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特開2023-16528熱伝導シート、及び熱伝導シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016528
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】熱伝導シート、及び熱伝導シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230126BHJP
   B29D 7/01 20060101ALI20230126BHJP
   B29C 69/02 20060101ALI20230126BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20230126BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230126BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230126BHJP
   B32B 37/16 20060101ALI20230126BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20230126BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20230126BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
B29D7/01
B29C69/02
B29C43/34
C08L101/00
C08K3/04
B32B37/16
B32B27/18 Z
H01L23/36 D
H01L23/36 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120899
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100213997
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 佑太
(72)【発明者】
【氏名】小松 安奈
(72)【発明者】
【氏名】村上 康之
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4F204
4F213
4J002
5F136
【Fターム(参考)】
4F071AA12
4F071AB03
4F071AD05
4F071AD06
4F071AF15
4F071AF21
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5F136GA12
5F136GA17
(57)【要約】
【課題】熱伝導性及び柔軟性に優れると共に、強度に優れる熱伝導シートを提供する。
【解決手段】樹脂と、黒鉛粒子とを含む、熱伝導シートであって、X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した黒鉛粒子の(110)面配向度が0.11以上0.22以下である、熱伝導シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、黒鉛粒子とを含む、熱伝導シートであって、
X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した前記黒鉛粒子の(110)面配向度が0.11以上0.22以下である、熱伝導シート。
【請求項2】
前記黒鉛粒子の含有割合が、33体積%以上55体積%以下である、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記樹脂が、液状樹脂を含む、請求項1又は2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
樹脂と黒鉛粒子とを含む組成物をロール成形してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、
前記一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記一次シートを折畳又は捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、
前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、二次シートを得るスライス工程と、を含み、
前記ロール成形では、前記組成物を、第一ロールと、前記第一ロールよりも外周速度が速い第二ロールとの間を通過させる、熱伝導シートの製造方法。
【請求項5】
前記第一ロールに対する前記第二ロールの外周速度比が、1.03/1以上2/1以下である、請求項4に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項6】
前記第一ロールと前記第二ロールとの外周速度差が、0.06m/分以上1m/分以下である、請求項4又は5に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項7】
前記第一ロールと前記第二ロールとの間隔が、1mm以上である、請求項4~6のいずれかに記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項8】
前記一次シートにおいて、X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した前記黒鉛粒子の(002)面配向度が0.80以上0.96以下である、請求項4~7のいずれかに記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項9】
樹脂と黒鉛粒子とを含む組成物をロール成形してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、
前記一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記一次シートを折畳又は捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、
前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、二次シートを得るスライス工程と、を含み、
