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特開2023-16445B型肝炎ウイルスPOLタンパク質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016445
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】B型肝炎ウイルスPOLタンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230126BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20230126BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230126BHJP
   C07K 14/02 20060101ALI20230126BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20230126BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/122
A61P31/12
C07K14/02
C12Q1/48 Z
C12N9/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120759
(22)【出願日】2021-07-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、肝炎等克服緊急対策研究事業「B型肝炎ウイルス全長POLの大量発現系の開発とその新規薬剤開発への応用」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】510192802
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立国際医療研究センター
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】杉山 真也
(72)【発明者】
【氏名】金井 雅武
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
4C084
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD01
4B050LL03
4B063QA18
4B063QQ27
4B063QQ28
4B063QR07
4B063QR08
4B063QS36
4B063QX01
4C084AA17
4C084NA05
4C084ZB331
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB28
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZB33
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA02
4H045DA89
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】逆転写酵素活性を持つ状態でB型肝炎ウイルス(HBV)-POLタンパク質の全長を大量発現する技術を提供する。
【解決手段】HBV-POLタンパク質の製造方法であって、Pyruvate kinase L/R(PKLR)タンパク質、Pyruvate Kinase M1/2(PKM)タンパク質又はprotein kinase R(PKR)タンパク質の存在下で、HBV-POLタンパク質を発現させる工程を含む、製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
B型肝炎ウイルス(HBV)-POLタンパク質の製造方法であって、Pyruvate kinase L/R(PKLR)タンパク質、Pyruvate Kinase M1/2(PKM)タンパク質又はprotein kinase R(PKR)タンパク質の存在下で、HBV-POLタンパク質を発現させる工程を含む、製造方法。
【請求項2】
HBV-POLタンパク質の結晶の製造方法であって、請求項1に記載の製造方法で製造したHBV-POLタンパク質を、結晶形成条件下でインキュベートする工程を含む、製造方法。
【請求項3】
HBV感染症の治療剤のスクリーニング方法であって、
被験物質の存在下で、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質の活性を測定する工程を含み、
前記活性が前記被験物質の非存在下と比較して低下することが、前記被験物質がHBV感染症の治療剤であることを示す、方法。
【請求項4】
HBV感染症の治療剤のスクリーニング方法であって、
被験物質、及び、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質の存在下で、HBV-POLタンパク質を発現させる工程と、
前記HBV-POLタンパク質の逆転写酵素活性を測定する工程と、を含み、
前記逆転写酵素活性が前記被験物質の非存在下と比較して低下することが、前記被験物質がHBV感染症の治療剤であることを示す、方法。
【請求項5】
HBV感染症の治療剤のスクリーニング方法であって、
被験物質の存在下で、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質と、HBV-POLタンパク質との結合を測定する工程を含み、
前記結合が前記被験物質の非存在下と比較して低下することが、前記被験物質がHBV感染症の治療剤であることを示す、方法。
【請求項6】
PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質の阻害剤を有効成分とする、HBV感染症の治療剤。
【請求項7】
前記阻害剤が、シコニン又はPKR-IN-C16である、請求項6に記載のHBV感染症の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B型肝炎ウイルス(HBV)-POLタンパク質の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、HBV-POLタンパク質の製造方法、HBV-POLタンパク質の結晶の製造方法、HBV感染症の治療剤のスクリーニング方法、及び、HBV感染症の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
HBVは、全世界で約3億5,000万人以上が感染しているといわれ、そのうち日本では約130~150万人(約100人に1人)が感染していると推定されている。B型肝炎が持続すると、慢性肝炎から肝硬変、さらには肝臓がん(肝細胞がん)へと進展する可能性があり、全世界で毎年88万人が肝がんや肝硬変といった合併症で死亡しているとの報告がある。
【0003】
B型肝炎の治療薬として、HBVが持つPOLタンパク質(HBV-POL)が有する逆転写酵素活性の阻害薬が利用されている。しかしながら、当該阻害薬は治療効果が限定的であり、ウイルス複製を完全に抑えることができない。このため、患者は治療に際し当該阻害薬を一生服用する必要がある。これは、当該阻害薬が、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)治療薬からの転用であるためである可能性が考えられる。
【0004】
B型肝炎の治療薬にHIV治療薬が転用されている理由としては、HBV-POLタンパク質の結晶構造が解明されていないことが挙げられ、それが新薬開発の障害となっている。結晶構造解析には、HBV-POLタンパク質の大量発現と精製が必要であるが、HBV-POLタンパク質は分解されやすい性質があるため、まだ実現には至っていない。
【0005】
例えば、非特許文献1~3には、HBV-POLタンパク質を発現させたことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Voros J., et al., Large-Scale Production and Structural and Biophysical Characterizations of the Human Hepatitis B Virus Polymerase, Journal of Virology, 88 (5), 2584-2599, 2014.
