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特開2023-163655大気圧プラズマ処理装置、電解めっき装置、および金属張積層板の製造方法
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  • 特開-大気圧プラズマ処理装置、電解めっき装置、および金属張積層板の製造方法 図1
  • 特開-大気圧プラズマ処理装置、電解めっき装置、および金属張積層板の製造方法 図2
  • 特開-大気圧プラズマ処理装置、電解めっき装置、および金属張積層板の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163655
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】大気圧プラズマ処理装置、電解めっき装置、および金属張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/18 20060101AFI20231102BHJP
   C23C 16/505 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
H05K3/18 G
C23C16/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022074699
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 茂樹
【テーマコード(参考)】
4K030
5E343
【Fターム(参考)】
4K030AA14
4K030CA02
4K030CA12
4K030EA05
4K030FA02
4K030FA03
4K030GA14
4K030JA09
4K030KA16
4K030KA17
5E343AA03
5E343AA33
5E343BB24
5E343DD43
5E343EE36
5E343FF30
5E343GG20
(57)【要約】
【課題】アーク放電の発生を抑制できる大気圧プラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】大気圧プラズマ処理装置AAはロールツーロールにより搬送される長尺帯状の基材10を大気圧プラズマ処理する。大気圧プラズマ処理装置AAは、基材10の表面に対して垂直にプラズマガスを放出するプラズマヘッド40Bと、プラズマヘッド40Bと基材10との間に、基材10の表面に沿って補助ガスを放出する補助ノズル60とを備える。補助ガスの流れによりプラズマガスの揺らぎが抑えられ、アーク放電の発生を抑制できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールツーロールにより搬送される長尺帯状の基材を大気圧プラズマ処理する大気圧プラズマ処理装置であって、
前記基材の表面に対して垂直にプラズマガスを放出するプラズマヘッドと、
前記プラズマヘッドと前記基材との間に、前記基材の表面に沿って補助ガスを放出する補助ノズルと、を備える
ことを特徴とする大気圧プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記補助ノズルは、前記補助ガスの放出方向が前記基材の搬送方向の逆向きとなるよう配置されている
ことを特徴とする請求項1記載の大気圧プラズマ処理装置。
【請求項3】
前記補助ガスの流量は、前記プラズマガスの流量よりも少ない
ことを特徴とする請求項1記載の大気圧プラズマ処理装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の大気圧プラズマ処理装置と、
基材ロールから前記基材を繰り出す供給装置と、
前記基材に電解めっきを施すめっき槽と、
前記基材の表面にめっき被膜が成膜された金属張積層板をロール状に巻き取る巻取装置と、を備え、
前記大気圧プラズマ処理装置は、前記供給装置と前記めっき槽との間に配置されている
ことを特徴とする電解めっき装置。
【請求項5】
ロールツーロールにより搬送される長尺帯状の基材の表面にめっき被膜を成膜して金属張積層板を製造する方法であって、
前記基材を大気圧プラズマ処理する大気圧プラズマ処理工程と、
前記大気圧プラズマ処理工程の後、前記基材の表面に前記めっき被膜を成膜する電解めっき工程と、を備え、
前記大気圧プラズマ処理工程において、プラズマヘッドから放出されたプラズマガスを前記基材の表面に対して垂直に照射するととともに、前記プラズマヘッドと前記基材との間に前記基材の表面に沿って補助ガスを放出する
