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特開2023-162559リチウム複合酸化物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162559
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】リチウム複合酸化物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20231101BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231101BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231101BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20231101BHJP
   C01G 53/00 20060101ALN20231101BHJP
【FI】
C01B25/45 H
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/131
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072957
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 大一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(72)【発明者】
【氏名】藪内 直明
(72)【発明者】
【氏名】高田 拡嗣
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB11
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】 サイクル安定性向上の要求を解決することを目的とし、電気化学的特性に優れたリチウムイオン電池用正極活物質を得るためのリチウム複合酸化物及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】 組成式LiMeMn1-z(但し、0<x≦1.3、0<y≦0.1、0<z≦0.2である)で示され、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属元素であり、直方晶系ジグザグ層状構造を母構造とし、単斜晶又は菱面体晶α-NaFeO型層状構造のドメインを有し、粉体X線回折で15.3±1.0°に観測される回折ピーク積分強度(A)と18.2±1.0°に観測される回折ピーク積分強度(B)との強度比(A/B)が0.5以上であり、BET比表面積が3.5~15m/gであるリチウム複合酸化物、並びにその製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式LiMeMn1-z(但し、0<x≦1.3、0<y≦0.1、0<z≦0.2である)で示され、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属元素であり、直方晶系ジグザグ層状構造を母構造とし、単斜晶又は菱面体晶α-NaFeO型層状構造のドメインを有し、粉体X線回折で15.3±1.0°に観測される回折ピーク積分強度(A)と18.2±1.0°に観測される回折ピーク積分強度(B)との強度比(A/B)が0.5以上であり、BET比表面積が3.5~15m/gであるリチウム複合酸化物。
【請求項2】
カーボン対極セルを組んで25℃、2.0―4.4V(vsカーボン極)、電流密度66mA/gで100サイクル充放電試験を行った後のカーボン負極を取り出して酸に溶解させICP法で測定したときのMn析出量が正極活物質中のMn重量に対して1.0wt%以下である請求項1に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項3】
組成式(MeMn1-y(但し、1.3<a/b<1.6であり、0<y≦0.2であり、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属)で示され、金属イオンの平均酸化数が2.6以上3.3以下であるマンガン化合物とリチウム化合物を混合して焼結し、主相がジグザグ層状構造を有するLiMeMn1-yで表されるリチウム複合酸化物を合成し、得られたLiMeMn1-yにリン酸リチウムを添加し、メカニカルミリングを施し、次いで不活性ガス中で熱処理する請求項1又は請求項2に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
組成式(MeMn1-y(但し、1.3<a/b<1.6であり、0<y≦0.2であり、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属)で示され、金属イオンの平均酸化数が2.6以上3.3以下であるマンガン化合物とリチウム化合物を混合して焼結し、主相がジグザグ層状構造を有するLiMeMn1-yで表されるリチウム複合酸化物を合成し、得られたLiMeMn1-yにメカニカルミリングを施し、次いで不活性ガス中で熱処理した後、リン酸リチウムを添加、混合し、次いで不活性ガス中で再度熱処理する請求項1又は請求項2に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
