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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162782
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】生地性改良剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/36 20060101AFI20231101BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20231101BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20231101BHJP
   A23K 50/40 20160101ALI20231101BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20231101BHJP
   A23K 20/142 20160101ALI20231101BHJP
   A23K 20/163 20160101ALI20231101BHJP
【FI】
A21D2/36
A21D2/18
A21D13/00
A23K50/40
A23K10/30
A23K20/142
A23K20/163
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073420
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】小俣 愛美
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4B032
【Fターム(参考)】
2B005AA03
2B150AA06
2B150AB20
2B150AE01
2B150AE12
2B150BA01
2B150BD06
2B150BE04
2B150CA20
2B150DA43
2B150DC13
4B032DB02
4B032DK12
4B032DK19
4B032DK30
4B032DK31
4B032DK33
4B032DP02
4B032DP05
4B032DP06
4B032DP08
(57)【要約】
【課題】穀粉類を含み、さらにアミノ酸類あるいは糖類を含む非流動状の生地であっても、生地がべたつくことなく成型時に形状が崩れにくい生地を提供することである。
【解決手段】下記工程1~3を含む、生地性改良剤の製造方法により上記課題が解決される。
(1)水分含量が30質量%以上である農作物由来繊維質素材のペーストを調製する工程1、
(2)工程1で得られたペーストとアミノ酸類と糖類とを混合する工程2であって、ただし、前記アミノ酸類の量が、前記ペーストの乾燥固形分100質量部に対して5~120質量部であり、糖類の量が、前記ペーストの乾燥固形分100質量部に対して5~110質量部である、工程2、および
(3)工程2で得られた混合物を加熱処理して乾燥する工程3。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程1~3を含む、生地性改良剤の製造方法:
(1)水分含量が30質量%以上である農作物由来繊維質素材のペーストを調製する工程1、
(2)工程1で得られたペーストとアミノ酸類と糖類とを混合する工程2であって、ただし、前記アミノ酸類の量が、前記ペーストの乾燥固形分100質量部に対して5~120質量部であり、糖類の量が、前記ペーストの乾燥固形分100質量部に対して5~110質量部である、工程2、および
(3)工程2で得られた混合物を加熱処理して乾燥する工程3。
【請求項2】
農作物由来繊維質素材のペーストが、おからペースト、ビートパルプペースト及びパミスペーストからなる群から選択される1以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
さらに工程3で得られた乾燥物を粉砕する工程4を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
