(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164200
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】ポリロタキサン及び架橋ポリロタキサン
(51)【国際特許分類】
C08G 65/333 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
C08G65/333
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022075605
(22)【出願日】2022-04-29
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 明繁
(72)【発明者】
【氏名】竹内 宏充
(72)【発明者】
【氏名】安藤 翔太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 耕三
(72)【発明者】
【氏名】眞弓 皓一
(72)【発明者】
【氏名】小林 悠平
【テーマコード(参考)】
4J005
【Fターム(参考)】
4J005AA04
4J005BA00
4J005BB01
4J005BD05
(57)【要約】
【課題】一定以上の耐熱性を有しながら、各種溶媒への溶解性が良いポリロタキサンを提供する。
【解決手段】直鎖状分子と、該直鎖状分子を串刺し状に包接する環状分子と、該直鎖状分子の両末端に配置された封鎖基とを有するポリロタキサンにおいて、前記環状分子が、側鎖にフェノール性水酸基を有する芳香環を含み、さらに前記フェノール性水酸基の少なくとも一部がε-カプロラクトンで置換されグラフト化されていることを特徴とする。当該ポリロタキサンは複数のポリロタキサンの環状分子間が架橋された架橋ポリロタキサンとすることができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖状分子と、該直鎖状分子を串刺し状に包接する環状分子と、該直鎖状分子の両末端に配置された封鎖基とを有するポリロタキサンにおいて、
前記環状分子が、側鎖にフェノール性水酸基を有する芳香環を含み、さらに前記フェノール性水酸基の少なくとも一部がε-カプロラクトンで置換されグラフト化されていることを特徴とするポリロタキサン。
【請求項2】
請求項1記載の複数のポリロタキサンの環状分子間が架橋された架橋ポリロタキサン。
【請求項3】
請求項2記載の架橋ポリロタキサンを含むエラストマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリロタキサンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリロタキサンは、直鎖状分子と、該直鎖状分子を串刺し状に包接する(空孔の中に取り込んでいる)環状分子と、該直鎖状分子の両末端に配置された封鎖基とを有する構造の分子集合体であり、環状分子が直鎖状分子に対してスライド可能であるため、スライドリングマテリアル(SRM)と称されている。環状分子と直鎖状分子はそれぞれ種々のものが知られているが、環状分子としてシクロデキストリン、直鎖状分子としてポリエチレングリコールが用いられることが多い(特許文献1~3)。
【0003】
シクロデキストリンは、環状にD-グルコースがつながった構造をしている。D-グルコースの環員数が6であるα-シクロデキストリンの構造式を、
図5に示す。シクロデキストリンは、空孔の端に水酸基が多くあり、また、空孔の中にエーテル結合の酸素原子と水素原子がある。
【0004】
しかし、環状分子がシクロデキストリンであるポリロタキサン(以下「シクロデキストリン型ポリロタキサン」ということがある。)は、本発明者らの検討によると、耐熱性と、各種溶媒への溶解性に改善の余地があった(後述する表1の比較例3参照)。
【0005】
そこで、本出願人の一人において先に、ピラーアレーンを環状分子として用いたポリロタキサン(以下「ピラーアレーン型ポリロタキサン」ということがある。)を開発し、従来のシクロデキストリン型よりも耐熱性が向上することを見出した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/080469号
【特許文献2】国際公開第2018/038124号
【特許文献3】特開2007-91938号公報
