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特開2023-161952パルス殺菌器処理槽およびパルス殺菌器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161952
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】パルス殺菌器処理槽およびパルス殺菌器
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/32 20060101AFI20231031BHJP
   A61L 2/03 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
A23L3/32
A61L2/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072619
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000157946
【氏名又は名称】岩井機械工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501149411
【氏名又は名称】キユーピータマゴ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】397020272
【氏名又は名称】熊本県酪農業協同組合連合会
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】増田 直也
(72)【発明者】
【氏名】勝木 淳
(72)【発明者】
【氏名】笹原 亮
(72)【発明者】
【氏名】磯部 和宏
(72)【発明者】
【氏名】梶原 大河
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 栄寿
(72)【発明者】
【氏名】櫨本 清和
(72)【発明者】
【氏名】栗原 二郎
【テーマコード(参考)】
4B021
4C058
【Fターム(参考)】
4B021LA42
4B021LP10
4B021LT03
4C058AA21
4C058BB02
4C058CC04
4C058EE15
(57)【要約】
【課題】電極への熱凝着および凝固を低減して、安定した運転を行うことができるパルス殺菌器処理槽およびパルス殺菌器を提供する。
【解決手段】第1電極10と、第2電極20と、前記第1電極10および前記第2電極20の間に設けられる絶縁性を有する流路部材30と、を具備し、前記流路部材30には、一部が前記第1電極10および前記第2電極20によって画成されると共に、液体を前記第1電極10と前記第2電極20との積層方向に向かって流通させる流路100が形成されており、前記流路100は、前記積層方向に見た開口面積が、前記第1電極10によって画成された部分の面積および前記第2電極20によって画成された部分の面積のそれぞれよりも小さな絞り部を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、第2電極と、前記第1電極および前記第2電極の間に設けられる絶縁性を有する流路部材と、を具備し、
前記流路部材には、一部が前記第1電極および前記第2電極によって画成されると共に、液体を前記第1電極と前記第2電極との積層方向に向かって流通させる流路が形成されており、
前記流路は、前記積層方向に見た開口面積が、前記第1電極によって画成された部分の面積および前記第2電極によって画成された部分の面積のそれぞれよりも小さな絞り部を有することを特徴とするパルス殺菌器処理槽。
【請求項2】
前記流路に液体を供給する流入口と、
前記流路内の液体を排出する流出口と、をさらに有し、
前記流入口および前記流出口は、前記積層方向に見て、前記絞り部に重ならない位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のパルス殺菌器処理槽。
【請求項3】
前記流入口は、前記第1電極に前記積層方向に貫通して設けられており、
前記流出口は、前記第2電極に前記積層方向に貫通して設けられていることを特徴とする請求項2に記載のパルス殺菌器処理槽。
【請求項4】
前記流入口は、2個以上の複数個設けられ、
前記流出口は、2個以上の複数個設けられることを特徴とする請求項2に記載のパルス殺菌器処理槽。
【請求項5】
前記第1電極と前記流路部材と前記第2電極とで構成されるパルス印加部が、前記積層方向に2個以上積層されており、
