(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023164874
(43)【公開日】2023-11-14
(54)【発明の名称】積層構造体及び対象物検知構造
(51)【国際特許分類】
B32B 3/30 20060101AFI20231107BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20231107BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20231107BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
B32B3/30
G01S7/03 246
G01S13/931
B32B15/08 M
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136614
(22)【出願日】2023-08-24
(62)【分割の表示】P 2022579425の分割
【原出願日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2021015926
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩川 博文
(57)【要約】
【課題】外観に優れる積層構造体及びこれを備える対象物検知構造を提供する。
【解決手段】凹状部を有するアウター部材と、金属層と、凹状部と篏合し、篏合部を形成する凸状部を有するインナー部材と、をこの順に備える、積層構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹状部を有するアウター部材と、金属層と、前記凹状部と篏合し、篏合部を形成する凸状部を有するインナー部材と、をこの順に備える、積層構造体。
【請求項2】
前記篏合部により囲まれる領域を有する、請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
前記篏合部が、積層構造体外周端部から3mm以内に設けられる、請求項1又は請求項2に記載の積層構造体。
【請求項4】
前記金属層が、銀粒子層を備える、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の積層構造体。
【請求項5】
前記金属層が、金属粒子が島状に点在する海島構造を有する、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の積層構造体。
【請求項6】
移動体の外装部材として用いられる請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の積層構造体。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の積層構造体と、
前記積層構造体に向けてミリ波を照射するミリ波レーダーと、
を備える対象物検知構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層構造体及び対象物検知構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2003-019765号公報には基材上に下塗り塗膜及び金属層をこの順に被覆し、金属層上にクリア塗膜が被覆された金属調塗装塗膜及び、この金属調塗装塗膜が自動車部品に用いられることが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年の自動車では、安全装置の進歩が目覚ましく、例えば、自動衝突回避システムの装備が一般的になってきている。
自動衝突回避システムは、車載カメラの画像データ及びミリ波レーダーによる対象物との相対距離情報を用いて自動的にブレーキをかけるものである。
【0004】
自動衝突回避システムを構成するミリ波レーダーの送受信機は、自動車の前方中央に配置することが望ましい。自動車の前方中央には、一般に自動車のエンブレムが配置されている。そこで、自動車のエンブレムの後側にミリ波レーダーの送受信機を配置することが望ましい。例えば、特開2003-019765号公報に記載の金属調塗装塗膜は自動車のエンブレムに用いることが想定できる。
【0005】
自動車エンブレム等には、インナー部材及びアウター部材等の複数の部材が積層される積層構造体が使用される。一般的に、上記積層構造体は、部材間の隙間をなくし、透過減衰量を低減させることを目的として、インサート成型により製造される。
