(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163905
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】ブロックポリマー、組成物、表面処理剤、物品、及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20231102BHJP
C08F 293/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
C08F290/06
C08F293/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075117
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富塚 雄二郎
【テーマコード(参考)】
4J026
4J127
【Fターム(参考)】
4J026HA11
4J026HA22
4J026HA29
4J026HA32
4J026HA38
4J026HA39
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4J026HB22
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4J026HE01
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4J127CC023
4J127CC092
4J127CC132
4J127EA03
4J127FA56
(57)【要約】
【課題】基材に対して、滑り性、防汚性、及び耐摩耗性に優れた表面処理層を形成し得る表面処理剤として有用なブロックポリマー等の提供。
【解決手段】反応性基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するAブロックと、炭素数12~30の直鎖状アルキル基、2価のオルガノポリシロキサン残基、水酸基、ポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有する少なくとも1種のBブロックと、を含み、Aブロックは、ポリマーの片末端にのみ位置する、ブロックポリマー及びその応用。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するAブロックと、炭素数12~30の直鎖状アルキル基、2価のオルガノポリシロキサン残基、水酸基、ポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有する少なくとも1種のBブロックと、を含み、
前記Aブロックは、ポリマーの片末端にのみ位置する、ブロックポリマー。
【請求項2】
前記Bブロックは、炭素数12~30の直鎖状アルキル基、及び2価のオルガノポリシロキサン残基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有する、請求項1に記載のブロックポリマー。
【請求項3】
前記Bブロックは、水酸基及びポリエチレンオキシド鎖からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有する、請求項1に記載のブロックポリマー。
【請求項4】
前記Bブロックは、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有する、請求項1に記載のブロックポリマー。
【請求項5】
前記Bブロックは、炭素数12~30の直鎖状アルキル基、及び2価のオルガノポリシロキサン残基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するブロックと、水酸基及びポリエチレンオキシド鎖からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するブロックと、を含む、請求項1に記載のブロックポリマー。
【請求項6】
前記Bブロックは、炭素数12~30の直鎖状アルキル基、及び2価のオルガノポリシロキサン残基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するブロックと、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するブロックと、を含む、請求項1に記載のブロックポリマー。
【請求項7】
前記Bブロックは、水酸基及びポリエチレンオキシド鎖からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含むブロックと、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含むブロックと、を含む、請求項1に記載のブロックポリマー。
【請求項8】
前記反応性基は、反応性シリル基、イソシアナト基、リン酸エステル基、カルボキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、及びエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のブロックポリマー。
【請求項9】
前記Aブロックの含有量に対する前記Bブロックの含有量のモル比率は、1~200である、請求項1に記載のブロックポリマー。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のブロックポリマーと、液状媒体と、を含む組成物。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載のブロックポリマーを含む表面処理剤。
【請求項12】
さらに液状媒体を含む、請求項11に記載の表面処理剤。
【請求項13】
基材に対して、請求項11に記載の表面処理剤を用いて表面処理を行い、基材上に表面処理層が形成された物品を製造する、物品の製造方法。
【請求項14】
基材と、前記基材上に配置され、請求項11に記載の表面処理剤で表面処理された表面処理層と、を含む物品。
【請求項15】
光学部材である、請求項14に記載の物品。
【請求項16】
ディスプレイ又はタッチパネルである、請求項14に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ブロックポリマー、組成物、表面処理剤、物品、及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、外観、視認性等の性能を向上させるために、物品の表面に指紋を付きにくくする技術や、汚れを落としやすくする技術が求められている。具体的な方法として、物品の表面に表面処理剤を用いて表面処理を行う方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリマーの両末端に加水分解性シリル基を有し、且つポリマーを構成する全モノマー中、親水性官能基を有するモノマーの含有量が50モル%以上である親水性ポリマー(A)を含有することを特徴とする親水性膜形成用組成物が記載されている。
【0004】
特許文献2には、(メタ)アクリロイル基を含有するポリジメチルシロキサン化合物、ポリジメチルシロキサン化合物と共重合可能な重合性シラン化合物、及び、シラン化合物と共重合可能な二重結合を有する重合性化合物との共重合体を主成分とする防汚処理剤が記載されている。
【0005】
特許文献3には、原子移動ラジカル重合による加水分解性シリル基を含有するポリ(メタ)アクリレートの製造方法であって、(1)分子内にハロゲン基を1つ有するラジカル開始剤(A)1モル等量に対して、加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリルモノマー(B)を1~10モル等量、加水分解性シリル基を有さない(メタ)アクリルモノマー(C)を1~100モル等量の割合で重合し、マクロ開始剤を合成する第1の工程、(2)第1の工程で合成したマクロ開始剤1モル等量に対して、加水分解性シリル基を有さない(メタ)アクリルモノマー(C)を2~600モル等量添加し、中間体ポリマー(D)を合成する第2の工程、(3)第2の工程で合成した中間体ポリマー(D)1モル等量に対して、加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリルモノマー(B)を1~10モル等量添加し、中間体ポリマー(E)を合成する第3の工程、を含むことを特徴とする加水分解性シリル基を含有するポリ(メタ)アクリレートの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-285530号公報
【特許文献2】特開平10-7986号公報
【特許文献3】特開2018-162394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、表面処理剤等に用いられる組成物には滑り性、防汚性、及び耐摩耗性の観点から、さらなる改良が求められている。
【0008】
本開示はこのような事情に鑑みてなされたものであり、本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、基材に対して、滑り性、防汚性、及び耐摩耗性に優れた表面処理層を形成し得る表面処理剤として有用なブロックポリマー及び組成物を提供することにある。
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、基材に対して、滑り性、防汚性、及び耐摩耗性に優れた表面処理層を形成し得る表面処理剤を提供することにある。
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、滑り性、防汚性、及び耐摩耗性に優れた表面処理層を有する物品及び物品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は以下の態様を含む。
<1>
反応性基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するAブロックと、炭素数12~30の直鎖状アルキル基、2価のオルガノポリシロキサン残基、水酸基、ポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有する少なくとも1種のBブロックと、を含み、
Aブロックは、ポリマーの片末端にのみ位置する、ブロックポリマー。
<2>
Bブロックは、炭素数12~30の直鎖状アルキル基、及び2価のオルガノポリシロキサン残基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有する、請求項1に記載のブロックポリマー。
<3>
Bブロックは、水酸基及びポリエチレンオキシド鎖からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有する、<1>に記載のブロックポリマー。
<4>
Bブロックは、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有する、<1>に記載のブロックポリマー。
<5>
Bブロックは、炭素数12~30の直鎖状アルキル基、及び2価のオルガノポリシロキサン残基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するブロックと、水酸基及びポリエチレンオキシド鎖からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するブロックと、を含む、<1>に記載のブロックポリマー。
<6>
Bブロックは、炭素数12~30の直鎖状アルキル基、及び2価のオルガノポリシロキサン残基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するブロックと、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するブロックと、を含む、<1>に記載のブロックポリマー。
<7>
Bブロックは、水酸基及びポリエチレンオキシド鎖からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含むブロックと、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含むブロックと、を含む、<1>に記載のブロックポリマー。
<8>
反応性基は、反応性シリル基、イソシアナト基、リン酸エステル基、カルボキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、及びエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種である、<1>~<7>のいずれか1つに記載のブロックポリマー。
<9>
Aブロックの含有量に対するBブロックの含有量のモル比率は、1~200である、<1>~<8>のいずれか1つに記載のブロックポリマー。
<10>
<1>~<9>のいずれか1つに記載のブロックポリマーと、液状媒体と、を含む組成物。
<11>
<1>~<9>のいずれか1つに記載のブロックポリマーを含む表面処理剤。
<12>
さらに液状媒体を含む、<11>に記載の表面処理剤。
