(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164400
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】方法及び走査型透過荷電粒子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
H01J 37/22 20060101AFI20231102BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20231102BHJP
G01N 23/04 20180101ALI20231102BHJP
G01N 23/046 20180101ALI20231102BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
H01J37/28 C
G01N23/04 330
G01N23/046
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023074655
(22)【出願日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】22170486
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】エリック ボッシュ
(72)【発明者】
【氏名】イヴァン ラジック
【テーマコード(参考)】
2G001
5C101
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA11
2G001CA03
2G001DA09
2G001FA14
2G001GA06
2G001GA08
2G001HA08
2G001HA14
2G001JA09
5C101AA05
5C101BB03
5C101HH33
5C101HH37
5C101HH44
5C101HH52
5C101HH56
(57)【要約】 (修正有)
【課題】画像データを処理するコンピュータ実装方法を提供する。
【解決手段】方法は、第1の焦点深度で得られたSTCPMスキャンを表現する走査型透過荷電粒子顕微鏡(STCPM)画像データである画像データを受信することと、複数の焦点深度におけるサンプルの複数のスライスからの寄与の合計として画像データを表す連立方程式を処理することと、を含み、連立方程式の各方程式は、画像データを、STCPMの複数のコントラスト伝達関数であって、STCPMの各コントラスト伝達関数が、異なるそれぞれの焦点深度で決定される、複数のコントラスト伝達関数と、STCPMの未知のオブジェクトのセットであって、セット内の各未知のオブジェクトが、異なるそれぞれの焦点深度にある、未知のオブジェクトのセットと、に関連付ける。処理するステップは、STCPMの複数の未知のオブジェクトを得るために連立方程式を解くことを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データを処理するコンピュータ実装方法であって、前記方法が、
第1の焦点深度で得られたSTCPMスキャンを表現する走査型透過荷電粒子顕微鏡(STCPM)画像データである前記画像データを受信することと、
複数の焦点深度におけるサンプルの複数のスライスからの寄与の合計として前記画像データを表す連立方程式を処理することと、を含み、前記連立方程式の各方程式が、前記画像データの少なくとも一部を、前記STCPMの複数のコントラスト伝達関数のうちの少なくとも1つであって、前記STCPMの各コントラスト伝達関数が、異なるそれぞれの焦点深度で決定される、複数のコントラスト伝達関数のうちの少なくとも1つと、前記STCPMの未知のオブジェクトの少なくとも1つのセットであって、セット内の各未知のオブジェクトが、異なるそれぞれの焦点深度にある、未知のオブジェクトの少なくとも1つのセットと、に関連付け、
前記処理するステップが、前記STCPMの前記複数の未知のオブジェクトのうちの少なくとも1つを得るために前記連立方程式を解くことを含む、方法。
【請求項2】
前記処理するステップが、異なる焦点深度で前記STCPMの前記複数の未知のオブジェクトを得るために前記連立方程式を解くことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理するステップが、特異値分解(SVD)によって前記連立方程式を解くことを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記処理するステップが、前記連立方程式を解く前に前記連立方程式を正則化することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記未知のオブジェクトのセットのうちの1つが、sinφn(rp)を含み、及び/又は
前記未知のオブジェクトのセットのうちの1つが、1-cosφn(rp)を含み、
式中、rpが、前記画像データのスキャン位置を表現し、φnが、前記サンプルの前記複数のスライスのうちのn番目のスライスによって引き起こされる位相シフトを表現する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記連立方程式が、
【数1】
の形式であり、式中、Aが、前記STCPMの前記複数のコントラスト伝達関数を表現する行列であり、
【数2】
が、前記STCPMの前記未知のオブジェクトの少なくとも1つのセットを表現するベクトルであり、
【数3】
が、前記画像データを表現するベクトルである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記連立方程式が、条件(i)、(ii)、及び/又は(iii)のうちの少なくとも1つを満たし、
【数4】
式中、CTF
S/C,M,Nが、それぞれ前記オブジェクトsinφ
n(r
p)及び1-cosφ
n(r
p)に対する前記STCPMのコントラスト伝達関数であり、式中、r
pが、前記画像データのスキャン位置を表現し、前記複数のスライスが、N個のスライスを含み、前記画像データが、M個のセグメントを有するSTCPM検出器からのセグメント化されたSTCPM画像データであり、
【数5】
式中、n=0,1,...,Nに対して、F{sinφ
n}及びF{1-cosφ
n}が、前記オブジェクトsinφ
n(r
p)及び1-cosφ
n(r
p)のフーリエ変換の成分であり、式中、r
pが、前記画像データのスキャン位置を表現し、前記複数のスライスが、N個のスライスを含み、及び/又は、
【数6】
式中、s=0,1,...,Mに対して、
【数7】
が、前記画像データのフーリエ変換の成分であり、式中、前記画像データが、M個のセグメントを有するSTCPM検出器からのセグメント化されたSTCPM画像データである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記連立方程式を解くことが、前記STCPMの前記複数の未知のオブジェクトのうちの少なくとも1つのフーリエ変換の成分を得ることと、逆フーリエ変換によって、前記STCPMの前記複数の未知のオブジェクトのうちの前記少なくとも1つを得ることと、を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記連立方程式を解くことが、前記画像データのフーリエ変換の複数のk-ベクトルの各々について前記連立方程式を解くことを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記画像データが、セグメント化されたSTCPM画像データである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記複数のスライスが、N個のスライスを含み、前記画像データが、M個のセグメントを有するSTCPM検出器からのセグメント化されたSTCPM画像データであり、N及びMが、N≪0.5M、N<0.5M、N<0.4M、N<0.3M、N<0.2M、N<0.1M、N<0.05M、及びN<0.01Mのうちの少なくとも1つを満たし、かつ/又は
前記複数のスライスが、N個のスライスを含み、Nが、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、10以上、2以上である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
λが、前記STCPMの荷電粒子の波長であり、αが、前記STCPMのビーム開口角であり、前記複数のスライスの前記焦点深度が、
【数8】
及び/あるいは
【数9】
の距離だけ異なる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記STCPMの前記複数の未知のオブジェクトのうちの少なくとも1つに対して、品質基準に関して、最適化手順を実行することによって、前記STCPMの前記複数のコントラスト伝達関数のうちの少なくとも1つの1つ以上のパラメータを決定することを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
走査型透過荷電粒子顕微鏡法(STCPM)を使用してサンプルのスルーフォーカスシリーズ(TFS)を得る方法であって、前記方法が、
複数の異なるそれぞれの焦点深度で前記サンプルに対して複数のSTCPMスキャンを実行して、複数の第1のTFS画像データセットを含む第1のTFSを得ることと、
