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特開2023-16241放射線滅菌を行う用途に用いるポリアセタール樹脂およびポリアセタール樹脂の放射線耐性向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016241
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】放射線滅菌を行う用途に用いるポリアセタール樹脂およびポリアセタール樹脂の放射線耐性向上方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20230126BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
C08L59/00
C08K5/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120430
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】森 文哉
(72)【発明者】
【氏名】門間 智宏
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CB001
4J002EJ016
4J002EJ036
4J002FD206
4J002GB01
(57)【要約】
【課題】 本発明の目的は、新たな放射線滅菌を行う用途に用いるポリアセタール樹脂およびポリアセタール樹脂の放射線耐性向上方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明の目的は、
放射線滅菌を行う用途に用いるポリアセタール樹脂組成物であって、
該ポリアセタール樹脂組成物が、ヒンダードフェノール系化合物およびポリフェノール系化合物から選択される少なくとも一種の化合物を含有するポリアセタール樹脂組成物、によって達成された。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線滅菌を行う用途に用いるポリアセタール樹脂組成物であって、
該ポリアセタール樹脂組成物が、ヒンダードフェノール系化合物およびポリフェノール系化合物から選択される少なくとも一種の化合物を含有するポリアセタール樹脂組成物。
【請求項2】
前記ヒンダードフェノール系化合物のフェノール性水酸基を有する炭素原子に隣接する炭素原子の一つが、メチル基またはメチレン基を置換基として有する請求項1記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
前記ヒンダードフェノール系化合物が、2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-4-メチルフェノール)である請求項1または2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
前記請求項1~3いずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物を使用した、ポリアセタール樹脂の放射線耐性向上方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たな放射線滅菌を行う用途に用いるポリアセタール樹脂およびポリアセタール樹脂の放射線耐性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療機器の滅菌では、高圧蒸気滅菌やエチレンオキシドガスによる滅菌が行われてきたが、最近はγ線や電子線による放射線滅菌が多くなっている。医療機器ではプラスチックが多く使用されているが、放射線に対する耐性がプラスチック材料の選択に大きな影響を与えている。
【0003】
例えば、特許文献1では多官能トリアジン化合物、具体的にはトリアリルイソシアヌレートを高分子に含有させる技術が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン樹脂等が医療機器への使用実績が重ねられてきたが、さらに強度や摺動特性の必要とされる用途へのプラスチック材料の拡大が求められている。しかしながら、上記化合物では、プラスチック材料との相溶性に問題が発生しやすく、例えばポリアセタール樹脂への適用は困難であった。近年、ポリアセタール樹脂の医療機器用とへの用途拡大の要望が高まり、耐放射線のポリアセタール樹脂が求められてきた。
【0006】
本発明の目的は、新たな放射線滅菌を行う用途に用いるポリアセタール樹脂およびポリアセタール樹脂の放射線耐性向上方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記によって達成された。
【0008】
1.放射線滅菌を行う用途に用いるポリアセタール樹脂組成物であって、
該ポリアセタール樹脂組成物が、ヒンダードフェノール系化合物およびポリフェノール系化合物から選択される少なくとも一種の化合物を含有するポリアセタール樹脂組成物。
2. 前記ヒンダードフェノール系化合物のフェノール性水酸基を有する炭素原子に隣接する炭素原子の一つが、メチル基またはメチレン基を置換基として有する前記1記載のポリアセタール樹脂組成物。
3. 前記ヒンダードフェノール系化合物が、2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-4-メチルフェノール)である前記1または2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
