(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162832
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】調光素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20231101BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20231101BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231101BHJP
G02F 1/1334 20060101ALI20231101BHJP
G02F 1/1333 20060101ALI20231101BHJP
E06B 9/24 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
G02F1/13 505
B32B7/023
B32B27/00 A
G02F1/1334
G02F1/1333 505
E06B9/24 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073498
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】家入 大輔
【テーマコード(参考)】
2H088
2H189
2H190
4F100
【Fターム(参考)】
2H088EA34
2H088FA09
2H088GA02
2H088GA03
2H088GA04
2H088GA10
2H088HA01
2H088HA02
2H088HA04
2H088JA04
2H088MA20
2H189AA04
2H189CA06
2H189FA22
2H189HA16
2H189JA04
2H189LA01
2H189LA03
2H189LA06
2H189LA07
2H189MA15
2H190HA04
2H190HB12
2H190HC01
2H190HD08
2H190JB02
2H190JB03
4F100AA28C
4F100AA33C
4F100AK01B
4F100AK02A
4F100AK11B
4F100AK25D
4F100AL02B
4F100AL06B
4F100AL08B
4F100AR00E
4F100AT00A
4F100BA05
4F100BA07
4F100CA02D
4F100GB41
4F100JG01C
4F100JG01E
4F100JN00D
(57)【要約】
【課題】第1の基板の剥離が抑制された調光素子を提供する。
【解決手段】第1の基板、単一の層である第1の樹脂層、第1の導電層、調光層、第2の導電層をこの順に備える調光素子であって、前記第1の基板及び前記第1の樹脂層が直接接しており、かつ、前記第1の樹脂層及び前記第1の導電層が直接接しており、前記第1の樹脂層が、環状構造を有する重合体をシラン変性した樹脂を含む、調光素子により前記課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板、単一の層である第1の樹脂層、第1の導電層、調光層、第2の導電層をこの順に備える調光素子であって、
前記第1の基板及び前記第1の樹脂層が直接接しており、かつ、前記第1の樹脂層及び前記第1の導電層が直接接しており、
前記第1の樹脂層が、環状構造を有する重合体をシラン変性した樹脂を含む、調光素子。
【請求項2】
前記環状構造を有する重合体が、ノルボルネン系重合体を含み、
前記ノルボルネン系重合体が、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体とα-オレフィンとの付加共重合体及びその水素化物から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の調光素子。
【請求項3】
前記環状構造を有する重合体が、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を主成分とする重合体ブロック[A]と、
芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[B]、または鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[C]と、からなるブロック共重合体[D]を含む、請求項1に記載の調光素子。
【請求項4】
前記環状構造を有する重合体が、前記ブロック共重合体[D]を水素化した水素化ブロック共重合体[E]を含む、請求項3に記載の調光素子。
【請求項5】
前記調光素子が、前記第2の導電層の前記調光層側とは反対の面に、単一の層である第2の樹脂層及び第2の基板をこの順に備え、
前記第2の基板及び前記第2の樹脂層が直接接しており、かつ、前記第2の樹脂層及び前記第2の導電層が直接接しており、
前記第2の樹脂層が環状構造を有する重合体をシラン変性した樹脂を含む、請求項1に記載の調光素子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の調光素子の製造方法であって、
前記第1の樹脂層上に直接接するように、前記第1の導電層を設ける第1工程と、
前記第1の導電層上に前記調光層を設ける第2工程と、
前記調光層上に前記第2の導電層を設ける第3工程と、
前記第1の基板を前記第1の樹脂層に直接貼合する第4工程と、
をこの順に含む、調光素子の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程が、第2の樹脂層上に設けた前記第2の導電層を前記調光層に貼合する工程を含み、前記第2の樹脂層が環状構造を有する重合体をシラン変性した樹脂を含む、請求項6に記載の調光素子の製造方法。
【請求項8】
第2の基板を前記第2の樹脂層に直接貼合する第5工程を含む、請求項7に記載の調光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のガラス基板を、接着性を有する中間層を介して貼り合わせて得られる合わせガラスが知られている(特許文献1及び2)。合わせガラスの中間層としては、例えばポリビニルブチラール樹脂(PVB樹脂)が用いられている。
【0003】
また、合わせガラスを構成する複数のガラス基板の間に何等かの機能層又は機能層を含む積層体を挟持させることにより、合わせガラスに何等かの機能を付与した機能性素子とする技術も知られている。このような機能性素子の一つとして、調光素子が知られている。調光素子は、電圧の印加により、例えばヘイズ値や透過率といった調光素子の透明性を変化させうる素子である。調光素子は、複数のガラス基板の間に、例えば、導電層用基材、導電層、調光層、導電層及び導電層用基材がこの順で積層された調光要素が挟持された構成を有する。導電層用基材としては、一般的にポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)が用いられている。
【0004】
また、調光素子に関する発明ではないが、特許文献3には、導電性フィルムに用いられる樹脂層として、ブロック共重合体水素化物のアルコキシシル基変性物を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-172910号公報
【特許文献2】特開2020-83688号公報
【特許文献3】国際公開第2018/003713号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
調光素子の複数の基板の間に、前記の調光要素を挟持する場合、従来から、基板と調光要素の導電層用基材とを中間層を介して貼合させた構成が採用されているが、通常、基板と導電層用基材とは用いられる材料が異なることから、基板及び中間層の接着性と、導電層用基材及び中間層の接着性との両方を良好にすることが難しい場合があり、基板及び中間層の間で剥離が生じたり、導電層用基材及び中間層の間で剥離が生じたりする結果、調光素子から基板が剥離してしまい、調光素子自体の使用が困難となる場合がある。
【0007】
本発明は前記実情に鑑みてなされた発明であり、基板の剥離が抑制された調光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明者は、調光素子の構成として、中間層としての機能と導電層用基材としての機能を兼ねうる樹脂層を用いることで、調光素子の中間層及び導電層用基材を一体化させ、基板及び中間層の接着性と導電層用基材及び中間層の接着性の違いにより生じる、調光素子からの基板の剥離を抑制することを検討した。そして、このような樹脂層に用いられる樹脂として、環状構造を有する重合体をシラン変性させた樹脂を採用することにより、調光素子の中間層及び導電層用基材を一体化させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下のものを含む。
