(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162596
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】ダイヤモンド電極、電気化学センサユニットおよびダイヤモンド電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/30 20060101AFI20231101BHJP
C30B 29/04 20060101ALI20231101BHJP
C30B 25/02 20060101ALI20231101BHJP
C23C 16/27 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
G01N27/30 B
C30B29/04 G
C30B25/02 Z
C23C16/27
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073035
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】栗原 香
(72)【発明者】
【氏名】西川 直宏
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BA03
4G077DB21
4G077EE07
4G077HA05
4G077TA04
4K030AA09
4K030AA17
4K030AA20
4K030BA28
4K030BB03
4K030BB05
4K030BB14
4K030CA04
4K030CA05
4K030CA12
4K030DA02
4K030DA05
4K030DA08
4K030JA06
4K030JA09
4K030JA10
4K030JA11
(57)【要約】
【課題】複数電極間において均一な表面積のダイヤモンド膜を有し、電気化学センサユニット用の電極として好適なダイヤモンド電極を提供する。
【解決手段】支持体と、前記支持体のいずれか一方の主面上に形成されたダイヤモンド膜と、を有し、前記ダイヤモンド膜の表面で被験試料中の成分との電気化学反応を生じさせる電気化学センサユニット用のダイヤモンド電極であって、前記一方の主面は、前記支持体の外縁に前記ダイヤモンド膜の非形成領域を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、前記支持体のいずれか一方の主面上に形成されたダイヤモンド膜と、を有し、
前記ダイヤモンド膜の表面で被験試料中の成分との電気化学反応を生じさせる電気化学センサユニット用のダイヤモンド電極であって、
前記一方の主面は、前記支持体の外縁に前記ダイヤモンド膜の非形成領域を有するダイヤモンド電極。
【請求項2】
前記ダイヤモンド膜が導電性ダイヤモンドで構成されている請求項1に記載のダイヤモンド電極。
【請求項3】
前記支持体が導電性材料で構成されている請求項1に記載のダイヤモンド電極。
【請求項4】
前記非形成領域を含む前記支持体の露出面が、酸化還元反応しないように不活性化されている請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のダイヤモンド電極。
【請求項5】
作用電極と、対電極と、を備え、
前記作用電極は、支持体と、前記支持体のいずれか一方の主面上に形成されたダイヤモンド膜と、を有しつつ、前記ダイヤモンド膜の表面で被験試料中の成分との電気化学反応を生じさせるダイヤモンド電極であり、
前記一方の主面は、前記支持体の外縁に前記ダイヤモンド膜の非形成領域を有する電気化学センサユニット。
【請求項6】
基板のいずれか一方の主面上に複数のダイヤモンド膜を、ダイヤ非形成領域により区画して形成する工程と、
前記ダイヤ非形成領域にある分割予定線に沿って、前記基板を分割する基板の分割工程と、を有し、
前記分割工程では、前記ダイヤ非形成領域を前記基板の外縁に残すように前記基板を分割する電気化学センサユニット用のダイヤモンド電極の製造方法。
【請求項7】
前記ダイヤモンド膜を形成する工程では、前記基板上にマスクをして前記ダイヤ非形成領域を配置した後にダイヤモンドの核成長領域を形成し、
その後、前記マスクを除去してから、前記核成長領域で前記ダイヤモンド膜を成長させる請求項6に記載の電気化学センサユニット用のダイヤモンド電極の製造方法。
【請求項8】
前記ダイヤモンド膜を形成する工程では、前記基板にダイヤモンドの核成長領域を形成した後に、マスクにより前記ダイヤ非形成領域を配置し、
その後、前記核成長領域でダイヤモンドの膜を成長させる請求項6に記載の電気化学センサユニット用のダイヤモンド電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド電極、電気化学センサユニットおよびダイヤモンド電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気化学センサユニット(電気化学センサ)の作用電極等の用途において、ダイヤモンド膜を有するダイヤモンド電極が提案されている。導電性を有するダイヤモンドは、電位窓が広く、バックグラウンド電流も小さいことから、種々の物質の電気化学的検出を高感度に行うことができる。このため、導電性を有するダイヤモンドは、作用電極の形成材料として注目を集めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007―292717号公報
【特許文献2】特開2013-208259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ダイヤモンドは高硬度の材料であり、ダイヤモンド膜を有する電極は、所望の形状どおりに成形加工することが難しい。このため、加工後における複数の電極間では、ダイヤモンド膜の表面積にバラつきを有する場合等があった。そこで本開示は、加工が容易であり、複数電極間でもダイヤモンド膜の表面積を均一に保ちやすい電極の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
支持体と、前記支持体のいずれか一方の主面上に形成されたダイヤモンド膜と、を有し、
前記ダイヤモンド膜の表面で被験試料中の成分との電気化学反応を生じさせる電気化学センサユニット用のダイヤモンド電極であって、
前記一方の主面は、前記支持体の外縁に前記ダイヤモンド膜の非形成領域を有するダイヤモンド電極およびその関連技術が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、複数電極間において均一な表面積のダイヤモンド膜を有し、電気化学センサユニット用の電極として好適なダイヤモンド電極が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の第一実施形態にかかるダイヤモンド電極の斜視図である。
