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特開2023-16245デュラム小麦全粒粉乾パスタの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016245
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】デュラム小麦全粒粉乾パスタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20230126BHJP
【FI】
A23L7/109 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120437
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】矢崎 友彦
(72)【発明者】
【氏名】前田 航平
(72)【発明者】
【氏名】川上 裕之
【テーマコード(参考)】
4B046
【Fターム(参考)】
4B046LA06
4B046LB03
4B046LB04
4B046LC01
4B046LC08
4B046LC17
4B046LG29
4B046LP34
4B046LQ04
4B046LQ05
(57)【要約】
【課題】本発明は、追加の下処理設備を必要とせず、既存の製造設備で食味、食感及び色調にすぐれたデュラム小麦全粒粉乾パスタを提供することを課題とする。
【解決手段】デュラム小麦穀粒を、ふすま画分と胚乳画分を分離することなく製粉し、デュラム小麦全粒粉を得る工程、前記デュラム小麦全粒粉と水とを混合して水和生地を得る工程、前記水和生地を押出し成型して麺生地を得る工程、前記麺生地を水分含量が16~22質量%になるまで乾燥する予備乾燥工程及びさらに平均62~83℃の雰囲気温度下で前記麺生地の水分含量が13質量%以下になるまで乾燥する本乾燥工程を含む、デュラム小麦全粒粉乾パスタの製造方法であって、前記デュラム小麦全粒粉の体積基準の粒度分布における50%粒子径(メディアン径、D50)が90μm以上であり、且つ体積基準の粒度分布における90%粒子径が600μm以下であり、前記デュラム小麦全粒粉の粒径280μm以上の画分の灰分が1.4~6.0質量%である前記製造方法又は体積基準の粒度分布における50%粒子径(メディアン径、D50)が90μm以上であり、且つ体積基準の粒度分布における90%粒子径が600μm以下である、デュラム小麦全粒粉を含む乾パスタであって、前記デュラム小麦全粒粉の粒径280μm以上の画分の灰分が1.4~6.0質量%であり、CIELab表色系におけるa*値が10.0以上14.0未満である前記乾パスタにより上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程
デュラム小麦穀粒を、ふすま画分と胚乳画分を分離することなく製粉し、デュラム小麦全粒粉を得る工程、
前記デュラム小麦全粒粉と水とを混合して水和生地を得る工程、
前記水和生地を押出し成型して麺生地を得る工程、
前記麺生地を水分含量が16~22質量%になるまで乾燥する予備乾燥工程及び
さらに62~83℃の平均雰囲気温度下で前記麺生地の水分含量が13質量%以下になるまで乾燥する本乾燥工程を含む、デュラム小麦全粒粉乾パスタの製造方法であって、
前記デュラム小麦全粒粉の体積基準の粒度分布における50%粒子径(メディアン径、D50)が90μm以上であり、且つ体積基準の粒度分布における90%粒子径が600μm以下であり、
前記デュラム小麦全粒粉の粒径280μm以上の画分の灰分が1.4~6.0質量%である、
前記製造方法。
【請求項2】
前記デュラム小麦穀粒を製粉する前に皮剥き処理する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
体積基準の粒度分布における50%粒子径(メディアン径、D50)が90μm以上であり、且つ体積基準の粒度分布における90%粒子径が600μm以下である、デュラム小麦全粒粉を含む乾パスタであって、
前記デュラム小麦全粒粉の粒径280μm以上の画分の灰分が1.4~6.0質量%であり、
CIELab表色系におけるa*値が10.0以上14.0未満である、
前記乾パスタ。
【請求項4】
