(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162905
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】樹脂剛直高分子複合体の製造方法及び樹脂剛直高分子複合体
(51)【国際特許分類】
B29C 70/12 20060101AFI20231101BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20231101BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
B29C70/12
C08J5/24 CEY
C08J5/00 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073615
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】能木 雅也
(72)【発明者】
【氏名】春日 貴章
(72)【発明者】
【氏名】水上 学
【テーマコード(参考)】
4F071
4F072
4F205
【Fターム(参考)】
4F071AA09
4F071AA33
4F071AA49
4F071AC07A
4F071AD01
4F071AE06A
4F071AE17
4F071AF30Y
4F071AF62Y
4F071AG02
4F071AG12
4F071AG15
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB01
4F071BB12
4F071BC01
4F071BC12
4F072AA02
4F072AA07
4F072AB03
4F072AB21
4F072AD09
4F072AD38
4F072AD55
4F072AE02
4F072AF24
4F072AK03
4F072AK20
4F205AA36
4F205AA44
4F205AB25
4F205AD16
4F205HA06
4F205HA19
4F205HA33
4F205HA36
4F205HC12
4F205HF05
(57)【要約】
【課題】所望の形状を有し、曇りの少ないクリアな外観を有する樹脂剛直高分子複合体を形成できる製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂剛直高分子複合体の製造方法は、剛直高分子が第1極性媒体に分散した剛直高分子分散液から、第1電極及び第2電極の少なくとも一方の電極に剛直高分子を堆積させた剛直高分子成形体を形成する工程と、剛直高分子成形体と第1極性媒体とを含有する第1ゲルを形成する工程と、第1ゲルに含有される第1極性媒体を、第1極性媒体よりも極性が低い第2極性媒体に置換して、剛直高分子成形体と第2極性媒体とを含有する第2ゲルを形成する工程と、第2ゲルに含有される第2極性媒体を、樹脂原料を含有する樹脂原料液に置換して、剛直高分子成形体に樹脂原料液を含侵させる工程と、樹脂原料液に含有される樹脂原料を硬化させて、樹脂と剛直高分子成形体との複合体である樹脂剛直高分子複合体を形成する工程とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛直高分子が第1極性媒体に分散した剛直高分子分散液から、第1電極及び第2電極の少なくとも一方の電極に前記剛直高分子を堆積させた剛直高分子成形体を形成する工程と、
前記剛直高分子成形体と前記第1極性媒体とを含有する第1ゲルを形成する工程と、
前記第1ゲルに含有される前記第1極性媒体を、前記第1極性媒体よりも極性が低い第2極性媒体に置換して、前記剛直高分子成形体と前記第2極性媒体とを含有する第2ゲルを形成する工程と、
前記第2ゲルに含有される前記第2極性媒体を、樹脂原料を含有する樹脂原料液に置換して、前記剛直高分子成形体に前記樹脂原料液を含侵させる工程と、
前記樹脂原料液に含有される前記樹脂原料を硬化させて、樹脂と前記剛直高分子成形体との複合体である樹脂剛直高分子複合体を形成する工程とを含む、樹脂剛直高分子複合体の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂剛直高分子複合体は、前記少なくとも一方の電極に隣接していた第1領域と、前記第1領域よりも前記少なくとも一方の電極から離隔した第2領域とを有し、
前記第1領域の単位体積あたりの前記剛直高分子の含有量は、前記第2領域の単位体積あたりの前記剛直高分子の含有量よりも多い、請求項1に記載の樹脂剛直高分子複合体の製造方法。
【請求項3】
前記第1極性媒体は、水であり、前記第2極性媒体は、有機溶媒である、請求項1又は2に記載の樹脂剛直高分子複合体の製造方法。
【請求項4】
前記剛直高分子は、セルロースナノファイバーである、請求項1又は2に記載の樹脂剛直高分子複合体の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂は、紫外線硬化性樹脂又は二液硬化性樹脂である、請求項1又は2に記載の樹脂剛直高分子複合体の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂は、アクリル樹脂又はポリエステル樹脂である、請求項1又は2に記載の樹脂剛直高分子複合体の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂剛直高分子複合体のヘーズ値は、20%以下である、請求項1又は2に記載の樹脂剛直高分子複合体の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂剛直高分子複合体の線熱膨張係数は、65ppm/℃以下である、請求項1又は2に記載の樹脂剛直高分子複合体の製造方法。
【請求項9】
前記少なくとも一方の電極は、絶縁性の基台と、前記基台の表面を覆う導電膜とを有する、請求項1又は2に記載の樹脂剛直高分子複合体の製造方法。
【請求項10】
樹脂と剛直高分子成形体との複合体である、樹脂剛直高分子複合体であって、
主面と、
前記主面を含む第1領域と、
前記第1領域よりも前記主面から離隔した第2領域と
を有し、
前記第1領域の単位体積あたりの剛直高分子の含有量は、前記第2領域の単位体積あたりの前記剛直高分子の含有量よりも多い、樹脂剛直高分子複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂剛直高分子複合体の製造方法及び樹脂剛直高分子複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバーは、木材由来のナノ繊維であり、持続可能なバイオマス資源である。セルロースナノファイバーは、軽量、高強度、高耐熱性、及び高透明性といった特性を備える。強度を向上させるために、補強材としてセルロースナノファイバーを、樹脂に添加することが検討されている。
【0003】
特許文献1には、ミクロフィブリル化セルロース懸濁液を密閉した状態で予備脱水及び加熱加圧成形することにより、ミクロフィブリル化セルロースの成形体を製造することが記載されている。また、特許文献1には、ミクロフィブリル化セルロース懸濁液に、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の少なくとも1つを所定の固形分割合で添加してもよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、ミクロフィブリル化セルロース懸濁液を密閉した状態で予備脱水及び加熱加圧成形が行われるため、複雑な形状の成形体を製造することが難しい。従って、特許文献1に記載の製造方法では、所望の形状の成形体を形成できないことがある。更に、特許文献1に記載の製造方法では、ミクロフィブリル化セルロース懸濁液に、樹脂を添加している。親水性であるミクロフィブリル化セルロース懸濁液に、疎水性である樹脂を、凝集することなく分散させることは難しい。分散が不均一であると、成形体に曇りが発生することがある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、所望の形状を有し、曇りの少ないクリアな外観を有する樹脂剛直高分子複合体を形成できる樹脂剛直高分子複合体の製造方法を提供することである。また、本発明の別の目的は、所望の形状を有し、曇りの少ないクリアな外観を有する樹脂剛直高分子複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の樹脂剛直高分子複合体の製造方法は、剛直高分子が第1極性媒体に分散した剛直高分子分散液から、第1電極及び第2電極の少なくとも一方の電極に前記剛直高分子を堆積させた剛直高分子成形体を形成する工程と、前記剛直高分子成形体と前記第1極性媒体とを含有する第1ゲルを形成する工程と、前記第1ゲルに含有される前記第1極性媒体を、前記第1極性媒体よりも極性が低い第2極性媒体に置換して、前記剛直高分子成形体と前記第2極性媒体とを含有する第2ゲルを形成する工程と、前記第2ゲルに含有される前記第2極性媒体を、樹脂原料を含有する樹脂原料液に置換して、前記剛直高分子成形体に前記樹脂原料液を含侵させる工程と、前記樹脂原料液に含有される前記樹脂原料を硬化させて、樹脂と前記剛直高分子成形体との複合体である樹脂剛直高分子複合体を形成する工程とを含む。
【0008】
ある実施形態では、前記樹脂剛直高分子複合体は、前記少なくとも一方の電極に隣接していた第1領域と、前記第1領域よりも前記少なくとも一方の電極から離隔した第2領域とを有する。前記第1領域の単位体積あたりの前記剛直高分子の含有量は、前記第2領域の単位体積あたりの前記剛直高分子の含有量よりも多い。
【0009】
ある実施形態では、前記第1極性媒体は、水である。前記第2極性媒体は、有機溶媒である。
【0010】
ある実施形態では、前記剛直高分子は、セルロースナノファイバーである。
【0011】
ある実施形態では、前記樹脂は、紫外線硬化性樹脂又は二液硬化性樹脂である。
【0012】
ある実施形態では、前記樹脂は、アクリル樹脂、又はポリエステル樹脂である。
【0013】
ある実施形態では、前記樹脂剛直高分子複合体のヘーズ値は、20%以下である。
【0014】
ある実施形態では、前記樹脂剛直高分子複合体の線熱膨張係数は、65ppm/℃以下である。
