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特開2023-163910ニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法、及び、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163910
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法、及び、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬設備
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
C22B23/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075125
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】樋口 浩隆
(72)【発明者】
【氏名】守田 晋介
(72)【発明者】
【氏名】京田 洋治
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA19
4K001BA02
4K001CA02
4K001CA05
(57)【要約】
【課題】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、浸出工程に供給するニッケル酸化鉱石スラリーについて、その前処理の段階で、必要な加熱処理を効率良く行いながら、尚且つ、ニッケル酸化鉱石スラリーの濃度も高い濃度に維持すること。
【解決手段】固液分離処理によってニッケル酸化鉱石スラリーを濃縮する、濃縮工程S2と、濃縮工程S2において濃縮されたニッケル酸化鉱石スラリーを加熱する、加熱工程S3と、を含んでなり、加熱工程S3においては、熱媒体とニッケル酸化鉱石スラリーとを直接接触させずに加熱する非接触式加熱工程S31と、熱媒体とニッケル酸化鉱石スラリーと直接接触させて加熱する接触式加熱工程S32との両方の加熱工程が順次行われる、ニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、ニッケルを硫酸によって浸出させる浸出工程に投入するニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法であって、
固液分離処理によって前記ニッケル酸化鉱石スラリーを濃縮する、濃縮工程と、
前記濃縮工程において濃縮された前記ニッケル酸化鉱石スラリーを加熱する、加熱工程と、を含んでなり、
前記加熱工程においては、熱媒体と前記ニッケル酸化鉱石スラリーとを直接接触させずに加熱する非接触式加熱工程と、熱媒体と前記ニッケル酸化鉱石スラリーと直接接触させて加熱する接触式加熱工程との両方の加熱工程が順次行われる、
ニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法。
【請求項2】
前記浸出工程から排出される浸出スラリーから、減圧処理により、水分を蒸気として分離回収することにより冷却する降圧工程が行われる前記ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、
前記降圧工程で回収される蒸気を、前記非接触式加熱工程及び前記接触式加熱工程において、熱媒体として用いる、
請求項1に記載のニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法によって濃縮及び加熱された前記ニッケル酸化鉱石スラリーを、前記浸出工程に投入する、
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項4】
固液分離手段と、
加熱手段と、
加圧浸出反応容器と、
減圧用耐圧容器と、
を備える、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬設備であって、
前記加熱手段が、
非接触式加温槽及び接触式の熱交換器によって構成されていて、
前記減圧用耐圧容器で回収された蒸気を前記非接触式加温槽及び前記接触式の熱交換器に供給する蒸気供給管を有する、
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法、及び、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法として、硫酸を用いた高温加圧酸浸出法(High Pressure Acid Leach(以下、「HPALプロセス」とも言う))が注目されている。この方法は、従来の一般的なニッケル酸化鉱石の製錬方法である乾式製錬方法とは異なり、還元及び乾燥工程等の乾式工程を含まず、一貫した湿式工程からなるプロセスであるため、エネルギー的及びコスト的に有利となる。又、ニッケル品位を50質量%程度まで向上させたニッケルを含む硫化物を得ることができるという利点も有している。
