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  • 特開-乳化組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163162
(43)【公開日】2023-11-09
(54)【発明の名称】乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/262 20160101AFI20231101BHJP
   A23L 27/60 20160101ALI20231101BHJP
   A23D 7/005 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
A23L29/262
A23L27/60 A
A23D7/005
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071991
(22)【出願日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2022073255
(32)【優先日】2022-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】須藤 貴音
(72)【発明者】
【氏名】新延 信吾
【テーマコード(参考)】
4B026
4B041
4B047
【Fターム(参考)】
4B026DG01
4B026DL03
4B026DP01
4B026DX03
4B041LC06
4B041LC10
4B041LD10
4B041LH11
4B047LE02
4B047LG03
4B047LG11
4B047LG15
4B047LG23
4B047LG27
4B047LG29
4B047LG32
4B047LG35
4B047LG39
4B047LG49
4B047LG60
4B047LG62
4B047LG66
4B047LP02
4B047LP04
4B047LP05
4B047LP06
4B047LP20
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、卵及びアレルゲン物質を含まなくとも、冷凍食品の調味料として使用可能な乳化組成物を提供することにある。
【解決手段】
上記目的は、粘度が異なる2種類以上のメチルセルロースからなるメチルセルロース混合物を含み、前記メチルセルロース混合物の20℃における2質量%水溶液の粘度が300mPa・s~10,000mPa・sであり、かつ60℃における周波数1Hz及びひずみ1%の条件にて測定した2質量%水溶液の損失正接が2.5以下である乳化組成物等により解決される。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度が異なる2種類以上のメチルセルロースからなるメチルセルロース混合物を含み、
前記メチルセルロース混合物の20℃における2質量%水溶液の粘度が300mPa・s~10,000mPa・sであり、かつ60℃における周波数1Hz及びひずみ1%の条件にて測定した2質量%水溶液の損失正接が2.5以下である乳化組成物。
【請求項2】
前記メチルセルロース混合物におけるメチルセルロースは、20℃における2質量%水溶液の粘度が4mPa・s~500mPa・sである第一のメチルセルロース及び20℃における2質量%水溶液の粘度が4,000mPa・s~110,000mPa・sである第二のメチルセルロースである請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項3】
前記メチルセルロース混合物における前記第一のメチルセルロース及び前記第二のメチルセルロースの質量比率(第一のメチルセルロース:第二のメチルセルロース)は、1.5:8.5~8.5:1.5である請求項2に記載の乳化組成物。
【請求項4】
前記メチルセルロース混合物の含有量は、前記乳化組成物の総量に対して、0.1質量%~5質量%である請求項1~3のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項5】
さらに調味料を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項6】
卵を含まない請求項1~3のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項7】
乳化剤を含まない請求項1~3のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マヨネーズは、卵を含み、かつ油脂、水、酢、塩等の調味料を含む水中油型エマルションの半固体状ドレッシングである。マヨネーズにおいて、卵黄は風味や乳化力において重要な役割を果たしている。
【0003】
一方で、卵アレルギーを有する者、ビーガン(完全菜食主義者)などは、卵を含有するマヨネーズを食することができず、又は倦厭している。そこで、これらの者に対して、卵不使用のマヨネーズ様ドレッシングが開発及び報告されている。
【0004】