【0015】
ある実施形態では、前記少なくとも一方の電極は、絶縁性の基台と、前記基台の表面を覆う導電膜とを有する。
【0016】
本発明の樹脂剛直高分子複合体は、樹脂と剛直高分子成形体との複合体である。前記樹脂剛直高分子複合体は、主面と、前記主面を含む第1領域と、前記第1領域よりも前記主面から離隔した第2領域とを有する。前記第1領域の単位体積あたりの前記剛直高分子の含有量は、前記第2領域の単位体積あたりの前記剛直高分子の含有量よりも多い。
【発明の効果】
【0017】
本発明の樹脂剛直高分子複合体の製造方法によれば、所望の形状を有し、曇りの少ないクリアな外観を有する樹脂剛直高分子複合体を形成できる。また、本発明の樹脂剛直高分子複合体は、所望の形状を有し、曇りの少ないクリアな外観を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態の樹脂剛直高分子複合体の製造方法で使用される製造デバイスを示す図である。
【
図2】本発明の実施形態の樹脂剛直高分子複合体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施形態の樹脂剛直高分子複合体の製造方法を説明するための図である。
【
図4】本発明の実施形態の樹脂剛直高分子複合体の製造方法を説明するための図である。
【
図5】本発明の実施形態の樹脂剛直高分子複合体の製造方法を説明するための図である。
【
図6】本発明の実施形態の樹脂剛直高分子複合体の製造方法を説明するための図である。
【
図7】本発明の実施形態の樹脂剛直高分子複合体の製造方法を説明するための図である。
【
図8】本発明の実施形態の樹脂剛直高分子複合体の製造方法を説明するための図である。
【
図9】本発明の実施形態の樹脂剛直高分子複合体の製造方法を説明するための図である。
【
図10】本発明の実施形態の樹脂剛直高分子複合体の製造方法を説明するための図である。
【
図11】本発明の実施形態の製造方法で製造される樹脂剛直高分子複合体を示す図である。
【
図13】本発明の実施形態の樹脂剛直高分子複合体の製造方法で使用される製造デバイスを示す図である。
【
図14】剛直高分子成形体を形成する工程で得られる剛直高分子成形体の第1ゲルを一方向から撮影した写真である。
【
図15】剛直高分子成形体を形成する工程で得られる剛直高分子成形体の第1ゲルを別方向から撮影した写真である。
【
図16】本発明の実施形態の製造方法で製造される樹脂剛直高分子複合体を示す図である。
【
図17】セルロースナノファイバー濃度の測定方法を説明するための図である。
【
図18】電極接触面からの距離と、セルロースナノファイバー濃度との関係を示すグラフである。
【
図19】複合体(A-1)、複合体(B-1)、及びコントロールサンプル(C)のヘーズ値を示すグラフである。
【
図20】複合体(A-1)、複合体(B-1)、及びコントロールサンプル(C)の線熱膨張係数を示すグラフである。
【
図21】外観評価において、コントロールサンプル(C)の外観を撮影した写真である。
【
図22】外観評価において、複合体(B-1)の外観を撮影した写真である。
【
図23】外観評価において、複合体(A-1)の外観を撮影した写真である。
【
図24】外観評価において、複合体(A-2)の外観を撮影した写真である。
【
図25】外観評価において、複合体(A-3)の外観を撮影した写真である。
【
図26】外観評価において、複合体(A-4)の外観を撮影した写真である。
【
図27】複合体(A-5)の製造に用いた電極を示す写真である。
【
図28】複合体(A-5)の製造過程で形成したハイドロゲルを示す写真である。
【
図29】複合体(A-5)の製造過程で、エタノールに浸漬させたハイドロゲルを示す写真である。
【
図30】複合体(A-5)の製造過程で形成したエタノールゲルを示す写真である。
【
図31】複合体(A-5)の製造過程で、樹脂原料液に浸漬させたエタノールゲルを示す写真である。
【
図32】複合体(A-5)の製造過程で形成した樹脂原料液含侵物を示す写真である。
【
図33】実施例5で製造された複合体(A-5)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の樹脂剛直高分子複合体の製造方法及び樹脂剛直高分子複合体の実施形態を説明する。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合がある。また、本明細書に記載の各成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本実施形態の樹脂剛直高分子複合体の製造方法は、剛直高分子成形体を形成する工程と、第1ゲルを形成する工程と、第2ゲルを形成する工程と、樹脂原料液を含侵させる工程と、樹脂剛直高分子複合体を形成する工程とを含む。剛直高分子成形体を形成する工程において、剛直高分子分散液から、剛直高分子成形体を形成する。剛直高分子分散液は、剛直高分子が第1極性媒体に分散した分散液である。剛直高分子成形体は、第1電極及び第2電極の少なくとも一方の電極に剛直高分子を堆積させた成形体である。第1ゲルを形成する工程において、剛直高分子成形体と第1極性媒体とを含有する第1ゲルを形成する。第2ゲルを形成する工程において、第1ゲルに含有される第1極性媒体を、第2極性媒体に置換して、第2ゲルを形成する。第2極性媒体は、第1極性媒体よりも極性が低い。第2ゲルは、剛直高分子成形体と第2極性媒体とを含有する。樹脂原料液を含侵させる工程において、第2ゲルに含有される第2極性媒体を樹脂原料液に置換して、剛直高分子成形体に樹脂原料液を含侵させる。樹脂原料液は、樹脂原料を含有する。樹脂剛直高分子複合体を形成する工程において、樹脂原料液に含有される樹脂原料を硬化させて、樹脂剛直高分子複合体を形成する。樹脂剛直高分子複合体は、樹脂と剛直高分子成形体との複合体である。
【0021】
以下、「第1ゲル」を「第1極性媒体ゲル」と、「第2ゲル」を「第2極性媒体ゲル」と記載することがある。また、「樹脂剛直高分子複合体」を、単に「複合体」と記載することがある。また、「剛直高分子成形体を形成する工程」を「成形工程」と、「第1ゲルを形成する工程」を「第1極性媒体ゲル形成工程」と、「第2ゲルを形成する工程」を「第2極性媒体ゲル形成工程」と、「樹脂原料液を含侵させる工程」を「樹脂原料液含侵工程」と、樹脂剛直高分子複合体を形成する工程を「複合体形成工程」と記載することがある。
【0022】
本実施形態の複合体の製造方法は、以下の利点を有する。
【0023】
本実施形態では、成形工程において、第1電極及び第2電極の少なくとも一方の電極に、電極の表面形状に応じて、概ね一定の厚さで、剛直高分子が堆積する。従って、本実施形態の製造方法によれば、所望の形状の電極を使用することで、所望の形状の剛直高分子成形体を容易に形成できる。
【0024】
更に、本実施形態では、上記で形成された所望の形状の剛直高分子成形体の骨格を維持した状態で、第1極性媒体ゲル形成工程、第2極性媒体ゲル形成工程、樹脂原料液含侵工程、及び複合体形成工程が実施される。これらの工程において、所望の形状の剛直高分子成形体の骨格を維持した状態で、剛直高分子成形体の内部(例えば、剛直高分子成形体を構成する剛直高分子の分子鎖間)に位置する物質が、順次置換されていく。例えば、所望の形状の剛直高分子成形体の骨格を維持した状態で、剛直高分子成形体の内部に位置する第1極性媒体が、第2極性媒体、樹脂原料液、及び樹脂原料が硬化した樹脂に、順次置換されていく。従って、本実施形態の製造方法によれば、所望の形状の剛直高分子成形体の骨格を維持した状態で、剛直高分子成形体と樹脂とを複合体化でき、所望の形状の複合体を容易に形成できる。
【0025】
ここで、親水性である剛直高分子分散液(例えば、セルロースナノファイバー分散液)に、疎水性である樹脂を、凝集することなく分散させることは難しい。本実施形態では、剛直高分子成形体を形成した後に、剛直高分子分散液に含有される第1極性媒体が、第2極性媒体、及び樹脂原料液の順に段階的に置換されていく。剛直高分子分散液に樹脂を分散させる必要がないため、樹脂を凝集させることなく、複合体を形成できる。
【0026】
また、仮に、第1極性媒体から樹脂原料液に直接置換された場合、第1極性媒体との親和性が低い樹脂原料液は、剛直高分子成形体の内部に浸透し難い。本実施形態では、第1極性媒体が、第2極性媒体、及び樹脂原料液の順に段階的に置換されていく。このため、剛直高分子成形体の内部に、第1極性媒体と親和性の高い第2極性媒体が容易に浸透し、次いで第2極性媒体と親和性の高い樹脂原料液が容易に浸透する。従って、本実施形態の製造方法によれば、剛直高分子成形体の内部にまで樹脂が凝集することなく十分に充填された複合体を形成できる。このような複合体は、曇りの少ないクリアな外観(透き通った外観)を有する。
【0027】
以上説明したように、本実施形態の製造方法によれば、所望の形状を有し、曇りの少ないクリアな外観を有する複合体を形成できる。これらの利点に加えて、本実施形態の製造方法によれば、以下の利点も更に得られる。
【0028】
本実施形態の製造方法により製造される複合体は、剛直高分子成形体を骨格として有する。このような複合体は、剛直な骨格を有するため、熱膨張し難い。
【0029】
更に、本実施形態の製造方法により製造される複合体においては、電極からの距離が遠くなる程、複合体の単位体積あたりの剛直高分子の含有量が徐々に減少する傾向がある。以下、「単位体積あたりの剛直高分子の含有量」を、「所定剛直高分子量」と記載することがある。また、「単位体積あたりの剛直高分子の含有量が徐々に減少する」ことを、「剛直高分子量傾斜を有する」と記載することがある。本実施形態によれば、剛直高分子量傾斜を有する複合体を、容易に形成できる。なお、剛直高分子量傾斜の詳細については、
図12を参照して後述する。
【0030】
以上、本実施形態の複合体の製造方法により得られる利点を説明した。
【0031】
なお、本実施形態の複合体の製造方法は、必要に応じて、第1電極及び第2電極の少なくとも一方の電極から複合体を分離する工程(以下、電極分離工程と記載することがある)を更に含んでいてもよい。
【0032】