【0009】
〔1〕 第1の基板、単一の層である第1の樹脂層、第1の導電層、調光層、第2の導電層をこの順に備える調光素子であって、前記第1の基板及び前記第1の樹脂層が直接接しており、かつ、前記第1の樹脂層及び前記第1の導電層が直接接しており、前記第1の樹脂層が、環状構造を有する重合体をシラン変性した樹脂を含む、調光素子。
〔2〕 前記環状構造を有する重合体が、ノルボルネン系重合体を含み、前記ノルボルネン系重合体が、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体とα-オレフィンとの付加共重合体及びその水素化物から選ばれる少なくとも1種を含む、〔1〕に記載の調光素子。
〔3〕 前記環状構造を有する重合体が、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を主成分とする重合体ブロック[A]と、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[B]、または鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[C]と、からなるブロック共重合体[D]を含む、〔1〕に記載の調光素子。
〔4〕 前記環状構造を有する重合体が、前記ブロック共重合体[D]を水素化した水素化ブロック共重合体[E]を含む、〔3〕に記載の調光素子。
〔5〕 前記調光素子が、前記第2の導電層の前記調光層側とは反対の面に、単一の層である第2の樹脂層及び第2の基板をこの順に備え、前記第2の基板及び前記第2の樹脂層が直接接しており、かつ、前記第2の樹脂層及び前記第2の導電層が直接接しており、前記第2の樹脂層が環状構造を有する重合体をシラン変性した樹脂を含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の調光素子。
〔6〕 〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の調光素子の製造方法であって、前記第1の樹脂層上に直接接するように、前記第1の導電層を設ける第1工程と、前記第1の導電層上に調光層を設ける第2工程と、前記調光層上に前記第2の導電層を設ける第3工程と、前記第1の基板を前記第1の樹脂層に直接貼合する第4工程と、をこの順に含む、調光素子の製造方法。
〔7〕 前記第3工程が、第2の樹脂層上に設けた前記第2の導電層を前記調光層に貼合する工程を含み、前記第2の樹脂層が環状構造を有する重合体をシラン変性した樹脂を含む、〔6〕に記載の調光素子の製造方法。
〔8〕 第2の基板を前記第2の樹脂層に直接貼合する第5工程を含む、〔7〕に記載の調光素子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基板の剥離が抑制された調光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る調光素子を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、従来からの調光素子の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態及び例示物を示して本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、下記に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0013】
以下の説明において、「基板」、「基材」及び「層」は、別に断らない限り、剛直な部材であってもよく、例えば樹脂製のフィルムのように可撓性を有する部材であってもよい。
【0014】
〔1.調光素子の概要〕
図1は本発明の一実施形態に係る調光素子を模式的に示す断面図である。
本実施形態に係る調光素子100は、第1の基板11A、単一の層である第1の樹脂層12A、第1の導電層13A、調光層14、第2の導電層13Bをこの順に備える。本実施形態に係る調光素子100は、任意ではあるが、好ましくは、第2の導電層13Bの調光層14側とは反対の面に、単一の層である第2の樹脂層12B及び第2の基板11Bをこの順に備える。
【0015】
本実施形態に係る調光素子100においては、第1の基板11A及び第1の樹脂層12Aが直接接しており、かつ、第1の樹脂層12A及び第1の導電層13Aが直接接している。また、第2の基板11B及び第2の樹脂層12Bが直接接しており、かつ、第2の樹脂層12B及び第2の導電層13Bが直接接している。本実施形態において、ある層及び別の層が「直接接している」とは、ある層と別の層との間に他の層を介さずに、ある層と別の層とが接していることをいう。
【0016】
本実施形態においては、第1の樹脂層12Aが、環状構造を有する重合体をシラン変性した樹脂を含む。また、第2の樹脂層12Bを有する場合、好ましくは、第2の樹脂層12Bが、環状構造を有する重合体をシラン変性した樹脂を含む。
【0017】
本発明によれば、第1の樹脂層が環状構造を有する重合体をシラン変性した樹脂を含むことにより、第1の基板と第1の樹脂層との接着性を良好にすることができるため、第1の基板の剥離が抑制された調光素子とすることができる。
【0018】
図2は、従来から調光素子の一例を模式的に示す断面図である。
図2に示すように、従来からの調光素子200は、通常、第1の基板21A、第1の樹脂層(中間層)22A、第1の導電層用基材25A、第1の導電層23A、調光層24、第2の導電層23B、第2の導電層用基材25B、第2の樹脂層(中間層)22B及び第2の基板21Bをこの順に備える。
【0019】
前記の層構成を有する調光素子200は、通常、基板及び樹脂層の接着性と、樹脂層及び導電層用基材の接着性とを調整する必要があるが、基板と導電層用基材との双方との接着性が良好な樹脂層を選択することが難しい場合がある。そのため、基板が剥離してしまうことにより、調光素子としての機能が損なわれる場合がある。
これに対し、本発明は特定の樹脂を用いることで、第1の樹脂層に対して中間層としての機能と導電層用基材としての機能を付与することができる。換言すると、従来の層構成に対し、中間層及び導電層用基材を一体化した構成とすることができ、基板との接着性を良好にすることができる。また、中間層及び導電層用基材の接着が不要となることからも、基板の剥離を抑制しうる。
【0020】
特許文献2には、本実施形態のように、中間層及び導電層用基材を一体化した樹脂層として、PVB樹脂を含む層を用いることが提案されているが、PVB樹脂は吸水性が高いことから、水分による経時的な導電層の腐食が懸念される。これに対し、本実施形態においては、第1の樹脂層に含まれる樹脂は吸水性が低く、樹脂に含まれる水分が少ないことから、導電層の腐食を抑制しうる。
【0021】
また、本実施形態においては、第1の樹脂層に含まれる樹脂は、例えば紫外線に対する黄変を生じにくく、耐候性が良好な調光素子とすることができる。
【0022】
〔2.調光素子の各構成〕
本実施形態に係る調光素子は、少なくとも、第1の基板、第1の樹脂層、第1の導電層、調光層、及び第2の導電層を積層方向においてこの順に備える。
【0023】
〔2.1.第1の基板〕
第1の基板に用いられる材料としては、例えば樹脂やガラスが挙げられる。中でも第1基板に用いられる材料としては、ガラスであることが好ましい。
【0024】
ガラス種としては、例えば、アルミノシリケート酸ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、ウランガラス、アルカリガラス、ケイ酸ガラス、結晶化ガラス、ゲルマニウムガラス、石英ガラス、ソーダガラス、鉛ガラス、バリウム硼珪酸ガラス、硼珪酸ガラス、表面に極薄の金属膜をコーティングした熱線反射ガラスが挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0025】
第1の基板の厚みとしては、特に制限されず、調光素子の用途に応じて適宜選択しうる。
【0026】
第1の基板は、例えば、熱圧着法により第1の樹脂層と直接貼合して配置しうる。熱圧着法としては、例えば、オートクレーブを用いる方法を採用しうる。
