電流がバイパス310、320に移行したり、戻ったりしやすくなる。一方、バイパス310、320の長さが16cm以下であると、架線部2の長さが過度に長くならない。
【0040】
また、架線部2を平面視したとき、バイパス310の長さ方向中央部と、2つの第1線材101、201の架線部2aとが、同じ位置になるように、バイパス310が配置されていることが好ましい。同様に、バイパス320の長さ方向中央部と、2つの第2線材102、202の架線部2bとが、同じ位置になるように、バイパス320が配置されていることが好ましい。各架線部2a、2bの両側に、同じ長さのバイパスが配置されることで、電流がバイパス310、320に移行しやすくなったり、戻りやすくなったりする。
【0041】
ここで、バイパス310、320の端部間の長さL3は、上述の架線部2a、2bの距離L1、および各バイパス310、320の長さL2に応じて適宜選択される。
【0042】
また、本態様では、第1線材101、201(第1安定化層)と第1バイパス310(第3安定化層)との間、第1バイパス310(第3金属基板)と第2線材102、202(第2安定化層)との間、第2バイパス320(第4金属基板)と第1線材101、201(第1安定化層)との間、さらに第2バイパス(第4安定化層)と第2線材102、202(第2安定化層)との間は、通常、溶融はんだ、はんだめっき、インジウムめっき、金属ペースト由来の層等で固定されている。
【0043】
・第3の態様
図2Cに示す第3の態様でも、隣り合う2つの第1線材101、201の架線部2aと、隣り合う2つの第2線材102、202の架線部2bとが、平面視したときに、離れた位置にある。さらに、第1線材101、201、および第2線材102、202の間に、第1バイパス310および第2バイパス320が重ならないように配置されており、第1バイパス310と第2バイパス320との間に、スペーサ330が配置されている。
【0044】
上述のように、第1バイパス310および第2バイパス320が重ならないように、かつ2つの線材の架線部2a、2bを離れた位置に配置することで、2つのFFDS線材100、200の架線部2の厚みを薄くできる。さらに、このような構成にすることで、後述の実施例で示すように、線材をまたぐ臨界電流(Ic)が、接続前の線材と同程度になる。また、第1バイパス310および第2バイパス320の間にスペーサ330を配置することで、架線部2a、2b間でFFDS線材が折れ難くなり、曲げ強度が良好になる。当該態様における、2つの線材の架線部2a、2b間の距離L1や、第1バイパス310および第2バイパス320の長さL2は、第2の態様と同様とすることができる。
【0045】
また、第1バイパス310および第2バイパスの間に配置されるスペーサ330は、上記第1バイパス310と、第2バイパス320との間を埋めることが可能であれば、その種類や構造等は特に制限されない。ただし、第1バイパス310および第2バイパス320と同等の厚みを有することが好ましい。また、第1線材101、201や第2線材102、202に影響を及ぼし難いことが好ましく、第1バイパス310や第2バイパス320と同様の構造の線材であることが好ましい。このとき、線材の向きは制限されない。また、その長さについては、上述の架線部2a、2b間の距離L1、および各バイパス310、320の長さL2に応じて適宜選択される。
【0046】
なお、本態様でも、第1線材101、201(第1安定化層)と第1バイパス310(第3安定化層)との間、第1バイパス310(第3金属基板)と第2線材102、202(第2安定化層)との間、第2バイパス320(第4金属基板)と第1線材101、201(第1安定化層)との間、さらに第2バイパス(第4安定化層)と第2線材102、202(第2安定化層)との間は、通常、それぞれ溶融はんだ、はんだめっき、インジウムめっき、金属ペースト由来の層等で固定されている。さらに、スペーサ330と、第1線材201との間、スペーサ330と第2線材102との間も、それぞれ溶融はんだ、はんだめっき、インジウムめっき、金属ペースト由来の層等で固定されている。
【0047】
・第4の態様
