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特開2023-163928射出成形方法、成形品の製造方法及び金属樹脂複合体の製造方法
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  • 特開-射出成形方法、成形品の製造方法及び金属樹脂複合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163928
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】射出成形方法、成形品の製造方法及び金属樹脂複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/00 20060101AFI20231102BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20231102BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B29C45/00
B29C45/14
B32B15/08 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075160
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100213436
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 直俊
(72)【発明者】
【氏名】神田 智道
(72)【発明者】
【氏名】宜保 新也
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 和浩
【テーマコード(参考)】
4F100
4F206
【Fターム(参考)】
4F100AA01A
4F100AA01H
4F100AA08A
4F100AA08H
4F100AB01B
4F100AB10B
4F100AG00A
4F100AG00H
4F100AK57A
4F100AL05A
4F100AL09A
4F100BA02
4F100CA23A
4F100DG03A
4F100DG03H
4F100EH362
4F100EH36A
4F100JB16A
4F100YY002
4F100YY00A
4F206AA34
4F206AA45
4F206AB16
4F206AD03
4F206JA07
4F206JB12
4F206JL02
(57)【要約】
【課題】PAS樹脂と熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物の射出成形方法において、成形不良や金型のメンテナンス頻度を低減することのできる射出成形方法を提供する。
【解決手段】シリンダ2とシリンダ2内に配置され、根本部より供給される樹脂を圧縮溶融、計量及び射出できるスクリュー3とシリンダ3の長手方向の途中に配置されたベント口20とを備えた射出ユニット100を用いた射出成形方法において、PAS樹脂と熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物を射出ユニット100のシリンダ2に供給する供給工程と、シリンダ2を290℃以上に保持してシリンダ2中で樹脂組成物を可塑化する可塑化工程と、樹脂組成物をスクリュー3でシリンダ2から射出する射出工程と、可塑化工程又は射出工程において樹脂組成物から揮発した成分をベント口20から排出する排出工程と、射出工程において射出された樹脂組成物を金型9で成形する成形工程とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端にノズルを有し、長手方向において少なくとも2つのブロックに分けて加熱制御できるシリンダと、前記シリンダ内に配置され、根本部より供給される樹脂を圧縮溶融、計量及び射出できるスクリューと、前記シリンダの長手方向の途中に配置されたベント口と、を備えた射出ユニットを用いた射出成形方法において、
ポリアリーレンスルフィド樹脂と熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物を、前記射出ユニットの前記シリンダに供給する供給工程と、
前記シリンダを290℃以上に保持して前記シリンダ中で前記樹脂組成物を可塑化する可塑化工程と、
前記可塑化工程において前記樹脂組成物から揮発した成分を前記ベント口から排出する排出工程と、
前記樹脂組成物を前記スクリューで前記シリンダから射出する射出工程と、
前記射出工程において射出された前記樹脂組成物を金型で成形する成形工程と、
を含む、射出成形方法。
【請求項2】
前記成形工程では、前記シリンダから射出された前記樹脂組成物の供給を受ける時に、前記金型が100℃以上に保持されている請求項1に記載の射出成形方法。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下の前記熱可塑性エラストマーを含む請求項1又は2に記載の射出成形方法。
【請求項4】
前記樹脂組成物は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して50質量部以上150質量部以下の無機充填剤を更に含む請求項1又は2に記載の射出成形方法。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0.01質量部以上5質量部以下の離型剤を更に含む請求項1又は2に記載の射出成形方法。
【請求項6】
前記供給工程は、前記シリンダ内が飢餓状態となるように行う請求項1又は2に記載の射出成形方法。
【請求項7】
前記可塑化工程では、前記ベント口よりも下流側の前記シリンダの温度を、前記ベント口よりも上流側の前記シリンダの温度よりも低く保持する請求項1又は2に記載の射出成形方法。
【請求項8】
前記ベント口から前記揮発した成分を吸引して排出する請求項1又は2に記載の射出成形方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の射出成形方法を用いた前記樹脂組成物の成形品の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の射出成形方法を用いた前記樹脂組成物と金属部材との金属樹脂複合体の製造方法であって、
前記金属部材を前記金型内に配置する配置工程を含む金属樹脂複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形方法、成形品の製造方法及び金属樹脂複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生産性、成形性等に優れるエンジニアリングプラスチックは、軽量でもあることからも金属材料に代わる材料として電気、電子機器や自動車用等の部材として幅広く使用されている。エンジニアリングプラスチックのうち、ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPS樹脂と記載する場合がある)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PAS樹脂と記載する場合がある)は、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、成形加工性、寸法安定性、難燃性に優れることで知られている。そのため、電気・電子機器部品、自動車用部品を中心にPAS樹脂の採用が進んでいる。このように、PAS樹脂の採用が進んでいることから、PAS樹脂への品質、加工性への要求は年々高まっている。例えば、PAS樹脂は融点が高く、加工温度が高い温度となることから、PAS樹脂由来の低分子量成分や、PAS樹脂の性能向上のために配合されるオレフィン系ポリマー由来の低沸点化合物が射出成形時に揮発し、これら揮発した成分により、得られる成形品の外観、性能を損なうような成形不良を引き起こす場合がある。また、これら揮発した成分により、金型汚れが生じ、これによるメンテナンス頻度が増加してしまう場合がある。また、これら揮発した成分により、ガスベントが閉塞して成形不良を引き起こす場合がある。
【0003】