しかしながら、インサート成型における高温、高圧等により金属層がダメージを受け、積層構造体の外観の悪化が問題となり、製品の意匠性を損なうおそれがある。
また、金属層へのダメージを考慮し、インナー部材又はアウター部材に保護フィルム等を設けること等が行われているが、製造コスト及び生産性等に問題がある。
【0006】
本開示は上記の事情に鑑みてなされたものであり、外観に優れる積層構造体及びこれを備える対象物検知構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 凹状部を有するアウター部材と、金属層と、上記凹状部と篏合し、篏合部を形成する凸状部を有するインナー部材と、をこの順に備える、積層構造体。
<2> 上記篏合部により囲まれる領域を有する、上記<1>に記載の積層構造体。
<3> 上記勘合部が、積層構造体外周端部から3mm以内に設けられる、<1>又は<2>に記載の積層構造体
<4> 上記金属層が、銀粒子層を備える、上記<1>~<3>のいずれか1つに記載の積層構造体。
<5> 上記金属層が、金属粒子が島状に点在する海島構造を有する、上記<1>~<4>のいずれか1つに記載の積層構造体。
<6> 移動体の外装部材として用いられる上記<1>~<5>のいずれか1つに記載の積層構造体。
<7> 上記<1>~<6>のいずれか1つに記載の積層構造体と、上記積層構造体に向けてミリ波を照射するミリ波レーダーと、を備える対象物検知構造。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一形態によれば、外観に優れる積層構造体及びこれを備える対象物検知構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の積層構造体の一例を示す模式上面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す積層構造体のA-A線における模式断面図である。
【
図3】
図3は、本開示の積層構造体の他の一例を示す模式上面図である。
【
図4】
図4は、本開示の積層構造体の製造方法の一例を説明するための模式断面図である。
【
図5】
図5は、本開示の積層構造体の製造方法の一例を説明するための模式断面図である。
【
図6】
図6は、本開示の積層構造体の製造方法の一例を説明するための模式断面図である。
【
図7】
図7は、実施例1で使用したアウター部材を示す模式断面図である。
【
図8】
図8は、実施例1で使用したインナー部材を示す模式断面図である。
【
図9】
図9は、実施例1で使用した金属層を備えるアウター部材を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を限定するものではない。
【0011】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、各成分には、該当する物質が複数種含まれていてもよい。
本開示において、各成分に該当する粒子には、複数種の粒子が含まれていてもよい。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において、各層の厚さは、ミクロトーム等を用いて測定対象から試験片を作製し、電子顕微鏡により任意の5箇所の厚さを測定して得られた算術平均値をいう。
本開示において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念で用いられる語である。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
【0012】
<積層構造体>
本開示の積層構造体は、凹状部を有するアウター部材と、金属層と、上記凹状部と篏合し、篏合部を形成する凸状部を有するインナー部材と、をこの順に備える。
【0013】
本開示の積層構造体は、外観に優れる。その理由としては、以下のように推察される。 本開示の積層構造体は、後述するように、インサート成型を利用することなく製造することが可能である。そのため、製造工程における金属層へのダメージが少なく、上記金属層を備える積層構造体は優れた外観を有すると推察される。
【0014】
前述の各部材において、比誘電率が最大となる部材の比誘電率の値と、比誘電率が最小となる部材の比誘電率の値と、の差は、ミリ波の透過減衰量を低減する観点から、1.0以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。