請求項1もしくは請求項2に記載の方法で得られたデュラム小麦全粒粉乾パスタ又は請求項3に記載のデュラム小麦全粒粉乾パスタを加熱調理する工程を含む、調理済みデュラム小麦全粒粉パスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はデュラム小麦全粒粉乾パスタの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
健康意識の高まりから、食物繊維、ビタミン、ミネラルなどの栄養素に富む小麦全粒粉やそれに準じた高製粉歩留の小麦粉を用いた食品の需要が増加しつつある。また、SDGs、フードロスに関係したニーズが高まることが予想され、製造ロス(廃棄あるいは飼料化)の少ない食品が求められている。
原料粉としてデュラム小麦全粒粉を使用したデュラム小麦全粒粉乾パスタには、独特な味の苦み、ボソツキのある食感、小麦の外皮が唇や口内に刺さるような不快感、赤黒い色調などの課題があり、それを改善するには何らかの下処理設備が必要とされてきた。
デュラム小麦は外皮(小麦ふすま)が硬いうえ、粉砕機にかけても外皮が大きいまま残りやすいため、それが食感や味に悪影響する要素になっている。その好ましくない特徴を改善する方法として、例えば特許文献1~3では篩い分け等で外皮の少ない画分と外皮を多く含む画分を分け、外皮を多く含む画分のみに微粉砕、湿熱処理、乾熱処理などの特別な処理を行う技術が提案されているが、これらの方法では製造設備の組み換えや、処理用設備の導入が必要である。また特許文献4には所定の粒径を有する微粒画分と粗粒画分を所定量で混合した全粒粉を混合してなる全粒粉を使用する技術が開示されており、このような方法は既存の製造設備でも実施可能であるが、2種類の全粒粉の準備とそれらの貯蔵や混合に伴う設備が必要であった。
そこで、追加の下処理設備を必要とせず、既存の製造設備で製造可能なデュラム小麦全粒粉乾パスタの製造方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-082542
【特許文献2】特開2007-125003
【特許文献3】特開2019-129712
【特許文献4】特開2015-195759
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、追加の下処理設備を必要とせず、既存の製造設備で食味、食感及び色調にすぐれたデュラム小麦全粒粉乾パスタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、デュラム小麦穀粒を、ふすま画分と胚乳画分を分離することなく製粉し、デュラム小麦全粒粉を得る工程、前記デュラム小麦全粒粉と水とを混合して水和生地を得る工程、前記水和生地を押出し成型して麺生地を得る工程、前記麺生地を水分含量が16~22質量%になるまで乾燥する予備乾燥工程及びさらに62~83℃の平均雰囲気温度下で前記麺生地の水分含量が13質量%以下になるまで乾燥する本乾燥工程を含む、デュラム小麦全粒粉乾パスタの製造方法であって、前記デュラム小麦全粒粉の体積基準の粒度分布における50%粒子径(メディアン径、D50)が90μm以上であり、且つ体積基準の粒度分布における90%粒子径が600μm以下であり、前記デュラム小麦全粒粉の粒径280μm以上の画分の灰分が1.4~6.0質量%である、前記製造方法又は体積基準の粒度分布における50%粒子径(メディアン径、D50)が90μm以上であり、且つ体積基準の粒度分布における90%粒子径が600μm以下である、デュラム小麦全粒粉を含む乾パスタであって、前記デュラム小麦全粒粉の粒径280μm以上の画分の灰分が1.4~6.0質量%であり、CIELab表色系におけるa*値が10.0以上14.0未満である前記乾パスタにより、食味、食感及び色調にすぐれたデュラム小麦全粒粉乾パスタを提供することが出来ることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の通りである。
[1]下記工程
デュラム小麦穀粒を、ふすま画分と胚乳画分を分離することなく製粉し、デュラム小麦全粒粉を得る工程、
前記デュラム小麦全粒粉と水とを混合して水和生地を得る工程、
前記水和生地を押出し成型して麺生地を得る工程、
前記麺生地を水分含量が16~22質量%になるまで乾燥する予備乾燥工程及び
