(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164516
(43)【公開日】2023-11-10
(54)【発明の名称】フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコースの測定方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/32 20060101AFI20231102BHJP
C12Q 1/54 20060101ALI20231102BHJP
C12N 9/04 20060101ALI20231102BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20231102BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20231102BHJP
【FI】
C12Q1/32 ZNA
C12Q1/54
C12N9/04 D
C12N15/53
C12N15/31
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023144354
(22)【出願日】2023-09-06
(62)【分割の表示】P 2021096691の分割
【原出願日】2016-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2015113732
(32)【優先日】2015-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鉞 陽介
(57)【要約】
【課題】10mM以下のD-グルコース量を正確に測定すること。
【解決手段】(i)作用:電子受容体存在下でGDH活性を示す、(ii)基質特異性:D-グルコースに対する反応性と比較して、マルトース、D-ガラクトース、D-キシロースに対する反応性が低い、(iii)熱安定性:40℃、15分間の熱処理後に80%以上の残存活性を有する、(iv)フラビン化合物を補酵素とする、(v)温度特性:20~40℃の範囲で最も活性が高い測定温度におけるD-グルコースに対する反応性を100%とした場合に、20~40℃における活性値が74%~100%である、を備えるフラビン結合型GDHをD-グルコースと20~40℃で接触させてD-グルコースを測定する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)から(v)の性質:
(i)作用:電子受容体存在下でGDH活性を示す、
(ii)基質特異性:D-グルコースに対する反応性と比較して、マルトース、D-ガラクトース、D-キシロースに対する反応性が低い、
(iii)熱安定性:40℃、15分間の熱処理後に80%以上の残存活性を有する、
(iv)フラビン化合物を補酵素とする、
(v)温度特性:20~40℃の範囲で最も活性が高い測定温度におけるD-グルコースに対する反応性を100%とした場合に、20~40℃における活性値が74%~100%である、かつ20℃における活性値が70%以上である、
を備えるフラビン結合型GDHをD-グルコースと20~40℃で接触させることを含む、D-グルコースの測定方法。
【請求項2】
D-グルコースの濃度が、10mM以下である、請求項1記載の測定方法。
【請求項3】
フラビン結合型GDHが、ケカビ亜門に分類される微生物に由来する、請求項1に記載の測定方法。
【請求項4】
フラビン結合型GDHが、Mucor属またはCircinella属に分類される微生物に由来する、請求項1に記載の測定方法。
【請求項5】
以下の(i)から(v)の性質:
(i)作用:電子受容体存在下でGDH活性を示す、
(ii)基質特異性:D-グルコースに対する反応性と比較して、マルトース、D-ガラクトース、D-キシロースに対する反応性が低い、
(iii)熱安定性:40℃、15分間の熱処理後に80%以上の残存活性を有する、
(iv)フラビン化合物を補酵素とする、
(v)温度特性:20~40℃の範囲で最も活性が高い測定温度におけるD-グルコースに対する反応性を100%とした場合に、20~40℃における活性値が74%~100%である、かつ20℃における活性値が70%以上である、
を備えるフラビン結合型GDHを含む、20~40℃おける、温度補正を含まないグルコース測定方法のための、グルコース測定剤又はセンサ。
【請求項6】
測定試料中のD-グルコースの濃度が、10mM以下である、請求項5に記載のグルコース測定剤又はセンサ。
【請求項7】
フラビン結合型GDHが、ケカビ亜門に分類される微生物に由来する、請求項5に記載のグルコース測定剤又はセンサ。
【請求項8】
フラビン結合型GDHが、Mucor属またはCircinella属に分類される微生物に由来する、請求項5に記載のグルコース測定剤又はセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラビン化合物を補酵素とするケカビ亜門由来フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼを用いた、温度補正が不要な簡便かつ正確なグルコース測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