なお、前述の差の下限は特に限定されない。
本開示において、比誘電率は、いずれも77GHzでの値を意味する。
【0015】
本開示の積層構造体の用途としては、例えば、外装部材が挙げられ、より具体的には、移動体の外装部材が挙げられる。移動体としては、四輪自動車、二輪自動車等の自動車、列車、荷車、船舶、航空機、自転車、台車、キャスター付トランク、ロボット、ドローン、電子機器などが挙げられる。
【0016】
外装部材としては、エンブレム、バンパー、グリル等の自動車部品が挙げられる。
【0017】
本開示の積層構造体の一例を、
図1及び2を用いて説明する。
図1は、積層構造体10の一例を示す模式上面図であり、
図2は、
図1に示す積層構造体10のA-A線における模式断面図である。
図2に示すように、積層構造体10は、凹状部1Aを有するアウター部材1と、金属層2と、上記凹状部1Aと篏合し、篏合部を形成する凸状部3Aを有するインナー部材3と、をこの順に備える。また、
図2にて矢印で示すように積層構造体10をミリ波が透過する。
図1において、凹状部1A及び凸状部3Aが篏合する篏合部4は点線で示す。
また、
図2において、篏合部を形成する凸状部及び凹状部の幅を符号lで示し、篏合部の高さを符号hで示す。
【0018】
図1に示すように、積層構造体10は、篏合部4の外周端部により囲まれる領域(以下、特定領域ともいう。)を有することが好ましい。
図1には、特定領域が積層構造体10の形状に沿ったものを示したが、これに限定されるものではなく、形状に沿っていなくともよい。
積層構造体が、特定領域を有することにより、アウター部材及びインナー部材の間の気密性が向上し、特定領域内の金属層等の経時的な劣化を抑制することができる傾向にある。
積層構造体10は、
図1に示す形態に限定されるものではなく、
図4に示すように、特定領域を有さず、篏合部24が、長さ方向又は幅方向に略平行に配置されていてもよい。なお、
図4において、積層構造体は符号30で、アウター部材は符号21で、篏合部は符号24で示す。
【0019】
篏合部の内周端部は、積層構造体外周端部から3mm以内の位置において設けられることが好ましい。
本開示において、積層構造体外周端部とは、アウター部材及びアウター部材のいずれか面積の小さい部材の端部を意味する。
図3において、篏合部の内周端部と積層構造体外周端部との距離をdで示す。
【0020】
気密性及び篏合部の強度の観点から、篏合部を形成する凸状部及び凹状部の幅lは、0.5mm~2.0mmであることが好ましく、1.0mm~1.5mmであることがより好ましい。
また、気密性及び篏合部の強度の観点から、篏合部の高さhは、0.1mm~1.0mmであることが好ましく、0.3mm~0.8mmであることがより好ましい。
【0021】
以下、本開示の積層構造体を構成する各部材について説明する。
【0022】
(アウター部材)
本開示の積層構造体は、凹状部を有するアウター部材を備える。
凹状部の形状は、特に限定されるものではなく、
図1に示すように、断面が、略長方形状であってもよい。
【0023】
アウター部材は、1種又は2種以上の樹脂材料を含むことができる。アウター部材が含有する樹脂材料としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0024】
熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ビニル系ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、(メタ)アクリル樹脂、アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン共重合体樹脂(AES樹脂)、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。中でも、熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート、ABS樹脂、(メタ)アクリル樹脂及びAES樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂が好ましい。
(メタ)アクリル樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂を含むことが好ましい。
【0025】