【特許文献4】特開2021-138635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献4のピラーアレーン型ポリロタキサンは、各種溶媒への溶解性が非常に悪く(表1の比較例1参照)、アルカリ水溶液には溶解するが、他の溶媒としてはわずかにジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解するのみであり、従って、例えば当該ポリロタキサンを架橋反応させるとき等に制約があった。
【0008】
そこで、本出願人の一人において検討したところ、上記のピラーアレーン型ポリロタキサンの溶解性が非常に悪い要因は、ピラーアレーンがフェノール性水酸基を有するものであったため、ロタキサン同士が水素結合形成により凝集することにあると考えられ、その凝集をほどくために高温が必要であるなど加工性にも難があった。そこで、さらに検討を重ね、芳香環を含む環状分子のフェノール性水酸基の少なくとも一部をヒドロキシプロピル基等の特定置換基で置換することで、凝集を抑えられ、溶解性が向上することを見出した(特願2021-059152(本出願時において未公開)。
【0009】
しかし、そのヒドロキシプロピル基修飾ピラーアレーン型ポリロタキサンは、溶解性の向上が見られたものの(表1の比較例2参照)、いまだ制限は多く、例えば酢酸エチルなどのような溶剤には溶解しない。そのため、例えば高分子アクチュエータ用の膜の製造などを考えたとき、その加工性には課題がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、一定以上の耐熱性を有しながら、各種溶媒への溶解性が良いポリロタキサンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]ポリロタキサン
直鎖状分子と、該直鎖状分子を串刺し状に包接する環状分子と、該直鎖状分子の両末端に配置された封鎖基とを有するポリロタキサンにおいて、
前記環状分子が、側鎖にフェノール性水酸基を有する芳香環を含み、さらに前記フェノール性水酸基の少なくとも一部がε-カプロラクトンに置換されグラフト化されていることを特徴とするポリロタキサン。
前記フェノール性水酸基の少なくとも一部をε-カプロラクトンに置換することを、以下「ポリカプロラクトン修飾」ということがある。
【0012】
(作用)
本発明のポリロタキサンによれば、各種溶媒への溶解性が向上し、従来のポリロタキサンでは溶解しなかった酢酸エチル、アセトン等にも溶解するようになる。これは、ポリロタキサンを構成する環状分子である芳香環中のフェノール性水酸基が、非イオン性であるε-カプロラクトンに置換されグラフト化されたことに加え、その側鎖長が長くなったことでロタキサン同士の水素結合形成による凝集が抑制されることによるものと考えられる。このように各種溶媒への溶解性が向上したことで、加工性が改善されるだけでなく、相溶性の観点から様々な化合物やポリマーとの混合が良好になるため、当該ポリロタキサンを架橋反応させるときの架橋剤の化学構造の選択肢が増える。
【0013】
また、環状分子がポリカプロラクトン修飾された芳香環である本発明のポリロタキサンは、環状分子がポリカプロラクトン修飾されたシクロデキストリンであるポリロタキサンと比べて、熱分解温度が高い。
【0014】
[2]架橋ポリロタキサン
上記[1]の複数のポリロタキサンの環状分子間が架橋剤により架橋された架橋ポリロタキサン。
【0015】
[4]エラストマー
上記[2]の架橋ポリロタキサンを含むエラストマー。
【0016】
同エラストマーの用途は、特に限定されず、例えば同エラストマーに電極を付けて高分子アクチュエータ又は高分子センサ-として用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、一定以上の耐熱性を有しながら、各種溶媒への溶解性が良いポリロタキサンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は実施例のポリロタキサンの製造過程の前半を説明する模式図である。
【
図2】
図2は同前半で得られたピラーアレーン型ポリロタキサン(ポリカプロラクトン修飾前)の模式図である。
【
図3】
図3は実施例のポリロタキサンの製造過程の後半(ポリカプロラクトン修飾)と、得られたポリロタキサンの架橋とを説明する模式図である。
【
図4】
図4は比較例2のポリロタキサンの製造過程を説明する模式図である。
【
図5】
図5は比較例3のポリロタキサンの模式図である。
【
図6】
図6は実施例と比較例5の各ポリロタキサンの重量変化-温度曲線を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.ポリロタキサン
(a)環状分子
芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等を例示できる。
