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特開2023-162692セシウムタングステン酸化物粒子の製造方法、セシウムタングステン酸化物粒子の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162692
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】セシウムタングステン酸化物粒子の製造方法、セシウムタングステン酸化物粒子の評価方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 41/00 20060101AFI20231101BHJP
   G01N 23/2273 20180101ALI20231101BHJP
   C09K 3/00 20060101ALN20231101BHJP
【FI】
C01G41/00 A
G01N23/2273
C09K3/00 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073240
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】足立 健治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 奈織美
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 佳世
【テーマコード(参考)】
2G001
4G048
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA07
2G001CA03
2G001JA05
2G001MA04
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC08
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
(57)【要約】
【課題】製造したセシウムタングステン酸化物粒子について、容易に還元状態を確認できるセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】セシウムとタングステンを含む前駆体酸化物を還元雰囲気で熱処理する加熱還元工程と、
前記加熱還元工程で得られたセシウムタングステン酸化物粒子について、X線光電子分光法で光電子スペクトルを測定する測定工程と
前記測定工程で得られた前記光電子スペクトルのエネルギーの補正を行う補正工程と、
前記補正工程でエネルギーの補正を行った前記光電子スペクトルのうち、タングステン原子のW4fスペクトルを用いて、W6+のピークと、W5+のピークにピーク分離を行うピーク分離工程と、
前記ピーク分離工程で得られた前記W6+のピークと、前記W5+のピークとの合計に対する、前記W5+のピークの面積割合を算出する評価工程と、を有するセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セシウムとタングステンを含む前駆体酸化物を還元雰囲気で熱処理する加熱還元工程と、
前記加熱還元工程で得られたセシウムタングステン酸化物粒子について、X線光電子分光法で光電子スペクトルを測定する測定工程と
前記測定工程で得られた前記光電子スペクトルのエネルギーの補正を行う補正工程と、
前記補正工程でエネルギーの補正を行った前記光電子スペクトルのうち、タングステン原子のW4fスペクトルを用いて、W6+のピークと、W5+のピークにピーク分離を行うピーク分離工程と、
前記ピーク分離工程で得られた前記W6+のピークと、前記W5+のピークとの合計に対する、前記W5+のピークの面積割合を算出する評価工程と、を有するセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
前記前駆体酸化物がnCsO・mWO(n、mは整数、3.6≦m/n≦9.0)を含む請求項1に記載のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
前記評価工程で算出した前記セシウムタングステン酸化物粒子の前記W6+のピークと、前記W5+のピークとの合計に対する、前記W5+のピークの面積割合が0.25以上である請求項1または請求項2に記載のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
セシウムタングステン酸化物粒子について、X線光電子分光法で光電子スペクトルを測定する測定工程と
前記測定工程で得られた前記光電子スペクトルのエネルギーの補正を行う補正工程と、
前記補正工程でエネルギーの補正を行った前記光電子スペクトルのうち、タングステン原子のW4fスペクトルを用いて、W6+のピークと、W5+のピークにピーク分離を行うピーク分離工程と、
前記ピーク分離工程で得られた前記W6+のピークと、前記W5+のピークとの合計に対する、前記W5+のピークの面積割合を算出する評価工程と、を有するセシウムタングステン酸化物粒子の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セシウムタングステン酸化物粒子の製造方法、セシウムタングステン酸化物粒子の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光線に含まれる近赤外線は、窓材等を透過して室内に入り込み、室内の壁や床の表面温度を上昇させ、室内気温も上昇させる。室内の温熱環境を快適にするために、窓材等に遮光部材を用いるなどして、窓から侵入する近赤外線を遮ることで、室内気温を上昇させないことが従来からなされていた。
【0003】
窓材等に使用される遮光部材として、特許文献1には、カーボンブラック、チタンブラック等の無機顔料や、アニリンブラック等の有機顔料等の黒色微粉末を含有する遮光フィルムが提案されている。
【0004】
本出願人は、特許文献2に、赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、当該赤外線遮蔽材料微粒子は、タングステン酸化物微粒子または/及び複合タングステン酸化物微粒子を含有し、当該赤外線材料微粒子の分散粒子径が1nm以上800nm以下である赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-029314号公報
【特許文献2】国際公開第2005/037932号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K. Adachi and T.Asahi, "Activation of plasmons and polarons in solar control cesium tungsten bronze and reduced tungsten oxide nanoparticles," Journal of Material Research,Vol.27,965-970(2012)
【非特許文献2】S.Yoshio and K.Adachi, "Polarons in reduced cesium tungsten bronzes studied using the DFT+U method," Materials Research Express, Vol. 6, 026548 (2019)
【非特許文献3】K. Machida, M. Okada, and K. Adachi, "Excitations of free and localized electrons at nearby energies in reduced cesium tungsten bronze nanocrystals," Journal of Applied Physics, Vol. 125, 103103 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、複合タングステン酸化物粒子は、還元状態により可視光領域(波長380nm~780nm)の光の透過性と赤外領域(波長780nm以上)の光の吸収特性が変化する。このため、所望の光学特性が得られることを確認するために、作製した複合タングステン酸化物を微粒子化し、溶媒や樹脂などの媒体に分散して分散液や分散体としてから光学特性を評価する必要があった。しかしながら、分散液等の作製には手間や時間を要し、微粒子の粒度や分散状態によっては、複合タングステン酸化物粒子の光学特性を適切に評価できないことがあった。
【0008】
そこで、本発明の一側面では、製造したセシウムタングステン酸化物粒子について、容易に還元状態を確認できるセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面では、セシウムとタングステンを含む前駆体酸化物を還元雰囲気で熱処理する加熱還元工程と、
前記加熱還元工程で得られたセシウムタングステン酸化物粒子について、X線光電子分光法で光電子スペクトルを測定する測定工程と
前記測定工程で得られた前記光電子スペクトルのエネルギーの補正を行う補正工程と、
前記補正工程でエネルギーの補正を行った前記光電子スペクトルのうち、タングステン原子のW4fスペクトルを用いて、W6+のピークと、W5+のピークにピーク分離を行うピーク分離工程と、
前記ピーク分離工程で得られた前記W6+のピークと、前記W5+のピークとの合計に対する、前記W5+のピークの面積割合を算出する評価工程と、を有するセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面では、製造したセシウムタングステン酸化物粒子について、容易に還元状態を確認できるセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の一態様に係るセシウムタングステン酸化物粒子の還元度合いの評価方法のフローである。
図2図2は、赤外線吸収粒子分散液の模式図である。
図3図3は、赤外線吸収粒子分散体の模式図である。
図4図4は、赤外線吸収基材の模式図である。
図5図5は、赤外線吸収積層体の模式図である。
図6図6は、実験例1~実験例6で得られたセシウムタングステン酸化物粒子について測定したW4fの光電子スペクトルである。
図7図7は、実験例1~実験例6で得られたセシウムタングステン酸化物粒子について測定したO1sの光電子スペクトルである。
図8図8は、実験例1~実験例6で得られたセシウムタングステン酸化物粒子について測定したCs3d5/2の光電子スペクトルである。
図9図9は、実験例1~実験例6で得られたセシウムタングステン酸化物粒子について測定したC1sの光電子スペクトルである。
図10図10は、実験例1~実験例6で取得したW4fスペクトルを用いて算出したW5+/(W6++W5+)の比率である。
図11図11は、実験例1~実験例6で取得したO1sスペクトルを用いて算出したO-W6+、O-W5+、O=Cのうちの、O-W5+、O=Cの比率である。
図12図12は、実験例1~実験例6で取得したCs3d5/2スペクトルを用いて算出したCs-O、Cs-VのうちのCs-Vの比率である。
図13図13は、実験例1~実験例6で取得したC1sスペクトルを用いて算出したC-C、C-H、C-O、C=O、O-C=Oの割合である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係るセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法、セシウムタングステン酸化物粒子の評価方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
[セシウムタングステン酸化物粒子の製造方法]
本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法により得られるセシウムタングステン酸化物粒子について説明する。
1.セシウムタングステン酸化物粒子
本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子は、セシウムタングステン酸化物を含有できる。なお、本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子は、セシウムタングステン酸化物から構成することもできるが、係る場合でも不可避不純物を含有することを排除するものではない。
【0013】
六方晶のセシウムタングステン酸化物(セシウム添加六方晶タングステンブロンズ(以下Cs-HTBと短縮する))の透過色は、その誘電関数虚部(ε)、およびバンド構造(非特許文献2)により規定される。なお、Cs-HTBについて、実験的に得られたεは非特許文献1に掲載されている。
【0014】
可視光線のエネルギー領域(1.6eV以上3.3eV以下)において、Cs-HTBはバンドギャップが十分に大きくなっている。加えてタングステンのd-d軌道間電子遷移などがFermi黄金律により禁制となるため電子遷移の確率が小さくなり、εが小さい値を取る。εは電子による光子の吸収を表わすため、εが可視波長で小さければ可視光透過性が生ずる。しかしながら可視光線領域で波長が最も短い青波長の近傍では、バンド間遷移による吸収が存在し、また波長が最も長い赤波長の近傍では、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)吸収とポーラロニックな電子遷移吸収が存在する(非特許文献3)。このため、それぞれ光透過性の制約を受ける。