熱硬化性樹脂は、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂等が挙げられる。
【0026】
樹脂材料は、PC、ABS樹脂、(メタ)アクリル樹脂及びAES樹脂からなる群より選択されることが好ましく、ポリカーボネートが特に好ましい。
ポリプロピレンは、樹脂材料の中でも比重が軽く、加工しやすく、引張強度、衝撃強度及び圧縮強度が高く、耐候性及び耐熱性にも優れている。
ABS樹脂は、プラスチック素材の中でも比較的表面処理を施しやすく、よって成形後に塗装等を施しやすい樹脂であり、耐薬品性及び剛性に優れ、耐衝撃性、耐熱性及び耐寒性にも長けている。
PCは、プラスチック素材の中でも耐衝撃性が高く、耐候性及び耐熱性にも優れ、透明性にも長けている。また、ポリカーボネートは、加工もしやすく、プラスチック素材の中でも比較的軽く、丈夫な素材である。
【0027】
本開示の積層構造体の特性を損なわない範囲において、アウター部材は、無機粒子、着色剤、紫外線吸収剤等の添加材を含んでもよい。
【0028】
アウター部材に照射されるレーザーの波長は、使用するレーザー照射装置等により異なり、例えば、アウター部材のレーザー透過率は、30%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
レーザーとしては、例えば、800nm~1100nmの波長を有するレーザーを使用することができる。
【0029】
77GHzにおけるアウター部材の比誘電率は、2.5~3.0であってもよく、2.5~2.9であってもよく、2.5~2.8であってもよい。
【0030】
アウター部材の誘電正接は、ミリ波等の電波透過性の観点から、0.010以下であることが好ましい。なお、誘電正接の下限は、特に限定されない。
【0031】
アウター部材の厚さは、積層構造体の用途に応じて適宜設計できる。アウター部材の形状も特に限定されない。
【0032】
(インナー部材)
本開示の積層構造体は、アウター部材が有する凹状部と篏合する凸状部を有し、アウター部材と対向するインナー部材を備える。篏合部における凸状部の形状は、特に限定されるものではないが、凹状部の形状に沿った形状を有していることが好ましい。
【0033】
インナー部材は、1種又は2種以上の樹脂材料を含むことができる。インナー部材が含有する樹脂材料としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂については、上記した通りであるため、ここでは記載を省略する。
また、好ましい樹脂材料については、アウター部材と同様であるため、ここでは記載を省略する。
【0034】
本開示の積層構造体の特性を損なわない範囲おいて、インナー部材は、無機粒子、着色剤、紫外線吸収剤等の添加材を含んでもよい。
【0035】
インナー部材に照射されるレーザーの波長は、使用するレーザー照射装置等により異なり、例えば、インナー部材のレーザー透過率は、30%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0036】
77GHzにおけるインナー部材の比誘電率は、2.5~3.0であってもよく、2.5~2.9であってもよく、2.5~2.8であってもよい。
【0037】
インナー部材の誘電正接は、ミリ波等の電波透過性の観点から、0.010以下であることが好ましい。なお、誘電正接の下限は、特に限定されない。
【0038】
インナー部材の厚さは、積層構造体の用途に応じて適宜設計できる。インナー部材の形状も特に限定されない。
【0039】
(金属層)
本開示の積層構造体は、アウター部材とインナー部材との間に金属層を備える。
【0040】
金属層は、例えば、金属粒子を含む金属粒子層であってもよく、銀粒子を含む銀粒子層であってもよい。
また、金属粒子層は、金属粒子が島状に点在する海島構造を有するものであってもよい。
【0041】
金属層の厚さは特に限定されず、30nm~200nm程度であることが好ましい。
【0042】
金属層が、銀粒子層である場合、銀粒子層の厚さ方向の断面を観察したときに、銀粒子層に占める銀粒子の割合は、70%以下であることが好ましく、60%~65%であることがより好ましい。銀粒子層に占める銀粒子の割合が70%以下であると、ミリ波レーダーの透過性がより向上する傾向にある。
【0043】
銀粒子層に占める銀粒子の割合とは、以下のようにして測定された値をいう。