図2Dに示す第4の態様でも、隣り合う2つの第1線材101、201の架線部2aと、隣り合う2つの第2線材102、202の架線部2bとが、平面視したときに、離れた位置にある。さらに、第1線材101、201、および第2線材102、202の間に、第1バイパス310および第2バイパス320が重ならないように、かつ平面視したときに、第1バイパス310の端部および第2バイパス320の端部が接触するように、第1バイパス310および第2バイパス320が配置されている。なお、第1バイパス310および第2バイパス320の端部は、FFDS線材架線体1を平面視したときに、一部が接触していればよいが、これらの間に隙間が生じないように接続されていることがより好ましい。
【0048】
上述のように、第1バイパス310および第2バイパス320が重ならないように、かつ2つの線材の架線部2a、2bを離れた位置に配置することで、2つのFFDS線材100、200の架線部2の厚みを薄くできる。さらに、本態様のように、第1バイパス310および第2バイパス320が接するように配置することで、後述の実施例で示すように、2つの線材をまたぐ臨界電流(Ic)が、接続前の線材と同程度になるだけでなく、架線部2a、2b間でFFDS線材が折れ難くなり、さらには曲げ強度が格段に高くなる。また、架線部2の長さが、第2の態様や第3の態様の架線部2と比較して短くなるという利点もある。当該態様における、2つの線材の架線部2a、2b間の距離L1や、第1バイパス310および第2バイパス320の長さL2は、第2の態様と同様とすることができる。
【0049】
なお、本態様でも、第1線材101、201(第1安定化層)と第1バイパス310(第3安定化層)との間、第1バイパス310(第3金属基板)と第2線材102、202(第2安定化層)との間、第2バイパス320(第4金属基板)と第1線材101、201(第1安定化層)との間、さらに第2バイパス(第4安定化層)と第2線材102、202(第2安定化層)との間は、通常、それぞれ溶融はんだ、はんだめっき、インジウムめっき等で固定されている。
【0050】
(用途)
上述のFFDS線材架線体の用途は特に制限されないが、超電導マグネット(MRI、ガントリー、加速器用マグネット等)、超電導ケーブル、超電導回転機(モーター、発電機等)、電力機器、および各種デバイス等に適用可能である。
【0051】
(本発明の積層線材架線体の効果)
一般的に、2つのFFDS線材を接続しようとする場合、FFDS線材の一方の金属板どうしを一定距離重ね合わせて積層し、接続することが考えられる(後述の比較例、および図7A参照)。しかしながら、当該方法では、FFDS線材どうしの架線部における接続抵抗が非常に高くなり、現実的ではない。
【0052】
これに対し、本発明の積層線材架線体では、上述のいずれの架線部においても、2つのバイパスを、隣接する2つの第1線材および第2線材の間に配置する。そのため、一方の第1線材または一方の第2線材を流れる電流が、第1バイパス310または第2バイパス320を通って、他方の第1線材または他方の第2線材に移行することができる。つまり、各線材の架線部を迂回して、電流が流れる。そして、本発明のFFDS線材架線体では、2つの線材をまたぐ臨界電流(Ic)が、接続前の線材と同程度になる。その結果、本発明の積層線材架線体では、各架線部の接続抵抗を数十nΩ程度に収めることが可能であり、臨界電流(Ic)を実用レベルとすることができる。
【0053】
2.積層線材架線体の製造方法
上述のFFDS線材架線体は、例えば以下の製造方法で製造できる。ただし、FFDS線材架線体の製造方法は、これらに限定されない。
【0054】
上述のFFDS線材架線体の製造方法の一例として、希土類元素を含む第1超電導層を有する長尺状の第1線材と、希土類元素を含む第2超電導層を有する長尺状の第2線材とを積層した積層線材を複数準備する工程(FFDS線材準備工程)と、希土類元素を含む第3超電導層を有する第1バイパス、および希土類元素を含む第4超電導層を有する第2バイパスを準備する工程(バイパス準備工程)と、複数の積層線材のうちの1つの積層線材の端部における、第1線材および第2線材を分離する工程(第1分離工程)と、複数の積層線材のうちの他の積層線材の端部における、第1線材および第2線材を分離する工程(第2分離工程)と、第1バイパスの第3超電導層が、2つの積層線材の第1超電導層に向かい合うように、第1バイパスを配置し、第2バイパスの第4超電導層が、2つの積層線材の第2超電導層に向かい合うように、第2バイパスを配置する工程(バイパス配置工程)と、を含む方法が挙げられる。以下、上述の第1~第4の架線部を有するFFDS線材架線体の製造方法を説明する。