【0027】
〔2.2.第1の樹脂層〕
第1の樹脂層は、調光素子において、第1の基板及び第1の導電層の間に設けられ、第1の基板及び第1の導電層のそれぞれと直接接するように設けられた層である。また、第1の樹脂層は、単一の層である。樹脂層が単一の層であるとは、樹脂層がある樹脂を含む1つの層からなることをいう。そのため、ある樹脂を含む2つ以上の層を積層させたものや、ある樹脂を含む1つ以上の層と別の樹脂を含む1つ以上の層を積層させたものは、単一の層に含まない。
【0028】
第1の樹脂層は、環状構造を有する重合体をシラン変性した樹脂を含む。以下、環構造を有する重合体をシラン変性した樹脂を、単に、「シラン変性樹脂」と称して説明する場合がある。
【0029】
〔2.2.1.シラン変性樹脂〕
シラン変性樹脂は、環構造を有する重合体をシラン変性した樹脂である。ここで、シラン変性とは、環構造を有する重合体にアルコキシシリル基を導入することをいう。すなわち、シラン変性樹脂は、アルコキシシリル基を含む。アルコキシシリル基は、第1の基板、特にガラス基板の表面に一般に存在する水酸基と反応して結合を生じることができる。したがって、前記の結合によって第一の基板、特にガラス基板と第1の樹脂層との接着強度を効果的に高めることができる。
【0030】
アルコキシシリル基としては、例えば、トリアルコキシシリル基、アルキルジアルコキシシリル基、アリールジアルコキシシリル基などが挙げられる。
トリアルコキシシリル基の炭素原子数は、3~9が好ましい。トリアルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等が挙げられる。
アルキルジアルコキシシリル基の炭素原子数は、3~20が好ましい。アルキルジアルコキシシリル基としては、例えば、メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、エチルジメトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基、プロピルジメトキシシリル基、プロピルジエトキシシリル基等が挙げられる。
アリールジアルコキシシリル基の炭素原子数は、8~16が好ましい。アリールジアルコキシシリル基としては、例えば、フェニルジメトキシシリル基、フェニルジエトキシシリル基等が挙げられる。
中でも、ガラス基材と接着層との接着強度を効果的に高める観点から、トリメトキシシリル基が好ましい。アルコキシシリル基は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0031】
シラン変性樹脂は、アルコキシシリル基を導入される前の環構造を有する重合体に、アルコキシシリル基が導入された構造を有しうる。アルコキシシリル基が導入される前の環構造を有する重合体は、通常、アルコキシシリル基を有さない。以下の説明ではアルコキシシリル基が導入される前の環構造を有する重合体を、導入後の重合体と区別するため、「反応前重合体」といい、導入後の重合体を「シラン変性重合体」ということがある。例えば、シラン変性重合体は、反応前重合体に、アルコキシシリル基が導入された構造を有しうる。
【0032】
(反応前重合体)
反応前重合体としての環構造を有する重合体は、繰り返し単位中に脂環式構造または芳香環を含む重合体である。環構造を有する重合体の内、脂環式構造を有する樹脂を環状オレフィン系重合体ともいう。
【0033】
反応前重合体としての環構造を含む重合体としては、例えば、ノルボルネン系重合体が挙げられる。本実施形態においては、ノルボルネン系重合体が、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体とα-オレフィンとの付加共重合体及びその水素化物から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0034】
ノルボルネン構造を有する単量体の例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、5-フェニル-2-ノルボルネン、5-(4-メチルフェニル)-2-ノルボルネン、5-(1-ナフチル)-2-ノルボルネン、9-(2-ノルボルネン-5-イル)-カルバゾール、1,4-メタノ-1,4,4a,4b,5,8,8a,9a-オクタヒドロフルオレン、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロジベンゾフラン、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロカルバゾール、1,4-メタノ-1,4,4a,9,9a,10-ヘキサヒドロアントラセン、1,4-メタノ-1,4,4a,9,10,10a-ヘキサヒドロフェナンスレン;並びに、これらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの);などが挙げられる。
【0035】
置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロキル基等のアルキル基;アルキリデン基;アルケニル基;極性基;などが挙げられる。極性基としては、例えば、ヘテロ原子、又はヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、フルオロ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基等のハロゲン基;カルボキシル基;カルボニルオキシカルボニル基;エポキシ基;ヒドロキシ基;オキシ基;アルコキシ基;エステル基;シラノール基;シリル基;アミノ基;ニトリル基;スルホン基;シアノ基;アミド基;イミド基;などが挙げられる。置換基の数は、1でもよく、2以上でもよい。また、2以上の置換基の種類は、同じでもよく、異なっていてもよい。
【0036】
また、反応前重合体としての環構造を有する重合体としては、例えば、ビニル芳香族炭化水素重合体が挙げられる。ビニル芳香族炭化水素重合体は、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を含む重合体である。芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位とは、芳香族ビニル化合物を重合して得られる構造を有する繰り返し単位を意味する。ただし、当該重合体及びその構成単位は、その製造方法によっては限定されない。
【0037】
ビニル芳香族炭化水素重合体としては、好ましくは、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]を主成分とする重合体ブロック[A]と、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位[I]及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[B]、または鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位[II]を主成分とする重合体ブロック[C]と、からなるブロック共重合体[D]が挙げられる。ここで、「主成分」とは、重合体ブロック中で、50重量%以上である成分をいう。鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位とは、鎖状共役ジエン化合物を重合して得られる構造を有する繰り返し単位を意味する。
【0038】
繰り返し単位[I]対応する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン;α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン等の、置換基として炭素数1~6のアルキル基を有するスチレン類;4-クロロスチレン、ジクロロスチレン、4-モノフルオロスチレン等の、置換基としてハロゲン原子を有するスチレン類;4-メトキシスチレン等の、置換基として炭素数1~6のアルコキシ基を有するスチレン類;4-フェニルスチレン等の、置換基としてアリール基を有するスチレン類;1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等のビニルナフタレン類;等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、吸湿性を低くできることから、スチレン、置換基として炭素数1~6のアルキル基を有するスチレン類等の、極性基を含有しない芳香族ビニル化合物が好ましく、工業的入手のし易さから、スチレンが特に好ましい。
