(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165053
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】治療用組成物、治療方法、糞便の評価方法、診断方法、及び予後評価方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/74 20150101AFI20231108BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20231108BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231108BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20231108BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
A61K35/74 A
A61P37/08
A61P17/00 171
C12Q1/6869 Z
G01N33/48 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020169751
(22)【出願日】2020-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】518439103
【氏名又は名称】アニコム先進医療研究所株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515163313
【氏名又は名称】株式会社メタジェン
(74)【代理人】
【識別番号】110002790
【氏名又は名称】One ip弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大森 啓太郎
(72)【発明者】
【氏名】杉田 浩児
(72)【発明者】
【氏名】石原 玄基
(72)【発明者】
【氏名】加賀 綾香
(72)【発明者】
【氏名】森 友花
(72)【発明者】
【氏名】福田 真嗣
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C087
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB04
2G045DA80
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ03
4B063QQ06
4B063QQ52
4B063QS24
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC31
4C087BC53
4C087BC54
4C087BC55
4C087CA09
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZB13
4C087ZC61
(57)【要約】 (修正有)
【課題】イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎に対する予防又は治療用組成物、及び治療方法を提供する。
【解決手段】本発明は、Fusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group等から選択される少なくとも1つの属に属する微生物を含有する、治療用組成物を提供する。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group、Erysipelatoclostridium属、Collinsella属、および、Holdemanella属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物を含有する、イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎から選択される少なくとも1つの疾患の予防又は治療用組成物。
【請求項2】
Fusobacterium属、Collinsella属、Megamonas属、Blautia属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
イヌの糞便微生物叢を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
イヌの糞便又はその処理物を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
イヌのアトピー性皮膚炎の予防又は治療用である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
Fusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group、Erysipelatoclostridium属、Collinsella属、および、Holdemanella属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物を含有する組成物を投与することを特徴とする、イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎から選択される少なくとも1つの疾患の予防方法又は治療方法。
【請求項7】
Fusobacterium属、Collinsella属、Megamonas属、Blautia属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物を含有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