前記一次シートにおいて、X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した前記黒鉛粒子の(002)面配向度が0.80以上0.96以下である、熱伝導シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シート、及び熱伝導シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パワー半導体(IGBTモジュール等)及び集積回路(IC)チップ等の電子部品は、高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、電子部品を用いた電子機器では、電子部品の温度上昇による機能障害対策を講じる必要が生じている。
【0003】
電子部品の温度上昇による機能障害対策としては、一般に、電子部品等の発熱体に対し、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることによって、放熱を促進させる方法が採られている。そして、放熱体を使用する際には、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えるために、発熱体と放熱体との間に熱伝導性が高いシート状の部材(以下、「熱伝導シート」ともいう。)を用いる。
【0004】
熱伝導シートには、放熱を促進するための高い熱伝導性の他に、放熱体への追従性や熱膨張の違いによって起こる熱応力緩和等の機能を発揮するための高い柔軟性が求められる。近年では、このような高い熱伝導性及び柔軟性を達成するために種々の熱伝導シートが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが50℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を含む熱伝導シートであって、黒鉛粒子(A)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が熱伝導シートの厚み方向に配向しており、熱伝導シートの表面に露出している黒鉛粒子(A)の面積が25%以上80%以下であり、70℃におけるアスカーC硬度が60以下であることを特徴とする、熱伝導シートが提案されている。また、特許文献1には、黒鉛粒子(A)と有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を、黒鉛粒子の長径の平均値の20倍以下の厚みに成形又は塗工し、主たる面に関してほぼ平行な方向に黒鉛粒子(A)が配向した一次シートを作製し、一次シートを積層又は捲回して成形体を得て、この成形体を一次シートの面から出る法線に対し0度~30度の角度でスライスすることを特徴とする、熱伝導シートの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5381102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、熱伝導シートには、熱伝導性及び柔軟性の他にも、熱伝導シートの使用時に破断することがないように強度も要求される。
【0008】
そこで、本発明は、熱伝導性及び柔軟性に優れると共に、強度に優れる熱伝導シート、及びこのような熱伝導シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、熱伝導シートにおいて、黒鉛粒子の特定の結晶格子面の配向度を所望の範囲とすることにより、上記課題を解決できることを新たに見出し、本発明を完成させた。
また、本発明者らは、熱伝導シートの製造方法において、外周速度が異なる第一ロールと第二ロールとを用いて一次シートを成形することにより、或いは、一次シートに含まれる黒鉛粒子の特定の結晶格子面配向度を所望の範囲とすることにより、上記課題を解決できることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は上記課題を解決することを目的とするものであり、本発明は、樹脂と黒鉛粒子とを含む、熱伝導シートであって、X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した前記黒鉛粒子の(110)面配向度が0.11以上0.22以下である、熱伝導シートである。このような熱伝導シートは、熱伝導性及び柔軟性に優れると共に、強度に優れる。
X線回折(XRD)プロファイルは、X線回折装置を用いて得たものである。X線回折装置としては、例えば、PANalytical製の「X’ Pert PRO MPD」を用いることができる。
熱伝導シートにおける黒鉛粒子の(110)面配向度は、本明細書の実施例に記載の方法に従って算出する。
【0011】
本発明の熱伝導シートにおいて、前記黒鉛粒子の含有割合は、33体積%以上55体積%以下であることが好ましい。
熱伝導シート中の黒鉛粒子の含有割合が上記下限以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。一方、熱伝導シート中の黒鉛粒子の含有割合が上記上限以下であれば、熱伝導シートの強度を向上できる。
なお、熱伝導シート中の黒鉛粒子の体積分率は、樹脂及び黒鉛粒子の合計体積を100体積%とした場合の分率である。
【0012】
本発明の熱伝導シートにおいて、前記樹脂は、液状樹脂を含むことが好ましい。樹脂が液状樹脂を含むものであれば、熱伝導シートの熱伝導性及び柔軟性を向上できる。
【0013】
この発明は上記課題を解決することを目的とするものであり、本発明は、樹脂と黒鉛粒子とを含む組成物をロール成形してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、前記一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記一次シートを折畳又は捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、二次シートを得るスライス工程と、を含み、前記ロール成形では、前記組成物を、第一ロールと、前記第一ロールよりも外周速度が速い第二ロールとの間を通過させる、熱伝導シートの製造方法である。このような製造方法によれば、熱伝導性及び柔軟性に優れると共に、強度に優れる熱伝導シートを製造できる。
【0014】
本発明の熱伝導シートの製造方法において、前記第一ロールに対する前記第二ロールの外周速度比は、1.03/1以上2/1以下であることが好ましい。