当該環状分子としては、側鎖にフェノール性水酸基を有するピラーアレーン、カリックスアレーン等を例示できる。
当該環状分子は、上記のとおり、側鎖のフェノール性水酸基の少なくとも一部が特定置換基で置換されているものとするが、フェノール性水酸基の別の一部を、他の基、例えば-SH、-NH2、-COOH、-SO3H、-PO4H等で置換したものでもよいし、種々の有機溶媒に溶化できるよう、グラフト鎖(例えばラクトンモノマーの開環重合からなるグラフト鎖)を有する置換基で置換したものでもよい。
【0020】
ピラーアレーンは、アレーン(芳香環)が環状かつ角柱状につながった構造をもつオリゴマーであり、アレーンの環員数を[n]として、一般的にピラー[n]アレーンと表記される。[n]は特に限定されないが、好ましくは5~6である。
カリックスアレーンは、フェノールがメチレン基を介して環状につながった構造を持つオリゴマーであり、フェノールの環員数を[n]として、一般にカリックス[n]アレーンと表記される。[n]は特に限定されないが、好ましくは3~10である。
【0021】
(b)直鎖状分子
直鎖状分子としては、特に限定されないが、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール及びポリビニルメチルエーテル等を例示できる。直鎖状分子は、ポリエチレングリコールが好ましく、ポリエチレングリコールとともに他の直鎖状分子が含有されていてもよい。
【0022】
(c)封鎖基
封鎖基としては、特に限定されないが、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを例示できる。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類(置換基として、上記と同じものを例示できる。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、及びステロイド類等を例示できる。ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、及びピレン類からなる群から選ばれるのが好ましく、より好ましくはアダマンタン基類又はトリチル基類である。
【0023】
2.架橋剤
ポリロタキサンの架橋剤としては、特に限定されないが、イソシアネート、ポリエーテル、ポリエステル、ポリシロキサン、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート又はポリエン、もしくはそれらの共重合体、もしくはそれらの混合体を例示できる。
架橋剤の各末端に位置する官能基としては、特に限定されないが、環状分子のフェノール性水酸基と反応できるイソシアネート基が好ましく、ブロック化イソシアネートがより好ましい。
【0024】
3.エラストマー
エラストマーは、架橋ポリロタキサンのみからなるものでもよいし、架橋ポリロタキサンと他のエラストマー等の混合物でもよい。
他のエラストマーとしては、特に限定されないが、シリコーンエラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、天然ゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、ウレアゴム、フッ素ゴム等を例示できる。
【実施例0025】
次の(1)~(5)の工程を経る方法により、実施例のポリロタキサンを作製した。
【0026】
(1)ポリエチレングリコール(PEGと略記する)の両末端の活性化
図1(1)に示すように、文献(Macromolecules,2005,38,7524-7527.)の方法に従って、ポリエチレングリコール(PEG20000)の水溶液に2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル(TEMPO)、NaBr、NaClOを作用させ、pH10-11で15分間反応させた。反応液を希塩酸を加えて処理を行い、得られた混合物をジクロロメタンで2回抽出した。得られたジクロロメタン溶液を回収・減圧濃縮し、エタノールで再結晶を行い、分子の両末端がカルボキシル基であるポリエチレングリコール(PEG-COOHと略記する)を91%の重量収率で得た。
【0027】
(2)ピラー[5]アレーンの合成
