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特開2023-164051非水系二次電池電極用バインダーおよび非水系二次電池電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164051
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】非水系二次電池電極用バインダーおよび非水系二次電池電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20231102BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20231102BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20231102BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20231102BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20231102BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20231102BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20231102BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
H01M4/134
H01M4/1395
H01M4/48
H01M4/13
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075357
(22)【出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】深▲瀬▼ 一成
(72)【発明者】
【氏名】中山 景斗
(72)【発明者】
【氏名】大賀 一彦
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA15
5H050BA16
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB20
5H050CB29
5H050DA11
5H050EA23
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】非水系二次電池電極の材料として好適な非水系二次電池電極用バインダーの提供。
【解決手段】式(I)(Rは水素原子またはメチル基。Rは水素原子またはヒドロキシ基。mおよびnは0または1。)で表される単量体由来の構造単位を4.0~75.0モル%と、式(II)(Rは水素原子、メチル基またはCHCOOX。XおよびXは水素原子、アルカリ金属またはNH。)で表される単量体由来の構造単位を25.0~96.0モル%有する共重合体を含む非水系二次電池電極用バインダーとする。
[化1]

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される単量体(A)由来の構造単位(a)と、
下記一般式(II)で表される単量体(B)由来の構造単位(b)とを有する共重合体(P)を含み、
前記共重合体(P)における前記構造単位(a)の含有率が4.0モル%以上75.0モル%以下であり、前記構造単位(b)の含有率が25.0モル%以上96.0モル%以下であることを特徴とする非水系二次電池電極用バインダー。
【化1】
(式(I)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。Rは水素原子またはヒドロキシ基を表す。mおよびnはそれぞれ独立に0または1である。)
【化2】
(式(II)中、Rは水素原子、メチル基またはCHCOOXを表す。XおよびXはそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属またはNHを表す。)
【請求項2】
前記共重合体(P)は、下記一般式(III)で表される単量体(C)由来の構造単位(c)を有し、
前記共重合体(P)における前記構造単位(c)の含有率が0.5モル%以上55.0モル%以下である、請求項1に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【化3】
(式(III)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記単量体(A)が、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドおよびN-メチロールアクリルアミドの少なくともいずれかを含む、請求項1または請求項2に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【請求項4】
前記単量体(B)が、(メタ)アクリル酸ナトリウムおよび(メタ)アクリル酸リチウムの少なくともいずれかを含む、請求項1または請求項2に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【請求項5】
前記単量体(C)が、N-ビニルホルムアミドおよびN-ビニルアセトアミドの少なくともいずれかを含む、請求項2に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【請求項6】
前記共重合体(P)の重量平均分子量が、30万以上、500万以下の範囲である、請求項1または請求項2に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【請求項7】
前記共重合体(P)の重量平均分子量が、150万以上、500万以下の範囲である、請求項1または請求項2に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【請求項8】
前記共重合体(P)における前記構造単位(a)の含有率と前記構造単位(b)の含有率との合計が55.0モル%以上である、請求項1に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【請求項9】
シリコンまたはシリコン化合物を5質量%以上含む電極活物質を含む電極活物質層に用いられる、請求項1または請求項2に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【請求項10】
請求項1または請求項2に記載の非水系二次電池電極用バインダーと、水性媒体とを含む、非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項11】
請求項1または請求項2に記載の非水系二次電池電極用バインダーと、電極活物質と、水性媒体とを含む、非水系二次電池電極用スラリー。
【請求項12】
集電体と、前記集電体の表面に形成された電極活物質層と、を備える非水系二次電池電極であって、
前記電極活物質層が、請求項1または請求項2に記載の非水系二次電池電極用バインダーと、電極活物質とを含む、非水系二次電池電極。
【請求項13】
前記電極活物質は、シリコンまたはシリコン化合物を5質量%以上含む、請求項12に記載の非水系二次電池電極。
【請求項14】
請求項12に記載の非水系二次電池電極を備える非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池電極用バインダーおよび非水系二次電池電極に関する。
【背景技術】
【0002】
非水系電解質を用いる非水系二次電池は、高電圧化、小型化、軽量化の面において、水系電解質を用いる二次電池よりも優れている。そのため、非水系二次電池は、ノート型パソコン、携帯電話、電動工具、電子・通信機器の電源として、広く使用されている。また、最近、環境車両適用の観点から、電気自動車およびハイブリッド自動車用にも非水系二次電池が使用されている。自動車に用いられる非水系二次電池においては、高出力化、高容量化、長寿命化が強く求められている。非水系二次電池としては、リチウムイオン二次電池が代表例として挙げられる。
【0003】
非水系二次電池は、金属酸化物などを電極活物質とした正極と、黒鉛などの炭素材料を電極活物質とした負極と、カーボネート類または難燃性のイオン液体を中心した非水系電解質溶液とを備える。非水系二次電池では、イオンが正極と負極との間を移動することにより、電池の充放電が行われる。
【0004】
非水系二次電池の正極は、金属酸化物などの電極活物質とバインダーとを含む正極スラリーを、アルミニウム箔などからなる集電体の表面に塗布し、乾燥させて正極活物質層を形成した後に、適当な大きさに切断する方法により得られる。負極は、炭素材料、ケイ素性材料などの電極活物質とバインダーとを含む負極スラリーを、銅箔などの集電体の表面に塗布し、乾燥させて負極活物質層を形成した後に、適当な大きさに切断する方法により得られる。
【0005】
正極および負極に含まれるバインダーには、電極活物質同士および電極活物質と集電体とを結着させて、集電体からの電極活物質の剥離を防止する役割がある。バインダーとしては、カルボキシメチルセルロース(CMC)の水溶液を増粘剤とし、(メタ)アクリル酸エステル系またはスチレン-ブタジエンゴム(SBR)系の水分散体を併用するものが知られている。
【0006】
しかしながら、このバインダーは、電極活物質および集電体に対する接着力の低いCMCを使用しているため、電極活物質同士および電極活物質と集電体との結着性が低い。その結果、このバインダーを用いた正極および負極を有する電池は、充放電を繰り返すことによって電極活物質同士および電極活物質と集電体とが剥離しやすく、容量低下が起こりやすいという課題があった。
【0007】
この問題を解決するために、バインダーとして、増粘剤を必要としないポリアクリル酸塩系の水溶液またはポリアクリルアミド系の水溶液を用いる方法が知られている。
特許文献1には、N-ビニルアセトアミドとアクリル酸ナトリウムとの共重合体(共重合比:N-ビニルアセトアミド、アクリル酸=10/90質量比)を含む非水系電池電極用バインダー用共重合体が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、アクリルアミド、アクリル酸ナトリウム、アクリロニトリル共重合体(共重合比:アクリルアミド、アクリル酸ナトリウム、アクリロニトリル=50/15/35)、またはアクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリロニトリル、2-ヒドロキシエチルアクリレート共重合体(共重合比:アクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリロニトリル、2-ヒドロキシエチルアクリレート=37/3/10/15/35)を含むリチウムイオン電池用バインダー水溶液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2017/150200号
【特許文献2】特許第6888656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の非水系二次電池電極用バインダーを用いて形成した電極活物質層を有する非水系二次電池電極は、電極活物質層の柔軟性が不十分である場合があった。非水系二次電池電極の有する電極活物質層の柔軟性が不足していると、非水系二次電池の製造時における歩留まりが不十分となる。
【0011】
また、従来の非水系二次電池では、より一層、充放電サイクル後の放電容量維持率を高くすることが要求されている。しかしながら、従来の非水系二次電池電極用バインダーを用いて形成した非水系二次電池電極を備える非水系二次電池では、充放電サイクル後の放電容量維持率が不十分となる場合があった。特に、負極活物質としてシリコンまたはシリコン化合物を含む電極活物質層を備える非水系二次電池電極は、これを備える非水系二次電池の充放電によって電極活物質層の膨れが生じやすい。電極活物質層の膨れは、充放電サイクル後の放電容量維持率を低下させる原因となるため、問題となっていた。