【0015】
上述の様にCs-HTBではバンドギャップが十分大きいためにバンド間遷移が青波長の光のエネルギー以上となり、青の透過性が高くなる。逆に赤波長の側では、Cs-HTBは伝導電子が多いためLSPR吸収とポーラロニック吸収が強くなり、同時に吸収波長が赤波長の側に近寄るため、透過性が低くなる。
【0016】
後述する本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法で加熱還元工程に供する前駆体酸化物において、陽性元素であるCsとWの電荷はOによって中和されており、通常非導電体である場合が多い。例えば、Cs22、Cs2063、Cs19、Cs1135、Cs1136、Cs10などWO-CsOラインに並ぶ化合物では、価数がバランスしているため、フェルミエネルギーEは価電子帯と伝導帯の間に存在し、非導電体となっている。Cs/W比(モル比)が0.2以上では、イオン半径の大きなCsを取り込むために、W-O八面体が作る基本骨格は、大きな六方空隙を有する六方対称の構造か、または大きな六方空隙を持つ六方晶や立方晶(パイロクロア構造)の原子配列にW欠損(タングステン欠損)を含む面欠陥が入って対称性が斜方晶や単斜晶に下がった結晶構造となっている。
【0017】
加熱還元によって例えば斜方晶が六方晶になる時、斜方晶中のW欠損を含む面欠陥は徐々に消滅して、W-O八面体の六方晶骨格が形成される。
【0018】
加熱還元時の結晶構造変化に伴って、電子構造も変化する。W欠損の消滅は材料に多量の電子注入をもたらす。斜方晶ではCsの外殻電子はOの中和に費やされて全体として電荷中性となっているが、W欠損が減少して擬六方晶になると、W原子1個当たり6個の外殻電子がOの中和に費やされることにより、Csの外殻電子は伝導帯下部のW-5d軌道に入って自由電子となる。この自由電子はLSPR吸収により近赤外線の吸収をもたらす。一方加熱還元は、同時にVを生成する作用がある。Vが生ずるとその両隣のW原子は電荷過剰となり、W5+に束縛された局在電子が発生する(非特許文献2)。この局在電子は伝導帯上部の空位に遷移してポーラロニック吸収をもたらすが、一部は自由電子軌道に励起されてLSPR吸収をもたらす(非特許文献3)。
【0019】
従って、セシウムタングステン酸化物粒子の前駆体酸化物である、例えばnCsO・mWO(n、mは整数、3.6≦m/n≦9.0)の結晶粉末を還元し、還元度合いを調整することで、可視光線を透過し、赤外線を吸収するセシウムタングステン酸化物粒子を得ることができる。
【0020】
そして、本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子は、一般式Cs1-y3-z(0.2≦x≦0.4、0<y≦0.4、0<z≦0.46)で表わされるセシウムタングステン酸化物を含有することが好ましい。また、該セシウムタングステン酸化物は、斜方晶または六方晶の結晶構造を備えていることが好ましい。
【0021】
セシウムタングステン酸化物粒子が、上記一般式を充足することで、W欠損や、酸素の空孔Vの程度が適切な範囲にあり、分散させてセシウムタングステン酸化物粒子分散体等とした場合に、日射透過率を抑制しつつも、すなわち赤外線を吸収しつつ、可視光線を透過させることができる。
【0022】
本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の平均粒径は特に限定されないが、0.1nm以上200nm以下であることが好ましい。これは、セシウムタングステン酸化物粒子の平均粒径を200nm以下とすることで、局在表面プラズモン共鳴がより顕著に発現されるため、近赤外線吸収特性を特に高めることができる、すなわち日射透過率を特に抑制できるからである。また、セシウムタングステン酸化物粒子の平均粒径を0.1nm以上とすることで、工業的に容易に製造することができるからである。また粒子径は、セシウムタングステン酸化物粒子を分散させた分散透過膜であるセシウムタングステン酸化物粒子分散体等の色と密接に関係しており、ミー散乱が支配的な粒径範囲では、粒径が小さいほど可視光線領域の短波長の散乱が減少する。従って粒径を大きくすれば青い色調を抑制する作用があるが、100nmを超えると光散乱に伴う膜のヘイズが無視できない大きさとなり、200nmを超えると膜のヘイズの上昇に加えて、表面プラズモンの発生が抑制されてLSPR吸収が小さくなる傾向を示す。
【0023】
例えば自動車のフロン卜ガラスのように、特に可視光線領域の透明性を重視する用途に適用する場合には、さらにセシウムタングステン酸化物粒子による散乱低減を考慮することが好ましい。当該散乱低減を重視する場合には、セシウムタングステン酸化物粒子の平均粒径は30nm以下であることが特に好ましい。
【0024】
セシウムタングステン酸化物粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡像から測定された複数のセシウムタングステン酸化物粒子のメジアン径や、分散液の動的光散乱法に基づく粒径測定装置で測定される分散粒径から知ることができる。
【0025】
平均粒径とは粒度分布における積算値50%での粒径を意味しており、本明細書において他の部分でも平均粒径は同じ意味を有している。平均粒径を算出するための粒度分布の測定方法としては、例えば透過型電子顕微鏡を用いて粒子ごとの粒径の直接測定を用いることができる。また、平均粒径は、上述のように分散液の動的光散乱法に基づく粒径測定装置により測定することもできる。
【0026】
本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子は、表面保護や、耐久性向上、酸化防止、耐水性向上などの目的で、表面処理が施されていてもよい。表面処理の具体的な内容は特に限定されないが、例えば、本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子は、セシウムタングステン酸化物粒子の表面を、Si、Ti、Zr、Alから選択された1種類以上の原子を含む化合物で修飾することができる。この際Si、Ti、Zr、Alから選択された1種類以上の原子(元素)を含む化合物としては、酸化物、窒化物、炭化物等から選択された1種類以上が挙げられる。
2.セシウムタングステン酸化物粒子の製造方法
本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法によれば、例えば既述のセシウムタングステン酸化物粒子を製造できるため、既に説明した事項については、一部説明を省略する。ここでは、セシウムタングステン酸化物粒子の製造方法の一構成例について説明する。
【0027】
本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法は、例えば以下の加熱還元工程、測定工程、補正工程、ピーク分離工程、および評価工程を有することができる。
【0028】
加熱還元工程は、セシウムとタングステンを含む前駆体酸化物を還元雰囲気で熱処理する。
【0029】
測定工程は、加熱還元工程で得られたセシウムタングステン酸化物粒子について、X線光電子分光法で光電子スペクトルを測定する。
【0030】
補正工程は、測定工程で得られた光電子スペクトルのエネルギーの補正を行う。
【0031】
ピーク分離工程は、補正工程でエネルギーの補正を行った光電子スペクトルのうち、タングステン原子のW4fスペクトルを用いて、W6+のピークと、W5+のピークにピーク分離を行う。
【0032】
評価工程は、ピーク分離工程で得られたW6+のピークと、W5+のピークとの合計に対する、W5+のピークの面積割合を算出する。
【0033】
以下、各工程について説明する。
(1)加熱還元工程
加熱還元工程では、出発物質としてのセシウムとタングステンを含む前駆体酸化物、具体的には例えば、斜方晶、単斜晶、擬六方晶から選択された1種以上の結晶構造を有するセシウムタングステン酸塩を、還元雰囲気で熱処理できる。
【0034】
加熱還元工程における熱処理条件は特に限定されないが、上述のセシウムタングステン酸化物前駆体を、還元性気体の雰囲気中650℃以上950℃以下で加熱、還元することが好ましい。
【0035】
650℃以上とすることで斜方晶等から六方晶への構造変化を十分に進行させ、赤外線吸収効果を高められる。また、950℃以下とすることで、結晶構造変化のスピードを適切に保ち、容易に適切な結晶状態と電子状態に制御することができる。なお、上記加熱温度を950℃よりも高くし、還元が行き過ぎるとWメタルやWOなどの低級酸化物が生成される場合があり、係る観点からも好ましくない。加熱還元工程を実施することで、所望の組成のセシウムタングステン酸化物を含有するセシウムタングステン酸化物粒子が得られる。
【0036】
加熱還元工程において、加熱還元処理を行う場合、還元性気体の気流下で行うことが好ましい。還元性気体としては、水素等の還元性ガスと、窒素、アルゴン等から選択された1種類以上の不活性ガスとを含む混合気体を用いることができる。また水蒸気雰囲気や真空雰囲気での加熱その他のマイルドな加熱、還元条件を併用しても良い。
【0037】
セシウムタングステン酸化物粒子の前駆体酸化物を還元する際の加熱温度は特に限定されないが、上述のように650℃以上950℃以下が好ましい。
(2)測定工程
測定工程は、加熱還元工程で得られたセシウムタングステン酸化物粒子について、X線光電子分光法で光電子スペクトルを測定する。
【0038】
本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法は、加熱還元工程で得られたセシウムタングステン酸化物の還元状態を評価できる。
【0039】
上記評価を行うことで、例えば適切な還元状態にあるセシウムタングステン酸化物を選別できる。評価結果に基づいて選別を行うことで、本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法によって、赤外線吸収能を示すセシウムタングステン酸化物を製造できる。
【0040】
また、例えば上記評価結果に基づいて、加熱還元工程における加熱還元条件、例えば還元温度や、還元時間、雰囲気の濃度等の条件を選定することができる。
【0041】
セシウムタングステン酸化物粒子の還元度合いの評価方法は、図1に示したフロー10のように、測定工程(S1)、補正工程(S2)、ピーク分離工程(S3)、評価工程(S4)を有する。
【0042】
測定工程(S1)では、試料である加熱還元工程で得られたセシウムタングステン酸化物粒子について、X線光電子分光法で光電子スペクトルを測定する。測定に供する試料の調製方法は特に限定されず、通常のXPSの測定と同様の手順、方法で調製できる。
【0043】
測定工程(S1)で、試料に照射するX線の線源、エネルギーは特に限定されないが、一般的なXPS装置で汎用的に用いられるAl-Kα線の1487eVを用いることが好ましい。
【0044】
X線のビーム径(X線径)も特に限定されないが、10μmφ以上500μmφ以下の範囲で選択することが好ましい。
【0045】
試料上の測定領域の形状やサイズも特に限定されないが、例えば100μm角以上1000μm角以下の範囲で選択することが好ましい。
【0046】
光電子スペクトルを測定する際のエネルギーステップは、0.1eV以上0.2eV以下の範囲から選択することが好ましい。光電子スペクトルを測定する際のエネルギーステップを0.2eV以下とすることで、得られる光電子スペクトルのピーク形状やピークトップの位置等を正確に測定できる。また、光電子スペクトルを測定する際のエネルギーステップを0.1eV以上とすることで、測定に要する時間を抑制できる。
【0047】
光電子スペクトルを測定する際のパスエナジーは特に限定されないが、例えば15eV以上50eV以下であることが好ましく、20eV以上40eVであることがより好ましい。パスエナジーはアナライザー内部の偏向電極間に印加する電場の大きさを意味する。
【0048】
パスエナジーを15eV以上とすることで、測定感度を高めることができる。また、パスエナジーを50eV以下とすることで、光電子スペクトルを測定する際の分解能を高めることができる。
(3)補正工程
補正工程(S2)では、測定工程(S1)で得られた光電子スペクトルのエネルギーを補正する。補正の方法は特に限定されず、XPSで一般的に行われる方法で良い。例えば大気中から試料表面に付着した炭化水素成分に由来するC1sのC-C結合およびC-H結合のピークを用いる方法や、貴金属を試料表面に付与あるいは試料中に混合し、その貴金属由来ピークを用いる方法、などを使用することができる。
(4)分離工程
分離工程(S3)では、補正工程でエネルギーの補正を行った光電子スペクトルのうち、タングステン原子のW4fスペクトルを用いて、W6+のピークと、W5+のピークにピーク分離を行う。
【0049】
なお、分離工程では、任意にタングステン以外のピークについてもピーク分離を行うことができる。ここでは最初にタングステンのピーク分離について説明する。
(4-1)タングステンのピーク分離について
タングステンは約30eVから約40eVのエネルギー範囲に見られるW4fスペクトルを用いてピーク分離を行う。ピーク分離に用いる成分とそのパラメータを表1に示す。
【0050】
【表1】
タングステンの価数としては6価および5価の成分が挙げられ、6価のうち、成分1はW4f7/2、成分2はW4f5/2に相当する。また、5価の成分も同様に、成分3はW4f7/2、成分4はW4f5/2に相当する。
【0051】