特許文献1には、金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(以下、樹脂組成物と記載する場合がある)の成形品とを接合して得られる金属/樹脂複合構造体及びその製造方法が記載されている。特許文献1には、PAS樹脂について、PPS樹脂に代表されること、270℃以上の融点も保持可能な優れた耐熱性を呈すること、及び、機械的強度、耐薬品性、成形加工性、寸法安定性に優れることが記載されている。また、特許文献1には、PAS樹脂について、PAS樹脂に充填剤やエラストマー等の添加剤を配合し、これらがPAS樹脂からなるマトリックス中に分散されるよう溶融混練して樹脂組成物とした上で、溶融成形して電気・電子機器部品、自動車部品等として各種成形品に加工されることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、ベント式射出成形装置及びその射出成形装置を用いた射出成形方法が記載されている。ベント式射出成形装置は、シリンダと、スクリューと、スクリュー駆動装置と、原料供給装置と、加熱装置と、制御装置とを備えている。シリンダにおける長手方向の中途部には、シリンダの内部を外部に連通させるベント口が設けられている。原料供給装置から供給された原料は、シリンダの内部でベント口に達するまでの間に溶融し、ベント口からは不要物であるガス等が排出される。原料の一例として、ポリカーボネートとABS樹脂とを含有するアロイ樹脂が例示されている。
【0005】
特許文献3には、熱可塑性樹脂成形品及び熱可塑性樹脂成形品の製造製法が記載されている。熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアセタール又はポリフェニレンエーテル又はそれらの組成物からなるものが例示されている。特許文献3に記載された熱可塑性樹脂成形品の製造製法では、熱可塑性樹脂成形品の原料である樹脂混合物を、押し出し溶融混練工程を経ずに、直接、射出成形機を用いて成形する。熱可塑性樹脂成形品の製造製法では、射出成形機としてベント式射出成形機を用いることが例示されている。特許文献3には、熱可塑性樹脂成形品の原料である樹脂混合物は水分や各々の低分子量体を含有しており、通常の射出成形機を用いて成形すると分解や発泡が生じ、外観不良や機械的強度の低下が生じ不都合であるので、水分や低分子量体を除去するためにベント式射出成形機を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-10816号公報
【特許文献2】特開2017-81088号公報
【特許文献3】特開平6-32912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のごとく、PAS樹脂は、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、成形加工性、寸法安定性、難燃性に優れるが、加工温度が高く、射出成形時において、PAS樹脂由来の低分子量成分や、PAS樹脂の性能向上のために配合される低沸点化合物が揮発し、これら揮発した成分が、成形品の成形不良や金型のメンテナンス頻度の増加の原因となる場合がある。そこで、PAS樹脂を含む樹脂組成物の成形品の成形不良やこの樹脂組成物を成形する金型のメンテナンス頻度を低減することのできる樹脂組成物の射出成形方法、成形品の製造方法及び金属樹脂複合体の製造方法の提供が望まれる。
【0008】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、PAS樹脂と熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物の射出成形方法において、成形不良や金型のメンテナンス頻度を低減することのできる射出成形方法、成形品の製造方法及び金属樹脂複合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る射出成形方法は、
先端にノズルを有し、長手方向において少なくとも2つのブロックに分けて加熱制御できるシリンダと、前記シリンダ内に配置され、根本部より供給される樹脂を圧縮溶融、計量及び射出できるスクリューと、前記シリンダの長手方向の途中に配置されたベント口と、を備えた射出ユニットを用いた射出成形方法において、
PAS樹脂と熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物を、前記射出ユニットの前記シリンダに供給する供給工程と、
前記シリンダを290℃以上に保持して前記シリンダ中で前記樹脂組成物を可塑化する可塑化工程と、
前記可塑化工程において前記樹脂組成物から揮発した成分を前記ベント口から排出する排出工程と、
前記樹脂組成物を前記スクリューで前記シリンダから射出する射出工程と、
前記射出工程において射出された前記樹脂組成物を金型で成形する成形工程と、を含む。
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る成形品の製造方法は、上述の射出成形方法を用いた上述の樹脂組成物の成形品の製造方法である。
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係る金属樹脂複合体の製造方法は、上述の射出成形方法を用いた上述の樹脂組成物と金属部材との金属樹脂複合体の製造方法であって、
前記金属部材を前記金型内に配置する配置工程を含む。
【発明の効果】
【0012】
PAS樹脂と熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物の射出成形方法において、成形不良や金型のメンテナンス頻度を低減することのできる射出成形方法、樹脂組成物の成形品の製造方法及び金属樹脂複合体の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る射出成形方法を実現する射出成形装置の基本構成を示す図である。
図2】金型の一例を示す図である。
図3】第二試験片の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る射出成形方法について説明する。
【0015】
(概要の説明)
図1には、本実施形態に係る射出成形方法を実現する射出成形装置の一例として、射出ユニット100と、射出ユニット100の下流側に接続される金型9とを示している。
【0016】
射出ユニット100は、先端にノズル22を有し、長手方向において少なくとも2つのブロックに分けて加熱制御できるシリンダ2と、シリンダ2内に配置され根本部より供給される樹脂を圧縮溶融、計量及び射出できるスクリュー3と、シリンダ2の長手方向の途中に配置されたベント口20と、を備えている。
【0017】
本実施形態に係る射出成形方法は、PAS樹脂と熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物を、射出ユニット100のシリンダ2に供給する供給工程と、シリンダ2を290℃以上に保持してシリンダ2中で樹脂組成物を可塑化する可塑化工程と、可塑化工程において樹脂組成物から揮発した成分をベント口20から排出する排出工程と、樹脂組成物をスクリュー3でシリンダ2から射出する射出工程と、射出工程において射出された樹脂組成物を金型9で成形する成形工程と、を含む。
【0018】
本実施形態に係る射出成形方法によれば、PAS樹脂と熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物の射出成形方法において、成形不良や金型9のメンテナンス頻度を低減することができる。
【0019】
(詳細説明)
以下では、本実施形態に係る樹脂組成物を構成する各成分について説明し、引き続いて、本実施形態に係る射出成形方法を説明する。
【0020】
<樹脂組成物>
本実施形態に係る樹脂組成物は、PAS樹脂と、熱可塑性エラストマーとを含む。樹脂組成物は、更に無機充填剤や離型剤、又はその他の成分を含んでよい。
【0021】
(ポリアリーレンスルフィド樹脂)
本実施形態に係る樹脂組成物は、PAS樹脂を含む。PAS樹脂は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(1)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2)で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。
【0022】
【化1】
【0023】
なお、式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。
【0024】
【化2】
【0025】
なお、上記一般式(2)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001~3モル%の範囲が好ましく、特に0.01~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0026】
ここで、上記一般式(1)で表される構造部位は、特に式(1)中のR及びRは、PAS樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(3)で表されるパラ位で結合するものや、下記式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0027】
【化3】