イヌの糞便微生物叢を含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
イヌの糞便又はその処理物を含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項10】
イヌのアトピー性皮膚炎の予防又は治療用である、請求項6~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
糞便中の細菌叢に含まれるFusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group、Erysipelatoclostridium属、Collinsella属、および、Holdemanella属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物の存在量を解析するステップと、
前記微生物の存在量に基づいて、イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎から選択される少なくとも1つの疾患の予防又は治療のためのドナー糞便としての有用性を評価するステップとを含む、糞便の評価方法。
【請求項12】
イヌのアトピー性皮膚炎の予防又は治療のためのドナー糞便としての有用性を評価する、請求項11に記載の評価方法。
【請求項13】
糞便中の細菌叢に含まれるFusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group、Erysipelatoclostridium属、Collinsella属、および、Holdemanella属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物の存在量を解析するステップと、
前記微生物の存在量に基づいて、イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎から選択される少なくとも1つの疾患の罹患可能性を診断するステップと、を含む診断方法。
【請求項14】
イヌのアトピー性皮膚炎の罹患可能性を診断する、請求項12に記載の診断方法。
【請求項15】
イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎から選択される少なくとも1つの疾患の治療後の予後を評価する方法であって、
前記イヌの少なくとも治療前と治療後の糞便中におけるFusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group、Erysipelatoclostridium属、Collinsella属、および、Holdemanella属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物の存在量を解析するステップと
前記微生物の前記治療前と前記治療後における前記存在量を比較するステップと、
を含む、予後評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にイヌの疾患に対する治療用組成物、及び治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、腸内細菌やこれらの代謝物が、腸管の炎症抑制や免疫調整に重要な役割を果たしていることは広く知られているところであり、糞便微生物叢移植法(fecal microbiota transplantation:FMT)の可能性が示唆されている。特許文献1には、ヒトの腸管急性移植片対宿主病の予防又は治療のために、特定の糞便微生物叢を含む組成物を移植することが記載されている。また、非特許文献1には、急性下痢のイヌの治療法として、FMTが有効であったことが記載されている。しかしながら、イヌのアトピー性皮膚炎とFMTとの関連性は明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chaitman, Jennifer, et al., Fecal Microbial and Metabolic Profiles in Dogs With Acute Diarrhea Receiving Either Fecal Microbiota Transplantation or Oral Metronidazole, Frontiers in Veterinary Science 7 (2020): 192.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特にイヌのアトピー性皮膚炎等の疾患に対する予防又は治療用組成物、治療方法を提供することを目的とする。本発明は、上記に鑑みてなされたもので、特定の細菌を含む組成物をイヌに投与することにより、上記疾患を予防又は治療することに成功し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、Fusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group、Erysipelatoclostridium属、Collinsella属、および、Holdemanella属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物を含有する、イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎の予防又は治療用組成物、及び当該組成物を投与することによるイヌの治療方法が得られる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、イヌの各種疾患を予防又は治療することが可能な治療用組成物及び治療方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例における検体情報を示す図である。
