(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163913
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】がん治療システム
(51)【国際特許分類】
A61N 2/04 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
A61N2/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075130
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(71)【出願人】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 高司
(72)【発明者】
【氏名】岸 和人
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 基和
(72)【発明者】
【氏名】梅村 将就
(72)【発明者】
【氏名】石川 義弘
(72)【発明者】
【氏名】永迫 茜
【テーマコード(参考)】
4C106
【Fターム(参考)】
4C106AA05
4C106BB21
4C106CC03
4C106FF12
4C106FF16
(57)【要約】
【課題】本開示は、患部の温度上昇をモニタリングするがん治療装置を提供する。
【解決手段】がん患部組織に印加する交流磁界を発生する磁界発生部と、がん患部又は前記がん患部の周辺の温度を計測する温度測定部と、を備え、発熱媒体を用いずに、かつ、磁界による発熱作用を用いた温熱効果によらずに、前記磁界発生部により発生する磁界中に前記がん患部を挿入して治療するがん治療システム。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん患部組織に印加する交流磁界を発生する磁界発生部と、
がん患部又は前記がん患部の周辺の温度を計測する温度測定部と、
を備え、
発熱媒体を用いずに、かつ、磁界による発熱作用を用いた温熱効果によらずに、前記磁界発生部により発生する磁界中に前記がん患部を挿入して治療する、
がん治療システム。
【請求項2】
前記温度測定部で測定された温度を記録する記録部を更に備える、
請求項1に記載のがん治療システム。
【請求項3】
前記記録部は、前記温度をあらかじめ定められている上限値及び下限値と比較した結果に基づいて、前記温度が正常であるか異常であるかを判定する、
請求項2に記載のがん治療システム。
【請求項4】
前記磁界発生部は、前記交流磁界を発生させるコイルを備え、
前記コイルに交流電圧を供給する電源部を更に備え、
前記判定した結果が異常の場合、前記磁界発生部に対して前記電源部からの電流の供給を停止する、
請求項3のいずれかに記載のがん治療システム。
【請求項5】
前記磁界発生部は、前記交流磁界を発生させるコイルを備え、
前記コイルに交流電圧を供給する電源部を更に備え、
前記判定した結果が異常の場合、前記磁界発生部に対して前記電源部からの電流の大きさを制御する、
請求項3に記載のがん治療システム。
【請求項6】
前記温度測定部は、サーモビューワを含み、
前記サーモビューワは、前記磁界発生部から少なくとも15センチメートル以上離れた位置から、前記がん患部及び周辺の表面温度を測定し、前記記録部に測定データを出力する、
請求項2に記載のがん治療システム。
【請求項7】
前記温度測定部は、光ファイバ温度計を含み、
前記光ファイバ温度計は、前記がん患部及び前記がん患部の周辺の表面温度を測定し、前記記録部に測定データを出力する、
請求項2に記載のがん治療システム。
【請求項8】
前記温度を表示する表示部を含む、
請求項1に記載のがん治療システム。
【請求項9】
前記がんは、神経膠芽腫、神経膠腫、すい臓がん、乳がん、悪性黒色腫、悪性中皮腫及び口腔がんのいずれかを含む、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のがん治療システム。
【請求項10】
がん患部組織に印加する交流磁界を発生する磁界発生部と、
前記磁界発生部によって発生された磁界の大きさを測定する磁界測定部と、
がん患部を含む前記がん患部の周辺の温度を計測する温度測定部と、
を備え、
発熱媒体を用いずに、かつ、磁界による発熱作用を用いた温熱効果によらずに、前記磁界発生部により発生する磁界中に前記がん患部を挿入して治療する、
がん治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、がん治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
がんの治療に用いられる治療装置として、さまざまな種類のがん治療装置が知られている。
【0003】
特許文献1及び特許文献2には、交番磁界によりがんを治療するがん治療装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び特許文献2に開示のがん治療装置において、交番磁界により患部に磁界を印加したときに、患部に印加する磁界の大きさそのものががん細胞の増殖抑制に効果がある。がん治療装置を用いたときに、交番磁界を印加する患部周辺の温度が上昇する場合がある。
【0005】
本開示は、患部の温度上昇をモニタリングするがん治療装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の技術は、がん患部組織に印加する交流磁界を発生する磁界発生部と、がん患部又は前記がん患部の周辺の温度を計測する温度測定部と、を備え、発熱媒体を用いずに、かつ、磁界による発熱作用を用いた温熱効果によらずに、前記磁界発生部により発生する磁界中に前記がん患部を挿入して治療するがん治療システムである。
【発明の効果】
【0007】