【
図2】本開示の電極を作用電極とする電気化学センサユニットの一例を示す図である。
【
図3】本開示の第一実施形態にかかるダイヤモンド電極の平面視を示す図である。
【
図4】(a)はダイヤモンド膜の形状の一例を示す斜視図であり、(b)はダイヤモンド膜の形状の一例を平面視で示す図である。
【
図5】(a)はダイヤモンド膜を区画する工程を示す図であり、(b)は分割工程を示す図である。
【
図6】(a)はマスク形成後の基板を示す図であり、(b)は核成長領域形成後の基板を示す図であり、(c)はマスク除去後の基板を示す図であり、(d)はダイヤモンド膜形成後の基板を示す図であり、(e)は分割工程を示す図である。
【
図7】(a)は工程Aに用いるフレームを示す斜視図であり、(b)は(a)の部分拡大図である。
【
図8】(a)は核成長領域を全面に形成した基板を示す図であり、(b)はダイヤモンド膜を全面に形成した基板を示す図であり、(c)は溝を形成した基板を示す図であり、(d)は溝形成後の基板を分割する様子を示す図であり、(e)は(d)の部分拡大図である。
【
図9】従来のダイヤモンド電極の成形加工後の一例を示す図である。
【
図10】(a)は核成長領域形成後の基板を示す図であり、(b)はマスク形成後の基板を示す図であり、(c)はダイヤモンド膜形成後の基板を示す図であり、(d)はマスク除去後の基板を示す図であり、(e)は分割工程を示す図である。
【
図11】本開示の第三実施形態にかかるダイヤモンド電極の斜視図である。
【
図12】(a)は溝を形成した基板を示す図であり、(b)はエッチング後の基板を示す図であり、(c)はマスク形成後の基板を示す図であり、(d)はダイヤモンド膜形成後の基板を示す図であり、(e)は分割工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0009】
<第一実施形態>
まず、本発明の第一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0010】
(1)ダイヤモンド電極の構成
図1に示すように、本実施形態のダイヤモンド電極10は、ダイヤモンド膜11と、ダイヤモンド膜11が支持された支持体12と、の積層体として構成されている。ダイヤモンド膜11は、支持体12が有する主面のいずれか一方の面上に支持されている(設けられる)。以下では、ダイヤモンド膜11が支持されている支持体12の面を支持面12sという場合がある。
【0011】
また、ダイヤモンド電極10の外形は平面視で多角形であり、チップ状に形成されている。ダイヤモンド電極10の平面視形状は、例えば、矩形状(四角形)や三角形状であり、正方形状が好ましい。ダイヤモンド電極10の平面積は、例えば25mm2以下であってよい。チップ状のダイヤモンド電極10を作製する観点から、ダイヤモンド電極10の平面積は例えば1mm2以上であってよい。平面積が1mm2以上のダイヤモンド電極10は、後述の分割工程で精度よく安定して分割できる。また、ダイヤモンド電極10の平面積が1mm2以上であると、ダイヤモンド電極10のハンドリング性の低下および実装安定性の低下も抑制できる。
【0012】
(2)ダイヤモンド電極の用途
以上説明したダイヤモンド電極10は、電気化学測定における作用電極31として好適に用いられる。電気化学センサユニット30(電気化学センサ)は、液状の被験試料中の特定物質を電気化学的に検出するものである。例えば、
図2に示す電気化学センサユニット30において、ダイヤモンド電極10を作用電極31として用いる場合、ダイヤモンド膜11は、その表面で被検液中の特定成分(所定の反応種)の電気化学反応を生じさせる。本実施形態における電気化学センサユニットは、基材上に支持される作用電極31(ダイヤモンド電極10)、対電極32、参照電極33、および各電極に接続された配線と、を備えて構成される。また、電気化学センサユニットは、各配線を通じた電圧の印加により電極間に電流が流れるように電圧印加部等を備える。参照電極33は、作用電極31の電位を決定する際の基準となる電極である。
【0013】
例えば、電気化学センサユニット30が、被験者から採取した尿を被験試料とし、尿中に含まれる尿酸を特定成分として濃度検出する場合について説明する。電気化学センサユニット30に尿を供給した後、作用電極31を含む電極群に尿が付着した状態で電極群に所定の電圧を印加することにより、ダイヤモンド膜11の表面で尿酸の酸化還元反応を生じさせる。ダイヤモンド膜11の表面は、被検試料中の特定成分(尿中の尿酸)の電気化学反応を生じさせる場となっており、膜の表面積の大小により特定成分の濃度検出結果が変化する。このため、後述するように、複数電極間におけるダイヤモンド膜11の表面積の均一性は、電気化学センサユニット30に用いた場合における特定成分の濃度検出に際して影響する場合がある。なお、
図2は、三電極法による電気化学センサユニットの一例であり、電気化学センサユニット30は作用電極31および対電極32以外に、参照電極33も有している。ダイヤモンド電極10は、参照電極33を有しない二電極法による電気化学センサユニットにも適用できる。
【0014】
(3)支持体の構成
次に、ダイヤモンド電極10を構成する支持体12について詳細に説明する。支持体12は、ダイヤモンド以外の材料(異種材料)を用いて形成されている。支持体12は、導電性の材料を用いて構成されていることが好ましい。例えば、支持体12は、シリコン(Si)単体、またはシリコンの化合物を用いて構成された基板21、すなわち、シリコンを含有する導電性の材料からなることが好ましい。具体的には、支持体12はシリコン基板(Si基板)またはシリコン化合物基板により構成することができる。Si基板としては、単結晶Si基板、多結晶Si基板を、シリコン化合物基板としては炭化シリコン基板(SiC基板)等を用いることができる。
【0015】
この支持体12は、p型の導電性を有することが好ましく、ホウ素(B)等の元素を所定濃度で含むことが好ましい。支持体12は、Bを、例えば5×1018cm-3以上1.5×1020cm-3以下の濃度、好ましくは5×1018cm-3以上1.2×1020cm-3以下の濃度で含むことができる。支持体12中のB濃度が上記範囲内であることにより、支持体12の比抵抗を低くしつつ、支持体12の製造歩留の低下や性能劣化を回避することができる。
【0016】
