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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163455
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】反応性官能基を有するポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/44 20060101AFI20231102BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20231102BHJP
   C07K 5/02 20060101ALI20231102BHJP
   C07K 7/02 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
C08G69/44
C07K14/00 ZNA
C07K5/02
C07K7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074390
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】金 栄鎮
【テーマコード(参考)】
4H045
4J001
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045BA10
4H045BA17
4H045BA50
4H045FA10
4J001DA03
4J001DC03
4J001EB03
4J001EB24
4J001EC54
4J001EC84
4J001EE43A
4J001FB03
4J001FC03
4J001GD06
4J001JA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】反応性官能基の導入量が増大したポリマーを提供すること。
【解決手段】分子量が5000~30000g/molであり、下記式(1)で表される繰り返し単位を2~15個有するポリマー。

[式中、複数存在するRは、それぞれ独立して、炭素数2~12のアルキレン基又は下記式(2)で表される基であり、

は、分子量が200~5000g/molのポリオキシエチレン基であり、複数存在するRは、それぞれ独立して、上記式(2)で表される基又は下記式(3)で表される基であり、

は、炭素数2~12のアルキレン基である。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が5000~30000g/molであり、下記式(1)で表される繰り返し単位を2~15個有するポリマー。
【化1】

[式中、
複数存在するRは、それぞれ独立して、炭素数2~12のアルキレン基又は下記式(2)で表される基であり、
【化2】

は、分子量が200~5000g/molのポリオキシエチレン基であり、
複数存在するRは、それぞれ独立して、前記式(2)で表される基又は下記式(3)で表される基であり、
【化3】

は、炭素数2~12のアルキレン基であり、
及びRの少なくとも一方は前記式(2)で表される基であり、
複数存在するRは、それぞれ独立して、アミノ酸の反応性側鎖であり、
前記繰り返し単位中のRの含有量は1.5~2当量であり、
x+yは1であり、
x及びyはいずれも0より大きい]
【請求項2】
がヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種を有する、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
に活性化官能基が修飾された請求項2に記載のポリマー。
【請求項4】
前記活性化官能基がマレイミド基である、請求項3に記載のポリマー。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマーと、ペプチド、抗体、抗原、RNA及びDNAからなる群より選択される少なくとも1種との複合体である、バイオコンジュゲーション生成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性官能基を有するポリマーに関する。より具体的には、本発明は、反応性官能基を有する、ポリエーテルエステルアミド及びポリエーテルエステルウレタンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルエステルウレタンといったポリマーの中には、ゲル、ミセル、ファイバー、フィルム等に成形して、例えばナノバイオ分野、バイオマテリアル分野に適用可能なポリマーがあることが知られている。例えば特許文献1には、ポリエーテルエステルアミド型医療用粘着剤が例示されている。特許文献2には、ドラッグデリバリ-に用いられることのあるPEG(ポリエチレングリコ-ル)の活性化に関する例が示されている。特許文献3には、薬剤等の運搬に用いることが可能な、ポリエステルエーテルアミド骨格を有するポリマーが記載されている。特許文献4には、ポリエステルアミド骨格を有し、薬剤等を運搬可能な化合物が記載されている。
【0003】
また、ポリマーがアミノ酸残基を含有する例も報告されている。例えば、非特許文献1には、アミノ酸の一種であるフェニルアラニンを有するモノマーを用いて合成されるポリエステルアミドが例示されている。非特許文献2では、フェニルアラニンを用いて合成されるポリエステルアミドが報告されている。非特許文献3には、フェニルアラニンを有するモノマー及びアリルグリシンを有するモノマー等の重縮合により得られたポリエステルアミドが例示されている。非特許文献4では、アルギニンを用いて合成されるポリエステルアミドが報告されている。
【0004】
さらに、ポリエステルアミド系化合物に反応性の官能基を付与した例も非特許文献5及び非特許文献6で報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3642912号公報
【特許文献2】米国特許第7125558号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2011/0027379号公報
【特許文献4】国際特許出願第PCT/US2011/027721号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Guo,K., Chu,C.C., et al.(2005), Synthesis and characterization of novel biodegradable unsaturated poly(ester amide)s. J. Polym. Sci. A Polym. Chem.,43:1463.
【非特許文献2】Chen X., Zhao L., et al.(2018)Significant Suppression of Non-small-cell Lung Cancer by Hydrophobic Poly(ester amide) Nanoparticles with High Docetaxel Loading. Front.,Pharmacol. ,9:118.
【非特許文献3】Pang,X., Chu,C.C.,(2010), Synthesis, characterization and biodegradation of poly(ester amide)s based hydrogels. Polymer,51:4200.
【非特許文献4】Gu Z., Wu J. et al. (2018)Poly(ester amide)-based hybrid hydrogels for efficient transdermal insulin delivery.J. Mater. Chem. B, 6:6723.
【非特許文献5】Wit, M.A., Wang, Z. et al. (2008). Syntheses, characterization, and functionalization of poly(ester amide)s with pendant amine functional groups. J. of Polym. Sci. Part A, 46:6376.