第一ロールに対する第二ロールの外周速度比が上記下限以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性及び強度を向上できる。一方、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比が上記上限以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を向上できる。また、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比が上記上限以下であれば、一次シートの表面に発生するシワを抑制して一次シートの平滑性を向上できる。
【0015】
本発明の熱伝導シートの製造方法において、前記第一ロールと前記第二ロールとの外周速度差は、0.06m/分以上1m/分以下であることが好ましい。
第一ロールと第二ロールとの外周速度差が上記下限以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性及び強度を向上できる。一方、第一ロールと第二ロールとの外周速度差が上記上限以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を向上できる。また、第一ロールと第二ロールとの外周速度差が上記上限以下であれば、一次シートの表面に発生するシワを抑制して一次シートの平滑性を向上できる。
【0016】
本発明の熱伝導シートの製造方法において、前記第一ロールと前記第二ロールとの間隔は、1mm以上であることが好ましい。
第一ロールと第二ロールとの間隔が上記下限以上であれば、一次シートの厚みを厚くできるため、一次シートの積層数、折畳数又は捲回数を削減できる。
【0017】
本発明の熱伝導シートの製造方法の一次シートにおいて、X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した前記黒鉛粒子の(002)面配向度は0.80以上0.96以下であることが好ましい。このような一次シートであれば、熱伝導性、柔軟性及び強度が向上した熱伝導シートを製造できる。
X線回折(XRD)プロファイルは、X線回折装置を用いて得たものである。X線回折装置としては、例えば、PANalytical製の「X’ Pert PRO MPD」を用いることができる。
一次シートにおけるロットゲーリング法により算出した黒鉛粒子の(002)面配向度は、本明細書の実施例に記載の方法に従って算出する。
【0018】
この発明は上記課題を解決することを目的とするものであり、本発明は、樹脂と黒鉛粒子とを含む組成物をロール成形してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、前記一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記一次シートを折畳又は捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、二次シートを得るスライス工程と、を含み、前記一次シートにおいて、X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した前記黒鉛粒子の(002)面配向度が0.80以上0.96以下である、熱伝導シートの製造方法である。このような製造方法によれば、熱伝導性及び柔軟性に優れると共に、強度に優れる熱伝導シートを製造できる。
X線回折(XRD)プロファイルは、X線回折装置を用いて得たものである。X線回折装置としては、例えば、PANalytical製の「X’ Pert PRO MPD」を用いることができる。
一次シートにおけるロットゲーリング法により算出した黒鉛粒子の(002)面配向度は、本明細書の実施例に記載の方法に従って算出する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、熱伝導性及び柔軟性に優れると共に、強度に優れる熱伝導シート、及びこのような熱伝導シートの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の熱伝導シートは、発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用できる。即ち、本発明の熱伝導シートは、放熱部材として機能し得るものであり、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成できる。本発明の熱伝導シートは、本発明の熱伝導シートの製造方法を用いて製造できる。
【0021】
(熱伝導シート)
本発明の熱伝導シートは、樹脂と、黒鉛粒子とを含む。 また、本発明の熱伝導シートにおいて、X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した黒鉛粒子の(110)面配向度(以下、「ロットゲーリング法により算出した黒鉛粒子の(110)面配向度」を、単に「黒鉛粒子の(110)面配向度」と称することがある。)は、0.11以上0.22以下である。熱伝導シート中の黒鉛粒子の(110)面配向度が0.11以上0.22以下であると、黒鉛粒子の結晶中の6員環面が良好に配向、即ち、黒鉛粒子の結晶中の6員環面が熱伝導シートの面方向に対して垂直に近い方向に配向する。この結果、結晶中の6員環面に沿って熱が効率的に運ばれるため、熱伝導シートは面方向に対して垂直方向に(すなわち厚み方向に)熱伝導性が優れると考えられる。また、驚くべきことに、熱伝導シート中の黒鉛粒子の(110)面配向度が0.11以上0.22以下であると、熱伝導シートが柔軟性及び強度に優れる。この理由については必ずしも明らかとはなっていないが、後述の実施例および比較例によれば、熱伝導シート中の黒鉛粒子の(110)面配向度が0.11以上0.22以下であるときに、熱伝導シートが柔軟性及び強度に優れることは明らかである。
なお、上記範囲の(110)面配向度を有する熱伝導シートは、原料の組成物の組成及び成形条件を調整することにより製造できる。このような成形としては、例えば、組成物を、第一ロールと、第一ロールよりも外周速度が速い第二ロールとの間を通過させるロール成形等が挙げられる。
【0022】
熱伝導シート中の黒鉛粒子の(110)面配向度は、0.15以上であることが好ましく、0.18以上であることがより好ましく、0.20以上であることが更に好ましく、0.21以下であることが好ましい。
黒鉛粒子の(110)面配向度が上記下限以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性及び強度を向上できる。黒鉛粒子の(110)面配向度が上記上限以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を向上できる。