【
図2】本発明の実施例における腸内細菌叢の主座標分析の結果を示す図である。
【
図3】本発明の実施例における疾患群とドナーの腸内細菌叢の類似性を示す図である。
【
図4】本発明の実施例における腸内細菌叢の多様性の変化を示す図である。
【
図5】本発明の実施例における疾患群とドナーで共通するASV数の変化を示す図である。
【
図6】本発明の実施例における獲得ASV数と臨床スコア改善率の相関を示す図である。
【
図7】本発明の実施例における腸内細菌叢構成の変化を示す図である。
【
図8】本発明の実施例における腸内細菌叢構成の変化を示す図である。
【
図9】本発明の実施例における疾患群とドナーVanillaとの間で共通するASVを示す図である。
【
図10】本発明の実施例における疾患群とドナーVanillaとの間で共通するASVと各臨床スコアとの相関を示す図である。
【
図11】本発明の実施例における疾患群とドナーNo.7との間で共通するASVを示す図である。
【
図12】本発明の実施例における疾患群とドナーNo.7との間で共通するASVと各臨床スコアとの相関を示す図である。
【
図13】本発明の実施例における臨床スコアとの相関がみられた細菌属を示す図である。
【
図14】本発明の実施例におけるLEfSe解析の結果を示す図である。
【
図15】本発明の実施例におけるLEfSe解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の治療用組成物、治療方法、糞便の評価方法、診断方法、及び予後評価方法の実施形態を説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0010】
本発明は、例えば、以下のような構成を備える。
[項目1]
Fusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group、Erysipelatoclostridium属、Collinsella属、および、Holdemanella属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物を含有する、イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎から選択される少なくとも1つの疾患の予防又は治療用組成物。
[項目2]
Fusobacterium属、Collinsella属、Megamonas属、Blautia属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物を含有する、項目1に記載の組成物。
[項目3]
イヌの糞便微生物叢を含む、項目1又は2に記載の組成物。
[項目4]
イヌの糞便又はその処理物を含む、項目1又は2に記載の組成物。
[項目5]
イヌのアトピー性皮膚炎の予防又は治療用である、項目1~4のいずれかに記載の組成物。
[項目6]
Fusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group、Erysipelatoclostridium属、Collinsella属、および、Holdemanella属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物を含有する組成物を投与することを特徴とする、イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎から選択される少なくとも1つの疾患の予防方法又は治療方法。
[項目7]
Fusobacterium属、Collinsella属、Megamonas属、Blautia属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物を含有する、項目6に記載の方法。
[項目8]
イヌの糞便微生物叢を含む、項目6又は7に記載の方法。
[項目9]
イヌの糞便又はその処理物を含む、項目6又は7に記載の方法。
[項目10]
イヌのアトピー性皮膚炎の予防又は治療用である、項目6~9のいずれかに記載の方法。
[項目11]
糞便中の細菌叢に含まれるFusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group、Erysipelatoclostridium属、Collinsella属、および、Holdemanella属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物の存在量を解析するステップと、
前記微生物の存在量に基づいて、イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎から選択される少なくとも1つの疾患の予防又は治療のためのドナー糞便としての有用性を評価するステップとを含む、糞便の評価方法。
[項目12]
イヌのアトピー性皮膚炎の予防又は治療のためのドナー糞便としての有用性を評価する、項目11に記載の評価方法。
[項目13]