以下、図面を参照しながら、本実施形態の複合体の製造方法を、更に詳細に説明する。図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0033】
まず、
図1を参照して、本実施形態の複合体1(
図11参照)を製造するための製造デバイス100を説明する。
図1は、本実施形態の複合体1の製造方法で使用される製造デバイス100を示す図である。
【0034】
図1に示すように、製造デバイス100は、容器110と、一対の電極120とを備える。容器110は、剛直高分子分散液LNを貯留する。一対の電極120は、第1電極122と、第2電極124とを含む。第1電極122は、支持部122aと、基台122bと、導電膜122cとを含む。基台122bは、絶縁性である。支持部122a及び導電膜122cは、導電性である。従って、第1電極122の一部が導電性である。例えば、基台122bは、立方体形状である。導電膜122cは、基台122bの表面を覆うように配置される。第1電極122は、立体構造である。導電膜122cは、例えば、スパッタで形成される。
【0035】
第1電極122及び第2電極124の少なくとも一部は、容器110内に配置される。第1電極122及び第2電極124は、剛直高分子分散液LN中に浸漬される。第1電極122と第2電極124との間に、直流電圧を所定時間印加する。印加により、第1電極122及び第2電極124のうちの少なくとも一方の電極の表面に、電極の表面の形状に応じて剛直高分子(
図1には図示せず)が堆積する。剛直高分子成形体Nmは、第1電極122及び第2電極124のうちの剛直高分子が堆積する表面の形状に沿って形成される。従って、第1電極122及び/又は第2電極124の形状に応じて剛直高分子成形体Nmが形成される。
【0036】
直流電圧の印加時に、第1電極122及び第2電極124の一方が陽極となり、第1電極122及び第2電極124の他方が陰極となる。第1極性媒体中で負に帯電する剛直高分子を使用する場合、直流電圧の印加により、陽極の表面に剛直高分子が堆積する。一方、第1極性媒体中で正に帯電する剛直高分子を使用する場合、上記直流電圧の印加により、陰極の表面に剛直高分子が堆積する。更に、第1極性媒体中で負に帯電する剛直高分子と、第1極性媒体中で正に帯電する剛直高分子とを併用する場合、直流電圧の印加により、陽極の表面に負に帯電する剛直高分子が堆積し、陰極の表面に正に帯電する剛直高分子が堆積する。
【0037】
次に、
図1に加えて、
図2~
図11を更に参照して、本実施形態の複合体1の製造方法の一例を説明する。
図2は、本実施形態の複合体1の製造方法を示すフローチャートである。
図3~
図10は、本発明の実施形態の複合体1の製造方法を説明するための図である。
図11は、本実施形態の製造方法で製造される複合体1を示す図である。
【0038】
以下、第1電極122に剛直高分子が堆積する場合を例に挙げて説明するが、第1電極122及び第2電極124の少なくとも一方の電極に剛直高分子が堆積すればよい。
【0039】
図2に示すように、ステップS102において、剛直高分子分散液LNに、電極120を浸漬させる。詳しくは、
図1に示すように、剛直高分子分散液LNを、製造デバイス100の容器110に注ぐ。剛直高分子分散液LNに、一対の電極120である第1電極122及び第2電極124を浸漬させる。
【0040】
ステップS104は、上記成形工程に相当する。ステップS104において、第1電極122と第2電極124との間に電圧を印加する。第1電極122と第2電極124との間に電圧が印加されると、剛直高分子分散液LNに含有される剛直高分子が、第1電極122に向かって電気泳動し、第1電極122に堆積する。そして、
図3に示すように、第1電極122(より具体的には、第1電極122の導電膜122cの表面)に、剛直高分子が堆積した剛直高分子成形体Nmが形成される。剛直高分子成形体Nmは、第1電極122の表面形状に応じて形成される。このようにして、剛直高分子分散液LNから、剛直高分子成形体Nmが形成される。
【0041】
ステップS106は、上記第1極性媒体ゲル形成工程に相当する。ステップS106において、第1電極122及び第2電極124への電圧の印加を終了する。電圧の印加が終了すると、剛直高分子成形体Nmを構成する剛直高分子の帯電状態が消失して、剛直高分子成形体Nmが第1極性媒体とともにゲル化する。その結果、
図4に示すように、第1電極122に、第1極性媒体ゲルN1が形成される。第1極性媒体ゲルN1は、剛直高分子成形体Nmと第1極性媒体とを含有する。
【0042】
ステップS108は、上記第2極性媒体ゲル形成工程に相当する。ステップS108において、
図5に示すように、容器110内の剛直高分子分散液LNを、第2極性媒体L2に入れ替える。第2極性媒体L2は、剛直高分子分散液LNに含有される第1極性媒体よりも、極性が低い。次いで、第1極性媒体ゲルN1を、第1電極122とともに、第2極性媒体L2に浸漬させる。第2極性媒体L2に浸漬させることで、第1極性媒体ゲルN1に含有される第1極性媒体が、第2極性媒体L2に置換される。本実施形態では、浸漬という簡便な方法で、第1極性媒体から第2極性媒体L2への置換が可能である。置換により、
図6に示すように、第1電極122に、第2極性媒体ゲルN2が形成される。第2極性媒体ゲルN2は、剛直高分子成形体Nmと第2極性媒体L2とを含有する。
【0043】
ステップS110は、上記樹脂原料液含侵工程に相当する。ステップS110において、
図7に示すように、容器110内の第2極性媒体L2を、樹脂原料液LRに入れ替える。樹脂原料液LRは、樹脂原料を含有する。次いで、第2極性媒体ゲルN2を、第1電極122とともに、樹脂原料液LRに浸漬させる。樹脂原料液LRに浸漬させることで、第2極性媒体ゲルN2に含有される第2極性媒体L2が、樹脂原料液LRに置換される。本実施形態では、浸漬という簡便な方法で、第2極性媒体L2から樹脂原料液LRへの置換が可能である。そして、第2極性媒体ゲルN2に含有される剛直高分子成形体Nmに、樹脂原料液LRが含侵する。その結果、
図8に示すように、第1電極122に、樹脂原料液含侵物NRが形成される。樹脂原料液含侵物NRは、剛直高分子成形体Nmと樹脂原料液LRとを含有する。
【0044】
ステップS112は、上記複合体形成工程に相当する。ステップS112において、樹脂原料液LRに含有される樹脂原料を硬化させる。樹脂原料液LRが紫外線硬化性樹脂(UV硬化性樹脂)の原料液である場合、
図9に示すように、樹脂原料液含侵物NRに、紫外線UVを照射する。紫外線UVの照射により、樹脂原料液含侵物NR中の樹脂原料が硬化して、
図10に示す複合体1が形成される。複合体1は、樹脂と剛直高分子成形体Nmとの複合体である。
【0045】
本実施形態の複合体1の製造方法では、必要に応じて、電極分離工程が更に実施されてもよい。電極分離工程において、第1電極122から複合体1を分離して、
図11に示す複合体1を得る。例えば、複合体1を第1電極122から引き剥がしてもよい。或いは、第1電極122の少なくとも一部を溶解させてもよい。一例において、加熱によって基台122bを溶解させ、有機溶媒に導電膜122cを溶解させてもよい。別の例において、第2極性媒体ゲル形成工程において、第2極性媒体L2に、基台122b及び導電膜122cを溶解させてもよい。更に別の例において、成形工程において、剛直高分子の堆積とともに導電膜122cをイオン化させて、剛直高分子分散液LNに導電膜122cを溶解させてもよい。
【0046】
上記で説明したように、説明した製造方法によれば、第1電極122の表面形状に応じた複合体1を製造できる。なお、上記の各工程について、各工程が段階的に実施されてもよいし、明確に区別されることなく徐々に次工程に移行してもよいし、複数の工程が同時に実施されてもよい。例えば、成形工程において、剛直高分子の堆積とともに、剛直高分子成形体Nmと第1極性媒体とのゲル化が進行してもよい。また、剛直高分子分散液LNを、第2極性媒体L2に少しずつ入れ替えてもよい。また、第2極性媒体L2を、樹脂原料液LRに少しずつ入れ替えてもよい。次に、本実施形態の複合体1の製造方法で説明した各要素について、更に説明する。
【0047】
[容器110]
容器110は、剛直高分子分散液LNを貯留する。例えば、容器110は、ビーカーである。
【0048】
[電極120]
一対の電極120である第1電極122及び第2電極124は、例えば、導電性材料からなる電極である。導電性材料としては、例えば、炭素、金、白金、銀、銅、鉄、ニッケル、スズドープ酸化インジウム(ITO)、及びアンチモンドープ酸化スズ(ATO)が挙げられる。第1電極122及び第2電極124は、互いに同種の導電性材料からなる電極であってもよく、互いに異なる種類の導電性材料からなる電極であってもよい。第1電極122及び第2電極124の一方が炭素電極であり、他方が銅電極であることが好ましい。
【0049】
電極120が有する支持部122a及び導電膜122cは、導電性材料で構成される。電極120が有する基台122bは、絶縁性材料で構成される。絶縁性材料としては、例えば蝋が挙げられ、より具体的にはパラフィンワックスが挙げられる。
【0050】
第1電極122と第2電極124との間の距離は、形成される複合体1の大きさに合わせて適宜選択される。第1電極122と第2電極124との間の距離は、0.1mm以上5000mm以下であってもよく、1mm以上500mm以下であってもよく、10mm以上50mm以下であってもよい。
【0051】
第1電極122及び第2電極124における剛直高分子分散液LNに浸漬した箇所の長さは、形成される複合体1の大きさに合わせて適宜選択される。10mm以上1000mm以下であってもよく、10mm以上500mm以下であってもよく、10mm以上100mm以下であってもよい。
【0052】
第1電極122と第2電極124との間に印加する直流電圧は、形成される複合体1の大きさに合わせて適宜選択される。製造コストをより低減しつつ、剛直高分子をより高濃度で含む剛直高分子成形体Nmを得るためには、第1電極122と第2電極124との間に印加する直流電圧は、0.1V以上100000V以下であってもよく、0.1V以上10000V以下であってもよく、0.1V以上1000V以下であってもよく、0.1V以上100V以下であってもよい。例えば、第1電極122と第2電極124との間に0.1V以上100000V以下の直流電圧を印加する場合、第1電極122と第2電極124との間の直流電流値は、例えば、0.001A以上200A以下である。