【非特許文献2】Favre, D., Reverse Transcriptase Activity of Hepatitis B Virus Polymerase in Eukaryotic Cell Extracts In Vitro, ALTEX, 25 (3), 197-211, 2008.
【非特許文献3】Jones S.A., and Hu J., Protein-Primed Terminal Transferase Activity of Hepatitis B Virus Polymerase, Journal of Virology, 87 (5), 2563-2576, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1~3では、逆転写酵素活性を持つ状態でHBV-POLタンパク質の全長を発現することは実現できていない。本発明は、逆転写酵素活性を持つ状態でHBV-POLタンパク質の全長を大量発現する技術を提供することを目的とする。また、別の側面において、本発明は、HBV感染症の治療剤のスクリーニング方法、及び、HBV感染症の治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を含む。
[1]B型肝炎ウイルス(HBV)-POLタンパク質の製造方法であって、Pyruvate kinase L/R(PKLR)タンパク質、Pyruvate Kinase M1/2(PKM)タンパク質又はprotein kinase R(PKR)タンパク質の存在下で、HBV-POLタンパク質を発現させる工程を含む、製造方法。
[2]HBV-POLタンパク質の結晶の製造方法であって、[1]に記載の製造方法で製造したHBV-POLタンパク質を、結晶形成条件下でインキュベートする工程を含む、製造方法。
[3]HBV感染症の治療剤のスクリーニング方法であって、被験物質の存在下で、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質の活性を測定する工程を含み、前記活性が前記被験物質の非存在下と比較して低下することが、前記被験物質がHBV感染症の治療剤であることを示す、方法。
[4]HBV感染症の治療剤のスクリーニング方法であって、被験物質、及び、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質の存在下で、HBV-POLタンパク質を発現させる工程と、前記HBV-POLタンパク質の逆転写酵素活性を測定する工程と、を含み、前記逆転写酵素活性が前記被験物質の非存在下と比較して低下することが、前記被験物質がHBV感染症の治療剤であることを示す、方法。
[5]HBV感染症の治療剤のスクリーニング方法であって、被験物質の存在下で、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質と、HBV-POLタンパク質との結合を測定する工程を含み、前記結合が前記被験物質の非存在下と比較して低下することが、前記被験物質がHBV感染症の治療剤であることを示す、方法。
[6]PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質の阻害剤を有効成分とする、HBV感染症の治療剤。
[7]前記阻害剤が、シコニン又はPKR-IN-C16である、[6]に記載のHBV感染症の治療剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、逆転写酵素活性を持つ状態でHBV-POLタンパク質の全長を大量発現する技術を提供することができる。また、HBV感染症の治療剤のスクリーニング方法、及び、HBV感染症の治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実験例2の結果を示すグラフである。
図2図2は、実験例2の結果を示すグラフである。
図3図3(a)~(d)は、実験例3において、PKLRタンパク質及びHBV-POLタンパク質を共発現させた後、HBV-POLタンパク質の逆転写活性を測定した結果を示すグラフである。
図4図4(a)~(d)は、実験例3において、PKM2タンパク質及びHBV-POLタンパク質を共発現させた後、HBV-POLタンパク質の逆転写活性を測定した結果を示すグラフである。
図5図5(a)~(d)は、実験例3において、PKRタンパク質及びHBV-POLタンパク質を共発現させた後、HBV-POLタンパク質の逆転写活性を測定した結果を示すグラフである。
図6図6は、実験例4におけるウエスタンブロットの結果を示す写真である。
図7図7は、実験例4におけるウエスタンブロットの結果を示す写真である。
図8図8(a)は、実験例5におけるHBsAgの測定結果を示すグラフである。図8(b)は、実験例5におけるHBcrAgの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[HBV-POLタンパク質の製造方法]