<13>
基材に対して、<11>又は<12>に記載の表面処理剤を用いて表面処理を行い、基材上に表面処理層が形成された物品を製造する、物品の製造方法。
<14>
基材と、基材上に配置され、<11>に記載の表面処理剤で表面処理された表面処理層と、を含む物品。
<15>
光学部材である、<14>に記載の物品。
<16>
ディスプレイ又はタッチパネルである、<14>に記載の物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、基材に対して、滑り性、防汚性、及び耐摩耗性に優れた表面処理層を形成し得る表面処理剤として有用なブロックポリマー及び組成物が提供される。
本発明の一実施形態によれば、基材に対して、滑り性、防汚性、及び耐摩耗性に優れた表面処理層を形成し得る表面処理剤が提供される。
本発明の一実施形態によれば、滑り性、防汚性、及び耐摩耗性に優れた表面処理層を有する物品及び物品の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、「表面処理層」とは、基材の表面に、表面処理によって形成される層を意味する。
本開示において、「重合性モノマー」とは、重合性基を有するモノマーを意味する。
本開示において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの両方を包含する概念である。また、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念である。
【0012】
[ブロックポリマー]
本開示のブロックポリマーは、反応性基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するAブロックと、炭素数12~30の直鎖状アルキル基、2価のオルガノポリシロキサン残基、水酸基、ポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有する少なくとも1種のBブロックと、を含み、Aブロックは、ポリマーの片末端にのみ位置する、ブロックポリマー。
【0013】
本開示のブロックポリマーを表面処理剤として用いた場合に、滑り性、防汚性、及び耐摩耗性に優れた表面処理層を形成できる。この理由は定かではないが、以下のように推測される。
【0014】
本開示のブロックポリマーでは、Bブロックが、炭素数12~30の直鎖状アルキル基、2価のオルガノポリシロキサン残基、水酸基、ポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有する。これらの重合性モノマーは、疎水性、親水性、又は親油性を有しており、ブロックとして存在するため、滑り性、防汚性、及び耐摩耗性に優れる表面処理層が得られる。また、Aブロックは、反応性基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含むことから、反応性基が基材表面と反応し、基材との密着性の向上に寄与していると考えられる。特に、Aブロックがポリマーの片末端にのみ位置することから、滑り性、防汚性、及び耐摩耗性の機能が発揮されると考えられる。
【0015】
特許文献1に記載のポリマーは、両末端に加水分解性シリル基を有するため、滑り性が不十分であると考えられる。特許文献2に記載のポリマーは、ランダムポリマーであり、ブロックポリマーに関する記載はない。特許文献3に記載のポリマーは、ブロックポリマーであるが、機能性を有するモノマーに由来する構成単位を含まないため、防汚性が得られないと考えられる。
【0016】
以下、本開示のブロックポリマーについて、詳細に説明する。
【0017】
本開示のブロックポリマーは、Aブロックと少なくとも1種のBブロックとを有し、Aブロックは、ポリマーの片末端にのみ位置する。例えば、AブロックとBブロックのみからなるブロックポリマーの場合には、AブロックとBブロックとが連結することにより、Aブロックは、必ず片末端に位置する。また、Aブロックと2種のBブロック(例えば、B1ブロック、B2ブロック)からなるブロックポリマーの場合には、Aブロック、B1ブロック、B2ブロックの順に連結する態様と、Aブロック、B2ブロック、B1ブロックの順に連結する態様と、が挙げられる。本開示のブロックポリマーは、ポリマーの両末端にAブロックが位置するものとは区別される。
【0018】
<Aブロック>
Aブロックは、反応性基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含む。
【0019】
(反応性基を含む重合性モノマーに由来する構成単位)
反応性基を含む重合性モノマーに由来する構成単位において、反応性基の数は1つのみであってもよく、2つ以上であってもよい。
【0020】
なお、本開示において、反応性基は、重合反応には関与せず、重合性基とは区別される。
【0021】
反応性基を含む重合性モノマーに含まれる重合性基は、カチオン重合性基であってもよく、ラジカル重合性基であってもよい。硬化性に優れる点から、重合性基は、ラジカル重合性基であることが好ましい。また、ラジカル重合性基は、硬化性に優れる点から、エチレン性不飽和基であることが好ましく、(メタ)アクリロイル基であることがより好ましい。
【0022】
反応性基を含む重合性モノマーに由来する構成単位において、反応性基は、基材と表面処理層との密着性に優れる点から、水酸基と共有結合可能な官能基であることが好ましい。
【0023】
中でも、防汚性に優れる表面処理層を形成する観点から、反応性基は、反応性シリル基、イソシアナト基、リン酸エステル基、カルボキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、及びエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、反応性シリル基又はイソシアナト基がさらに好ましい。
【0024】
反応性シリル基とは、ケイ素原子(Si原子)に反応性基が結合した基を意味する。反応性基としては、加水分解性基又は水酸基が好ましい。
【0025】
加水分解性基とは、加水分解反応により水酸基となる基である。すなわち、Si-Lで表される加水分解性を有するシリル基は、加水分解反応によりSi-OHで表されるシラノール基となる。シラノール基は、さらにシラノール基間で反応してSi-O-Si結合を形成する。また、シラノール基は、基材の表面に存在する酸化物に由来するシラノール基と脱水縮合反応して、Si-O-Si結合を形成できる。加水分解性基としては、例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、アシル基、アシルオキシ基、及びイソシアナト基(-NCO)が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましい。ただし、アリールオキシ基のアリール基は、ヘテロアリール基を含む。ハロゲン原子は、塩素原子であることが好ましい。アシル基は、炭素数1~6のアシル基であることが好ましい。アシルオキシ基は、炭素数1~6のアシルオキシ基であることが好ましい。
【0026】
均一な膜を作製しやすく、耐久性に優れる観点から、反応性シリル基は、アルコキシシリル基が好ましい。中でも、アルコキシシリル基は、ジアルコキシシリル基又はトリアルコキシシリル基が好ましく、トリアルコキシシリル基がより好ましい。
【0027】
反応性シリル基としては、下記式Aで表される基が好ましい。
【0028】
-Si(R1)nL3-n … (A)
R1はそれぞれ独立に、炭化水素基であり、Lはそれぞれ独立に、加水分解性基又は水酸基であり、nは0~2の整数である。
【0029】
反応性シリル基が1分子中に複数ある場合、複数の反応性シリル基は、同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。原料の入手容易性、及び、化合物の製造容易性の観点からは、複数の反応性シリル基は、同じであることが好ましい。
【0030】
R1はそれぞれ独立に、炭化水素基であり、飽和炭化水素基が好ましい。R1の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましい。
【0031】
加水分解性基としては、上述したものが好ましい。
【0032】
中でも、Lは、化合物の製造容易性の観点から、炭素数1~4のアルコキシ基又はハロゲン原子であることが好ましい。Lは、塗布時のアウトガスが少なく、化合物の保存安定性がより優れる点から、炭素数1~4のアルコキシ基であることが好ましく、エトキシ基又はメトキシ基がより好ましい。
【0033】
nは、0~2の整数であり、0又は1が好ましく、0がより好ましい。Lが複数存在することによって、表面処理層の基材への密着性がより強固になる。
nが1以下である場合、1分子中に存在する複数のLは、同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。原料の入手容易性、及び、化合物の製造容易性の観点から、複数のLは同じであることが好ましい。nが2である場合、1分子中に存在する複数のR1は同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。原料の入手容易性、及び、化合物の製造容易性の観点から、複数のR1は同じであることが好ましい。
【0034】
反応性シリル基を含む重合性モノマーとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、2-メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、2-メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、4-メタクリロキシブチルトリメトキシシラン、4-メタクリロキシブチルトリエトキシシラン、2-アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2-アクリロキシエチルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、4-アクリロキシブチルトリメトキシシラン、及び4-アクリロキシブチルトリエトキシシランが挙げられる。
中でも、硬化性に優れる点から、反応性シリル基を含む重合性モノマーは、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、又は3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランであることが好ましく、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランであることがより好ましい。
【0035】
イソシアナト基を含む重合性モノマーとしては、例えば、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレート、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレート、及び2-(2-メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアナートが挙げられる。
【0036】
上記イソシアナト基を含む重合性モノマーは、ブロック剤でブロックされていてもよい。ブロック剤としては、例えば、3,5-ジメチルピラゾール等のピラゾール;2-ブタノンオキシム等のオキシム;ε-カプロラクタム等のラクタムが挙げられる。
【0037】
リン酸エステル基を含む重合性モノマーとしては、例えば、2-(メタ)アクロイルオキシエチルアシッドホスフェートが挙げられる。
【0038】
カルボキシ基を含む重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、及び2-(メタ)アクリロイルオキシヘキサヒドロフタル酸が挙げられる。
【0039】
上記カルボキシ基を含む重合性モノマーは、無水物であってもよい。無水物としては、例えば、(メタ)アクリル酸の無水物及びイタコン酸無水物が挙げられる。
【0040】
カルボジイミド基を含む重合性モノマーとしては、例えば、1-エチル-3-プロピル(メタ)アクロイルカルボジイミドが挙げられる。
【0041】
オキサゾリン基を含む重合性モノマーとしては、例えば、2-ビニル-オキサゾリンが挙げられる。
【0042】
エポキシ基を含む重合性モノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0043】
Aブロックの含有量は、基材との密着性に優れる観点から、ブロックポリマーの全量に対して、0.5~50モル%であることが好ましく、0.9~30モル%であることがより好ましい。
【0044】
<Bブロック>
Bブロックは、炭素数12~30の直鎖状アルキル基、2価のオルガノポリシロキサン残基、水酸基、ポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有する。
【0045】
上記重合性モノマーに含まれる重合性基は、1つのみであってもよく、2つ以上であってもよい。
【0046】