【0053】
第1電極122と第2電極124との間に直流電圧を印加する時間(印加時間)は、形成される複合体1の大きさに応じて適宜設定される。剛直高分子をより高濃度で含む剛直高分子成形体Nmを得るためには、直流電圧の印加時間は、1分以上であってもよく、5分以上であってもよく、1時間以上であってもよい。また、製造コストをより低減するためには、直流電圧の印加時間は、48時間以下であってもよく、24時間以下であってもよい。
【0054】
[剛直高分子分散液LN]
剛直高分子分散液LNは、剛直高分子が第1極性媒体に分散した分散液である。剛直高分子分散液LNは、例えば、懸濁液である。剛直高分子の含有率は、剛直高分子分散液LNの重量に対して、0.01重量%以上5重量%以下であることが好ましい。剛直高分子分散液LNの電気伝導度は、0.80mS/m以上35.00mS/m以下であることが好ましい。剛直高分子分散液LNとして、市販品を使用してもよい。或いは、剛直高分子と第1極性媒体とを混合することにより、剛直高分子分散液LNを調製してもよい。以下、剛直高分子分散液LNに含有される剛直高分子と第1極性媒体とについて説明する。
【0055】
<剛直高分子>
剛直高分子は、剛直な主鎖構造を有する高分子である。第1極性媒体に好適に分散させるために、剛直高分子は、極性基を有することが好ましい。剛直高分子が有する極性基としては、例えば、カルボキシ基、水酸基、メトキシ基、リン酸基、スルホ基、アミノ基、及びアミド基(即ち-NHCO-)が挙げられる。
【0056】
剛直高分子は、例えば、ナノファイバーである。但し、剛直高分子は、ナノファイバーでなくてもよい。ナノファイバーは、繊維径がナノオーダーの繊維状物質である。ナノファイバーの平均繊維径(直径)は、1nm以上500nm以下である。ナノファイバーの平均繊維径は、1nm以上400nm以下であってもよく、1nm以上350nm以下であってもよい。ナノファイバーの長さは、例えば、繊維径の50倍以上であってもよく、100倍以上であってもよい。
【0057】
剛直高分子としては、例えば、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、及びキトサンナノファイバー、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0058】
例えば、セルロースナノファイバーは、木材チップを漂白及び解繊してパルプ繊維を形成した後、更に、解繊することによって生成できる。セルロースナノファイバーの原料としては、例えば、針葉樹さらしクラフトパルプ、広葉樹パルプ、綿パルプ(より具体的には、コットンリンター等)、麦わらパルプ、及びバガスパルプが挙げられる。
【0059】
セルロースナノファイバーは、誘導体化されていてもよい。誘導体化セルロースナノファイバーとしては、例えば、TEMPO酸化(即ち2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカル触媒酸化)セルロースナノファイバー、及びカルボキシメチルセルロースナノファイバーが挙げられる。
【0060】
セルロースナノファイバーは、水酸基を少なくとも有する。また、TEMPO酸化セルロースナノファイバーは、水酸基及びカルボキシ基を有する。カルボキシメチルセルロースナノファイバーは、水酸基及びメトキシ基を有する。剛直高分子としてセルロースナノファイバー(より具体的には、非誘導体化セルロースナノファイバー、TEMPO酸化セルロースナノファイバー、及びカルボキシメチルセルロースナノファイバー)を使用する場合、セルロースナノファイバーは、陽極(
図1に示す例では第1電極122)に堆積する。
【0061】
キチンナノファイバーは、アミド基を有する。キトサンナノファイバーは、アミノ基を有する。剛直高分子としてキチンナノファイバー又はキトサンナノファイバーを使用する場合、キチンナノファイバー又はキトサンナノファイバーは、陰極(
図1に示す例では第2電極124)に堆積する。
【0062】
剛直高分子として、剛直な主鎖構造を有する多糖類が使用されてもよい。このような剛直高分子として、例えば、アルギン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、カラギーナン、及びキサンタンガムが挙げられる。これらの剛直高分子を使用する場合、これらの剛直高分子は、陽極(
図1に示す例では第1電極122)に堆積する。なお、剛直高分子が天然由来のバイオナノファイバーである場合、ナノファイバー成形体は、環境負荷を軽減できる。
【0063】
<第1極性媒体>
第1極性媒体は、第2極性媒体L2よりも、極性が高い。本明細書において、極性の高低は、Rohrschneiderの極性パラメータに基づいて、判断される。以下、「Rohrschneiderの極性パラメータ」を、単に「極性パラメータ」と記載することがある。極性パラメータが大きい程、極性が高い。第1極性媒体の極性パラメータは、6.0以上であってもよく、10.0以上であってもよい。第1極性媒体の極性パラメータは、その上限は特に限定されないが、例えば、15.0以下である。
【0064】
第1極性媒体は、例えば、水(極性パラメータ:10.2)、高極性有機溶媒、又は、これらの混合液である。高極性有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(極性パラメータ:7.2)、エチレングリコール(極性パラメータ:6.9)、ジメチルホルムアミド(極性パラメータ:6.4)、及び酢酸(極性パラメータ:6.0)、並びにこれらの混合液が挙げられる。第1極性媒体は、分散させる剛直高分子の種類に応じて、適宜選択される。製造コストをより低減しつつ、剛直高分子をより高濃度で含む剛直高分子分散液LNを得るために、第1極性媒体としては、水が好ましく、蒸留水がより好ましい。
【0065】
[剛直高分子成形体Nm]
剛直高分子成形体Nmは、電極120(
図3に示す例では第1電極122)の表面形状に応じた形状を有する。剛直高分子成形体Nmは、剛直高分子(より具体的には、多数の剛直高分子の分子鎖)により構成される。
【0066】
剛直高分子成形体Nmにおいて、剛直高分子は、第1電極122の表面に対して、平行方向に配向(水平配向)してもよく、ランダムに配向してもよく、垂直方向に配向してもよい。剛直性高分子を含む剛直高分子分散液LNを流動させると、流れ方向に剛直高分子が配向し、液晶性を示す。この性質を利用し、剛直高分子成形体Nmの配向方向は、例えば、剛直高分子を堆積する際の電極付近の電界強度により制御できる。剛直高分子分散液LN内の第1電極122に比較的低い電界強度(例えば、0.01V/cm以上1V/cm以下の電界強度)の電圧を印加することにより、第1電極122の表面と平行に剛直高分子が配向した剛直高分子成形体Nmを形成できる。
【0067】
剛直高分子成形体Nmの一部は、第1電極122と接触している。このため、剛直高分子成形体Nmは、第1電極122に由来する導電性材料を含有していてもよい。剛直高分子成形体Nmが第1電極122に由来する導電性材料を含有すれば、形成される複合体1の強度が更に向上する。
【0068】
[第1極性媒体ゲルN1]
第1極性媒体ゲルN1は、剛直高分子成形体Nmと第1極性媒体とを含有する。好適には、第1極性媒体ゲルN1において、剛直高分子成形体Nmを構成する剛直高分子の分子鎖間に、第1極性媒体が含侵されている。例えば、剛直高分子分散液LNに含有される第1極性媒体が水である場合、第1極性媒体ゲルN1は、ハイドロゲルである。
【0069】
[第2極性媒体L2]
第2極性媒体L2は、第1極性媒体よりも、極性が低い。第2極性媒体L2の極性パラメータは、第1極性媒体の極性パラメータよりも、小さい。第2極性媒体L2の極性パラメータは、6.0未満であってもよく、5.5以下であってもよく、4.5以下であってもよい。第2極性媒体L2の極性パラメータは、その下限は特に限定されないが、例えば0.0以上である。第2極性媒体L2は、置換する樹脂原料液LRの種類に応じて、適宜選択される。
【0070】
第2極性媒体L2としては、例えば、有機溶媒が挙げられる。第2極性媒体L2としては、具体的には、アセトニトリル(極性パラメータ:5.8)、メタノール(極性パラメータ:5.1)、アセトン(極性パラメータ:5.1)、ジオキサン(極性パラメータ:4.8)、エタノール(極性パラメータ:4.3)、2-プロパノール(極性パラメータ:3.9)、トルエン(極性パラメータ:2.4)、及びヘキサン(極性パラメータ:0.1)、並びにこれらの混合液が挙げられる。第1極性媒体から第2極性媒体L2への置換を好適に進行させ、且つ第2極性媒体L2から樹脂原料液LRへの置換を好適に進行させるために、第2極性媒体L2としては、有機溶媒が好ましく、アセトン、エタノール、トルエン、又はヘキサンがより好ましい。
【0071】
製造コストをより低減するために、第2極性媒体L2は、エタノールであることが好ましい。また、製造工程の簡素化を図るために、第2極性媒体L2は、ヘキサンであることが好ましい。ヘキサンは、基台122b(例えば、パラフィンワックス製の基台122b)及び導電膜122c(例えば、銅製の導電膜122c)を溶解可能である。第2極性媒体L2としてヘキサンを使用すれば、第2極性媒体ゲル形成工程で第2極性媒体L2に第1極性媒体ゲルN1を浸漬させている間に、基台122b及び導電膜122cを溶解できる。従って、第2極性媒体ゲル形成工程で電極分離工程を兼ねることができ、製造工程の簡素化を図ることができる。
【0072】
第2極性媒体L2への第1極性媒体ゲルN1の浸漬は、1回だけ実施されてもよく、2回以上実施されてもよい。浸漬が2回以上実施される場合、基準回(例えば第1回目)の浸漬における第2極性媒体L2と、基準回の次の回(例えば第2回目)の浸漬における第2極性媒体L2とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0073】