【0023】
<樹脂>
樹脂としては、特に限定されず、任意の樹脂を用いることができる。例えば、樹脂としては、液状樹脂及び固体樹脂のいずれも用いることができる。樹脂は、1種を単独で使用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、樹脂としては、液状樹脂と固体樹脂との双方を用いることができる。樹脂として液状樹脂と固体樹脂とを併用する場合、液状樹脂と固体樹脂との質量比は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で調整できる。
樹脂は、液状樹脂を含むことが好ましい。樹脂が液状樹脂を含むものであれば、熱伝導シートにおける黒鉛粒子の充填率を高めることができ、且つ、熱伝導シートと被着体との密着性を高めることができる等の理由により、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。また、黒鉛粒子をより良好に分散できることにより、熱伝導シートの柔軟性を向上できる。
【0024】
液状樹脂としては、常温常圧下で液体である限り、特に限定されず、例えば、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂を用いることができる。
なお、本明細書において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0025】
液状樹脂としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ニトリルゴム)が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
樹脂が液状樹脂を含む場合、樹脂における液状樹脂の含有割合は、熱伝導シートの熱伝導性及び柔軟性の観点から、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。一方、樹脂における液状樹脂の含有割合は、例えば90質量%以下であり、80質量%以下でもよい。
【0027】
固体樹脂としては、常温常圧下で液体でない限り、特に限定されず、例えば、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂、常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂等を用いることができる。
【0028】
常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2-エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸又はそのエステル、ポリアクリル酸又はそのエステル等のアクリル樹脂;シリコーン樹脂;フッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン-プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン-アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ニトリルゴム);アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン-ブタジエンブロック共重合体又はその水素添加物;スチレン-イソプレンブロック共重合体又はその水素添加物;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本明細書において、ゴムは、「樹脂」に含まれるものとする。
【0029】
常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂としては、例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;イソプレンゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;クロロプレンゴム;エチレンプロピレンゴム;塩素化ポリエチレン;クロロスルホン化ポリエチレン;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ポリイソブチレンゴム;エポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル;ジアリルフタレート樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂;ポリウレタン;熱硬化型ポリフェニレンエーテル;熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル;等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
樹脂が固体樹脂を含む場合、樹脂における固体樹脂の含有割合は、例えば10質量%以上であり、20質量%以上でもよい。一方、樹脂における固体樹脂の含有割合は、例えば50質量%以下であり、40質量%以下でもよい。
【0031】
熱伝導シートにおける樹脂の含有割合は、樹脂及び黒鉛粒子の合計体積を100体積%として、40体積%以上であることが好ましく、50体積%以上であることがより好ましく、65体積%以下であることが好ましく、60体積%以下であることがより好ましい。
熱伝導シートにおける樹脂の含有割合が上記下限以上であれば、熱伝導シートの柔軟性を向上できる。一方、熱伝導シートにおける樹脂の含有割合が上記上限以下であれば、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
【0032】
<黒鉛粒子>
黒鉛粒子としては、特に限定されず、例えば、人造黒鉛及び天然黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛には、カーボンブラック及び熱分解グラファイト等が含まれる。天然黒鉛には、膨張化黒鉛及び球状黒鉛等の鱗片状黒鉛、並びに、鱗状黒鉛が含まれる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、黒鉛粒子は、鱗片状黒鉛であることが好ましい。黒鉛粒子が鱗片状黒鉛であれば、熱伝導シート中において黒鉛粒子が良好に配向するため、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