血中グルコース濃度(血糖値)は、糖尿病の重要なマーカーである。糖尿病患者が自己の血糖値を管理するための装置としては、電気化学的バイオセンサを用いた自己血糖測定(Self Monitoring of Blood Glucose:SMBG)機器が広く利用されている。SMBG機器に用いられるバイオセンサには、従来、グルコースオキシダーゼ(GOD)等のグルコースを基質とする酵素が利用されている。しかしながら、GODは酸素を電子受容体とするという特性を備えているため、GODを用いたSMBG機器では、測定サンプル中の溶存酸素が測定値に影響を与え、正確な測定値が得られない場合が起こりうる。
【0003】
一方、グルコースを基質とするが、酸素を電子受容体としない別の酵素として、各種のグルコースデヒドロゲナーゼ(以下、GDH)が知られている。具体的には、ニコチンアミドジヌクレオチド(NAD)やニコチンアミドジヌクレオチドリン酸(NADP)を補酵素とするタイプのGDH(NAD(P)-GDH)や、ピロロキノリンキノン(PQQ)を補酵素とするGDH(PQQ-GDH)が見出されており、SMBG機器のバイオセンサに使用されている。しかしながら、NAD(P)-GDHは、酵素の安定性が乏しく、かつ、補酵素の添加が必要という問題を有し、また、PQQ-GDHは基質特異性が低く、測定対象であるグルコース以外にも、マルトース、D-ガラクトースおよびD-キシロースなどの糖化合物に対して作用してしまうため、測定サンプル中のグルコース以外の糖化合物が測定値に影響し、正確な測定値が得られないという問題点が存在する。
【0004】
約10年前、PQQ-GDHをバイオセンサとして用いたSMBG機器を用いて、輸液投与を受けていた糖尿病患者の血糖値を測定する際に、PQQ-GDHが輸液中に含まれるマルトースにも作用して、実際の血糖値よりも高い測定値が得られ、この値に基づく処置が原因となって患者が低血糖等を発症した例が報告されている。また、同様の事象はガラクトース負荷試験およびキシロース吸収試験を実施中の患者にも起こり得ることも判明している(例えば、非特許文献1参照)。これを受け、厚生労働省医薬食品局は、グルコース溶液に各糖類を添加した場合における血糖測定値への影響を調査する目的で交差反応性試験を行ったところ、600mg/dLのマルトース、300mg/dLのD-ガラクトース、あるいは、200mg/dLのD-キシロース添加を行った場合には、PQQ-GDH法を用いた血糖測定キットの測定値は、実際のグルコース濃度より2.5~3倍ほど高い値を示した。すなわち、測定試料中に存在し得るマルトース、D-ガラクトース、D-キシロースにより測定値が不正確になることが判明し、このような測定誤差の原因となる糖化合物の影響を受けず、グルコースを特異的に測定可能な基質特異性の高いGDHの開発が切に望まれている。
【0005】
上記のような背景の下、上記以外の補酵素を利用するタイプのGDHが着目されるようになってきており、例えば、特許文献1~3にはAspergillus属由来のフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を補酵素とするグルコースデヒドロゲナーゼ(FAD-GDH)が開示され、特許文献4にはD-キシロースに対する作用性を低減させたAspergillus属由来のFAD-GDHが開示されている。特許文献1~4には、マルトース、D-ガラクトース、D-キシロースのいずれに対しても反応性が十分に低いという特性を有するとまではいえないものの、D-グルコースではない1種または数種の糖化合物に対し反応性が低いFAD-GDHが開示されている。
【0006】
その後、近年では、D-グルコース、マルトース、D-ガラクトース、D-キシロースが存在する条件下において、それらの糖化合物による影響を受けることなくグルコース濃度を正確に測定することが可能なフラビン結合型GDHとして、ケカビ亜門に属する微生物由来のFAD-GDHが見出されている(例えば、特許文献5参照)。さらに、ブルクホルデリア・セパシア由来、シルシネラ由来のFAD-GDHや、それら開示すみの各種FAD-GDHに変異を導入して基質特異性を向上させた変異酵素や、耐熱性を向上させた変異酵素等が精力的に探索、開発されるようになった(例えば、特許文献6~10参照)。
【0007】
このような背景を受けて、これまでに種々見出されてきたFAD-GDHは、血糖値測定を目的として、液状試薬の成分として、あるいは、センサやストリップ状に固定化された成分として利用されることが想定されているが、こうした測定用試薬や測定用センサの設計においては、上述の「測定サンプル中の溶存酸素をノイズとして測り込みたくない」「補酵素を添加したくない」「測定サンプル中に混在していることが想定されるD-グルコース以外の糖をノイズとして測り込みたくない」という点以外にも、もう1点、重要なニーズが存在している。それは、「測定する際の温度により測定値が変動することを極力回避したい」というニーズである。
【0008】
一般的に、酵素法の原理を利用して測定を行う場合、測定する際の温度により測定値が変動するという現象は、酵素を利用する以上不可避な普遍的課題として当業者に認識されている。酵素には反応至適温度が存在し、反応に最適な温度条件からかけ離れた温度で反応させる時には、酵素反応が十分に発揮できない。したがって、同じ性能で同じ測定値を得たいと思えば、測定時の温度を一定に保ち、かつ、好ましくは反応至適温度付近に設定するべきであることが当業者の技術的常識である。もし、その温度から乖離した温度下で測定された場合には、測定値が大きく変動して、測定誤差や誤った診断につながる恐れがある。
【0009】
測定時の温度設定は、サンプルを恒温槽等の装置の中で予め温度調整するなどの操作を行わせることによって測定時の温度を一定にすることが容易なラボレベルでの測定や、測定機器に保温機能等の温度調整機能が備えられている装置を使って測定を行う場合であれば、容易に設定・管理することができるため、現実的には誤差発生のリスクが生じにくい場合も多い。
