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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163635
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】センサおよびセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/20 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
G01L1/20 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074664
(22)【出願日】2022-04-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年3月に、ACM CHI Conference on Human Factors in Computing Systemsのウェブサイト(https://programs.sigchi.org/chi/2022/program/content/72030)にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】514053169
【氏名又は名称】株式会社メルカリ
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山村 亮介
(72)【発明者】
【氏名】筧 康明
(72)【発明者】
【氏名】韓 燦教
(72)【発明者】
【氏名】佐倉 玲
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 啓介
(57)【要約】
【課題】入力部材として押潰しに対する反発力を調整可能であり、組み込むデバイスや利用態様に応じて外力に対する抵抗値の変化を適切に設定し得るセンサおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】センサは、複数の柱梁を含んで構成される単位格子が三次元的に連続する導電性構造体を含むセンサ部と、少なくとも導電性構造体が外力によって押し潰されることにより変化するセンサ部の抵抗値を出力する出力コネクタとを備える。また、センサの製造方法は、上記のセンサ部を3Dプリンタにより積層して成形する工程を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の柱梁を含んで構成される単位格子が三次元的に連続する導電性構造体を含むセンサ部と、
少なくとも前記導電性構造体が外力によって押し潰されることにより変化する前記センサ部の抵抗値を出力する出力コネクタと
を備えるセンサ。
【請求項2】
前記導電性構造体は、前記単位格子が三次元的に連続する非導電性構造体と隣接して配設されている請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
2つの前記出力コネクタ間の導電経路の距離が、介在されない場合に比較して長くなるように前記導電性構造体の端部から内部に向かって前記非導電性構造体が介在された請求項2に記載のセンサ。
【請求項4】
2つの前記出力コネクタは、前記導電性構造体の一面に前記非導電性構造体を挟んで隣接して配設されている請求項3に記載のセンサ。
【請求項5】
前記単位格子は、格子内の一点から格子点へ向かって放射状に延在する前記複数の柱梁を含む請求項1に記載のセンサ。
【請求項6】
前記単位格子は、隣接する格子点間を接続して枠体を形成する前記複数の柱梁を含む請求項1に記載のセンサ。
【請求項7】
前記センサ部を3Dプリンタにより積層して成形する工程を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載のセンサを製造する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサおよびセンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外力によって変形する材料を利用して、その変形から外力の有無や大きさを検出するセンサの開発が進められている。このようなセンサは、様々な入力デバイスに適用することができ、例えば利用者が押したり握ったりする動作を伴う機器に対して親和性が高い。そのようなセンサの一つとして、外力によって変形する多孔質構造体に導電性インキを含浸させることにより導電性を付与し、その変形に伴って変化する抵抗値を測定することにより利用者の動作を検出するセンサが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-194387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