支持体12の厚さは、例えば350μm以上であってもよい。この場合、直径が6インチや8インチである市販の単結晶Si基板や多結晶Si基板等のSi基板は、バックラップ(back rap)して厚さ調整することなく、そのまま使用できる。これら基板の使用は、ダイヤモンド電極10の生産性を高め、製造コストを低減できる。支持体12の厚さは、特に上限の限定がない。現在一般的に市場に流通しているSi基板の厚さに基づき、直径が12インチの単結晶Si基板(775μm程度でに相当する)を、厚さの上限として例示できる。
【0017】
また本実施形態における支持体12は、
図1に示すように、支持面12sの外縁にダイヤモンド膜の非形成領域12Eを有する。本開示において、ダイヤモンド膜11の非形成領域12Eとは、ダイヤモンド膜11が形成されていない領域のことをいう。具体的には、非形成領域12Eは、膜として形成されたダイヤモンド膜11の存在しない領域である。非形成領域12Eには、支持体12の構成材料が剥き出しである領域に限らず、支持体12上に後述するダイヤモンドの核成長領域23が形成されている領域や、支持体12の構成材料に酸化膜や窒化膜が形成されている領域等が含まれる。ここで、外縁とは、
図3に示されるように、多角形の外形を有する支持体12において、支持面12s側からの平面視で、多角形である外周の辺に沿った外側の縁の領域をいう。非形成領域12Eは、ダイヤモンド膜11の周縁に関し、ダイヤモンド膜11の全周を囲うように配置することが好ましい。また、非形成領域12Eは、ダイヤモンド電極10における総面積が、ダイヤモンド膜11の総面積に対して8%以上45%以下であると好ましい。
【0018】
以上説明した非形成領域12Eを含む支持体12の露出面は、酸化還元反応をしないように不活性化されていることが好ましい。本開示のダイヤモンド電極10を電気化学センサユニット30として用いる場合、ダイヤモンド膜11以外の部分において、意図しない酸化還元反応が生じることを防ぐためである。ここで、支持体12の露出面とは、非形成領域12Eの他、電気化学センサユニット30にダイヤモンド電極10を配置した場合に、ダイヤモンド膜11を除いて、被験試料と接触する可能性があるダイヤモンド電極10の残り全ての領域である。例えば、支持体12の側面のうち被験試料と接触し得る領域が含まれる。
【0019】
ここで、「不活性化されている」とは、電気化学センサユニット30としてダイヤモンド電極10に所定電圧を印加した際、測定対象物の酸化還元反応の発生が抑制されるように処理(不活性化処理)されている状態をいう。このためには、支持体12の露出面の少なくとも表層部が不活性化されていればよい。具体的には、支持体12の露出面は、絶縁性の皮膜(絶縁皮膜)を形成することで不活性化されていてもよい。例えば、支持体12の露出面が酸化または窒化されている場合、不活性化されている状態に該当する。この場合、絶縁皮膜は、例えば、Siを含有する支持体12が酸化されてシリコン酸化物となった箇所(SiO2部)や、Siを含有する支持体12が窒化されてシリコン窒化物となった箇所(SiN部)である。絶縁皮膜は連続膜であり、支持体12の露出面全面を覆っていることが好ましい。これにより、支持体12の露出面で測定対象物の酸化還元反応が生じることを確実に抑制できる。
【0020】
絶縁被膜の厚さ(例えば酸化または窒化された支持体12の露出面の表層部の厚さ)は、例えば1nm以上、好ましくは2nm以上であってよい。絶縁被膜の厚さが1nm以上であると、絶縁被膜を連続膜にすることができ、支持体12の露出面全面を露出させることなく覆うことができる。その結果、所定電圧印加時に支持体12の露出面において測定対象物の酸化還元反応が生じることを確実に抑制できる。絶縁被膜の厚さが2nm以上であると、絶縁被膜をより確実に連続膜にすることができ、上記した露出面での酸化還元反応の抑制効果を向上できる。なお、絶縁被膜の厚さは、極端に厚いものとした場合、支持体12の導電性領域が少なくなる。このため、絶縁被膜の厚さは、上記した露出面での酸化還元反応の抑制効果が得られる厚さとしつつ、可能な限り薄いことが好ましい。
【0021】
(4)ダイヤモンド膜の構成
次に、ダイヤモンド膜11について説明する。ダイヤモンド膜11は、多結晶膜である。ダイヤモンド膜11は、ダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)膜であってもよい。本明細書において、「ダイヤモンド膜11」は、多結晶ダイヤモンド膜、DLC膜、または、これらの膜の両方を意味する。ダイヤモンド膜11はp型の導電性を有することが好ましい。ダイヤモンド膜11は、ホウ素(B)等の元素をダイヤモンド膜11に、例えば1×1019cm-3以上1×1022cm-3以下の濃度で含むものが好ましい。ダイヤモンド膜11中のB濃度は、例えば二次イオン質量分析法(SIMS)で測定できる。ダイヤモンド膜11の成長(合成)は、熱フィラメント(ホットフィラメント)CVD法、プラズマCVD法等の化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法、イオンビーム法やイオン化蒸着法等の物理蒸着(Phisical Vapor Deposition:PVD法)等により行える。ダイヤモンド膜11は、熱フィラメントCVD法により成長させる場合、フィラメントとして例えばタングステンフィラメントを使用できる。ダイヤモンド膜11の厚さは例えば0.5μm以上10μm以下、好ましくは2μm以上4μm以下であってもよい。
【0022】
本実施形態におけるダイヤモンド膜11は、上記の通り、その周縁に非形成領域12Eを有する。ダイヤモンド膜11の側面は、劈開面や裂開面等を含む破断面を有しない。また、ダイヤモンド膜11の側面は、レーザの熱影響による変性を有しない。ここで、ダイヤモンド膜11の変性とは、例えばダイヤモンド膜中のsp3結合がsp2結合に変性すること、すなわち黒鉛化(グラファイト化)等を意味する。
【0023】
上記で説明したように、支持体12の外縁にはダイヤモンド膜11の非形成領域12Eを有するため、支持体12の支持面12s上に形成されるダイヤモンド膜11は、必ずしも支持体12の外形と同一の形状であることを要しない。すなわち、ダイヤモンド膜11の形状は、任意の様々な形状であってよい。例えば、ダイヤモンド膜11は、
図4(a)、(b)に示されるように、円形であってもよい。なお、支持面12s上に形成されるダイヤモンド膜11としては、より表面積の大きいものが好ましい。ダイヤモンド電極10を電気化学センサユニット30に適用する場合、ダイヤモンド膜11の有効面積の大きい方が、ダイヤモンド電極10の大きさに対して特定成分の酸化還元反応の検出感度を最大化できるためである。
【0024】
(5)電極の製造方法
以上説明した本実施形態のダイヤモンド電極10の製造方法について、
図5および
図6を参照して説明する。
【0025】
本実施形態のダイヤモンド電極10の製造方法では、
基板21の支持面21sとなる面に複数のダイヤモンド膜11を、ダイヤ非形成領域21Eにより区画して形成する工程(工程A)と、