例えば、卵を使用しないマヨネーズ様ドレッシングとして、低粘度の水溶性セルロースエーテルを含む乳化型ドレッシング(特許文献1)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと賦形剤とを組み合わせて含む低脂肪マヨネーズ組成物(特許文献2)などが報告されている。
【0005】
さらに、近年の共働き世帯の増加、ライフスタイルの多様化、外出自粛による自宅での食事回数の増加等から、電子レンジの加熱によって簡単に調理できる冷凍食品のニーズがより一層増大している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-209288号公報
【特許文献2】特表2014-533101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
冷凍食品に用いられる調味料は、冷解凍が可能であるように、冷蔵安定性だけでなく冷凍解凍耐性も求められている。しかしながら、本発明者らが調べたところによれば、冷凍食品に使用する場合、特許文献1に記載の乳化型ドレッシングは、耐熱性が不十分であった。
【0008】
また、特許文献2に記載の低脂肪マヨネーズ組成物は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースに加えて、保形性及び安定性を付与するために、分離大豆蛋白、脱脂粉乳等の賦形剤を含む。しかし、近年は食物アレルギー等を引き起こすアレルゲン物質を含まないアレルゲンフリー食品の需要が高まっているところ、特許文献2に記載の低脂肪マヨネーズ組成物に含まれる賦形剤は、アレルゲン物質である。そのため、アレルゲン物質を含まなくとも、マヨネーズの保形性及び安定性を達成できることが求められる。
【0009】
したがって、本発明は、卵及びアレルゲン物質を含まなくとも、冷凍食品の調味料として使用可能な乳化組成物を提供することを、本発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、粘度が異なる2種類以上のメチルセルロースからなるメチルセルロース混合物を含み、さらに該メチルセルロース混合物を特定の性質にすることによって、乳化状態が安定な乳化組成物を製造することに成功した。
【0011】
また、本発明者らは、得られた乳化組成物を、冷凍後に、自然解凍及び電子レンジでの解凍に供したところ、驚くべきことに、いずれの場合においても油の分離及び破裂がみられないことを見出した。そして、本発明者らは、遂に、本発明の課題を解決するものとして、粘度が異なる2種類以上のメチルセルロースからなるメチルセルロース混合物を含み、さらに該メチルセルロース混合物が特定の性質を有する乳化組成物を創作することに成功した。本発明は、本発明者らによる成功例及び初めて見出された知見に基づいて完成されたものである。
【0012】
したがって、本発明によれば、以下の各態様が提供される:
[1]粘度が異なる2種類以上のメチルセルロースからなるメチルセルロース混合物を含み、前記メチルセルロース混合物の20℃における2質量%水溶液の粘度が300mPa・s~10,000mPa・sであり、かつ60℃における周波数1Hz及びひずみ1%の条件にて測定した2質量%水溶液の損失正接が2.5以下である乳化組成物。
[2]前記メチルセルロース混合物におけるメチルセルロースは、20℃における2質量%水溶液の粘度が4mPa・s~500mPa・sである第一のメチルセルロース及び20℃における2質量%水溶液の粘度が4,000mPa・s~110,000mPa・sである第二のメチルセルロースである[1]に記載の乳化組成物。
[3]前記メチルセルロース混合物における前記第一のメチルセルロース及び前記第二のメチルセルロースの質量比率(第一のメチルセルロース:第二のメチルセルロース)は、1.5:8.5~8.5:1.5である[2]に記載の乳化組成物。
[4]前記メチルセルロース混合物の含有量は、前記乳化組成物の総量に対して、0.1質量%~5質量%である[1]~[3]のいずれか1項に記載の乳化組成物。
[5]さらに調味料を含む[1]~[4]のいずれか1項に記載の乳化組成物。
[6]卵を含まない[1]~[5]のいずれか1項に記載の乳化組成物。
[7]乳化剤を含まない[1]~[6]のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、卵及びアレルゲン物質を含まなくとも、冷凍食品の調味料として使用可能であるように、耐冷凍性及び耐熱性に優れた乳化組成物を提供することができる。また、本発明の一態様の乳化組成物は、卵及びアレルゲン物質を含まなくとも、冷解凍にかかわらず、保形性及び乳化安定性が優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、後述する実施例に示すとおりの、実施例5及び比較例2の乳化組成物の撮影写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0016】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、食品分野等の当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測及び理論は、本発明者らのこれまでの知見及び経験によってなされたものであることから、本発明はこのような推測及び理論のみによって拘泥されるものではない。