第1極性媒体から第2極性媒体L2への置換を十分に行うためには、基準回で浸漬される第2極性媒体L2と、基準回の次の回で浸漬される第2極性媒体L2とは、同一であることが好ましい。例えば、第1極性媒体ゲルN1を、第1回目でエタノールに浸漬させ、第2回目で新たなエタノールに浸漬させてもよい。
【0074】
第1極性媒体から第2極性媒体L2への置換を好適に進行させ、且つ第2極性媒体L2から樹脂原料液LRへの置換を好適に進行させるためには、基準回の次の回で浸漬される第2極性媒体L2の極性は、基準回で浸漬される第2極性媒体L2極性よりも、低いことが好ましい。同じ理由から、第2極性媒体L2への第1極性媒体ゲルN1の浸漬の回数を重ねるごとに、浸漬させる第2極性媒体L2の極性を段階的に低くすることが好ましい。例えば、第1極性媒体ゲルN1を、第1回目でエタノールに浸漬させ、第2回目でヘキサンに浸漬させてもよい。
【0075】
第2極性媒体ゲル形成工程において、第1極性媒体ゲルN1を第2極性媒体L2に浸漬させる時間(第2極性媒体L2浸漬時間)は、形成される複合体1の大きさに応じて適宜設定される。第2極性媒体L2への置換を十分に進行させるためには、第2極性媒体L2浸漬時間は、1分以上であってもよく、5分以上であってもよく、1時間以上であってもよい。また、製造コストをより低減するためには、第2極性媒体L2浸漬時間は、48時間以下であってもよく、24時間以下であってもよい。第2極性媒体L2への第1極性媒体ゲルN1の浸漬は、常圧下(非減圧下)で実施されてもよく、減圧下で実施されてもよい。
【0076】
[第2極性媒体ゲルN2]
第2極性媒体ゲルN2は、剛直高分子成形体Nmと第2極性媒体L2とを含有する。好適には、第2極性媒体ゲルN2において、剛直高分子成形体Nmを構成する剛直高分子の分子鎖間に、第2極性媒体L2が含侵されている。例えば、第2極性媒体L2がエタノールである場合、第2極性媒体ゲルN2は、エタノールゲルである。例えば、第2極性媒体L2がヘキサンである場合、第2極性媒体ゲルN2は、ヘキサンゲルである。
【0077】
[樹脂原料液LR]
樹脂原料液LRは、樹脂原料を含有する。樹脂原料としては、例えば、樹脂、樹脂を形成するためのモノマー、及び樹脂を形成するためのプレポリマー、並びにこれらの混合物が挙げられる。樹脂原料には、硬化剤及び重合開始剤の一方又は両方が更に含有されていてもよい。樹脂原料液LRは、液状の樹脂原料であってもよい。また、樹脂原料液LRは、樹脂原料が溶媒に溶解した溶液であってもよい。また、樹脂原料液LRは、樹脂原料が分散媒に分散した分散液であってもよい。樹脂原料液LRとして、市販品を使用してもよい。
【0078】
樹脂原料から形成される樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びポリエステル樹脂が挙げられる。所望の形状を有し、曇りの少ないクリアな外観を有する複合体1を形成するために、樹脂原料から形成される樹脂としては、アクリル樹脂又はポリエステル樹脂が好ましい。
【0079】
樹脂原料から形成される樹脂としては、例えば、紫外線硬化性樹脂、二液硬化性樹脂、水硬化性樹脂、及び熱硬化性樹脂が挙げられる。複合体形成工程における硬化方法は、樹脂原料から形成される樹脂の種類に応じて、適宜選択される。例えば、樹脂原料から形成される樹脂が紫外線硬化性樹脂である場合、紫外線UVの照射により樹脂原料を硬化する。樹脂原料から形成される樹脂が二液硬化性樹脂である場合、二液の混合により樹脂原料を硬化する。樹脂原料から形成される樹脂が水硬化性樹脂である場合、水添加により樹脂原料を硬化する。樹脂原料から形成される樹脂が熱硬化性樹脂である場合、加熱により樹脂原料を硬化する。本実施形態の製造方法は、加熱加圧成形が必要ないため、熱硬化性樹脂以外の樹脂も使用可能となる。
【0080】
樹脂原料液LRへの第2極性媒体ゲルN2の浸漬は、1回だけ実施されてもよく、2回以上実施されてもよい。浸漬が2回以上実施される場合、基準回の浸漬における樹脂原料液LRと、基準回の次の回の浸漬における樹脂原料液LRとは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0081】
樹脂原料液含侵工程において、第2極性媒体ゲルN2を樹脂原料液LRに浸漬させる時間(樹脂原料液LR浸漬時間)は、形成される複合体1の大きさに応じて適宜設定される。樹脂原料液LRへの置換を十分に進行させるためには、樹脂原料液LR浸漬時間は、1分以上であってもよく、5分以上であってもよく、1時間以上であってもよい。また、製造コストをより低減するためには、樹脂原料液LR浸漬時間は、48時間以下であってもよく、24時間以下であってもよい。樹脂原料液LRへの第2極性媒体ゲルN2の浸漬は、常圧下(非減圧下)で実施されてもよく、減圧下で実施されてもよい。
【0082】
[樹脂原料液含侵物NR]
樹脂原料液含侵物NRは、剛直高分子成形体Nmと樹脂原料液LRとを含有する。好適には、樹脂原料液含侵物NRにおいて、剛直高分子成形体Nmを構成する剛直高分子の分子鎖間に、樹脂原料液LRが含侵されている。
【0083】
[複合体1]
複合体1は、樹脂と剛直高分子成形体Nmとの複合体である。複合体1において、剛直高分子の成形後の剛直高分子成形体Nmが、樹脂と複合体化されている。好適には、複合体1において、剛直高分子成形体Nmを構成する剛直高分子の分子鎖間に、樹脂が配置(充填)されている。
【0084】
以下、
図10及び
図11に加えて、
図12を更に参照して、本実施形態の製造方法により製造される複合体1を説明する。
図12は、
図11に示す領域XIIの拡大図である。
【0085】
複合体1は、主面(以下、第1主面と記載することがある)1aと、第2主面1bと、第1領域10と、第2領域20とを有する。
【0086】
複合体1の第1主面1aは、複合体1を製造する過程(例えば、成形工程、第1極性媒体ゲル形成工程、第2極性媒体ゲル形成工程、樹脂原料液含侵工程、及び複合体形成工程の少なくとも1つの工程)において、第1電極122及び第2電極124の少なくとも一方の電極(
図10に示す例では、第1電極122)と接触していた面である。以下、「第1電極122及び第2電極124の少なくとも一方の電極に接触していた面」を、「電極接触面」と記載することがある。第1主面1aは、電極接触面に相当する。
【0087】
第2主面1bは、第1主面1aと対向している。剛直高分子成形体Nmは、立体形状の第1電極122の上に剛直高分子が堆積することによって形成されるため、第1主面1a及び第2主面1bは、第1電極122の凸部及び凹部を含む立体形状に対応する形状を有しており、第1主面1a及び第2主面1bとの間の最短距離は略一定である。
【0088】
第1領域10は、複合体1を製造する過程(例えば、成形工程、第1極性媒体ゲル形成工程、第2極性媒体ゲル形成工程、樹脂原料液含侵工程、及び複合体形成工程の少なくとも1つの工程)において、第1電極122及び第2電極124の少なくとも一方の電極(
図10に示す例では、第1電極122)に隣接していた領域(例えば、接触していた領域)である。即ち、第1領域10は、電極接触面である第1主面1aを含む。例えば、第1領域10は、第1主面1aから第2主面1bに向かう所定方向D1(複合体1の厚さ方向に相当)における第1主面1aからの距離が0.2mm未満の領域である。
【0089】
第2領域20は、第1領域10よりも、第1電極122及び第2電極124の少なくとも一方の電極(
図10に示す例では、第1電極122)から離隔した領域である。即ち、第2領域20は、第1領域10よりも、電極接触面である第1主面1aから離隔した領域である。第2領域20は、第2主面1bを含む。例えば、第2領域20は、所定方向D1において電極接触面である第1主面1aから0.2mm以上離隔した領域であってもよく、0.4mm以上離隔した領域であってもよく、0.6mm以上離隔した領域であってもよく、0.8mm以上離隔した領域であってもよい。
【0090】
第2領域20は、例えば、第2-1領域21、第2-2領域22、第2-3領域23、及び第2-4領域24に区分される。第2-1領域21、第2-2領域22、第2-3領域23、及び第2-4領域24は、各々、所定方向D1に第2領域20を4等分した領域である。第2-1領域21、第2-2領域22、第2-3領域23、及び第2-4領域24は、所定方向D1に記載された順に配置されている。
【0091】
第1領域10の所定剛直高分子量は、第2領域20の所定剛直高分子量よりも多い。更に、所定方向D1に向かうにつれて、複合体1の所定剛直高分子量は、徐々に減少していく。即ち、既に述べたように、複合体1は、剛直高分子量傾斜を有する。具体的には、第1領域10の所定剛直高分子量は、第2-1領域21の所定剛直高分子量よりも多い。第2-1領域21の所定剛直高分子量は、第2-2領域22の所定剛直高分子量よりも多い。第2-2領域22の所定剛直高分子量は、第2-3領域23の所定剛直高分子量よりも多い。第2-3領域23の所定剛直高分子量は、第2-4領域24の所定剛直高分子量よりも多い。
【0092】
本実施形態の複合体1の製造方法において、例えば、電極に剛直高分子を堆積させる成形工程の実施により、剛直高分子量傾斜がもたらされる。このため、本実施形態の複合体1の製造方法は、剛直高分子量傾斜を有する複合体1の製造に適している。本実施形態の複合体1の製造方法によれば、剛直高分子量傾斜を有する複合体1を容易に形成できる。
【0093】
逆に、第1領域10の単位体積あたりの樹脂の含有量は、第2領域20の単位体積あたりの樹脂の含有量よりも少ない。更に、所定方向D1に向かうにつれて、複合体1の単位体積あたりの樹脂の含有量は、徐々に増加していく。
【0094】
複合体1の全体の所定剛直高分子量の平均値に対する、第1領域10の所定剛直高分子量の比率は、1.5以上であってもよく、1.5以上5.0以下であってもよい。複合体1全体の所定剛直高分子量の平均値に対する、第2領域20の所定剛直高分子量の比率は、1.5未満であってもよく、0.1以上1.5未満であってもよく、0.1以上1.4以下であってもよく、0.1以上1.2以下であってもよく、0.1以上0.8以下であってもよく、0.1以上0.5以下であってもよい。第1領域10の所定剛直高分子量は、22.0μg/mm3以上50.0μg/mm3以下であってもよい。第2領域20の所定剛直高分子量は、0.1μg/mm3以上22.0μg/mm3未満であってもよい。複合体1の全体の所定剛直高分子量の平均値は、0.1μg/mm3以上50.0μg/mm3以下であってもよく、10.0μg/mm3以上30.0μg/mm3以下であってもよい。
