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特開2023-162480水素検知素子、水素センサー、調光部材、及び調光窓
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162480
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】水素検知素子、水素センサー、調光部材、及び調光窓
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/78 20060101AFI20231101BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20231101BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20231101BHJP
   B01J 27/26 20060101ALI20231101BHJP
   G01N 21/77 20060101ALI20231101BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
G01N21/78 Z
B01J35/02 H
B01J23/42 M
B01J27/26 M
G01N21/77 A
G01N31/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072811
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】胡 致維
(72)【発明者】
【氏名】山田 保誠
【テーマコード(参考)】
2G042
2G054
4G169
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BA04
2G042CA01
2G042CB01
2G042DA08
2G042FA11
2G054AA01
2G054CA04
2G054CE02
2G054CE10
2G054EA04
2G054EA06
2G054EB01
2G054GE06
4G169BA13A
4G169BA14A
4G169BA14B
4G169BA17
4G169BA22A
4G169BA26A
4G169BA26B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC66B
4G169BC72A
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169BE43A
4G169BE43B
4G169CD08
4G169DA06
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EA11
4G169EB14Y
4G169EB15Y
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EB19
4G169ED01
(57)【要約】
【課題】水及び水蒸気が多い環境中にあっても、耐候性を有し、正確な水素検知を迅速に行うことができる水素検知素子を提供する。
【解決手段】金属シアノ錯体10aと触媒ナノ粒子10bとを含むガスクロミック特性を有する水素検知層10を備えた水素検知素子130であって、前記水素検知層は、親水性の水酸基と疎水性のアルキル基とを共に有し、FT-IRスペクトルにおけるそれらの官能基に起因するピーク強度比R(親水性の水酸基/アルキル基)は2以上15以下であり、かつ、非水溶性である、水素検知素子。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シアノ錯体と触媒ナノ粒子とを含むガスクロミック特性を有する水素検知層を備えた水素検知素子であって、
前記水素検知層は、親水性の水酸基と疎水性のアルキル基とを共に有し、FT-IRスペクトルにおけるそれらの官能基に起因するピーク強度比R(親水性の水酸基/アルキル基)は2以上15以下であり、かつ、非水溶性である、水素検知素子。
【請求項2】
前記金属シアノ錯体は、還元電位が-0.38[VvsAg/AgNO]以上であり、酸化電位が+0.46[VvsAg/AgNO]以下である、請求項1に記載の水素検知素子。
【請求項3】
前記金属シアノ錯体は、還元電位が-0.38[VvsAg/AgNO]以上であり、酸化電位が+0.46[VvsAg/AgNO]以上、+2.14[VvsAg/AgNO]以下である、請求項1に記載の水素検知素子。
【請求項4】
前記触媒ナノ粒子は、パラジウム、パラジウム合金、白金、及び白金合金からなる群より選択される一種以上を含む、請求項1に記載の水素検知素子。
【請求項5】
前記触媒ナノ粒子の平均粒径が1nm以上100nm以下である、請求項1に記載の水素検知素子。
【請求項6】
前記水素検知層は、膜厚が10nm以上2μm以下である、請求項1に記載の水素検知素子。
【請求項7】
前記水素検知層は、前記触媒ナノ粒子が前記金属シアノ錯体中に分散されてなる、請求項1に記載の水素検知素子。
【請求項8】
請求項1に記載された水素検知素子の製造方法であって、
金属シアノ錯体をアルキル基を有する化合物で修飾して、疎水化すること、
疎水化された金属シアノ錯体を水酸基を有する化合物で処理して、部分的に親水性を付与すること、
触媒ナノ粒子をアルキル基を有する化合物で修飾して、疎水化すること、
前記の疎水化され親水性を付与された金属シアノ錯体と前記の疎水化された触媒ナノ粒子とを用いて水素検知層とすること、を含む、水素検知素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の水素検知素子を用いた水素センサーであって、前記水素検知層が基材上に形成されている、水素センサー。
【請求項10】
前記基材は、ガラス基材、金属基材、セラミック基材、又はプラスチック基材である、請求項9に記載の水素センサー。
【請求項11】
請求項1に記載の水素検知素子を用いた調光部材であって、前記水素検知層が透明基材上に形成されている、調光部材。
【請求項12】
請求項11に記載の調光部材と、
前記調光部材の前記水素検知層側に対向して配置された他の透明基材と、
前記調光部材と前記他の透明基材との間隙の雰囲気を、水素又は水素を含むガスと、酸素、オゾン又は酸素、オゾンの一以上を含む酸化性ガスとを切り替えて給排気することによって制御する雰囲気制御手段と、
を備えた、調光窓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロミック反応を示す材料を適用した水素検知素子、水素センサー、調光部材、及び調光窓に関する。
【背景技術】
【0002】
外部からの刺激を受けて光学特性が可逆的に変化する現象であるクロミック反応を示す材料は、広く知られている。クロミック反応は、主にエレクトロクロミック反応とガスクロミック反応とに分けられる。エレクトロクロミック反応は、電圧の印加による酸化還元反応を伴う。ガスクロミック反応では、雰囲気中のガス分子による水素化、還元反応及び酸化反応が起こる。
