(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162702
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】スペクトル分解装置、スペクトル分解方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01J 3/02 20060101AFI20231101BHJP
G01N 21/33 20060101ALI20231101BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
G01J3/02 Z
G01N21/33
G01N21/64 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073260
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100108187
【弁理士】
【氏名又は名称】横山 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】奥野 克樹
(72)【発明者】
【氏名】竹本 真平
(72)【発明者】
【氏名】奥野 好成
【テーマコード(参考)】
2G020
2G043
2G059
【Fターム(参考)】
2G020AA04
2G020AA05
2G020CA05
2G020CC01
2G020CD04
2G020CD34
2G020CD37
2G043EA01
2G043JA01
2G043KA02
2G043KA03
2G043LA01
2G043NA05
2G043NA06
2G059AA01
2G059AA03
2G059AA05
2G059EE01
2G059EE07
2G059EE12
2G059HH02
2G059HH03
2G059JJ01
2G059KK01
2G059MM01
2G059MM20
(57)【要約】
【課題】少なくとも一端が切断されたスペクトルデータを高精度にスペクトル分解する。
【解決手段】スペクトル分解装置は、少なくとも一端が切断されたスペクトルデータの入力を受け付けるように構成されているスペクトル入力部と、ディリクレ過程混合モデルを用いてベイズ推定することで、少なくとも一端が切断された釣り鐘型分布をスペクトルデータに割り当てるためのパラメータを推定するように構成されているパラメータ推定部と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一端が切断されたスペクトルデータの入力を受け付けるように構成されているスペクトル入力部と、
ディリクレ過程混合モデルを用いてベイズ推定することで、少なくとも一端が切断された釣り鐘型分布を前記スペクトルデータに割り当てるためのパラメータを推定するように構成されているパラメータ推定部と、
を備えるスペクトル分解装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスペクトル分解装置であって、
前記パラメータは、各釣り鐘型分布のピークの高さ、位置及び幅を含む、
スペクトル分解装置。
【請求項3】
請求項2に記載のスペクトル分解装置であって、
前記釣り鐘型分布は、ピークの中心に対して左右対称である分布又はピークの中心に対して左右非対称である分布である、
スペクトル分解装置。
【請求項4】
請求項1に記載のスペクトル分解装置であって、
前記パラメータ推定部は、マルコフ連鎖モンテカルロ法、変分ベイズ法又は最大事後確率推定により事後分布を求めることで前記ベイズ推定を行うように構成されている、
スペクトル分解装置。
【請求項5】
請求項1に記載のスペクトル分解装置であって、
前記パラメータに基づいて、前記スペクトルデータの成分を表す複数のスペクトルデータを出力するように構成されている分解結果出力部をさらに備える、
スペクトル分解装置。
【請求項6】
請求項5に記載のスペクトル分解装置であって、
前記分解結果出力部は、各スペクトルデータに対応する前記パラメータをさらに出力するように構成されている、
スペクトル分解装置。
【請求項7】
請求項6に記載のスペクトル分解装置であって、
前記分解結果出力部は、前記パラメータ推定部が推定途中に計算した前記パラメータをさらに出力するように構成されている、
スペクトル分解装置。
【請求項8】
コンピュータが、
少なくとも一端が切断されたスペクトルデータの入力を受け付けるスペクトル入力手順と、
ディリクレ過程混合モデルを用いてベイズ推定することで、少なくとも一端が切断された釣り鐘型分布を前記スペクトルデータに割り当てるためのパラメータを推定するパラメータ推定手順と、
を実行するスペクトル分解方法。
【請求項9】
コンピュータに、
少なくとも一端が切断されたスペクトルデータの入力を受け付けるスペクトル入力手順と、
ディリクレ過程混合モデルを用いてベイズ推定することで、少なくとも一端が切断された釣り鐘型分布を前記スペクトルデータに割り当てるためのパラメータを推定するパラメータ推定手順と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スペクトル分解装置、スペクトル分解方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
複雑なスペクトルを複数の正規分布に分解する技術がある。例えば、非特許文献1には、正規分布の個数毎に各正規分布のパラメータをベイズ推定し、ベイズ自由エネルギーが最小となる個数でスペクトルを分解する技術が開示されている。
【0003】
ディリクレ過程混合モデルを用いることで、正規分布の個数とパラメータを同時に推定することが可能である。例えば、非特許文献2には、ディリクレ過程混合モデルを用いてベイズ推定することで、複雑な確率密度関数を簡単な確率密度関数に分解する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kenji Nagata, Seiji Sugita, and Masato Okada, "Bayesian spectral deconvolution with the exchange Monte Carlo method", Neural Networks, vol. 28, pp. 82-89, 2012.