ダイヤ非形成領域21Eにある分割予定線Lに沿って、基板21を分割する工程(工程B)と、を行う。
【0026】
(工程A;ダイヤモンド膜を区画して形成する工程)
工程Aでは、まず、導電性を有する基板21、例えば平面視で円形の外形を有するSi基板を用意する。基板21が有する2つの主面のうち支持面21sとなる面に対して、
図6(a)のように、ダイヤモンド膜11を形成しない予定の領域(非形成領域12Eとしたい領域)にマスク22を形成する。マスク22は、例えば、金属等の導電性材料(例えば金、等)で形成され、また例えば、窒化シリコン(SiNx)、酸化シリコン(SiO
2)、レジスト等の非導電性材料で形成される。
【0027】
上記のマスク22は、予めダイヤモンド膜11を形成しない予定の領域の形状(非形成領域12Eの形状)に成形された金属または樹脂製のフレーム24により形成してもよい。フレーム24を用いる場合は、フレーム24を基板21に密着させて後述の工程を行えばよい。フレーム24は、任意の材質のものとしてよい。フレーム24は、好ましくは金属製の材料からなり、より好ましくはステンレス(SUS)製の材料からなる。フレーム24の形状は、例えば、
図7(a)のように、核成長領域23を形成したい領域に穴24Eが形成されたものが挙げられる。フレーム24において、
図7(b)に示される複数の穴24Eの間隔の幅Wは、穴24Eの(Wと同じ方向の)幅に対して5%以上35%以下であると好ましい。幅Wがより細いことにより、ダイヤモンド電極10におけるダイヤモンド膜11の有効面積を大きくできるためである。また、フレーム24において、穴24Eの厚み方向(支持体12の主面間をつなぐ方向)と、支持体12の主面方向とで形成される角度θは、90°以上120°以下であり、かつ、角度θが90°を超える場合、幅Wが厚み方向において基板21と密着させる側に向けて細くなる形状であると好ましい。厚み方向において基板21との密着側に向けて細くなる形状にすることで、後述するダイヤモンド膜11の形成を好ましい形状にしやすくなる。
【0028】
マスク22の形成後は、
図6(b)のように、核成長領域23を形成する。核成長領域23は、種付け(シーディング)処理または傷付け(スクラッチ)処理により形成する。種付け処理とは、例えば数nm~数十μm程度のダイヤモンド粒子(種)を支持面21sに付着させる処理をいう。種付け処理は、ダイヤモンド粒子(好ましくはダイヤモンドナノ粒子)を分散させた溶液(分散液)を支持面21sに塗布する、または、分散液中に基板21を浸漬する等の方法で行う。傷付け処理は、数μm程度のダイヤモンド砥粒(ダイヤモンドパウダー)等を用いて支持面21sに引っかき傷(スクラッチ)を付ける処理をいう。
【0029】
本実施形態では、マスク22形成後に核成長領域23を形成するため、マスク22が剥離しないように核成長領域23を形成することが好ましい。そこで、本実施形態における核成長領域23の形成方法としては、例えば、ダイヤモンド砥粒等の分散液に基板21を浸漬し、超音波を照射して微細な傷をつける方法等が特に好適である。超音波を用いる方法は、既に形成されているマスク22の剥離を抑制しつつ、核成長領域23を形成しやすい方法である。また、核形成領域の形成方法として、炭化ケイ素(SiC)、アルミナ、ボロンカーバイド、ダイヤ粒子等の砥粒を、エアーブラスト等を使用して吹き付ける方法も利用できる。エアーブラスト等を使用する場合、核成長領域23を所望した形状に選択的に形成しやすい。
【0030】
核成長領域23を形成した後は、基板21上のマスク22を除去する。マスク22の除去は、適用するマスク22の種類に応じて、当該マスク22を剥離可能な任意の方法を利用してよい。例えば、マスク22は、アルカリ性または酸性のエッチング液を用いて除去してもよい。以上の工程後、
図6(c)のように、基板21上は、ダイヤモンド膜11を形成する予定の領域に、核成長領域23がパターン状に区画して形成された状態になる。
【0031】
核成長領域23を区画して形成した後は、支持面21sに付着させたダイヤモンド粒子や支持面21s上の傷を核として、
図6(d)のように、核成長領域23でダイヤモンド膜11を成長させる。例えば、ダイヤモンド膜11の成長は、タングステンフィラメントを用いた熱フィラメントCVD法により、支持面21s上において結晶成長させる。
【0032】
ダイヤモンド結晶の成長は、例えば熱フィラメントCVD装置を用いて行うことができる。熱フィラメントCVD装置は、水素(H2)ガス、炭素(C)含有ガス、ホウ素(B)含有ガス等の各種ガスを成長室に供給可能な構成とする。炭素(C)含有ガスは、メタン(CH4)ガスまたはエタン(C2H6)ガスとしてよい。ホウ素(B)含有ガスは、トリメチルボロン(B(CH3)3、略称:TMB)ガス、トリメチルボレート(B(OCH3)3)ガス、トリエチルボレート(B(C2H5O)3)ガス、またはジボラン(B2H6)ガスとしてよい。また、熱フィラメントCVD装置は、成長室の内部に構成された気密容器に、温度センサ、タングステンフィラメント、電極(例えばモリブデン(Mo)電極)等を有する構成を採用できる。
【0033】
ダイヤモンド結晶の成長は、上記の熱フィラメントCVD装置を用い、例えば以下の処理手順で実施できる。基板21は、気密容器内へ投入(搬入)し、成長室内の排気を実施しながら、成長室内へH2ガスを供給する。その後、基板21は、タングステンフィラメントの加熱を開始することで、加熱される。成長室内の温度や圧力等が所望の雰囲気になったら、成長室内へ炭素含有ガス(例えばCH4ガス)、ホウ素含有ガス(例えばTMBガス)を供給する。成長室内に供給されたCH4ガスやTMBガスは、高温に加熱されたタングステンフィラメントを通過する際に分解(熱分解)し、メチルラジカル(CH3
*)等の活性種を生じる。この活性種等が基板21上に供給されてダイヤモンド結晶が成長する。
【0034】
ダイヤモンド結晶を成長させる際の条件としては、下記の条件が例示される。
基板温度:600℃以上1000℃以下、好ましくは650℃以上800℃以下
フィラメント温度:1800℃以上2500℃以下、好ましくは2000℃以上2200℃以下
成長室内圧力:5Torr以上50Torr以下、好ましくは10Torr以上35Torr以下
CH4ガスに対するTMBガスの分圧の比率(TMB/CH4):0.003%以上0.8%以下
H2ガスに対するCH4ガスの比率(CH4/H2):2%以上5%以下
成長時間:60分以上600分以下、好ましくは120分以上360分以下
【0035】
以上の工程により、
図6(d)に示されるように、基板21の支持面21s上には、マスク22を形成することにより基板21上に区画したダイヤ非形成領域21Eを有する。そして、基板21のマスク22を形成しなかった領域(マスク22の除去後に核成長領域23が形成されていた領域)に、区画された複数のダイヤモンド膜11が形成される。
