(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161979
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】潤滑油組成物及び潤滑油組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10M 153/02 20060101AFI20231031BHJP
C10M 169/04 20060101ALI20231031BHJP
C10M 105/04 20060101ALI20231031BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20231031BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20231031BHJP
【FI】
C10M153/02
C10M169/04
C10M105/04
C10N30:06
C10N40:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072655
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸生
(72)【発明者】
【氏名】中西 祐輔
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104CH01C
4H104LA03
4H104PA49
(57)【要約】
【課題】真空環境下においても摩擦摩耗特性に優れる、潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】アルキルシクロペンタン油及びポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を含有する潤滑油組成物とした。ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、特定のアルキル(メタ)アクリレート(A)に由来する構成単位(a)と、特定の水酸基含有(メタ)アクリレート(B)に由来する構成単位(b)と、特定のリン含有(メタ)アクリレート(C)に由来する構成単位(c)とを含むポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を含むものとした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルシクロペンタン油及びポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を含有し、
前記ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、下記一般式(a-1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート(A)に由来する構成単位(a)と、下記一般式(b-1)で表される水酸基含有(メタ)アクリレート(B)に由来する構成単位(b)と、下記一般式(c-1)で表されるリン含有(メタ)アクリレート(C)に由来する構成単位(c)とを含む、潤滑油組成物。
【化1】
[上記一般式(a-1)中、R
a1は、水素原子又はメチル基である。R
a2は、炭素数8~20のアルキル基を示す。]
【化2】
[上記一般式(b-1)中、R
b1は、水素原子又はメチル基である。R
b2は、炭素数2~4のアルキレン基を示す。m1は、1~10の整数を示す。m1が2以上の整数の場合の複数のR
b2は、同一であっても異なっていてもよい。]
【化3】
[上記一般式(c-1)中、R
c1は、水素原子又はメチル基である。R
c2は、エチレン基を示す。m2は、1~6の整数を示す。m2が2以上の整数の場合の複数のR
c2は、同一であっても異なっていてもよい。nは、1又は2の整数を示す。n=1である場合、複数のR
c3のうちの少なくとも1つは水素原子を示し、複数のR
c3のうちの1つはメチル基又はエチル基であってもよい。n=2である場合、R
c3は水素原子である。]
【請求項2】
前記一般式(c-1)中、n=1である場合、複数のRc3はいずれも水素原子である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、質量平均分子量(Mw)が5,000~100,000である、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)が、さらに下記要件(α)を満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
<要件(α)>
前記構成単位(a)と前記構成単位(b)との含有比率[(a)/(b)]が、モル比で、50/50~90/10である。
【請求項5】
前記ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)が、さらに下記要件(β)を満たす、請求項1~4のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
<要件(β)>
前記ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)中のリン含有量が、前記ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の全量基準で、0.05質量%以上1.0質量%以下である。
【請求項6】
真空環境下で用いられる機器の潤滑に用いられる、請求項1~5のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
アルキルシクロペンタン油とポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)とを混合する工程を含み、
前記ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、下記一般式(a-1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート(A)に由来する構成単位(a)と、下記一般式(b-1)で表される水酸基含有(メタ)アクリレート(B)に由来する構成単位(b)と、下記一般式(c-1)で表されるリン含有(メタ)アクリレート(C)に由来する構成単位(c)とを含む、潤滑油組成物の製造方法。
【化4】
[上記一般式(a-1)中、R
a1は、水素原子又はメチル基である。R
a2は、炭素数8~20のアルキル基を示す。]
【化5】
[上記一般式(b-1)中、R
b1は、水素原子又はメチル基である。R
b2は、炭素数2~4のアルキレン基を示す。m1は、1~10の整数を示す。m1が2以上の整数の場合の複数のR
b2は、同一であっても異なっていてもよい。]
【化6】
[上記一般式(c-1)中、R
c1は、水素原子又はメチル基である。R
c2は、エチレン基を示す。m2は、1~6の整数を示す。m2が2以上の整数の場合の複数のR
c2は、同一であっても異なっていてもよい。nは、1又は2の整数を示す。n=1である場合、複数のR
c3のうちの少なくとも1つは水素原子を示し、複数のR
c3のうちの1つはメチル基又はエチル基であってもよい。n=2である場合、R
c3は水素原子である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物及び潤滑油組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙空間等の真空環境下において、蒸気圧の高い液体は使用中に蒸発してしまう。そのため、人工衛星、探査機、及び月面自動車等の宇宙空間で用いられる装置に搭載される機器には、潤滑油として、蒸気圧が極めて低く、宇宙空間等の真空環境下において蒸発しにくい、アルキルシクロペンタン油が主に使用されている。
近年では、宇宙空間のみならず、半導体製造装置等の真空環境下で用いられる機器の潤滑油として、アルキルシクロペンタン油を用いることも提案されている。
例えば、特許文献1では、アルキルシクロペンタン油に、クラウンエーテル類と、極圧添加剤とを配合した潤滑油組成物が開示されている。なお、特許文献1では、極圧添加剤として、亜鉛ジチオフォスフェート、亜鉛ジチオカルバメ-ト、モリブデンジチオフォスフェート、モリブデンジチオカルバメ-ト、亜鉛スルフォネート、バリウムスルフォネート、カルシウムスルフォネート、リン酸エステル、亜リン酸エステル、次亜リン酸エステル、酸性リン酸エステルが挙げられている。また、特許文献1において、クラウンエーテル類は、極圧添加剤をアルキルシクロペンタン油に良好に溶解させるための溶解助剤として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の潤滑油組成物は、真空環境下で用いた場合、摩擦低減性能及び耐摩耗性能(以下、これらをまとめて「摩擦摩耗特性」ともいう)が不十分であると考えられる。
【0005】
そこで、本発明は、真空環境下においても摩擦摩耗特性に優れる、潤滑油組成物及び当該潤滑油組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、下記[1]~[2]が提供される。