前記積層方向で互いに隣り合う一方の前記パルス印加部の前記第2電極は、他方の前記パルス印加部の前記第1電極を兼ねることを特徴とする請求項1に記載のパルス殺菌器処理槽。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載のパルス殺菌器処理槽と、
前記第1電極と前記第2電極とにパルス電圧を印加するパルス発生器と、を具備することを特徴とするパルス殺菌器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体にパルス電界を印加して殺菌を行うパルス殺菌器処理槽およびパルス殺菌器に関する。
【背景技術】
【0002】
液状食品の殺菌は、一般的に加熱殺菌が行われているが、近年の食品品質に対する要求の高まりを背景に、熱による食品の変質を最小限に抑え、安全性と嗜好性を兼ね備えた食品の殺菌が望まれている。
【0003】
このため、液状食品にパルス電界(PEF;Pulsed Electric Field)を印加して、電界によって微生物の細胞膜を破壊するパルス殺菌器が知られている。
【0004】
パルス殺菌器に用いられるパルス殺菌器処理槽は、平板状の電極を平行に配置して、両者の間に電極の表面に沿って液状食品を流す構成を有する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/149491号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、処理槽内においてエネルギーの大きい電極表面付近では、ジュール熱によって液状食品が過剰に加熱されてしまうという問題がある。特に、牛乳や液卵などの液状食品に含まれるタンパク質が過剰に加熱されると、電極に熱凝着(所謂、焦げ付き)や熱変性による凝固が生じる。また、電極の表面に沿って液状食品を流すと、壁面となる電極の表面は液状食品の速度が低下するため、食品に印加されるパルス数が増加し、電極の表面に熱凝着や凝固がさらに生じ易くなる。
【0007】
このように電極に熱凝着や凝固によって形成された凹凸には電界が集中し易く、さらなる過剰な加熱が生じる。過剰な加熱が生じると液状食品に含有される気体成分が遊離し、また電気分解によって気泡が生じる。そして、この気泡が電極間の絶縁破壊(放電)を生じさせて、食品に電界を印加できなくするという問題がある。さらに放電は、パルス殺菌器処理槽の損壊やパルス電源への過負荷を生じさせ、パルス殺菌器の寿命を低下させるという問題がある。
【0008】
なお、特許文献1のように電極表面にディンプル状の突起を設けただけでは、粘度の大きい液体を十分に攪拌することはできず、電極への熱凝着や凝固を防止することはできない。
【0009】
なお、このようなパルス殺菌器処理槽の問題は、液状食品だけではなく、他の液体においても同様に存在する。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑み、電極への熱凝着および凝固を低減して、安定した運転を行うことができるパルス殺菌器処理槽およびパルス殺菌器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の態様は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極および前記第2電極の間に設けられる絶縁性を有する流路部材と、を具備し、前記流路部材には、一部が前記第1電極および前記第2電極によって画成されると共に、液体を前記第1電極と前記第2電極との積層方向に向かって流通させる流路が形成されており、前記流路は、前記積層方向に見た開口面積が、前記第1電極によって画成された部分の面積および前記第2電極によって画成された部分の面積のそれぞれよりも小さな絞り部を有することを特徴とするパルス殺菌器処理槽にある。
【0012】
ここで、前記流路に液体を供給する流入口と、前記流路内の液体を排出する流出口と、をさらに有し、前記流入口および前記流出口は、前記積層方向に見て、前記絞り部に重ならない位置に配置されていることが好ましい。
【0013】
また、前記流入口は、前記第1電極に前記積層方向に貫通して設けられており、前記流出口は、前記第2電極に前記積層方向に貫通して設けられていることが好ましい。
【0014】
また、前記流入口は、2個以上の複数個設けられ、前記流出口は、2個以上の複数個設けられることが好ましい。
【0015】
