(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023162906
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】導体ペースト及びその製造方法、導体部材、セラミックス基板、並びにガラスセラミックス基板
(51)【国際特許分類】
H05K 3/12 20060101AFI20231101BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20231101BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20231101BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
H05K3/12 610G
H01B1/22 A
H05K1/03 610D
H01L23/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022073616
(22)【出願日】2022-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】前川 史典
【テーマコード(参考)】
5E343
5G301
【Fターム(参考)】
5E343AA24
5E343BB25
5E343BB28
5E343BB59
5E343BB60
5E343BB72
5E343DD01
5E343ER35
5E343FF01
5E343FF11
5E343GG02
5E343GG06
5G301DA03
5G301DA04
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DE01
(57)【要約】
【課題】加熱焼成する際の体積収縮率が低減された導体ペーストを提供する。
【解決手段】電子部材に用いられる導体ペーストであって、前記導体ペーストは銀導体と窒化アルミニウムとを含み、前記銀導体における銀は扁平状の粉末であり、前記導体ペーストを大気下、850℃で30分間焼成した際に、前記窒化アルミニウムの表面に酸化アルミニウム被膜が形成される、導体ペースト。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部材に用いられる導体ペーストであって、
前記導体ペーストは銀導体と窒化アルミニウムとを含み、
前記銀導体における銀は扁平状の粉末であり、
前記導体ペーストを大気下、850℃で30分間焼成した際に、前記窒化アルミニウムの表面に酸化アルミニウム被膜が形成される、導体ペースト。
【請求項2】
前記扁平状の粉末は、メジアン径が4.0~10.0μmであり、かつ、アスペクト比が1.8~10.0である、請求項1に記載の導体ペースト。
【請求項3】
前記窒化アルミニウムが、メジアン径0.5μm以上10.0μm未満の粉末である、請求項1に記載の導体ペースト。
【請求項4】
前記窒化アルミニウムが、メジアン径0.5μm以上10.0μm未満の粉末である、請求項2に記載の導体ペースト。
【請求項5】
前記銀導体及び前記窒化アルミニウムの合計に対する前記窒化アルミニウムの割合が1.3~10質量%である、請求項1に記載の導体ペースト。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の導電ペーストが充填された、セラミックス基板又はガラスセラミックス基板。
【請求項7】
電子部材に用いられる導体部材であって、
前記導体部材は銀導体と窒化アルミニウムとを含み、
前記銀導体における銀は扁平状であり、
前記窒化アルミニウムの表面に酸化アルミニウム被膜が形成されている、導体部材。
【請求項8】
前記酸化アルミニウム被膜がγ-アルミナの被膜である、請求項7に記載の導体部材。
【請求項9】
前記窒化アルミニウムと前記酸化アルミニウム被膜の合計に対する、前記酸化アルミニウム被膜の割合が10.0質量%以上である、請求項7に記載の導体部材。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか1項に記載の導体部材を含む、セラミックス基板又はガラスセラミックス基板。
【請求項11】
電子部材に用いられる導体ペーストの製造方法であって、
扁平状の銀粉末を用意すること、
還元窒化法により得られた窒化アルミニウムを用意すること、及び
前記銀粉末と前記窒化アルミニウムとを、ビヒクルの存在下で混合すること、
を含む、導体ペーストの製造方法。
【請求項12】