【非特許文献6】Ji, Y., Shan, S. et al. (2017)A Novel Pseudo-Protein-Based Biodegradable Nanomicellar Platform for the Delivery of Anticancer Drugs.Small 13:1601491.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~4及び非特許文献1~4に記載されるようなポリマーをナノバイオ分野、バイオマテリアル分野等に適用する場合、適用範囲に限りがあった。
【0008】
また、非特許文献5及び非特許文献6に記載されるようなポリマーは、そのポリマー側鎖に反応性官能基を有するが、反応性官能基の導入量増大の余地があった。
【0009】
本発明は、反応性官能基の導入量が増大したポリマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は次に示す[1]~[5]に関する。
[1]分子量が5000~30000g/molであり、下記式(1)で表される繰り返し単位を2~15個有するポリマー。
【化1】

[式中、
複数存在するRは、それぞれ独立して、炭素数2~12のアルキレン基又は下記式(2)で表される基であり、
【化2】

は、分子量が200~5000g/molのポリオキシエチレン基であり、
複数存在するRは、それぞれ独立して、上記式(2)で表される基又は下記式(3)で表される基であり、
【化3】

は、炭素数2~12のアルキレン基であり、
及びRの少なくとも一方は上記式(2)で表される基であり、
複数存在するRは、それぞれ独立して、アミノ酸の反応性側鎖であり、
上記繰り返し単位中のRの含有量は1.5~2当量であり、
x+yは1であり、
x及びyはいずれも0より大きい]
[2]Rがヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種を有する、[1]に記載のポリマー。
[3]Rに活性化官能基が修飾された[1]又は[2]に記載のポリマー。
[4]上記活性化官能基がマレイミド基である、[3]に記載のポリマー。
[5][1]~[4]のいずれかに記載のポリマーと、ペプチド、抗体、抗原、RNA及びDNAからなる群より選択される少なくとも1種との複合体である、バイオコンジュゲーション生成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、反応性官能基の導入量が増大したポリマーを提供することができる。
【0012】
アミノ酸側鎖の反応性官能基を用いることで、反応点が豊富であり種々の反応が可能な生分解性ポリマーマトリクス材を提供することができる。本発明のポリマーを用いることで、種々のバイオ分子、リンカー、ポリマー、第2の反応性官能基等の導入が簡便になり新たな特性を持たせたポリマー材料の提供ができると考えられる。本発明のポリマーを用いることで、ナノバイオ分野、バイオマテリアル分野等の広い範囲において、新たな用途展開ができると考えられる。
【0013】
本発明のポリマーが有する反応性官能基の有機化学反応を介して、ポリマーの側鎖に新たな官能基の導入及び特性付与が簡便に可能である。特に、バイオ分子等との複合体を形成する、バイオコンジュゲーションへの応用が可能であると考えられる。バイオ分子としては、抗体、抗原、ペプチド、タンパク質、DNA、RNA等が考えられる。本発明のポリマーの用途として考えられるのは、例えば、細胞培養足場、ドラッグデリバリーシステム(drug delivery system:DDS)、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)、イムノアッセイ(immuno assay)、抗体-薬物複合体(antibody-drug conugate:ADC)、創薬探索試薬、バイオセンサ媒体、病原診断試薬等への応用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は疎水性モノマーIのH-NMRスペクトルである。
図2図2は親水性モノマーIのH-NMRスペクトルである。
図3図3は疎水性モノマーIIのH-NMRスペクトルである。
図4図4は親水性モノマーIIのH-NMRスペクトルである。
図5図5はポリエーテルエステルアミド(マレイミド基修飾)のH-NMRスペクトルである。
図6図6はポリエーテルエステルアミドのGPC測定結果である。
図7図7はポリエーテルエステルウレタン(I)(マレイミド基修飾)のH-NMRスペクトルである。
図8図8はポリエーテルエステルウレタン(I)のGPC測定結果である。
図9図9はポリマー(マレイミド基修飾)及びペプチドリンカーによるゲル化の概念図である。
図10図10(A)はペプチドリンカーを架橋剤とする15w/v%のポリエーテルエステルウレタン(I)ゲルである(左からポリマー:ペプチドリンカー比は、1:1、2:1、3:1、4:1)。図10(B)はペプチドリンカーを架橋剤とする20w/v%のポリエーテルエステルウレタン(I)ゲルである(左からポリマー:ペプチドリンカー比は、1:1、2:1、3:1、4:1)。図10(C)はペプチドリンカーを架橋剤とする25w/v%のポリエーテルエステルウレタン(I)ゲルである(左からポリマー:ペプチドリンカー比は、1:1、2:1、3:1、4:1)。
図11図11(A)は20w/v%のポリエーテルエステルウレタン(I)ゲルのSEM観察画像(500倍)である(ポリマー:ペプチドリンカー比=3:1)。図11(B)は25w/v%のポリエーテルエステルウレタン(I)ゲルのSEM観察画像(500倍)である(ポリマー:ペプチドリンカー比=3:1)。
図12図12(A)はポリマー含有細胞培養培地を用いて細胞培養基材で培養した細胞の蛍光画像である(細胞核)。図12(B)はポリマー含有細胞培養培地を用いて細胞培養基材で培養した細胞の蛍光画像である(アクチンファイバー)。図12(C)はポリマー含有細胞培養培地を用いて細胞培養基材で培養した細胞の生存率の測定結果である。
図13図13(A)はポリマー及びペプチドリンカーで形成されたゲル中で培養された細胞を、LIVE/DEAD法で可視化して得られた蛍光画像である(左:LIVE、右:DEAD)。図13(B)はポリマー及びペプチドリンカーで形成されたゲル上で培養された細胞の蛍光画像である(左:細胞核、右:アクチンファイバー)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。以下の本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その趣旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0016】