[1] アルキルシクロペンタン油及びポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を含有し、
前記ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、下記一般式(a-1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート(A)に由来する構成単位(a)と、下記一般式(b-1)で表される水酸基含有(メタ)アクリレート(B)に由来する構成単位(b)と、下記一般式(c-1)で表されるリン含有(メタ)アクリレート(C)に由来する構成単位(c)とを含む、潤滑油組成物。
【化1】
[上記一般式(a-1)中、R
a1は、水素原子又はメチル基である。R
a2は、炭素数8~20のアルキル基を示す。]
【化2】
[上記一般式(b-1)中、R
b1は、水素原子又はメチル基である。R
b2は、炭素数2~4のアルキレン基を示す。m1は、1~10の整数を示す。m1が2以上の整数の場合の複数のR
b2は、同一であっても異なっていてもよい。]
【化3】
[上記一般式(c-1)中、R
c1は、水素原子又はメチル基である。R
c2は、エチレン基を示す。m2は、1~6の整数を示す。m2が2以上の整数の場合の複数のR
c2は、同一であっても異なっていてもよい。nは、1又は2の整数を示す。n=1である場合、複数のR
c3のうちの少なくとも1つは水素原子を示し、複数のR
c3のうちの1つはメチル基又はエチル基であってもよい。n=2である場合、R
c3は水素原子である。]
[2] アルキルシクロペンタン油とポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)とを混合する工程を含み、
前記ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、下記一般式(a-1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート(A)に由来する構成単位(a)と、下記一般式(b-1)で表される水酸基含有(メタ)アクリレート(B)に由来する構成単位(b)と、下記一般式(c-1)で表されるリン含有(メタ)アクリレート(C)に由来する構成単位(c)とを含む、潤滑油組成物の製造方法。
【化4】
[上記一般式(a-1)中、R
a1は、水素原子又はメチル基である。R
a2は、炭素数8~20のアルキル基を示す。]
【化5】
[上記一般式(b-1)中、R
b1は、水素原子又はメチル基である。R
b2は、炭素数2~4のアルキレン基を示す。m1は、1~10の整数を示す。m1が2以上の整数の場合の複数のR
b2は、同一であっても異なっていてもよい。]
【化6】
[上記一般式(c-1)中、R
c1は、水素原子又はメチル基である。R
c2は、エチレン基を示す。m2は、1~6の整数を示す。m2が2以上の整数の場合の複数のR
c2は、同一であっても異なっていてもよい。nは、1又は2の整数を示す。n=1である場合、複数のR
c3のうちの少なくとも1つは水素原子を示し、複数のR
c3のうちの1つはメチル基又はエチル基であってもよい。n=2である場合、R
c3は水素原子である。]
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、真空環境下においても摩擦摩耗特性に優れる、潤滑油組成物及び当該潤滑油組成物の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本発明の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味し、他の類似の用語についても同様の意味である。
【0009】
[潤滑油組成物の態様]
本実施形態の潤滑油組成物は、アルキルシクロペンタン油及びポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を含有する。
ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、下記一般式(a-1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート(A)に由来する構成単位(a)と、下記一般式(b-1)で表される水酸基含有(メタ)アクリレート(B)に由来する構成単位(b)と、下記一般式(c-1)で表されるリン含有(メタ)アクリレート(C)に由来する構成単位(c)とを含む。
【化7】
[上記一般式(a-1)中、R
a1は、水素原子又はメチル基である。R
a2は、炭素数8~20のアルキル基を示す。]
【化8】
[上記一般式(b-1)中、R
b1は、水素原子又はメチル基である。R
b2は、炭素数2~4のアルキレン基を示す。m1は、1~10の整数を示す。m1が2以上の整数の場合の複数のR
b2は、同一であっても異なっていてもよい。]
【化9】
[上記一般式(c-1)中、R
c1は、水素原子又はメチル基である。R
c2は、エチレン基を示す。m2は、1~6の整数を示す。m2が2以上の整数の場合の複数のR
c2は、同一であっても異なっていてもよい。nは、1又は2の整数を示す。n=1である場合、複数のR
c3のうちの少なくとも1つは水素原子を示し、複数のR
c3のうちの1つはメチル基又はエチル基であってもよい。n=2である場合、R
c3は水素原子である。]
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、特許文献1に記載されている潤滑油組成物は、アルキルシクロペンタン油に配合されているクラウンエーテル類及び極圧添加剤の分子量が小さいため、真空環境下ではこれらが蒸発してしまい、潤滑油組成物の摩擦摩耗特性が不十分になると考えられた。
そこで、本発明者らは、更に鋭意検討を行い、アルキルシクロペンタン油に対して優れた摩擦摩耗特性を付与し得る化合物として、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を創出するに至った。ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、高分子であるため、真空環境下において蒸発しにくく、真空環境下においても長期に亘りアルキルシクロペンタン油への溶解状態を維持し得る。したがって、アルキルシクロペンタン油にポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を配合した潤滑油組成物は、真空環境下においても長期に亘って優れた摩擦摩耗特性を発揮し得る。
【0011】
なお、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)が、摩擦摩耗特性に優れる理由は、上記構成単位(a)を含むことによってアルキルシクロペンタン油への溶解性が確保されること、上記構成単位(b)を含むことによって多点吸着型のポリマーとなっていること、上記構成単位(c)を含むことによって、リン酸基又は酸性リン酸エステル由来の基が側鎖に導入されていることによるものと推察される。より詳細には、潤滑油組成物中では、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の立体障害によって、側鎖に導入されたリン酸基又は酸性リン酸エステル由来の基が保護される。その一方で、摺動部では、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)が圧縮されて側鎖に導入されたリン酸基又は酸性リン酸エステル由来の基のリンが剥き出しになることによって、当該リンが金属と反応し摩擦摩耗特性が向上するものと推察される。
また、本発明者らの検討によると、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、熱安定性にも優れるため、宇宙空間において太陽からの放射熱による影響を受けにくい。また、半導体製造装置内で高温に晒されることによる影響も受けにくい。
【0012】
本実施形態の潤滑油組成物は、アルキルシクロペンタン油及びポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)のみから構成されていてもよい。また、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で、アルキルシクロペンタン油及びポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の他の成分を含有していてもよい。
本実施形態の潤滑油組成物において、アルキルシクロペンタン油及びポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の合計含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは95質量%~100質量%、より好ましくは98質量%~100質量%、更に好ましくは99質量%~100質量%、より更に好ましくは100質量%である。