【0003】
「HPALプロセス」等によるニッケル酸化鉱石の湿式製錬において、原材料であるニッケル酸化鉱石は、流動性を高めるためにスラリー化された後、固液分離処理によって当該スラリーを濃縮する濃縮工程を経て、浸出工程に導入される。スラリー化工程を経てパイプラインで輸送したニッケル酸化鉱石スラリーは濃度が低いため、浸出工程にそのまま供給すると鉱石の単位重量当りのスラリーの容積が大きくなり、必要な浸出時間を確保するために浸出工程の浸出反応容器の容積も大きくなり非経済である。そこで、パイプラインで輸送したニッケル酸化鉱石スラリーをシックナーによって濃縮する濃縮工程によって、ニッケル酸化鉱石スラリーは、所定の濃度以上に濃縮されている(特許文献1、2参照)。
【0004】
そして、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬を行う製錬設備においては、このように十分に濃縮されたニッケル酸化鉱石スラリーに、更に、これを所定温度以上に昇温する予備的な加熱処理を行った上で、加熱済のニッケル酸化鉱石スラリーを、浸出工程が行われるオートクレーブ等の加圧浸出容器に投入している。そして、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬を行う製錬設備においては、この濃縮スラリーに対する加熱処理を、浸出工程後のスラリーを冷却する際に分離回収した高温蒸気等、系内の回収蒸気を熱媒体として用いる加熱方法によって行っている(特許文献2の段落0003、図2参照)。
【0005】
尚、従来の湿式製錬設備においては、上述の濃縮スラリーに対する予備的な加熱処理は、熱交換効率が高い向流式の熱交換機を用いて、高温の蒸気と濃縮されたニッケル酸化鉱石スラリーとを直接接触させる方法によって行われている。この場合において、十分な加熱を行うと、この加熱処理に用いられる蒸気の凝縮に起因して、ニッケル酸化鉱石スラリーの濃度が下がり、浸出工程に供給する際に望まれる、好ましい濃度を維持できなくなってしまう場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-231928号公報
【特許文献2】特開2017-146221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、浸出工程に供給するニッケル酸化鉱石スラリーについて、その前処理の段階で、必要な加熱処理を効率良く行いながら、尚且つ、ニッケル酸化鉱石スラリーの濃度も高い濃度に維持することができる、ニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法、及び、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、濃縮されたニッケル酸化鉱石スラリーを加熱する際に、非接触式加熱工程と、接触式加熱工程との両工程を併用することによって、上記課題を解決することができることに想到し、本発明を完成するに至った。本発明は、具体的には、以下のものを提供する。
【0009】
(1) ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、ニッケルを硫酸によって浸出させる浸出工程に投入するニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法であって、固液分離処理によって前記ニッケル酸化鉱石スラリーを濃縮する、濃縮工程と、前記濃縮工程において濃縮された前記ニッケル酸化鉱石スラリーを加熱する、加熱工程と、を含んでなり、前記加熱工程においては、熱媒体と前記ニッケル酸化鉱石スラリーとを直接接触させずに加熱する非接触式加熱工程と、熱媒体と前記ニッケル酸化鉱石スラリーと直接接触させて加熱する接触式加熱工程との両方の加熱工程が順次行われる、ニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法。
【0010】
(1)のニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法によれば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、浸出工程に供給するニッケル酸化鉱石スラリーについて、その前処理の段階で、必要な加熱処理を効率良く行いながら、尚且つ、ニッケル酸化鉱石スラリーの濃度も高い濃度に維持することができる。
【0011】
(2) 前記浸出工程から排出される浸出スラリーから、減圧処理により、水分を蒸気として分離回収することにより冷却する降圧工程が行われる前記ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、前記降圧工程で回収される蒸気を、前記非接触式加熱工程及び前記接触式加熱工程において、熱媒体として用いる、(1)に記載のニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法。
【0012】