【0095】
なお、所望の形状の剛直高分子成形体Nmの骨格を維持した状態で、第1極性媒体が、第2極性媒体L2、樹脂原料液LR、及び樹脂原料が硬化した樹脂に、順次置換されていく。このため、第1極性媒体ゲルN1の所定剛直高分子量は、複合体1の所定剛直高分子量と略同一である。従って、第1極性媒体ゲルN1の所定剛直高分子量に関する説明は、複合体1の所定剛直高分子量に関する上記説明を援用する。
【0096】
なお、複合体1は、第1主面1aと第2主面1bとを接続する2つの側面を更に有していてもよい。但し、第1主面1aと第2主面1bとが、直接接続されていてもよい。
【0097】
複合体1のヘーズ値は、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、5%以下であることが一層好ましい。複合体1のヘーズ値は、その下限は特に限定されないが、例えば0%以上である。複合体1のヘーズ値が小さい程、曇りの少ないクリアな外観を複合体1が有している。本実施形態の製造方法によれば、曇りの少ないクリアな外観の複合体1を形成できる。ヘーズ値は、直線透過率に対する拡散透過率の比である。ヘーズ値は、例えば、JIS(日本産業規格)K7136:2000(プラスチック-透明材料のヘーズの求め方)に準拠した方法で測定できる。
【0098】
複合体1の線熱膨張係数は、65ppm/℃以下であることが好ましく、60ppm/℃以下であることがより好ましい。複合体1の線熱膨張係数は、その下限は特に限定されないが、例えば30ppm/℃以上である。複合体1の線熱膨張係数が小さい程、熱によって複合体1が膨張し難いことを示す。本実施形態の製造方法によれば、熱膨張し難い複合体1を形成できる。熱膨張係数は、例えば、熱機械分析装置を用いて測定できる。
【0099】
剛直高分子の含有率は、複合体1の重量に対して、0.01重量%以上50重量%以下であってもよく、0.1重量%以上10重量%以下であってもよい。本実施形態の製造方法によれば、複合体1の重量に対する剛直高分子の含有率が高い場合でも、樹脂の凝集を抑制でき、曇りの少ないクリアな外観を有する複合体1を形成できる。
【0100】
[電極のバリエーション]
上記で説明した第1電極122は、その一部が導電性であり、立方体形状を有していたが、本実施形態はこれに限定されない。第1電極122の全体が、導電性であってもよい。また、第1電極122は、立方体形状以外の任意の形状の立体構造であってもよいし、立体構造でなくてもよい。
【0101】
以下、
図13~
図16を参照して、別の態様の電極120Eを使用した本実施形態の複合体1Eの製造方法を説明する。
図13は、本実施形態の複合体1Eの製造方法で使用される製造デバイス100Eを示す図である。
図14は、成形工程で得られる第1極性媒体ゲルN1Eを一方向から撮影した写真である。
図15は、成形工程で得られる第1極性媒体ゲルN1Eを別方向から撮影した写真である。
図16は、本実施形態の製造方法で製造される複合体1Eを示す図である。
【0102】
図13の製造デバイス100Eは、電極120の配置及び形状が異なる点、及び第1電極122Eの全体が導電性である点を除いて、
図1の製造デバイス100と同様の構成を有している。冗長を避ける目的で、重複する説明は省略する。
【0103】
図13に示すように、電極120Eは、第1電極122Eと、第2電極124とを含む。第1電極122Eは平板状であり、第1電極122Eの全体が導電性である。例えば、第1電極122Eは、導電板である。
【0104】
ステップS102において、第1電極122E及び第2電極124は、剛直高分子分散液LN中に浸漬される。第1電極122Eは、容器110の底に配置されており、第2電極124は、剛直高分子分散液LNの上面付近に配置される。
【0105】
第1電極122Eは容器110の底に配置されているため、ステップS104において、第1電極122Eと第2電極124との間に電圧が印加されると、剛直高分子分散液LNに含有される剛直高分子が、第1電極122Eの上面122Esに堆積する。そして、第1電極122Eの表面形状に応じて、第1電極122Eの上面122Esに、平板状の剛直高分子成形体Nm(
図13では不図示)が形成される。
【0106】
ステップS106において、電圧の印加が終了すると、
図14及び
図15に示すように、第1電極122Eの上面122Esに、第1極性媒体ゲルN1Eが形成される。第1極性媒体ゲルN1Eは、剛直高分子成形体Nmと第1極性媒体とを含有する。第1極性媒体ゲルN1Eは、電極接触面である第1主面N1aと、これに対向する第2主面N1bとを有する。第1極性媒体ゲルN1Eは、平板状である。
【0107】
第1極性媒体ゲルN1Eは、第1主面N1a及び第2主面N1bに加えて、複合体1Eの第1領域10(
図16参照)に対応する領域、及び複合体1Eの第2領域20(
図16参照)に対応する領域を更に有する。以下、「第1極性媒体ゲルN1Eの重量に対する剛直高分子の含有率」を、「剛直高分子濃度」と記載することがある。第1極性媒体ゲルN1Eにおいて、第1領域10に対応する領域の剛直高分子濃度は、第2領域20に対応する領域の剛直高分子濃度よりも高い。更に、第1極性媒体ゲルN1Eにおいて、第1領域10に対応する領域の剛直高分子濃度が最も高く、第1主面N1aから第2主面N1bに向かうにつれて、第1極性媒体ゲルN1Eの剛直高分子濃度は、徐々に低下していく。
【0108】
次に、ステップS108及びステップS110を経て、ステップS112において、
図16に示すように、第1電極122Eの上面122Esに、複合体1Eが形成される。複合体1Eは、樹脂と剛直高分子成形体Nmとの複合体である。複合体1Eは、第1主面1aと、第2主面1bと、第1領域10と、第2領域20とを有する。
【0109】
電極120Eを使用した本実施形態の製造方法によれば、第1電極122Eの表面形状に応じた平板状の複合体1を製造できる。
【0110】
更に別の態様の電極としては、後述の
図27で示す歯形形状の電極が挙げられる。歯形形状の電極を使用すれば、電極の表面形状に応じた歯形形状の複合体1を製造できる。歯形形状の複合体1は、歯科矯正用マウスピース等の医療器具として利用できる。複合体1で構成されるマウスピースは、剛直高分子が補強材として働くため、樹脂のみで構成されるマウスピースと比較して、高い強度を有する。
【0111】
電気泳動により剛直高分子が堆積して成形されるため、加熱及び加圧を行うことなく成形可能である。従って、本実施形態の製造方法によれば、加熱及び加圧により成形する場合と比較して、複雑な形状を有する複合体1を形成できる。
【0112】
更に別の態様の電極としては、大型の電極が挙げられる。大型の電極を使用すれば、電極の表面形状に応じた大型の複合体1を容易に形成できる。複合体1は、軽量且つ高強度といった利点も有するため、このような複合体1は、繊維強化プラスチック代替物等の工業製品として利用できる。
【実施例0113】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例の範囲に何ら限定されるものではない。以下、剛直高分子としてセルロースナノファイバー(CNF)を使用する場合の「所定剛直高分子量」を、「所定CNF量」と記載することがある。また、剛直高分子としてセルロースナノファイバーを使用する場合に「剛直高分子量傾斜を有する」ことを、「CNF量傾斜を有する」と記載することがある。また、「ハイドロゲルの重量に対するセルロースナノファイバーの含有率」を、「CNF濃度」と記載することがある。
【0114】
実施例の複合体(A-1)~(A-4)、及び比較例の複合体(B-1)を、以下に示す方法で作製した。
【0115】
[複合体(A-1)の作製]
<セルロースナノファイバー分散液の調製>
まず、1000重量部の水と2重量部のセルロースナノファイバーとを混合して、セルロースナノファイバー分散液を調製した。セルロースナノファイバーとして、TEMPO酸化セルロースナノファイバーを使用した。セルロースナノファイバーの平均繊維径は3nmであり、平均長さは300nmであった。
【0116】
<セルロースナノファイバー成形体の形成>
図13に示すように、平板状の銅電極を陽極とし、炭素電極を陰極として、製造デバイスにセッティングした。陽極と陰極との間の距離は、35mmであった。
【0117】
次に、容器に、100mLのセルロースナノファイバー分散液を入れ、セルロースナノファイバー分散液に陽極及び陰極を浸漬させた。陽極と陰極との間に電圧1Vを5時間印加した。電圧を印加する際、陽極近傍の電界強度は、0.25V/cmであった。電圧の印加により、陽極である銅板の表面にセルロースナノファイバーが堆積して、セルロースナノファイバー成形体が形成された。
【0118】
電圧の印加を停止すると、セルロースナノファイバー成形体が水とともにゲル化して、ハイドロゲルが形成された。ハイドロゲルは、セルロースナノファイバー成形体及び水から構成されていた。
【0119】
ハイドロゲルの厚さは、1mmであった。ハイドロゲル全体のCNF濃度の平均値は、1.5重量%であった。ハイドロゲルの断面を切断したところ、陽極の表面に平行にセルロースナノファイバーが配向(水平配向)していることを確認した。
【0120】
<第2極性媒体への置換>
容器内のセルロースナノファイバー分散液を、100mLのエタノールに入れ替えた。エタノールに、陽極、及び陽極の表面に形成されたハイドロゲルを、12時間浸漬させた。浸漬によってハイドロゲルに含有される水をエタノールに置換し、エタノールゲルを得た。エタノールゲルは、セルロースナノファイバー成形体及びエタノールから構成されていた。エタノールゲルの厚さは、1mmであった。
【0121】
<樹脂原料液の調製>
1000重量部の1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(モノマー)と、5重量部の1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(紫外線感応型ラジカル開始剤)とを混合して、樹脂原料液(R1)を得た。