本開示のがん治療装置によれば、患部の温度上昇をモニタリングできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るがん治療装置の使用状態を示す上面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るがん治療装置の使用状態を示す正面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係るがん治療装置の使用状態を示す側面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係るがん治療装置における磁界発生部の斜視図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係るがん治療装置における磁界発生部の切断斜視図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係るがん治療システムにおける磁界測定部の斜視図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係るがん治療システムにおける磁界測定について説明する上面図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態に係るがん治療システムにおける磁界測定について説明する上面図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態に係るがん治療システムにおける磁界測定処理を説明するためのフロー図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態に係るがん治療システムにおける温度測定について説明する側面図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態に係るがん治療システムにおける温度測定について説明する側面図である。
【
図12】
図12は、第2実施形態に係るがん治療システムにおける温度測定について説明する正面図である。
【
図13】
図13は、第2実施形態に係るがん治療システムにおける温度測定処理を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、理解を容易にするために、図面における各部の縮尺と、実際の縮尺とが異なる場合がある。
【0010】
平行、直角、直交、水平、垂直、上下、左右などの方向には、実施形態の効果を損なわない程度のずれが許容される。角部の形状は、直角に限られず、弓状に丸みを帯びてもよい。平行、直角、直交、水平、垂直には、略平行、略直角、略直交、略水平、略垂直が含まれてもよい。
【0011】
≪がん治療装置10≫
最初に、本実施形態に係るがん治療システムを構成するがん治療装置10について説明する。
図1は、本実施形態に係るがん治療装置10の使用状態を示す上面図である。
図2は、本実施形態に係るがん治療装置10の使用状態を示す正面図である。
図3は、本実施形態に係るがん治療装置10の使用状態を示す側面図である。
【0012】
がん治療装置10は、交流磁界をがん患部組織に印加してがん細胞の増殖を抑制するがん治療装置である。がん治療装置10は、磁界発生部100が備えるコイル100aにより生じる交流磁界をがん患部組織に印加することにより治療する磁気治療装置である。がん治療装置10は、磁界発生部100により発生する交流磁界中にガン患部を挿入して治療するがん治療装置である。
【0013】
なお、がん治療装置10は、発熱媒体を使用しない。また、がん治療装置10は、発熱媒体を用いて磁界による発熱作用を用いた温熱効果によりがんを治療する装置ではなく、磁界発生部100により患部に交流磁界を直接印加して治療するがん治療装置である。がん治療装置10は、例えば、発熱媒体を用いて磁界による発熱作用を用いた温熱効果によりがんを治療するがん治療装置とは異なるがん治療装置である。いいかえると、がん治療装置10は、発熱媒体を用いずに、かつ、磁界による発熱作用を用いた温熱効果によらずに、磁界発生部100により発生する交流磁界中にがん患部を挿入して治療するがん治療装置である。
【0014】
がん治療装置10は、磁界発生部100と、電源部101と、整合部102と、冷却部103と、を備える。また、がん治療装置10は、患者Pを載置する治療台106を備える。
【0015】
磁界発生部100は、患者Pの患部に印加する交流磁界を発生する。磁界発生部100は、電源部101から電流の供給を受ける。電源部101は、整合部102により、目標とする共振周波数、例えば230キロヘルツ、に安定して電流を磁界発生部100に供給する。磁界発生部100は、電源部101から供給された電流を、電磁誘導により磁界に変換する。磁界発生部100は、例えば、コイルにより形成される。
【0016】
電源部101は、磁界発生部100に磁界を生成するための電流を供給する。電源部101は、例えば商用電源である電源PSに接続する。電源部101は、電源PSから供給された電力を用いて、例えば、周波数100キロヘルツから300キロヘルツのいずれかの周波数の交流電流を生成する。電源部101は、生成した交流電流を、整合部102を介して磁界発生部100に供給する。また、電源部101は、磁界発生部100において所望の磁束密度となる交流磁界を生成するように電流を調整する。
【0017】
整合部102は、電源部101と磁界発生部100との間のインピーダンスの整合を行う。整合部102は、インダクタ、コンデンサ及び抵抗により構成される直列回路又は並列回路といった既知の共振回路を含む。整合部102は、磁界発生部100に、常に電流最大値が出力できるように周波数を調整する制御機能を有する。整合部102は、安定した電流を磁界発生部100に供給する。
【0018】
磁界発生部100は、整合部102を介して電源部101から電流が供給されることにより、患部が配置される位置、例えば、コイル100aの中心、において、交流磁界を発生させる。磁界発生部100が発生させる交流磁界における磁束密度は、例えば、10から30ミリテスラである。磁界発生部100が発生する交流磁界は、略一定の強度でもよいし、規定された大きさの変化を伴う波形をあらかじめ決められた時間繰り返すパターンであってもよい。すなわち、磁界発生部100が発生する交流磁界は略一定を含むあらかじめ規定された大きさの変化を伴う波形をあらかじめ決められた時間繰り返すパターンであってもよい。
【0019】
冷却部103は、磁界発生部100を冷却するために冷却液を供給する。磁界発生部100は、電源部101から電流の供給を受けると発熱する。がん治療装置10は、冷却部103が供給する冷却液により、磁界発生部100を冷却する。
【0020】
冷却部103は、磁界発生部100を冷却する冷却液を供給する。また、冷却部103は、磁界発生部100を冷却した冷却液を回収する。そして、冷却部103は、冷却液を一定の液温に保ちながら循環する。冷却部103は、例えば、チラーである。冷却部103は、例えば商用電源である電源PSに接続する。冷却部103は、電源PSからの電力を用いて冷却液を冷却する。冷却部103は、磁界発生部100を冷却する冷却液を磁界発生部100に供給する。なお、冷却液は、例えば、水でもよいし、不凍液を添加した水でもよいし、フッ素化液体系等の不活性液体でもよい。
【0021】