金属組成がMeMn1-y(但し、0<y≦0.2であり、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属である)で示されるマンガン化合物とリチウム化合物との混合物をアルカリ性水溶液中で水熱処理し、得られたLiMeMn1-yで表されるリチウム複合酸化物にリン酸リチウムを添加、混合し、次いで不活性ガス中で熱処理する請求項1又は請求項2に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
金属組成がMeMn1-y(但し、0<y≦0.2であり、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属である)で示されるマンガン化合物とリチウム化合物とリン酸をアルカリ性水溶液中で水熱処理し、次いで不活性ガス中で熱処理する請求項1又は請求項2に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【請求項7】
金属組成がMeMn1-y(但し、0<y≦0.2であり、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属である)で示されるマンガン化合物MeMn1-yOOHを水酸化リチウムと混合、焼成することで得られるLiMeMn1-yで表されるリチウム複合酸化物に対して、リン酸リチウムを添加、混合し、次いで不活性ガス中で熱処理する請求項1又は請求項2に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
金属組成がMeMn1-y(但し、0<y≦0.2であり、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属である)で示されるマンガン化合物MeMn1-yOOHとリン酸リチウムと水酸化リチウムを混合、焼成し、次いで不活性ガス中で熱処理する請求項1又は請求項2に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は請求項2に記載のリチウム複合酸化物を含む電極。
【請求項10】
請求項9に記載の電極を正極に使用したリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム複合酸化物及びその製造方法に関するものであり、より詳しくは、出力特性を向上した異種金属を置換されたリチウム複合酸化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池用正極活物質は一般的にリチウム複合酸化物が使用されている。リチウム複合酸化物、具体的にはコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)等は全世界に流通されているリチウムイオン電池の正極活物質として多く使用されている。このようなリチウム複合酸化物は特性改善(高容量化、高出力化、サイクル安定化)や安全性改善に活発な研究が行われている。
【0003】
これらの目標に適するリチウムイオン電池用正極活物質として、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及び酸素(O)からなるLiNi1-y-zCoMn(NCM)、Li、Ni、Co、アルミニウム(Al)及びOからなるLixNi1-y-zCoAl(NCA)が使用されている。これらの材料は既存リチウム複合酸化物よりCoの使用量を減らして安全性を高めて、より安価な金属を使用し、放電容量もNCMが165mAh/g程度、NCAが200mAh/g程度でLiCoOより高容量を実現した。
【0004】
このようなリチウムイオン電池の性能向上については特に高容量化が注目されており、LiMnOで表され、結晶構造がジグザグ層状構造を母構造とし、α-NaFeO型層状構造のドメインを有するリチウム複合酸化物が高容量材料として公開された(特許文献1参照)。
【0005】
直方晶及び単斜晶のうちの1種以上からなることを特徴とするLiMnOが公開され、放電容量は170mAh/g程度で低容量であったが、特許文献1では、メカニカルミリング後熱処理する工程により結晶構造が変型し、260mAh/gである高い放電容量を持つ正極活物質としてさらに改良された。このようなLiMnOは高容量でありながら安価であるリチウムイオン二次電池用正極活物質を見出したが、出力特性が低い課題があった。
【0006】
出力特性が低いとの課題に鑑みて、マンガン化合物に異種金属元素を置換された金属複合酸化物を製造し、リチウム化合物と混合して焼結し、既存LiMnOより結晶構造を変化させ、出力特性が改善されたリチウム複合酸化物が公開された(特許文献2参照)。しかし、この異種金属置換リチウム複合酸化物はサイクル安定性が低い課題があった。
【0007】
本発明はサイクル安定性が低い課題に鑑みて、リチウム複合酸化物にリン酸リチウムを添加、混合して複合化し、既存の異種金属置換リチウム複合酸化物よりサイクル安定性を改善するリチウム複合酸化物及びその製造方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-153564号公報
【特許文献2】特開2021―183555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