鱗片状黒鉛は、膨張化黒鉛であることが好ましい。鱗片状黒鉛が膨張化黒鉛であれば、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
【0033】
熱伝導シート中の黒鉛粒子の配向は、熱伝導シートにおける黒鉛粒子の(110)面配向度が0.11以上0.22以下であれば特に限定されないが、熱伝導シートの面方向に対する黒鉛粒子の長手方向の角度(以下、「黒鉛粒子の配向角度」と称することがある。)は、45°以上であることが好ましく、60°以上であることがより好ましく、80°以上であることが更に好ましく、85°以上であることが更により好ましい。
熱伝導シートの面方向に対する黒鉛粒子の長手方向の角度は上記下限値以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
熱伝導シートの面方向に対する黒鉛粒子の長手方向の角度は、90°以下でもよい。
なお、黒鉛粒子の配向角度は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定できる。
【0034】
黒鉛粒子の体積平均粒子径は、3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、8μm以上であることが更に好ましく、12μm以上であることが更により好ましく、16μm以上であることが特に好ましく、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが更に好ましく、60μm以下であることが更により好ましい。
黒鉛粒子の体積平均粒子径が上記下限値以上であれば、黒鉛粒子間の接触抵抗を低減することが可能となり、結果的に熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。一方、黒鉛粒子の体積平均粒子径が上記上限値以下であれば、熱伝導シート中に黒鉛粒子を適度に充填することが可能となり、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
なお、本明細書において「体積平均粒子径」は、JIS Z8825に準拠して測定でき、レーザー回折法で測定された粒度分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を表す。
【0035】
黒鉛粒子のアスペクト比(長径/短径)は、1.2以上であることが好ましく、1.3以上であることが好ましく、1.4以上であることが好ましく、10以下であることは好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることが更に好ましい。
黒鉛粒子のアスペクト比が上記範囲内であれば、熱伝導シート中において黒鉛粒子が良好に配向するため、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
なお、本明細書において、黒鉛粒子のアスペクト比は、黒鉛粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、任意の50個の黒鉛粒子について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値により算出できる。
【0036】
熱伝導シート中の黒鉛粒子の含有割合は、樹脂及び黒鉛粒子の合計体積を100体積%として、33体積%以上であることが好ましく、38積%以上であることがより好ましく、55体積%以下であることが好ましく、45体積%以下であることがより好ましい。
熱伝導シート中の黒鉛粒子の含有割合が上記下限以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。一方、熱伝導シート中の黒鉛粒子の含有割合が上記上限以下であれば、熱伝導シートの強度を向上できる。
【0037】
<熱伝導シートの性状>
熱伝導シートは、樹脂と黒鉛粒子とを含む条片が熱伝導シートの厚み方向に対して一方の略垂直な方向(厚み方向に対する角度が略90°の方向)に並列結合された構造を有してもよい。この略垂直な方向における条片の幅は、1mm以上であることが好ましく、1.2mm以上であることがより好ましく、1.5mm以上であることが更に好ましく、3mm以下であることが好ましく、2.8mm以下であることがより好ましく、2.5mm以下であることが更に好ましい。
上記条片の幅は一次シートの厚みに依存し得る。そのため、条片の幅が上記下限以上の熱伝導シートは、一次シートの積層数、折畳数又は捲回数がより削減されている。その結果、このような熱伝導シートは、後述する積層体形成速度が向上され、生産性が向上されている。一方、条片の幅が上記上限以下の熱伝導シートは、熱伝導シート中において黒鉛粒子が厚み方向に良好に配向しているため、熱伝導性が向上されている。
【0038】
熱伝導シートの厚みは、0.05mm以上であることが好ましく、0.15mm以上であることがより好ましく、0.25mm以上であることが更に好ましく、0.50mm以下であることが好ましく、0.40mm以下であることがより好ましく、0.35mm以下であることが更に好ましい。
熱伝導シートの厚みが上記下限以上であれば、熱伝導シートの強度を向上できる。一方、熱伝導シートの厚みが上記上限以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を向上できる。
【0039】
(熱伝導シートの製造方法)
本発明の熱伝導シートの製造方法は、(A)樹脂と黒鉛粒子とを含む組成物をロール成形してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、(B)一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、一次シートを折畳又は捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、(C)積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、二次シートを得るスライス工程と、を含む。
【0040】
本発明の熱伝導シートの製造方法の一実施形態において、ロール成形では、組成物を、第一ロールと、第一ロールよりも外周速度が速い第二ロール(以下、「第一ロールよりも外周速度が速い第二ロール」を、単に「第二ロール」と称することがある。)との間を通過させる。このような熱伝導シートの製造方法によれば、熱伝導性及び柔軟性に優れると共に、強度に優れる熱伝導シートを製造できる。また、このような熱伝導シートの製造方法によれば、上述した本発明の熱伝導シートを製造できる。