【0017】
「組成物」は、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、2種以上の成分が組み合わさってなる物である。
「及び/又は」との用語は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
「含有量」は、濃度及び使用量(加えた量)と同義であり、組成物の全体量に対する成分の量の割合を意味する。成分の含有量の総量は、100%を超えることはない。
数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0%~100%」は、0%以上であり、かつ、100%以下である範囲を意味する。「超過」及び「未満」は、その前の数値を含まずに、それぞれ下限及び上限を意味し、例えば、「1超過」は1より大きい数値であり、「100未満」は100より小さい数値を意味する。
「含む」は、含まれるものとして明示されている要素以外の要素を付加できることを意味する(「少なくとも含む」と同義である)が、「からなる」及び「から本質的になる」を包含する。すなわち、「含む」は、明示されている要素及び任意の1種若しくは2種以上の要素を含み、明示されている要素からなり、又は明示されている要素から本質的になることを意味し得る。要素としては、成分、工程、条件、パラメーター等の制限事項等が挙げられる。
「乳化型ドレッシング」は、水中油滴型に乳化した半固体状の調味料(半固体状ドレッシング)及び乳化液状の調味料(乳化液状ドレッシング)を指し、それぞれ食品表示法に基づく「食品表示基準」(平成27年内閣府令第10号)において定義されているものを意味する。「マヨネーズ」についても同様である。
【0018】
整数値の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、1の有効数字は1桁であり、10の有効数字は2桁である。また、小数値は小数点以降の桁数と有効数字の桁数は一致する。例えば、0.1の有効数字は1桁であり、0.10の有効数字は2桁である。
【0019】
本明細書では、20℃における2質量%水溶液の粘度が4mPa・s~500mPa・sであるメチルセルロース(以下、「MC」ともいう)を第一のMCともよび、20℃における2質量%水溶液の粘度が4,000mPa・s~110,000mPa・sであるMCを第二のMCともよぶ。
【0020】
本発明の一態様の乳化組成物は、粘度が異なる2種類以上のMCからなるMC混合物を含み、さらに該MC混合物が特定の性質を有することに特徴がある。
【0021】
MCは、一般的に、増粘剤として利用される。比較的高粘度のMCは、加温した際のゲルがより弾性的であり、油の移動を抑制して、油の分離を抑制するように機能すると推測される。そこで、比較的高粘度のMCを含むことにより、乳化組成物は、耐熱性に優れる。しかし、本発明者らが調べたところによれば、このような乳化組成物は、乳化剤を含まない場合、非加温時におけるゲル弾性の低さのために乳化状態が不安定になり、遂には油が合一して、水相と分離する傾向にあった。
【0022】
本発明者らは、比較的高粘度のMCの効果を補うような成分を模索するうちに、比較的低粘度のMCに着眼した。すなわち、比較的低粘度のMCは、界面活性作用も有するので、乳化を促進し、乳化時の油滴径を小さく維持して、油の合一及び分離を抑制するように機能するのではないかと考えた。ただし、比較的低粘度のMCのみでは、得られる乳化組成物は、加熱後に得られるゲルの耐熱性が弱くなり、遂には油が合一して水相と分離する傾向にあった。
【0023】
乳化組成物の耐熱性は、乳化安定性及び加熱後に得られるゲルの弾性度合い(損失正接)のバランスに影響を受けると考えられる。そして、比較的高粘度のMC及び比較低粘度のMCのいずれか一方のみを用いては良好なバランスを形成することができなかったが、これらの両方を含むことにより良好なバランスを形成し、乳化組成物は優れた耐熱性を示すようになる。したがって、本発明の一態様の乳化組成物は、粘度が異なる2種類以上のMCからなるMC混合物を含み、さらに該MC混合物が特定の性質を有することにより、乳化状態を安定に保持しながらも、耐熱性を有し、さらに耐冷凍性を有するようになる。
【0024】
<メチルセルロース(MC)>
MCはセルロースにメトキシ基を導入してなる水溶性のセルロースエーテルである。MC混合物を構成する2種類以上のMCは、相互に異なる粘度を有するものであれば特に限定されないが、第一のMC及び第二のMCを含むことが好ましい。
【0025】
第一のMCは、20℃における2質量%水溶液の粘度が4mPa・s~500mPa・sであればよいが、例えば、乳化安定性及びMC混合物に付与する粘度の観点から、20℃における2質量%水溶液の粘度が好ましくは4mPa・s~450mPa・sであり、より好ましくは10mPa・s~200mPa・sである。
【0026】