図1(2)に示すように、文献(J.Org.Chem.2011,76,328-331.)の方法に従って、ジメトキシピラー[5]アレーン(2.00g,2.67mmol)を無水クロロホルム(150mL)に溶解させた溶液に三臭化ホウ素(13.6g,54.3mmol)を加え、25℃で72時間攪拌した。反応溶液に水を加えて生じた沈殿物を回収し、0.5MHCl水溶液およびクロロホルムで洗浄し、側鎖にフェノール性水酸基を有する芳香環を含むピラー[5]アレーン(P5AOHと略記する)(1.61g,2.64mmol)を定量的に得た。
【0028】
(3)擬ポリロタキサンの合成
図1(3)に示すように、重量比でメタノール:水=1:1で混合したメタノール水溶液10mLを溶媒に用いて調製したP5AOH溶液10mL(0.0121mol/L)を、PEG-COOH溶液0.6mL(1.894mol/L)と混合し、室温で1日静置した。生じた沈殿物を水10mLで洗浄し、得られた残渣を真空下、50℃で1日乾燥し、P5AOHがPEG-COOHを包接する擬ポリロタキサン(PseudoP5AOH-PEGと略記する)を得た。
【0029】
(4)ピラーアレーン型ポリロタキサンの合成
図1(4)に示すように、アダマンタンアミン(0.016g,0.11mmol)、BOP試薬(0.048g,0.11mmol)、ジイソプロピルエチルアミン(0.019mL,0.12mmol)をジメチルホルムアミド(dryDMF)(10mL)に溶解した溶液を充分に氷冷し、上記PseudoP5AOH-PEG(150mg)を加えて4℃で一昼夜攪拌した。得られた溶液をロータリーエバポレーターで減圧下濃縮し、過剰の水を加えて攪拌する。沈殿物をろ過し、得られた残渣にアセトンを加えて超音波洗浄、上澄みの除去、真空乾燥し、PEGの両末端にアダマンタン基類が配置されたピラーアレーン型ポリロタキサン(P5AOH-PEGと略記する)(104mg)を得た。このP5AOH-PEGの模式図を(P5AOHについては構造式も)
図2に示す。
【0030】
(5)ポリカプロラクトン修飾ピラーアレーン型ポリロタキサンの合成
図3(5)に示すように、上記ポリロタキサンP5AOH-PEG(仕込み49.2mg,内ピラーアレーン分15.1mg)を、アルゴン雰囲気下でε-カプロラクトン1.00mL(365eq.)に溶解させ、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン50.0μL(13.5eq.)を加え、100℃で24時間攪拌した。反応液をジクロロメタンに溶解した後、ヘキサンで再沈殿し、残留ε-カプロラクトン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エンを除去した。残渣を、室温で1日真空乾燥し、ピラーアレーン上のOH基に対しε-カプロラクトンをグラフトさせた(ポリカプロラクトン修飾)ピラーアレーン型ポリロタキサン(P5A-g-PCL-PEGと略記する)を1.05g得た。
【0031】
[比較例1]
上記(4)で得たP5AOH-PEG(ピラーアレーン型ポリロタキサン)(
図2)を、比較例1とした。
【0032】
[比較例2]
上記(4)で得たP5AOH-PEGを、次の方法によりヒドロキシプロピル修飾して、比較例2のポリロタキサンを作製した。
図4に示すように、上記(4)で得たP5AOH-PEG(仕込み804mg,内ピラーアレーン分459mg)を、0.01M NaOH水溶液30.1mL(10当量)に溶解させた溶液に、プロピレンオキシド131.4g(3000eq.)を加え、室温で24時間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、残留プロピレンオキシドを除去した。残渣を3M HCl水溶液でpH=3~4に酸処理した後、酸処理液を減圧濃縮し、水を除去した。残渣にTHFを加え、ろ過し、可溶部を減圧濃縮した。得られた液状化合物の1.5gにエタノールを加えて、ろ過し、不溶部を40℃で1日真空乾燥し、ピラーアレーンのフェノール性水酸基の少なくとも一部がヒドロキシプロピル基で置換された(ヒドロキシプロピル修飾)ピラーアレーン型ポリロタキサン(P5AOHP-PEGと略記する)を154mg得た。
【0033】
[比較例3]
上記(1)で得たPEG-COOHと市販のα-シクロデキストリン(CDと略記する)を用い、次の方法により、比較例3のポリロタキサンを作製した。
文献(Macromolecules,2005,38,7524-7527.)の方法に従って、PEG-COOH3.0g(8.6×10
-5mol)とα-シクロデキストリン(12g,1.2×10
-2mol)を水(100mL)に溶解し、冷蔵庫に終夜静置した。得られたペースト状の混合物を凍結乾燥し、乾燥した固形分をアダマンタンアミン(0.16g,1.1×10
-3mol)、BOP試薬(0.48g,1.1×10
-3mol)、エチルジイソプロピルアミン(0.19mL,1.2×10