一方で、個別事情により、上記のような温度調整を十分に行えないことが見込まれる測定においては、この問題が深刻な誤差発生のリスクを生じることとなる。
【0010】
糖尿病患者が血糖を自己測定する、いわゆるSMBGの場面は、日常生活である。すなわち、このような場面では、患者は、小型で簡便型の測定装置を自宅に保有しており、毎日数回、自分で血液を少量採取して、これをテスト用の紙片(テストストリップ)にしみこませ、直ちに測定装置に挿入して測定を行っている。採取する血液は少量であることから、予め温度調整することはできない。測定装置には温度調整機能は付いていない機種が多く、したがって、真夏の測定時と真冬の寒冷地での測定では、測定温度は数十度も変動することが想定される。さらに、温度調整機能が付いている場合においても、SMBG機器とセンサの温度が異なる場合に、温度補正が適正に行われない可能性が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0011】
実際に、簡易型の血糖測定装置による血糖自己測定に与える温度の影響に関しては、測定較差が生じることが確認されており(例えば、非特許文献3参照)、医療関係者からは、値が不正確となることにより患者が間違った判断につながる恐れを懸念して、SMBG機器とテストストリップは共に室温に保管するよう、または測定時には室温に十分戻してから使用するよう、あるいは携帯型の保温ケースを使用する等の工夫が好ましいのではないかとの提言もなされている。これらの工夫は現場から出る対処策として有効であると考えられるが、裏を返せば、簡易型の血糖測定装置による血糖自己測定において、このような誤差の課題が深刻であることを示している。
【0012】
室温で測定させる、保温ケースを用いる、という、使用時の温度を一定に保たせる指導と併せて、測定装置側に講じることができる従来の対応としては、温度補正がある。すなわち、予め、温度変化による測定値を得ておき、両者の関係式を作成する。そして、測定時の周辺温度を測定し、関係式を用いて実際の測定値から、(たとえば)最適温度で測定した場合の値を算出する、という方法である。この方法を用いれば、測定温度が多少変動しても、補正によって正確な値に近付けることは、理論的には可能である。しかしながら、補正にも限界があり、温度の変動で活性の低下が著しいタイプの酵素では、補正しきれないこと、また、温度補正機能を盛り込むことで、測定装置の大型化や高額化につながってしまうという事情から、全ての測定装置にこの方法を講じることは困難であるという問題がある。
【0013】
上述のような事情から、血糖値測定においては、可能な限り、測定時の温度の変動の影響を受けにくい形で測定が行える測定方法、あるいは、手間のかかる保温の作業や温度補正機構の導入を行う必要性を低減できる測定方法に対するニーズは極めて大きいといえる。
しかし、現実には、そのような測定を達成できる測定試薬や測定装置は今日まで知られておらず、現状で確認されている誤差を元に、使用方法を工夫し、温度補正である程度の対処を行うこと以外に、対応方法がなかったことが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2007-289148号公報
【特許文献2】国際公開第04/058958号パンフレット
【特許文献3】国際公開第07/139013号パンフレット
【特許文献4】特開2008-237210号公報
【特許文献5】特許第4648993号
【特許文献6】特開2012-90563号公報
【特許文献7】国際公開第12/169512号パンフレット
【特許文献8】国際公開第09/084616号パンフレット
【特許文献9】国際公開第13/051682号パンフレット
【特許文献10】国際公開第13/065623号パンフレット
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】医薬品・医療用具等安全性情報206号(Pharmaceuticals and Medical Devices Safety Information No.206)、2004年10月、厚生労働省医薬食品局
【非特許文献2】佐瀬正次郎,高木正義,”血糖自己測定機器の低温環境下における血糖値への影響”,日本臨床検査自動化学会会誌, 34(4), 770 (2009).
【非特許文献3】松崎純子,岡本敏哉,小野百合,”簡易血糖測定器による血糖自己測定に与える温度の影響” ,糖尿病, 45(11), 821-824 (2002).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明では、10mM以下のD-グルコースを測定する際に、幅広い温度範囲で、D-グルコースに特異性が高く、D-グルコース以外の糖化合物の共存条件下においてもD-グルコース量を正確に測定できるGDHを用いたD-グルコース量の測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明者等は鋭意検討を重ね、種々のGDHのスクリーニングを実施した結果、ケカビ亜門に属する菌株由来GDHは、基質濃度が10mM以下である場合、幅広い温度条件下で測定を行った場合でもグルコースを正確に測定できることを新たに見出し、日本糖尿病学会の血糖コントロール指標である食後2時間血糖値10mM以下のD-グルコース量の新規な測定方法を構築して、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)以下の(i)から(v)の性質:
