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特開2023-16349在庫管理システム、及び在庫管理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016349
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】在庫管理システム、及び在庫管理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/087 20230101AFI20230126BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
G06Q10/08 330
G05B19/418 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120605
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】内田 雅喜
(72)【発明者】
【氏名】赤穗 昭太郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 紀彦
【テーマコード(参考)】
3C100
5L049
【Fターム(参考)】
3C100AA36
3C100AA45
3C100BB36
3C100BB39
5L049AA16
5L049CC52
(57)【要約】
【課題】在庫を適切に管理することができる在庫管理システム、及び在庫管理プログラムを提供する。
【解決手段】確率分布演算部12は、物品の注文に関する離散的な情報である第1の情報に基づいて求められる第1の分布関数と、物品の注文に関する第2の情報に基づいて求められる第2の分布関数に基づく複合分布を、物品の注文に関する確率分布として演算する。このように、確率分布演算部12は、一つの分布関数のみを演算するのではなく、複数の分布関数に基づく複合分布を演算することによって、物品の注文の状態をより正確に把握可能な分布を得ることができる。指標設定部13は、そのような複合分布から在庫に関する指標を設定するため、物品の注文の状況をより正確に示した指標を設定することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品の在庫の量を管理する在庫管理システムであって、
前記物品の注文に関する離散的な情報である第1の情報に基づいて求められる第1の分布関数と、前記物品の注文に関する第2の情報に基づいて求められる第2の分布関数に基づく複合分布を、前記物品の注文に関する確率分布として演算する確率分布演算部と、
前記複合分布から在庫に関する指標を設定する指標設定部と、を備える、在庫管理システム。
【請求項2】
前記第1の分布関数は、前記物品に固有の納入間隔における注文回数の確率分布であり、
前記第2の分布関数は、一回あたりの注文での前記物品の個数の確率分布である、請求項1に記載の在庫管理システム。
【請求項3】
前記指標設定部は、
前記物品の平均注文量、及び欠品許容率に基づく安全在庫を演算し、
前記平均注文量及び前記安全在庫の和である基準在庫を前記在庫に関する指標として設定する、請求項2に記載の在庫管理システム。
【請求項4】
前記第1の分布関数は、納品日から経過時間までの注文回数の確率分布であり、
前記第2の分布関数は、一回あたりの注文での前記物品の個数の確率分布である、請求項1に記載の在庫管理システム。
【請求項5】
前記指標設定部は、前記在庫に関する指標として、
前記納品日からの経過時間の時点における前記物品の平均注文量に基づく第1の閾値と、
欠品許容率に基づく、欠品を判定するための第2の閾値と、を設定し、
前記納品日からの経過時間の時点における注文量と、前記第1の閾値及び前記第2の閾値とを比較する、請求項4に記載の在庫管理システム。
【請求項6】
物品の在庫の量を管理する在庫管理プログラムであって、
前記物品の注文に関する離散的な情報である第1の情報に基づいて求められる第1の分布関数と、前記物品の注文に関する第2の情報に基づいて求められる第2の分布関数に基づく複合分布を、前記物品の注文に関する確率分布として演算する確率分布演算ステップと、