工程1における農作物由来繊維質素材のペーストの水分含量が30~95質量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程3における加熱温度が200~400℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法で得られる生地性改良剤と生地原料とを混合する工程を含む、非流動状生地の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法で得られる非流動状生地を加熱する工程を含む、ベーカリー食品の製造方法。
【請求項8】
ベーカリー食品が愛玩動物用である、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一定の食品を製造するための、小麦粉等の穀粉と水分とを含む非流動状生地の生地性改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉等の穀粉を含む一定の食品を製造するための当該穀粉と水分とを含むいわゆる「生地」は、一般的に、流動状生地と非流動状生地とに大別される。非流動状生地として、ペースト生地とドウ生地が挙げられる。ペースト生地は、流動性はないが変形回復が不可能な可塑性のある物性が特徴で、例としてオールドファッション等のドーナツの生地があげられる。ドウ生地は、弾性や伸展性があり変形回復可能な物性が特徴で、例として麺やパンの生地があげられる。またドウ生地の例として、ペットフードの中で水分含量25~35%かつ未発泡であるセミモイストフード、ペースト生地の例として、魚肉や畜肉等を用いて製造されるジャーキーなどの練り加工品があげられる。
食品に対してメイラード反応による嗜好性の向上を図る目的で、アミノ酸と還元糖を使用する方法が提案されている。例えば、特許文献1では、還元糖及びアミノ酸を他原料と共に添加し、ペットフード製造時の加熱処理によってメイラード反応を起こし嗜好性に優れたペットフードを製造することが開示されている。しかし、このようにアミノ酸及び糖を生地に添加すると焼成後の風味を向上することができるが、その添加量により生地がべたつく傾向になるという問題点がある。べたつきが生じると、成形時(特に型を用いた成型時)に形状が崩れやすく、焼成後のカスが多くなり歩留まりが低下するなどの問題が生じる。また、ドウ生地を押出し機に供して成形あるいは成型する場合、生地表面が荒れやすいという問題があった。
特許文献2では、アミノ酸類と還元糖を含む粉末状原料を容器に密封し、品温80~180℃の範囲で、5~200分間乾熱処理する工程を含む、嗜好性向上剤の製造方法が開示されている。従来の水溶性溶媒を介したメイラード反応によって得られる嗜好性向上剤に対して、製造工程が簡略化された嗜好性向上剤の製造方法であるが、乾熱処理のため焦げやすく、それぞれの資材を粉末化しなければならない工程が必要である。また、特許文献2の嗜好性向上剤はドライペットフードに塗布して用いるものであり、ペットフードの生地に導入するものではない。
一方、従来から、ふすま、ぬか、おからなど、農作物由来の食物繊維質素材を食物繊維の有する生理学的な作用を期待して各種の食品等に直接添加することも提案されている。
特許文献3では、ペットの肥満対策や便臭改善、整腸効果を目的に、食物繊維を主成分とする資材をペットフードに添加することがある。例えばペットフードにおからを添加することでおからが有する食物繊維によって肥満、糖尿病、高血圧等の疾病の予防が期待でき、さらに便通をよくするとともに糞便臭気を抑制させることができる。
特許文献4では、イヌリンを主成分とする水溶性食物繊維粉末に対しふすま、ぬか、又はおからから選ばれる1種又は2種以上の不溶性食物繊維粉末を2倍重量部以上20倍重量部以下配合してなることを特徴とするダイエット食品及びペットフード組成物が開示されている。
特許文献5では、乾物あたり、脂質を5~10質量%、タンパク質を20~40質量%及び食物繊維を5~30質量%含有し、水分含量が25~55質量%である、筋肉量の減少をはじめとした悪影響を伴わず、減量効果を有する高嗜好性のペットフードについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2014/098110
【特許文献2】特開2019-187255
【特許文献3】特開2006-94793
【特許文献4】特開2009-207484
【特許文献5】特開2016-052287
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