【0028】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は上記一般式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることがPAS樹脂の耐湿熱性や結晶性の面で好ましい。
【0029】
また、PAS樹脂は、一般式(1)や(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(5)~(8)で表される構造部位を、一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。
【0030】
【化4】
【0031】
さらに、上記一般式(5)~(8)で表される構造部位は、10モル%以下であることが、PAS樹脂の耐湿熱性、機械的強度の観点から好ましい。PAS樹脂中に、上記一般式(5)~(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式については、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0032】
また、PAS樹脂は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0033】
また、PAS樹脂の物性は、本実施形態の効果を損ねない限り特に限定されないが、以下の通りである。
【0034】
(溶融粘度)
本発明に用いるPAS樹脂の溶融粘度は特に限定されないが、流動性および機械的強度のバランスが良好となることから、300℃で測定した溶融粘度(V6)が、好ましくは2Pa・s以上の範囲であり、好ましくは1000Pa・s以下の範囲、より好ましくは500Pa・s以下の範囲であり、さらに好ましくは200Pa・s以下の範囲である。300℃で測定した溶融粘度(V6)の最も好適な範囲は5Pa・s以上、100Pa・s以下である。溶融粘度が高くなると、金型内でせん断発熱してガスが生じ、この金型内で生じたガスにより成形不良となる場合がある。ただし、溶融粘度(V6)の測定は、PAS樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用いて行い、300℃、荷重:1.96×10Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度の測定値とする。
【0035】
(非ニュートン指数)
本発明に用いるPAS樹脂の非ニュートン指数は特に限定されないが、0.90以上から、2.00以下の範囲であることが好ましい。リニア型PAS樹脂を用いる場合には、非ニュートン指数が、好ましくは0.90以上の範囲、より好ましくは0.95以上の範囲から、好ましくは1.50以下の範囲、より好ましくは1.20以下の範囲である。このようなPAS樹脂は機械的物性、流動性、耐磨耗性に優れる。ただし、本発明において非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて融点+20℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度(SR)及び剪断応力(SS)を測定し、下記式を用いて算出した値である。非ニュートン指数(N値)が1に近いほど線状に近い構造であり、非ニュートン指数(N値)が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。下記式において、SRは剪断速度(秒-1)、SSは剪断応力(ダイン/cm)、そしてKは定数を示す。
【0036】
【数1】
【0037】
PAS樹脂の製造方法としては特に限定されないが、例えば(製造法1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、(製造法4)ジヨード芳香族化合物と単体硫黄を、カルボキシ基やアミノ基等の官能基を有していてもよい重合禁止剤の存在下、減圧させながら溶融重合させる方法、等が挙げられる。
【0038】
これらの製造方法の中でも、(製造法2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加しても良い。
【0039】
また、(製造法2)方法の中でも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を有機極性溶媒1モルに対して0.02~0.5モルの範囲にコントロールすることによりPAS樹脂を製造する方法(特開平07-228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01~0.9モルの範囲の有機酸アルカリ金属塩及び反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。
【0040】
ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。なお、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0041】
また、重合工程により得られたPAS樹脂を含む反応混合物の後処理方法についても、特に制限されるものではない。例えば、(後処理1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸又は塩基を加えた後、減圧下若しくは常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を、水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類等の溶媒で、1回若しくは2回以上洗浄し、さらに中和、水洗、濾過及び乾燥する方法;(後処理2)重合反応終了後、反応混合物に、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等の溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPASに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PASや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法;(後処理3)重合反応終了後、反応混合物に、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類等の溶媒で、1回若しくは2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過及び乾燥をする方法;(後処理4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法;又は;(後処理5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回若しくは2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過及び乾燥する方法、等が挙げられる。
【0042】
なお、上記(後処理1)~(後処理5)に例示したような後処理方法において、PAS樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0043】
(熱可塑性エラストマー)
本実施形態に係る樹脂組成物は、必須成分として熱可塑性エラストマーを含む。熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマー、フッ素系エラストマー又はシリコーン系エラストマーが挙げられ、このうちポリオレフィン系エラストマーが好ましいものとして挙げられる。これらのエラストマーを添加する場合、その配合量は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、得られるPAS樹脂組成物の耐衝撃性が向上するため好ましい。
【0044】
(離型剤)
本実施形態に係る樹脂組成物は、射出成形時における金型との離型性を向上させるために離型剤を含んでよい。離型剤としては、ステアリン酸やモンタン酸を含む炭素原子数18~30の脂肪酸の金属塩やエステル、ポリエチレン等のポリオレフィン系ワックスなどの公知のものが挙げられる。なお、本発明において離型剤とは、通常25℃で固体状の低分子量樹脂で、PAS樹脂組成物に対する添加剤として溶融成形時に、例えば、金型内で離型効果を呈するものを言う。
【0045】
樹脂組成物中における離型剤は任意成分であるが、これらの離型剤を配合する場合、その配合の割合は、本実施形態の効果を損ねなければ特に限定されないが、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4.5質量部以下、さらに好ましくは4質量部以下の範囲である。上記範囲内であると、金型からの成形物の離型性に優れる。また、成形時における金型の汚れや成形物の外観の悪化を抑制し、成形不良や金型のメンテナンス頻度を低減することができる。