前記第1のTFS画像データセットの各々について、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法を実施して、各第1のTFS画像データセットについて、前記STCPMの少なくとも1つの未知のオブジェクトを得ることと、
各第1のTFS画像データセットに対して得られた前記少なくとも1つの未知のオブジェクトを含む第2のTFSを作成することと、を含む、方法。
【請求項15】
走査型透過荷電粒子顕微鏡(STCPM)であって、
荷電粒子源と、
前記荷電粒子源からサンプルに向かって荷電粒子を誘導して、前記荷電粒子が前記サンプルを通過することを引き起こすように構成された粒子光学系と、
前記サンプルを通過する荷電粒子を検出して画像データを提供するように構成された検出器と、
前記STCPMに、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法を、前記検出器によって提供された前記画像データについて実行させるように構成されたプロセッサと、を備える、STCPM。
【請求項16】
コンピュータプログラムであって、
前記コンピュータプログラムがコンピュータによって実行されると、前記コンピュータに請求項1~13のいずれか一項に記載の方法を行わせる命令を含む、コンピュータプログラム。
【請求項17】
請求項16に記載のコンピュータプログラムの命令を含むコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、走査型透過荷電粒子顕微鏡(scanning transmission charged-particle microscope、STCPM)、STCPM画像データを処理する方法、及びSTCPM画像データを処理するためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子顕微鏡、及び特定の電子顕微鏡は、周知であり、微視的オブジェクトを撮像するために、ますます重要になっている技術である。歴史的に、電子顕微鏡の基本的な属は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)、及び走査型透過型電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope、STEM)など、多くのよく知られた装置種へと進化を遂げてきた。更に、いわゆる「デュアルビーム」ツール(例えば、FIB-SEM)などの様々な亜種が開発されており、これは付加的に「機械加工」集束イオンビーム(Focused Ion Beam、FIB)を採用し、イオンビームミリング又はイオンビーム誘起堆積(Ion-Beam-Induced Deposition、IBID)などの支援活動を可能にする。
【0003】
SEMでは、走査型電子ビームによる試料の照射により、試料から二次電子、後方散乱電子、X線、及びフォトルミネッセンス(赤外線、可視光、及び/又は紫外線光子)の形式で「補助」放射線が放出される。次に、この発散放射線の1つ以上の成分が検出され、画像蓄積の目的及び/又は分光分析(例えば、EDX(Energy-Dispersive X-Ray Spectroscopy、エネルギー分散型X線分光法)の場合など)に使用される。
【0004】
TEMでは、試料を照射するために使用される電子ビームは、試料を貫通するのに十分な高エネルギーになるように選択される(この目的のために、SEM試料の場合よりも概ね薄くなる)。試料から放出される透過電子束を使用して、画像を作成したり、又はスペクトルを生成したりすることができる(電子エネルギー損失分光法、Electron Energy-Loss Spectroscopy、EELSの場合と同様)。そのようなTEMがスキャンモードで動作される(したがってSTEMになる)場合、問題の画像/スペクトルは、照射電子ビームのスキャン運動中に蓄積される。
【0005】
照射ビームとして電子を使用する代わりに、荷電粒子顕微鏡法は、荷電粒子の他の種を使用して実施することもできる。この点に関して、「荷電粒子」という語句は、例えば、電子、正イオン(例えば、Ga又はHeイオン)、負イオン、陽子及び陽電子を含むものとして広く解釈されるべきである。
【0006】
撮像及び/又は分光法に加えて、荷電粒子顕微鏡(charged-particle microscope、CPM)には、ディフラクトグラムの検査、(局所化された)表面改質の実施(例えば、ミリング、エッチング、蒸着)などの他の機能も有し得る。
【0007】
いずれにしても、走査型透過荷電粒子顕微鏡(STCPM)は、通常、少なくとも以下の構成要素を備える。
-ショットキー電子源又はイオンガンのような放射線源。
-光源からの「生の」放射線ビームを操作し、集束、収差の軽減、クロッピング(絞り/アイリス/集光アパーチャを使用)、フィルタリングなどの特定の操作をビームに対して実施するイルミネータ。イルミネータは、概して、1つ以上の荷電粒子レンズを備え、他の種類の粒子光学構成要素も備えることができる。必要に応じて、イルミネータにその出力ビームを調査対象の試料全体にスキャン運動を実行させるために使用することができるデフレクタシステムを設けることができる。
-調査中の試料をその上に保持して位置決め(例えば、傾斜、回転)することができる試料ホルダ。必要に応じて、このホルダを移動させて、試料に対してビームのスキャン運動を行うことができる。一般に、このような試料ホルダは、メカニカルステージなどの位置決めシステムに接続されるであろう。
-試料(平面)を透過した荷電粒子を取り込み、その荷電粒子を検出/撮像デバイス、分光装置などの分析装置に誘導する(集束する)撮像システム。イルミネータと同様に、撮像システムは、収差の軽減、クロッピング、フィルタリングなどの他の機能も実施し得、概ね1つ以上の荷電粒子レンズ及び/又は他の種類の粒子光学構成要素を含む。
-本質的に一体型又は複合型/分散型であり、記録される放射線/エンティティに応じて、多くの異なる形式をとることができる検出器。そのような検出器は、例えば、強度値を登録するため、画像を捕捉するため、又はスペクトルを記録するために使用され得る。例としては、例えば、光電子増倍管(固体光電子増倍管、solid-state photomultipliers、SSPMを含む)、フォトダイオード、(ピクセル化された)CMOS検出器、(ピクセル化された)CCD検出器、太陽電池などが挙げられ、これらは、例えば、シンチレータフィルムと組み合わせて使用され得る。X線検出のために、典型的には、例えば、いわゆるシリコンドリフト検出器(Silicon Drift Detector、SDD)又はシリコンリチウム(Silicon Lithium、Si(Li))検出器が使用される。典型的には、STCPMは、様々な種類のいくつかの検出器を備える。
【0008】
本開示と共通に譲渡され、参照により本明細書に組み込まれるEP-3,082,150-B1は、結果として、サンプルの一連の深度セクションを生成する、スルーフォーカスシリーズ(through-focus series、TFS)を実施する方法を開示している。したがって、TFS STEM撮像は、厚いサンプルの3D画像を得るための既存の方法である。これを達成するために、異なる焦点値でSTEM検出器を使用して一連のSTEMスキャンが行われる。結果は、任意の種類であり得るSTEM画像のスタックである(BF-と呼ばれる明視野-、ABFと呼ばれる環状明視野、(高角度型)(HA)ADF-と呼ばれる角暗視野、(統合型)(i)DPC-と呼ばれる微分位相コントラスト、(統合型)(i)COM-、並びに単一の任意のセグメント(又はセグメントの組み合わせ)画像と呼ばれる重心)。これらの画像が互いに適切に位置合わせされると、ビーム開口(半)角度αによって制限されるz-解像度を有する3D再構成が形成される。
【0009】
Bosch、E.G.T.及びLazic、I.、2019.Analysis of depth-sectioning STEM for thick samples and 3D imaging、Ultramicroscopy、207、p.112831は、各焦点値での個々の画像が(この文書に記載されているいくつかの条件があれば)厚いサンプルの異なるスライスからの寄与の合計として解釈され得ることを示した。したがって、原則として、各スライスから情報を得るためにデコンボリューションステップが必要とされる。しかしながら、実際には、ビームが集束されるスライスの前後のスライスからの寄与は、典型的には無視される。
【0010】
TFSを実施するとき、サンプルドリフトがある場合、ゆっくりと移動するスタックと傾斜したサンプルの違いを判断することが不可能になる可能性があるため、画像のスタックの位置合わせに問題となり得る。これにより、3Dで構造を確実に識別することが困難になる可能性がある。更に、TFSを実施することは、スキャンが異なる焦点深度で行われることを要求し、これは、画像を得るために要求される時間を増加させ得る。したがって、TFS撮像は多くの点で優れた性能を提供するが、本開示の目的は、既知の撮像装置及び方法に関するこれら及び他の問題に対処することである。
【発明の概要】
【0011】
この背景に対して、また第1の態様によれば、請求項1に記載の方法が提供される。第2の態様によれば、請求項15に記載の走査型透過荷電粒子顕微鏡(STCPM)が提供される。請求項16及び17に記載のコンピュータプログラム及びコンピュータ可読媒体も提供される。
