(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163934
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】熱電変換材料及びその製造方法、熱電変換素子、並びに熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
H10N 10/852 20230101AFI20231102BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20231102BHJP
C01B 19/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
H01L35/16
H01L35/34
C01B19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075176
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】今里 和樹
(72)【発明者】
【氏名】太田 道広
(72)【発明者】
【氏名】ザウアーシュニッヒ フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】石田 敬雄
(72)【発明者】
【氏名】山本 淳
(57)【要約】
【課題】熱伝導率が低く、室温から500℃の温度範囲において優れた熱電効果を示すとともに、半導体特性をP型及びN型のいずれにも調整可能なハーフホイスラー型化合物を主成分とする新規な熱電変換材料及びその製造方法を提供すること。また、この熱電変換材料を含む熱電変換素子や熱電変換モジュールを提供すること。
【解決手段】マグネシウム(Mg)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、及びアンチモン(Sb)を少なくとも含み、一般式:Mg
2―pV
1+pNi
3Sb
3-qM
q(但し、pとqは、-0.5≦p≦0.5及び0≦q≦1.0を満足し、Mはスズ(Sn)及びテルル(Te)の一方又は両方)で表される組成を有し、ハーフホイスラー型化合物を主成分とする、熱電変換材料。
【選択図】
図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム(Mg)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、及びアンチモン(Sb)を少なくとも含み、一般式:Mg2―pV1+pNi3Sb3-qMq(但し、pとqは、-0.5≦p≦0.5及び0≦q≦1.0を満足し、Mはスズ(Sn)及びテルル(Te)の一方又は両方)で表される組成を有し、
ハーフホイスラー型化合物を主成分とする、熱電変換材料。
【請求項2】
前記熱電変換材料がハーフホイスラー型化合物の単相で構成される、請求項1に記載される熱電変換材料。
【請求項3】
前記熱電変換材料が多結晶体である、請求項1又は2に記載される熱電変換材料。
【請求項4】
前記熱電変換材料がP型半導体特性を示す、請求項1又は2に記載される熱電変換材料。
【請求項5】
前記熱電変換材料がN型半導体特性を示す、請求項1又は2に記載される熱電変換材料。
【請求項6】
前記熱電変換材料の熱伝導率(κtotal)が300K以上800K以下の温度域において6.0W/(mK)以下である、請求項1又は2に記載される熱電変換材料。
【請求項7】
前記熱電変換材料のパワーファクター(PF)が300K以上800K以下の温度域において0.2mW/(mK2)以上である、請求項1又は2に記載される熱電変換材料。
【請求項8】
前記熱電変換材料のパワーファクター(PF)が600K以上800K以下の温度域において0.5mW/(mK2)以上である、請求項1又は2に記載される熱電変換材料。
【請求項9】
請求項1又は2に記載される熱電変換材料の製造方法であって、以下の工程;
マグネシウム(Mg)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、及びアンチモン(Sb)を少なくとも含む混合原料を準備する工程:
前記混合原料にメカニカルアロイング処理を施してメカニカルアロイング処理物を作製する工程:及び
前記メカニカルアロイング処理物を加圧焼結する工程
を含む方法。
【請求項10】
前記混合原料を準備する際に、マグネシウム(Mg)源、バナジウム(V)源、ニッケル(Ni)源、及びアンチモン(Sb)源を溶融及び凝固して溶融凝固物を作製し、前記溶融凝固物にさらにマグネシウム(Mg)源を混合し、前記溶融凝固物とマグネシウム(Mg)源の混合物を前記混合原料として用いる、請求項9に記載される方法。
【請求項11】
前記混合原料を準備する際に、バナジウム(V)源、ニッケル(Ni)源、及びアンチモン(Sb)源を溶融及び冷却して溶融凝固物を作製し、前記溶融凝固物にさらにマグネシウム(Mg)源を混合し、前記溶融凝固物とマグネシウム(Mg)源の混合物を前記混合原料として用いる、請求項9に記載される方法。
【請求項12】
前記混合原料を準備する際に、マグネシウム(Mg)源、バナジウム(V)源、ニッケル(Ni)源、及びアンチモン(Sb)源を溶融及び冷却して溶融凝固物を作製し、前記溶融凝固物を前記混合原料として用いる、請求項9に記載される方法。
【請求項13】
請求項1又は2に記載される熱電変換材料を含む熱電変換素子。
【請求項14】
請求項13に記載される熱電変換素子を備えた熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料及びその製造方法、熱電変換素子、並びに熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーの安定確保及び地球温暖化防止の流れを受けて、省エネルギー社会の実現が切望されている。この点、現在は一次供給エネルギーの約60%が熱エネルギーとして廃棄されており、排熱回収技術及びその普及が望まれている。そのような状況下で熱電発電モジュールや熱電冷却モジュールといった熱電変換モジュールが注目を浴びている。
【0003】
熱電変換モジュールは、熱エネルギーと電気エネルギーの直接変換を可能とする固体素子である。機械的な稼働部が無いため、信頼性が高くメンテナンスフリーであるとともに静粛動作が可能という特徴がある。またエネルギー変換時に廃棄物を出さない。そのため熱電変換モジュールは環境共生型エネルギー技術として評価されている。
【0004】
熱電変換モジュールとして、熱電発電モジュールと熱電冷却モジュールが知られている。熱電発電モジュールは、材料に温度差を設けることで生じる熱起電力、つまり固体のゼーベック効果を利用して熱から電気を生み出す。これとは逆に、熱電冷却モジュール(ペルチェ冷却モジュール)は、材料に電位差を設けることで温度差が生じる現象、つまりペルチェ効果を利用する。いずれのモジュールでも、熱電変換材料(熱電材料)の性質、すなわち熱エネルギーと電気エネルギーを直接変換する性質を利用している。
【0005】
一般的な熱電変換モジュールの断面模式図の一例を