前記複合分布から在庫に関する指標を設定する指標設定ステップと、をコンピュータシステムに実行させる、在庫管理プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、在庫管理システム、及び在庫管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のガウス分布を仮定した在庫管理システムは需要が非負かつ離散的な構造を持つため、しばしば推定誤差をもたらしていた。その対応策である非ガウスのシステムとして、特許文献1に記載されたものが知られている。この在庫管理システムは、正味補充リードタイム日数分の日付の重複を許容し、無作為抽出を繰り返し、その各取得日における出荷量の合計値を演算する。在庫管理システムは、このような処理を繰り返すことで、合計値の確率分布を作成し、その確率分布から安全在庫及び発注点在庫を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-97749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の在庫管理システムでは、在庫を適切に管理出来ない場合があった。無作為抽出による手法は、母集団から抽出される結果の確からしさに依存するため、特に注文数が少ない商品の場合には精度が低下しやすくなる。注文数が多い商品であっても、確率が確からしくない場合には試行の度に結果が異なる恐れがある。そのため、適切な在庫をより正確に管理することが求められていた。
【0005】
従って、本発明は、在庫を適切に管理することができる在庫管理システム、及び在庫管理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る在庫管理システムは、物品の在庫の量を管理する在庫管理システムであって、物品の注文に関する離散的な情報である第1の情報に基づいて求められる第1の分布関数と、物品の注文に関する第2の情報に基づいて求められる第2の分布関数に基づく複合分布を、物品の注文に関する確率分布として演算する確率分布演算部と、複合分布から在庫に関する指標を設定する指標設定部と、を備える。
【0007】
確率分布演算部は、物品の注文に関する離散的な情報である第1の情報に基づいて求められる第1の分布関数と、物品の注文に関する第2の情報に基づいて求められる第2の分布関数に基づく複合分布を、物品の注文に関する確率分布として演算する。このように、確率分布演算部は、一つの分布関数のみを演算するのではなく、複数の分布関数に基づく複合分布を演算することによって、物品の注文の状態をより正確に把握可能な分布を得ることができる。指標設定部は、そのような複合分布から在庫に関する指標を設定するため、物品の注文の状況をより正確に示した指標を設定することができる。以上より、在庫を適切に管理することが可能となる。
【0008】
第1の分布関数は、物品に固有の納入間隔における注文回数の確率分布であり、第2の分布関数は、一回あたりの注文での物品の個数の確率分布であってよい。この場合、確率分布演算部は、物品に固有の納入間隔の期間における注文個数を正確に把握可能な複合分布を演算することができる。
【0009】
指標設定部は、物品の平均注文量、及び欠品許容率に基づく安全在庫を演算し、平均注文量及び安全在庫の和である基準在庫を在庫に関する指標として設定してよい。この場合、指標設定部は、物品に固有の納入間隔の期間における注文個数の複合分布に基づいて、正確に演算された基準在庫に基づいた指標を設定できる。
【0010】
第1の分布関数は、納品日から経過時間までの注文回数の確率分布であり、第2の分布関数は、一回あたりの注文での物品の個数の確率分布であってよい。この場合、確率分布演算部は、納品日から経過時間における注文個数を正確に把握可能な複合分布を演算することができる。
【0011】
指標設定部は、在庫に関する指標として、納品日からの経過時間の時点における物品の平均注文量に基づく第1の閾値と、欠品許容率に基づく、欠品を判定するための第2の閾値と、を設定し、納品日からの経過時間の時点における注文量と、第1の閾値及び第2の閾値とを比較してよい。この場合、指標設定部は、納品日からの経過時間の時点における注文量に欠品の可能性がある場合、あるいは過剰在庫の可能性がある場合に、適切に検知することができる。
【0012】
本発明の一態様に係る在庫管理プログラムは、物品の在庫の量を管理する在庫管理プログラムであって、物品の注文に関する離散的な情報である第1の情報に基づいて求められる第1の分布関数と、物品の注文に関する第2の情報に基づいて求められる第2の分布関数に基づく複合分布を、物品の注文に関する確率分布として演算する確率分布演算ステップと、複合分布から在庫に関する指標を設定する指標設定ステップと、をコンピュータシステムに実行させる。
【0013】
この在庫管理プログラムによれば、上述の在庫管理システムと同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、在庫を適切に管理することができる在庫管理システム、及び在庫管理プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る在庫管理システムを示すブロック構成図である。
図2】在庫管理システムの演算装置によって演算された各分布の例を示すグラフである。