【0012】
本開示の実施形態は、比較的厚いサンプルのスライスが単一のSTCPMスキャンから得られることを可能にする。本開示のいくつかの実施形態は、セグメント化されたSTEM検出器(例えば、明視野(Bright-Field、BF)内)及び厚いサンプルに対するSTEM撮像の理論的説明を使用してセグメント化されたSTEM画像のセットのフーリエ変換の各k-ベクトルの方程式の線形セットを構築する。これらの方程式の解は、オブジェクトsinφn及び1-cosφnに対応する画像セットを提供することができ、式中、φnは、サンプルのn番目の(薄い)スライスによって引き起こされる位相シフトである。薄いサンプルの場合φ(r)は、投影された静電電位として解釈することができる。したがって、これから、(投影された)電荷分布及び/又は(投影された)内部電界を導出することができる。したがって、本開示のいくつかの実施形態は、サンプルの基本構造(例えば、物理的及び/又は電子的構造)への貴重な洞察を提供する。
【0013】
そのようなスライスは、単一のスキャンのみからサンプルの3D再構成を実施するのに有用であり得る。これは、放射線量に敏感なサンプルにとって特に有利であり得る。本明細書に記載の実施形態の更なる利点は、従来のTFSで必要とされるステージのドリフト(xy-又はz方向のいずれか)を補償する必要がないことである。更に、本開示によって提供される再構成は、サンプル内の異なる深度からの情報のデコンボリューションを提供することができる追加的に又は代替的に、本明細書に記載の方法は、プローブに存在する収差(例えば、非点収差)の補正を実施することを含み得る。
【0014】
本開示全体を通して、実施形態は、電子顕微鏡の特定の文脈における例として説明される。しかしながら、この簡略化は、例示目的のためにのみ意図されており、限定として解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本開示の実施形態は、多くの方式で実践することができ、ここで単なる例として、添付の図面を参照して説明される。
【
図2】本開示の実施形態を使用して分析することができるサンプルを示す。
【
図3A】本開示の一実施形態を使用して得られた実験的STEMデータを示す。
【
図3B】本開示の一実施形態を使用して得られた実験的STEMデータを示す。
【
図4】本開示の実施形態で使用するためのデータを提供するのに好適な検出器を概略的に示す。
【
図5】本開示の実施形態を実装することができるシステムを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1には、本開示の一実施形態による、例示的な方法が示されている。特に、
図1は、画像データを処理する方法を示している。
図2には、
図1の方法を適用することができるサンプルの概略的なグラフィカル表現が示されている。
【0017】
この実施形態では、画像データは、第1の焦点深度で得られた走査型透過荷電粒子顕微鏡(STCPM)スキャンを表現するSTCPM画像データである。方法は、画像データを受信するステップ101を含む。方法は、複数の焦点深度におけるサンプルの複数のスライスからの寄与の合計として画像データを表す連立方程式を処理するステップ102を更に含む。STCPMのオブジェクトは、連立方程式における未知の変数である。したがって、STCPMのオブジェクトは、本明細書では未知のオブジェクトとして説明される。連立方程式の各方程式は、画像データの少なくとも一部(例えば、フーリエ成分)を、STCPMの複数のコントラスト伝達関数のうちの少なくとも1つであって、STCPMの各コントラスト伝達関数が、異なるそれぞれの焦点深度で決定される、複数のコントラスト伝達関数のうちの少なくとも1つと、STCPMの未知のオブジェクトの少なくとも1つのセットであって、セット内の各未知のオブジェクトが、異なるそれぞれの焦点深度にある、未知のオブジェクトのうちの少なくとも1つのセットと、に関連付ける。処理するステップは、STCPMの複数の未知のオブジェクトのうちの少なくとも1つを得るために連立方程式を解くことを含む。
【0018】
図2は、
図1の方法がサンプルにどのように適用され得るかの視覚化を示す。
図2において、y-方向はページ内に延在している。
図2は、z-方向に厚いサンプル200を示し、サンプル200は、基板202の上にほぼ球状の粒子201を含む。粒子201は、粒子201と同様の厚さであり、x-軸に対して45度傾斜している。
【0019】
本開示の方法は、複数の別個の理論的焦点深度201~209におけるサンプルに関する情報を得ることができる。各焦点深度201~209は、z-方向に薄く、x-及びy-方向に延在する理論上のスライスを表現する。
【0020】
サンプル200がSTCPM内に置かれると、荷電粒子はサンプル200をz-方向に通過し、荷電粒子はサンプル200と連続的に相互作用する。サンプル200との相互作用は、荷電粒子の吸収及び/又は散乱を引き起こし、これは、STCPM内に形成される画像に影響を及ぼす。本開示の方法では、サンプルは、x-y平面内でスキャンされてもよく、z-方向の特定の焦点深度におけるスキャンであってもよい。以下で詳しく説明するように、特定の条件下では、サンプル200を通過する荷電粒子によって形成される結果として生じる画像は、それぞれの焦点深度におけるスライス201~209の各々からの寄与の合計として表すことができる。
【0021】
スライス201~209の全てが基板又は球状粒子を通過するわけではないことに留意することが重要である。例えば、スライス201、202、203、208及び209の焦点深度は、基板及び球状粒子の外部にある。それにもかかわらず、本明細書に開示される方法を実行する場合、STCPMの画像データを、サンプル内及びサンプル外部の両方にある異なる様々な深度のスライスからの寄与の合計として数学的に表現することができる。いくつかの理論的なスライスがサンプルの外部からの寄与に関連するという事実は、得ることができる解の有効性を損なわない。サンプル200の外部にあるいくつかのスライスの掛かり合いは、
図3A及び
図3Bを参照してより詳細に議論される。
【0022】
複数の焦点深度におけるサンプルの複数のスライスからの寄与の合計として画像データを表すことにより、サンプル内の様々な深度のスライスに対応するオブジェクト(ユーザが選ぶか、又は自動的に決定され得る)は、単一の焦点深度で得られた単一のSTCPMスキャンから得ることができる。本開示で説明されるスライスは、サンプルの仮想スライスを表現する数学的構造である。本開示の実施形態は、サンプルが(例えば、ミリングによって)別個のスライスに物理的に分割されることを必要としないことに留意することが重要である。本開示における仮想スライスは、それぞれのz-値における特定の焦点深度に対応する仮想スライスであり得る(これらは、ユーザ定義され得る選択された距離だけ離れている)。本明細書で説明するSTCPM画像データは、第1の焦点深度で得られた実画像データである。サンプルの仮想スライスの焦点深度は、STCPM画像データを得るために使用される第1の焦点深度を含む必要はない(が、含んでもよい)。
【0023】
好ましくは、処理するステップは、異なる焦点深度で(すなわち、必ずしも実験的な焦点深度と同じではない仮想スライスの理論的な焦点深度)STCPMの複数の未知のオブジェクトを得るために連立方程式を解くことを含む。したがって、画像のTFS(すなわち、異なる焦点深度における複数の画像)は、単一焦点深度における単一スキャンから得ることができる。これは、既存のTFS方法と比較したとき、サンプル内の異なるz-位置、例えば、焦点深度からデータを得るために必要とされるスキャンの数を低減することができる。それにもかかわらず、いくつかの実装形態では、他の異なる深度におけるオブジェクトを得ることなく、ある深度におけるSTCPMの単一の未知のオブジェクトのみを得るために連立方程式を解くことが有利であり得る。
【0024】
以下で更に詳細に説明されるように、STEM撮像のオブジェクトは、sinφn(rp)及び1-cosφn(rp)である。これらのオブジェクトの各々は、材料の構造に対する貴重な洞察を集めるために使用することができる。特に、これらの2つのオブジェクトは、式
【0025】
【数1】
を形成するために使用することができ、次いで引数を取ることによってφ
nを得ることができる。場合によっては、sinφ
n(r
p)のためのCTFの全ては、周波数ゼロ(DC)においてゼロであり得、DC成分は固定されないことがあるので、
【0026】
【数2】
を形成することは、追加の処理を必要とする場合がある。そのような場合、DCレベルは、sinφ
n(r
p)のヒストグラムの手法を見ることによって固定され得、次に、そのレベルがゼロに対応すると仮定する。スキャンの一部が真空を含有する場合、第2の選択肢が存在する:真空を含有する画像の部分における再構成された値がゼロに設定され得る。
【0027】
図1の実施形態において、未知のオブジェクトのセットのうちの1つは、sinφ
n(r
p)を含み、及び/又は未知のオブジェクトのセットのうちの1つは、1-cosφ
n(r
p)を含み、式中、r
pは、画像データのスキャン位置を表現し、φ
nは、サンプルの複数のスライスのうちのn番目のスライスによって引き起こされる位相シフトを表現する。すなわち、荷電粒子が複数の薄いスライスを含むサンプルを通過すると、それらの位相が変化し、φ
