IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士フイルム株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-光走査装置及び異常検知方法 図1
  • 特開-光走査装置及び異常検知方法 図2
  • 特開-光走査装置及び異常検知方法 図3
  • 特開-光走査装置及び異常検知方法 図4
  • 特開-光走査装置及び異常検知方法 図5
  • 特開-光走査装置及び異常検知方法 図6
  • 特開-光走査装置及び異常検知方法 図7
  • 特開-光走査装置及び異常検知方法 図8
  • 特開-光走査装置及び異常検知方法 図9
  • 特開-光走査装置及び異常検知方法 図10
  • 特開-光走査装置及び異常検知方法 図11
  • 特開-光走査装置及び異常検知方法 図12
  • 特開-光走査装置及び異常検知方法 図13
  • 特開-光走査装置及び異常検知方法 図14
  • 特開-光走査装置及び異常検知方法 図15
  • 特開-光走査装置及び異常検知方法 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023163946
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】光走査装置及び異常検知方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
G02B26/10 104Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075198
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 昌昭
(72)【発明者】
【氏名】直野 崇幸
(72)【発明者】
【氏名】西浦 洋輔
【テーマコード(参考)】
2H045
【Fターム(参考)】
2H045AB13
2H045AB38
2H045AB44
2H045AB81
2H045BA13
2H045BA14
(57)【要約】
【課題】ミラーの異常動作を動作中に高速に検知することを可能とする光走査装置及び異常検知方法を提供する。
【解決手段】本開示の光走査装置は、光を反射する反射面を有し、少なくとも1つの軸周りに揺動可能なミラーと、ミラーを揺動させるアクチュエータと、ミラーの揺動により起電力を発生して出力する圧電素子と、を含むマイクロミラーデバイスと、アクチュエータの動作を制御する制御装置と、圧電素子からの出力信号の時間的な変動量に基づいて、ミラーの異常動作を検知する異常検知装置と、を備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を反射する反射面を有し、少なくとも1つの軸周りに揺動可能なミラーと、前記ミラーを揺動させるアクチュエータと、前記ミラーの揺動により起電力を発生して出力する圧電素子と、を含むマイクロミラーデバイスと、
前記アクチュエータの動作を制御する制御装置と、
前記圧電素子からの出力信号の時間的な変動量に基づいて、前記ミラーの異常動作を検知する異常検知装置と、
を備える光走査装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記アクチュエータを駆動することにより、一定の揺動周期で前記ミラーを共振させる、
請求項1に記載の光走査装置。
【請求項3】
前記異常検知装置は、前記揺動周期の10%より小さい時間間隔において前記出力信号が変動する量を前記変動量として検出する、
請求項2に記載の光走査装置。
【請求項4】
前記異常検知装置は、前記揺動周期の10%より小さく、かつ0.05%より大きい時間間隔において前記出力信号が変動する量を前記変動量として検出する、
請求項2に記載の光走査装置。
【請求項5】
前記異常検知装置は、前記変動量を検出する検出部と、前記変動量の閾値以上であるか否かを判定する判定部とを含む、
請求項2に記載の光走査装置。
【請求項6】
前記検出部は、
前記圧電素子から出力された前記出力信号を一定時間遅延させる遅延回路と、
前記圧電素子から出力された前記出力信号と、前記遅延回路により遅延された前記出力信号との差を増幅して出力する差動増幅回路と、
で構成されている、
請求項5に記載の光走査装置。
【請求項7】
前記判定部は、コンパレータである、
請求項6に記載の光走査装置。
【請求項8】
前記ミラーは、互いに直交する第1軸及び第2軸の周りに揺動可能であり、
前記圧電素子は、前記ミラーの前記第1軸又は前記第2軸の周りの揺動により前記起電力を発生する、
請求項2に記載の光走査装置。
【請求項9】