積層構造体における銀粒子層の厚さ方向の断面について、30万倍の倍率で透過型電子顕微鏡写真を撮影する。得られた電子顕微鏡写真に対して、銀粒子層の厚さ方向の中央を通る中央線を決定する。次いで、中央線と銀粒子とが重複する部分の長さを求める。中央線と銀粒子とが重複する部分の長さを中央線全体の長さで除した値の百分率を、銀粒子層に占める銀粒子の割合と定義する。
【0044】
銀粒子層の表面抵抗率は、107Ω/□以上であることが好ましく、5×107Ω/□以上であることがより好ましい。これにより、銀粒子層を構成する銀粒子と銀粒子との間は、適度な空隙が形成された状態となりやすく、本開示の積層構造体は、ミリ波の透過性に優れる傾向にある。
銀粒子層の表面抵抗率の上限は、特に限定されない。
銀粒子層の表面抵抗率は、JIS K6911:2006に準じて測定された値をいう。
【0045】
(アンダーコート層)
アウター部材又はインナー部材と銀粒子層との密着性を向上させる観点、及び、アウター部材又はインナー部材に平滑面を形成する観点から、アウター部材又はインナー部材と銀粒子層との間に、アンダーコート層が設けられてもよい。
【0046】
アンダーコート層の形成には、フッ素樹脂塗料、ポリエステル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、メラミン樹脂塗料、シリコーン樹脂塗料、アクリルシリコーン樹脂塗料、アクリルウレタン樹脂塗料等を用いてもよく、アクリルシリコーン樹脂塗料又はアクリルウレタン樹脂塗料を用いることが好ましい。アクリルシリコーン樹脂塗料は、アウター部材又はインナー部材に対する付着性に優れ、光沢保持性及び保色性が高く、耐薬品性、耐油性及び耐水性にも優れている。アクリルウレタン樹脂塗料は、塗膜が柔らかく、密着性に優れ、耐久性、耐候性及び耐薬品性にも優れている。これらの樹脂塗料は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
アンダーコート層の厚さは特に限定されず、平滑面を確保する観点からは、5μm~25μm程度であることが好ましい。
【0048】
アンダーコート層とアウター部材又はインナー部材との密着性を高めるために、アンダーコート層とアウター部材又はインナー部材との間にプライマー層を設けてもよい。
【0049】
(トップコート層)
銀粒子層の保護を目的として、銀粒子層上にトップコート層が設けられてもよい。
トップコート層は、装飾品の最外面に設けられる層であり、トップコート層によって銀粒子層が保護されやすくなる。
トップコート層としては、銀粒子層を隠蔽しない透明性を有することが好ましく、無色クリア(無色透明)であっても、着色されたカラークリア(有色透明)であってもよい。
【0050】
トップコート層の形成には、樹脂塗料を用いることができ、熱硬化性樹脂を用いてもよい。熱硬化性樹脂としては、フッ素樹脂塗料、ポリエステル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、メラミン樹脂塗料、シリコーン樹脂塗料、アクリルシリコーン樹脂塗料、アクリルウレタン樹脂塗料等が挙げられ、アクリルシリコーン樹脂塗料又はアクリルウレタン樹脂塗料を用いることが好ましい。アクリルシリコーン樹脂塗料は、アウター部材又はインナー部材に対する付着性、光沢保持性、保色性、耐薬品性、耐油性及び耐水性に優れている。アクリルウレタン樹脂塗料は、塗膜が柔らかく、密着性に優れ、耐久性、耐候性及び耐薬品性にも優れている。これらの樹脂塗料は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
トップコート層の厚さは特に限定されず、20μm~40μm程度であることが好ましい。トップコート層の厚さが20μm以上であると、銀粒子層を充分保護できる傾向にあり、40μm以下であると、経時変化によるクラック、剥がれ、密着不良等が発生しにくい傾向にある。
【0052】
本開示の積層構造体は、アウター部材、インナー部材、金属層以外の構成を備えていてもよく、例えば、アウター部材の外側及びインナー部材の外側の少なくとも一方に他の部材を備えていてもよい。
【0053】
(積層構造体の製造方法)
上記した積層構造体の製造方法について、
図4~
図6を参照しながら説明する。
上記した積層構造体は、凹状部31Aを有するアウター部材31を準備する工程と(
図4)、凸状部32Aを有するインナー部材32を準備する工程と(
図4)、アウター部材31の凹状部31Aへインナー部材32の凸状部32Aを挿入する工程と(
図5)、インナー部材32の凸状部32Aをレーザー等により加熱溶融し、アウター部材31の凹状部31Aと篏合させ、篏合部34を形成する工程と(