前記扁平状の銀粉末は、メジアン径が4.0~10.0μmであり、かつ、アスペクト比が1.8~10.0である銀粉末を用いる、請求項11に記載の導体ペーストの製造方法。
【請求項13】
前記窒化アルミニウムは、メジアン径0.5μm以上10.0μm未満の粉末を用いる、請求項11に記載の導体ペーストの製造方法。
【請求項14】
前記窒化アルミニウムは、メジアン径0.5μm以上10.0μm未満の粉末を用いる、請求項12に記載の導体ペーストの製造方法。
【請求項15】
前記混合において、前記銀粉末及び前記窒化アルミニウムの合計に対する前記窒化アルミニウムの割合を1.3~10質量%とする、請求項11に記載の導体ペーストの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導体ペースト及びその製造方法に関する。また、本発明は、上記導体ペーストを用いて得られるセラミックス基板又はガラスセラミックス基板にも関し、導体部材にも関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED:Light Emission Diode)を使用したデバイスは、携帯電話や大型液晶テレビのバックライト、照明用途等、幅広い用途に用いられている。
例えば、可視光を発する発光ダイオード(可視光LED)を利用した発光装置の場合、基板の上にLEDチップを載せて、樹脂ベースの部材を使用して封止する構成がよく用いられている。
【0003】
上記基板の一例として、低温同時焼成セラミックス(Low Temperature Co-fired Ceramics、LTCC)基板が挙げられる。これは、セラミックスにガラスフリットを加えることにより、低温での焼成が可能となった基板である。LTCC基板は、高反射性、高放熱性、及び高信頼性といった特徴を有することから、ヘッドランプ等の車載用途等の可視光LED製品に好適である。
【0004】
しかしながら、LTCC基板は、製造時の焼成により緻密化が起こり、平面方向、すなわちX-Y方向の収縮ばらつきが生じる。
焼成時に生じる収縮ばらつきを抑制する方法の一例として、無加圧無収縮焼成法が知られている。例えば特許文献1では、揮発性の高分子バインダーに分散された非金属無機粒子を含む拘束層を用いることで、無機バインダーの拘束層への浸透を抑制し、焼成時のX-Y方向の収縮を低減できることが開示されている。すなわち、無加圧無収縮焼成法は、
図1の(a)に示すように、LTCC基板となるガラスセラミックス層2を、低温では緻密化しないAl
2O
3やMgO等の無機材料からなる拘束層1で挟み、焼成する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、LTCC基板をはじめとした各種基板の収縮ばらつきの抑制に関する各種検討が進んでいる。一方で、
図1の(a)に示すように、基板となるガラスセラミックス層2に対して、厚み方向に貫通する導体ペーストを充填し、加熱焼成することで導体部材3を形成する場合、導体ペーストはガラスセラミックス層2と異なり、拘束層1に拘束されない。そのため、基板の製造工程で加熱焼成すると、導体ペーストのみが収縮し、ガラスセラミックス層2と導体部材3との間に空間4が生じる。これは、ガラスセラミックス層に限らず、セラミックス層である場合にも生じ得る。
【0007】
そこで本発明は、加熱焼成する際の体積収縮率が低減された導体ペーストとその製造方法を提供することを目的とする。また、上記導体ペーストが焼成された導体部材、及び、上記導体ペーストを用いて得られるセラミックス基板やガラスセラミックス基板を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討を行った結果、導体ペーストに含まれる銀導体である粉の形状を扁平状とし、かつ、大気下で焼成した際に酸化アルミニウム被膜が形成される窒化アルミニウムを用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明及びその一態様は下記に関するものである。
[1] 電子部材に用いられる導体ペーストであって、前記導体ペーストは銀導体と窒化アルミニウムとを含み、前記銀導体における銀は扁平状の粉末であり、前記導体ペーストを大気下、850℃で30分間焼成した際に、前記窒化アルミニウムの表面に酸化アルミニウム被膜が形成される、導体ペースト。
[2] 前記扁平状の粉末は、メジアン径が4.0~10.0μmであり、かつ、アスペクト比が1.8~10.0である、前記[1]に記載の導体ペースト。
[3] 前記窒化アルミニウムが、メジアン径0.5μm以上10.0μm未満の粉末である、前記[1]に記載の導体ペースト。