光を反射する反射面を有し、少なくとも1つの軸周りに揺動可能なミラーと、前記ミラーを揺動させるアクチュエータと、前記ミラーの揺動により起電力を発生して出力する圧電素子と、を含むマイクロミラーデバイスと、
前記アクチュエータの動作を制御する制御装置と、
を備える光走査装置の異常検知方法であって、
前記圧電素子からの出力信号の時間的な変動量に基づいて、前記ミラーの異常動作を検知すること、
を含む異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、光走査装置及び異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン(Si)の微細加工技術を用いて作製される微小電気機械システム(Micro Electro Mechanical Systems:MEMS)デバイスの1つとしてマイクロミラーデバイス(マイクロスキャナともいう。)が知られている。マイクロミラーデバイスには、ミラーと、ミラーを揺動させるアクチュエータとが形成されている。このマイクロミラーデバイスは、小型かつ低消費電力であることから、LiDAR(Light Detection and Ranging)、HUD(Head-Up Display)などのレーザスキャナに用いられている。
【0003】
LiDAR、HUD等のレーザスキャナでは、ユーザの安全性を確保することが重要である。例えば、光源からのレーザ光の出力がオンの状態でミラーの動作が停止すると、レーザ光が同じ位置に連続的に照射されるので、危険である。そのため、ミラーの異常動作を動作中に高速に検知することが求められる。
【0004】
特許文献1には、アクチュエータとしての駆動用圧電部に流れる電流に基づいて異常を検知することが記載されている。また、特許文献1には、駆動用圧電部とは別に設けられた検知用圧電部により異常を検知することが記載されている。
【0005】
特許文献2,3には、マイクロミラーデバイスに異常検知用の圧電素子により検出したミラーの振幅に基づいて異常を検知することが記載されている。
【0006】
特許文献4には、ミラーの状態を検知するセンサを設け、ミラーの走査位置と駆動電圧との位相差、又はミラーの最大走査角(すなわち振幅)に基づいて検知することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-134391号公報
【特許文献2】特開2015-132762号公報
【特許文献3】特開2016-080978号公報
【特許文献4】特開平06-123845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の検知方法では、駆動用圧電部又は検知用圧電部に流れる電流に基づいて異常を検知するので、圧電部のショート以外の異常を検出することはできないと考えられる。また、特許文献2,3に記載の検知方法では、ミラーの振幅を検出するために1揺動周期分の波形を取得して評価する必要があるので、ミラーの異常動作を高速に検知することはできない。特許文献4に記載の検知方法についても同様に、位相差又は振幅を検出するためには1揺動周期分の波形を取得して評価する必要があるので、ミラーの異常動作を高速に検知することはできない。
【0009】
本開示の技術は、ミラーの異常動作を動作中に高速に検知することを可能とする光走査装置及び異常検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本開示の光走査装置は、光を反射する反射面を有し、少なくとも1つの軸周りに揺動可能なミラーと、ミラーを揺動させるアクチュエータと、ミラーの揺動により起電力を発生して出力する圧電素子と、を含むマイクロミラーデバイスと、アクチュエータの動作を制御する制御装置と、圧電素子からの出力信号の時間的な変動量に基づいて、ミラーの異常動作を検知する異常検知装置と、を備える。
【0011】
制御装置は、アクチュエータを駆動することにより、一定の揺動周期でミラーを共振させることが好ましい。
【0012】
異常検知装置は、揺動周期の10%より小さい時間間隔において出力信号が変動する量を変動量として検出することが好ましい。
【0013】
異常検知装置は、揺動周期の10%より小さく、かつ0.05%より大きい時間間隔において出力信号が変動する量を変動量として検出することが好ましい。
【0014】
異常検知装置は、変動量を検出する検出部と、変動量の閾値以上であるか否かを判定する判定部とを含むことが好ましい。
【0015】
検出部は、圧電素子から出力された出力信号を一定時間遅延させる遅延回路と、圧電素子から出力された出力信号と、遅延回路により遅延された出力信号との差を増幅して出力する差動増幅回路と、で構成されていることが好ましい。