リチウムイオン電池は最近電子機器が小型、軽量化されるに伴って、ますます高容量、高電圧、高出力などの電気化学的特性に優れた電池を開発するための研究が進められている。特に、背景技術に記載されているようにリチウムイオン電池用正極材の実用化に活物質のサイクル安定性向上は必須で要求される。
【0010】
本発明は、サイクル安定性向上の要求を解決することを目的とし、電気化学的特性に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質を得るためのリチウム複合酸化物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0012】
(1)組成式LiMeMn1-z(但し、0<x≦1.3、0<y≦0.1、0<z≦0.2である)で示され、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属元素であり、直方晶系ジグザグ層状構造を母構造とし、単斜晶又は菱面体晶α-NaFeO型層状構造のドメインを有し、粉体X線回折で15.3±1.0°に観測される回折ピーク積分強度(A)と18.2±1.0°に観測される回折ピーク積分強度(B)との強度比(A/B)が0.5以上であり、BET比表面積が3.5~15m/gであるリチウム複合酸化物。
【0013】
(2)カーボン対極セルを組んで25℃、2.0―4.4V(vsカーボン極)、電流密度66mA/gで100サイクル充放電試験を行った後のカーボン負極を取り出して酸に溶解させICP法で測定したときのMn析出量が正極活物質中のMn重量に対して1.0wt%以下である上記(1)に記載のリチウム複合酸化物。
【0014】
(3)組成式(MeMn1-y(但し、1.3<a/b<1.6であり、0<y≦0.2であり、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属)で示され、金属イオンの平均酸化数が2.6以上3.3以下であるマンガン化合物とリチウム化合物を混合して焼結し、主相がジグザグ層状構造を有するLiMeMn1-yで表されるリチウム複合酸化物を合成し、得られたLiMeMn1-yにリン酸リチウムを添加し、メカニカルミリングを施し、次いで不活性ガス中で熱処理する上記(1)又は(2)に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【0015】
(4)組成式(MeMn1-y(但し、1.3<a/b<1.6であり、0<y≦0.2であり、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属)で示され、金属イオンの平均酸化数が2.6以上3.3以下であるマンガン化合物とリチウム化合物を混合して焼結し、主相がジグザグ層状構造を有するLiMeMn1-yで表されるリチウム複合酸化物を合成し、得られたLiMeMn1-yにメカニカルミリングを施し、次いで不活性ガス中で熱処理した後、リン酸リチウムを添加、混合し、次いで不活性ガス中で再度熱処理する上記(1)又は(2)に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【0016】
(5)金属組成がMeMn1-y(但し、0<y≦0.2であり、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属である)で示されるマンガン化合物とリチウム化合物との混合物をアルカリ性水溶液中で水熱処理し、得られたLiMeMn1-yで表されるリチウム複合酸化物にリン酸リチウムを添加、混合し、次いで不活性ガス中で熱処理する上記(1)又は(2)に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【0017】
(6)金属組成がMeMn1-y(但し、0<y≦0.2であり、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属である)で示されるマンガン化合物とリチウム化合物とリン酸をアルカリ性水溶液中で水熱処理する上記(1)又は(2)に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【0018】
(7)金属組成がMeMn1-y(但し、0<y≦0.2であり、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属である)で示されるマンガン化合物MeMn1-yOOHを水酸化リチウムと混合、焼成することで得られるLiMeMn1-yで表されるリチウム複合酸化物に対して、リン酸リチウムを添加、混合し、次いで不活性ガス中で熱処理する上記(1)又は(2)に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【0019】
(8)金属組成がMeMn1-y(但し、0<y≦0.2であり、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属である)で示されるマンガン化合物MeMn1-yOOHとリン酸リチウムと水酸化リチウムを混合、焼成する上記(1)又は(2)に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【0020】
(9)上記(1)又は(2)に記載のリチウム複合酸化物を含む電極。
【0021】
(10)上記(9)に記載の電極を正極に使用したリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0022】