冷却部103は、ホース105によりマニホールド104に冷却液を供給する。マニホールド104は、冷却部103が供給した冷却液を磁界発生部100に供給する。また、マニホールド104は、供給した冷却液を磁界発生部100から回収する。
【0022】
なお、がん治療装置10は、冷却部103から供給される冷却液を、マニホールド104で分岐して、例えば、電源部101及び整合部102に冷却液を供給してもよい。すなわち、がん治療装置10は、冷却部103から供給される冷却液を用いて、電源部101及び整合部102の少なくとも一方を冷却するようにしてもよい。
【0023】
がん治療装置10は、治療台106の上に、非導電緩衝材109を備える。治療台106に金属が含まれている場合は、磁界発生部100により発生する交流磁界が鎖交することによって渦電流が発生し、治療台106が発熱する可能性がある。治療台106の発熱を防止するために、がん治療装置10は、磁界発生部100から治療台106を十分な距離離すように非導電緩衝材109を備える。患者Pは、非導電緩衝材109の上に仰臥の姿勢で横たわる。例えば、患者Pの患部として、頭部の神経膠芽腫といった脳腫瘍を想定する。患者Pは、磁界発生部100に、頭部を挿入する。磁界発生部100は、患者Pの頭部が挿入可能な形状を有する。磁界発生部100は、患者Pの頭部に磁界を印加する。
【0024】
磁界発生部100の構成について説明する。
図4は、本実施形態に係るがん治療システムに用いられるがん治療装置10における磁界発生部100の斜視図である。
【0025】
磁界発生部100は、コイル100aと、パイプ100bと、を備える。コイル100a及びパイプ100bのそれぞれを構成する材料は、導電性を有する材料を含む。コイル100a及びパイプ100bのそれぞれは、中空の管状の部材により構成される。なお、コイル100a及びパイプ100bのそれぞれは、円筒形状に限らず、例えば、楕円筒形状、角筒形状でもよい。なお、
図4は、円筒形状のコイル100aを例として示している。
【0026】
コイル100aは螺旋状の形状を有する。患者Pは、コイル100aの内側100aiに、患部を挿入する。コイル100aの両端には、パイプ100bが接続される。
【0027】
コイル100a及びパイプ100bのそれぞれの内部には、冷却部103が供給する温度管理された冷却液が流れる。また、コイル100a及びパイプ100bのそれぞれの管には、電源部101から整合部102を介して電流が流れる。コイル100a及びパイプ100bに流れる電流により発生する熱は、コイル100a及びパイプ100bの内部を流れる冷却液により冷却される。コイル100a及びパイプ100bは、冷却液による冷却により一定温度に保たれる。
【0028】
次に、コイル100aが備える絶縁構造について説明する。患者Pがコイル100aに接触すると感電する可能性がある。コイル100aは、感電を防止するために絶縁構造を有する。
図5は、本実施形態に係るがん治療装置10における磁界発生部100の切断斜視図である。
図5は、角筒形状のコイル100aを例として示している。
【0029】
コイル100aは、金属配管100a1と、絶縁シート100a2と、保護シート100a3と、を備える。金属配管100a1を構成する材料は、金属、例えば、銅である。絶縁シート100a2は、絶縁テープ、例えば、ポリイミド製テープである。保護シート100a3は、絶縁シート、例えば、ガラスシートである。コイル100aが、金属配管100a1の周りに、絶縁シート100a2及び保護シート100a3を備えることにより、絶縁シート100a2及び保護シート100a3は、金属配管100a1を保護する。また、絶縁シート100a2及び保護シート100a3は、金属配管100a1を患者P等から絶縁する。
【0030】
なお、コイル100aが備える保護シート100a3の外側に、布やゴム等の保護材を更に備えてもよい。コイル100aが備える保護シート100a3の外側に、布やゴム等の保護材を更に備えることにより、人体との絶縁を確実に維持できる。
【0031】
≪がん治療システム1≫
次に、第1実施形態に係るがん治療システム1について説明する。がん治療システム1は、がん治療装置10と、磁界測定部107と、を備える。なお、本開示においては、がん治療システム1として説明するが、がん治療装置10と磁界測定部107とを組み合わせてがん治療装置としてもよい。
【0032】
特許文献1には、がん患部に約20ミリテスラの磁束密度を有する磁界が印加されると、がんの増殖が抑制されることが開示されている。がん治療システム1は、特許文献1に開示のがん患部の発熱を要することなく、磁界をあてることによってがん細胞の増殖を抑制させる技術に基づく。がん治療システム1において、磁界が患部にどのくらいの量で印加されているかは、治療効果との関係において非常に重要である。したがって、がん治療システム1において、患部に所望の磁束密度を有する磁界が印加されているかどうかを測定によって確認する必要がある。
【0033】
がん治療システム1が備える磁界測定部107について説明する。
図6は、第1実施形態に係るがん治療システム1における磁界測定部107の斜視図である。
【0034】
磁界測定部107は、磁界発生部100が発生する交流磁界の強度を測定する。磁界測定部107は、例えば、サーチコイルである。
【0035】
磁界の測定及びモニタリングは、他の産業分野では通常に見られる技術である。本実施形態に係るがん治療システム1は、周波数230キロヘルツで変動し、磁束密度が20ミリテスラ程度である磁界を測定するために、サーチコイルを備える。がん治療システム1は、サーチコイル内に交流磁界によって誘導される交流電圧を測定し、例えば、電圧と磁界との対応表を用いて、磁界の大きさ、具体的には磁束密度を求める。なお、がん治療システム1において、ガウスメータにより、磁界を測定してもよい。
【0036】
磁界測定部107は、支持部111により支持される。支持部111は、
図6に示すように、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸により構成される三次元座標系において、X軸、Y軸及びZ軸のそれぞれの方向に移動可能になっている。具体的には、支持部111は、磁界測定部107を、X軸方向Dx、Y軸方向Dy及びZ軸方向Dzに沿って、設定された距離移動する。
【0037】
がん治療システム1における磁界測定部107を用いた磁界測定について説明する。最初に、がん治療システム1において、治療前に実施する磁界測定について説明する。
図7は、第1実施形態に係るがん治療システム1における治療前に実施する磁界測定について説明する上面図である。
【0038】