【非特許文献2】Abhra Sarkar, Bani K. Mallick, John Staudenmayer, Debdeep Pati, and Raymond J. Carroll, "Bayesian Semiparametric Density Deconvolution in the Presence of Conditionally Heteroscedastic Measurement Errors", Journal of Computational and Graphical Statistics, vol. 23(4), pp. 1101-1125, 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、少なくとも一端が切断されたスペクトルを高精度に分解することができない、という課題がある。測定機器で観測されたスペクトルは、測定機器の観測範囲等の要因により少なくとも一端が切断されていることがある。
【0006】
例えば、非特許文献1に開示された従来技術では、正規分布の個数毎に逐次的に各正規分布のパラメータをベイズ推定するため、ベイズ推定を行う回数が多くなり非効率である。例えば、非特許文献2に開示された従来技術では、少なくとも一端が切断されたスペクトルを分解することは想定されていない。
【0007】
本開示は、上記のような技術的課題に鑑みて、少なくとも一端が切断されたスペクトルを高精度に分解することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下に示す構成を備える。
【0009】
[1] 少なくとも一端が切断されたスペクトルデータの入力を受け付けるように構成されているスペクトル入力部と、
ディリクレ過程混合モデルを用いてベイズ推定することで、少なくとも一端が切断された釣り鐘型分布を前記スペクトルデータに割り当てるためのパラメータを推定するように構成されているパラメータ推定部と、
を備えるスペクトル分解装置。
【0010】
[2] 前記[1]に記載のスペクトル分解装置であって、
前記パラメータは、各釣り鐘型分布のピークの高さ、位置及び幅を含む、
スペクトル分解装置。
【0011】
[3] 前記[2]に記載のスペクトル分解装置であって、
前記釣り鐘型分布は、ピークの中心に対して左右対称である分布又はピークの中心に対して左右非対称である分布である、
スペクトル分解装置。
【0012】
[4] 前記[1]に記載のスペクトル分解装置であって、
前記パラメータ推定部は、マルコフ連鎖モンテカルロ法、変分ベイズ法又は最大事後確率推定により事後分布を求めることで前記ベイズ推定を行うように構成されている、
スペクトル分解装置。
【0013】
[5] 前記[1]に記載のスペクトル分解装置であって、
前記パラメータに基づいて、前記スペクトルデータの成分を表す複数のスペクトルデータを出力するように構成されている分解結果出力部をさらに備える、
スペクトル分解装置。
【0014】
[6] 前記[5]に記載のスペクトル分解装置であって、
前記分解結果出力部は、各スペクトルデータに対応する前記パラメータをさらに出力するように構成されている、
スペクトル分解装置。
【0015】
[7] 前記[6]に記載のスペクトル分解装置であって、
前記分解結果出力部は、前記パラメータ推定部が推定途中に計算した前記パラメータをさらに出力するように構成されている、
スペクトル分解装置。
【0016】
[8] コンピュータが、
少なくとも一端が切断されたスペクトルデータの入力を受け付けるスペクトル入力手順と、
ディリクレ過程混合モデルを用いてベイズ推定することで、少なくとも一端が切断された釣り鐘型分布を前記スペクトルデータに割り当てるためのパラメータを推定するパラメータ推定手順と、
を実行するスペクトル分解方法。
【0017】
[9] コンピュータに、
少なくとも一端が切断されたスペクトルデータの入力を受け付けるスペクトル入力手順と、
ディリクレ過程混合モデルを用いてベイズ推定することで、少なくとも一端が切断された釣り鐘型分布を前記スペクトルデータに割り当てるためのパラメータを推定するパラメータ推定手順と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、少なくとも一端が切断されたスペクトルデータを高精度にスペクトル分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】スペクトル分解システムの全体構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】コンピュータのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】スペクトル分解システムの機能構成の一例を示す図である。
【
図4】スペクトル分解方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】分解対象とするスペクトルデータの一例を示す図である。
【
図6】スケール変換後のスペクトルデータの一例を示す図である。
【
図9】パラメータ推定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】パラメータ推定結果の一例を示す図である。
【
図12】スケール復元後のパラメータ推定結果の一例を示す図である。