【0122】
<樹脂原料液への置換>
容器内のエタノールを、100mLの樹脂原料液(R1)に入れ替えた。樹脂原料液(R1)に、陽極、及び陽極の表面に形成されたエタノールゲルを浸漬させた。浸漬させた状態で、減圧下で12時間静置し、エタノールゲルに含有されるエタノールを、樹脂原料液(R1)に置換した。このようにして、セルロースナノファイバー成形体内に、樹脂原料液(R1)を含侵させ、樹脂原料液含侵物を得た。樹脂原料液含侵物は、セルロースナノファイバー成形体及び樹脂原料液(R1)から構成されていた。
【0123】
<樹脂原料の硬化>
容器から、陽極とともに、樹脂原料液含侵物を取り出した。ガラス板で挟んだ状態で、樹脂原料液含侵物に、36WのUVライトを5時間照射した。UVライトの照射により、樹脂原料液(R1)中のモノマーを重合させて硬化させ、複合体(A-1)を得た。陽極から、得られた複合体(A-1)を剥がした。
【0124】
複合体(A-1)は、モノマーが重合したUV硬化性のアクリル樹脂と、セルロースナノファイバー成形体との複合体であった。複合体(A-1)は、厚さ1mmの平板状であった。
【0125】
[複合体(A-2)の作製]
樹脂原料液(R1)の代わりに、樹脂原料液(R2)を使用したこと以外は、複合体(A-1)の作製と同様の方法で、複合体(A-2)を作製した。樹脂原料液(R2)として、UVレジン液(Dongguan Dayi New Material社製「Teexpert」、成分:UV硬化性のアクリルプレポリマー)を使用した。複合体(A-2)は、UV硬化性のアクリル樹脂と、セルロースナノファイバー成形体との複合体であった。複合体(A-2)は、厚さ1mmの平板状であった。
【0126】
[複合体(A-3)の作製]
複合体(A-3)の作製においては、樹脂原料液(R1)の代わりに、樹脂原料液(R3)を使用した。詳しくは、上記<樹脂原料液の調製>、<樹脂原料液への置換>、及び<樹脂原料の硬化>を、以下に示す通りに変更したこと以外は、複合体(A-1)の作製と同様の方法で、複合体(A-3)を作製した。
【0127】
<樹脂原料液の調製>
容器内のエタノールを、樹脂原料液(R3)に入れ替えた。樹脂原料液(R3)として、二液硬化性の樹脂原料液(PROST株式会社製「FRP透明注型用樹脂」、第1液:ポリエステル樹脂液、第2液:硬化剤含有液)を使用した。具体的には、100重量部の第1液(ポリエステル樹脂液)と、1重量部の第2液(硬化剤含有液)とを混合し、得られた混合液を、樹脂原料液(R3)として使用した。
【0128】
<樹脂原料液への置換>
樹脂原料液(R3)に、陽極、及び陽極の表面に形成されたエタノールゲルを浸漬させた。浸漬させた状態で、減圧下で1時間静置し、エタノールゲルに含有されるエタノールを、樹脂原料液(R3)に置換した。このようにして、セルロースナノファイバー成形体内に、樹脂原料液(R1)を含侵させ、樹脂原料液含侵物を得た。樹脂原料液含侵物は、セルロースナノファイバー成形体及び樹脂原料液(R3)から構成されていた。
【0129】
<樹脂原料の硬化>
容器から、陽極とともに、樹脂原料液含侵物を取り出した。ガラス板で挟んだ状態で、樹脂原料液含侵物を12時間静置した。静置している間に、添加した第2液中の硬化剤により、第1液中のポリエステル樹脂が硬化し、複合体(A-3)を得た。陽極から、得られた複合体(A-3)を剥がした。
【0130】
複合体(A-3)は、二液硬化性のポリエステル樹脂と、セルロースナノファイバー成形体との複合体であった。複合体(A-3)は、厚さ1mmの平板状であった。
【0131】
[複合体(A-4)の作製]
複合体(A-4)の作製においては、上記<第2極性媒体への置換>において、二段階置換(より具体的には、エタノールへ置換後、ヘキサンへ置換)を実施した。詳しくは、上記<第2極性媒体への置換>を以下に示す通りに変更したこと以外は、複合体(A-1)の作製と同様の方法で、複合体(A-4)を作製した。
【0132】
<第2極性媒体への置換>
容器内のセルロースナノファイバー分散液を、100mLのエタノールに入れ替えた。エタノールに、陽極、及び陽極の表面に形成されたハイドロゲルを、12時間浸漬させた。浸漬によってハイドロゲルに含有される水をエタノールに置換し、エタノールゲルを得た。エタノールゲルは、セルロースナノファイバー成形体及びエタノールから構成されていた。
【0133】
次いで、容器内のエタノールを、ヘキサンに入れ替えた。ヘキサンに、陽極、及び陽極の表面に形成されたエタノールゲルを、12時間浸漬させた。浸漬によってエタノールゲルに含有されるエタノールをヘキサンに置換し、ヘキサンゲルを得た。ヘキサンゲルは、セルロースナノファイバー成形体及びヘキサンから構成されていた。ヘキサンゲルの厚さは、1mmであった。
【0134】
複合体(A-4)は、UV硬化性のアクリル樹脂と、セルロースナノファイバー成形体との複合体であった。複合体(A-4)は、厚さ1mmの平板状であった。
【0135】
[複合体(B-1)の作製]
上記<セルロースナノファイバー成形体の形成>で得られたセルロースナノファイバー成形体のハイドロゲルを乾燥させて、セルロースナノファイバー成形体を得た。乳鉢及び乳棒を用いて、乾燥後のセルロースナノファイバー成形体を粉砕し、粒径200μm以下のセルロースナノファイバー粉末を得た。
【0136】
1000重量部の樹脂原料液(R1)と、15重量部のセルロースナノファイバー粉末とを、真空ミキサー(Thinky社製「ARV-310」)を用いて混合し、混合物を得た。ガラス板で挟んだ状態で、混合物に36WのUVライトを5時間照射した。UVライトの照射により、樹脂原料液(R1)中のモノマーを重合させて、複合体(B-1)を得た。
【0137】
複合体(B-1)は、UV硬化性のアクリル樹脂と、セルロースナノファイバー粉末との複合体であった。セルロースナノファイバー粉末は成形されていないため、複合体(B-1)は、樹脂とセルロースナノファイバー未成形体との複合体であり、樹脂とセルロースナノファイバー成形体との複合体ではなかった。複合体(B-1)は、厚さ1mmの平板状であった。複合体(B-1)全体のCNF濃度の平均値は、1.5重量%であった。
【0138】
[CNF濃度及び所定CNF量の測定]
図17に示すように、上記<セルロースナノファイバー成形体の形成>で作製した第1極性媒体ゲルN1E(より具体的にはハイドロゲル)を、所定方向D2に5等分し、5枚の測定サンプルを得た。所定方向D2は、ハイドロゲルの電極接触面である第1主面N1aから第2主面N1bに向かう方向であった。作製したハイドロゲルの厚さが1mmであったため、5枚の測定サンプルの厚さは、何れも、0.2mmであった。5枚の測定サンプルを、電極接触面である第1主面N1a側から順に、サンプル(S1)~(S5)とした。
【0139】
精密天秤を用いて、サンプル(S1)の乾燥前重量W1を測定した。オーブンを用いて、サンプル(S1)を、110℃で12時間乾燥させた。精密天秤を用いて、サンプル(S1)の乾燥後重量W2を測定した。乾燥によりハイドロゲル(サンプル(S1)に相当)の水が蒸発し、セルロースナノファイバーが残るため、乾燥後重量W2を、ハイドロゲルに含有されるセルロースナノファイバーの重量と見做した。
【0140】
式「CNF濃度=100×セルロースナノファイバーの重量/ハイドロゲルの重量=100×乾燥後重量W2/乾燥前重量W1」から、サンプル(S1)のCNF濃度(単位:重量%)を算出した。
【0141】
式「所定CNF量=100×セルロースナノファイバーの重量/ハイドロゲルの体積=100×乾燥後重量W2/乾燥前のサンプルの体積」から、サンプル(S1)の所定CNF量(単位:μg/mm3)を算出した。
【0142】
サンプル(S1)と同様の方法により、サンプル(S2)~(S5)のCNF濃度、及び所定CNF量を算出した。
【0143】
サンプル(S1)~(S5)のCNF濃度及び所定CNF量を、表1に示す。また、サンプル(S1)~(S5)のCNF濃度を、
図18に示す。
図18の縦軸は、CNF濃度(単位:wt%、即ち重量%)を示し、横軸は、電極接触面(第1主面N1aに相当)からの距離(単位:mm)を示す。各サンプルの電極接触面からの距離の中央値を、横軸にプロットした。
【0144】
【0145】
表1及び
図18に示すように、第1領域に対応する領域(サンプル(S1))のCNF濃度が、第2領域に対応する領域(サンプル(S2)~(S5))のCNF濃度よりも、高いことが確認された。また、第1領域に対応する領域(サンプル(S1))のCNF濃度が最も高く、電極接触面からの距離が遠くなるほど(サンプル(S2)、(S3)、(S4)、及び(S5)の順に)、CNF濃度が徐々に低下していることが確認された。
【0146】
表1に示すように、第1領域に対応する領域(サンプル(S1))の所定CNF量が、第2領域に対応する領域(サンプル(S2)~(S5))の所定CNF量よりも、多いことが確認された。また、第1領域に対応する領域(サンプル(S1))の所定CNF量が最も多く、電極接触面からの距離が遠くなるほど(サンプル(S2)、(S3)、(S4)、及び(S5)の順に)、所定CNF量が徐々に減少していることが確認された。
【0147】
ここで、上記<セルロースナノファイバー成形体の形成>で作製したハイドロゲルから、複合体(A-1)を得るまでの過程で、収縮及び膨潤は確認されなかった。従って、ハイドロゲルの体積と、複合体(A-1)の体積とは、同一と見做すことができる。また、ハイドロゲルであるサンプル(S1)~(S5)の体積と、複合体(A-1)のサンプル(S1)~(S5)に対応する領域の体積とは、同一と見做すことができる。
【0148】
また、上記<セルロースナノファイバー成形体の形成>で作製したハイドロゲルから、複合体(A-1)を得るまでの過程で、ハイドロゲルに含有される水及びセルロースナノファイバーのうち、水は段階的に樹脂に置換されたが、セルロースナノファイバーについては、ハイドロゲル中の状態が複合体(A-1)となるまで維持された。従って、ハイドロゲル中のセルロースナノファイバーの重量と、複合体(A-1)中のセルロースナノファイバーの重量とは、同一と見做すことができる。また、ハイドロゲルであるサンプル(S1)~(S5)のセルロースナノファイバーの重量と、複合体(A-1)のサンプル(S1)~(S5)に対応する領域のセルロースナノファイバーの重量とは、同一と見做すことができる。