【0016】
判定部は、コンパレータであることが好ましい。
【0017】
ミラーは、互いに直交する第1軸及び第2軸の周りに揺動可能であり、圧電素子は、ミラーの第1軸又は第2軸の周りの揺動により起電力を発生することが好ましい。
【0018】
本開示の異常検知方法は、光を反射する反射面を有し、少なくとも1つの軸周りに揺動可能なミラーと、ミラーを揺動させるアクチュエータと、ミラーの揺動により起電力を発生して出力する圧電素子と、を含むマイクロミラーデバイスと、アクチュエータの動作を制御する制御装置と、を備える光走査装置の異常検知方法であって、圧電素子からの出力信号の時間的な変動量に基づいて、ミラーの異常動作を検知すること、を含む。
【発明の効果】
【0019】
本開示の技術によれば、ミラーの異常動作を動作中に高速に検知することを可能とする光走査装置及び異常検知方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】光走査装置の模式図である。
図2】マイクロミラーデバイスの概略図である。
図3】可動ミラーの第1振れ角ついて説明する図である。
図4】可動ミラーの第2振れ角ついて説明する図である。
図5】第1アクチュエータ及び第2アクチュエータに与える駆動信号の一例を示す図である。
図6】異常検知装置の構成の一例を示すブロック図である。
図7】可動ミラーが正常に動作している場合における出力信号、遅延信号、及び変動量の一例を模式的に示す図である。
図8】可動ミラーに異常動作が生じた場合における出力信号、遅延信号、及び変動量の一例を模式的に示す図である。
図9】実験に用いた4種類の波形を示す図である。
図10】光学的方法の一例を示す図である。
図11】評価結果を示す図である。
図12】Δt/T=0.5%の場合における変動量の波形を示す図である。
図13】Δt/T=15%の場合における変動量の波形を示す図である。
図14】Δt/T=0.01%の場合における変動量の波形を示す図である。
図15】出力信号に基づく従来の判定方法による判定例を示す図である。
図16】出力信号に基づく従来の判定方法による判定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
添付図面に従って本開示の技術に係る実施形態の一例について説明する。
【0022】
図1は、一実施形態に係る光走査システム10を模式的に示す。光走査システム10は、光走査装置2と光源3とを含む。光走査装置2は、マイクロミラーデバイス(以下、MMD(Micro Mirror Device)という。)4と、制御装置5と、異常検知装置6とで構成されている。光走査システム10は、LiDAR、HUDなどのレーザスキャナに用いられる。
【0023】
光走査装置2は、制御装置5の制御に従って、光源3から入射するレーザ光LをMMD4で反射することにより、光走査を行う。光走査システム10がLiDARに用いられる場合には、光走査装置2は、例えば、レーザ光Lをヘリカル状に走査する。本実施形態では、光走査のパターンをヘリカル状とするが、光走査のパターンは、ヘリカル状に限られず、リサージュ状、ラスター状などであってもよい。
【0024】
MMD4は、第1軸aと、第1軸aに直交する第2軸aとの周りに、可動ミラー20(図2参照)を揺動させることを可能とする圧電型2軸駆動方式のマイクロミラーデバイスである。以下、第1軸aと平行な方向をX方向、第2軸aと平行な方向をY方向、第1軸a及び第2軸aに直交する方向をZ方向という。
【0025】
光源3は、レーザ光Lを発するレーザ装置である。光源3は、MMD4の可動ミラー20が静止した状態において、可動ミラー20が備える反射面20A(図2参照)に垂直にレーザ光Lを照射する。レーザ光Lは、本開示の技術に係る「光」の一例である。
【0026】
制御装置5は、光源3及びMMD4にそれぞれ駆動信号を入力する。光源3は、入力された駆動信号に基づいてレーザ光Lを発生してMMD4に照射する。MMD4は、入力された駆動信号に基づいて、可動ミラー20を第1軸a及び第2軸aの周りに揺動させる。
【0027】
詳しくは後述するが、制御装置5は、可動ミラー20を第1軸a及び第2軸aの周りにそれぞれ共振させる。これにより、可動ミラー20で反射されるレーザ光Lは、平面上において円形を描くように走査される。
【0028】
詳しくは後述するが、異常検知装置6は、MMD4に角度センサとして設けられた圧電素子から出力される出力信号の時間的な変動量に基づいて、可動ミラー20の異常動作を動作中に検知する。
【0029】
次に、図2を用いてMMD4の構成の一例を説明する。図2は、MMD4の概略図である。
【0030】