nは、n番目の薄いスライスによって引き起こされる位相シフトを表現する。本開示の実施形態では、オブジェクトのセット(例えば、異なる深度における複数のオブジェクト)は、好ましくは、nを通して反復することによって得られる。例えば、いくつかの実施形態では、処理するステップは、未知のオブジェクトのセットのうちの少なくとも1つのセットの各未知のオブジェクトを得るために連立方程式を解くことを含み得る(及び、これは、各セットの各オブジェクトを得るために実施され得る)。それにもかかわらず、単一のスライスに関する情報は依然として有用な情報であるため、単一の値nに対してsinφ
n(r
p)及び/又は1-cosφ
n(r
p)を簡単に得ることができる。別の言い方をすれば、未知のオブジェクトのセットは、1つ又は複数の未知のオブジェクトを含み得る。
【0028】
以下で更に詳しく説明するように、連立方程式は、画像データのフーリエ変換の成分を、複数のコントラスト伝達関数のうちの少なくとも1つ(及び好ましくは各々)、及びSTCPMの複数の未知のオブジェクトのうちの少なくとも1つ(及び好ましくは各々)のフーリエ変換の成分に関連付けることができる。このような連立方程式は、取得した画像データ及び計算されたコントラスト伝達関数から、STCPMの1つ又は複数の未知のオブジェクトを得るために、数値法を使用して容易に解くことができる。複数のコントラスト伝達関数は、STCPM撮像の第1のオブジェクト(例えば、sinφ(r)オブジェクト)に関連付けられる第1の複数のコントラスト関数と、STCPM撮像の第1のオブジェクト(例えば、1-cosφ(r)オブジェクト)に関連付けられる第2の複数のコントラスト関数と、を含み得る。
【0029】
図1の実施形態に対する理論的背景は、より詳細には説明されない。本開示の実施形態は、Bosch、E.G.T.及びLazic、I.、2019.Analysis of depth-sectioning STEM for thick samples and 3D imaging.Ultramicroscopy、207、p.112831に記載されている厚いサンプルのSTEM撮像に関する理論に基づく。特に、ある条件下では、セグメント化されたSTEM検出器の1つのセグメントからの厚いサンプルに対するSTEM画像は、以下のように表すことができる:
【0030】
【0031】
【数4】
は、z-位置z
nにおける薄いスライスからの寄与である。スキャン位置は、座標r
pによって与えられ、デフォーカスは、プローブをz-位置z
pに集束するために使用される。したがって、画像データは、複数の焦点深度におけるサンプルの複数のスライスからの寄与の合計として表すことができる。
【0032】
この近似は、線形性、非攪乱プローブ及び弾性散乱に関する条件が満たされるときに最も正確である。これらの条件は、総称して、Bosch、E.G.T.及びLazic、I.、2019.Analysis of depth-sectioning STEM for thick samples and 3D imaging.Ultramicroscopy、207、p.112831に記載されている「非攪乱プローブモデル」と呼ばれている。非攪乱モデルの完全な詳細は、その中で更に詳しく説明されているが、次の仮定が適用される、
(i)サンプルの異なる層(全ての位置zから)は、等しく、独立して(非干渉性で)直線的に検出器面での収束ビーム電子回折(convergent beam electron diffraction、CBED)パターンに従って、プローブの所与の深度位置で得られたSTEM画像に寄与する。所与のプローブ位置の最終的なCBEDパターン、並びにプローブの所与の焦点位置で得られた2D STEM画像は、ちょうど、サンプルの全てのスライスからの寄与の合計である。サンプルの完全な3D画像は、プローブの全ての焦点位置における2D画像のセットによって形成される。
(ii)サンプルの各スライスからの寄与は、スライスの上下のサンプルの部分が存在しないと仮定することによって計算することができる。換言すれば、サンプルに対して特定の深度に集束されたプローブは、それが通過する際にサンプルによって影響されない。したがって、所与のスライスにおける入力波は、現在のサンプル深度における非攪乱2D入力である。それは、その位置における現在のスライスから位相情報のみをピックアップし、更に、サンプルの残りによって影響されない。これを仮定(i)と組み合わせると、3Dプローブはサンプルに対する相対位置のみを変更するが、3Dスキャンプロセス中は非攪乱のままであり、効果的に3D相互相関が形成される。
(iii)プラズモンの励起及び/又はコアシェルイオン化事象などの非弾性散乱は無視することができる。
【0033】
軽い元素を含む非晶質材料の場合、上記の3つの近似は妥当なサンプルの厚さ(例えば、少なくとも30nmまで)に対して有効であることが示されている。たとえ上記仮定が完全に有効でなくても、有用な情報を得ることができる。一般に、それを超えると仮定が成り立たなくなり、得られるデータの定量性が低下する限界が存在する可能性があるが、この限界は1)材料の種類(例えば、軽い/重い元素が存在するかどうか)に依存し、2)一般にSTEM撮像にも存在するのと同じ種類の限界である。したがって、本開示の実施形態では、サンプルは、最大10nm、最大20nm、又は最大30nmの厚さを有することができるが、有用な情報を抽出しながら、より厚いサンプル厚を使用することができる。
【0034】
フーリエ変換の線形性を使用して、
【0035】
【数5】
のための上記の式が得られ、また以下のように表すことができる:
【0036】
【0037】
【数7】
式中、CTF
S及びCTF
Cは、それぞれsinφ
n(r
p)及び1-cosφ
n(r
p)である、STEM撮像のオブジェクトに対するコントラスト伝達関数(contrast transfer functions、CTF)である。薄いサンプルの場合、φ(r)は投影された静電電位として解釈することができる。下記のいくつかの論文で証明かつ説明されているように、これから(投影された)電荷分布及び/又は(投影された)内部電場を導き出すことができる:LazicI、Bosch EGT、Lazar S、Ultramicroscopy、2016、160:265-280、LazicI、Bosch EGT、Advances in Imaging and Electron Physics、2017、199:75-184及びBosch、E.G.T.、Lazic、I.、2019.Analysis of depth-sectioning STEM for thick samples and 3D imaging.Ultramicroscopy 207、112831。
【0038】
CTFは、窓関数Ws(k)によって与えられるセグメントの形状及びプローブ、ψin,n(rp,zp)に依存する。これらのCTFについての完全な式及び理論的背景は、Bosch、E.G.T.及びLazic、I.、2019.Analysis of depth-sectioning STEM for thick samples and 3D imaging.Ultramicroscopy、207、p.112831に見出すことができる。特に、その付属書Aには次のことが示される
【0039】
【0040】
項
【0041】
【数9】
は定数(すなわち、k
pの関数ではない)であり、
【0042】
【数10】
を介した検出器関数W(k)並びにプローブψ
in(r)及びサンプルφ(r)に依存する汎関数であり、これは、例えば、I.Lazicのセクション3.1、E.G.T.Bosch、Analytical review of direct stem imaging techniques for thin samples、Advances in Imaging and Electron Physics、199 Elsevier、2017、pp。
【0043】
75~184に説明されているように、いくつかの方法で非常に正確に近似することができる。特に、I.Lazic、E.G.T.BoschのAnalytical review of direct stem imaging techniques for thin samples,Advances in Imaging and Electron Physics、199 Elsevier、2017、pp.75~184のセクション3.1は、参照により本明細書に組み込まれ、以下に示す
【0044】
【0045】
【0046】
本開示の特定の実施形態では、分析は、全て完全にBFにあるセグメントに対して実施されるため、上記のCTFC項は、CTFC1のみを使用して近似され得る(この理由は、Bosch,E.G.T.及びLazic、I.、2019.Analysis of depth-sectioning STEM for thick samples and 3D imaging.Ultramicroscopy、207、p.112831に説明されている)。それにもかかわらず、この近似は、本開示の全ての実施形態で必要なわけではなく、本開示のいくつかの実施形態は、完全にBFではないセグメントに使用することができる。例えば、特定の状況下では、一般的なDFセグメントのCTFの理論的説明を提供することが可能であり、そのような場合、本明細書で説明する方法を適用され得る。
【0047】
本開示の実施形態は、セグメント化された検出器内にM個のセグメントがあり、2N個のオブジェクト(sinφnオブジェクトのN倍及び1-cosφnオブジェクトのN倍)に対応するN個のスライスによってサンプルを記述することが望まれる場合、次に、