【0039】
繰り返し単位[II]に対応する鎖状共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。鎖状共役ジエン化合物は、直鎖状であっても、分岐状であってもよい。
【0040】
また、反応前重合体としての環構造を有する重合体としては、例えば、ビニル芳香族炭化水素重合体の水素化物が挙げられ、好ましくは前記のブロック共重合体[D]を水素化した水素化ブロック共重合体[E]が挙げられる。水素化ブロック共重合体[E]は、ブロック共重合体[D]が有する不飽和結合を水素化して得られる物質であり、水素化される不飽和結合には、ブロック共重合体[D]の主鎖及び側鎖の側鎖の炭素-炭素不飽和結合、並びに、芳香環の炭素-炭素不飽和結合の、いずれも含まれる。
【0041】
水素化物は、例えば、ビニル芳香族炭化水素重合体の溶液において、ニッケル、パラジウム等の遷移金属を含む水素化触媒の存在下で、重合体の不飽和結合を、好ましくは90%以上水素化することによって製造しうる。
【0042】
ブロック共重合体[D]及び水素化ブロック共重合体[E]としては、例えば、特開2020-83743号公報に記載されたブロック共重合体及び水素化ブロック共重合体を用いることができる。
【0043】
(シラン変性重合体)
前記の反応前重合体とアルコキシシリル基を有する化合物とを反応させることにより、反応前重合体にアルコキシシリル基を導入して、シラン変性重合体を得ることができる。具体例を挙げると、反応前重合体と、アルコキシシリル基を有する単量体とを反応させることにより、シラン変性重合体を得ることができる。単量体として用いうるアルコキシシリル基を有する化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、及び2-ノルボルネン-5-イルトリメトキシシランなどの、アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和シラン化合物が挙げられる。アルコキシシリル基を有する化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
アルコキシシリル基を導入する場合、アルコキシシリル基の導入量は、反応前重合体100重量部に対し、通常0.1重量部以上、好ましくは0.2重量部以上、より好ましくは0.3重量部以上であり、通常10重量部以下、好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下である。アルコキシシリル基の導入量が前記範囲にある場合、水分によって分解されたアルコキシシリル基同士の架橋度が過剰に高くなることを抑制できるので、接着性を高く維持することができる。アルコキシシリル基の導入方法の例としては、国際公開第2015/099079号、及び国際公開2019/131457号に記載されているものが挙げられる。また、アルコキシシリル基の量は、1H-NMRスペクトルにて計測しうる。アルコキシシリル基の量の計測の際、アルコキシシリル基の量が少ない場合は、積算回数を増やして計測しうる。
【0045】
シラン変性樹脂に含まれるシラン変性重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは7000以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましく、12000以上であることが更により好ましく、35000以上であることが特に好ましく、190000以下であることが好ましく、150000以下であることがより好ましく、100000以下であることが更により好ましく、55000以下であることが特に好ましい。シラン変性重合体の重合平均分子量が前記下限以上であれば、シラン変性重合体の機械的強度を高めることができ、前記上限以下であれば、シラン変性重合体の加工性を確保することができる。
【0046】
また、シラン変性重合体の分子量分布は、7.5以下であることが好ましく、6.5以下であることがより好ましく、5.5以下であることが特に好ましい。分子量分布が前記上限以下であれば、共重合体水素化物から得られるシラン変性重合体の加工性や機械的強度を高めることができる。
【0047】
シラン変性重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレン換算の値として測定しうる。
【0048】
(任意の成分)
シラン変性樹脂は、前記のシラン変性重合体に加えて任意の成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、軟化剤、酸化防止剤、光安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、無機フィラーなどが挙げられる。
【0049】
〔2.2.2.第1の樹脂層に関する樹脂以外の事項〕
第1の樹脂層の厚みは、特に制限されず、調光素子の大きさ、第1の基板の材質等に応じて適宜選択しうるが、例えば、100μm以上、好ましくは200μm以上であり、例えば1000μm以下、好ましくは800μm以下としうる。
【0050】
第1の樹脂層は、任意の製造方法により製造しうる。例えば、溶融成形法、溶液流延法の成形方法によって、樹脂をフィルム状に成形することにより、製造しうる。溶融成形法は、さらに詳細には、押出成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できる。これらの方法の中でも、機械強度及び表面精度に優れた第1の樹脂層を得るために、押出成形法、インフレーション成形法及びプレス成形法が好ましく、中でも効率よく簡単に第1の樹脂層を製造できる観点から、押出成形法が特に好ましい。
【0051】
〔2.3.第1の導電層〕
第1の導電層は、第1の樹脂層に直接接して設けられる層である。
【0052】
第1の導電層は、導電性を有する材料(以下、適宜「導電材料」ということがある。)を含む層として形成される。このような導電材料としては、例えば、金属、導電性金属酸化物、導電性ナノワイヤ、導電性ポリマーなどが挙げられる。また、導電材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、導電材料としては、導電性金属酸化物及び導電性ナノワイヤからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0053】
導電性金属酸化物としては、例えば、ITO(インジウム錫オキサイド)、IZO(インジウム亜鉛オキサイド)、ZnO(酸化亜鉛)、IWO(インジウムタングステンオキサイド)、ITiO(インジウムチタニウムオキサイド)、AZO(アルミニウム亜鉛オキサイド)、GZO(ガリウム亜鉛オキサイド)、XZO(亜鉛系特殊酸化物)、IGZO(インジウムガリウム亜鉛オキサイド)等が挙げられる。これらの中でも、光線透過性及び耐久性の観点より、ITOが特に好ましい。導電性金属酸化物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0054】
導電性金属酸化物を含む導電層は、例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト蒸着法、アーク放電プラズマ蒸着法、熱CVD法、プラズマCVD法、鍍金法、及びこれらの組み合わせ等の成膜方法によって、形成しうる。これらの中でも、蒸着法及びスパッタリング法が好ましく、スパッタリング法が特に好ましい。スパッタリング法では、厚みが均一な導電層を形成できるので、導電層に局所的に薄い部分が発生することを抑制できる。一方、スパッタリング法を用いて導電性金属酸化物を含む導電層を第1の樹脂層に直接形成した場合、製膜条件によっては、第1の樹脂層にダメージが生じるおそれがある。そのため、スパッタリング法を用いる場合は、スパッタリング法に耐えうる基材に導電層を形成した後、第1の樹脂層に導電層を転写する方法を用いることが好ましい。
【0055】
導電性ナノワイヤとは、形状が針状または糸状であり、径がナノメートルサイズの導電性物質をいう。導電性ナノワイヤは直線状であってもよく、曲線状であってもよい。このような導電性ナノワイヤは、導電性ナノワイヤ同士が隙間を形成して網の目状となることにより、少量の導電性ナノワイヤであっても良好な電気伝導経路を形成することができ、電気抵抗の小さい導電層を実現できる。また、導電性ワイヤは、網の目状となることにより、網の目の隙間に開口部を形成するので、光透過率の高い導電層を得ることができる。
【0056】