(i)作用:電子受容体存在下でGDH活性を示す、
(ii)基質特異性:D-グルコースに対する反応性と比較して、マルトース、D-ガラクトース、D-キシロースに対する反応性が低い、
(iii)熱安定性:40℃、15分間の熱処理後に80%以上の残存活性を有する、
(iv)フラビン化合物を補酵素とする、
(v)温度特性:20~40℃の範囲で最も活性が高い測定温度におけるD-グルコースに対する反応性を100%とした場合に、20~40℃における活性値が74%~100%である、かつ20℃における活性値が70%以上である、
を備えるフラビン結合型GDHをD-グルコースと20~40℃で接触させることを含む、D-グルコースの測定方法。
(2)D-グルコースの濃度が10mM以下である上記(1)記載の測定方法。
(3)フラビン結合型GDHが、ケカビ亜門に分類される微生物に由来する、上記(1)記載の測定方法。
(4)フラビン結合型GDHが、Mucor属またはCircinella属に分類される微生物に由来する、上記(1)に記載の測定方法。
(5)以下の(i)から(v)の性質:
(i)作用:電子受容体存在下でGDH活性を示す、
(ii)基質特異性:D-グルコースに対する反応性と比較して、マルトース、D-ガラクトース、D-キシロースに対する反応性が低い、
(iii)熱安定性:40℃、15分間の熱処理後に80%以上の残存活性を有する、
(iv)フラビン化合物を補酵素とする、
(v)温度特性:20~40℃の範囲で最も活性が高い測定温度におけるD-グルコースに対する反応性を100%とした場合に、20~40℃における活性値が74%~100%である、かつ20℃における活性値が70%以上である、
を備えるフラビン結合型GDHを含む、20~40℃おける、温度補正を含まないグルコース測定方法のための、グルコース測定剤又はセンサ。
(6)測定試料中のD-グルコースの濃度が、10mM以下である、上記(5)記載のグルコース測定剤又はセンサ。
(7)フラビン結合型GDHが、ケカビ亜門に分類される微生物に由来する、上記(5)に記載のグルコース測定剤又はセンサ。
(8)フラビン結合型GDHが、Mucor属またはCircinella属に分類される微生物に由来する、上記(5)に記載のグルコース測定剤又はセンサ。
【発明の効果】
【0019】
本発明のフラビン結合型GDHを用いた測定方法により、20~40℃において温度補正機能を備えなくとも、正確な血糖測定が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(フラビン結合型GDHの温度特性)
Mucor属由来フラビン結合型GDHは、基質濃度が低くなるにつれ、幅広い測定温度領域において活性の変動が小さくなることを特徴とする。具体的には、本発明の測定方法に用いるフラビン結合型GDHは、20~40℃の範囲で最も活性が高い測定温度における10mM以下の D-グルコースに対する反応性を100%とした場合に、20~40℃における活性値が74%~100%である。本発明のフラビン結合型GDHを用いる測定方法は、このような優れた温度特性を有するため、測定する温度環境の影響を受けることなく、正確にD-グルコース量を測定することが可能である。
【0021】
(本発明のフラビン結合型GDHの酵素化学的特徴)
本発明のフラビン結合型GDHとして好ましい酵素の例としては、以下の酵素化学的特徴を有するものが挙げられる。
(1)作用:電子受容体存在下でGDH活性を示す
(2)基質特異性:D-グルコースに対する反応性と比較して、マルトース、D-ガラクトース、D-キシロースに対する反応性が低い
(3)熱安定性:40℃、15分間の熱処理後に80%以上の残存活性を有する
(4)フラビン化合物を補酵素とする
(5)温度特性:20~40℃の範囲で最も活性が高い測定温度における10mM以下の D-グルコースに対する反応性を100%とした場合に、20~40℃における活性値が74%~100%である。
上記のような酵素化学的特徴を有するGDHであれば、測定試料に含まれるマルトース、D-ガラクトース、D-キシロース等の糖化合物の影響を受けることなく、さらに、測定温度が20~40℃において温度補正機能を有することなく、正確にD-グルコース量を測定することが可能となる。また、血糖値の測定等の臨床診断に応用するために好適なpH範囲、温度範囲で良好に作用するので、診断用測定試薬(測定剤)等の用途に好適に使用することができる。
Km値は一般的には小さくなるほど基質特異性が良いとされるが、本発明の酵素としては、所定の測定条件において実質的に十分な基質の選択が実現される範囲の値を有していればよい。
分子量は、例えば、GENETYX Ver.11(ゼネティックス社製)やExPASy(http://web.expasy.org/compute_pi/)等のプログラムを用いて、一次配列情報から算出する、あるいはSDS-ポリアクリルアミド電気泳動で測定することができる。例えば、GENETYX Ver.11を用いて算出する場合、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するフラビン結合型GDHの分子量は、70kDaであり、配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するフラビン結合型GDHの分子量は、69kDaである。また、例えば、SDS-ポリアクリルアミド電気泳動で測定する場合、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するフラビン結合型GDHの分子量は、約80kDaであり、配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するフラビン結合型GDHの分子量は、約88kDaである。