本発明の一実施形態は、分子量が5000~30000g/molであり、下記式(1)で表される繰り返し単位を2~15個有するポリマーである。
【化4】

[式中、
複数存在するRは、それぞれ独立して、炭素数2~12のアルキレン基又は下記式(2)で表される基であり、
【化5】

は、分子量が200~5000g/molのポリオキシエチレン基であり、
複数存在するRは、それぞれ独立して、上記式(2)で表される基又は下記式(3)で表される基であり、
【化6】

は、炭素数2~12のアルキレン基であり、
及びRの少なくとも一方は上記式(2)で表される基であり、
複数存在するRは、それぞれ独立して、アミノ酸の反応性側鎖であり、
上記繰り返し単位中のRの含有量は1.5~2当量であり、
x+yは1であり、
x及びyはいずれも0より大きい]
【0017】
本実施形態に係るポリマーの分子量は、5000~30000g/molであり、7000~20000g/molであってよく、10000~15000g/molであってもよい。本実施形態に係るポリマーは、上記式(1)で表される繰り返し単位を2~15個有し、5~12個有していてよく、7~10個有していてもよい。
【0018】
は炭素数2~12のアルキレン基であってよく、炭素数4~10のアルキレン基であってよく、炭素数6~9のアルキレン基であってもよい。炭素数2~12のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基等が挙げられ、これらは直鎖状又は分岐鎖状であってよい。
【0019】
及び/又はRは、上記式(2)で表される基である。上記式(2)において、Rの分子量は200~5000g/molであり、500~4500g/molであってよく、1000~4000g/molであってよい。ポリオキシエチレン基におけるオキシエチレン基の重合度は4~115であってよく、10~100であってよく、20~80であってよい。
【0020】
は、上記式(3)で表される基であってよい。上記式(3)において、Rは、炭素数2~12のアルキレン基であってよく、炭素数4~10のアルキレン基であってよく、炭素数6~9のアルキレン基であってもよい。炭素数2~12のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基等が挙げられ、これらは直鎖状又は分岐鎖状であってよい。
【0021】
は、アミノ酸の反応性側鎖である。本明細書において、「アミノ酸」又は「アミノ酸残基」とは、天然に存在するアミノ酸又は天然に存在しないアミノ酸両者を示す。アミノ酸は立体配置によってD体又はL体に大別されるが、本明細書におけるポリマーを構成するアミノ酸残基はL体であることが好ましい。「反応性側鎖」とは、反応性官能基を有する側鎖である。反応性官能基としては、例えば、ヒドロキシ基、チオール基、カルボキシ基、アミノ基等が挙げられる。Rがヒドロキシ基、カルボキシ基、チオール基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種を有していてよい。反応性側鎖を有するアミノ酸としては、セリン(Ser、S)、トレオニン(Thr、T)、システイン(Cys、C)、メチオニン(Met、M)、アスパラギン酸(Asp、D)、グルタミン酸(Glu、E)、リシン(Lys、K)、アルギニン(Arg、R)、アスパラギン(Asn、N)、グルタミン(Gln、Q)、チロシン(Tyr、Y)、ヒスチジン(His、H)、トリプトファン(Trp、W)等が例示される。
【0022】
は、活性化官能基により修飾されていてよい。活性化官能基は、アミノ基、チオール基、ヒドロキシ基、カルボキシ基等と反応し、生成された共有結合を介して架橋又はリンカーを形成することができる官能基を意味する。活性化官能基としては、アミン反応性基、ヒドロキシ反応性基、チオール反応性基、アルデヒド又はケトン反応性基、カルボキシ反応性基等が挙げられる。活性化官能基としては、より具体的には、アミン、エポキシ、イソチオシアネ-ト、イソシアネ-ト、スクシンイミジルエステル、ハロゲン化スルホニル、アリ-ルハライド、アルデヒド、グルタルアルデヒド、無水物、イミダゾールカルバメート等のアミン基と反応可能な官能基;アルキレンハライド、アリ-ルハライド、マレイミド、過酸化物、ビニ-ルスルホン、ジスルフィド等のチオール基と反応可能な官能基;アミン、ヒドロキシ等のカルボン酸基と反応可能な官能基;エポキシ、アジド等のヒドロキシ基と反応可能な官能基が例示される。活性化官能基は、マレイミド基であることが好ましい。活性化官能基がマレイミド基である場合、チオール基等との反応時に余計な触媒を必要とせず、また、人体及び環境に悪影響のある副生成物が産生されないため、生体への適合性がより向上する。加えて、生体内でマレイミド基とチオール基等との結合が分解されたとしても生体に影響が少ないという利点もある。活性化官能基がマレイミド基である場合、本実施形態に係るポリマーは生分解性及び生体適合性により優れることから、ナノバイオ分野及びバイオマテリアル分野においてより好適に用いることができる。
【0023】
上記式(1)で表される繰り返し単位中のRの含有量は、1.5~2当量であり、1.6~1.9当量であってよく、1.7~1.8当量であってもよい。本明細書において、「当量」とは、1モルの上記式(1)で表される繰り返し単位に含まれるRのモル数を意味する。
【0024】
x及びyは、それぞれ、0.1及び0.9、0.2及び0.8、0.3及び0.7、0.4及び0.6、0.45及び0.55、0.5及び0.5、0.55及び0.45、0.6及び0.4、0.7及び0.3、0.8及び0.2、又は、0.9及び0.1であってよい。x及びyは、それぞれ0.45及び0.55、又は、0.65及び0.45であることが好ましく、0.5及び0.5であることがより好ましい。
【0025】
本実施形態に係るポリエーテルエステルアミド及びポリエーテルエステルウレタンは、少なくとも2種のモノマーの重縮合によって得られるポリマーである。本実施形態に係るポリエーテルエステルアミド及びポリエーテルエステルウレタンは、下記式(4)で表されるモノマー(モノマー(A))及び下記式(5)で表されるモノマー(モノマー(B))を含む原料を用いた重縮合によって製造することができる。重縮合の方法は後述する。
【化7】

【化8】
【0026】
上記式(4)において、Rとしては、上記式(1)が有するRとして例示された基と同じ基が例示される。Rが炭素数2~12のアルキレン基であった場合、モノマー(A)はジカルボン酸の活性化形態の疎水性モノマーである。Rが上記式(2)で表される基である場合、モノマー(A)は、ジカルボン酸の活性化形態の親水性モノマーである。
【0027】