また、前記第1電極と前記流路部材と前記第2電極とで構成されるパルス印加部が、前記積層方向に2個以上積層されており、前記積層方向で互いに隣り合う一方の前記パルス印加部の前記第2電極は、他方の前記パルス印加部の前記第1電極を兼ねることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様に記載のパルス殺菌器処理槽と、前記第1電極と前記第2電極とにパルス電圧を印加するパルス発生器と、を具備することを特徴とするパルス殺菌器にある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態1に係るパルス殺菌器の概略構成を示す分解斜視図である。
図2】本発明の実施形態1に係るパルス殺菌器の概略構成を示す平面図および断面図である。
図3】本発明の実施形態1に係るパルス殺菌器処理槽のパルス電界の印加状態を説明する図である。
図4】本発明の実施形態2に係るパルス殺菌器の概略構成を示す断面図である。
図5】本発明の他の実施形態に係るパルス殺菌器の概略構成を示す平面図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本発明の一態様を示すものであって、本発明の範囲内で任意に変更可能である。各図において同じ符号を付したものは、同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。また、各図においてX、Y、Zは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向をX方向、Y方向、及びZ方向とする。また、Z方向の矢印が向かう方向は鉛直上向き、Z方向の矢印とは反対方向は鉛直下向きを示す。
【0019】
(実施形態1)
図1は、パルス殺菌器の概略構成を示す分解斜視図である。図2は,パルス殺菌器処理槽の平面図およびそのA-A′線に準じたパルス殺菌器の要部断面図である。図3は、電界の印加状態を説明する図である。
【0020】
図示するように、パルス殺菌器1は、パルス発生器2とパルス殺菌器処理槽3(以下、単に処理槽3とも言う)と、を具備する。本実施形態のパルス殺菌器1は、処理槽3の内部に設けられた流路100内に、液体の一例である液状食品を充填し、流路100の一部を画成する電極にパルス発生器2から供給されたパルス電圧を印加して、流路100内の液状食品を殺菌する装置である。
【0021】
このようなパルス発生器2は、処理槽3を構成する電極にパルス電圧を印加して、処理槽3内に設けられた流路100内の液状食品にパルス電界を印加するものであり、特に図示しないが、電源やパルス電圧を生成するパルス生成部などの電気回路を有する。
【0022】
処理槽3は、2組のパルス印加部4を有する。パルス印加部4は、第1電極10と第2電極20と流路部材30とを具備する。第1電極10と流路部材30と第2電極20とは、この順にZ方向に積層されている。つまり、流路部材30は、第1電極10と第2電極20との間に設けられている。本実施形態では、Z方向が第1電極10と第2電極20との積層方向となっている。なお、第1電極10、流路部材30および第2電極20を互いに固定する方法は特に限定されず、例えば、他の2つの部材で第1電極10、流路部材30および第2電極20をZ方向に挟み込むようにしてもよく、第1電極10および第2電極20を流路部材30にネジやクランプ等で固定するようにしてもよく、各部材同士を接着剤等を用いて接合するようにしてもよい。
【0023】
第1電極10および第2電極20は、板状の導電性を有する金属等の材料で形成されている。第1電極10および第2電極20の何れか一方を高圧側、他方を低圧側として、パルス発生器2からパルス電圧が印加される。
【0024】
流路部材30は、絶縁性を有する樹脂等の材料で形成されており、Z方向において第1電極10と第2電極20との間に配置されている。
【0025】
このようなパルス印加部4の内部には、液体である液状食品をZ方向に向かって流通させる流路100が形成されている。また、パルス印加部4には、流路100に液状食品を供給する流入口110と、流路100内の液状食品を外部に排出する流出口120と、が形成されている。
【0026】
流路100は、本実施形態では、第1流路101と、第2流路102と、本実施形態の絞り部である連通路103と、を具備する。
【0027】