【0003】
クロミック反応を示す材料(以下、「クロミック材料」という。)の用途の一つとして、水素センサーが挙げられる。
【0004】
近年、化石燃料の大量消費に伴い温室効果ガス(CO2など)放出による地球温暖化が問題となっており、化石燃料への依存を減らしたエネルギー供給システムの実現が必要とされている。特に水素燃料電池による電力供給は、環境負荷であるCO2を排出しない電力供給システムであり、その作製技術は、持続的な発展を目指す水素社会を実現する基盤システムとして、多方面で研究が進められている。
【0005】
しかしながら、燃料となる水素は爆発を伴う可燃性ガスであり、その取扱には十分な安全対策が必要とされる。このため漏洩する微量水素を安全に検知する安価なセンサーの開発が、水素社会を実現する上での最重要課題の一つとなっている。これまで実用化された水素センサーは、水素吸着による半導体表面の電気抵抗変化を検出に用いていたが、爆発の着火源となりうる電源回路を伴うため安全性に問題があった。
【0006】
また、既存の方法では、待機時のエネルギー消費が大きい。さらに、既存の方法では、水素検出素子の劣化が早いと共に特性が不安定になり易かったりするため、信頼性が十分でない。
【0007】
クロミック反応を利用すると、常温で水素ガスを検知することができる(特許文献1~6参照)。
【0008】
特許文献1には、爆発の着火源となりうる電源回路を必要しない水素検知材料として、水素ガスに曝すことにより着色し、目視で色変化を確認できる酸化パラジウム水化物で被覆した酸化チタンから成る水素ガス検知用貼着テープが提案されている。
【0009】
また、水素ガスに曝すことにより着色する酸化タングステン微粒子を主成分とする水素ガス検知用塗膜顔料を用いた水素ガス検知テープ(特許文献2)、さらに高感度に水素ガスを検知する方法としてレーザー、発光ダイオード(LED)光源とフォトダイオードなど光検出素子を利用して、水素ガスにより着色する三酸化タングステン膜の光の透過率を測定する光検知式水素センサー(特許文献3)が提案されている。
【0010】
また、クロミック材料は、雰囲気ガスの制御を行うことにより、調光窓等の調光部材としても利用することができる。
一般に、建物において、窓は、光・熱が出入りする割合が大きい場所になっている。例えば、冬の暖房時に、窓から光・熱が流出する割合は、建物から流出する熱全体の5割程度であり、夏の冷房時に、窓から光・熱が流入する割合は、建物に流入する熱全体の7割程度である。したがって、窓における光・熱の出入りを適切に制御することにより、膨大な省エネルギー効果を得ることができる(特許文献4、5参照)。
【0011】
特許文献4には、クロミック反応を示す水素吸蔵層と触媒層とを備える水素吸蔵体をガスクロミック型調光素子、水素感知素子及び水素センサーに用いることが記載され、水素吸蔵層としてプルシアンブルー型錯体が記載されている(段落[0033])。
【0012】
特許文献5には、ガスクロミック特性を有するプルシアンブルー型金属錯体と、前記金属錯体の酸化還元反応を促進する触媒ナノ粒子とを含む調光層を備えた調光素子について記載されている(請求項1)。
【0013】
特許文献6には、金属シアノ錯体と触媒ナノ粒子とを含むガスクロミック特性を有する水素検知層に60分から90分のUVオゾン処理や120分の熱処理など前処理を施して水及び水蒸気が多い環境中の耐候性に優れる水素検知素子を提供することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平8-253742号公報
【特許文献2】特開2005-345338公報
【特許文献3】特開昭60-39536号公報
【特許文献4】国際公開第2018/055946号
【特許文献5】国際公開第2018/159589号
【特許文献6】特願2020-215043号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1に記載の水素ガス検知用貼着テープは、屋外などの紫外線下では、酸化チタンの光触媒効果のため水素ガスの検知感度が劣化するという問題がある。
特許文献2、3に記載の酸化タングステンをクロミック材料とする水素センサーは、水素によって光学特性が変化する酸化タングステン膜を形成するために、酸化タングステンに酸素欠損を導入するなど微妙な組成制御、非晶質化などの結晶構造制御が必要であり、水素ガスに対して素早く光学特性が変化する酸化タングステンを再現性良く形成することは容易ではない。また、酸化タングステンは、水が存在する環境に対する耐候性が低い。
特許文献4、5に記載のプルシアンブルー型金属錯体をクロミック材料とする水素検知素子は、水分が存在している環境で使用すると、水に簡単に溶けてしまうため、耐候性が十分でないという問題がある。
【0016】
耐候性を改善する試みとして、特許文献4には、触媒層の水素吸蔵層とは反対側に水素透過性及び水に対する非透過性を有する保護層を設けることが記載されている(請求項5、段落[0047]、[0048])。しかし、水素イオンは、水相を介する透過性が大きいから、水に対する非透過性と水素透過性を両立することは難しく、水素検知が迅速・正確に行われないおそれがある。
【0017】
また、特許文献6に記載の水素検知素子は、UVオゾン処理や熱処理などの前処理を施して水素ガス反応性を高めている。しかし、前処理に時間とエネルギーコストがかかることが課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、前記課題を解決するために、以下の手段を採用するものである。
[1]金属シアノ錯体と触媒ナノ粒子とを含むガスクロミック特性を有する水素検知層を備えた水素検知素子であって、
前記水素検知層が親水性の水酸基と疎水性のアルキル基を有し、それらの官能基のFTIRの強度比R(親水性の水酸基/アルキル基)は2以上15以下であり、かつ、非水溶性である、水素検知素子。
【0019】
[2]前記金属シアノ錯体は、還元電位が-0.38[VvsAg/AgNO]以上であり、酸化電位が+0.46[VvsAg/AgNO]以下である、前記[1]の水素検知素子。
【0020】
[3]前記金属シアノ錯体は、還元電位が-0.38[VvsAg/AgNO]以上であり、酸化電位が+0.46[VvsAg/AgNO]以上、+2.14[VvsAg/AgNO]以下である、前記[1]の水素検知素子。
【0021】
[4]前記触媒ナノ粒子は、パラジウム、パラジウム合金、白金、及び白金合金からなる群より選択される一種以上を含む、前記[1]の水素検知素子。
【0022】
[5]前記触媒ナノ粒子の平均粒径が1nm以上100nm以下である、前記[1]の水素検知素子。
【0023】
[6]前記水素検知層は、膜厚が10nm以上2μm以下である前記[1]の水素検知素子。
【0024】
[7]前記水素検知層は、前記触媒ナノ粒子が前記金属シアノ錯体中に分散されてなる、前記[1]の水素検知素子。
【0025】