【0036】
(工程B;分割工程)
工程Aの後は、基板21をダイヤモンド電極10の形状に分割する分割工程を行う。分割工程では、基板21のダイシング方法として知られる公知の方法によって、基板21を所望形状のダイヤモンド電極10に分割する。
図6(e)に示すように、分割工程では、ダイヤ非形成領域21Eにある分割予定線Lに沿って、基板21を分割する。ここで、分割予定線Lは、所望する電極の形状に応じて、以下のダイシング方法により任意に設定する、基板を分割するための仮想的な線のことを示す。分割予定線は、ダイヤ非形成領域21Eに配置し、ダイヤモンド膜11上に重ならない位置に配置する。
【0037】
分割工程におけるダイシング方法としては、レーザ光を用いたダイシング、ブレードによるダイシング、エッチング、サンドブラスト等から、任意の方法を適用してよい。例えば、レーザ光を用いる方法では、基板21の支持面21s側、または裏面側のいずれかより分割用の溝25を形成し、分割用の溝25に沿って外力を加えて基板21を分割する。
【0038】
本実施形態において、上記した分割工程では、
図5(b)に示すように、ダイヤ非形成領域21Eを分割後のダイヤモンド電極10の外縁に残すように、分割予定線Lを配置する。分割予定線Lは、ダイヤモンド膜11の周囲の全周にダイヤ非形成領域21Eを有するように配置することが好ましい。なお、上述の通り、分割予定線はダイヤモンド膜11上に重ならない位置に配置すればよく、ダイヤモンド膜11の周囲のダイヤ非形成領域21Eの幅を可能な限り小さくすることは許容される。すなわち、ダイヤモンド膜11の周囲の直近に分割予定線を配置し、ダイヤ非形成領域21Eを極限まで小さな領域としてもよい。
【0039】
以上により得られたダイヤモンド電極10は、ダイヤ非形成領域21Eを含む基板21の露出面を不活性化することが好ましい。不活性化は、ダイヤモンド電極10を電気化学センサユニット30に用いる場合、作用電極31として電極を配置した後、支持体12の露出している面に対して行うことが好ましい。
【0040】
基板21の露出面の不活性化は、ダイヤモンド電極10を酸素含有雰囲気、または窒素含有雰囲気でアニールする方法、紫外光を照射する方法、または、自然酸化膜を形成する方法等により行ってもよい。
【0041】
酸素含有雰囲気、または窒素含有雰囲気でダイヤモンド電極10をアニールして不活性化する場合、例えば、以下の条件を適用できる。
アニール雰囲気:O2ガス、大気、またはN2ガス
アニール温度:60℃以上200℃以下、好ましくは70℃以上140℃以下
アニール時間:5分以上180分以下、好ましくは60分以上120分以下
【0042】
以上により、支持体12の露出面には、絶縁被膜として熱酸化膜(SiOx膜)、または窒化膜(SiN膜)が形成され、支持体12の露出面の少なくとも表層部を不活性化できる。
【0043】
上記アニールに替えて、水銀ランプを用いて酸素含有雰囲気で紫外光を照射して不活性化する場合、例えば、以下の条件を適用できる。
照射雰囲気:O2ガスまたは大気
照射温度:室温(25~28℃、例えば27℃)
照射時間:5分以上30分以下、好ましくは10分以上20分以下
【0044】
以上により、支持体12の露出面には、絶縁被膜としてオゾン酸化膜を形成でき、支持体12の露出面の少なくとも表層部を不活性化できる。
【0045】
上記アニールまたは紫外光照射に替えて、クリーンベンチ内などの清浄な大気中にダイヤモンド電極10を放置して自然酸化膜を形成する場合、例えば、以下の条件を適用できる。
自然酸化膜形成雰囲気:湿度50%以上の大気
自然酸化膜形成温度:室温(25℃)以上
自然酸化膜形成時間:1000分以上
【0046】
支持体12の露出面は、以上の自然酸化膜の形成によっても不活性化できる。一方、アニールまたは紫外光照射では、絶縁被膜を確実に連続膜とし、支持体12の露出面を絶縁被膜で確実に覆うことができる。このため、アニールまたは紫外光照射は、不活性化の手法としてより好ましい。
【0047】
なお、以上の不活性化する方法を行わない場合にも、支持体12の露出面には自然酸化膜が形成されている。しかしながら、この自然酸化膜は連続膜ではない場合が多いことから、上記した不活性化の方法を行わない場合、支持体12の露出面の不活性化が不充分になりやすい。上記した方法を行うことで、支持体12の露出面を充分に不活性化し、支持体12の露出面の全面を絶縁被膜で覆うことができる。
【0048】
(6)効果
本実施形態によれば、以下に示す効果が得られる。
【0049】
(a)従来、ダイヤモンド電極10の製造方法としては、
図8に示されるような方法が知られている。具体的には、基板21の全面にダイヤモンドの核成長領域23を形成した後(
図8(a))、基板21の全面にダイヤモンド膜11を形成する(
図8(b))。その後の分割工程として、基板21の裏面側からレーザ光により分割用の溝25を形成(
図8(c))し、外力によりダイヤモンド膜11を破断して分割する(
図8(d))。上記従来の製造方法では、高硬度なダイヤモンド膜11を分割する際、ダイヤモンド膜11の破断が必ずしも所望形状通りにならず、
図8(e)または
図9のように、ダイヤモンド膜11が不均一な形状に分割される場合があった。このため、複数のダイヤモンド電極10間で比較したときに、ダイヤモンド膜11の表面積にバラつきを生じる場合があった。
【0050】
これに対し、本実施形態では、
図5(b)のように、分割工程で、ダイヤ非形成領域21Eを外縁に残すように基板21を分割する。分割工程前に、表面積が均一となるようにダイヤモンド膜11の区画を形成しておくことで、分割後の複数電極間におけるダイヤモンド膜11の表面積を均一に保ちやすい。このようなダイヤモンド電極10は、電気化学センサユニット30として用いた場合、被験試料中の特定成分の濃度を検出する際に行う校正を簡略化しやすい。例えば、電気化学センサユニット30で特定成分の濃度を検出する際に、濃度が既知のサンプル液を用いて測定したセンサ出力と比較して、被験試料中の特定成分濃度を算出する際等において、ダイヤモンド膜11の表面積が複数のダイヤモンド電極10間で均一であると、既知の検量線を利用した濃度検出も行いやすくなる等、成分濃度の測定において有用である。
【0051】
(b)また、従来の製造方法では、分割工程において、何らかの要因により加工精度にズレが生じ、分割予定線Lが予定通りに配置されず、位置がずれる場合があった。従来の製造方法では、分割予定線Lの位置が、即ちダイヤモンド膜11の表面積を決定するラインであったため、分割予定線Lの位置ズレがあった場合、ダイヤモンド電極10のダイヤモンド膜11の表面積が変動しやすい。