図3】複合分布について説明するための図である。
図4】在庫管理システムの処理内容を示すフローチャートである。
図5】注文時刻と各パラメータとの関係を示すグラフである。
図6】変形例に係る在庫管理システムを示すブロック構成図である。
図7】変形例に係る在庫管理システムの処理内容を示すフローチャートである。
図8】現時点の注文量と閾値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る在庫管理システム100を示すブロック構成図である。在庫管理システム100は、物品の在庫の量を管理するシステムである。図1に示すように、在庫管理システム100は、演算装置10と、入出庫管理システム101と、記憶装置102と、を備える。
【0017】
入出庫管理システム101は、物品を保管した倉庫などの入出庫の管理を行うシステムである。入出庫管理システム101は、顧客からの注文を受信すると共に、注文に基づいて倉庫からの物品の出庫を行う。入出庫管理システム101は、注文に関する情報を演算装置10及び記憶装置102へ送信する。入出庫管理システム101は、演算装置10及び記憶装置102へ注文実績を送信する。入出庫管理システム101は、物品別の日当たり注文実績を準備する。このとき、入出庫管理システム101は、物品の平均納入間隔Lを注文実績から演算し納入間隔L(日数)としてこの情報を演算装置10へ送信する。また、入出庫管理システム101は、欠品を許容できる割合を示す欠品許容率αの情報を演算装置10へ送信する。なお、入出庫管理システム101は、物品ごとの納入間隔L、及び欠品許容率αを送信することができる。
【0018】
記憶装置102は、各種情報を記憶する装置である。記憶装置102は、物品別の注文実績を記憶しておき、所定のタイミングで演算装置10に注文実績を送信する。
【0019】
演算装置10は、在庫管理のための各種演算を行う装置である。演算装置10は、CPU、RAM、ROM等により構成されている。演算装置10は、プログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、ASIC等の1つ以上の専用のハードウェア回路、あるいは、それらの組み合わせを含む回路として構成し得る。プロセッサはCPU、並びにRAM及びROM等のメモリを有する。メモリには、情報の処理を行うための種々のプログラムが記憶され、CPUは各種プログラムの読み出し、による演算を行う。演算装置10は、注文情報演算部11と、確率分布演算部12と、指標設定部13と、を備える。
【0020】
注文情報演算部11は、入出庫管理システム101及び記憶装置102から取得した注文実績に基づいて、物品の注文に関する注文情報を演算するユニットである。注文情報演算部11は、注文回数演算部14と、注文個数演算部16と、を備える。
【0021】
注文回数演算部14は、物品の注文に関する離散的な情報である第1の情報として、顧客からの注文回数の情報を演算するユニットである。なお、物品の注文に関する離散的な情報とは、販売店件数や注文数など非負(0を含む)の整数を意味する。具体的には、注文回数演算部14は、物品の固有の納入間隔Lの期間における顧客からの注文回数Nt、及びその頻度を集計する。なお、注文回数Ntには、対象となる物品に対して、複数の顧客からの注文が含まれる。注文回数演算部14は、直近から過去1年以上の期間を納入間隔Lの期間で区切ると共に、それぞれの納入間隔Lで受領した注文回数を集計する。これにより、図2(a)に示すように、横軸を「納入間隔L期間中の顧客の注文回数Nt」とし、縦軸を「頻度」とした頻度分布が得られる。過去の注文実績において、ある注文回数になる頻度が高いほど棒グラフBG1が高くなり、頻度が低いほど棒グラフBG1が低くなる。
【0022】
注文個数演算部16は、物品の注文に関する第2の情報として、注文個数の情報を演算するユニットである。具体的には、注文個数演算部16は、顧客の一回当たりの注文個数、及びその頻度を集計する。注文個数演算部16は、直近から過去1年以上の期間に顧客からの一回あたりの注文個数を集計する。これにより、図2(c)に示すように、横軸を「顧客1件当たりの注文個数X」とし、縦軸を「頻度」とした頻度分布が得られる。過去の注文実績において、顧客がある注文個数で注文する頻度が高いほど棒グラフBG2が高くなり、頻度が低いほど棒グラフBG2が低くなる。
【0023】
確率分布演算部12は、第1の情報に基づいて求められる第1の分布関数と、第2の情報に基づいて求められる第2の分布関数に基づく複合分布を、物品の注文に関する確率分布として演算するユニットである。確率分布演算部12は、第1の確率分布演算部21と、第2の確率分布演算部22と、複合分布演算部23と、を備える。
【0024】