各成分のエネルギーは、成分1は35eV以上36eV以下の初期値とし、成分3は33eV以上35eV以下の初期値とする。成分2は成分1のエネルギーに2.18eVを加える制約をかけ、成分4は成分3のエネルギーに2.18eVを加える制約をかける。この2.18eVはW4fがスピン軌道相互作用によりW4f7/2とW4f5/2とに分裂する際のエネルギー差に相当する。
【0052】
さらに各成分のピーク面積比は、成分2は成分1の0.75倍とする制約をかけ、成分4は成分3の0.75倍とする制約をかける。この0.75倍はW4fがスピン軌道相互作用によりW4f7/2とW4f5/2とに分裂する際のそれぞれのピーク面積比に相当する。
【0053】
また、各成分の半価幅は、成分1と成分2は同一になるように制約をかけ、成分3と成分4も同一になるように制約をかける。
【0054】
ここで、W4fスペクトルの高結合エネルギー側の約40eV以上45eV以下にW5p3/2ピークが見られる場合がある。その場合は、さらに追加成分としてW5p3/2ピークを設定することができる。ただし、この成分のピーク面積は以下のW6+およびW5+の存在割合の算出には用いない。
【0055】
ピーク分離を行うソフトウェアは、装置付属のソフトウェアやその他のソフトウェアなど特に限定されないが、上記パラメータや制約条件を設定し、最小二乗法を用いたピークフィットによるピーク分離を行う。ここで、成分1と成分2のピーク面積の和を6価のピーク面積とし、成分3と成分4のピーク面積の和を5価のピーク面積とする。さらに、成分1から成分4までのピーク面積の和に対する6価のピーク面積の割合をW6+の存在割合とし、成分1から成分4までのピーク面積の和に対する5価のピーク面積の割合をW5+の存在割合として、後述する評価工程で算出できる。
(4-2)酸素のピーク分離について
次に、酸素のピーク分離について説明する。酸素は約527eVから約535eVのエネルギー範囲に見られるO1sスペクトルを用いてピーク分離を行う。ピーク分離に用いる成分とそのパラメータを表2に示す。酸素についてもタングステンと同様に装置付属のソフトウェアやその他のソフトウェアを用いてピーク分離をすることができる。
【0056】
【表2】
酸素のピーク分離成分としては、表2に示す成分5から成分8の4成分が挙げられる。成分5はタングステン6価と結合した酸素であり、W6+-O-W6+と表記する。成分6はタングステン6価およびタングステン5価と結合した酸素であり、W6+-O-W5+と表記する。成分7はタングステン5価と結合した酸素およびC=O結合の酸素であり、W5+-O-W5+、O=Cと表記する。成分8はC-O結合の酸素とする。酸素の成分にはしばしば水酸基成分O-H、O-Hが含有されるが、前駆体の650℃以上950℃以下での加熱を経るとほとんどの水酸基成分は蒸散して無くなっている。また炭酸成分はコンタミによりC-OおよびC=O成分としてO1sピークに入ってくる。
【0057】
酸素の各成分のエネルギーは、成分5は529.0eV以上530.1eV以下の初期値とし、成分6は成分5のエネルギーに0.9eVを加える制約をかけ、成分7は成分5のエネルギーに2.0eVを加える制約をかけ、成分8は532.6eVの初期値とした。
【0058】
酸素の各成分の半価幅は、成分5、成分6、成分7は同一になるように制約をかけ、成分5の初期値は0.5eV以上2.0eV以下とした。また、成分8の初期値も0.5eV以上2.0eV以下とした。
【0059】
酸素の各成分のピーク分離処理により、成分5から成分8までのピーク面積の和に対する成分5のピーク面積の割合をO-W6+の存在割合とし、成分5から成分8までのピーク面積の和に対する成分6と成分7のピーク面積の和の割合をO-W5+、O=Cの存在割合として算出できる。試料の還元状態を知る情報として、全W(W6++W5+)に対するW5+の存在割合が、O1sの成分5から成分7までのピーク面積の和に対する成分6と成分7のピーク面積の和の割合から求められる。成分7にはO=Cの寄与が含まれるが、C1sのピーク分離結果からO=C成分の量は通常は非常に少なく無視できるほどであるので、W5+/WをO1sピークから求めるためにW5+の量として成分6に加えて成分7を用いても大きな誤差は生じないと判断された。このようにしてO1sのピーク分離からW5+の存在割合を求めることが可能であるが、精度においてはW4fピーク分離から求めた値の方が高いので、参考値として取り扱われる。
(4-3)セシウムのピーク分離について
次に、セシウムのピーク分離について説明する。セシウムは約720eVから約728eVのエネルギー範囲に見られるCs3d5/2スペクトルを用いてピーク分離を行う。セシウムについてもタングステンと同様に装置付属のソフトウェアやその他のソフトウェアを用いてピーク分離をすることができる。ピーク分離に用いる成分とそのパラメータを表3に示す。
【0060】
【表3】
成分9は酸素と結合したセシウムに相当し、成分10は酸素空孔の影響でエネルギーシフトした成分に相当する。酸素空孔はW5+の発生源であり(非特許文献2,3)、酸素空孔の量は直接還元度合いに対応する。従って成分10の割合は優れた赤外線吸収効果を得るのに有用な情報を与えるが、その精度においてはW4fピークから得られるW5+成分比(W5+の存在割合)の情報が勝っているため、参考値として取り扱われる。
【0061】
セシウムの各成分の半価幅は、成分9と成分10が同一になるように制約をかけ、成分9の初期値は0.5eV以上2.0eV以下とした。
【0062】
セシウムの各成分のピーク分離処理により、成分9と成分10のピーク面積の和に対する成分9のピーク面積の割合をCs-Oの存在割合とし、成分9と成分10のピーク面積の和に対する成分10のピーク面積の割合を酸素空孔の影響でエネルギーシフトした成分(Cs-Vと示す)の存在割合として算出できる。
(4-4)炭素のピーク分離について
次に炭素のピーク分離について説明する。炭素は約280eVから約293eVのエネルギー範囲に見られるC1sスペクトルを用いてピーク分離を行う。ピーク分離に用いる成分とそのパラメータを表4に示す。炭素についてもタングステンと同様に装置付属のソフトウェアやその他のソフトウェアを用いてピーク分離をすることができる。
【0063】
【表4】
炭素のピーク分離成分としては、表4に示す成分11から成分14の4成分が挙げられる。成分11はC-C、C-H結合の炭素、成分12はC-O結合の炭素、成分13はC=O結合の炭素、成分14はO-C=O結合の炭素に相当する。各成分のエネルギーは成分11および成分14は表4に示す範囲で可変とし、成分12および成分13は表4に示す値で固定した。各成分の半価幅は、成分11から成分14まで全て同一になるように制約をかけ、成分11の初期値は0.5eV以上2.0eV以下とした。
【0064】
炭素の各成分のピーク分離処理により、成分11から成分14のピーク面積の和に対する成分11、成分12、成分13、成分14のそれぞれのピーク面積の割合を、各成分の存在割合として算出できる。
(5)評価工程
赤外線吸収材料としてのセシウムタングステン酸化物粒子の還元度合いの評価で重要になるのが、セシウムタングステン酸化物粒子のW5+の評価である。具体的には、セシウムタングステン酸化物粒子が含有するW5+の、W5+とW6+の合計に対する割合により、セシウムタングステン酸化物粒子の還元度合いを知ることができる。
【0065】
このため、評価工程(S4)では、W5+の、W5+とW6+の合計に対する割合に相当する、ピーク分離工程(S3)で得られたW6+のピークと、W5+のピークとの合計に対する、W5+のピークの面積割合を算出する。
【0066】
セシウムタングステン酸化物粒子の還元度合いにより、赤外線吸収の能力を適宜選択することができ、W5+の、W5+とW6+の合計に対する割合は特に限定されない。例えば、評価工程で算出した、セシウムタングステン酸化物粒子のW6+のピークと、W5+のピークとの合計に対する、W5+のピークの面積割合(以下、「面積割合」とも記載する)は0.25以上であることが好ましい。上記面積割合が0.25以上のセシウムタングステン酸化物粒子とすることで、可視光線の透過性や、赤外線の吸収特性を高めることができる。より詳しく説明すると、上記面積割合が0.25以上のセシウムタングステン酸化物粒子を媒体に分散した赤外線吸収粒子分散体は、可視光透過率を72%付近に調整した場合に、日射透過率が50%以下を実現でき、優れた赤外線吸収特性を実現できる。
【0067】
また、図10に示されるように、酸化物前駆体の還元時間などの製造条件を変動させた場合に、セシウムタングステン酸化物粒子のW5+の、W5+とW6+の合計に対する割合のピークとなる条件を最適条件として選択できる。
【0068】
セシウムタングステン酸化物粒子の還元度合いを適切に評価することで、加熱還元工程の条件が適切であるかを判断できる。例えば、すでに得られている目標の赤外線吸収特性を示すセシウムタングステン酸化物の還元度合いを知っていれば、還元炉などの装置を変更するなどして製造条件を変更する場合でも、変更後に合成したセシウムタングステン酸化物の還元度合いを評価することで、装置変更後の還元時間、還元温度や雰囲気の濃度などの製造条件の最適化をおこなうことができる。
【0069】
従来であれば、セシウムタングステン酸化物粒子の還元時間、還元温度や雰囲気の濃度などの製造条件を変更した場合の特性は、得られたセシウムタングステン酸化物粒子を微粒子化し、媒体に分散して赤外線吸収特性などの光学特性を評価する必要があった。しかし、微粒子化や媒体への分散が適切に行えない場合もあり、適切に評価できなこともあった。
【0070】
これに対して、本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法によれば、得られたセシウムタングステン酸化物粒子を微粒子化することなく、セシウムタングステン酸化物粒子をX線光電子分光法で測定することで還元の度合いを知ることができる。すなわち、本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法によれば、製造したセシウムタングステン酸化物粒子について、容易に還元状態を確認できる。さらに、本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法によれば、得られたセシウムタングステン酸化物粒子について、所望の赤外線吸収特性を発揮できるかを確認することができる。また、本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法によれば、得られるセシウムタングステン酸化物粒子の赤外線吸収特性を予測して、セシウムタングステン酸化物粒子の製造条件を割り出すことができる。
【0071】
本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法は既述の加熱還元工程、測定工程、補正工程、ピーク分離工程、および評価工程以外に以下に説明する任意の工程を有することもできる。
(6)セシウムタングステン酸化物の前駆体酸化物合成工程
本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法は、既述の加熱還元工程に供する前駆体酸化物を合成する前駆体酸化物合成工程を有することもできる。
【0072】
前駆体酸化物合成工程では、セシウムとタングステンを含む前駆体酸化物を合成できればよいが、セシウムを含むタングステン酸塩、すなわちセシウムタングステン酸塩である前駆体酸化物を合成することが好ましい。なお、前駆体酸化物が既に合成されている場合には、本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法は、加熱還元工程から開始できる。
【0073】
前駆体酸化物は、nCsO・mWOを含むことが好ましい。上記前駆体酸化物の式中のn、mは整数であり、3.6≦m/n≦9.0を満たすことが好ましい。前駆体酸化物は、上記nCsO・mWOであってもよい。なお、前駆体酸化物は結晶粉末であることが好ましい。
【0074】
前駆体酸化物は、安定なセシウムタングステン酸塩を含むことがより好ましい。安定なセシウムタングステン酸塩としては、Cs1135、Cs19、Cs2063、Cs22、Cs1136等から選択された1種類以上が挙げられる。従って、前駆体酸化物は、例えば上記安定なセシウムタングステン酸塩から選択された1種類以上を含有することがより好ましい。前駆体酸化物は、例えば上記安定なセシウムタングステン酸塩から選択された1種類を主相として含むこともできる。また、前駆体酸化物は、例えば上記安定なセシウムタングステン酸塩から選択された1種類を単相として含むこともできる。なお、主相として含むとは、質量割合で最も多く含まれる成分であることを意味し、以下同じである。
【0075】
前駆体酸化物は、Cs1135やCs19などCs/W=0.33に近い比率、例えば0.222≦Cs/W≦0.556を満たす酸化物から選択された1種類以上を含むことがさらに好ましい。前駆体酸化物は、上記酸化物から選択された1種類を主相として含むこともでき、上記酸化物から選択された1種類の単相とすることもできる。Cs/W=0.222の前駆体酸化物としては、Cs28が挙げられる。Cs/W=0.556の前駆体酸化物としては、Cs101859が挙げられる。
【0076】