重合性基は、カチオン重合性基であってもよく、ラジカル重合性基であってもよい。硬化性に優れる点から、重合性基は、ラジカル重合性基であることが好ましい。また、ラジカル重合性基は、硬化性に優れる点から、エチレン性不飽和基であることが好ましく、(メタ)アクリロイル基であることがより好ましい。
【0047】
(炭素数12~30の直鎖状アルキル基を含む重合性モノマー)
炭素数12~30の直鎖状アルキル基を含む重合性モノマーに由来する構成単位において、防汚性に優れる表面処理層を形成する観点から、直鎖状アルキル基の炭素数は14~28であることがより好ましく、16~26であることがさらに好ましい。
【0048】
炭素数12~30の直鎖状アルキル基を含む重合性モノマーとしては、例えば、ドデシル(メタ)アクリレート〔別名:ラウリル(メタ)アクリレート〕、テトラデシル(メタ)アクリレート〔別名:ミリスチル(メタ)アクリレート〕、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート〔別名:ステアリル(メタ)アクリレート〕、エイコシル(メタ)アクリレート、及びドコシル(メタ)アクリレート〔別名:ベヘニル(メタ)アクリレート〕が挙げられる。
【0049】
(2価のオルガノポリシロキサン残基を含む重合性モノマー)
2価のオルガノポリシロキサン残基を含む重合性モノマーに由来する構成単位において、2価のオルガノポリシロキサン残基は、下記式P1で表される基であることがより好ましい。
【0050】
【0051】
R3で表される炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が挙げられる。中でも、炭化水素基は、脂肪族炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましい。アルキル基は、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、及び環状アルキル基のいずれであってもよいが、直鎖状アルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0052】
s1は1以上の整数であり、2~500であることが好ましく、8~300であることがより好ましく、15~60であることがさらに好ましい。
【0053】
2価のオルガノポリシロキサン残基を含む重合性モノマーとしては、例えば、片末端にメタクリロイル基を有するポリジメチルシロキサン(製品名「X-22-174BX」、信越化学工業社製、繰り返し単位数29.1)、両末端にメタクリロイル基を有するポリジメチルシロキサン(製品名「サイラプレーンFM-7711」、「サイラプレーンFM-7721」、「サイラプレーンFM-7725、JNC株式会社製)が挙げられる。
【0054】
(水酸基を含む重合性モノマー)
水酸基を含む重合性モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;
ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;及び、
ヒドロキシエチルアリルエーテル、ヒドロキシプロピルアリルエーテル、ヒドロキシブチルアリルエーテル等のアリルエーテル類が挙げられる。
【0055】
なお、Bブロックを構成する重合性モノマーは、水酸基とポリアルキレンオキシド鎖との両方を含んでいてもよい。ただし、本開示において、水酸基及びポリアルキレンオキシド鎖を含む重合性モノマーは、「水酸基を含む重合性モノマー」ではなく、後述する「ポリアルキレンオキシド鎖を含む重合性モノマー」に該当するものとする。
例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート及びポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートはいずれも、水酸基及びポリアルキレンオキシド鎖を含むが、「ポリアルキレンオキシド鎖を含む重合性モノマー」に該当するものとする。
【0056】
(ポリアルキレンオキシド鎖を含む重合性モノマー)
【0057】
ポリアルキレンオキシド鎖は、下記式Bで表される。
(XO)m …(B)
【0058】
式B中、Xは、それぞれ独立に、アルキレン基である。
【0059】
アルキレン基の炭素数は、表面処理層の撥水性及び耐摩耗性を向上させる観点から、1~6が好ましく、2~4がより好ましい。
アルキレン基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよい。
【0060】
(XO)の具体例としては、-CH2O-、-C2H4O-、-C3H6O-、-C4H8O-、-C5H10O-、-C6H12O-、-CH(CH3)CH2O-、-CH(CH3)CH2CH2O-、-cycloC4H6-O-、-cycloC5H8-O-、及び-cycloC6H10-O-が挙げられる。
ここで、-cycloC4H6-は、シクロブタンジイル基を意味する。シクロブタンジイル基としては、シクロブタン-1,2-ジイル基、及びシクロブタン-1,3-ジイル基が挙げられる。-cycloC5H8-は、シクロペンタンジイル基を意味する。シクロペンタンジイル基としては、シクロペンタン-1,2-ジイル基、及びシクロペンタン-1,3-ジイル基が挙げられる。-cycloC6H10-は、シクロヘキサンジイル基を意味する。シクロヘキサンジイル基としては、シクロヘキサン-1,2-ジイル基、シクロヘキサン-1,3-ジイル基、及びシクロヘキサン-1,4-ジイル基が挙げられる。
【0061】
(XO)の繰り返し数mは、2以上の整数であり、2~200の整数がより好ましく、5~150の整数がさらに好ましく、5~100の整数が特に好ましく、7~50の整数が最も好ましい。
【0062】
(XO)mは、2種以上の(XO)を含んでいてもよい。
2種以上の(XO)の結合順序は限定されず、ランダム、交互、及びブロックのいずれに配置されていてもよい。
2種以上の(XO)を含むとは、化合物中において、炭素数の異なる2種以上の(XO)が存在すること、及び、炭素数が同一であっても側鎖の有無や側鎖の種類(例えば、側鎖の数、側鎖の炭素数等)が異なる2種以上の(XO)が存在することをいう。
2種以上の(XO)の配置については、例えば、{(CH2O)m21(C2H4O)m22}で表される構造は、m21個の(CH2O)とm22個の(C2H4O)とがランダムに配置されていることを表す。また、(C2H4O-C3H6O)m25で表される構造は、m25個の(C2H4O)とm25個の(C3H6O)とが交互に配置されていることを表す。
【0063】
中でも、(XO)mは、[(CH2O)m11(C2H4O)m12(OC3H6)m13(OC4H8)m14(C5H10O)m15・(C6H12O)m16(cycloC4H6-O)m17(cycloC5H8-O)m18(cycloC6H10-O)m19]が好ましい。
m11、m12、m13、m14、m15、m16、m17、m18及びm19は、それぞれ独立に、0以上の整数であり、100以下が好ましい。
m11+m12+m13+m14+m15+m16+m17+m18+m19は2以上の整数であり、2~200の整数がより好ましく、5~150の整数がより好ましく、5~100の整数がさらに好ましく、7~50の整数が特に好ましい。
【0064】
m12は2以上の整数が好ましく、2~200の整数が特に好ましい。
また、C3H6、C4H8、C5H10、及びC6H12は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、表面処理層の耐摩耗性を向上させる観点から、直鎖状が好ましい。
【0065】
なお、上記式は単位の種類とその数を表すものであり、単位の配列を表すものではない。すなわち、m11~m19は単位の数を表すものであり、例えば、(CH2O)m11は、(CH2O)単位がm11個連続したブロックを表すものではない。同様に、(CH2O)~(cycloC6H10-O)の記載順は、その記載順にそれらが配列していることを表すものではない。
上記式において、m11~m19の2以上が0でない場合(すなわち、(XO)mが2種以上の単位から構成されている場合)、異なる単位の配列は、ランダム配列、交互配列、ブロック配列及びそれら配列の組合せのいずれであってもよい。
【0066】
中でも、防汚性に優れる表面処理層を形成する観点から、(XO)mは、(C2H4O)m21の構造を有するか、又は、[(OC3H6)m22(OC4H8)m23(C5H10O)m24・(C6H12O)m25(cycloC4H6-O)m26(cycloC5H8-O)m27(cycloC6H10-O)m28]の構造を有することが好ましい。m21は2以上の整数であり、m22~m28はそれぞれ独立に1以上の整数であり、m22+m23+m24+m25+m26+m27+m28+m29+m30は2以上の整数である。
【0067】
すなわち、ポリアルキレンオキシド鎖は、ポリエチレンオキシド鎖であるか、又は、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖であることがより好ましい。
【0068】
なお、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖における「アルキレン基の炭素数」は、一のアルキレンオキシドに含まれるアルキレン基の炭素数を意味する。
【0069】
重合反応性に優れる観点から、ポリエチレンオキシド鎖は、繰り返し数が2~15であることが好ましく、7~12であることがより好ましい。
【0070】
ポリエチレンオキシド鎖を含む重合性モノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;
ポリエチレングリコールビニルエーテル等のビニルエーテル類;及び、
ポリエチレングリコールアリルエーテル等のアリルエーテル類が挙げられる。
【0071】
また、重合反応性に優れる観点から、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖は、繰り返し数が2~20であることが好ましく、7~15であることがより好ましい。
【0072】
アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖を含む重合性モノマーとしては、例えば、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0073】
(芳香族炭化水素基を含む重合性モノマー)
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基、及びフェナントリル基が挙げられる。
【0074】
アルキル基と芳香族炭化水素基との組み合わせとしては、例えば、p-メチルフェニル基、p-tert-ブチルフェニル基、p-アダマンチルフェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、2,6-ジエチルフェニル基、及び2-メチル-6-エチルフェニル基、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、トリチル基、ナフチルメチル基、及びナフチルエチル基が挙げられる。
【0075】
芳香族炭化水素基を含む重合性モノマーとしては、例えば、2-フェノキシメチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、4-ブチルフェニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2,4,5-テトラメチルフェニル(メタ)アクリレート、4-クロロフェニル(メタ)アクリレート、2-フェノキシメチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;及び、
スチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロロメチルスチレン、メトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ビニル安息香酸メチルエステル、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、3-プロピルスチレン、4-プロピルスチレン、3-ブチルスチレン、4-ブチルスチレン、3-ヘキシルスチレン、4-ヘキシルスチレン、3-オクチルスチレン、4-オクチルスチレン、3-(2-エチルヘキシル)スチレン、4-(2-エチルヘキシル)スチレン、アリルスチレン、イソプロペニルスチレン、ブテニルスチレン、オクテニルスチレン、4-t-ブトキシカルボニルスチレン、4-t-ブトキシスチレン等のスチレン類が挙げられる。
【0076】
(脂環式炭化水素基を含む重合性モノマー)
脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、デカヒドロナフチル基、アダマンチル基、及びノルボルニル基が挙げられる。
【0077】
アルキル基と脂環式炭化水素基との組み合わせとしては、例えば、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロへキシル基、メチルノルボルニル基、及びイソボルニル基が挙げられる。
【0078】