【0012】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、柔軟性の良好な電極活物質層を有し、かつ、充放電サイクル後の放電容量維持率が十分に高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極の材料として、好適に使用できる非水系二次電池電極用バインダーを提供することを目的とする。
また、本発明は、本発明の非水系二次電池電極用バインダーを含む非水系二次電池電極用バインダー組成物および非水系二次電池電極用スラリーを提供することを目的とする。
また、本発明は、本発明の非水系二次電池電極用バインダーを含み、柔軟性の良好な電極活物質層を有し、かつ、充放電サイクル後の放電容量維持率が十分に高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極、およびこれを備える非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下の態様を含む。
【0014】
[1] 下記一般式(I)で表される単量体(A)由来の構造単位(a)と、
下記一般式(II)で表される単量体(B)由来の構造単位(b)とを有する共重合体(P)を含み、
前記共重合体(P)における前記構造単位(a)の含有率が4.0モル%以上75.0モル%以下であり、前記構造単位(b)の含有率が25.0モル%以上96.0モル%以下であることを特徴とする非水系二次電池電極用バインダー。
【0015】
【化1】
(式(I)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。Rは水素原子またはヒドロキシ基を表す。mおよびnはそれぞれ独立に0または1である。)
【0016】
【化2】
(式(II)中、Rは水素原子、メチル基またはCHCOOXを表す。XおよびXはそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属、またはNHを表す。)
【0017】
[2] 前記共重合体(P)は、下記一般式(III)で表される単量体(C)由来の構造単位(c)を有し、
前記共重合体(P)における前記構造単位(c)の含有率が0.5モル%以上55.0モル%以下である、[1]に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【0018】
【化3】
(式(III)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。)
【0019】
[3] 前記単量体(A)が、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドおよびN-メチロールアクリルアミドの少なくともいずれかを含む、[1]または[2]に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
[4] 前記単量体(B)が、(メタ)アクリル酸ナトリウムおよび(メタ)アクリル酸リチウムの少なくともいずれかを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の非水系二次電池電極用バインダー。
[5] 前記単量体(C)が、N-ビニルホルムアミドおよびN-ビニルアセトアミドの少なくともいずれかを含む、[2]~[4]のいずれかに記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【0020】
[6] 前記共重合体(P)の重量平均分子量が、30万以上、500万以下の範囲である、[1]~[5]のいずれかに記載の非水系二次電池電極用バインダー。
[7] 前記共重合体(P)の重量平均分子量が、150万以上、500万以下の範囲である、[1]~[6]のいずれかに記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【0021】
[8] 前記共重合体(P)における前記構造単位(a)の含有率と前記構造単位(b)の含有率との合計が55.0モル%以上である、[1]に記載の非水系二次電池電極用バインダー。
[9] シリコンまたはシリコン化合物を5質量%以上含む電極活物質を含む電極活物質層に用いられる、[1]~[8]のいずれかに記載の非水系二次電池電極用バインダー。
【0022】
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の非水系二次電池電極用バインダーと、水性媒体とを含む、非水系二次電池電極用バインダー組成物。
[11] [1]~[9]のいずれかに記載の非水系二次電池電極用バインダーと、電極活物質と、水性媒体とを含む、非水系二次電池電極用スラリー。
【0023】
[12] 集電体と、前記集電体の表面に形成された電極活物質層と、を備える非水系二次電池電極であって、
前記電極活物質層が、[1]~[9]のいずれかに記載の非水系二次電池電極用バインダーと、電極活物質とを含む、非水系二次電池電極。
[13] 前記電極活物質は、シリコンまたはシリコン化合物を5質量%以上含む、[12]に記載の非水系二次電池電極。
[14] [12]または[13]に記載の非水系二次電池電極を備える非水系二次電池。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、柔軟性の良好な電極活物質層を有し、かつ、充放電サイクル後の放電容量維持率が十分に高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極の材料として、好適に使用できる非水系二次電池電極用バインダー、これを含む非水系二次電池電極用バインダー組成物および非水系二次電池電極用スラリーを提供できる。
また、本発明によれば、柔軟性の良好な電極活物質層を有し、かつ、充放電サイクル後の放電容量維持率が十分に高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極、およびこれを備える非水系二次電池を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の非水系二次電池電極用バインダー、非水系二次電池電極用バインダー組成物、非水系二次電池電極用スラリー、非水系二次電池電極、および非水系二次電池について詳細に説明する。
【0026】
本実施形態における非水系二次電池(以下、「電池」とすることがある。)は、充放電において、非水系二次電池電極である正極と負極との間でイオンの移動を伴う。正極は、電極活物質である正極活物質を含む。負極は、電極活物質である負極活物質を含む。これらの電極活物質は、イオンを挿入及び脱離(Intercaration及びDeintercalation)可能な材料である。このような非水系二次電池の好ましい例として、リチウムイオン二次電池が挙げられる。
【0027】
本実施形態において、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸及びアクリル酸の一方又は両方をいう。「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレート及びアクリレートの一方又は両方をいう。
「重量平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて算出されるプルラン換算値である。
【0028】
<1.非水系二次電池電極用バインダー>
本実施形態にかかる非水系二次電池電極用バインダー(以下、「電極バインダー」とすることがある。)は、共重合体(P)を含む。
共重合体(P)は、下記一般式(1)で表される構造単位(a)と、下記一般式(2)で表される構造単位(b)とを含む。共重合体(P)は、構造単位(a)と構造単位(b)の他に、下記一般式(3)で表される構造単位(c)および/または構造単位(a)~構造単位(c)とは異なる構造単位(d)を含んでいてもよい。
【0029】
【化4】
(式(1)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。Rは水素原子またはヒドロキシ基を表す。mおよびnはそれぞれ独立に0または1である。)
(式(2)中、Rは水素原子、メチル基またはCHCOOXを表す。XおよびXはそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属またはNHを表す。)
(式(3)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。)
【0030】
共重合体(P)に含まれる構造単位(a)および構造単位(b)は、繰り返し単位である。共重合体(P)に含まれる構造単位(a)と構造単位(b)との配列順序には、特に制限はない。共重合体(P)は、構造単位(a)と構造単位(b)とを含むランダム共重合体、ブロック共重合体、および、交互共重合体のいずれを含むものであってもよい。
共重合体(P)が、構造単位(a)と構造単位(b)だけでなく、構造単位(c)および/または構造単位(d)を含む場合、繰り返し単位である構造単位(a)と、構造単位(b)と、構造単位(c)および/または構造単位(d)との配列順序には、特に制限はない。
【0031】
<1-1.構造単位(a)>
一般式(1)で表される構造単位(a)は、下記一般式(I)で表される単量体(A)由来の構造単位である。単量体(A)は、1種類の化合物のみであってもよいし、複数種の化合物であってもよい。構造単位(a)は、共重合体(P)を含む電極バインダーを含む電極活物質層において柔軟性向上に寄与するとともに、この電極活物質層を有する非水系二次電池電極を備える電池において充放電サイクル後の放電容量維持率向上に寄与する。
【0032】
【化5】
(式(I)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。Rは水素原子またはヒドロキシ基を表す。mおよびnはそれぞれ独立に0または1である。)
【0033】
式(I)中のR、R、mおよびnは、式(1)のR、R、mおよびnと同じである。
式(I)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、充放電サイクル後の放電容量維持率が、より高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極の材料となるため、水素原子であることが好ましい。
【0034】
式(I)中、mは0または1であり、溶解度パラメータ(SP値)が高く、電池に含まれる電解液に対する耐性(安定性)が、より良好な非水系二次電池電極が得られるものとなるため、0であることが好ましい。mが1である場合、Rは水素原子またはヒドロキシ基を表す。
式(I)中、nは0または1であり、1であることが好ましい。共重合体(P)を含む電極バインダーを含む電極活物質層の柔軟性がより良好なものとなるとともに、充放電サイクル後の放電容量維持率が、より高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極の材料となるためである。
【0035】
単量体(A)としては、具体的には、以下に示す化合物(括弧内に記載のR、R、m、nは、それぞれ式(I)中のR、R、m、nに対応する。)が挙げられる。N-メチロールアクリルアミド((N-MAM)R:水素原子、m:0、n:0)、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド((HEAA)R:水素原子、m:0、n:1))、N-ヒドロキシプロピルアクリルアミド(R:水素原子、R:水素原子、m:1、n:1))、N-(2、3-ジヒドロキシプロピル)アクリルアミド(R:水素原子、R:ヒドロキシ基、m:1、n:1)が挙げられる。
【0036】
これらの中でも単量体(A)として、N-メチロールアクリルアミド及びN-ヒドロキシエチルアクリルアミドの少なくともいずれかを含むことが好ましい。充放電サイクル後の放電容量維持率が、より高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極の材料となるためである。特に、単量体(A)として、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドを含むことが好ましい。共重合体(P)を含む電極バインダーを含む電極活物質層の柔軟性がより良好なものとなるとともに、充放電サイクル後の放電容量維持率が、より一層高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極の材料となるためである。