第1流路101は、第1電極10と流路部材30との間に形成されている。具体的には、第1流路101は、流路部材30の第1電極10側に凹部を形成し、凹部の開口を第1電極10で蓋をすることで形成されている。つまり、流路100を構成する第1流路101の一部は、第1電極10によって画成されている。本実施形態では、第1電極10の第1流路101を画成する部分を第1面11と称する。また、第1流路101は、本実施形態では、Z方向に見て円形状に形成されている。もちろん、第1流路101をZ方向に見た形状は特に限定されず、例えば、矩形状、多角形状、楕円形状等であってもよい。
【0028】
第2流路102は、本実施形態では、第2電極20と流路部材30との間に設けられている。具体的には、第2流路102は、流路部材30の第2電極20側に凹部を形成し、凹部の開口を第2電極20で蓋をすることで形成されている。つまり、流路100を構成する第2流路102の一部は、第2電極20によって画成されている。本実施形態では、第2電極20の第2流路102を画成する部分を第2面21と称する。また、第2流路102は、本実施形態では、Z方向に見て円形状に形成されている。もちろん、第2流路102をZ方向に見た形状は特に限定されず、例えば、矩形状、多角形状、楕円形状等であってもよい。
【0029】
連通路103は、第1流路101と第2流路102とを連通するものであり、流路部材30をZ方向に亘って貫通して設けられている。具体的には、連通路103の一端は、第1流路101の底面、すなわち第2電極20側の面に開口し、他端は第2流路102の底面、すなわち第1電極10側の面に開口して設けられている。
【0030】
このような連通路103は、図2(a)に示すようにZ方向に見た開口面積が、第1流路101および第2流路102のそれぞれよりも小さくなるように形成されている。つまり、連通路103は、Z方向に見た開口面積が、第1流路101を画成する第1電極10の第1面11の面積、および、第2流路102を画成する第2電極20の第2面21の面積のそれぞれよりも小さい。このような本実施形態の連通路103が絞り部に相当する。なお、本実施形態の連通路103は、Z方向に見て円形状を有し、Z方向に亘って同じ内径となるようにZ方向に沿った円柱状に形成されている。
【0031】
流入口110は、流路100内に液状食品を供給するものであり、本実施形態では、第1電極10をZ方向に貫通して設けられている。また、流入口110は、複数個、本実施形態では、2個設けられている。それぞれの流入口110は、Z方向に見て連通路103に重ならない位置に配置されている。つまり、流入口110と連通路103の第1流路101側の開口とがZ方向に対向しないように配置されている。また、本実施形態では、2個の流入口110は、Z方向に見て連通路103を中心として対称となる位置に配置されている。このように複数の流入口110をZ方向に見て、連通路103を中心として対称となる位置に配置することで、流入口110から連通路103に至るまでの第1流路101内の液状食品の流れを均等にすることができる。もちろん、流入口110の数はこれに限定されず、1個であってもよく、3個以上であってもよい。
【0032】
流出口120は、流路100内の液状食品を外部に排出するものであり、本実施形態では、第2電極20をZ方向に貫通して設けられている。また、流出口120は、複数個、本実施形態では2個設けられている。それぞれの流出口120は、Z方向に見て連通路103に重ならない位置に配置されている。つまり、流出口120と連通路103の第2流路102側の開口とがZ方向に対向しないように配置されている。また、本実施形態の2個の流出口120は、Z方向に見て連通路103を中心として対称となる位置に配置されている。このように複数の流出口120をZ方向に見て、連通路103を中心として対称となる位置に配置することで、連通路103から流出口120に至るまでの第2流路102内の液状食品の流れを均等にすることができる。もちろん、流出口120の数はこれに限定されず、1個であってもよく、3個以上であってもよい。もちろん、流入口110の数と流出口120の数とは同じ数であってもよく、異なる数であってもよい。
【0033】
このようなパルス印加部4では、液状食品は、流入口110から第1流路101に供給され、第1流路101内の液状食品は連通路103を介して第2流路102に供給される。そして、第2流路102に供給された液状食品は、流出口120を介してパルス印加部4の外部に排出される。つまり、本実施形態では、流路100のうち連通路103を液状食品がZ方向に向かって流れる。すなわち、Z方向に液状食品を流通させる流路100とは、少なくとも一部にZ方向の成分のベクトルを有する流路、本実施形態では、連通路103が設けられていることを含む。
【0034】