【0055】
・第1の態様のFFDS線材架線体の製造方法
第1の態様の架線部を有するFFDS線材架線体を製造する場合を図3A図3Eに基づいて説明する。まず、上述のFFDS線材を複数準備する(図3A、FFDS線材準備工程)。具体的には、上述の第1線材および第2線材(図示せず)を作製し、これらを超電導層が向かい合うように貼り合わせ、複数のFFDS線材(ここでは、第1のFFDS線材100および第2のFFDS線材200)を準備する。続いて、同様に作製した、所望の長さの2つの線材を、金属板どうしが向かい合うように貼り合わせ、第1バイパス310および第2バイパス320を準備する(図3B、バイパス準備工程)。
【0056】
次いで、第1のFFDS線材100の端部における、第1線材101および第2線材102を分離する。同様に、第2のFFDS線材200の端部における、第1線材201および第2線材202を分離する(図3C、第1分離工程および第2分離工程)。第1線材101、201および第2線材102、202の分離方法は特に制限されず、第1線材101、201、および第2線材102、202を接続する中間接続層の種類等に応じて適宜選択される。例えば、中間接続層がはんだ等で接続されている場合には、当該中間接続層に熱をかけることで、容易に分離できる。
【0057】
その後、第1バイパス310の超電導層が、隣り合う2つの第1線材101、201の第1超電導層とそれぞれ向かい合い、第2バイパス320の超電導層が、隣り合う2つの第2線材102、202の第2超電導層とそれぞれ向かい合うように、第1バイパス310および第2バイパス320を配置する(図3D、バイパス配置工程)。
【0058】
その後、各層の間をはんだ等で固定し、FFDS線材架線体1を得る。なお、2本以上のFFDS線材を接続する場合には、同様の工程を繰り返す。
【0059】
・第2の態様のFFDS線材架線体の製造方法
第2の態様の架線部を有するFFDS線材架線体を製造する場合を図4A~4Fに基づいて説明する。まず、第1のFFDS線材準備工程と同様に、FFDS線材を複数準備する(図4A、FFDS線材準備工程)。続いて、所望の長さの第1バイパス310および第2バイパス320(いずれも線材)を準備する(図4B、バイパス準備工程)。
【0060】
次いで、第1のFFDS線材100の端部における、第1線材101および第2線材102を分離し、第1線材101の長さが、第2線材102の長さより所定の長さ(図4DではL1)短くなるように、第1線材101の一部を切断する(図4C左図および図4D左図、第1分離工程)。また、第2のFFDS線材200の端部における、第1線材201および第2線材202を分離し、第2線材202の長さが、第1線材201の長さより所定の長さ(図4DではL1)短くなるように、第2線材202の一部を切断する(図4C右図、図4D右図、第2分離工程)。なお、第1線材101、201および第2線材102、202の分離方法は特に制限されず、第1の態様と同様に、当該中間接続層に熱をかける方法等であってもよい。また、第1線材101および第2線材202の切断方法は特に制限されず、公知の方法を利用できる。
【0061】
その後、第1バイパス310の超電導層が、隣り合う2つの第1線材101、201とそれぞれ向かい合うように第1バイパス310を配置する。同様に、第2バイパス320の超電導層が、隣り合う2つの第2線材102、202とそれぞれ向かい合うように第2バイパス320を配置する(図4Eおよび図4F、バイパス配置工程)。このとき、図4Eに示すように、第1のFFDS線材100の第1線材101と第2線材102との間に第1バイパス310を挟み、第2のFFDS線材200の第1線材201と第2線材202との間に第2バイパス320を挟み、これらを重ね合わせてもよい。
【0062】
その後、各層の間をはんだ等で固定し、FFDS線材架線体1を得る。なお、2本以上のFFDS線材を接続する場合には、同様の工程を繰り返す。
【0063】