図1に示す。熱電変換モジュール(10)はP型熱電変換素子(2)とN型熱電変換素子(4)とを備える。P型熱電変換素子(2)及びN型熱電変換素子は、いずれも熱電変換材料の成形体からなる。またP型熱電変換素子(2)とN型熱電変換素子(4)の上下には、これらの素子を直列結合する電極(6)が設けられている。さらにP型熱電変換素子(2)、N型熱電変換素子(4)、及び電極(6)の全てを上下から挟む一組のセラミック板(8)が設けられている。モジュールの上下方向に温度差を設けることで、この温度差に見合った電気を取り出すことができ、これにより熱電発電モジュールとして機能させることが可能である。逆に、モジュールに電流を流すことで、モジュールの上下に温度差を設けることができ、これにより熱電冷却モジュールとして働かせることができる。
【0006】
熱電変換モジュールにおいて得られる最大エネルギー変換効率ηmaxは、熱電変換素子の熱電性能指数(無次元性能指数)ZTを用いて下記(1)式にしたがって求められる。なお熱電性能指数ZTは、性能指数Zと温度Tの積である。また下記(1)式において、THは高温側温度(単位:K)、TCは低温側温度(単位:K)、Tは平均温度(単位:K)である。
【0007】
【0008】
上記(1)式の右辺における第1項は、理想的な熱機関における最大エネルギー変換効率(カルノー効率)である。一方で第2項は、熱電性能指数ZTが大きいほど高くなる。したがって、変換効率を大きくするためには、モジュールにかかる温度差(TH-TC)を大きくするとともに、熱電変換素子の熱電性能指数ZTを向上させることが有効である。
【0009】
熱電変換材料の熱電特性は熱電性能指数zTで評価される。厳密に言えば、この熱電性能指数zTはモジュールの熱電性能指数ZTとは区別されるものの、素子の熱電性能ZTを高める上で指標となる。したがって、熱電変換モジュール(熱電発電モジュール、ペルチェ冷却モジュール)の性能向上を図る上で、モジュールが作動する動作域における材料の熱電性能指数zTの向上が求められる。
【0010】
熱電変換材料の熱電性能指数zTは下記(2)式にしたがって求められる。なお下記(2)式において、Sは材料のゼーベック係数、σは導電率、Tは温度、κtotalは熱伝導率、PFはパワーファクターである。また熱伝導率κtotalは、格子熱伝導率κlatと電子熱伝導率κelの和(κlat+κel)である。ここで格子熱伝導率κlatは、熱伝導率κtotalのうち、量子化された格子振動、つまりフォノンが熱のキャリアとなる部分に相当する。また電子熱伝導率κelは、電子又は正孔が熱のキャリアとなる部分に相当する。
【0011】
【0012】
上記(2)式を見て分かるように、性能指数zTを高めるためには、ゼーベック係数S及び導電率σを高めると同時に、熱伝導率κtotal(=κlat+κel)を小さくすることが重要である。しかしながら、ゼーベック係数、導電率及び電子伝導率は、いずれもキャリア濃度の関数であるため、これらを独立に制御することが困難である。具体的には、キャリア濃度が高いほど導電率は高くなるものの、ゼーベック係数は小さくなる。また高い導電率と小さい電子熱伝導率は二律相反の関係にある。したがって、zTを高めるためには、パワーファクターPFが最大となるようにキャリア濃度を調整するとともに、格子熱伝導率(κlat)をなるべく小さくすることが有効である。キャリア濃度が適切な範囲内に調整された熱電変換材料は、通常は有限のバンドギャップを有するN型又はP型半導体である。
【0013】
従来からN型熱電変換材料としてBi2Te3、PbTb、CoSb3、及びLa3Te4などの化合物が知られている。またP型熱電変換材料としてSnSe、BiSbTe,MgAgSb、NaPbmSbTem+2、(GeTe)0.8(AgSbTe2)0.2、及びPbTe-4SrTe-2Naなどの化合物が知られている。これらの化合物は、性能指数zTが比較的高い。しかしながら、コバルト(Co)、鉛(Pb)、及び銀(Ag)、ゲルマニウム(Ge)といった有害あるいは希少な元素を含んでいる。そのため、自動車や工場からの排熱回生といった熱電発電の実用化・産業化を図る上で、有害・希少元素を含まず、使用温度域で高い性能指数を示す高性能熱電変換材料が求められている。そして、このような材料として、ホイスラー型化合物、特にハーフホイスラー型化合物が有望視されている。
【0014】
ハーフホイスラー型化合物では、成分元素の組み合わせが豊富である。そのため有害・希少元素を含まない組成の設計が可能であり、無毒であるとともに安価な材料を得ることができる。また機械的強度が高く、高温でも安定的に使用可能という利点がある。したがって、ハーフホイスラー型化合物を主成分とする熱電変換材料は、主に自動車の排熱回生デバイスに応用できる有望な材料として注目されている。
【0015】
特許文献1には、金属間化合物[TiaZrbHfc][NidCoe][SnfSbg]から成るハーフホイスラー合金の固相を生成させる熱電材料の製造方法が開示されている。非特許文献1には、ハーフホイスラー相であるScNiSb1-xTexの特性を調べることが開示されている(非特許文献1のAbstract等)。非特許文献2には、MgNiSb等の組成を有する化合物の熱電特性を調べることが開示されている(非特許文献2の全文)。非特許文献3には、Ti2FeNiSb2ダブルハーフホイスラー化合物にスズドープすることが開示されている(非特許文献3のAbstract)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Kamil Ciesielski et al., Mobility Ratio as a Probe for Guiding Discovery of Thermoelectric Materials: The Case of Half-Heusler Phase ScNiSb1-xTex, PHYSICAL REVIEW APPLIED 15,044047 (2021)
【非特許文献2】A.V.Morozkin et al., Thermoelectric properties of ScCoSb, ScNi0.86Sb and MgNiSb compounds, Journal of Alloys and Compounds 400 (2005) 62-66
【非特許文献3】Rahidul Hasan et al., Enhanced Thermoelectric Properties of Ti2FeNiSb2 Double Half-Heusler Compound by Sn Doping, Adv. Energy Sustainability Res. 2022, 2100206
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
このように、種々の利点を有するハーフホイスラー型化合物を熱電変換材料に用いることが従来から提案されるものの、従来のハーフホイスラー型化合物は、その熱伝導率が高いという問題がある。すなわち、上記(2)式を見て分かるように、熱電性能指数zTは熱伝導率κtotal(=κlat+κel)に反比例するため、熱伝導率が小さいほど熱電性能指数zTは高くなる。しかしながら、従来のハーフホイスラー型化合物は熱伝導率、特に格子熱伝導率κlatが高く、熱電性能指数zTを高める上で限界があった。
【0019】