押し潰して変形させるセンサは、デバイスへの実装を工夫することにより利用者の多様な動作を検出できることからその応用に期待が高まるものの、これまでは利用できる素材が限られており、期待通りの機能が得られないという問題があった。例えば、市販されている発泡素材や多孔質素材を用いる場合には外力に対する変形量を調整することが難しく、したがって、センサを組み込むデバイスや利用態様に応じて外力に対する抵抗値の変化を適切に設定することが難しかった。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、入力部材として押潰しに対する反発力を調整可能であり、組み込むデバイスや利用態様に応じて外力に対する抵抗値の変化を適切に設定し得るセンサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様におけるセンサは、複数の柱梁を含んで構成される単位格子が三次元的に連続する導電性構造体を含むセンサ部と、少なくとも導電性構造体が外力によって押し潰されることにより変化するセンサ部の抵抗値を出力する出力コネクタとを備える。
【0007】
また、本発明の第2の態様におけるセンサの製造方法は、上記のセンサ部を3Dプリンタにより積層して成形する工程を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、入力部材として押潰しに対する反発力を調整可能であり、組み込むデバイスや利用態様に応じて外力に対する抵抗値の変化を適切に設定し得るセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係るセンサの全体構成を示す斜視図である。
図2】外力検出時のセンサの様子を示す図である。
図3】センサからの検出信号を利用するセンサシステムの構成例を示す図である。
図4】センサ部の導電経路を説明するための概念図である。
図5】3Dプリンタでセンサを製造する様子を示す図である。
図6】センサ部の導電経路を延長するための設定手法を説明するための図である。
図7】単位格子を説明する図である。
図8】単位格子の違いによる物理特性を示す図である。
図9】第1の応用例に係るセンサの全体図である。
図10】第2の応用例に係るセンサの全体図である。
図11】第3の応用例に係るセンサの全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。また、各図において、同一又は同様の構成を有する構造物が複数存在する場合には、煩雑となることを回避するため、一部に符号を付し、他に同一符号を付すことを省く場合がある。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
【0011】
図1は、本実施形態に係るセンサ100の全体構成を示す斜視図である。センサ100は、いわゆるソフトセンサとも呼ばれる柔らかい素材を検出部材とするセンサであり、本実施形態においては、外力を受けていない状態で一辺が約30mmの立方体センサを一例として説明する。
【0012】
センサ100は、主に、センサ部110と2つの出力コネクタ120によって構成されている。センサ部110は、具体的には後述するが、複数の柱梁を含んで構成される単位格子111が三次元的に連続する構造体であり、外力が加えられている間はその外力の大きさに応じて変形し、外力が除去されれば直ちに元の形状に戻る弾力性を有する。出力コネクタ120は、センサ部110の抵抗値を示す検出信号を検出回路へ出力するためのコネクタであり、単位格子111の間隙に圧入されることによりセンサ部110に固定されている。
【0013】
ケーブル200は、出力コネクタ120から出力される検出信号を検出回路へ伝達するケーブルであり、端部に設けられたコネクタピン210が出力コネクタ120に対して挿抜される。
【0014】
なお、図示するようにx軸、y軸およびz軸を定める。すなわち、出力コネクタ120がコネクタピン210を受容する方向がx軸方向であり、2つの出力コネクタ120が並ぶ方向がy軸方向である。また、x軸およびy軸に直交する方向がz軸方向である。以後のいくつかの図面においても図1のように設置された状態を基準として同様の座標軸を併記することにより、それぞれの図面が表す構造体の向きを示す。
【0015】
図2は、外力検出時のセンサ100の様子を示す図である。本実施形態においては、利用者がセンサ100を指先で押し潰す利用態様を想定する。
【0016】
白抜き矢印で示すように利用者がセンサ100の上面(z軸プラス側のxy平面)を下向き(z軸マイナス方向)に加圧すると、互いに連結されたそれぞれの単位格子111がz軸方向に圧縮され、全体としてのセンサ部110もz軸方向に縮んで押し潰される。それぞれの単位格子111がz軸方向に圧縮されると、単位格子111を構成する柱梁どうしの接触面積が増大して2つの出力コネクタ120間の抵抗値が減少する。2つの出力コネクタ120間の抵抗値は、それぞれの出力コネクタ120に接続されたケーブル200が検出信号を後述する検出回路へ伝達することによって検出される。