1実施形態において、本発明は、HBV-POLタンパク質の製造方法であって、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質の存在下で、HBV-POLタンパク質を発現させる工程を含む、製造方法を提供する。実施例において後述するように、本実施形態の製造方法により、逆転写酵素活性を持つ状態でHBV-POLタンパク質の全長を大量発現することができる。
【0012】
ここで、「逆転写酵素活性を持つ」とは、例えば、市販のキットを使用して逆転写酵素活性を測定した場合に、ネガティブコントロールと比較して高い逆転写酵素活性を示すことを意味する。また、「HBV-POLタンパク質の全長を大量発現することができる」とは、例えば、HBV-POLタンパク質の分解を抑制し、全長の形態で、タンパク質結晶を調製できる程度の量発現することができることを意味する。あるいは、PKLRタンパク質、PKMタンパク質、PKRタンパク質の非存在下でHBV-POLタンパク質を発現させた場合と比較して、HBV-POLタンパク質の発現量が有意に高くなることを意味する。
【0013】
本実施形態の製造方法により、HBV-POLタンパク質を大量に調製し、HBV-POLタンパク質の結晶構造解析の実現へとつながり、ひいてはHBV-POLタンパク質に特異的に結合する阻害薬の開発へとつながることが期待できる。
【0014】
HBVには、A型からJ型まで少なくとも10種類の遺伝子型が存在する。本実施形態の製造方法により製造することができるHBV-POLタンパク質としては、これらのいずれの遺伝子型のHBVのPOLタンパク質であってもよい。
【0015】
例えば、HBV遺伝子型A型のPOLタンパク質のアミノ酸配列のNCBIアクセッション番号としては、AB246336.1、AB246338.1、AB246337.1等が挙げられる。HBV遺伝子型B型のPOLタンパク質のアミノ酸配列のNCBIアクセッション番号としては、AB246339.1、AB246341.1、AB246343.1等が挙げられる。HBV遺伝子型C型のPOLタンパク質のアミノ酸配列のNCBIアクセッション番号としては、AB246344.1、AB246346.1、AB246345.1等が挙げられる。HBV遺伝子型D型のPOLタンパク質のアミノ酸配列のNCBIアクセッション番号としては、AB246347.1、AB246348.1、KC012652.1等が挙げられる。
【0016】
PKLRタンパク質は、解糖系において、ホスホエノールピルビン酸からADPへのホスホリル基の転移を触媒し、ATPとピルビン酸を生成するピルビン酸キナーゼの1種である。PKLRタンパク質としては、ヒトPKLRタンパク質を用いることが好ましい。PKLRタンパク質には複数のバリアントが存在するが、本実施形態の製造方法においてはいずれのバリアントであっても使用することができる。ヒトPKLRタンパク質のアミノ酸配列のNCBIアクセッション番号としては、NP_000289.1、NP_870986.1等が挙げられる。
【0017】
PKMタンパク質は、解糖系において、ホスホエノールピルビン酸からADPへのホスホリル基の転移を触媒し、ATPとピルビン酸を生成するピルビン酸キナーゼの1種である。PKMタンパク質としては、ヒトPKMタンパク質を用いることが好ましい。PKMタンパク質には複数のバリアントが存在するが、本実施形態の製造方法においてはいずれのバリアントであっても使用することができる。ヒトPKMタンパク質のアミノ酸配列のNCBIアクセッション番号としては、NP_001193725.1、NP_001193726.1、NP_001193727.1、NP_001193728.1、NP_001303247.1、NP_002645.3、NP_872270.1、NP_872271.1等が挙げられる。
【0018】
PKRタンパク質は、二本鎖RNAに結合した後に自己リン酸化によって活性化される、セリン/スレオニンプロテインキナーゼである。PKRタンパク質としては、ヒトPKRタンパク質を用いることが好ましい。PKRタンパク質には複数のバリアントが存在するが、本実施形態の製造方法においてはいずれのバリアントであっても使用することができる。ヒトPKRタンパク質のアミノ酸配列のNCBIアクセッション番号としては、NP_001129123.1、NP_001129124.1、NP_002750.1等が挙げられる。
【0019】
本実施形態の製造方法において、HBV-POLタンパク質の発現は、無細胞翻訳系中で行ってもよいし、細胞中で行ってもよい。
【0020】
無細胞翻訳系としては、原核生物由来の無細胞翻訳系、昆虫細胞由来の無細胞翻訳系、非ヒト動物細胞由来の無細胞翻訳系、ヒト細胞由来の無細胞翻訳系、コムギ胚芽由来の無細胞系等が挙げられ、これらのいずれであってもよい。なかでも、非ヒト動物細胞由来の無細胞翻訳系、ヒト細胞由来の無細胞翻訳系が好ましく、ヒト細胞由来の無細胞翻訳系がより好ましい。
【0021】