【0052】
これに対し、本実施形態では、ダイヤ非形成領域21Eに分割予定線Lを配置するため、加工精度のずれが生じたとしても、分割予定線Lがダイヤ非形成領域21Eの範囲内にある場合、ダイヤモンド膜11の表面積には変動を与えない。このため、本実施形態の製造方法によれば、複数のダイヤモンド電極10間でもダイヤモンド膜11の表面積の均一なダイヤモンド電極10を提供しやすい。
【0053】
(c)従来の製造方法では、ダイヤモンド膜11が高硬度であるため、ダイヤモンド膜側(支持面12s側)からの加工は困難であり、ダイヤモンド膜側からの加工は歩留まりも低い傾向にあった。このため、従来の製造方法では、基板21の裏側からレーザ照射による分割用の溝25の形成等の加工を行うことが一般的であった。これに対し、本実施形態におけるダイヤモンド電極10は、支持体12の外縁にダイヤモンド膜11の非形成領域12Eを有することにより、硬度の高いダイヤモンド膜11を加工することなく、ダイヤ非形成領域21E(すなわち基板21)を加工対象とする。よって、基板21のダイヤモンド膜側からの加工により、分割工程を行ってよい。基板21のダイヤモンド膜側から加工を実施する場合、上記した分割予定線Lの配置ずれも、生じにくい傾向になる。
【0054】
(d)また、従来、分割工程においてレーザ光により分割用の溝25を形成する場合では、複数のレーザ照射が交差する領域(電極の角部に相当)において、レーザによる熱ダメージが過剰になりやすく、ダイヤモンド膜11が変性する場合があった。例えば、交差領域において、レーザが支持体12を貫通し、ダイヤモンド膜11が熱により変性するような場合があった。これに対し、本実施形態によれば、レーザ照射が交差する領域は、基板21のダイヤ非形成領域21Eとなるため、ダイヤモンド膜11の穴あき等の熱ダメージを懸念することなく、レーザ光を利用した分割工程を行える。
【0055】
(e)本実施形態のダイヤモンド電極10は、ダイヤモンド膜11、支持体12、または、ダイヤモンド膜11と支持体12とを、導電性材料で構成することにより、電気化学センサユニット用途に好適な電極を提供できる。かかるダイヤモンド電極10では、ダイヤモンド膜11表面の電気化学反応により生じた電流を、ダイヤモンド膜11から支持体12を経てセンサに流しやすくなる。
【0056】
(f)また、本実施形態のダイヤモンド電極10では、非形成領域12Eを含む支持体12の露出面が、酸化還元反応しないように不活性化されていることにより、電気化学センサユニット用途に好適な電極を提供できる。かかるダイヤモンド電極10では、非形成領域12Eを含む支持体12の露出面では、意図しない酸化還元反応を生じにくく、ダイヤモンド膜11でのみ測定対象物の酸化還元反応が生じやすくなり、特定成分の濃度を、より正確に検出しやすい。
【0057】
<第二実施形態>
次に、第二実施形態について図面を参照しながら説明する。ここでは、主として第一実施形態との相違点について説明する。
【0058】
(1)電極の構成
本実施形態のダイヤモンド電極10は、基本的なダイヤモンド電極10の構成およびダイヤモンド膜11の構成に関して、第一実施形態と同様の構成を適用できる。第一実施形態のダイヤモンド電極10との相違点として、本実施形態のダイヤモンド電極10は、支持体12の構成において、ダイヤモンド膜11の非形成領域12Eに核成長領域23が形成されている点が挙げられる。なお、本実施形態におけるダイヤモンド膜の非形成領域12Eは、支持体12の構成材料が剥き出しである領域や、支持体12の構成材料に酸化膜や窒化膜が形成されている領域を含む場合がある。また、第一実施形態と同様に、非形成領域12Eを含む支持体12の露出面は、酸化還元反応をしないように不活性化されていることが好ましい。
【0059】
(2)電極の製造方法
本実施形態のダイヤモンド電極10は、
図10に示した手順により製造することができる。具体的には、第一実施形態と同様に、ダイヤ非形成領域21Eによりダイヤモンド膜11を区画して形成する工程(工程A)の後、ダイヤ非形成領域21Eにある分割予定線Lに沿って、基板21を分割する工程(工程B)を行う。第二実施形態は、以下の通り工程Aにおいて、第一実施形態と相違点を有する。
【0060】
(工程A;ダイヤモンド膜を区画して形成する工程)
工程Aでは、第一実施形態と同様の基板21を用意する。その後、
図10(a)に示されるように、基板21の全面にダイヤモンドの核成長領域23を形成する点で、第一実施形態と相違する。核成長領域23の形成方法は、第一実施形態と同様に、種付けまたは傷付け処理を適用できる。その後、
図10(b)のように、ダイヤモンド膜11を形成しない予定の領域にマスク22を形成する。ここで、本実施形態に適用するマスク22としては、その後に行うダイヤモンド膜11の形成を、マスク22の存在下で行うことを考慮して選択することが好ましい。具体的には、第二実施形態では、600℃から1000℃の範囲で変質しにくい材料からなるマスク22を選択することが好ましく、例えば、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ等を適用できる。
【0061】
次に、上記で形成したマスク22を有したまま、
図10(c)のように、基板21上にダイヤモンド膜11を形成する。ダイヤモンド膜11の形成は、第一実施形態と同様に、例えば、熱フィラメントCVD法等により支持面21s上にダイヤモンド結晶を成長させることができる。熱フィラメントCVD装置、処理手順、結晶の成長条件等は、第一実施形態度と同様の方法としてよい。
【0062】
以上でダイヤモンド膜11を形成した後、マスク22を除去する。マスク22の除去は、適用するマスク22の種類に応じて、マスク22を剥離可能な任意の方法を利用できる。以上の工程により、
図10(d)のように、基板21上に、ダイヤ非形成領域21Eによって区画された複数のダイヤモンド膜11が形成される。
【0063】
(工程B;分割工程)
以上の工程Aで区画形成された複数のダイヤモンド膜11を有する基板21を、各種のダイシング方法により、所望形状のダイヤモンド電極10に分割する。分割工程では、第一実施形態と同様に、ダイヤ非形成領域21Eを外縁に残すように分割予定線Lを配置する。具体的なダイシング方法等は第一実施形態と同様の方法を適用できる。
【0064】
(3)効果
本実施形態によれば、第一実施形態で説明した効果に加えて、以下に示す効果が得られる。
本実施形態では、核成長領域23を形成した後にマスク22を形成する。この点、第一実施形態では、上記の通り、マスク22を形成した状態で核成長領域23を形成するため、マスク22の種類によっては、好適な核成長領域23の形成方法が限定的になる場合があった。一方、第二実施形態では、最初に核成長領域23を形成するため、核成長領域23の形成方法として、公知の方法を広く利用できる。