本発明者らは、このような問題点に鑑みて鋭意検討を行った。その結果、価数の異なるマグネシウム(Mg)とバナジウム(V)を異なる割合で同一原子サイトに組み込むことで、ハーフホイスラー型化合物を主成分とする新規な熱電変換材料を合成できるとの知見を得た。また、この熱電変換材料は熱伝導率が低く、室温から500℃の温度範囲において優れた熱電効果を示すことを見出した。さらに組成を微調整することで、熱電変換材料の特性をP型及びN型のいずれにも制御可能との知見を得た。
【0020】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、熱伝導率が低く、室温から500℃の温度範囲において優れた熱電効果を示すとともに、半導体特性をP型及びN型のいずれにも調整可能なハーフホイスラー型化合物を主成分とする新規な熱電変換材料及びその製造方法の提供を課題とする。また本発明は、この熱電変換材料を含む熱電変換素子や熱電変換モジュールの提供をも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、下記(1)~(14)の態様を包含する。なお本明細書において、「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0022】
(1)マグネシウム(Mg)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、及びアンチモン(Sb)を少なくとも含み、一般式:Mg2―pV1+pNi3Sb3-qMq(但し、pとqは、-0.5≦p≦0.5及び0≦q≦1.0を満足し、Mはスズ(Sn)及びテルル(Te)の一方又は両方)で表される組成を有し、
ハーフホイスラー型化合物を主成分とする、熱電変換材料。
【0023】
(2)前記熱電変換材料がハーフホイスラー型化合物の単相で構成される、上記(1)の熱電変換材料。
【0024】
(3)前記熱電変換材料が多結晶体である、上記(1)又は(2)の熱電変換材料。
【0025】
(4)前記熱電変換材料がP型半導体特性を示す、上記(1)又は(2)の熱電変換材料。
【0026】
(5)前記熱電変換材料がN型半導体特性を示す、上記(1)又は(2)の熱電変換材料。
【0027】
(6)前記熱電変換材料の熱伝導率(κtotal)が300K以上800K以下の温度域において6.0W/(mK)以下である、上記(1)又は(2)の熱電変換材料。
【0028】
(7)前記熱電変換材料のパワーファクター(PF)が300K以上800K以下の温度域において0.2mW/(mK2)以上である、上記(1)又は(2)の熱電変換材料。
【0029】
(8)前記熱電変換材料のパワーファクター(PF)が600K以上800K以下の温度域において0.5mW/(mK2)以上である、上記(1)又は(2)の熱電変換材料。
【0030】
(9)上記(1)又は(2)の熱電変換材料の製造方法であって、以下の工程;
マグネシウム(Mg)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、及びアンチモン(Sb)を少なくとも含む混合原料を準備する工程:
前記混合原料にメカニカルアロイング処理を施してメカニカルアロイング処理物を作製する工程:及び
前記メカニカルアロイング処理物を加圧焼結する工程
を含む方法。
【0031】
(10)前記混合原料を準備する際に、マグネシウム(Mg)源、バナジウム(V)源、ニッケル(Ni)源、及びアンチモン(Sb)源を溶融及び凝固して溶融凝固物を作製し、前記溶融凝固物にさらにマグネシウム(Mg)源を混合し、前記溶融凝固物とマグネシウム(Mg)源の混合物を前記混合原料として用いる、上記(9)の方法。
【0032】
(11)前記混合原料を準備する際に、バナジウム(V)源、ニッケル(Ni)源、及びアンチモン(Sb)源を溶融及び冷却して溶融凝固物を作製し、前記溶融凝固物にさらにマグネシウム(Mg)源を混合し、前記溶融凝固物とマグネシウム(Mg)源の混合物を前記混合原料として用いる、上記(9)の方法。
【0033】
(12)前記混合原料を準備する際に、マグネシウム(Mg)源、バナジウム(V)源、ニッケル(Ni)源、及びアンチモン(Sb)源を溶融及び冷却して溶融凝固物を作製し、前記溶融凝固物を前記混合原料として用いる、上記(9)の方法。
【0034】
(13)上記(1)又は(2)の熱電変換材料を含む熱電変換素子。
【0035】
(14)上記(13)の熱電変換素子を備えた熱電変換モジュール。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、熱伝導率が低く、室温から500℃の温度範囲において優れた熱電効果を示すとともに、半導体特性をP型及びN型のいずれにも調整可能なハーフホイスラー型化合物を主成分とする新規な熱電変換材料及びその製造方法が提供される。また本発明によれば、この熱電変換材料を含む熱電変換素子や熱電変換モジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】熱電変換モジュールの構造を示す断面模式図である。
【
図2】トリプルハーフホイスラー(THH)型化合物Mg
2VNi
3Sb
3の結晶構造を示す模式図である。
【
図3】トリプルハーフホイスラー(THH)型化合物の説明に供する図面である。
【
図6】ゼーベック係数Sの温度変化を示す(実施例1~3)。
【
図7】パワーファクターPFの温度変化を示す(実施例1~3)。
【
図8】熱伝導率κ
totalの温度変化を示す(実施例1及び2)。
【
図9】格子熱伝導率κ
latの温度変化を示す(実施例1及び2)。
【
図10】熱電性能指数zTの温度変化を示す(実施例1及び2)。
【
図11】パワーファクターPFの繰り返し試験結果を示す(実施例1)。
【
図12】TG/DTA分析結果を示す(実施例2)。
【
図13】ゼーベック係数Sの温度変化を示す(実施例4~7)。
【
図14】ゼーベック係数Sの温度変化を示す(実施例8~14)。
【
図15】熱伝導率κ
totalの温度変化を示す(実施例4,5,8,9,13,及び14)。
【
図16】格子熱伝導率κ
latの温度変化を示す(実施例4,5,8,9,13,及び14)。
【
図17】各種ハーフホイスラー型化合物の格子熱伝導率κ
latの大きさを対比して示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の具体的実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0039】
<<1.熱電変換材料>>
本実施形態の熱電変換材料は、マグネシウム(Mg)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、及びアンチモン(Sb)を少なくとも含み、一般式:Mg2―pV1+pNi3Sb3-qMq(但し、pとqは、-0.5≦p≦0.5及び0≦q≦1.0を満足し、Mはスズ(Sn)及びテルル(Te)の一方又は両方)で表される組成を有し、ハーフホイスラー型化合物を主成分とする。
【0040】