【0022】
(フラビン結合型GDHの基質特異性)
本発明に用いることができるフラビン結合型GDHは、基質特異性に優れ、D-グルコースに対する選択性が極めて高いことを特徴とする。具体的には、本発明に用いることができるフラビン結合型GDHは、マルトース、D-ガラクトース、D-キシロースに対する反応性が極めて低い。具体的には、D-グルコースに対する反応性を100%とした場合に、マルトース、D-ガラクトースおよびD-キシロースに対する反応性がいずれも5%以下、好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下であることを特徴とする。本発明に用いることができるフラビン結合型GDHは、このような高い基質特異性を有するため、マルトースを含む輸液の投与を受けている患者や、ガラクトース負荷試験およびキシロース吸収試験を実施中の患者の試料についても、測定試料に含まれるマルトース、D-ガラクトース、D-キシロース等の糖化合物の影響を受けることなく、正確にD-グルコース量を測定することが可能となる。
【0023】
上記の各種の酵素化学的性質は、酵素の諸性質を特定するための公知の手法、例えば、以下の実施例に記載の方法を用いて調べることができる。酵素の諸性質は、本発明のフラビン結合型GDHを生産する微生物の培養液や、精製工程の途中段階において、ある程度調べることもでき、より詳細には、精製酵素を用いて調べることができる。
精製酵素とは、当該酵素以外の成分、特に当該酵素以外のタンパク質(夾雑タンパク質)を実質的に含まない状態に分離された酵素をいう。具体的には、例えば、夾雑タンパク質の含有量が重量換算で全体の約20%未満、好ましくは約10%未満、更に好ましくは約5%未満、より一層好ましくは約1%未満である。なお、本明細書中に後述する「MpGDH」は、特に断りの無い限り、精製酵素をいう。
【0024】
本発明における、D-グルコース測定実施時のD-グルコース濃度は、10mM以下である。この濃度は、食後2時間血糖値のD-グルコースを測定することを想定したときに該当する温度範囲に該当する。また、こうした測定の際には、場合により、より低濃度のD-グルコースを測定する場合となることがある。例えば、6mM以下、4mM以下、あるいは3mM以下となることがある。
【0025】
本発明のフラビン結合型GDHが利用する電子受容体は、特に限定されず、例えば、血糖値測定に用いるために好適な試薬成分として公知の任意の電子受容体を用いることができる。
【0026】
本発明のフラビン結合型GDHが利用する補酵素は、フラビン化合物であることを特徴とする。フラビン化合物には、例えば、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)等が挙げられる。
【0027】
本発明の測定方法に用いることができるフラビン結合型GDHとして好ましい酵素の例としては、20~40℃の範囲で最も活性が高い測定温度における10mM D-グルコースに対する反応性を100%とした場合に、20~40℃における活性値が74%~100%であるフラビン結合型GDHが挙げられる。さらに好ましくは、20~40℃の範囲で最も活性が高い測定温度における10mM D-グルコースに対する反応性を100%とした場合に、20~40℃における活性値が74%~100%であり、かつ20℃における活性値が70%以上であるフラビン結合型GDHが挙げられる。
【0028】
(フラビン結合型GDHの作用原理および活性測定法)
本発明のフラビン結合型GDHは、電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ-δ-ラクトンを生成する反応を触媒する。
したがって、この原理を利用して、例えば、電子受容体としてフェナジンメトサルフェート(PMS)および2,6-ジクロロインドフェノール(DCIP)を用いた以下の測定系により、本発明のフラビン結合型GDHの活性を測定することができる。
(反応1) D-グルコ-ス + PMS(酸化型)
→ D-グルコノ-δ-ラクトン + PMS(還元型)
(反応2) PMS(還元型) + DCIP(酸化型)
→ PMS + DCIP(還元型)
【0029】
まず、(反応1)において、グルコースの酸化に伴いPMS(還元型)が生成する。続いて進行する(反応2)により、PMSの酸化と共にDCIPが還元されるため、酸化型DCIPの消失を600nmの波長の吸光度変化量から測定することができる。
具体的には、本発明において、フラビン結合型GDHの活性は、以下の手順に従って測定する。100mM リン酸緩衝液(pH7.0) 1.79mL、5.0M D-グルコース溶液 0.08mLおよび20mM DCIP溶液 0.01mLを混合し、37℃で5分間保温する。次いで、20mM PMS溶液 0.02mLおよび酵素サンプル溶液0.1mLを添加し、反応を開始する。反応開始時、および、経時的な吸光度を測定し、酵素反応の進行に伴う600nmにおける吸光度の1分間あたりの減少量(ΔA600)を求め、次式に従いフラビン結合型GDH活性を算出する。この際、フラビン結合型GDH活性は、37℃において濃度50mMのD-グルコース存在下で1分間に1μmolのDCIPを還元する酵素量を1Uと定義する。
【0030】
【0031】
なお、式中の2.0は反応試薬+酵素試薬の液量(mL)、16.3は本活性測定条件におけるミリモル分子吸光係数(cm2/μmol)、0.1は酵素溶液の液量(mL)、1.0はセルの光路長(cm)、ΔA600blankは10mM 酢酸緩衝液を酵素サンプル溶液の代わりに添加して反応開始した場合の600nmにおける吸光度の1分間あたりの減少量、dfは希釈倍数を表す。