脂環式炭化水素基を含む重合性モノマーとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-n-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸4-tert-ブチルシクロヘキシル、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;及び、
シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルメチルビニルエーテル、4-メチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ジシクロペンテニルビニルエーテル、2-ジシクロペンテノキシエチルビニルエーテル等のビニルエーテル類が挙げられる。
【0079】
Bブロックの含有量は、防汚性に優れる観点から、ブロックポリマーの全量に対して、50~99.5モル%であることが好ましく、70~99.1モル%であることがより好ましい。
【0080】
Aブロックの含有量に対するBブロックの含有量のモル比率は、1~200であることが好ましく、1~150であることがより好ましく、1~120であることがさらに好ましい。
【0081】
以下、Bブロックの好ましい態様について、説明する。
【0082】
-態様1-
Bブロックは、炭素数12~30の直鎖状アルキル基、及び2価のオルガノポリシロキサン残基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有することが好ましい。以下、炭素数12~30の直鎖状アルキル基、2価のオルガノポリシロキサン残基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を「構成単位B1」ともいう。
【0083】
炭素数12~30の直鎖状アルキル基、及び、2価のオルガノポリシロキサン残基は疎水性であるため、本開示のブロックポリマーを表面処理剤に用いた場合に、防汚性に優れる表面処理層を形成することができる。具体的には、指紋が付着しにくい表面処理層を形成することができる。
本開示のブロックポリマーは、片末端に、反応性基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するAブロックを有し、Aブロックにおける反応性基が基材と反応し、Bブロックが、表面処理層の表面にグラフト状に偏在する。Bブロックが構成単位B1を含む場合、構成単位B1が疎水性であるため、表面処理層の疎水性が向上する。また、Aブロックは基材との密着性を向上するだけでなく、ポリマー鎖の自由度が高いため、高い滑り性を実現することができる。これにより、防汚性と滑り性とを両立し、かつ、耐摩耗性に優れた疎水性の表面処理層が得られると考えられる。
【0084】
構成単位B1を含むBブロックは1種のみであってもよく、2種以上であってもよいが、1種又は2種であることが好ましい。すなわち、態様1において、本開示のブロックポリマーは、Aブロックと、構成単位B1を含むBブロックと、からなるジブロックポリマーであるか、又は、Aブロックと、構成単位B1を含む2種のBブロックと、からなるトリブロックポリマーであることが好ましい。
【0085】
中でも、態様1において、本開示のブロックポリマーは、
Aブロックと、炭素数12~30の直鎖状アルキル基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、からなるジブロックポリマー、
Aブロックと、2価のオルガノポリシロキサン残基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、からなるジブロックポリマー、又は、
Aブロックと、炭素数12~30の直鎖状アルキル基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、2価のオルガノポリシロキサン残基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、からなるトリブロックポリマーであることが好ましい。
【0086】
なお、本開示において、「AブロックとBブロックとからなるジブロックポリマー」とは、繰り返しの構成単位を有するブロックが、AブロックとBブロックのみであることを意味し、重合開始剤に由来する構造等の、AブロックとBブロック以外の構造が含まれていてもよい。同様の表現に関しても、上記のように解釈するものとする。
Bブロックが構成単位B1を含む場合に、Bブロックの含有量は、防汚性に優れる観点から、ブロックポリマーの全量に対して、70~90モル%であることが特に好ましい。
Bブロックが構成単位B1を含む場合に、Aブロックの含有量に対するBブロックの含有量のモル比率は、1~10であることが特に好ましい。
【0087】
また、態様1において、本開示のブロックポリマーは、Bブロックが、炭素数12~30の直鎖状アルキル基、及び2価のオルガノポリシロキサン残基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有し、反応性基が、反応性シリル基、イソシアナト基、リン酸エステル基、カルボキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、及びエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0088】
-態様2-
Bブロックは、水酸基及びポリエチレンオキシド鎖からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有することが好ましい。以下、水酸基及びポリエチレンオキシド鎖からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を「構成単位B2」ともいう。
【0089】
水酸基及びポリエチレンオキシド鎖は親水性であるため、本開示のブロックポリマーを表面処理剤に用いた場合に、防汚性に優れる表面処理層を形成することができる。具体的には、指紋が付着したとしても、拭き取りやすい表面処理層を形成することができる。
【0090】
本開示のブロックポリマーは、片末端に、反応性基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するAブロックを有し、Aブロックにおける反応性基が基材と反応し、Bブロックが、表面処理層の表面にグラフト状に偏在する。Bブロックが構成単位B2を含む場合、構成単位B2が親水性であるため、表面処理層の親水性が向上する。また、Aブロックは基材との密着性を向上するだけでなく、ポリマー鎖の自由度が高いため、高い滑り性を実現することができる。これにより、防汚性と滑り性とを両立し、かつ、耐摩耗性に優れた親水性の表面処理層が得られると考えられる。
【0091】
構成単位B2を含むBブロックは1種のみであってもよく、2種以上であってもよいが、1種又は2種であることが好ましい。すなわち、態様2において、本開示のブロックポリマーは、Aブロックと、構成単位B2を含むBブロックと、からなるジブロックポリマーであるか、又は、Aブロックと、構成単位B2を含む2種のBブロックと、からなるトリブロックポリマーであることが好ましい。
【0092】
中でも、態様2において、本開示のブロックポリマーは、
Aブロックと、水酸基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、からなるジブロックポリマー、
Aブロックと、ポリエチレンオキシド鎖を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、からなるジブロックポリマー、
Aブロックと、水酸基及びポリエチレンオキシド鎖を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、からなるジブロックポリマー、
Aブロックと、水酸基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、ポリエチレンオキシド鎖を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、からなるトリブロックポリマー、又は、
Aブロックと、水酸基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、水酸基及びポリエチレンオキシド鎖を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、からなるトリブロックポリマーであることが好ましい。
【0093】
Bブロックが構成単位B2を含む場合に、Bブロックの含有量は、防汚性に優れる観点から、ブロックポリマーの全量に対して、70~90モル%であることが特に好ましい。
Bブロックが構成単位B2を含む場合に、Aブロックの含有量に対するBブロックの含有量のモル比率は、1~10であることが特に好ましい。
【0094】
また、態様2において、本開示のブロックポリマーは、Bブロックが、水酸基及びポリエチレンオキシド鎖からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有し、反応性基が、反応性シリル基、イソシアナト基、リン酸エステル基、カルボキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、及びエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0095】
-態様3-
Bブロックは、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有することが好ましい。以下、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を「構成単位B3」ともいう。
【0096】
アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基は親油性であるため、本開示のブロックポリマーを表面処理剤に用いた場合に、防汚性に優れる表面処理層を形成することができる。具体的には、指紋が付着したとしても、視認しにくい表面処理層を形成することができる。
【0097】
本開示のブロックポリマーは、片末端に、反応性基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するAブロックを有し、Aブロックにおける反応性基が基材と反応し、Bブロックが、表面処理層の表面にグラフト状に偏在する。Bブロックが構成単位B3を含む場合、構成単位B3が親油性であるため、表面処理層の親油性が向上する。また、Aブロックは基材との密着性を向上するだけでなく、ポリマー鎖の自由度が高いため、高い滑り性を実現することができる。これにより、防汚性と滑り性とを両立し、かつ、耐摩耗性に優れた親油性の表面処理層が得られると考えられる。
【0098】
構成単位B3を含むBブロックは1種のみであってもよく、2種以上であってもよいが、1種又は2種であることが好ましい。すなわち、態様3において、本開示のブロックポリマーは、Aブロックと、構成単位B3を含むBブロックと、からなるジブロックポリマーであるか、又は、Aブロックと、構成単位B3を含む2種のBブロックと、からなるトリブロックポリマーであることが好ましい。
【0099】
中でも、態様3において、本開示のブロックポリマーは、
Aブロックと、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、からなるジブロックポリマー、
Aブロックと、芳香族炭化水素基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、からなるジブロックポリマー、
Aブロックと、脂環式炭化水素基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、からなるジブロックポリマー、
Aブロックと、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、芳香族炭化水素基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、からなるトリブロックポリマー、又は、
Aブロックと、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、脂環式炭化水素基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、からなるトリブロックポリマーであることが好ましい。
【0100】
Bブロックが構成単位B3を含む場合に、Bブロックの含有量は、防汚性に優れる観点から、ブロックポリマーの全量に対して、70~90モル%であることが特に好ましい。
Bブロックが構成単位B3を含む場合に、Aブロックの含有量に対するBブロックの含有量のモル比率は、1~10であることが特に好ましい。
【0101】
また、態様3において、本開示のブロックポリマーは、Bブロックが、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有し、反応性基が、反応性シリル基、イソシアナト基、リン酸エステル基、カルボキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、及びエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0102】