導電性ナノワイヤの太さdと長さLとの比(アスペクト比:L/d)は、好ましくは10~100,000であり、より好ましくは50~100,000であり、特に好ましくは100~10,000である。このようにアスペクト比の大きい導電性ナノワイヤを用いれば、導電性ナノワイヤが良好に交差して、少量の導電性ナノワイヤにより高い導電性を発現させることができる。その結果、透明性に優れる導電層とすることができる。ここで、「導電性ナノワイヤの太さ」とは、導電性ナノワイヤの断面が円状である場合はその直径を意味し、楕円状である場合はその短径を意味し、多角形である場合は最も長い対角線を意味する。導電性ナノワイヤの太さおよび長さは、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡によって測定しうる。
【0057】
導電性ナノワイヤの太さは、好ましくは500nm未満であり、より好ましくは200nm未満であり、更に好ましくは10nm~100nmであり、特に好ましくは10nm~50nmである。これにより、第1の導電層の透明性を高めることができる。
【0058】
導電性ナノワイヤの長さは、好ましくは2.5μm~1000μmであり、より好ましくは10μm~500μmであり、特に好ましくは20μm~100μmである。これにより、導電層の導電性を高めることができる。
【0059】
導電性ナノワイヤとしては、例えば、金属により構成される金属ナノワイヤ、カーボンナノチューブを含む導電性ナノワイヤ等が挙げられる。
【0060】
金属ナノワイヤに含まれる金属としては、導電性の高い金属が好ましい。好適な金属の例としては、金、白金、銀及び銅が挙げられ、なかでも好ましくは、銀、銅及び金であり、より好ましくは銀である。また、前記金属にメッキ処理(例えば、金メッキ処理)を行った材料を用いてもよい。さらに、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0061】
金属ナノワイヤの製造方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、溶液中で硝酸銀を還元する方法;前駆体表面にプローブの先端部から印可電圧又は電流を作用させ、プローブ先端部で金属ナノワイヤを引き出し、該金属ナノワイヤを連続的に形成する方法;等が挙げられる。溶液中で硝酸銀を還元する方法においては、エチレングリコール等のポリオール、およびポリビニルピロリドンの存在下で、硝酸銀等の銀塩の液相還元をすることによりにより、銀ナノワイヤが合成され得る。均一サイズの銀ナノワイヤは、例えば、Xia, Y.etal., Chem.Mater.(2002)、14、4736-4745、 Xia, Y.etal., Nano letters(2003)3(7)、955-960に記載される方法に準じて、大量生産が可能である。
【0062】
カーボンナノチューブとしては、例えば、直径が0.3nm~100nm、長さ0.1μm~20μm程度の、いわゆる多層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブ等が用いられる。
【0063】
導電性ナノワイヤを含む導電層は、導電性ナノワイヤを溶媒に分散させて得られた導電性ナノワイヤ分散液を塗工及び乾燥させることにより、製造しうる。
【0064】
導電性ナノワイヤ分散液に含まれる溶媒としては、例えば、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒等が挙げられ、中でも、環境負荷低減の観点から、水を用いることが好ましい。また、溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0065】
導電性ナノワイヤ分散液における導電性ナノワイヤの濃度は、好ましくは0.1重量%~1重量%である。これにより、導電性および透明性に優れる第1の導電層を形成することができる。
【0066】
導電性ナノワイヤ分散液は、導電性ナノワイヤ及び溶媒に組み合わせて、任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、導電性ナノワイヤの腐食を抑制する腐食抑制剤、導電性ナノワイヤの凝集を抑制する界面活性剤、導電性ナノワイヤを導電層に保持するためのバインダーポリマー等が挙げられる。また、任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0067】
導電性ナノワイヤ分散液の塗工方法としては、例えば、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、ダイコート法、インクジェットコート法、スクリーンコート法、ディップコート法、スロットダイコート法、凸版印刷法、凹版印刷法、グラビア印刷法等が挙げられる。乾燥方法としては、任意の適切な乾燥方法(例えば、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥)が採用されうる。例えば、加熱乾燥の場合には、乾燥温度は100℃~200℃であり、乾燥時間は1分~10分としうる。
【0068】
第2の導電層における導電性ナノワイヤの割合は、第1の導電層の全重量に対して、好ましくは80重量%~100重量%であり、より好ましくは85重量%~99重量%である。これにより、導電性および光透過性に優れる第1の導電層を得ることができる。
【0069】
金属としては、例えば、例えば、金、白金、銀及び銅が挙げられる。なかでも好ましくは銀、銅及び金であり、より好ましくは銀である。これらの金属は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの金属によって導電層を形成する場合、細い線状の導電層(例えば、格子状に形成された金属メッシュ層)を形成することによって、透明な導電層を得ることができる。このような導電層及びその形成方法の詳細については、特開2012-18634号公報、特開2003-331654号公報を参照しうる。
【0070】
導電性ポリマーとしては、例えば、ポリチオフェン系ポリマー、ポリアセチレン系ポリマー、ポリパラフェニレン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、ポリパラフェニレンビニレン系ポリマー、ポリピロール系ポリマー、ポリフェニレン系ポリマー、アクリル系ポリマーで変性されたポリエステル系ポリマー等が挙げられる。導電性ポリマーを含む導電層は、例えば、導電性ポリマーを含む導電層形成用組成物を塗工し、乾燥することにより形成しうる。導電性ポリマーを含む導電層については、特開2011-175601号公報を参照しうる。
【0071】
第1の導電層は、第1の樹脂層の面全体に設けられていてもよく、第1の樹脂層の面の一部に設けられていてもよい。第1の導電層が、第1の樹脂層の面の一部に設けられている場合、調光素子としては部分的に調光機能が付与された構成をとりうる。
【0072】
第1の導電層は、通常、高い透明性を有する。よって、可視光線は、通常、この導電層を透過することができる。第1の導電層の具体的な透明性は、導電性フィルムの用途に応じて調整しうる。導電層の具体的な全光線透過率は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0073】
第1の導電層の厚みは、好ましくは0.01μm~10μm、より好ましくは0.05μm~3μm、特に好ましくは0.1μm~1μmである。
【0074】
〔2.4.調光層〕
調光層は、導電層に印加される電圧に応じて、例えば、ヘイズや可視光透過率を変化させうる層である。調光層としては、例えば、液晶微小粒子と、樹脂バインダー(樹脂マトリクス)とを含む構成を用いうる。前記構成においては、通常、樹脂マトリクス中に、液晶材料が微小粒子となって分散している。
【0075】
樹脂マトリクスとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル等の重合体、さらにはメタクリレート/アクリロニトリル、ウレタン/アクリル、アクリレート/アクリロニトリル等の共重合体などが挙げられる。
【0076】
また、樹脂マトリクスとしては、例えば、特開2009-133921号公報に記載の、下記式1で示される単量体Aと非イオン性親水基および炭素-炭素二重結合を有する単量体Bとを含み、前記単量体Aを主たる単量体とする単量体群の共重合体であってガラス転移温度が-50℃~20℃の範囲にある共重合体を用いうる。単量体Bにおける非イオン性親水基としては、例えば、アミド基、ヒドロキシル基およびポリオキシアルキレン基から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