【0017】
利用者の指先によるセンサ部110の押潰し量が増えるほど単位格子111を構成する柱梁どうしの接触面積は増大するので、出力コネクタ120から出力される抵抗値はより減少する。換言すると、センサ100は、外力による押潰しに応じて単位格子111を構成する柱梁どうしの接触状態が変化することにより、異なる抵抗値を出力し得る。なお、図2は、センサ100のZ軸方向の上面(Z軸プラス側の面)が指先で一様に押し潰される例を示すが、この上面における押し潰しは一様ではなく、少なくとも指先との接触部分がZ軸方向により縮んで押し潰されてもよい。すなわち、センサ100の上面における指先との接触部分が、この上面のその他の部分よりもZ軸方向においてより下方(Z軸マイナス方向)に押し潰されてもよい。
【0018】
図3は、センサ100からの検出信号を利用するセンサシステムの構成例を示す図である。一端がセンサ100に接続されているケーブル200は、他端では検出回路220に接続されている。検出回路220は、抵抗値検出回路を含み、ケーブル200を介して受信する検出信号からセンサ100の抵抗値を検出する。
【0019】
検出された抵抗値は、A/D変換され、デジタル信号として制御機器230へ引き渡される。制御機器230は、例えばパーソナルコンピュータ(PC)であり、検出された抵抗値に応じてソフトウェアの制御などを行い得る。また、検出された抵抗値が予め設定された閾値以上であればOFF、以下であればONと認識するようにプログラムすれば、センサ100をON/OFFスイッチとして利用することもできる。
【0020】
制御機器230は、PCに限らず、例えば、スマートフォンやゲーム機器などの携帯端末や、掃除機などの電化製品や、ロボットや、自動車などの移動体であってもよい。すなわち、制御機器230は、抵抗値のデジタル信号を取得して、このデジタル信号に応じて操作や動作などが制御される機器であればよい。また、検出回路220は、制御機器230に含まれる構成であってもよく、あるいはセンサ100に含まれる構成であってもよい。また、センサ100および検出回路220が制御機器230に組み込まれた構成であっても構わない。
【0021】
図4は、センサ部110の導電経路を説明するための概念図である。本実施形態に係るセンサ100は、図1および図2に示す例においては、一側面に並んで2つの出力コネクタ120が配設されている。もしセンサ部110の全体が導電性構造体であれば、導電経路は2つの出力コネクタ120を結ぶ直線が最短経路となるので、センサ部110がz軸方向に押し潰されても抵抗値の変化量はわずかである。センサとしては入力の変化に対する出力の変化量が大きいほど信号処理を行いやすく好ましいと言えるので、本来であれば一方の出力コネクタ120と他方の出力コネクタ120を、例えば立方体形状の互いに対角となる頂点近傍にそれぞれ配設することが好ましい。しかし、出力コネクタ120をそのように配設すると、そこへ接続されるケーブル200がセンサ部110に対して互いに逆向きとなる放射方向へ引き出されることになり、利用者の操作感を損なうばかりでなく、ケーブル200の取り廻しも煩雑となる。したがって、2つの出力コネクタ120は、同一側面に、互いに近い距離に配設されることが望ましい。
【0022】
そこで、本実施形態に係るセンサ100は、ある程度の長さの導電経路を確保しつつ2つの出力コネクタ120を近傍に配設するために、センサ部110を導電性構造体112と非導電性構造体113によって構成する。導電性構造体112は、単位格子111が三次元的に連続する構造体であって、導電性を有する。導電性構造体112の単位格子111は、例えば導電性フィラーを配合した熱可塑性ポリウレタン(TPU)を素材とするフレキシブルフィラメントを用いて成形される。
【0023】
非導電性構造体113は、同じく単位格子111が三次元的に連続する構造体であるが、絶縁性を有する。非導電性構造体113の単位格子111は、例えば導電性フィラーを配合しないTPUを素材とするフレキシブルフィラメントを用いて成形される。センサ部110は、導電性構造体112と非導電性構造体113が互いに隣接して一体化されるので、弾力性と靭性に優れるTPUは、押潰しが繰り返されるセンサ部110の素材として好ましい。
【0024】
センサ部110は、より具体的には図4に示すように、導電性構造体112のうち2つの出力コネクタ120の間に下端面側(z軸マイナス側のxy平面の側)からスリット状に設けられた空間に非導電性構造体113が挿入されるように介在している。なお、図4においては、導電性構造体112および非導電性構造体113の全体形状を直線で表し、単位格子111の描画を省いている。
【0025】