(2)のニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法によれば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬設備の系内で排出される回収蒸気の熱を有効利用することにより、総エネルギーコストの増加を回避しながら、(1)に記載のニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法の奏する上記の効果を享受することができる。
【0013】
(3) (1)又は(2)に記載のニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法によって濃縮及び加熱された前記ニッケル酸化鉱石スラリーを、前記浸出工程に投入する、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【0014】
(3)のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法によれば、(1)又は(2)に記載のニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法の奏する上記効果を享受して、浸出工程で用いる加圧浸出反応容器に供給するスラリーの温度及び濃度を追加的なコスト負担を要せずに適切に上昇させることができる。これにより、浸出工程での鉱石処理能力を向上させて、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬の生産性を向上させることができる。
【0015】
(4) 固液分離手段と、加熱手段と、加圧浸出反応容器と、減圧用耐圧容器と、を備える、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬設備であって、前記加熱手段が、非接触式加温槽及び接触式の熱交換器によって構成されていて、前記減圧用耐圧容器で回収された蒸気を前記非接触式加温槽及び前記接触式の熱交換器に供給する蒸気供給管を有する、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬設備。
【0016】
(4)のニッケル酸化鉱石の湿式製錬設備によれば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬において、浸出工程に供給するニッケル酸化鉱石スラリーについて、その前処理の段階で、必要な加熱処理を効率良く行いながら、尚且つ、ニッケル酸化鉱石スラリーの濃度も高い濃度に維持することができる。これにより、浸出工程で用いる加圧浸出反応容器に供給するスラリーの温度及び濃度を追加的なコスト負担を要せずに適切に上昇させることができる。これにより、浸出工程での鉱石処理能力を向上させて、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬の生産性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬において、浸出工程に供給するニッケル酸化鉱石スラリーについて、その前処理の段階で、加熱処理を効率良く行いながら、尚且つ、ニッケル酸化鉱石スラリーの濃度も高い濃度に維持するこができ、これにより、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法を用いて実施することができる、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の全体プロセスの工程図である。
図2】本発明のニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法の実施に好適なニッケル酸化鉱石の湿式製錬設備の構成の説明に供する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の「ニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法」、「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」、及び、「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬設備」について、具体的な実施形態を詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0020】
本発明の「ニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法」は、ニッケル酸化鉱石を原料とした湿式製錬の全体プロセスである「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」の中で、浸出工程に投入するニッケル酸化鉱石スラリーを濃縮して更に加熱する前処理を行うための部分プロセスとして実施することができる。以下においては、先ず、本発明を適用して行うことができる「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」の流れの全体を説明し、その後に、本発明の「ニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法」及び、これらの各プロセスを行うための設備として好適な本発明の「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬設備」について、それぞれの詳細を説明する。