MMD4は、可動ミラー20、第1アクチュエータ21、第2アクチュエータ22、支持枠23、第1支持部24、第2支持部25、接続部26、及び固定部27を有する。MMD4は、例えばSOI(Silicon On Insulator)基板をエッチング処理することにより形成されている。可動ミラー20は、本開示の技術に係る「ミラー」の一例である。
【0031】
可動ミラー20は、入射光を反射する反射面20Aを有する。反射面20Aは、可動ミラー20の一面に設けられた、例えば、金(Au)又はアルミニウム(Al)等の金属薄膜で形成されている。反射面20Aは、例えば円形である。
【0032】
支持枠23は、可動ミラー20を囲うように配置されている。第2アクチュエータ22は、可動ミラー20及び支持枠23を囲うように配置されている。第1アクチュエータ21は、可動ミラー20、支持枠23、及び第2アクチュエータ22を囲うように配置されている。
【0033】
第1支持部24は、可動ミラー20と支持枠23とを、第1軸a上で接続し、かつ可動ミラー20を第1軸a周りに揺動可能に支持している。第1軸aは、可動ミラー20が静止している場合の反射面20Aを含む平面内にある。例えば、第1支持部24は、第1軸aに沿って延伸したトーションバーである。
【0034】
第2支持部25は、支持枠23と第2アクチュエータ22とを、第2軸a上で接続し、かつ可動ミラー20及び支持枠23を第2軸a周りに揺動可能に支持している。第2軸aは、可動ミラー20が静止している場合の反射面20Aを含む平面内において第1軸aと直交する。
【0035】
接続部26は、第1アクチュエータ21と第2アクチュエータ22とを第1軸a上で接続している。また、接続部26は、第1アクチュエータ21と固定部27とを第1軸a上で接続している。
【0036】
固定部27は外形が矩形状であり、第1アクチュエータ21を取り囲んでいる。固定部27のX方向及びY方向への長さは、それぞれ、例えば1mm~10mm程度である。固定部27のZ方向への厚みは、例えば5μm~0.2mm程度である。
【0037】
第1アクチュエータ21及び第2アクチュエータ22は、それぞれ圧電素子を備えた圧電アクチュエータである。第1アクチュエータ21は、可動ミラー20に第1軸a周りの回転トルクを与える。第2アクチュエータ22は、可動ミラー20に第2軸a周りの回転トルクを与える。これにより、可動ミラー20は、第1軸a周り及び第2軸a周りに揺動する。
【0038】
第1アクチュエータ21は、XY面内において可動ミラー20、支持枠23、及び第2アクチュエータ22を囲む環状の薄板部材である。第1アクチュエータ21は、一対の第1可動部21A及び第2可動部21Bで構成されている。第1可動部21A及び第2可動部21Bは、それぞれ略半環状である。第1可動部21Aと第2可動部21Bとは、第1軸aに関して線対称となる形状であり、第1軸a上で接続されている。
【0039】
支持枠23は、XY面内において可動ミラー20を囲む環状の薄板部材である。
【0040】
第2アクチュエータ22は、XY面内において可動ミラー20及び支持枠23を囲む環状の薄板部材である。第2アクチュエータ22は、一対の第1可動部22A及び第2可動部22Bで構成されている。第1可動部22A及び第2可動部22Bは、それぞれ半環状である。第1可動部22Aと第2可動部22Bとは、第2軸aに関して線対称となる形状であり、第2軸a上で接続されている。
【0041】
第1アクチュエータ21において、第1可動部21A及び第2可動部21Bには、それぞれ圧電素子が設けられている。また、第2アクチュエータ22において、第1可動部22A及び第2可動部22Bには、それぞれ圧電素子が設けられている。
【0042】
また、MMD4は、圧電素子で構成された第1角度検出センサ31及び第2角度検出センサ32を有している。第1角度検出センサ31は、例えば、第1可動部21A上で、かつ接続部26の近傍に設けられている。第1角度検出センサ31は、可動ミラー20の第1軸a周りの揺動により起電力を発生して出力する。すなわち、第1角度検出センサ31は、可動ミラー20の第1軸a周りの角度に応じた信号を出力する。
【0043】
第2角度検出センサ32は、例えば、第1可動部22A上で、かつ第2支持部25の近傍に設けられている。第2角度検出センサ32は、可動ミラー20の第2軸a周りの揺動により起電力を発生して出力する。すなわち、第2角度検出センサ32は、可動ミラー20の第2軸a周りの角度に応じた信号を出力する。
【0044】
制御装置5は、第1角度検出センサ31及び第2角度検出センサ32から出力される信号に基づいて、第1アクチュエータ21及び第2アクチュエータ22に与える駆動信号を補正するフィードバック制御を行う。
【0045】