第1の確率分布演算部21は、第1の分布関数に対応する確率分布を演算するユニットである。第1の確率分布演算部21は、第1の分布関数として、物品に固有の納入間隔Lにおける注文回数の確率分布を演算する。第1の確率分布演算部21は、注文回数演算部14によって集計された注文回数の頻度分布に基づいて、当該頻度分布に対して尤もらしい確率分布P1を演算する。これにより、図2(b)に示すように、頻度分布の棒グラフBG1の分布態様に沿った形状の確率分布P1が得られる。なお、確率分布P1の候補としては、確率過程としてポアソン過程、負の二項過程などを用いることが好ましい。
【0025】
第2の確率分布演算部22は、第2の確率分布に対応する確率分布を演算するユニットである。第2の確率分布演算部22は、第2の分布関数として、一回あたりの注文での物品の注文個数の確率分布を演算する。第2の確率分布演算部22は、注文個数演算部16によって集計された顧客の一回あたりの注文個数の頻度分布に基づいて、当該頻度分布に対して尤もらしい確率分布P2を演算する。これにより、図2(d)に示すように、頻度分布の棒グラフBG2の分布態様に沿った形状の確率分布P2が得られる。なお、確率分布P2の候補としては、ポアソン分布、負の二項分布などを用いることが好ましい。確率分布P2は、離散分布でなくともよい。
【0026】
複合分布演算部23は、第1の分布関数及び第2の分布関数に基づく複合分布を演算するユニットである。本実施形態では、図3に示すように、複合分布演算部23は、顧客の注文回数の確率分布P1と、顧客の一回あたりの注文個数の確率分布P2とを複合させることで、複合分布P3を演算する。これにより、図2(e)に示すような複合分布P3が得られる。複合分布P3は、納入間隔Lの期間中の注文個数Sの確率分布を示す。複合分布P3は、横軸が納入間隔Lの期間中の注文個数Sであり、縦軸が確率を示している。
【0027】
指標設定部13は、複合分布P3から在庫に関する指標を設定するユニットである。 指標設定部13は、物品の平均注文量、及び欠品許容率に基づく安全在庫を演算し、平均注文量及び安全在庫の和である基準在庫を在庫に関する指標として設定する。従って、指標設定部13は、平均注文量演算部24と、安全在庫演算部26と、基準在庫演算部27と、を備える。
【0028】
平均注文量演算部24は、平均注文量を演算するユニットである。図2(f)に示すように、平均注文量演算部24は、複合分布P3の平均値を演算し、当該平均値における横軸の注文個数を平均注文量として取得する。安全在庫演算部26は、欠品許容率αに基づく安全在庫を演算する。安全在庫演算部26は、欠品許容率αから直接、安全在庫を演算することができる。例えば、安全在庫演算部26は、「安全在庫=複合分布の(100-α)パーセンタイル点-平均注文量」によって安全在庫を演算する。基準在庫演算部27は、平均注文量及び安全在庫の和である基準在庫を演算する。すなわち、基準在庫演算部27は、「基準在庫=平均注文量+安全在庫」によって基準在庫を演算する。
【0029】
次に、図4を参照して、演算装置10の処理内容のフローチャートについて説明する。図4に示すように、注文情報演算部11は、入出庫管理システム101及び記憶装置102から注文実績に関する情報を取得する(ステップS10)。次に、注文回数演算部14は、納入間隔Lの期間中の各顧客からの注文回数Nを演算する(ステップS20)。例えば、図5(a)に示すように、横軸に納入間隔L中の注文時刻を設定し、縦軸に注文回数を設定する。この場合、一回の注文が発生したタイミングにて、注文回数Nが一つ増える。次に、第1の確率分布演算部21は、第1の分布関数として、納入間隔Lの期間中の各顧客からの注文回数Nの確率分布を演算する(ステップS30)。第1の確率分布演算部21が平均λtのポアソン過程を用いた場合、納入間隔Lの期間中にの注文回数がn回である確率は、以下の式(1)で示される。
【数1】
【0030】
次に、注文個数演算部16は、顧客の一回あたりの注文個数Xを演算する(ステップS40)。例えば、図5(b)に示すように、横軸に納入間隔L中の注文時刻を設定し、縦軸に一回あたりの注文の物品の個数を設定する。この場合、一回の注文が発生したタイミングにて、当該注文における物品の個数が描かれる。次に、第2の確率分布演算部22は、第2の分布関数として、納入間隔Lの期間中の顧客の一回あたりの注文での物品の注文個数Xの確率分布を演算する(ステップS50)。第2の確率分布演算部22が平均λのポアソン分布を用いた場合、顧客の一回あたりの注文での物品の注文個数をXとすると、その確率は、以下の式(2)で示される。
【数2】
【0031】