本発明のリチウム複合酸化物を用いた正極活物質はBET比表面積を制御することにより、二次電池に適用することで、高容量および高出力が期待される。また、リンの複合化によりサイクル安定性が向上するという顕著な効果を奏する。
【0023】
このような正極活物質を二次電池に適用することで、高容量及び高出力でありながらサイクル安定性の高いリチウムイオン二次電池を提供できる効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】直方晶系ジグザグ層状構造を示した模式図である。
図2】層状構造(2a)及び岩塩型構造(2b)を示した模式図である。
図3】実施例1~3及び比較例1~2のリチウム複合酸化物のXRDパターンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0026】
本発明のリチウム複合酸化物は、組成式LiMeMn1-z(但し、0<x≦1.3、0<y≦0.1、0<z≦0.2である)で示され、マンガンに異種金属が置換され、かつリンが複合化されたものである。
【0027】
異種金属Meは、Al、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属であり、その内Al、Co、Fe、Mg、Nb、Ni、Ti、及びZnからなる群より選ばれる1種以上の金属であることが好ましい。異種金属の置換量は、特に限定するものではないが、マンガンの20.0モル%以下であることが好ましく、1.0~10.0モル%であることがより好ましい。
【0028】
本発明のリチウム複合酸化物は、直方晶系ジグザグ層状構造を母構造とし、単斜晶又は菱面体晶α-NaFeO型層状構造のドメインを有するものである。直方晶系ジグザグ層状構造を母構造とし、単斜晶又は菱面体晶α-NaFeO型層状構造のドメインを有することで、初期活性充放電サイクルが必要なく、初期サイクルから高容量を発現することが可能であるので、数十サイクル程度充放電を行うことで活性化して高容量を発現する直方晶LiMnOに対して有利である。
【0029】
ここに、直方晶系ジグザグ層状構造とは、空間群(Space group)Pmnmに帰属することをいう。直方晶系ジグザグ層状構造の模式図を図1に示す。また、直方晶系ジグザグ層状構造とは異なる、層状構造及び岩塩型構造の模式図を、それぞれ、図2の(2a)、(2b)に示す。図1及び図2からわかるように、直方晶系ジグザグ層状構造は、α-NaFeO型層状構造における層が上下に交互に規則的に成長し、ジグザグ型の層状となっている結晶構造である。
【0030】
単斜晶又は菱面体晶α-NaFeO型層状構造のドメインとは、空間群C2/m、R-3m又はFm-3mに帰属することをいい、単斜晶又は菱面体晶α-NaFeO型層状構造のドメインであることにより、直方晶と単斜晶又は菱面体晶が積層欠陥で連晶体構造になっているものである。
【0031】
本発明のリチウム複合酸化物は、以下の測定条件での粉体X線回折で15.3±1.0°に観測される回折ピーク積分強度(A)と18.2±1.0°に観測される回折ピーク積分強度(B)との強度比(A/B)が0.5以上であることを特徴とするものである。
【0032】
[測定条件]
・X線源:CuKα線=1.5418Å
・発散スリット:1°
・発散縦制限スリット:10mm
・散乱スリット:解放
・受光スリット:解放
・ステップ幅:0.04°
・スキャンスピード:4°/min
【0033】
当該強度比(A/B)が0.5未満であると、主相が単斜晶又は菱面体晶α-NaFeO型層状構造で、直方晶系ジグザグ層状構造のドメインを有するリチウム複合酸化物となり、サイクル劣化が大きくなる可能性がある。当該強度比(A/B)は、1.0~146.0が好ましく、2.6~33.6がより好ましい。
【0034】
本発明のリチウム複合酸化物のBET比表面積は、特に限定するものではないが、2.0m/g以上が好ましく、2.0~20.0m/gがより好ましい。リチウム複合酸化物のBET比表面積は物理ガス吸着から求めた吸着等温線をBETプロットに変換し、BET等温式を基づいて単分子層のガス吸着量Vmを求め、物理吸着に使用したガスの分子大きさを基に比表面積を計算する、いわゆるBET法により求めることができる。
【0035】
本発明のリチウム複合酸化物は、組成式(MeMn1-y(但し、1.3<a/b<1.6であり、0<y≦0.2であり、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属である)で示され、金属イオンの平均酸化数が2.6以上3.3以下であるマンガン化合物とリチウム化合物を混合して焼結し、主相がジグザグ層状構造を有するLiMeMn1-yで表されるリチウム複合酸化物を合成し、得られたLiMeMn1-yにリン酸リチウムを添加し、メカニカルミリングを施し、次いで不活性ガス中で熱処理することで製造することができる。
【0036】
または、得られた主相がジグザグ層状構造を有するLiMeMn1-yで表されるリチウム複合酸化物にメカニカルミリングを施し、次いで不活性ガス中で熱処理した後、リン酸リチウムを添加、混合し、次いで不活性ガス中で再度熱処理することにより製造することも可能である。
【0037】
製造で使用する金属の原料に特に制限はない。例えば、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、塩化塩、水酸化塩、酸化塩等が例示されるが、これに制限はない。
【0038】