図3及び図4は、可動ミラー20が揺動する際の振れ角について説明する。図3は、可動ミラー20の第1軸a周りの振れ角(以下、第1振れ角という。)θを示す。図4は、可動ミラー20の第2軸a周りの振れ角(以下、第2振れ角という。)θを示す。
【0046】
図3に示すように、可動ミラー20の反射面20Aの法線Nが、YZ平面において傾斜する角度を第1振れ角θという。反射面20Aの法線Nが+Y方向に傾斜した場合には、第1振れ角θは正の値をとり、-Y方向に傾斜した場合には、第1振れ角θは負の値をとる。
【0047】
第1振れ角θは、制御装置5が第1アクチュエータ21に与える駆動信号(以下、第1駆動信号という。)により制御される。第1駆動信号は、例えば正弦波の交流電圧である。第1駆動信号は、第1可動部21Aに印加される駆動電圧波形V1A(t)と、第2可動部21Bに印加される駆動電圧波形V1B(t)とを含む。駆動電圧波形V1A(t)と駆動電圧波形V1B(t)は、互いに逆位相(すなわち位相差180°)である。
【0048】
図4に示すように、可動ミラー20の反射面20Aの法線Nが、XZ平面において傾斜する角度を第2振れ角θという。反射面20Aの法線Nが+X方向に傾斜した場合には、第2振れ角θは正の値をとり、-X方向に傾斜した場合には、第2振れ角θは負の値をとる。
【0049】
第2振れ角θは、制御装置5が第2アクチュエータ22に与える駆動信号(以下、第2駆動信号という。)により制御される。第2駆動信号は、例えば正弦波の交流電圧である。第2駆動信号は、第1可動部22Aに印加される駆動電圧波形V2A(t)と、第2可動部22Bに印加される駆動電圧波形V2B(t)とを含む。駆動電圧波形V2A(t)と駆動電圧波形V2B(t)は、互いに逆位相(すなわち位相差180°)である。
【0050】
図5は、第1アクチュエータ21及び第2アクチュエータ22に与える駆動信号の一例を示す。図5(A)は、第1駆動信号に含まれる駆動電圧波形V1A(t)及びV1B(t)を示す。図5(B)は、第2駆動信号に含まれる駆動電圧波形V2A(t)及びV2B(t)を示す。
【0051】
駆動電圧波形V1A(t)及びV1B(t)は、それぞれ下式(1A)及び下式(1B)により表される。
1A(t)=Asin(2πft) ・・・(1A)
1B(t)=Asin(2πft+π) ・・・(1B)
【0052】
ここで、tは時間である。fは駆動周波数である。Aは、振幅である。駆動電圧波形V1A(t)と駆動電圧波形V1B(t)との位相差は、π(すなわち180°)である。
【0053】
駆動電圧波形V2A(t)及びV2B(t)は、それぞれ下式(2A)及び下式(2B)により表される。
2A(t)=Asin(2πft+φ) ・・・(2A)
2B(t)=Asin(2πft+π+φ) ・・・(2B)
【0054】
ここで、Aは、振幅である。駆動電圧波形V2A(t)と駆動電圧波形V2B(t)との位相差は、π(すなわち180°)である。φは、駆動電圧波形V1A(t)と駆動電圧波形V2A(t)との位相差である。本実施形態では、可動ミラー20に歳差運動を行わせて、光走査のパターンをヘリカル状とするために、φ=90°とする。なお、振幅A,Aを、時間tに応じて変化させてもよい。
【0055】
本実施形態では、駆動周波数fを可動ミラー20の共振周波数とする。これにより、可動ミラー20は、一定の揺動周期Tで共振する。揺動周期Tは、T=1/fで表される。
【0056】
図6は、異常検知装置6の構成の一例を示す。異常検知装置6は、検出部40と判定部41とを有する。検出部40は、遅延回路42と差動増幅回路43とで構成されている。本実施形態では、異常検知装置6は、第1角度検出センサ31及び第2角度検出センサ32から制御装置5へ出力される出力信号のうち、第1角度検出センサ31から出力される出力信号を用いて異常検知を行う。以下、第1角度検出センサ31から出力される出力信号をS(t)と表記する。
【0057】
第1角度検出センサ31からの出力信号S(t)は、検出部40に入力される。具体的には、出力信号S(t)は、遅延回路42と差動増幅回路43とに入力される。遅延回路42は、入力された出力信号S(t)を一定時間Δtだけ遅延させて出力する。以下、遅延回路42から出力される信号を遅延信号S(t-Δt)という。以下、時間Δtを、遅延時間Δtという。遅延時間Δtは、揺動周期Tよりも短い。
【0058】
遅延回路42から出力される遅延信号S(t-Δt)は、差動増幅回路43に入力される。差動増幅回路43は、出力信号S(t)と遅延信号S(t-Δt)との差を増幅して出力する。すなわち、遅延回路42は、出力信号S(t)の位相を調整して遅延信号S(t-Δt)とする。以下、差動増幅回路43から出力される出力信号を、変動量ΔS(t)という。変動量ΔS(t)は、第1角度検出センサ31からの出力信号S(t)の時間的な変動量を表す。換言すると、変動量ΔS(t)は、揺動周期Tより小さい時間間隔において出力信号S(t)が変動する量を表す。