【0037】
共重合体(P)が、一般式(1)で表される構造単位(a)を含むことによって、共重合体(P)を含む電極バインダーを含む電極活物質層を備える非水系二次電池電極が、充放電サイクル後の放電容量維持率が十分に高い電池が得られるものとなる理由は、定かではない。しかし、本発明者らは、上記の理由は、構造単位(a)を含むことによって、以下に示す機能が得られることによるものであると推察している。
【0038】
すなわち、電極バインダーが、アミド結合およびヒドロキシ基を有する構造単位(a)を含む共重合体(P)を含む場合、例えば、構造単位(a)に代えて、エステル結合(-C(=O)O-)を有する構造単位を含む共重合体を含む場合と比較して、電池に含まれる電解液に対する耐性が良好な電極活物質層が得られる。このため、共重合体(P)を含む電極バインダーを含む電極活物質層は、電池の充放電に伴う応力が加わっても破壊されにくく、電池の充放電に伴う電極の膨れが抑制される。
【0039】
しかも、共重合体(P)がアミド結合およびヒドロキシ基を有する構造単位(a)を含むため、共重合体(P)を含む電極バインダーを含む電極活物質層は、電極活物質同士および電極活物質と集電体との結着性が良好なものとなる。
これらのことから、共重合体(P)を含む電極バインダーを含む電極活物質層を備える非水系二次電池電極を有する電池は、充放電による劣化が生じにくく、充放電サイクル後の放電容量維持率が十分に高いものになると推定される。
【0040】
<1-2.構造単位(b)>
一般式(2)で表される構造単位(b)は、下記一般式(II)で表される単量体(B)由来の構造単位である。単量体(B)は、1種類の化合物のみであってもよいし、複数種の化合物であってもよい。
【0041】
【化6】
(式(II)中、Rは水素原子、メチル基またはCHCOOXを表す。XおよびXはそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属またはNHを表す。)
【0042】
式(II)中のR、XおよびXは、式(2)のR、XおよびXと同じである。
式(II)中、Rは水素原子、メチル基またはCHCOOXを表し、充放電サイクル後の放電容量維持率が、より高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極の材料となるため、水素原子またはメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。RがCHCOOXである場合、Xは水素原子、アルカリ金属またはNHであり、アルカリ金属またはNHであることが好ましい。充放電サイクル後の放電容量維持率が、より高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極の材料となるためである。
は水素原子、アルカリ金属またはNHを表し、アルカリ金属またはNHであることが好ましい。充放電サイクル後の放電容量維持率が、より高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極の材料となるためである。
【0043】
式(II)中のXおよび/またはXがアルカリ金属である場合におけるアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムが挙げられる。Xおよび/またはXに対応する好ましい1価のカチオンを具体的に示すと、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンが挙げられる。Xおよび/またはXがこれらである式(II)で表される単量体は、入手が容易であるからである。これらの1価カチオンの中でも、リチウムイオンおよびナトリウムイオンのうち少なくとも一方を含むことが好ましく、ナトリウムイオンを含むことがより好ましい。電極活物質に対する接着強度がより一層良好な共重合体(P)となり、これを含む電極バインダーを含む電極活物質層を備える非水系二次電池電極を有する電池が、充放電サイクル後の放電容量維持率のより高いものとなるためである。
【0044】
単量体(B)としては、具体的には、以下に示す化合物(括弧内に記載のR、XおよびXは、それぞれ式(II)中のR、XおよびXに対応する。)が挙げられる。アクリル酸((Aa)R:水素原子、X:水素原子)、メタクリル酸((MAa)R:メチル基、X:水素原子)、イタコン酸(R:CHCOOX、X:水素原子、X:水素原子)及びそれらの塩(式(II)中のXおよびXのうち少なくとも一方がアルカリ金属またはNHである化合物)である。
【0045】
これらの中でも単量体(B)として、アクリル酸塩及びメタクリル酸塩の少なくともいずれかを含むことが好ましく、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸リチウム、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸リチウムの少なくともいずれかを含むことがより好ましい。充放電サイクル後の放電容量維持率が、より高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極の材料となるためである。特に、単量体(B)として、アクリル酸ナトリウムを含むことが好ましい。充放電サイクル後の放電容量維持率が、より一層高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極の材料となるためである。
【0046】
式(II)中のXおよび/またはXがアルカリ金属またはNHである単量体(B)は、例えば、式(II)中のXおよび/またはXが水素原子である化合物を、水酸化物および/またはアンモニア水等で中和して、カルボキシ基(-COOH)の一部を塩にする方法により製造できる。
このため、単量体(B)由来の構造単位(b)における式(2)中のXおよび/またはXがアルカリ金属またはNHである共重合体(P)を合成する場合には、例えば、以下に示す第1方法および第2方法を用いることができる。これらの中でも、製造する共重合体(P)の高分子量化が容易であるため、第1方法を用いることが好ましい。
【0047】
第1方法では、まず、式(II)中のXおよび/またはXが水素原子である化合物を用意し、公知の中和剤を用いて中和する。このことにより、式(II)中のXおよび/またはXがアルカリ金属またはNHである化合物を得る。その後、単量体(B)としての式(II)中のXおよび/またはXがアルカリ金属またはNHである化合物と、式(I)で表される単量体(A)とを含む単量体を共重合する。このことにより、式(1)で表される構造単位(a)と、式(2)で表され、式(2)中のXおよび/またはXがアルカリ金属またはNHである構造単位(b)とを含む共重合体(P)を合成できる。
【0048】
第2方法では、単量体(B)として式(II)中のXおよび/またはXが水素原子である化合物を用い、単量体(A)と単量体(B)とを含む単量体を共重合する。その後、得られた共重合体を、公知の中和剤を用いて中和する。このことにより、式(1)で表される構造単位(a)と、式(2)で表され、式(2)中のXおよび/またはXがアルカリ金属またはNHである構造単位(b)とを含む共重合体(P)を合成できる。
【0049】
一般式(2)で表される構造単位(b)におけるXおよびXがアルカリ金属またはNHである場合、XおよびXは同じアルカリ金属またはNHであることが好ましい。それは、上述した第1方法において、式(II)中のXおよびXが水素原子である化合物を中和する工程を行う、または上述した第2方法において、式(II)中のXおよびXが水素原子である化合物を含む単量体を共重合して得た共重合体を中和する工程を行うことにより、容易に式(2)中のXおよびXが同じアルカリ金属またはNHである構造単位(b)を含む共重合体(P)が得られるためである。
【0050】
本実施形態では、例えば、上述した第1方法または第2方法により、式(2)中のXおよび/またはXが、アルカリ金属またはNHである構造単位(b)を含む共重合体(P)を製造した場合、共重合体(P)に含まれる単量体(B)由来の構造単位(b)には、中和剤に含まれるカチオンの当量(カチオンの価数×カチオンのモル数、以下同様)分だけ単量体(B)の塩に由来する構造単位(b)が形成されているものとして考える。
【0051】
なお、中和剤に含まれるカチオンが2価以上である場合には、1つのカチオンと、カチオンの価数と同数の単量体(B)中のXおよび/またはXとが結合して、単量体(B)の塩に由来する構造単位(b)が形成されているものと考える。
【0052】
したがって、中和剤に含まれるカチオンの当量が、共重合体(P)を製造するために使用した式(II)で表される単量体(B)中のXおよび/またはXが水素原子である化合物に含まれるXとXの合計モル数より多い場合、中和後に得られた共重合体(P)に含まれる単量体(B)由来の構造単位(b)中のXおよびXは、全てアルカリ金属またはNHであり、共重合体(P)に含まれる構造単位(b)は全て単量体(B)の塩に由来すると考える。
【0053】
一方、中和剤に含まれるカチオンの当量が、共重合体(P)を製造するために使用した式(II)で表される単量体(B)中のXおよび/またはXが水素原子である化合物に含まれるXとX合計モル数より少ない場合、中和剤に含まれるカチオンは全て、中和後に得られた共重合体(P)に含まれる単量体(B)由来の構造単位(b)の塩を形成していると考える。したがって、単量体(B)由来の構造単位(b)のうち、中和剤に含まれるカチオンの当量分だけ塩に由来する構造単位が形成されているものと考える。
【0054】
具体的には、例えば、単量体(B)として(メタ)アクリル酸を用い、(メタ)アクリル酸と単量体(A)とを含む単量体を共重合した後、中和剤を用いて中和する方法により共重合体(P)を製造した場合、中和後に得られる共重合体(P)に含まれる単量体(B)由来の構造単位(b)には、中和剤に含まれるカチオンの当量(カチオンの価数×カチオンのモル数、以下同様)分だけ(メタ)アクリル酸の塩に由来する構造単位(b)が形成されているものとして考える。
【0055】
単量体(B)由来の構造単位(b)は、式(II)で表される単量体(B)中のXおよび/またはXが、アルカリ金属またはNHである化合物に由来する構造単位(b)を、60モル%以上含むことが好ましく、80モル%以上含むことがより好ましく、95モル%以上含むことがさらに好ましく、100モル%であってもよい。電極活物質に対する接着強度がより一層良好な共重合体(P)となり、これを含む電極バインダーを含む電極活物質層を備える非水系二次電池電極を有する電池が、充放電サイクル後の放電容量維持率のより高いものとなるためである。
【0056】
共重合体(P)が、一般式(2)で表される構造単位(b)を含むことによって、共重合体(P)を含む電極バインダーを含む電極活物質層を備える非水系二次電池電極が、充放電サイクル後の放電容量維持率が十分に高い電池が得られるものとなる理由は、定かではない。しかし、本発明者らは、上記の理由は、構造単位(b)を含むことによって、以下に示す機能が得られることによるものであると推察している。
【0057】
すなわち、(i)電極バインダーが、カルボキシ基および/またはカルボン酸塩を有する構造単位(b)を含む共重合体(P)を含む場合、例えば、構造単位(b)に代えて、エステル結合(-C(=O)O-)を有する構造単位を含む共重合体を含む場合と比較して、電池に含まれる電解液に対する耐性が良好となる。このため、共重合体(P)を含む電極バインダーを含む電極活物質層は、電解液に接した電極バインダーが膨潤することによる電極の膨れを抑制できるものとなる。
【0058】
さらに、(ii)共重合体(P)がカルボキシ基および/またはカルボン酸を有する構造単位(b)を含むため、共重合体(P)を含む電極バインダーを含む非水系二次電池電極用スラリーは、電極活物質、導電助剤等の固形分の分散性が良好となる。このため、固形分の凝集が抑制されて、均一に固形分が分散された電極活物質層が形成されやすい。このことにより、電極活物質層を備える非水系二次電池電極を有する電池は、これを充放電した際に、電極活物質層中で局所的な電位の偏りが発生しにくいものとなり、充放電に伴う過剰な電解液の分解を抑制できるものとなる。