次に、複合分布演算部23は、ステップS30で演算した注文回数Nの確率分布、及びステップS50で演算した注文個数Xの確率分布に基づく複合分布を演算する(ステップS60)。例えば、図5(c)に示すように、横軸に納入間隔L中の注文回数を設定し、縦軸に納入間隔L中の注文個数を設定する。この場合、一回の注文が発生したタイミングにて、当該注文における注文個数だけ、納入間隔L中の注文個数Sが増える。例えば、1回目の注文にて注文個数Sが「X」となり、2回目の注文にて注文個数Sが「X+X」となる。このように、注文個数Sは、注文が発生するたびに、累積的に増加する。従って、納入間隔L中の注文個数Sは、以下の式(3)で示される。

=X+X+…+XNt …(3)
【0032】
ここで、複合分布演算部23は、一回あたりの注文個数X及び注文回数Nを確率に従って生成させながら、図2(e)に示すような複合分布を作成する。なお、複合分布の平均及び分散が分かれば、指標設定部13での演算を行うことができる。従って、複合分布演算部23は、式(4)にて複合分布における平均を演算し、式(5)によって複合分布の分散を演算する。なお、E[X]は、納入間隔Lの期間中に受けた注文の一回あたりの平均個数(=λ)である。また、E[X]は、納入間隔Lの期間中に受けた注文一回あたりの個数の二乗の平均である。

E[S]=λtE[X] …(4)

V[S]=λtE[X] …(5)
【0033】
次に、平均注文量演算部24は、複合分布P3における平均注文量を演算する(ステップS70)。安全在庫演算部26は、欠品許容率αに基づく安全在庫を演算する(ステップS80)。基準在庫演算部27は、平均注文量及び安全在庫の和である基準在庫を演算する(ステップS90)。
【0034】
次に、本実施形態に係る在庫管理システム100の作用・効果について説明する。
【0035】
確率分布演算部12は、物品の注文に関する離散的な情報である第1の情報に基づいて求められる第1の分布関数と、物品の注文に関する第2の情報に基づいて求められる第2の分布関数に基づく複合分布を、物品の注文に関する確率分布として演算する。このように、確率分布演算部12は、一つの分布関数のみを演算するのではなく、複数の分布関数に基づく複合分布を演算することによって、物品の注文の状態をより正確に把握可能な分布を得ることができる。指標設定部13は、そのような複合分布から在庫に関する指標を設定するため、物品の注文の状況をより正確に示した指標を設定することができる。以上より、在庫を適切に管理することが可能となる。
【0036】
例えば、実データを無作為抽出処理を繰り返して(リサンプリング)確率分布を演算する場合、次の様な課題が生じる。例えば、無作為サンプルが本来の母集団の特徴を反映していない場合、リサンプリングの前提が崩れてしまい、母集団を推定する際のロジックが破綻する可能性がある。また、無作為のリサンプリングに基づいているため、毎回異なる結果が得られるという課題が生じる。また、納入間隔Lの日数が少ない場合、繰り返し回数を増やしても信頼区間の精度が低くなるという課題が生じる。本実施形態に係る在庫管理システム100は、複数の分布関数に基づく複合分布を演算することにより、これらの無作為抽出処理によって演算された確率分布において生じる課題を解決することができる。
【0037】
第1の分布関数は、物品に固有の納入間隔Lにおける注文回数の確率分布であり、第2の分布関数は、一回あたりの注文での物品の個数の確率分布であってよい。この場合、確率分布演算部12は、物品に固有の納入間隔Lの期間における注文個数を正確に把握可能な複合分布を演算することができる。
【0038】
指標設定部13は、物品の平均注文量、及び欠品許容率に基づく安全在庫を演算し、平均注文量及び安全在庫の和である基準在庫を在庫に関する指標として設定してよい。この場合、指標設定部13は、物品に固有の納入間隔Lの期間における注文個数の複合分布に基づいて、正確に演算された基準在庫に基づいた指標を設定できる。
【0039】
本実施形態に係る在庫管理プログラムは、物品の在庫の量を管理する在庫管理プログラムであって、物品の注文に関する離散的な情報である第1の情報に基づいて求められる第1の分布関数と、物品の注文に関する第2の情報に基づいて求められる第2の分布関数に基づく複合分布を、物品の注文に関する確率分布として演算する確率分布演算ステップと、複合分布から在庫に関する指標を設定する指標設定ステップと、をコンピュータシステムに実行させる。
【0040】
この在庫管理プログラムによれば、上述の在庫管理システム100と同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【0041】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0042】