穀粉類を含む非流動状の生地において、焼成後の風味を向上させるためにアミノ酸類および糖類を添加する場合があるが、これらの添加量が増えるにつれて生地がべたつく傾向にある。べたつきが生じると、成形時に形状が崩れやすく、焼成後のカスが多くなり歩留まりが低下するなどの問題が生じる。特に、非流動状の生地を押出し機に供して成形する場合や、型を用いた成型時に生地表面が荒れやすいという問題があった。
よって、本発明の課題は、穀粉類を含む非流動状の生地において、成形時の形状の崩れを防止することができる生地を製造する方法を提供することである。
本発明の他の課題は、穀粉類を含む非流動状の生地において、押出し機に供して成形あるいは成型する場合、生地表面が荒れやすいという問題を解決する方法を提供することである。
本発明の更なる他の課題は、穀粉類を含み、さらにアミノ酸類あるいは糖類を含む非流動状の生地であっても、生地がべたつくことなく成形時に形状が崩れにくい生地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、穀粉類を含む非流動状の生地において、農作物由来食物繊維質素材とアミノ酸類と糖類との加熱乾燥粉末を使用することにより、生地の成形性が改善することを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下を提供する。
〔1〕下記工程1~3を含む、生地性改良剤の製造方法:
(1)水分含量が30質量%以上である農作物由来繊維質素材のペーストを調製する工程1、
(2)工程1で得られたペーストとアミノ酸類と糖類とを混合する工程2であって、ただし、前記アミノ酸類の量が、前記ペーストの乾燥固形分100質量部に対して5~120質量部であり、糖類の量が、前記ペーストの乾燥固形分100質量部に対して5~110質量部である、工程2、および
(3)工程2で得られた混合物を加熱処理して乾燥する工程3。
〔2〕農作物由来繊維質素材のペーストが、おからペースト、ビートパルプペースト及びパミスペーストからなる群から選択される1以上である、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕さらに工程3で得られた乾燥物を粉砕する工程4を含む、前記〔1〕または〔2〕記載の製造方法。
〔4〕工程1における農作物由来繊維質素材のペーストの水分含量が30~95質量%である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の方法。
〔5〕工程3における加熱温度が200~400℃である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔6〕前記〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の製造方法で得られる生地性改良剤と生地原料とを混合する工程を含む、非流動状生地の製造方法。
〔7〕前記〔6〕に記載の製造方法で得られる非流動状生地を加熱する工程を含む、ベーカリー食品の製造方法。
〔8〕ベーカリー食品が愛玩動物用である、前記〔7〕に記載の方法
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法に係る生地性改良剤を用いることにより、押出し成形した生地の変形が起こり難く、安定的に非流動状の生地を成形することができ、成形後の生地の荒れを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の第一の態様は、下記工程1~3を含む、非流動状生地性改良剤の製造方法:
(1)水分含量が30質量%以上である農作物由来繊維質素材のペーストを調製する工程1、
(2)工程1で得られたペーストとアミノ酸類と糖類とを混合する工程2であって、ただし、前記アミノ酸類の量が、前記ペーストの乾燥質量100質量部に対して5~120質量部であり、糖類の量が、前記ペーストの乾燥質量100質量部に対して5~110質量部である、工程2、および
(3)工程2で得られた混合物を加熱処理して乾燥する工程3。
【0008】
<工程1:水分含量が30質量%以上である農作物由来繊維質素材のペーストを調製する工程>
(1)農作物由来繊維質素材ペースト