-態様4-
Bブロックは、構成単位B1を含有するブロックと、構成単位B2を含有するブロックと、を含むことが好ましい。
【0103】
構成単位B1を含有するブロックは疎水性であり、構成単位B2を含有するブロックは親水性であるため、本開示のブロックポリマーを表面処理剤に用いた場合に、防汚性に優れる表面処理層を形成することができる。具体的には、指紋が付着しにくく、拭き取りやすい表面処理層を形成することができる。
【0104】
本開示のブロックポリマーは、片末端に、反応性基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するAブロックを有し、Aブロックにおける反応性基が基材と反応し、Bブロックが、表面処理層の表面にグラフト状に偏在する。Bブロックが構成単位B1を含有するブロックと構成単位B2を含有するブロックを含む場合、構成単位B1が疎水性であるため、表面処理層の空気との界面においては、疎水性が向上する。一方、構成単位B2が親水性であるため、表面処理層の水との界面においては、親水性が向上する。また、Aブロックは基材との密着性を向上するだけでなく、ポリマー鎖の自由度が高いため、高い滑り性を実現することができる。これにより、防汚性と滑り性とを両立し、かつ、耐摩耗性に優れた表面処理層が得られると考えられる。
【0105】
構成単位B1を含むブロック、及び、構成単位B2を含有するブロックはそれぞれ1種のみであってもよく、2種以上であってもよいが、それぞれ1種であることが好ましい。すなわち、態様4において、本開示のブロックポリマーは、Aブロックと、構成単位B1を含むBブロックと、構成単位B2を含むBブロックと、からなるトリブロックポリマーであることが好ましい。トリブロックポリマーにおいて、Aブロックがポリマーの片末端に位置すればよく、連結順は特に限定されないが、構成単位B1を含むBブロック、構成単位B2を含むBブロック、Aブロックの順に連結していることが好ましい。
【0106】
中でも、態様4において、本開示のブロックポリマーは、
Aブロックと、2価のオルガノポリシロキサン残基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、水酸基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、からなるトリブロックポリマーであることが好ましい。
【0107】
Bブロックが、構成単位B1を含むブロック、及び、構成単位B2を含有するブロックを含む場合に、Bブロックの含有量は、防汚性に優れる観点から、ブロックポリマーの全量に対して、80~99.5モル%であることが特に好ましい。
Bブロックが、構成単位B1を含むブロック、及び、構成単位B2を含有するブロックを含む場合に、Aブロックの含有量に対するBブロックの含有量のモル比率は、90~110であることが特に好ましい。
【0108】
また、態様4において、本開示のブロックポリマーは、Bブロックが、構成単位B1を含有するブロックと、構成単位B2を含有するブロックと、を含み、反応性基が、反応性シリル基、イソシアナト基、リン酸エステル基、カルボキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、及びエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0109】
-態様5-
Bブロックは、構成単位B1を含有するブロックと、構成単位B3を含有するブロックと、を含むことが好ましい。
【0110】
構成単位B1を含有するブロックは疎水性であり、構成単位B3を含有するブロックは親油性であるため、本開示のブロックポリマーを表面処理剤に用いた場合に、防汚性に優れる表面処理層を形成することができる。具体的には、指紋が付着しにくく、視認しにくい表面処理層を形成することができる。
【0111】
本開示のブロックポリマーは、片末端に、反応性基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するAブロックを有し、Aブロックにおける反応性基が基材と反応し、Bブロックが、表面処理層の表面にグラフト状に偏在する。Bブロックが構成単位B1を含有するブロックと構成単位B3を含有するブロックを含む場合、構成単位B1が疎水性であるため、表面処理層の空気との界面においては、疎水性が向上する。一方、構成単位B3が親水性であるため、表面処理層の油との界面においては、親油性が向上する。また、Aブロックは基材との密着性を向上するだけでなく、ポリマー鎖の自由度が高いため、高い滑り性を実現することができる。これにより、防汚性と滑り性とを両立し、かつ、耐摩耗性に優れた表面処理層が得られると考えられる。
【0112】
構成単位B1を含むブロック、及び、構成単位B3を含有するブロックはそれぞれ1種のみであってもよく、2種以上であってもよいが、それぞれ1種であることが好ましい。すなわち、態様5において、本開示のブロックポリマーは、Aブロックと、構成単位B1を含むBブロックと、構成単位B3を含むBブロックと、からなるトリブロックポリマーであることが好ましい。トリブロックポリマーにおいて、Aブロックがポリマーの片末端に位置すればよく、連結順は特に限定されないが、構成単位B1を含むBブロック、構成単位B3を含むBブロック、Aブロックの順に連結していることが好ましい。
【0113】
中でも、態様5において、本開示のブロックポリマーは、
Aブロックと、2価のオルガノポリシロキサン残基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、からなるトリブロックポリマーであることが好ましい。
【0114】
Bブロックが、構成単位B1を含むブロック、及び、構成単位B3を含有するブロックを含む場合に、Bブロックの含有量は、防汚性に優れる観点から、ブロックポリマーの全量に対して、80~99.5モル%であることが特に好ましい。
Bブロックが、構成単位B1を含むブロック、及び、構成単位B3を含有するブロックを含む場合に、Aブロックの含有量に対するBブロックの含有量のモル比率は、90~110であることが特に好ましい。
【0115】
また、態様5において、本開示のブロックポリマーは、Bブロックが、構成単位B1を含有するブロックと、構成単位B3を含有するブロックと、を含み、反応性基が、反応性シリル基、イソシアナト基、リン酸エステル基、カルボキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、及びエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0116】
-態様6-
Bブロックは、構成単位B2を含有するブロックと、構成単位B3を含有するブロックと、を含むことが好ましい。
【0117】
構成単位B2を含有するブロックは親水性であり、構成単位B3を含有するブロックは親油性であるため、本開示のブロックポリマーを表面処理剤に用いた場合に、防汚性に優れる表面処理層を形成することができる。具体的には、指紋が付着したとしても、拭き取りやすく、視認しにくい表面処理層を形成することができる。
【0118】
本開示のブロックポリマーは、片末端に、反応性基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するAブロックを有し、Aブロックにおける反応性基が基材と反応し、Bブロックが、表面処理層の表面にグラフト状に偏在する。Bブロックが構成単位B2を含有するブロックと構成単位B3を含有するブロックを含む場合、構成単位B2が親水性であるため、表面処理層の水との界面においては、親水性が向上する。一方、構成単位B3が親水性であるため、表面処理層の油との界面においては、親油性が向上する。また、Aブロックは基材との密着性を向上するだけでなく、ポリマー鎖の自由度が高いため、高い滑り性を実現することができる。これにより、防汚性と滑り性とを両立し、かつ、耐摩耗性に優れた表面処理層が得られると考えられる。
【0119】
構成単位B2を含むブロック、及び、構成単位B3を含有するブロックはそれぞれ1種のみであってもよく、2種以上であってもよいが、それぞれ1種であることが好ましい。すなわち、態様6において、本開示のブロックポリマーは、Aブロックと、構成単位B2を含むBブロックと、構成単位B3を含むBブロックと、からなるトリブロックポリマーであることが好ましい。トリブロックポリマーにおいて、Aブロックがポリマーの片末端に位置すればよく、連結順は特に限定されないが、構成単位B2を含むBブロック、構成単位B3を含むBブロック、Aブロックの順に連結していることが好ましい。
【0120】
中でも、態様6において、本開示のブロックポリマーは、
Aブロックと、水酸基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するBブロックと、からなるトリブロックポリマーであることが好ましい。
【0121】
Bブロックが、構成単位B2を含むブロック、及び、構成単位B3を含有するブロックを含む場合に、Bブロックの含有量は、防汚性に優れる観点から、ブロックポリマーの全量に対して、80~99.5モル%であることが特に好ましい。
Bブロックが、構成単位B2を含むブロック、及び、構成単位B3を含有するブロックを含む場合に、Aブロックの含有量に対するBブロックの含有量のモル比率は、90~110であることが特に好ましい。
【0122】
また、態様6において、本開示のブロックポリマーは、Bブロックが、構成単位B2を含有するブロックと、構成単位B3を含有するブロックと、を含み、反応性基が、反応性シリル基、イソシアナト基、リン酸エステル基、カルボキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、及びエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0123】
本開示のブロックポリマーは、Aブロック及びBブロック以外のその他のブロックを含んでいてもよい。滑り性、防汚性、及び耐摩耗性を得る観点から、Aブロック及びBブロックの合計含有量は、本開示のブロックポリマーの全量に対して、50モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましい。Aブロック及びBブロックの合計含有量の上限値は特に限定されないが、100モル%であることが好ましい。すなわち、本開示のブロックポリマーは、Aブロック及びBブロックのみからなることが好ましい。
【0124】
本開示のブロックポリマーの製造方法は特に限定されないが、製造容易性の観点から、可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT)法、又は、原子移動ラジカル重合(ATRP)法を用いることが好ましい。
【0125】
[組成物]
本開示の組成物は、本開示のブロックポリマーを含んでいればよく、本開示のブロックポリマー以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0126】
本開示の組成物は、さらに液状媒体を含むことが好ましい。液状媒体を含む場合、本開示の組成物は、液状であればよく、溶液であってもよく、分散液であってもよい。
【0127】
本開示の組成物に含まれる本開示のポリマーの含有量は、本開示の組成物の全量に対して、0.01~60質量%が好ましく、0.1~40質量%がより好ましく、0.5~20質量%がさらに好ましい。
【0128】
液状媒体としては、例えば、水及び有機溶媒が挙げられる。中でも、液状媒体は、有機溶媒が好ましい。
【0129】
液状媒体が水の場合は、本開示のポリマーが界面活性剤により分散した状態が好ましい。界面活性剤としては、フッ素原子を含まない界面活性剤が好ましい。具体的に、界面活性剤としては、フッ素原子を含まない、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、又は両性界面活性剤が好ましい。
【0130】
有機溶媒としては、水素原子及び炭素原子のみからなる化合物、並びに、水素原子、炭素原子及び酸素原子のみからなる化合物が挙げられ、具体的には、炭化水素系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、エステル系有機溶媒、グリコール系有機溶媒、及びアルコール系有機溶媒が挙げられる。
【0131】
炭化水素系有機溶媒の具体例としては、ヘキサン、へプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、及びキシレンが挙げられる。
ケトン系有機溶媒の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノンが挙げられる。
エーテル系有機溶媒の具体例としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランが挙げられる。
エステル系有機溶媒の具体例としては、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。