第二のMCは、20℃における2質量%水溶液の粘度が4,000mPa・s~110,000mPa・sであればよいが、例えば、乳化安定性及びMC混合物に付与する粘度の観点から、20℃における2質量%水溶液の粘度が好ましくは4,000mPa・s~90,000mPa・sであり、より好ましくは4,000mPa・s~85,000mPa・sであり、さらに好ましくは4,500mPa・s~80,000mPa・sである。
【0027】
粘度が異なる2種類以上のMCからなる、好ましくは第一のMCと第二のMCとからなるMC混合物は、粘度及び損失正接が特定の範囲内にある。
【0028】
MC混合物は、20℃における2質量%水溶液の粘度が300mPa・s~10,000mPa・sであればよいが、例えば、好ましくは400mPa・s~6,000mPa・sであり、より好ましくは500mPa・s~4,500mPa・sであり、さらに好ましくは1,000mPa・s~4,500mPa・sである。MC混合物は、20℃における2質量%水溶液の粘度が300mPa・s未満である場合は、乳化組成物に十分な粘度を付与できず、乳化組成物は十分な安定性を示すことができない。一方、MC混合物は、20℃における2質量%水溶液の粘度が10,000mPa・sを超える場合は、耐熱性及び耐冷凍性の以前に、乳化組成物が加温時に硬くなりすぎること、喫食時に糊状感を感じること等、好ましくない食感及び口当たりとなり、喫食に適さないものになる。
【0029】
MC及びMC混合物の20℃における2質量%水溶液の粘度は、後述する実施例に記載があるとおり、粘度が300mPa・s未満の場合においてはウベローデ粘度計を用い、粘度が300mPa・s以上の場合においては単一円筒型回転粘度計を用いて、それぞれ測定される。
【0030】
MC混合物は、60℃における周波数1Hz及びひずみ1%の条件にて測定した2質量%水溶液の損失正接が2.5以下であればよいが、例えば、耐熱性の観点から、好ましくは0.01~2.40であり、より好ましくは0.1~2.40である。上記損失正接が2.5を超える場合は、MC混合物の乳化組成物への弾性の寄与が小さくなるために保形性が損なわれ、乳化組成物において油滴の合一が生じやすく、乳化破壊が生じ、結果として耐熱性が損なわれる傾向にある。
【0031】
MC混合物について、60℃における周波数1Hz及びひずみ1%の条件での2質量%水溶液の損失正接は、後述する実施例に記載があるとおり、AntonPaar社のMCR301などのレオメータを用いて測定される。
【0032】
MC混合物を構成するMCは、その他の性質については特に限定されないが、本発明の課題解決を妨げない性質であることが好ましい。例えば、MCにおけるメトキシ基の量は、乳化組成物の乳化性及び耐熱性の観点から、好ましくは20質量%~40質量%であり、より好ましくは25質量%~35質量%であり、さらに好ましくは26質量%~33質量%であり、なおさらに好ましくは28質量%~31質量%である。
【0033】
MCにおけるメトキシ基の置換度(Degree of substitution;DS)は、乳化組成物の乳化性及び耐熱性の観点から、好ましくは1.00~2.10であり、より好ましくは1.40~2.05であり、さらに好ましくは1.60~2.00であり、なおさらに好ましくは1.70~1.90である。なお、MCにおけるメトキシ基のDSは、無水グルコース1単位当たりのメトキシ基の平均個数をいう。
【0034】
MCにおけるメトキシ基の量及びDSは、後述する実施例に記載があるとおり、第十八改正日本薬局方のメチルセルロースに関する測定方法を用いて測定した値及び該値を換算することによって求める。
【0035】
MC混合物が第一のMC及び第二のMCからなる場合、MC混合物における第一のMCと第二のMCとの質量比率(第一のメチルセルロース:第二のメチルセルロース)は特に限定されないが、例えば、乳化安定性及び増粘性の観点から、好ましくは1.5:8.5~8.5:1.5であり、より好ましくは2.0:8.0~8.0:2.0、2.5:7.5~7.5:2.5又は0.3:1.7~0.5:1.5である。このように、得られる乳化組成物が良好な耐熱性を示し得るために、MC混合物において、第一のMC及び第二のMCが量的にバランスをとることが好ましい。
【0036】
乳化組成物におけるMC混合物の含有量は、本発明の課題を解決し得る量であれば特に限定されないが、例えば、乳化組成物の粘度及び乳化安定性の観点から、乳化組成物の総量に対して、好ましくは0.1質量%~5質量%であり、より好ましくは0.2質量%~4質量%であり、さらに好ましくは0.3質量%~2.5質量%である。
【0037】
MCの入手方法は特に限定されず、これまでに知られている製造方法によって製造してもよく、市販品として入手してもよい。
【0038】
MCの製造方法としては、セルロースパルプにアルカリを反応させてアルカリセルロ-スを得て、次いで得られたアルカリセルロースをメチル化剤と反応させて反応物を得て、次いで得られた反応物を洗浄、乾燥、粉砕等の処理に供することにより、メチルセルロースとして調製することができる。
【0039】
<MC以外の成分>
本発明の一態様の乳化組成物は、MCに加えて、油脂及び水を含む。