しかも、(iii)共重合体(P)がカルボキシ基および/またはカルボン酸を有する構造単位(b)を含むため、共重合体(P)を含む電極バインダーを含む電極活物質層は、電極活物質同士および電極活物質と集電体との結着性が良好である。
【0059】
これら(i)~(iii)の構造単位(b)を含むことによる機能によって、共重合体(P)を含む電極バインダーを含む電極活物質層を備える非水系二次電池電極を有する電池は、充放電による劣化が生じにくく、充放電サイクル後の放電容量維持率が十分に高いものになると推定される。
【0060】
<1-3.構造単位(c)>
一般式(3)で表される構造単位(c)は、下記一般式(III)で表される単量体(C)由来の構造単位である。単量体(C)は、1種類の化合物のみであってもよいし、複数種の化合物であってもよい。構造単位(c)は、共重合体(P)を含む電極バインダーを含む非水系二次電池電極用スラリーにおいて、電極活物質、導電助剤等の固形分の分散性向上に寄与する。
【0061】
【化7】
(式(III)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。)
【0062】
式(III)中のR、Rは、式(3)のR、Rと同じである。
式(III)中、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、水素原子または炭素数1以上3以下のアルキル基であることが好ましい。Rは、水素原子またはメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。共重合体(P)を含む電極バインダーを含む非水系二次電池電極用スラリーにおいて、電極活物質、導電助剤等の固形分の分散性が良好となるためである。Rは、水素原子またはメチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。共重合体(P)を含む電極バインダーを含む非水系二次電池電極用スラリーにおいて、電極活物質、導電助剤等の固形分の分散性が良好となるためである。
【0063】
単量体(C)としては、具体的には、以下に示す化合物(括弧内に記載のR、Rは、それぞれ式(III)中のR、Rに対応する。)が挙げられる。N-ビニルホルムアミド(R:水素原子、R:水素原子))、N-ビニルアセトアミド(R:水素原子、R:メチル基)などが挙げられる。これらの中でも、単量体(C)としては、共重合体(P)を含む電極バインダーを含む非水系二次電池電極用スラリーにおいて、電極活物質、導電助剤等の固形分の分散性が良好となるため、N-ビニルアセトアミドが好ましい。
【0064】
<1-4.構造単位(d)>
共重合体(P)は、本発明の効果を損なわない範囲で、構造単位(a)と、構造単位(b)と、必要に応じて含有してもよい構造単位(c)の他に、構造単位(a)~構造単位(c)とは異なる構造単位(d)を含んでいてもよい。
構造単位(d)は、単量体(A)、単量体(B)及び単量体(C)のいずれにも該当しない他の単量体(D)由来の構造単位である。例えば、カルボキシ基を有するエチレン性不飽和単量体である(メタ)アクリル酸、イタコン酸およびそれらの塩は、単量体(B)に該当する。単量体(D)は、1種類の化合物のみであってもよいし、複数種の化合物であってもよい。
【0065】
他の単量体(D)としては、単量体(A)、単量体(B)及び単量体(C)のいずれにも該当しない重合可能な化合物であればよく、例えば、親水性のエチレン性不飽和化合物、疎水性のエチレン性不飽和化合物が挙げられ、親水性のエチレン性不飽和化合物を含むことが好ましい。
親水性のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、少なくとも1つの重合可能なエチレン性不飽和結合を有し、かつ、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基などの極性基、および/またはアミド結合を有する化合物が挙げられる。
【0066】
アミド結合を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、及びジメチルアミノ基を除く部分のアルキル基の炭素数が1~5であるジメチルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。これらの中でも、電池に含まれる電解液に対する耐性の良好な共重合体(P)が得られるため、アミド結合を有するエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0067】
ヒドロキシ基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、共重合体(P)を含む電極バインダーを含む電極活物質層の柔軟性が良好なものとなるため、ヒドロキシ基を有するエチレン性不飽和単量体としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0068】
カルボキシ基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、β-カルボキシエチルアクリレート、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、不飽和ジカルボン酸のハーフエステルなどが挙げられる。
シアノ基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0069】
<1-5.共重合体(P)における各構造単位の含有率>
次に、共重合体(P)に含まれる構造単位(a)~構造単位(d)の含有率について説明する。
【0070】
本実施形態において、共重合体(P)に含まれる各単量体に由来する構造単位の含有量は、共重合体(P)を製造するために使用した各単量体の配合量を用いて算出できる。以下、共重合体(P)における各単量体に由来する構造単位の含有量について、共重合体(P)における構造単位の由来となる単量体の合計を100モル%として換算したときの各単量体の含有率、すなわちモル%の値を用いて説明する。
【0071】
なお、共重合体(P)を重合する際に、連鎖移動剤等の単量体以外の化合物を用いた場合、単量体以外の化合物に由来する構造単位も共重合体(P)の構造と考える。
また、例えば、上述した第1方法または第2方法により、式(2)中のXおよび/またはXが、アルカリ金属またはNHである構造単位(b)を含む共重合体(P)を製造した場合、共重合体(P)に含まれる単量体(B)由来の構造単位(b)には、中和剤に含まれるカチオンの当量(カチオンの価数×カチオンのモル数、以下同様)分だけ単量体(B)の塩に由来する構造単位(b)が形成されているものとして考える。
【0072】
(構造単位(a)の含有率)
共重合体(P)における構造単位(a)の含有率は、4.0モル%以上である。共重合体(P)を含む電極バインダーを含む電極活物質層の柔軟性が良好なものとなり、電極活物質層にクラックが発生することを抑制できるためである。また、共重合体(P)を含む電極活物質層を備える非水系二次電池電極を有する電池が、充放電サイクル後の放電容量維持率が高いものとなるためである。構造単位(a)の含有率は、構造単位(a)を含むことによる上記効果がより顕著となるため、15.0モル%以上であることが好ましく、35モル%以上であることがより好ましく、40.0モル%以上であることがさらに好ましい。
【0073】
構造単位(a)の含有率は、75.0モル%以下である。共重合体(P)を含む電極バインダーを含む非水系二次電池電極用スラリーにおいて、電極活物質、導電助剤、電極バインダーなどに含まれる固形分の存在状態がより均一化するためである。また、共重合体(P)を含む電極活物質層を備える非水系二次電池電極を有する電池が、充放電サイクル後の放電容量維持率が高いものとなるためである。構造単位(a)の含有率は、上記理由から、65.0モル%以下であることが好ましく、60.0モル%以下であることがより好ましく、55.0モル%以下であることがさらに好ましい。
【0074】
(構造単位(b)の含有率)
共重合体(P)における構造単位(b)の含有率は、25.0モル%以上である。共重合体(P)を含む電極バインダーを含む非水系二次電池電極用スラリーにおいて、電極活物質、導電助剤、電極バインダーなどに含まれる固形分の存在状態がより均一化するためである。また、共重合体(P)を含む電極活物質層を備える非水系二次電池電極を有する電池が、充放電サイクル後の放電容量維持率が高いものとなるためである。構造単位(b)の含有率は、構造単位(b)を含むことによる上記効果がより顕著となるため、30.0モル%以上であることが好ましく、40.0モル%以上であることがより好ましく、45.0モル%以上であることがさらに好ましい。
【0075】
構造単位(b)の含有率は、96.0モル%以下である。共重合体(P)を含む電極バインダーを含む電極活物質層の柔軟性が良好なものとなり、電極活物質層にクラックが発生することを抑制できるためである。構造単位(b)の含有率は、上記理由から、85.0モル%以下であることが好ましく、65.0モル%以下であることがより好ましく、60.0モル%以下であることがさらに好ましい。
【0076】
(構造単位(a)の含有率と構造単位(b)の含有率との合計)
共重合体(P)における構造単位(a)の含有率と構造単位(b)の含有率との合計は、55.0モル%以上であることが好ましい。より柔軟性の良好な電極活物質層を有し、かつ、充放電サイクル後の放電容量維持率がより高い電池が得られる非水系二次電池電極を形成できる電極バインダーが得られるためである。特に、上記の合計が55モル%以上であると、電極活物質層がシリコンまたはシリコン化合物を含む場合であっても、柔軟性の良好な電極活物質層を有し、かつ、充放電サイクル後の放電容量維持率が十分に高い電池が得られる非水系二次電池電極を形成でき、好ましい。
【0077】
構造単位(a)の含有率と構造単位(b)の含有率との合計は、60.0モル%以上であることがより好ましく、65.0モル%以上であることがさらに好ましい。構造単位(a)の含有率と構造単位(b)の含有率との合計は、70.0モル%以上であってもよい。
上記の合計は、100モル%であってもよい。すなわち、共重合体(P)は、構造単位(a)、及び構造単位(b)のみからなる二元共重合体であってもよい。共重合体(P)に含まれる構造単位が、構造単位(a)と構造単位(b)のみである(言い換えると、上記の合計が100モル%である)と、共重合体(P)を容易に製造できる。
【0078】
(構造単位(c)の含有率)
共重合体(P)における構造単位(c)の含有率は、0.5モル%以上であることが好ましく、0.8モル%以上であることがより好ましく、1.0モル%以上であることがさらに好ましい。共重合体(P)を含む電極バインダーを含む非水系二次電池電極用スラリーにおいて、電極活物質、導電助剤等の固形分の分散性が良好となり、固形分の凝集が抑制されて均一に固形分が分散された電極活物質層が形成されやすくなるためである。
【0079】
構造単位(c)の含有率は、55.0モル%以下であることが好ましく、50.0モル%以下であることがより好ましく、45.0モル%以下であることがさらに好ましい。構造単位(c)の含有率が55.0モル%以下である共重合体(P)を含む電極バインダーを含む電極活物質層は、柔軟性がより良好で、クラックが発生しにくいものとなるためである。
【0080】
(構造単位(d)の含有率)
共重合体(P)における構造単位(d)の含有率は、40.0モル%以下であることが好ましく、0モル%であってもよい。構造単位(d)がアミド結合を有するエチレン性不飽和単量体、特に(メタ)アクリルアミドに由来する構造単位である場合、構造単位(d)の含有率は、0モル%超であることが好ましく、5.0モル%以上であることがより好ましく、10.0モル%以上であることがさらに好ましい。電池に含まれる電解液に対する耐性の良好な共重合体(P)が得られるためである。
【0081】