HBV-POLタンパク質を細胞中で発現させる場合、細胞としては、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、非ヒト動物細胞、ヒト細胞等を適宜利用することができる。
【0022】
無細胞翻訳系に発現対象タンパク質のmRNAを添加することにより翻訳を行うことができる。あるいは、無細胞翻訳系に無細胞転写系を組み合わせた無細胞転写翻訳系を用いて、1つの反応容器内で転写及び翻訳を行うと、より簡便である。この場合には、無細胞転写翻訳系に発現対象タンパク質をコードするDNAベクター、又はDNA断片を添加することにより、転写及び翻訳を行うことができる。
【0023】
また、細胞に、発現対象タンパク質をコードする、mRNA、DNAベクター又はDNA断片を導入することにより、細胞中でタンパク質の発現を行うことができる。
【0024】
本実施形態の製造方法において、HBV-POLタンパク質にはタグが付加されていてもよい。タグを利用することにより、発現させたHBV-POLタンパク質を簡便に精製することができる。具体的なタグとしては、特に限定されないが、特異的抗体により認識されるタグであることが好ましく、例えば、FLAGタグ、MYCタグ、HAタグ、V5タグ等が挙げられる。
【0025】
本実施形態の製造方法において、PKLRタンパク質、PKMタンパク質、PKRタンパク質は、いずれか1種を単独で使用してもよいし、2種又は3種を混合して使用してもよい。
【0026】
また、無細胞翻訳系中に、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質を、タンパク質の形態で添加してもよいし、mRNAの形態で添加してもよい。あるいは、無細胞翻訳系が、無細胞転写系を組み合わせた無細胞転写翻訳系である場合には、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質をコードするDNAベクター、又はDNA断片の形態で添加してもよい。
【0027】
また、HBV-POLタンパク質を細胞中で発現させる場合、細胞に、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質を、タンパク質の形態で導入してもよいし、mRNAの形態で導入してもよい。あるいは、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質をコードするDNAベクター、又はDNA断片の形態で導入してもよい。
【0028】
[HBV-POLタンパク質の結晶の製造方法]
1実施形態において、本発明は、HBV-POLタンパク質の結晶の製造方法であって、上述した製造方法で製造したHBV-POLタンパク質を、結晶形成条件下でインキュベートする工程を含む、製造方法を提供する。
【0029】
すなわち、本実施形態の製造方法は、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質の存在下で、HBV-POLタンパク質を発現させる工程と、発現したHBV-POLタンパク質を、結晶形成条件下でインキュベートする工程とを含む、HBV-POLタンパク質の結晶の製造方法であるということができる。
【0030】
大量発現したHBV-POLタンパク質を、クロマトグラフィー等で精製し、夾雑物を除く。タグを利用したアフィニティクロマトグラフィー等でも精製することができる。続いて、精製したHBV-POLタンパク質を、結晶形成条件下でインキュベートする。結晶形成条件は、HBV-POLタンパク質を溶解するバッファー組成、pH、沈殿剤の種類等の組み合わせを検討して設定する必要がある。結晶形成条件の検討には、市販の専用ロボットで条件を無数に検討することができる。結晶形成条件はタンパク質の性質によって変化するため、各タンパク質にあわせて設定する必要がある。
【0031】
本実施形態の製造方法により得られた、HBV-POLタンパク質の結晶の構造解析を行うことにより、HBV-POLタンパク質に特異的に結合する阻害薬の開発を行うことが可能になる。
【0032】
[HBV感染症の治療剤のスクリーニング方法]
本発明は、HBV感染症の治療剤のスクリーニング方法を提供する。
【0033】
(第1実施形態)
第1実施形態に係るHBV感染症の治療剤のスクリーニング方法は、被験物質の存在下で、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質の活性を測定する工程を含み、前記活性が前記被験物質の非存在下と比較して低下することが、前記被験物質がHBV感染症の治療剤であることを示す方法である。
【0034】
実施例において後述するように、発明者らは、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質の阻害剤が、HBVの複製効率を顕著に低下させることを明らかにした。したがって、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質は、HBV感染症の新規の治療標的となり得る。
【0035】
PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質の阻害剤は、新しいタイプのHBV感染症の治療剤へとつながり、従来薬との併用が可能で、よりよい治療手法となりうる可能性がある。
【0036】
被験物質としては特に制限されず、例えば、天然化合物ライブラリ、合成化合物ライブラリ、既存薬ライブラリ、代謝物ライブラリ等が挙げられる。
【0037】
PKLRタンパク質及びPKMタンパク質の活性の評価は、これらのタンパク質のピルビン酸キナーゼ活性を測定することにより行うことができる。ピルビン酸キナーゼ活性の測定には、市販のキット等を使用することができる。
【0038】
PKRタンパク質の活性の評価は、PKRタンパク質のセリン/スレオニンプロテインキナーゼ活性を測定することにより行うことができる。セリン/スレオニンプロテインキナーゼ活性の測定には、市販のキット等を使用することができる。
【0039】
(第2実施形態)
第2実施形態に係るHBV感染症の治療剤のスクリーニング方法は、被験物質、及び、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質の存在下で、HBV-POLタンパク質を発現させる工程と、前記HBV-POLタンパク質の逆転写酵素活性を測定する工程と、を含み、前記逆転写酵素活性が前記被験物質の非存在下と比較して低下することが、前記被験物質がHBV感染症の治療剤であることを示す方法である。
【0040】
本実施形態のスクリーニング方法において、「被験物質、及び、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質の存在下で、HBV-POLタンパク質を発現させる工程」は、「被験物質及びPKLRタンパク質の存在下で、HBV-POLタンパク質を発現させる工程」であってもよいし、「被験物質及びPKMタンパク質の存在下で、HBV-POLタンパク質を発現させる工程」であってもよいし、「被験物質及びPKRタンパク質の存在下で、HBV-POLタンパク質を発現させる工程」であってもよい。
【0041】
実施例において後述するように、発明者らは、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質が、HBV-POLタンパク質の逆転写酵素活性の発現にも必要な因子であることを明らかにした。
【0042】
したがって、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質による、HBV-POLタンパク質の逆転写酵素活性の発現を抑制する被験物質は、HBV感染症の治療剤となり得る。
【0043】
被験物質については上述したものと同様である。また、HBV-POLタンパク質の発現は、上述したものと同様であり、無細胞翻訳系中で行ってもよいし、細胞中で行ってもよい。また、HBV-POLタンパク質の逆転写酵素活性の測定には、市販のキット等を使用することができる。
【0044】
(第3実施形態)
第3実施形態に係るHBV感染症の治療剤のスクリーニング方法は、被験物質の存在下で、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質と、HBV-POLタンパク質との結合を測定する工程を含み、前記結合が前記被験物質の非存在下と比較して低下することが、前記被験物質がHBV感染症の治療剤であることを示す方法である。
【0045】
実施例において後述するように、発明者らは、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質が、HBV-POLタンパク質に結合し、HBV-POLタンパク質を安定化させていることを明らかにした。
【0046】
したがって、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質と、HBV-POLタンパク質との結合を抑制する被験物質は、HBV感染症の治療剤となり得る。
【0047】
本実施形態のスクリーニング方法において、「結合を測定する」は、「結合量を測定する」、「結合力を測定する」等といいかえることができる。
【0048】
被験物質については上述したものと同様である。また、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質と、HBV-POLタンパク質との結合の測定は、nanoBRETアッセイ、表面プラズモン共鳴(SPR)を測定する方法、免疫沈降-ウエスタンブロッティング法等により行うことができる。
【0049】
[HBV感染症の治療剤]
1実施形態において、本発明は、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質の阻害剤を有効成分とする、HBV感染症の治療剤を提供する。
【0050】