【0040】
油脂は、通常の乳化型ドレッシングに含まれる油脂であればよく、例えば、植物由来の油脂が挙げられ、具体的には、ヤシ油、パーム油、大豆油、菜種油、米油、綿実油、コーン油、ひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、カポック油、サラダ油及びパーム核油等が挙げられるが、マヨネーズ及びマヨネーズ様ドレッシングとして汎用されているオリーブ油、パーム油、大豆油、菜種油、米油、コーン油、ひまわり油及びサラダ油が好ましい。
【0041】
油脂の含有量は、通常の乳化型ドレッシングに使用される量であれば特に限定されないが、例えば、程良い乳化組成物を形成するために、好ましくは20質量%~70質量%であり、より好ましくは25質量%~60質量%であり、さらに好ましくは25質量%~50質量%である。
【0042】
水は、通常の乳化型ドレッシングの調製に使用される水であれば特に限定されないが、例えば、イオン交換水、蒸留水、水道水等が挙げられる。また、水溶性セルロースエーテルであるMCを溶解し得る限り、水は、塩、水溶性高分子等の成分を含んだ水溶液であってもよい。
【0043】
水の含有量は、通常の乳化型ドレッシングに使用される量であれば特に限定されないが、例えば、油脂と分離しないためには、好ましくは5質量%~80質量%であり、より好ましくは10質量%~70質量%であり、さらに好ましくは12質量%~60質量%である。
【0044】
本発明の一態様の乳化組成物は、風味を豊かなものにするために、調味料を含んでもよい。調味料としては、例えば、塩、酢、砂糖、ステビア製剤等の甘味料、醤油、味噌、グルタミン酸ナトリウムなどのアミノ酸、酵母エキス、リボヌクレオチド等が挙げられる。調味料の含有量は特に限定されないが、例えば、好ましくは0質量%~25質量%であり、より好ましくは5質量%~20質量%であり、さらに好ましくは8質量%~15質量%である。
【0045】
本発明の一態様の乳化組成物は、所望の性質を備えるために、その他の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、通常の乳化型ドレッシングに含まれる成分などが挙げられ、具体的には、香辛料、乳化剤、増粘剤、着色料、保存料、酸化防止剤、野菜ピューレ、果汁等が挙げられる。
【0046】
ただし、本発明の一態様の乳化組成物は、卵アレルギーその他の食物アレルギーの保有者にも喫食されるために、従来のマヨネーズ及びマヨネーズ様ドレッシングで使用される、小麦、卵、乳、大豆に由来するアレルゲン物質を実質的に含まないことが好ましい。また、天然志向の高まりの観点から、MC以外の乳化剤を実質的に含まないことが好ましい。さらに、ビーガン用途とする場合には、ゼラチン等の動物性由来の物質を実質的に含まないことが好ましい。
【0047】
アレルゲン物質等を「実質的に含まない」とは、アレルゲン物質等以外の成分とともにアレルゲン物質等を含む原料や製造工程等によって不可避的にアレルゲン物質等が混入される場合を除き、意図的に含有させないことを意味する。したがって、「実質的に含まない」は、完全に含まないか、或いは仮に含まれていても極微量であることを意味し、アレルゲン物質等の含有量は0質量%~0.1質量%であることが好ましい。
【0048】
香辛料としては、例えば、胡椒、芥子、唐辛子、カルダモン、シナモン、サフラン、コリアンダ─、ナツメグ、パセリ、バジル、セ─ジ、タイム、オレガノ、ディル、ガーリックパウダー、オニオンパウダー等が挙げられる。
【0049】
乳化剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0050】
増粘剤としては、例えば、加工澱粉、未加工澱粉、グアーガム、キサンタンガム、タマリンシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、プルラン、寒天、ゼラチン、微結晶セルロース等が挙げられる。
【0051】
着色料としては、例えば、グルクミン、カロチン、クロチン等が挙げられる。
【0052】
保存料としては、例えば、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0053】
酸化防止剤としては、例えば、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、γ-オリザノール、カテキン、dl-α-トコフェロール、酢酸トコフェロール等が挙げられる。
【0054】
野菜ピューレは、野菜を磨り潰すなどして得られる半液体状の野菜加工食品を意味する。野菜ピューレに使用可能な野菜としては、例えば、パプリカ、ピーマン、トマト、玉ねぎ、人参、ゴボウ、キュウリ、ナス、キャベツ、ホウレンソウ、セロリ、モロヘイヤ、ケール、アスパラガス、ブロッコリー、カリフラワー、アボカド等が挙げられる。
【0055】
果汁としては、例えば、レモン果汁、ライム果汁、すだち果汁、柚子果汁等が挙げられる。
【0056】