4. 前記1~3いずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物を使用した、ポリアセタール樹脂の放射線耐性向上方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新たな放射線滅菌を行う用途に用いるポリアセタール樹脂およびポリアセタール樹脂の放射線耐性向上方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0011】
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、放射線滅菌を行う用途に用いるポリアセタール樹脂組成物であって、該ポリアセタール樹脂組成物が、ヒンダードフェノール系化合物およびポリフェノール系化合物から選択される少なくとも一種の化合物を含有することを特徴とする。
【0012】
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、少なくともポリアセタール樹脂とヒンダードフェノール系化合物およびポリフェノール系化合物から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。
【0013】
<ポリアセタール樹脂>
本発明に使用されるポリアセタール樹脂は、オキシメチレン基(-OCH-)を構成単位とするホモポリマー(例えば米国DuPont社製、商品名「デルリン」等)でもよいし、オキシメチレン単位以外に他のコモノマー単位を有するコポリマー(例えば、ポリプラスチックス(株)製、商品名「ジュラコン」等)であってもよい。熱安定性などの点からコポリマーであることが好ましい。
【0014】
ポリアセタールコポリマーは、一般的にはホルムアルデヒド又はホルムアルデヒドの環状化合物を主モノマーとし、環状エーテルや環状ホルマールから選ばれた化合物をコモノマーとして共重合させることによって製造され、通常、熱分解、(アルカリ)加水分解等によって末端の不安定部分を除去して安定化される。
【0015】
特に、主モノマーとしてはホルムアルデヒドの環状三量体であるトリオキサンを用いるのが一般的である。トリオキサンは、一般的には酸性触媒の存在下でホルムアルデヒド水溶液を反応させることにより得られ、これを蒸留などの方法で精製して使用される。重合に用いるトリオキサンは、水、メタノール、蟻酸などの不純物の含有量が極力少ないものが好ましい。
【0016】
コモノマーとしては、一般的な環状エーテル及び環状ホルマール、また分岐構造や架橋構造を形成可能なグリシジルエーテル化合物などを単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0017】
上記の如きポリアセタールコポリマーは、一般には適量の分子量調整剤を添加し、カチオン重合触媒を用いてカチオン重合することにより得ることができる。使用される分子量調整剤、カチオン重合触媒、重合方法、重合装置、重合後の触媒の失活化処理、重合によって得られた粗ポリアセタールコポリマーの末端安定化処理法などは多くの文献によって公知であり、基本的にはそれらが何れも利用できる。
【0018】
本発明で使用するポリアセタール樹脂の分子量は特に限定されないが、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノールを溶離液とするSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)法にて決定したポリメタクリル酸メチル相当の重量平均分子量が10,000~400,000のものが好ましい。また、樹脂の流動性の指標となるメルトインデックス(ISO1133に準じ、190℃、荷重2.16kgで測定)が0.1~100g/10分であるものが好ましく、さらに好ましくは0.5~80g/10分である。
【0019】
<ヒンダードフェノール系化合物およびポリフェノール系化合物から選択される少なくとも一種の化合物>
本発明において使用されるヒンダードフェノール系化合物は、フェノール系化合物のフェノール性水酸基を有する炭素に隣接する炭素の一つが、メチル基またはメチレン基を置換基として有することが好ましい。
【0020】
具体的には、2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-4-エチルフェノール)、ヘキサメチレングリコール-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート)、ペンタエリトリトール-テトラキス-3-(3、5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール-ビス-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジル)ベンゼン、n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェノール)プロピオネート、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデン-ビス(6-tert-ブチル-3-メチル-フェノール)、ジ-ステアリル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネート、2-tert-ブチル-6-(3-tert-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、3,9-ビス{2-〔3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が挙げられる。
【0021】