【0065】
<第三実施形態>
次に、第三実施形態について図面を参照しながら説明する。ここでは、主として第一実施形態との相違点について説明する。
【0066】
(1) 電極の構成
本実施形態のダイヤモンド電極10と、第一実施形態のダイヤモンド電極10との相違点として、本実施形態のダイヤモンド電極10は、支持体12に傾斜面12Gを有する点が挙げられる。その他の基本的なダイヤモンド電極10の構成およびダイヤモンド膜11の構成に関して、第一実施形態と同様の構成を適用できる。
【0067】
本実施形態のダイヤモンド電極10が有する傾斜面12Gは、非形成領域12Eの少なくとも一部に、支持体12の側面に対して傾斜するように構成されている。傾斜面12Gは、
図11に示されるように、支持体12の外縁の全周に有していてもよい。傾斜面12Gは、支持体12として単結晶Si基板を用いた場合において、単結晶材料の低指数面、すなわちファセットであってよい。このような傾斜面12Gは、加工歪みが少ないか、または、加工歪みを有しておらず、平滑な平面であってよい。傾斜面12Gの傾斜角度θは、支持体12の側面を基準とした支持面12sに向けた角度θが、40°以上90°未満であってよい。また、傾斜面12Gは、ダイヤモンド膜11の全周を囲うように構成されていてもよく、すなわち、非形成領域12Eの全面が傾斜面12Gであってもよい。
【0068】
(2)電極の製造方法
本実施形態のダイヤモンド電極10は、
図12に示した手順により製造することができる。具体的には、ダイヤモンド膜11を区画して形成する工程(工程A)を行う前に、前工程として、後述するスクライブ溝26の形成と、エッチング処理と、を行う点で第一実施形態とは異なる。以下、第一実施形態と相違する前工程の内容を中心に説明する。
【0069】
(前工程)
本実施形態では、工程Aの前に、以下の前工程を行う。まず、第一実施形態と同様の基板21を用意する。その後、
図12(a)に示されるように、基板21の支持面21s上において、分割予定線Lに沿ってスクライブ溝(溝)26を形成する。スクライブ溝26は、分割予定線Lと同様に、目的とするダイヤモンド電極10の形状に応じて任意に配置してよく、例えば、格子状に形成してよい。スクライブ溝26の形成は、任意の方法で行うことができ、例えば、ダイヤモンド等を備えるスクライバの利用や、レーザ加工等が挙げられる。スクライブ溝26は、基板21として単結晶Si基板等の単結晶材料を用いた場合において、単結晶材料の劈開方向に形成することが好ましい。
【0070】
以上によりスクライブ溝26を形成した後、基板21をエッチング処理する。このエッチング処理では、基板21上の凹凸や汚れ等によるダメージを除去する。特に、スクライブ溝の形成により生じたダメージを除去できる。また、スクライブ溝26以外の基板21の主面に存在するダメージも併せて除去できる。エッチング処理は、ウェットエッチングまたはドライエッチングのいずれで行ってもよい。ウェットエッチングの場合、例えばバッファードフッ酸水溶液、フッ酸水溶液等によるウェットエッチングが挙げられ、ドライエッチングの場合、アトミックレイヤーエッチング、中性粒子ビームエッチング等による低ダメージのエッチングが挙げられる。エッチング条件は、任意に設定することができ、例えば、バッファードフッ酸水溶液を用いたウェットエッチングの場合、室温において、基板21をエッチング液に5分浸漬する方法等を利用してよい。
【0071】
上記エッチング処理により、
図12(b)に示されるように、スクライブ溝に沿って、基板21の断面からみてV字形状である溝(V字型の溝)27が形成される。また、基板21が単結晶材料である場合、V字型の溝27を形成する面(傾斜面)として、単結晶材料の低指数面(ファセット面)が現れやすい。例えば、基板21の表面が方位(100)の結晶面である単結晶Siを用いた場合、V字型の溝27にはシリコンの(111)面ファセットが現れやすい。このように、V字型の溝27は、単結晶材料のファセットに由来することから、上記エッチングにより形成されたV字型の溝27を形成する各傾斜面は、平滑で加工歪みの少ない、または、加工歪みを有しない、平滑性を有する面になりやすい。
【0072】
(工程A;ダイヤモンド膜を区画して形成する工程)
以上の前工程を経た基板21に対し、基本的に第一実施形態と同様の方法で工程Aを行う。具体的には、
図12(c)に示されるように、V字型の溝27を含むダイヤ非形成領域21Eにマスク22を形成する。マスク22は、第一実施形態と同様にフレーム24により形成してもよい。その後、第一実施形態と同様の方法により、核成長領域23を形成した後、基板上のマスク22(または、フレーム24)を除去する。以上により形成した核成長領域23でダイヤモンド膜11を成長させる方法も、第一実施形態と同様でよい。以上により、
図12(d)のように、核成長領域23に区画してダイヤモンド膜11が形成される。
【0073】
(工程B;分割工程)
以上の工程Aを行った後、第一実施形態と同様に分割工程を行う。
図12(e)に示されるように、V字型の溝27に沿って分割予定線Lを配置する。本実施形態でも、第一実施形態と同様に任意のダイシング方法を利用できる。さらには、本実施形態では、上記の前工程により形成されたV字型の溝27等に沿って、例えば外力を加える方法等で分割してよい。
【0074】
(3) 効果
本実施形態によれば、第一実施形態で説明した効果に加えて、以下に示す効果が得られる。
本実施形態では、前工程において形成したV字型の溝27に沿って分割工程を行うことにより、安定かつ容易に、所望の形状に沿ったダイヤモンド電極10に分割しやすい。
【0075】
また、前工程において、エッチング処理により基板21上のダメージを除去しているため、ダイヤ非形成領域21Eでは、その後に行うダイヤモンド膜を区画して形成する工程において、意図しないダイヤモンド膜(ダイヤモンド核、ダイヤモンド粒)等が、さらに付着しにくく抑制される。このため、核成長領域23とダイヤ非形成領域21Eとの区画が、より的確に区分して形成される。また、エッチング処理では、V字型の溝27のみでなく、基板21の主面(平面部分)におけるダメージも除去されるため、この平面部分においても、ダイヤモンド膜等の意図しない付着が抑制される。
【0076】
<他の実施形態>
以上において本発明の実施形態を具体的に説明したが、本発明の技術的範囲は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0077】
例えば、ダイヤモンド結晶を成長させる際に、熱フィラメントCVD装置を用いることを例に説明したが、これに限定されない。また、ダイヤモンド結晶の成長前に行う種付け処理として、ダイヤモンド粒子を用いた例について説明したが、種の種類や粒子径、塗布方法等は、これに限定されない。また、傷つけ処理について、ダイヤモンド砥粒を用いた例について説明したが、砥粒の種類および傷つけ方法は、これに限定されない。