【0048】
【数13】
のための上記の式を使用できることを認識する。具体的には、全ての波動ベクトルk
pについて、2N個の未知数を有するM連立方程式は、
【0049】
【数14】
の形式行列問題として確率され、かつ表現され得、式中、Aは、STCPMの複数のコントラスト伝達関数を表現する行列であり、
【0050】
【数15】
は、STCPMの未知のオブジェクトの少なくとも1つのセットを表現するベクトルであり(例えば、そのフーリエ変換)、
【0051】
【数16】
は、画像データを表現するベクトルである(例えば、そのフーリエ変換)。特に、連立方程式は、
【0052】
【数17】
で与えられ得、
式中、CTF
S/C,M,Nは、それぞれオブジェクトsinφ
n(r
p)及び1-cosφ
n(r
p)に対するSTCPMのコントラスト伝達関数であり、式中、r
pは、画像データのスキャン位置を表現し、複数のスライスは、N個のスライスを含み画像データは、M個のセグメントを有するSTCPM検出器からのセグメント化されたSTCPM画像データであり、F{sinφ
n}及びF{1-cosφ
n}、(n=0,1,...,N)は、オブジェクトsinφ
n(r
p)及び1-cosφ
n(r
p)のフーリエ変換の成分であり、及び
【0053】
【数18】
(s=0,1,...,M)は、画像データのフーリエ変換の成分である。
【0054】
上記の連立方程式は、異なる形式で表すことができることに留意すべきである。例えば、最初に、sinφn項が、次に、1-cosφn(rp)項が一緒にグループ化されるように式を再構成され得ることは明らかである。これは、連立方程式おける項を単に再順序付けすることに相当し、これは方程式(すなわち未知のオブジェクト)に対する解を変更しない。更に、例えば、未知のオブジェクトのベクトル
【0055】
【数19】
は、上に示した形式の連立方程式を表現することなく、例えば、
【0056】
【数20】
を解くことによって直接得ることができ、式中、A
-1は、Aの(疑似)逆行列である。付加的に、必要に応じて、個々の逆フーリエ変換を同じステップで計算することもできる。
【0057】
連立方程式がどのように表されるかに関係なく、本開示の実施形態は、オブジェクトの未知のフーリエ成分を得るために連立方程式を解くことができるという事実を利用する。例示的な方法は、特異値分解(singular value decomposition、SVD)を使用する。すなわち、いくつかの実施形態では、連立方程式を処理するステップは、特異値分解(SVD)によって連立方程式を解くことを含んでもよい。
【0058】
再構成できる独立したスライスの数は、セグメントの数によって制限される可能性があるため、本開示の実施形態は、N≪M/2の場合に最も効果的に働く。したがって、N個のスライスが求められ、画像データがM個のセグメントを有するSTCPM検出器からのセグメント化されたSTCPM画像データである場合、Nは、好ましくは、N及びMが一緒にN≪0.5M、N<0.5M、N<0.4M、N<0.3M、N<0.2M、N<0.1M、N<0.05M、及びN<0.01Mのうちの少なくとも1つを満たすように選択される。
【0059】
全ての単一波動ベクトルkpについて上記の式のセットを解くことによって様々なオブジェクトの完全なフーリエ変換を形成することができる。したがって、一般的な意味では、開示の実施形態は、STCPMの複数の未知のオブジェクトのうちの少なくとも1つのフーリエ変換の成分を得ることと、逆フーリエ変換によって、STCPMの複数の未知のオブジェクトのうちの少なくとも1つを得ることと、を含む。したがって、本開示の実施形態は、スルーフォーカスシリーズを実際に実施することなく、厚いサンプルからのスライスのセットが生じることを可能にする。高速フーリエ変換アルゴリズムは、この目的に好適であり効率的であり、離散フーリエ変換を計算するための様々な方法を使用することができる(例えば、Cooley-Tukeyアルゴリズム、素因数FFTアルゴリズム、BruunのFFTアルゴリズム、RaderのFFTアルゴリズム、BluesteinのFFTアルゴリズム、及び六方高速フーリエ変換のいずれか)。本明細書で説明される方法は、画像データのフーリエ変換の複数のk-ベクトルの各々について連立方程式を解くことを含み得る。
【0060】
いくつかの実施形態では、ある値を上回る及び/又は下回るk-ベクトルは、データを処理するときに無視されてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、使用される最大k-ベクトルが存在し得る。概して、全てのCTFがその点からゼロであるため、BFディスクの半径の2倍のサイズを有する波動ベクトルを超える再構成は存在しない可能性がある。したがって、これは、k-ベクトルの上限を設定するために使用され得る。実際には、値2kBFよりわずかに下で停止することが好ましい場合がある。例えば、ほぼ1.8kBFの値をカットオフ値として使用することができる。
【0061】
上記の連立方程式は、概して、条件が良いわけではなく、スライスの各々の焦点値が互いに近すぎるように選択された場合、2N×M行列は条件が悪くなる。等しいデフォーカス値を使用する制限では、行列内に2つの冗長列ベクトルの2つのセットが存在する。SVDの特性により、これは、両方の「スライス」に対して同一の解をもたらす、すなわち、これらの「スライス」から新しい独立した情報を得ることができない。同様に、物理的な観点からは、2つの点検出器が互いに非常に接近している場合、結果として得られる画像に大きな違いはなく、それによって連立方程式の条件を悪くすると推論される。したがって、スライス間の適切な分離は、独立した情報が異なるセグメント画像から得られることを保証する。スライスが互いに近すぎるように選択された場合、画像内に冗長な情報が存在することになる。実際には、理論上のビームウェスト長(焦点深度)に対応するフォーカスステップを適用すると、有用な結果を得るのに十分な行列内の列の独立性もたらす可能性がある。特に、TFS-STEMの理論上のz-分解能は
【0062】
【数21】
で与えられ、式中、λは、相対論的に補正された電子の波長であり、したがって、この値よりもはるかに近いスライスを得ようとしても、必ずしも独立した情報を含有するスライスが生成されるとは限らない。それにもかかわらず、場合によっては、この値よりも互いに著しく近いスライスは、独立した情報を含有するスライスをもたらすことが可能であり得る。
【0063】
したがって、いくつかの実施形態では、スライスは、視野深度の少なくとも半分(すなわち、
【0064】
【0065】
【数23】
などのスライス間の様々な距離を使用することができる。本開示の実施形態では、例えば、1keV~300keVの荷電粒子エネルギーを使用することができ、したがってλの等価な値を計算することができる。それにもかかわらず、より低い及びより高いエネルギー(及び対応する波長)も採用することができる。
【0066】
本明細書で説明する連立方程式の潜在的に悪い条件の性質は、連立方程式を解くのに特異値分解が有利である理由の1つである。特に、SVDは、スライスが互いに近すぎるように選択された場合であっても、(冗長画像を含有しているが)解をもたらす。これは、擬似逆行列において、ある基準よりも小さい特異値をゼロに置き換えることによって達成され得る。したがって、SVDは、連立方程式を解くための好ましい方法である。それにもかかわらず、本明細書で説明される連立方程式を解くために他の方法を使用することが可能である。例えば、行列Aが完全な列ランクである場合、Moore-Penrose逆行列が使用され得る(en.wikipedia.org/wiki/Moore%E2%80%93Penrose_inverse#Constructionで説明されているように、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0067】
本開示のいくつかの実施形態で使用される行列は、一般に正方形でなくてもよい。非正方行列は実際には逆行列を有しないが、擬似逆行列を使用して非正方連立方程式を解くことができる。SVDを用いて疑似逆行列を計算する場合、行列はA=USV*のように記述され得、式中、Sは対角線に沿って正定特異値を持つ対角(一般的には非正方)行列でありU及びVは(正方)ユニタリ行列である。Aの擬似逆行列を計算する際に、Sの擬似逆行列は、全ての非ゼロ特異値の逆数値を取ることによって形成され得る。ゼロに等しい特異値については、ゼロの値が挿入される。実際には、ゼロの特異値だけでなく、ゼロに十分近い特異値、すなわち、特定の値より小さい特異値も置き換えることが有利な場合がある。これは、多くの方法で行うことができる。1つの方法は、それらを1/(s+eps)で置き換えることであり、ここでsは特異値であり、epsは小さな正の数であり、これはチホノフ正則化として知られている。場合によっては、小さな特異値をゼロに置き換えると、チホノフ正則化よりも良い結果がもたらすが、いずれのアプローチも本開示の実施形態で使用することができる。
【0068】