【0046】
(充填剤)
本実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、有機又は無機の充填剤を任意成分として含有することができる。これら充填剤としては本実施形態の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、繊維状のものや、粒状や板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の充填剤等が挙げられる。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、雲母、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤も使用できる。
【0047】
本実施形態において充填剤は必須成分ではなく、配合する場合、その含有量は本実施形態の効果を損ねなければ特に限定されるものではない。充填剤の配合量としては、例えば、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上から、好ましくは600質量部以下、より好ましくは200質量部以下の範囲である。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な機械的強度と成形性を示すため好ましい。
【0048】
充填剤がガラス繊維やガラスフレークなどの無機充填剤である場合は、樹脂組成物が、PAS樹脂100質量部に対して50質量部以上150質量部以下の無機充填剤を含むことが好ましい。これにより、本実施形態に係る射出成形方法において、樹脂組成物が無機充填剤を含む場合に、樹脂組成物が更に良好な機械的強度と成形性を示し、成形不良や金型のメンテナンス頻度を低減することができる。
【0049】
(シランカップリング剤)
本実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、シランカップリング剤を任意成分として配合することができる。シランカップリング剤としては、本実施形態の効果を損ねなければ特に限定されないが、カルボキシ基と反応する官能基、例えば、エポキシ基、イソシアナト基、アミノ基または水酸基を有するシランカップリング剤が好ましいものとして挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。本実施形態においてシランカップリング剤は必須成分ではないが、配合する場合、その配合量は、本実施形態の効果を損ねなければその添加量は特に限定されないが、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な耐コロナ性と成形性、特に離形性を有し、かつ成形品がエポキシ樹脂と優れた接着性を呈しつつ、さらに機械的強度が向上するため好ましい。
【0050】
(その他の樹脂成分)
更に、本実施形態に係る樹脂組成物は、上記成分に加えて、さらに用途に応じて、適宜、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四フッ化エチレン樹脂、ポリ二フッ化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂(以下、単に合成樹脂という)を任意成分として配合することができる。本実施形態において上記の合成樹脂は必須成分ではないが、配合する場合、その配合の割合は本実施形態の効果を損ねなければ特に限定されるものではなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、本実施形態に係る樹脂組成物中に配合する合成樹脂の割合として、例えばPAS樹脂100質量部に対し5質量部以上の範囲であり、15質量部以下の範囲の程度が挙げられる。換言すれば、PAS樹脂と合成樹脂との合計に対してPAS樹脂の割合は質量基準で、好ましくは(100/115)以上の範囲であり、より好ましくは(100/105)以上の範囲である。
【0051】
(その他の添加剤)
また本実施形態に係る樹脂組成物は、その他にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、およびカップリング剤等の公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として含有してもよい。これらの添加剤は必須成分ではなく、例えば、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上の範囲であり、好ましくは1000質量部以下の範囲で、本実施形態の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0052】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、PAS樹脂と、熱可塑性エラストマーとを必須成分として配合し、PAS樹脂の融点以上の温度範囲で溶融混錬する工程を有する。
【0053】
本実施形態に係る樹脂組成物は、各必須成分、および必要に応じてその他の任意成分を配合してなる。本発明に用いる樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されないが、必須成分と必要に応じて任意成分を配合して、溶融混錬する方法、より詳しくは、必要に応じてタンブラーまたはヘンシェルミキサー等で均一に乾式混合し、次いで、二軸押出機に投入して溶融混練する方法が挙げられる。
【0054】
溶融混錬は、樹脂温度がPAS樹脂の融点以上となる温度範囲、好ましくは融点+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは融点+10℃以上、さらに好ましくは融点+20℃以上から、好ましくは融点+100℃以下、より好ましくは融点+50℃以下までの範囲の温度に加熱して行うことができる。
【0055】
溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5~500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50~500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02~5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。また、溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。例えば添加剤を添加する場合は、二軸混練押出機のサイドフィーダーから押出機内に投入することが分散性の観点から好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、押出機樹脂投入部(トップフィーダー)からサイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。また、かかる比率は0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
【0056】
このように溶融混練して得られる本発明に係る樹脂組成物は、必須成分と、必要に応じて加える任意成分およびそれらの由来成分とを含む溶融混合物であり、溶融混練後に、公知の方法、例えば、溶融状態の樹脂組成物をストランド状に押出成形した後、ペレット、チップ、顆粒、粉末などの形態に加工してから、必要に応じて100℃以上150℃以下の温度範囲で予備乾燥をしてもよい。
【0057】
本実施形態に係る樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に離形性にも優れるため、後述する射出成形用途に適している。
【0058】
<射出成形方法>
図1には、本実施形態に係る射出成形方法を実現する射出成形装置を構成する射出ユニット100及び金型9の一例を示している。
【0059】
図1に示すように、射出ユニット100は、射出される樹脂組成物を搬送するシリンダ2と、シリンダ2内に配置され、樹脂組成物を溶融、計量及び射出するスクリュー3と、シリンダ2に原料としての樹脂組成物を供給する供給機構1と、シリンダ2から金型9に樹脂を供給するノズル22と、シリンダ2を加熱する加熱装置4と、スクリュー3の回転、射出及び保圧動作やシリンダ2の温度など、射出ユニット100の動作全体を制御する制御部Cと、を備えている。
【0060】
射出ユニット100では、供給機構1から供給される樹脂組成物をシリンダ2の筒内部で可塑化すると共に、樹脂組成物をスクリュー3でシリンダ2の基端側から先端側に射出してノズル22から金型9内に注型する。
【0061】