【
図13】実施例における分解結果の一例を示す図である。
【
図14】実施例における分解結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の各実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0021】
[実施形態]
本発明の一実施形態は、入力されたスペクトルデータを、各成分に分解するスペクトル分解システムである。本実施形態におけるスペクトル分解システムは、少なくとも一端が切断されているスペクトルデータを入力とし、少なくとも一端が切断された1以上の釣り鐘型分布を割り当てることで、スペクトルデータを各成分に分解する。
【0022】
本実施形態におけるスペクトル分解システムは、スペクトルデータに割り当てる釣り鐘型分布の個数と、各釣り鐘型分布のパラメータとを同時に推定する。パラメータの推定では、ディリクレ過程混合モデルを用いたベイズ推定を行う。
【0023】
本実施形態におけるスペクトルデータの一例は、試料に紫外線又は可視光を照射し、試料が放射する光量を測定した蛍光スペクトルである。蛍光スペクトルを構成ピークに分解することで、試料とした物質の状態、濃度又は組成等を分析することが可能である。
【0024】
本実施形態におけるスペクトルデータの他の例は、試料に紫外線又は可視光を照射し、試料が吸収する光量を測定した紫外可視吸収スペクトルである。紫外可視吸収スペクトルを各成分に分解することで、試料とした物質の状態、濃度又は組成等を分析することが可能である。
【0025】
本実施形態におけるスペクトルデータの他の例は、試料をイオン化し、磁場をかけた分子を検出することで得られるマススペクトルである。マススペクトルを各成分に分解することで、試料分子の構造に関する情報を得ることができ、既存物質の同定又は新規物質の構造決定等に利用することができる。
【0026】
<スペクトル分解システムの全体構成>
まず、本実施形態におけるスペクトル分解システムの全体構成を、
図1を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態におけるスペクトル分解システムの全体構成の一例を示すブロック図である。
【0027】
図1に示されているように、本実施形態におけるスペクトル分解システム1は、スペクトル分解装置10、測定装置20及びユーザ端末30を含む。スペクトル分解装置10、測定装置20及びユーザ端末30は、LAN(Local Area Network)又はインターネット等の通信ネットワークN1を介してデータ通信可能に接続されている。
【0028】
スペクトル分解装置10は、測定装置20により生成されたスペクトルデータを分解するPC(Personal Computer)、ワークステーション、サーバ等の情報処理装置である。スペクトル分解装置10は、測定装置20から分解対象とするスペクトルデータを受信する。また、スペクトル分解装置10は、受信したスペクトルデータを各成分に分解し、分解結果をユーザ端末30に送信する。
【0029】
測定装置20は、ユーザの操作に応じて、試料を所定の手法に基づいて測定し、スペクトルデータを生成する機器である。測定装置20は、生成したスペクトルデータをスペクトル分解装置10に送信する。測定装置20の一例は、分光蛍光光度計である。測定装置20の他の例は、紫外可視分光光度計又は質量分析計である。
【0030】
ユーザ端末30は、ユーザが操作するPC、タブレット端末、スマートフォン等の情報処理端末である。ユーザ端末30は、スペクトル分解装置10から分解結果を受信し、ユーザに対して出力する。
【0031】
なお、
図1に示したスペクトル分解システム1の全体構成は一例であって、用途や目的に応じて様々なシステム構成例があり得る。例えば、スペクトル分解装置10は、複数台のコンピュータにより実現してもよいし、クラウドコンピューティングのサービスとして実現してもよい。また、例えば、スペクトル分解システム1は、スペクトル分解装置10、測定装置20及びユーザ端末30がそれぞれ備えるべき機能を兼ね備えたスタンドアローンの情報処理装置により実現してもよい。
【0032】
<スペクトル分解システムのハードウェア構成>
次に、本実施形態におけるスペクトル分解システム1のハードウェア構成を、
図2を参照しながら説明する。
【0033】
≪コンピュータのハードウェア構成≫
本実施形態におけるスペクトル分解装置10及びユーザ端末30は、例えばコンピュータにより実現される。
図2は、本実施形態におけるコンピュータ500のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0034】
図2に示されているように、コンピュータ500は、CPU(Central Processing Unit)501、ROM(Read Only Memory)502、RAM(Random Access Memory)503、HDD(Hard Disk Drive)504、入力装置505、表示装置506、通信I/F(Interface)507及び外部I/F508を有する。CPU501、ROM502及びRAM503は、いわゆるコンピュータを形成する。コンピュータ500の各ハードウェアは、バスライン509を介して相互に接続されている。なお、入力装置505及び表示装置506は外部I/F508に接続して利用する形態であってもよい。