[8]前記[1]の水素検知素子の製造方法であって、
金属シアノ錯体をアルキル基を有する化合物で修飾して、疎水化すること、
疎水化された金属シアノ錯体を水酸基を有する化合物で処理して、部分的に親水性を付与すること、
触媒ナノ粒子をアルキル基を有する化合物で修飾して、疎水化すること、
前記の疎水化され親水性を付与された金属シアノ錯体と、前記の疎水化された触媒ナノ粒子とを用いて水素検知層とすること、を含む、水素検知素子の製造方法。
【0026】
[9]前記[1]の水素検知素子を用いた水素センサーであって、前記水素検知層が基材上に形成されている、水素センサー。
【0027】
[10]前記基材は、ガラス基材、金属基材、セラミック基材、又はプラスチック基材である、前記[9]の水素センサー。
【0028】
[11]前記[1]の水素検知素子を用いた調光部材であって、前記水素検知層が透明基材上に形成されている、調光部材。
【0029】
[12]前記[11]の調光部材と、
前記調光部材の前記水素検知層側に対向して配置された他の透明基材と、
前記調光部材と前記他の透明基材との間隙の雰囲気を、水素又は水素を含むガスと、酸素、オゾン又は酸素、オゾンの一以上を含む酸化性ガスとを切り替えて給排気することによって制御する雰囲気制御手段と、を備えた、調光窓。
【発明の効果】
【0030】
本発明の一態様によれば、水及び水蒸気が多い環境中にあっても、耐候性を有し、正確な水素検知を迅速に行うことができる水素検知素子を提供することができる。
また、本発明の他の態様によれば、前記水素検知素子を用いて、正確な水素検知を迅速に行うことができる水素センサーを提供することができる。
本発明のさらに他の態様によれば、前記水素検知素子を用いて迅速な調光を行うことができる調光部材、及び前記調光部材を備えた調光窓を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本実施形態に係る水素検知素子(水素センサー)の一例を示す図
図2】実施例1に係る水素検知層のFT-IRスペクトル
図3】比較例1に係る水素検知層のFT-IRスペクトル
図4】本実施形態に係る調光窓の一例を示す図
図5】光透過率を測定する光学装置を示す概略図
図6】実施例1に係る水素検知素子の水素導入による光透過率の変化を示す図
図7】実施例1に係る水素検知素子のサイクリックボルタンメトリーを示す図
図8】実施例2に係る水素検知素子の水素導入による光透過率の変化を示す図
図9】実施例3に係る水素検知素子の水素導入による光透過率の変化を示す図
図10】実施例4に係る水素検知素子の水素導入による光透過率の変化を示す図
図11】比較例1に係る水素検知素子の水素導入による光透過率の変化を示す図
図12】比較例2に係る水素検知素子の水素導入による光透過率の変化を示す図
図13】比較例4に係る水素検知素子の水素導入による光透過率の変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)を説明するが、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。また、本明細書において、数値範囲を「~」を用いて表す場合は、特記した場合を除き、「~」の両端の数値を含む。
【0033】
[水素検知素子]
本実施形態に係る水素検知素子は、金属シアノ錯体と触媒ナノ粒子とを含むガスクロミック特性を有する水素検知層を備えており、前記水素検知層は、親水性の水酸基と疎水性のアルキル基を有し、それらの官能基のFT-IRスペクトルにおけるピーク強度比R(親水性の水酸基/アルキル基)が2以上15以下であり、かつ、非水溶性であることを特徴とする。
【0034】
本実施形態に係る水素検知素子130は、図1に示すように、金属シアノ錯体10aと触媒ナノ粒子10bを混在させた水素検知層10を基材120上に積層して作製することができる。
前記水素検知層10は、雰囲気ガスとの酸化還元反応により、可逆的に光透過率が変化する、即ち、無色(透明)状態と着色状態の間で、可逆的に変化するガスクロミック特性を有する。ガスクロミック特性については、後述する。
水素検知層10の膜厚は、10nm以上2μm以下であると好ましく、50nm以上1μm以下であるとより好ましい。水素検知層10の膜厚が10nm以上2μm以下であると、水素検知層10の色の変化を視認しやすくなる。
【0035】
水素検知層10は、親水性の水酸基と疎水性のアルキル基とを、FT-IRスペクトルのピーク強度比R(親水性の水酸基/アルキル基)で2以上15以下と所定の範囲で有することにより、非水溶性であるとともに、適度な親水性を有する。したがって、水分が多いところでも、金属シアノ錯体が酸化、分解を被ってガスクロミック特性を消失することなく、水素検知能を発揮することができ、かつ、水相に含有される水素を迅速に検知することができる。
なお、本実施形態において、非水溶性とは、常温、常圧の環境下で、水素検知層を水中に5分間浸漬した後、水に不溶であることを目視で確認できることをいう。
以下、本実施形態に係る各要素について詳述する。
【0036】
[金属シアノ錯体]
本実施形態に係る金属シアノ錯体は、金属原子M及び金属原子Mの間をシアノ基(CN)が架橋してなる結晶である。本明細書において、金属シアノ錯体には、プルシアンブルー及びプルシアンブルーと同様の構造を有する類似物が含まれる。
【0037】
使用する金属シアノ錯体としては、基本の組成式が、
[M(CN)y・zHO…(1)
(x:0~3、y:0.1~1.5、z:0~30)
として表されるものであればよい。式(1)中、Aは陽イオンであり、M、Mはそれぞれ金属原子である。上式では、シアノ基(CN)の一部がヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、水等で置換されていてもよい。
【0038】
式(1)中、金属原子Mは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属である。金属原子Mとしては鉄、コバルト、ニッケル、バナジウム、銅、マンガン、又は亜鉛が好ましく、鉄、銅、又はニッケルがより好ましい。金属原子Mに二種の金属の組み合わせを利用する場合には、鉄とニッケルとの組み合わせ、鉄と銅との組み合わせ、又はニッケルと銅との組み合わせが好ましく、鉄とニッケルとの組み合わせがより好ましい。
【0039】
式(1)中、金属原子Mは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属原子である。中でも金属原子Mとしては鉄、クロム、若しくはコバルトが好ましく、鉄が特に好ましい。金属原子Mについては、鉄とクロムとの組み合わせ、鉄とコバルトとの組み合わせ、又はクロムとコバルトとの組み合わせが好ましく、鉄とクロムとの組み合わせがより好ましい。
【0040】