このようなパルス印加部4では、第1電極10と第2電極20との間にパルス発生器2から供給されたパルス電圧を印加することによって、流路100内を流れる液状食品にパルス電界を印加して、液状食品に含まれる菌(微生物とも言う)を殺菌することができる。本実施形態では、図3に示すように、第2電極20から第1電極10に向かってパルス電界を印加する。このとき、連通路103をZ方向に見た開口面積は、液状食品にパルス電界を印加する第1電極10の流路100を画成する第1面11および第2電極20の流路100を画成する第2面21のそれぞれの面積に比べて小さいため、第2電極20から第1電極10に向かって印加されるパルス電界は、連通路103内の液状食品に収束した状態で印加される。つまり、第1電極10の第1面11および第2電極20の第2面21の比較的広い面積から生じさせた比較的小さな電界を連通路103内で収束させることで、連通路103内の液状食品に比較的大きな電界を印加することができる。すなわち、相対的に第1電極10および第2電極20の第1面11および第2面21の単位面積当たりの電界を小さくしても、連通路103内の液状食品に大きな電界を印加して液状食品に含まれる菌を殺菌することができる。したがって、相対的に第1電極10および第2電極20の第1面11および第2面21における単位面積当たりの電界を小さくすることで、第1電極10および第2電極20の第1面11および第2面21近傍の液状食品に大きな電界が印加されることを防止して、第1電極10および第2電極20の第1面11および第2面21への液状食品の熱凝着および凝固を低減することができる。よって、第1電極10および第2電極20に液状食品が熱凝着や凝固することによって電界が集中する凹凸が形成されることを減少させることができ、第1電極10および第2電極20の表面近傍に過剰な加熱が生じることを低減することができる。このため、過剰な加熱による気泡の発生を抑制して、気泡が第1電極10および第2電極20の間で絶縁破壊(放電)を生じさせて食品に電界を印加できなくなることを防ぐことができる。この結果、放電によるパルス発生器2の電源への過負荷や処理槽3の損傷を抑制して、パルス殺菌器1を長期間に亘って安定して運転を行うことができる。
【0035】
なお、第1流路101および第2流路102内は、液状食品は、XY平面に沿った方向に流れるため、第1面11および第2面21付近の流速が低下するものの、第1電極10の第1面11および第2電極20の第2面21の単位面積当たりの電界が小さいため、第1面11および第2面21近傍の液状食品に大きな電界が印加されることを抑制することができる。
【0036】
また、本実施形態では、流入口110を2つ設け、2つの流入口110から流入した液状食品を第1流路101で合流させた後、連通路103および第2流路102を通った液体を2つの流出口120に分岐して排出する。このため、流路100内で液状食品が攪拌される。したがって第1流路101および第2流路102内で第1電極10の第1面11近傍および第2電極20の第2面21近傍の液状食品に大きな電界が印加されることを抑制して、流路100を流通する液状食品の全体に亘って均等に電界を印加することができる。これによっても、第1面11および第2面21に印加する単位面積当たりの電界を比較的小さくすることができると共に、第1電極10および第2電極20に液状食品の熱凝着および凝固を低減することができる。
【0037】
また、本実施形態では、流入口110および流出口120は、Z方向に見て連通路103に重ならない位置に配置されている。このため、比較的電界が集中し易い流入口110の第1流路101側の開口縁部および流出口120の第2流路102側の開口縁部を高い電界が印加される連通路103から離れた位置に配置することができ、流入口110および流出口120の開口縁部に電界が集中することを低減することができる。したがって、流入口110および流出口120の開口縁部における電界集中を低減して、液状食品の熱凝着および凝固を抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態では、流入口110、第1流路101、連通路103、第2流路102および流出口120が、この順で鉛直上向きであるZ方向に並んで配置されている。このため、たとえ液状食品に気泡が含まれていても、液状食品に含まれる気泡はその浮力によって流出口120から外部に排出され易い。したがって、気泡が第1電極10および第2電極20の間で絶縁破壊(放電)を生じさせて食品に電界を印加できなくなることを防ぐことができる。また、放電によるパルス発生器2の電源への過負荷や処理槽3の損傷を抑制して、パルス殺菌器1を長期間に亘って安定して運転を行うことができる。