【0035】
CPU501は、ROM502又はHDD504等の記憶装置からプログラムやデータをRAM503上に読み出し、処理を実行することで、コンピュータ500全体の制御や機能を実現する演算装置である。
【0036】
ROM502は、電源を切ってもプログラムやデータを保持することができる不揮発性の半導体メモリ(記憶装置)の一例である。ROM502は、HDD504にインストールされている各種プログラムをCPU501が実行するために必要な各種プログラム、データ等を格納する主記憶装置として機能する。具体的には、ROM502には、コンピュータ500の起動時に実行されるBIOS(Basic Input/Output System)、EFI(Extensible Firmware Interface)等のブートプログラムや、OS(Operating System)設定、ネットワーク設定等のデータが格納されている。
【0037】
RAM503は、電源を切るとプログラムやデータが消去される揮発性の半導体メモリ(記憶装置)の一例である。RAM503は、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)等である。RAM503は、HDD504にインストールされている各種プログラムがCPU501によって実行される際に展開される作業領域を提供する。
【0038】
HDD504は、プログラムやデータを格納している不揮発性の記憶装置の一例である。HDD504に格納されるプログラムやデータには、コンピュータ500全体を制御する基本ソフトウェアであるOS、及びOS上において各種機能を提供するアプリケーション等がある。なお、コンピュータ500はHDD504に替えて、記憶媒体としてフラッシュメモリを用いる記憶装置(例えばSSD:Solid State Drive等)を利用するものであってもよい。
【0039】
入力装置505は、ユーザが各種信号を入力するために用いるタッチパネル、操作キーやボタン、キーボードやマウス、音声等の音データを入力するマイクロホン等である。
【0040】
表示装置506は、画面を表示する液晶や有機EL(Electro-Luminescence)等のディスプレイ、音声等の音データを出力するスピーカ等で構成されている。
【0041】
通信I/F507は、通信ネットワークに接続し、コンピュータ500がデータ通信を行うためのインタフェースである。
【0042】
外部I/F508は、外部装置とのインタフェースである。外部装置には、ドライブ装置510等がある。
【0043】
ドライブ装置510は、記録媒体511をセットするためのデバイスである。ここでいう記録媒体511には、CD-ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等のように情報を光学的、電気的あるいは磁気的に記録する媒体が含まれる。また、記録媒体511には、ROM、フラッシュメモリ等のように情報を電気的に記録する半導体メモリ等が含まれていてもよい。これにより、コンピュータ500は外部I/F508を介して記録媒体511の読み取り及び/又は書き込みを行うことができる。
【0044】
なお、HDD504にインストールされる各種プログラムは、例えば、配布された記録媒体511が外部I/F508に接続されたドライブ装置510にセットされ、記録媒体511に記録された各種プログラムがドライブ装置510により読み出されることでインストールされる。あるいは、HDD504にインストールされる各種プログラムは、通信I/F507を介して、通信ネットワークとは異なる他のネットワークよりダウンロードされることでインストールされてもよい。
【0045】
<スペクトル分解システムの機能構成>
続いて、本実施形態におけるスペクトル分解システムの機能構成を、
図3を参照しながら説明する。
図3は本実施形態におけるスペクトル分解システム1の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0046】
≪スペクトル分解装置の機能構成≫
図3に示されているように、本実施形態におけるスペクトル分解装置10は、スペクトル入力部101、スケール変換部102、パラメータ推定部103、スケール復元部104及び分解結果出力部105を備える。
【0047】
スペクトル入力部101、スケール変換部102、パラメータ推定部103、スケール復元部104及び分解結果出力部105は、
図2に示されているHDD504からRAM503上に展開されたプログラムがCPU501に実行させる処理によって実現される。
【0048】
スペクトル入力部101は、測定装置20から分解対象とするスペクトルデータ(以下、「対象スペクトル」とも呼ぶ)を受信する。本実施形態における対象スペクトルは、少なくとも一端が切断されているものとする。対象スペクトルは、両端が切断されていてもよい。また、切断位置(例えば、ピークの中心からの距離等)は限定されない。本明細書において、ピークの中心とは、スペクトルデータを各成分に分解する前は、対象スペクトルの局所における最大強度の位置を指す。ピークの中心は、スムージング処理等を行った結果における、局所における最大強度の位置であってもよい。
【0049】
スケール変換部102は、スペクトル入力部101により受信された対象スペクトルのスケールを、対象スペクトルの積分値が1となるように変換する。