さらに62~83℃の平均雰囲気温度下で前記麺生地の水分含量が13質量%以下になるまで乾燥する本乾燥工程を含む、デュラム小麦全粒粉乾パスタの製造方法であって、前記デュラム小麦全粒粉の体積基準の粒度分布における50%粒子径(メディアン径、D50)が90μm以上であり、且つ体積基準の粒度分布における90%粒子径が600μm以下であり、前記デュラム小麦全粒粉の粒径280μm以上の画分の灰分が1.4~6.0質量%である、前記製造方法。
[2]前記デュラム小麦穀粒を、ふすま画分と胚乳画分を分離することなく製粉し、デュラム小麦全粒粉を得る工程の前に、前記デュラム小麦穀粒を皮剥き処理する工程を含む、[1]に記載の製造方法。
[3]体積基準の粒度分布における50%粒子径(メディアン径、D50)が90μm以上であり、且つ体積基準の粒度分布における90%粒子径が600μm以下である、デュラム小麦全粒粉を含む乾パスタであって、
前記デュラム小麦全粒粉の粒径280μm以上の画分の灰分が1.4~6.0質量%であり、CIELab表色系におけるa*値が10.0以上14.0未満である、前記乾パスタ。
[4][1]もしくは[2]に記載の方法で得られたデュラム小麦全粒粉乾パスタ又は[3]に記載のデュラム小麦全粒粉乾パスタを加熱調理する工程を含む、調理済みデュラム小麦全粒粉パスタの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、追加の下処理設備を必要とせず、既存の製造設備で食味、食感及び色調にすぐれたデュラム小麦全粒粉乾パスタを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(デュラム小麦全粒粉乾パスタの製造方法)
本発明のデュラム小麦全粒粉乾パスタの製造方法は、デュラム小麦穀粒を、ふすま画分と胚乳画分を分離することなく製粉し、デュラム小麦全粒粉を得る工程、前記デュラム小麦全粒粉と水とを混合して水和生地を得る工程、前記水和生地を押出し成型して麺生地を得る工程、前記麺生地を水分含量が16~22質量%になるまで乾燥する予備乾燥工程及びさらに62~83℃の平均雰囲気温度下で前記麺生地の水分含量が13質量%以下になるまで乾燥する本乾燥工程を含み、前記デュラム小麦全粒粉の体積基準の粒度分布における50%粒子径(メディアン径、D50)が90μm以上であり、且つ体積基準の粒度分布における90%粒子径が600μm以下であり、前記デュラム小麦全粒粉の粒径280μm以上の画分の灰分が1.4~6.0質量%である。
【0008】
(a)デュラム小麦全粒粉の調製
本発明の製造方法は、デュラム小麦穀粒を、ふすま画分と胚乳画分を分離することなく製粉し、デュラム小麦全粒粉を得る工程を含む。
一般にデュラム小麦全粒粉とは、精選したデュラム小麦粒を任意に調質した後、ピンミル、ハンマーミル、臼式粉砕機、気流式粉砕機等の粉砕機を使用してまるごと粉砕し、表皮、胚芽、胚乳を含む小麦粒全てを粉にしたもの、あるいは、精選したデュラム小麦粒を任意に調質した後、ロールミルで複数回粉砕して胚乳の微粒画分(小麦粉、以下「胚乳画分」という)、胚芽画分、胚乳よりも外層の部分(小麦ふすま)を含む粗粒画分に分画したのち、胚乳画分、胚芽画分及び小麦ふすま画分をデュラム小麦粒における構成比で混合して得られるものである。
【0009】
デュラム小麦も含め、小麦穀粒は、一般に胚乳、胚芽、及び胚乳と胚芽とを覆う外皮(小麦ふすま)の部分で構成されている。生育条件や品種等により多少の増減はあるものの、小麦穀粒における胚乳、ふすま及び胚芽の構成割合は、おおよそ83:15:2(質量比)である。
本発明においてデュラム小麦全粒粉とは、前記デュラム小麦穀粒の各構成成分が前記構成割合と略同一の構成割合で含まれるものを意味する。デュラム小麦穀粒は後述する皮剥き処理を行ったものを使用しても良い。デュラム小麦穀粒を製粉して小麦全粒粉を得る工程、小麦全粒粉を得る手法としては、一般的には、製粉工程において、胚乳、小麦ふすま及び胚芽を分離することなく全てを粉砕して得る手法(製造方法1)、並びに前記粉砕物を胚乳画分、小麦ふすま画分及び胚芽画分の3画分に分画し、それら3画分を混合して得る手法(製造方法2)等が挙げられるが、本発明においてデュラム小麦穀粒を、ふすま画分と胚乳画分を分離することなく製粉する手法としては製造方法1が該当する。具体的には、製造方法1において、精選した小麦穀粒を任意に調質し、ピンミル、ハンマーミル、気流式粉砕機等の衝撃式粉砕機や臼式粉砕機で粉砕して小麦全粒粉を得ることができる。
【0010】