【0032】
(フラビン結合型GDHの由来)
上記の特徴を有する本発明のフラビン結合型GDHは、ケカビ亜門に分類される微生物から得ることができる。ケカビ亜門に分類される微生物としては、例えば、Mucor属、Absidia属、Actinomucor (Circinella)属等が挙げられる。Mucor属に分類される微生物であって、本発明のフラビン結合型GDHを生産する具体的な好ましい微生物の例としては、Mucor prainii、Mucor javanicus、Mucor circinelloides f. circinelloides、Mucor subtilissimus、Mucor guilliermondiiもしくはMucor hiemalisが挙げられる。より具体的には、Mucor prainii NISL0103、Mucor javanicus NISL0111もしくはMucor circinelloides f. circinelloides NISL0117が挙げられる。Absidia属に分類される微生物であって、本発明のフラビン結合型GDHを生産する具体的な好ましい微生物の例としては、Absidia cylindrospora、Absidia hyalosporaを挙げることができる。より具体的には、Absidia cylindrospora NISL0211、Absidia hyalospora NISL0218を挙げることができる。Actinomucor (Circinella)属に分類される微生物であって、本発明のフラビン結合型GDHを生産する具体的な好ましい微生物の例としては、Actinomucor elegans もしくはCircinella simplexを挙げることができる。より具体的には、Actinomucor elegans NISL9082を挙げることができる。
【0033】
本発明の測定方法に用いることができるフラビン結合型GDHは、上述の通り、「ケカビ亜門に分類される微生物に由来し、上述の各種性質を具備するフラビン結合型GDH」である。さらにまた、それらのフラビン結合型GDH生産微生物から公知の遺伝子工学的手法によって取得したフラビン結合型GDHをコードする遺伝子を利用し、必要によりそれを一部改変して、適当な宿主微生物に各種公知の手法により導入して生産された組換えフラビン結合型GDHもまた、本発明の「ケカビ亜門に分類される微生物に由来し、上述の各種性質を具備するフラビン結合型GDH」に含まれる。同様に、「Mucor属に分類される微生物」もしくは「Actinomucor (Circinella)属に分類される微生物」、あるいは、特定の生産微生物菌株名を記載したフラビン結合型GDHについても、各々に由来する遺伝子情報を元に取得される、上述の各種性質を具備するフラビン結合型GDHをも本発明に包含する。
【0034】
(フラビン結合型GDHのアミノ酸配列)
本発明のフラビン結合型GDHは、配列番号1又は配列番号5で示されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と70%以上相同なアミノ酸配列を有することを特徴とする。配列番号1又は配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するフラビン結合型GDHは、上述の各種の性質を有する。また、配列番号1又は配列番号3で示されるアミノ酸配列と70%以上の同一性、好ましくは75%、より好ましくは80%、より好ましくは85%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、配列番号1又は配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するフラビン結合型GDHと同様な諸性質を有するGDHも、本発明の測定方法に用いるフラビン結合型GDHに含まれる。
【0035】
(フラビン結合型GDHをコードする遺伝子配列)
本発明のフラビン結合型GDHをコードする遺伝子とは、配列番号1又は配列番号5で示されるアミノ酸配列、あるいは該アミノ酸配列と70%以上相同なアミノ酸配列を有するフラビン結合型GDHをコードするDNAをいう。または、本発明のフラビン結合型GDHをコードする遺伝子とは、配列番号2又は配列番号6で示される塩基配列からなるDNAをいう。あるいは、本発明のフラビン結合型GDHをコードする遺伝子とは、配列番号2又は配列番号6で示される塩基配列と70%以上の同一性、好ましくは、75%以上の同一性、より好ましくは、80%以上の同一性、より好ましくは85%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列を有し、且つフラビン結合型GDH酵素活性をもつタンパク質をコードするDNAをいう。
【0036】
(フラビン結合型GDHをコードする遺伝子配列を含むベクター、形質転換体)
本発明のフラビン結合型GDHをコードする遺伝子は、適当な公知の各種ベクター中に挿入することができる。さらに、このベクターを適当な公知の各宿主に導入して、フラビン結合型GDH遺伝子を含む組換え体DNAが導入されている形質転換体を作製することができる。これらの遺伝子の取得方法や、遺伝子配列、アミノ酸配列情報の取得方法、各種ベクターの製造方法や形質転換体の作製方法は、当業者にとって公知であり、一例を後述する。
【0037】