上述のように前駆体酸化物は、Cs/W=0.33に近い比率のものを含むことがより好ましい。ただし、Cs/W値が0.33より小さくなると、該前駆体酸化物から得られたセシウムタングステン酸化物粒子の赤外線吸収機能が徐々に低下する。一方Cs/W値が0.33より大きくなると赤外線吸収機能が徐々に低下するとともに潮解性が大きくなってハンドリングが難しくなる場合がある。このため、前駆体酸化物はCs/W=0.33により近い比率の酸化物から選択された1種類以上を含むことが特に好ましい。Cs/W=0.33により近い比率の酸化物としては、Cs1135やCs19等から選択された1種類以上が挙げられる。前駆体酸化物は、上記酸化物から選択された1種類を主相として含むこともでき、上記酸化物から選択された1種類の単相とすることもできる。
【0077】
前駆体酸化物に好適に用いることができるセシウムタングステン酸塩は例えば、セシウムやタングステンを含む原料粉末混合物を、大気中700℃以上1000℃以下で焼成することによって調製できる。なお、セシウムタングステン酸塩の製造方法は、上記形態に限定されない。セシウムタングステン酸塩の製造方法には、例えばゾルゲル法や錯体重合法等のその他の方法を用いることもできる。また、セシウムタングステン酸塩として、気相合成などによって得られた非平衡タングステン酸塩を用いても良い。熱プラズマ法による粉体や電子ビーム溶解による粉体などがこれに含まれる。
(7)選別工程
評価工程の結果に応じて、適切な還元状態にあるセシウムタングステン酸化物粒子を選別する場合、本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法は、赤外線吸収能を示すセシウムタングステン酸化物粒子を選別する選別工程を有することもできる。
【0078】
具体的には例えば、加熱還元工程で得られたロットの一部のセシウムタングステン酸化物粒子について、既述の測定工程(S1)~評価工程(S4)を実施できる。そして、例えば評価工程で算出した既述の面積割合が0.25以上の場合に、該セシウムタングステン酸化物粒子を含むロットについて、赤外線吸収能を示すセシウムタングステン酸化物粒子であるとして選択し、出荷等を行うことができる。また、既述の面積割合が0.25未満の場合には、赤外線吸収能を示さない、もしくは十分ではないセシウムタングステン酸化物粒子であるとして、再度加熱還元工程に供することができる。
【0079】
なお、加熱還元工程は、繰り返し実施し(繰り返し工程)、任意のタイミングで、既述の測定工程(S1)~評価工程(S4)を実施してもよい。この場合、評価工程で算出した既述の面積割合が0.25以上となっている間は、全て赤外線吸収能を示すセシウムタングステン酸化物粒子であるとして選択し、出荷等を行うことができる。
(8)加熱還元条件設定工程
評価工程の結果に応じて、加熱還元工程における加熱還元条件、例えば還元温度や、還元時間、雰囲気の濃度等の条件を選定することもできる。
【0080】
この場合、既述の加熱還元工程の加熱還元条件を変化させ、繰り返し実施し、得られた加熱還元条件の異なる複数のセシウムタングステン酸化物粒子について、既述の測定工程(S1)~評価工程(S4)を行うことができる。そして、赤外線吸収能を示すセシウムタングステン酸化物粒子が得られる条件、例えば既述の面積割合が0.25以上となる条件や、既述の面積割合が最大となる条件を選択し、加熱還元条件として設定できる。
【0081】
その後、本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法は、設定した加熱還元条件に基づいて、既述の加熱還元工程や、必要に応じてさらに既述の測定工程(S1)~評価工程(S4)を行うことができる。
(9)粉砕工程
既述のように、セシウムタングステン酸化物粒子は微細化され、微粒子となっていることが好ましい。このため、セシウムタングステン酸化物粒子の製造方法においては、加熱還元工程により得られた粉末を粉砕する粉砕工程を有することができる。
【0082】
粉砕し、微細化する具体的な手段は特に限定されず、機械的に粉砕することができる各種手段を用いることができる。機械的な粉砕方法としては、ジェットミルなどを用いる乾式の粉砕方法を用いることができる。また、後述するセシウムタングステン酸化物粒子分散液を得る過程で、溶媒中で機械的に粉砕してもよい。この場合は、粉砕工程において、液状媒体中にセシウムタングステン酸化物粒子を分散させることになるため、粉砕、分散工程と言い換えることもできる。
(10)修飾工程
既述のように、セシウムタングステン酸化物粒子は、その表面をSi、Ti、Zr、Alから選択された1種類以上の原子を含む化合物で修飾されていても良い。そこで、セシウムタングステン酸化物粒子の製造方法は、例えばセシウムタングステン酸化物粒子を、Si、Ti、Zr、Alから選択された1種類以上の原子を含む化合物で修飾する修飾工程をさらに有することもできる。
【0083】
修飾工程において、セシウムタングステン酸化物粒子を修飾する具体的な条件は特に限定されない。例えば、修飾するセシウムタングステン酸化物粒子に対して、上記原子群(金属群)から選択された1種類以上の原子を含むアルコキシド等を添加し、セシウムタングステン酸化物粒子の表面に被膜を形成する修飾工程を有することもできる。
3.セシウムタングステン酸化物粒子の評価方法
本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の評価方法は、例えば以下の測定工程、補正工程、ピーク分離工程、および評価工程を有することができる。
【0084】
測定工程は、セシウムタングステン酸化物粒子について、X線光電子分光法で光電子スペクトルを測定する。
【0085】
補正工程は、測定工程で得られた光電子スペクトルのエネルギーの補正を行う。
【0086】
ピーク分離工程は、補正工程でエネルギーの補正を行った光電子スペクトルのうち、タングステン原子のW4fスペクトルを用いて、W6+のピークと、W5+のピークにピーク分離を行う。
【0087】
評価工程は、ピーク分離工程で得られたW6+のピークと、W5+のピークとの合計に対する、W5+のピークの面積割合を算出する。
【0088】
上記各工程は、図1に示したフロー10に従って実施でき、各工程の詳細は、セシウムタングステン酸化物粒子の製造方法で既に説明したため、ここでは説明を省略する。
【0089】
本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の評価方法によれば、従来の評価方法の様に、分散液や、分散体とする必要がなく、セシウムタングステン酸化物粒子をX線光電子分光法で測定することで還元の度合いを知ることができる。従って、本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の評価方法によれば、セシウムタングステン酸化物粒子について、容易に還元状態を確認できる。さらに、本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の評価方法によれば、セシウムタングステン酸化物粒子について、所望の赤外線吸収特性を発揮できるかを確認することができる。また、本実施形態のセシウムタングステン酸化物粒子の製造方法によれば、得られるセシウムタングステン酸化物粒子の赤外線吸収特性を予測して、セシウムタングステン酸化物粒子の製造条件を割り出すことができる。
4.赤外線吸収粒子分散液
次に、本実施形態の赤外線吸収粒子分散液の一構成例について説明する。
【0090】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散液は、既述のセシウムタングステン酸化物粒子である赤外線吸収粒子と、水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、液状可塑剤から選択された1種類以上である液状媒体と、を含むことができる。すなわち、例えば図2に示した様に、本実施形態の赤外線吸収粒子分散液20は、赤外線吸収粒子21と、液状媒体22とを含むことができる。赤外線吸収粒子分散液は、液状媒体に、赤外線吸収粒子が分散された構成を有することが好ましい。
【0091】
なお、図2は模式的に示した図であり、本実施形態の赤外線吸収粒子分散液は、係る形態に限定されるものではない。例えば図2において赤外線吸収粒子21を球状の粒子として記載しているが、赤外線吸収粒子21の形状は係る形態に限定されるものではなく、任意の形状を有することができる。既述のように赤外線吸収粒子21であるセシウムタングステン酸化物粒子は例えば表面に被覆等を有することもできる。赤外線吸収粒子分散液20は、赤外線吸収粒子21、液状媒体22以外に、必要に応じてその他添加剤を含むこともできる。
【0092】
液状媒体としては、既述の様に、水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、液状可塑剤から選択された1種類以上を用いることができる。
【0093】
有機溶媒としては、アルコール系、ケトン系、炭化水素系、グリコール系など、種々のものを選択することが可能である。具体的には、イソプ口ピルアルコール、メタノール、エタノール、1-プ口パノール、イソプ口パノール、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プ口パノールなどのアルコール系溶媒;ジメチルケトン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブ口ピルケトン、メチルイソブチルケトン、シク口ヘキサノン、イソホ口ンなどのケトン系溶媒;3-メチルーメトキシ-プ口ピオネ一卜、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプ口ピルエーテル、プ口ピレングリコールモノメチルエーテル、プ口ピレングリコールモノエチルエーテル、プ口ピレングリコールメチルエーテルアセテ一卜、プ口ピレングリコールエチルエーテルアセテ一卜などのグリコール誘導体;フォルムアミド、Nーメチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセ卜アミド、N-メチル-2-ピ口リドンなどのアミド類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチレンク口ライド、ク口ルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類等から選択された1種類以上を挙げることができる。
【0094】
もっとも、これらの中でも極性の低い有機溶媒が好ましく、特に、イソプ口ピルアルコール、エタノール、1-メトキシ-2-プ口パノール、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、プ口ピレングリコールモノメチルエーテルアセテー卜、酢酸n-ブチルなどがより好ましい。これらの有機溶媒は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0095】
油脂としては例えば、アマニ油、ヒマワリ油、桐油等の乾性油、ゴマ油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油等の半乾性油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、脱水ヒマシ油等の不乾性油、植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類、アイソパー(登録商標) E、エクソール(登録商標) Hexane、Heptane、E、D30、D40、D60、D80、D95、D110、D130(以上、エクソンモービル製)等の石油系溶剤から選択された1種類以上を用いることができる。
【0096】
液状樹脂としては、例えば液状アクリル樹脂、液状エポキシ樹脂、液状ポリエステル樹脂、液状ウレタン樹脂等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0097】
液状可塑剤としては、例えばプラスチック用の液状可塑剤等を用いることができる。
【0098】
赤外線吸収粒子分散液が含有する成分は、上述の赤外線吸収粒子、および液状媒体のみに限定されない。赤外線吸収粒子分散液は、必要に応じてさらに任意の成分を添加、含有することもできる。
【0099】
例えば、赤外線吸収粒子分散液に必要に応じて酸やアルカリを添加して、当該分散液のpHを調整してもよい。
【0100】
また、上述した赤外線吸収粒子分散液中において、赤外線吸収粒子の分散安定性を一層向上させ、再凝集による分散粒径の粗大化を回避するために、各種の界面活性剤、カップリング剤等を分散剤として赤外線吸収粒子分散液に添加することもできる。
【0101】
当該界面活性剤、カップリング剤等の分散剤は用途に合わせて選定可能であるが、該分散剤は、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、およびエポキシ基から選択された1種類以上を官能基として有するものであることが好ましい。これらの官能基は、赤外線吸収粒子の表面に吸着して凝集を防ぎ、赤外線吸収粒子を用いて成膜した赤外線遮蔽膜中においても赤外線吸収粒子を均一に分散させる効果をもつ。上記官能基(官能基群)から選択された1種類以上を分子中にもつ高分子系分散剤がさらに望ましい。
【0102】