[4] 前記窒化アルミニウムが、メジアン径0.5μm以上10.0μm未満の粉末である、前記[2]に記載の導体ペースト。
[5] 前記銀導体及び前記窒化アルミニウムの合計に対する前記窒化アルミニウムの割合が1.3~10質量%である、前記[1]に記載の導体ペースト。
[6] 前記[1]~[5]のいずれか1に記載の導電ペーストが充填された、セラミックス基板又はガラスセラミックス基板。
【0010】
[7] 電子部材に用いられる導体部材であって、前記導体部材は銀導体と窒化アルミニウムとを含み、前記銀導体における銀は扁平状であり、前記窒化アルミニウムの表面に酸化アルミニウム被膜が形成されている、導体部材。
[8] 前記酸化アルミニウム被膜がγ-アルミナの被膜である、前記[7]に記載の導体部材。
[9] 前記窒化アルミニウムと前記酸化アルミニウム被膜の合計に対する、前記酸化アルミニウム被膜の割合が10.0質量%以上である、前記[7]に記載の導体部材。
[10] 前記[7]~[9]のいずれか1に記載の導体部材を含む、セラミックス基板又はガラスセラミックス基板。
【0011】
[11] 電子部材に用いられる導体ペーストの製造方法であって、扁平状の銀粉末を用意すること、還元窒化法により得られた窒化アルミニウムを用意すること、及び前記銀粉末と前記窒化アルミニウムとを、ビヒクルの存在下で混合すること、を含む、導体ペーストの製造方法。
[12] 前記扁平状の銀粉末は、メジアン径が4.0~10.0μmであり、かつ、アスペクト比が1.8~10.0である銀粉末を用いる、前記[11]に記載の導体ペーストの製造方法。
[13] 前記窒化アルミニウムは、メジアン径0.5μm以上10.0μm未満の粉末を用いる、前記[11]に記載の導体ペーストの製造方法。
[14] 前記窒化アルミニウムは、メジアン径0.5μm以上10.0μm未満の粉末を用いる、前記[12]に記載の導体ペーストの製造方法。
[15] 前記混合において、前記銀粉末及び前記窒化アルミニウムの合計に対する前記窒化アルミニウムの割合を1.3~10質量%とする、前記[11]に記載の導体ペーストの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る導体ペーストによれば、加熱焼成した際の体積収縮率が小さく、体積膨張も可能である。そのため、上記導体ペーストを、LTCC基板等となるガラスセラミックス層に対して、厚み方向に貫通するように充填、加熱焼成し、導体部材として用いた場合であっても、
図1の(b)に示すように、ガラスセラミックス層2と導体部材3との間に空間4が生じない、又は、生じる空間4が狭い基板とできる。その結果、寸法精度に優れた基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、導体ペーストを含むガラスセラミックス層の焼成後の状態を示す模式断面図であり、
図1の(a)は従来の導体ペーストを用いた場合を表し、
図1の(b)は本実施形態に係る導体ペーストを用いた場合を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本明細書における導体部材とは、ビアと称される内層導体やヒートスラグと呼ばれる放熱のための金属導体を含む概念である。そのため、本明細書における導体ペーストも、内層導体とする焼成前のペーストのみならず、放熱のための金属導体とする焼成前のペーストも意味する。
【0015】
<導体ペースト>
本実施形態に係る導体ペーストは、電子部材に用いられ、銀導体と窒化アルミニウムとを含む。銀導体における銀は扁平状の粉末である。また、導体ペーストを大気下、850℃で30分間焼成した際に、窒化アルミニウムの表面には酸化アルミニウム被膜が形成される。
【0016】
導体ペーストは、導電性を有する成分、すなわち導体と所望によりビヒクルとを含むが、本実施形態に係る導体ペーストは、さらに窒化アルミニウムを含む。また、導電性を有する成分とは銀導体であり、銀の扁平状の粉末を含む。
【0017】
銀の粉末が扁平状であるとは、扁平面と称する幅広の面を有し、扁平面方向の長さよりも、扁平面に垂直な厚み方向の長さが短い形状を意味する。
銀の粉末が扁平状であることにより、導体ペーストを塗布した際に、基板の平面方向、すなわちX-Y方向に沿って銀粉末の扁平面が並ぶ。そうすると、同X-Y方向で銀の粉末同士が接する面が、その曲率の高さ故に小さくなることで、焼成による収縮を低減でき、その結果、加熱焼成した際の体積収縮率が小さく、体積膨張も可能となると考えている。
【0018】