がん治療システム1において、患者Pに治療する前に、磁界発生部100が発生する磁界を測定する。
【0039】
一方、磁界発生部100は、コイル100aにより磁界を発生する。コイル100aのようなコイルを鎖交する磁束は、わずかな位置でも変化する。したがって、磁界発生部100において、実際に患部が位置する場所における磁界について、実測して詳細に測定を行う必要がある。
【0040】
第1実施形態に係るがん治療システム1においては、患者Pを治療する前に、磁界発生部100において患者Pの患部が位置する場所の磁界を、磁界測定部107を用いて測定する。
【0041】
がん治療システム1は、磁界測定部107であるサーチコイルにおいて、磁界により生じる電圧を検出する検出回路(図示せず)と、検出回路で得られた電圧信号を取得して磁界強度を算出し記録する記録部108と、記録部108によって記録された磁界の大きさを表示する表示部110と、を備える。
【0042】
がん治療システム1は、支持部111を制御して、磁界測定部107によって、磁界発生部100における磁界を測定する。そして、がん治療システム1は、記録部108によって、測定した結果を記録する。
【0043】
なお、後述する患者Pを治療している間に、患者Pの患部が位置する場所(治療位置)の磁界を推定するために、磁界発生部100の近傍における磁界も測定する。そして、患者Pの患部が位置する場所の磁界と、磁界発生部100の近傍における磁界との対応関係を算出する。
【0044】
次に、がん治療システム1において、治療中に実施する磁界測定について説明する。
図8は、第1実施形態に係るがん治療システム1における治療中に実施する磁界測定について説明する上面図である。
【0045】
上述のように、がん治療システム1において、磁界が患部にどのくらいの量で印加されているかは、治療効果との関係において非常に重要である。したがって、がん治療システム1において、実際に治療しているときに、患部に所望の磁束密度を有する磁界が印加されているかどうかを測定によって確認する必要がある。
【0046】
第1実施形態に係るがん治療システム1においては、患者Pを治療中に、磁界発生部100の近傍における磁界を、磁界測定部107を用いて測定する。がん治療システム1は、磁界測定部107を、磁界発生部100の近傍、すなわち、治療位置の周囲、に配置する。なお、がん治療システム1は、磁界発生部100の近傍における磁界を測定することにより、磁界発生部100において患者Pの患部が位置する場所の磁界を推定する。
【0047】
実際に患者Pを治療している間は、磁界発生部100に患者Pの患部があるため、患者Pの患部が位置する場所の磁界そのものを測定できない。がん治療システム1は、磁界発生部100の近傍における磁界の測定結果に基づいて、患者Pの患部が位置する場所の磁界を推定する。
【0048】
記録部108は、例えば、パーソナルコンピュータである。記録部108は、ソフトウエアプログラムにより、磁界によりサーチコイルにおいて生じる電圧信号から磁束密度に変換する。記録部108は、例えば、対応表を用いて、電圧信号から磁束密度に変換を行ってもよいし、変換式を用いて、電圧信号から磁束密度に変換を行ってもよい。
【0049】
また、記録部108は、磁束密度が、あらかじめ設定されている目標の磁束密度の上限値と下限値の間にあるかを判定してもよい。記録部108は、例えば、目標の上限値、下限値から外れている場合には、警告として警告音を発生してもよいし、表示部110に表示してもよい。
【0050】
記録部108が警告を行うことにより、治療をおこなっている医師等の治療者に気づかせることができる。治療者は、警告により治療を中断するなどの選択が可能となる。また、がん治療システム1において、電源部101が出力する電流値を、磁界強度が上限値と下限値との間の範囲に入るように調整してもよい。なお、電源部101が出力する電流の調整は、記録部108から自動的に行ってもよいし、治療者が手動で設定してもよい。
【0051】
次に、がん治療システム1による処理について説明する。
図9は、第1実施形態に係るがん治療システム1における磁界測定処理を説明するためのフロー図である。
【0052】
(ステップS10)
最初に、冷却部103を起動する。冷却部103の電源を入れて冷却部103を起動すると、冷却部103は、予め設定された目標温度に冷却液を温度調整する。冷却部103は、温度調整した冷却液を磁界発生部100のコイル100aに供給する。また、冷却部103は、コイル100aに供給した冷却液を回収する。すなわち、冷却部103が温度調整した冷却液は、冷却部103と磁界発生部100のコイル100aとの間で循環する。
【0053】
(ステップS20)
次に、電源部101を起動する。電源部101の電源を入れて電源部101から磁界発生部100に電源を供給できる状態にする。
【0054】
(ステップS30)
次に、電源部101は、磁界発生部100が有するコイル100aへ電流の供給を開始する。例えば、電源部101が備える電流供給スイッチをオンにする。電流供給スイッチをオンにすると、電源部101は、コイル100aへ電流供給を開始する。
【0055】
(ステップS40)
次に、支持部111を制御して、磁界測定部107を磁界発生部100のコイル100aの内部に挿入する。そして、磁界測定部107により、コイル100aの内部、すなわち、治療時に患者Pの患部が位置する場所、の磁束密度を測定する。例えば、磁界測定部107がサーチコイルである場合は、サーチコイルに発生する交流電圧を測定する。
【0056】
なお、磁界測定部107を挿入する場所は、例えば、コイル100aの内部を複数箇所測定してもよいし、コイル100aの中心軸上の点において測定してもよい。
【0057】
記録部108は、磁界測定部107で測定した結果を記録する。また、記録部108は、表示部110に結果を表示する。
【0058】
なお、支持部111は、磁界測定部107を磁界発生部100が有するコイル100aの内部に挿入する。支持部111は、例えば、モータにより自動的にアーム等を伸長させて挿入させてもよい。また、測定者が直接操作して、磁界測定部107をコイル100aの内部に挿入してもよい。
【0059】
(ステップS50)
次に、測定者は、表示部110に表示される磁束密度の測定結果と、あらかじめ設定してある磁束密度の目標値との差異を確認する。磁束密度の測定値と磁束密度の目標値との差異が規定の範囲内であって問題がない場合は、磁界測定部107は、コイル100aの内部から退避する。磁束密度の測定値と磁束密度の目標値との差異が規定の範囲外である場合、すなわち、測定値が予め設定された上限値又は下限値から外れている場合は、例えば、電源部101の電流設定値を調整する。