【0050】
パラメータ推定部103は、スケール変換部102によりスケール変換された対象スペクトル(以下、「変換後スペクトル」とも呼ぶ)に、少なくとも一端が切断された1以上の釣り鐘型分布を割り当てるためのパラメータを推定する。パラメータ推定部103は、ディリクレ過程混合モデルを用いてベイズ推定することで、各釣り鐘型分布のパラメータを推定する。
【0051】
スケール復元部104は、パラメータ推定部103により推定されたパラメータ(以下、「推定パラメータ」とも呼ぶ)のスケールを、対象スペクトルのスケールに復元する。
【0052】
分解結果出力部105は、スケール復元部104によりスケールを復元されたパラメータ(以下、「復元パラメータ」とも呼ぶ)に基づいて、対象スペクトルの分解結果を出力する。具体的には、分解結果出力部105は、対象スペクトルの分解結果を、ユーザ端末30に送信する。また、分解結果出力部105は、スペクトル分解装置10が備える表示装置506に分解結果を表示してもよい。
【0053】
≪測定装置の機能構成≫
図3に示されているように、本実施形態における測定装置20は、測定部201及びスペクトル生成部202を備える。
【0054】
測定部201は、測定対象とする試料を所定の手法で測定する。測定手法は、所望のスペクトルデータを生成することができるものであれば、どのようなものでもよい。本実施形態における測定手法の一例は、蛍光スペクトルを生成するための蛍光分光法である。本実施形態における測定手法の他の例は、紫外可視吸収スペクトルを生成するための紫外可視分光法又はマススペクトルを生成するための質量分析法である。
【0055】
スペクトル生成部202は、測定部201による測定結果に基づいて、対象スペクトルを生成する。本実施形態におけるスペクトルデータの一例は、蛍光スペクトルである。本実施形態におけるスペクトルデータの他の例は、紫外可視吸収スペクトル又はマススペクトルである。
【0056】
≪ユーザ端末30の機能構成≫
図3に示されているように、本実施形態におけるユーザ端末30は、分解結果表示部301を備える。
【0057】
分解結果表示部301は、
図2に示されているHDD504からRAM503上に展開されたプログラムがCPU501に実行させる処理によって実現される。
【0058】
分解結果表示部301は、スペクトル分解装置10から対象スペクトルの分解結果を受信する。分解結果表示部301は、受信した対象スペクトルの分解結果を表示装置506に表示する。
【0059】
<スペクトル分解システムの処理手順>
次に、本実施形態におけるスペクトル分解システム1が実行するスペクトル分解方法の処理手順を、
図4を参照しながら説明する。
図4は、本実施形態におけるスペクトル分解方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0060】
ステップS1において、測定装置20が備える測定部201は、ユーザの操作に応じて、試料を所定の手法で測定する。次に、測定装置20が備えるスペクトル生成部202が、測定部201による測定結果に基づいて、対象スペクトルを生成する。続いて、スペクトル生成部202は、生成した対象スペクトルをスペクトル分解装置10に送信する。
【0061】
本実施形態における対象スペクトルは、例えば、分光蛍光光度計により試料から測定された蛍光スペクトルである。分光蛍光光度計は、光のエネルギーが所定の観測範囲に含まれる領域において光強度を測定するため、観測範囲の上限及び下限で切断されたスペクトルデータとなることがある。
【0062】
スペクトル分解装置10では、スペクトル入力部101が、測定装置20から対象スペクトルを受信する。次に、スペクトル入力部101は、受信した対象スペクトルを、スケール変換部102に送る。
【0063】
ここで、本実施形態における対象スペクトルについて、
図5を参照しながら説明する。
図5は、本実施形態における対象スペクトルの一例を示す図である。
【0064】
図5に示されているように、本実施形態における対象スペクトルは、2.00~4.00eVの範囲で観測されており、観測範囲の上限及び下限において両端が切断されている。本実施形態における対象スペクトルは、いずれか一端のみが切断されており、他の一端が横軸に接していてもよい。
【0065】
図4に戻って説明する。ステップS2において、スペクトル分解装置10が備えるスケール変換部102は、スペクトル入力部101から対象スペクトルを受け取る。次に、スケール変換部102は、対象スペクトルのスケールを、対象スペクトルの積分値が1となるように変換する。続いて、スケール変換部102は、変換後スペクトルをパラメータ推定部103に送る。
【0066】
具体的には、スケール変換部102は、まず、台形公式又はシンプソン式等を用いて対象スペクトルを数値積分する。これにより、対象スペクトルの積分値Sが得られる。次に、スケール変換部102は、対象スペクトルの各値を、対象スペクトルの積分値Sで除算する。その後、スケール変換部102は、対象スペクトルの積分値Sを、RAM503又はHDD504等で実現される記憶部に記憶する。
【0067】
ここで、本実施形態における変換後スペクトルについて、
図6を参照しながら説明する。
図6は、本実施形態における変換後スペクトルの一例を示す図である。
【0068】