本発明において、「農作物由来繊維質素材ペースト」とは、農作物由来の繊維質素材から製造されるペーストである。非消化性の食物繊維(セルロース、ヘミセルロース、ペクチン等)をより多く含む農作物由来繊維質素材ペーストが好ましい。このような農作物由来繊維質素材ペーストは、農作物を任意に加熱し、任意に磨砕した後に圧搾等の搾汁工程ないしは固液分離工程を経て得られる材料を原料とするものである。この材料は、豆乳や果汁のような絞りかすのようにいわゆる副産物として得られるものであってもよい。加工工程が磨砕工程を含んでいる場合、副産物自体が解繊されたスラリー又はペーストとなっており、スラリーである場合には固液分離してペーストにすることができる。その材料が解繊されていない固形状である場合、水分とともに磨砕等により解繊処理してスラリーとし、固液分離してペーストとすることができる。流通する上で、水分含量が高いと腐敗の恐れがあり、また輸送コストが高くなることから、前記スラリーやペーストは乾燥粉末化して提供されることが大半である。
【0009】
このようなスラリー、ペースト又は乾燥粉末としては、各種の農作物由来のものが知られており、例えば、豆腐の加工副産物である「おから」、砂糖の加工副産物である「ビートパルプ」や「バガス」、ワインやブドウジュースの加工副産物である「パミス」などが知られている。
【0010】
本発明における農作物由来繊維質素材ペーストは、好ましくは、食物繊維(セルロース、ヘミセルロース、ペクチン等)を固形分換算で40質量%以上含むものが好ましい。
農作物由来食物繊維質素材がペースト状であればそのまま使用することができ、スラリー状であれば固液分離してペースト状にし、乾燥粉末状であれば加水混合してペースト状にして使用することができる。また、野菜クズなどの非可食性の未加工繊維質素材の場合であれば、水分と共に磨砕等の解繊処理を施し、固液分離してペーストにして使用することができる。農作物由来繊維質素材ペーストは適宜調製することできるが、市販品を用いてもよい。市販品の例として、生おから(株式会社ヤマダフーズ)、豆乳おからパウダー(株式会社キッコーマン飲料)、さとうきびバガス(ブルーテック株式会社)などがあげられる。市販品が乾燥品(水分含量5~10質量%程度)の場合は、加水を行い、農作物由来繊維質素材ペーストの水分含量を30質量%以上の範囲に調整することが好ましい。
【0011】
なお、本発明において、スラリーとは、農作物由来の食物繊維が水分中に分散された流動性のある可塑性のない状態のものを指し、ペーストとは、流動性の乏しい可塑性のある状態のものを指す。
【0012】
本発明の工程1において、農作物由来繊維質素材ペーストの水分含量は30質量%以上であり、好ましくは35質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上であり、更に好ましくは45質量%以上である。ペースト状を維持することができる水分含量であれば特に制限はないが、以後に述べる加熱処理の効率性の観点から95質量%以下であり、好ましくは92質量%以下であり、より好ましくは88質量%、更に好ましくは85質量%以下である。なお、本発明において水分含量(水分含有率)とは、常圧加熱乾燥法(対象物を135℃で2時間乾燥し、乾燥前後の質量の差分を求める方法)により得られる測定値である(後述する乾燥固形分も同様である)。
【0013】
<工程2:工程1で得られたペーストとアミノ酸類と糖類とを混合する工程であって、ただし、前記アミノ酸の量が、前記ペーストの乾燥固形分100質量部に対して5~120質量部あり、糖類の量が、前記ペーストの乾燥固形分100質量部に対して5~110質量部である工程>
(2)アミノ酸類
本発明において、アミノ酸類には、タンパク質やペプチド、アミノ酸等が含まれる。好ましくはアミノ酸(α又はβ、γ型を問わない)及びその誘導体である。複数のアミノ酸、例えば1~8種類のアミノ酸の混合物を用いても良い。
本発明において、農作物由来繊維質素材ペーストに添加するアミノ酸の添加量は農作物繊維質素材ペーストの乾燥固形分100質量部に対して5~120質量部であり、好ましくは7~110質量部であり、より好ましくは10~90質量部であり、更に好ましくは12~80質量部であり、より更に好ましくは15~50質量部である。工程2において、このような範囲にあると、押出し成形した生地の変形が起こり難く、安定的に非流動状生地を成形あるいは成型することができ、成形後の生地の荒れを抑制することができ、また、生地焼成後の食味が低下しない。