銀の扁平状の粉末は、焼結性の観点から、メジアン径が4.0μm以上が好ましく、5.0μm以上がより好ましく、6.0μm以上がさらに好ましい。また、充填性の観点から、メジアン径は10.0μm以下が好ましく、9.0μm以下がより好ましく、8.0μm以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるメジアン径は、粒子径の頻度の累積が50%になる粒子径D50で表される値であり、動的光散乱法による粒度分布測定器を用いて求められる。
【0019】
銀の扁平状の粉末のアスペクト比は、銀の粉末同士が接する面を小さくする観点から、1.8以上が好ましく、2.0以上がより好ましく、2.5以上がさらに好ましい。また、導電性ペーストにした際の増粘防止の観点から、アスペクト比は10.0以下が好ましく、7.0以下がより好ましく、5.0以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるアスペクト比は、銀の扁平状の粉末を円柱状と見做し、銀粉のメジアン径を長径、かかる円柱の高さを短径と定めた際に、長径/短径で表される比である。短径については、扁平状の銀粉末の比表面積をもとに、下記式により求める。
h=2r/(ρ・r・Sm-2)
式中、hは短径となる円柱の高さ、rは長径となるメジアン径の1/2、すなわち半径、ρは密度、Smは比表面積を意味する。なお、上記式は、円柱の表面積Sを表すS=2πr2+2πrhなる式と、円柱の体積Vを表すV=πr2hなる式を、比表面積Smの公式であるSm=S/(ρ・V)に代入することで導出される式である。
銀の扁平状の粉末は、上記メジアン径とアスペクト比の範囲を共に満たすことがより好ましい。
【0020】
窒化アルミニウムは、大気下、850℃で30分間焼成した際に、その表面に酸化アルミニウム被膜が形成されるものを用いる。窒化アルミニウムの断面を顕微鏡観察することで、窒化アルミニウムの表面への被膜の有無を確認できる。
焼成により酸化アルミニウム被膜が形成されることで、高温での収縮を抑制できる。この窒化アルミニウムを、銀導体である扁平状の粉末と共に用いることで、導体ペーストを加熱焼成した際の体積収縮率が小さく、体積膨張も可能となると考えている。
酸化アルミニウムの被膜は、収縮抑制の観点から、γ-アルミナの被膜が好ましい。
【0021】
窒化アルミニウムの粉末のメジアン径は、分散性の観点から、0.5μm以上が好ましく、0.9μm以上がより好ましく、1.0μm以上がさらに好ましい。また、焼成時の収縮抑制効果をより好適に得る観点から、メジアン径は10.0μm未満が好ましく、7.0μm以下がより好ましく、5.0μm未満がさらに好ましく、3.0μm以下が特に好ましい。
【0022】
窒化アルミニウムの粉末の形状は特に限定されず、球状、扁平状、柱状、針状等を使用できる。したがって、アスペクト比も特に限定されない。例えば、充填率及び反応性の観点からは、窒化アルミニウムの粉末は球状が好ましい。
【0023】
銀導体と窒化アルミニウムの合計に対する窒化アルミニウムの割合は、窒化アルミニウムのメジアン径によって異なるために一概に言えないが、焼成による導体ペーストの体積収縮を抑制し、又は、体積膨張を促進する観点から、例えば、1.3質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がより好ましく、1.6質量%以上がさらに好ましく、1.8質量%以上がよりさらに好ましく、2.0質量%以上が特に好ましい。また、焼結を阻害して空隙が多くなり、熱伝導が低下するのを抑制する観点から、上記窒化アルミニウムの割合は10質量%以下が好ましく、7.0質量%以下がより好ましく、5.0質量%以下がさらに好ましい。
【0024】
本実施形態に係る導体ペーストにおける銀導体及び窒化アルミニウムの合計の含有量は100質量%、すなわち、銀導体及び窒化アルミニウムのみからなってもよいが、本発明の効果を損なわない範囲において、他の成分を含んでいてもよい。その場合、上記銀導体及び窒化アルミニウムの合計の含有量は70.0質量%以上が好ましく、80.0質量%以上がより好ましく、85.0質量%以上がさらに好ましく、90.0質量%以上が特に好ましい。また、他の成分による効果を得る観点から、上記合計の含有量は98.0質量%以下が好ましく、95.0質量%以下がより好ましく、93.0質量%以下がさらに好ましい。
【0025】
他の成分として、例えば、ペーストとするためのビヒクルが挙げられる。ビヒクルは有機溶剤とバインダー樹脂とを含み、有機溶剤、バインダー樹脂共に、従来公知のものを使用できる。ビヒクルを含有する場合、導体ペーストに対するビヒクルの含有量は2.0質量%以上が好ましく、5.0質量%以上がより好ましい。また、導体ペーストの十分な塗布膜厚を得る観点から、ビヒクルの含有量は30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