図6に示されているように、変換後スペクトルは、光強度が0.0~0.8の範囲に縮小されている。
図5に示されている対象スペクトルでは、光強度が0~50の範囲となっていた。
図6に示されている変換後スペクトルは、斜線で示されている範囲の面積(すなわち、変換後スペクトルの積分値)が1となっている。
【0069】
図4に戻って説明する。ステップS3において、スペクトル分解装置10が備えるパラメータ推定部103は、スケール変換部102から変換後スペクトルを受け取る。次に、パラメータ推定部103は、ディリクレ過程混合モデルを用いてベイズ推定することで、変換後スペクトルに少なくとも一端が切断された1以上の釣り鐘型分布を割り当てるためのパラメータを推定する。
【0070】
ここで、本実施形態における釣り鐘型分布について、
図7を参照しながら説明する。
図7は、本実施形態における釣り鐘型分布の一例を示す図である。
【0071】
本実施形態における釣り鐘型分布の一例は、正規分布である。
図7(A)は、正規分布の一例を示す図である。なお、少なくとも一端が切断された正規分布は、切断正規分布と呼ばれる。
【0072】
正規分布の確率密度関数(ガウス関数)は、式(1)で表される。
【0073】
【0074】
ただし、bは分散の逆数、μはピーク位置である。正規分布のピークの高さはa√(b/2π)で表される。
【0075】
本実施形態における釣り鐘型分布の他の一例は、コーシー分布である。
図7(B)は、コーシー分布の一例を示す図である。
【0076】
コーシー分布の確率密度関数(ローレンツ関数)は、式(2)で表される。
【0077】
【0078】
ただし、γは半値半幅を与える尺度、x0はピーク位置である。コーシー分布のピークの高さはa/(πγ)で表される。
【0079】
本実施形態における釣り鐘型分布の他の一例は、対数正規分布である。
図7(C)は、対数正規分布の一例を示す図である。
【0080】
対数正規分布の確率密度関数は、式(3)で表される。
【0081】
【0082】
対数正規分布のピーク位置はeμ-σ^2で表される。
【0083】
図7に示されているように、本実施形態における釣り鐘型分布は、正規分布又はコーシー分布のように、ピークの中心位置に対して左右対称の分布であってもよいし、対数正規分布のように、ピークの中心位置に対して左右非対称の分布であってもよい。分解後のピークの中心位置は、スペクトルデータを各成分に分解した結果として、成分毎にμとして求まる。
【0084】
≪パラメータ推定処理≫
ここで、本実施形態におけるパラメータ推定処理(
図4のステップS3)について、
図8乃至
図10を参照しながら詳細に説明する。
【0085】
ここでは、釣り鐘型分布として切断正規分布を割り当てるものとして説明する。この場合、パラメータ推定部103は、ディリクレ過程混合モデルを用いて、式(4)~(10)のパラメータ{μi, bi}i=1
K, {νj}j=1
K, α, σをベイズ推定する。
【0086】
【0087】
ただし、ysは変換後スペクトルである。Kは切断正規分布の最大個数である。Betaはベータ分布である。InvGammaは逆ガンマ分布である。Upperは変換後スペクトルの切断位置の横軸の値のうち大きい方である。Lowerは変換後スペクトルの切断位置の横軸の値のうち小さい方である。
【0088】
また、πiは、切断正規分布の混合比を表す。νiは、各切断正規分布の比率を表す。Ciは、切断正規分布の積分値を1に正規化するための規格化定数である。
【0089】
式(6)~(8)は、ディリクレ過程のうち棒折り過程に相当する。
図8は、棒折り過程の一例を示す図である。
図8に示されているように、棒折り過程では、長さ1の直線をν
i:1-ν
iの比率で分割することを繰り返す。このとき、比率ν
iは、ベータ分布Bata(1, α)により生成される乱数を用いる。
【0090】
なお、αはベータ分布の形状を表すパラメータである。αが大きいほど小さいνiが生成される可能性が高くなる。その結果、混合比πiの小さい成分が多数割り当てられることになる。
【0091】
また、σは正規分布に従うノイズの標準偏差である。
【0092】
図9は、本実施形態におけるパラメータ推定処理の一例を示すフローチャートである。
【0093】
ステップS3-1において、パラメータ推定部103は、割り当てる切断正規分布の最大個数Kを決定する。最大個数Kは、対象スペクトルの形状に応じて任意に定めればよい。最大個数Kは、ユーザが設定してもよいし、自動的に定めてもよい。
【0094】
ステップS3-2において、パラメータ推定部103は、パラメータの事前分布を決定する。事前分布は、式(11)で表される。
【0095】
【0096】
p(νi)等は各パラメータの事前分布である。
【0097】
パラメータ推定部103は、初期値をランダムに定めればよい。例えば、αは、逆ガンマ分布InvGamma(1, 1)からランダムに取得する。νiは、ベータ分布Beta(1, α)からランダムに取得する。μiは、正規分布N(1.0, 1/5.0)からランダムに取得する。biは、ガンマ分布Gamma(5.0, 0.04)からランダムに取得する。σは半コーシー分布HalfCauchy(1.0)からランダムに取得する。
【0098】
ステップS3-3において、パラメータ推定部103は、ベイズ推定を終了するための収束条件を決定する。収束条件は、ベイズ推定で用いられる任意の条件とすればよい。本実施形態における収束条件は、例えば、事後確率の最大値が更新されなくなったこと等と定めればよい。