本発明において、農作物繊維質素材ペーストの「乾燥固形分」の質量は、常圧加熱乾燥法(対象物を135℃で2時間乾燥し、乾燥前後の質量の差分を求める方法)により得られる水分含量(水分含有率)から計算により求められる値である。
【0014】
(3)糖類
糖類はいずれのものを用いてもよい。還元性のある糖(アルドース及びケトース)を含む糖類であることが好ましい。還元性のある糖類とは、還元性のある単糖類、二糖類及びオリゴ糖及び多糖であり、より好ましくは還元性のある単糖類及び二糖類である。入手容易性の観点から、アルドース類ではグルコース(別称ブドウ糖)及びキシロース、ケトース類ではフルクトース(別称果糖)が最も好ましい。複数の還元糖、例えば1~5種類の還元糖の混合物を使用しても良い。
本発明において、農作物由来繊維質素材ペーストに添加する糖類の添加量は農作物繊維質素材ペーストの乾燥固形分100質量部に対して5~110質量部であり、好ましくは7~100質量部であり、より好ましくは10~95質量部であり、更に好ましくは12~90質量部であり、より更に好ましくは15~80質量部である。このような範囲にあると、押出し成形した生地の変形が起こり難く、安定的に非流動状生地を成形することができ、成形後の生地の荒れを抑制することができる。
なお、非流動状の生地に、本発明の生地改良剤を加えずに、アミノ酸類や糖類を直接加えると、むしろ生地が荒れる方向にあるため、本発明の効果は当業者が予測できない効果である。
【0015】
工程2は、農作物由来繊維質素材のペーストとアミノ酸類と糖類とを混合することを含む工程である。本発明において「混合」とは原料を均一に混合できるのであればどのような方法を用いてもよい。好ましくは、ニーダーやミキサーなどの撹拌機を用いて、混合することである。例として、SN型サンニーダー(株式会社ヤエス)の使用があげられる。
【0016】
<工程3:工程2で得られた混合物を加熱処理して乾燥する工程>
工程3は、前記工程2で得られた混合物を加熱乾燥する工程を含む。
本発明において「加熱乾燥」とは、原料を伝導熱、放射熱、輻射熱、熱風、電磁波(マイクロ波)などに曝して加熱する熱処理法が挙げられる。加熱乾燥の手段としては公知のものを使用することができ、例えば熱風乾燥機、加熱機構付ニーダーなどを使用することができる。例として、食材乾燥機(株式会社テンセイジャパン)の使用があげられる。
理由は不明であるが、工程2で得られたペーストとアミノ酸類と糖類との混合物を加熱乾燥することにより得られる生地改良剤により、優れた生地の改良効果が得られる。加熱乾燥せずに加える場合や、アミノ酸類や糖類を加えない場合には本発明の効果は得られない。
【0017】
乾燥の程度としては、水分含有量が15質量%以下となるように乾燥することが好ましく、12質量%以下となるように乾燥することが好ましく、さらに10質量%以下となるように乾燥することがより好ましい。また水分含有量は5質量%以上であることが好ましい。そのような範囲内であれば、農作物由来繊維質素材ペースト(例えばおから)に含まれるタンパク質の熱変性による焦げ臭や、アミノ酸類や糖類の過熱による焦げ臭の発生を抑えることができる。乾燥後の水分含有量は、上述した常圧加熱乾燥法により測定することができる。
農作物由来繊維質素材ペーストとアミノ酸と糖類とを混合して得られた混合物を加熱乾燥する工程3における加熱温度は特に制限はなく、焦げが発生することのない常識的な範囲で設定することができ、また、乾燥に係る産業効率を高める観点から、乾燥温度が低いと乾燥に時間がかかることから、庫内温度(装置内温度)が200~400℃であり、好ましくは250~300℃である。そのような範囲内であれば、乾燥工程に時間がかりすぎることや、農作物由来繊維質素材ペースト(例えばおから)に含まれるタンパク質の熱変性による焦げ臭の発生を抑えることができる。例えば、200~400℃℃で30~120分程度加熱乾燥してもよく、好ましくは60~90分加熱乾燥してもよく、さらに好ましくは250~300℃で60~90分熱処理してもよい。
【0018】
<工程4:工程3で得られた乾燥物を粉砕する工程>
本発明の方法において、工程3で得られた乾燥物を任意にさらに粉砕してもよい(工程4)。本発明において「粉砕」とは機械的プロセスによる粉砕が利用でき、ジョークラッシャー、ロールミル、カッターミル、ハンマーミル、回転ミル、ピンミル、アトマイザー、磨砕式ミル、グラインダー、石臼などがあげられる。好ましくは、ピンミルの使用であり、例としてマキノ式DD-2型粉砕機(槙野産業株式会社)があげられる。