上記式(4)において、複数存在するLGは、独立して、脱離性を有する電子吸引性置換基である。脱離性を有する電子吸引性置換基としては、例えば、p-フルオロフェノール、p-クロロフェノール、p-ブロモフェノール、p-ニトロフェノール、p-シアノフェノール、p-フルオロチオフェノール、p-クロロチオフェノール、p-ブロモチオフェノール、p-ニトロチオフェノール、p-シアノチオフェノール、N-ヒドロキシスクシンイミド、N-トリメチルシリルイミダゾ-ル等に由来する基が挙げられる。
【0028】
モノマー(A)は、一般的な有機合成法における公知のエステル化反応により製造することができる。モノマー(A)の製造方法を、LGがいずれもp-ニトロフェノールに由来する基である場合を例にとって説明する。溶媒中で、縮合剤及び触媒の存在下で飽和ジカルボン酸の二塩化物(ジクロリド)とp-ニトロフェノールとのエステル化反応を進行させる。エステル化反応における溶媒は、有機塩基試薬(例えばピリジン)を含んでいてよい。得られたエステル化合物を再結晶化して精製することで、モノマー(A)を得ることができる。
【0029】
飽和ジカルボン酸としては、ブタン二酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸等が挙げられ、好適な飽和ジカルボン酸ジクロリドとしては、ブタン二酸ジクロリド、グルタル酸ジクロリド、アジピン酸ジクロリド、ピメリン酸ジクロリド、スベリン酸ジクロリド、アゼライン酸ジクロリド、セバシン酸ジクロリド、ウンデカン二酸ジクロリド、ドデカン二酸ジクロリド、トリデカン二酸ジクロリド、テトラデカン二酸ジクロリド等が挙げられる。
【0030】
上記式(5)において、Rとしては、上記式(1)が有するRとして例示された基と同じ基が例示される。Rが上記式(2)で表される基である場合、モノマー(B)は親水性モノマーである。Rが上記式(3)で表される基である場合、モノマー(B)は疎水性モノマーである。
【0031】
上記式(5)において、Rは上記式(1)が有するRであってもよく、反応性官能基が保護基によって保護されたRであってもよい。
【0032】
上記式(5)において、複数存在するLGは、独立して、アミノ酸残基のN末端と塩化合物を形成可能な酸類である。アミノ酸残基のN末端と塩化合物を形成可能な酸としては、例えば、スルホン酸類、トリフルオロ酢酸、塩酸等が挙げられる。
【0033】
モノマー(B)は、例えば後述する第1工程及び第2工程によって合成することができる。第1工程及び第2工程を、LGがp-トルエンスルホン酸である場合を例にとって説明する。第1工程では、アミノ酸と、飽和炭化水素ジオール又はポリオキシエチレン化合物とを溶媒に溶解させ、縮合剤及び触媒の存在下でエステル化反応を進行させる。これにより、アミノ酸のC末端のカルボキシ基と飽和炭化水素ジオール又はポリオキシエチレン化合物の水酸基とのエステル化反応が進み、モノマー(B)の中間体が生成される。エステル化反応に用いるアミノ酸のN末端と、側鎖に存在する反応性官能基とは、そのいずれか又は両方が保護基で保護されていてよい。
【0034】
第2工程では、中間体のアミノ酸残基のN末端と、p-トルエンスルホン酸とを塩化反応させることで、Boc基の脱保護が生じ、モノマー(B)が得られる。反応性側鎖に保護基が結合している場合、常法に従って保護基を除去してもよい。
【0035】
飽和炭化水素ジオールとしては、1,2-エタンジオール、プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール等が挙げられる。
【0036】
アミノ酸の保護基としては、例えばtert-ブトキシカルボニル基(Boc基)、ベンジル基(Bzl基)、メチル基(Me基)、トリチル基(Trt基)、アセトアミドメチル基(Acm基)、スルホキシド基(SO基)、メチルエステル基(OMe基)、ベンジルエステル基(OBzl基)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc基)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz基)、4-メチルトリチル基(Mtt基)、4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル基(Mtr基)、メタンチオスルフォネ-ト基(Mts基)、2,2,4,6,7-ペンタメチルジヒドロベンゾフラン-5-スルホニル基(Pbf基)、キサンチル基(Xan基)等が挙げられる。
【0037】
例えば、アミノ酸のN末端がBoc基で保護され、且つ、側鎖に存在する反応性官能基がBzl基で保護された状態はBoc-Ser(Bzl)-OHと表記される。N末端と側鎖に存在する反応性官能基とが保護基で保護されたアミノ酸としては、例えば、Boc-Ser(Bzl)-OH、Boc-Ser(Me)-OH、Boc-Ser(Trt)-OH、Boc-Thr(Bzl)-OH、Boc-Thr(Me)-OH、Boc-Cys(Acm)-OH、Boc-Cys(Trt)-OH、Boc-Cys(Bzl)-OH、Boc-Cys(Me)-OH、Boc-Met(SO)-OH、Boc-Asp(OMe)-OH、Boc-Asp(OBzl)-OH、Boc-Glu(OBzl)-OH、Boc-Glu(OMe)-OH、Boc-Lys(Fmoc)-OH、Boc-Lys(Cbz)-OH、Boc-Lys(Mtt)-OH、Boc-Arg(Mtr)-OH、Boc-Arg(Mts)-OH、Boc-Arg(Cbz)2-OH、Boc-Arg(Pbf)-OH,Boc-Asn(Xan)-OH、Boc-Asn(Trt)-OH、Boc-Gln(Trt)-OH、Boc-Tyr(Bzl)-OH、Boc-Tyr(Me)-OH、Boc-His(Cbz)-OH、Boc-Trp(Mts)-OH等が挙げられる。本実施形態で原料として用いるアミノ酸は、N末端がBoc基で保護され、側鎖が有する反応性官能基がCbz基で保護されたリジン(Boc-Lys(Cbz)-OH)であることが好ましい。
【0038】
本実施形態に係るポリエーテルエステルアミド及びポリエーテルエステルウレタンは、上記式(4)で表されるモノマー及び上記式(5)で表されるモノマーのみを構成単位として含んでいてよく、上記式(4)及び(5)で表されるモノマー以外の第3のモノマーを構成単位として含んでいてもよい。第3のモノマーの両末端は、それぞれ、上記式(4)及び(5)で表されるモノマーのいずれかの末端と同じであってよい。本実施形態に係るポリエーテルエステルアミド及びポリエーテルエステルウレタンの質量を基準として、反応性官能基を有するアミノ酸残基を有するモノマー(モノマー(B))の含有量が、50質量%以上を占めるのが好ましく、60質量%以上であるのがより好ましく、70質量%以上であるのが更に好ましい。