構造単位(d)がアミド結合を有するエチレン性不飽和単量体、特に(メタ)アクリルアミドに由来する構造単位である場合、構造単位(d)の含有率は、40.0モル%以下であることが好ましく、35.0モル%以下であることがより好ましく、33.0モル%以下であることがさらに好ましい。電極活物質に対する濡れ性に優れ、より一層、電極活物質に対する接着強度が良好な共重合体(P)となるためである。また、この共重合体(P)を含む電極活物質層を備える非水系二次電池電極を有する電池が、充放電に伴う過剰な電解液の分解が抑制されたものとなるためである。構造単位(d)がアミド結合を有するエチレン性不飽和単量体、特に(メタ)アクリルアミドに由来する構造単位である場合、構造単位(d)の含有率は、0モル%であってもよい。この場合、より一層、電極活物質に対する濡れ性に優れ、電極活物質に対する接着強度がより良好な共重合体(P)となるためである。また、この共重合体(P)を含む電極活物質層を備える非水系二次電池電極を有する電池が、充放電に伴う過剰な電解液の分解が、より一層抑制されたものとなるためである。
【0082】
<1-6.共重合体(P)の重量平均分子量>
共重合体(P)の重量平均分子量は、30万以上であることが好ましく、70万以上であることがより好ましく、100万以上であることがさらに好ましい。共重合体(P)の重量平均分子量は、150万以上であっても、200万以上であってもよい。共重合体(P)を含む電極バインダーを含む電極活物質層における、電極活物質同士および電極活物質と集電体との結着性がより良好なものとなるためである。その結果、共重合体(P)を含む電極活物質層を備える非水系二次電池電極を有する電池は、充放電サイクル後の放電容量維持率がより一層高いものとなる。
【0083】
共重合体(P)の重量平均分子量は、500万以下であることが好ましく、400万以下であることがより好ましく、350万以下であることがさらに好ましい。共重合体(P)の重量平均分子量は、300万以下であってもよい。共重合体(P)の製造が容易であるためである。また、共重合体(P)を含む電極バインダーを含む非水系二次電池電極用スラリーの粘度調整が容易となり、電極活物質、導電助剤等の固形分の分散性および電極活物質層の生産性が良好となるためである。
【0084】
<1-7.共重合体(P)の製造方法>
共重合体(P)は、ラジカル重合開始剤を含む水性媒体中で、ラジカル重合法を用いて単量体(A)および単量体(B)を含む単量体を共重合する方法により製造することが好ましい。
ラジカル重合法としては、例えば、共重合体(P)を製造するために使用する単量体を全て一括して仕込んで重合する方法、共重合体(P)を製造するために使用する単量体を連続供給しながら重合する方法などを適用できる。
【0085】
共重合体(P)を製造するために使用する全単量体中の各単量体の含有率は、共重合体(P)中のその単量体に対応する構造単位の含有率であると見なす。例えば、共重合体(P)を製造するために使用する全単量体中の単量体(A)の含有率は、合成された共重合体(P)中の構造単位(a)の含有率である。
【0086】
また、本実施形態では、例えば、上述した第1方法または第2方法により、式(2)中のXおよび/またはXが、アルカリ金属またはNHである構造単位(b)を含む共重合体(P)を製造した場合、共重合体(P)に含まれる単量体(B)由来の構造単位(b)には、中和剤に含まれるカチオンの当量(カチオンの価数×カチオンのモル数、以下同様)分だけ単量体(B)の塩に由来する構造単位(b)が形成されているものとして考える。
【0087】
したがって、中和剤に含まれるカチオンの当量が、共重合体(P)を製造するために使用した式(II)で表される単量体(B)中のXおよび/またはXが水素原子である化合物に含まれるXとXの合計モル数より多い場合、中和後に得られた共重合体(P)に含まれる単量体(B)由来の構造単位(b)中のXおよびXは、全てアルカリ金属またはNHであり、共重合体(P)に含まれる構造単位(b)は全て単量体(B)の塩に由来すると考える。
【0088】
一方、中和剤に含まれるカチオンの当量が、共重合体(P)を製造するために使用した式(II)で表される単量体(B)中のXおよび/またはXが水素原子である化合物に含まれるXとXの合計モル数より少ない場合、中和剤に含まれるカチオンは全て、中和後に得られた共重合体(P)に含まれる単量体(B)由来の構造単位(b)の塩を形成していると考える。したがって、単量体(B)由来の構造単位(b)のうち、中和剤に含まれるカチオンの当量分だけ塩に由来する構造単位が形成されているものと考える。
【0089】
共重合体(P)を製造する際には、ラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド、アゾ化合物等を用いることができる。アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩が挙げられる。水性媒体中でラジカル重合する方法により共重合体(P)を製造する場合には、ラジカル重合開始剤として、水溶性の化合物を用いることが好ましい。また、共重合体(P)を重合する際には、必要に応じて、ラジカル重合開始剤と還元剤とを併用して、レドックス重合してもよい。レドックス重合に使用する還元剤としては、重亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等が挙げられる。
【0090】
共重合体(P)を製造する際に使用する水性媒体としては、水を用いることが好ましい。共重合体(P)の重合安定性を損なわない限り、水性媒体として、水に親水性の溶媒を添加したものを用いてもよい。水に添加する親水性の溶媒としては、メタノール、エタノール及びN-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0091】
共重合体(P)を製造するためのラジカル重合は、30~90℃の温度で行うことが好ましい。
【0092】
共重合体(P)を製造するための重合に際しては、共重合体(P)の分子量を調節する目的で連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、特に制限されることはないが、例えば、β-メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸オクチル等のチオール類、イソプロピルアルコール、エタノール等のアルコール類、四臭化炭素、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、α-メチルスチレンダイマーなど、公知のものが挙げられる。
これらの連鎖移動剤の使用量は、特に制限されることはなく、公知の使用量でよい。連鎖移動剤の使用量は、例えば、共重合体(P)を製造するために使用する単量体および化合物の全モル数に対して、10モル%以下であることが好ましい。
【0093】
本実施形態の電極バインダーは、共重合体(P)の他に、その他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、例えば、共重合体(P)以外の重合体および/または界面活性剤等が挙げられる。本実施形態の電極バインダーが、共重合体(P)の他に、その他の成分を含む場合、共重合体(P)と、その他の成分とを、公知の方法を用いて混合する方法により製造できる。
【0094】
共重合体(P)以外の重合体としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリ(メタ)アクリルアミド、カルボキシメチルセルロース塩、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子、またはポリスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリスチレン-ブタジエン共重合体などのエマルション型の高分子などが挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩などのアニオン性界面活性剤、またはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのノニオン界面活性剤などが挙げられる。
【0095】
本実施形態の電極バインダーが、共重合体(P)の他に、その他の成分を含む場合、電極バインダー中の共重合体(P)の含有率は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましい。共重合体(P)を含むことによる本発明の目的とする効果への寄与を大きくなるためである。
【0096】
<2.非水系二次電池電極用バインダー組成物>
本実施形態の非水系二次電池電極用バインダー組成物(以下、「電極バインダー組成物」ということもある。)は、電極バインダーと、水性媒体とを含む。
【0097】
電極バインダー組成物に含まれる水性媒体は、水を含む。電極バインダー組成物に含まれる水性媒体は、水以外に、親水性の溶媒を含んでいてもよい。親水性の溶媒としては、メタノール、エタノール及びN-メチルピロリドン等が挙げられる。電極バインダー組成物に含まれる水性媒体中の水の含有率は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であってもよい。
【0098】
電極バインダー組成物に含まれる水性媒体は、例えば、共重合体(P)の合成に用いた水性媒体と同じであってもよく、共重合体(P)の合成に用いた水性媒体に、水等の溶媒をさらに加えたものであってもよい。
また、本実施形態の電極バインダー組成物に含まれる電極バインダーは、水性媒体中に溶解していてもよいし、分散していてもよい。
【0099】
電極バインダー組成物中の電極バインダーの含有率は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。電極バインダー組成物が、粘度の高すぎるものとなりにくく、適正な粘度となるためである。電極バインダー組成物の粘度が適正であると、後述する電極活物質等と混合して、非水系二次電池電極用スラリーを作製する場合に、効率よく電極活物質等を分散させることができる。
【0100】
電極バインダー組成物中の電極バインダーの含有率は、3.0質量%以上であることが好ましく、5.0質量%以上であることがより好ましく、8.0質量%以上であることがさらに好ましい。電極バインダー組成物を用いて、非水系二次電池電極用スラリー及び非水系二次電池電極を作製する場合に、電極バインダー組成物の使用量を抑制できるためである。
【0101】
電極バインダー組成物のpHは、4.0以上であることが好ましく、5.0以上であることがより好ましく、6.0以上であることがさらに好ましい。電極バインダー組成物と後述する電極活物質等とを混合して、非水系二次電池電極用スラリーを作製する場合に、効率よく電極活物質等を分散させることができるためである。
【0102】
電極バインダー組成物のpHは、11以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、9.0以下であることがさらに好ましい。電極バインダー組成物と後述する電極活物質等と混合して、非水系二次電池電極用スラリーを作製する場合に、効率よく電極活物質等を分散させることができるためである。
電極バインダー組成物のpHは、液温23℃において、pHメーターにより測定された値である。
【0103】
本実施形態の電極バインダー組成物は、電極バインダーと水性媒体の他に、必要に応じて、その他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、例えば、pH調整剤、界面活性剤等が挙げられる。
pH調整剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物類、エタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミンなどのアミン類、アンモニアなどが挙げられる。
【0104】
界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩などのアニオン性界面活性剤、またはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのノニオン界面活性剤などが挙げられる。