実施例において後述するように、発明者らは、PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質の阻害剤が、HBVの複製効率を顕著に低下させることを明らかにした。具体的なPKLR/PKM2阻害剤としては、シコニン(CAS番号:517-89-5)等が挙げられる。また、具体的なPKR阻害剤としては、PKR-IN-C16(CAS番号:608512-97-6)等が挙げられる。
【0051】
PKLRタンパク質、PKMタンパク質又はPKRタンパク質の阻害剤は、新しいタイプのHBV感染症の治療剤へとつながり、従来薬との併用が可能で、よりよい治療手法となりうる可能性がある。
【実施例0052】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実験例1]
(HBV-POLタンパク質に結合するヒトタンパク質の探索1)
発明者らは、HBV-POLタンパク質の活性を助けるヒト因子が存在していると仮定し、HBV-POLに結合しているヒトタンパク質を質量分析で探索した。
【0054】
具体的には、ヒト細胞由来の無細胞転写翻訳系で、N末端にFLAGタグを融合させたHBV-POLタンパク質(FLAG-POL)、及び、N末端にFLAGタグを融合させた緑色蛍光タンパク質(FLAG-GFP)をそれぞれ発現させた。続いて、抗FLAG抗体を用いた免疫沈降により、FLAG-POL及びFLAG-GFPをそれぞれ精製し、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を行った。
【0055】
続いて、得られたゲルを銀染色し、FLAG-GFPをアプライしたレーンには存在せず、FLAG-POLをアプライしたレーンに存在するバンドを切り抜き、オービトラップ型LS-MS/MSで解析した。
【0056】
その結果、複数の候補タンパク質を特定した。表1に、HBV-POLに結合していたヒトタンパク質を示す。表1中、スコアが大きいほど信憑性が高いことを示す。また、「emPAI」は、修飾タンパク質の存在量指数を示す。
【0057】
【表1】
【0058】
[実験例2]
(HBV-POLタンパク質に結合するヒトタンパク質の探索2)
実験例1で特定された候補タンパク質及びその類似タンパク質について、市販のキット(製品名「nanoBRET」、プロメガ)を用いたアッセイにより、HBV-POLタンパク質への結合を確認した。
【0059】
nanoBRETアッセイとは、(i)被験タンパク質の一方とNanoLuc蛍光タンパク質との融合タンパク質と、(ii)被験タンパク質の他方とHaloTag(登録商標)との融合タンパク質に低分子蛍光リガンド(618リガンド)が結合した融合タンパク質と、が近接すると、BRET(生物発光共鳴エネルギー転移)により蛍光波長が遷移し、波長の変化した蛍光を発することを利用して、被験タンパク質同士の結合を評価する方法である。
【0060】
ヒト肝癌由来細胞株であるHepG2と、ヒト胎児腎由来細胞株であるHEK293の2種類の細胞株に、被験タンパク質の融合タンパク質の発現ベクターと、HBV-POLタンパク質の融合タンパク質の発現ベクターをそれぞれ導入し、検討を行った。HBV-POLタンパク質のC末端にNanoLuc蛍光タンパク質を結合させた。
【0061】
図1は、HepG2を用いてBRETシグナルを検出した結果を示すグラフである。また、図2は、HEK293を用いてBRETシグナルを検出した結果を示すグラフである。図1及び図2中、縦軸は検出されたBRETシグナルの強度(相対値)を示す。また、C01~C14は、各タンパク質のC末端にHaloTag(登録商標)及び低分子蛍光リガンド(618リガンド)を結合させた結果を示す。また、N01~N14は、各タンパク質のN末端にHaloTag(登録商標)及び低分子蛍光リガンド(618リガンド)を結合させた結果を示す。また、「V1」、「V2」、「V3」は、バリアントを示す。また、「NC」は空のベクターを導入したネガティブコントロールの結果であることを示し、「PC」はHBV-POLタンパク質と結合することが知られているDDX3を導入したポジティブコントロールの結果であることを示す。
【0062】
その結果、いずれの細胞株においてもPyruvate kinase L/R(PKLR)がHBV-POLタンパク質との高い結合性を示した。そこで、PKLR、及び、PKLRに類似するPKM2及びPKRを、HBV-POLタンパク質の結合タンパク質の候補として選択し、以下の実験を行った。
【0063】
[実験例3]
(HBV-POLタンパク質の逆転写活性の検討)
ヒト細胞由来の無細胞転写翻訳系を用いて、PKLRタンパク質、PKM2タンパク質又はPKRタンパク質の存在下でHBV-POLタンパク質を発現させた。続いて、市販のキット(製品名「Reverse Transcriptase Assay」、ロシュ社)を使用して、HBV-POLタンパク質の逆転写活性を測定した。
【0064】