本発明のリチウム複合酸化物の製造において、マンガン化合物は、組成式(MeMn1-y(但し、1.3<a/b<1.6、0<y≦0.2であり、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属である)で示され、金属イオンの平均酸化数が2.6以上3.3以下であり、好ましいMe/Mnモル比になるように置換元素とマンガンの金属塩水溶液を予め調製したものである。例えば、本発明において好ましいMe/Mnモル比に成るように予め調製した硫化物[(Me・Mn)(SO]、水酸化物[(Me・Mn)(OH)]、オキシ水酸化物[(Me・Mn)(OOH)]、酸化物[(Me・Mn)O]などが例示されるが、これらに制限はない。式中、a、b、c、dは原子価を満足する数値である。
【0039】
製造で使用される金属の原料に特に制限はなく、例えば、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、塩化塩、水酸化塩、酸化塩等が例示されるが、これらに制限はない。
【0040】
上記のマンガン化合物は、600~900℃で12~24時間、空気中で焼結することでマンガン酸化物になる。
【0041】
マンガン化合物の金属イオンの平均酸化数が2.6未満の場合は、空気中で焼結することでMn帰属組成(MnMe1-yになり、さらに、3.3を超える場合は、MnO帰属組成MnMe1-yになる。これらのマンガン化合物とリチウム化合物を混合して焼結すると主相がジグザグ層状構造を有するLiMeMn1-yで表されるリチウム複合酸化物は得られるものの、単斜晶又は菱面体晶α-NaFeO型層状構造のドメインを有しない。好ましいMe/Mnモル比になるように置換元素とマンガンの金属塩水溶液を予め調製するとは、仕込み組成通りのMe/Mnモル比でマンガン化合物を製造することをいう。
【0042】
本発明のリチウム複合酸化物の製造において、マンガン化合物と混合するリチウム化合物は特に制限はないが、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、塩化リチウム、ヨウ化リチウム、蓚酸リチウム、硫酸リチウム、酸化リチウム等が例示されるが、これらに制限はない。
【0043】
上記のマンガン化合物とリチウム化合物の焼結は、特に限定するものではないが、例えば、700~1000℃で6~24時間、不活性ガス中で行うことが好ましく、メカニカルミリングは、例えば、300~800rpmで6~72時間とすることが好ましい。
【0044】
上記のメカニカルミリングは、密閉容器に入れ、容器と同じ材質のボールを使用し、不活性ガス中で行うことが好ましい。密閉容器とボールの材質は特に限定するものではないが、例えば、窒化ケイ素、ジルコニア、ステンレス、タングステンカーバイド、シンタードアルミナ等が例示されるが、これらに制限はない。
【0045】
メカニカルミリングに次いで行う熱処理は、不活性雰囲気で行う。時間や温度は特に限定するものではないが、例えば、500~900℃で1~24時間が好ましく、500~750℃で1~12時間がより好ましい。
【0046】
本発明のリチウム複合酸化物は、金属組成がMeMn1-y(但し、0<y≦0.2であり、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属である)で示されるマンガン化合物と上記リチウム化合物を混合し、アルカリ性水溶液中で水熱処理することにより得られた、LiMeMn1-yで表されるリチウム複合酸化物にリン酸リチウムを添加、混合し、次いで不活性ガス中で熱処理することで製造することができる。または、金属組成がMeMn1-yで示されるマンガン化合物とリチウム化合物とリン酸をアルカリ性水溶液中で水熱処理することで製造することができる。
【0047】
上記の水熱処理が行われるアルカリ性水溶液中とは、例えば、水酸化リチウム、水酸化カリウムの混合液をいう。アルカリ性水溶液のpHは、例えば、11.0~14.0とすることが好ましい。
上記の水熱処理の温度は、特に限定するものではないが、例えば、140℃以上で1時間以上が好ましく、180~240℃で4~24時間がより好ましい。
【0048】
上記の水熱処理は、マンガン化合物とリチウム化合物の混合比(Li/Mn+Me)を特に限定するものではないが、1.5以上が好ましく、2.0~8.0がより好ましい。
本発明のリチウム複合酸化物は、金属組成がMeMn1-y(但し、0<y≦0.2であり、MeがAl、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mo、Nb、Ni、Si、Ti、V、W、Zn、及びZrからなる群より選ばれる1種以上の金属)で示されるマンガン化合物MeMn1-yOOHを水酸化リチウムと混合、焼成することで得られることを特徴とするLiMeMn1-yで表されるリチウム複合酸化物に対して、リン酸リチウムを添加、混合し、次いで不活性ガス中で熱処理することにより製造することができる。または、金属組成がMeMn1-yで示されるマンガン化合物MeMn1-yOOHとリン酸リチウムと水酸化リチウムを混合、焼成することで製造することができる。
【0049】
本発明の電極は、本発明のリチウム複合酸化物を含むことを特徴とし、当該リチウム複合酸化物のほかに、導電材及びバインダを含むことが好ましい。
【0050】
上記の導電材とは電極の導電性を向上されるために添加するものである。導電材としては、特に限定するものではないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック系が挙げられる。導電材が正極活物質の周辺に均一分布させて、電子が流れるネットワークを形成させることが、電池の出力特性向上の点で好ましい。