【0078】
ダイヤモンド膜11上に特定成分(例えば尿酸のみ)を透過させる機能膜やこの特定成分のみと反応する機能膜を設けてもよい。このような機能膜として、例えば検出成分に応じた所定の酵素を含有する膜やイオン交換膜等の所定の表面装飾膜が設けられていてもよい。
【0079】
被検液が尿である例について説明したが、これに限定されない。被検液は、尿の他、血液、涙、鼻水、唾液、汗等の体液であってもよい。また、被検液は人間由来のものに限定されず、動物由来のものであってもよい。また、上記の態様では、被検液中に含まれる特定成分として尿酸を電気分解させる例について説明したが、これに限定されない。ダイヤモンド電極10を有するセンサに印加される電圧が所定の電圧範囲内であれば、サイクリックボルタンメトリーの電圧掃引条件を適宜変更することで、種々の成分(物質)の濃度を測定することができる。
【0080】
また、ダイヤモンド電極10を電気化学センサユニット30の作用電極31として用いる例について説明したが、これに限定されない。例えば、化合物の電解または合成や水の電解等で用いられる電解用電極(例えばオゾン発生装置の電解用電極)として用いることもできる。
【0081】
ダイヤモンド膜11を区画して形成する工程におけるマスク22として、レジストを適用する場合やフレーム24を密着させる場合について説明したが、これに限定されない。また、マスク22の形成、核成長領域23の形成、マスク22の除去、ダイヤモンド膜11の形成の順序について、第一実施形態および第二実施形態を例に説明したが、これに限定されない。例えば、第一実施形態において、ダイヤモンド膜11を形成してからマスク22を除去してもよい。
【0082】
分割工程に関して、第一実施形態では、レーザ光を用いたダイシング方法について説明したが、これに限定されない。また、基板21の裏面側からのダイシング等だけでなく、支持面21s側(ダイヤモンド膜側)からのダイシング等も行うことができる。
【0083】
<本開示の好ましい態様>
以下、本開示の好ましい態様について付記する。
【0084】
(付記1)
本開示の一態様によれば、
支持体と、前記支持体のいずれか一方の主面上に形成されたダイヤモンド膜と、を有し、
前記ダイヤモンド膜の表面で被験試料中の成分との電気化学反応を生じさせる電気化学センサユニット用のダイヤモンド電極であって、
前記一方の主面は、前記支持体の外縁に前記ダイヤモンド膜の非形成領域を有するダイヤモンド電極が提供される。
【0085】
(付記2)
付記1に記載の電極であって、好ましくは、
前記ダイヤモンド膜が導電性ダイヤモンドで構成されている。
【0086】
(付記3)
付記1または付記2に記載の電極であって、好ましくは、
前記支持体が導電性材料で構成されている。
【0087】
(付記4)
付記1から付記3のいずれか1項に記載の電極であって、好ましくは、
前記非形成領域を含む支持体の露出面が、酸化還元反応しないように不活性化されている。
【0088】
(付記5)
付記1から付記4のいずれか1項に記載の電極であって、好ましくは、
前記非形成領域の少なくとも一部に、前記支持体の側面に対して傾斜する傾斜面を有する。
【0089】
(付記6)
付記1から付記5のいずれか1項に記載の電極であって、好ましくは、
前記支持体の外縁の全周に前記傾斜面を有する。
【0090】
(付記7)
本開示の別の態様によれば、
作用電極と、対電極と、を備え、
前記作用電極は、支持体と、前記支持体のいずれか一方の主面上に形成されたダイヤモンド膜と、を有しつつ、前記ダイヤモンド膜の表面で被験試料中の成分との電気化学反応を生じさせるダイヤモンド電極であり、
前記一方の主面は、前記支持体の外縁に前記ダイヤモンド膜の非形成領域を有する電気化学センサユニットが提供される。
【0091】
(付記8)
本開示の他の態様によれば、
基板のいずれか一方の主面上に複数のダイヤモンド膜を、ダイヤ非形成領域により区画して形成する工程と、
前記ダイヤ非形成領域にある分割予定線に沿って、前記基板を分割する基板の分割工程と、を有し、
前記分割工程では、前記ダイヤ非形成領域を基板の外縁に残すように前記基板を分割する電気化学センサユニット用のダイヤモンド電極の製造方法が提供される。
【0092】
(付記9)
付記8に記載の製造方法であって、好ましくは、
前記ダイヤモンド膜を形成する工程では、前記基板上にマスクをして前記ダイヤ非形成領域を配置した後にダイヤモンドの核成長領域を形成し、
その後、前記マスクを除去してから、前記核成長領域で前記ダイヤモンド膜を成長させる。
【0093】
(付記10)
付記8に記載の製造方法であって、好ましくは、
前記ダイヤモンド膜を形成する工程では、前記基板にダイヤモンドの核成長領域を形成した後に、マスクにより前記ダイヤ非形成領域を配置し、
その後、前記核成長領域でダイヤモンドの膜を成長させる。
【0094】
(付記11)
付記9に記載の製造方法であって、好ましくは、
前記基板上に前記分割予定線に沿ってスクライブ溝を形成し、前記基板上をエッチング処理した後、前記ダイヤモンド膜を形成する工程を行う。
【0095】
(付記12)
付記11に記載の製造方法であって、好ましくは、
前記エッチング処理により、前記スクライブ溝を基板断面からみてV字型の溝とする。
【0096】
(付記13)
付記11または付記12に記載の製造方法であって、好ましくは、
前記基板が単結晶材料であり、前記V字型の溝を形成する面が前記単結晶材料のファセットである。
【0097】
(付記14)
付記11から付記13のいずれかに記載の製造方法であって、好ましくは、
前記エッチング処理はウェットエッチング又はドライエッチングにより行い、前記V字型の溝を形成する面は加工歪みを有していない。
【0098】
(付記15)
付記11から付記14のいずれかに記載の製造方法であって、好ましくは、
前記基板が単結晶材料であり、前記スクライブ溝を単結晶材料の劈開方向に形成する。
【0099】
(付記16)
付記8から付記15のいずれかに記載の製造方法であって、好ましくは、
前記ダイヤ非形成領域を含む基板の露出面を不活性化する。
【0100】
(付記17)
付記8から付記16のいずれかに記載の製造方法であって、好ましくは、
前記ダイヤモンドの膜形成工程において、導電性ダイヤモンドを成長させる。
【0101】
(付記18)
付記8から付記17のいずれかに記載の製造方法であって、好ましくは、
前記支持体として、導電性材料を用いる。
【符号の説明】
【0102】
10 電極
11 ダイヤモンド膜
12 支持体
12E ダイヤモンド膜の非形成領域
12s 支持面