【0060】
なお、電源部101の電流設定値の調整は、例えば、記録部108と電源部101とを接続して自動で行ってもよい。
【0061】
(ステップS60)
次に、電源部101から磁界発生部100への電流供給を停止する。例えば、電源部101が備える電流供給スイッチをオフにする。電流供給スイッチをオフにすると、電源部101は、コイル100aへの電流供給を停止する。
【0062】
なお、ステップS10、S20、S30、S40、S50及びS60の処理は、治療前の処理である。
【0063】
(ステップS70)
次に、患者Pは、がん治療装置10の治療台106の上に仰臥する。ここでは、患者Pは、頭部に患部を有するとする。例えば、患者Pの患部が脳腫瘍の場合であるとする。患者Pは、患部である頭部を磁界発生部100のコイル100aの内側に挿入する。
【0064】
(ステップS80)
次に、支持部111は、磁界測定部107を磁界発生部100の近傍に移動して、位置決めする。磁界測定部107は、コイル100aの端面付近であって、患者Pと接触しない位置に位置する。磁界測定部107が位置する場所は、例えば、患者Pの患部の位置などにより適切な位置にする。
【0065】
治療中は、支持部111は、磁界測定部107を患者に接触しないようなコイル100aの外側の適切な位置に移動し固定する。
【0066】
(ステップS90)
次に、電源部101は、磁界発生部100が有するコイル100aへの電流の供給を開始する。すなわち、がん治療システム1は、電源部101から磁界発生部100に電流を供給する。例えば、電源部101が備える電流供給スイッチをオンにする。電流供給スイッチをオンにすると、電源部101は、コイル100aへの電流供給を開始する。
【0067】
(ステップS100)
磁界発生部100は、一定時間、患者Pの患部へ継続して磁界を印加する。いいかえると、磁界発生部100は、一定時間、患者Pの患部に磁界があたっている状態を維持する。例えば、治療時間が30分の場合について説明すると、磁界発生部100は、30分間、患者Pの患部へ磁界を印加する。磁界発生部100が磁界を印加している間は、患者Pは可能な範囲で動かないようにする。
【0068】
(ステップS110)
がん治療システム1は、患者Pの患部に磁界を印加している間、磁界測定部107で測定した磁束密度を記録する。磁界測定部107は、患者Pの患部へ磁界を印加している間、磁束密度を計測して、計測した結果を記録部108に出力する。記録部108は、磁界測定部107が測定した結果を記録する。記録部108は、例えば、磁界測定部107がサーチコイルである場合は、サーチコイルが測定した出力電圧を取得する。そして、記録部108は、対応表又は式によりサーチコイルが位置決めされている位置における磁束密度を算出する。そして、算出した磁束密度から、コイル100aにおける患者Pの患部が位置する場所の磁束密度を対応表又は式により算出する。
【0069】
治療期間中、算出された磁束密度から、ステップS40で測定した磁束密度と同じ磁束密度がコイル中心部で発生していることをモニタリングする。記録部108は、磁束密度の値を適切な時間間隔、例えば、1分おきに記録する。
【0070】
(ステップS120)
定められた時間が経過して、定められた時間の間、患者Pの患部に磁界を継続して印加したら、電源部101から磁界発生部100への電流供給を停止して、治療を終了する。例えば、予め定められた治療時間が30分の場合は、磁界発生部100が磁界を30分間印加したら、治療を終了する。
【0071】
(ステップS130)
次に、患者Pは、治療台106の上で起き上がって、治療台106から降りる。そして、患者Pは、がん治療装置10から離れる。がん治療装置10から離れた患者Pは、例えば、待合室等に移動する。
【0072】
(ステップS140)
磁界測定部107は、予め定められた収納位置に退避する。そして、磁界測定部107は、動作を停止する。
【0073】
(ステップS150)
次に、電源部101は、動作を停止する。具体的には、電源部101の電源を停止する。例えば、電源部101が備える電源スイッチをオフにする。
【0074】
(ステップS160)
次に、冷却部103は、動作を停止する。具体的には、冷却部103の電源を停止する。例えば、冷却部103が備える電源スイッチをオフにする。
【0075】
なお、記録部108は、治療中に測定した磁界強度と、あらかじめ設定されている上限値及び下限値と比較して、比較した結果を用いて、磁界強度が正常であるか異常であるかを判定してもよい。治療中に、モニタリングしている磁束密度が設定値の上限値を超えたり、下限値を下回ったりした事態が発生したときは、がん治療システム1は、ただちに警告音又は表示部110により治療を行っている医師など治療者に通知してもよい。治療者は、通知を受けることにより治療を中断することができる。
【0076】
がん治療装置10による治療は、上記の治療を1回として、たとえば週3回で3週間の治療を行う。そして、治療によるがん細胞の増殖抑制もしくは腫瘍の抑制の効果は、磁気共鳴画像(MRI:Magnetic Resonance Imaging)もしくは単純X線コンピュータ断層撮影(単純X線CT:Computer Tomography)もしくは造影コンピュータ断層撮影もしくはポジトロン断層撮影法(PET:Positron Emission Tomography)などにより確認する。また、必要に応じて繰り返し治療を行う。そのためには治療実績として累積でどのくらいの磁束密度を何時間、患部に印加しているかを治療中のモニタリングによって記録する。
【0077】
<まとめ>
本実施形態に係るがん治療システム1によれば、交流磁界によってがん細胞の増殖抑制を行うがん治療装置10において、治療目的に対して適切な大きさの磁束密度が患部に印加されているかを記録できる。また、がん治療システム1によれば、がん治療装置10における治療実績を記録できる。さらに、がん治療システム1によれば、がん治療装置10により行った治療実績に関する情報を医師に提供できる。
【0078】
特許文献1に開示の技術は、磁界を患部に印加するがん治療装置である。印加される磁界は目に見えないために、実際に必要とされる磁界が患部に印加されているかは目視ではわからない。したがって、適切な治療が行われているかどうかは、磁界の大きさをモニタリングする必要がある。
【0079】
がん治療システム1は、治療効果をモニタリングするためのセンサ、具体的には磁界測定部107を備える。磁界測定部107として、例えば、サーチコイル又はガウスメータを含む。がん治療システム1において、治療前の患部の位置での磁束密度及び治療中に患者に当たらない場所での磁束密度の少なくとも一方を測定することにより、治療目的に対して適切な大きさの磁束密度が患部に印加されているかを記録できる。