本発明において使用されるポリフェノール系化合物としては、フラボン類、イソフラボン類、フラボノール類、フラバノン類、フラバノール類、アントシアン類等が挙げられる。具体的には、ルテオリン、カテキン、ケルセチン、サクラネチン、フスチン、シアニン、プロトアントシアニジン等が挙げられる。フェノール性水酸基の数が、3以上であるポリフェノール系化合物であることが好ましい。
【0022】
本発明においては、これらの化合物から選ばれた少なくとも一種又は二種以上を使用することができる。
【0023】
本発明におけるヒンダードフェノール系化合物およびポリフェノール系化合物から選択される少なくとも一種の化合物の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、0.1~2.0質量部であり、0.2~1.5質量部であることがより好ましい。
【0024】
≪その他の成分≫
本発明のポリアセタール樹脂組成物には、本発明を阻害しない限り、必要に応じて、さらに、熱安定剤、耐衝撃性改良剤、摺動性改良剤、充填剤、着色剤、核剤、帯電防止剤、界面活性剤、相溶化剤などを一種又は二種以上配合することができる。
【0025】
<用途>
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、本発明のヒンダードフェノール系化合物およびポリフェノール系化合物から選択される少なくとも一種の化合物を含ませることにより、耐放射線性を高めることができ、放射線滅菌を行う医療機器の用途に用いることができる。例えば薬剤吸入器具、注射器具、輸液用器具の部品等に使用することができる。
【0026】
<耐放射線向上方法>
本発明のポリアセタール樹脂組成物の耐放射線性向上方法は、ポリアセタール樹脂組成物に放射線耐性を発現する方法であって、ポリアセタール樹脂にヒンダードフェノール系化合物およびポリフェノール系化合物から選択される少なくとも一種の化合物を添加することを特徴としている。
【0027】
上述の通り、本発明のポリアセタール樹脂組成物を成形して得られる部材は放射線照射後も十分な機械特性を維持している。本発明のポリアセタール樹脂組成物の放射線耐性発現方法において、ポリアセタール樹脂に対するヒンダードフェノール系化合物およびポリフェノール系化合物から選択される少なくとも一種の化合物の好ましい添加量については、上述の本発明ポリアセタール樹脂組成物で説明した通りである。
【実施例0028】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
表1における各種成分は次のとおりである。表中の単位は質量部である。
(A)ポリアセタール樹脂(POMと略す)
トリオキサン96.7質量%と1,3-ジオキソラン3.3質量%とを共重合させてなるポリアセタールコポリマー(メルトインデックス(ISO1133に準拠し、190℃,荷重2.16kgで測定):9g/10min)
【0030】

(B)ヒンダードフェノール系化合物およびポリフェノール系化合物から選択される少なくとも一種の化合物
(B-1)2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-4-メチルフェノール)(SUMILIZER MDP-S 住友化学社製)
(B-2)トリエチレングリコール-ビス-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート(Irganox245 BASF社製)
(B-3)ペンタエリトリトール-テトラキス-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(Irganox1010、BASF社製)
(B-4)ケルセチン(試薬、関東化学(株)製)
(B’)その他の化合物
(B’-5)1,3,5-トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン (試薬 、関東化学(株)製)
(B’-6)Chimassorb944 (BASF社製)
【0031】
<実施例及び比較例>
表1に示す各種成分を表1に示す割合で添加混合し、二軸の押出機を用いてシリンダー温度210℃で溶融混練してペレット状のポリアセタール樹脂組成物を調製した。
【0032】
<評価>
上記ペレット状のポリアセタール樹脂組成物を使用し、下記条件で射出成形により厚さ4mmのISOtype1-A多目的試験片を作製し、以下の評価を行った。
・成形機: αS100i-A(ファナック(株))
・成形条件:シリンダー温度(℃) ノズル-C1- C2- C3
200 200 180 170℃
保圧力 60(MPa)
射出速度 8.0(mm/s)
金型温度 90(℃)
【0033】
1)耐放射線の評価(機械的特性)
前記試験片およびその試験片に室温、常圧下で25kGyの電子線を照射した後の試験片について、ISO527-1、527-2に準拠し破断時の引張破断ひずみ(TE)測定を行った。測定室は、常圧、23℃50%RHの雰囲気を保持した。照射後のTEの照射前TEに対する比率であるTE保持率(%)を求めた。結果を表1に示す。
【0034】
2)添加剤のPOM樹脂への溶解性(相溶性):染み出し評価
前記試験片を100℃の恒温槽に7日保持したあと、試験片の表面を目視で観察した。
表面の状況で以下の様に分別評価した。結果を表1に示す。B以上が、実用的に使用可能な範囲である。
A:試験片表面に添加剤由来の曇りは見られない。
B:試験片表面の一部に添加剤由来の曇りが見られた。
C:試験片表面全体に添加剤由来の曇りが見られた。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示す通り、本発明ではTE保持率が高く、耐放射線性に優れることがわかる。また、本発明のヒンダードフェノール系化合物およびポリフェノール系化合物から選択される少なくとも一種の化合物が、ポリアセタール樹脂との相溶性の高いこともわかる。