【0105】
本実施形態の電極バインダー組成物は、電極バインダーと、水性媒体と、必要に応じて含有されるその他の成分とを混合する方法により製造できる。
【0106】
<3.非水系二次電池電極用スラリー>
本実施形態の非水系二次電池電極用スラリー(以下、「電極スラリー」ということもある。)は、電極バインダーと、電極活物質と、水性媒体とを含む。
本実施形態の電極スラリーに含まれる電極バインダーおよび電極活物質は、それぞれ、水性媒体中に溶解していてもよいし、分散していてもよい。本実施形態の電極スラリーは、必要に応じて、導電助剤および/または増粘剤等を含んでいてもよい。電極スラリーを製造する工程を簡単化するために、電極スラリーは、増粘剤を含まないことが好ましい。
【0107】
電極スラリーを調製する方法は、水性媒体中に、電極バインダーおよび電極活物質を均一に溶解または分散できる方法であればよく、特に制限は無い。本実施形態の電極スラリーは、本実施形態の電極バインダー組成物と、電極活物質と、必要に応じてさらに添加される水性媒体とを混合する方法により製造してもよいし、本実施形態の電極バインダーと、電極活物質と、水性媒体とを混合する方法により製造してもよい。
電極スラリーを調製する方法としては、例えば、攪拌式、回転式、または振とう式などの混合装置を使用して、電極スラリーの材料を混合する方法が挙げられる。
【0108】
電極スラリーの不揮発分濃度は、電極スラリーに含まれる水性媒体の量により調整できる。電極スラリーの不揮発分には、電極バインダー中の共重合体(P)、電極活物質、必要に応じて含有される導電助剤が含まれる。
電極スラリーの不揮発分濃度とは、特に断りがなければ、電極スラリーを直径5cmのアルミ皿に1g秤量し、大気圧下の乾燥器内で空気を循環させながら、110℃で5時間乾燥させた後に残った成分の質量の、乾燥前の質量に対する割合である。
【0109】
電極スラリーの不揮発分濃度は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上である。電極スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させて電極活物質層を形成する場合に、乾燥に必要なエネルギーを削減できるためである。電極スラリーの不揮発分濃度は、好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下である。電極スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させて電極活物質層を形成する場合に、塗布しやすい粘度となるためである。
【0110】
<3-1.電極バインダーの含有率>
電極スラリー中の電極バインダーの含有量は、電極バインダーと、電極活物質と、必要に応じて含有される導電助剤とを合計した質量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることがさらに好ましい。電極スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させて電極活物質層を形成した場合に、電極活物質同士および電極活物質と集電体との結着性が、より良好な電極活物質層が得られるためである。
【0111】
電極スラリー中の電極バインダーの含有量は、電極バインダーと、電極活物質と、必要に応じて含有される導電助剤とを合計した質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、7.0質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以下であることがさらに好ましい。電極スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させて電極活物質層を形成することにより、充放電容量が大きく、内部抵抗の低い電池を形成できる非水系二次電池電極が得られるためである。
【0112】
<3-2.電極活物質>
電極スラリーが、リチウムイオン二次電池の電極活物質層である負極活物質層を形成する際に用いられる場合、電極活物質として、例えば、以下に示す負極活物質を用いることができる。負極活物質は、1種のみであってもよいし、2種以上用いてもよい。
【0113】
負極活物質としては、導電性ポリマー、炭素材料、チタン酸リチウム、シリコン、シリコン化合物などが挙げられる。これらの負極活物質の中でも、体積当たりのエネルギー密度が大きいリチウムイオン二次電池が得られるため、炭素材料、チタン酸リチウム、シリコン、シリコン化合物から選ばれるいずれか1種または2種以上を用いることが好ましい。
【0114】
導電性ポリマーとしては、ポリアセチレン、ポリピロールなどが挙げられる。炭素材料としては、石油コークス、ピッチコークス、石炭コークス等のコークス;人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛などが挙げられる。人造黒鉛としては、例えば、SCMG(登録商標)-XRs(昭和電工株式会社製)が挙げられる。シリコン化合物としては、シリコン酸化物が挙げられ、具体的には、SiO(0.1≦x≦2.0)等が挙げられる。
【0115】
また、負極活物質は、シリコンおよび/またはシリコン化合物と、黒鉛などの炭素材料とを含むことが好ましい。本実施形態の電極バインダーによる負極活物質同士および負極活物質と集電体との結着性を向上させる効果がより顕著となるためである。特に、体積当たりのエネルギー密度が大きく、充放電サイクル後の放電容量維持率が高いリチウムイオン二次電池が得られるため、負極活物質は、シリコンまたはシリコン化合物と、黒鉛とを含むことが好ましく、シリコン酸化物としてSiO(0.1≦x≦2.0)と、黒鉛とを含むことがより好ましい。
【0116】
電極スラリーに含まれる負極活物質は、負極活物質の合計に対してシリコンまたはシリコン化合物を5質量%以上含むことが好ましく、10質量%以上含むことがより好ましく、15質量%以上含むことがさらに好ましい。電極スラリーに含まれる負極活物質がシリコンまたはシリコン化合物を5質量%以上含む場合、電極スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させることにより、シリコンまたはシリコン化合物を5質量%以上含む負極活物質を含む負極活物質層が得られる。この負極活物質層は、負極活物質同士および負極活物質と集電体との結着性が良好である。これは、負極活物質層に含まれる共重合体(P)が、シリコンおよびシリコン化合物に対する結着性が良好なものであるためである。したがって、本実施形態においては、負極活物質がシリコンまたはシリコン化合物を5質量%以上含む負極活物質層を備える非水系二次電池電極であっても、これを備える非水系二次電池の充放電によって負極活物質層に膨れが生じにくく、より一層の高容量化を実現しつつ、充放電サイクル後の放電容量維持率が高いものとなる。
【0117】
また、負極活物質中のシリコンまたはシリコン化合物は、負極活物質の合計に対して50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましい。負極活物質中のシリコンまたはシリコン化合物が50質量%以下であると、高容量化を実現しつつ、より一層、充放電サイクル後の放電容量維持率が高いリチウムイオン二次電池が得られる場合があるためである。
【0118】
電極スラリーが、リチウムイオン二次電池の電極活物質層である正極活物質層を形成する際に用いられる場合、電極活物質として、例えば、以下に示す正極活物質を用いることができる。正極活物質は、1種のみであってもよいし、2種以上用いてもよい。
【0119】
正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケルを含むリチウム複合酸化物、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn)、オリビン型燐酸鉄リチウム、TiS、MnO、MoO、V等のカルコゲン化合物などが挙げられる。正極活物質としては、アルカリ金属の酸化物も使用できる。ニッケルを含むリチウム複合酸化物としては、Ni-Co-Mn系のリチウム複合酸化物、Ni-Mn-Al系のリチウム複合酸化物、Ni-Co-Al系のリチウム複合酸化物などが挙げられる。正極活物質の具体例としては、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi3/5Mn1/5Co1/5などが挙げられる。
【0120】
<3-3.導電助剤>
電極スラリーは、導電助剤として、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、気相法炭素繊維等を含んでいてもよい。気相法炭素繊維の具体例としては、VGCF(登録商標)-H(昭和電工(株))が挙げられる。
【0121】
<3-4.水性媒体>
電極スラリーに含まれる水性媒体は、水を含む。電極スラリーに含まれる水性媒体は、親水性の溶媒を含んでいてもよい。親水性の溶媒としては、メタノール、エタノール及びN-メチルピロリドン等が挙げられる。電極スラリーに含まれる水性媒体中の水の含有率は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であってもよい。電極スラリーに含まれる水性媒体は、電極バインダー組成物に含まれる水性媒体と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0122】
<4.非水系二次電池電極>
本実施形態の非水系二次電池電極(以下、「電極」ということもある。)は、集電体と、集電体の表面に形成された電極活物質層とを備える。電極活物質層は、本実施形態の電極バインダーと、電極活物質とを含む。
電池内における電極の形状は、特に限定されない。電池内における電極は、例えば、複数の電極からなる層が積層された積層体の形状とされていてもよいし、帯状の電極からなる層が巻回された捲回体の形状とされていてもよい。
【0123】
本実施形態の電極は、正極であってもよいし、負極であってもよい。本実施形態の電極は、本実施形態の電極バインダーを含む電極活物質層を備えるため、正極であっても負極であっても、電極活物質層における電極活物質同士および電極活物質と集電体との結着性が良好である。しかも、本実施形態の電極は、電解液に接した電極バインダーが膨潤しにくいため、電極バインダーの結着性が低下しにくい。その結果、本実施形態の電極を備える非水系二次電池は、充放電によって電極活物質層に膨れが生じにくく、充放電サイクル後の放電容量維持率が高いものとなる。しかも、本実施形態の電極は、本実施形態の電極バインダーを含む電極活物質層を備えるため、電極活物質層の柔軟性が良好であり、非水系二次電池の製造時における歩留まりが良好なものとなる。
【0124】
電極に備えられている集電体は、厚さ0.001~0.5mmのシート状の金属からなるものであることが好ましい。集電体に用いられる金属としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等が挙げられる。電極の備えられる非水系二次電池が、リチウムイオン二次電池である場合、正極の集電体としてはアルミニウムを含むものを用いることが好ましく、負極の集電体としては銅を含むものを用いることが好ましいが、特に限定されない。
【0125】
本実施形態の電極は、例えば、集電体上に電極スラリーを塗布し、乾燥させる方法により製造できるが、この方法に限られない。
電極スラリーを集電体上に塗布する方法としては、例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、ディップ法およびスクイーズ法等が挙げられる。これらの中でも、ドクターブレード法、ナイフ法、またはエクストルージョン法が好ましく、ドクターブレード法を用いて塗布することがより好ましい。電極スラリーの粘性等の諸物性及び乾燥性に対して好適であり、良好な表面状態の塗布膜が得られるためである。
【0126】