粉砕の程度は、目的に応じて適宜決定することができる。例えば、平均粒径50~100μm程度の粉末としてもよい。
【0019】
<非流動状生地の製造方法>
本発明の他の態様は、上で述べた生地性改良剤と生地原料とを混合する工程を含む、非流動状生地の製造方法である。
本発明の生地性改良剤を用いる生地は、非流動状の生地である。非流動状の生地とは、常温前後の温度下では流動性を示さない生地のことである。非流動状生地は、更にドウ生地とペースト生地に分けられる。ドウ生地は、弾性や伸展性があり変形回復可能な物性が特徴で、例として麺やパンの生地があげられる。ペースト生地は、流動性はないが変形回復が不可能な可塑性のある物性が特徴で、例としてオールドファッション等のドーナツの生地があげられる。またドウ生地の例として、ペットフードの中で水分含量25~35%かつ未発泡であるセミモイストフード、ペースト生地の例として、魚肉や畜肉等を用いて製造されるジャーキーなどの練り加工品があげられる。
【0020】
本発明の非流動状生地の製造方法は、前記方法で得られる生地性改良剤と生地原料とを混合する工程を含む。生地の製造方法は、原料を均一に混合できるのであればどんな方法でもよい。好ましくは、ニーダーやミキサーなどの撹拌機を用いて、混合することである。例として、スパイラルミキサーAS25C(株式会社愛工舎製作所)の使用があげられる。また、非流動状生地はドウ生地であることが望ましい。生地原料としては、小麦粉、油脂など一般的に非流動状生地を製造するために使用する原料であれば特に制限なく使用できる。
本発明の生地性改良剤と生地原料とを混合する工程において、生地性改良剤の生地への添加量は本発明の効果を奏するように適宜添加することができる。好ましくは、生地性改良剤を含む生地に用いる原料の総質量に対して、生地性改良剤を、1~40質量%添加することが好ましく、8~30質量%添加することがより好ましく、10~20質量%添加することがさらに好ましい。
可塑性の生地(ペースト生地)に含まれる水分量は、通常、穀粉と生地性改良剤の合計100質量部に対して、水15~40質量部であることが好ましい。
ドウ生地に含まれる水分量は、穀粉と生地性改良剤の合計100質量部に対して、水40~70質量部であることが好ましい。
【0021】
<ベーカリー食品の製造方法>
本発明の他の態様は、上で述べた生地性改良剤と生地原料とを含む非流動状生地を加熱する工程を含む、ベーカリー食品の製造方法である。
本発明における「ベーカリー食品」とは、本発明の生地性改良剤と生地原料とを含む非流動状生地を焼成してなる食品である。小麦粉を代表とする穀粉などの澱粉類および本発明の生地性改良剤の他、任意に、油脂、砂糖、鶏卵、イースト、食塩など、一般にベーカリー食品の生地の製造に使用される生地原料を配合したものを混練して生地を作り、これを醗酵等により膨化させ、あるいはそのまま焼成または油揚げすることにより製造される。例えば、食パン、フランスパン、ロールパン、菓子パンなどのパン類、イーストドーナツなどの揚げパン類、蒸パン類、ピザパイ等のピザ類、スポンジケーキなどのケーキ類、クッキー、ビスケットなどの焼き菓子類などが挙げられる。小麦粉を代表とする穀粉は、通常の製粉工程を経てふすまなどの成分を除いた穀粉を使用しても良いし、分別しない全粒粉を用いても良い。また必要に応じて、ビタミン、ミネラルなどの添加剤を加えることができる。
【0022】
本発明の好ましい態様は、ベーカリー食品は愛玩動物用(ペットフード)である。一般的にペットフードでは、ドライタイプ(水分含量10%程度以下)、ソフトドライタイプ(水分含量25~35%で加熱発泡させたもの)、セミモイストタイプ(水分含量25~35%程度で未発泡のもの)、ウェットタイプ(水分含量75%程度、缶詰類)、ジャーキーなどの練り加工製品等がある。ペットフードの中ではセミモイストタイプのフードや、ジャーキーなどの練り加工品が好ましい。本発明において、愛玩動物とは一般にペットと称され、ペットの種類は特に限定されないが、好ましくは哺乳類であり、イヌやネコ等が挙げられる。
【0023】