制御部Cは、CPUやCPUを内蔵したシーケンサやパーソナルコンピュータなどの制御装置、又は、ソフトウェアの実行により上記CPUなどによって実現される機能部である。制御部Cは、予め定められたプログラムや動作指令に基づいて、射出ユニット100の動作を制御する。以下の説明では、特記した場合を除き、射出ユニット100の各部の動作が制御部Cによって制御される場合を説明する。
【0062】
シリンダ2は、その長手方向に沿って樹脂組成物を通流させる空間が形成された筒状の部材である。シリンダ2は、例えば鉄合金などの金属で形成されている。シリンダ2の筒内には、例えば金属製のスクリュー3が挿入されている。シリンダ2の基端側における側部には供給機構1が接続されている。シリンダ2の先端部にはノズル22が接続されている。シリンダ2の筒の胴部には、その長手方向において所定の間隔で、電気ヒータなどの複数の加熱装置4が取り付けられており、長手方向において少なくとも2つのブロック(部分)に分けて加熱制御できるようになっている。本実施形態では、シリンダ2は、ベント口よりも上流側のブロックと、ベント口よりも下流側のブロックとの2つのブロックに分けて加熱制御できるようになっている。シリンダ2の胴部には、ベント口20として、シリンダ2の筒内部に連通する開口が形成されている。
【0063】
シリンダ2は、加熱装置4の加熱によって、その温度を所定の温度に保持できるようになっている。シリンダ2は、シリンダ2の長手方向の各部の加熱装置4の出力を調節することで、その各部の温度を任意に調節可能とされてよい。
【0064】
シリンダ2の少なくとも一部は、PAS樹脂の融点以上の温度範囲、好ましくは融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃以上から融点+100℃以下の温度範囲、さらに好ましくは融点+20℃以上から融点+50℃以下の温度範囲に保持される。本実施形態では、シリンダ2の少なくとも一部は、290℃以上に保持される。シリンダ2がこのような温度に保持されることにより、樹脂組成物をこの温度範囲に昇温して可塑化することができる。
【0065】
シリンダ2におけるベント口20よりも上流側が、PAS樹脂の融点以上の温度範囲であるとよく、好ましくは融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃以上から融点+100℃以下の温度範囲、さらに好ましくは融点+20℃以上から融点+50℃以下の温度範囲に保持されるとよい。これにより、ベント口20よりも上流側で樹脂組成物を可塑化することができる。なお、樹脂組成物の可塑化とは、樹脂組成物の温度がPAS樹脂の融点以上の温度範囲となり、固体の粉状もしくは粒状で供給された樹脂組成物が粘性液状に相転移した状態であることを言う。
【0066】
ベント口20により、シリンダ2内で揮発した成分、例えば、樹脂組成物に含まれる水分、PAS樹脂由来の低分子量成分、PAS樹脂の性能向上のために配合されるオレフィン系ポリマー由来の低沸点化合物、などの、蒸気、ミスト又はヒュームが、シリンダ2からベント口20を介してシリンダ2の外部(系外)に排出可能とされている。これにより、後述するように、成形体5の成形不良や金型9のメンテナンス頻度を低減することができる。すなわち、成形体5の外観、性能を損なうような成形不良を減少させることができる。また、これら揮発した成分による金型9の汚れを抑制し、金型9のメンテナンス頻度が低減させることができる。また、これら揮発した成分による金型9のガスベントスリット97(図2参照)の閉塞を抑制して成形不良を減少させることができる。
【0067】
ベント口20は、シリンダ2において、樹脂組成物が可塑化した領域(樹脂組成物を溶融する領域)よりも下流側に配置されるとよい。すなわち、ベント口20は、シリンダ2において、上述の排出工程が樹脂組成物の可塑化後に実行される位置に設けるとよい。これにより、樹脂組成物が可塑化する際に揮発した成分をベント口20から適切に排出して、成形体5の成形不良や金型9のメンテナンス頻度を適切に低減することができる。
【0068】
ベント口20は、大気開放として樹脂組成物が可塑化する際に樹脂組成物から揮発した成分を排出してもよいが、ファンやブロアなどの吸引装置によりから揮発した成分を吸引して排出してもよい。これにより、樹脂組成物が可塑化する際に揮発した成分をベント口20から確実に排出して、成形体5の成形不良や金型9のメンテナンス頻度を更に低減することができる場合がある。
【0069】
射出ユニット100では例えば、ベント口20よりも下流側のシリンダ2の部分の温度を、ベント口20よりも上流側のシリンダ2の部分の温度よりも低く保持することができる。例えば、下流側のシリンダ2の部分の温度を、ベント口20よりも上流側のシリンダ2の部分の温度よりも10℃以上60℃以下、低く保持することができる。これにより、可塑化後の樹脂組成物からのガス発生を低減し、安定した樹脂組成物の射出を行うことができる場合がある。
【0070】
スクリュー3は、例えば、棒状の本体の胴部に、一般的なフライトが螺旋状にされており、ピッチ、溝深さが異なる供給部、圧縮部、計量部を有したものを用いることができる。射出ユニット100では、電動モーターなどの駆動部によってスクリュー3を回転させることにより、シリンダ2内の樹脂組成物をシリンダ2の基端側から先端側に搬送しつつ、圧縮部で可塑化し、溶融した樹脂組成物を計量して、ノズル22から金型9内に射出することができる。
【0071】
スクリュー3では、スクリュー3の長手方向に沿う方向における、ベント口20よりも上流側の部分である根元側31が供給部及び圧縮部であり、ベント口20よりも下流側の部分である先端側32が計量部となっている。換言すると、スクリュー3の根元側31を収容したシリンダ2の上流部と、スクリュー3の先端側32を収容したシリンダ2の下流部との間にベント口20が設置されている。スクリュー3は、長手方向における根元側31の途中部分から先端側32にかけて、スクリューのピッチが根元側より狭くなり、且つ、スクリューの溝が徐々に浅くなっている。
【0072】
供給機構1は、シリンダ2に樹脂組成物を供給するための機構である。図1では、供給機構1の一例として、開度調整弁などの供給速度制御機構10を備えたホッパがシリンダ2の基端側に接続されている場合を示している。供給機構1としてのホッパは、シリンダ2の基端側において、筒内の空間に連通する開口部を介して樹脂組成物をシリンダ2の筒内に供給可能とされている。供給機構1は、この例示に限られず、スクリューフィーダや振動フィーダのような定量供給機を備えてもよい。また、供給速度制御機構10として、開度調整弁に代えて、ロータリーバルブのような弁体を備えてもよい。
【0073】
本実施形態では、供給機構1は、シリンダ2が飢餓状態となるように、シリンダ2への樹脂組成物の供給速度を調節できることができる。シリンダ2が飢餓状態となり、またシリンダ2を飢餓状態に維持することで、ベントアップを回避し、シリンダ2内で揮発した成分の排出を促進することができる。シリンダ2を飢餓状態に維持することで、シリンダ2内で揮発した成分が、ベント口20や、供給機構1としてのホッパが接続されたシリンダ2の開口部から排出されやすくなる。なお、本実施形態における飢餓状態とは、シリンダ2中でスクリュー3が搬送する樹脂組成物量が、スクリュー3の有する材料搬送能力を下回る量であることを示す。すなわち、シリンダ2がホッパから樹脂組成物が自重によって供給された樹脂組成物で飽和状態ではないことを示す。
【0074】
射出ユニット100から射出された樹脂組成物は、金型9で成形される。金型9は、例えば第一金型91と第二金型92とを含み、第一金型91と第二金型92との間に形成された空間に射出ユニット100から射出された樹脂組成物をゲート90を介して供給可能とされている。これにより、第一金型91と第二金型92との間に形成された空間(以下、キャビティと称する場合がある)に対応する形状の成形体5を得ることができる。金型9は、図示しない加熱装置(例えば、金型9を型締めする型締め装置の加熱装置)により、シリンダ2から射出された樹脂組成物の供給を受ける時において、例えば、120℃以上200℃以下、好ましくは130℃以上180℃以下に保持される。
【0075】
図2には、射出成形方法の評価用途に適した金型9の一例を示している。図2に示した金型9は、例えば、キャビティと外部とを連通するスリット状のガスベントスリット97を形成する、スリットコマ95,96を有している。ガスベントスリット97は、当接したスリットコマ95,96の間に形成された隙間である。ガスベントスリット97は、キャビティと外部とを連通させることで、キャビティ中のガスを外部に排出するためのガス流路として機能する。なお、図2では、金型9が、カップ形状の成形体51を成形するためのものである場合を例示している。
【0076】
<成形品の製造方法>