【0080】
がん治療システム1は、人のがん治療装置として応用できる。がん治療システム1は、特に悪性神経膠芽腫(グリオブラストーマ)など、現状の外科及び化学療法の有効性が低い種類のがん種の治療に適用できる。また、がん治療システム1が対象とする治療対象は、人に限らず、犬や猫などのペット、さらに馬などの家畜への適用も可能である。また、がん治療システム1が対象とするがんの種類についても、神経膠芽腫以外のがんに対しても適用可能である。例えば、がん治療システム1は、神経膠芽腫、神経膠腫、すい臓がん、乳がん、悪性黒色腫、悪性中皮腫及び口腔がんのいずれかの治療に適用してもよい。
【0081】
一方、公知の医療機器では、磁界をあてることによって発熱させ、がんを治療するハイパーサーミアがある。しかしながら、ハイパーサーミアは患部の温度上昇が治療の効果を決めているため、温度をモニタリングしているが、磁界の大きさはモニタリングしていない。
【0082】
がん治療システム1は、磁界の大きさを測定することで、本来必要とされる磁界の大きさががん患部に印加されているかを、治療前および治療中にモニタリングできる。また、モニタリングしている磁界の大きさが、設定値の上下限を超える異常が発生したときは、がん治療システム1は、治療を中断する情報を医師などの治療者に提供することができる。さらに、がん治療システム1によれば、モニタリングした磁界の大きさは治療結果として記録され、継続的な治療に対して、患部にどのくらいの大きさの磁界が累積で何時間あたっているかという治療実績を提供することもできる。
【0083】
なお、がん治療システム1は、例えば、治療前の磁界測定において、磁界測定部107は、サーチコイルを用いるとともに、治療中の磁界測定において、磁界測定部107は、ガウスメータを用いてもよい。
【0084】
磁界発生部100によって数ミリテスラの磁束密度を有する磁界が発生している。数ミリテスラ程度の強力な磁束密度の磁界測定は、サーチコイルを用いることが望ましい。したがって、治療前においてコイル100aの内部の磁束密度を測定する場合には、サーチコイルを用いることが望ましい。
【0085】
一方、治療中の磁界測定においては、患者Pに接触しないように、コイル100aから例えば15センチメートル程度離れた場所で測定する。コイル100aから離れることにより、磁束密度は1ミリテスラ以下になることから、磁束密度が低い場所における磁界測定は市販のガウスメータを用いてもよい。例えば、コイル100aの端部から15センチメートル程度離れた位置にガウスメータを固定して、治療前、治療中にかかわらず常時磁界の大きさを測定できるようにしてもよい。
【0086】
なお、磁界測定部107として、ホール素子、磁気抵抗効果素子等を用いてもよい。
【0087】
≪がん治療システム2≫
がん治療装置10において、周波数230キロヘルツ、磁束密度20ミリテスラ程度の交流磁界を患部に印加すると、人や犬などの中型動物においては、組織内の液体がわずかずつ発熱し、体温が上昇する。発明者らは、がん治療装置10において、磁束が鎖交する生体の断面積が大きいほど発熱しやすい傾向にあることを見いだした。がん治療装置10において磁束が鎖交する生体の断面積が大きいほど発熱しやすいのは、生体内の約70%を占める水分が電気伝導度を有する電解液のために電磁誘導によって渦電流が発生するためである。
【0088】
したがって、がん治療装置10において、渦電流による発熱の状態を、交流磁界を患部に印加している間、常時モニタリングする必要がある。特に、がん治療装置10において、交流磁界が印加されている部分の温度を常時モニタリングする必要がある。がん治療装置10において、交流磁界が印加されている部分の温度が設定された上限値を超える場合には治療を中止するか、又は一時的に交流磁界の発生を止める必要がある。そこで、第2実施形態に係るがん治療システム2は、磁界発生部100が磁界を印加している患部又は患部周辺の温度を測定する温度測定部207を備える。
【0089】
がん治療システム2は、がん治療装置10と、患者Pの体温を測定するために温度測定部207及び温度測定部217の少なくとも一方と、を備える。
図10は、第2実施形態に係るがん治療システム2における温度測定にサーモビューワを用いた場合について説明する側面図である。温度測定部207は、例えば、サーモビューワである。温度測定部207は、記録部208に接続する。温度測定部207は、測定した測定データを記録部208に出力する。記録部208は、温度測定部207であるサーモビューワにより計測された温度情報を取得する。表示部210は、記録部208が取得した温度分布を表示する。
【0090】
サーモビューワである温度測定部207は、磁界発生部100から少なくとも15センチメートル以上離れた位置から、患部又は患部周辺の表面温度を測定する。
【0091】
また、温度測定部207は、サーモビューワに限らない。
図11は、第2実施形態に係るがん治療システム2における温度測定に光ファイバ温度計を用いた場合について説明する側面図である。温度測定部217は、光ファイバ温度計である。温度測定部217の光ファイバ217aの先端部は、患部、患部の周辺、磁界発生手段、など複数の場所に、接触して固定させる。温度測定部217は、測定した測定データを記録部208に出力する。
【0092】
図12は、第2実施形態に係るがん治療システム1における温度測定について、光ファイバ温度計である温度測定部217が備える光ファイバ217aの設置場所について説明する正面図である。
【0093】
光ファイバ温度計である温度測定部217が備える光ファイバ217aの先端は、例えば、患者Pの頭部PHにおける額部PT1、側頭部PT2及び頭頂部PT3のそれぞれに位置する。なお、光ファイバ温度計である温度測定部217の先端について、上記の例は一例であって、例えば、額部PT1、側頭部PT2及び頭頂部PT3の少なくともいずれかに光ファイバ温度計である温度測定部217の光ファイバ217aの先端を固定してもよい。また、例えば、額部PT1、側頭部PT2及び頭頂部PT3以外の場所に光ファイバ温度計である温度測定部217の光ファイバ217aの先端を固定してもよい。
【0094】
記録部208は、温度測定部217が測定した温度情報を取得する。表示部210は、記録部208が取得した温度情報を、温度を治療中は常時表示する。
【0095】