-3mol)と共にDMF100mLに溶解し、4℃で一昼夜反応させた。得られた混合物をDMF/MeOH(1:1)の混合溶媒、MeOHで各2回遠心分離した。回収した沈殿物にDMSO80mLを加え洗浄し、得られた沈殿物にH
2O(800mL)を加えて遠心分離を行い、得られた固形分を凍結乾燥し、比較例3のシクロデキストリン型ポリロタキサン(CD-PEGと略記する)を9.55g~10.3g得た。このCD-PEGの模式図を(CDについては構造式も)
図5に示す。
【0034】
[比較例4]
上記比較例3のCD-PEGのCDを、国際公開第2005/080469号の段落0092に記載の方法によりヒドロキシプロピル修飾して、比較例4のヒドロキシプロピル修飾シクロデキストリン型ポリロタキサン(CDP-PEGと略記する)を作製した。
【0035】
[比較例5]
比較例5として、株式会社ASM製の商品名SH1300Pを使用した。これは、CD-PEGのシクロデキストリン上のOH基に対しε-カプロラクトンをグラフトさせた(ポリカプロラクトン修飾)シクロデキストリン型ポリロタキサン(CD-g-PCL-PEGと略記する)である。
【0036】
[測定]
実施例及び比較例1~5について、次の測定を行った。
【0037】
(ア)TG-DTA測定(耐熱性の確認)
実施例及び比較例1~5の各ポリロタキサンについて、TG-DTA測定を行った。
詳しくは、示差熱・熱重量(TG-DTA)同時測定装置(日立ハイテクノロジーズ製 STA7200)を用い、サンプルパンとして白金を用いて、N
2ガス気流(10mL/分)中で、熱分解昇温速度:100~300℃…1℃/分、300~900℃…10℃/分の条件下、測定した。加熱前重量を基準(100%)にして加熱前重量に対して50%重量減少した温度を、熱分解温度(50%重量減)として表1に示す。また、実施例と比較例5の各ポリロタキサンについて、
図6に重量変化-温度曲線を示す。
【0038】
(イ)溶解性試験
実施例及び比較例1~5のポリロタキサンの各サンプル10mgに、溶媒1mLを加え、室温にて24時間静置した後、目視にて固形物、ゲルなどの残存を確認して溶解性を判断した。溶媒は、NaOH水溶液、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、アセトンの7種類とした。結果を表1に示す。
【0039】
【0040】
ピラーアレーン型ポリロタキサンのグループである比較例1,2及び実施例において、比較例1はアルカリ水溶液やDMSOなどの高極性溶媒にしか溶解しないが、ヒドロキシプロピル修飾した比較例2はTHF、クロロホルム、トルエンなどの低極性溶媒にも溶解するようになり、ポリカプロラクトン修飾した実施例はさらに酢酸エチル、アセトンなどにも溶解するようになる。
【0041】
シクロデキストリン型ポリロタキサンのグループである比較例3~5において、溶媒への溶解性については上記グループとほぼ同様の傾向が見られたが、熱分割温度については上記グループよりも全体的に低い。ポリカプロラクトン修飾した実施例は、同じくポリカプロラクトン修飾した比較例5と比べて、熱分割温度が明らかに高かった。
【0042】
図3(6)に示すように、実施例のP5A-g-PCL-PEGは、隣り合う複数のP5A-g-PCL-PEGの環状分子間が架橋剤により架橋された架橋ポリロタキサンとすることができる。
この架橋ポリロタキサンは、単独で又は他のエラストマーと混合し、耐熱性の高いエラストマーとして用いることができる。
また、実施例のP5A-g-PCL-PEGを他のエラストマーと混合して、P5A-g-PCL-PEGの環状分子と他のエラストマーが有する官能基とを直接的に、または架橋剤によって架橋させることによって耐熱性の高いエラストマーとして用いることができる。
これらの耐熱性の高いエラストマーは、電極を付けて(例えば膜状のエラストマーの両面に伸縮性のある電極層を付けて)、耐熱性の高い高分子アクチュエータ又は高分子センサ-として用いることができる。
【0043】
具体的には、架橋ポリロタキサンを以下のような方法で作成した。
実施例のP5A-g-PCL-PEG 500mgに溶媒(トルエン)5mLを加え、さらに架橋剤(ヘキサメチレンジイソシアナート)0.025mLとジラウリン酸ジブチルスズ0.0075mLを加えて、室温で撹拌した(約3分間)。シャーレにキャストした後、上記の液から溶媒(トルエン)を揮発(室温・1日)させ、40℃、12時間以上減圧乾燥して、架橋ポリロタキサンのフィルムを得た。
【0044】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。