【0013】
以下、アルキルシクロペンタン油及びポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)について、詳細に説明する。
【0014】
<アルキルシクロペンタン油>
本実施形態の潤滑油組成物は、アルキルシクロペンタン油を含有する。
本実施形態において、アルキルシクロペンタン油は、潤滑油組成物を構成する基油として機能する。
アルキルシクロペンタン油は、MAC油(Multiply Alkylated Cyclopentane oil)とも呼ばれ、シクロペンタン環にアルキル基が複数結合した化合物から構成される、低蒸発性の基油である。
シクロペンタン環に結合するアルキル基の総炭素数は48~112であることが好ましく、各アルキル基は同一であっても異なっていてもよい。
アルキルシクロペンタン油の具体例としては、トリス(2-オクチルドデシル)シクロペンタン及びテトラ(ドデシル)シクロペンタン等が挙げられる。
【0015】
(アルキルシクロペンタン油の含有量)
本実施形態の潤滑油組成物において、アルキルシクロペンタン油の含有量は、潤滑油組成物中における基油の含有量を十分に確保する観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは95.0質量%以上、より好ましくは99.0質量%以上、更に好ましくは99.3質量%以上、より更に好ましくは99.5質量%以上、更になお好ましくは99.7質量%以上である。
また、アルキルシクロペンタン油の含有量は、潤滑油組成物中におけるポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の配合の余地を確保する観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは99.99質量%以下、より好ましくは99.95質量%以下、更に好ましくは99.92質量%以下、より更に好ましくは99.90質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは95.0質量%~99.99質量%、より好ましくは99.0質量%~99.99質量%、更に好ましくは99.3質量%~99.95質量%、より更に好ましくは99.5質量%~99.92質量%、更になお好ましくは99.7質量%~99.90質量%である。
【0016】
なお、以降の説明では、「アルキルシクロペンタン油」を「MAC油」ともいう。
【0017】
<ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)>
本実施形態の潤滑油組成物は、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を含有する。
本実施形態の潤滑油組成物は、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を含有することにより、摩擦摩耗特性に優れたものとなる。なお、アルキルシクロペンタン油のみでは、摩擦摩耗特性を十分に確保することができない。
【0018】
ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、上記一般式(a-1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート(A)に由来する構成単位(a)と、上記一般式(b-1)で表される水酸基含有(メタ)アクリレート(B)に由来する構成単位(b)と、上記一般式(c-1)で表されるリン含有(メタ)アクリレート(C)に由来する構成単位(c)とを含む。
【0019】
以下、アルキル(メタ)アクリレート(A)、水酸基含有(メタ)アクリレート(B)、及びリン含有(メタ)アクリレート(C)について、詳細に説明する。
なお、以降の説明では、アルキル(メタ)アクリレート(A)、水酸基含有(メタ)アクリレート(B)、及びリン含有(メタ)アクリレート(C)を、それぞれ「モノマー(A)」、「モノマー(B)」、及び「モノマー(C)」ともいう。
【0020】
(アルキル(メタ)アクリレート(A))
本実施形態において使用されるアルキル(メタ)アクリレート(A)は、下記一般式(a-1)で表される。
【化10】
【0021】
アルキル(メタ)アクリレート(A)に由来する構成単位(a)は、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)において、主にアルキルシクロペンタン油への溶解性(以下、「油溶性」ともいう)を発揮させる機能を担う。
ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)がアルキル(メタ)アクリレート(A)に由来する構成単位(a)を含まない場合、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の油溶性を確保し難くなる。
なお、アルキル(メタ)アクリレート(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。したがって、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、アルキル(メタ)アクリレート(A)に由来する構成単位(a)を1種単独で含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0022】
上記一般式(a-1)中、Ra1は、水素原子又はメチル基である。すなわち、アルキル(メタ)アクリレート(A)は、重合性官能基として、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する。
Ra1が水素原子及びメチル基以外の置換基であるモノマーは入手が困難であり、かつ当該モノマーは反応性が低いため、それらを重合することも困難である。
ここで、本実施形態では、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の分子量を調整しやすくする観点から、Ra1は、水素原子であることが好ましい。すなわち、アルキル(メタ)アクリレート(A)は、重合性官能基として、アクリロイル基を有することが好ましい。
【0023】
上記一般式(a-1)中、Ra2は、炭素数8~20のアルキル基を示す。
当該アルキル基の炭素数が8未満である場合、当該アルキル基の炭素数が20超である場合、いずれもポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の油溶性を確保し難くなる。
【0024】
Ra2として選択し得る、炭素数8~20のアルキル基としては、例えば、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、及びイコシル基等の鎖状アルキル基が挙げられる。これらは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0025】
ここで、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の油溶性をより確保しやすくする観点から、当該アルキル基の炭素数は、好ましくは10~18、より好ましくは10~16、更に好ましくは10~14である。
【0026】
(水酸基含有(メタ)アクリレート(B))
本実施形態において使用される水酸基含有(メタ)アクリレート(B)は、下記一般式(b-1)で表される。
【化11】
【0027】
水酸基含有(メタ)アクリレート(B)に由来する構成単位(b)は、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を多点吸着型のポリマーにする機能を担っており、摩擦摩耗特性の向上に資すると推察される。
ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)が水酸基含有(メタ)アクリレート(B)に由来する構成単位(b)を含まない場合、摩擦摩耗特性を向上させ難くなる。
なお、水酸基含有(メタ)アクリレート(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。したがって、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、水酸基含有(メタ)アクリレート(B)に由来する構成単位(b)を1種単独で含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0028】
上記一般式(b-1)中、Rb1は、水素原子又はメチル基である。すなわち、水酸基含有(メタ)アクリレート(B)は、重合性官能基として、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する。
Rb1が水素原子及びメチル基以外の置換基であるモノマーは入手が困難であり、かつ当該モノマーは反応性が低いため、それらを重合することも困難である。