糞便中の細菌叢に含まれるFusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group、Erysipelatoclostridium属、Collinsella属、および、Holdemanella属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物の存在量を解析するステップと、
前記微生物の存在量に基づいて、イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎から選択される少なくとも1つの疾患の罹患可能性を診断するステップと、を含む診断方法。
[項目14]
イヌのアトピー性皮膚炎の罹患可能性を診断する、項目12に記載の診断方法。
[項目15]
イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎から選択される少なくとも1つの疾患の治療後の予後を評価する方法であって、
前記イヌの少なくとも治療前と治療後の糞便中におけるFusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group、Erysipelatoclostridium属、Collinsella属、および、Holdemanella属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物の存在量を解析するステップと
前記微生物の前記治療前と前記治療後における前記存在量を比較するステップと、
を含む、予後評価方法。
【0011】
本発明は、特にイヌのアトピー性皮膚炎などの疾患に対する予防又は治療用組成物、及び治療方法を提供することを目的とする。
【0012】
本発明の治療用組成物は、以下の特定の属に分類される細菌を含有することを特徴とする。本発明の治療用組成物は、Fusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group、Erysipelatoclostridium属、Collinsella属、および、Holdemanella属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物を含有する。また、特に、Fusobacterium属、Collinsella属、Megamonas属、Blautia属、Sutterella属、Prevotella属、Bacteroides属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物を含有することが好ましい。また特に、Fusobacterium属、Collinsella属、Megamonas属、Blautia属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物を含有することがより好ましい。
【0013】
本発明の治療用組成物は、上記特定の細菌を含有する糞便自体、または糞便の処理物を含んでもよい。糞便の処理物は、採取された糞便を適当な水性液体(例えば生理食塩水、緩衝液等)に懸濁した懸濁液の他、当該懸濁液を適当なふるい、ガーゼ、フィルターなど(例えば孔径0.1mm~0.5mm)に通してろ過させたもの、あるいは遠心分離後の沈殿物などが含まれる。さらに、これらの組成物を冷凍庫又は液体窒素により凍結したり、凍結乾燥又は噴霧乾燥などを施したものでもよい。当該水性液体を用いて懸濁液とする場合は、糞便1gあたり1.5~3.0mlの液体にて懸濁すればよい。懸濁液を作成後、遠心して細菌を抽出する場合には、その菌量1gに対して0.5~0.6mlの液量に再度懸濁する。
【0014】
凍結又は凍結乾燥の際には、各種糖(スクロース、フルクトース、ラクトース、マンニトール等)、グリセロール、ポリエチレングリコール(PEG)、トレハロース、グリシン、グルコース、デキストラン、エリスリトールなどの凍結保護剤及び/又は凍結乾燥保護剤を添加することもできる。
【0015】
本発明において、採取された糞便又はその処理物は、糞便採取後又は処理後6~10時間保存することができる。保存温度は特に限定されるものではないが、冷蔵保存(例えば4℃)であることが好ましい。
【0016】
本発明の組成物は、溶媒、pH安定剤、酸性化剤、防腐剤、ビタミン、ミネラル、栄養サプリメント、プレバイオティクス及びプロバイオティクス等を含めることができる。また、組成物の形態は任意の粉末、固体又は液体形態とすることができ、これらの粉末、固体又は液体形態をカプセル製剤とすることもできる。カプセル製剤とすることで、投与を受けるイヌの負担を軽減することができる。
【0017】
本発明による治療方法は、上記治療用組成物を特定の疾患に罹患したイヌに投与することを含む。特に好適には、治療用組成物として特定の細菌を含む糞便又は糞便処理物を使用する糞便微生物叢移植法(fecal microbiota transplantation:FMT)である。FMT法とは、健常個体の便懸濁液を消化管内に投与することで、正常な細菌叢を大量に投与する治療法であり、腸内細菌叢の異常であるdysbiosisが関与する疾患の治療に試みられる。
【0018】
本発明の治療方法における組成物の投与方法は、経口投与であっても非経口投与であってもよく、特に限定されるものではない。例えば、胃十二指腸チューブによる投与、カプセルなどに充填しての内服、大腸ファイバーや高圧浣腸などを用いた大腸内への投与が挙げられる。
【0019】
1回の投与量は、液体の場合は、150ml~300mlであり、1日1回行う。レシピエントの状態に応じて、繰り返し行う場合には、4日~2週間ごとに計2~4回行う。このようにして、本発明の組成物を、特定の疾患に罹患したイヌに投与することによって、当該疾患を地治療することができる。