本実施形態に係る成形品の製造方法では、上述の射出成形方法を用いて樹脂組成物の成形品を製造する。すなわち、本実施形態に係る成形品の製造方法は、先端にノズルを有し、長手方向において少なくとも2つのブロックに分けて加熱制御できるシリンダと、シリンダ内に配置され、根本部より供給される樹脂を圧縮溶融、計量及び射出できるスクリューと、シリンダの長手方向の途中に配置されたベント口と、を備えた射出ユニットを用いた、PAS樹脂と熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物の成形品の製造方法であって、樹脂組成物を射出ユニットのシリンダに供給する供給工程と、シリンダを290℃以上に保持してシリンダ中で樹脂組成物を可塑化する可塑化工程と、可塑化工程において樹脂組成物から揮発した成分をベント口から排出する排出工程と、樹脂組成物をスクリューでシリンダから射出する射出工程と、射出工程において射出された樹脂組成物を金型で成形する成形工程と、を含む。
【0077】
本実施形態に係る成形品は、PAS樹脂が連続相を形成し、熱可塑性エラストマーや任意成分が分散されたモルフォロジーを有する。PAS樹脂成形品が、かかるモルフォロジーを有することにより、耐薬品性、耐熱性および機械的強度に優れた成形品が得られる。
【0078】
本実施形態に係る成形品の用途としては、特に限定されるものではなく各種製品として用いることが可能であるが、特に金属部材を金型内に配置してから樹脂組成物を金型内に射出して成形するインサート成形することで得られる金属樹脂複合体(複合成形品)や、1次樹脂成形品上に2次モールドして成形する部品の成形において、安定した性能を発揮することから好ましく用いることが出来る。
【0079】
<金属樹脂複合体の製造方法>
本実施形態に係る金属樹脂複合体の製造方法では、上述の射出成形方法を用いた樹脂組成物と金属部材との金属樹脂複合体の製造方法であって、金属部材を金型内に配置する工程を含む。すなわち、金属樹脂複合体の製造方法は、先端にノズルを有し、長手方向において少なくとも2つのブロックに分けて加熱制御できるシリンダと、シリンダ内に配置され、根本部より供給される樹脂を圧縮溶融、計量及び射出できるスクリューと、シリンダの長手方向の途中に配置されたベント口と、を備えた射出ユニットを用いた、PAS樹脂と熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物と、金属部材と、の金属樹脂複合体の製造方法であって、樹脂組成物を射出ユニットのシリンダに供給する供給工程と、シリンダを290℃以上に保持してシリンダ中で樹脂組成物を可塑化する可塑化工程と、可塑化工程において樹脂組成物から揮発した成分をベント口から排出する排出工程と、樹脂組成物をスクリューでシリンダから射出する射出工程と、金属部材を金型内に配置する配置工程と、射出工程において射出された樹脂組成物を金型で成形する成形工程と、を含む。なお、配置工程は、シリンダから射出された樹脂組成物が金型に注型される前に行う。
【0080】
本実施形態で使用する金属部材は、所定の形状に切り出した金属部材をそのまま使用することもできるが、樹脂部材との接合面の少なくとも一部を表面粗化することにより、粗化面を形成した金属部材を使用してもよい。表面の少なくとも一部に粗化面を有する金属部材を使用した場合、表面粗化により広がった表面積を有する金属部材の粗化面に、溶融した樹脂部材がより深く確実に入り込むことができる。その結果、アンカー効果により樹脂部材と金属部材との接合強度が向上するため好ましい。
【0081】
本実施形態で用いる金属部品の種類は問わず公知のものを用いることができる。すなわち、アルミニウム、銅、ステンレス、マグネシウム、鉄、チタンまたはそれらを含有する合金が挙げられる。より具体的には、鉄や、例えば、ステンレス、鋼材など、鉄を主成分、すなわち20質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%の割合とし、他に炭素、ケイ素、マンガン、クロム、タングステン、モリブデン、ホスホル、チタン、バナジウム、ニッケル、ジルコニウム、ボロン等を含む合金(以下、鉄合金)や、アルミニウムや、アルミニウムを主成分として、他に銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、ニッケルを含む合金(以下、アルミニウム合金)や、マグネシウムや、マグネシウムを主成分として、他に亜鉛、アルミニウム、ジルコニウムなどを含む合金(以下、マグネシウム合金)や、銅や、銅を主成分として、他に亜鉛、スズ、リン、ニッケル、マグネシウム、ケイ素、クロムを含む合金(以下、銅合金)や、チタンや、チタンを主成分として、他に銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、ニッケルを含む合金(以下、チタン合金)が挙げられる。これらのうち、より好ましくは鉄、鉄合金、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金が挙げられ、さらに好ましくは鉄合金、アルミニウム合金、マグネシウム合金が挙げられる。
【0082】
金属部材の表面粗化の方法としては公知のものを用いることができ、例えば、(1)侵食性水溶液または侵食性懸濁液による浸漬法、(2)陽極酸化法、(3)ブラスト加工やレーザー加工による機械的切削、が挙げられる。これらのうち、(1)侵食性水溶液または侵食性懸濁液による浸漬法か(2)陽極酸化法が金属部材の表面粗化の方法として特に好ましい。
【0083】
上記金属部材は、上述した微細凹凸面を形成する前に、上記金属部材を切断、プレスなどによる塑性加工、打ち抜き加工、切削、研削、放電加工などの除肉加工によって所定の形状に加工することが好ましい。
【0084】
なお、金属の表面処理がなされた金属部材の表面にはプライマー層を形成させてもよい。プライマー層を構成する材料は特に限定されないが、通常は樹脂成分を含むプライマー樹脂材料からなる。プライマー樹脂材料は特に限定されず、公知のものを用いることができる。具体的には、公知のポリオレフィン系プライマー、エポキシ系プライマー、ウレタン系プライマーなどを挙げることができる。プライマー層の形成方法は特に限定されないが、例えば、上記のプライマー樹脂材料の溶液や、上記のプライマー樹脂材料のエマルションを、上記表面処理を行った金属部材に塗工して形成することができる。溶液とする際に用いる溶媒としては、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルフォスフォルアミド(DMF)などが挙げられる。エマルション用の媒体としては、脂肪族炭化水素媒体や、水などが挙げられる。
【0085】
本実施形態に係る成形品及び金属樹脂複合体の製造方法は、上記成形品及び金属樹脂複合体にアニール処理する工程を有してもよい。アニール処理は、成形品及び金属樹脂複合体の用途あるいは形状等により最適な条件が選ばれるが、アニール温度はPAS樹脂のガラス転移温度以上の温度範囲、好ましくは該ガラス転移温度+10℃以上の温度範囲であり、より好ましくは該ガラス転移温度+30℃以上の温度範囲である。一方、260℃以下の範囲であることが好ましく、240℃以下の範囲であることがより好ましい。アニール時間は特に限定されないが、0.5時間以上の範囲であることが好ましく、1時間以上の範囲であることがより好ましい。一方、10時間以下の範囲であることが好ましく、8時間以下の範囲であることがより好ましい。かかる範囲において、得られる成形品及び金属樹脂複合体のひずみが低減し、かつ、樹脂の結晶性が向上することにより機械的特性及び耐薬品がさらに向上するため好ましい。アニール処理は空気中で行ってもよいが、窒素ガス等の不活性ガス中で行うことが好ましい。
【0086】
本実施形態に係る樹脂組成物の成形品および金属樹脂複合体の製品の用途としては、特に限定されないが、例えば、箱型の電気・電子部品集積モジュール用保護・支持部材・複数の個別半導体またはモジュール、センサ、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサ、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナ、スピーカ、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダ、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤ、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザディスク・コンパクトディスク・DVDディスク・ブルーレイディスク等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライタ部品、ワードプロセッサ部品、あるいは給湯機や風呂の湯量、温度センサなどの水回り機器部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライタ、タイプライタなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