・第3の態様のFFDS線材架線体の製造方法
第3の態様の架線部を有するFFDS線材架線体を製造する場合を図5A~5Fに示す。図5Aは、FFDS線材準備工程を示し、図5Bはバイパス準備工程を示し、図5Cおよび図5Dは、第1分離工程および第2分離工程を示す。これらの工程は、第2の態様の各工程と同一である。また、バイパス配置工程(図5Eおよび図5F)も、第1バイパス310および第2バイパス320の間にスペーサ330を配置する以外は、第2の態様のバイパス配置工程と同様である。スペーサ330としては、第1分離工程や第2分離工程で、切断した第1線材101や第2線材201を所望の長さに切断し、これを使用してもよい。
【0064】
その後、各層の間をはんだ等で固定し、FFDS線材架線体1を得る。なお、2本以上のFFDS線材を接続する場合には、同様の工程を繰り返す。
【0065】
・第4の態様のFFDS線材架線体の製造方法
第4の態様の架線部を有するFFDS線材架線体を製造する場合を図6A~6Fに示す。図6Aは、FFDS線材準備工程を示し、図6Bはバイパス準備工程を示し、図6Cおよび図6Dは、第1分離工程および第2分離工程を示す。これらの工程は、第2の態様の各工程と同一である。ただし、本態様では、バイパス準備工程において、第1バイパス310および第2バイパス320として、所望の長さより、長さが長い第1バイパス310および第2バイパスを準備する(図6B)。そして、バイパス配置工程において、第1バイパス310の超電導層が、隣り合う2つの第1線材101、201の第1超電導層とそれぞれ向かい合うように第1バイパス310を配置する。同様に、第2バイパス320の超電導層が、隣り合う2つの第2線材102、202の第2超電導層とそれぞれ向かい合うように前記第2バイパス320を配置する(図6Eおよび図6F)。このとき、図6Eに示すように、第1のFFDS線材100の第1線材101と第2線材102との間に第1バイパス310を挟み、第2のFFDS線材200の第1線材201と第2線材202との間に第2バイパス320を挟んでから、これらを所望の位置に配置すると、第1バイパス310および第2バイパス320の一部が重なる。そこで、これらを重ねて切断し、余剰の第1バイパス310および第2バイパス320を取り除く。これにより、第1バイパス310および第2バイパス320が重ならず、かつこれらの端部が接触するようになる。その後、各層の間をはんだ等で固定し、FFDS線材架線体を得る。なお、2本以上のFFDS線材を接続する場合には、同様の工程を繰り返す。
【0066】
(本発明の積層線材架線体の製造方法の効果)
本発明の積層線材架線体の製造方法によれば、特別な装置を用いることなく、簡易な方法で、複数のFFDS線材を接続できる。また当該方法によれば、2つの線材をまたぐ臨界電流(Ic)が、接続前の線材と同程度になる。つまり、本発明の積層線材架線体の製造方法によれば、各架線部の接続抵抗を数十nΩ程度に収めることができ、臨界電流(Ic)が実用レベルである非常に高品質な積層線材架線体を効率よく製造できる。
【実施例0067】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれによって何ら制限を受けない。
【0068】
[比較例1]
4mm幅、厚み40μmのテープ状のハステロイC276(登録商標)製の第1金属基板の片面に、約56nm厚のGdZr(GZO)と、約14nm厚のY層と、約5nm厚のMgO層と、約7nm厚のLaMnO層と、600~900nmのCeO層と、を成膜し、これらを第1バッファ層とした。当該第1バッファ層の上に1.6μm厚のEuBaCuからなる第1超電導層を形成した。さらに、当該第1超電導層上に第1安定化層として銀を2μm厚、さらに銅を5μm厚で成膜し、これを第1線材とした。その後、第1線材と同様に、第2線材を準備した。そして、第1線材の第1安定化層上に金ナノペーストを塗布した。そして、第1線材の第1安定化層と、第2線材の第2安定化層とが向かい合うように、第1線材および第2線材を重ね合わせ、150℃で2時間熱処理して接続し、第1のFFDS線材とした。同様の方法によって、第2のFFDS線材を準備した。
【0069】