【0039】
本実施形態に係るポリエーテルエステルアミド及びポリエーテルエステルウレタンは、下記式(6)で表される繰り返し構造を有するポリマーであってよい。nは2~15であり、5~12であってよく、7~10であってもよい。
【化9】
【0040】
本実施形態に係るポリエーテルエステルアミド及びポリエーテルエステルウレタンを製造するための重縮合は、例えば次のように行うことができる。まず、モノマー(A)及びモノマー(B)と、必要に応じて第3のモノマーとを、溶媒に分散させて、60℃で完全に溶解させる。溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。次に、得られたモノマー溶液に有機塩基試薬を加えて70℃で48時間重縮合反応を行う。有機塩基試薬としては、例えば、ジアザビシクロノネン、ジアザビシクロウンデセン、N-エチルジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、2,6-ルチジン、ピリジン等が挙げられる。得られた反応液から、透析及び/又は凍結乾燥により、下記式(7)で表される繰り返し単位を有するポリマーを得ることができる。
【化10】
【0041】
上記式(7)で表される繰り返し単位において、RがRである場合は、上記モノマー同士の重縮合反応で得られたポリマーが、本実施形態に係るポリエーテルエステルアミド及びポリエーテルエステルウレタンである。上記式(7)で表される繰り返し単位において、Rが、反応性官能基が保護基で保護されているRである場合は、当該保護基を除去して脱保護することにより、本実施形態に係るポリエーテルエステルアミド及びポリエーテルエステルウレタンを得ることができる。脱保護反応は、保護基の種類により適切な公知の脱保護法にて行うことができる。例えば、Cbz基、Bzl基等で保護された側鎖は、トリフルオロ酢酸系カクテル試薬、メタンスルホン酸系カクテル試薬、臭化水素酸系カクテル試薬、パラジウム/炭素-水素還元剤等を用いて脱保護することができる。メチルエステル基で保護された側鎖は、塩基性試薬カクテル処理により脱保護することができる。Trt基、Pbf基等で保護された側鎖はトリフルオロ酢酸系カクテル試薬処理により脱保護することができる。
【0042】
モノマー(A)及びモノマー(B)の少なくとも一方が親水性モノマーであれば、得られたポリマーに親水性を持たせることができる。モノマー(A)が疎水性モノマーであり、モノマー(B)が親水性モノマーである場合に得られるポリマーをポリエーテルエステルアミドと呼称する。モノマー(A)が親水性モノマーであり、モノマー(B)が疎水性モノマーである場合に得られるポリマーをポリエーテルエステルウレタン(I)と呼称する。モノマー(A)及びモノマー(B)がいずれも親水性モノマーである場合に得られるポリマーをポリエーテルエステルウレタン(II)と呼称する。
【0043】
本実施形態に係るポリエーテルエステルアミド及びポリエーテルエステルウレタン(ポリエーテルエステルウレタン(I)及び(II))によれば、反応性官能基及び/又は活性化反応基を有するポリマーを簡便に提供することができる。本実施形態に係るポリエーテルエステルアミド並びにポリエーテルエステルウレタン(I)及び(II)は、バイオ分子等のコンジュゲーション(バイオコンジュゲーション)に好適に用いることができる。バイオコンジュゲーションとは、複数のバイオ分子を安定した共有結合で結合させる化学的手段である。本実施形態に係るポリエーテルエステルアミド並びにポリエーテルエステルウレタン(I)及び(II)は、直接的に又は低分子リンカーを介して間接的に、様々なバイオ分子に結合することができる。
【0044】
本実施形態に係るポリエーテルエステルアミド並びにポリエーテルエステルウレタン(I)及び(II)は、原料としてアミノ酸を用いているため、生体親和性及び生分解性が高い。また、主鎖にポリオキシエチレン基を有するために、親水性に優れている。これらのことから、上述したようなバイオマテリアルの分野で好適に用いることができる。加えて、原料のモノマー1モル中に1当量以上の反応性側鎖を有するアミノ酸残基が導入されることにより、反応性官能基の導入量及び/又は種類が増える。これにより、本実施例に係るポリマーは、種々の化合物と反応しやすくなり、展開できる用途が増えると考えられる。
【0045】
バイオ分子としては、抗体、抗原、ペプチド、タンパク質、DNA、RNA、酵素、脂質等が挙げられる。これらのバイオ分子と、本実施形態に係るポリエーテルエステルアミド並びにポリエーテルエステルウレタン(I)及び(II)との複合体を「バイオコンジュゲーション生成物」という。バイオコンジュゲーション生成物は、バイオ分子と、本実施形態に係るポリマーと、それ以外の分子との複合体であってもよい。それ以外の分子としては、低分子リンカーが例示され、より具体的には、ペプチドリンカーが例示される。バイオコンジュゲーション生成物は、例えば、細胞培養足場、ドラッグデリバリ-システム、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)、イムノアッセイ、抗体-薬物複合体、創薬探索試薬、バイオセンサ媒体、病原診断試薬等へ応用することができる。
【0046】
ペプチドリンカーとしては、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(Ac-GCRGGPAGMRGKGRCG-NH:配列番号1)を用いることができる。配列番号1において、N末端のAc-はN末端がアセチル化されていることを意味し、C末端の-NHは、C末端がアミド化されていることを意味する。配列番号1で表されるアミノ酸配列は、種々のプロテアーゼ(例えば、MMP-2、MMP-3及びMMP-9)によって開裂可能なアミノ酸配列であり、次のようにして製造することができる。
【0047】
<反応溶液、緩衝液等の組成>
・脱保護液:ピペリジン(富士フィルム和光純薬(株)、25vol%)、ジメチルホルムアミド;DMF(富士フィルム和光純薬(株)、75vol%)
・アミノ酸カクテル:N末Fmoc保護アミノ酸(Fmoc-Ala-OH,Fmoc-Gly-OH,Fmoc-Ile-OH,Fmoc-Leu-OH,Fmoc-Pro-OH,Fmoc-Gln(OtBu)-OH,Fmoc-Val-OH及びFmoc-Trp(Boc)-OHはメルク(株)製、Fmoc-Met-OHはシグマ・アルドリッチ社製、Fmoc-Lys(Boc)-OH,Fmoc-Arg(pbf)-OH及びFmoc-Cys(Trt)-OHはChemscene社製を使用、反応点に対して6当量)、シアノ(ヒドロキシイミノ)酢酸エチル;Oxyma pure(商標)(メルク(株)製、反応点に対して6当量)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(富士フィルム和光純薬(株)、反応点に対して6当量)、2,4,6-トリメチルピリジン(東京化成工業(株)、反応点に対して12当量)、DMF(溶媒量)