ブラシホルダー、スリップリング、ICレギュレータ、ライトディマ用ポテンシオメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサ、排気ガスセンサ、冷却水センサ、油温センサ、ブレーキパットウェアーセンサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、エアーフローメータ、ブレーキパッド摩耗センサ、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダ、ウォーターポンプインペラ、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュータ、スタータースイッチ、イグニッションコイルおよびそのボビン、モーターインシュレータ、モーターロータ、モーターコア、スターターリレ、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターロータ、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルタ、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品が挙げられ、その他各種用途にも適用可能である。
【実施例0087】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0088】
<実施例1,2及び比較例1,2>
表1に記載する組成成分および配合量(全て質量部)に従い、ガラス繊維を除く各材料をタンブラーで均一に混合して配合材料を得た。その後、ベント付き2軸押出機(日本製鋼所、TEX30α)の投入口(トップフィーダ)にこの配合材料を投入し、サイドフィーダーからガラス繊維を投入して、樹脂成分吐出量30kg/hr、スクリュー回転数220rpm、設定樹脂温度を320℃に設定して溶融混練し、吐出口より吐出したストランド状物をカットしてペレットを得た。
【0089】
【表1】
【0090】
表1中、PPS樹脂(PAS樹脂の一例)としては、リニア型ポリフェニレンスルフィド樹脂(溶融粘度(V6):7Pa・s)を用いた。
【0091】
なお、上記PPS樹脂は、以下の工程1から工程3を行って製造した。
【0092】
[工程1]
圧力計、温度計、コンデンサ、デカンタ、精留塔を連結した撹拌翼付き150Lオートクレーブにp-ジクロロベンゼン(以下、p-DCBと略記する。)35.868質量部(244モル部)、NMP3.420質量部(34.5モル部)、47.23質量%NaSH水溶液27.300質量部(NaSHとして230モル部)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.533質量部(NaOHとして228モル部)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水27.300質量部を留出させた後、オートクレーブを密閉した。脱水時に共沸により留出したp-DCBはデカンタで分離して、随時オートクレーブ内に戻した。脱水終了後のオートクレーブ内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がp-DCB中に分散した状態であった。この組成物中のNMP含有量は0.079質量部(0.8モル部)であったことから、仕込んだNMPの98モル%(33.7モル部)がNMPの開環体(4-(メチルアミノ)酪酸)のナトリウム塩(以下、「SMAB」と略記する。)に加水分解されていることが示された。オートクレーブ内のSMAB量は、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.147モル部であった。仕込んだNaSHとNaOHが全量、無水NaSに変わる場合の理論脱水量は27.921質量部であることから、オートクレーブ内の残水量0.878質量部(48.8モル部)の内、0.609質量部(33.8モル部)はNMPとNaOHとの加水分解反応に消費されて、水としてオートクレーブ内に存在せず、残りの0.269質量部(14.9モル部)は水、あるいは結晶水の形でオートクレーブ内に残留していることを示していた。オートクレーブ内の水分量はオートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.065モルであった。
【0093】
[工程2]
上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP46.343質量部(467.5モル部)を仕込み、185℃まで昇温した。オートクレーブ内の水分量は、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.025モルであった。ゲージ圧が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したp-DCBと水の混合蒸気はコンデンサで凝縮し、デカンタで分離して、p-DCBはオートクレーブへ戻した。留出水量は0.228質量部(12.7モル部)であった。
【0094】
[工程3]
工程3開始時のオートクレーブ内水分量は0.041質量部(2.3モル部)で、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.005モルで、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.010モルであった。オートクレーブ内のSMAB量は工程1と同じく、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.147モルであった。次いで、内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で1時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。内温200℃時点のゲージ圧は0.03MPaで、最終ゲージ圧は0.40MPaであった。冷却後、得られたスラリーの内、0.650質量部を3質量部(3L部)の水に注いで80℃で1時間撹拌した後、濾過した。このケーキを再び3質量部(3L部)の温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を4回繰り返した。このケーキを再び3質量部(3リットル部)の温水と、酢酸を加え、pH4.0に調整した後、1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。このケーキを再び3質量部(3リットル部)の温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を2回繰り返した。熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥して白色の粉末状のPPS樹脂を得た。このPPS樹脂の300℃における溶融粘度は7Pa・sであった。非ニュートン指数は1.07であった。
【0095】
以上のようにして、実施例、比較例で用いたPPS樹脂を製造した。
【0096】
熱可塑性エラストマーとしては、住友化学株式会社製「ボンドファースト-7L」(エチレン-グリシジルジメタクリレート-酢酸ビニル)を用いた。
【0097】
無機充填剤としては、ガラス繊維及び炭酸カルシウムを用いた。ガラス繊維は、日本電気硝子株式会社製「T-717H」(繊維長3mm、平均直径10μm)を用いた。炭酸カルシウムは、三共製粉株式会社製「炭酸カルシウム1級」(平均粒子径6.4μm)を用いた。
【0098】
離型剤としては、BASF社製高密度ポリエチレンワックス「ルワックスAH-6」を用いた。
【0099】
表1に示すように、実施例1及び比較例1に比べて、実施例2及び比較例2では、熱可塑性エラストマーの処方量(配合量)が多い点で異なる。また、実施例1及び比較例1に比べて、実施例2及び比較例2では、離型剤の処方量(配合量)が多い点で異なる。
【0100】
上記樹脂組成物のペレットを、予備乾燥処理することなく、実施例では住友重機械工業製射出成形機(SE75-DZU C110)に日本油機製ベント式射出成形ユニット(スクリュー径:28mmΦ、ベント口有り)を搭載したベント式成形装置、比較例では住友重機械工業製射出成形機(SE75-DZU C110 スクリュー径:28mmΦ、ベント口無し)を使用して成形品を作製した。実施例1,2においてシリンダへの樹脂組成物の供給は、スクリューフィーダからホッパへ流し込む態様で行い、飢餓供給とした。
【0101】
【表2】
【0102】
なお、ベント口は、上述のごとく、シリンダの上流部とシリンダの下流部との間に設置されている。
【0103】