CH2=CR1-C(=O)-O-R2 (1)
(R1は、水素原子またはメチル基であり、R2は、直鎖もしくは分岐を有する炭素数1~20の鎖状アルキル基、または炭素数5~20の環状アルキル基である。)
【0077】
単量体A及びBを含む樹脂マトリクス全体に対する、単量体Aの質量割合は、例えば、80質量%以上、90質量%以下である。また、前記樹脂マトリクス全体に対する、単量体Bの重量割合は、例えば、0.3質量%以上10質量%以下である。前記樹脂マトリクスは、単量体A及びB以外の単量体C及び単量体Dをさらに含んでいてもよい。単量体Cとしては、例えば、アミノ基を有する単量体;カルボキシル基を有する単量体を挙げることができる。単量体Dとしては、例えば、単量体A~C以外の単量体であって、単量体Aその他の単量体と共重合可能な単量体が挙げられる。
【0078】
液晶微粒子に用いうる液晶材料としては、ネマティック液晶、コレステリック液晶、スメクティック液晶等の公知の液晶を使用できるが、好ましくはネマティック液晶である。
【0079】
液晶微粒子のメジアン径D50は、好ましくは、1.5μm~4.5μmの範囲である。また、液晶微粒子の粒子径分布としては、液晶微粒子の加積曲線における加積透過率が10%となる粒子径D10に対する、加積透過率が90%となる粒子径D90との比(D90/D10)が、D90/D10≦3×D50の範囲であることが好ましい。
液晶微粒子のメジアン径D50及び粒子径分布は、例えば、レーザー回折法を用いて測定しうる。
【0080】
樹脂マトリクス及び液晶微粒子を含む調光層の材料は、例えば、樹脂マトリクスとしての高分子エマルジョンを調製し、樹脂エマルジョンに液晶材料を添加して高速攪拌することにより、樹脂エマルジョン中に液晶材料を微粒子として分散させた液晶エマルジョンとして製造しうる。液晶エマルジョンに含まれる液晶材料(液晶微粒子)の質量割合は、好ましくは40質量%以上90質量%以下である。液晶エマルジョンの製造方法及び液晶エマルジョンの構成材料の詳細については、特開2009-133921号公報に記載されたものを用いることができる。
【0081】
調光層の製造方法は、任意の製造方法により製造しうるが、例えば、上述した液晶エマルジョンを塗布し、乾燥する方法が挙げられる。
【0082】
調光層の厚みは、特に制限されず、調光素子の用途及び大きさに応じて適宜選択しうるが、5μm以上、30μm以下としうる。
【0083】
〔2.5.第2の導電層〕
第2の導電層は、調光層の第1の導電層が設けられた面とは反対側の面に設けられる層である。第2導電層に用いられうる導電材料、導電層の厚み及び全光線透過率については、第1の導電層の項目で説明した内容と同様としうる。
【0084】
〔2.6.第2の樹脂層及び第2の基板〕
本実施形態に係る調光素子は、好ましくは、前記第2の導電層の前記調光層側とは反対の面に、単一の層である第2の樹脂層及び第2の基板をこの順に備える。このような第2の樹脂層及び第2の基板としては、前記第2の基板及び前記第2の樹脂層が直接接しており、かつ、前記第2の樹脂層及び前記第2の導電層が直接接していることが好ましい。また、前記第2の樹脂層が環状構造を有する重合体をシラン変性した樹脂を含むことが好ましい。第2の樹脂層と第2の基板との接着性を良好にすることができるからである。
【0085】
第1の基板と第2の基板とは、同じ材料を含んでいてもよく、異なる材料を含んでいてもよく、その厚み及び物性についても同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0086】
第2の樹脂層に用いられうる樹脂材料、厚み及び製造方法としては、第1の樹脂層の項目で説明した樹脂材料、厚み及び製造方法として説明した内容と同様としうる。
また、第2の基板として用いうる基板としては、第1の基板として説明した内容と同様としうる。
【0087】
〔3.調光素子の物性〕
本実施形態に係る調光素子は、例えば、電圧が印加されていない状態(電圧開放状態)では、調光層の液晶材料が配向されていない状態となりうることから、例えば白濁した状態となりうる。一方、電圧が印加された状態(電圧印加状態)では、調光層の液晶材料がある一定の方向に規則的に配向された状態となりうることから、例えば、透明度の高い状態となりうる。このような状態を、例えば、透明性に関する指標であるヘイズで表すと、本実施形態に係る調光素子は、電圧印加状態では調光素子のヘイズは相対的に低く、電圧開放状態では調光素子のヘイズは相対的に高くなりうる。
【0088】
電圧印加状態における調光素子のヘイズとしては、好ましくは、3%以下、より好ましくは1%以下であり、理想的には0%である。一方、電圧開放状態における調光素子のヘイズは、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。ヘイズは、例えば、ヘイズメーターを用いて測定しうる。
【0089】
また、本実施形態に係る調光素子は、前記のシラン変性樹脂を含むことから、耐候性を良好にしうる。具体的には、紫外線による調光素子の黄変を抑制しうる。このような調光素子としては、例えば、耐候性試験前のYellowness Index(黄色度)を0とした場合の、耐候性試験後の黄色度の相対値(変化数)が、好ましくは0.4未満、より好ましくは0.3以下であり、理想的には0である。
【0090】
耐候性試験は、例えば、耐候性試験機(スガ試験機社製 キセノンウエザーメーター X75L)を用い、光源としてXe光源(照度:60W/m2)を用い、温度63℃、湿度50%RHにて1000時間実施しうる。
【0091】
〔4.調光素子の製造方法の概要〕
前記の調光素子の製造方法としては、所望の調光素子を得うることができれば制限されないが、例えば、
第1の樹脂層上に直接接するように、第1の導電層を設ける第1工程と、
第1の導電層上に調光層を設ける第2工程と、
調光層上に第2の導電層を設ける第3工程と、
第1の基板を第1の樹脂層に直接貼合する第4工程と、
をこの順に含む製造方法であることが好ましい。以下、この製造方法を、本発明の一実施形態に係る調光素子の製造方法として説明する。
【0092】
本発明によれば、前記の第1工程~第4工程を有することにより、第1の基板の剥離が抑制された調光素子を製造することができる。
【0093】
〔4.1.第1工程〕
第1工程は、第1の樹脂層上に直接接するように、第1の導電層を設ける工程である。
第1工程に用いられる第1の樹脂層は、前記のシラン変性樹脂を含む単一の層である。このような第1の樹脂層は、例えば、シラン変性樹脂をフィルム状に成形したものを用いうる。本実施形態においては、第1工程の前工程として、第1の樹脂層を製造する工程をさらに有しうる。第1の樹脂層の製造方法については上述した第1の樹脂層の項目で説明した製造方法から適宜選択しうる。
【0094】
第1の樹脂層上に直接接するように、第1の導電層を設ける方法としては、例えば、第1の樹脂層上に導電材料を含む導電層用組成物を塗布することにより設けてもよく、別の基材を転写用基材として用い、転写用基材上に導電層を形成した後、第1の樹脂層上に直接接するように転写することにより設けてもよい。第1の導電層の製造方法については、上述した第1の導電層の項目で説明した製造方法から適宜選択しうる。
【0095】
〔4.2.第2工程〕
第2工程は、第1の導電層上に調光層を設ける工程である。調光層の製造方法については、上述した調光層の項目で説明した製造方法を用いうる。
【0096】
〔4.3.第3工程〕
第3工程は、調光層上に前記第2の導電層を設ける工程である。第3工程は、少なくとも調光層上に第2の導電層を設けることができればよいが、第2の樹脂層上に設けた前記第2の導電層を前記調光層に貼合する工程を含むことが好ましい。調光層上に第2の導電層及び第2の樹脂層を効率よく設けることができるからである。この場合、第2の樹脂層と第2の導電層とは直接接していることが好ましい。
【0097】
〔4.4.第4工程〕
第4工程は、第1の基板を第1の樹脂層に直接貼合する工程である。第1の基板を第1の樹脂層に直接貼合する方法としては、好ましくは、加熱圧着を用いうる。
【0098】
加熱圧着を行う場合、加熱温度としては、例えば、90℃以上、好ましくは110℃以上であり、例えば、140℃以下、好ましくは130℃以下としうる。また、加熱圧着時の圧力としては、好ましくは、0.4MPa以上、より好ましくは0.5Mpa以上であり、好ましくは、1.2MPa以下、より好ましくは1.0MPa以下としうる。