・不活性化液:無水酢酸(富士フィルム和光純薬(株)、25vol%)、DMF(75vol%)
・脱樹脂液:トリフルオロ酢酸;TFA(東京化成工業(株)、95mass%)、トリイソプロピルシラン(富士フィルム和光純薬(株)、2.5mass%)、蒸留水(2.5mass%)
・溶離液A:0.1% TFA/蒸留水
・溶離液B:0.1% TFA/アセトニトリル(高速液体クロマトグラフ用、富士フィルム和光純薬(株))
【0048】
<Fmocペプチド固相合成>
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを、Fmoc固相合成法で合成する。マルチ固相合成器(KMS-3、国産化学(株))にエコノパックカラム(20mL、BIO RAD製)をセットし、Rink amide AM resin(100-200mesh、0.7mmol/g、メルク(株))を0.05mmolスケールとなるように秤量した後、ジクロロメタン;DCM(ペプチド合成用グレード、富士フィルム和光純薬(株))2mLを添加し過流攪拌下で12~24時間膨潤させる。膨潤液を除液後、脱保護液を2mL添加し樹脂上のFmoc基を脱保護する(2mL×2回、各10分処理)。脱保護液を除液後、DMF及びDCMで洗浄した後にアミノ酸カクテルを添加し、過流攪拌下で2~3時間反応させることで樹脂担体上にアミノ酸をカップリングさせる。反応液の除液後、不活性化液を2mL添加し過流攪拌下で30分間処理することで未反応点をキャッピングする。不活性化液の除液後、DMF及びDCMで洗浄してFmocアミノ酸導入樹脂担体を得る。以降、上記脱保護、カップリング反応、未反応点の不活性化を繰り返し実施することで配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを合成する。
【0049】
<粗精製、LC分離精製>
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを合成した後、N末に存在するFmoc基を脱保護し、DMF、DCM及びメタノールで洗浄し、デシケータ内で24時間静置することで乾燥樹脂担体を得る。上記乾燥樹脂担体に冷やした脱樹脂液を2mL添加し過流攪拌下で3~4時間処理することで脱樹脂及び側鎖保護基の脱保護を達成する。ペプチドを含む上澄み液を回収後、さらに上記脱樹脂液を2mL添加して樹脂担体を洗浄する。上記上澄み液及び洗浄液(計4mL)に冷ジエチルエーテルを10倍量添加した後、遠心分離(2,000×g、10分)して沈殿物を回収する。沈殿物は再度冷ジエチルエーテルで洗浄した後、減圧乾燥して粗ポリペプチドを得る。得られた粗ポリペプチドを溶離液Aに溶解した後、溶離液A及び溶離液Bを用いて中圧液体クロマトグラフ(型式:EPCLC-AI-580S、山善(株))によって目的成分を分画し、アセトニトリルを減圧留去した後、凍結乾燥して精製ペプチドを得る。
【実施例0050】
以下、本発明を実施するための形態を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。また、下記例示は本発明の範囲内で適宜変更して実施することができる。なお、断りのない限り試薬としては市販品を用いた。「NMR測定結果」は、核磁気共鳴測定装置(日本電子(株)製、商品名JNM-ECZ400S/LI、400MHz)を用いたプロトン核磁気共鳴分光(H-NMR)スペクトル分析の結果である。「収率」(%)は、100×目的物(疎水性モノマーI若しくはII又は親水性モノマーI並びにII)の収量(mol)/原料(アゼライン酸クロリド、ポリエチレングリコ-ル(PEG)又は1,9-ノナンジオール)の使用量(mol)によって算出された値である。
【0051】
<疎水性モノマーI合成>
窒素ガスで置換されたフラスコにおいて、3当量のp-ニトロフェノール(原料)及び4当量のピリジンをアセトン(100mL)に溶解させた。同じフラスコに1当量のアゼライン酸クロリドを滴下し、室温にて5時間撹拌してp-ニトロフェノール及びアゼライン酸を反応させた。得られた粗生成物を塩酸水溶液及び塩水で洗浄し、再結晶化により精製した。これらの操作により、白色粉末状の疎水性モノマーIが収率95%で得られた。疎水性モノマーIは下記式(8)で表される化合物である。図1にNMR測定結果を示す。図1の縦軸はプロトンシグナルの相対強度であり、横軸は化学シフト(ppm)である。図1から、目的のモノマーが合成されていることが分かった。
【化11】
【0052】
<親水性モノマーI合成>
窒素ガスで置換されたフラスコにおいて、1当量のPEG(分子量:2,000g/mol、重合度a(定数))及び4当量のピリジンをジクロロメタン(100mL)に溶解させた。同じフラスコに4当量のクロロぎ酸4-ニトロフェニルを滴下し、室温にて18時間撹拌してPEG及びクロロぎ酸4-ニトロフェニルを反応させた。得られた粗生成物を塩酸水溶液で洗浄し、ジエチルエーテルによって沈殿させることで精製した。これらの操作により、白色ワックス状の親水性モノマーIが収率90%で得られた。親水性モノマーIは下記式(9)で表される化合物である。図2にNMR測定結果を示す。図2の縦軸はプロトンシグナルの相対強度であり、横軸は化学シフト(ppm)である。図2から、目的のモノマーが合成されていることが分かった。
【化12】
【0053】
<疎水性モノマーII合成>
窒素ガスで置換されたフラスコにおいて、1当量の1,9-ノナンジオール及び2.2当量のBoc-Lys(Cbz)-OHをジクロロメタン(100mL)に溶解させた。同じフラスコに縮合剤及び触媒を加え、18時間室温で反応を進行させた。得られた粗中間生成物を酸性水溶液、塩基性水溶液及び塩水で洗浄し、中間体を得た。得られた中間体の両末端保護基であるBoc基を2.1当量のp-トルエンスルホン酸を用いてトルエン下で置換することにより、Boc基を脱離させ、p-トルエンスルホン酸塩化合物を合成した。得られた粗生成物を再結晶化により生成した。これらの操作により、白色粉末状の疎水性モノマーIIが収率85%で得られた。疎水性モノマーIIは下記式(10)で表される化合物である。図3にNMR測定結果を示す。図3の縦軸はプロトンシグナルの相対強度であり、横軸は化学シフト(ppm)である。図3から、目的のモノマーが合成されていることが分かった。
【化13】
【0054】
<親水性モノマーII合成>