サンプルをあまりにも多くのスライスに分割することを避けることに加えて、再構成に、少なくとも特定の数のスライスが存在することを確認すると有利な場合があり得る(例えば、N≧2、N≧3、N≧4、N≧5、N≧6、N≧10、N≧20など)。場合によっては、再構成に十分なスライスがない場合、それぞれ、sinφ(r)及び1-cosφ(r)の値が、[-1,+1]及び[0,+2]の範囲に制限されない場合があり、これは数学的に問題である。したがって、いくつのスライスが使用されるべきかを判定するのを助けるために、特定の数のスライスによって生成された値を使用することができる。例えば、本明細書で説明される方法は、第1の数のスライスに基づいて(例えば、前述の形式の)連立方程式を確立することと、第1の数のスライスについて連立方程式の解を評価する(例えば、オブジェクトが物理的に現実的であるか、及び/又は数学的に知覚可能であるかを判定する)ことと、評価に基づいて、第2の数のスライスに基づいて新しい連立方程式を確立することと、を更に含み得る。第1の数のスライスの連立方程式の解を評価することは、第1の数のスライスの連立方程式の解を分析して、その解が実行可能かどうかを判断することを含み得る。例えば、連立方程式が物理的に非現実的な解につながると判断された場合、スライスの数を増加させ、増加したスライスの数に基づいて新しい連立方程式を確立することができる。すなわち、第2の数のスライスは、第1の数のスライスよりも大きくてもよい。そのような方法は、本開示の実施形態におけるデータ抽出を改善することができる。
【0069】
本明細書に記載の連立方程式を解く際に、結果を改善するため、及び/又は数学的又は物理的に有効な解が得られる可能性を改善するために、正則化手法が使用され得る(例えば、連立方程式を実際に解く前に)。例えば、SVDを使用して方程式を解く場合、実際に連立方程式を解く前に、小さな特異値の逆数をゼロに置き換えることができる。これにより、そのような特異値が結果の解に与える不均衡な影響を低減することができる。いくつかの実施形態では、小さな特異値は、特異値を発見された最大のものと比較し、特異値の逆数がゼロに設定されるカットオフ値を設定することによって決定され得る。このカットオフ値は、最大特異値の0.1~0.001の範囲内のどこかであり得る。カットオフの正確な値は、データのノイズ性に依存し得る。カットオフに対して小さすぎる値を設定することは、再構成において望ましくない(非物理的な)アーティファクトを生成する可能性がある。代替的に、前述したように、連立方程式のチホノフ正則化を実施してもよい。したがって、本開示の特定の実施形態では、連立方程式を解く前に連立方程式を正則化することは、小さな特異値(例えば、閾値を下回るもの)の逆数をゼロで置き換えること及び/又は連立方程式のチホノフ正則化を実施することを含み得る。
【0070】
次に
図3A及び
図3Bに移ると、
図4に示されるように、各8セグメントの6つのリングを備える人工的な48セグメント検出器から得られるシミュレートされたSTEMセグメント画像のセットに本開示の実施形態を適用した結果が示されている。
図3A及び
図3Bは、全て明視野(BF)にある48のセグメントを使用して単一のSTEMスキャンから得られる、sinφ
n及び1-cosφ
nオブジェクトの9つの再構成されたスライスのシーケンスを示す。本開示の方法によって得られる仮想スライスの焦点位置は、z=-8.15、-5.96、-3.77、-1.59、+0.60、+2.79、+4.97、+7.16、及び+9.35nmであり、ここで、z-軸はサンプルに向けられ(すなわち、粒子の光軸に沿って、又はサンプルの平面に垂直に)、z=0nmは、実施された単一のSTEMスキャンの実際の焦点面に対応する。このシミュレートされたデータは、水平フィールド幅が8nm、ビームエネルギーが300keV、ビーム開口角が30mradである。とりわけ、仮想スライスの焦点深度は、STEMスキャンの焦点深度と一致せず、これは、本発明がサンプル内の様々な深度に関する貴重な情報を単一の焦点深度での単一のSTEMスキャンから得ることを可能にする有利な方法を強調している。
【0071】
サンプルは、厚さ5nmの非晶質カーボン基板の上にある約5nmのサイズのCeO
2粒子で構成されており、x-軸を中心に45度超傾いており、これは、
図2に示す概略配置に対応している。再構成の焦点値は、2.19nmのステップサイズで変更され、これは、所与の開口角及びビームエネルギーに対して
【0072】
【数24】
である理論上の焦点深度の半分に対応する。シーケンスは、z=-3.4nmとz=+7.0nmとの間に延在するサンプルの上に集束させる、-8.15nmデフォーカスで開始される。
【0073】
焦点-8.15nm及び-5.96nmの最初の2つの画像では、焦点並びに焦点深度全体がCeO2粒子及び基板の上部にある。次の3つのスライスでは、焦点は、画像の中心近くにあるCeO2粒子並びに画像の下部にある炭素基板の一部から焦点深度内又は完全に内部にある。+2.79nmから始まる次の3つの画像は、焦点が炭素基板の焦点深度内又は焦点深度内のいずれかにあり、画像の中心付近で最も遠くまで延在している。最後の画像は再びサンプルの下の真空中で完全に集束する。
【0074】
したがって、単一のSTEMスキャンから、本開示の実施形態を使用して、サンプル内の異なる深度で少なくとも6つの独立したスライスを構築することが可能であることが分かり得る。そうでなければ、これは少なくとも6回の実際のTFSスキャンを必要とするであろう。
【0075】
本明細書に記載の方法を用いて得られたデータは、多くの目的に有用であり得る。例えば、
図3A及び
図3Bの画像は、サンプルの構造の可視化を可能にする。更に、薄いサンプルについては、φ(r)は、投影された静電電位として解釈することができる。したがって、これから、(投影された)電荷分布及び/又は(投影された)内部電界を決定することができる。したがって、一般的に言えば、本開示のいくつかの実施形態では、処理のステップは、STCPMの未知のオブジェクトから、サンプルの静電ポテンシャル、電場、及び/又は電荷分布を決定することを含む。
【0076】
上述した実施形態に加えて、本開示は他の方法で使用することができる。例えば、上記の連立方程式で一連のCTFを生成するプローブの収差係数が分からない場合、収差係数は、パラメータ空間内で変化し、オブジェクトの最も鮮明な(又は少なくともより先鋭な)最終画像が生成されるように決定することができる。例えば、本明細書で説明する方法は、行列AのCTFに寄与する照明のパラメータ(収差係数)を決定することを含むことができる。これらは知られていない可能性があるが、最も先鋭な未知のオブジェクトが得られるようにそれらを変化させることによって決定することができる。結果として得られるパラメータのセットは、適用される照明を提供する。シャープネスは、得られた未知のオブジェクトを最適化するために使用され得る1つの基準であるが、他の品質基準が使用され得る。例えば、CTFのパラメータは、コントラスト又は信号対雑音比に関して最適化され得る。収差係数は、プローブの収差係数である。CTFは検出器関数W(k)及びプローブψin(r)に依存する。プローブは、荷電粒子波長及び開口角に加えて、係数が収差係数と呼ばれる級数展開で記述することができる収差関数に依存する。
【0077】
更に、最適化手順は必ずしも品質基準の最大値を得る必要はないことが理解されるであろう。例えば、一意の最大値が存在しない場合があり、かつ/又は最適化手順が大域的最大値ではない局所的最大値に収束する場合がある。したがって、最適化手順は、単に、品質基準に関して未知のオブジェクトを改善又は精緻化する働きをすることができる。したがって、一般的に言えば、本明細書で説明する方法は、STCPMの複数の未知のオブジェクトのうちの少なくとも1つ(及び任意選択で複数又は各々)に対して、品質基準(例えば、シャープネス、ノイズレベル、又はコントラスト)に関して、最適化手順(改善/改良手順として説明することもできる)を実施することによって、STCPMの複数のコントラスト伝達関数のうちの少なくとも1つのうちの1つ以上のパラメータを決定することを含み得る。
【0078】
本明細書で説明する方法の利点は、通常のTFS-STEMの状況とは対照的に、再構成されたスライスが、原則として、上下のスライスからの情報で畳み込まれないことである。それにもかかわらず、
図3A及び
図3Bでは、CeO
2粒子は、画像のスタック全体でかすかに見えるままである。これは、少なくとも低空間周波数において(すなわち、大きな構造について)異なるスライス間にいくらかのクロストークが存在することを指し示す。上記のSTEM画像の理論的説明は、上記の仮定(i)、(ii)、及び(iii)に依存していることに注意すべきであり、これらは、ゾーン軸付近の結晶サンプル(すなわち、チャネリングの場合)又は厚すぎる(例えば、存在する原子の種類(例えば、軽い/重い)に依存する可能性がある、仮定(ii)が崩れるサンプル)サンプルには当てはまらない。特に、第1の条件はCeO
2結晶内で満たされず、これは観察されるクロストークにつながる可能性がある。この例におけるサンプルは、ゾーン軸内にないが、それでも、いくつかのチャネリングが観察されるのに十分なほどゾーン軸に近い可能性がある。回折パターンを視覚的に評価することにより、結晶サンプルがゾーン軸に近いかどうか(したがって、仮定が成り立つかどうか)を判断することが可能である。例えば、断層撮影データセット内で、たまたまゾーン軸にあるADF-STEM画像は、残りの画像よりもかなり明るく、必要に応じて分析から簡単に除外することができる。
【0079】
次に