記録部208は、ソフトウエアプログラムにより、計測された温度情報が、あらかじめ設定されている目標温度の上限値と下限値の間にあるかを判定する。記録部208は、計測された温度情報が、あらかじめ設定されている目標温度の上限値と下限値の間にあるかを判定することにより、正常か異常かを判断してもよい。
【0096】
記録部208は、目標の上限値、下限値から外れている場合には、警告として警告音を発生してもよいし、表示部に表示してもよい。記録部208が報知することにより、治療をおこなっている医師など治療者に気づかせることができる。治療者は、記録部208が報知した場合、治療を中断するなどの選択が可能となる。また、電源部101は、入力電流値を上下限値に入るように調整してもよい。電源部101の電流値の調整は、自動的に行ってもよいし、計測者がマニュアルで設定してもよい。
【0097】
次に、がん治療システム2による処理について説明する。
図13は、第2実施形態に係るがん治療システム2における温度測定処理を説明するためのフロー図である。
【0098】
(ステップS210)
最初に、冷却部103を起動する。冷却部103の電源を入れて冷却部103を起動すると、冷却部103は、予め設定された目標温度に冷却液を温度調整する。冷却部103は、温度調整した冷却液を磁界発生部100のコイル100aに供給する。また、冷却部103は、コイル100aに供給した冷却液を回収する。すなわち、冷却部103が温度調整した冷却液は、冷却部103と磁界発生部100のコイル100aとの間で循環する。
【0099】
(ステップS220)
次に、電源部101を起動する。電源部101の電源を入れて電源部101から磁界発生部100に電源を供給できる状態にする。
【0100】
(ステップS230)
次に、患者Pは、がん治療装置10の治療台106の上に仰臥する。ここでは、患者Pは、頭部に患部を有するとする。例えば、患者Pの患部が脳腫瘍の場合であるとする。患者Pは、頭部を磁界発生部100のコイル100aの内側に挿入する。
【0101】
(ステップS240)
次に、温度測定部を設置する。最初に、温度測定部207を用いる場合について説明する。温度測定部207を患部の温度が測定できる位置に設置する。また、設置した温度測定部207の位置を固定する。そして、温度測定部207を起動する。
【0102】
次に、温度測定部217を用いる場合について説明する。温度測定部217である光ファイバ温度計の光ファイバ217aの先端を、患部、患部周辺及び磁界発生部100の壁面などに固定する。そして、温度測定部217を起動する。
【0103】
(ステップS250)
次に、がん治療システム2は、記録部208に取り込まれた温度情報を表示部210に表示させ、治療開始前の患部の表面温度が正常値にあることを確認する。
【0104】
ステップS210、S220、S230、S240及びステップS250の処理は、治療前の処理である。
【0105】
(ステップS260)
次に、電源部101は、磁界発生部100が有するコイル100aへ電流の供給を開始する。例えば、電源部101が備える電流供給スイッチをオンにする。電流供給スイッチをオンにすると、電源部101は、コイル100aへ電流供給を開始する。
【0106】
(ステップS270)
磁界発生部100は、一定時間、患者Pの患部へ継続して磁界を印加する。いいかえると、磁界発生部100は、一定時間、患者Pの患部に磁界があたっている状態を維持する。例えば、治療時間が30分の場合について説明すると、磁界発生部100は、30分間、患者Pの患部へ磁界を印加する。磁界発生部100が磁界を印加している間は、患者Pは可能な範囲で動かないようにする。
【0107】
(ステップS280)
記録部208は、治療中に、モニタリングしている温度が設定値の上限値を超えたり、下限値を下回ったりしたときは、ただちに警告音又は表示部210により治療を行っている医師など治療者に通知する。治療者はこれにより治療を中断することができる。また、治療者は、一旦、電流供給のスイッチをオフにしてもよい。
【0108】
(ステップS290)
記録部208は、モニタリングしている温度が上限値より下回った場合は、治療者の判断により電流供給のスイッチをオンにして治療を再開してもよい。
【0109】
(ステップS300)
表示部210に表示されている温度情報を治療者はモニタリングする。また、記録部208は温度情報を適切な時間間隔、例えば、1分おきに記録する。
【0110】
(ステップS310)
定められた時間が経過して、定められた時間の間、患者Pの患部に磁界を継続して印加したら、電源部101から磁界発生部100への電流供給を停止して、治療を終了する。例えば、予め定められた治療時間が30分の場合は、磁界発生部100が磁界を30分間印加したら、治療を終了する。
【0111】
(ステップS320)
次に、治療者は温度測定部を取り外す。光ファイバ温度計である温度測定部217が備える光ファイバ217aの先端部を取り外す。また、治療者は、サーモビューワである温度測定部207を、患者が移動しやすい位置に移動する。
【0112】
(ステップS330)
次に、冷却部103は、動作を停止する。具体的には、冷却部103の電源を停止する。例えば、冷却部103が備える電源スイッチをオフにする。
【0113】
(ステップS340)
次に、患者Pは、治療台106の上で起き上がって、治療台106から降りる。そして、患者Pは、がん治療装置10から離れる。がん治療装置10から離れた患者Pは、例えば、待合室等に移動する。
【0114】
(ステップS350)
次に、電源部101は、動作を停止する。具体的には、電源部101の電源を停止する。例えば、電源部101が備える電源スイッチをオフにする。
【0115】
<まとめ>
本実施形態に係るがん治療システム2によれば、がん治療装置10において、渦電流による発熱の状態を、常時モニタリングできる。特に、がん治療システム2は、交流磁界が印加されている患部を含む部分の温度を常時モニタリングできる。また、本実施形態に係るがん治療システム2によれば、がん治療装置10において、交流磁界が印加されている部分の温度が設定された上限値を超える場合には治療を中止するか、又は一時的に交流磁界の発生を止めることができる。
【0116】
なお、上記の説明では、がん治療システム2は、温度測定部207及び温度測定部217との両方を備えているが、温度測定部207及び温度測定部217のいずれか一方を備えるようにしてもよい。
【0117】
また、上記の説明では、がん治療システム2は、温度が上限値以上の場合は、治療を中止するか、又は一時的に交流磁界の発生を止めていたが、例えば、患部を冷却するようにしてもよい。例えば、温度が上限値以上の場合に、がん治療システム2は、患部に冷えた空気を供給して患部を冷却してもよいし、患部を冷却する冷却バックに冷却水を供給して患部を冷却してもよい。