窒素ガスで置換されたフラスコにおいて、1当量のPEG(分子量:2,000g/mol、重合度a(定数))及び2.2当量のBoc-Lys(Cbz)-OHをジクロロメタン(100mL)に溶解させた。同じフラスコに縮合剤及び触媒を加え、18時間室温で反応させた。得られた粗中間生成物を酸性水溶液、塩基性水溶液及び塩水で洗浄し、中間体を得た。中間体の両末端保護基であるBoc基を2.1当量のp-トルエンスルホン酸を用いてトルエン下で置換することにより、Boc基を脱離させ、p-トルエンスルホン酸塩化合物を合成した。得られた粗生成物を-、ジエチルエーテルによって沈殿させることで精製した。これらの操作により、白色~黄色のワックス状の親水性モノマーIIが収率85%で得られた。親水性モノマーIIは下記式(11)で表される化合物である。図4にNMR測定結果を示す。図4の縦軸はプロトンシグナルの相対強度であり、横軸は化学シフト(ppm)である。図4から、目的のモノマーが合成されていることが分かった。
【0055】
【化14】
【0056】
<ポリマー重縮合>
下記一般式(12)で表される化合物に含まれる、ポリエーテルエステルウレタン(I)(Cbz-ポリエーテルエステルウレタン(I))、ポリエーテルエステルアミド(Cbz-ポリエーテルエステルアミド)及びポリエーテルエステルウレタン(II)(Cbz-ポリエーテルエステルウレタン(II))は、上述の疎水性モノマーI又は親水性モノマーIと、疎水性モノマーII又は親水性モノマーIIとを重縮合させて得られた。Cbz-ポリエーテルエステルアミドは疎水性モノマーI及び親水性モノマーIIの重縮合により得られ、下記一般式(12)におけるxはb(定数)、yはc(定数)、nはd(定数)であった。Cbz-ポリエーテルエステルウレタン(I)は親水性モノマーI及び疎水性モノマーIIの重縮合により得られ、下記一般式(12)におけるxはe(定数)、yはf(定数)、nはg(定数)であった。Cbz-ポリエーテルエステルウレタン(II)は親水性モノマーI及び親水性モノマーIIの重縮合により得られた。下記一般式(12)で表される化合物には、疎水性モノマーI及び疎水性モノマーIIの重縮合により得られた化合物であるポリエステルアミド(Cbz-ポリエステルアミド)は含まれない。重縮合は、1当量の疎水性モノマーI又は親水性モノマーIと、1当量の疎水性モノマーII又は親水性モノマーIIとを60℃のDMSO及びDMAcに溶解させた後、TEAを加えることで行われた。70℃で48時間重縮合反応を行い、透析法で精製して黄色ワックス状のポリマーを得た。
【化15】
【0057】
<ポリマー側鎖脱保護>
Cbz-ポリエーテルエステルウレタン(I)、Cbz-ポリエーテルエステルアミド、Cbz-ポリエーテルエステルウレタン(II)及びCbz-ポリエステルアミドのCbz基を酸処理により除去し、各ポリマーを脱保護した。得られた粗生成物を透析法で精製することで黄色ワックス状のポリマーを得た。これらの操作により得られたポリエーテルエステルアミド及びポリエーテルエステルウレタン(I)、は実施例であり、下記一般式(13)で表される繰り返し単位を有する。これらの操作により得られたポリエステルアミドは比較例であり、下記一般式(13)で表される繰り返し単位を有さない。
【化16】
【0058】
<コンジュゲーション:マレイミド基>
マレイミド基は、チオール基を有する分子とマイケル反応が可能であり、副生成物が生成されないことと細胞毒性がないこととから、ナノバイオ分野、バイオマテリアル分野等において広く使用されている。本実施例では、マレイミド基を有するポリマーを製造した。「<ポリマー側鎖脱保護>」により得られたポリエーテルエステルウレタン(I)、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルエステルウレタン(II)及びポリエステルアミドが有するリジン側鎖のフリーのアミンにマレイミド基を導入した。
【0059】
親水性であるポリエーテルエステルウレタン(I)、ポリエーテルエステルアミド及びポリエーテルエステルウレタン(II)にマレイミド基を導入する場合は、まず、これらのポリマーをpH4.5~5のMES(2-モルホリノエタンスルホン酸)バッファーに溶解させた。1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)及び6-マレイミドヘキサン酸を加え、24時間撹拌することでマレイミド基の付加反応を行った。反応後、酸水溶液(pH4.5~5)で透析後、凍結乾燥により白色~黄色のスポンジ状のポリマーを得た。
【0060】
疎水性であるポリエステルアミドの場合、まず、ポリエステルアミド及びN-(6-マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド(EMCS)をDMF及びDMSOに溶解させた。これらの化合物を24時間反応させ、透析法により精製させることで、黄色ワックス状のポリマーを得た。
【0061】
図5に、マレイミド基を導入したポリエーテルエステルアミド(Mal-ポリエーテルエステルアミド、x=b(定数)、y=c(定数)、n=d(定数)、疎水性)のNMR測定結果を示す。図5の縦軸はプロトンシグナルの相対強度であり、横軸は化学シフト(ppm)である。図5に示された各ピークから、目的のポリマーが得られたことが分かった。
【0062】
図6にGPC(ゲル濾過クロマトグラフィー)による分子量測定結果を示す。図6の縦軸は検出信号強度であり、横軸は溶出時間(分)である。図6の結果及びポリスチレンスタンダードサンプルの検量線を用いて算出した結果から、「<ポリマー重縮合>」により得られたCbz-ポリエーテルエステルアミドの分子量(Mw)は約33000g/mol(PDI:1.75)であり、「<ポリマー側鎖脱保護>」により得られたポリエーテルエステルアミドの分子量(Mw)は約21000g/mol(PDI:1.39)であり、Mal-ポリエーテルエステルアミドの分子量(Mw)は約22000g/mol(PDI:1.37)であることが分かった。
【0063】
図7にマレイミド基を導入したポリエーテルエステルウレタン(I)(Mal-ポリエーテルエステルウレタン(I)、x=e(定数)、y=f(定数)、n=g(定数)、親水性)のNMR測定結果を示す。図7の縦軸はプロトンシグナルの相対強度であり、横軸は化学シフト(ppm)である。図7に示された各ピークから、目的のポリマーが得られたことが分かった。
【0064】
図8にGPC(ゲル濾過クロマトグラフィー)による分子量測定結果を示す。図8の縦軸は検出信号強度であり、横軸は溶出時間(分)である。図8の結果及びポリスチレンスタンダードサンプルの検量線を用いて算出した結果から、「<ポリマー重縮合>」により得られたCbz-ポリエーテルエステルウレタン(I)の分子量(Mw)は約45000g/mol(PDI:1.90)であり、「<ポリマー側鎖脱保護>」により得られたポリエーテルエステルウレタン(I)の分子量(Mw)は約30000g/mol(PDI:1.49)であり、Mal-ポリエーテルエステルウレタン(I)の分子量(Mw)は約40000g/mol(PDI:1.42)であることが分かった。