電極スラリーは、集電体の片面にのみ塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。電極スラリーを集電体の両面に塗布する場合、片面ずつ塗布してもよいし、両面同時に塗布してもよい。また、電極スラリーは、集電体の表面全面に連続して塗布してもよいし、間欠的に塗布してもよい。電極スラリーの塗布量および塗布範囲は、電池の大きさなどに応じて、適宜決定できる。電極スラリーの塗布量は、乾燥後の電極活物質層の目付量が、4~20mg/cmとなる量であることが好ましく、6~16mg/cmとなる量であることがより好ましい。
【0127】
次に、集電体に塗布された電極スラリーを乾燥する。このことにより電極シートが得られる。塗布された電極スラリーの乾燥方法は、特に限定されないが、例えば、熱風、真空、(遠)赤外線、電子線、マイクロ波および低温風から選ばれる方法を、単独あるいは組み合わせて用いることができる。乾燥温度は、40℃以上180℃以下であることが好ましい。乾燥時間は、1分以上30分以下であることが好ましい。
【0128】
電極シートは、そのまま電極として用いてもよいし、電極として適当な大きさおよび形状にするために切断してから用いてもよい。電極シートの切断方法は、特に限定されないが、例えば、スリット、レーザー、ワイヤーカット、カッター、トムソン等を用いることができる。
【0129】
電極シートを切断する前または後に、必要に応じて電極シートをプレスしてもよい。それによって、電極活物質同士および電極活物質と集電体とをより強固に結着させることができる。また、プレスすることにより、電極の厚みを薄くすることができ、非水系二次電池のより一層のコンパクト化が可能となる。
【0130】
電極シートをプレスする方法としては、一般的な方法を用いることができる。特に、電極シートをプレスする方法として、金型プレス法またはロールプレス法を用いることが好ましい。
電極シートのプレス圧は、特に限定されないが、電極シートをプレスすることが、電極活物質へのリチウムイオン等のドープ/脱ドープに影響を及ぼさない範囲とすることが好ましい。電極シートのプレス圧は、0.5~5t/cmとすることが好ましい。
【0131】
<5.非水系二次電池>
次に、本実施形態における非水系二次電池として、リチウムイオン二次電池を例に挙げて説明する。本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解液と、必要に応じて備えられるセパレータ等の部品とが、外装体に収容されたものである。本実施形態のリチウムイオン二次電池においては、正極と負極のうち少なくとも一方が、本実施形態にかかる電極バインダーを含む本実施形態の電極である。
【0132】
<5-1.電解液>
電解液としては、イオン伝導性を有する非水系の液体を使用する。電解液としては、電解質を有機溶媒に溶解させた溶液、イオン液体等が挙げられる。製造コストが低く、内部抵抗の低い電池が得られるため、電解液として、電解質を有機溶媒に溶解させた溶液を用いることが好ましい。
【0133】
電解質としては、アルカリ金属塩を用いることができ、電極活物質の種類等に応じて適宜選択できる。電解質としては、例えば、LiClO、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、CFSOLi、CHSOLi、LiCFSO、LiCSO、Li(CFSON、脂肪族カルボン酸リチウム等が挙げられる。
【0134】
電解質を溶解する有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)等の炭酸エステル化合物、アセトニトリル等のニトリル化合物、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルなどのカルボン酸エステルが挙げられる。これらの有機溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0135】
<5-2.外装体>
外装体としては、金属、アルミラミネート材など公知の材料からなるものを適宜使用できる。
電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型等、いずれの形状であってもよい。
【0136】
本実施形態の電極バインダーは、一般式(I)で表される単量体(A)由来の構造単位(a)と、一般式(II)で表される単量体(B)由来の構造単位(b)とを有する共重合体(P)を含む。本実施形態の電極バインダーに含まれる共重合体(P)は、構造単位(a)の含有率が4.0モル%以上75.0モル%以下であり、構造単位(b)の含有率が25.0モル%以上96.0モル%以下である。このため、本実施形態の電極バインダーは、柔軟性の良好な電極活物質層を有し、かつ、充放電サイクル後の放電容量維持率が十分に高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極の材料として、好適に使用できる。
【0137】
また、本実施形態の電極バインダー組成物および電極スラリーは、本実施形態の電極バインダーを含む。このため、柔軟性の良好な電極活物質層を有し、かつ、充放電サイクル後の放電容量維持率が十分に高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極の材料として、好適に使用できる。
【0138】
本実施形態の非水系二次電池電極は、集電体と、集電体の表面に形成された電極活物質層と、を備えるものであり、電極活物質層が本実施形態の電極バインダーを含む。このため、充放電サイクル後の放電容量維持率が十分に高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極となる。また、本実施形態の非水系二次電池電極は、電極活物質層が本実施形態の電極バインダーを含むため、柔軟性の良好な電極活物質層を有する。このため、本実施形態の非水系二次電池電極を含む非水系二次電池は、製造時の歩留まりが良好なものとなる。
本実施形態の非水系二次電池は、本実施形態の非水系二次電池電極を備えるため、歩留まりよく製造でき、かつ、充放電サイクル後の放電容量維持率が十分に高いものとなる。
【実施例0139】
以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明の内容の理解をより容易にするためのものである。本発明は、これらの実施例のみに制限されるものではない。
具体的には、以下の実施例では、本発明の非水系二次電池電極用バインダーを含む非水系二次電池電極用バインダー組成物の一例として、リチウムイオン二次電池の負極バインダー組成物を作製した場合を例に挙げて説明するが、この非水系二次電池電極用バインダー組成物は、リチウムイオン二次電池の正極バインダー組成物としても用いることができる。
【0140】
以下の実施例では、本発明の非水系二次電池電極用バインダーを含む非水系二次電池電極用バインダー組成物の一例として、リチウムイオン二次電池の負極バインダー組成物を作製し、これを用いて負極スラリー、負極およびリチウムイオン二次電池を作製し、比較例にかかるリチウムイオン二次電池の負極バインダー組成物、負極およびリチウムイオン二次電池と比較して、本発明の効果を確認した。
【0141】
<1.負極バインダー組成物の作製>
負極バインダー組成物に含まれる実施例1~14の共重合体(P)の合成に用いた単量体(A)~(D)およびその割合を表1または表2に示す。また、負極バインダー組成物に含まれる比較例1~8の共重合体または重合体の合成に用いた単量体(A)~(D)およびその割合を表3に示す。表1~表3に示す組成割合(単量体(A)+単量体(B))とは、合成に用いた単量体の合計量に対する単量体(A)と単量体(B)との合計量の割合である。
実施例1~14の共重合体(P)、および比較例1~8の共重合体または重合体は、合成に使用した単量体と重合開始剤の種類および使用量以外は、同様にして製造した。
【0142】
【表1】
【0143】
【表2】
【0144】
【表3】
【0145】
表1~表3に示す単量体(A)~(D)は、以下に示す化合物である。共重合体または重合体の合成に、単量体(A)~(D)から選ばれるいずれか1種以上を含む水溶液を使用した場合、表1~表3に示す単量体(A)~(D)の使用量は、水溶液中の単量体(A)~(D)自体の含有量であり、溶媒である水を含まない。
【0146】
(単量体(A))
・N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)
・N-メチロールアクリルアミド(N-MAM)
(単量体(B))
・アクリル酸ナトリウム(AaNa)(28.5質量%水溶液)
・メタクリル酸ナトリウム(MAaNa)(28.5質量%水溶液)
・アクリル酸リチウム(AaLi)(28.5質量%水溶液)
(単量体(C))
・N-ビニルアセトアミド(NVA)(昭和電工株式会社製)
(その他単量体(D))
・アクリルアミド(AAm)(50.0質量%水溶液)
・2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)
【0147】
また、実施例1~14の共重合体(P)、および比較例1~8の共重合体または重合体の合成に用いたラジカル重合開始剤の詳細は以下の通りである。
(ラジカル重合開始剤)
・2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩(V-50)(和光純薬工業社製)
・過硫酸アンモニウム(和光純薬工業社製)
【0148】
<1-1.実施例1~10、14、比較例1~8の負極バインダー組成物の作製>
冷却管、温度計、攪拌機、滴下ロートが組みつけられたセパラブルフラスコに、表1~表3に示す割合で単量体(A)~(D)を含む合計100質量部の単量体と、ラジカル重合開始剤としての2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩を0.2質量部、および過硫酸アンモニウムを0.05質量部と、水567質量部とを30℃で仕込んだ。これを、80℃に昇温し、4時間重合を行って共重合体または重合体を生成させ、共重合体または重合体を含む反応液を得た。
【0149】
重合後の共重合体または重合体を含む反応液に水を加えて、不揮発分濃度が10.0質量%である実施例1~10、14、比較例1~8の負極バインダー組成物を得た。共重合体または重合体を合成する際に、単量体(アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸リチウム、アクリルアミド)として使用した水溶液中の水は、実施例1~10、14、比較例1~8の負極バインダー組成物中の水の量に含まれる。
【0150】
<1-2.実施例11の負極バインダー組成物の作製>
ラジカル重合開始剤としての2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩の仕込み量を0.8質量部とし、過硫酸アンモニウムの仕込み量を0.20質量部としたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例11の負極バインダー組成物を得た。
【0151】
<1-3.実施例12の負極バインダー組成物の作製>
ラジカル重合開始剤としての2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩の仕込み量を0.4質量部とし、過硫酸アンモニウムの仕込み量を0.10質量部としたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例12の負極バインダー組成物を得た。
【0152】
<1-4.実施例13の負極バインダー組成物の作製>
ラジカル重合開始剤としての2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩の仕込み量を0.1質量部とし、過硫酸アンモニウムの仕込み量を0.03質量部としたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例13の負極バインダー組成物を得た。
【0153】
<2.共重合体または重合体の重量平均分子量>
実施例1~14、比較例1~8の負極バインダー組成物それぞれに含まれる共重合体または重合体の重量平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定した。その結果を表1~表3に示す。