【0039】
なお、本実施形態の処理槽3は、図2(b)に示すように、Z方向に積層された2つのパルス印加部4を有する。つまり、パルス印加部4は多段となるように設けられている。ここで、Z方向で互いに隣り合う2つのパルス印加部4のうち、一方のパルス印加部4を第1パルス印加部4Aと称し、他方のパルス印加部4を第2パルス印加部4Bと称する。第1パルス印加部4Aの第2電極20は、第2パルス印加部4Bの第1電極10を兼ねている。このため、パルス発生器2は、例えば、第1パルス印加部4Aの第2電極20、つまり、第2パルス印加部4Bの第1電極10を高圧側とし、第1パルス印加部4Aの第1電極10および第2パルス印加部4Bの第2電極20を低圧側として、パルス電圧を印加する。これにより、パルス発生器2と処理槽3とを接続する配線等の部品点数を減少させてコストを低減することができる。また、第1パルス印加部4Aの第2電極20が、第2パルス印加部4Bの第1電極10を兼ねることによっても部品点数を減少させてコストを低減することができる。
【0040】
また、このようにパルス印加部4を多段となるように設けることで、流路100内での液状食品の分岐および合流を繰り返すことができ、流路100を流れる液状食品をさらに混合させて、液状食品の一部に電界が集中して印加されることを抑制することができる。また、パルス印加部4を多段となるように設けることで、1つのパルス印加部4に印加するパルス電界を減少させることができ、第1電極10の第1面11および第2電極20の第2面21に比較的小さな電界を生じさせることができる。したがって、第1電極10および第2電極20への液状食品の熱凝着や凝固が生じることを抑制することができると共に、流入口110および流出口120の開口縁部に電界集中が発生することを抑制することができる。
【0041】
なお、上述した例では、第1パルス印加部4Aの第2電極20と第2パルス印加部4Bの第1電極10とを兼ねるようにしたが、特にこれに限定されず、パルス印加部4をZ方向に積層して、一方のパルス印加部4の第2電極20と他方のパルス印加部4の第1電極10とを物理的および電気的に接続するようにしてもよい。
【0042】
(実施形態2)
図4は、本発明の実施形態2に係るパルス殺菌器の概略構成を示す断面図である。なお、上述した実施形態と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0043】
図4に示すように、本実施形態の処理槽3は、2つのパルス印加部4を具備する。パルス印加部4は、第1電極10と第2電極20と流路部材30とを具備する。このパルス印加部4の内部には、流路100が設けられている。流路100は、第1流路101と第2流路102と連通路103とを有する。
【0044】
第1流路101は、第1電極10と流路部材30との間に設けられている。具体的には、第1流路101は、第1電極10に流路部材30側に開口する凹部を形成し、凹部の開口を流路部材30で蓋をすることで画成されている。このため、第1流路101は、Z方向における第1電極10側の面および側面が第1電極10によって画成されている。これらの面が本実施形態の第1面11となっている。
【0045】
第2流路102は、第2電極20と流路部材30との間に設けられている。具体的には、第2流路102は、第2電極20に流路部材30側に開口する凹部を形成し、凹部の開口を流路部材30で蓋をすることで画成されている。このため、第2流路102は、Z方向における第2電極20側の面および側面が第2電極20によって画成されている。これらの面が本実施形態の第2面21となっている。
【0046】
連通路103は、第1流路101と第2流路102とを連通するものであり、流路部材30をZ方向に亘って貫通して設けられている。連通路103は、Z方向に見た開口面積が、第1面11および第2面21のそれぞれの面積よりも小さくなるように形成されており、本実施形態の連通路103が絞り部に相当する。
【0047】
流入口110および流出口120は、上述した実施形態1と同様であるため重複する説明は省略する。
【0048】