本発明において、デュラム小麦穀粒を、ふすま画分と胚乳画分を分離することなく製粉し、デュラム小麦全粒粉を得る工程の前に、前記デュラム小麦穀粒を皮剥き処理する工程を含むことが好ましい。本発明において、皮剥き処理とはデュラム小麦穀粒の外皮を物理的に削ることで部分的に除去する処理であり、皮剥き処理によるデュラム小麦穀粒の剥皮率(皮剥き処理による外皮部の除去率)は3%以下であり、好ましくは1~3%である。皮剥き処理を行うと、より食感、色調、味について改良される傾向にある。皮剥きは、例えば小麦同士の摩擦を利用したり、市販の剥皮機や精麦機を利用したりしてもよい。
【0011】
本発明において、全粒粉を得るためのデュラム小麦穀粒は公知のものであればよく、具体的には、食用に使用される品種又は銘柄のデュラム小麦穀粒であれば産地を問わずいずれも好適に使用できる。
【0012】
デュラム小麦全粒粉の体積基準の粒度分布における50%粒子径(メディアン径、D50)が90μm以上であり、且つ体積基準の粒度分布における90%粒子径(D90)が600μm以下である。好ましくはD50が150~350μm、さらに好ましくは200~350μmである。D50が90μm未満のデュラム小麦全粒粉では食感の弾力が少なくボソボソ感が強くなる傾向にある。D50が高いほど食感や味が良好になる傾向があるが、D90が600μmを超えると唇や口内への小麦外皮の引っかかりや刺さりが気になる傾向にあり、好ましくはD90が300~600μm、さらに好ましくは400~600μmである。
なお、本明細書において粒度分布及び粒径は体積基準であり、D50は粒子径積算分布曲線において粒子の小さい方から積算した積算50%における粒径(50%粒子径、メディアン径)、D90は同じく積算90%における粒径を表す。体積基準の粒子径の測定は、公知のレーザー回折・散乱法で測定することができ、その様な装置として、具体的には例えば粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3000)等を使用することができる。
本発明において、デュラム小麦全粒粉の粒径280μm以上の画分の灰分は1.4~6.0質量%であり、好ましくは1.4~1.8質量%である。小麦粒の胚乳部分の灰分は約0.4質量%、ふすま部分の灰分は5.0~6.0質量%であるので、本発明におけるデュラム小麦全粒粉の粒径280μm以上の画分には約20~100質量%、好ましくは約20~30質量%のふすま由来の画分が含まれている。
【0013】
(b)水和生地の調製と製麺
本発明の製造方法は、前記デュラム小麦全粒粉と水とを混合して水和生地を得る工程を含む。製造するパスタの種類に応じて常法により水和生地を得ることができ、例えばスパゲッティであれば、得られる生地の水分量が30~35質量%程度となるようにデュラム小麦全粒粉に水を添加し、麺用ミキサーなどにより混合することにより水和生地を得ることができる。
本発明の製造方法において、食感改良の観点や用途に合わせ、原料粉として前記デュラム小麦全粒粉に加えて、一般に食用に供される穀粉類として、普通小麦、デュラム小麦、所謂古代小麦や小麦との交配等により得られた新規穀類、米、ライ麦、大麦、燕麦、はと麦、とうもろこし、そば、大豆、ひえ、あわ、アマランサス等の穀物由来の副穀粉類を使用しても良い。また副原料として食塩等の無機塩類、各種澱粉(加工澱粉を含む)、卵白・卵黄・全卵やそれらを粉末化したもの、増粘剤、酒精、乳化油脂、乳化剤、乳および乳粉末、保存料、香料、色素、香辛料、ビタミンやカルシウム等の栄養強化剤、動植物由来のタンパク質資材、等を使用しても良い。前記デュラム小麦全粒粉の使用量は特に限定されないが、好ましくは原料粉に含まれる穀粉類の全量に対して80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0014】
また本発明の製造方法は、水和生地を押出し成型して麺生地を得る工程を含む。得られた水和生地は、パスタの種類に応じて常法により製麺し麺生地を得ることができる。例えば押し出し式機械製麺などにより行うことができ、好ましくは真空押出し機を用いた真空押し出し製麺法により製麺する。
本発明において、パスタの形状としてスパゲッティ、スパゲッティーニ、フェデリーニ、カッペリーニ、リングイーネ、ブカティーニなどのロングパスタ、マカロニ、ペンネ、コンキリエ、ファルファッレ、フジッリなどのショートパスタが例としてあげられるがこれらに限定されない。
【0015】