ことを特徴とする金属張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧プラズマ処理装置、電解めっき装置、および金属張積層板の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、大気圧プラズマを照射して基材の表面を洗浄する大気圧プラズマ処理装置、基材の表面にめっき被膜を成膜して金属張積層板を得る電解めっき装置、および金属張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などの電子機器には、樹脂フィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板が用いられる。フレキシブルプリント配線板は樹脂フィルムの表面を金属層で覆った金属張積層板から製造される。
【0003】
金属張積層板の製造方法としてメタライジング法が知られている。メタライジング法による金属張積層板の製造は、例えば、つぎの手順で行なわれる。まず、真空成膜法により樹脂フィルムの表面に金属薄膜層を成膜する。つぎに、電解めっき法により金属薄膜層の上にめっき被膜を成膜する。電解めっきにより、配線パターンを形成するのに適した膜厚となるまで金属層を厚膜化する。メタライジング法により、樹脂フィルム上に直接金属層が成膜された、いわゆる2層基板と称されるタイプの金属張積層板が得られる。
【0004】
メタライジング法による金属張積層板の製造は、使用する装置が異なる2段階の工程で行なわれる。すなわち、真空成膜装置内において、樹脂フィルムの表面に金属薄膜層を成膜し、得られた基材をロール状に巻回する。真空成膜装置から取り出した基材ロールを電解めっき装置にセットし、基材ロールから基材を繰り出しながらめっき被膜を成膜する。
【0005】
成膜直後の金属薄膜層は表面が酸化されておらず活性も高い。そのため、真空成膜装置内において空気の介在なしで基材をロール状に巻回すると、金属薄膜層同士が張り付くブロッキング現象を引き起こす。そうすると、基材ロールから基材を繰り出したときに金属薄膜層が局所的に引き剥がされることがある。
【0006】
この現象を回避するため、真空成膜装置内で基材をロール状に巻回する際に、樹脂フィルムなどからなる合紙を基材の間に挟み込みながら巻き取る方法が一般的に採用されている。しかし、この方法では、成膜直後の金属薄膜層に合紙が接触することになるため、基材を真空中で強く巻き取った場合に、合紙の成分が金属薄膜層の表面に局所的に転移することがある。
【0007】
合紙の成分が局所的に転移した金属薄膜層の表面にめっき被膜を成膜すると、合紙の成分に起因して金属層にピンホールなどの欠陥が生じることがある。そこで、基材の表面に大気圧プラズマを照射して合紙の成分を除去した後、電解めっきを行なうことが知られている(例えば、特許文献1)。これにより、合紙の成分に起因するピンホールの発生を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-132960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
大気圧プラズマ処理装置で大気圧プラズマを生成する際に、装置の条件によっては、アーク放電が生じることがある。アーク放電が生じている状態で大気圧プラズマを基材に照射すると、樹脂フィルムが熱変形することがある。特に、近年では、フレキシブルプリント配線板の高速信号伝達特性および軽量化に対応するため様々な素材の樹脂フィルムが用いられるようになっている。また、電子機器の小型化に対応するため薄い樹脂フィルムが用いられるようになっている。熱に弱い素材の樹脂フィルムまたは薄い樹脂フィルムを用いて金属張積層板を製造する場合に、アーク放電による熱変形が顕在化しやすい。
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、アーク放電の発生を抑制できる大気圧プラズマ処理装置を提供することを目的とする。または、本発明は、熱変形が抑制された金属張積層板が得られる電解めっき装置、および金属張積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の大気圧プラズマ処理装置は、ロールツーロールにより搬送される長尺帯状の基材を大気圧プラズマ処理する大気圧プラズマ処理装置であって、前記基材の表面に対して垂直にプラズマガスを放出するプラズマヘッドと、前記プラズマヘッドと前記基材との間に、前記基材の表面に沿って補助ガスを放出する補助ノズルと、を備えることを特徴とする。
本発明の電解めっき装置は、前記大気圧プラズマ処理装置と、基材ロールから前記基材を繰り出す供給装置と、前記基材に電解めっきを施すめっき槽と、前記基材の表面にめっき被膜が成膜された金属張積層板をロール状に巻き取る巻取装置と、を備え、前記大気圧プラズマ処理装置は、前記供給装置と前記めっき槽との間に配置されていることを特徴とする。