ここで、本実施形態では、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の分子量を調整しやすくする観点から、Rb1は、水素原子であることが好ましい。すなわち、水酸基含有(メタ)アクリレート(B)は、重合性官能基として、アクリロイル基を有することが好ましい。
【0029】
上記一般式(b-1)中、Rb2は、炭素数2~4のアルキレン基を示す。
当該アルキレン基の炭素数が1である場合、極性が高くなり油溶性が低下する。
また、当該アルキレン基の炭素数が5以上である場合、油溶性が向上し過ぎて金属への吸着性が低下する。
ここで、適切な油溶性と金属への適切な吸着性を確保しやすくする観点から、当該アルキレン基の炭素数は、好ましくは2~3、より好ましくは2である。
【0030】
m1は、1~10の整数を示す。m1が2以上の整数の場合の複数のRb2は、同一であっても異なっていてもよい。また、-(ORb2)m1で表される部分同士の結合態様は、ランダム結合でもブロック結合であってもよいが、重合のしやすさの観点からは、ランダム結合であることが好ましい。
m1が0である場合、水酸基含有(メタ)アクリレート(B)がカルボン酸となるため油溶性が低下する。
また、m1が11以上の整数である場合、-(ORb2)-部分の影響で極性が高くなり、油溶性が低下する。
ここで、適切な油溶性を確保しやすくする観点から、m1は、好ましくは1~6、より好ましくは1~4、更に好ましくは1~2、より更に好ましくは1である。
【0031】
(リン含有(メタ)アクリレート(C))
本発明において使用されるリン含有(メタ)アクリレート(C)は、下記一般式(c-1)で表される。
【化12】
【0032】
リン含有(メタ)アクリレート(C)に由来する構成単位(c)は、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の側鎖にリン酸基又は酸性リン酸エステル由来の基を導入することで、摩擦摩耗特性を向上させる機能を担っていると推察される。
ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)がリン含有(メタ)アクリレート(C)に由来する構成単位(c)を含まない場合、摩擦摩耗特性を向上させ難くなる。
ここで、リンは熱安定性を低下させる要因となる元素であるため、熱安定性を確保する観点からは一般的には導入されない元素である。しかしながら、本発明者らは、摩擦摩耗特性を向上させる観点から、リン酸基又は酸性リン酸エステル由来の基を導入することを検討する中で、アルキル(メタ)アクリレート(A)由来の構成単位(a)と水酸基含有(メタ)アクリレート(B)由来の構成単位(b)とが組み合わされたポリマー中に、リン含有(メタ)アクリレート(C)由来の構成単位(c)を導入することで、リンを導入することによる熱安定性の低下の問題が緩和され、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)全体として熱安定性に優れ、しかも摩擦摩耗特性にも優れるポリマーとなることを見出した。
【0033】
なお、リン含有(メタ)アクリレート(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。したがって、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、リン含有(メタ)アクリレート(C)に由来する構成単位(c)を1種単独で含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0034】
上記一般式(c-1)中、Rc1は、水素原子又はメチル基である。すなわち、リン含有(メタ)アクリレート(C)は、重合性官能基として、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する。
Rc1が水素原子及びメチル基以外の置換基であるモノマーは入手が困難であり、かつ当該モノマーは反応性が低いため、それらを重合することも困難である。
ここで、本実施形態では、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の分子量を調整しやすくする観点から、Rc1は、水素原子であることが好ましい。すなわち、リン含有(メタ)アクリレート(C)は、重合性官能基として、アクリロイル基を有することが好ましい。
【0035】
上記一般式(c-1)中、Rc2は、エチレン基を示す。
当該アルキレン基の炭素数が1である場合、極性が高くなり油溶性が低下する。
また、当該アルキレン基の炭素数が3以上である場合、油溶性が向上し過ぎて金属への吸着性が低下する。
【0036】
m2は、1~6の整数を示す。m2が2以上の整数の場合の複数のRc2は、同一であっても異なっていてもよい。また、-(ORc2)m2で表される部分同士の結合態様は、ランダム結合でもブロック結合であってもよいが、重合のしやすさの観点からは、ランダム結合であることが好ましい。
m2が0である場合、リン含有(メタ)アクリレート(C)の極性が高くなるため油溶性が低下する。
また、m2が7以上の整数である場合、-(ORb2)-部分の影響で極性が高くなり、油溶性が低下する。
ここで、適切な油溶性を確保しやすくする観点から、m2は、好ましくは1~4、より好ましくは1~2、更に好ましくは1である。
【0037】
nは、1又は2の整数を示す。n=1である場合、複数のRc3のうちの少なくとも1つは水素原子を示し、複数のRc3のうちの1つはメチル基又はエチル基であってもよい。n=2である場合、Rc3は水素原子である。
ここで、n=1である場合、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、複数のRc3はいずれも水素原子であることが好ましい。
また、本発明の効果を発揮させやすくする観点から、リン含有(メタ)アクリレート(C)は、n=1であるリン含有(メタ)アクリレート(C1)を主成分として含むことが好ましい。
本明細書において、「主成分」とは、その含有量が50質量%を超える成分をいう。すなわち、n=1であるリン含有(メタ)アクリレート(C1)の含有量は、リン含有(メタ)アクリレート(C)の全量基準で、好ましくは50質量%超~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは70質量%~100質量%、より更に好ましくは80質量%~100質量%、更になお好ましくは90質量%~100質量%である。
また、n=1であるリン含有(メタ)アクリレート(C1)に由来する構成単位(c1)の含有量は、リン含有(メタ)アクリレート(C)に由来する構成単位(c)の全量基準で、好ましくは50質量%超~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは70質量%~100質量%、より更に好ましくは80質量%~100質量%、更になお好ましくは90質量%~100質量%である。
【0038】
また、本実施形態で用いるリン含有(メタ)アクリレート(C)は、摩擦摩耗特性をより向上させやすくする観点から、酸価が300mgKOH/g~600mgKOH/gであることがより好ましく、350mgKOH/g~550mgKOH/gであることが更に好ましい。
本明細書において、リン含有(メタ)アクリレート(C)の酸価は、JIS K 2501 2003の7に規定する電位差法により測定される値を意味する。
【0039】
(要件(α))
ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、要件(α)を満たすことが好ましい。すなわち、上記構成単位(a)と上記構成単位(b)との含有比率[(a)/(b)]が、モル比で、50/50~90/10であることが好ましい。
[(a)/(b)]が50/50以上であると、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の油溶性を良好なものとしやすい。なお、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の油溶性をより良好なものとする観点から、[(a)/(b)]は、より好ましくは60/40以上、更に好ましくは70/30以上、より更に好ましくは75/25である。
また、[(a)/(b)]が90/10以下であると、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の摩擦摩耗特性を向上させやすい。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは60/40~90/10、より好ましくは70/30~90/10、更に好ましくは75/25~90/10である。
【0040】
(要件(β))