その他の任意の成分として、無機酸化物、消泡剤、分散剤、粘度調整剤等が挙げられる。また、扁平状の銀粉末以外の導体となる粉末、すなわちその他の導体となる粉末をさらに含んでいてもよい。その他の導体となる粉末として、例えば、扁平状以外の形状である銀の粉末や、銀以外の導体となる粉末を含んでいてもよい。この場合、銀導体、すなわち、扁平状の銀粉末100質量部に対して、その他の導体となる粉末の合計の含有量は、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。また、その他の導体となる粉末の合計の含有量の下限は特に限定されず、0質量部、すなわち含まなくてもよいが、製造上篩分けするのが困難なことから、通常1.0質量部以上である。
【0026】
本実施形態に係る導体ペーストは、大気下、850℃で30分間焼成した際の体積膨張率が-8.0%以上、すなわち収縮率が8%以下であればよく、体積膨張率が-7.0%以上が好ましく、-5.0%以上がさらに好ましく、-3.0%以上がよりさらに好ましく、-0.5%以上が特に好ましく、0%超、すなわち体積が膨張することが最も好ましい。体積膨張率の上限は特に限定されないが、通常5.0%以下である。
【0027】
本実施形態に係る導体ペーストが用いられる電子部材は特に限定されないが、例えば、透明電極、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、TFT)、カラーフィルター(Color Filter、CF)等が挙げられる。
【0028】
また、本発明は、本実施形態に係る導体ペーストが充填されたセラミックス基板やガラスセラミックス基板にも関する。
セラミックス基板、ガラスセラミックス基板は従来公知の方法と条件を採用できる。特に、基板製造時の焼成による収縮度合いが、本実施形態に係る導体ペーストの体積膨張度合いと同程度の基板に、上記導体ペーストを充填することが好ましい。
【0029】
<導体部材>
本実施形態に係る導体部材は、電子部材に用いられ、銀導体と窒化アルミニウムとを含む。銀導体における銀は扁平状であり、窒化アルミニウムの表面に酸化アルミニウム被膜が形成されている。
【0030】
本実施形態に係る導体部材は、例えば、上記<導体ペースト>に記載された導体ペーストを塗布、焼成することで得られる。この場合、銀導体における扁平状の銀は、上記<導体ペースト>における銀導体における扁平状の銀粉末に由来する。すなわち、扁平状のメジアン径やアスペクト比の好ましい態様は、上記<導体ペースト>における扁平状の銀粉末のメジアン径やアスペクト比の好ましい態様と同様である。その他、割合等の好ましい態様も、上記<導体ペースト>における割合等の好ましい態様と同様である。
【0031】
導体部材は、上記銀導体の扁平面が、基板の平面方向、すなわちX-Y方向に沿って並んでいることで、焼成前の導体ペーストと比べて体積収縮率が小さくなる、又は、体積が膨張する。
【0032】
導体部材の窒化アルミニウムの表面には酸化アルミニウム被膜が形成されている。この酸化アルミニウム被膜は、導体ペーストが導体部材となる焼成の過程で形成される被膜である。例えば、耐酸化性及び耐水性の観点から還元窒化法により得られた窒化アルミニウムを用いることが好ましい。
【0033】
窒化アルミニウムと、その表面に形成された酸化アルミニウム被膜との合計に対する、酸化アルミニウム被膜の割合は、収縮抑制の観点から、10.0質量%以上が好ましく、20.0質量%以上がより好ましく、25.0質量%以上がさらに好ましい。また、上記酸化アルミニウム被膜の割合は、熱伝導率の観点から、50.0質量%以下が好ましく、45.0質量%以下がより好ましく、40.0質量%以下がさらに好ましい。
上記酸化アルミニウム被膜の割合は、熱重量分析を行い、その重量変化から算出できる。
【0034】
酸化アルミニウム被膜の割合は、焼成温度及び時間を変化させることで調整できる。例えば、焼成温度を高くしたり、焼成時間を長くすることで、酸化アルミニウム被膜の割合を多くできる。
【0035】
酸化アルミニウム被膜が表面に形成されている窒化アルミニウムは、上記<導体ペースト>における窒化アルミニウムが焼成されたものであることが好ましく、窒化アルミニウムの形状や大きさ、割合等の好ましい態様は、上記<導体ペースト>における窒化アルミニウムの形状や大きさ、割合等の好ましい態様とそれぞれ同様である。
【0036】