このように非導電性構造体113が介在されることにより、2つの出力コネクタ120を結ぶ直線は導電経路となり得ず、太線で示すように、非導電性構造体113を迂回した経路が導電経路となる。このような導電経路は、より多くの単位格子111を経由することになるので、センサ部110が押し潰された場合とそうでない場合で抵抗値の差が大きくなり、押潰し量に対する抵抗値の変化量を検出しやすくなる。したがって、例えばわずかに押し潰された場合であっても、その押圧をより精確に検出することができる。特に、図4の導電経路は、z軸方向の距離が長いので、図2に示すように利用者がz軸方向にセンサ部110を押し潰す利用態様にとって好ましい。
【0026】
センサ部110は、導電性構造体112と非導電性構造体113を別々に形成した上で、図4に示すように導電性構造体112のスリットに非導電性構造体113を挿し込んで固着してもよいが、本実施形態においては、3Dプリンタを用いて一体的に形成する。図5は、3Dプリンタ400でセンサ100を製造する様子を示す図である。具体的には、3Dプリンタ400によりセンサ部110を積層して成形する工程を示す。なお、3Dプリンタ300でセンサ100を製造する方式は積層する方式に限らず、光造形等、任意の方式を選択してもよい。
【0027】
3Dプリンタ400は、図示するステージ410とヘッド420を含み、不図示の制御部によってヘッド420を制御してステージ410上にセンサ部110を形成する。ヘッド420は、白抜き矢印で示すように、ステージ410に対して平面方向であるxy方向および高さ方向であるz軸方向に移動可能である。
【0028】
ヘッド420は、ステージ410の方向へ向けられた導電材ノズル421および非導電材ノズル422を備える。導電材ノズル421は、ヘッド420へ供給された導電性フレキシブルフィラメント423をヘッド420で加熱、溶融して吐出するためのノズルである。非導電材ノズル422は、ヘッド420へ供給された非導電性フレキシブルフィラメント424をヘッド420で加熱、溶融して吐出するためのノズルである。導電材ノズル421から吐出される導電材および非導電材ノズル422から吐出される非導電材のそれぞれの吐出位置および吐出量は、制御部によって制御される。
【0029】
3Dプリンタ400は、ステージ410の面上から上方向(z軸プラス方向)へ、所定高さ分だけ導電材および非導電材を吐出して固化させ、これを繰り返すことにより積層してセンサ部110を成形する。より具体的には、CADデータに従って、導電性構造体112を構成する単位格子111を成形する位置においては導電材ノズル421から導電材を吐出し、非導電性構造体113を構成する単位格子111を成形する位置においては非導電材ノズル422から非導電材を吐出する。
【0030】
なお、本実施形態においては、上述のように、導電性フレキシブルフィラメント423として導電性フィラーを配合したTPUを、非導電性フレキシブルフィラメント424として導電性フィラーを配合しないTPUを採用するが、フレキシブルフィラメントの素材はこれらに限らない。弾力性と靭性に優れる素材であって、単位格子111を形成できる素材であればいずれの素材も採用し得る。例えば、導電性構造体112と非導電性構造体113のうち一方をポリウレタン系の素材とし、他方をポリエステル系の素材としてもよい。
【0031】
次に、導電経路の設定手法について説明する。図6は、上述のセンサ100とは異なるセンサ100’を示し、導電経路を延長するための設定手法を説明する図である。図において、立方体のうち実線で示す部分が導電性構造体112’であり、残りの部分が非導電性構造体113’である。導電性構造体112’は、一方の出力コネクタ120が配設された一端から、他方の出力コネクタ120が配設された他端まで、稜線に沿って立方体を縁取るように、z軸プラス方向→x軸マイナス方向→y軸プラス方向→z軸マイナス方向→x軸プラス方向→y軸マイナス方向と辿る立体形状を成す。
【0032】
このような立体形状を有する導電性構造体112’によれば、太線で示すように、3軸方向へ伸延する導電経路を設定することができる。このような導電経路を設定すると、x軸方向にも、y軸方向にも、z軸方向にも比較的長い導電経路を有するので、図2に示すz軸方向の押潰しに限らず、x軸方向の押潰しもy軸方向の押潰しも精度よく検出することができる。すなわち、センサ100’のどこが変形されても、利用者の動作を検出することができる。したがって、3軸方向に押し潰されることが想定されるセンサを製造する場合には、このような導電経路を設定することが好ましい。
【0033】
導電経路を長く設定するためのセンサ部の構造はこれに限らない。出力コネクタ120間の導電経路の距離が介在されない場合に比較して長くなるように、非導電性構造体が導電性構造体の端部から内部に向かって介在された構造であればよい。導電性構造体と非導電性構造体が複雑な形状であっても、3Dプリンタによってセンサ部を一体的に積層する方法であれば、比較的容易に製造することができる。例えば螺旋形状の導電性構造体を含むセンサ部であっても3Dプリンタで製造し得る。
【0034】