図6に示すように、変形例に係る在庫管理システム200が採用されてもよい。この在庫管理システム200において、第1の分布関数は、納入間隔Lの期間ではなく、納品日から経過時間までの顧客の注文回数の確率分布である。第2の分布関数は、一回あたりの注文での物品の個数の確率分布である。また、指標設定部113は、在庫に関する指標として、納品日からの経過時間の時点における物品の平均注文量に基づく第1の閾値と、欠品許容率αに基づく、欠品を判定するための第2の閾値と、を設定する。また、指標設定部113は、納品日からの経過時間の時点における注文量と、第1の閾値及び第2の閾値とを比較し、注文量が第1の閾値より小さい場合、または注文量が第2の閾値以上の場合に報知を行う。従って、指標設定部113は、第1の閾値演算部124と、第2の閾値演算部126と、判定・報知部127と、を備える。各要素の機能については、図7のフローチャートと共に説明する。
【0043】
図7に示すように、注文回数演算部14は、ステップS20の処理に代えて、現時点(納品日からの経過時間t)での注文回数を演算する(ステップS120)。また、第1の確率分布演算部21は、ステップS30の処理に代えて、現時点の注文回数の確率分布を演算する(ステップS130)。これにより、複合分布演算部23は、ステップS60に代えて、現時点の注文回数の確率分布、及び一回の注文個数に基づく複合分布を演算する(ステップS160)。
【0044】
第1の閾値演算部124は、第1の閾値を演算する(ステップS170)。第1の閾値演算部124は、第1の閾値として、現時点の複合分布の平均注文量、すなわち50%タイル値を演算する。第2の閾値演算部126は、第2の閾値を演算する(ステップS180)。第2の閾値演算部126は、第2の閾値として、「1-欠品許容率α」に対応する注文量(例えば、95%タイル値)を演算する。判定・報知部127は、現時点の注文量を演算すると共に、当該現時点の注文量が第1の閾値以上であり、且つ、第2の閾値より小さいか否かを判定する(ステップS190)。
【0045】
ステップS190において、判定・報知部127が、現時点の注文量が第1の閾値以上であり、且つ、第2の閾値より小さいと判定した場合、現時点の注文量は平均より多めではあるがバラツキの範囲内で安全在庫でカバーできると判断できる領域であると判断することができる(例えば図8(a)参照)。この場合、判定・報知部127は、現時点の注文量が計画通りである旨の決定をし(ステップS200)、所定のタイミングで再びステップS10から処理を繰り返す。
【0046】
一方、ステップS190において、判定・報知部127が、現時点の注文数が第2の閾値以上であると判定した場合(例えば図8(b)参照)、欠品の可能性があると判断し、報知を行う(ステップS210)。また、ステップS190において、判定・報知部127が、現時点の注文数が第1の閾値より小さいと判定した場合(例えば図8(c)参照)、過剰在庫の可能性があると判断し、報知を行う(ステップS210)。なお、判定・報知部127が、第1の閾値及び第2の閾値と注文数とを比較して、どのように報知を行うかは特に限定されない。例えば、判定・報知部127は、注文数が第1の閾値と一致した場合に、現時点の注文量が計画通りである旨の決定をし、注文数が第2の閾値より大きい場合に多めの注文であると報知してよい。
【0047】
変形例に係る在庫管理システム200において、第1の分布関数は、納品日から経過時間までの顧客の注文回数に関する確率分布であり、第2の分布関数は、一回あたりの注文での物品の個数の確率分布である。この場合、確率分布演算部12は、納品日からの経過時間における注文個数を正確に把握可能な複合分布を演算することができる。
【0048】
指標設定部113は、在庫に関する指標として、納品日からの経過時間の時点における物品の平均注文量に基づく第1の閾値と、欠品許容率αに基づく、欠品を判定するための第2の閾値と、を設定し、納品日からの経過時間の時点における注文量と、第1の閾値及び第2の閾値とを比較し、注文量が第1の閾値より小さい場合、または注文量が第2の閾値以上の場合に報知を行ってよい。この場合、指標設定部113は、納品日からの経過時間の時点における注文量に欠品の可能性がある場合、あるいは過剰在庫の可能性がある場合に、適切に検知することができ、例えばユーザーに報知することができる。なお、第1の閾値より小さい場合に報知するにあたり、第1の閾値は過去の実績から経験的に閾値を設定する。
【0049】
なお、第1の情報及び第2の情報は、上述のものに限定されない。例えば、情報として、注文実績に代えて出荷実績に基づいた解析が行われてもよい。また、倉庫以外の実店舗においても、POSデータなどにより、「商品A」を購入する顧客数を第1の情報とし、顧客1人あたりの購入数を第2の情報とすることで、「商品A」の在庫管理を行うことが可能となる。また、第2の情報は離散的な情報でなくともよい。
【符号の説明】
【0050】
12…確率分布演算部、13,113…指標設定部、100,200…在庫管理システム。
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