【0051】
本発明の電極のリチウム複合酸化物に対する導電材の含有量は、特に限定するものではないが、1~10重量%であることが好ましい。
【0052】
上記のバインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリ塩化ビニル(PVC)カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)等が例示されるが、特に制限はない。
【0053】
本発明の電極におけるバインダの含有量は、特に限定するものではないが、例えば、1~10重量%であることが好ましい。
【0054】
正極以外のリチウムイオン二次電池の構成としては、次のようなものを挙げることができるが、特に制限はない。
【0055】
負極には、Liを可逆に吸蔵放出する材料、例えば、炭素系材料、酸化錫系材料、酸化ケイ素系材料、LiTi12、Liと合金を形成する材料などが例示される。
【0056】
電解質には、例えば、有機溶媒にLi塩や各種添加剤を溶解した有機電解液や、イオン液体、Liイオン伝導性の固体電解質、これらを組み合わせたものなどが例示される。当該電解液の有機溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)が例示され、電解質塩としては、テトラフルオロボレート(BF4-)、ヘキサフルオロホスファート(PF6-)、フルオロメタンスルホニルイミド(FSI)、トリフルオロメタンスルホニルイミド(TFSI)、トリフルオロメタンスルホナート(CFSO3-)等が例示されるが、特に制限はない。
【実施例0057】
以下に、本発明の実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されて解釈されるものではない。
【0058】
<結晶構造の確認>
リチウム複合酸化物の結晶構造の同定について粉末XRD(商品名:UltimaIV、Rigaku社製)を用いて行った。
計測条件は以下の通りとした。
・ターゲット:Cu/Kα
・出力:1.6kW(40mA-40kV)
・データ間隔:0.04°(2θ/θ)
・測定範囲:10~90°(4°/min)
【0059】
<BET比表面積の測定>
試料0.2gをBET比表面積測定用のガラス製セルに入れ、窒素気流化で150℃、30分間脱水処理を行い、粉体粒子に付着した水分の除去を行った。処理後の試料を、BET測定装置(商品名:MiCROMETRICS DesorbIII、島津製作所製)で、吸着ガスとして、窒素30%-ヘリウム70%の混合ガスを用いて、1点法でBET比表面積を測定した。
【0060】
<Li対極電池の作製>
実施例、比較例で得られたリチウム複合酸化物と導電材(Denka black)とバインダ(10wt%PvdF/N-Methyl-2-Pyrrolidone溶液)を重量比80:10:10で混合器(AR-100、Thinky社製)を用いて混合均一化して、正極材インクを作製した。得られた正極材インクはアルミニウム箔に125μmの厚さで塗布し、80℃で30分乾燥及び150℃で1時間以上減圧乾燥後、直径15.956mmの円形に切った。切った電極は3ton/cmで一軸プレスし、150℃で2時間減圧乾燥して正極とした。
【0061】
上記の正極以外の電池の構成には、電解液としてECとDMCを1:2の容積比で混合した溶液中にLiPF6を1.0Mの濃度となる溶液を、セパレータとしてセルガード2400(直径19mm、セルガード社製)を用いた。
【0062】
負極として、リチウム箔(直径16.16mm、厚さ200μm、本城金属社製)を用いた。
セルにはCR2032型コインセルを使用した。
【0063】
<C対極電池の作製>
負極として、球晶黒鉛をバインダと重量比90:10で混合し、負極インクを作製した後、銅箔に塗布し、直径16.16mmφに打ち抜いた後、3ton/cmで一軸プレスしたものを使用し、負極/正極容量比が1.3となるように塗布の厚さを変えて、負極活物質重量を調整した。
【0064】
対極をリチウムからカーボンに変えたこと以外の電池の作製方法は<Li対極電池の作製>と同様である。
【0065】
<Li対極充放電試験>
Li対極電池の性能評価は充放電評価装置(商品名:BTS2004W、NAGANO社製)を用いて25℃で、測定は2.0V-4.5V(vsリチウム極)の電圧範囲で行った。最初に2サイクル0.03Cの電流密度で充放電試験を行い、次いで0.3Cの電流密度で初期容量評価を行った。CレートはLi対極セルにおいて0.03Cの電流密度で充放電したときの放電容量を実用放電容量(220mA/g)とし、0.3C(66mA/g)を算出した。
【0066】
<C対極25℃充放電サイクル試験>
C対極電池の性能評価は充放電評価装置(商品名:BTS2004W、NAGANO社製)を用いて25℃で、測定は2.0V-4.4V(vsカーボン極)の電圧範囲で行った。充電終了条件は4.4Vを保持したときの電流値が充電の電流値の1/10以下になったときとした。最初に2サイクル0.03Cの電流密度で充放電試験を行い、次いで0.3Cの電流密度で100サイクル充放電試験を行った。Cレートは0.03Cの電流密度で充放電したときの放電容量を実用放電容量(220mA/g)とし、0.3C(66mA/g)を算出した。
【0067】