添加剤は、上記したものの1種の単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。添加剤の含有量は、本発明の課題解決が妨げられない限り特に限定されないが、例えば、好ましくは0質量%~80質量%であり、より好ましくは0.001質量%~75質量%であり、さらに好ましくは0.01質量%~70質量%であり、なおさらに好ましくは0.01質量%~60質量%又は0.01質量%~50質量%である。
【0057】
<乳化組成物の特性>
本発明の一態様の乳化組成物は、粘度が異なる2種類以上のMCからなるMC混合物を含み、さらに該MC混合物が20℃における2質量%水溶液の粘度及び60℃における周波数1Hz及びひずみ1%の条件にて測定した2質量%水溶液の損失正接が上記した所定の範囲内にあるのであれば、その他の性質については特に限定されない。
【0058】
本発明の一態様の乳化組成物は、耐熱性及び耐冷凍性を兼ね備えることに特徴がある。本発明の一態様の乳化組成物は、MC混合物、水及び油脂のみを含む場合は、-15℃では凍結して、氷のような状態になる。また、本発明の一態様の乳化組成物は、MC混合物、水及び油脂に加えて、調味料及び/又は添加剤を含む場合は、-15℃では凍ってはいるものの、アイスクリームのような少し軟らかさのある状態になる。一方、本発明の一態様の乳化組成物は、凍結状態から、室温又は電子レンジにて解凍した場合、エマルション状態になる。この際、本発明の一態様の乳化組成物において、水相と油相とが分離せず、それらが混ざり合い、均一化した乳化状態が保たれる。
【0059】
本発明の一態様の乳化組成物における耐熱性及び耐冷凍性は、後述する実施例に記載の方法により、良好であるものとして評価される程度であればよい。
【0060】
<乳化組成物の製造方法>
本発明の一態様の乳化組成物は、MC混合物、水及び油脂、並びに任意に調味料及び添加剤を混合することにより得られる。この際、各成分の添加順序等は特に限定されず、任意の方法で製造することができるが、例えば、MCを均一に分散するために、MC混合物と油脂とを混合した後で、水、調味料及び添加剤を添加して混合することが好ましい。MCの溶解を良好にするために、水、調味料及び添加剤は冷却したもの、又は冷却しながらこれらを添加することが好ましい。
【0061】
例えば、本発明の一態様の乳化組成物は、第一のMC及び第二のMCからなるMC混合物と油脂とを混合して、油脂中にMCが分散したMC懸濁液を得て、次いで氷冷下又は室温下でMC懸濁液と水並びに任意に調味料及び添加剤とを混合して、次いで起泡時には脱泡することにより、水中油滴型に乳化した半固体状又は乳化液状の乳化組成物として得られる。
【0062】
本発明の一態様の乳化組成物の製造方法の具体例としては、後述する実施例に記載の方法などが挙げられる。
【0063】
<乳化組成物の用途>
本発明の一態様の乳化組成物の用途は特に限定されない。例えば、本発明の一態様の乳化組成物は、調味料成分を含有することができることから、乳化型ドレッシングとして使用でき、さらに耐熱性及び耐冷凍性を兼ね備えることから、冷凍食品、惣菜、弁当、加熱調理食品などに使用される乳化型ドレッシングとして使用できる。また、本発明の一態様の乳化組成物の形状は限定されず、半固体状であっても、液状であってもいずれでもよいが、半固体状であることが好ましい。本発明の一態様の乳化組成物が半固体状である場合は、卵を含有しないマヨネーズ様ドレッシング、サラダクリーミードレッシングなどとして使用できる。
【0064】
<本発明の別の態様>
本発明の一態様の乳化組成物は、乳化状態を安定に保持しながらも、冷凍後に、自然解凍及び電子レンジでの解凍のいずれにおいても、油の分離及び破裂がみられないという特徴を有する。また、このような特徴は、調味料及び添加剤を含有する場合であっても同様である。このような特徴から、本発明の別の側面として、以下の各態様が提供される:
粘度が異なる2種類以上のメチルセルロースからなるメチルセルロース混合物、油脂、水及び調味料を含み、前記メチルセルロース混合物の20℃における2質量%水溶液の粘度が300mPa・s~10,000mPa・sであり、かつ60℃における周波数1Hz及びひずみ1%の条件にて測定した2質量%水溶液の損失正接が2.5以下である調味用乳化組成物;
前記調味用乳化組成物と食材とを含む、冷凍食品;
食材を、前記調味用乳化組成物を用いて調理して、冷凍食品を得ることを含む、冷凍食品の製造方法;
粘度が異なる2種類以上のメチルセルロースからなるメチルセルロース混合物を含む乳化組成物の耐熱性及び/又は耐冷凍性改善用組成物であって、前記メチルセルロース混合物の20℃における2質量%水溶液の粘度が300mPa・s~10,000mPa・sであり、かつ60℃における周波数1Hz及びひずみ1%の条件にて測定した2質量%水溶液の損失正接が2.5以下である前記組成物;
乳化組成物に粘度が異なる2種類以上のメチルセルロースからなるメチルセルロース混合物を添加することを含む乳化組成物の耐熱性及び/又は耐冷凍性の改善方法であって、前記メチルセルロース混合物の20℃における2質量%水溶液の粘度が300mPa・s~10,000mPa・sであり、かつ60℃における周波数1Hz及びひずみ1%の条件にて測定した2質量%水溶液の損失正接が2.5以下である前記方法;及び