式(1)中、陽イオンAは必ずしも含有する必要はなく、含有している場合は、カリウム、ナトリウム、セシウム、ルビジウム、水素、アンモニアなどが挙げられるが、それに制限されるものではない。また、陰イオンなど他の材料を含有していてもよい。また、水(HO)も必ずしも含有する必要はない。また、半分以上がこの組成式で表される構造を保っていれば、別の錯体等と混合していてもよい。例えば、光学応答性、触媒活性、分散性、基材への吸着性等の向上のために金属イオン、有機分子、別の金属錯体等を吸着させる場合もあるが、このような場合でも、色変化する部分の主たる構造が上記組成式であればよい。
【0041】
式(1)中、xは0~3の数であり、0~1の数であることが好ましい。yは0.3~1.5の数であり、0.5~1.0の数であることが好ましい。zは0~30の数であり、5~15の数であることが好ましい。
【0042】
上述のように金属シアノ錯体は、金属原子M及び金属原子Mの間をシアノ基(CN)が架橋してなる結晶であるが、この結晶の周囲には、金属原子Mの陽イオン及び/又は金属原子Mを中心金属とする金属シアノ錯体陰イオンを結合させたものが配置されていてもよい。金属原子Mは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属原子であってよい。また、金属原子Mは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属原子であってよい。
【0043】
金属シアノ錯体の粒径としては、溶媒に均一に分散するために平均粒径500nm以下が好ましく、さらには平均粒径200nm以下が好ましい。平均粒径の下限は特にないが、製法上3nm以上であることが実際的である。なお、本明細書における平均粒径は、動的光散乱法(光子相関法)によって求められた粒度分布の平均粒径である。
【0044】
[触媒ナノ粒子]
本実施形態に係る触媒ナノ粒子は、前記金属シアノ錯体の酸化還元反応の触媒として機能する材料で構成されていれば、特に限定されず、パラジウム、パラジウム合金、白金、白金合金等が挙げられる。また、二種以上併用してもよい。
【0045】
触媒ナノ粒子の粒径をナノサイズとすることにより、単位体積当たりの表面積が増加することから、例えばミクロンオーダーの粒子と比較して触媒能を向上させることができる。触媒ナノ粒子の平均粒径は、1nm以上100nm以下であることが好ましく、1nm以上30nm以下であるとより好ましい。
【0046】
本実施形態に係る触媒ナノ粒子は、有機溶媒分散性を高めると共に、水の影響を避け、触媒粒子の粒径の増大を抑制するために疎水化されることが好ましい。疎水化は、アルキル基と、アミノ基及び/又はチオール基を有する化合物による保護層を触媒ナノ粒子の表面に形成することにより行うことが好ましい。以下、疎水化された触媒ナノ粒子を「疎水化触媒ナノ粒子」という。
【0047】
アルキル基と、アミノ基及び/又はチオール基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(2)
-NH …(2)
[式中、Rは炭素数2~20のアルキル基を示す。]
で表されるアミンを挙げることができ、アミン基の具体例としては下記式(3)で表されるドデシルアミンを挙げることができる。
【0048】
【化1】
【0049】
[FT-IRスペクトルのピーク強度比R]
本実施形態における水素検知層におけるFT-IRスペクトルのピーク強度比R(親水性の水酸基/アルキル基)は、親水性と疎水性の程度を評価する指標であり、強度比Rが2以上15以下であることにより、金属シアノ錯体のガスクロミック特性を損なうことなく、かつ水相に含まれる水素を迅速に検知することができる。
強度比Rが2以上15以下である水素検知層は、金属シアノ錯体にアルキル基を有する修飾分子を吸着させて疎水化した後、疎水化した金属シアノ錯体に水酸基を有する化合物を吸着させて親水性を付与することで得ることができる。以下、アルキル基により疎水化された金属シアノ錯体を「疎水化金属シアノ錯体」といい、疎水化した後に部分的に親水性を付与された金属シアノ錯体を「親水化された疎水化金属シアノ錯体」という。
【0050】
前記疎水化のための修飾分子は、有機溶媒分散性を向上させるために、アミノ基とアルキル基の双方を有するアミン化合物であることが好ましい。前記アルキル基の炭素数は、3~100であることが好ましく、3~30であることがより好ましく、3~18であることがさらに好ましい。上記のアミン化合物は、フェロシアン化物イオン又はフェリシアン化物イオンを含む金属シアノ錯体と組み合わされることが好ましい。アミン化合物は、具体的には、オレイルアミン、ステアリルアミン、プロピルアミン、ヘキシルアミン等が好ましく、特にオレイルアミン、ヘキシルアミン、プロピルアミンが好ましい。フェロシアン化物イオン又はフェリシアン化物イオンと組み合わせる場合は、特にオレイルアミン、又はプロピルアミンが好ましい。アミン化合物の濃度は金属シアノ錯体に対して0.5当量(モル)から3当量までが好ましい。
【0051】
前記水酸基を有する化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールが好ましく、取り扱いやすさから、特にメタノール又はエタノールが好ましい。
【0052】
本実施形態において、FT-IRスペクトルの強度は、FT-IRフーリエ変換近赤外/中赤外/遠赤外分光分析装置を用いて吸収強度モードで測定し、水素検知層におけるFT-IRスペクトルのピーク強度比Rは、親水性の水酸基に起因する吸収ピークの一つとアルキルアミンのアルキル基に起因する吸収ピークの一つを観測し、それらの強度比R(水酸基/アルキル基)で求めることができる。
一例として、後述の実施例1、及び比較例1に係る水素検知層のFT-IRスペクトルを図2及び図3に示す。親水基に起因する吸収ピークは、エタノールの水酸基を示す1043cm-1であり、アルキル基に起因する吸収ピークは、オレイルアミンのアルキル基を示す1225cm-1である。
【0053】
[水素検知素子の作製方法]
本実施形態に係る水素検知素子は、部分的に親水化された疎水化金属シアノ錯体を含む分散液と、疎水化触媒ナノ粒子とを含む分散液を調製し、これらを混合した混合溶液を湿式塗布法によって、水素検知層を基材上に製膜することにより作製することができる。
前記分散液の調製のために用いられる溶媒としては、有機溶剤であれば特に限定されないが、ヘキサン、ベンゼン、ジエチルエーテル、ブタノール、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン、無極性有機溶剤等が挙げられる。中でも、トルエンが好ましい。
【0054】
(親水化された疎水化金属シアノ錯体の作製)
疎水化金属シアノ錯体の親水化は、疎水化金属シアノ錯体の分散液に、水酸基の供給源である化合物を混合することによって行うことができる。好ましい水酸基供給源はメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールであり、取り扱いやすさから、エタノール又はメタノールがより好ましい。