本実施形態のポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、要件(β)を満たすことが好ましい。すなわち、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)のリン含有量は、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の全量基準で、0.05質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。また、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の全量基準で、より好ましくは0.10質量%以上、更に好ましくは0.20質量%以上である。また、より好ましくは0.70質量%以下、更に好ましくは0.50質量%以下、より更に好ましくは0.40質量%以下、更になお好ましくは0.30質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、より好ましくは0.10質量%~0.70質量%、更に好ましくは0.10質量%~0.50質量%、より更に好ましくは0.20質量%~0.40質量%、更になお好ましくは0.20質量%~0.30質量%である。
ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)のリン含有量は、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を有機溶剤(例えば、潤滑油基油)に所定量溶解した後、当該有機溶剤中のリン量をJIS-5S-38-03に準拠して測定した結果と、有機溶剤へのポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の溶解量とに基づいて算出することができる。
【0041】
(他のモノマー)
ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、上記構成単位(a)、(b)、及び(c)以外に、本発明の効果を阻害することのない範囲で、他のモノマー由来の構成単位を含有していてもよい。当該他のモノマーとしては、モノマー(A)、(B)、及び(C)以外の官能基含有モノマーが挙げられる。当該他の官能基含有モノマーとしては、例えば、モノマー(A)、(B)、及び(C)以外の官能基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。
但し、本発明の効果をより向上させやすくする観点から、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、上記構成単位(a)、(b)、及び(c)の合計含有量が、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の全構成単位基準で、好ましくは50質量%超~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは70質量%~100質量%、より更に好ましくは80質量%~100質量%、更になお好ましくは90質量%~100質量%である。
また、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、モノマー(A)、(B)、及び(C)以外の官能基含有モノマーに由来する構成単位の含有量が、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の全構成単位基準で、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%未満、更に好ましくは30質量%未満、より更に好ましくは20質量%未満、更になお好ましくは10質量%未満である。
【0042】
(ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の物性等)
(質量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn))
本実施形態のポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の質量平均分子量(Mw)は、真空環境下での蒸発をより抑制しやすくするとともに、油溶性を確保して摩擦摩耗特性を向上させやすくする観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは8,000以上、更に好ましくは10,000以上である。また、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは40,000以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは5,000~100,000、より好ましくは8,000~50,000、更に好ましくは10,000~40,000である。
また、本実施形態のポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の分子量分布(Mw/Mn)は、本発明の効果をより向上させやすくする観点から、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、更に好ましくは2.8以下である。なお、本実施形態のポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の分子量分布(Mw/Mn)は、1.01以上であってもよく、1.3以上であってもよく、1.5以上であってもよい。
質量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、後述する実施例に記載の方法にて測定又は算出される値である。
【0043】
(重合態様)
本実施形態のポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の重合態様は特に限定されず、ブロック共重合、ランダム共重合、ブロック/ランダム共重合のいずれであってもよい。これらの中でも、重合反応の容易さの観点から、ランダム共重合であることが好ましい。
【0044】
(ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の製造方法)
ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、下記一般式(a-1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート(A)と、下記一般式(b-1)で表される水酸基含有(メタ)アクリレート(B)と、下記一般式(c-1)で表されるリン含有(メタ)アクリレート(C)とを重合させて、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を製造する工程(S)を含む。
【化13】
[上記一般式(a-1)中、R
a1は、水素原子又はメチル基である。R
a2は、炭素数8~20のアルキル基を示す。]
【化14】
[上記一般式(b-1)中、R
b1は、水素原子又はメチル基である。R
b2は、炭素数2~4のアルキレン基を示す。m1は、1~10の整数を示す。m1が2以上の整数の場合の複数のR
b2は、同一であっても異なっていてもよい。]
【化15】
[上記一般式(c-1)中、R
c1は、水素原子又はメチル基である。R
c2は、エチレン基を示す。m2は、1~6の整数を示す。m2が2以上の整数の場合の複数のR
c2は、同一であっても異なっていてもよい。nは、1又は2の整数を示す。n=1である場合、複数のR
c3のうちの少なくとも1つは水素原子を示し、複数のR
c3のうちの1つはメチル基又はエチル基であってもよい。n=2である場合、R
c3は水素原子である。]
【0045】
以下、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を製造する工程(S)について、詳細に説明する。
【0046】
(ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を製造する工程(S))
ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の製造方法(重合方法)は、特に限定されず、公知の方法のいずれかを適用して製造される。このような方法としては、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法等が挙げられる。
ここで、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の製造方法(重合方法)としては、例えば、基油であるアルキルシクロペンタン油に溶解する溶剤を溶媒として使用する溶液重合法を採用することが好ましい。
【0047】
(溶液重合法)
溶液重合法は、例えば、モノマー(A)、(B)、及び(C)、並びに溶媒及び開始剤を反応器に仕込み、反応器内を窒素置換した後、60℃~100℃で、2時間~10時間、撹拌して反応させることにより行われる。反応器には、モノマー(A)、(B)、及び(C)以外の他のモノマーも任意に仕込まれる。
【0048】