【0020】
FMT法を使用する場合、便移植を受けたイヌが別の疾患や感染症を併発することを避けるために、ドナーとなる糞便の選択が重要である。したがって、糞便を採取するドナー、及び微生物叢を移植するレシピエントの種類に応じて、ドナーから採取した糞便について、各種ウイルスなどの病原体の有無をスクリーニングすることが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る治療方法においては、Fusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group、Erysipelatoclostridium属、Collinsella属、および、Holdemanella属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する腸内細菌を含有するドナーを選択することができる。すなわち、FMT法を採用する場合、ドナー候補の個体から糞便を採取し、上記細菌属を有することを事前に確認することができる。
【0022】
本発明の治療用組成物及び治療方法は、アトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎に罹患したイヌに適用可能である。
【0023】
ここで、「治療」とは、対象疾患の発症を抑制することができる限り、抑制の程度は限定されるものではない。したがって、「治療」には完全緩解及び部分緩解のいずれも含まれる。また、「予防」とは、上記疾患の発症を事前に抑制することと、すでに発生している疾患の状態がそれよりも悪くなることを防ぐことのいずれも意味する。
【0024】
また、本発明は、イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎の罹患可能性を診断する方法に関する。すなわち、本発明の診断方法は、糞便中の細菌叢に含まれるFusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group、Erysipelatoclostridium属、Collinsella属、および、Holdemanella属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物の存在量を解析するステップと、前記微生物の存在量に基づいて、イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎から選択される少なくとも1つの疾患の罹患可能性を診断するステップとを含む。特に、前記属に属する微生物の絶対存在量又は相対存在量が少ない場合、または絶対存在量又は相対存在量が少ない前記群に属する細菌属の種類数が多い場合に、前記疾患の罹患可能性が高いと診断することができる。なお、罹患可能性の程度の判断基準とする前記存在量の閾値は適宜決定することができる。
【0025】
また、本発明は、イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎の治療後の予後を評価する方法に関する。すなわち、本発明の評価方法は、イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎から選択される少なくとも1つの疾患の治療後の予後を評価する方法であって、前記イヌの少なくとも治療前と治療後の糞便中におけるFusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group、Erysipelatoclostridium属、Collinsella属、および、Holdemanella属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物の存在量を解析するステップと、前記微生物の前記治療前と前記治療後における前記存在量を比較するステップとを含む。特に、前記群に属する微生物の絶対存在量又は相対存在量が治療前に対して治療後で増加していた場合、または治療後において新規に獲得した前記群に属する細菌属の種類数が多い場合に、予後が良好であると評価することができる。なお、本評価方法において、治療の内容は特に制限はなく、糞便移植に限らない。また、予後の良し悪しを判断する基準とする前記存在量の閾値は適宜決定することができる。
【0026】
また、本発明は、イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎から選択される少なくとも1つの疾患の予防又は治療に用いるドナー糞便としての有用性を評価する方法に関する。すなわち、本発明の評価方法は、ドナー糞便中の細菌叢に含まれるFusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group、Erysipelatoclostridium属、Collinsella属、および、Holdemanella属からなる群から選択される少なくとも1つの属に属する微生物の存在量を解析するステップと、前記微生物の存在量に基づいて、イヌのアトピー性皮膚炎、慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎から選択される少なくとも1つの疾患の予防又は治療のためのドナー糞便としての有用性を評価するステップとを含む。特に、前記群に属する微生物の絶対存在量又は相対存在量が多い場合、または前記群に属する細菌属の種類数が多い場合に、ドナー糞便としての有用性が高いと評価することができる。なお、有用性の判断基準とする前記存在量の閾値は適宜決定することができる。