導体部材とするための導体ペーストの基板上への塗布及び焼成は、従来公知の方法を採用できる。
塗布方法としては、例えば、スクリーン印刷、ディスペンス法等が挙げられる。
焼成条件としては、例えば、500~1000℃の温度が例示でき、0.5~2.0時間の時間が例示できる。また、導体ペーストの塗布と焼成との間に、80~200℃程度での乾燥処理を設けてもよい。
【0037】
また、本発明は、本実施形態に係る導体部材を含む、焼成後のセラミックス基板やガラスセラミックス基板にも関する。焼成後のセラミックス基板やガラスセラミックス基板において、本実施形態に係る導体部材の周りに空間が生じていないか、生じていたとしても、かかる空間が従来の導体部材に比べて狭いことが好ましく、空間が生じていないことがより好ましい。
【0038】
<導体ペーストの製造方法>
本実施形態に係る導体ペーストの製造方法は、下記工程1~工程3を含む。
工程1:扁平状の銀粉末を用意する工程、
工程2:還元窒化法により得られた窒化アルミニウムを用意する工程、及び
工程3:工程1で得られた銀粉末と、工程2で得られた窒化アルミニウムとを、ビヒクルの存在下で混合する工程。
本実施形態に係る製造方法により得られる導体ペーストは、好適には電子部材に用いられる。また、得られる導体ペーストは、好ましい態様も含み、上記<導体ペースト>に記載の導体ペーストと同様である。
【0039】
工程1では、扁平状の銀粉末を用意するが、市販の扁平状の銀粉末を用いても、扁平状の銀粉末を製造してもよい。
扁平状の銀粉末を製造する方法は特に限定されないが、例えばアトマイズ法が挙げられる。
【0040】
アトマイズ法は、溶解・噴射工程、分級・篩分工程、及び混合工程を含む方法である。
溶解・噴射工程では、地金を溶解炉で溶かし、溶けた金属に高圧ガス状の水を吹き付けることで、溶けた金属を飛散、凝固させる。続く分級・篩分工程では、振動櫛や気流分級機等によって粒度分布を調整する。その後、混合工程で、ブレンダー等を用いて均一に混合することで、扁平状の銀粉末が得られる。
各工程の詳細な条件は、従来公知の条件を適宜選択すればよい。
【0041】
工程2では、還元窒化法により得られた窒化アルミニウムを用意するが、市販の還元窒化法により得られた窒化アルミニウムを用いても、還元窒化法により窒化アルミニウムを製造してもよい。
【0042】
還元窒化法とは、Al2O3+3C+N2→2AlN+3COの反応式で表されるように、酸化アルミニウムを炭素で還元し、窒化アルミニウムを得る手法である。具体的な条件は、従来工程の条件を適宜選択すればよい。還元窒化法により、金属不純物が少ない窒化アルミニウムが得られる。
【0043】
還元窒化法で得られた窒化アルミニウムに対して、大気下のような酸素存在下で500~900℃の焼成を行うと、表面が酸化処理され、γ-アルミナの被膜が形成される。
【0044】
工程1と工程2の順序は特に限定されず、どちらが先でもよく、また同時に行われてもよい。
【0045】
工程3では、工程1で得られた銀粉末と、工程2で得られた窒化アルミニウムとを、ビヒクルの存在下で混合する。
【0046】
銀粉末及び窒化アルミニウムの合計に対する窒化アルミニウムの割合は、窒化アルミニウムのメジアン径によって異なるために一概に言えないが、焼成による導体ペーストの体積収縮を抑制し、又は、体積膨張を促進する観点から、例えば、1.3質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がより好ましく、1.6質量%以上がさらに好ましく、1.8質量%以上がよりさらに好ましく、2.0質量%以上が特に好ましい。また、焼結を阻害して空隙が多くなり、熱伝導が低下するのを抑制する観点から、上記窒化アルミニウムの割合は10質量%以下が好ましく、7.0質量%以下がより好ましく、5.0質量%以下がさらに好ましい。
【0047】
ビヒクルとは、有機溶剤にバインダーとなる樹脂を溶解させたものであり、ペースト状にするために用いられる。有機溶剤、バインダーとなる樹脂共に、従来公知のものを使用できる。
【0048】
有機溶剤はバインダーとなる樹脂が溶解し、導体ペーストを導体部材とする際の焼成により揮発や分解等によって除去できるものであれば特に限定されない。例えば、バインダーがセルロース系樹脂の場合は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ターピネオール、ブチルジグリコールアセテート、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールジアセテート等の有機溶剤が挙げられる。また、バインダーがアクリル系樹脂の場合はジエチレングリコールモノブチルエーテル、メチルエチルケトン、ターピネオール、ブチルジグリコールアセテート、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールジアセテート等の有機溶剤が挙げられる。