【0118】
<変形例>
上記の説明では、磁界測定部107を備えるがん治療システム1と、温度測定部207及び温度測定部217を備えるがん治療システム2について説明したが、がん治療システムは、磁界測定と温度測定の両方を行うようにしてもよい。すなわち、がん治療システムは、磁界測定部107と、温度測定部207又は温度測定部217との両方を備えていてもよい。
【0119】
がん治療装置10における交流磁界の周波数や磁界の大きさは、上記に示した値に限定されず、他の周波数や磁界の大きさで治療を行ってもよい。
【0120】
また、上記では、患者Pは仰臥して治療を受けている例を示したが、患者Pが座った状態で治療を受けてもよい。患者Pが座った状態で治療を受ける場合は、磁界発生部100のコイル100aが、
図1に対して鉛直方向に対して90度回転した状態で固定されている。患者Pが座った状態で治療を受ける場合においても、磁界の大きさを測定、モニタリングすることは同様に実現可能である。
【0121】
なお、本開示の実施形態には、次の形態を含む。
<1>
がん患部組織に印加する交流磁界を発生する磁界発生部と、
がん患部又は前記がん患部の周辺の温度を計測する温度測定部と、
を備え、
発熱媒体を用いずに、かつ、磁界による発熱作用を用いた温熱効果によらずに、前記磁界発生部により発生する磁界中に前記がん患部を挿入して治療する、
がん治療システム。
<2>
前記温度測定部で測定された温度を記録する記録部を更に備える、
前記<1>に記載のがん治療システム。
<3>
前記記録部は、前記温度をあらかじめ定められている上限値及び下限値と比較した結果に基づいて、前記温度が正常であるか異常であるかを判定する、
前記<2>に記載のがん治療システム。
<4>
前記磁界発生部は、前記交流磁界を発生させるコイルを備え、
前記コイルに交流電圧を供給する電源部を更に備え、
前記判定した結果が異常の場合、前記磁界発生部に対して前記電源部からの電流の供給を停止する、
前記<3>のいずれかに記載のがん治療システム。
<5>
前記磁界発生部は、前記交流磁界を発生させるコイルを備え、
前記コイルに交流電圧を供給する電源部を更に備え、
前記判定した結果が異常の場合、前記磁界発生部に対して前記電源部からの電流の大きさを制御する、
前記<3>に記載のがん治療システム。
<6>
前記温度測定部は、サーモビューワを含み、
前記サーモビューワは、前記磁界発生部から少なくとも15センチメートル以上離れた位置から、前記がん患部及び周辺の表面温度を測定し、前記記録部に測定データを出力する、
前記<2>から前記<5>のいずれかに記載のがん治療システム。
<7>
前記温度測定部は、光ファイバ温度計を含み、
前記光ファイバ温度計は、前記がん患部及び前記がん患部の周辺の表面温度を測定し、前記記録部に測定データを出力する、
前記<2>から前記<5>のいずれかに記載のがん治療システム。
<8>
前記温度を表示する表示部を含む、
前記<1>から前記<7>のいずれかに記載のがん治療システム。
<9>
前記がんは、神経膠芽腫、神経膠腫、すい臓がん、乳がん、悪性黒色腫、悪性中皮腫及び口腔がんのいずれかを含む、
前記<1>から前記<8>のいずれかに記載の治療システム。
<10>
がん患部組織に印加する交流磁界を発生する磁界発生部と、
前記磁界発生部によって発生された磁界の大きさを測定する磁界測定部と、
がん患部を含む前記がん患部の周辺の温度を計測する温度測定部と、
を備え、
発熱媒体を用いずに、かつ、磁界による発熱作用を用いた温熱効果によらずに、前記磁界発生部により発生する磁界中に前記がん患部を挿入して治療する、
がん治療システム。
<11>
略一定の周波数で交流磁界が発生させられ、前記交流磁界ががん患部に印加されるがん治療方法において、
前記交流磁界は略一定を含むあらかじめ規定された大きさの変化を伴う波形を繰り返すパターンであって、前記パターンが前記がん患部に印加されている間、前記がん患部又はがん患部の周辺の温度を計測し、前記温度を記録表示する、
がん治療方法。
<12>
略一定の周波数で交流磁界が発生させられ、前記交流磁界ががん患部に印加されるがん治療方法において、
前記交流磁界は略一定を含むあらかじめ規定された大きさの変化を伴う波形を繰り返すパターンであって、前記パターンが前記がん患部に印加されている間、前記がん患部および少なくとも1つ以上の前記がん患部の周辺の温度を計測する、
がん治療方法。
<13>
略一定の周波数で交流磁界が発生させられ、前記交流磁界ががん患部に印加されるがん治療方法において、
前記交流磁界は略一定を含むあらかじめ規定された大きさの変化を伴う波形をあらかじめ決められた時間繰り返すパターンであって、
前記パターンが前記がん患部に印加されている間、前記がん患部又はがん患部の周辺の温度を計測し、前記温度を記録表示し、前記温度があらかじめ定められている温度の上限値および下限値と比較され、前記比較結果から温度が前記指定された上限値と下限値の間にある正常であるか、前記指定された上限値および下限値のいずれかから逸脱する異常であるかを判定する工程と、
異常と判定された場合は前記磁場発生部に対して前記電源部からの電流の供給を停止し、正常と判定された場合は前記磁場発生部に対して前記電源部からの電流の供給を再開する工程と、
を有し、
少なくとも前記あらかじめ決められた時間、前記交流磁界を前記がん患部に印加する、
がん治療方法。
<14>
前記がんは、神経膠芽腫、神経膠腫、すい臓がん、乳がん、悪性黒色腫、悪性中皮腫及び口腔がんのいずれかを含む、
前記<11>から前記<13>のいずれかに記載のがん治療方法。
【0122】
なお、上記各実施形態に挙げた構成等に、その他の要素との組み合わせなど、ここで示した構成に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0123】
1、2 がん治療システム
10 がん治療装置
100 磁界発生部
100a コイル
100a1 金属配管
100a2 絶縁シート
100a3 保護シート
100b パイプ
101 電源部
102 整合部
103 冷却部
104 マニホールド
105 ホース
106 治療台
107 磁界測定部
108、208 記録部
109 非導電緩衝材
110、210 表示部
111 支持部
207、217 温度測定部
217a 光ファイバ
P 患者
PH 頭部
PT1 額部
PT2 側頭部
PT3 頭頂部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0124】
【特許文献1】特許第6603812号公報
【特許文献2】特開2019-201921号公報