フラビン結合型GDHを生産する微生物からフラビン結合型GDH遺伝子を取得するには、通常一般的に用いられている遺伝子のクローニング方法が用いられる。例えば、フラビン結合型GDH生産能を有する微生物菌体や種々の細胞から常法、例えば、Current Protocols in Molecular Biology (WILEY Interscience,1989)記載の方法により、染色体DNAまたはmRNAを抽出することができる。さらにmRNAを鋳型としてcDNAを合成することができる。このようにして得られた染色体DNAまたはcDNAを用いて、染色体DNAまたはcDNAのライブラリーを作製することができる。
【0038】
次いで、フラビン結合型GDHのアミノ酸配列に基づき、適当なプローブDNAを合成して、これを用いて染色体DNAまたはcDNAのライブラリーからスクリーニングする方法、あるいは、上記アミノ酸配列に基づき、適当なプライマーDNAを作製して、5’RACE法や3’RACE法などの適当なポリメラーゼ連鎖反応(PCR法)により、目的の遺伝子断片を含むDNAを増幅させ、これらを連結させて全長の目的遺伝子を含むDNAを得ることができる。
【0039】
このようにして得られたフラビン結合型GDHをコードする遺伝子の好ましい一例として、Mucor属由来のフラビン結合型GDH遺伝子が挙げられる。これらの遺伝子は、常法通り各種ベクターに連結されていることが、取扱い上好ましく、例えば、単離したMucor属由来のフラビン結合型GDHをコードする遺伝子を含む組換え体プラスミドを作製し、そこから例えば、QIAGEN(キアゲン社製)を用いることにより、抽出、精製して得ることができる。本発明において用いることのできるベクターDNAとしては、例えば、プラスミドベクターDNA、バクテリオファージベクターDNA等を用いることができる。具体的には、例えば、pBluescriptII SK+ (STRATAGENE社製)等が好ましい。
【0040】
上記方法により得られたフラビン結合型GDH遺伝子の塩基配列の決定・確認は、例えば、マルチキャピラリーDNA解析システムCEQ2000(ベックマン・コールター社製)等を用いることにより行い得る。
上述のように得られたフラビン結合型GDH遺伝子を、常法により、バクテリオファージ、コスミド、または原核細胞若しくは真核細胞の形質転換に用いられるプラスミド等のベクターに組み込み、各々のベクターに対応する宿主を常法により形質転換または形質導入することができる。宿主としては、例えば、Escherichia属に属する微生物、例えば、大腸菌K-12、好ましくは大腸菌JM109、DH5α(ともにタカラバイオ社製)等が挙げられ、これらの宿主を形質転換して、またはそれらに形質導入してそれぞれの菌株を得る。こうして得られた上記形質転換体を培養することによって、フラビン結合型GDHを大量に生産することができる。
【実施例0041】
(MpGDHの製造と精製)
MpGDH遺伝子(配列番号2)を含むカセットを用いて形質転換したAspergillus sojae株(特許第4648993号公報参照)を培養し、粗酵素液のGDH活性を確認した。得られた粗酵素を用いて、緩衝液A(10mM 酢酸緩衝液、2M 硫酸アンモニウム、pH5.0)にて予め平衡化したブチルトヨパール650C(東ソー社製)カラム(26φ×28.5cm)にかけ、緩衝液Aから緩衝液B(10mM 酢酸緩衝液、pH5.0)のリニアグラジエントによって溶出させた。溶出された活性画分をセントリコンプラス-70(ミリポア社製)で濃縮後、緩衝液C(10mM 酢酸緩衝液、pH4.5)で透析し、予め緩衝液Cで平衡化したSPセファロースFastFlow(GEヘルスケア社製)カラム(26φ×28.5cm)にかけ、緩衝液Cから緩衝液D(10mM 酢酸緩衝液、200mM 塩化カリウム、pH4.5)のリニアグラジエントで溶出させた。溶出された活性画分を濃縮し、精製酵素を得た。
表1中のかっこ内に示す割合は、最も活性が高かった測定温度における活性値を基準とした相対値である。表1に示す通り、基質の終濃度が200mMの場合、MpGDHが最大活性を示す測定温度における活性値を100%とした際に、20℃における相対活性は57%であった。一方で、基質の終濃度が10mMの場合、MpGDHが最大活性を示す測定温度における活性値を100%とした際に、20℃における相対活性は78%であり、非常に変動が小さいことが明らかとなった。
続いて、低血糖患者を想定し、3mMおよび4mMのグルコースを基質として上記と同様の温度特性評価を行い、最大活性を示す測定温度における活性値を100%とした際の相対活性を算出した(表2)。
表2に示す通り、3mMおよび4mMのグルコースを基質とした際には、10mMの時と比べて、さらに測定温度による活性変動が小さくなった。特に、25℃~35℃間においては、ほぼ一定の活性値を示すことが分かり、このように良好な活性値が維持されている状態であれば、温度補正機能を有しない測定装置を用いた場合でも正確なグルコース量を測定できることが示された。
このように、基質濃度が低くなるほど、測定温度による活性の変動が小さくなるという傾向を示す酵素が存在することは、当業者にとっては技術的常識とはいえない。一般的には、測定温度による活性の変動が、測定時の基質濃度の多少の変動によって大きく変化を生じるとは考えがたく、そのような報告も知られていない。それゆえに、いわゆる酵素製品の販売カタログや酵素の諸性質を示す学術文献中の記載を参照しても、温度と活性の関係を示すグラフにおいて、基質の濃度条件は1点に固定されていることがほとんどである。そして、ほとんどの場合、酵素の諸性質を確認するための活性測定法における基質濃度は、酵素の活性測定法の原則に則して、反応初速度を算出する場合は十分に過剰な濃度に設定されていることが多い(生化学実験化学講座5,酵素研究法(上),1975参照)。