図4に移ると、本開示の実施形態で使用できる検出器が示されている。検出器は、48セグメントSTEM検出器である。本開示の分析方法は、概して、任意の数のセグメントを有する検出器に適用可能である。それにもかかわらず、セグメントの数が多いと、それに対応して多数のスライスが得られるため、検出器ができるだけ多くのセグメントを有することが一般に望ましい。したがって、
図4に示されるような48セグメント検出器は、本開示の文脈において有利である。しかしながら、より少ないセグメントを有する検出器を使用することができる。例えば、ピクセル検出器(例えば、電子顕微鏡ピクセルアレイ検出器又はEMPAD)又はカメラを使用することができる。Thermo Scientific(商標)Panther STEM Detectorは、12個のセグメント全てを同時に取得して保存する場合にも使用され得、これにより、最大6個のスライスを得ることができる。一般的に言えば、画像データはセグメント化されたSTCPM画像データであることが好ましい。例えば、画像データは、少なくとも4、8、12、20、30、40、48、50、又は100個のセグメントを表現することができる。一般に、セグメントの数が多いほど、得られる情報が多くなり、分析することができる独立したスライスの数が多くなる。原則として、使用することができるセグメントの数に上限はないが、特定の時点で、測定がノイズ制限になる場合がある(例えば、ソースからのショットノイズ及び電子機器からの検出器ノイズが原因で)。
【0080】
焦点が大きく外れている層からの情報はセグメント化されたSTEM画像に寄与するが、そのようなスライスからの情報は非常にぼやけているため、ビーム焦点に近いスライスと同じ解像度を有しない。したがって、本明細書で開示される方法は、ビームウェスト長(焦点深度)の数倍のデフォーカス値に対して最良の性能を発揮する。先述したように、複数のスライスの焦点深度は、好ましくは、
【0081】
【数25】
の距離だけ異なる。そのような値は、得ることができるスライスの数と得られるデータの品質との間の良好なトレードオフを提供する。もちろん、正確な実験シナリオに応じて他の値を使用することができる。
【0082】
本明細書に開示される方法は、通常より大きい焦点ステップサイズ(したがって、必要とされるスキャンの総数を低減させることができる)を採用する、従来のTFS実験と組み合わることができる。一実施形態では、TFSは、セグメント化検出器を用いて記録され、次いで、本明細書に説明される方法は、TFSの画像の各々に適用される。次いで、再構成された各スタックからの合焦スライスを使用して、直接又は反復プロセスのいずれかで、オブジェクトの最良の可能なスタックを構築することができる。例えば、プローブの多くの異なるz-位置に対してスキャンが実施される場合(深度セクショニングを実施するため)、次に、本明細書で説明する手順をそれぞれに適用し、結果を更に最適化するために使用することができる(例えば、再構成された各スタックから最適な焦点スライスを選択することにより)。一般的に言えば、走査型透過荷電粒子顕微鏡法(STCPM)を使用してサンプルのスルーフォーカスシリーズ(TFS)を得る方法が提供され得、方法は、複数の異なるそれぞれの焦点深度でサンプルに対して複数のSTCPMスキャンを実行して、複数の(例えば、2つ又は3つ以上の)第1のTFS画像データセットを含む第1のTFSを得ることと、第1のTFS画像データセットの各々について、本明細書に説明された方法を実行して、各第1のTFS画像データセットについて、STCPMの少なくとも1つの(好ましくは複数の)未知のオブジェクト(例えば、焦点の合ったスライス)を得ることと、第1のTFS画像データセットから得られた少なくとも1つの(好ましくは、複数の)未知のオブジェクトを含む第2のTFSを作成することと、を含む。したがって、改善されたTFSを得ることができる。第1のTFSは、本明細書に説明されるものと同じSTCPMを使用して得られてもよい。第2のTFSは、第1のTFSを分析することから得られる未知のオブジェクトを使用して構築される、新しいTFSであってもよい。
【0083】
本明細書に開示される方法のうちのいくつかの別の利点は、結果が単一のSTEMスキャンに基づくため、異なるスライスを互いに対して位置合わせすることに関する問題がないことである。特に、TFSでは、画像のスタックの位置合わせは困難であり得る。したがって、本明細書中に記載される方法は、TFS-STEM実験のための位置合わせプロセスを導くために使用され得る。例えば、方法は、TFSの第1のスキャンを実行することと、TFSの第2のスキャンを実行することと、第1及び第2のスキャンのうちの少なくとも1つに対して、本明細書に記載の方法のいずれかを実施することと、本明細書の方法のいずれかを適用した結果を、重複ボリューム領域の第1のスキャン及び/又は第2のスキャンからのデータと比較することと、を含み得る。例えば、この比較は、理論的なスライスが実際のスキャンと良好に対応するかどうかを判定することを伴うことができる。そのような比較に基づいて、第1及び第2のTFSスキャンが良好に位置合わせされるかどうかを判定することができる。第1及び第2のTFSスキャンが良好に位置合わせされていない場合、サンプルの再位置合わせ及び/又は他の補正アクションが行われ得る。このプロセスは、自動化されてもよく(例えば、ソフトウェアで、又はSTCPMのコントローラによって実施される)、及び/又はユーザによって制御されてもよい。
【0084】
次に
図5に移ると、本明細書に記載される方法を実行するためのシステム500が示されている。システム500は、コンピュータ510及びSTCPM520を備える。STCPM520は、
図5において破線で囲まれた別個のサブユニットを含む単一の論理エンティティである。特に、STCPM520は、STCPM520によって提供される画像データに対して本明細書に説明される方法をSTCPMに実行させるように構成される、プロセッサ580を備える。STCPM520の残りの要素は、既知のSTCPMsの典型である。特に、STCPM520は、荷電粒子を提供するための放射源530と、光源520からの荷電粒子を操作するイルミネータ540と、調査中のサンプルをその上に保持することができる(及び任意選択で、サンプルに対してビームのスキャン運動をもたらすように移動させることができる)サンプルホルダ550と、サンプル(平面)を透過した荷電粒子を取り込み、荷電粒子を誘導(集束)する撮像システム560と、セグメント化され、荷電粒子が入射すると画像データを生成する検出器570と、を備える。
【0085】
システム500は、本明細書に記載の方法のいずれかを実装するために使用することができる。システム500は、STCPM520を使用してSTCPM画像データを取得するステップを実施することができ、システム500は、プロセッサ580(例えば、ローカル又はオンライン処理のための)及び/又はコンピュータ510を使用して、そのような取得された画像データに対して本明細書で説明される方法のいずれかを実施することができる(例えば、リモート処理の場合、オンライン、すなわち実験の実行中、又は完全にオフライン、すなわちデータ分析がデータ収集とは完全に別個に実施され得る)。
【0086】
図5において、矢印は通信リンクを意味する。プロセッサ580は、コンピュータ510と通信し、分析のためにデータをコンピュータ510に送信することができる。コンピュータ510はまた、プロセッサ580にコマンドを送信して、プロセッサにSTCPM520の動作を制御させることができる。プロセッサ520は、放射源530、イルミネータ540、サンプルホルダ550(少なくともサンプルホルダの位置を調整することができる場合)、撮像システム560、及び検出器570の各々と通信する。プロセッサ580は、プロセッサ580が接続された要素の各々からコマンドを送信し、及び/又はデータを受信することができる。通信リンクの各々は、有線又は無線通信リンクであってもよい。データ転送を可能にする任意の種類の通信を使用することができる。プロセッサ580はメモリを有してもよく、及び/又はコンピュータ510はメモリを有してもよい。メモリ(又は複数のメモリ)は、プロセッサ580及び/又はコンピュータ510に本明細書で説明される機能を実行させる命令を含み得る。本明細書で説明される分析方法のうちのいくつかは、コンピュータ510などの汎用コンピューティングデバイス上で完全にオフラインで実施することができる。
【0087】
一般的な意味では、本明細書に記載の方法は、コンピュータ上で実行されると、本明細書に記載の方法ステップをコンピュータに実行させるプログラム命令を含むコンピュータプログラムとして実行されてもよい。コンピュータは、デスクトップ、ラップトップ、サーバ、埋め込み型コンピュータ、集積回路、他のデバイス若しくは機器に埋め込まれたチップ、又は他のプロセッサを含み得る。コンピュータプログラムは、コンピュータ可読媒体として又は信号として格納され得る。また、コンピュータによって実行されると、コンピュータに本明細書に記載の方法を行わせる命令を含むコンピュータ可読媒体も提供される。更に、そのようなコンピュータプログラムを格納したコンピュータ可読データキャリアが提供され、そのようなコンピュータプログラムを搬送するデータキャリア信号も提供される。また、本明細書に記載の方法を実行するように構成されたプロセッサを備えるデータ処理装置/システムが提供される。
【0088】
前述の利点を保持しながら、多くの変形が、上記の装置、システム及び方法に対して行われ得ることが理解されよう。例えば、特定の構成要素について説明してきたが、同じ又は同様の機能を提供する代替の構成要素を提供することができる。