粘度が異なる2種類以上のメチルセルロースからなるメチルセルロース混合物を含む乳化剤であって、前記メチルセルロース混合物の20℃における2質量%水溶液の粘度が300mPa・s~10,000mPa・sであり、かつ60℃における周波数1Hz及びひずみ1%の条件にて測定した2質量%水溶液の損失正接が2.5以下である前記乳化剤。
【実施例0065】
以下、本発明を実施例及び比較例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例又は比較例によって限定されるものではない。
【0066】
<乳化組成物の調製>
[使用材料]
MCは、表1に記載のサンプル(全て、信越化学工業社製)を用いた。水は、水道水を用いた。油脂は、オリーブオイル(「LOLIERA」;日清オイリオグループ社製)を用いた。酢は、高酸度酢(「特濃穀物酢」(酸度8.4%);ミツカン社製)を用いた。食塩は、塩(「伯方の塩」;伯方塩業社製)を用いた。砂糖は、上白糖(「ママ印上白糖」;三井製糖社製)を用いた。
【0067】
その他の食材として、黄パプリカ、ワキシーコーン加工澱粉(「マプス449」;日本食品化工社製)、グルタミン酸ナトリウム(Na)(「バーテックスIG20」;富士食品社製)、リボヌクレオチド(「リボタイド」;三菱商事ライフサイエンス社製)、酵母エキス(「バーテックスIG20」;富士食品社製)、洋からし(「からし」;エスビー食品社製)、及びステビア製剤(「ハイステビア500」;池田糖化社製)を用いた。
【0068】
[実施例1]
ボウルに、計量したオリーブオイル30.0gを添加し、次いで表2に記載されているとおりに計量した第一のMC及び第二のMCの粉末を添加した。得られた混合物を、ハンドミキサー(「DL-2392」;貝印社製)を用いて1分間撹拌し(ハンドミキサーの速度を目盛り「1」に設定)、MCをオイル中に良く分散させて、MC懸濁液を得た。
【0069】
得られたMC懸濁液の入ったボウルを氷冷しつつ、ハンドミキサーの速度を目盛り「2」に設定して撹拌した。撹拌した状態で冷水68.0gをボウルに加えて、さらに1分間撹拌した。次いで、ハンドミキサーの速度を目盛り「5」に設定して、更に1分間撹拌した。得られた混合物を、1,000rpmで10分間の遠心分離処理に供することにより脱泡して、乳化組成物を得た。
【0070】
[実施例2~8及び比較例1~3]
第一のMC及び第二のMCの粉末を、表2に記載の第一のMC及び第二のMCの粉末に変更した以外は、実施例1と同様にして、乳化組成物を得た。なお、比較例1に関しては、第三のMCの粉末も用いた。
【0071】
[実施例9及び10]
ボウルの中で加工澱粉15.0gを水68.5gに溶き、水溶き澱粉を調製した。黄パプリカの種と芯を取り除き、3分間フードミキサー(「クイジナートフードプロセッサーDLC-8P2-J」;コンエアージャパン合同社製)にかけて、ピューレ状にした。ボウルに入れたピューレ状のパプリカ200.0gと水溶き澱粉83.5gとの混合物を、80℃で3分間加熱撹拌し、歩留まりが100%となるように蒸発した分だけ加水調整してピューレ液を得た。得られたピューレ液を充填した袋を、95℃にて20分間加熱殺菌し、冷蔵庫で一晩冷却した。
【0072】
また、オリーブ油に、表3に記載のとおりに第一のMC及び第二のMCの粉末を分散させ、MC懸濁液を調製した。フードミキサーに、ピューレ液、塩、酢、砂糖、グルタミン酸ナトリウム、リボヌクレオチド、酵母エキス、洋からし、ステビア製剤及びMC懸濁液を順次添加し、全ての添加を終えてから5分間撹拌し、次いで真空脱泡することにより、マヨネーズ様ドレッシングである実施例9の乳化組成物を得た。乳化組成物における各成分の含有量は、表3に示すとおりである。
【0073】
実施例9の乳化組成物と同様にして、表4に示す各成分を用いて、実施例10の乳化組成物を得た。
【0074】
<評価項目>
[MC及びMC混合物の粘度]
MC及びMC混合物の粘度について、調製した2質量%水溶液の20℃における粘度を、第十八改正日本薬局方に記載の一般試験法の「2.53 粘度測定法」に従い、300mPa・s未満の場合においては「1.第1法 毛細管粘度計法」に則りウベローデ粘度計を用い、及び粘度が300mPa・s以上の場合においては「2.第2法 回転粘度計法」に則り単一円筒型回転粘度計を用いて測定した。
【0075】
なお、MC及びMC混合物の2質量%水溶液を以下のようにして調製した。
MCの換算した乾燥物6.0gに対応する量を広口瓶(直径65mm及び高さ120mmの体積350mlの容器)に正確に量り、熱湯(98℃)を加えて300.0gとした。容器に蓋をした後、かき混ぜ機を用いて、容器内の内容物が均一な分散液となるまで毎分350回転~450回転で20分間かき混ぜた。その後、得られた分散液を、5℃ 以下の水浴中で40分間かき混ぜながら溶解し、2質量%水溶液とした。
【0076】
[MCのメトキシ基の量(MeO)及び置換度(DS)]
MCにおけるメトキシ基のMeOは、第十八改正日本薬局方における項目「メチルセルロース」に記載の定量法に従い測定した。また、MCにおけるメトキシ基のDSは、得られたメトキシ基の量から換算することにより求めた。
【0077】