試験片は、それぞれ別の金型により、射出成形により樹脂組成物を成形したカップ形状の第一試験片(図2に示す成形体51参照)と、射出成形としてのインサート射出成形により成形した金属樹脂複合体(複合成形品)である第二試験片(図3に示す金属樹脂複合体7参照)とを作成した。図3に示すように、第二試験片(金属樹脂複合体7)は、所定の金型内に配置された所定のサイズの金属片(金属部材の一例、図3の金属片6参照)に対して樹脂組成物を射出成形し、金属片に樹脂組成物の板状の成形体(図3の成形体52参照)が接合された状態のものである。本実施例、比較例において、第二試験片は、ISO19095 TypeB金型に準拠した金型で作製した。第二試験片において、金属片6は、アルマイト処理された板状のアルミニウム片である。第二試験片の製造に用いた金型のゲートは図3における金属片6と成形体52の重なり部分の側部2カ所に1mmΦのピンゲート98を設けてあり、ガスベントスリット99の形状は、幅及びランド長が10mmで、厚みが5μmである。なお、第一試験片の製造に用いた金型のゲート90は、図2に示すように、成形体51のカップ形状の開口部淵の周方向に90°間隔で4箇所に1mmΦ径のピンゲート90aを有し、ガスベントスリット97の形状は、幅及びランド長が10mmで、厚みが5μmである。
【0104】
第一試験片及び第二試験片を成形する際には、金型へのガスの汚れの影響を厳密に評価するため、それぞれの成形に用いた金型において、金型内部のガスがガスベントスリット以外の金型入子周囲の隙間(パーティングライン)から漏れないように、これら隙間に対してガス逃げ抑制のシールを施した。
【0105】
第一試験片及び第二試験片を成形する際には、成形不良や金型のメンテナンス頻度に係る評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
表3中、「成形可能な連続ショット数」は、第一試験片の射出成形を繰り返し行い、金型のメンテナンスを行うことなく成形不良を起こすまでに正常に成形することができた回数である。
【0108】
表3中、「成形品の流動末端密度」は、第一試験片における、ガスベントスリットの直前の部分の成形体の密度である。
【0109】
表3中、「ガスベント汚れ」は、第一試験片を50回成形した後(50ショット後)の金型のガスベントスリットの目視による汚れの判定結果である。「ガスベント汚れ」の行における、「A」は、付着物(汚れ)を視認できない状態、「B」は、微小の粘性液付着が視認される状態、「C」は、着色粘性液又は一部炭化の付着が視認される状態であると判定されたことを示す。これら判定結果は、A、B、Cの順に、良好から不良を意味する。
【0110】
表3中、「ガスベントオリゴマー付着量」は、第一試験片を50回成形した後(50ショット後)の金型のガスベントスリットの付着物を溶媒(テトラヒドロフラン(THF)2mL)で洗浄して回収し、洗浄液をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析して求めた、ポリスチレン換算分子量400から8000相当の保持時間デポジット総量のGPC area値であり、値が大きいほど、ガスベントスリットの付着物がより多い、すなわち、ガスベントスリットがより汚れていることを意味する。
【0111】
GPCの測定条件は以下のとおりである。カラムには、ShodexGPC KF-G+LF-804を2つ用いた。カラム温度は40℃とした。溶媒にはTHFを用い、溶離液速度は1mL/minとした。検出には波長254nmの紫外光を用いた。
【0112】
表3中、「インサート金属接合強度 平均(1から10ショット目)」は、1から10ショット目までの10個の第二試験片における、金属片と樹脂組成物との、引張せん断試験における接合強度の平均値(相加平均)である。なお、金属接合強度の評価は、ISO19095に準拠しておこなった。同様に、「インサート金属接合強度 平均(1000から1009ショット目)」は、1000から1009ショット目までの10個の第二試験片における、金属片と樹脂組成物との、引張せん断試験における接合強度の平均値である。「インサート金属接合強度 標準偏差(1から10ショット目)」及び「インサート金属接合強度 標準偏差(1000から1009ショット目)」は、それぞれ、10個の第二試験片の接合強度の標準偏差である。インサート金属接合強度は、平均値が大きく、また、標準偏差が小さいほど好ましい。
【0113】
表3に示す結果より、実施例の射出成形方法は、比較例の射出成形方法に比べて、成形可能な連続ショット数が大きい。したがって、成形不良を低減できると考えられる。成形品の流動末端の密度は、実施例、比較例において有意差はなく、本実施形態の射出成形方法のごとく、シリンダ内で樹脂組成物から揮発した成分をベント口から排出するようにした場合であっても、成形品の密度を低下させるような不具合を生じさせないと考えられる。
【0114】
ガスベント汚れ及びガスベントオリゴマー付着量は、実施例の射出成形方法が比較例に対して良好であり、それ故、上述のごとく、実施例の射出成形方法は、連続ショット数が大きくなるものと考えられる。すなわち、実施例の射出成形方法では金型のガスベントスリットが汚れにくく、それ故、金型のガスベントスリットが詰まりにくく(閉塞しにくく)なって、連続ショット数を大きくすることができるのである。なお、金型のガスベントスリットが汚れにくくなるのは、シリンダ内で樹脂組成物から揮発した成分をベント口から排出し、また、シリンダ内で樹脂組成物から揮発成分を十分に除去できるため、金型内にガスが供給(樹脂組成物と共に射出)されることを抑制し、また、金型内において、樹脂組成物から生じるガス量を低減することができる(以下、ベント口からの排出の効果、と記載する)ためであると考えられる。すなわち、本実施形態の射出成形方法では、金型の汚れを低減して金型のメンテナンス頻度を低減することができる。また、金型のメンテナンス頻度を低減することにより、成形不良も低減することができるのである。
【0115】
インサート金属接合強度は、比較例1よりも実施例1の強度が高く、また、比較例2よりも実施例2の強度が高い。すなわち、同様の樹脂組成物の処方(配合)であれば、本実施形態の射出成形方法によって製造されるインサート成形品の強度が高くなる。これは、上述のようなベント口からの排出の効果により、金型内部でのガスの発生及びガス量が低減されて、金属-樹脂組成物の界面が、樹脂組成物に含まれる水分やPAS樹脂由来の低分子量成分によって汚染されることを抑制できるためであると考えられる。すなわち、本実施形態の射出成形方法としてのインサート成形方法においては、金属-樹脂組成物の界面の汚染を抑制して、金属-樹脂組成物の接合強度を高めることができるのである。なお、1から10ショット目又は1000から1009ショット目での標準偏差についても、実施例の場合が比較例の場合よりも良好である。この点からも、本実施形態の射出成形方法では、品質ばらつきの少ない成形品の製造が可能、すなわち、成形不良の低減が可能であると言える。
【0116】
このように、本実施形態に係る射出成形方法は、PAS樹脂と熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物の射出成形方法において、成形品の成形不良や、成形用の金型のメンテナンス頻度を低減することができるのである。また、本実施形態に係る射出成形方法を用いれば、PAS樹脂と熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物の成形品の製造方法を実現することができる。また、本実施形態に係る射出成形方法を用いれば、PAS樹脂と熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物と金属部材との金属樹脂複合体の製造方法を実現することができる。
【0117】
以上のようにして、PAS樹脂を含む樹脂組成物の射出成形方法において、成形不良や金型のメンテナンス頻度を低減することのできる射出成形方法、樹脂組成物の成形品の製造方法及び金属樹脂複合体の製造方法を提供することができる。
【0118】
なお、本明細書において開示された実施形態や実施例は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、射出成形方法、成形品の製造方法及び金属樹脂複合体の製造方法に適用できる。
【符号の説明】
【0120】
1 :供給機構
10 :供給速度制御機構
2 :シリンダ
20 :ベント
21 :ミキシング部
22 :ノズル
3 :スクリュー
31 :第一スクリュー部
32 :第二スクリュー部
4 :ヒータ
5 :成形体
51 :成形体
52 :成形体
6 :金属片(金属部材)
7 :金属樹脂複合体
9 :金型
90 :ゲート
90a :ピンゲート
91 :第一金型
92 :第二金型
95 :スリットコマ
96 :スリットコマ
97 :ガスベントスリット
98 :ピンゲート
99 :ベントスリット
C :制御部
図1
図2
図3