好適に用いることができる市販の分散剤としては、ソルスパース(登録商標)9000、12000、17000、20000、21000、24000、26000、27000、28000、32000、35100、54000、250(日本ルーブリゾール株式会社製)、EFKA(登録商標) 4008、4009、4010、4015、4046、4047、4060、4080、7462、4020、4050、4055、4400、4401、4402、4403、4300、4320、4330、4340、6220、6225、6700、6780、6782、8503(エフカアディティブズ社製)、アジスパー(登録商標) PA111、PB821、PB822、PN411、フェイメックスL-12(味の素ファインテクノ株式会社製)、DisperBYK (登録商標) 101、102、106、108、111、116、130、140、142、145、161、162、163、164、166、167、168、170、171、174、180、182、192、193、2000、2001、2020、2025、2050、2070、2155、2164、220S、300、306、320、322、325、330、340、350、377、378、380N、410、425、430(ピックケミ一・ジャパン株式会社製)、ディスパ口ン(登録商標) 1751N、1831、1850、1860、1934、DA-400N、DA-703-50、DA-725、DA-705、DA-7301、DN-900、NS-5210、NVI-8514L(楠本化成株式会社製)、アルフォン(登録商標) UC-3000 、UF-5022、UG-4010、UG-4035、UG-4070(東亞合成株式会社製)等から選択された1種類以上が、挙げられる。
【0103】
赤外線吸収粒子の液状媒体への分散処理方法は、赤外線吸収粒子を液状媒体中へ分散できる方法であれば、特に限定されない。この際、赤外線吸収粒子の平均粒径が200nm以下、となるように分散できることが好ましく、0.1nm以上200nm以下となるように分散できることがより好ましい。
【0104】
赤外線吸収粒子の液状媒体への分散処理方法としては、例えば、ビーズミル、ポールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどの装置を用いた分散処理方法が挙げられる。その中でも、媒体メディア(ビーズ、ポール、オタワサンド)を用いるビーズミル、ポールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の媒体撹拌ミルで粉砕、分散させることが所望とする平均粒径とするために要する時間を短縮する観点から好ましい。媒体撹拌ミルを用いた粉砕-分散処理によって、赤外線吸収粒子の液状媒体中への分散と同時に、赤外線吸収粒子同士の衝突や媒体メディアの赤外線吸収粒子への衝突などによる微粒子化も進行し、赤外線吸収粒子をより微粒子化して分散させることができる。すなわち、粉砕-分散処理される。
【0105】
セシウムタングステン酸化物粒子である赤外線吸収粒子の平均粒径は、既述のように0.1nm以上200nm以下であることが好ましい。これは、平均粒径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による、波長400nm以上780nm以下の可視光線領域の光の散乱が低減される結果、例えば本実施形態の赤外線吸収粒子分散液を用いて得られる、赤外線吸収粒子が樹脂等に分散した赤外線吸収粒子分散体が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できるからである。すなわち、平均粒径が200nm以下になると、光散乱は上記幾何学散乱もしくはミー散乱のモードが弱くなり、レイリー散乱モードになる。レイリー散乱領域では、散乱光は分散粒径の6乗に比例するため、分散粒径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。そして、平均粒径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。平均粒径は30nm以下であることがさらに好ましい。
【0106】
ところで、本実施形態の赤外線吸収粒子分散液を用いて得られる、赤外線吸収粒子が樹脂等の固体媒体中に分散した赤外線吸収粒子分散体内の赤外線吸収粒子の分散状態は、固体媒体への分散液の公知の添加方法を行う限り該分散液の赤外線吸収粒子の平均粒径よりも凝集することはない。
【0107】
また、赤外線吸収粒子の平均粒径が0.1nm以上200nm以下であれば、製造される赤外線吸収粒子分散体やその成形体(板、シートなど)が、単調に透過率の減少した灰色系のものになってしまうことを回避できる。
【0108】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散液中の赤外線吸収粒子の含有量は特に限定されないが、例えば0.01質量%以上80質量%以下であることが好ましい。これは赤外線吸収粒子の含有量を0.01質量%以上とすることで十分な日射透過率を発揮できる、すなわち日射透過率を十分に抑制できるからである。また、80質量%以下とすることで、赤外線吸収粒子を分散媒内に均一に分散させることができるからである。
5.赤外線吸収粒子分散体
次に、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の一構成例について説明する。
【0109】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、既述の赤外線吸収粒子と、固体媒体とを含む。具体的には例えば、図3に模式的に示すように、赤外線吸収粒子分散体30は、既述のセシウムタングステン酸化物粒子である赤外線吸収粒子31と、固体媒体32と、を含むことができ、赤外線吸収粒子31は、固体媒体32中に配置できる。そして、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、赤外線吸収粒子が、固体媒体中に分散していることが好ましい。なお、図3は模式的に示した図であり、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、係る形態に限定されるものではない。例えば図3において赤外線吸収粒子31を球状の粒子として記載しているが、赤外線吸収粒子31の形状は係る形態に限定されるものではなく、任意の形状を有することができる。赤外線吸収粒子31は例えば表面に被覆等を有することもできる。赤外線吸収粒子分散体30は、赤外線吸収粒子31、固体媒体32以外に、必要に応じてその他添加剤を含むこともできる。
【0110】
以下、本実施形態に係る赤外線吸収粒子分散体について、(1)固体媒体および赤外線吸収粒子分散体の特性、(2)赤外線吸収粒子分散体の製造方法、(3)添加剤、(4)適用例の順に説明する。
(1)固体媒体および赤外線吸収粒子分散体の特性
固体媒体としては熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂や紫外線硬化樹脂等の媒体樹脂を挙げることができる。すなわち、固体媒体としては、樹脂を好適に用いることができる。
【0111】
固体媒体に用いる樹脂の具体的な材料は特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアセタール樹脂、紫外線硬化樹脂からなる樹脂群から選択される1種の樹脂、または前記樹脂群から選択される2種以上の樹脂の混合物であることが好ましい。なお、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂を好適に用いることができる。
【0112】
これら媒体樹脂は、主骨格にアミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、およびエポキシ基から選択された1種類以上を官能基として備えた高分子系分散剤を含有することもできる。
【0113】
固体媒体は媒体樹脂に限定されず、固体媒体として、金属アルコキシドを用いたバインダーの利用も可能である。当該金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが代表的である。これら金属アルコキシドを用いたバインダーを加熱等により加水分解・縮重合させることで、固体媒体が酸化物を含有する赤外線吸収粒子分散体とすることも可能である。
【0114】
本実施形態に係る赤外線吸収粒子分散体の赤外線吸収粒子の含有割合は特に限定されないが、赤外線吸収粒子分散体は、赤外線吸収粒子を0.001質量%以上80質量%以下含むことが好ましい。
【0115】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の形状についても特に限定されないが、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、シート形状、ボード形状、またはフィルム形状を備えることが好ましい。赤外線吸収粒子分散体を、シート形状、ボード形状、またはフィルム形状とすることで様々な用途に適用できるためである。
(2)赤外線吸収粒子分散体の製造方法
本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の製造方法を、以下に説明する。なお、ここでは赤外線吸収粒子分散体の製造方法の構成例を示しているに過ぎず、既述の赤外線吸収粒子分散体の製造方法が、以下の構成例に限定されるものではない。
【0116】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は例えばマスターバッチを用いて製造することができる。この場合、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の製造方法は、例えば、以下のマスターバッチ作製工程を有することもできる。
【0117】
赤外線吸収粒子が固体媒体中に分散したマスターバッチを得るマスターバッチ作製工程。
【0118】
マスターバッチ作製工程では、赤外線吸収粒子が固体媒体中に分散したマスターバッチを作製できる。
【0119】
マスターバッチの具体的な作製方法は特に限定されない。例えば、赤外線吸収粒子分散液や赤外線吸収粒子を、固体媒体中に分散させ、当該固体媒体をペレット化することで、マスターバッチを作製できる。
【0120】
なお、赤外線吸収粒子として、赤外線吸収粒子分散液から液状媒体を除去して得られた赤外線吸収粒子分散粉を用いることもできる。
【0121】
例えば赤外線吸収粒子分散液や、赤外線吸収粒子、赤外線吸収粒子分散粉と、固体媒体の粉粒体またはペレット、および必要に応じて他の添加剤を均一に混合して混合物を調製する。そして、該混合物を、ベント式一軸若しくは二軸の押出機で混練し、溶融押出されたストランドをカットする方法によりペレット状に加工することによって、マスターバッチを製造できる。この場合、ペレットの形状としては円柱状や角柱状のものを挙げることができる。また、ペレットを作製する際、溶融押出物を直接カットするいわゆるホットカット法を採ることも可能である。この場合には球状に近い形状をとることが一般的である。
【0122】
なお、マスターバッチ作製工程において、赤外線吸収粒子分散液を原料として用いる場合、赤外線吸収粒子分散液に由来する液状媒体を低減、除去することが好ましい。この場合、赤外線吸収粒子分散液に含まれていた液状媒体を除去する程度は特に限定されない。例えば当該マスターバッチに残留が許容される量まで、赤外線吸収粒子分散液等から、液状媒体を除去することが好ましい。なお、液状媒体として液状可塑剤を用いた場合は、当該液状可塑剤の全量が赤外線吸収粒子分散体に残留してもよい。
【0123】
赤外線吸収粒子分散液や、赤外線吸収粒子分散液と固体媒体との混合物から、赤外線吸収粒子分散液に含まれていた液状媒体を低減、除去する方法は特に限定されない。例えば、赤外線吸収粒子分散液等を減圧乾燥することが好ましい。具体的には、赤外線吸収粒子分散液等を撹拌しながら減圧乾燥し、赤外線吸収粒子含有組成物と液状媒体の成分とを分離する。当該減圧乾燥に用いる装置としては、真空撹拌型の乾燥機が挙げられるが、上記機能を有する装置であれば良く、特に限定されない。また、乾燥工程の減圧の際の圧力値は適宜選択される。
【0124】
当該減圧乾燥法を用いることで、赤外線吸収粒子分散液に由来する液状媒体等の除去効率が向上するとともに、減圧乾燥後に得られる赤外線吸収粒子分散粉や、原料である赤外線吸収粒子分散液が長時間高温に曝されることがないので、赤外線吸収粒子分散粉や、赤外線吸収粒子分散液中に分散している赤外線吸収粒子の凝集が起こらず好ましい。さらに赤外線吸収粒子分散粉等の生産性も上がり、蒸発した液状媒体等の溶媒を回収することも容易で、環境的配慮からも好ましい。
【0125】
当該乾燥工程後に得られた赤外線吸収粒子分散粉等においては、沸点120℃以下の溶媒成分を充分除去することが好ましい。例えば、係る溶媒成分の残留量が2.5質量%以下であることが好ましい。残留する溶媒成分が2.5質量%以下であれば、当該赤外線吸収粒子分散粉等を、例えば赤外線吸収粒子分散体へと加工した際に気泡が発生せず、外観や光学特性が良好に保たれるからである。また、赤外線吸収粒子分散粉に残留する溶媒成分が2.5質量%以下であれば、赤外線吸収粒子分散粉の状態で長期保管した際に、残留した溶媒成分の自然乾燥による凝集が発生せず、長期安定性が保たれるからである。
【0126】
得られたマスターバッチは、固体媒体を追加して混練することにより赤外線吸収粒子分散体であるマスターバッチに含まれる赤外線吸収粒子の分散状態が維持されたまま、その分散濃度を調整できる。
【0127】
また、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の製造方法は、必要に応じて、得られたマスターバッチや、上述のようにマスターバッチに固体媒体を追加したものについて、成形し、所望の形状の赤外線吸収粒子分散体とする成形工程を有することができる。