【0099】
ここで、本実施形態における収束条件について、
図10を参照しながら説明する。
図10は、本実施形態における収束条件の一例を示す図である。
【0100】
図10は、横軸をベイズ推定のステップ数(step)、縦軸を対数事後確率の最大値(log probability)として、各ステップにおける対数事後確率の最大値の推移を示したグラフである。
図10に示した例では、16,000ステップ近辺以降で対数事後確率の最大値が一定となっている。上記のように、収束条件を、事後確率が更新されなくなったこと等と定めた場合、16,000ステップで収束したと判断することができる。
【0101】
図9に戻って説明する。ステップS3-4において、パラメータ推定部103は、パラメータの事後分布をベイズ推定する。パラメータの事後分布は式(12)~(13)で表される。
【0102】
【0103】
ベイズ推定の事後分布は、任意の方法で求めればよい。例えば、マルコフ連鎖モンテカルロ法、変分ベイズ法、又は最大事後確率推定等により事後分布を求めることができる。
【0104】
ステップS3-5において、パラメータ推定部103は、計算した事後確率が収束条件を満たしたか否かを判定する。収束条件を満たした場合(YES)、パラメータ推定部103は、ステップS3-6に処理を進める。収束条件を満たしていない場合(NO)、パラメータ推定部103は、ステップS3-4を再度実行する。
【0105】
ステップS3-6において、パラメータ推定部103は、パラメータ推定結果を出力する。パラメータ推定部103が出力したパラメータ推定結果は、スケール復元部104に送られる。
【0106】
ここで、本実施形態におけるパラメータ推定結果について、
図11を参照しながら説明する。
図11は、本実施形態におけるパラメータ推定結果の一例を示す図である。
【0107】
図11は、推定されたパラメータが設定された切断正規分布と変換後スペクトルとを重ね合わせて表示した図である。
図11に示されているように、パラメータ推定結果には、3個の分布D1~D3が割り当てられている。分布D1は、左端が切断されている切断正規分布である。分布D2は、両端いずれも切断されていない正規分布である。分布D3は、右端が切断されている切断正規分布である。
【0108】
図4に戻って説明する。ステップS4において、スペクトル分解装置10が備えるスケール復元部104は、パラメータ推定部103からパラメータ推定結果を受け取る。次に、スケール復元部104は、パラメータ推定結果のスケールを、対象スペクトルのスケールに復元する。続いて、スケール復元部104は、スケール復元後のパラメータ推定結果を分解結果出力部105に送る。
【0109】
具体的には、スケール復元部104は、まず、記憶部に記憶されている対象スペクトルの積分値Sを取得する。次に、スケール復元部104は、式(14)~(16)に示すように、パラメータ推定結果に積分値Sを乗算する。
【0110】
【0111】
ここで、本実施形態におけるスケール復元後のパラメータ推定結果について、
図12を参照しながら説明する。
図12は、本実施形態におけるスケール復元後のパラメータ推定結果の一例を示す図である。
【0112】
図12は、スケール復元後のパラメータが設定された切断正規分布と対象スペクトルとを重ね合わせて表示した図である。
図12に示されているように、スケール復元後のパラメータ推定結果では、分布D1~D3は、縦軸が0~50の範囲に拡大されている。
図11に示されているスケール復元前のパラメータ推定結果では、縦軸が0.0~0.8の範囲となっていた。
【0113】
図4に戻って説明する。ステップS5において、スペクトル分解装置10が備える分解結果出力部105は、スケール復元部104からスケール復元後のパラメータ推定結果を受け取る。次に、分解結果出力部105は、スケール復元後のパラメータに基づいて、対象スペクトルの分解結果を生成する。
【0114】
対象スペクトルの分解結果は、対象スペクトルの各成分を表すスペクトルデータ(以下、「成分スペクトル」とも呼ぶ)を含む。成分スペクトルは、パラメータ推定結果に含まれる各切断正規分布と、形状を表すパラメータが同一、かつ、両端が切断されていない正規分布により表される。
【0115】
対象スペクトルの分解結果は、パラメータ推定部103が出力したパラメータ推定結果を含んでいてもよい。また、対象スペクトルの分解結果は、パラメータ推定部103が計算した推定途中の各パラメータを含んでいてもよい。
【0116】
続いて、分解結果出力部105は、生成した分解結果をユーザ端末30に送信する。ユーザ端末30では、分解結果表示部301が、スペクトル分解装置10から分解結果を受信する。次に、分解結果表示部301は、受信した分解結果を表示装置506に表示する。
【0117】
なお、分解結果出力部105は、生成した分解結果をスペクトル分解装置10が備える表示装置506に表示してもよい。
【0118】
分解結果表示部301は、分解結果に含まれる各成分スペクトルを、対象スペクトルと比較可能な態様で表示する。例えば、分解結果表示部301は、対象スペクトルと各成分スペクトルとを、異なる線種で1つのグラフに表示してもよい。また、例えば、分解結果表示部301は、対象スペクトルを表示したグラフと、各成分スペクトルを表示したグラフを左右又は上下に並べて表示してもよい。