本実施形態の熱電変換材料は、ハーフホイスラー型化合物を主成分とする。ここで、主成分とは、熱電変換材料中のハーフホイスラー型化合物の含有量が50質量%以上であることを意味する。ハーフホイスラー型化合物の優れた特性を活かす観点から、主成分含有量は多いほど好ましい。含有量は60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。X線回折パターンに基づき定義すれば、ハーフホイスラー型化合物に由来するメインピークのピーク強度(IHH)に対する異相由来のメインピークのピーク強度(IHP)の比(IHP/IHH)は0.4以下が好ましく、0.3以下がより好ましく、0.2以下がさらに好ましく、0.1以下が特に好ましい。最も好ましくは、熱電変換材料がハーフホイスラー型化合物の単相で構成される。ここで、単相で構成されるとは、X線回折パターンにおけるピーク強度比(IHP/IHH)がゼロ(0)であることを意味する。
【0041】
ハーフホイスラー型化合物は、化学式:XYZで表記される化合物であり、立方晶の結晶構造をもつ。ハーフホイスラー型化合物の結晶構造を
図2に示す。ハーフホイスラー型化合物の結晶では、X原子とZ原子が岩塩型構造を構成し、Y原子が構造内にある8個の副格子のうち4個の副格子を占める。本実施形態の主成分化合物の組成式:Mg
2―pV
1+pNi
3Sb
3-qM
qを化学式(XYZ)に即して書き直すと、(Mg
2/3―p/3V
1/3+p/3)Ni(Sb
1-q/3M
q/3)と表される。これから分かるように、マグネシウム(Mg)とバナジウム(V)がX原子サイトを占める。またニッケル(Ni)がY原子サイトを占め、アンチモン(Sb)及びM元素(Sn及び/又はTe)がZ原子サイトを占める。
【0042】
ハーフホイスラー型化合物は、総価電子数が18のときにバンドギャップが存在し、半導体的性質を示す。その結果、大きなパワーファクターPFを有することが知られている。これを18電子ルールと呼ぶ。本実施形態の熱電変換材料は、p=q=0のときに、2価となるマグネシウム(Mg)原子と5価となるバナジウム(V)の個数割合は2:1となり、そのときのX原子(Mg、V)の平均価数は3価となる。したがって、X原子(Mg、V)の平均価数(3価)とY原子(Ni)の価数(10価)とZ原子(Sb)の価数(5価)の合計は18となり、18電子ルールに従う。そのため、この組成近傍で熱電特性が高くなると期待される。
【0043】
上述したように、本実施形態のハーフホイスラー型化合物において、X原子サイトを占めるマグネシウム(Mg)は2価元素であるのに対し、バナジウム(V)は5価元素である。またMgとVの割合は略2:1となり、当量ではない。ハーフホイスラー型化合物Mg
2VNi
3Sb
3は、
図3に示すようにMgNiSbとVNiSbとが略2:1の割合で固溶した金属間化合物と見なすことができる。なお
図3では、参考のため従来の3元系ハーフホイスラー型化合物ScNiSbを併せて示す。このように複数種の価数の異なる元素(異価元素)を異なる割合で同一原子サイトに含む化合物をトリプルハーフホイスラー(THH)型化合物と呼ぶ。トリプルハーフホイスラー(THH)型化合物は熱伝導率が小さく、そのため優れた熱電特性を示すポテンシャルがある。“トリプル”は式単位の三重化を意味し、よく知られたものとしてダブルペロブスカイト(通常ABO
3に対してA
2B’B”O
6)などが挙げられる。
【0044】
この点、従来から提案される化合物はトリプルハーフホイスラー(THH)型化合物ではない。例えば、特許文献1で開示される合金[TiaZrbHfc][NidCoe][SnfSbg]は、いずれも4価であるチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びハフニウム(Hf)をX原子サイトに含んでおり、異価元素を同一原子サイトに含んでいない。また非特許文献3で開示されるダブルハーフホイスラー(DHH)化合物Ti2FeNiSb2は、異価元素であるFeとNiをY原子サイトに含むものの、その割合は同一(1:1)である。このダブルハーフホイスラー(DHH)型化合物Ti2FeNiSb2は、TiFeSbとTiNiSbが1:1の割合で固溶した金属間化合物と見なすことができ、トリプルハーフホイスラー型化合物とは明確に異なる。
【0045】
トリプルハーフホイスラー(THH)型化合物を主成分とする本実施形態の熱電変換材料は、熱伝導率κtotal、特に格子熱伝導率κlatが小さいという特徴がある。その詳細なメカニズムは不明であり、限定的に解釈されるべきではない。しかしながら、次に示すメカニズムが考えられる。
【0046】
格子熱伝導率κlatは、下記(3)式に示すように格子比熱C、音速v及びフォノン平均自由行程lの積に比例する。ここでフォノンは結晶中の量子化された格子振動である。
【0047】
【0048】
本実施形態のトリプルハーフホイスラー(THH)型化合物において、同一原子サイトを占めるマグネシウム(Mg)原子とバナジウム(V)原子は、価数が異なるとともに、その質量が大きく異なる。また本発明者らが調べたところ、Mg原子とV原子はX原子サイトにおいて不規則配列することが分かった。価数及び質量の異なる原子(Mg、V)が不規則配列することで、格子の周期性に乱れが生じたのではないかと推測している。また格子の周期性に乱れが生じることで、フォノン、特に長周期フォノンが散乱されやすくなり、その結果、平均自由行程lが小さくなり、格子熱伝導率κlatが小さくなったと考えている。
【0049】
本実施形態の熱電変換材料は、半導体的性質を有するが故に、金属に比べてキャリア濃度が小さく、電子や正孔が熱伝導の担い手となる電子熱伝導率κelが小さい。格子熱伝導率κlat及び電子熱伝導率κelの双方が小さくなることで、これらの和である熱伝導率κtotalが小さくなったと考えている。
【0050】
pは-0.5以上0.5以下(-0.5≦p≦0.5)の範囲内に限定される。pはバナジウム(V)過剰量を表す。すなわち、p=0のときに18電子ルールに従う組成となる。これに対して、p>0のときにV過剰組成となり、またp<0のときMg過剰組成となる。上述した範囲内でpを調整することで、熱電変換材料の半導体特性をP型又はN型に制御することができる。しかしながら、pが-0.5未満あるいは0.5超になると、18電子ルールからのズレが大きくなる。また異相が生成し易くなるため、熱電特性、特にゼーベック係数Sの低下が顕著となる。pは-0.3以上0.3以下(-0.3≦p≦0.3)であってよく、-0.2以上0以下(-0.2≦p≦0)であってよい。
【0051】
qは0以上1.0以下(0≦q≦1.0)の範囲内に限定される。qは、ドーパントとして働くスズ(Sn)及び/又はテルル(Te)のドーピング量である。上述した範囲内でqを調整することで、熱電変換材料のキャリアタイプ(P型、N型)またはキャリア濃度を制御することができる。しかしながらqが1.0超であると、ドーパント量が過剰となる結果、キャリア濃度の増加に伴って熱電特性、特にゼーベック係数の低下が顕著となると同時に、異相も生成しやすくなる。qは0以上0.5以下であってよく、0以上0.3以下であってよい。qはゼロ(0)であってもよい。またドーパントはスズ(Sn)及びテルル(Te)の少なくとも一方である。ドーパントはSnのみであってよく、Teのみであってよく、あるいはSn及びTeの両方であってよい。
【0052】
本実施形態の熱電変換材料は緻密であることが好ましい。緻密な材料はゼーベック係数S及び導電率σが高い。そのため、パワーファクターPF及び熱電性能指数zTをより一層高めることが可能である。熱電変換材料の相対密度は80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい。
【0053】