(c)乾燥工程
乾パスタは一般的に、原料粉(主にデュラムセモリナ)に加水した生地を真空高圧下で金型(ダイス)から押し出して成形生地を得、それを水分が13質量%以下になるまで調湿乾燥させて製造する。
乾燥工程では乾燥庫内の雰囲気温度を徐々に上げ適当な温度ならびに時間をかけて乾燥した後、徐々に温度を下げ室温に戻すことにより行う。具体的には押し出し直後の成形生地(水分30~35質量%程度)にヒーターで熱をかけ、(1)予備乾燥工程で水分20質量%程度まで乾燥させ、(2)本乾燥工程で水分13質量%以下にし、(3)安定化工程で生地内外の水分勾配差を均質化させ、(4)冷却工程で常温に戻す流れが一般的である。工業的な連続ラインの場合は、成形生地を搬送しながら乾燥機内の温度の異なるゾーンを通過させることで工程を進める。乾燥機内は製造設備により個別の位置にヒーターが設けられ、雰囲気温度を上下させつつ、適宜調湿しながら目標の水分値になるよう乾燥具合を調節する。乾燥にかかる時間も製造設備によりさまざまである。
【0016】
本発明の製造方法は、前述の麺生地を水分含量が16~22質量%になるまで乾燥する予備乾燥工程及びさらに62~83℃の平均雰囲気温度下で前記麺生地の水分含量が13質量%以下になるまで乾燥する本乾燥工程を含む。本乾燥工程における平均雰囲気温度は好ましくは68~80℃であり、さらに好ましくは70~75℃である。
予備乾燥工程における雰囲気温度や乾燥時間は特に限定されないが、例えば40℃~75℃で30分~90分かけて麺生地を水分含量が16~22質量%になるまで乾燥する。好ましくは17~21質量%の範囲まで乾燥する。予備乾燥工程における雰囲気温度は80℃を超えないことが好ましい。
本乾燥工程における乾燥時間は平均雰囲気温度や製造設備に依存するが、例えば平均雰囲気温度65℃で4~8時間、80℃で1.5~3時間である。本乾燥工程では、麺生地の水分含量が13質量%以下になるまで乾燥する。好ましくは10~12質量%の範囲まで乾燥する。
【0017】
本発明の所定の条件を満たす乾燥工程により食味、食感及び色調にすぐれたデュラム小麦全粒粉乾パスタを得ることができる。
本乾燥工程における平均雰囲気温度が83℃を超えると色調について赤黒さが増し、味についてエグミが強くなる傾向にあり、62℃未満であると食感についてボソボソ感が増し、弾力が少なくなり、歯切れが悪くなる傾向にある。
【0018】
(デュラム小麦全粒粉乾パスタ)
本発明は体積基準の粒度分布における50%粒子径(メディアン径、D50)が90μm以上であり、且つ体積基準の粒度分布における90%粒子径が600μm以下である、デュラム小麦全粒粉を含む乾パスタであって、前記デュラム小麦全粒粉の粒径280μm以上の画分の灰分が1.4~6.0質量%であり、CIELab表色系におけるa*値が10.0以上14.0未満である前記乾パスタに関する。
【0019】
本発明のデュラム小麦全粒粉乾パスタに含まれるデュラム小麦全粒粉は本発明の「デュラム小麦全粒粉乾パスタの製造方法」において述べたとおりである。
本発明のデュラム小麦全粒粉乾パスタは、食感改良の観点や用途に合わせ、原料粉として前記デュラム小麦全粒粉に加えて、一般に食用に供される穀粉類として、普通小麦、デュラム小麦、所謂古代小麦や小麦との交配等により得られた新規穀類、米、ライ麦、大麦、燕麦、はと麦、とうもろこし、そば、大豆、ひえ、あわ、アマランサス等の穀物由来の副穀粉類を使用しても良い。また副原料として食塩等の無機塩類、各種澱粉(加工澱粉を含む)、卵白・卵黄・全卵やそれらを粉末化したもの、増粘剤、酒精、乳化油脂、乳化剤、乳および乳粉末、保存料、香料、色素、香辛料、ビタミンやカルシウム等の栄養強化剤、動植物由来のタンパク質資材、等を使用しても良い。前記デュラム小麦全粒粉の使用量は特に限定されないが、好ましくは原料粉に含まれる穀粉類の全量に対して80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0020】
パスタの色調は、分光測色計CM-3500d(コニカミノルタ製)にて、φ38mmのターゲットマスクを使用し、冶具を用いて乾パスタの層が厚さ13mmになるように麺線の向きを揃えて乾パスタを敷き詰め、外部から光が入らぬよう板で覆い、L*、a*、b*それぞれの値を測定した。