【0059】
差動増幅回路43から出力される変動量ΔS(t)は、判定部41に入力される。判定部41は、コンパレータにより構成されている。判定部41は、変動量ΔS(t)が閾値Vth以上であるか否かを判定し、判定結果を制御装置5へ出力する。ここで、変動量ΔS(t)が閾値Vth以上であるとは、変動量ΔS(t)の絶対値が閾値Vth以上であること、換言すると、ΔS(t)≧Vthであるか、又はΔS(t)≦-Vthであることをいう。
【0060】
制御装置5は、判定部41から出力される判定結果に応じて、光源3及びMMD4の動作を停止させる。具体的には、制御装置5は、判定部41により変動量ΔS(t)が閾値Vth以上であると判定された場合には、光源3及びMMD4の動作を停止させる。
【0061】
図7は、可動ミラー20が正常に動作している場合における出力信号S(t)、遅延信号S(t-Δt)、及び変動量ΔS(t)の一例を模式的に示す。図7(A)は、出力信号S(t)及び遅延信号S(t-Δt)の一例を示す。図7(B)は、変動量ΔS(t)の一例を示す。
【0062】
可動ミラー20が一定の揺動周期Tで共振している場合には、図7(A)に示すように、出力信号S(t)は、理想的には略正弦波となる。図7(A)において、出力信号S(t)は実線で示されており、遅延信号S(t-Δt)は破線で示されている。図7(B)に示す変動量ΔS(t)は、遅延時間Δtに対する出力信号S(t)の変動電圧ΔVに対応する。変動量ΔS(t)は、理想的には略正弦波となる。
【0063】
図8は、可動ミラー20に異常動作が生じた場合における出力信号S(t)、遅延信号S(t-Δt)、及び変動量ΔS(t)の一例を模式的示す。図8(A)は、出力信号S(t)及び遅延信号S(t-Δt)の一例を示す。図8(B)は、変動量ΔS(t)の一例を示す。
【0064】
図8に示すように、可動ミラー20に異常動作が生じた場合には、変動量ΔS(t)が大きく変化して閾値Vth以上となり、判定部41により可動ミラー20の動作が異常と判定される。
【0065】
なお、可動ミラー20の動作が正常であっても、出力信号S(t)は、ノイズ、クロストークなどが生じることにより、波形が乱れることがある。クロストークは、第1アクチュエータ21及び第2アクチュエータ22に与える駆動信号が混信すること、可動ミラー20の一方の軸周りの揺動が他方の軸周りの揺動に影響を与えることなどにより生じる。ノイズ、クロストークなどによる影響によらず、可動ミラー20の異常動作を正確に検知するには、遅延時間Δtを適切な範囲内に設定する必要がある。具体的には、揺動周期Tに対する遅延時間Δtの割合(Δt/T)を適切な範囲内に設定することが好ましい。
【0066】
例えば、Δt/T<10%と、上限値を規定することが好ましい。この場合、検出部40は、揺動周期Tの10%より小さい時間間隔において出力信号S(t)が変動する量を変動量ΔS(t)として検出する。また、0.05%<Δt/T<10%と、上限値及び下限値を規定することがさらに好ましい。この場合、検出部40は、揺動周期Tの10%より小さく、かつ0.05%より大きい時間間隔において出力信号S(t)が変動する量を変動量ΔS(t)として検出する。
【0067】
[実験による効果の検証]
上記のように構成された異常検知装置6を用いることにより、可動ミラー20の異常動作を動作中に高速に検知することが可能となる。この効果を検証するために、本出願人は、複数のMMD4を作製して実験を行った。
【0068】
具体的には、第1角度検出センサ31からの出力信号S(t)の波形の違いによる異常検知の精度を評価するために、4種類の波形A~Dを用いて実験を行った。4種類の波形A~Dは、可動ミラー20の構造、第1角度検出センサ31の配置等を変えることにより実現した。図9は、実験に用いた4種類の波形A~Dを示す。波形Aは、理想的な波形(すなわち正弦波)である。波形Bは、ノイズを含む波形である。波形Cは、クロストークを含む波形である。波形Dは、クロストーク及びノイズを含む波形である。
【0069】
作製したMMD4を、駆動周波数fを約1420Hzとして、可動ミラー20に歳差運動を行わせた状態で、上記の4種類の波形A~Dを有する出力信号S(t)を異常検知装置6に入力して異常検知の精度を評価した。揺動周期Tは、約704μsである。異常検知装置6では、遅延時間Δtを変化させることにより、複数の割合Δt/Tについて異常検知の精度を評価した。
【0070】