本実施形態の熱電変換材料は、多結晶体であってもよく、あるいは単結晶体であってもよい。しかしながら多結晶体、特に焼結体であることが好ましい。後述するように、本実施形態の熱電変換材料では、組成及び結晶構造が均質な多結晶体を容易に得ることができる。また多結晶体では結晶粒界でフォノンが散乱して、それにより格子熱伝導率がさらに低減する効果を期待できる。これに対して単結晶体はその製造が容易ではない。特に本実施形態の熱電変換材料は融点及び蒸気圧の異なる複数の成分を含むため、均質な単結晶体を製造することが困難である。熱電変換材料が多結晶体である場合、その粒径は限定されない。しかしながら、典型的には平均粒径は100nm以上100μm以下、500nm以上100μm以下、または10μm以上50μm以下である。
【0054】
本実施形態の熱電変換材料はP型半導体特性を示すものであってよい。あるいはN型半導体特性を示すものであってもよい。熱電変換材料の半導体特性(P型、N型)は、バナジウム(V)過剰量pやドーパント量qを制御することで調整できる。特に本実施形態のP型熱電変換材料とN型熱電変換材料の両方を組み合わせて用いることで、同一材料系で熱電変換モジュールを作製することが可能である。同一材料系の熱電変換モジュールは、材料の熱膨張係数の違いによる応力発生及びそれによる特性や信頼性の劣化を防ぐことができる。そのため、熱電変換モジュールを同一材料系で構成することは、実用化に向けた重要な要素である。
【0055】
本実施形態の熱電変換材料には、熱伝導率が低いという特徴がある。限定される訳ではないが、熱電変換材料の熱伝導率κtotalは、300K以上800K以下の温度域において、好ましくは10.0W/(mK)以下、より好ましくは8.0W/(mK)以下、さらに好ましくは6.0W/(mK)以下である。また格子熱電度率κlatは、300K以上800K以下の温度域において、好ましくは5.0W/(mK)以下、より好ましくは4.0W/(mK)以下、さらに好ましくは3.0W/(mK)以下である。熱伝導率κtotal及び格子熱伝導率κlatの下限値は限定されない。しかしながら、典型的にはκtotalは0.5W/(mK)以上、κlatは0.4W/(mK)以上である。
【0056】
本実施形態の熱電変換材料は、室温から500℃の温度範囲において優れた熱電効果を示すという特徴がある。限定される訳ではないが、熱電変換材料のパワーファクターPFは、300K以上800K以下の温度域において、好ましくは0.1mW/(mK2)以上、より好ましくは0.2mW/(mK2)以上、さらに好ましく0.25mW/(mK2)以上である。またパワーファクターPFは、600K以上800K以下の温度域において、好ましくは0.25mW/(mK2)以上、より好ましくは0.5mW/(mK2)以上、さらに好ましくは0.75mW/(mK2)以上、特に好ましくは1.0mW/(mK2)以上である。パワーファクターPFの上限値は限定されない。しかしながら、典型的には10.0mW/(mK2)以下、または5.0mW/(mK2)以下である。
【0057】
<<2.熱電変換素子>>
本実施形態の熱電変換素子は、上述した熱電変換材料を含む。具体的には熱電変換材料の成形体を備える。成形体は、多結晶体であってもよく、あるいは単結晶体であってもよい。しかしながら多結晶体、特に焼結体であることが好ましい。また熱電変換素子は、熱電変換材料の成形体以外の部材を含んでもよい。例えば、材料の酸化や損傷を防ぐため、成形体表面に設けられた保護層を備えてもよい。また熱電変換素子はP型であってもよく、あるいはN型であってもよい。P型熱電変換素子はP型熱電変換材料の成形体からなる。N型熱電変換素子はN型熱電変換材料の成形体からなる。
【0058】
<<3.熱電変換モジュール>>
本実施形態の熱電変換モジュールは、上述した熱電変換素子を備える。すなわち熱電変換モジュールが備えるP型熱電変換素子及びN型熱電変換素子の少なくとも一方、好ましくは両方が上述した熱電変換素子である。例えば、
図1に示すように、P型熱電変換素子と、N型熱電変換素子と、これらP型熱電変換素子及びN型変換素子を直列結合する電極と、P型熱電変換素子、N型熱電変換素子、及び電極の全てを上下から挟む一対のセラミック板と、から構成されていてもよい。
【0059】
P型熱電変換素子及びN型熱電変換素子の少なくとも一方が本実施形態の熱電変換素子であればよい。例えば、P型熱電変換素子が本実施形態の熱電変換素子であり、N型熱電変換素子が他の材料で構成されてよく、あるいはその逆であってもよい。しかしながら、好適には、P型熱電変換素子及びN型熱電変換素子の両方が本実施形態の熱電変換素子からなる。両方の熱電変換素子を同一材料系で構成することで両者の熱膨張率を揃えることができ、その結果、温度差が生じた際の応力発生及びそれによる特性や信頼性の劣化を防ぐことができる。
【0060】
熱電変換モジュールは、好適には熱電発電モジュール又は熱電冷却モジュールである。モジュールの上下方向に温度差を設けることで、この温度差に見合っただけの電気を取り出すことができ、モジュールを熱電発電モジュールとして機能させることが可能である。逆に、モジュールに電流を流すことで、モジュールの上下に温度差を設けることができ、これを用いて、モジュールを熱電冷却モジュールとして機能させることができる。
【0061】
本実施形態の熱電変換モジュールは、機械的な稼働部が無いため信頼性が高くメンテナンスフリーであるとともに、動作音が静かである。またエネルギー変換時に廃棄物を出さないといった利点を有する。その上、成分元素の組み合わせが豊富であるとともに、有害・希少元素を含まない。さらに機械的強度が高く、高温でも安定的に使用可能である。そのため、この熱電変換モジュールは、工場や自動車等から排出される排熱を熱源とする発電装置、体温を熱源とするウェアラブルデバイスの発電装置、人工衛星や宇宙探査機等の発電装置、あるいは各種冷却装置として期待がもたれる。
【0062】
<<4.熱電変換材料の製造方法>>
本実施形態の熱電変換材料は、上述した要件を満足する限り、その製造方法は限定されない。しかしながら好適な製造方法は、以下の工程;マグネシウム(Mg)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、及びアンチモン(Sb)を少なくとも含む混合原料を準備する工程(準備工程):この混合原料にメカニカルアロイング処理を施してメカニカルアロイング処理物を作製する工程(メカニカルアロイング工程):及びこのメカニカルアロイング処理物を加圧焼結する工程(焼結工程)を含む。また必要に応じて、得られた焼結体に後処理を施す工程(後処理工程)を設けてもよい。各工程について以下に詳細に説明する。
【0063】
<準備工程>
準備工程では、マグネシウム(Mg)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、及びアンチモン(Sb)を少なくとも含む混合原料を準備する。混合原料は、熱電変換材料の構成元素(Mg,V,Ni,Sb,及び必要に応じてTe及び/又はSn)を含み、原料(Mg源,V源,Ni源,Sb源,Te源,Sn源)から作製される。原料混合物は、構成元素を含む限り、その形態は限定されない。しかしながら、構成元素を含む溶融凝固物を含むことが好ましい。溶融凝固物では構成元素が比較的均一に分布している。溶融凝固物を含む混合原料を用いることで、最終的に得られる熱電変換材料の組成分布の均一性を確保することができる。また、混合原料の作製手法は限定されない。しかしながら、原料の溶融工程を含む方法が好ましい。例えば、下記第1~第3の態様が挙げられ、この中でも、特にハーフホイスラー型化合物の単相を得やすい第1又は第2の態様が好ましい。