【0021】
<ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法>
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の流れは図1に示す通りであり、スラリー化工程S1、濃縮工程S2、加熱工程S3、浸出工程S4、降圧工程S5、中和工程S6、硫化工程S7が順次行われることによって、ニッケル酸化鉱石から、ニッケルを含有するニッケル硫化物を得る製錬プロセスである。
【0022】
[スラリー化工程]
スラリー化工程S1は、ニッケル酸化鉱石を水と混合して、流動性の高いニッケル酸化鉱石スラリーとする工程である。尚、本明細書においては、ニッケル酸化鉱石と水との混合物である鉱石スラリーのことを、「ニッケル酸化鉱石スラリー」と称するが、「ニッケル酸化鉱石スラリー」には、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、ニッケル酸化鉱石及び水以外の成分が含有されていてもよい。スラリー化工程S1において十分に流動性を高められたニッケル酸化鉱石スラリーは、パイプラインの詰まりやポンプの破損を来たすことなく、次工程に輸送することができる。
【0023】
[濃縮工程]
濃縮工程S2は、スラリー化工程S1で得た、流動性が高く、それ故に、濃度が低いニッケル酸化鉱石スラリーを、シックナー(沈降分離装置)等の固液分離手段によって濃縮する工程である。この工程において、ニッケル酸化鉱石スラリーは、固形分40質量%以上に濃縮される。これにより、浸出工程S4での鉱石処理能力を十分に向上させることができる。
【0024】
[加熱工程]
加熱工程S3は、濃縮工程S2において十分に濃縮されたニッケル酸化鉱石スラリーを、高温高圧での酸浸出を行う浸出工程S4に投入する前に、予め所定の温度まで予備的に加熱する工程である。本発明の「ニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法」は、この加熱工程S3において、熱媒体と加熱対象物であるニッケル酸化鉱石スラリーを直接接触させずに加熱する非接触式加熱工程S31と、加熱対象物であるニッケル酸化鉱石スラリーとを直接接触させて加熱する接触式加熱工程S32との両方の加熱工程を順次段階的に行うことを主たる特徴とするプロセスである。この2つの加熱工程を経て、ニッケル酸化鉱石は、100℃程度まで加熱される。尚、各加熱方式による各加熱工程の実施態様の詳細については、「ニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法」の説明として後述する。
【0025】
[浸出工程]
浸出工程S4は、高圧加圧条件下で、ニッケル酸化鉱石から、ニッケル、コバルト等の有価成分を硫酸で浸出して浸出スラリーを得る工程である。この工程では、濃縮工程S2において上記程度の濃度にまで濃縮され、加熱工程S3において上記程度の温度にまで昇温されたニッケル酸化鉱石スラリーを、オートクレーブ等の加圧浸出反応容器に投入して浸出処理が行われる。この処理は、より詳しくは、同容器内で高温の蒸気による反応温度の調整を行いながら、高温高圧下で硫酸と混合することにより行われる。
【0026】
[降圧工程]
降圧工程S5は、浸出工程S4から排出される浸出スラリーを降圧処理によって冷却する工程である。この工程では、フラッシュタンク等の減圧用耐圧容器内での減圧処理により水分を蒸気として分離回収することにより浸出スラリーの冷却が行われる。フラッシュタンクは、必要に応じて弁等を介して、一端を大気開放又は大気圧より圧力は高いもののオートクレーブよりも圧力の低い容器に接続することにより、オートクレーブより内圧が低く保たれている。従って、フラッシュタンクに受け入れられたスラリーは、蒸気を放出しながら温度が低下する。尚、この降圧工程S5で発生する高温の蒸気は回収して、加熱工程S3で熱媒体として用いることができる。
【0027】
[中和工程]
中和工程S6は、上記の浸出スラリーを、3価の鉄水酸化物を主成分としニッケルを含む回収用の母液と中和澱物スラリーとに分離する工程である。
【0028】
[硫化工程]
硫化工程S7は、上記のニッケル回収用の母液に硫化剤を添加して、ニッケル硫化物と貧液とに分離する工程である。
【0029】
<ニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法>