本発明の金属張積層板の製造方法は、ロールツーロールにより搬送される長尺帯状の基材の表面にめっき被膜を成膜して金属張積層板を製造する方法であって、前記基材を大気圧プラズマ処理する大気圧プラズマ処理工程と、前記大気圧プラズマ処理工程の後、前記基材の表面に前記めっき被膜を成膜する電解めっき工程と、を備え、前記大気圧プラズマ処理工程において、プラズマヘッドから放出されたプラズマガスを前記基材の表面に対して垂直に照射するととともに、前記プラズマヘッドと前記基材との間に前記基材の表面に沿って補助ガスを放出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る大気圧プラズマ処理装置によれば、補助ガスの流れによりプラズマガスの揺らぎが抑えられ、アーク放電の発生を抑制できる。
本発明に係る電解めっき装置および金属張積層板の製造方法によれば、大気圧プラズマ処理装置におけるアーク放電の発生が抑制されることから、アーク放電に起因する金属張積層板の熱変形を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係る大気圧プラズマ処理装置の縦断面図である。
図2】同大気圧プラズマ処理装置の側面図である。
図3】一実施形態に係る電解めっき装置の概略図である。
図4】一実施形態に係る銅張積層板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(大気圧プラズマ処理装置)
まず、本発明の一実施形態に係る大気圧プラズマ処理装置AAを説明する。
図1に示すように、大気圧プラズマ処理装置AAは、基材10を大気圧プラズマ処理する装置である。基材10は長尺帯状であり、ロールツーロールにより搬送される。基材10の搬送経路は複数のローラ30により画定されている。図1に示す例では、フィルム状の基材10が水平に左から右に搬送されている。2つのローラ30、30の間であって、基材10がフローティング状態となる区画に大気圧プラズマ処理装置AAが設けられている。
【0015】
大気圧プラズマ処理装置AAは2つのプラズマヘッド40A、40Bを有する。2つのプラズマヘッド40A、40Bは基材10を挟んで上下に配置されている。以下、基材10の上側に配置されたプラズマヘッド40Aを第1プラズマヘッド40Aと称し、基材10の下側に配置されたプラズマヘッド40Bを第2プラズマヘッド40Bと称する。
【0016】
第1プラズマヘッド40Aの内部にはガス流路41が形成されている。また、第1プラズマヘッド40Aはガス流路41を挟んで配置された一対の電極42、42を有する。ガス流路41の導入端には配管を介してガスボンベなどのガス源51が接続されている。ガス源51から供給されたプロセスガスはガス流路41に導入される。一対の電極42、42には電源52が接続されている。電極42、42間に加えられた電圧によりプロセスガスがプラズマ状態となる。プラズマ状態のプロセスガスをプラズマガスと称する。プラズマガスはガス流路41の放出端から放出される。
【0017】
プロセスガスとしてヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、水素、窒素などを用いることができる。プラズマガスによる洗浄効果を高めるために、プロセスガスは酸素を含んでもよい。また、一般に、電源52として中周波電圧(MHz)、高周波電圧(MHz)またはマイクロ波電圧(GHz)を印加できるものが用いられる。
【0018】
ガス流路41の放出端は基材10の表面に対向して配置されている。したがって、第1プラズマヘッド40Aから放出されたプラズマガスは基材10の表面(上面)に対して垂直に照射される。なお、ここでいう「垂直」とは、数学的に厳密な意味で垂直である必要はなく、略垂直であればよい。プラズマガスの照射方向は、大気圧プラズマ処理に適した範囲で、基材10の表面に対する垂直方向に対して傾きを有してもよい。
【0019】
第2プラズマヘッド40Bは第1プラズマヘッド40Aと同様の構成を有する。第2プラズマヘッド40Bはガス流路41および一対の電極42、42を有する。また、第2プラズマヘッド40Bにはガス源51および電源52が接続されている。第2プラズマヘッド40Bから放出されたプラズマガスは基材10の表面(下面)に対して垂直に照射される。
【0020】
基材10の表面に対するプラズマガスの照射時間はごく短時間でよい。具体的には、プラズマガスの照射時間は0.05~0.2秒とすればよい。
【0021】