【0089】
本開示は、主に電子顕微鏡を参照して説明されている。しかしながら、いくつかの実施形態では、他の荷電粒子を使用することができることを理解されたい。
【0090】
本明細書に開示される方法は、スカラー場を得るためのベクトル場の積分に基づくiDPC-STEMに加えて、薄いサンプルの相を得るための代替的な方法を提供する(LazicI、Bosch EGT、Lazar S、Ultramicroscopy、2016、160:265-280)。これは、既に上述したように、1つのスライスのみで再構成を行うことによって達成される。これは、4セグメント検出器の場合にも働く。
【0091】
いくつかの実施形態では、CTFにおけるエイリアシング効果を低減するために、少なくともあるサンプリングレートでSTEM撮像を実施することが有利であり得る。例えば、これを達成するために必要とされるサンプリングは、いくつかの方法で定量化され得る。一例として、視野(水平フィールド幅)がFOVであり、ピクセル数がNである場合、表現され得る最大周波数は、kmax=N/(2*FOV)に近似することができる。したがって、この周波数を
【0092】
【数26】
以上に設定することにより、これはCTFのいずれかがゼロではない最大周波数であるため、サンプリングレートは、好ましくは
【0093】
【数27】
よりも細かくすることができる。サンプリングレートを決定する代替方法は、1)エイリアシングを受けていない周波数空間の部分のみを再構成すること、及び2)エイリアシングが防止されるように、より大きいグリッド上でCTFを発生させることであり得る。
【0094】
したがって、いくつかの実装形態では、STCPMの単一の未知のオブジェクトのみを得るために連立方程式を解くことが有利であり得る。したがって、本開示の実施形態は、(例えば、厚いサンプルのための)3D体積における一般的な撮像を可能にするが、モノスライスの例示的な(例えば、薄いサンプルの単純な2D撮像に戻る)方法も提供される。例えば、本開示は、画像データを処理するコンピュータ実装方法も提供し、方法は、第1の焦点深度で得られたSTCPMスキャンを表現する走査型透過荷電粒子顕微鏡(STCPM)画像データである画像データを受信することと、複数の焦点深度におけるサンプルの複数のスライスからの寄与の合計として画像データを表す連立方程式を処理することと、を含み、連立方程式の各方程式は、画像データの少なくとも一部を、STCPMの複数のコントラスト伝達関数のうちの少なくとも1つであって、STCPMの各コントラスト伝達関数が、それぞれの焦点深度で決定される、複数のコントラスト伝達関数のうちの少なくとも1つと、STCPMの未知のオブジェクトの少なくとも1つのセットであって、セット内の各未知のオブジェクトが、それぞれの焦点深度にある、未知のオブジェクトの少なくとも1つのセットと、に関連付け、処理するステップは、STCPMの複数の未知のオブジェクトのうちの少なくとも1つを得るために連立方程式を解くことを含む。この方法は、以前に導出された連立方程式と全く同じ方法で、前述の他の任意選択の機能とともに使用することができる。
【0095】
本開示の実施形態は、様々な異なる情報処理システムを使用して実装され得ることが理解されよう。特に、図及びその説明は、例示的なコンピューティングシステム及び方法を提供しているが、これらは、本開示の様々な態様を説明する際の有用な参照を提供するためにのみ提示されている。いくつかの実施形態は、パーソナルコンピュータ、ラップトップ、携帯情報端末、サーバコンピュータなどの任意の好適なデータ処理デバイス上で実行され得る。もちろん、システム及び方法の説明は、説明の目的で簡略化されており、それらは、使用され得る多くの異なる種類のシステム及び方法のうちの1つにすぎない。論理ブロック間の境界は単なる例示であり、代替の実施形態は、論理ブロック若しくは要素をマージするか、又は様々な論理ブロック若しくは要素に機能の代替分解を課すことができることが理解されよう。
【0096】
上記の機能は、ハードウェア及び/又はソフトウェアとして1つ以上の対応するモジュールとして実装することができる。例えば、上記の機能は、システムのプロセッサによって実行されるための1つ以上のソフトウェア構成要素として実装することができる。あるいは、上記の機能は、1つ以上のフィールドプログラマブルゲートアレイ(field-programmable-gate-array、FPGA)、及び/又は1つ以上の特定用途向け集積回路(application-specific-integrated-circuit、ASIC)、及び/又は1つ以上のデジタルシグナルプロセッサ(digital-signal-processor、DSP)、及び/又は他のハードウェア構成などのハードウェアとして実装することができる。本明細書に含まれるフローチャートにおいて実装される、又は上述したような、方法ステップは、各々、対応するそれぞれのモジュールによって実装され得る。更に、本明細書に含まれるフローチャートにおいて実装される、又は上述したような、複数の方法ステップは、単一モジュールによって一緒に実装されてもよい。
【0097】
本開示の実施形態がコンピュータプログラムによって実装される限り、コンピュータプログラムを担持する記憶媒体及び伝送媒体が、本開示の態様を形成することが理解されよう。コンピュータプログラムは、コンピュータによって実行されると、本開示の実施形態を実行させる、1つ以上のプログラム命令、又はプログラムコードを有し得る。本明細書で使用される「プログラム」という用語は、コンピュータシステム上で実行するために設計された一連の命令とすることができ、サブルーチン、関数、プロシージャ、モジュール、オブジェクトメソッド、オブジェクト実装形態、実行可能アプリケーション、アプレット、サーブレット、ソースコード、オブジェクトコード、共有ライブラリ、動的リンクライブラリ、及び/又はコンピュータシステムで実行するために設計されたその他の一連の命令を含むことができる。記憶媒体は、磁気ディスク(ハードドライブ若しくはフロッピーディスクなど)、光ディスク(CD-ROM、DVD-ROM、若しくはBluRayディスクなど)、又はメモリ(ROM、RAM、EEPROM、EPROM、フラッシュメモリ若しくはポータブル/リムーバブルメモリデバイスなど)などであり得る。伝送媒体は、通信信号、データブロードキャスト、2台以上のコンピュータ間の通信リンク(例えば、有線通信リンク及び/又は無線通信リンク)などであり得る。
【0098】
本明細書に開示される各特徴は、別段の指定のない限り、同一、同等、又は類似の目的を果たす代替的な特徴によって置き換えら得る。したがって、別段の指定のない限り、開示される各特徴は、一般的な一連の同等又は類似の特徴の単なる一例である。
【0099】
特許請求の範囲内を含む、本明細書において使用される場合、文脈が別様に示さない限り、本明細書における用語の単数形は、複数形を含むものとして解釈され、文脈により可能な場合、その逆も同様である。例えば、文脈が別様に指し示さない限り、(コントラスト関数(a contrast function)又はオブジェクト(an object)などの)「a」又は「an」などの、特許請求の範囲を含む本明細書における単数形の言及は、「1つ以上」を意味する(例えば、1つ以上の関数、又は1つ以上のオブジェクト)。本開示の説明及び特許請求の範囲を通じて、語「備える(comprise)」、「含む」(including)、「有する(having)」、及び「包含する(contain)」、並びに語の変形、例えば「備えている(comprising)」及び「備える(comprises)」又は同様のものは、説明されている特性が、追随する追加の特性を含み、他の構成要素の存在を排除するとは意図されない(及び排除しない)ことを意味する。
【0100】
本明細書において提供されるありとあらゆる例、又は例示的な文言(「例えば(for instance)」、「~など(such as)」、「例えば(for example)」、及び同様の文言)の使用は、単に、発明をより良く例示することを意図され、特に特許請求されない限り、本開示の範囲への限定を示すものではない。本明細書におけるいずれの文言も、本開示の実施に不可欠なものとして主張されていないいかなる要素も示すものとして解釈されるべきではない。
【0101】
本明細書に記載された任意のステップは、異なるように記載されていない限り、又は文脈により別の意味が必要とされない限り、任意の順序で、又は同時に実行され得る。更に、あるステップがあるステップの後に実行されると説明されている場合、これは、介在ステップが実行されていることを排除するものではない。
【0102】
本明細書で開示される態様及び/又は特徴の全ては、そのような特徴及び/又はステップの少なくともいくつかが相互に排他的である組み合わせを除いて、任意の組み合わせで組み合わせることができる。特に、本開示の好ましい特徴は、本開示の全ての態様及び実施形態に適用可能であり、任意の組み合わせで使用され得る。同様に、必須ではない組み合わせで記載された特徴は、(組み合わせではなく)別々に使用され得る。
【0103】
本明細書に開示される装置のいずれかを製造及び/又は動作させる方法も提供される。方法は、開示された特徴の各々を提供するステップ、及び/又はそれぞれの特徴をその述べられた機能のために構成若しくは使用するステップを含んでもよい。
【符号の説明】
【0104】
200 サンプル
201 粒子
202 基板
201~209 焦点深度
【外国語明細書】