本発明のニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法は、上述したニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の全体プロセスの中で行われる部分プロセスであって、浸出工程S4に投入するニッケル酸化鉱石スラリーの前処理を行うための方法である。このニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法では、具体的に、固液分離処理によってニッケル酸化鉱石スラリーを濃縮する、濃縮工程S2と、ニッケル酸化鉱石スラリーを加熱する、加熱工程S3とが行われる。
【0030】
そして、本発明のニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法は、加熱工程S3において、熱媒体とニッケル酸化鉱石スラリーとを直接接触させずに加熱する非接触式加熱工程S31と、熱媒体とニッケル酸化鉱石スラリーと直接接触させて加熱する接触式加熱工程S32との両方の加熱工程が順次、段階的に行われることを主たる特長とする。濃縮工程S2については、上述したシックナーを用いた固液分離処理等、従来公知の各種の固液分離処理方法によって行うことができ、特定の手段や方法には限定されない。図2は、本発明のニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法の実施に好適なニッケル酸化鉱石の湿式製錬設備の要部の構成の説明に供する図面である。以下、本発明のニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法における加熱工程S3の実施態様について、適宜図2を参照しながら、その詳細を説明する。
【0031】
[非接触式加熱工程]
非接触式加熱工程S31は、ニッケル酸化鉱石スラリーに加熱するための熱媒体として用いる高温の蒸気を加熱対象であるニッケル酸化鉱石スラリーには直接接触させることなく加温する非接触式加温槽31内での熱交換によってニッケル酸化鉱石スラリーを加温する工程である。ニッケル酸化鉱石スラリーを、このような加熱方式で予め一定温度にまで加温しておくことによって、接触式熱交換器32を用いる接触式加熱工程S32での昇温に伴う蒸気の凝縮によるスラリー濃度低下を低減することができる。
【0032】
非接触式加熱工程S31における、ニッケル酸化鉱石スラリーの昇温温度については、浸出工程S4の操業条件や、熱媒体として使用可能な系内の回収蒸気量の総量に基づいて適宜調整すればよい。一例として、浸出工程S4への投入時にニッケル酸化鉱石スラリーの温度を100℃まで昇温することが必要な場合であれば、この非接触式加熱工程S31において、スラリー温度は40℃以上にまで昇温することが好ましい。
【0033】
尚、非接触式加熱工程S31において、ニッケル酸化鉱石スラリーを加熱する熱媒体として、上述した通り、又、図2にも示す通り、降圧工程S5を行うフラッシュタンクS50等減圧用耐圧容器から回収される高温の蒸気を用いることが好ましい。
【0034】
(非接触式加温槽)
本発明のニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法(以下、単に「ニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法」とも言う)においては、非接触式加熱工程S31を行う非接触式加温槽31として、濃縮工程S2を行うシックナー20で濃縮されたニッケル酸化鉱石スラリーを貯留する槽(以下「濃縮スラリー貯槽」とも言う)を利用することが好ましい。濃縮スラリー貯槽には、通常、スラリーの沈降を防止する為の攪拌機やスラリーの温度を測定するための温度計が備えられている。これらに加えて、更に槽内に、非接触式の熱交換器を配備することで、濃縮スラリー貯槽を、非接触式加熱工程S31を行う非接触式加温槽31として機能させることができる。
【0035】
又、濃縮スラリー貯槽等の非接触式加温槽31に配備する熱交換器は非接触式の機器であればよく、例えば、スチームジャケットや蛇管等によって構成される公知の各種熱交換器を適宜選択して用いることができる。
【0036】
[接触式加熱工程]
接触式加熱工程S32では、非接触式加熱工程S31において予め所定温度以上にまで昇温されたニッケル酸化鉱石スラリーを、熱媒体として用いる高温の蒸気を加熱対象に直接接触させる方式の加熱手段である接触式熱交換器32によって更に加熱する工程である。この接触式加熱工程S32においては、熱交換効率が高い接触式熱交換器32によって、ニッケル酸化鉱石スラリーが、浸出工程S4への投入時に求められる温度にまで効率良く確実に昇温される。又、一例として、浸出工程S4への投入時に求められるスラリー温度が100℃である場合には、上述の通り、非接触式加熱工程S31において、スラリー温度を40℃以上に昇温しておくことによって、この接触式加熱工程S32における上記の凝集に起因するスラリー濃度の低下を有意に抑制することができる。
【0037】