【0064】
第1の態様では、混合原料を準備する際に、マグネシウム(Mg)源、バナジウム(V)源、ニッケル(Ni)源、及びアンチモン(Sb)源を溶融及び凝固して溶融凝固物を作製し、得られた溶融凝固物にさらにマグネシウム(Mg)源を混合し、溶融凝固物とマグネシウム(Mg)源の混合物を混合原料として用いる。必要に応じて、溶融工程前の原料及び/又は溶融工程後の溶融凝固物にテルル(Te)源及び/又はスズ(Sn)源を加えてもよい。
【0065】
熱電変換材料の構成成分のうち、マグネシウム(Mg)は易揮発性の成分である。そのため高温溶融時に揮発して最終的に得られる材料の組成がMg欠乏組成となり易い。溶融工程前の原料にMg源を加えるとともに、溶融工程後に得られた溶融凝固物にMg源を追加で加えることで、所望組成の材料を容易に得ることができる。また最終的に得られる熱電変換材料の組成及び組織の均一化を図ることが可能となる。
【0066】
マグネシウム(Mg)源、バナジウム(V)源、ニッケル(Ni)源、アンチモン(Sb)源、テルル(Te)源、及びスズ(Sn)源として、公知の溶融原料を用いることができる。例えば、各構成元素(Mg、V、Ni、Sb、Te、Sn)を単味で含む粉末やペレット、あるいは複数種の構成元素を組み合わせて含む粉末やペレットを挙げることができる。
【0067】
原料(Mg源等)の溶融は公知の手法で行えばよい。例えば、坩堝に装入した原料に対して、抵抗加熱、高周波誘導加熱、アーク放電、プラズマ加熱、パルス通電、または電子ビーム加熱等による加熱処理を施せばよい。原料の酸化を防ぐために、不活性ガス雰囲気下又は減圧下で溶融することが好ましい。溶融温度は、原料が溶融する範囲において限定されない。しかしながら、溶融温度が過度に高温であると、原料の揮発が進行して、材料の組成ズレが生じる恐れがある。溶融温度は1000℃以上3000℃以下が好ましい。また溶融時の溶湯に対して機械的又は電磁的な撹拌を加えてもよい。溶融後に溶湯を冷却して溶融凝固物を得る。そして、得られた溶融凝固物に対してマグネシウム(Mg)源を加える。Mg源の添加量は、所望組成の熱電変換材料が得られるように調整すればよい。
【0068】
第2の態様では、混合原料を準備する際に、バナジウム(V)源、ニッケル(Ni)源、及びアンチモン(Sb)源を溶融及び冷却して溶融凝固物を作製し、得られた溶融凝固物にさらにマグネシウム(Mg)源を混合し、溶融凝固物とマグネシウム(Mg)源の混合物を混合原料として用いる。必要に応じて、溶融工程前の原料及び/又は溶融工程後の溶融凝固物にテルル(Te)源及び/又はスズ(Sn)源を加えてもよい。
【0069】
第2の態様では、溶融工程前の原料にマグネシウム(Mg)源を加えず、溶融工程後に得られた溶融凝固物にMg源を加える。Mgの揮発を効果的に抑えることができるため、所望組成の材料を容易に得ることができる。また最終的に得られる熱電変換材料の組成及び組織の均一化を図ることが可能となる。なお原料の種類や溶融条件は第1の態様に準じる。
【0070】
第3の態様では、混合原料を準備する際に、マグネシウム(Mg)源、バナジウム(V)源、ニッケル(Ni)源、及びアンチモン(Sb)源を溶融及び冷却して溶融凝固物を作製し、得られた溶融凝固物を混合原料として用いる。必要に応じて、溶融工程前の原料及び/又は溶融工程後の溶融凝固物にテルル(Te)源及び/又はスズ(Sn)源を加えてもよい。
【0071】
第3の態様では、溶融工程前の原料にマグネシウム(Mg)源の全てを加え、溶融工程後に得られた溶融凝固物には加えない。溶融工程でMgが揮発するため、揮発分を見込んでMg源を多めに配合することが望ましい。必要な配合量は溶融条件に応じて変化するため、これを一義的に決めることは困難である。しかしながら、例えば、最終組成中のMg量に対して0.5%以上10%以下の量で配合することが考えられる。なお原料の種類や溶融条件は第1の態様に準じる。
【0072】
<メカニカルアロイング工程>
メカニカルアロイング工程では、得られた混合原料にメカニカルアロイング処理を施してメカニカルアロイング処理物を作製する。メカニカルアロイング(MA)は、高エネルギーミルを用いて、金属粉末を粉砕混合し、それにより機械的に合金化する手法である。延性を有する金属粉末では、処理時に塑性変形と破断、及び新生面の圧着による凝集が繰り返し起こる。そのため成分の薄層からなる層状組織が形成され、処理の進行に伴い、層状組織は超微細化する。また機械的エネルギーの印加により金属粉末の温度が上昇する。層状組織の微細化及び温度上昇が複合的に作用して原子レベルでの合金化が起こり、それにより均一な合金(金属間化合物)相を得ることが可能となる。特に、本実施形態の熱電変換材料(ハーフホイスラー型化合物)は融点及び比重の異なる構成成分を含むが故に、溶融工程のみで単相を得ることは困難である。溶融後にメカニカルアロイング処理を施すことで均質な単相金属間化合物相を得ることができる。
【0073】
メカニカルアロイング処理に用いるミルは、高エネルギーミルであれば限定されない。例えば、アトライター、遊星ボールミル、及び振動ボールミルが挙げられる。処理は、合金化が十分に進行する条件で行えばよい。例えば、遊星ボールミルを用いる場合は、自転回転数及び公転回転数を300rpm以上1200rpm以下とし、10分以上50時間以下の処理を行えばよい。
【0074】
<焼結工程>
焼結工程では、メカニカルアロイング処理物を加圧焼結する。焼結工程を経ることで、緻密な焼結体からなる熱電変換材料を得ることができる。またメカニカル処理工程後に異相が残存したとしても、焼結時に合金化が進行し、異相量の少ない金属間化合物相を得ることが可能である。
【0075】
加圧焼結は、公知の手法で行えばよい。例えば、ホットプレス(HP)、熱間等方圧プレス(HIP)、パルス通電焼結(Pulsed Electric Current Sintering;PECS)装置などの加圧焼結装置を用いて行えばよい。限定されるものではないが、例えば、20MPa以上100MPa以下の圧力を印加し、800K以上1300K以下の温度で2分以上120分以下の条件で焼結すればよい。
【0076】
<後処理工程>
必要に応じて、得られた焼結体に後処理を施してもよい。例えば、焼結体に研削加工や研磨加工などの加工を施して、寸法を調整してもよい。また焼結体の酸化を防ぐために、その表面に保護層を設けてもよい。
【0077】
このようにして本実施形態の熱電変換材料を製造することができる。
【実施例0078】
本発明を、以下の実施例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
[実験例A]
実験例Aでは、Mg2VNi3Sb3組成(p=q=0)の熱電変換材料を異なる方法で作製し、その評価を行った。具体的には以下の手順にしたがって試料を作製した。
【0080】
(1)熱電変換材料の作製
[実施例1](p=q=0,第1の態様)
<準備工程>