【0149】
以上のことから、ハイドロゲルであるサンプル(S1)~(S5)の所定CNF量と、複合体(A-1)のサンプル(S1)~(S5)に対応する領域の所定CNF量とは、同一と見做すことができる。更に、複合体(A-2)~(A-4)の作製で使用したハイドロゲルは、複合体(A-1)の作製で使用したものと同一であった。このため、ハイドロゲルであるサンプル(S1)~(S5)の所定CNF量と、複合体(A-2)~(A-4)のサンプル(S1)~(S5)に対応する領域の所定CNF量も、同一と見做すことができる。従って、複合体(A-1)~(A-4)は、CNF量傾斜を有すると判断される。
【0150】
一方、複合体(B-1)は、樹脂原料液(R1)とセルロースナノファイバー粉末とを混合することにより、作製された。従って、複合体(B-1)は、CNF量傾斜を有していないと判断される。
【0151】
[コントロールサンプル(C)の作製]
ヘーズ値の測定、線熱膨張係数の測定、及び外観評価に使用するためのコントロールサンプル(C)を作製した。詳しくは、樹脂原料液(R1)をガラス板で挟んだ状態で、樹脂原料液(R1)に、36WのUVライトを5時間照射し、厚さ1mmの板状のコントロールサンプル(C)を得た。コントロールサンプル(C)は、UV硬化性のアクリル樹脂のみで構成されていた。
【0152】
[ヘーズ値の測定]
複合体(A-1)、複合体(B-1)、及びコントロールサンプル(C)のヘーズ値を、JIS(日本産業規格)K7136:2000(プラスチック-透明材料のヘーズの求め方)に準拠した方法で測定した。ヘーズ値の測定には、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製「NDH-8000」)を使用した。各測定対象を、長さ30mm×幅30mm×厚さ1mmのサイズにカットして測定に使用した。
【0153】
ヘーズ値の測定結果を、表2及び
図19に示す。表2及び
図19中の「コントロール」はコントロールサンプル(C)を示し、「B-1」は複合体(B-1)を示し、「A-1」は複合体(A-1)を示す。
図19の縦軸は、ヘーズ値(単位:%)を示す。
【0154】
【0155】
ヘーズ値が小さい程、測定対象の曇りの少ないクリアな外観であることを示す。表2及び
図19に示すように、複合体(A-1)のヘーズ値は、複合体(B-1)のヘーズ値よりも小さかった。従って、複合体(A-1)は、複合体(B-1)よりもクリアな外観を有していた。また、複合体(B-1)のヘーズ値は、コントロールサンプル(C)のヘーズ値よりも22.1%大きかった。従って、複合体(B-1)には、コントロールサンプル(C)と比較して過度な曇りが発生していた。一方、複合体(A-1)のヘーズ値は、コントロールサンプル(C)のヘーズ値よりも2.5%大きくなったに過ぎなかった。従って、複合体(A-1)は、コントロールサンプル(C)と比較しても遜色のないクリアな外観を有していた。
【0156】
[線熱膨張係数の測定]
複合体(A-1)、複合体(B-1)、及びコントロールサンプル(C)の線熱膨張係数を、熱機械分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製「TMA/SS7100」)を用いて測定した。測定条件は、以下の通りとした。
測定温度範囲:30℃~80℃
昇温速度:10℃/分
雰囲気:窒素雰囲気
荷重:0.03N
試料形状:幅2mm×長さ30mm×厚さ1mm
測定試料長:20mm
【0157】
線熱膨張係数の測定結果を、表3及び
図20に示す。表3及び
図20中の「コントロール」はコントロールサンプル(C)を示し、「B-1」は複合体(B-1)を示し、「A-1」は複合体(A-1)を示す。
図20の縦軸は、線熱膨張係数(単位:ppm/℃)を示す。
【0158】
【0159】
線熱膨張係数が小さい程、測定対象の加熱による膨張(熱膨張)が抑制されていることを示す。表3及び
図20に示すように、複合体(A-1)の線熱膨張係数は、複合体(B-1)の線熱膨張係数よりも小さかった。従って、複合体(A-1)は、複合体(B-1)よりも熱膨張が抑制されていた。また、複合体(B-1)の線熱膨張係数は、コントロールサンプル(C)の線熱膨張係数よりも大きかった。従って、複合体(B-1)は、セルロースナノファイバーが添加されたにもかかわらず、コントロールサンプル(C)よりも熱膨張していた。一方、複合体(A-1)の線熱膨張係数は、コントロールサンプル(C)の線熱膨張係数よりも小さかった。従って、複合体(A-1)は、コントロールサンプル(C)と比較して、熱膨張が抑制されていた。これは、セルロースナノファイバー成形体が複合体(A-1)の骨格として働き、複合体(A-1)の熱膨張が抑制されたからだと考えられる。
【0160】
[外観評価]
評価対象(より具体的には、コントロールサンプル(C)、複合体(A-1)~(A-4)、及び複合体(B-1)の各々)を通して、紙に印刷されたアルファベット文字を見た。アルファベット文字が肉眼で問題なく見える場合を、曇りが少ないと判断した。アルファベット文字が曇って肉眼で見え難い場合を、評価対象に曇りが多いと判断した。
【0161】
外観評価の結果を、表4に示す。表4中の「コントロール」はコントロールサンプル(C)を示し、「B-1」は複合体(B-1)を示し、「A-1」~「A-4」は複合体(A-1)~(A-4)を示す。
【0162】
【0163】
また、外観評価において、コントロールサンプル(C)、複合体(B-1)、複合体(A-1)~(A-4)の外観を撮影した写真を、各々、
図21~
図26に示す。
【0164】
表4、
図21、及び
図22に示すように、複合体(B-1)は、コントロールサンプル(C)と比較して、曇りが多かった。一方、表4、
図21、及び
図23~
図26に示すように、複合体(A-1)~(A-4)は、コントロールサンプル(C)と比較しても遜色のない、曇りが少なくクリアな外観を有していた。
【0165】
[実施例5:電極型を使用した複合体(A-5)の作製]
次に、電極型を使用した実施例5を説明する。
図27に示すように、陽極として表面に凹凸が設けられた歯形形状の電極型を用いた。この電極型は、パラフィンワックスからなる歯形形状の基台と、基台の表面を覆う導電性の銅薄膜とから構成されていた。陰極として棒状の炭素電極を使用した。
【0166】
この陽極及び陰極を、上記で調製したセルロースナノファイバー分散液300mLに浸漬させた。その後、陽極と陰極との間に電圧1Vを12時間印加した。電圧の印加により、陽極の表面にセルロースナノファイバーが堆積して、セルロースナノファイバー成形体が形成された。電圧の印加を停止すると、セルロースナノファイバー成形体が水とともにゲル化して、
図28に示すハイドロゲルが形成された。ハイドロゲルは、セルロースナノファイバー成形体及び水から構成されていた。ハイドロゲルがほぼ一定の厚さに堆積したため、ハイドロゲルの表面形状は、陽極の電極型の表面形状と概ね同じであった。ハイドロゲルの厚さは、5mmであった。
【0167】
次いで、セルロースナノファイバー分散液を、300mLのエタノールに入れ替えた。
図29に示すように、エタノールに、陽極、及び陽極の表面に形成されたハイドロゲルを12時間浸漬させた。次いで、エタノールを、新しい300mLのエタノールに入れ替えた。入れ替えたエタノールに、陽極、及び陽極の表面に形成されたハイドロゲルを更に12時間浸漬させた。浸漬によってハイドロゲルに含有される水をエタノールに置換した。その結果、
図30に示すように、エタノールゲルが形成された。エタノールゲルは、セルロースナノファイバー成形体及びエタノールから構成されていた。ハイドロゲルの形状を維持しながら水がエタノールに置換されたため、エタノールゲルの表面形状は、陽極の電極型の表面形状と概ね同じであった。
【0168】
次いで、エタノールを、300mLの樹脂原料液(R1)に入れ替えた。
図31に示すように、樹脂原料液(R1)に、陽極、及び陽極の表面に形成されたエタノールゲルを12時間浸漬させた。浸漬後、樹脂原料液(R1)を300mLの新たな樹脂原料液(R1)に入れ替えた。入れ替えた樹脂原料液(R1)に、陽極、及び陽極の表面に形成されたエタノールゲルを更に12時間浸漬させた。このようにして、エタノールゲルに含有されるエタノールを、樹脂原料液(R1)に置換し、セルロースナノファイバー成形体内に樹脂原料液(R1)を含侵させた。そして、
図32に示すように、樹脂原料液含侵物を得た。樹脂原料液含侵物は、セルロースナノファイバー成形体及び樹脂原料液(R1)から構成されていた。エタノールゲルの形状を維持しながらエタノールが樹脂原料液(R1)に置換されたため、樹脂原料液含侵物の表面形状は、陽極の電極型の表面形状と概ね同じであった。
【0169】
次いで、樹脂原料液含侵物に、36WのUVライトを1時間照射した。UVライトの照射により、樹脂原料液(R1)中のモノマーを重合させて、
図33に示す複合体(A-5)を得た。複合体(A-5)は、UV硬化性のアクリル樹脂と、セルロースナノファイバー成形体との複合体であった。樹脂原料液含侵物の形状を維持しながら樹脂が硬化したため、複合体(A-5)の表面形状は、陽極の電極型の表面形状と概ね同じ、歯形形状であった。
【0170】
以上、図面を参照して本発明の実施形態及び実施例を説明した。但し、本発明は、上記の実施形態及び実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。また、上記の実施形態に開示される複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明の形成が可能である。例えば、実施形態及び実施例に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の厚み、長さ、個数、間隔等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合もある。また、上記の実施形態で示す各構成要素の材質、形状、寸法等は一例であって、特に限定されるものではなく、本発明の効果から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。