図3(a)~(d)は、PKLRタンパク質及びHBV-POLタンパク質を共発現させた後、HBV-POLタンパク質の逆転写活性を測定した結果を示すグラフである。図3(a)~(d)中、縦軸はHBV-POLタンパク質を単独で発現した場合の逆転写活性を100%とした場合の相対的な逆転写活性を示す。また、「N-Halo PKLR v1」はN末端にHaloTag(登録商標)を結合したPKLRバリアント1を共発現させた結果であることを示し、「N-Halo PKLR v2」はN末端にHaloTag(登録商標)を結合したPKLRバリアント2を共発現させた結果であることを示し、「C-Halo PKLR v1」はC末端にHaloTag(登録商標)を結合したPKLRバリアント1を共発現させた結果であることを示し、「C-Halo PKLR v2」はC末端にHaloTag(登録商標)を結合したPKLRバリアント2を共発現させた結果であることを示す。また、「POL-Ae」はHBV遺伝子型A型のPOLタンパク質であることを示し、「POL-Ba51」はHBV遺伝子型B型のPOLタンパク質であることを示し、「POL-CAT」はHBV遺伝子型C型のPOLタンパク質であることを示し、「POL-D60」はHBV遺伝子型D型のPOLタンパク質であることを示す。
【0065】
その結果、HBV-POLタンパク質とPKLRタンパク質を共発現させることにより、HBVの遺伝子型に関係なく逆転写活性が増加することが明らかとなった。また、PKLRの添加量依存的に逆転写活性が増加した。また、PKLRのバリアント2種類、更にHaloTag(登録商標)の位置に関係なく同じ結果が得られた。
【0066】
図4(a)~(d)は、PKM2タンパク質及びHBV-POLタンパク質を共発現させた後、HBV-POLタンパク質の逆転写活性を測定した結果を示すグラフである。図4(a)~(d)中、縦軸はHBV-POLタンパク質を単独で発現した場合の逆転写活性を100%とした場合の相対的な逆転写活性を示す。また、「N-Halo PKM2 v1」はN末端にHaloTag(登録商標)を結合したPKM2バリアント1を共発現させた結果であることを示し、「N-Halo PKM2 v2」はN末端にHaloTag(登録商標)を結合したPKM2バリアント2を共発現させた結果であることを示し、「C-Halo PKM2 v1」はC末端にHaloTag(登録商標)を結合したPKM2バリアント1を共発現させた結果であることを示し、「C-Halo PKM2 v2」はC末端にHaloTag(登録商標)を結合したPKM2バリアント2を共発現させた結果であることを示す。また、「POL-Ae」はHBV遺伝子型A型のPOLタンパク質であることを示し、「POL-Ba51」はHBV遺伝子型B型のPOLタンパク質であることを示し、「POL-CAT」はHBV遺伝子型C型のPOLタンパク質であることを示し、「POL-D60」はHBV遺伝子型D型のPOLタンパク質であることを示す。
【0067】
その結果、HBV-POLタンパク質とPKM2タンパク質を共発現させることにより、HBVの遺伝子型に関係なく逆転写活性が増加することが明らかとなった。また、PKM2の添加量依存的に逆転写活性が増加した。また、PKM2のバリアント2種類、更にHaloTag(登録商標)の位置に関係なく同じ結果が得られた。
【0068】
図5(a)~(d)は、PKRタンパク質及びHBV-POLタンパク質を共発現させた後、HBV-POLタンパク質の逆転写活性を測定した結果を示すグラフである。図5(a)~(d)中、縦軸はHBV-POLタンパク質を単独で発現した場合の逆転写活性を100%とした場合の相対的な逆転写活性を示す。また、「N-Halo PKR v1」はN末端にHaloTag(登録商標)を結合したPKRバリアント1を共発現させた結果であることを示し、「N-Halo PKR v2」はN末端にHaloTag(登録商標)を結合したPKRバリアント2を共発現させた結果であることを示し、「C-Halo PKR v1」はC末端にHaloTag(登録商標)を結合したPKRバリアント1を共発現させた結果であることを示し、「C-Halo PKR v2」はC末端にHaloTag(登録商標)を結合したPKRバリアント2を共発現させた結果であることを示す。また、「POL-Ae」はHBV遺伝子型A型のPOLタンパク質であることを示し、「POL-Ba51」はHBV遺伝子型B型のPOLタンパク質であることを示し、「POL-CAT」はHBV遺伝子型C型のPOLタンパク質であることを示し、「POL-D60」はHBV遺伝子型D型のPOLタンパク質であることを示す。
【0069】
その結果、HBV-POLタンパク質とPKRタンパク質を共発現させることにより、HBVの遺伝子型に関係なく逆転写活性が増加することが明らかとなった。また、PKRの添加量依存的に逆転写活性が増加した。また、PKRのバリアント2種類、更にHaloTag(登録商標)の位置に関係なく同じ結果が得られた。
【0070】
以上の結果は、PKLRタンパク質、PKM2タンパク質又はPKRタンパク質とHBV-POLタンパク質が共存することにより、HBV-POLタンパク質の安定性が向上したことを示す。
【0071】
[実験例4]
(HBV-POLタンパク質の安定性の検討)