【0128】
赤外線吸収粒子分散体を成形する具体的な方法は特に限定されないが、例えば公知の押出成形法、射出成形法等の方法を用いることができる。
【0129】
成形工程では、例えば、平面状や曲面状に成形されたシート形状、ボード形状、またはフィルム形状の赤外線吸収粒子分散体を製造できる。シート形状、ボード形状、またはフィルム形状に成形する方法は特に限定されず、各種公知の方法を用いることができる。例えば、カレンダーロール法、押出法、キャスティング法、インフレーション法等を用いることができる。
【0130】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の製造方法は上記マスターバッチ作製工程を有する形態に限定されるものではない。
【0131】
例えば、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の製造方法は、以下の工程を有する形態とすることもできる。
【0132】
固体媒体のモノマー、オリゴマーおよび未硬化で液状の固体媒体前駆体と、赤外線吸収粒子や、赤外線吸収粒子分散粉、赤外線吸収粒子分散液とを混合して、赤外線吸収粒子分散体前駆液を調製する前駆液調製工程。
【0133】
上記モノマー等の固体媒体前駆体を縮合や重合等の化学反応によって硬化させ、赤外線吸収粒子分散体を作製する赤外線吸収粒子分散体作製工程。
【0134】
例えば、固体媒体としてアクリル樹脂を用いる場合、アクリルモノマーやアクリル系の紫外線硬化樹脂と、赤外線吸収粒子とを混合して、赤外線吸収粒子分散体前駆液を得ることができる。
【0135】
次いで、当該赤外線吸収粒子分散体前駆液を所定の鋳型などに充填しラジカル重合を行えば、アクリル樹脂を用いた赤外線吸収粒子分散体が得られる。
【0136】
固体媒体として架橋により硬化する樹脂を用いる場合も、上述したアクリル樹脂を用いた場合と同様に、赤外線吸収粒子分散体前駆液に架橋反応をさせることで分散体を得ることができる。
【0137】
(3)添加剤
固体媒体として樹脂を用いる場合、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、通常、これらの樹脂に添加される可塑剤、難燃剤、着色防止剤およびフィラー等の公知の添加剤(添加物)を含有することもできる。もっとも、既述の様に固体媒体は樹脂に限定されず、金属アルコキシドを用いたバインダーの利用も可能である。
【0138】
本実施形態に係る赤外線吸収粒子分散体の形状は特に限定されないが、既述の様に、例えばシート形状、ボード形状、またはフィルム形状の形態をとることができる。
【0139】
シート形状、ボード形状、またはフィルム形状の赤外線吸収粒子分散体を合わせガラスなどの透明基材中間層として用いる場合、当該赤外線吸収粒子分散体に含まれる固体媒体が、そのままでは柔軟性や透明基材との密着性を十分に有しない場合がある。この場合、赤外線吸収粒子分散体は、可塑剤を含有することが好ましい。具体的には例えば、当該固体媒体がポリビニルアセタール樹脂であり、上述の用途に用いる場合は、赤外線吸収粒子分散体はさらに可塑剤を含有することが好ましい。
【0140】
上述した可塑剤としては、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体に用いる固体媒体において可塑剤として用いられる物質を用いることができる。例えば、ポリビニルアセタール樹脂で構成された赤外線吸収粒子分散体に用いられる可塑剤としては、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤が挙げられる。いずれの可塑剤も、室温で液状であることが好ましい。なかでも、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物である可塑剤が好ましい。
(4)適用例
本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、各種態様で用いることができ、その使用、適用態様は特に限定されない。以下に、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の適用例として、赤外線吸収用中間膜、赤外線吸収積層体、赤外線吸収透明基材について説明する。
(4-1)赤外線吸収用中間膜、赤外線吸収積層体
本実施形態の赤外線吸収積層体は、既述の赤外線吸収粒子分散体と透明基材とを含む積層構造を有することができる。本実施形態の赤外線吸収積層体は、既述の赤外線吸収粒子分散体と、透明基材とを要素にもち、これらを積層した積層体とすることができる。
【0141】
赤外線吸収積層体として、例えば2枚以上の複数枚の透明基材と、既述の赤外線吸収粒子分散体とを積層した例が挙げられる。この場合、赤外線吸収粒子分散体は、例えば透明基材の間に配置し、赤外線吸収用中間膜として用いることができる。
【0142】
この場合、具体的には、透明基材と、赤外線吸収粒子分散体との積層方向に沿った断面模式図である図4に示すように、赤外線吸収積層体40は、複数枚の透明基材411、412と、赤外線吸収粒子分散体42とを有することができる。そして、赤外線吸収粒子分散体42は複数枚の透明基材411、412の間に配置できる。図4においては、透明基材411、412を2枚有する例を示したが、係る形態に限定されるものではない。
【0143】
上記赤外線吸収用中間膜となる赤外線吸収粒子分散体は、シート形状、ボード形状、またはフィルム形状のいずれかの形状を有することが好ましい。
【0144】
透明基材は、可視光線領域において透明な板ガラス、板状のプラスチック、フィルム状のプラスチックから選択された1種類以上を好適に用いることができる。
【0145】
透明基材として、プラスチックを用いる場合、プラスチックの材質は、特に限定されるものではなく用途に応じて選択可能であり、例えばポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アイオノマー樹脂、フッ素樹脂等から選択された1種類以上を使用可能である。なお、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂を好適に用いることができる。
【0146】
透明基材は、日射遮蔽機能を有する粒子を含有していてもよい。日射遮蔽機能を有する粒子としては、赤外線遮蔽特性を有する赤外線吸収粒子を用いることができる。
【0147】
複数枚の透明基材間に挟持される中間層の構成部材として既述の赤外線吸収粒子分散体を介在させることで、日射透過率を抑制しつつも、可視光線の透過性を確保することも可能な赤外線吸収積層体の1種である日射遮蔽合わせ構造体を得ることができる。
【0148】
なお、赤外線吸収粒子分散体を挟持して対向する複数枚の透明基材を、公知の方法で貼り合わせ、一体化することで、上述の赤外線吸収積層体とすることもできる。
【0149】
既述の赤外線吸収粒子分散体を赤外線吸収用中間膜として用いる場合、固体媒体としては、赤外線吸収粒子分散体で説明したものを用いることができる。ただし、赤外線吸収用中間膜と、透明基材との密着強度を高める観点からは、固体媒体はポリビニルアセタール樹脂であることが好ましい。
【0150】
本実施形態の赤外線吸収用中間膜は、既述の赤外線吸収粒子分散体の製造方法により製造でき、例えばシート形状、ボード形状、またはフィルム形状のいずれかの形状を有する赤外線吸収用中間膜とすることができる。
【0151】
なお、赤外線吸収用中間膜が、柔軟性や透明基材との密着性を十分に有しない場合は、媒体樹脂用の液状可塑剤を添加することが好ましい。例えば、赤外線吸収用中間膜に用いた媒体樹脂がポリビニルアセタール樹脂である場合は、ポリビニルアセタール樹脂用の液状可塑剤の添加は、透明基材との密着性向上に有益である。
【0152】
可塑剤としては、固体媒体の樹脂に対して可塑剤として用いられる物質を用いることができる。例えばポリビニルアセタール樹脂を固体媒体として用いた赤外線吸収粒子分散体に適用する可塑剤としては、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤が挙げられる。いずれの可塑剤も、室温で液状であることが好ましい。なかでも、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物である可塑剤が好ましい。
【0153】
また、赤外線吸収用中間膜には、シランカップリング剤、カルボン酸の金属塩、金属の水酸化物、金属の炭酸塩から成る群から選択される少なくとも1種を添加することもできる。カルボン酸の金属塩、金属の水酸化物、金属の炭酸塩を構成する金属は特に限定されないが、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、セシウム、リチウム、ルビジウム、亜鉛から選択される少なくとも1種であることが好ましい。赤外線吸収用中間膜において、カルボン酸の金属塩、金属の水酸化物、金属の炭酸塩から成る群から選択される少なくとも1種の含有量が、赤外線吸収粒子に対して1質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0154】
さらに、赤外線吸収用中間膜は、必要に応じて既述の赤外線吸収粒子に加えて、Sb、V、Nb、Ta、W、Zr、F、Zn、Al、Ti、Pb、Ga、Re、Ru、P、Ge、In、Sn、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Y、Sm、Eu、Er、Tm、Tb、Lu、Sr、Caから成る群から選択される2種類以上の元素を含む酸化物粒子、複合酸化物粒子、ホウ化物粒子のうちの少なくとも1種類以上の粒子を含有することもできる。赤外線吸収用中間膜は、係る粒子を、赤外線吸収粒子との合計を100質量%とした場合に、5質量%以上95質量%以下の範囲で含有できる。
【0155】
赤外線吸収積層体は、透明基材間に配置された中間膜の少なくとも1層に、紫外線吸収剤を含有してもよい。紫外線吸収剤としては、マロン酸エステル構造を有する化合物、シュウ酸アニリド構造を有する化合物、ベンゾトリアゾール構造を有する化合物、ベンゾフェノン構造を有する化合物、トリアジン構造を有する化合物、ベンゾエート構造を有する化合物、ヒンダードアミン構造を有する化合物等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0156】
なお、赤外線吸収積層体の中間層は、本実施形態に係る赤外線吸収用中間膜のみで構成して良いのは勿論である。
【0157】
ここで説明した赤外線吸収用中間膜は、赤外線吸収粒子分散体の一態様である。本実施形態に係る赤外線吸収粒子分散体は、可視光線を透過する2枚以上の透明基材に挟持されることなく使用できることはもちろんである。すなわち、本実施形態に係る赤外線吸収粒子分散体は、単独で赤外線吸収粒子分散体として成立できるものである。
【0158】
本実施形態に係る赤外線吸収積層体は、上述のような、透明基材間に赤外線吸収粒子分散体を配置した形態に限定されるものではなく、赤外線吸収粒子分散体と、透明基材とを含む積層構造を有するものであれば、任意の構成を採ることができる。
(4-2)赤外線吸収透明基材
本実施形態の赤外線吸収透明基材は、透明基材と、透明基材の少なくとも一方の面に配置された赤外線吸収層とを備えており、赤外線吸収層を既述の赤外線吸収粒子分散体とすることができる。
【0159】
具体的には、透明基材と、赤外線吸収層との積層方向に沿った断面模式図である図5に示すように、赤外線吸収透明基材50は、透明基材51と、赤外線吸収層52とを有することができる。赤外線吸収層52は、透明基材51の少なくとも一方の面に配置できる。
【0160】
本実施形態の赤外線吸収透明基材は、上述の様に透明基材を有することができる。透明基材としては、例えば透明フィルム基材、および透明ガラス基材から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。
【0161】
フィルム基材は、フィルム形状に限定されることはなく、例えば、ボード形状でもシート形状でも良い。当該フィルム基材の材料としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂等から選択された1種類以上を好適に用いることができ、各種目的に応じて使用可能である。もっとも、フィルム基材の材料としては、ポリエステル樹脂であることが好ましく、特にポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)であることがより好ましい。すなわち、フィルム基材は、ポリエステル樹脂フィルムであることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムであることがより好ましい。
【0162】
透明基材としてフィルム基材を用いる場合、フィルム基材の表面は、赤外線吸収層との接着の容易さを実現するため、表面処理がなされていることが好ましい。
【0163】
また、ガラス基材もしくはフィルム基材と赤外線吸収層との接着性を向上させるために、ガラス基材上もしくはフィルム基材上に中間層を形成し、中間層上に赤外線吸収層を形成することも好ましい構成である。中間層の構成は特に限定されるものではなく、例えばポリマフィルム、金属層、無機層(例えば、シリカ、チタニア、ジルコニア等の無機酸化物層)、有機/無機複合層等により構成することができる。