フラビン結合型GDH公知の文献においても、この当業者の認識は同様であり、測定温度と活性を確認する際のグルコース濃度は十分に高いものに固定されており、その濃度範囲は、実際に血糖値を測定するために想定されるグルコース濃度からは、大きくかけ離れたものであった(例えば、特許第4494978号、特開2011-152129号公報、特開2011-115156号公報、国際公開第13/051682号パンフレット、国際公開第13/065623号パンフレット、国際公開第13/118798号パンフレット参照)。
MpGDHは、200mMという高いグルコース濃度条件下においては、30℃以下、25℃、20℃と低温にするに従って、大きく活性が低下することが確認された。しかし、同じ温度条件下で測定を行った場合でも、10mMという低いグルコース濃度条件下で測定を行った時には、活性の低下は著しく改善され、30℃ではほぼ100%の活性が維持され、25℃でも90%を超える活性が維持され、20℃においても、約80%の活性が維持されることが見出された。
続いて、取得した配列番号4に示される遺伝子を大腸菌で発現させるために、以下の手順を行った。まず、上記で全合成した遺伝子をNdeIサイトBamHI(タカラバイオ社製)の2種類の制限酵素で処理し、pET22b(+)- Vector(Novagen社製)のNdeI-BamHIサイトに挿入することで、組換え体プラスミドpET22b(+)-AoGDHを取得し、実施例1と同様の条件で、用いる大腸菌をJM109株の代わりにBL21(DE3)株として形質転換し、大腸菌BL21(DE3)(pET22b(+)-AoGDH)株を得た。
上記のようにして得られたAoGDH生産能を有する大腸菌BL21(DE3)(pET22b(+)-AoGDH)株をLB-amp培地に0.5% グリセロール、0.05% グルコース、0.2% α-ラクトース、25mM (NH4)2SO4、100mM KH2PO4、100mM NaHPO4、1 mM MgSO4を添加した培地100mlにおいて、30℃で24時間培養した(F. William Studier et.al., Protein Expression and Purification (2005)を改変)。その後、菌体をpH6.0の0.02Mリン酸カリウム緩衝液で洗浄、超音波破砕、9,000rpmで10分間遠心分離し、AoGDH粗酵素液20mlを調製した。得られた粗酵素液をサンプルとし、実施例1に準じた活性測定方法に従ってGDHの活性を確認した。
得られた粗酵素を用いて、緩衝液A(10mM リン酸カリウム緩衝液、2M 硫酸アンモニウム、pH6.5)にて予め平衡化したブチルトヨパール650C(東ソー社製)カラムにかけ、緩衝液Aから緩衝液B(10mM リン酸カリウム、pH6.5)のリニアグラジエントによって溶出させた。溶出された活性画分をセントリコンプラス-70(ミリポア社製)で濃縮後、緩衝液C(10mM リン酸カリウム緩衝液、pH6.5)で透析し、予め緩衝液Cで平衡化したCaptoQ(GEヘルスケア社製)カラムにかけ、緩衝液Cから緩衝液D(10mM リン酸カリウム緩衝液、1M 塩化カリウム、pH6.5)のリニアグラジエントで溶出させた。溶出された活性画分を濃縮し、精製酵素を得た。
得られたAoGDH精製酵素を用いて、実施例2と同様に、加温温度および測定温度を20℃、25℃、30℃、35℃もしくは40℃で活性測定を行った。また、添加する基質は5Mグルコースもしくは0.25Mで行った。
表3に示す通り、AoGDHの温度特性、すなわち、測定温度と活性の関係は、基質であるグルコース濃度には全く影響されなかった。このような傾向は、測定温度による活性の変動が、測定時の基質濃度の多少の変動によって大きく変化を生じるとは考えがたいという、当業者の一般的認識と合致している。
実施例1と同様の手法により、AtGDH遺伝子を含むカセットを用いて形質転換することでAtGDH発現麹菌株を取得し、粗酵素液を得た。得られた粗酵素を用いて、緩衝液A(10mM リン酸カリウム緩衝液、2M 硫酸アンモニウム、pH6.5)にて予め平衡化したブチルトヨパール650C(東ソー社製)カラムにかけ、緩衝液Aから緩衝液B(10mM リン酸カリウム、pH6.5)のリニアグラジエントによって溶出させた。溶出された活性画分をAmicon Ultra-15、 30K NMWL(メルク社製)で濃縮後、緩衝液C(10mM リン酸カリウム緩衝液、150mM NaCl、pH6.5)で透析し、予め緩衝液Cで平衡化したHiLoad 26/60 Superdex 200pg(GEヘルスケア社製)カラムにかけ、溶出させた。溶出された活性画分を濃縮し、精製酵素を得た。
得られた粗酵素液を用いて、実施例2と同様に温度特性評価を行った。ただし、加温温度および測定温度を20℃、25℃、30℃、35℃もしくは40℃で活性測定を行った。また、添加する基質は5Mグルコースもしくは0.25Mで行った。
表4に示す通り、AtGDHの温度特性、すなわち、測定温度と活性の関係は、基質であるグルコース濃度には全く影響されなかった。このような傾向は、測定温度による活性の変動が、測定時の基質濃度の多少の変動によって大きく変化を生じるとは考えがたいという、当業者の一般的認識と合致している。
表5に示す通り、AnGODの温度特性、すなわち、測定温度と活性の関係は、基質であるグルコース濃度には全く影響されなかった。このような傾向は、測定温度による活性の変動が、測定時の基質濃度の多少の変動によって大きく変化を生じるとは考えがたいという、当業者の一般的認識と合致している。