非流動状生地を加熱する工程としては、任意に混練した生地を成形し、これを加熱する。成形方法としては、生地をカットする、型抜きする、所望の形に押し出す、型に充填した後に型から外す等の方法を挙げることができる。生地にべたつきがあるなど生地性が悪いと、成形に時間やストレスがかかり、効率が低下するが、型離れがよい状態に製造された生地は、前記の成形を容易に行うことができ、効率が向上するという効果が得られる。本発明において好ましくは、生地を押し出した直後にカットする成形方法である。焼成方法としては、直火、オーブン、フライ、蒸煮、マイクロ波、加圧加熱等が挙げられる。例えば、上下の少なくとも一方から加熱するオーブンによる加熱焼成方法、予熱した炉面などに直接接触させて加熱する方法等を用いることができる。フライ方法としては、炒める、揚げるなど、食用油を使って加熱する調理法を用いることができる。蒸煮方法としては、火もしくはボイラーを用いて蒸気を発生させて蒸し器を使用する方法、蒸気を容器内に送り込んで加熱する方法等を用いることができる。マイクロ波による方法としては、マイクロ波を発生、照射することのできる機能を備えた機器、装置を用いて加熱する方法等を用いることができる。加圧加熱方法としては、例えば、高温高圧条件で加熱することのできる圧力鍋等の装置を用いて加圧加熱する方法を用いることができる。本発明において好ましくは、生地焼成に一般的に使用されるオーブン(雰囲気温度、いわゆる庫内温度150℃~250℃)による焼成である。
【実施例0024】
<製造例1 生地性改良剤の製造>
(1)生おから(オーケー食品工業社製)を用い、生おからの乾燥固形分20質量部あたり5質量部のグリシンと15質量部のグルコースを加え、ミキサーで15分間混合した。なお、生おからの乾燥固形分の質量は、約10gの生おからをガラス製シャーレに採取し、135℃に予熱した通風式乾熱乾燥機に投入し、2時間135℃で乾燥させ、乾燥前後の質量を測定することにより水分含量(水分含有率)を求め、その値から計算した。
(2)(1)で得た混合物を、庫内温度250℃の乾熱乾燥機(テンセイジャパン社製、食材乾燥機)に投入し、水分含量が10質量%以下になるまで混合しながら熱処理した。
(3)ピンミルを用いて乾燥物を粉砕し、乾燥粉末(生地性改良剤)を得た。乾燥粉末の水分含量は、(2)で乾燥中の試料の一部を採取して(1)に記載の方法と同様に測定した。
【0025】
<評価例1 生地性の評価>
配合表1記載の原料をミキサーに投入し、低速15分混捏して前生地を得た。前生地を孔径6mmの丸形ノズルを装着した押出し成形機(不二精機社、スクイーザーII)に投入し、流量60kg/時で押出しながら5mm毎に裁断し、ペットフード用生地を得た。
熟練パネラー10名により、下記評価基準表に従ってペットフード用生地の表面の状態と形状について評価し、平均点と標準偏差(SD)を求めた。評価にあたり、製造例1においてグリシンとグルコースを加えることなく製造した乾燥粉末である生地性改良剤を用いて製造したペットフード用生地における表面の状態と形状の評価点を3点とした(参考例1)。3.5点以上を合格とした。
【0026】
【0027】
【0028】
<参考例2 乾燥おからを用いた生地性の評価>
製造例1により得られる生地性改良剤(乾燥粉末)に代えて配合表2記載の混合物Aを生地に直接加えて生地を得た以外は評価例1に従って生地を製造し評価した。
その結果、押出生地の表面に荒れが見られ、また変形も認められ、製造例1においてグリシンとグルコースを加えることなく製造した乾燥粉末を用いて製造した生地(参考例1)の生地性より低い評価(表面の状態及び形状いずれも2.5点)であった。
【0029】
*混合物Aは、乾燥おから20質量部あたり、グリシン5質量部とグルコース15質量部とを混合したものである。
【0030】
<試験例1 ペースト水分含量の検討>
表1記載のおからペーストを用いた以外は製造例1に従って乾燥粉末(生地性改良剤)を調製し、評価例1に従って評価した。なお、乾燥おから(オーケー食品工業社製、水分含量7質量%)を用いる場合には、表1記載の水分含量になるように加水し、十分混合してペースト状にした。
その結果、試験番号1、3、4、5において参考例1よりも良い評価が得られた。試験番号2では、押出生地の表面に荒れがあり、形状が押出方向に沿って湾曲しており、さらにカッターに生地が付着していた。つまり、ペースト水分含量が低いことから熱処理時間が短くなったため、他と比べて生地性改良効果が乏しくなったと考えられる。また、試験番号1、4、5は同等の評価であるが、試験番号5はペースト水分含量が高いことから他より乾燥時間が長くなるため、生産性の面からあまり好ましくない。