また、通常の環境下では異常動作が生じにくいため、負荷環境下でMMD4を動作させることにより異常動作を発生させた。負荷として、高温高湿度環境下でMMD4を駆動すること、外部からMMD4へ衝撃を印加すること、及び、高駆動電圧でMMD4を駆動することが含まれる。
【0071】
また、可動ミラー20の動作を光学的方法で直接計測することにより得られる計測値に基づく異常動作の判定結果を評価基準とした。図10は、光学的方法の一例を示す。図10に示すように、評価用光源50からコリメートレンズ51を介して可動ミラー20の反射面20Aに評価用レーザ光LEを照射し、反射面20Aによる反射光を、レンズ52,53を介して位置検出素子(PSD:Position Sensitive Detector)54に結像する。位置検出素子により得られる結像位置を、可動ミラー20の振れ角に変換する。なお、振れ角の変換精度を高めるために、MMD4に代えて、角度が既知の基準ミラーを設置し、角度と位置情報とを校正するキャリブレーションを実施することが好ましい。
【0072】
上記の光学的方法により可動ミラー20の振れ角(第1振れ角θ及び第2振れ角θ)を計測し、第1振れ角θと第2振れ角θとを合成した合成角を算出した。可動ミラー20が歳差運動を行っている場合には合成角は一定である。合成角が定常値から±10%の範囲を超えた場合に、異常動作が発生したと判定し、この判定した時間を基準時間とした。
【0073】
異常検知装置6による異常検知の精度を複数の評価項目について評価した。本実験で用いた評価項目は、「検知時間」、「検知漏れ」、及び「誤検知」である。検知時間は、異常動作を検知した時間(異常検知時間)に関する評価項目である。検知漏れは、異常動作を検知できたか否かに関する評価項目である。誤検知は、動作開始から異常動作が発生するまでの間に、異常動作と誤検知したか否かに関する評価項目である。
【0074】
図11は、評価結果を示す。実施例1~7は、本実施形態の異常検知装置6を用いた異常検知の実験例であり、それぞれ遅延時間Δtの設定値が異なることにより割合Δt/Tが異なる。比較例1,2は、本実施形態の異常検知装置6は用いずに、従来の出力信号S(t)に基づく判定方法を用いた異常検知の実験例である。
【0075】
検知時間の評価結果において、Pは、100個のサンプルを用いて実験を行った結果、最も遅い異常検知時間(ワースト検知時間)が、上記の基準時間より前であったことを表している。F1は、ワースト検知時間が基準時間よりも遅く、かつ基準時間から500μs未満であったことを表している。F2は、ワースト検知時間が基準時間よりも遅く、かつ基準時間から500μs以上であったことを表している。
【0076】
検知漏れの評価結果において、Pは、100個のサンプルを用いて実験を行った結果、全てのサンプルについて異常動作を検知することができたこと、すなわち検知漏れがなかったことを表している。Fは、少なくとも1つのサンプルについて異常動作を検知することができなかったこと、すなわち検知漏れがあったことを表している。
【0077】
誤検知の評価結果において、Pは、100個のサンプルを用いて実験を行った結果、誤検知したサンプル数を全サンプル数で割った値(誤検知率)が10%未満であったことを表している。F1は、誤検知率が50%未満であったことを表している。F2は、誤検知率が50%以上であったことを表している。
【0078】
検知時間の評価結果によれば、波形A~Dのいずれについても、Δt/T<10%の場合に、光学的方法による基準検知時間よりも検知時間が早くなる。すなわち、可動ミラー20の異常動作を動作中に高速に検知するうえで、Δt/T<10%とすることが好ましいことがわかる。
【0079】
検知漏れの評価結果によれば、波形A~Dのいずれについても、Δt/T<10%の場合には、検知漏れがないことがわかる。
【0080】
誤検知の評価結果によれば、ノイズを含まない波形A,Cについては、Δt/T<10%の場合には、誤検知率が10%未満となることがわかる。一方、ノイズを含む波形B,Dについては、Δt/T≦0.05%の場合に、誤検知率が10%以上となることがわかる。すなわち、ノイズ耐性の観点から、Δt/Tの下限値を0.05%とすることが好ましい。
【0081】
図12図14は、変動量ΔS(t)の波形を示す。図12は、Δt/T=0.5%の場合における変動量ΔS(t)の波形を示す。図13は、Δt/T=15%の場合における変動量ΔS(t)の波形を示す。図14は、Δt/T=0.01%の場合における変動量ΔS(t)の波形を示す。
【0082】
図12に示す波形は、異常動作の発生前後で振幅の差が大きい。すなわち、図12は、0.05%<Δt/T<10%の場合には、高速かつ高精度に異常検知を行うことができることを示している。
【0083】
図13に示す波形は、異常動作の発生前後で振幅の差が小さい。すなわち、図13は、Δt/T≧10%の場合には、0.05%<Δt/T<10%の場合と比較して、異常検知の精度が低下することを示している。