【0065】
<マレイミド基の反応性確認:チオールを用いたゲル化反応>
マレイミド基は、チオール基を有する分子とマイケル反応が可能であり、副生成物も生成されないことと細胞毒性がないことから、ナノバイオ分野、バイオマテリアル分野等において広く使用されている。本発明の用途の一例として、マレイミド基を有するポリマー及びジチオール基を両末端に有するペプチドを用いたゲル化検証による反応性を実施した。ゲル化の概念図を図9に示す。
【0066】
マレイミド基が修飾されたポリエーテルエステルウレタン(I)を15、20又は25質量/体積%(w/v%)の濃度になるようにリン酸緩衝液(PBS:phosphate-buffered saline)に溶解させ、pHを7~8に調整した。得られた溶液をポリマー溶液とする。ジチオールペプチドは20nMの濃度になるようにPBSに溶解させ、pHを7~8に調整した。得られた溶液をジチオールペプチド溶液という。本実施形態に使用されたジチオールペプチド配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(Ac-GCRGGPAGMRGKGRCG-NH:配列番号1)である。
【0067】
ポリエーテルエステルウレタン(I)溶液(ポリマー溶液)、ジチオールペプチド溶液及び溶媒を、ポリマー溶液及びジチオールペプチド溶液の体積比が1:1、2:1、3:1又は4:1になるように混合してゲル前駆体水溶液を得た。室温で、マレイミド基及びチオール基の共有結合を介してゲルを形成させた。図10にゲルの例の写真を示す。図10(A)は15w/v%のポリマー溶液を用いたゲルであり(左からポリマー溶液及びジチオールペプチド溶液の体積比が1:1、2:1、3:1及び4:1)、図10(B)は20w/v%のポリマー溶液を用いたゲルであり(左からポリマー溶液及びジチオールペプチド溶液の体積比が1:1、2:1、3:1及び4:1)、図10(C)は25w/v%のポリマー溶液を用いたゲルである(左からポリマー溶液及びジチオールペプチド溶液の体積比が1:1、2:1、3:1及び4:1)。本実施例では、ポリマー溶液濃度が高いほど、又はゲル前駆体水溶液中のポリマー溶液の体積割合が高いほどゲルの粘度が高くなった。ポリマー溶液濃度が20w/v%以上の条件並びにポリマー溶液及びジチオールペプチド溶液の体積比が3:1又は4:1の条件で、遊動性のないより良好なゲルの形成が可能であった。
【0068】
<ゲルの内部構造画像化>
走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、ポリエーテルエステルウレタン(I)ゲルの画像を取得した。図11に、凍結乾燥されたゲルの構造を示す。図11(A)はポリマー溶液濃度が20w/v%の条件、並びに、ポリマー溶液及びジチオールペプチド溶液の体積比が3:1の条件で作成したゲル、図11(B)はポリマー溶液濃度が25w/v%の条件、並びに、ポリマー溶液及びジチオールペプチド溶液の体積比が3:1の条件で作成したゲルを500倍で撮影した画像であり、ゲルはファイバー及び多数の孔隙で構成され、多数の孔隙はつながった構造であった。
【0069】
<細胞培養評価-ゲルの形成無し>
24-ウェルプレート(平面底、直径15.7mm)に、1ウェルあたり約10000細胞となるようにMSCを播種した。ウェルには、ポリエーテルエステルウレタン(I)を0.1mg/500μl/well、1mg/500μl/well又は10mg/500μl/wellで含有するMSC専用培養培地、又は、ポリエーテルエステルウレタン(I)のいずれも含有しないMSC専用培養培地が事前に入れられていた。通常の細胞増殖培養法にて、7日間又は14日間継続的に培養した後、WST-1細胞生存度アッセイ及び細胞数計測によりポリマーの細胞毒性が評価された。培養開始から7日目又は14日目に、MSCのアクチンファイバーをファロイジン-アクチンで、核をダーピー(DAPI)試薬で染色した後、画像を取得した。取得した画像を図12(A)と図12(B)に示す。図12(A)及び(B)は、DAPIで染色された細胞核及びアクチンファイバーであり、得られた画像について、専用セルカウントソフトにより細胞数を計測した。この細胞数測定の結果を、図12(C)のグラフに黒三角印で示す。また、培養開始から7日目(Day-7)又は14日目(Day-14)に、ウェルにWST-1試薬を添加し、プレートの吸光度を観察波長438nmで測定した。測定した結果を図12(C)に棒グラフとして示す。図12(B)の縦軸(左側)は吸光度を示し、縦軸(右側)は細胞数を示す。図12(C)の横軸は、培地中のポリエーテルエステルウレタン(I)の含有量を示す。図12(C)より、培養開始から14日目では、ポリエーテルエステルウレタン(I)の含有量が0.1mg/500μl/well及び1mg/500μl/wellの場合に、吸光度が高くなることが分かった。これは、本実施例に係るゲルが細胞を好適に捕捉できたためと考えられる。
【0070】
<細胞培養評価-ゲルの形成有り>
MSC、上述したポリエーテルエステルウレタン(I)溶液(ポリマー溶液)及びMSC専用培養培地をジチオールペプチド(20nM)と混合した後(ポリマー溶液濃度=25w/v%、ポリマー溶液及びジチオールペプチド溶液の体積比=3:1)、低接着性24-ウェルプレート(平面底、直径15.7mm)にゲルを形成させた。1ウェル当たりの細胞数が3000細胞となるように、最初に混合するMSCの細胞濃度を調整した。ゲル内において3日間MSCを培養した後、LIVE/DEAD染色により細胞生存性を評価した。その結果を図13(A)に示す。本発明のポリエーテルエステルウレタン(I)を用いた場合、死細胞がほとんど観察されないことが図13(A)より分かった。
【0071】
低接着性24-ウェルプレート(平面底、直径15.7mm)にポリエーテルエステルウレタン(I)ゲル(ポリマー溶液濃度=25w/v%、ポリマー溶液及びジチオールペプチド溶液の体積比=3:1)を形成させた後、ゲル表面にMSCを播種した(3000細胞/ウェル)。3日間培養した後、アクチンファイバーはファロイジン-アクチンで、核はダーピー(DAPI)試薬で染色し細胞の画像を取得した。得られた画像を図13(B)に示す。本発明のポリエーテルエステルウレタン(I)を用いた場合、良好な細胞生存性を示すことが図13(B)より分かった。
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【配列表】
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