【0099】
加圧圧着の方法としては、例えば、オートクレーブを用いる方法が挙げられるが、これに制限されない。
【0100】
〔4.5.第5工程〕
本実施形態において、前記の第3工程が、第2の樹脂層上に設けられた第2の導電層を、調光層に貼合する工程を含む場合、第2の基板を前記第2の樹脂層に直接貼合する第5工程を含むことが好ましい。第5工程において、第2の基板を第2の導電層に直接貼合する方法については、第4工程における第1の基板を第1の樹脂層に直接貼合する方法として説明した方法と同様としうる。
【0101】
〔5.調光素子の用途〕
本実施形態に係る調光素子は、例えば、調光窓として、建材、自動車、船等に用いうる。
【実施例0102】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下の操作は、別に断らない限り、常温常圧(23℃±2℃、1気圧)大気中にて行った。
【0103】
[評価方法]
(重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn))
テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による標準ポリスチレン換算値として、40℃において、0.6cc/分の速度で測定した。測定装置としては、東ソー社製HLC8320GPCを用い、カラムはTSKgel SuperH G5000HLX、G4000HLX,G2000HLX3本を直列につなぎ、ポリマー量4mg/1ccの濃度に調整し測定した。
【0104】
(重合体の水素化率の測定方法)
重合体の水素化率(モル%)は、1H-NMR測定(測定溶媒:CDCl3)を実施し、重合体中に存在した全不飽和結合のうち消失した不飽和結合の割合を算出することで導出した。
【0105】
(接着性評価)
本評価では第1の基板にガラス基板を使用し、ガラス基板と第1の樹脂層との接着性を評価した。第1の樹脂層とガラス基板との接着性評価であることから、評価用のサンプルとして、実施例1及び2で用いられる第1の樹脂層(後述のシラン変性樹脂(樹脂X)を含む樹脂層)を用いたサンプル1と、比較例1及び2で用いられる第1の樹脂層(PVB樹脂を含む樹脂層)を用いたサンプル2とをそれぞれ作製して、比較評価を実施した。
【0106】
(1)樹脂Xを用いたサンプル1
ガラス基板にソーダライムガラス基板(2mm厚)を使用した。実施例1及び2で用いられる第1の樹脂層(樹脂Xを含む樹脂層、0.76mm厚)を、ガラス基板に直接接するように配置し、オートクレーブを用いて125℃、0.8MPaの条件にて貼合し、サンプルを得た。
【0107】
(2)PVB樹脂を用いたサンプル2
樹脂Xを含む樹脂層の代わりに、比較例1及び2で用いられる第1の樹脂層(PVB樹脂を含む樹脂層、0.76m厚)を用いた点、オートクレーブを用いて135℃、0.8MPaの条件にて貼合したこと以外は、樹脂Xを用いたサンプル1と同様にして、PVB樹脂を用いたサンプル2を得た。
【0108】
(3)評価方法
作成したサンプルに対し、JIS K 6854-2 に準拠した180度ピール試験を実施した。評価として初期接着力及び20℃、55%RH環境下で5時間放置した後のピール強度(接着力)を測定した。初期接着力は、20℃、55%RH環境下で5時間放置する前のピール強度である。測定結果を下記の指標により評価した。
【0109】
A:ガラス基板に対する樹脂層のピール強度が、10N/10mm以上であった。
B:ガラス基板に対する樹脂層のピール強度が、5N/10mm以上、10N/10mm未満であった。
C:ガラス基板に対する樹脂層のピール強度が、5N/10mm未満であった。
【0110】
(耐候性評価)
本評価では、耐候性評価後の指標としてYellowness Index(黄色度)にて評価を実施した。
【0111】
(1)サンプルの作製
調光素子の耐候性を評価するために、簡易評価として第1の基板及び第2基板に光学ガラス基板(3mm厚)を使用し、2枚の光学ガラスに挟まれる部分を簡易的に樹脂層のみを挟み評価を実施した。導電層及び調光要素が耐候性試験によって受ける影響は、実施例及び比較例のどちらの構成においても、同様であると考えられることから、実施例及び比較例の違いとなる樹脂層のみを挟んだサンプルを用いた簡易評価とした。
【0112】
(1-1)樹脂Xを用いたサンプル3
1対の光学ガラス基板の間に、実施例1及び2で用いられる第1の樹脂層(樹脂Xを含む樹脂層、0.76mm厚)を挿入し、オートクレーブを用いて、125℃、0.8MPaの条件にて各光学ガラスと樹脂層とを貼合し、サンプル3を得た。
【0113】
(1-2)PVB樹脂を用いたサンプル4
1対の光学ガラスの間に、比較例1及び2で用いられる第1の樹脂層(PVB樹脂を含む樹脂層、0.76m厚)を挿入し、オートクレーブを用いて135℃、0.8MPaの条件にて各光学ガラス基板と樹脂層とを貼合し、サンプル4を得た。
【0114】
(2)評価方法
作成したサンプルを耐候性試験機(スガ試験機社製 キセノンウエザーメーター X75L)にて評価を実施した。耐候性試験機の条件はXe光源(照度:60W/m2)を用い、温度63℃、湿度50%RHにて1000時間実施した。測定開始時のそれぞれのサンプルのYellowness Indexを0とした場合の相対評価にて1000時間後のYellowness indexの測定を実施した。測定結果を下記の指標により評価した。Yellowness indexの相対値(変化数)が小さいほど、耐候性が高いといえる。
【0115】
A:Yellowness indexの相対値(変化数)が0.4未満。
B:Yellowness indexの相対値(変化数)が0.4以上。
【0116】
[製造例:シラン変性樹脂(樹脂X)の製造]
以下の手順により、シラン変性樹脂(樹脂X)として、ブロック共重合体の水素化物のアルコキシシリル基変性物[3]を製造した。
【0117】
(ブロック共重合体[1]の製造方法)
十分に窒素置換された攪拌装置を備えた反応器に脱水シクロヘキサン550部、脱水スチレン25部、n-ブチルエーテル0.475部を入れ、60℃で撹拌しながら、n-ブチルリチウム(15%n-ヘキサン溶液)を0.90部を加えて重合を開始した。65℃で60分間重合反応させた。ガスクロマトグラフィーにより測定したこの時点での重合添加率は99.9%であった。次に、脱水イソプレン50.0部を加え、そのまま40分間撹拌を続けた。この時点での重合添加率は99.6%であった。その後、更に脱水スチレンを25.0部加え、60分間反応させた。この時点での重合添加率はほぼ100%であった。ここでメタノール2.0部添加し反応を停止した。
得られたブロック共重合体[1]の溶液は、重量平均分子量(Mw)が42900であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.03であり、S-I-S(スチレンブロック-イソプレンブロック-スチレンブロック)のトリブロック共重合体であった。
【0118】
(ブロック共重合体の水素化物[2]の製造方法)
前記ブロック共重合体[1]の溶液を攪拌装置を備えた耐圧反応容器に移送し、水素化触媒としてのシリカーアルミナ担持型ニッケル触媒(製品名:T-8400RL、クラリアント触媒(株)社製、ニッケル含有量33%)4部、および、脱水シクロヘキサン100部を添加して混合した。常温状態にて反応内部を水素ガスにて置換しゲージ圧力で2MPa加圧した状態で180℃まで昇温した。耐圧反応容器の内部温度が180℃となったところで、60分間水素の供給をせず、180℃の温度を一定に保った。60分後、水素圧を4.5MPaまで加圧し6時間水素化反応を行った(水素化率:99.9%)。重量平均分子量(Mw)は43900であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.45であった。水素化反応終了後、反応溶液を濾過して水素化触媒を除去した後、得られた溶液に、フェノール系酸化防止剤であるペンタエリトリトール・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](製品名「AO60」、ADEKA社製)0.1部を溶解したキシレン溶液2.0部を添加して溶解させた。
次いで、前記溶液を、円筒型濃縮乾燥器(製品名「コントロ」、日立製作所社製)を用いて、温度260℃、圧力0.001MPa以下で、溶液からシクロヘキサン、キシレンおよびその他の揮発成分を除去した。溶融ポリマーをダイからストランド状に押出し、冷却後、ペレタイザーによりカッティングしてブロック共重合体水素化物[2]からなるペレット94部を得た。