【0164】
赤外線吸収粒子分散体については既述のため、ここでは説明を省略する。なお、赤外線吸収粒子分散体の形状は特に限定されないが、例えばシート形状、ボード形状、またはフィルム形状を備えることが好ましい。
【0165】
本実施形態の赤外線吸収透明基材の製造方法について説明する。
【0166】
本実施形態の赤外線吸収透明基材は、例えば既述の赤外線吸収粒子分散液を用いて、透明基材上へ、赤外線吸収粒子が固体媒体に分散された赤外線吸収粒子分散体である赤外線吸収層を形成することで製造できる。
【0167】
そこで、本実施形態の赤外線吸収透明基材の製造方法は、例えば以下の工程を有することができる。
【0168】
透明基材の表面に、既述の赤外線吸収粒子分散液を含む塗布液を塗布する塗布工程。
【0169】
塗布液中の液状媒体を蒸発させた後、赤外線吸収層を形成する赤外線吸収層形成工程。
【0170】
塗布工程で用いる塗布液は、例えば、既述の赤外線吸収粒子分散液に、樹脂や、金属アルコキシド等の固体媒体、または固体媒体前駆体を添加、混合して作製できる。
【0171】
固体媒体前駆体は、既述の様に固体媒体のモノマー、オリゴマー、および未硬化の固体媒体から選択された1種類以上を意味する。
【0172】
透明基材上にコーティング膜である赤外線吸収層を形成すると、該赤外線吸収層は、赤外線吸収粒子が固体媒体に分散されている状態となる。このため、係る赤外線吸収層が赤外線吸収粒子分散体となる。このように、透明基材の表面に赤外線吸収粒子分散体を設けることで、赤外線吸収透明基材を作製できる。
【0173】
固体媒体や、固体媒体前駆体については、(1)固体媒体および赤外線吸収粒子分散体の特性や、(2)赤外線吸収粒子分散体の製造方法において説明したため、ここでは説明を省略する。
【0174】
透明基材上へ赤外線吸収層を設けるために、透明基材上に塗布液を塗布する方法は、透明基材表面へ塗布液を均一に塗布できる方法であればよく、特に限定されない。例えば、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スピンコート法、スクリーン印刷、ロールコート法、流し塗り等を挙げることができる。
【0175】
ここでは、固体媒体として紫外線硬化樹脂を用い、バーコート法を用いて塗布液を塗布し、赤外線吸収層を形成する場合を例に、透明基材表面への赤外線吸収層の作製手順を説明する。
【0176】
適度なレベリング性をもつように濃度、および添加剤を適宜調整した塗布液を、赤外線吸収層の厚み、および赤外線吸収粒子の含有量を合目的に満たすことのできるバー番号のワイヤーバーを用いて透明基材上に塗布する。そして、塗布液中に含まれる液状媒体等の溶媒を乾燥により除去した後、紫外線を照射し硬化させることで、透明基材上に赤外線吸収層であるコーティング層を形成できる。
【0177】
塗膜の乾燥条件としては、各成分、溶媒の種類や使用割合によっても異なるが、通常では60℃以上140℃以下の温度で20秒間以上10分間以下程度の条件で実施できる。紫外線の照射には特に制限はなく、例えば超高圧水銀灯などの紫外線露光機を好適に用いることができる。
【0178】
その他、赤外線吸収層の形成の前後工程(前工程、後工程)により、基材と赤外線吸収層の密着性、コーティング時の塗膜の平滑性、有機溶媒の乾燥性などを操作することもできる。前記前後工程としては、例えば基材の表面処理工程、プリベーク(基材の前加熱)工程、ポストベーク(基材の後加熱)工程などが挙げられ、適宜選択することができる。プリベーク工程やポストベーク工程における加熱温度は80℃以上200℃以下、加熱時間は30秒間以上240秒間以下であることが好ましい。
【0179】
本実施形態の赤外線吸収透明基材の製造方法は上記方法に限定されない。本実施形態の赤外線吸収透明基材の製造方法の他の構成例として、以下の工程を有する形態も挙げられる。
【0180】
既述の赤外線吸収粒子分散液を透明基材の表面に塗布し、乾燥させる赤外線吸収粒子分散液塗布、乾燥工程。
【0181】
赤外線吸収粒子分散液を塗布した面上に、樹脂や、金属アルコキシド等の固体媒体や、固体媒体前駆体を用いたバインダーを塗布、硬化させるバインダー塗布、硬化工程。
【0182】
この場合、赤外線吸収粒子分散液塗布、乾燥工程により、透明基材の表面に赤外線吸収粒子を分散させた膜が形成される。なお、赤外線吸収粒子分散液は、既述の赤外線吸収透明基材の製造方法の塗布工程について説明したものと同様の方法により塗布できる。
【0183】
そして、該赤外線吸収粒子を分散させた膜上にバインダーを塗布し、硬化させることで、赤外線吸収粒子間に硬化したバインダーが配置され、赤外線吸収層を形成できる。
【0184】
赤外線吸収透明基材は、赤外線吸収粒子分散体の表面にさらにコート層を有することもできる。すなわち多層膜を備えることもできる。
【0185】
コート層は、例えばSi、Ti、Zr、Alから選択された1種類以上を含む酸化物のコーティング膜とすることができる。この場合、コート層は、例えば赤外線吸収層上へ、Si、Ti、Zr、Alのいずれか1種類以上を含むアルコキシド、および当該アルコキシドの部分加水分解縮重合物から選択された1種類以上を含有する塗布液を塗布した後、加熱することで形成できる。
【0186】
コート層を設けることで、コーティングされた成分が、第1層である赤外線吸収粒子の堆積した間隙を埋めて成膜され可視光の屈折を抑制するため、膜のヘイズ値がより低減して可視光線透過率を向上できる。また、赤外線吸収粒子の基材への結着性を向上できる。
【0187】
ここで、赤外線吸収粒子単体、あるいは赤外線吸収粒子を含有する膜上に、Si、Ti、Zr、Alのいずれか1種類以上を含むアルコキシドや、これらの部分加水分解縮重合物からなるコーティング膜を形成する方法としては、成膜操作の容易さやコストの観点から塗布法が好ましい。
【0188】
上記塗布法に用いるコーティング液としては、水やアルコールなどの溶媒中に、Si、Ti、Zr、Alのいずれか1種類以上を含むアルコキシドや、当該アルコキシドの部分加水分解縮重合物を1種類以上含むものを好適に用いることができる。上記コーティング液における上記アルコキシド等の含有量は特に限定されないが、例えば加熱後に得られるコーティング中の酸化物換算で40質量%以下が好ましい。また、必要に応じて酸やアルカリを添加してpH調整することもできる。
【0189】
当該コーティング液を、赤外線吸収粒子を主成分とする膜上に、第2層として塗布し加熱することで、コート層であるSi、Ti、Zr、Alから選択された1種類以上を含む酸化物被膜を容易に形成できる。塗布液に使用するバインダー成分またはコーティング液の成分として、オルガノシラザン溶液を用いることも好ましい。
【0190】
Si、Ti、Zr、Alのいずれか1種類以上の金属アルコキシド、およびその加水分解重合物を含む赤外線吸収粒子分散液や、コーティング液の塗布後の基材加熱温度は特に限定されない。例えば基材加熱温度は100℃以上が好ましく、赤外線吸収粒子分散液等の塗布液中の溶媒の沸点以上であることがより好ましい。
【0191】
これは、基材加熱温度が100℃以上であると、塗膜中に含まれる金属アルコキシドまたは当該金属アルコキシドの加水分解重合物の重合反応が完結できるからである。また、基材加熱温度が100℃以上であると、溶媒である水や有機溶媒が膜中に残留することがほとんどないので、加熱後の膜において、これら溶媒が可視光線透過率低減の原因とならないからである。
【0192】
本実施形態の赤外線吸収透明基材の、透明基材上における赤外線吸収層の厚みは、特に限定されないが、実用上は10μm以下であることが好ましく、6μm以下であることがより好ましい。これは赤外線吸収層の厚みが10μm以下であれば、十分な鉛筆硬度を発揮して耐擦過性を有することに加えて、赤外線吸収層における溶媒の揮散およびバインダーの硬化の際に、基材フィルムの反り発生等の工程異常発生を回避できるからである。
【実施例0193】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0194】
以下の実験例1~実験例6のうち、実験例2~実験例6が実施例、実験例1が参考例となる。
[実験例1]
(1)前駆体酸化物合成工程
炭酸セシウム(CsCO)と三酸化タングステン(WO)をモル比でCsCO:WO=2:11の比率となるように秤量、混合、混練して得られた混練物をカーボンボートに入れた。そして、大気中、管状炉で、850℃で5時間の加熱を行い、前駆体酸化物である粉末Aを得た。
【0195】
得られた粉末AのX線粉末回折パターンは、ほぼCs1135単相(ICDD 00-51-1891)と同定された。Cs1135は、2CsO・11WOとも表記できる。すなわち、セシウムタングステン酸化物が得られていることを確認できた。
(2)還元状態の評価
以下の手順により、得られた粉末Aの還元状態の評価、具体的には光電子スペクトルの測定、評価を行った。
【0196】
試料である粉末Aについて、X線光電子分光法により光電子スペクトルを測定した。次の工程に従ってXPS測定から解析までを行った。
(2-1)測定工程(S1)
光電子スペクトルは、表5に示した条件に従って測定し、W4f、O1s、Cs3d5/2、C1sについて測定した。すなわち、X線源として単色化AlKα線を用い、X線径を100μmφとし、X線出力を25Wとした。また、測定領域を500μm×500μm、すなわち500μm角とし、エネルギーステップは0.1eVとし、パスエナジーは23.5eVとした。
【0197】
【表5】
(2-2)補正工程(S2)
測定工程で得られた光電子スペクトルのエネルギー補正をC1sのC-C、C-H結合のピーク位置を284.6eVに合わせることで実施した。
(2-3)ピーク分離工程(S3)、評価工程(S4)
エネルギー補正後の光電子スペクトルにおいて、まず、W4fのピーク分離を既述の方法で実施した。ピーク分離の条件は表1に示す条件とした。すなわち、W4fスペクトルを成分1から成分4の4成分でピーク分離し、W6+の存在割合およびW5+の存在割合を算出した。W5+の存在割合を表6のW5+の比率の欄に示す。なお、W5+の存在割合が、W6+のピークと、W5+のピークとの合計に対する、W5+のピークの面積割合に当たる。
【0198】
次に、O1sのピーク分離についても、既述の方法で実施した。ピーク分離の条件は表2に示す条件とした。すなわち、O1sスペクトルを成分5から成分8の4成分でピーク分離し、成分5から成分8までのピーク面積の和に対する成分5のピーク面積の割合であるO-W6+の存在割合を算出した。また、全W(W6++W5+)に対するW5+の割合を求めるために、成分5から成分7までのピーク面積の和に対する成分6と成分7のピーク面積の和の割合であるO-W5+、O=Cの存在割合を算出した。成分7に含まれるO=Cの寄与は除去しきれなかったが、C1sのピーク分離結果からO=C成分の量は非常に少なく無視できるほどであることが分かった。従ってW5+/WをO1sピークから求めるためにW5+の量として成分6に加えて成分7を用いても大きな誤差は生じないと判断された。O-W5+、O=Cの存在割合についての算出結果を表6のO-W5+、O=Cの比率の欄に示す。なお、O-W5+、O=Cの比率は、O-W6+、O-W5+、O=CにおけるO-W5+、O=Cの比率のように表記する場合がある。
【0199】
また、Cs3d5/2およびC1sのピーク分離についても前述の方法で実施した。ピーク分離の条件は表3および表4に示す条件とした。Cs3d5/2に関して、成分9と成分10のピーク面積の和に対する成分10のピーク面積の割合であるCs-Vの存在割合を算出した。結果を表6のCs-Vの比率の欄に示す。また、成分11~成分14までのピーク面積の和に対する、成分11のピーク面積の割合、成分12のピーク面積の割合、成分13のピーク面積の割合、成分14のピーク面積の割合をそれぞれ算出し、表6のCの欄のうち、成分11~成分14の各欄に示した。
【0200】
なお、表6に示した結果は、図10図13にグラフ化してあわせて示している。
【0201】
【表6】
【0202】
得られたW4fの光電子スペクトルを図6のスペクトル61として示す。W4fのピーク分離の結果の一例を図6のスペクトル66についてのみ示したが、曲線661は成分1を、曲線662は成分2を、曲線663は成分3を、曲線664は成分4を示し、曲線665はベースラインを、曲線666は成分1から成分4の合計のスペクトルを示す。
【0203】
次に、得られたO1sの光電子スペクトルを図7のスペクトル71として示す。O1sのピーク分離の結果の一例を図7のスペクトル76についてのみ示したが、曲線761は成分5を、曲線762は成分6を、曲線763は成分7を、曲線764は成分8を示し、曲線765はベースラインを、曲線766は成分5から成分8の合計のスペクトルを示す。
【0204】
次に、得られたCs3d5/2の光電子スペクトルを図8のスペクトル81として示す。Cs3d5/2のピーク分離の結果の一例を図8のスペクトル86についてのみ示したが、曲線861は成分9を、曲線862は成分10を、曲線863はベースラインを、曲線864は成分9と成分10の合計のスペクトルを示す。
【0205】
次に、得られたC1sの光電子スペクトルを図9のスペクトル91として示す。C1sのピーク分離の結果の一例を図9のスペクトル96についてのみ示したが、曲線961は成分11を、曲線962は成分12を、曲線963は成分13を、曲線964は成分14を示し、曲線965はベースラインを、曲線966は成分11から成分14の合計のスペクトルを示す。
(3)赤外線吸収粒子分散液の作製、評価