図6)、を含む積層構造体の製造方法により製造することができる。
なお、
図6において、矢印は、レーザーを示し、矢印の方向へ向けて照射される。
なお、上記積層構造体の製造方法において、アウター部材の凹状部を有する面又はインナー部材の凸状部を有する面には、金属層が形成されていてもよい。
図4においては、金属層を備えるアウター部材を示す。
また、本開示の積層構造体の製造方法は、アウター部材及びインナー部材の少なくとも一方の表面に金属層を形成する工程を含んでいてもよい。
【0054】
以下、積層構造体の製造方法を構成する各工程について説明する。
【0055】
(アウター部材を準備する工程及びインナー部材を準備する工程)
アウター部材及びインナー部材は、市販されるものを使用してもよく、従来公知の方法により製造してもよい。
例えば、上記した樹脂材料等を含む組成物を射出成型することにより、アウター部材及びインナー部材を製造することができる。
【0056】
インナー部材が有する凸状部は、アウター部材が有する凹状部に挿入することができるサイズである必要があることが好ましい。
図4に示す凹状部の幅l1に対する凸状部の幅l2(l2/l1)は、0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
気密性及び篏合部の強度の観点から、lは、0.7mm~2.0mmであることが好ましく、1.0mm~1.5mmであることがより好ましい。
気密性及び篏合部の強度の観点から、l2は、0.5mm~1.8mmであることが好ましく、0.8mm~1.2mmであることがより好ましい。
【0057】
(凹状部へ凸状部を挿入する工程)
積層構造体の製造方法は、凹状部へ凸状部を挿入する工程を含む。
【0058】
(篏合部を形成する工程)
積層構造体の製造方法は、インナー部材の凸状部を加熱溶融し、アウター部材の凹状部と篏合させ、篏合部を形成する工程を含む。
凸状部の加熱溶融により、凸状部が凹状部と篏合する形状に変形し、篏合部が形成される。
【0059】
凸状部の加熱溶融方法は、特に限定されるものではないが、レーザー照射により行うことが好ましい。凸状部の加熱溶融を、レーザー照射により行うことにより、加熱面積を制御することができ、加熱溶融した凸状部周辺におけるインナー部材へのダメージを低減できる傾向にある。
アウター部材のレーザー透過率が90%以上であり、インナー部材のレーザー透過率が30%以下である場合、アウター部材側の表面からレーザー照射を行うことが好ましい。
【0060】
(金属層を形成する工程)
積層構造体の製造方法は、アウター部材及びインナー部材の少なくとも一方の表面に金属層を形成する工程を含むことができる。
また、上記したアウター部材の準備工程及びインナー部材の準備工程において、準備されるアウター部材及びインナー部材の一方の表面に金属層が形成されていてもよい。
金属層は、上記したように金属粒子層であってもよく、銀粒子層であってもよい。
【0061】
銀粒子層は、銀鏡反応により形成されたものであってもよい。また、銀粒子層に含まれる銀粒子は、銀鏡反応により析出した銀粒子(析出銀粒子)を含んでもよい。
さらに、銀粒子層は、銀粒子が島状に点在する海島構造を呈していてもよい。
銀鏡反応による銀粒子層の形成は、水溶性銀塩水溶液並びに還元剤及び強アルカリ成分を含む還元剤水溶液の2液を、アウター部材の表面上、インナー部材の表面上、又は後述するアンダーコート層表面上(以下、これらの表面を、合わせて「銀鏡反応処理面」と称する場合がある。)で混合されるように塗布する。これにより酸化還元反応が生じて銀粒子が生じ、銀粒子層が形成される。
【0062】
(アンダーコート層を形成する工程)
積層構造体の製造方法は、アンダーコート層を形成する工程を含むことができる。アンダーコート層の形成方法は、特に限定されるものではなく、上記した塗料等をアウター部材等の表面に塗布し、乾燥することにより形成することができる。
【0063】
(トップコート層を形成する工程)
積層構造体の製造方法は、トップコート層を形成する工程を含むことができる。トップコート層の形成方法は、特に限定されるものではなく、上記した塗料等を金属層の表面に塗布し、乾燥することにより形成することができる。
【0064】
<対象物検知構造>
本開示の対象物検知構造は、前述の本開示の積層構造体と、積層構造体に向けてミリ波を照射するミリ波レーダーと、を備える。本開示の積層構造体は、ミリ波の透過減衰量を低減可能であるため、本開示の対象物検知構造は、ミリ波レーダーの送受信性能に優れる。