【0119】
(ブロック共重合体の水素化物のアルコキシシリル基変性物[3]の製造方法)
得られたブロック共重合体水素化物[2]のペレット100部に対して、ビニルトリメトキシシラン2.0部、および、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(製品名「パーヘキサ(登録商標)25B」、日油社製)0.2部を添加した。この混合物を、二軸押出機(製品名「TEM37B」、東芝機械社製)を用いて、樹脂温度200℃、滞留時間60~70秒で混練した。得られた混練物を、ストランド状に押出し、空冷した後、ペレタイザーによりカッティングし、アルコキシシリル基を有する変性ブロック共重合体水素化物[3]のペレット97部を得た。
【0120】
[実施例1]
(第1の樹脂層の作製)
押出シート成形機として、直径37mmのスクリューを備えた二軸混練機(東芝機械社製、TEM37B)を有するTダイ式フィルム溶融押出し成形機(Tダイ幅400mm)、キャストロール、ニップロール共にエンボスパターンが付与されたロール、およびシート引き取り装置を備えた押出しシート成形機を使用した。
製造例で得られたアルコキシシリル基変性物[3](樹脂X)を、前記の押出しシート成形機を使用して、溶融樹脂温度200℃、Tダイ温度200℃、キャストロール温度60℃の条件にて押出し成形し、樹脂Xを主成分とする第1の樹脂層[4](厚さ760μm)を得た。
【0121】
(第1の導電層の作製)
基材として、厚み50μmのシクロオレフィンポリマーフィルム(日本ゼオン社製「ゼオノアフィルム ZF16-050」。以下、「COPフィルム」ということがある。)を用意した。フィルム巻き取り式マグネトロンスパッタリング装置を用いてスパッタリングを行って、前記のCOPフィルム上に導電層としてITO層(スズ添加酸化インジウム層)を形成して、COPフィルム及びITO層を含む複層フィルムを得た。前記のスパッタリングは、ターゲットとして酸化スズ及び酸化インジウムを焼成したものを用いて、アルゴン(Ar)流量150sccm、酸素(O2)流量10sccm、出力4.0kW、真空度0.3Pa、フィルム搬送速度0.5m/minの条件で行った。ここで、「sccm」は、気体の流量の単位であり、1分間当たりに流れる気体の量を、その気体が25℃、1atmである場合の体積(cm3)で示す。
得られた複層フィルムのITO層側の面と、第1の樹脂層[4]とを熱ラミネート法(温度100℃、搬送速度1m/min、圧力0.4MPa)によって貼り合わせた。その後、COPフィルムを剥離して、第1の樹脂層[4]及び厚み30nmのITO層を備える樹脂層[5]-1を得た。
【0122】
(調光層の作製)
特開2009-133921号公報の重合例1に記載された手順により、単量体Aとしてのアクリル酸ブチル(BA)60部、及びメタクリル酸ブチル(BMA)35部、単量体Bとしての2-ヒドロキシエチルアクリレート4部、及び単量体Cとしてのアクリル酸1部を用いた共重合体の高分子エマルジョン(不揮発分46.9%)を調製した。
次に、特開2009-133921号公報の実施例1に記載された手順により、前記の高分子エマルションを水で不揮発分40%の希釈し、希釈した高分子エマルション100部に対して、ネマティック液晶(JM1000XX(複屈折率Δn=0.132):チッソ製)64部を添加し、エクセルオートホモジナイザー(日本精機製)にて回転数133.3回転/秒(8000rpm)で10分間攪拌し、液晶エマルジョンを得た。続いて、架橋剤のポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルを水に溶解して、50%の架橋剤水溶液を調製した。前記で得た液晶エマルジョンを低速で攪拌しながら、この液晶エマルジョンに前記の架橋剤水溶液を添加した。架橋剤水溶液の添加割合は、液晶エマルジョンに含まれる高分子エマルジョン100部(水で希釈した状態の高分子エマルジョン100部)に対して架橋剤水溶液4.8部とした。以上の手順により、液晶エマルジョンを含む調光層用組成物を得た。
【0123】
得られた調光層用組成物をドクターブレードコーターを用いて、樹脂層[5]-1の導電層(ITO層)に塗布し、乾燥させて調光層を作製した。調光層用組成物の塗布は22℃程度の雰囲気下で実施した。
【0124】
(第2の導電層及び第2の樹脂層の作製)
上述した第1の樹脂層の作製、及び第1の樹脂層の作製の項目で説明した作製方法と同様の作製方法により、第2の導電層及び第2の樹脂層が直接接した積層体として、ITO層が設けられた樹脂層[6]-1を作成した。得られた樹脂層[6]-1のITO層が設けられた面側を、第1の樹脂層の調光層側に貼り合わせた。この貼り合わせは、22℃程度の雰囲気下で実施した。
【0125】
(第1の基板及び第2の基板の配置)
第1の基板及び第2の基板として、それぞれガラス基板を準備し、2つのガラス基板の間に、上述した第1の樹脂層、第1の導電層、調光層、第2の導電層、及び第2の樹脂層をこの順に有する積層体を挟み、オートクレーブを用いて、125℃、0.8Mpaの条件下で、第1の基板及び第1の樹脂層、並びに第2の基板及び第2の樹脂層をそれぞれ貼合して、調光素子を得た。
【0126】
[実施例2]
第1の導電層及び第2の導電層を下記の導電層の作製方法により作製したこと以外は、実施例1と同様にして調光素子を得た。
【0127】
(第1の導電層及び第2の導電層の作製)
第1の導電層の作製方法として、導電性ナノワイヤ分散液として、銀ナノワイヤを含む分散液(カンブリオス・テクノロジーズ・コーポレーション社製「クリアオーム」)を用意した。次に、第1の樹脂層[4]上に、バーコーターを用いて、前記の分散液を塗布し、80℃で乾燥させた。これにより、第1の樹脂層[4]に厚み1μmの導電層を形成した樹脂層[5]-2を得た。
また、第1の導電層の作製方法及び前記の導電ナノワイヤ分散液を用いた導電層の作製方法と同様の方法により、導電層を設けた樹脂層[6]-2を作製した。
【0128】
[比較例1]
第1の樹脂層及び第2の樹脂層に用いられる樹脂層として、樹脂Xを含む樹脂層の代わりに厚み760μmのPVB樹脂を含む樹脂層(クラレ社製「モビタール」)を用いたこと、第1の樹脂層及び第2の樹脂のそれぞれに直接導電層を設けずに、下記の導電層用基材及び導電層の積層体の導電層用基材を配置したこと、および、第1の基板及び第2の基板の配置におけるオートクレーブによる貼り合わせ条件を、135℃、0.8Mpaの条件下としたこと以外は実施例1と同様にして調光素子を得た。
【0129】
導電層用基材として、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム、東レ社製「U-34」)に、実施例1と同様にしてITO層を形成することにより、導電層用基材及び導電層の積層体を得た。
【0130】
[比較例2]
第1の樹脂層に用いられる樹脂として、樹脂Xの代わりに前記のPVB樹脂を含む樹脂層を用いたこと、および、第1の基板及び第2の基板の配置におけるオートクレーブによる貼り合わせ条件を、135℃、0.8Mpaの条件下としたこと以外は実施例1と同様にして調光素子を得た。
【0131】
実施例1及び2、並びに比較例1及び2の調光素子の構成を表1に示し、評価結果を表2に示す。表1及び2中の略語は、以下の意味を示す。
【0132】
樹脂X:製造例で製造したアルコキシシリル基変性物[3]
PVB:ポリビニルブチラール
PET:ポリエチレンテレフタレート
ITO:ITO(錫添加酸化インジウム)を含む導電層
AgNW:銀ナノワイヤを含む導電層
液晶:液晶エマルジョンを用いた調光層
接着性評価の「初期」:初期接着力の評価
接着性評価の「5時間放置後」:20℃、55%RH環境下で5時間放置した後の接着力の評価
【0133】
【0134】
【0135】
接着性評価について、実施例1及び2のように、樹脂Xを使用した場合、初期接着力は28.0N/10mmであり、20℃、55%RH環境下における5時間後の接着力についても28.0N/10mmであり、変化がなかった。
一方、比較例1及び2のように、PVB樹脂を使用した場合、初期接着力は13.5N/10mmであったものの、20℃、55%RH環境下で5時間放置した後の接着力は4.0N/10mmであり、接着力が低下している結果となった。
【0136】
耐候性評価について、実施例1及び2のように、樹脂Xを含む樹脂層を使用した場合、1000時間後の変化は0.26であり、比較例1及び2のように、PVB樹脂を含む樹脂層を使用した場合、1000時間後の変化は0.51であった。