サイクル安定性は、容量維持率で評価した。容量維持率は0.3C充放電の1サイクル目の放電容量(A)に対する0.3C充放電の100サイクル目の放電容量(B)の割合(B/A)で算出した。
【0068】
<C対極45℃充放電サイクル試験>
評価温度を45℃として、充放電サイクル試験を行った。最初の2サイクル0.03Cの充放電試験は25℃で行い、サイクル試験評価を45℃で50サイクル行った。評価温度、サイクル数以外の実験条件、容量維持率の算出方法はC対極45℃充放電サイクル試験と同様である。
【0069】
<Mn析出量の算出>
サイクル試験を行った後のコインセルから取り出したカーボン負極をジメチルカーボネートで洗浄後、硫酸5%―過酸化水素3%混合溶液10mLに溶解させた後、純水を加えて100mLの水溶液としたのち、ICPAES(商品名:Optima5300DV、PerkinElmer社製)で分析した。
【0070】
カーボン負極上のMn析出量は、ICP測定結果のMn濃度(A[ppm])からカーボン極上に析出したMn重量を算出し、正極活物質中のMn重量(B[mg])との比率で表す。Bは活物質重量ではなく、活物質の組成から算出されるMnのみの重量とする。このとき、Mn析出量は以下の式で表される。
Mn析出量[wt%]=A/(10・B)
【0071】
実施例1
金属塩水溶液の成分が、0.025mol/Lの硫酸ニッケル(NiSO)、0.025mol/Lの硫酸チタニル(TiOSO)及び1.95mol/Lの硫酸マンガン(MnSO)を含む水溶液を用いた。なお金属塩水溶液中の全金属の合計濃度は2.0mol/Lであった。
【0072】
1.0Lの反応容器に200gの純水を入れた後、60℃で昇温、撹拌した。上記金属塩水溶液を、供給速度0.75g/minで反応容器に添加した。また、上記の供給操作中、酸化剤として空気を供給速度1.0L/minで反応容器中にバブリングし続けた。さらに、混合液がpH8.5となるように、2.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を断続的に添加して混合した。反応によって得られた沈殿したスラリーをろ過、洗浄後、120℃で12時間乾燥することで、Mn、NiとTiを含むマンガン酸化物(理論組成(Ni0.025Ti0.025Mn0.95)を得た。
【0073】
上記で得られたマンガン酸化物は700℃で12時間、空気中で焼成し、理論組成(Ni0.025Ti0.025Mn0.95を作製した。ICPから求めた金属組成の重量比から、Li/(Ni+Ti+Mn)モル比が1.0になるようにマンガン酸化物と市販の炭酸リチウムを乳鉢で20分間乾式混合した。得られた混合粉を焼成皿に入れて、900℃で12時間、Nガス中で加熱を行い、室温まで冷却して主相がジグザグ層状構造を有するLiNi0.025Ti0.025Mn0.95を得た。昇温速度と降温速度は10℃/minとした。
【0074】
得られた主相がジグザグ層状構造を有するLiNi0.025Ti0.025Mn0.95にリン酸リチウムLiPOを添加し、Ar雰囲気の密閉容器中600rpmで36時間メカニカルミリングを行い、岩塩型Li1.020.02Ni0.025Ti0.025Mn0.95を得た。メカニカルミリングにはジルコニア製の容器、ボールを使用し、リチウム複合酸化物試料1.5g、リン酸リチウム0.037g(リチウム複合酸化物に対して2mol%相当)に直径10mmボールを3個、直径5mmボールを10個及び直径1mmボールを2g入れて行った。
【0075】
次に、岩塩型構造Li1.020.02Ni0.025Ti0.025Mn0.95を600℃で12時間、Nガス中で熱処理を行い、ジグザグ層状構造を母構造とし、α-NaFeO型層状構造のドメインを有するLi1.020.02Ni0.025Ti0.025Mn0.95のリチウム複合酸化物を得た。
【0076】
得られたリチウム複合酸化物を用い、上記の<Li対極電池の作製>、<C対極電池の作製>に従ってリチウムイオン二次電池を作製した。
【0077】
実施例2
実施例1と同様の方法で得られた主相がジグザグ層状構造を有するLiNi0.025Ti0.025Mn0.95に、リン酸リチウムを添加しない以外は実施例1と同様の方法でメカニカルミリングを行い、岩塩型LiNi0.025Ti0.025Mn0.95を得た。
【0078】
次に、岩塩型構造LiNi0.025Ti0.025Mn0.95を600℃で12時間、Arガス中で熱処理を行い、ジグザグ層状構造を母構造とし、α-NaFeO型層状構造のドメインを有するLiNi0.025Ti0.025Mn0.95のリチウム複合酸化物を得た。
【0079】
さらに、ジグザグ層状構造を母構造とし、α-NaFeO型層状構造のドメインを有するリチウム複合酸化物LiNi0.025Ti0.025Mn0.95にリン酸リチウムを添加し、ボールミルを用いて混合した。ボールミル混合は空気雰囲気中100rpmで12時間行った。混合物をNガス中、600℃、12時間熱処理を行うことで、ジグザグ層状構造を母構造とし、α-NaFeO型層状構造のドメインを有するLi1.020.02Ni0.025Ti0.025Mn0.95のリチウム複合酸化物を得た。
【0080】
得られたリチウム複合酸化物を用い、上記の<Li対極電池の作製>、<C対極電池の作製>に従ってリチウムイオン二次電池を作製した。
【0081】
実施例3