そして、図7Aに示すように、第1のFFDS線材100の第1金属基板(図示せず)および第2のFFDS線材200の第2金属基板(図示せず)が6cm重なるようにはんだで固定した。そして、第1の積層線材100の端部、および第2の積層線材200の端部に電流端子900(銅ブロック)を配置し、当該電流端子900間での電流-電圧特性を測定した。結果を図7Bに示す。図7Bから読み取れるように、接続抵抗が1.9μΩとなっており、実用レベルに対して非常に高かった。
【0070】
[実施例1]
上述の比較例1と同様の方法で、第1のFFDS線材100および第2のFFDS線材200を作製した。また、上述の比較例1の線材の作製方法と同様に2つの線材を作製し、これらを金属基板どうしが向かい合うように貼り合わせて、第1バイパスおよび第2バイパスとした。
【0071】
そして、図3Cに示すように、第1のFFDS線材100の端部の第1線材101および第2線材102を分離した。同様に第2のFFDS線材200の端部の第1線材201および第2線材202も分離した。そして、図3Dに示すように、2つの第1線材101、201の第1超電導層と第1バイパス310の超電導層が向かい合うように、さらに、2つの第2線材102、202の第2超電導層と第2バイパス320の超電導層とが向かい合うように、第1バイパス310および第2バイパス320を挟み、はんだで固定した。
【0072】
当該FFDS線材架線体について、比較例1と同様に、電流-電圧特性を測定した。結果を図8Bに示す。図8Bから読み取れるように、臨界電流Icは170Aであり、かつ接続抵抗は56nΩであった。つまり、当該FFDS接続線材では、比較例1と比較して、格段に接続抵抗が低く、臨界電流Icが高くなり、実用レベルであった。
【0073】
[実施例2]
上述の比較例1と同様の方法で、第1のFFDS線材100および第2のFFDS線材200を作製した。また、上述の比較例1の線材の作製方法と同様に2つの線材を作製し、これらを第1バイパスおよび第2バイパスとした。
【0074】
そして、図4Cおよび図4Dに示すように、第1のFFDS線材100の端部の第1線材101および第2線材102を分離し、第1線材101の長さが第2線材102の長さよりL1分短くなるように第1線材101を切断した。一方第2のFFDS線材200の端部の第1線材201および第2線材202も分離し、第2線材202の長さが第1線材201の長さよりL1分短くなるように第2線材202を切断した。そして、図4Eおよび図4Fに示すように、2つの第1線材101、201の第1超電導層と第1バイパス310の超電導層が向かい合うように、さらに、2つの第2線材102、202の第2超電導層と第2バイパス320の超電導層とが向かい合うように、第1バイパス310および第2バイパス320を挟み、はんだで固定した。その後、比較例1と同様に、電流-電圧特性を測定した。
【0075】
さらに、2つの第1線材101、201の架線部2aと、2つの第2線材102、202の架線部2bとの距離L1、第1バイパス310および第2バイパス320の長さL2、ならびに第1バイパス310の端部から第2バイパス320の端部までの距離L3を変化させて、FFDS線材架線体を複数作製した。実施例2-1~2-3の結果を図9B図9Dに示す。また、接続抵抗および臨界電流の値を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
図9B図9D、および上記表1に示されるように、いずれにおいても、接続抵抗が十分に低く、かつ臨界電流(Ic)が実用レベルであった。なお、表1に示す結果から、L1、L2、L3が長くなるにつれて、接続抵抗が低くなり、臨界電流Icが高くなった。
【0078】
(曲げ強度の測定)
上記実施例2-4のFFDS線材架線体について、以下の手順で曲げ強度測定を行った。まず、直線状のFFDS線材架線体の電流-電圧特性を測定した。そして、図10Aに示すように、100mmφの円柱を有する治具910の円柱の周面に、FFDS線材架線体1を配置した。このとき、FFDS線材架線体1の架線部2が周面に当接するように位置を調整した。そして、FFDS線材架線体1の一方の端部を、治具910に固定し、他方の端部に、5kgの錘Aを取り付けた。その後、錘Aを取り外し、曲げた状態、かつ室温で、電流-電圧特性の測定を行った。錘Aの取り付けおよび取り外し、ならびに電流-電圧特性の測定を、5サイクル行った。その結果、当該FFDS線材架線体では、5サイクル後も、臨界電流(Ic)に殆ど変化が生じなかった。