具体的には、疎水化金属シアノ錯体粒子の分散液に、大量の水酸基供給源である化合物を混合し、攪拌した後、遠心分離で得た沈殿を、再び有機溶媒に溶解することにより行うことができる。疎水化金属シアノ錯体粒子には、微小な結晶欠陥が多数存在するため、大量の水酸基供給源である化合物と混合、攪拌すると、多数の結晶欠陥中に水酸基を有する化合物が吸着されて、疎水化金属シアノ錯体のプロトン伝導性が向上し、水素イオンの浸透性を増加させることができる。また、親水化処理により、疎水化金属シアノ錯体の粒子間に存在している余分な疎水基を除去することができる。
【0055】
親水化された疎水化金属シアノ錯体粒子の分散液における濃度は特に限定されないが、後述する良好な塗布及び製膜性を考慮すると、塗布法によって適当な濃度に調整する必要がある。例えば、スピンコート法によって塗布を行う場合には、1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、スプレー法を利用する場合には、0.1質量%以上15質量%以下が好ましい。
【0056】
(疎水化触媒ナノ粒子の作製)
疎水化触媒ナノ粒子は、金属シアノ錯体の酸化還元反応を触媒する金属を含む化合物、保護層を構成するアミン化合物、及び還元剤を有機溶媒中で反応させることにより、触媒金属を含む疎水化触媒ナノ粒子を合成することができる。
具体的には、室温の反応槽中に、主成分としての白金を含む金属化合物のトルエン有機溶液、保護層を構成するドデシルアミンのトルエン溶液、及び水素化ホウ素ナトリウム還元剤(NaBH)を反応させることにより、白金を含む疎水化触媒ナノ粒子を合成することができる。
保護層を形成するアミン化合物の濃度は、触媒金属に対してモル量で10倍から30倍が好ましい。
疎水化触媒ナノ粒子は、親水化された疎水化金属シアノ錯体と同じ有機溶媒に分散されることが好ましい。
【0057】
本実施形態においては、前記の親水化された疎水化金属シアノ錯体の分散液と、前記の疎水化触媒ナノ粒子の分散液とを混合し、基材上に湿式塗布することにより水素検知層を製膜する。
湿式塗布法としては、特に限定されないが、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ドロップコート法、ロール・ツー・ロール法等が挙げられる。湿式塗布法を採用することにより、表面積が大きい水素検知層10を高速で形成することができる。また、高価な真空装置等を用いないため、従来の無機材料や金属を用いる場合に比べて、非常に低コストで、水素検知素子130を製造することが可能となる。
【0058】
[基材]
図1に示す基材120を構成する材料としては、特に限定されない。ガラス基材、金属基材、セラミック基材、プラスチック基材等が挙げられる。
ガラス基材としては、例えば、ソーダガラス、石英、サファイア、ニオブ酸リチウム等の酸化物等が挙げられる。ガラス基材の代わりに、プラスチック基材等の透明基材を用いてもよい。
【0059】
金属基材としては、特に限定されず、例えば、アルミニウム、タンタル、ニッケル、銅、チタン、ニオブおよび鉄等の金属、ならびにステンレス、ジュラルミン等の合金が挙げられる。セラミック基材としては、特に限定されず、例えば、誘電体セラミック材料、フェライト材料、半導体セラミック材料、圧電セラミック材料であってよい。例えば、BaTiO、CaTiO、SrTiO、CaZrO、SrFeO、Ni-Zn系フェライト、Mn-Zn系フェライト、Ni-Zn-Cu系フェライト、Mn-Zn-Cu系フェライト、Mn-Zn-Ni系フェライト、スピネル系セラミック、チタン酸ジルコン酸鉛系セラミック等が挙げられる。セラミック基材は、所望する製品の特性に応じて、上記セラミック材料を主成分として、例えば、Mn化合物、Mg化合物、Si化合物、Fe化合物、Cr化合物、Co化合物、Ni化合物、希土類化合物等の副成分をさらに含んでいてもよい。プラスチック基材を構成する材料としては、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル樹脂等が挙げられる。プラスチック基材として、セロハンテープ等を用いてもよい。基材の形状としては、特に限定されないが、板状、シート状等が挙げられる。
【0060】
[ガスクロミック特性]
本実施形態に係るガスクロミック特性は、酸化状態にある場合には無色(透明)であり、還元状態にある場合には着色されるものであってよい。また、還元状態にある場合に無色となり、酸化状態にある場合に着色されるものであってもよい。本実施形態においては、金属シアノ錯体が、波長400~870nmの範囲で光の透過率が変化し、無色(透明)状態と着色状態との間で変化し得るので、例えば、波長700nmの光の透過率を測定することにより、無色(透明)状態と着色状態とを評価することができる。一般的には光の透過率は0%~100%であり、本実施形態では、透過率60%以上は透明状態、60%未満は着色状態と定義する。
【0061】
金属シアノ錯体に色変化を起こさせる雰囲気ガスは、水素、酸素、オゾン等を含むガスとすることができる。雰囲気ガスとしては、少なくとも2つのガスの組合せ、すなわち金属シアノ錯体の還元を促すガスと、金属シアノ錯体の酸化を促すガスとの組合せを使用することができる。例えば、還元ガスとして水素を含むガスと、酸化性ガスとして酸素を含むガスとを組み合わせて使用することができる。また、還元ガスとして水素を含むガスと、酸化性ガスとしてオゾンを含むガスとの組合せを使用することができる。上記酸化性ガスとしては、酸素及びオゾンを含むガスを使用することもでき、また空気を使用することもできる。
【0062】
具体的には、酸化性ガスを水素を含むガスに切り替えると、水素検知層10の金属シアノ錯体としてプルシアンブルーを用いた場合には、青色から無色に変化する。また、金属シアノ錯体としてニッケルと鉄を含む錯体を用いた場合には黄色から無色に変化し、銅と鉄を含む錯体を用いた場合には茶色から無色に変化する。
【0063】
本実施形態においては、金属シアノ錯体10aの還元電位が-0.38[VvsAg/AgNO]以上に存在し、酸化電位が+2.14[VvsAg/AgNO]以下に存在していると好ましい。これにより、後述の特定の雰囲気ガスに対するガスクロミック特性を有することができる。さらに、酸化電位が+0.46[VvsAg/AgNO]以下に存在している場合には、後述のように、酸化力がより低いガスを雰囲気ガスの酸化性ガスとして用いることができる。なお、上記電位[VvsAg/AgNO]は、有機溶媒用の銀-硝酸銀電極を基準にして測定された標準電位である。
金属シアノ錯体10aの電気化学的特性は、所与の金属シアノ錯体の還元ピーク電位及び酸化ピーク電位をサイクリックボルタンメトリー(CV)により測定することができる。
【0064】
還元電位が-0.38[VvsAg/AgNO]以上である金属シアノ錯体10aを備えた水素検知層10を、水素を含む雰囲気に曝すと、水素検知層10の中に存在している触媒ナノ粒子10b(図1)の触媒作用により、金属シアノ錯体10a又は金属シアノ錯体層20aが還元されて、波長が400~870nmの範囲で光の透過率が増えて、金属シアノ錯体10a又は金属シアノ錯体層20aの色が変化する。