メカニカルミリングに使用したリン酸リチウム0.037g(リチウム複合酸化物に対して2mol%相当)をリン酸リチウム0.056g(リチウム複合酸化物に対して3mol%相当)に変更し、Nガス中での熱処理温度600℃を700℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で、ジグザグ層状構造を母構造とし、α-NaFeO型層状構造のドメインを有するLi1.030.03Ni0.025Ti0.025Mn0.95のリチウム複合酸化物を得た。
【0082】
得られたリチウム複合酸化物を用い、上記の<Li対極電池の作製>、<C対極電池の作製>に従ってリチウムイオン二次電池を作製した。
【0083】
比較例1
実施例1と同様の方法で得られた主相がジグザグ層状構造を有するLiNi0.025Ti0.025Mn0.95に、リン酸リチウムを添加しなかった以外は実施例1と同様の方法でメカニカルミリングを行い、岩塩型LiNi0.025Ti0.025Mn0.95を得た。
【0084】
次に、岩塩型構造LiNi0.025Ti0.025Mn0.95を600℃で12時間、Arガス中で熱処理を行い、ジグザグ層状構造を母構造とし、α-NaFeO型層状構造のドメインを有するLiNi0.025Ti0.025Mn0.95のリチウム複合酸化物を得た。
【0085】
得られたリチウム複合酸化物を用い、上記の<Li対極電池の作製>、<C対極電池の作製>に従ってリチウムイオン二次電池を作製した。
【0086】
比較例2
実施例1と同様の方法で得られた主相がジグザグ層状構造を有するLiNi0.025Ti0.025Mn0.95に、リン酸リチウムを添加しなかった以外は実施例1と同様の方法でメカニカルミリングを行い、岩塩型LiNi0.025Ti0.025Mn0.95を得た。
【0087】
次に、岩塩型構造LiNi0.025Ti0.025Mn0.95を700℃で12時間、Arガス中で熱処理を行い、ジグザグ層状構造を母構造とし、α-NaFeO型層状構造のドメインを有するLiNi0.025Ti0.025Mn0.95のリチウム複合酸化物を得た。
【0088】
得られたリチウム複合酸化物を用い、上記の<Li対極電池の作製>、<C対極電池の作製>に従ってリチウムイオン二次電池を作製した。
【0089】
実施例1~3及び比較例1~2のリチウム複合酸化物に対して10~90°のXRDパターンを確認し、その結果を図3に示した。本発明で作製したリチウム複合酸化物は、直方晶系(010)面、(011)面、(200)面、(021)面に強いピークと単斜晶系(001)面に弱いピークを有していることが分かった。また、本発明で作製したリチウム複合酸化物は15.3±1.0°(A)に示される直方晶系(010)面と18.2±1.0°(B)に示される単斜晶系(001)面のピークが確認できた。すなわち、直方晶系ジグザグ層状構造を母構造とし、α-NaFeO型層状構造のドメインを有するリチウム複合酸化物になっていることが分かった。さらに、本発明で作製したリチウム複合酸化物は、リン複合化からなる結晶構造は変化させていないことが確認できた。さらに(A/B)ピーク積算強度比の算出を行い、その結果を表1に示した。
【0090】
【表1】
【0091】
実施例1~3及び比較例1~2のリチウム複合酸化物に対してBET比表面積を測定し、その結果を表1に示した。
実施例1~3及び比較例1~2のリチウム複合酸化物に対して<Li対極電池の作製>および<Li対極充放電試験>に従ってLi対極初期容量を測定し、その結果を表1に示した。
【0092】
比較例2のBET比表面積が3.3m/gはLi対極初期容量が小さく、高容量を発現しないことから、BET比表面積は3.5m/g以上が必要である。
【0093】
実施例1~2及び比較例1で製造されたリチウム複合酸化物に対して<C対極電池の作製>および<C対極25℃充放電試験>に従ってC対極25℃初期容量を測定、容量維持率を算出した結果を表2に示した。サイクル試験後の電池から取り出したカーボン負極を用いて<Mn析出量の測定>に従って、算出したMn析出量を表2に示した。
【0094】
【表2】
【0095】
表2で示された0.3Cのサイクル安定性試験の結果から、実施例1、2はリン複合化をされなく製造された比較例1より充放電サイクル安定性の改良性が示された。
【0096】
表2で示された実施例1、2で製造された電池から取り出して測定されたMn析出量も比較例1を下回って、正極からのMn溶出を抑制したことが示された。高容量、高出力かつサイクル安定性の高いリチウムイオン二次電池を達成した。
【0097】
実施例3及び比較例1~2で製造されたリチウム複合酸化物に対して<C対極電池の作製>および<C対極45℃充放電試験>に従ってC対極45℃初期容量を測定、容量維持率を算出した結果を表3に示した。サイクル試験後の電池から取り出したカーボン負極を用いて<Mn析出量の測定>に従って、算出したMn析出量を表3に示した。
【0098】
【表3】
【0099】
表3で示された0.3Cのサイクル安定性試験の結果から、実施例3はリン複合化をされなく製造された比較例1、2より充放電サイクル安定性の改良性が示された。
【0100】
表3で示された実施例3で製造された電池から取り出して測定されたMn析出量も比較例1、2を下回って、正極からのMn溶出を抑制したことが示された。高容量、高出力かつサイクル安定性の高いリチウムイオン二次電池を達成した。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明のリチウム複合酸化物は、安価な高容量・高出力であり、かつサイクル安定性の高い正極活物質として、リチウムイオン二次電池用正極活物質の分野で使用が期待される。
図1
図2
図3