【0119】
分解結果表示部301は、各切断正規分布におけるピークの位置、高さ及び幅を、対象スペクトルに対応付けて表示してもよい。なお、切断正規分布の幅は、例えば、標準偏差(バンド幅)であってもよいし、半値全幅(FWHM; Full Width at Half Maximum)であってもよい。
【0120】
さらに、分解結果表示部301は、推定途中に計算された、各切断正規分布におけるピークの位置、高さ及び幅を表示してもよい。
【0121】
なお、例えば対数正規分布のように左右非対称の釣り鐘型分布を用いて対象スペクトルを分解した場合、分解結果表示部301は、各分布の幅として、少なくとも一端が切断された左右非対称の釣り鐘型分布における全幅を表示すればよい。また、この場合、分解結果表示部301は、各分布におけるピークの左側の幅と右側の幅とをそれぞれ対応付けて表示してもよい。
【0122】
分解結果表示部301が分解結果として表示する情報は、上記に限定されるものではない。スペクトル分解装置10が対象スペクトルを分解する過程で得られる情報の範囲で、どのような情報を表示してもよい。
【0123】
<実施形態の効果>
本実施形態におけるスペクトル分解システムは、ディリクレ過程混合モデルを用いてベイズ推定することで、少なくとも一端が切断されたスペクトルデータに、少なくとも一端が切断された1以上の釣り鐘型分布を割り当てる。
【0124】
少なくとも一端が切断された釣り鐘型分布を用いることで、少なくとも一端が切断されたスペクトルデータであっても高精度に分布を割り当てることができる。また、ディリクレ過程混合モデルを用いてベイズ推定することで、釣り鐘型分布の個数と各釣り鐘型分布のパラメータを効率的に推定することができる。
【0125】
したがって、本実施形態におけるスペクトル分解システムによれば、少なくとも一端が切断されたスペクトルデータを効率的かつ高精度にスペクトル分解することができる。
【0126】
[実施例]
上記実施形態におけるスペクトル分解システム1による分解精度を評価するために、分解対象とするスペクトルデータに、切断正規分布を割り当てた場合の分解結果と、正規分布を割り当てた場合の分解結果との比較を行った。以下、切断正規分布を割り当てた場合を実施例1、正規分布を割り当てた場合を比較例1として、評価結果を説明する。
【0127】
本実施例では、3個のガウス関数と、平均が0、分散が1の正規分布に従う乱数ε(x)とを混合し、両端を切断したスペクトルデータf(x)を分解対象とした。本実施例におけるスペクトルデータf(x)は、式(17)~(18)で表される。
【0128】
【0129】
図13は、本実施例における分解結果の一例を示す図である。
図13(A)は、実施例1のフィッティング精度を示す図である。
図13(B)は、比較例1のフィッティング精度を示す図である。
【0130】
図13では、分解対象とするスペクトル(太い実線)、割り当てられた分布(点線、一点鎖線、二点鎖線)、及び割り当てられた分布を混合した混合分布(細い実線)を重ね合わせて表示している。また、グラフの上部には、スペクトルと混合分布との残差を表すグラフを表示している。
【0131】
図13に示されているように、実施例1(
図13(A))では、残差の平均がほぼ0となり良好にフィッティングされている。一方、比較例1(
図13(B))では、残差の平均が正の値となりフィッティングの精度が悪い。
【0132】
図14は、本実施例における分解結果の一例を示す図である。
図14(A)は、分解対象としたスペクトルの成分である正規分布のパラメータ(すなわち、正解のパラメータ)を示す表である。
図14(B)は、実施例1で推定されたパラメータを示す表である。
図14(C)は、比較例1で推定されたパラメータを示す表である。
【0133】
図14に示されているように、実施例1では、すべてのパラメータが正解のパラメータに近い値となっており、精度よくパラメータを推定できている。一方、比較例1では、一部のパラメータが正解のパラメータから乖離しており、パラメータの推定精度が悪い。特に、分布の幅を表すbの値で正解との乖離が大きくなっている。
【0134】
上記のとおり、本実施例によって、ディリクレ過程混合モデルを用いて切断正規分布のパラメータをベイズ推定することで、切断されたスペクトルデータを高精度に分解できることが示された。
【0135】
[補足]
上記で説明した実施形態の各機能は、一又は複数の処理回路によって実現することが可能である。ここで、本明細書における「処理回路」とは、電子回路により実装されるプロセッサのようにソフトウェアによって各機能を実行するようプログラミングされたプロセッサや、上記で説明した各機能を実行するよう設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)や従来の回路モジュール等の機器を含むものとする。
【0136】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0137】
1 スペクトル分解システム
10 スペクトル分解装置
101 スペクトル入力部
102 スケール変換部
103 パラメータ推定部
104 スケール復元部
105 分解結果出力部
20 測定装置
201 測定部
202 スペクトル生成部
30 ユーザ端末
301 分解結果表示部