【0049】
バインダーとなる樹脂も特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられ、これらのうち1種のみを用いても、複数種用いてもよい。より具体的には、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、オキシエチルセルロース、ベンジルセルロース、プロピルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート等のアクリル系モノマーの1種以上を重合して得られるアクリル系樹脂等の有機樹脂が好ましい。
【0050】
ビヒクルにおけるバインダーと有機溶剤の割合は、特に制限されず、得られる溶液が導体ペーストの粘度を調整できる粘度となるように適宜選択する。例えば、バインダー:有機溶剤で表される質量比が3:97~15:85程度が好ましい。
【0051】
導体ペーストにおけるビヒクルの含有量は、導電ペーストの粘度を適切な範囲にし、良好な塗布性や、導電層の形成の容易性を達成する観点から、導体ペースト全量に対して2.0質量%以上が好ましく、5.0質量%以上がより好ましい。また、上記含有量は導体ペーストの十分な塗布膜厚を得る観点から、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0052】
工程3では、本発明の効果を損なわない範囲において、他の成分を含んでいてもよい。他の成分として、例えば、無機酸化物、消泡剤、分散剤、粘度調整剤等が挙げられる。また、扁平状の銀粉末以外の導体となる粉末をさらに含んでいてもよい。なお、これらの他の成分は、工程3で必ずしも添加する必要はなく、工程1で扁平状の銀粉末に添加、混合したり、工程2で窒化アルミニウムに添加、混合したり、さらには、工程3の前後で添加、混合してもよい。
【0053】
以上、本実施形態に係る導体ペースト、導体部材、及び導体ペーストについて説明したが、本発明の一態様として、下記に関するものも挙げられる。
[1]’ 電子部材に用いられる導体ペーストであって、前記導体ペーストは銀導体と窒化アルミニウムとを含み、前記銀導体における銀は扁平状の粉末であり、前記導体ペーストを大気下、850℃で30分間焼成した際に、前記窒化アルミニウムの表面に酸化アルミニウム被膜が形成される、導体ペースト。
[2]’ 前記扁平状の粉末は、メジアン径が4.0~10.0μmであり、かつ、アスペクト比が1.8~10.0である、前記[1]’に記載の導体ペースト。
[3]’ 前記窒化アルミニウムが、メジアン径0.5μm以上10.0μm未満の粉末である、前記[1]’又は[2]’に記載の導体ペースト。
[4]’ 前記銀導体及び前記窒化アルミニウムの合計に対する前記窒化アルミニウムの割合が1.3~10質量%である、前記[1]’~[3]’のいずれか1に記載の導体ペースト。
[5]’ 前記[1]’~[4]’のいずれか1に記載の導電ペーストが充填された、セラミックス基板又はガラスセラミックス基板。
【0054】
[6]’ 電子部材に用いられる導体部材であって、前記導体部材は銀導体と窒化アルミニウムとを含み、前記銀導体における銀は扁平状であり、前記窒化アルミニウムの表面に酸化アルミニウム被膜が形成されている、導体部材。
[7]’ 前記酸化アルミニウム被膜がγ-アルミナの被膜である、前記[6]’に記載の導体部材。
[8]’ 前記窒化アルミニウムと前記酸化アルミニウム被膜の合計に対する、前記酸化アルミニウム被膜の割合が10.0質量%以上である、前記[6]’又は[7]’に記載の導体部材。
[9]’ 前記[6]’~[8]’のいずれか1に記載の導体部材を含む、セラミックス基板又はガラスセラミックス基板。
【0055】
[10]’ 電子部材に用いられる導体ペーストの製造方法であって、扁平状の銀粉末を用意すること、還元窒化法により得られた窒化アルミニウムを用意すること、及び前記銀粉末と前記窒化アルミニウムとを、ビヒクルの存在下で混合すること、を含む、導体ペーストの製造方法。
[11]’ 前記扁平状の銀粉末は、メジアン径が4.0~10.0μmであり、かつ、アスペクト比が1.8~10.0である銀粉末を用いる、前記[10]’に記載の導体ペーストの製造方法。