L*a*b*色空間は、物体の色を表すために1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化され、日本でもJIS(JIS Z 8781-4)において採用されている、色調を数値化する手法である(以下、「CIELab表色系」とも称する)。L*値は 明度を表し、数値が大きいほど明るいことを示す。a*値は赤紫と青緑方向の成分で、数字が大きいほど赤紫が強いことを示す。b*値は黄と青方向の成分で、数字が大きいほど黄色いことを示す。
【0021】
(調理済みデュラム小麦全粒粉パスタの製造方法)
本発明は上記本発明の上記デュラム小麦全粒粉乾パスタ又は本発明の製造方法により製造されたデュラム小麦全粒粉乾パスタを加熱調理する工程を含む、調理済みデュラム小麦全粒粉パスタの製造方法にも関する。
デュラム小麦全粒粉乾パスタは例えば沸騰水に投入し、茹で歩留が200~320%になるよう茹で時間を調整し、茹でパスタとしたり、さらにソース調味料などと共に炒める、煮込むなどして調理することができる。
【実施例0022】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0023】
製造例1 デュラム小麦全粒粉の製造
デュラム小麦穀粒をふすま画分と胚乳画分を分離することなく気流式粉砕機で粉砕機の回転数や粉砕後に振るう場合の篩の目開きを変化させることで粒度を調整し、表1に示すD50及びD90を呈するデュラム小麦全粒粉を得た。なお、得られた全粒粉の粒径280μm以上の画分の灰分はいずれも1.4~6.0質量%の範囲内であった。
【0024】
製造例2 乾パスタの製造
得られた各種デュラム小麦全粒粉100質量部に水を27~32質量部加え、麺用ミキサーで10分間ミキシングして水和生地を得た。水和生地を約-80kPa(ゲージ圧)の真空度に減圧しつつ、マカロニ類成形機にて押出してスパゲッティの形状に成形し、麺生地を得た。麺生地を竿にかけ、乾燥機内で麺の含水量が16~22質量%となるまで40~75℃で予備乾燥し、さらに本乾燥として麺の含水量が13質量%以下になるように調湿乾燥し、直径1.7mmの乾パスタを得た。その際、本乾燥工程の平均雰囲気温度を変化させて、平均雰囲気温度の異なる乾パスタを作製した。得られた乾パスタの水分量は10~12質量%の範囲内であった。
【0025】
試験例1 茹でパスタの評価
各乾パスタを沸騰水に投入し、茹で歩留が230%になるよう茹で時間を調整し、茹でパスタを得、熟練のパネラー10名により評価基準表に従い評価した。なお、特許文献1に記載の試験例にならい、デュラム小麦全粒粉(株式会社ニップン社製、社内のみで使用されている従来品)を原料に、本乾燥工程の平均雰囲気温度を90℃にして調湿乾燥して得られた乾パスタを参考例1として評価の基準(各評点2.5点)とした。評価の全項目が3.0点以上で、且つ緑から赤にかけての色味の強さを示す「a*」の値が14.0未満のものを良好な色調と評価し、さらに「唇・喉への引っかかり」の評価が「〇」のものを総合判定「○」とした。結果を表1に示す。
【0026】
評価基準表
【0027】
表1




【0028】
共通する傾向として、D50が大きいほど「食感」「味」の評価が高くなる傾向が見られた。また平均雰囲気温度は高すぎても低すぎても良くなく、60℃では「食感」の評価が低く(比較例1及び2)、85℃では「味」、「食感」、「色調」の評価が低くなった(比較例8及び9)。D50が小さく、平均雰囲気温度を90℃とした参考例では、乾麺の色が極端に赤黒くなった。平均雰囲気温度が72℃であるとき最も良好な結果となった。D90が604μmでは小麦外皮が唇や口内へ引っかかり痛みを感じ不快であった(比較例4、5及び7)。
【0029】
試験例2 皮剥き処理したデュラム小麦の場合
デュラム小麦穀粒の外皮に由来する不快感を軽減する方法として、皮剥き処理が知られている。そこでデュラム小麦穀粒を剥皮率(皮剥き処理による外皮部の除去率)が2%になるよう皮剥き処理した後に、得られた剥皮デュラム小麦粒を製造例1と同様に粉砕し剥皮デュラム小麦全粒粉を得、それを原料として製造例2と同様に作製した乾パスタの品質を試験例1と同様に評価した(平均雰囲気温度72℃)。結果を表2に示す。
【0030】
表2
【0031】
皮剥き処理をしないデュラム小麦全粒粉を使用した実施例5と比較すると「食感」「味」とも良化した(実施例10)。皮剥き処理をしたデュラム小麦全粒粉を原料とした乾パスタを本発明の温度帯で乾燥させたところ、より品質のよい乾パスタを得ることができた。