また、センサ100およびセンサ100’においては、導電経路を延長するために導電性構造体112に非導電性構造体113を介在させる構造を採用したが、非導電性構造体は、導電経路を延長するために限らず、他の目的にも利用し得る。例えば、導電性構造体を環境に露出させたくない場合には、導電性構造体の外周部の全体を非導電性構造体で覆うようにしてもよい。
【0035】
次に、単位格子について説明する。図7は、単位格子を説明する図である。特に、図7(a)は、センサ部110が採用する単位格子111の斜視図であり、図7(b)は、他の例における単位格子111’の斜視図である。
【0036】
単位格子111は、一辺が5mmの立方体において、中心から格子点である各頂点へ放射状に柱梁が延在する骨格柱梁111aが内接する構造を有する。単位格子111’は、同じく一辺が5mmの立方体において、骨格柱梁111aに加え、上面(z軸プラス側のxy平面)の各頂点間を接続した枠体としてのフレーム柱梁111bと下面(z軸マイナス側のxy平面)の各頂点間を接続した同じく枠体としてのフレーム柱梁111bを備える。
【0037】
単位格子は、格子ラティスとも呼ばれ、立方体などの繰り返し単位となる格子空間内を複数の柱梁が三次元的に延在し、三次元方向へ連続する場合に互いに境界に面する柱梁どうしの少なくとも一部が接続される構造を有する。なお、柱梁は、骨格柱梁111aに示すように単位格子に対して斜め方向に延在してもよく、また、直線状に限らず曲線状に延在してもよい。また、延在方向に沿って断面形状が変化する柱梁であっても構わない。
【0038】
格子空間の大きさを変更したり、柱梁のパターンを変更したり、また、柱梁の太さを変更したりすることにより、センサ部の弾力性や、押潰しに対する抵抗値の変化量などの物理特性を調整することができる。例えば、柱梁を太くしたり多く配置したりすれば、大きな押圧力でも押潰し量は小さくなり、センサ部は全体的に硬い感触となる。また、少しの変形で隣接する柱梁どうしが広く密着するように柱梁のパターンを設計すれば、センサ部の接触感度を高めることができる。
【0039】
図8は、単位格子の違いによる物理特性を示す図である。具体的には、図8(a)は、圧縮量(mm)に対する荷重(N)の変化を表し、図8(b)は、圧縮量に対する抵抗値(kΩ)の変化を表す。実線は図7(a)に示す単位格子111から成るセンサ部Aの変化を示し、点線は図7(b)に示す単位格子111’から成るセンサ部Bの変化を示し、一点鎖線は図7(b)に示す単位格子111’を一辺が6mmの大きさに変更した単位格子から成るセンサ部Cの変化を示し、いずれも実測値に基づく。いずれのセンサ部も、大きさとしては一辺が30mmの立方体形状であり、図4に示すような非導電性構造体を有するものとする。また、図2に示すように下向き(z軸マイナス方向)に押し潰すものとする。
【0040】
図8(a)によれば、骨格柱梁のみの単位格子から成るセンサ部Aは、圧縮量に対する荷重がリニアに変化しているが、骨格柱梁とフレーム柱梁から成るセンサ部Bおよびセンサ部Cは、波状に変化している。一方で、図8(b)によれば、いずれのセンサ部も圧縮量の増加に対して抵抗値が漸減している。ただし、格子空間に対する柱梁の占有度合いが高いセンサ部Bおよびセンサ部Cは、センサ部Aよりも、同じ圧縮量に対する抵抗値が小さくなっている。
【0041】
本実施形態のように3Dプリンタを用いてセンサ部を成形する場合には、例えば利用者の声を受け入れて物理特性を調整することが容易である。例えば、利用者の弾力性に関する好みをアンケート形式でインターネットにより収集し、3Dプリンタがその集計結果に対応する弾力性を有する単位格子を自動的に選択してセンサ部を成形するように構成することもできる。また、製造者が指定する弾力性や抵抗値の変化量などのデータを受け入れ、3Dプリンタがその指定に適する単位格子を自動的に選択してセンサ部を成形するように構成することもできる。この場合、3Dプリンタは、それぞれ異なる単位格子に弾力性又は抵抗値の変化量を関連付けた情報を保持しておき、取得した弾力性又は抵抗値の変化量などのデータに対応する単位格子を選択し、センサ部を成形するとよい。
【0042】
以上説明したセンサ100は、センサ部110が立方体形状であったが、センサ部の形状は、単位格子が三次元的に連続して構成されればよいので、センサの使用目的に応じて様々に変形し得る。特に、センサ部の表面は単位格子の境界である必要はなく、表面部においては単位格子が分断されていても構わない。したがって、センサ部の一部を曲面にしたり、全体を球面にしたりすることも可能である。
【0043】
そこで、本実施形態におけるセンサ100の応用例についていくつか説明する。以下の応用例に係る図においては、単位格子の描画を省いて全体形状を表現する。図9は、第1の応用例に係るセンサ500の全体図である。センサ500は、全体としてアヒルの外形を成し、大人の両掌に収まる程度の大きさである。センサ500は、例えば子供の玩具として供される。
【0044】