[12]’ 前記窒化アルミニウムは、メジアン径0.5μm以上10.0μm未満の粉末を用いる、前記[10]’又は[11]’に記載の導体ペーストの製造方法。
[13]’ 前記混合において、前記銀導体及び前記窒化アルミニウムの合計に対する前記窒化アルミニウムの割合を1.3~10質量%とする、前記[10]’~[12]’のいずれか1に記載の導体ペーストの製造方法。
【実施例0056】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
例1~例6は実施例であり、例7~例9は比較例である。
【0057】
[例1~例5]
扁平状の銀粉末(福田金属箔粉工業社製、Ag-HWF-6、メジアン径6.024μm、アスペクト比2.5)と、還元窒化法で得られた窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、AlNフィラーHF-01D、メジアン径1.0μm、アスペクト比1.0~1.5)とを表1に記載の質量比で調合し、固形分濃度が質量百分率表示で90%となるように、ビヒクル(日新化成社製、EC-200 FTR)に分散した後、磁器乳鉢中で1時間混練を行い、さらに三本ロールにて3回分散を行うことで、導体ペーストを得た。
【0058】
[例6]
還元窒化法で得られた窒化アルミニウム粉末をメジアン径5.0μmのもの(トクヤマ社製、HF-05、メジアン径5.0μm、アスペクト比1.0~1.5)に変更して表1に記載の質量比で調合した以外は、例1と同様にして、導体ペーストを得た。
【0059】
[例7]
窒化アルミニウムを用いなかった以外は例1と同様にして導体ペーストを得た。
【0060】
[例8、例9]
扁平状の銀粉末に代えて、球状の銀粉末(三井金属鉱業社製、SPN25J、メジアン径2.97μm)を用い、表1に記載の質量比で調合した以外は、例1と同様にして、導体ペーストを得た。
【0061】
[評価:体積膨張率]
得られた導体ペーストを、アプリケータにより100μmの厚みに塗布し、乾燥機にて、大気下、70℃に1時間保持して乾燥後、5mm角の正方形に切り出したもの測定用サンプルとした。
測定用サンプルを5mm角の一対のアルミナ片で挟み、熱機械分析(島津製作所製、TMA-50)装置を用いて、25℃から850℃まで10℃/minで昇温し、導体部材を得た。体積膨張率の測定にあたり、樹脂成分の影響を取り除くため、300℃における体積を100%とした時の、850℃における体積変化を、表1の「体積変化率」に示す。
【0062】
[評価:酸化アルミニウム被膜量]
得られた導体ペースト1.0gを乾燥機にて、大気下、120℃に3時間保持して有機成分を除去した後、酸化アルミニウム乳鉢・乳棒にて粉砕し粉末を得た。その粉末を直径9mmの一軸加圧用金型に充填し、10MPa、1分間の加圧を行い、成形体を得た。その成形体を850℃、30分間焼成し測定用サンプルを得た。
上記で得られた測定用サンプルについて、窒化アルミニウムの断面を走査型電子顕微鏡及びエネルギー分散型蛍光X線分析装置(日立ハイテクノロジーズ社製、S-4300)で観察し、酸化アルミニウム被膜の形成の有無を確認した。そして、酸化アルミニウム被膜の割合を、熱重量測定(島津製作所社製、TGA-50)を用いた熱重量分析により、重量変化から算出した。熱重量分析の条件は、雰囲気を大気下、窒化アルミニウム重量を56.0mgとして白金坩堝に充填し、測定温度25℃から900℃の範囲内で、昇温速度を10℃/minとした。結果を表1の「アルミナ量 %」に示す。なお、例1~例6、例8、例9で得られた酸化アルミニウム被膜は、いずれもγ-アルミナの被膜であることが確認された。
【0063】
【0064】
上記結果から、扁平状の銀粉末と、焼成して導体部材とした際に表面に酸化アルミニウム被膜が形成される窒化アルミニウムと、を含む導体ペーストとすることで、加熱焼成する際の体積収縮率が低減されたことが分かった。かかる効果は、窒化アルミニウムを含まない例7の導体ペースト、また、球状の銀粉末を用いた例8、例9の導体ペーストでは得られなかった。
銀の粉末が扁平状であることにより、導体ペーストを塗布した際に、基板の平面方向、すなわちX-Y方向に沿って銀粉末の扁平面が並ぶ。そうすると、同X-Y方向で銀の粉末同士が接する面が、その曲率の高さ故に小さくなる。そこに窒化アルミニウムが添加されると、窒化アルミニウムの融点が2200℃と高温であることから、焼成による収縮が非常に効果的に抑制された、体積変化率が100%超、すなわち体積膨張も可能となったと考えられる。また、還元窒化法で作製された窒化アルミニウムは、他の窒化法、例えば直接窒化法により作製された窒化アルミニウムよりも耐酸化性が高く、収縮をより抑制すると考えられる。