溶液重合法において使用される溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;メトキシブタノール、エトキシブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;鉱油;ポリ-α-オレフィン、エチレン-α-オレフィン共重合体、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリフェニルエーテル、アルキル置換ジフェニルエーテル、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ヒンダードエステル、モノエステル、GTL基油、アルキルシクロペンタン油等の合成油が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
溶液重合法において使用される開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス-(N,N-ジメチレンイソブチルアミジン)二塩酸塩、1,1’-アゾビス(シクロヘキシル-1-カルボニトリル)等のアゾ系開始剤;過酸化水素;過酸化ベンゾイル、t-ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、過安息香酸等の有機過酸化物;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素-Fe2+のレドックス開始剤;その他既存のラジカル開始剤が挙げられる。
【0050】
なお、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の分子量は、公知の方法で制御される。例えば、反応温度、反応時間、開始剤の量、各モノマーの仕込み量、溶媒の種類、連鎖移動剤の使用等により、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の分子量を制御することができる。
【0051】
(工程(S)における好適態様1)
工程(S)において、上記要件(α)を満たすポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を製造する観点から、アルキル(メタ)アクリレート(A)と水酸基含有(メタ)アクリレート(B)との配合比率[(A)/(B)]を、モル比で、50/50~90/10に調整することが好ましい。
また、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の油溶性を更に良好なものとする観点から、[(A)/(B)]は、より好ましくは60/40~90/10、更に好ましくは70/30~90/10、より更に好ましくは75/25~90/10である。
【0052】
(工程(S)における好適態様2)
工程(S)において、上記要件(β)を満たすポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を製造する観点から、リン含有(メタ)アクリレート(C)と、アルキル(メタ)アクリレート(A)及び水酸基含有(メタ)アクリレート(B)の総量との配合比率[(C)/{(A)+(B)}]を、モル比で、0.1/100~10/100に調整することが好ましい。
また、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の摩擦摩耗特性をより向上させやすくする観点から、[(C)/{(A)+(B)}]は、より好ましくは0.5/100以上、更に好ましくは1.0/100以上である。
更に、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の熱安定性をより向上させやすくする観点から、[(C)/{(A)+(B)}]は、より好ましくは5.0/100以下、更に好ましくは3.0/100以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、より好ましくは0.5/100~5.0/100、更に好ましくは1.0/100~3.0/100である。
【0053】
(ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の含有量)
本実施形態の潤滑油組成物において、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の含有量は、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の添加効果を良好に発揮させやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.08質量%以上、より更に好ましくは0.1質量%以上である。
また、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の含有量は、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の油溶性を確保しつつ、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の添加量に見合った効果を得る観点から、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.7質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下、より更に好ましくは0.3質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.01質量%~1.0質量%、より好ましくは0.05質量%~0.7質量%、更に好ましくは0.08質量%~0.5質量%、より更に好ましくは0.1質量%~0.3質量%である。
【0054】
<他の添加剤>
本実施形態の潤滑油組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)以外の他の添加剤を含有していてもよく、含有していなくてもよい。
当該他の添加剤としては、例えば、粘度指数向上剤等が挙げられる。
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)には該当しないポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体等)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン水素化共重合体等)等が挙げられる。
また、他の添加剤として、増ちょう剤を含んでいてもよい。すなわち、本実施形態の潤滑油組成物は、増ちょう剤を含むグリース組成物の態様であってもよい。
【0055】
<潤滑油組成物の物性等>
(動粘度、粘度指数)
本実施形態の潤滑油組成物の100℃動粘度は、蒸発抑制の観点から、好ましくは5.0mm2/s以上、より好ましくは8.0mm2/s以上、更に好ましくは10.0mm2/s以上である。また、粘性抵抗による動力損失の抑制の観点から、好ましくは25mm2/s以下、より好ましくは20mm2/s以下、更に好ましくは18mm2/s以下である。
本実施形態の潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは100以上、より好ましくは110以上、更に好ましくは120以上である。
潤滑油組成物の動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準じて測定又は算出される値である。
【0056】
(摩擦係数)
本実施形態の潤滑油組成物は、後述する実施例に記載の摩擦摩耗試験による摩擦係数が、好ましくは0.065以下、より好ましくは0.060以下、更に好ましくは0.055以下、より更に好ましくは0.050以下である。
【0057】
(耐摩耗性)
本実施形態の潤滑油組成物は、後述する実施例に記載の摩擦摩耗試験による摩耗痕径が、好ましくは0.35mm以下、より好ましくは0.30mm以下、更に好ましくは0.25mm以下である。
【0058】
[潤滑油組成物の製造方法]
本実施形態の潤滑油組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、以下の製造方法が挙げられる。
すなわち、本実施形態の潤滑油組成物の製造方法は、アルキルシクロペンタン油とポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)とを混合する工程を含む。
ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、下記一般式(a-1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート(A)に由来する構成単位(a)と、下記一般式(b-1)で表される水酸基含有(メタ)アクリレート(B)に由来する構成単位(b)と、下記一般式(c-1)で表されるリン含有(メタ)アクリレート(C)に由来する構成単位(c)とを含む。
【化16】
[上記一般式(a-1)中、R
a1は、水素原子又はメチル基である。R
a2は、炭素数8~20のアルキル基を示す。]
【化17】
[上記一般式(b-1)中、R
b1は、水素原子又はメチル基である。R
b2は、炭素数2~4のアルキレン基を示す。m1は、1~10の整数を示す。m1が2以上の整数の場合の複数のR
b2は、同一であっても異なっていてもよい。]
【化18】