【0065】
このとき、水素を含む雰囲気と、水素検知層10とにより、以下の反応が起こる。すなわち、金属シアノ錯体10a又は金属シアノ錯体層20aが、その中や表面に付着している触媒ナノ粒子10b又は触媒ナノ粒子層20bの触媒作用によって、以下の式(4)のように水素と反応する。
【0066】
→2H+2e(E=-0.38[VvsAg/AgNO])…(4)
ここで、Eは、酸化還元電位である。水素を含む雰囲気は、-0.38[VvsAg/AgNO]の還元能力を有するといえる。よって、金属シアノ錯体10aの還元電位が-0.38[VvsAg/AgNO]以上であれば、水素と良好に反応することができる。よって、還元ガスとして、水素を含むガスを用いることで、水素検知層10に着色状態から透明になる色変化を生じさせることができる。
【0067】
一方、水素検知層10を、空気等の酸素を含む雰囲気に曝すと、酸素と水素検知層10とにより、以下の式(5)反応が起こる。
+2HO+4e→4OH(E=+0.46[VvsAg/AgNO])…(5)
すなわち、酸素は、+0.46[VvsAg/AgCl]の酸化能力を有するといえる。そのため、金属シアノ錯体の酸化電位が+0.46[VvsAg/AgCl]以下であれば、酸素と良好に反応することができる。よって、酸化性ガスとして酸素を含むガスを用いることで、水素検知層10に透明状態から着色状態になる色変化を生じさせることができる。
【0068】
また、水素検知層10を、オゾンを含む雰囲気に曝すと、オゾンと水素検知層10とにより、以下の式(6)の反応が起こる。
+2H+2e=O+HO (E=+2.14[VvsAg/AgNO])…(6)
すなわち、オゾンは、+2.14[VvsAg/AgNO]という酸素より強い酸化能力を有するといえる。そのため、金属シアノ錯体の酸化電位が+0.46[VvsAg/AgNO]以上であっても、+2.14[VvsAg/AgNO]以下であれば、オゾンと良好に反応することができる。よって、酸化性ガスとして、オゾンを含むガスを用いることで、水素検知層10に透明状態から着色状態になる色変化を生じさせることができる。
【0069】
[水素センサー]
本実施形態に係る水素検知素子130は、図1に示す水素検知素子130の構成をそのまま採用し、水素センサーとして使用することができる。この水素センサーは、電子式水素検知センサーと異なり、電子機器や電流を外部から導入する必要がない。そのため、電子式水素検知センサーと比較し、大きな構造の自由度が生じる。なお、酸化還元を誘起するガスが適切に触媒に到達し、触媒と金属シアノ錯体とがある程度接近して設置されていれば、本実施形態は図1に示す構成に限定されない。例えば、金属シアノ錯体を不織布などに担持し、さらに触媒ナノ粒子をその中に担持した構造等も挙げられる。また、図1の例では基材120の形状は平らな板状であるが、基材は別の形状、例えば球状であってもよい。
【0070】
[調光部材]
本実施形態に係る水素検知素子130は、水素検知層10が透明なガラス等の基材120上に形成される場合、調光部材として用いることができる。
前記調光部材は、図4に例示する調光窓70として用いることができる。調光窓70は、前記水素検知素子(以下、「調光部材」ともいう。)130と、前記水素検知層(以下、「調光層」ともいう。)10側に対向して配置された他の透明基材60と、前記透明基材間の開口部を封止するシール部材40により形成されるガス充填室Sを備える。
【0071】
ガス充填室Sには、予めアルゴンガスを封入しておくことが望ましい。雰囲気制御器50により、水素と、酸素又は空気を切り替えて給排気することができる。例えば、雰囲気制御器50は、水を電気分解して水素又は酸素をガス充填室Sに給気し、真空ポンプを用いて、ガス充填室Sから水素又は酸素を排気することができる。
【0072】
水素又は水素を含む気体がガス充填室Sに給気されると、調光層10が還元されて、色が変化する。また、酸素又は、空気等の酸素を含む気体がガス充填室Sに給気されると、調光層10が酸化されて、元の状態になる。
【0073】
したがって、ガス充填室Sの雰囲気を雰囲気制御器50により制御することにより、調光層10は、還元状態と酸化状態との間で可逆的に光の透過性を制御することができる。また、雰囲気制御器50による給排気を中断すると、還元状態又は酸化状態を保つことができる。これにより、ガスクロミック方式で調光することが可能な調光窓70が得られる。
【0074】
現在、新築の家では、複層ガラスを使うことが主流になりつつあるから、複層ガラスを構成する一組の隣り合う2枚のガラスの間の中空部に面する少なくとも一方のガラス面に金属シアノ錯体を用いた調光層を備えることで、内部の空間をスイッチング用のガス充填室Sとして利用することができる。
【実施例0075】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
【0076】
<調製1:金属シアノ錯体粒子の疎水化>
フェロシアン化ナトリウム・10水和物14.5gを水60mLに溶解した水溶液に、硝酸鉄・9水和物16.2gを水に溶解した水溶液30mLを混合し、5分間攪拌した。析出した青色の沈殿物を遠心分離し、これを水で3回、続いてメタノールで1回洗浄し、減圧下で乾燥した。収量は11.0gであり、収率はFe[Fe(CN)・15HOとして、97.4%であった。
得られた金属シアノ錯体の凝集体5.0gを水10mLとトルエン75mLに懸濁させた。この懸濁液(A0)に、オレイルアミン4.0mLを加え、一週間攪拌したところ、真青な透明溶液ないし分散液へと変化した。その後、硫酸ナトリウム10.0gを加え、三日間攪拌して水分を除去し、遠心分離で上層部液体と下層部沈殿物に分離し、上層部から疎水化金属シアノ錯体粒子のトルエン分散液(A1)を得た。
【0077】
<調製2―1:疎水化金属シアノ錯体のエタノールによる親水化>
調製1で得た疎水化金属シアノ錯体粒子のトルエン分散液(A1)10mLに30mLのエタノールを混合し、高速振動機(アズワン、ASCM-1)で10分間攪拌した後、8000RPM、10分間の遠心分離により沈殿を得た。この沈殿を再び10mLのトルエンに分散し、エタノールによる同様の親水化処理(エタノールの混合、攪拌、沈殿の取得)を3回から6回繰り返して、親水化された疎水化金属シアノ錯体のトルエン分散液(A2)を得た。
<調製2―2:疎水化金属シアノ錯体のメタノールによる親水化>
調製1で得た疎水化金属シアノ錯体粒子のトルエン分散液(A1)10mLに30mLのメタノールを混合し、高速振動機で10分間攪拌した後、8000RPM、10分間の遠心分離により沈殿を得た。この沈殿を再び10mLのトルエンに分散し、メタノールによる同様の親水化処理を3回繰り返して、親水化された疎水化金属シアノ錯体のトルエン分散液(A3)を得た。
【0078】
<調製3:触媒ナノ粒子の疎水化>