図2に示すように、基材10はある程度の幅を有する。プラズマヘッド40A、40Bは、いずれも、基材10よりも幅広の部材である。また、ガス流路41も基材10と同程度の幅を有する。そのため、基材10の幅方向の全体にプラズマガスを照射できる。なお、プラズマガスの照射範囲は基材10の幅より狭くてもよい。この場合、基材10の両縁部分を除く大部分にプラズマガスを照射する。
【0022】
ところで、大気圧プラズマ処理装置AAで大気圧プラズマを生成する際に、装置の条件によっては、アーク放電が生じることがある。例えば、プラズマガスによる洗浄効果を高くするために電極42、42間の電圧を上げると、アーク放電が生じやすくなる。そこで、電圧を上げる場合には、プロセスガスの流量も同時に増やしてアーク放電の発生を抑制することが行なわれる。
【0023】
しかし、本願発明者は、プロセスガスの流量を増やしすぎると逆にアーク放電が生じやすくなるとの知見を得た。また、この際のプラズマガスを観察したところ、揺らぎが確認された。このことから、不明な点は多々あるものの、本願発明者はアーク放電が生じる原因を次のとおり推測した。すなわち、プロセスガスの流量が多いと、プラズマヘッド40A、40Bから放出されたプラズマガスが基材10に当たって押し戻されやすくなる。基材10で押し戻されたプラズマガスの流れが、プラズマヘッド40A、40Bから新たに放出されるプラズマガスに影響を及ぼし、揺らぎが生じる。プラズマガスが揺らぐことで、電流の通りやすい部分が生じ、そこに電子が集中してアーク放電となる。
【0024】
そこで、図1に示すように、本実施形態の大気圧プラズマ処理装置AAは、アーク放電の発生を抑制するために、補助ノズル60を有する。補助ノズル60には配管を介してガス源53が接続されている。ガス源53から供給された補助ガスは補助ノズル60から放出される。補助ガスとしてプラズマヘッド40A、40Bに供給されるプロセスガスと同様のガスを用いることができる。
【0025】
本実施形態では、補助ノズル60は、基材10の下側に配置されている。補助ガスは基材10の表面(下面)に沿って放出され、第2プラズマヘッド40Bと基材10との間を通過する。補助ガスの放出方向は補助ノズル60から第2プラズマヘッド40Bと基材10との間に向かう方向である。補助ガスは可能な範囲で基材10と平行な方向に放出することが好ましい。したがって、補助ノズル60は基材10と干渉しない範囲で、基材10に近い位置に配置される。
【0026】
図2に示すように、補助ノズル60は基材10の幅寸法と同程度またはそれよりも長いパイプ状の部材である。補助ノズル60には軸方向に並んだ複数の小孔またはスリットが形成されており、補助ガスが面状に放出される。面状に放出された補助ガスが第2プラズマヘッド40Bと基材10との間を通過する。
【0027】
補助ガスの流れにより第2プラズマヘッド40Bから放出されたプラズマガスが基材10に沿って押し流される。これにより、プラズマガスの揺らぎが抑えられるため、アーク放電の発生を抑制できる。特に、洗浄効果を高くするために電極42、42間の電圧を上げ、それに伴いプロセスガスの流量を増やしたとしても、補助ガスを導入することでアーク放電の発生を抑制できる。そのため、洗浄効果を高くしつつ、アーク放電の発生を抑制できる。
【0028】
補助ガスは基材10の搬送方向に沿って放出してもよい。ただし、補助ガスは基材10の搬送方向の逆向きに放出することが好ましい。この場合、補助ノズル60は、補助ガスの放出方向が基材10の搬送方向の逆向きとなるように、第2プラズマヘッド40Bの下流に配置される。このような配置とすれば、プラズマガスの照射により基材10から除去された汚れが上流に向かって飛ばされるため、洗浄後の基材10表面の汚染を抑制できる。
【0029】
また、補助ガスの流量は、第2プラズマヘッド40Bに供給されるプラズマガスの流量よりも少ないことが好ましい。補助ガスの流量が多すぎると、かえって、プラズマガスに揺らぎが生じる可能性があるからである。
【0030】
図1に示す例では、基材10の下側に配置された第2プラズマヘッド40Bのみに補助ノズル60を設けている。これに代えて、基材10の上側に配置された第1プラズマヘッド40Aのみに補助ノズル60を設けてもよい。また、上下のプラズマヘッド40A、40Bの両方に補助ノズル60を設けてもよい。
【0031】
本実施形態の大気圧プラズマ処理装置AAは2つのプラズマヘッド40A、40Bを有することから、基材10の両面を同時に大気圧プラズマ処理することができる。2つのプラズマヘッド40A、40Bは基材10の搬送方向に同位置に配置されてもよいし、ずれた位置に配置されてもよい。また、基材10の一方の面のみ洗浄が必要な場合などには、大気圧プラズマ処理装置AAはプラズマヘッドを1つのみ有する構成でもよい。
【0032】
(電解めっき装置)