尚、接触式加熱工程S32においても、非接触式加熱工程S31同様、降圧工程S5を行うフラッシュタンクS50等減圧用耐圧容器から回収される高温の蒸気を熱媒体として用いることが好ましい。又、接触式加熱工程S32は、非接触式加熱工程S31を終えた後に行うことが好ましいが、熱媒体として使用可能な蒸気の総量に十分な余裕がある場合や、或いは既存の設備内での加熱装置の配置に係る事情によっては、2つの加熱工程の順序を逆にして、接触式加熱工程S32を非接触式加熱工程S31に先行して行う実施態様とすることも可能である。
【0038】
<ニッケル酸化鉱石の湿式製錬設備>
本発明のニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法及びこれを適用して実施されるニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、シックナー等の固液分離手段と、加熱手段と、オートクレーブ等の加圧浸出反応容器と、フラッシュタンク等の減圧用耐圧容器と、を備える製錬設備であって、更に、加熱手段を、加熱方式の異なる複数の加熱装置、即ち、非接触式加温槽及び接触式の熱交換器を併設したする構成としたニッケル酸化鉱石の製錬設備において実施することができる。本発明の上記各方法を実施するためのニッケル酸化鉱石の製錬設備は、フラッシュタンク(減圧用耐圧容器)で回収された蒸気を非接触式加温槽及び接触式の熱交換器に供給する蒸気供給管を有する設備とすることが好ましい。これらの各構成を備えるニッケル酸化鉱石の湿式製錬設備において、非接触式加熱工程S31と接触式加熱工程S32でスラリーに付与される熱量を適切に配分することにより、ニッケル酸化鉱石スラリーの温度を適切に上昇させながらも、蒸気の凝縮に起因するスラリー濃度の低下を抑制することができる。
【実施例0039】
以下に、実施例により本発明を更に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。以下の実施例及び比較例では、図1の工程図に示す通りの流れでニッケル酸化鉱石の湿式製錬が行われる設備において、濃縮工程S2、加熱工程S3からなるニッケル酸化鉱石スラリーの前処理の効果を検証する試験を行った。具体的には、濃縮工程S2は、一定の条件下で行い、これに引続き行う加熱工程S3における加熱処理の実施態様を、それぞれ以下に説明する通りに異なる態様で行い、それぞれの加熱態様による加熱処理の終了後における、ニッケル酸化鉱石スラリーのスラリー濃度を測定して比較した。
【0040】
[実施例1]
濃縮工程S2においては、シックナーを用いて、アンダーフローから固形分濃度43%に濃縮されたニッケル酸化鉱石スラリーを得た。この段階でのスラリーの温度は、34℃であった。
次に、このスラリーを、「濃縮スラリー貯槽」に送液し、同槽内に配備したスチームジャケットに、同設備内のフラッシュタンクから回収した110℃以上の蒸気を通すことによって、スラリー温度を79℃まで昇温する「非接触式加熱工程」を行った。
そして、更に、このスラリーを、上記同様の高温の蒸気と直接接触させることによって加熱する接触式熱交換器によって、スラリー温度を100℃まで昇温する「接触式加熱工程」を行った。「接触式加熱工程」を終えた段階でのスラリー濃度は「36.5%」であった。尚、「接触式加熱工程」は、浸出工程を行うオートクレーブへのスラリー供給硫量が、353m/hとなるように送液しながら行った。
【0041】
[実施例2]
「非接触式加熱工程」において、スラリー温度を61℃まで昇温したことの他は、実施例1と同条件で各工程を実施した。「接触式加熱工程」を終えた段階でのスラリー濃度は「36.1%」であった。
【0042】
[実施例3]
「非接触式加熱工程」において、スラリー温度を43℃まで昇温したことの他は、実施例1と同条件で各工程を実施した。「接触式加熱工程」を終えた段階でのスラリー濃度は「35.3%」であった。
【0043】
[比較例]
「濃縮スラリー貯槽」では昇温を行わず、接触式熱交換器による「接触式加熱工程」のみによって、スラリー温度を100℃まで昇温した。その他については実施例1と同条件で各工程を実施した。「接触式加熱工程」を終えた段階でのスラリー濃度は「34.9%」であった。
【0044】
以上の試験結果から、本発明のニッケル酸化鉱石スラリーの前処理方法の実施により、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬において、浸出工程に供給するニッケル酸化鉱石スラリーについて、その前処理の段階で、必要な加熱処理を効率良く行いながら、尚且つ、浸出工程に投入するニッケル酸化鉱石スラリーの濃度も従来方法よりも高い濃度に維持するこができるようになることが分かる。
【符号の説明】
【0045】
20 シックナー(固液分離手段)
30 加熱手段
31 非接触式加温槽
32 接触式熱交換器
40 オートクレーブ(加圧浸出反応容器)
50 フラッシュタンク(減圧用耐圧容器)
S1 スラリー化工程
S2 濃縮工程
S3 加熱工程
S31 非接触式加熱工程
S32 接触式加熱工程
S4 浸出工程
S5 降圧工程
S6 中和工程
S7 硫化工程
図1
図2