原料であるマグネシウム(Mg):0.393g、バナジウム(V):0.398g、ニッケル(Ni):1.374g、及びアンチモン(Sb):2.851gを混合し、アーク炉で溶融した。試料の一様性を高めるため、溶融後に凝固した試料を裏返して再度溶融させる手順を3回繰り返した。次いで、取り出した溶融凝固物をグローブボックス内に入れ、マグネシウム(Mg):0.085gを更に加えて混合原料とした。
【0081】
<メカニカルアロイング処理工程>
次いで、得られた混合原料をタングステンカーバイド製ボールミル容器に封入した。封入後のボールミル容器を遊星型ボールミル装置にセットし、自転及び公転回転数600rpmの条件で10時間粉砕して機械合金化した。
【0082】
<焼結工程>
次いで、ボールミル容器から取り出した粉末試料を、パルス通電焼結(PECS)装置を用いて加圧焼結した。加圧焼結は、真空雰囲気中873Kの温度で、試料に対して30MPaの圧力を20分間加えて行った。このようにして焼結体からなる熱電変換材料の多結晶試料を作製した。
【0083】
[実施例2](p=q=0,第2の態様)
準備工程で、原料であるバナジウム(V):0.398g、ニッケル(Ni):1.374g、及びアンチモン(Sb):2.851gを混合し、アーク炉で溶融した。試料の一様性を高めるため、溶融後に凝固した試料を裏返して再度溶融させる手順を3回繰り返した。次いで、取り出した溶融凝固物をグローブボックス内に入れ、マグネシウム(Mg):0.384gを加えて混合原料とした。それ以外は実施例1と同様にして熱電変換材料の多結晶試料を作製した。
【0084】
[実施例3](p=q=0,第3の態様)
準備工程で、原料であるマグネシウム(Mg):0.379g、バナジウム(V):0.397g、ニッケル(Ni):1.374g、及びアンチモン(Sb):2.850gを混合し、アーク炉で溶融した。試料の一様性を高めるため、溶融後に凝固した試料を裏返して再度溶融させる手順を3回繰り返した。これにより溶融凝固物からなる混合原料を得た。それ以外は実施例1と同様にして熱電変換材料の多結晶試料を作製した。
【0085】
(2)熱電変換材料の評価
実施例1~3で得られた試料(熱電変換材料)につき、各種特性の評価を以下に示すとおりに行った。
【0086】
<密度>
密度をアルキメデス法により測定した。
【0087】
<XRD>
試料を粉末X線回折法にて分析して生成相を評価した。分析は、焼結した試料表面を研磨し、研磨面にX線を照射することで行った。またX線回折測定は以下の条件で行った。
【0088】
‐X線回折装置:株式会社リガク,MiniFlex600
‐線源:CuKα
‐管電圧:40kV
‐管電流:15mA
‐スキャン速度:2°/分
‐スキャン範囲:20°~80°
【0089】
<SEM-EDS>
試料の微細構造を、走査型電子顕微鏡(SEM;Thermo Fisher Scientific,Helios 5 Hydra DualBeam)を用いて調べた。また顕微鏡付属のエネルギー分散型X線分析装置(EDS;Oxford Instruments,Ultim Max170)を用いて元素マッピング像を求めて元素分析を行った。具体的には、倍率:500~20000倍、電圧:10~30kV、及び電流:1.6~3.2nAの条件で観察及び分析を行った。
【0090】
<熱電特性>
予め決められた温度域(およそ300K(室温)からおよそ900Kまで)における熱電特性(ゼーベック係数S、電気抵抗率ρ、熱伝導率κtotal)を測定した。ゼーベック係数Sは、熱電特性評価装置(アドバンス理工株式会社,ZEM-3シリーズ)を用いて以下の手順で求めた。すなわち熱電変換材料に温度勾配ΔTを設け、これにより生じる熱起電力VEを測定した。そして下記(4)式にしたがってゼーベック係数Sを算出した。なお下記(4)式においてSwireは熱起電力測定に用いた金属プローブの絶対ゼーベック係数である。
【0091】
【0092】
電気抵抗率ρは熱電特性評価装置(アドバンス理工株式会社,ZEM-3シリーズ)を用いて四端子法で測定した。そして、電気抵抗率ρを用いて、下記(5)式にしたがって導電率σを求めた。
【0093】
【0094】
熱拡散率Dをフラッシュアナライザー(NETZSCH社,LFA467 HyperFlash)を用いてフラッシュ法で測定した。得られた熱拡散率D、定圧比熱Cp、およびアルキメデス法で測定した密度dを用いて、下記(6)式にしたがって熱伝導率κtotalを求めた。
【0095】
【0096】
また導電率σを用いて下記(7)式にしたがって電子熱伝導率κelを算出し、さらに熱伝導率κtotalと電子熱伝導率κelを用いて下記(8)式の関係に基づき格子熱伝導率κlatを求めた。なお下記(7)式において、Lはローレンツ数、Tは絶対温度である。
【0097】
【0098】
次いで、ゼーベック係数S、導電率σ、及び熱伝導率κtotalを用いて下記(9)式にしたがってパワーファクターPF及び熱電性能指数zTを求めた。
【0099】
【0100】
<耐熱性>
決められた温度域(およそ300K(室温)からおよそ900Kまで)において熱電特性の測定を繰り返して行い、試料の耐熱性を評価した。また熱重量示差熱分析測定装置(TG/DTA;株式会社島津製作所,DTG-60)を用いて昇温過程と冷却過程のそれぞれでの熱分析を行った。
【0101】
(3)評価結果
<密度>
実施例1で得られた試料の密度は6.605g/cm3であった。格子定数から求めた理論密度(6.61g/cm3)を用いて相対密度を算出すると、その値は95%以上であった。また実施例2(密度:6.78g/cm3)及び実施例3(密度:6.67g/cm3)で得られた試料は、その密度が6.5g/cm3以上、相対密度が95%以上であった。
【0102】
<XRD>
実施例1~3で得られた試料(熱電変換材料)のX線回折(XRD)パターンを
図5に示す。実施例1及び2の試料は、ハーフホイスラー型化合物Mg
2VNi
3Sb
3の単相からなることを確認した。すなわち全ての回折ピークがハーフホイスラー相(HH相)に由来すると同定され、また第二相(異相)に由来するピークは検出限界未満であった。HH相に由来するメインピークのピーク強度(I
HH)に対する異相由来のメインピークのピーク強度(I
HP)の比(I
HP/I
HH)が0.00であった。一方で実施例3ではハーフホイスラー相に由来するピークが強く観察されるものの、それ以外に第二相(異相)のピークが観察された。具体的には、I
HP/I
HHが0.28であった。
【0103】
<SEM-EDS>
実施例2で得られた試料の元素マッピング像を
図6に示す。観察範囲において、全ての元素(Mg、V、Ni、Sb)が一様に分散しており、析出物や第二相(異相)は存在していなかった。
【0104】
<熱電特性>
実施例1~3の試料のゼーベック係数S、パワーファクターPF、熱伝導率κ
total、格子熱伝導率κ
lat、及び熱電性能指数zTのそれぞれを
図6~
図10に示す。
【0105】
いずれの試料もゼーベック係数Sが正の値を示しており(
図6)、このことから試料がP型の半導体特性を示すことが分かった。図示はしないが、いずれの試料も温度上昇に伴い導電率σが高くなっており、これから試料が半導体特性を示すことが分かった。さらにいずれの試料も測定温度範囲内で熱伝導率κ
totalが6W/(Km)以下、格子熱伝導率κ
latが4W/(Km)以下であった(
図8及び
図9)。熱電性能指数PFおよびzTは、実施例1及び2の試料で高かった(