つぎに、本発明の一実施形態に係る電解めっき装置BBを説明する。
図3に示すように、電解めっき装置BBは、ロールツーロールにより長尺帯状の基材10を搬送しつつ、基材10に対して電解めっきを行なう装置である。電解めっき装置BBは基材ロールから基材10を繰り出す供給装置71を有する。基材10は長尺帯状の合紙を挟み込みながら巻回されている。合紙は基材10を繰り出すときに基材10から分離され合紙巻取装置72で巻き取られる。電解めっき装置BBは電解めっき後の基材10(金属張積層板1)をロール状に巻き取る巻取装置73を有する。
【0033】
供給装置71と巻取装置73との間には種々のローラが配置されており、基材10の搬送経路が画定されている。基材10の搬送経路には、大気圧プラズマ処理装置AAおよびめっき槽80が配置されている。大気圧プラズマ処理装置AAは、電解めっきの前処理装置であり、供給装置71とめっき槽80との間に配置されている。したがって、基材10は大気圧プラズマ処理装置AAで表面洗浄された後に、めっき槽80において電解めっきが施される。
【0034】
本実施形態の電解めっき装置BBは複数のめっき槽80を有する。各めっき槽80の内部にはめっき液が貯留されている。めっき槽80の液面より上方には複数の給電ロール81が設けられている。給電ロール81には基材10の一方の面に接触するものと他方の面に接触するものとがあり、基材10の両面に給電できる。めっき槽80内のめっき液中には複数の搬送ロール82が設けられている。基材10は給電ロール81および搬送ロール82に巻回されており、めっき液中を上下に往復走行する。
【0035】
めっき槽80内のめっき液中には複数のアノード83が設けられている。アノード83はめっき液中を上下に往復走行する基材10の両面に対向して配置されている。複数のアノード83はそれぞれ電気的に独立した複数の制御用電源の正極に接続されている。各制御用電源の負極は対応するアノード83の直近に配置された給電ロール81に接続されている。
【0036】
アノード83と基材10との間に電流を流すことで電解めっきが行なわれる。電解めっきにより基材10の表面にめっき被膜が成膜され、金属張積層板1が得られる。長尺帯状の金属張積層板1は巻取装置73でロール状に巻き取られる。
【0037】
なお、電解めっき装置BBの構成は本実施形態に限定されない。基材10に対して電解めっきを施すことができればよく、種々の構成の電解めっき装置BBを採用できる。例えば、電解めっき装置BBは基材10の両面を電解めっきする構成でもよいし、基材10の片面のみを電解めっきする構成でもよい。
【0038】
(金属張積層板の製造方法)
つぎに、金属張積層板1の製造方法を説明する。
図4に示すように、金属張積層板1は、基材10と、基材10の表面に成膜されためっき被膜20とからなる。
【0039】
基材10は絶縁性を有するベースフィルム11の表面に金属薄膜層12が成膜されたものである。ベースフィルム11としてポリイミドフィルム、液晶ポリマー(LCP)フィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。特に限定されないが、ベースフィルム11の厚さは10~100μmが一般的である。
【0040】
金属薄膜層12はスパッタリング法などの真空成膜法により成膜される。金属薄膜層12は一種類の金属または合金からなる単一の層でもよいし、異なる種類の金属または合金からなる複数の層を積層したものでもよい。例えば、金属薄膜層12は単一の銅薄膜層でもよい。また、金属薄膜層12はニッケル、クロム、またはニッケルクロム合金からなる下地金属層13に、銅薄膜層14を積層したものでもよい。この場合、特に限定されないが、下地金属層13の厚さは5~50nmが一般的であり、銅薄膜層14の厚さは50~400nmが一般的である。
【0041】
めっき被膜20は金属薄膜層12の表面に成膜されている。特に限定されないが、めっき被膜20の厚さは、サブトラクティブ法により加工される金属張積層板1の場合8~12μmが一般的であり、セミアディティブ法により加工される金属張積層板1の場合0.1~5μmが一般的である。
【0042】
なお、金属薄膜層12とめっき被膜20とを合わせて金属層と称する。金属張積層板1はベースフィルム11の表面を金属層で覆ったものである。ベースフィルム11の片面のみに金属層が成膜されてもよいし、ベースフィルム11の両面に金属層が成膜されてもよい。金属層の組成は、特に限定されないが、例えば銅である。金属層が銅で形成された金属張積層板1は銅張積層板と称される。
【0043】
本実施形態の製造方法は大気圧プラズマ処理工程および電解めっき工程を有する。大気圧プラズマ処理工程および電解めっき工程をこの順に行なうことで金属張積層板1を製造する。