このような構成であっても、上述した実施形態1と同様に、連通路103をZ方向に見た開口面積は、液状食品にパルス電界を印加する第1電極10の流路100を画成する第1面11および第2電極20の流路100を画成する第2面21のそれぞれの面積に比べて小さいため、第2電極20から第1電極10に向かって印加されるパルス電界は、連通路103内の液状食品に収束した状態で印加される。したがって、相対的に第1電極10および第2電極20の第1面11および第2面21における単位面積当たりの電界を小さくすることで、第1電極10および第2電極20の第1面11および第2面21近傍の液状食品に大きな電界が印加されることを防止して、第1電極10および第2電極20の第1面11および第2面21への液状食品の熱凝着および凝固を低減することができる。
【0049】
また、本実施形態では、流入口110を2つ設け、2つの流入口110から流入した液状食品を第1流路101で合流させた後、連通路103および第2流路102を通った液体を2つの流出口120に分岐して排出する。このため、流路100内で液状食品が攪拌される。したがって第1流路101および第2流路102内で第1電極10の第1面11近傍および第2電極20の第2面21近傍の液状食品に大きな電界が印加されることを抑制して、流路100を流通する液状食品の全体に亘って均等に電界を印加することができる。これによっても、第1面11および第2面21に印加する単位面積当たりの電界を比較的小さくすることができると共に、第1電極10および第2電極20に液状食品の熱凝着および凝固を低減することができる。
【0050】
また、本実施形態では、流入口110および流出口120は、Z方向に見て連通路103に重ならない位置に配置されている。このため、比較的電界が集中し易い流入口110の第1流路101側の開口縁部および流出口120の第2流路102側の開口縁部を大きな電界が印加される連通路103から離れた位置に配置することができ、流入口110および流出口120の開口縁部に電界が集中することを低減することができる。したがって、流入口110および流出口120の開口縁部における電界集中を低減して、液状食品の熱凝着および凝固を抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態においても、流入口110、第1流路101、連通路103、第2流路102および流出口120が、この順で鉛直上向きであるZ方向に並んで配置されている。このため、たとえ液状食品に気泡が含まれていても、液状食品に含まれる気泡はその浮力によって流出口120から外部に排出され易い。したがって、気泡が第1電極10および第2電極20の間で絶縁破壊(放電)を生じさせて食品に電界を印加できなくなることを防ぐことができる。また、放電によるパルス発生器2の電源への過負荷や処理槽3の損傷を抑制して、パルス殺菌器1を長期間に亘って安定して運転を行うことができる。
【0052】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
【0053】
上述した各実施形態では、第1電極10をZ方向に貫通する流入口110と、第2電極20をZ方向に貫通する流出口120とを設けるようにしたが、特にこれに限定されない。ここで、流入口110および流出口120の変形例を図5に示す。なお、図5は、パルス殺菌器処理槽3の平面図およびそのB-B′線に準じたパルス殺菌器の要部断面図である。
【0054】
図5に示すように、流入口110は、第1電極10と流路部材30との間に、X方向とY方向とで規定されるXY平面に沿って形成されている。具体的には、流入口110は、流路部材30に第1電極10側に開口する凹部を設け、この凹部の開口を第1電極10で蓋をすることで画成されている。流入口110の一端は、流路部材30の側面に開口し、他端は、第1流路101の側面に開口する。
【0055】
流出口120は、第2電極20と流路部材30との間にXY平面に沿って形成される。具体的には、流出口120は、流路部材30に第2電極20側に開口する凹部を設け、この凹部の開口を第2電極20で蓋をすることで画成されている。流出口120の一端は、流路部材30の側面に開口し、他端は、第2流路102の側面に開口する。
【0056】
このような流入口110および流出口120であっても、連通路103をZ方向に見た開口面積を、第1面11および第2面21のそれぞれの面積よりも小さくすることで、上述した各実施形態と同様の効果を奏することができる。また、このような流入口110および流出口120であっても、Z方向に見て絞り部である連通路103に重ならない位置に配置された構成となっている。このため、流入口110および流出口120の流路100側の開口縁部に電界集中が生じることを抑制することができる。
【0057】