【実施例0027】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0028】
・FMT
健常な未去勢のビーグルイヌ2頭(雄)が自然排泄した便を採取した(糞便量:平均48.8g、範囲25~90g)。採取後、30分以内に水道水で溶解(水道水量:平均56mL、範囲20~100mL)した。その後、医療用ガーゼで2回濾過し、得られた糞便液を注射用シリンジで吸引し、アトピー性皮膚炎を呈するイヌ12頭(疾患群)に経口投与した。ドナーとレシピエントの組合せは
図1に示した。ドナーNo.7由来の便を7頭のレシピエント犬に移植し、ドナーVanilla由来の便を5頭のレシピエント犬に移植した。
【0029】
・サンプリング
各レシピエントに対して、経口糞便移植を単回実施後、糞便移植前(Pre)、28日後(Post1)、および、56日後(Post2)の臨床スコア(かゆみスコア、CADESIスコア)の記録、および、糞便検体の採取を実施した。かゆみスコアの記録は、PVAS(Pruritus Visual Analog Scale):痒み視覚アナログ尺度に従い、イヌの痒みを飼い主が0~10で点数化する方法で実施した。また、CADESIスコアの記録は、CADESI-4(Canine Atopic Dermatitis Extent and Severity Index-4):イヌアトピー性皮膚炎重症度指数-第4版に従い、全身20ヶ所における3つの皮膚病変(1.紅斑、2.苔癬化、3.脱毛/表皮剥離)を0~3で点数化し、合計0~180で獣医師が皮膚炎を点数化する方法により実施した。糞便検体の採取は、各レシピエントの肛門に指を入れ糞便を直接採取した(用手法)。採取した糞便を保存用チューブに入れ液体窒素で急速冷凍し、糞便入りチューブを-80℃冷凍庫で保存した。
【0030】
糞便検体は既知の方法により、16S rRNA遺伝子のV3-V4領域のシーケンスによるメタ16S解析に供し、腸内細菌叢の解析を実施した。1検体あたりの総リード数は5000にノーマライズして解析を実施した。
【0031】
・糞便移植による腸内細菌叢構成の変化
まず、糞便移植による疾患群の腸内細菌叢構成の変化を調べる目的で、各検体間のunweighted UniFrac Distance、および、weighted UniFrac Distanceを計算し、主座標分析を実施した(
図2、3)。その結果、糞便移植前において(Pre)、疾患群とドナー群はそれぞれ別のクラスターを形成していたが、糞便移植後(Post1、Post2)、疾患群の細菌叢はドナーの細菌叢に有意に近づいた。
【0032】
次に、糞便移植による腸内細菌叢のα多様性(ASV数(ユニーク配列数:amplicon sequence variant)、Shannon index、Pielou’s evenness)の変化について解析を実施した(
図4)。その結果、糞便移植後、種の豊富さを示すASV数が有意に上昇した。Shannon index、および均等度を示すPielou’s evennessには変化はなかった。このことから、疾患群は糞便移植後、腸内細菌叢に新たな細菌を獲得したことが示唆された。
【0033】
・腸内細菌叢の変化と臨床スコアの関連
レシピエントが新たに獲得した細菌がドナー由来の細菌かどうかを調べる目的で、レシピエントと各レシピエントに対応するドナーで共通して保有する、即ち、レシピエントとドナーで100%配列が一致するASV数を糞便移植の前後で比較した(
図5)。その結果、糞便移植後、レシピエントがドナーと共通して保有するASV数は有意に増加し、そのほとんどが56日後まで維持された。さらに、新規ASV獲得数と臨床スコアの相関について解析を行った。スコア改善率は、各スコアについて(Post-Pre)/Preとして計算した。その結果、56日後において獲得ASV数とかゆみスコアの相関係数が0.68、また獲得ASV数とCADESIスコアの相関係数が0.76となり、両スコアに相関が認められた(
図6)。以上のことから、糞便移植によりドナー由来の細菌がレシピエントに定着したこと、ドナーから獲得された菌種数が多いほど、臨床症状の改善効果が大きいことが明らかとなった。
【0034】
・臨床スコアと相関する細菌の同定
糞便移植により変動した細菌種を明らかにするために、各ASVについて、Taxonomy解析を実施した。Taxonomy解析(各ASVの分類)はSILVA138をリファレンスとして実施した。これにより、ASVのリード数から各細菌のabundance(リード数の合計値)を算出した。abundanceを1検体あたりの総リード数で割った数値を占有率とした。各検体の門レベルの細菌叢構成を
図7、8に示した。
図8は、
図7の結果を個体ごとにPre、Post1、Post2の順番で細菌叢構成を並べかえた図である。ドナー2頭の腸内細菌叢はFirmicutes門、Fusobacteria門、Proteobacteria門、Actinobacteria門で多くを占められていた。疾患群においては、全頭がFirmicutes門およびProteobacteria門を保有していた。一方、Fusobacteria門、および、Actinobacteria門を保有する個体はそれぞれ3頭、7頭であったが、糞便移植によりそれぞれ9頭、10頭に増加した。
【0035】
次に、レシピエントが糞便移植によりドナーから獲得した細菌についてより詳細を明らかにするため、ドナーから獲得したASVの同定結果とそれを保有する個体の割合について調査した(
図9、11)。糞便移植後、ドナーNo.7の糞便の糞便移植を受けたレシピエントからは新たに44、ドナーVanillaの糞便移植を受けたレシピエントからは新たに60個のASVが検出され、このうち26個のASVについては両ドナーに共通していた。