粉末Aを20質量%と、官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系高分子分散剤(以下「分散剤a」と略称する)10質量%と、溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)70質量%とを秤量した。秤量したこれらの材料を0.3mm径のシリカビーズと共にガラス容器に入れ、ペイントシェーカーを用いて、5時間、分散・粉砕し、分散液Aを得た。分散液A内におけるセシウムタングステン酸化物粒子の平均粒径(動的光散乱法に基づく粒径測定装置である大塚電子株式会社製 ELS-8000で測定される分散粒子径)を測定すると、30.3nmであった。
【0206】
分散液Aの光学特性は可視光透過率(以下、VLT)=77.32%、日射透過率(以下、ST)=87.87%となり、日射遮蔽特性が劣ることが分かった。
【0207】
なお、赤外線吸収粒子分散液の可視光線透過率(VLT)、および日射透過率(ST)は、ISO 9050およびJIS R 3106(2019)に準拠して測定を行った。具体的には、日立製作所(株)製の分光光度計U-4100を用いて透過率を測定し、太陽光のスペクトルに応じた係数を乗じて算出した。透過率の測定に当たっては波長300nm以上2100nm以下の範囲について、5nm間隔で測定を行った。
(4)赤外線吸収粒子分散体の作製、評価
分散液Aと紫外線硬化樹脂とMIBKの配合割合を調整して塗布液Aを作製した。塗布液Aは、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムに塗布、乾燥、硬化して得られる硬化膜でのVLTが72%~73%になるように配合を調整した。塗布液AをPETフィルムに塗布し、塗布、乾燥、硬化して硬化膜Aを得た。
【0208】
硬化膜Aの光学特性はVLT=72.6%、ST=80.2%となり、日射遮蔽特性が劣ることが分かった。
【0209】
なお、赤外線吸収粒子分散体である硬化膜の可視光線透過率(VLT)、および日射透過率(ST)は、ISO 9050およびJIS R 3106に準拠して測定を行った。具体的には、日立製作所(株)製の分光光度計U-4100を用いて透過率を測定し、太陽光のスペクトルに応じた係数を乗じて算出した。
[実験例2]
(1)加熱還元工程
前駆体酸化物として、実験例1で得た粉末AであるCs1135粉末を用いた。粉末Aをカーボンボートに薄く平らに敷き詰めて、管状炉内に配置し、Arガス気流中で室温から800℃まで加熱した。800℃で温度を保持しながら、Arガスをキャリアとした1%Hガスを混合させた気流に切り替え、15分間還元した後、Hガスを停止し、Arガス気流のみで100℃まで徐冷し、その後Arガス気流を止めて室温まで徐冷し、粉末Bを得た。
(2)還元状態の評価
本実験例2で作製した粉末Bを測定試料とした点以外は実験例1と同様にして光電子スペクトルの測定およびピーク分離を行い、W4fスペクトルを用いてW6+の存在割合およびW5+の存在割合を算出した(測定工程~評価工程)。さらに、O1sスペクトルを用いてO-W6+の存在割合およびO-W5+とO=Cの存在割合を算出した。また、Cs3d5/2およびC1sについても各成分の存在割合を算出した。算出した各成分の存在割合は表6に示す。各欄の表記については、実験例1で説明したため、ここでは説明を省略する。
【0210】
W4fは図6においてスペクトル62で示し、O1sは図7においてスペクトル72で示し、Cs3d5/2図8においてスペクトル82で示し、C1sは図9においてスペクトル92で示した。
(3)赤外線吸収粒子分散液の作製、評価
粉末Bを用いたこと以外は実験例1の場合と同じ条件、操作により、分散液Bを得た。分散液Bの粒子の分散粒径は、31.4nmであった。
【0211】
分散液Bの光学特性はVLT=72.35%、ST=39.84%となり、極めて良好な日射遮蔽特性を持つことが分かった。
(4)赤外線吸収粒子分散体の作製、評価
分散液Bを用いたこと以外は実験例1と同じ条件、操作により、赤外線吸収粒子分散体である硬化膜Bを得た。
【0212】
硬化膜Bの光学特性はVLT=72.7%、ST=41.6%となり、極めて良好な日射遮蔽特性を持つことが分かった。
[実験例3]
(1)加熱還元工程
前駆体酸化物として、実験例1で得た粉末AであるCs1135粉末を用いた。粉末Aをカーボンボートに薄く平らに敷き詰めて、管状炉内に配置し、Arガス気流中で室温から800℃まで加熱した。800℃で温度を保持しながら、Arガスをキャリア―とした1%Hガスを混合させた気流に切り替え、30分間還元した後、Hガスを停止し、Arガス気流のみで100℃まで徐冷し、その後Arガス気流を止めて室温まで徐冷し、粉末Cを得た。
(2)還元状態の評価
本実験例3で作製した粉末Cを測定試料とした点以外は実験例1と同様にして光電子スペクトルの測定およびピーク分離を行い、W4fスペクトルを用いてW6+の存在割合およびW5+の存在割合を算出した(測定工程~評価工程)。さらに、O1sスペクトルを用いてO-W6+の存在割合およびO-W5+とO=Cの存在割合を算出した。また、Cs3d5/2およびC1sについても各成分の存在割合を算出した。算出した各成分の存在割合は表6に示す。各欄の表記については、実験例1で説明したため、ここでは説明を省略する。
【0213】
W4fは図6においてスペクトル63で示し、O1sは図7においてスペクトル73で示し、Cs3d5/2図8においてスペクトル83で示し、C1sは図9においてスペクトル93で示した。
(3)赤外線吸収粒子分散液の作製、評価
粉末Cを用いたこと以外は実験例1の場合と同じ条件、操作により、分散液Cを得た。分散液Cの粒子の分散粒径は、29.3nmであった。
【0214】
分散液Cの光学特性はVLT=72.33%、ST=37.45%となり、極めて良好な日射遮蔽特性を持つことが分かった。
(4)赤外線吸収粒子分散体の作製、評価
分散液Cを用いたこと以外は実験例1と同じ条件、操作により、赤外線吸収粒子分散体である硬化膜Cを得た。
【0215】
硬化膜Cの光学特性はVLT=72.3%、ST=39.6%となり、極めて良好な日射遮蔽特性を持つことが分かった。
[実験例4]
(1)加熱還元工程
前駆体酸化物として、実験例1で得た粉末AであるCs1135粉末を用いた。粉末Aをカーボンボートに薄く平らに敷き詰めて、管状炉内に配置し、Arガス気流中で室温から800℃まで加熱した。800℃で温度を保持しながら、Arガスをキャリア―とした1%Hガスを混合させた気流に切り替え、35分間還元した後、Hガスを停止し、Arガス気流のみで100℃まで徐冷し、その後Arガス気流を止めて室温まで徐冷し、粉末Dを得た。
(2)還元状態の評価
本実験例4で作製した粉末Dを測定試料とした点以外は実験例1と同様にして光電子スペクトルの測定およびピーク分離を行い、W4fスペクトルを用いてW6+の存在割合およびW5+の存在割合を算出した(測定工程~評価工程)。さらに、O1sスペクトルを用いてO-W6+の存在割合およびO-W5+とO=Cの存在割合を算出した。また、Cs3d5/2およびC1sについても各成分の存在割合を算出した。算出した各成分の存在割合は表6に示す。各欄の表記については、実験例1で説明したため、ここでは説明を省略する。
【0216】
W4fは図6においてスペクトル64で示し、O1sは図7においてスペクトル74で示し、Cs3d5/2図8においてスペクトル84で示し、C1sは図9においてスペクトル94で示した。
[実験例5]
(1)加熱還元工程
前駆体酸化物として、実験例1で得た粉末AであるCs1135粉末を用いた。粉末Aをカーボンボートに薄く平らに敷き詰めて、管状炉内に配置し、Arガス気流中で室温から800℃まで加熱した。800℃で温度を保持しながら、Arガスをキャリア―とした1%Hガスを混合させた気流に切り替え、40分間還元した後、Hガスを停止し、Arガス気流のみで100℃まで徐冷し、その後Arガス気流を止めて室温まで徐冷し、粉末Eを得た。
(2)還元状態の評価
本実験例5で作製した粉末Eを測定試料とした点以外は実験例1と同様にして光電子スペクトルの測定およびピーク分離を行い、W4fスペクトルを用いてW6+の存在割合およびW5+の存在割合を算出した(測定工程~評価工程)。さらに、O1sスペクトルを用いてO-W6+の存在割合およびO-W5+とO=Cの存在割合を算出した。また、Cs3d5/2およびC1sについても各成分の存在割合を算出した。算出した各成分の存在割合は表6に示す。各欄の表記については、実験例1で説明したため、ここでは説明を省略する。
【0217】
W4fは図6においてスペクトル65で示し、O1sは図7においてスペクトル75で示し、Cs3d5/2図8においてスペクトル85で示し、C1sは図9においてスペクトル95で示した。
[実験例6]
(1)加熱還元工程
前駆体酸化物として、実験例1で得た粉末AであるCs1135粉末を用いた。粉末Aをカーボンボートに薄く平らに敷き詰めて、管状炉内に配置し、Arガス気流中で室温から800℃まで加熱した。800℃で温度を保持しながら、Arガスをキャリア―とした1%Hガスを混合させた気流に切り替え、60分間還元した後、Hガスを停止し、Arガス気流のみで100℃まで徐冷し、その後Arガス気流を止めて室温まで徐冷し、粉末Fを得た。
(2)還元状態の評価
本実験例6で作製した粉末Fを測定試料とした点以外は実験例1と同様にして光電子スペクトルの測定およびピーク分離を行い、W4fスペクトルを用いてW6+の存在割合およびW5+の存在割合を算出した(測定工程~評価工程)。さらに、O1sスペクトルを用いてO-W6+の存在割合およびO-W5+とO=Cの存在割合を算出した。また、Cs3d5/2およびC1sについても各成分の存在割合を算出した。算出した各成分の存在割合は表6に示す。各欄の表記については、実験例1で説明したため、ここでは説明を省略する。
【0218】
W4fは図6においてスペクトル66で示し、O1sは図7においてスペクトル76で示し、Cs3d5/2図8においてスペクトル86で示し、C1sは図9においてスペクトル96で示した。
(考察)
実験例1~実験例6において、W4fスペクトルのピーク分離工程(S3)の後、評価工程(S4)において算出したW5+の存在割合である、W5+/(W6++W5+)の比率を図10に示す。
【0219】
実験例1~実験例6において、O1sスペクトルのピーク分離の後、算出したO-W6+、O-W5+、O=CにおけるO-W5+、O=Cの比率を図11に示す。
【0220】
実験例1~実験例6において、Cs3d5/2スペクトルのピーク分離の後、算出したCs-Vの存在割合である、Cs-O、Cs-VにおけるCs-Vの比率を図12に示す。
【0221】
実験例1~実験例6において、C1sスペクトルのピーク分離の後、算出したC-C、C-H、C-O、C=O、O-C=Oの割合を図13に示す。図13中、成分11~成分14のピーク面積の和に対する、成分11のピーク面積の割合である成分11の比率が領域133に示されている。また、上記ピーク面積の和に対する、成分12のピーク面積の割合である成分12の比率が領域132に、成分13のピーク面積の割合である成分13の比率が領域131に、成分14のピーク面積の割合である成分14の比率が領域130にそれぞれ示されている。
【0222】
図10では、還元時間が長くなるほどW5+/(W6++W5+)の比率が増加することが見て取れる。但し還元時間60分以上では還元が過剰となり、WOやWメタルが析出することがXRDで確認されており、上記比率が減少した原因は、これらの過剰還元相の出現に帰せられる。また、図11においても、還元時間が長くなるほど、全W(W6++W5+)に対するW5+の存在割合に近似できると考えられる、O-W6+、O-W5+、O=CにおけるO-W5+、O=Cの比率は増加することがわかる。還元60分以上での比率の減少が見られなかったのは、Oの束縛エネルギーを通してW5+を観測した結果と考えられる。図12においても、還元時間が長くなるほどCs-O、Cs-VにおけるCs-Vの比率が増加する傾向が見られた。図13においては、還元時間が長くなっても、炭素のうちのC-C、C-H、C-O、C=O、O-C=Oの比率は増加や減少といった特段の変化を示さないことがわかった。
【0223】
図11に示した、O1sスペクトルのピーク分離により算出したO-W6+、O-W5+、O=CにおけるO-W5+、O=Cの比率においては、O-W5+、O=Cの切り分けは行っていない。しかし、図13より、O=C成分の比率が還元時間によらず概ね一定であることから、図11におけるO-W5+、O=Cの比率の還元時間による変化は、O-W5+の寄与が大きいと考えられる。
【0224】
以上に示した、当該材料のX線光電子分光による光電子スペクトルのピーク分離解析により、当該材料の還元度合い、すなわち還元状態を評価することができた。
【符号の説明】
【0225】
10 フロー
S1 測定工程
S2 補正工程
S3 ピーク分離工程
S4 評価工程
20 赤外線吸収粒子分散液
21 赤外線吸収粒子
22 液状媒体
30 赤外線吸収粒子分散体
31 赤外線吸収粒子
32 固体媒体
40 赤外線吸収積層体
411、412 透明基材
42 赤外線吸収粒子分散体
50 赤外線吸収透明基材
51 透明基材
52 赤外線吸収層
61~66 スペクトル
661~665 曲線
71~76 スペクトル
761~766 曲線
81~86 スペクトル
861~864 曲線
91~96 スペクトル
961~966 曲線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13