【0031】
表1
【0032】
<試験例2 農作物磨砕物ペーストの種別の検討>
表2記載の農作物磨砕物ペーストを用いた以外は試験番号4と同様に乾燥粉末(生地性改良剤)を調製し、評価例1に従って評価した。なお、試料として乾燥ビートパルプ(ニッテン配合飼料社製のビートパルプ、水分含量10質量%)、乾燥パミス(中村商事社の乾燥ワインパミス、水分含量5質量%)を用い、試験番号4の乾燥おから同様に水分含量80質量%になるように加水し、十分混合してペースト状にした。
その結果、乾燥ビートパルプ、乾燥パミス、どちらにおいても試験番号4の乾燥おからと同等の評価を得ることができた。
また、乾燥おからは食物繊維43.6質量%(水溶性食物繊維1.5質量%、不溶性食物繊維42.1質量%)、乾燥ビートパルプは食物繊維65.5質量%(水溶性食物繊維15.9質量%、不溶性食物繊維49.6質量%)、および、乾燥パミスは食物繊維45.4質量%(水溶性食物繊維1.1質量%、不溶性食物繊維44.3質量%)である。
【0033】
表2
【0034】
<試験例3 アミノ酸の検討>
表3記載のアミノ酸を用いた以外は試験番号1と同様に乾燥粉末(生地性改良剤)を調製し、評価例1に従って評価した。
その結果、試験番号10、11、12、14、15、において試験番号1と同等もしくはそれ以上の評価が得られた。試験番号8では、本発明において必須であるアミノ酸が生地性改良剤に配合されていないため、生地性改良効果がみられなかった。試験番号9では、押出生地の表面に荒れがあり、形状が押出方向に沿って湾曲しており、さらにカッターに生地が付着していた。これは、ペーストに加えるアミノ酸の量が少なすぎたために生地性改良効果が乏しくなったと考えられる。試験番号13はペーストに加えるアミノ酸の量が多くなりすぎたため、生地性改良効果がみられず、食味も大きく低下した。
【0035】
表3
【0036】
<試験例4 糖類の検討>
表4記載の糖類を用いた以外は試験番号1と同様に乾燥粉末(生地性改良剤)を調製し、評価例1に従って評価した。
その結果、試験番号18、19、22、23において試験番号1と同等の評価が得られた。試験番号16では、本発明において必須である糖類が生地性改良剤に配合されなかったため、生地性改良効果がみられなかった。試験番号17では、押出生地の表面に荒れがあり、形状が押出方向に沿って湾曲しており、さらにカッターに生地が付着していた。これは、ペーストに加える糖類の量が少なすぎたために生地性改良効果が乏しくなったと考えられる。また、試験番号20では、ペーストに加える糖類の量が多く、糖類の吸湿性により生地がべたつき、生地性改良効果が乏しくなったと考えられる。試験番号21では、試験番号20と同様の理由で、生地性改良効果がみられず、評価が合格点に達しなかったと考えられる。
【0037】
表4
【0038】
試験例5 パン生地での検討
試験番号1および参考例2の乾燥粉末(生地性改良剤)を使用し、食パンにおける生地性を確認した。小麦粉100質量部、上白糖5質量部、ドライイースト2質量部、食塩2質量部、イーストフード0.2重量部、脱脂粉乳2重量部、水65重量部及び乾燥粉末(試験番号1、または参考例2の乾燥粉末)3質量部をミキサーに投入し、低速2分、中速4分、高速2分で混練し、ショートニング5質量部を添加して更に低速2分、中速3分、高速3分で混練してパン生地を得た。得られた生地を湿度75%、温度27℃で90分間発酵させた後、240gに分割して25分間のベンチタイムを取った。モルダーで成形後、2斤型に生地をU字型に4個ずつ入れ、湿度85%、温度38℃で45分間ホイロした。その後、200℃で33分間焼成して食パンを得た。
その結果、試験番号1の乾燥粉末を使用した食パンは生地のべたつきもないため作業もしやすく、焼成後の食パンの表面も綺麗であった。一方、参考例2の乾燥粉末を使用した食パンは生地にべたつきが生じたため作業性が悪く、焼成後も形がいびつであり、食感も劣っていた。
【0039】
試験例6 熱処理温度の検討
調整したペーストを180℃の熱風で熱処理した以外は試験番号1と同様に乾燥粉末(生地性改良剤)を調整し、評価例1に従って評価した。その結果、試験番号1と同等の評価が得られた。しかし乾燥時間が長くなるため、生産性の面からあまり好ましくない。