[上記一般式(c-1)中、R
c1は、水素原子又はメチル基である。R
c2は、エチレン基を示す。m2は、1~6の整数を示す。m2が2以上の整数の場合の複数のR
c2は、同一であっても異なっていてもよい。nは、1又は2の整数を示す。n=1である場合、複数のR
c3のうちの少なくとも1つは水素原子を示し、複数のR
c3のうちの1つはメチル基又はエチル基であってもよい。n=2である場合、R
c3は水素原子である。]
【0059】
ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、例えば、上述した製造方法により製造することができる。
アルキルシクロペンタン油とポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)とを混合する方法としては、特に制限はないが、例えば、アルキルシクロペンタン油に、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を配合する工程を有する方法が挙げられる。他の添加剤は、それぞれ、アルキルシクロペンタン油に、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を配合するのと同時に、アルキルシクロペンタン油に配合してもよいし、別々に配合してもよい。なお、各成分は、希釈油等を加えて溶液(分散体)の形態とした上で配合してもよい。各成分を配合した後、公知の方法により、撹拌して均一に分散させることが好ましい。
【0060】
[潤滑油組成物の用途]
本実施形態の潤滑油組成物は、含有成分であるアルキルシクロペンタン油及びポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の双方が真空環境下においても蒸発しにくいため、真空環境下においても、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)がアルキルシクロペンタン油に溶解した状態を長期に亘って維持し続けることができ、十分な摩擦摩耗特性が発揮される。
したがって、本実施形態の潤滑油組成物は、真空環境下で用いられる機器の潤滑に用いられる潤滑油組成物として好適である。
真空環境下で用いられる機器としては、人工衛星、探査機、及び月面自動車等、宇宙空間で用いる装置に搭載される機器が挙げられる。また、半導体、液晶及び有機ELのフラットパネルディスプレイ、並びに太陽電池パネル等の製造に用いられる装置において、真空環境下にて各種処理が行われる空間内部(真空チャンバー及び真空搬送室等)等に用いられる機器が挙げられる。
【0061】
なお、本明細書において、「真空環境」とは、10-1Pa以下の高真空環境であってもよく、10-5Pa以下の超高真空環境であってもよく、10-9Pa以下の極高真空環境であってもよい。
【0062】
[潤滑油組成物を用いる潤滑方法]
本実施形態の潤滑油組成物を用いる潤滑方法としては、好ましくは、前記潤滑油組成物を、真空環境下で用いられる機器の潤滑に用いる、使用方法が挙げられる。
真空環境下で用いられる機器としては、上述した各種機器が挙げられる。
【0063】
[提供される本発明の一態様]
本発明の一態様によれば、下記[1]~[7]が提供される。
[1] アルキルシクロペンタン油及びポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を含有し、
前記ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、下記一般式(a-1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート(A)に由来する構成単位(a)と、下記一般式(b-1)で表される水酸基含有(メタ)アクリレート(B)に由来する構成単位(b)と、下記一般式(c-1)で表されるリン含有(メタ)アクリレート(C)に由来する構成単位(c)とを含む、潤滑油組成物。
【化19】
[上記一般式(a-1)中、R
a1は、水素原子又はメチル基である。R
a2は、炭素数8~20のアルキル基を示す。]
【化20】
[上記一般式(b-1)中、R
b1は、水素原子又はメチル基である。R
b2は、炭素数2~4のアルキレン基を示す。m1は、1~10の整数を示す。m1が2以上の整数の場合の複数のR
b2は、同一であっても異なっていてもよい。]
【化21】
[上記一般式(c-1)中、R
c1は、水素原子又はメチル基である。R
c2は、エチレン基を示す。m2は、1~6の整数を示す。m2が2以上の整数の場合の複数のR
c2は、同一であっても異なっていてもよい。nは、1又は2の整数を示す。n=1である場合、複数のR
c3のうちの少なくとも1つは水素原子を示し、複数のR
c3のうちの1つはメチル基又はエチル基であってもよい。n=2である場合、R
c3は水素原子である。]
[2] 前記一般式(c-1)中、n=1である場合、複数のR
c3はいずれも水素原子である、上記[1]に記載の潤滑油組成物。
[3] 前記ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、質量平均分子量(Mw)が5,000~100,000である、上記[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
[4] 前記ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)が、さらに下記要件(α)を満たす、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の潤滑油組成物。
<要件(α)>
前記構成単位(a)と前記構成単位(b)との含有比率[(a)/(b)]が、モル比で、40/60~90/10である。
[5] 前記ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)が、さらに下記要件(β)を満たす、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の潤滑油組成物。
<要件(β)>
前記ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)中のリン含有量が、前記ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の全量基準で、0.05質量%以上1.0質量%以下である。
[6] 真空環境下で用いられる機器の潤滑に用いられる、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の潤滑油組成物。
[7] アルキルシクロペンタン油とポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)とを混合する工程を含み、
前記ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)は、下記一般式(a-1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート(A)に由来する構成単位(a)と、下記一般式(b-1)で表される水酸基含有(メタ)アクリレート(B)に由来する構成単位(b)と、下記一般式(c-1)で表されるリン含有(メタ)アクリレート(C)に由来する構成単位(c)とを含む、潤滑油組成物の製造方法。
【化22】
[上記一般式(a-1)中、R
a1は、水素原子又はメチル基である。R
a2は、炭素数8~20のアルキル基を示す。]
【化23】
[上記一般式(b-1)中、R
b1は、水素原子又はメチル基である。R
b2は、炭素数2~4のアルキレン基を示す。m1は、1~10の整数を示す。m1が2以上の整数の場合の複数のR
b2は、同一であっても異なっていてもよい。]
【化24】
[上記一般式(c-1)中、R
c1は、水素原子又はメチル基である。R
c2は、エチレン基を示す。m2は、1~6の整数を示す。m2が2以上の整数の場合の複数のR
c2は、同一であっても異なっていてもよい。nは、1又は2の整数を示す。n=1である場合、複数のR
c3のうちの少なくとも1つは水素原子を示し、複数のR
c3のうちの1つはメチル基又はエチル基であってもよい。n=2である場合、R
c3は水素原子である。]
【実施例0064】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
[各種物性値の測定方法]
各実施例及び各比較例で用いた各原料並びに各実施例及び各比較例の潤滑油組成物の各性状の測定は、以下に示す要領に従って行ったものである。
【0066】
(1)動粘度、粘度指数
潤滑油組成物の40℃動粘度、100℃動粘度、及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定又は算出した。
【0067】
(2)質量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)