【0044】
金属張積層板1は、例えば、図3に示す電解めっき装置BBを用いて製造できる。この場合、ロールツーロールにより搬送される長尺帯状の基材10の表面にめっき被膜20を成膜して金属張積層板1を製造する。
【0045】
(1)大気圧プラズマ処理工程
基材ロールから繰り出された基材10は合紙と分離した後、大気圧プラズマ処理装置AAを通過する。大気圧プラズマ処理装置AAにより基材10は大気圧プラズマ処理される。より詳細には、基材10の表面には合紙の成分が局所的に転移している。基材10の表面にプラズマガスを照射することで、合紙の成分を除去する。
【0046】
ここで、大気圧プラズマ処理装置AAは図1に示す構成を有している。プラズマヘッド40A、40Bから放出されたプラズマガスは基材10の表面に対して垂直に照射される。これとともに、第2プラズマヘッド40Bと基材10との間に基材10の表面に沿って補助ガスが放出される。補助ガスの流れによりプラズマガスの揺らぎが抑えられるため、アーク放電の発生を抑制できる。大気圧プラズマ処理装置AAにおけるアーク放電の発生が抑制されることから、アーク放電に起因する基材10の熱変形を抑制できる。
【0047】
(2)電解めっき工程
大気圧プラズマ処理工程の後、基材10は電解めっき工程に供される。電解めっき工程では、電解めっきにより基材10の表面にめっき被膜20を成膜して金属張積層板1を得る。アーク放電に起因する熱変形が抑制された金属張積層板1が得られる。
【実施例0048】
(共通の条件)
ベースフィルムとして、幅500mm、厚さ35μmのポリイミドフィルム(宇部興産社製 Upilex)を用意した。ベースフィルムをマグネトロンスパッタリング装置にセットした。マグネトロンスパッタリング装置内にはニッケルクロム合金ターゲットと銅ターゲットとが設置されている。ニッケルクロム合金ターゲットの組成はCrが20質量%、Niが80質量%である。真空雰囲気下で、ベースフィルムの両面に、厚さ20nmのニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成し、その上に厚さ80nmの銅薄膜層を形成して基材を得た。マグネトロンスパッタリング装置内において合紙を挟み込みながら基材を巻き取り、基材ロールを得た。
【0049】
つぎに、基材ロールをロールツーロール方式の電解めっき装置にセットした。基材ロールから基材を繰り出し合紙を分離した後、大気圧プラズマ処理装置で基材の両面を大気圧プラズマ処理して基材の表面に転移した合紙の成分を除去した。その後、基材の両面に厚さ2μmの銅めっき被膜を成膜した。
【0050】
(実施例1)
大気圧プラズマ処理装置としてリモート型の高周波(13MHz)プラズマ装置を用いた。大気圧プラズマ処理装置の構成は図1に示すとおりである。プラズマヘッドに供給するプロセスガスとしてアルゴンと酸素の混合ガスを用いた。プロセスガスの酸素濃度は300ppmである。プラズマヘッドと基材との隙間は4mmである。速度5m/分で搬送される基材の両面にプラズマガスを照射した。基材の表面に対するプラズマガスの照射時間は約0.1秒である。
【0051】
基材の下側に配置された第2プラズマヘッドと基材との間に補助ガスを放出した。補助ガスとしてプラズマヘッドに供給するプロセスガスと同様のガスを用いた。プラズマヘッドの電極間の印加電圧を650Vとした。プラズマヘッドに供給するプロセスガスの流量を30L/分とした。また、補助ノズルに供給する補助ガスの流量を10L/分とした。
【0052】
大気圧プラズマ処理中のプラズマガスを目視観察したところ、プラズマガスは揺らぎがなく安定しており、アーク放電は確認されなかった。また、得られた銅張積層板を目視観察したところ、熱変形は確認されなかった。
【0053】
(比較例1)
実施例1において補助ノズルに補助ガスを供給しなかった。その他の条件は実施例1と同様である。
【0054】
大気圧プラズマ処理中のプラズマガスを目視観察したところ、プラズマガスに揺らぎが見られ、アーク放電が確認された。また、得られた銅張積層板を目視観察したところ、熱変形が確認された。
【0055】
以上より、補助ガスの流れによりプラズマガスの揺らぎが抑えられ、アーク放電の発生を抑制できることが確認された。また、これにより、アーク放電に起因する金属張積層板の熱変形を抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0056】
1 金属張積層板
10 基材
20 めっき被膜
AA 大気圧プラズマ処理装置
40A、40B プラズマヘッド
41 ガス流路
42 電極
60 補助ノズル
BB 電解めっき装置
71 供給装置
72 合紙巻取装置
73 巻取装置
80 めっき槽
図1
図2
図3
図4