グリコール系有機溶媒の具体例としては、エチレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテルペンタン、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールが挙げられる。
アルコール系有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、ジアセトンアルコール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールが挙げられる。
【0132】
また、有機溶媒としては、例えば、ハロゲン系有機溶媒、含窒素化合物、及び含硫黄化合物が挙げられる。
ハロゲン系有機溶媒の具体例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、及びジクロロエタンが挙げられる。
含窒素化合物の具体例としては、ニトロベンゼン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、及び3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドが挙げられる。
含硫黄化合物の具体例としては、二硫化炭素、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0133】
液状媒体の含有量は、本開示の組成物の全量に対して、40~99.99質量%が好ましく、60~99.9質量%がより好ましく、80~99.5質量%がさらに好ましい。
【0134】
本開示の組成物は、上記成分以外に、本開示の効果を損なわない範囲で、他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、反応性シリル基の加水分解と縮合反応を促進する酸触媒、塩基性触媒、非フッ素系重合体、架橋剤、浸透剤、消泡剤、造膜助剤、防虫剤、防カビ剤、防腐剤、難燃剤、帯電防止剤、防しわ剤、柔軟剤、pH調整剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0135】
また、他の成分としては、加水分解性基を有する金属化合物(以下、加水分解性基を有する金属化合物を「特定金属化合物」とも記す。)も挙げられる。本開示の組成物が特定金属化合物を含むと、表面処理層の滑り性及び防汚性をより向上しうる。特定金属化合物としては、下記式(M1)及び(M2)が挙げられる。
【0136】
M(Xb1)m1(Xb2)m2(Xb3)m3 …(M1)
Si(Xb4)(Xb5)3 …(M2)
【0137】
式(M1)中、
Mは、3価又は4価の金属原子を表す。
Xb1はそれぞれ独立に、加水分解性基を表す。
Xb2はそれぞれ独立に、シロキサン骨格含有基を表す。
Xb3はそれぞれ独立に、炭化水素鎖含有基を表す。
m1は2~4の整数であり、
m2及びm3はそれぞれ独立に、0~2の整数であり、
Mが3価の金属原子の場合、m1+m2+m3は3であり、Mが4価の金属原子の場合、m1+m2+m3は4である。
【0138】
式(M2)中、
Xb4は、加水分解性シランオリゴマー残基を表す。
Xb5は、それぞれ独立に、加水分解性基又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0139】
式(M1)中、Mで表される金属には、Si、Ge等の半金属も包含される。Mとしては、3価金属及び4価金属が好ましく、Al、Fe、In、Hf、Si、Ti、Sn、及びZrがより好ましく、Al、Si、Ti、及びZrがさらに好ましく、Siが特に好ましい。
【0140】
式(M1)中、Xb1で表される加水分解性基としては、上記反応性シリル基における[-Si(R1)nL3-n]中のLで示される加水分解性基と同様のものが挙げられる。
【0141】
Xb2で表されるシロキサン骨格含有基は、シロキサン単位(-Si-O-)を有し、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。シロキサン単位としては、ジアルキルシリルオキシ基が好ましく、ジメチルシリルオキシ基、ジエチルシリルオキシ基等が挙げられる。シロキサン骨格含有基におけるシロキサン単位の繰り返し数は、1以上であり、1~5が好ましく、1~4がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
シロキサン骨格含有基は、シロキサン骨格の一部に2価の炭化水素基を含んでいてもよい。具体的には、シロキサン骨格の一部の酸素原子が2価の炭化水素基で置き換わっていてもよい。前記2価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基が挙げられる。
シロキサン骨格含有基の末端のケイ素原子には、加水分解性基、炭化水素基(好ましくはアルキル基)等が結合していてもよい。
シロキサン骨格含有基の元素数は、100以下が好ましく、50以下がより好ましく、30以下がさらに好ましい。前記元素数は10以上が好ましい。
シロキサン骨格含有基としては、*-(O-Si(CH3)2)nCH3で表される基が好ましく、ここで、nは1~5の整数であり、*は隣接原子との結合部位を表す。
【0142】
Xb3で表される炭化水素鎖含有基は、炭化水素鎖のみからなる基でもよく、炭化水素鎖の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基でもよい。炭化水素鎖は直鎖でも分岐鎖でもよく、直鎖が好ましい。炭化水素鎖は飽和炭化水素鎖でも不飽和炭化水素鎖でもよく、飽和炭化水素鎖が好ましい。炭化水素鎖含有基の炭素数は、1~3が好ましく、1~2がより好ましく、1がさらに好ましい。炭化水素鎖含有基としては、アルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、又はプロピル基がより好ましい。
【0143】
m1は3又は4であることが好ましい。
【0144】
式(M1)で表される化合物としては、MがSiである下記式(M1-1)~(M1-5)で表される化合物が好ましく、式(M1-1)で表される化合物がより好ましい。式(M1-1)で表される化合物としては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシメチルシランが好ましい。
【0145】
Si(Xb1)4 …(M1-1)
CH3-Si(Xb1)3
…(M1-2)
C2H5-Si(Xb1)3 …(M1-3)
n-C3H7-Si(Xb1)3 …(M1-4)
(CH3)2CH-Si(Xb1)3 …(M1-5)
【0146】
式(M2)中、Xb4で表される加水分解性シランオリゴマー残基に含まれるケイ素原子の数は、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、7以上がさらに好ましい。前記ケイ素原子の数は、15以下が好ましく、13以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。
加水分解性シランオリゴマー残基は、ケイ素原子に結合するアルコキシ基を有していてもよい。前記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられ、メトキシ基及びエトキシ基が好ましい。加水分解性シランオリゴマー残基は、これらアルコキシ基の1種又は2種以上を有してもよく、1種を有することが好ましい。
加水分解性シランオリゴマー残基としては、(C2H5O)3Si-(OSi(OC2H5)2)4O-*等が挙げられる。ここで、*は隣接原子との結合部位を表す。
【0147】
式(M2)中、Xb5で表される加水分解性基としては、上記反応性シリル基における[-Si(R1)nL3-n]中のLで示される加水分解性基と同様のもの、シアノ基、水素原子、アリル基が挙げられ、アルコキシ基又はイソシアナト基が好ましい。アルコキシ基としては、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましい。
Xb5としては、加水分解性基が好ましい。
【0148】
式(M2)で表される化合物としては、(H5C2O)3-Si-(OSi(OC2H5)2)4OC2H5等が挙げられる。
【0149】
本開示の組成物に含まれてもよい他の成分の含有量は、本開示の組成物の全量に対して、10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。本開示の組成物が特定金属化合物を含む場合、特定金属化合物の含有量は本開示の組成物の全量に対して0.001~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましく、0.03~1質量%がさらに好ましい。
【0150】
本開示の組成物の固形分濃度は、本開示の組成物の全量に対して、0.01~60質量%が好ましく、0.1~40質量%がより好ましく、1~20質量%がさらに好ましい。本開示の組成物の固形分濃度は、加熱前の組成物の質量と、120℃の対流式乾燥機にて4時間加熱した後の質量とから算出される値である。
【0151】
本開示の組成物は、液状媒体を含むことから、コーティング用途として有用であり、コーティング液として用いることができる。
【0152】
[表面処理剤]
一態様において、本開示の表面処理剤は、本開示のブロックポリマーを含む。
本開示の表面処理剤は、本開示のポリマーと、液状媒体と、を含んでいてもよい。表面処理剤に含まれる液状媒体の好ましい態様は、本開示の組成物に含まれる液状媒体の好ましい態様と同様である。
【0153】
本開示のブロックポリマーを含む表面処理剤を用いることにより、防汚性に優れた表面処理層を形成できる。
【0154】
[物品]
一態様において、本開示の物品は、基材と、基材上に配置され、上記表面処理剤で表面処理された表面処理層と、を含む。
【0155】
表面処理層は、基材の表面の一部に形成されてもよく、基材の表面全体に形成されてもよい。表面処理層は、基材の表面に膜状に拡がっていてもよく、ドット状に点在していてもよい。
表面処理層において、本開示のブロックポリマーは、反応性シリル基の一部又は全部の加水分解が進行し、かつ、シラノール基の脱水縮合反応が進行した状態で含まれる。
【0156】
表面処理層の厚さは、1~100nmが好ましく、1~50nmがより好ましい。表面処理層の厚さが1nm以上であれば、表面処理による効果が充分に得られやすい。表面処理層の厚さが100nm以下であれば、利用効率が高い。表面処理層の厚さは、薄膜解析用X線回折計(製品名「ATX-G」、RIGAKU社製)を用いて、X線反射率法によって反射X線の干渉パターンを得て、干渉パターンの振動周期から算出できる。
【0157】
基材の種類は特に限定されず、例えば、撥水性の付与が求められている基材が挙げられる。基材として、例えば、他の物品(例えば、スタイラス)又は人の手指を接触させて使用することがある基材;操作時に人の手指で持つことがある基材;及び、他の物品(例えば、載置台)の上に置くことがある基材が挙げられる。
基材の材料としては、金属、樹脂、ガラス、サファイア、セラミック、石、繊維、不織布、紙、木、天然皮革、人工皮革、及びこれらの複合材料が挙げられる。ガラスは化学強化されていてもよい。
【0158】
基材としては、建材、装飾建材、インテリア用品、輸送機器(例えば、自動車)、看板・掲示板、飲用器・食器、水槽、観賞用器具(例えば、額、箱)、実験器具、家具、繊維製品、包装容器;アート、スポーツ、ゲーム等に使用する、ガラス又は樹脂;携帯電話(例えば、スマートフォン)、携帯情報端末、ゲーム機、リモコン等の機器における外装部分(表示部を除く)に使用する、ガラス又は樹脂が挙げられる。基材の形状は、板状であってもよく、フィルム状であってもよい。
【0159】
基材としては、タッチパネル用基材、ディスプレイ用基材、メガネレンズが好適であり、タッチパネル用基材が特に好適である。タッチパネル用基材の材料としては、ガラス又は透明樹脂が好ましい。
【0160】
基材は、一方の表面又は両面が、コロナ放電処理、プラズマ処理、プラズマグラフト重合処理等の表面処理が施された基材であってもよい。表面処理が施された基材は、表面処理層との密着性がより優れ、表面処理層の耐摩耗性がより向上する。そのため、基材の表面処理層と接する側の表面に表面処理を施すことが好ましい。また、表面処理が施された基材は、後述する下地層が設けられる場合には、下地層との密着性がより優れ、表面処理層の耐摩耗性がより向上する。そのため、下地層が設けられる場合には、基材の下地層と接する側の表面に表面処理を施すことが好ましい。
【0161】
表面処理層は、基材の表面上に直接設けられていてもよく、基材と表面処理層との間に下地層が設けられていてもよい。表面処理層の撥水性及び耐摩耗性をより向上させる観点から、本開示の物品は、基材と、基材上に配置された下地層と、下地層上に配置された本開示の表面処理剤で表面処理された表面処理層と、を含むことが好ましい。
【0162】
下地層は、ケイ素と、周期表の第1族元素、第2族元素、第4族元素、第5族元素、第13族元素、及び第15族元素からなる群から選択される少なくとも1つの特定元素とを含む酸化物を含む層が好ましい。
【0163】