【0079】
次いで、上記治具910の円柱の直径を90mm、80mm、70mm、60mm、50mmとし、同様に電流-電圧特性の測定を行った。5サイクル後の臨界電流(Ic)と円柱の直径との関係を示すグラフを図10Bおよび図10Cに示す。図10Bおよび図10Cに示すように、円柱の直径が80mmまでは、臨界電流(Ic)に殆ど変化がなかったものの、直径が70mmになると、臨界電流(Ic)が減少しやすかった。また、FFDS線材架線体1の架線部2に一部剥離が見られた。当該構造のFFDS線材架線体1では、接続抵抗や臨界電流(Ic)に関する特性が非常に良好であるものの、曲げ強度が低くなる場合があった。
【0080】
[実施例3]
第1バイパス310と第2バイパス320との間にこれらと同じ厚みのスペーサ330(本実施例では線材)を配置した以外は、上述の実施例2-4と同様に、FFDS線材架線体1を作製した(図11A)。そして、実施例2の曲げ強度測定用の治具910を用いて、円柱の直径を100mm、90mm、80mm、70mm、60mm、50mmとして、実施例2と同様に電流-電圧特性の測定を行った。結果を図11Bおよび図11Cに示す。図11Bおよび図11Cに示されるように、本実施例のFFDS線材架線体1では、直径が小さくなっても、臨界電流(Ic)の減少が少なかった。スペーサを入れることで、曲げ強度が良好になったと考えられる。ただし、直線状としたときの臨界電流(Ic)と屈曲させたときの臨界電流(Ic)とを比較すると、円柱の直径を100mmとした段階から、臨界電流(Ic)が少し低下した。
【0081】
[実施例4]
第1バイパス310の端部と第2バイパス320の端部とが接するように、第1バイパス310および第2バイパス320を配置した以外は、上述の実施例2-4と同様に、FFDS線材架線体1を作製した(図12A)。なお、2つの第1線材101、201の架線部2aと、2つの第2線材102、202の架線部2bとの距離L1は、10cmとした。また、第1バイパス310および第2バイパス320の長さL2も10cmとした。当該FFDS線材架線体1について、実施例2と同様に曲げ強度測定用の治具910を用いて、電流-電圧特性を測定した。結果を図12Bおよび図12Cに示す。図12Bおよび図12Cに示すように、曲げ強度測定用の治具910の直径が小さくなっても、臨界電流(Ic)の減少が少なく、直線状としたときの臨界電流(Ic)と屈曲させたときの臨界電流(Ic)とを比較しても、変化が少なかった。
【0082】
[実施例5]
実施例4と同様の架線部の構造とし、単長100~150mのFFDS線材を23本接続して、全長1936mのFFDS線材架線体を作製した。当該FFDS線材架線体のエンドtoエンドの臨界電流(Ic)を測定した結果を図13に示す。当該FFDS線材架線体の接続箇所は22箇所であった。全長の接続抵抗は546nΩであったので、1箇所あたり約25nΩの接続抵抗であった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、臨界電流(Ic)を劣化させることなく積層線材を複数接続した新しい積層線材架線体が得られる。当該超電導体は、超電導マグネット、超電導ケーブル、電力機器及びデバイス等に適用可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 積層線材架線体
2 架線部
2a 第1線材の架線部
2b 第2線材の架線部
11a 第1金属基板
11b 第2金属基板
12a 第1バッファ層
12a 第2バッファ層
13a 第1超電導層
13b 第2超電導層
14a 第1安定化層
14b 第2安定化層
15 中間接続層
100 第1のFFDS線材
101、201 第1線材
102、202 第2線材
200 第2のFFDS線材
310 第1バイパス
320 第2バイパス
330 スペーサ
900 電流端子
910 治具
図1
図2
図3
図4
図5
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図13