また、図5においても、第1流路101、連通路103、第2流路102が、この順で鉛直上向きであるZ方向に並んで配置され、流出口120が流入口110よりもZ方向に位置する。このため、たとえ液状食品に気泡が含まれていても、液状食品に含まれる気泡はその浮力によって流出口120から外部に排出され易い。
【0058】
また、上述した各実施形態では、流路100に連通路103を1つだけ設けるようにしたが、連通路103の数は特にこれに限定されるものではなく、例えば、2個以上の複数個を設けるようにしてもよい。例えば、連通路103を複数個設ける場合には、全ての連通路103のZ方向に見た開口面積の合計が、第1面11および第2面21の面積よりも小さければよい。また、連通路103を複数個設ける場合であっても、流入口110および流出口120のそれぞれが、Z方向に見て各連通路103に重ならない位置に配置されているのが好ましい。
【0059】
また、上述した各実施形態の連通路103は、Z方向に亘って同じ内径となるように形成したが、特にこれに限定されず、連通路103がZ方向の途中で広がっていてもよく、狭まっていてもよい。また、連通路103は、第2流路102に向かって開口面積が徐々に漸小する、または、徐々に漸大する所謂、テーパー形状であってもよく、開口面積が段階的に減少する、または、拡大する所謂、階段状であってもよい。また、連通路103は、第1流路101から第2流路102に向かって、開口面積が徐々に漸小した後に徐々に漸大する形状や、開口面積が段階的に減少した後、徐々に拡大する形状等であってもよい。何れの場合であっても、連通路103のうちZ方向に見て最も小さな開口面積となる部分が絞り部となり、第1面11および第2面21の面積よりも小さくなっていればよい。
【0060】
また、連通路103は、Z方向に対して、X方向およびY方向の何れか一方または両方に傾斜して形成されていてもよく、途中で屈曲されて異なる方向に形成されていてもよい。つまり、Z方向に液状食品を流通させる流路100とは、少なくとも一部にZ方向の成分のベクトルを有する流路が設けられていることを含む。また、流入口110および流出口120は、Z方向に見て流路100の最も狭い部分である絞り部に重ならない位置に配置されていればよい。つまり、流入口110および流出口120がZ方向に見て絞り部に重ならないとは、流入口110および流出口120がZ方向に見て流路100の最も狭い開口面積となる部分に重なっていないことを言う。すなわち、流入口110および流出口120がZ方向に見て絞り部に重ならないとは、連通路103の一部、例えば、第1流路101側の一部や第2流路102側の一部が流入口110および第2流路102に重なる位置に配置されたものを含む。
【0061】
また、上述した各実施形態では、流路100を構成する第1流路101と第2流路102と連通路103とのそれぞれは、側面がZ方向に沿った垂直面としたが、特にこれに限定されず、例えば、側面がXY平面に沿った方向に凸状または凹状となる曲面となっていてもよい。また、第1流路101と第2流路102と連通路103との側面の接続部分が連続した形状、つまり、第1流路101と第2流路102と連通路103とが明確に区切られていなくてもよい。このような構成であっても、Z方向に見て流路100の開口面積の最も小さい部分が絞り部に相当する。
【0062】
また、上述した各実施形態では、流入口110および流出口120をZ方向に見て連通路103に重ならない位置に設けるようにしたが、特にこれに限定されず、流入口110および流出口120の何れか一方または両方の一部または全てが、Z方向に見て連通路103に重なる位置に配置されていてもよい。このような構成であっても、連通路103をZ方向に見た開口面積を第1面11および第2面21の面積よりも小さくすることで、第1面11および第2面21に印加される単位面積当たりの電界を比較的小さくすることができるため、流入口110および流出口120の開口縁部における電界集中を低減することができる。
【0063】
また、上述した各実施形態では、液体として液状食品を例示したが、特にこれに限定されるものではなく、他の液体の殺菌に用いるパルス殺菌器処理槽およびパルス殺菌器についても同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0064】
1…パルス殺菌器、2…パルス発生器、3…パルス殺菌器処理槽、4…パルス印加部、4A…第1パルス印加部、4B…第2パルス印加部、10…第1電極、11…第1面、20…第2電極、21…第2面、30…流路部材、100…流路、101…第1流路、102…第2流路、103…連通路、110…流入口、120…流出口
図1
図2
図3
図4
図5