図9は、ドナーNo.7の糞便の糞便移植を受けたレシピエントから新たに検出された44個のASVリストであり、太字は後述する
図11に示すドナーVanillaと共通であったASVを示す。また、Post1(%)、Post2(%)は、当該ASVを保有する個体の割合を示す。また、
図11は、ドナーVanillaの糞便移植を受けたレシピエントから新たに検出された60個のASVリストであり、太字は
図9に示すドナーNo.7と共通であったASVを示す。各ASVの保有個体の割合は17~100%のばらつきがあったが、その多くが56日後まで維持されていた。
【0036】
さらに、レシピエントがドナーから新規に獲得した各ASVの占有率と臨床スコア、および、臨床スコアの改善率の相関解析を実施した。具体的には、ドナーNo.7から糞便移植を受けたレシピエントのPre、Post1、Post2の腸内細菌叢のデータより、
図9で検出されている各ASVのリード数を抽出し、各ASVのリード数と各スコアの相関係数(Spearman’s rank correlation coefficient)を算出した。なお、スコア改善率は、(Post-Pre)/Preとして計算し、Preのスコア改善率は0とした。p<0.05であったASVを
図10に示した。ドナーVanillaから糞便移植を受けたレシピエントに関しても同様に実施した。結果、複数のASVとの相関が認められた(
図12)。これらのASVについて属レベルで集計した結果、臨床スコアとの相関がみられた(p<0.05、rho>0.4)細菌は、Fusobacterium属、Sutterella属、Romboutsia属、Phascolarctobacterium属、Bacteroides属、Intestinimonas属、Megamonas属、Peptoclostridium属、Helicobacter属、Allobaculum属、Alloprevotella属、Butyricicoccus属、Catenibacterium属、Prevotella属、Blautia属、Lachnospiraceae NK4A136 group、Erysipelatoclostridium属、Collinsella属、および、Holdemanella属の19属であった(
図13)。当該結果から、これらの19属の細菌の存在は、アトピー性皮膚炎の症状改善に寄与する可能性が示された。
【0037】
これらの細菌の獲得による二次的な細菌叢の変化を調べる目的で、ドナー由来ではない細菌もすべて含めて、PreとPost1のLinear discriminant analysis effect size (LEfSe)解析を実施した。疾患群のPreとPost1の腸内細菌叢の属レベルのabundanceについてLEfSe解析を実施した。LEfSe解析の結果、|LDA score|>2、かつp<0.05 (Kruskal-Wallis test)をカットオフとし、これを満たすものを
図14に記載した。
図14中、上の黒いバーはPost1よりもPreで多かった属を示し、下のグレーのバーは、PreよりもPost1で多かった属を示す。また、黒い丸で示した属は、
図13で前述した臨床スコアとの相関がみられた19の細菌属と共通する属を示す。その結果、糞便移植後、Echerichia Shigella属菌、および、Clostridioides属菌の減少が認められた。また、ドナーから獲得した9属を含む11属の細菌の増加が認められた。
【0038】
・同定した19属の細菌を含む糞便移植の汎用性
前述の19属細菌を含む糞便移植のアトピー性皮膚炎以外の疾患への応用可能性について調べるために、過去に解析を行った個体の腸内細菌叢のデータを用いて、以下の複数の疾患に罹患したイヌ(疾患群)と健常なイヌ(健常群)の腸内細菌叢を比較した。健常群は、過去に罹患した疾患がなく、現在罹患中の疾患がない個体をランダムに抽出した。
【0039】
まず、アレルギー性皮膚炎(n=7)、慢性腎臓病(n=26)、膀胱炎(n=20)、糖尿病(n=9)、てんかん(n=17)、肝炎(n=18)、副腎皮質機能亢進症(n=22)、椎間板ヘルニア(n=50)、ケンネルコフ(n=12)、僧帽弁閉鎖不全症(n=115)、膵炎(n=30)、尿路結石症(n=55)の12の疾患に罹患しているイヌの細菌叢と健常(n=85)なイヌの細菌叢について、Shannon indexを算出し、比較したところ、7疾患(慢性腎臓病、膀胱炎、肝炎、副腎皮質機能亢進症、椎間板ヘルニア、僧帽弁閉鎖不全症、膵炎)で健常なイヌと有意差(p<0.05)が認められた。
【0040】
この健常群と比較して腸内細菌叢のα多様性が低かった7疾患に罹患した疾患群と、健常群の細菌叢についてLEfSe解析を実施した。各疾患群において、LEfSe解析にて健常群と比較して占有率が低くなっている細菌をスクリーニングした(
図15)。占有率は各細菌のabundance(リード数の合計値)を1検体あたりの総リード数で割った数値であり、細菌叢における各細菌の存在割合を示す。その結果、Colinsella属、Fusobacterium属、Megamonas属、および、Blautia属は7疾患、Sutterella属は6疾患、Prevotella属は4疾患、Bacteroides属は3疾患において健常群と比較して占有率が低かった。以上の事から、これらの属は種々の疾患の治療や予後の改善、診断に応用できる可能性があることが示唆された。
【0041】
以上、本実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物も含まれる。