【0154】
GPC装置: GPC-101(昭和電工株式会社製)
溶媒:0.1M NaNO水溶液
サンプルカラム:Shodex Column Ohpak SB-806 HQ(8.0mmI.D.x300mm)2本(昭和電工株式会社製)
リファレンスカラム:Shodex Column Ohpak SB-800 RL(8.0mmI.D.x300mm)2本(昭和電工株式会社製)
カラム温度:40℃
サンプル濃度:0.1質量%
検出器:RI-71S(株式会社島津製作所製)
ポンプ:DU-H2000(株式会社島津製作所製)
圧力:1.3MPa
流量:1ml/min
分子量スタンダード:プルラン(P‐5、P-10、P‐20、P-50、P‐100、P-200、P-400、P-800、P-1300、P-2500(昭和電工株式会社製)
【0155】
<3.負極の作製>
負極活物質として、黒鉛であるSCMG(登録商標)-XRs(昭和電工株式会社製)を76.8質量部と、一酸化ケイ素(SiO)(Sigma-Aldrich製)を19.2質量部とを用意した。また、導電助剤として、VGCF(登録商標)-H(昭和電工(株))を1質量部用意した。
【0156】
そして、上記の負極活物質と、導電助剤と、実施例1~14、比較例1~8のいずれかの負極バインダー組成物を30質量部(共重合体または重合体を3質量部、水を27質量部含む)と、水を20質量部とを混合し、混合物を得た。混合は、攪拌式混合装置(自転公転撹拌ミキサー)を用いて回転速度2000回転/分で4分間混練する方法により行った。得られた混合物に、さらに水を53質量部加え、上記混合装置で、さらに回転速度2000回転/分で4分間混合し、実施例1~14、比較例1~8の負極スラリーを得た。
【0157】
調製した実施例1~14、比較例1~8の負極スラリーを、それぞれ厚さ10μmの銅箔からなる集電体の片面に、乾燥後の目付量が8mg/cmとなるようにドクターブレード法を用いて塗布した。負極スラリーが塗布された銅箔を、60℃で10分間乾燥した後、さらに100℃で5分間乾燥することにより、負極活物質層を形成し、負極シートを作製した。得られた負極シートから、幅50mm、長さ60mmの2枚の負極シート片を切り出した。切り出した各負極シート片に対し、それぞれ金型プレスを用いてプレス圧1t/cmで1回ずつプレスした。
【0158】
プレス後の2枚の負極シート片のうち、1枚を縦22mm、横22mmの正方形に切り出し、導電タブを取り付けて負極とした。また、プレス後の2枚の負極シート片のうち、もう一枚を、以下に示す負極の評価に使用した。
【0159】
<4.負極の評価>
実施例1~14、比較例1~8の負極について、以下に示す方法により、電極特性を評価した。その結果を表1~表3に示す。
【0160】
<4-1.負極活物質層の外観(凝集物数)評価>
<3.負極の作製>の項にて作製した幅50mm、長さ60mmのプレス後の負極シート片について、負極活物質層全体の外観を目視にて観察し、負極活物質層における凝集物の数を数えた。
【0161】
<4-2.負極活物質層の柔軟性(巻回試験)評価>
<4.負極の作製>の項にて作製した幅50mm、長さ60mmのプレス後の負極シート片を試験片とし、80℃で12時間乾燥させた。そして、厚み50μmのテープを用いて、乾燥後の試験片の長さ方向の一端を直径3mmのステンレス製棒に固定し、もう一端をガラス板に固定した。その後、ステンレス製棒の長さ方向と、試験片の幅方向とを略平行に配置し、かつ試験片の負極活物質層側の面をステンレス製棒側(内側)に向けて、ステンレス製棒に試験片を巻回させた。このとき、巻き取られた試験片に皺および弛みが生じないようにし、ステンレス製棒に巻き取った試験片と、巻き取った試験片の上に巻き取られる試験片とが密着するようにした。次に、試験片を巻き取ったステンレス製棒から、巻き取られた試験片を全て巻き出し、平らに広げた。そして、試験片の負極活物質層全体の外観を目視にて観察し、負極活物質層におけるクラックの数を数えた。
【0162】
<5.正極の作製>
正極活物質としてのLiNi1/3Mn1/3Co1/3を90質量部と、導電助剤としてのアセチレンブラックを5質量部と、正極バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン5質量部とを混合し、混合物を得た。得られた混合物に、溶媒としてのN-メチルピロリドン100質量部を加えて混合し、正極スラリー(固形分中のLiNi1/3Mn1/3Co1/3の割合は90質量%)を得た。
【0163】
調製した正極スラリーを、厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体の片面に、乾燥後の目付量が22.5mg/cmとなるようにドクターブレード法を用いて塗布した。正極スラリーが塗布されたアルミニウム箔を、120℃で5分間乾燥することにより、正極活物質層を形成し、正極シートを作製した。得られた正極シートを、ロールプレスによりプレスして、厚さ100μmの正極活物質層を有する正極シートとした。プレス後の正極シートを縦20mm、横20mmの正方形に切り出し、導電タブを取り付けて正極とした。
【0164】
作製した正極の理論容量を、正極スラリーの乾燥後の目付量(22.5×10-3g/cm)と、正極スラリーの塗布面積(2.0cm×2.0cm)と、LiNi1/3Mn1/3Co1/3の正極活物質としての容量(160mAh/g)と、固形分中のLiNi1/3Mn1/3Co1/3の割合(0.90)とを用いて、以下に示す式により算出した。その結果、正極の理論容量は13mAhであった。
正極の理論容量(mAh)=正極スラリーの乾燥後の目付量×正極スラリーの塗布面積×正極活物質の容量×正極スラリーの固形分中の正極活物質の割合
【0165】
<6.電解液の調製>
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比30:50:20となるように混合し、混合溶媒を得た。得られた混合溶媒に、電極活物質としてLiPFを1.0mol/Lの濃度となるように添加し、ビニレンカーボネート(VC)を1.0質量%、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を2.0質量%の濃度となるように溶解して、電解液を得た。
【0166】
<7.電池の組み立て>
正極と、実施例1~14、比較例1~8のいずれかの負極とを、それぞれの活物質層が互いに対向するように、ポリオレフィン多孔性フィルムからなるセパレータを介して配置し、アルミラミネート材からなる外装体(電池パック)の中に収納した。その後、外装体の中に電解液を注入し、真空ヒートシーラーを用いて外装体の開口部をパッキングした。以上の工程により、実施例1~14、比較例1~8のラミネート型の電池を得た。
【0167】
<8.電池の評価>
実施例1~14、比較例1~8の電池について、それぞれ以下に示す方法により、電池特性を評価した。その結果を表1~表3に示す。
【0168】
<8-1.電池の放電容量維持率(100サイクル)>
電池の放電容量維持率を求めるために、温度25℃の条件下で、以下の手順により電池の充放電サイクル試験を行った。
まず、電圧が4.2Vになるまで1Cの電流で充電(CC充電)した。次に、電流が0.05Cになるまで4.2Vの電圧で充電した(CV充電)。30分間放置した後、電圧が2.75Vになるまで1Cの電流で放電した(CC放電)。そして、CC充電、CV充電、及びCC放電の一連の操作を1サイクルとし、100サイクル行った。
【0169】
次に、nサイクル目のCC充電及びCV充電における電流の時間積分値の和をnサイクル目の充電容量(mAh)とし、nサイクル目のCC放電における電流の時間積分値をnサイクル目の放電容量(mAh)とし、以下の式により、電池の100サイクル目の放電容量維持率を求めた。
100サイクル目の放電容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0170】
<9.評価結果>
表1および表2に示すように、実施例1~14の負極は、負極活物質層におけるクラックの数が2以下であり、柔軟性が良好であった。しかも、実施例1~14の負極は、負極活物質層における凝集物の数が1以下であり、外観が良好であった。
また、実施例1~14の電池は、100サイクル目の放電容量維持率が92%以上であり、電池特性が良好であることが確認できた。
【0171】
一方、表3に示すように、単量体(A)を用いず、単量耐(B)のみを重合して得られた重合体を含む比較例1の負極は、負極活物質層におけるクラックの数が15であり、柔軟性が非常に劣るものであった。しかも、比較例1の負極は、負極活物質層における凝集物の数が4であり、外観も不十分であった。
また、比較例1の電池は、100サイクル目の放電容量維持率が90.1%であり、電池特性も不十分であった。
これらの結果は、比較例1では、負極活物質層中にバインダーとして含まれている重合体が、単量体(A)由来の構造単位(a)を含まないことによるものであると推定される。
【0172】
また、表3に示すように、単量体(A)の代わりに、単量体(C)を用いた共重合体を含む比較例2の負極は、負極活物質層におけるクラックの数が12であり、柔軟性が非常に劣るものであった。
また、表3に示すように、単量体(A)の代わりに、その他単量体(D)であるアクリルアミドを用いた共重合体を含む比較例3の負極は、負極活物質層におけるクラックの数が12であり、柔軟性が非常に劣るものであった。また、比較例3の電池は、100サイクル目の放電容量維持率が91.9%であり、電池特性も不十分であった。
【0173】
また、表3に示すように、単量体(A)の代わりに、その他単量体(D)であるヒドロキシエチルアクリレートを用いた共重合体を含む比較例4の負極は、100サイクル目の放電容量維持率が90.5%であり、電池特性が不十分であった。
比較例2~比較例4は、負極活物質層中にバインダーとして含まれている共重合体が、単量体(A)由来の構造単位(a)を含まないため、負極特性および電池特性が不十分である結果になったものと推定される。
【0174】
また、表3に示すように、共重合体(P)の合成に使用した単量体(A)の含有量が2モル%である比較例5の負極は、負極活物質層におけるクラックの数が12であり、柔軟性が非常に劣るものであった。しかも、比較例5の負極は、負極活物質層における凝集物の数が4であり、外観も不十分であった。
また、比較例5の電池は、100サイクル目の放電容量維持率が91.5%であり、電池特性も不十分であった。
これらの結果は、比較例5では、負極活物質層中にバインダーとして含まれている共重合体における単量体(A)由来の構造単位(a)の含有率が不十分であるためであると推定される。
【0175】
また、表3に示すように、共重合体(P)の合成に使用した単量体(A)の含有量が82モル%であり、単量体(B)の含有量が18モル%である比較例6の電池は、100サイクル目の放電容量維持率が89.0%であり、電池特性が不十分であった。
この結果は、比較例6では、負極活物質層中にバインダーとして含まれている共重合体における単量体(A)由来の構造単位(a)の含有率が過剰であり、かつ単量体(B)由来の構造単位(b)の含有率が不十分であるためであると推定される。
【0176】
また、表3に示すように、単量体(B)を用いず、単量耐(A)のみを重合して得られた重合体を含む比較例7の負極は、負極活物質層における凝集物の数が6であり、外観が不十分であった。
また、比較例7の電池は、100サイクル目の放電容量維持率が86.0%であり、電池特性も不十分であった。
これらの結果は、比較例7では、負極活物質層中にバインダーとして含まれている重合体が、単量体(B)由来の構造単位(b)を含まないことによるものであると推定される。
【0177】
また、表3に示すように、共重合体(P)の合成に使用した単量体(A)の含有量が5モル%であり、単量体(B)の含有量が21モル%である比較例8の電池は、100サイクル目の放電容量維持率が90.5%であり、電池特性が不十分であった。
この結果は、比較例8では、負極活物質層中にバインダーとして含まれている共重合体における単量体(B)由来の構造単位(b)の含有率が不十分であるためであると推定される。