【0065】
なお、本開示の積層構造体は、ミリ波以外の電波を送受信するレーダーと組み合わせてもよい。
【実施例0066】
以下、本開示の実施例を説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
<実施例1>
(アウター部材の準備)
図7に示す、縦119mm、横165mmの楕円状で、一般部の厚さが4.2mmのポリカーボネート(PC)基材(77GHzでの比誘電率2.8、誘電正接0.008)をアウター部材として準備した。
なお、一般部とは、
図7における符号H1で示される部位を指す。
実施例1で使用するアウター部材は、一般部よりも板厚が薄い部位を有し、上記部位に金属層を形成することにより、金属層形成面とは反対の面から目視したとき、上記部位が浮き上がったように見える。
上記アウター部材41は、
図7に示すように、一方の面に、凹状部41Aをその外周端部に沿って有しており、凹状部の幅L1は、1.2mmであった。
また、アウター部材の波長1070nmのレーザー透過率を測定したところ、92%であった。
【0068】
(インナー部材の準備)
図8に示す、縦119mm、横165mmの楕円状で、一般部の厚さが2.5mmのポリカーボネート(PC)基材(77GHzでの比誘電率2.8、誘電正接0.008)をインナー部材として準備した。
なお、一般部とは、
図8における符号H2で示される部位を指し、アウターの一般部と面対になる。
実施例1で使用するインナー部材は、一般部よりも板厚が厚い部位を有する。
上記インナー部材43は、
図8に示すように、一方の面に、凸状部43Aをその外周端部に沿って有しており、凹状部の幅L2は、0.8mmであった。
また、インナー部材の波長1070nmのレーザー透過率を測定したところ、0%であった。
【0069】
(金属層の形成)
インナー部材と篏合部を形成する、アウター部材の凹状部が設けられた位置より内側へ、2頭スプレーガンを用いて、三菱製紙株式会社製のMSPS-Ag(商品名)とMSPS-Do(商品名)の2液を塗布し、銀鏡反応による銀粒子層42を形成した(
図9参照)。
次いで、銀粒子層表面の水分を除去するため、圧縮空気(エアブロー)を吹き付けた後、45℃に設定した乾燥炉内で30分間乾燥した。
【0070】
(凹状部へ凸状部を挿入する工程)
上記のように、凹状部を有する面に、アンダーコート層及び金属層を形成したアウター部材と、インナー部材とを、向かい合わせ、アウター部材の凹状部へインナー部材の凸状部を挿入した。
【0071】
(篏合部を形成する工程)
パナソニック社製のVL-W1A00を用いて、アウター部材の表面から、波長1070nmのレーザーを、凹状部へ挿入される凸状部へ照射し、アウター部材をインナー部材側に加圧しながら凸状部を加熱溶融し、凹状部と篏合させ、篏合部を形成し、積層構造体を得た。
積層構造体において、篏合部は、積層構造体の形状(すわなち、楕円形状)に沿って形成され、特定領域を形成する。
また、篏合部の内周端部と、積層構造体外周端部との距離dは1.2mmである。
篏合部の外観を目視により観察したところ、レーザー照射によるダメージは観察されず、良好な外観を有していた。
【0072】
<比較例1>
インサート成型により積層構造体を製造した。具体的には、以下の通りである。
実施例1と同様にして、凹状部を有さず、金属層を備えるアウター部材を準備した。
上記アウター部材を金型内に配置し、加熱溶融したポリカーボネートを金型内に射出し、アウター部材上にインナー部材を成型することにより、積層構造体を得た。
積層構造体は、インナー部材とアウター部材とが全面において接合しており、接合箇所の外観は良好であった。
【0073】
-外観の評価-
上記実施例及び比較例において積層構造体を製造し、これを目視により観察し、下記評価基準に基づいて、評価した。
結果を表1に示す。
(評価結果)
A:積層構造体が高い光沢感を有しており、優れた外観を有することが確認された。
B:積層構造体が光沢感に劣り、その外観には改良の余地があった。
【0074】
【0075】
表1に示すように実施例1の積層構造体では、比較例1の積層構造体と比較して外観に優れていることがわかった。
【0076】
2021年2月3日に出願された日本国特許出願2021-015926号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記載された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。