ヒト細胞由来の無細胞転写翻訳系を用いて、PKLRタンパク質、PKM2タンパク質又はPKRタンパク質の存在下でHBV-POLタンパク質を発現させ、その発現量を検討した。
【0072】
具体的には、ヒト細胞由来の無細胞転写翻訳系で、N末端にFLAGタグを融合させたHBV遺伝子型A型のPOLタンパク質(FLAG-POL-Ae)を、N末端にHaloTag(登録商標)を結合したPKLRタンパク質バリアント1「N-Halo tag PKLR v1」、バリアント2「N-Halo tag PKLR v2」、N末端にHaloTag(登録商標)を結合したPKM2タンパク質バリアント1「N-Halo tag PKM2 v1」、バリアント2「N-Halo tag PKM2 v2」、N末端にHaloTag(登録商標)を結合したPKRタンパク質バリアント1「N-Halo tag PKR v1」、及び、バリアント2「N-Halo tag PKR v2」と共発現させた。
【0073】
続いて、共発現させたサンプルをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)した後、メンブレンに転写した。続いて、抗FLAG抗体を用いてウエスタンブロットを行い、HBV-POLタンパク質を染色した。
【0074】
図6及び図7は、ウエスタンブロットの結果を示す写真である。図6は、HBV-POLタンパク質とPKLRタンパク質又はPKM2タンパク質を共発現させた結果を示し、図7は、HBV-POLタンパク質とPKRタンパク質を共発現させた結果を示す。図6及び図7中、「FLAG-POL-Ae w/o additive」は、HBV-POLタンパク質のみを発現させた結果であることを示し、「Neg ctrl」はネガティブコントロールの結果であることを示す。
【0075】
その結果、HBV-POLタンパク質とPKLRタンパク質、PKM2タンパク質又はPKRタンパク質を共発現させることにより、PKLRタンパク質、PKM2タンパク質又はPKRタンパク質の量依存的に、HBV-POLタンパク質の発現量が増加することが明らかとなった。
【0076】
HBV-POLタンパク質のみを発現させても早期に分解されてしまうことから、PKLRタンパク質、PKM2タンパク質又はPKRタンパク質とHBV-POLタンパク質が共存することにより、HBV-POLタンパク質の安定性が向上したと考えられた。
【0077】
[実験例5]
(HBVの複製効率の検討)
ヒト肝癌由来細胞株であるHuh7を用い、PKLR/PKM2阻害剤、PKR阻害剤、PKLR/PKM2活性化剤又はPKR活性化剤の存在下でHBVを複製させ、複製効率を測定した。HBVとしては、HBV遺伝子型A型であるHBV-Ae-US株、HBV遺伝子型B型であるHBV-Bj56株、HBV遺伝子型C型であるHBV-C-AT株を使用した。
【0078】
PKLR/PKM2阻害剤としては、シコニン(CAS番号:517-89-5)、PKM2-IN-1(CAS番号:94164-88-2)を使用した。PKR阻害剤としては、PKR-IN-C16(CAS番号:608512-97-6)を使用した。PKLR/PKM2活性化剤としては、DASA-58(CAS番号:1203494-49-8)、TEPP-46(CAS番号:1221186-53-3)を使用した。PKLR活性化剤としては、PKR-IN-2(CAS番号:1628428-01-2)を使用した。
【0079】
HBVの複製効率は、B型肝炎ウイルスs抗原(HBsAg)及びB型肝炎ウイルスコア関連抗原(HBcrAg)を測定することにより測定した。特に、HBcrAgはウイルス量と強く相関するものである。
【0080】
図8(a)及び(b)は、測定結果を示すグラフである。図8(a)はHBsAgの測定結果を示し、図8(b)はHBcrAgの測定結果を示す。図8(a)及び(b)中、「control」は薬物を添加していないコントロールの結果であることを示し、グラフの縦軸はコントロールを100%とした場合の相対値を示す。
【0081】
その結果、PKLR/PKM2阻害剤であるシコニンを添加すると、HBVの複製効率が顕著に低下することが明らかとなった。また、PKM2-IN-1を投与した場合には、HBcrAgの検出において、HBVの複製効率の低下が確認された。また、PKR阻害剤であるPKR-IN-C16を添加すると、HBVの複製効率が顕著に低下することが明らかとなった。
【0082】
これらの結果は、PKLR/PKM2阻害剤又はPKR阻害剤の添加により、HBVの複製効率が低下することを示す。
【0083】
一方、PKLR/PKM2活性化剤、PKR活性化剤を添加した場合には顕著な影響は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、逆転写酵素活性を持つ状態でHBV-POLタンパク質の全長を大量発現する技術を提供することができる。また、HBV感染症の治療剤のスクリーニング方法、及び、HBV感染症の治療剤を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8