【0084】
図14に示す波形は、異常動作の発生前後で振幅の差が、図13に示す波形よりも大きいが、図12に示す波形よりも小さい。図14は、Δt/T≦0.05%の場合に、ノイズ耐性が低下することを示している。
【0085】
図15及び図16は、出力信号S(t)に基づく従来の判定方法による判定例を示す。従来の判定方法では、出力信号S(t)を閾値Vth2と比較することにより異常検知が行われる。図15は、異常動作発生後に振幅が増加する場合を示している。この場合には、従来の判定方法であっても異常動作が検知されるが、異常動作が発生した後、出力信号S(t)が閾値Vth2を超えるまでに時間が掛かる。このため高速に異常検知を行うことはできない。図16は、異常動作発生後に振幅が減少する場合を示している。この場合には、従来の判定方法では、異常動作が検知されず、検知漏れとなる。
【0086】
[各種変形例]
上記実施形態では、検出部40を遅延回路42と差動増幅回路43とで構成しているが、検出部40を微分回路により構成してもよい。また、検出部40をハイパスフィルタにより構成してもよい。この場合、ハイパスフィルタのカットオフ周波数を、Δt/Tの上限値に応じて設定すればよい。また、検出部40をバンドパスフィルタにより構成してもよい。この場合、バンドパスフィルタの高周波側及び低周波側のカットオフ周波数を、Δt/Tの下限値及び上限値に応じて設定すればよい。
【0087】
また、圧電素子で構成された第1角度検出センサ31からの出力信号S(t)は、微小であるため、増幅回路、バッファ回路などを異常検知装置6に追加してもよい。さらに、ノイズ低減を目的としたフィルタ回路を異常検知装置6に追加してもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、異常検知装置6をアナログ回路で構成しているが、異常検知装置6の一部又は全部をデジタル回路で構成してもよい。例えば、出力信号S(t)をADC(Analog to Digital Converter)でデジタル化した信号を、ソフトウエア(プログラム)により処理を行ってもよい。この場合、異常検知装置6として、汎用的なプロセッサを用いることができる。この汎用的なプロセッサには、CPU(Central Processing Unit)、プログラマブルロジックデバイス(PLD:Programmable Logic Device)、専用電気回路等が含まれる。プロセッサが検出処理及び判定処理を行う。
【0089】
また、上記実施形態では、異常検知装置6は、第1角度検出センサ31からの出力信号に基づいて異常検知を行っているが、第2角度検出センサ32からの出力信号に基づいて異常検知を行ってもよい。また、異常検知装置6は、第1角度検出センサ31及び第2角度検出センサ32からの2つの出力信号のそれぞれに基づいて異常検知を行ってもよい。この場合、例えば、異常検知装置6は、2つの出力信号のうちのいずれか一方の時間的な変動量が閾値以上となった場合に、異常動作が発生したと判定する。
【0090】
また、上記実施形態では、2つの軸周りに揺動可能なミラーを有するマイクロミラーデバイスを用いているが、マイクロミラーデバイスは、1つの軸周りに揺動可能なミラーを有するものであってもよい。すなわち、マイクロミラーデバイスは、少なくとも1つの軸周りに揺動可能なミラーと、ミラーを揺動させるアクチュエータと、ミラーの揺動により起電力を発生して出力する圧電素子とを含むものであればよい。
【0091】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願および技術規格は、個々の文献、特許出願および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0092】
2 光走査装置
3 光源
4 マイクロミラーデバイス(MMD)
5 制御装置
6 異常検知装置
10 光走査システム
20 可動ミラー
20A 反射面
21 第1アクチュエータ
21A 第1可動部
21B 第2可動部
22 第2アクチュエータ
22A 第1可動部
22B 第2可動部
23 支持枠
24 第1支持部
25 第2支持部
26 接続部
27 固定部
31 第1角度検出センサ
32 第2角度検出センサ
40 検出部
41 判定部
42 遅延回路
43 差動増幅回路
50 評価用光源
51 コリメートレンズ
52,53 レンズ
54 位置検出素子
A,B,C,D 波形
L レーザ光
LE 評価用レーザ光
N 法線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16