センサ500は、ほぼ全体が導電性構造体512で成形され、アヒルの腹部に相当する位置に非導電性構造体513が下面から挿入されるように介在されている。2つの出力コネクタ120は、腹部側面に非導電性構造体513を挟んで隣接して配設されている。センサ500は、出力コネクタ120に接続されたケーブルを介して検出回路および制御機器に接続されており(不図示)、例えば白抜き矢印で示す方向に押し潰されると、制御機器によって抵抗値の変化が検出されてアヒルの鳴き声を模した音声が発せられる。また、アヒルの外形を有するセンサ500の押し潰しの加減に応じて、アヒルの鳴き声の大きさを変更することが可能である。
【0045】
図10は、第2の応用例に係るセンサ600が組み込まれたスタイラスペン690の全体図である。スタイラスペン690は、例えばタブレット端末と無線接続され、利用者の操作に応じたペン先の動きなどを当該タブレット端末へ伝達する機器である。
【0046】
センサ600は、全体として円筒形状を成し、スタイラスペン690のグリップ部に装着されている。センサ600は、ほぼ全体が導電性構造体612で成形され、円筒形状のうち一定の中心角度に相当する部分に非導電性構造体613が挿入されるように介在されている。2つの出力コネクタ120は、スタイラスペン690の中心軸側に非導電性構造体613を挟んで隣接して配設されている。
【0047】
スタイラスペン690は内部に検出回路を備え、出力コネクタ120は検出回路に設けられた接続端子に接続されている。また、スタイラスペン690は、制御機器としての機能も備え、検出回路で検出された抵抗値の変化に応じて、設定された入力の有無を判断する。例えば、利用者がセンサ部を白抜き矢印で示す方向に押し潰すと、クリック操作があったと判断する。
【0048】
図11は、第3の応用例に係るセンサ700の全体図である。特に、図7(a)は、上面側を俯瞰する全体斜視図であり、図7(b)は、下面側を俯瞰する全体斜視図である。センサ700は、全体として十字状を成し、4方向の突出部分がそれぞれ独立した押圧部となる十字ボタンとして機能する。
【0049】
センサ700は、主に4方向の突出部分が導電性構造体712で成形され、それぞれが押潰しの対象となる第1導電部715、第2導電部716、第3導電部717、第4導電部718に分かれて構成されている。また、それぞれの導電部を区分けするように、十字の中央部に非導電性構造体713が設けられている。また、それぞれの導電部において、凸方向に沿って二分割するように非導電性構造体713が下面側から上面方向へ向かって配設されている。また、それぞれの導電部の下面側には、2つの出力コネクタ120が凸方向に沿って配設された非導電性構造体713を挟んで隣接して配設されている。すなわち、センサ700には、8本のケーブルが接続されることになる。センサ800は、出力コネクタ120に接続されたケーブルを介して検出回路および制御機器に接続されており(不図示)、それぞれの導電部が白抜き矢印で示す方向に押し潰されると、制御機器によって抵抗値の変化が検出されて、いずれの導電部が押圧されたかが判定される。
【0050】
以上本実施形態に係るいくつかのセンサを説明したが、単位格子が三次元的に連続する導電性構造体を含むセンサ部と、センサ部が押し潰されることにより変化する抵抗値を出力する出力コネクタとを備えるセンサであれば、様々な態様に変更し得る。例えば、導電性構造体と非導電性構造体をそれぞれ構成する単位格子の大きさや形状が互いに異なっていてもよい。また、導電性構造体、非導電性構造体のそれぞれは、単一の単位格子が連続するばかりでなく、複数の単位格子が混在されて構成されていてもよい。例えば、同じ形状の単位格子でも大きさが互いに異なる単位格子を含んで構成されていてもよい。
【0051】
また、導電性構造体と非導電性構造体を互いに異なる色に着色してもよい。また、例えばセンサ部の中心部に土台となる硬い素材を埋め込む構成としてもよい。また、出力コネクタは、コネクタピンを受容する種類のコネクタに限らず、検出回路に抵抗値を出力できるものであれば、例えば単に導線が引き出された構成であっても構わない。
【符号の説明】
【0052】
100、100’、500、600、700…センサ、110…センサ部、111、111’…単位格子、111a…骨格柱梁、111b…フレーム柱梁、112、112’、512、612、712…導電性構造体、113、113’、513、613、713…非導電性構造体、120…出力コネクタ、200…ケーブル、210…コネクタピン、220…検出回路、230…制御機器、400…3Dプリンタ、410…ステージ、420…ヘッド、421…導電材ノズル、422…非導電材ノズル、423…導電性フレキシブルフィラメント、424…非導電性フレキシブルフィラメント、690…スタイラスペン、715…第1導電部、716…第2導電部、717…第3導電部、718…第4導電部
図1
図2
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図9
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図11