Waters社製の「1515アイソクラティックHPLCポンプ」、「2414示差屈折率(RI)検出器」に、東ソー社製のカラム「TSKguardcolumn SuperHZ-L」を1本、及び「TSKSuperMultipore HZ-M」を2本、上流側からこの順で取り付け、測定温度:40℃、移動相:テトラヒドロフラン、流速:0.35ml/分、試料濃度1.0mg/mlの条件で測定し、標準ポリスチレン換算にて求めた。
【0068】
[実施例1~4、比較例1]
アルキルシクロペンタン油及びポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を、表1に示す配合量(質量%)で十分に混合し、実施例1~4の潤滑油組成物をそれぞれ調製した。また、比較例1では、アルキルシクロペンタン油のみを用いた。
実施例1~4及び比較例1で用いたアルキルシクロペンタン油及びポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の詳細は、以下に示すとおりである。
【0069】
<アルキルシクロペンタン油>
トリス(2-オクチルドデシル)シクロペンタンを用いた。
【0070】
<ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)>
・ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-1:製造例1に説明する方法で製造した。
・ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-2:製造例2に説明する方法で製造した。
・ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-3:製造例3に説明する方法で製造した。
【0071】
<製造例1~3>
(製造例1~3で用いたモノマー)
・「ドデシルアクリレート」:上記一般式(a-1)中、Ra1が水素原子であり、Ra2がドデシル基(炭素数12のアルキル基)である化合物である。アルキル(メタ)アクリレート(A)として使用した。
・「2-ヒドロキシエチルアクリレート」:上記一般式(b-1)中、Rb1が水素原子であり、Rb2がエチレン基(炭素数2のアルキレン基)であり、m1=1である化合物である。水酸基含有(メタ)アクリレート(B)として使用した。
・「P-1A(N)」:共栄社化学株式会社製、リン含有量=14.3質量%
上記一般式(c-1)中、n=1である化合物を主成分とし、n=2である化合物も含む混合物である。なお、両化合物とも、Rc1が水素原子であり、m2=1である。また、両化合物とも、Rc3は水素原子である。リン含有(メタ)アクリレート(C)として使用した。
なお、P-1A(N)の酸価(JIS K 2501 2003の7に規定する電位差法により測定した値)は、420~520mgKOH/gである。
【0072】
(製造例1:ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-1の製造)
温度計、窒素導入管、及び撹拌機を取り付けた200mL容の4つ口フラスコに、ドデシルアクリレートを53.9g(224mmоl)、2-ヒドロキシエチルアクリレートを2.89g(24.9mmоl)、P-1A(N)を0.944g(4.8mmоl)、溶媒として2-プロパノールを47.6g仕込んだ。
次いで、フラスコ内を窒素置換し、開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)を0.2g添加した後、撹拌しながらゆっくり昇温し、75~85℃の温度で還流させながら4時間反応させて、反応終了後に溶媒を減圧留去することにより、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-1を得た。
ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-1の質量平均分子量(Mw)は20,500であり、分子量分布(Mw/Mn)は2.1であった。また、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-1のリン含有量は、0.28質量%であった。
また、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-1の構成単位(a)と構成単位(b)との含有比率[(a)/(b)]は、モル比で、90/10である。
得られたポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-1は、表1に示す配合でアルキルシクロペンタン油に混合し、後述する評価に供した。
【0073】
(製造例2:ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-2の製造)
ドデシルアクリレートを47.9g(199mmоl)に変更し、2-ヒドロキシエチルアクリレートを5.8g(49.8mmоl)に変更して、製造例1と同様の方法により、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-2を得た。
ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-2の質量平均分子量(Mw)は21,300であり、分子量分布(Mw/Mn)は2.2であった。また、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-2のリン含有量は、0.28質量%であった。
また、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-2の構成単位(a)と構成単位(b)との含有比率[(a)/(b)]は、モル比で、80/20である。
得られたポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-2は、表1に示す配合でアルキルシクロペンタン油に混合し、後述する評価に供した。
【0074】
(製造例3:ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-3の製造)
ドデシルアクリレートを36g(150mmоl)に変更し、2-ヒドロキシエチルアクリレートを11.5g(99mmоl)に変更して、製造例1と同様の方法により、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-3を得た。
ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-3の質量平均分子量(Mw)は18,200であり、分子量分布(Mw/Mn)は2.1であった。また、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-3のリン含有量は、0.28質量%であった。
また、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-3の構成単位(a)と構成単位(b)との含有比率[(a)/(b)]は、モル比で、60/40である。
得られたポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-3は、表1に示す配合でアルキルシクロペンタン油に混合し、後述する評価に供した。
【0075】
[評価方法]
以下に説明する摩擦摩耗試験を実施し、摩擦係数及び摩耗痕径を測定した。
【0076】
<摩擦摩耗試験>
ボール・オン・ディスク型の高速往復動摩擦試験機TE77(Phoenix Tribology社製)を用いて、試験プレートと試験球との間に潤滑油組成物を導入し、下記の条件にて、試験球を動かして試験を行い、平均摩擦係数を測定した。また、試験後の試験球の縦方向の摩耗痕径及び横方向の摩耗痕径を測定し、下記式により摩耗痕径の平均値を算出した。
・テストピース:上部ボール(SUJ2)、下部ディスク(SUJ2)
・振幅:10.0mm
・周波数:10Hz
・荷重:50N
・温度:100℃
・試験時間:20分間
摩耗痕径の平均値={(縦方向の摩耗痕径)+(横方向の摩耗痕径)}/2
摩擦係数が低いほど、摩擦低減性能に優れた潤滑油組成物であるといえる。
また、摩耗痕径の値が小さい程、耐摩耗性能に優れた潤滑油組成物であるといえる。
【0077】
結果を表1に示す。
【0078】
【0079】
表1より、以下のことがわかる。
実施例1~4の潤滑油組成物は、摩擦係数が低く、摩耗痕径も小さいため、摩擦摩耗特性に優れることがわかる。
なお、製造例1~3に記載したように、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)-1、(X)-2、及び(X)-3は、いずれも質量平均分子量が大きく、真空環境下でも蒸発しにくい。したがって、実施例1~4の潤滑油組成物における優れた摩擦摩耗特性は、真空環境下においても維持され得ることがわかる。
【0080】
また、実施例1~4の潤滑油組成物の外観を目視で観察した結果、いずれも白濁や沈殿等が見られず、ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)のアルキルシクロペンタン油への溶解性(油溶性)は良好であることが確認された。