塩化白金(IV)(HPtCl)104mg、水10mL、テトラ(デシル)アンモニウムブロミド(C0H84BrN)330mg、及びトルエン30mLを撹拌しながら混合した後、室温で2時間反応させたところ、白金成分が水相から有機相に転移した。さらに、ドデシルアミン(C1227N)690mgを入れて撹拌したところ、溶液は白色になった。還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)125mgを入れて撹拌し、ナノ白金粒子のトルエン分散液を得た。このとき反応前の溶液は、薄い黄色を呈していたが、疎水化ナノ白金粒子が生成すると、液は濃い茶色に変化した。還元反応式は以下の式(7)のとおりである。
2Pt4+ + BH - + 4HO → 2Pt + B(OH) +8H (7)
【0079】
得られた分散液を分液ロートで水400mLと混合し、上層のトルエンを収集した。上層トルエンとエタノール400mLを混合し、-18℃の冷凍庫に24時間保存し、これにより、疎水化ナノ白金粒子の沈殿を得た。この疎水化ナノ白金粒子をトルエンに分散させ、0.5wt%の分散液(B1)を得た。粒径分布分析装置(Photal ELSZ-1000、大塚電子社製)を用いて、動的光散乱法手法によって、ナノ白金粒子の平均粒径を測定したところ、2.6nmであった。
【0080】
<調製4:親水化された疎水化金属シアノ錯体粒子と疎水化触媒ナノ粒子との混合液の調製>
調製1又は調製2で調製した親水化された疎水化金属シアノ錯体の分散液(A2)、疎水化金属シアノ錯体粒子の分散液(A1)、又は金属シアノ錯体粒子の分散液(A0)6.0mLと、調製例3の疎水化触媒ナノ白金粒子の分散液(B1)3.0mLとを2時間撹拌し、それぞれ混合液(C2)、(C1)又は(C0)を得た。
【0081】
<FT-IRスペクトルの強度比R(水酸基/アルキル基)の測定>
シリカガラス基材上に形成された水素検知層のFT-IRスペクトルを、FT-IRフーリエ変換近赤外/中赤外/遠赤外分光分析装置(パーキンエルマージャパン社製、Frontier(登録商標))を用いて吸収強度モードで測定し、強度比Rは、エタノール及びメタノールの水酸基に起因する吸収ピークの一つ(1043cm-1)とオレイルアミンのアルキル基に起因する吸収ピークの一つ(1225cm-1)を観測し、それらの強度比R(水酸基/アルキル基)で求めた。
【0082】
<光学特性>
水素検知素子の光学特性を、図5に示す光学装置を用いて測定した。
前記光学装置は、図4に示す調光窓70と類似の構成を有し、かつ、ガス充填室Sが光源80と分光光度計90との間に配置されるように構成されている。
雰囲気制御器50における水素の供給は、HORIBA製、モデルOPGU-7200で100%水素の流量:60SCCMで行った。
空気又はオゾンの供給は、マルコー社製SoecV350で、空気の給気は、風量5L/minの条件で、オゾンの給気は、オゾン出力200mg/h、風量5L/minの条件で行った。分光器90としては、USB4000(Ocean optics社製)を用いた。
酸化状態の光透過スペクトル、及び還元状態の光透過スペクトルは、空気又は100%水素を、それぞれ上記の条件でガス充填室Sに室温で5分間給気した後、室温で測定した。
【0083】
<透過率変化時間>
図5に示す光学装置を用い、空気雰囲気であるガス充填室に上記の条件で100%水素を導入開始した時点から、波長700nmにおける透過率変化が最大値の90%に至るまでの所要時間を透過率変化時間として測定した。
【0084】
<耐候性>
1気圧20℃の環境下で、直径8cmのシャーレに深さ1cmの水を充填し、水素検知素子をシャーレの底に沈め、5分経過後、水に溶けるか、不溶であるかを目視により観察した。
水素検知層が水に不溶である場合、耐候性を〇、水に溶ける場合、耐候性を×とした。
【0085】
<実施例1>
調製2-1における混合液(A2)の調製を、エタノールによる親水化処理(エタノールの混合、攪拌、沈殿の取得)を3回繰り返して行い(エタノール中での攪拌処理時間10分×3)、スピンコーターに縦3.0cm、横3.0cm、厚さ1.1mmのシリカガラス基板120を設置し、調製4で得られた混合液(C2)を0.15mL滴下し、500rpmでの回転で10秒、続いて750rpmでの回転で10秒間、スピンコートを行った。これを30分間、約25℃の大気中で静置して、基材120上に水酸基を付与した疎水化金属シアノ錯体粒子10aと疎水化触媒ナノ粒子10bを含む水素検知層10を形成し、実施例1に係る水素検知素子130を作製した。なお、基板上に形成された水素検知層10の膜厚は、約300nmであった。
実施例1に係る水素検知素子130の水素検知層10は、空気中で青色の均一な膜となった。
【0086】
(FT-IR特性)
図2に示すFT-IRスペクトルにおいて、実施例1に係る水素検知素子のエタノールの水酸基に起因するピーク強度は16.87、アルキル基に起因するピーク強度は4.58であり、強度比Rは、16.87/4.58=3.68であった。
【0087】
(透過率変化、耐候性)
また、図6に示すように、水素導入により可視光域の光透過率が上昇し、透明になった。波長700nmにおける水素導入前後での最大透過率変化は、45.6%であり、最大透過率変化の90%に至るに要した反応時間(以下、透過率変化時間ともいう。)は、9.8秒であった。耐候性試験においては、水に不溶であった。
【0088】
(電気化学特性)
実施例1に係る水素検知素子の電気化学特性を測定するために、混合液(C2)を実施例1と同条件で導電ITO膜付きガラス基板の上にスピンコートし、水素検知層が積層された作用電極とした。
この作用電極に対して、Ag/AgNO電極を参照電極とし、白金線を対極とした三極式セルで、0.1Mのカリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(KTFSI)を電解質とし、水溶液中で、サイクリックボルタンメトリー(CV)を実施した。
図7に、上記の実施例1に係る水素検知素子のサイクリックボルタモグラム(掃引速度:10mV/s)を示す。波形が表面吸着波となっており、水素検知層が水溶液中で溶解せず、安定に存在していることが示唆されている。また、酸化ピーク電位が、少なくとも+0.05V周辺[VvsAg/AgNO]、及び-0.16V[VvsAg/AgNO]に存在していることが分かる。一方、還元ピーク電位が、少なくとも-0.05[VvsAg/AgNO]、及び-0.36[VvsAg/AgNO]に存在している。したがって、実施例1に係る水素検知素子に用いる金属シアノ錯体は、少なくとも2つの酸化還元対を有し、還元電位が-0.38[VvsAg/AgNO]以上に存在し、酸化電位が+0.46[VvsAg/AgNO]以下に存在することが分かった。
【0089】
<実施例2>
調製2における混合液(A2)の調製を、エタノールによる親水化処理を5回繰り返して行った以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る水素検知素子を作製した。
実施例2に係る水素検知素子のFT-IRスペクトルにおける強度比Rは、22.69/2.00=11.3であり、図8に示すように、水素導入による透過率の最大透過率変化は、73.3%であり、透過率変化時間は、16.3秒であり、耐候性試験において水に不溶であった。