[損失正接]
MC混合物の損失正接は、調製した2質量%水溶液について、レオメータ「MCR301」(AntonPaar社製)を用いて、以下のようにして測定した。
レオメータの試料測定部を予め5℃に温調した。調製したMC混合物の2質量%水溶液を、CC27測定カップ(直径30mm及び高さ80mmのアルミ製の共軸二重円筒状容器)の標線(25ml)まで注ぎ入れた。測定カップに注いだMC混合物の2質量%水溶液について、周波数を1Hzとし、振幅1%のひずみをボブシリンダー(直径26.7mm及び高さ40.0mm:CC27) によりかけて、測定を開始した。測定部は5℃から1分間に2℃昇温させ、データは毎分1点収集した。試料測定部が60℃に到達したときの損失弾性率に対する貯蔵弾性率の比(割合)を、MC混合物の損失正接(60℃)とした。
【0078】
[耐冷凍性]
乳化組成物4.0gを、直径3cmの円筒型保存容器に移し、-15℃にて2日間冷凍保存した。冷凍保存後の容器を、常温で1時間放置した。放置後の容器内の乳化組成物を目視で観察し、粗大な油滴(油分離)が認められた場合は耐冷凍性が劣るものとして「×」と評価し、油分離が認められなかった場合は耐冷凍性が良好であるものとして「○」と評価した。
【0079】
[耐熱性]
乳化組成物4.0gを、直径3cmの円筒型保存容器に移し、-15℃で2日間冷凍保存した。冷凍保存後の容器を、家庭用電子レンジを用いて、600Wで2分間加熱した。加熱後の容器内の乳化組成物を目視で観察し、目視で明らかな離油(油分離)が認められた場合は耐熱性が劣るものとして「×」と評価し、油分離が認められなかった場合は耐熱性が良好であるものとして「○」と評価した。
【0080】
<評価結果>
用いた第一のMC及び第二のMCについて、20℃における2質量%水溶液の粘度、メトキシ基のDS及びMeOの評価結果を表1に示す。また、MC混合物について、20℃における2質量%水溶液の粘度、60℃における周波数1Hz及びひずみ1%の条件にて測定した2質量%水溶液の損失正接の測定結果、並びに乳化組成物について、耐冷凍性及び耐熱性の評価結果を表2~表4に示す。さらに、実施例5及び比較例2の乳化組成物の調製直後、耐冷凍性評価時の冷凍後常温で1時間放置後、及び耐熱性評価時の冷凍後電子レンジで2分間加熱後の外観を撮影した写真を図1に示す。
【0081】
表2に示すとおり、実施例1~8の乳化組成物は、自然解凍時及びレンジアップ時に油浮きがなく、良好な耐冷凍性及び耐熱性を有していた。同様に、表3及び表4が示すとおり、調味料のみ、又は調味料に加えて野菜ピューレ、増粘剤及び香辛料といった添加物を含む実施例9及び10の乳化組成物もまた、良好な耐冷凍性及び耐熱性を有していた。
【0082】
一方、所定の損失正接を有さないMC混合物を使用した比較例1の乳化組成物では、弾性の寄与が小さく、常温~高温下での油滴の合一が生じ、さらに乳化破壊が生じ易く油の分離が生じた。
【0083】
所定の粘度を有さないMC混合物を使用した比較例2の乳化組成物においては、常温~高温下で十分な乳化組成物の粘度及び弾性が得られず、乳化破壊が進行して、油の分離が生じた。具体的には、代表例として実施例5と比較すると、図1に示すとおり、調製直後は、実施例5及び比較例2の乳化組成物の間で外観上の差異は認められず、両者ともに白味がかかったマヨネーズ様を呈していた。なお、これらはともに、冷凍することにより、黄味がかったマヨネーズ様を呈した。
【0084】
しかし、図1に示すとおり、比較例2の乳化組成物は、冷凍後に常温で1時間おくと粗大な油滴がみられ、冷凍後に電子レンジで加熱すると乳化組成物から離れて存在する油脂(離油)がみられ(矢印に示す部分)、油分離が生じていた。それに対して、実施例5の乳化組成物ではこのような油分離がみられなかった。
【0085】
比較例3の乳化組成物は、比較例1の乳化組成物と同様に、MC混合物の粘度が十分であっても、損失正接が高く、粘性的であることから、加熱時に乳化破壊が生じ易く油の分離が生じた。
【0086】
実施例9の乳化組成物は、市販のマヨネーズである「VEGAN MAYO」(ヘルマンズ社製)よりも風味に優れるものであった。また、市販のディップソースである「ディップソース赤ピーマン」(良品計画社製)と比較すると、味付けが異なるものの、遜色ない風味であった。実施例10の乳化組成物もまた、風味に優れるものであった。
【0087】
以上の結果から、粘度の異なる2種以上のMCを含むMC混合物が所定の粘度及び損失正接を有する乳化組成物は、乳化性が良好であり、さらに耐冷凍性及び耐熱性が優れていることがわかった。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の一態様の乳化組成物は、食品分野等において使用可能であり、乳化状態を安定に保持しながらも、耐熱性及び耐冷凍性を兼ね備えることから、冷凍食品、惣菜、弁当、加熱調理食品などに使用される乳化型ドレッシングとして利用することができる。また、本発明の一態様の乳化組成物は、複雑な工程を経ずとも、簡潔な工程によって製造することができることから、工業的規模で製造することができ、食品分野に限らずに、広く一般に様々な用途で利用することができる。


図1