図7、
図10)。特に実施例1の熱電性能指数PFおよびzTは高く、約700Kで最大値をとり、そのときのそれぞれの値は0.9mW/(mK
2)及び0.15を超えていた。図示はしないものの、実施例3の試料は熱電性能指数zTおよびPFは低かった。その理由として、異相の存在や母組成のずれが考えられた。
【0106】
<耐熱性>
実施例1の試料につき、約300Kから約900Kの温度範囲においてパワーファクターPFの繰り返し試験を行った結果を
図11に示す。また実施例2の試料につき約300Kから約1000Kの温度範囲における熱分析結果を
図12に示す。
【0107】
パワーファクターPFの繰り返し試験結果では、1回目の測定結果と2回目の測定結果に殆ど差異が見られなかった(
図11)。また熱分析の結果、反応や相変化に伴うピークは観測されず、冷却後の熱流の値は昇温開始前の値とほぼ同一であった(
図12)。このことから、本実施形態の熱電変換材料は約1000Kにまで加熱しても変質せず、耐熱性に優れることが分かった。
【0108】
[実験例B]
実験例Bでは、組成を変更した熱電変換材料を作製し、その評価を行った。具体的には以下の手順にしたがって試料を作製した。
【0109】
(1)熱電変換材料の作製
[実施例4,5,7](p=0.05~0.3,q=0,第2の態様)
準備工程で、原料(Mg、V、Ni、及びSb)配合量を下記表1に示されるように変更した。それ以外は実施例2と同様にして熱電変換材料の多結晶試料を作製した。
【0110】
[実施例6](p=0.2,q=0,第2の態様)
準備工程で、原料(Mg、V、Ni、及びSb)配合量を下記表1に示されるように変更した。焼結条件は873Kで1時間とした。それ以外は実施例2と同様にして熱電変換材料の多結晶試料を作製した。
【0111】
[実施例8~10](p=0,q=0.01~0.3,M=Te,第2の態様)
準備工程で、マグネシウム(Mg)とともにドーパントとしてテルル(Te)を溶融凝固物に加えた。また原料(Mg、V、Ni、Sb、及びTe)配合量を下記表1に示されるように変更した。それ以外は実施例2と同様にして熱電変換材料の多結晶試料を作製した。
【0112】
[実施例11](p=0.1,q=0.3,M=Te,第2の態様)
準備工程で、マグネシウム(Mg)とともにドーパントとしてテルル(Te)を溶融凝固物に加えた。また原料(Mg、V、Ni、Sb、及びTe)配合量を下記表1に示されるように変更した。それ以外は実施例2と同様にして熱電変換材料の多結晶試料を作製した。
【0113】
[実施例12](p=0,q=0.3、M=Sn,第2の態様)
準備工程で、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)及びアンチモン(Sb)を混合する際にドーパントとしてスズ(Sn)を加えた。また原料(Mg、V、Ni、Sb、及びSn)配合量を下記表1に示されるように変更した。それ以外は実施例2と同様にして熱電変換材料の多結晶試料を作製した。
【0114】
[実施例13](p=0.1,q=0.3,M=Te,第2の態様)
準備工程で、マグネシウム(Mg)とともにドーパントとしてテルル(Te)を溶融凝固物に加えた。また原料(Mg、V、Ni、Sb、及びTe)配合量を下記表1に示されるように変更した。焼結条件は1073Kで1時間とした。それ以外は実施例2と同様にして熱電変換材料の多結晶試料を作製した。
【0115】
[実施例14](p=0,q=0.3、M=Sn,第2の態様)
準備工程で、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)及びアンチモン(Sb)を混合する際にドーパントとしてスズ(Sn)を加えた。また原料(Mg、V、Ni、Sb、及びSn)配合量を下記表1に示されるように変更した。焼結条件は1073Kで1時間とした。それ以外は実施例2と同様にして熱電変換材料の多結晶試料を作製した。
【0116】
(2)熱電変換材料の評価
実施例4~14で得られた試料(熱電変換材料)につき、X線回折分析(XRD)と熱電特性の評価を実験例Aと同様にして行った。
【0117】
(3)評価結果
<密度>
実施例4~9で得られた試料の密度は、それぞれ6.78g/cm3(実施例4)、6.735g/cm3(実施例5)、6.961g/cm3(実施例6)、6.512g/cm3(実施例7)、6.825g/cm3(実施例8)、及び6.812g/cm3(実施例9)であった。
【0118】
<XRD>
図示はしないが、実施例4~14で得られた試料のX線回折(XRD)パターンでは、いずれの試料でもハーフホイスラー(HH)相に由来するピークが最も強く観察された。具体的には、HH相に由来するメインピークのピーク強度(IHH)に対する異相由来のメインピークのピーク強度(IHP)の比(IHP/IHH)が0.04~0.24であった。
【0119】
<熱電特性>
実施例4~14で得られた試料のゼーベック係数S、格子熱伝導率κ
lat、及び熱電性能指数zTを
図13~
図16に示す。
【0120】
バナジウム過剰量pやドーパント量qを変更すると、ゼーベック係数Sの値が正から負へと変化した(
図13及び
図14)。特に、V過剰組成(q>0.1)の試料(実施例5~6)またはTe添加組成(q>0.1)の試料(実施例11及び13)ではゼーベック係数が負の値を示し、N型の半導体的性質を示すことが分かった。このことから、バナジウム過剰量pやドーパント量qを調整することで、熱電変換材料の半導体特性をP型からN型へ制御できることが分かった。
【0121】
測定を行ったいずれの試料(実施例4,8,9,13,14)も熱伝導率κ
total及び格子熱伝導率κ
latが低かった(
図15及び
図16)。具体的には、700K以下の領域で熱伝導率κ
totalが6W/(Km)以下、格子熱伝導率κ
latが4W/(Km)以下であった。
【0122】
【0123】
(4)まとめ
以上の結果から、特定組成のハーフホイスラー型化合物を主成分とする本実施形態の熱電変換材料は、熱伝導率が低く、室温から500℃の温度範囲において優れた熱電効果を示すとともに、半導体特性をP型及びN型のいずれにも調整可能であることが分かった。
【0124】
特に、本実施形態の熱電変換材料はトリプルハーフホイスラー(THH)型化合物を主成分として含むが故に、熱伝導率、特に格子熱伝導率が顕著に小さい。このことを、
図17を用いて説明する。
図17は本実施形態のトリプルハーフホイスラー(THH)型化合物(実施例1)の300Kまたは700Kにおける格子熱伝導率κ
l atを、従来のハーフホイスラー(HH)型化合物及びダブルハーフホイスラー(DHH)型化合物の格子熱伝導率κ
latと対比して示す。
【0125】
本実施形態のトリプルハーフホイスラー型化合物は、その格子熱伝導率κlatが従来のハーフホイスラー型化合物及びダブルハーフホイスラー型化合物に比べて顕著に小さい。例えば、300Kにおける格子熱伝導率を見ると、従来のハーフホイスラー型化合物では最小でも7W/(mK)程度であるのに対して、本実施形態のトリプルハーフホイスラー型化合物は2W/(mK)程度である。
【0126】
このように、熱伝導率が顕著に小さいトリプルハーフホイスラー(THH)型化合物を主成分とする本実施形態の熱電変換材料は、優れた熱電特性を示す材料としてポテンシャルが高いと言うことができる。