【0090】
<実施例3>
調製3における混合液(A2)の調製を、エタノールによる親水化処理を4回繰り返して行った以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る水素検知素子を作製した。
実施例3に係る水素検知素子のFT-IRスペクトルにおける強度比Rは、19.14/2.89=6.62であり、図9に示すように、水素導入による透過率の最大透過率変化は、63.2%であり、透過率変化時間は、15.7秒であり、耐候性試験において水に不溶であった。
【0091】
<実施例4>
調製3における混合液(A3)の調製を、メタノールによる親水化処理を3回繰り返して行った以外は実施例1と同様にして、実施例4に係る水素検知素子を作成した。
実施例4に係る水素検知素子のFT-IRスペクトルにおける強度比Rは、17.23/3.72=4.63であり、図10に示すように、水素導入による透過率の最大透過率変化は、48.6%であり、透過率変化時間は、12.5秒であり、耐候性試験において水に不溶であった。
【0092】
<比較例1:エタノール処理なし>
調製1で得られた混合液(A1)と調製3で得られた混合液(B1)を調製4で混合した混合液(C1)を用いて基材上に水素検知層を形成した以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る水素検知素子を作製した。
図3に示すように、FT-IRスペクトルにおける比較例1に係る水素検知層の強度比Rは、12.67/8.75=1.44であった。
図11に示すように、水素導入による波長700nmにおける最大透過率変化は、6.71%であり、透過率変化時間は、360秒であった。また、耐候性試験において水に不溶であった。
【0093】
<比較例2:UVオゾン照射>
比較例1において作製した水素検知素子を、水素検知層が紫外線ランプから5cmのところに対面するようにUVオゾンクリーナー装置(Filgen製UV253V16)内に設置し、酸素を3分間導入した後、184.9nmと253.7nmの二種類の波長のUV照射を同時に30分間行い、比較例2に係る水素検知素子を作製した。
比較例2に係る水素検知素子のFT-IRスペクトルにおける強度比Rは、0.18/0.17=1.05であり、図12に示すように、水素導入による透過率の最大透過率変化は、60.2%であり、耐候性試験において、水に不溶であったが、透過率変化時間は、400秒を超えていた。
【0094】
<比較例3:疎水化処理なし>
調製1における疎水化前の金属シアノ錯体のトルエン分散液(A0)と分散液(B1)を調製4で混合した混合液(C0)を用いて基材上に水素検知層を形成した以外は実施例1と同様にして、比較例3に係る水素検知素子を作製した。
FT-IRスペクトルにおける比較例3に係る水素検知層の強度比Rは、0.14/0.1=1.4であり、水素導入による透過率の最大透過率変化は、70.8%であり、透過率変化時間は、9.5秒と優れたガスクロミック特性を有したが、耐候性試験において水溶性であった。
【0095】
<比較例4:過剰なエタノール処理>
調製2-1における混合液(A2)の調製を、エタノールによる親水化処理を6回繰り返して行った以外は実施例1と同様にして、比較例4に係る水素検知素子を作成した。
比較例4に係る水素検知層のFT-IRスペクトルにおける強度比Rは、28.22/1.55=18.2であった。図13に示すように、水素導入による透過率の最大透過率変化は、44.7%であり、透過率変化時間は、8.3秒と優れたガスクロミック特性を有したが、耐候性試験において水溶性であった。
以下の表1に、実施例及び比較例の各特性を示す。
【0096】
【表1】
【0097】
表1及び図6,8~13に示す結果から、疎水化処理及び親水化処理を行って得た金属シアノ錯体を用いて水素検知素子を作製した実施例1~4の場合、FT-IRスペクトルにおけるピーク強度比R(親水性の水酸基/アルキル基)が2以上15以下の範囲内であって、水素導入後の最大透過率変化が大きく、かつ、透過率変化が迅速におこることが分かった。これは、疎水化金属シアノ錯体の表面が適度な割合で親水化され、水素検知層の表面からの水素イオンの取り込み及び内部への浸透が秒単位で迅速に起こったと推察される。
【0098】
これに対して、親水化処理を行わなかった疎水化金属シアノ錯体を用いて水素検知素子を作製した比較例1の場合、ピーク強度比Rは2を下回り、水素導入による透過率変化が小さく、透過率変化に要する時間も長かった。これは、水素検知層表面からの水素イオンの取り込み及び内部浸透が、疎水基によって阻害されたためと推察される。
比較例2は、比較例1と同じく疎水化金属シアノ錯体に対して親水化処理を行わなかった場合であって、ピーク強度比Rは2を下回った。水素検知層にUVオゾン処理を施したため、水素検知層の表面の水濡れ性が改善し、水素イオンの取り込みが活性化し、最大透過率変化が大きく、ガスクロミック特性が優れるという効果を奏した。しかし、透過率の変化には時間がかかるため、迅速な水素感知には向いていなかった。
【0099】
比較例3は金属シアノ錯体に疎水化も親水化もせずに水素検知素子を作製した公知例であり、水酸基のピーク強度、アルキル基のピーク強度がいずれも小さく、強度比Rも2未満と小さい。最大透過率変化が大きく、透過率変化時間も短いが、金属シアノ錯体自体が水溶性であるから、耐候性に問題がある。
【0100】
比較例4は、水酸基処理が過剰で水酸基の導入及びアルキル基の離脱を実施例より進めた結果、ピーク強度比Rが15を超えたものである。
水素導入後の最大透過率変化が大きく、透過率の変化も迅速に起こっているが、耐候性試験の結果、残っている疎水性の部分が少ないために水に可溶であり、耐候性が求められる水素検知素子に不向きであることが分かった。したがって、強度比Rは、15程度以下である必要があることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上、詳述したように、本発明に係る水素検知素子においては、親水性の水酸基と疎水性のアルキル基を有し、それぞれの官能基が適度な割合で存在するから、ガスクロミック特性による正確な水素検知を迅速に行うことができ、また、水及び水蒸気が多い環境中にあっても、耐候性を有する水素検知素子を提供することができる。
したがって、本発明は、優れたガスクロミック特性を有し、かつ安価な水素検知素子、水素センサー、調光部材、及び調光窓等に利用することができる。
【符号の説明】
【0102】
10a 金属シアノ錯体
10b 触媒ナノ粒子
10 水素検知層(調光層)
120 基材
130 水素検知素子(調光部材)
40 シール部材
50 雰囲気制御器
60 透明基材
70 調光窓
80 光源
90 分光光度計
S ガス充填室
図1
図2
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図10
図11
図12
図13