周期表の第1族元素(以下、「第1族元素」ともいう。)とは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムを意味する。第1族元素としては、下地層上に撥水撥油層を欠陥なくより均一に形成できる点、又は、サンプル間での下地層の組成のバラツキがより抑制される観点から、リチウム、ナトリウム、カリウムが好ましく、ナトリウム、カリウムがより好ましい。下地層には、第1族元素が2種以上含まれていてもよい。
【0164】
周期表の第2族元素(以下、「第2族元素」ともいう。)とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムを意味する。第2族元素としては、下地層上に撥水撥油層を欠陥なくより均一に形成できる点、又は、サンプル間での下地層の組成のバラツキがより抑制される観点から、マグネシウム、カルシウム、バリウムが好ましく、マグネシウム、カルシウムがより好ましい。下地層には、第2族元素が2種以上含まれていてもよい。
【0165】
周期表の第4族元素(以下、「第4族元素」ともいう。)とは、チタン、ジルコニウム、及びハフニウムを意味する。第4族元素としては、下地層上に撥水撥油層を欠陥なくより均一に形成できる観点、又は、サンプル間での下地層の組成のバラツキがより抑制される観点から、チタン、ジルコニウムが好ましく、チタンがより好ましい。下地層には、第4族元素が2種以上含まれていてもよい。
【0166】
周期表の第5族元素(以下、「第5族元素」ともいう。)とは、バナジウム、ニオブ及びタンタルを意味する。第5族元素としては、撥水撥油層の耐摩耗性がより優れる観点から、バナジウムが特に好ましい。下地層には、第5族元素が2種以上含まれていてもよい。
【0167】
周期表の第13族元素(以下、「第13族元素」ともいう。)とは、ホウ素、アルミニウム、ガリウム及びインジウムを意味する。第13族元素としては、下地層上に撥水撥油層を欠陥なくより均一に形成できる点、又は、サンプル間での下地層の組成のバラツキがより抑制される観点から、ホウ素、アルミニウム、ガリウムが好ましく、ホウ素、アルミニウムがより好ましい。下地層には、第13族元素が2種以上含まれていてもよい。
【0168】
周期表の第15族元素(以下、「第15族元素」ともいう。)とは、窒素、リン、ヒ素、アンチモン及びビスマスを意味する。第15族元素としては、下地層上に撥水撥油層を欠陥なくより均一に形成できる観点、又は、サンプル間での下地層の組成のバラツキがより抑制される観点から、リン、アンチモン、ビスマスが好ましく、リン、ビスマスがより好ましい。下地層には、第15族元素が2種以上含まれていてもよい。
【0169】
下地層に含まれる特定元素としては、第1族元素、第2族元素、第13族元素が撥水撥油層の耐摩耗性がより優れるため好ましく、第1族元素、第2族元素がより好ましく、第1族元素がさらに好ましい。
特定元素として、1種のみの元素が含まれていても2種以上の元素が含まれていてもよい。
【0170】
下地層に含まれる酸化物は、上記元素(ケイ素及び特定元素)単独の酸化物の混合物(例えば、酸化ケイ素と、特定元素の酸化物と、の混合物)であってもよいし、上記元素を2種以上含む複合酸化物であってもよいし、上記元素単独の酸化物と複合酸化物との混合物であってもよい。
【0171】
下地層中のケイ素のモル濃度に対する、下地層中の特定元素の合計モル濃度の比(特定元素/ケイ素)は、撥水撥油層の耐摩耗性がより優れる観点から、0.02~2.90であるのが好ましく、0.10~2.00であるのがより好ましく、0.20~1.80であるのがさらに好ましい。
下地層中の各元素のモル濃度(モル%)は、例えば、イオンスパッタリングを用いたX線光電子分光法(XPS)による深さ方向分析によって測定できる。
【0172】
下地層は、単層であっても複層であってもよい。下地層は、表面に凹凸を有していてもよい。
下地層の厚さは、1~100nmが好ましく、1~50nmがより好ましく、2~20nmがさらに好ましい。下地層の厚さが上記下限値以上であれば、下地層による表面処理層の密着性がより向上して、表面処理層の耐摩耗性がより優れる。下地層の厚さが上記上限値以下であれば、下地層自体の耐摩耗性が優れる。
下地層の厚さは、透過電子顕微鏡(TEM)による下地層の断面観察によって測定される。
【0173】
下地層は、例えば、蒸着材料を用いた蒸着法、又は、ウェットコーティング法により形成できる。
【0174】
蒸着法で用いる蒸着材料は、ケイ素及び特定元素を含む酸化物を含有することが好ましい。
蒸着材料の形態の具体例としては、粉体、溶融体、焼結体、造粒体、破砕体が挙げられ、取り扱い性の観点から、溶融体、焼結体、造粒体が好ましい。
ここで、溶融体とは、蒸着材料の粉体を高温で溶融させた後、冷却固化して得られた固形物を意味する。焼結体とは、蒸着材料の粉体を焼成して得られた固形物を意味し、必要に応じて、蒸着材料の粉体の代わりに、粉体をプレス形成して成形体を用いてもよい。造粒体とは、蒸着材料の粉体と液状媒体(例えば、水、有機溶媒)とを混練して粒子を得た後、粒子を乾燥させて得られた固形物を意味する。
【0175】
蒸着材料は、例えば、以下の方法で製造できる。
・酸化ケイ素の粉体と、特定元素の酸化物の粉体と、を混合して、蒸着材料の粉体を得る方法。
・上記蒸着材料の粉体及び水を混練して粒子を得た後、粒子を乾燥させて、蒸着材料の造粒体を得る方法。
・ケイ素を含む粉体(例えば、酸化ケイ素からなる粉体、珪砂、シリカゲル)と、特定元素を含む粉体(例えば、特定元素の酸化物の粉体、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物)と、水と、を混合した混合物を乾燥させた後、乾燥後の混合物又はこれをプレス成形した成形体を焼成して、焼結体を得る方法。
・ケイ素を含む粉体(例えば、酸化ケイ素からなる粉体、珪砂、シリカゲル)と、特定元素を含む粉体(例えば、特定元素の酸化物の粉体、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物)と、を高温で溶融させた後、溶融物を冷却固化して、溶融体を得る方法。
【0176】
蒸着材料を用いた蒸着法の具体例としては、真空蒸着法が挙げられる。真空蒸着法は、蒸着材料を真空槽内で蒸発させ、基材の表面に付着させる方法である。
蒸着時の温度(例えば、真空蒸着装置を用いる際には、蒸着材料を配置するボートの温度)としては、100~3,000℃が好ましく、500~3,000℃がより好ましい。
蒸着時の圧力(例えば、真空蒸着装置を用いる際には、蒸着材料を配置する槽内の圧力)としては、1Pa以下が好ましく、0.1Pa以下がより好ましい。
蒸着材料を用いて下地層を形成する場合、1つの蒸着材料を用いてもよいし、異なる元素を含む2つ以上の蒸着材料を用いてもよい。
【0177】
蒸着材料の蒸発方法の具体例としては、高融点金属製抵抗加熱用ボート上で蒸着材料を溶融し、蒸発させる抵抗加熱法、電子ビームを蒸着材料に照射し、蒸着材料を直接加熱して表面を溶融し、蒸発させる電子銃法が挙げられる。蒸着材料の蒸発方法としては、局所的に加熱できるため高融点物質も蒸発できる点、電子ビームが当たっていないところは低温であるため容器との反応や不純物の混入のおそれがない観点から、電子銃法が好ましい。
蒸着材料の蒸発方法としては、複数のボートを用いてもよく、単独のボートに全ての蒸着材料を入れて用いてもよい。蒸着方法は、共蒸着であってもよく、交互蒸着等でもよい。具体的には、シリカと特定源を同一のボートに混合して用いる例、シリカと特定元素源とを別々のボートに入れて共蒸着する例、同様に別々のボートに入れて交互蒸着する例が挙げられる。蒸着の条件、順番等は下地層の構成により適宜選択される。
【0178】
ウェットコーティング法では、ケイ素を含む化合物と、特定元素を含む化合物と、液状媒体と、を含むコーティング液を用いたウェットコーティング法によって、基材上に下地層を形成することが好ましい。
【0179】
ケイ素化合物の具体例としては、酸化ケイ素、ケイ酸、ケイ酸の部分縮合物、アルコキシシラン、アルコキシシランの部分加水分解縮合物が挙げられる。
【0180】
特定元素を含む化合物の具体例としては、特定元素の酸化物、特定元素のアルコキシド、特定元素の炭酸塩、特定元素の硫酸塩、特定元素の硝酸塩、特定元素のシュウ酸塩、特定元素の水酸化物が挙げられる。
【0181】
液状媒体としては、上記本開示の組成物に含まれる液状媒体と同様のものが挙げられる。
【0182】
液状媒体の含有量は、下地層の形成に使用するコーティング液の全量に対して、0.01~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましい。
【0183】
下地層を形成するためのウェットコーティング法の具体例としては、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法が挙げられる。
【0184】
コーティング液をウェットコーティングした後、塗膜を乾燥させるのが好ましい。塗膜の乾燥温度としては、20~200℃が好ましく、80~160℃がより好ましい。
【0185】
本開示の物品は、光学部材であることが好ましい。光学部材としては、例えば、カーナビゲーション、携帯電話、スマートフォン、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、PDA、ポータブルオーディオプレーヤー、カーオーディオ、ゲーム機器、眼鏡レンズ、カメラレンズ、レンズフィルター、サングラス、胃カメラ等の医療用器機、複写機、PC、ディスプレイ(例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイ)、タッチパネル、保護フィルム、及び反射防止フィルムが挙げられる。特に、物品は、ディスプレイ又はタッチパネルであることが好ましい。
【0186】
[物品の製造方法]
本開示の物品の製造方法は、例えば、基材に対して、本開示の表面処理剤を用いて表面処理を行い、基材上に表面処理層が形成された物品を製造するという方法である。表面処理としては、ウェットコーティング法が挙げられる。本開示のポリマーの分子量が小さい場合にはドライコーティング法も挙げられる。
【0187】
ドライコーティング法としては、真空蒸着、CVD、スパッタリング等の手法が挙げられる。ドライコーティング法としては、化合物の分解を抑える点、及び装置の簡便さの観点から、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着時には、鉄、鋼等の金属多孔体に、本開示の化合物を含浸させたペレット状物質を用いてもよい。本開示の化合物及び液状媒体を含む組成物を、鉄、鋼等の金属多孔体に含浸させ、液状媒体を乾燥させて、本開示の化合物を含浸させたペレット状物質を用いてもよい。
【0188】
ウェットコーティング法としては、例えば、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法が挙げられる。
【0189】
表面処理層の防汚性を向上させるために、必要に応じて、本開示のポリマーと基材との反応を促進させるための操作を行ってもよい。該操作としては、加熱、加湿、光照射等が挙げられる。
例えば、水分を有する大気中で表面処理層が形成された基材を加熱して、加水分解性基の加水分解反応、基材の表面の水酸基等とシラノール基との反応、シラノール基の縮合反応によるシロキサン結合の生成、等の反応を促進できる。
【0190】
表面処理後、表面処理層中の化合物であって、他の化合物又は基材と化学結合していない化合物は、必要に応じて除去してもよい。除去する方法としては、例えば、表面処理層に溶媒をかけ流す方法、溶媒をしみ込ませた布でふき取る方法等が挙げられる。
【実施例0191】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0192】
<Aブロック用重合性モノマー>
Aブロックを形成するための重合性モノマーを以下に示す。
【0193】
-反応性シリル基を含む重合性モノマー-
・3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(製品名「KBM-503」、信越化学工業社製)
-イソシアナト基を含む重合性モノマー-
・2-イソシアナトエチルメタクリレート(製品名「カレンズMOI」、昭和電工社製)
【0194】
表1及び表2中、Aブロックの欄に、反応性基を含む重合性モノマーに由来する構成単位における、反応性基の種類を記載した。
【0195】
<Bブロック用重合性モノマー>
Bブロックを形成するための重合性モノマーを以下に示す。
-炭素数12~30の直鎖状アルキル基を含む重合性モノマー-
・StA:ステアリルアクリレート(東京化成工業社製)
-2価のオルガノポリシロキサン残基を含む重合性モノマー-
・X-22-174BX:片末端メタクリロイル基含有ポリジメチルシロキサン(製品名「X-22-174BX」、信越化学工業社製、繰り返し単位数29.1)
【0196】
-水酸基を含む重合性モノマー-
・HEA:ヒドロキシエチルアクリレート(東京化成工業社製)
-水酸基及びポリエチレンオキシド鎖を含む重合性モノマー-
・PEGMM:ポリエチレングリコールモノメタクリレート(製品名「ブレンマーPE-350」、日油社製、EOの平均付加モル数:8モル)
【0197】
-アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖を含む重合性モノマー-
・PPGMM:ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(製品名「ブレンマーPP-800」、日油社製、POの平均付加モル数:13モル)
-脂環式炭化水素基を含む重合性モノマー-
・CHMA:シクロヘキシルメタクリレート(東京化成工業社製)
【0198】
表1及び表2中、B1は、炭素数12~30の直鎖状アルキル基、及び2価のオルガノポリシロキサン残基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに該当することを意味する。B2は、水酸基及びポリエチレンオキシド鎖からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに該当することを意味する。B3は、アルキレン基の炭素数が3~6のポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに該当することを意味する。
【0199】
<その他のブロック用重合性モノマー>
Aブロック及びBブロックに該当しないその他のブロックを形成するための重合性モノマーを以下に示す。
・BA:ブチルアクリレート(日本触媒社製)
【0200】
[例1]
窒素置換を行った反応容器に、可逆的付加開裂連鎖移動重合開始剤(RAFT開始剤)であるシアノメチルドデシルトリチオカーボネート(東京化成工業社製)40mgと、RAFT開始剤に対してアゾイソブチロニトリル(東京化成工業社製)0.1モル当量を加えた。その後、ステアリルアクリレートをRAFT開始剤に対して80モル当量となるように加え、さらに、トルエン4mLを加え、窒素雰囲気下、70℃で反応を行った。
1H-NMRによりステアリルアクリレートの消失を確認した後、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランをRAFT開始剤に対して20モル当量となるように加え、窒素雰囲気下、70℃で反応を継続した。
1H-NMRにより3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの消失を確認し、反応を終了した。
これにより、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランに由来する構成単位を含むAブロックと、ステアリルアクリレートに由来する構成単位を含むBブロック、とからなるジブロックポリマーを得た。
【0201】
[例2~10、15]
Aブロック用重合性モノマー及びBブロック用重合性モノマーを、表1に記載の種類及び含有量(モル%)に変更したこと以外は、例1と同様の方法で、ブロックポリマーを得た。なお、Bブロック用重合性モノマーを2種類用いる場合は、表1に記載のBブロック用重合性モノマーを上から順番に重合させ、最後にAブロック用重合性モノマーを重合させた。
【0202】
[例11]
窒素置換を行った反応容器に、原子移動ラジカル重合開始剤(ATRP開始剤)であるα-ブロモ酪酸エチル(東京化成工業社製)40mgと、触媒である臭化銅(II)を全モノマー量の5ppmとなるように加えた。その後、ステアリルアクリレートをATRP開始剤に対して80モル当量となるように加え、さらに、トルエン4mLを加え、窒素雰囲気下、70℃で反応を行った。
1H-NMRによりステアリルアクリレートの消失を確認した後、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランをATRP開始剤に対して20モル当量となるように加え、窒素雰囲気下、70℃で反応を継続した。
1H-NMRにより3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの消失を確認し、反応を終了した。
これにより、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランに由来する構成単位を含むAブロックと、ステアリルアクリレートに由来する構成単位を含むBブロック、とからなるジブロックポリマーを得た。
【0203】
[例12]
窒素置換を行った反応容器に、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン及びステアリルアクリレートを仕込み、仕込み量に対して1質量%のアゾイソブチロニトリルを加え、70℃で12時間反応を行った。
これにより、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランに由来する構成単位と、ステアリルアクリレートに由来する構成単位、とからなるランダムポリマーを得た。
【0204】
[例13]
ステアリルアクリレートを加える前に、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランをATRP開始剤に対して10モル当量となるように加えて反応を行い、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの消失を確認したこと、及び、ステアリルアクリレートの消失を確認した後に、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランをATRP開始剤に対して10モル当量となるように加えて反応を行い、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの消失を確認したこと以外は、例11と同様の方法で、重合反応を行った。
これにより、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランに由来する構成単位を含むAブロックと、ステアリルアクリレートに由来する構成単位を含むBブロック、とからなる、ABAトリブロックポリマーを得た。
【0205】
[例14]
ステアリルアクリレートを加える前に、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランをRAFT開始剤に対して10モル当量となるように加えて反応を行い、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの消失を確認したこと、及び、ステアリルアクリレートの消失を確認した後に、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランをRAFT開始剤に対して10モル当量となるように加えて反応を行い、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの消失を確認したこと以外は、例1と同様の方法で、重合反応を行った。
これにより、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランに由来する構成単位を含むAブロックと、ステアリルアクリレートに由来する構成単位を含むBブロック、とからなる、ABAトリブロックポリマーを得た。
【0206】
例1~15で得られたポリマーをそれぞれ、濃度が1質量%となるように、エタノールで希釈し、表面処理剤を得た。例1~9、11~15では、表面処理剤を用いて、ガラス基板にスプレーコート法により表面処理を行い、120℃で2時間加熱した。これにより、ガラス基板の表面に表面処理層を有する物品を得た。例10では、処理基材として、ガラス基板の代わりに該ガラスの表面を0.1kwの出力で毎分2mの速度でコロナ処理したコロナガラスを用いたこと以外は、例1と同様の方法で、コロナガラスの表面に表面処理層を有する物品を得た。
【0207】
得られた物品について、動摩擦係数(COF)、水接触角、油接触角、及び水接触角の変化度の評価を行った。評価方法は、以下のとおりである。
【0208】
<動摩擦係数(COF)>
薬包紙に対する動摩擦係数(COF)を、荷重変動型摩擦摩耗試験システム(製品名「HHS2000」、新東科学社製)を用いて、接触面積3cm×3cm、荷重0.98Nの条件で測定した。COFが0.2以下であると、滑り性に優れている。
【0209】
<水接触角、油接触角>
物品の表面処理層上に、水接触角の場合は約2μLの蒸留水、油接触角の場合は同量のオレイン酸を垂らし、接触角測定装置(製品名「DM-500」、協和界面科学社製)を用いて、初期の接触角を測定した。表面処理層上の5箇所で測定を行い、平均値を算出した。なお、接触角の算出には2θ法を用いた。評価基準は以下のとおりである。
なお、以下の3つの条件のうち、少なくとも1つを満たす場合に、防汚性に優れるといえる。
(1)水接触角が100°以上である。
(2)水接触角が20°以下である。
(3)油接触角が20°以下である。
【0210】
<耐摩耗性>
物品の表面処理層に対して、JIS L0849:2013(対応ISO:105-X12:2001)に準拠して、往復式トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用い、スチールウールボンスター(♯0000)を圧力98.07kPa、速度320cm/分で3,000回往復させた後に、摩擦試験後の水接触角を測定した。摩擦試験後の水接触角の測定方法は、上記撥水性の評価方法における、初期の水接触角の測定方法と同じである。摩擦試験による水接触角の変化度に基づいて、耐摩耗性の評価を行った。水接触角の低下度が小さいほど、耐摩耗性に優れるといえる。評価基準は以下のとおりである。A及びBは、実用上問題ないレベルである。
水接触角の変化度=[(初期の水接触角)-(摩擦試験後の水接触角)]の絶対値
A:水接触角の変化度が5°以下である。
B:水接触角の変化度が5°超10°以下である。
C:水接触角の変化度が10°超である。
【0211】
評価結果を表1及び表2に示す。
【0212】
表1及び表2中、「Aブロックの位置」の欄は、ポリマーがブロックポリマーである場合に、Aブロックが片末端に位置するか、又は、両末端に位置するかを示したものである。また、表1及び表2中のAブロック及びBブロックに関する数値は、ブロックポリマーにおける含有量を意味し、単位は「モル%」である。「Bブロック/Aブロック」は、Aブロックの含有量に対するBブロックの含有量のモル比率を意味する。
【0213】
例1~11は、実施例であり、例12~15は、比較例である。
【0214】
【0215】
表1に示すように、例1~11では、反応性基を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有するAブロックと、炭素数12~30の直鎖状アルキル基、2価のオルガノポリシロキサン残基、水酸基、ポリアルキレンオキシド鎖、芳香族炭化水素基、及び脂環式炭化水素基からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性モノマーに由来する構成単位を含有する少なくとも1種のBブロックと、を含み、Aブロックは、ポリマーの片末端にのみ位置するため、表面処理層の滑り性、防汚性、及び耐摩耗性に優れることが分かった。
【0216】
一方、表2に示すように、例12は、ブロックポリマーではないため、表面処理層の滑り性及び耐摩耗性に劣ることが分かった。
【0217】
例13及び例14では、Aブロックがポリマーの両末端に位置するため、表面処理層の滑り性に劣ることが分かった。
【0218】
例15では、Bブロックが含まれていないため、表面処理層の防汚性に劣ることが分かった。
本開示のブロックポリマーは、表面処理剤として有用である。表面処理剤は、例えば、タッチパネルディスプレイ等の表示装置、光学素子、半導体素子、建築材料、自動車部品、ナノインプリント技術等における基材に対して用いることができる。また、表面処理剤は、電車、自動車、船舶、航空機等の輸送機器におけるボディー、窓ガラス(フロントガラス、サイドガラス、リアガラス)、ミラー、バンパー等に対して用いることができる。さらに、表面処理剤は、建築物外壁、テント、太陽光発電モジュール、遮音板、コンクリート等の屋外物品;漁網、虫取り網、水槽に対して用いることができる。また、表面処理剤は、台所、風呂場、洗面台、鏡、トイレ周辺部品;シャンデリア、タイル等の陶磁器;人工大理石、エアコン等の各種屋内設備に対して用いることができる。また、表面処理剤は、工場内の治具、内壁、配管等の防汚処理としても用いることができる。また、表面処理剤は、ゴーグル、眼鏡、ヘルメット、パチンコ、繊維、傘、遊具、サッカーボールに対して用いることができる。また、表面処理剤は、食品用包材、化粧品用包材、ポットの内部等の各種包材の付着防止剤としても用いることができる。また、表面処理剤は、カーナビゲーション、携帯電話、スマートフォン、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、PDA、ポータブルオーディオプレーヤー、カーオーディオ、ゲーム機器、眼鏡レンズ、カメラレンズ、レンズフィルター、サングラス、胃カメラ等の医療用器機、複写機、PC、ディスプレイ(例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイ)、タッチパネル、保護フィルム、及び反射防止フィルム等の光学部材に対して用いることができる。