【0041】
本発明の熱伝導シートの製造方法の別の実施形態において、得られた一次シートは、X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した黒鉛粒子の(002)面配向度が0.80以上0.96以下である。このような製造方法によっても、熱伝導性及び柔軟性に優れると共に、強度に優れる熱伝導シートを製造できる。また、このような熱伝導シートの製造方法によれば、上述した本発明の熱伝導シートを製造できる。
【0042】
本発明の熱伝導シートの製造方法は、任意で、上記(A)~(C)以外の工程を更に含んでいてもよい。
【0043】
<(A)一次シート成形工程>
一次シート成形工程では、樹脂と黒鉛粒子とを含む組成物をロール成形してシート状に成形し、一次シートを得る。
【0044】
〔組成物〕
組成物は、樹脂と黒鉛粒子とを含む。樹脂及び黒鉛粒子としては、「熱伝導シート」の項で上述した樹脂及び黒鉛粒子を、上述した比率で用いることができる。
【0045】
〔組成物の調製〕
組成物は、特に限定されず、上述した成分を混合することにより調製できる。
なお、上述した成分の混合は、特に制限されず、ニーダー;ヘンシェルミキサー、ホバートミキサー、ハイスピードミキサー等のミキサー;二軸混練機;ロール;等の既知の混合装置を用いて行うことができる。
【0046】
混合は、酢酸エチル等の溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒に予め樹脂を溶解又は分散させて樹脂溶液として、黒鉛粒子、及び任意で添加されるその他の成分と混合してもよい。
【0047】
混合時間は、例えば、5分以上60分以下である。
【0048】
混合温度は、例えば、5℃以上160℃以下である。
【0049】
〔組成物の成形〕
調製した組成物は、任意に脱泡及び解砕した後に、ロール成形してシート状に成形できる。このように組成物をロール成形したシート状のものを、一次シートとすることができる。なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば、真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0050】
本発明の熱伝導シートの製造方法の一実施形態において、ロール成形では、組成物を、第一ロールと、第一ロールよりも外周速度が速い第二ロールとの間を通過させる。このようなロール成形によれば、高い剪断応力を加えて組成物を成形でき、この結果、一次シート中の黒鉛粒子が良好に配向し、これを用いて得られた熱伝導シートは熱伝導性に優れる。また、このようなロール成形により得られた一次シートを用いると、熱伝導シートが柔軟性及び強度に優れることは驚くべきことであった。この理由については必ずしも明らかとはなっていないが、後述の実施例および比較例によれば、組成物を、第一ロールと、第二ロールとの間を通過させたときに、熱伝導シートが柔軟性及び強度に優れることは明らかである。
【0051】
第一ロールと、第一ロールよりも外周速度が速い第二ロールとの間を通過させるロール成形により得られた一次シートにおいて、X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した黒鉛粒子の(002)面配向度(以下、「ロットゲーリング法により算出した黒鉛粒子の(002)面配向度」を、単に「黒鉛粒子の(002)面配向度」と称することがある。)は、0.80以上であることが好ましく、0.85以上であるこがより好ましく、0.90以上であることが更に好ましく、0.96以下であることが好ましい。
上記一次シートにおける黒鉛粒子の(002)面配向度が上記範囲内であれば、熱伝導シートの熱伝導性、柔軟性及び強度を向上できる。
【0052】
第一ロールに対する第二ロールの外周速度比(「第二ロールの外周速度」/「第一ロールの外周速度」)は、1.03/1以上であることが好ましく、1.05/1以上であることがより好ましく、1.1/1以上であることが更に好ましく、1.5/1以下であることが好ましく、1.3/1以下であることがより好ましく、1.2/1以下であることが更に好ましい。
第一ロールに対する第二ロールの外周速度比が上記下限以上であれば、より高い剪断応力を加えて組成物を成形できるため、熱伝導シートの熱伝導性及び強度を向上できる。一方、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比が上記上限以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を向上できる。また、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比が上記上限以下であれば、一次シートの表面に発生するシワを抑制して一次シートの平滑性を向上できる。即ち、一次シートの製品不良の発生を抑制し、これを用いて得られる熱伝導シートの生産性を向上できる。
なお、外周速度比は、ロールの径及び/又は回転速度を変更することで調整できる。
【0053】
第一ロールと第二ロールとの外周速度差(「第二ロールの外周速度」-「第一ロールの外周速度」)は、0.06m/分以上であることが好ましく、0.1m/分以上であることがより好ましく、0.2m/分以上であることが更に好ましく、1m/分以下であることが好ましく、0.7m/分以下であることがより好ましく、0.5m/分以下であることが更に好ましい。
第一ロールと第二ロールとの外周速度差が上記下限以上であれば、より高い剪断応力を加えて組成物を成形できるため、熱伝導シートの熱伝導性及び強度を向上できる。一方、第一ロールと第二ロールとの外周速度差が上記上限以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を向上できる。また、第一ロールと第二ロールとの外周速度差が上記上限以下であれば、一次シートの表面に発生するシワを抑制して一次シートの平滑性を向上できる。即ち、一次シートの製品不良の発生を抑制し、これを用いて得られる熱伝導シートの生産性を向上できる。
なお、外周速度差は、ロールの径及び/又は回転速度を変更することで調整できる。
【0054】
第一ロールと第二ロールとの間隔は、1mm以上であることが好ましく、1.2mm以上であることより好ましく、1.5mm以上であることが更に好ましく、3mm以下であることが好ましく、2.8mm以下であることがより好ましく、2.5mm以下であることが更に好ましい。
第一ロールと第二ロールとの間隔が上記下限以上であれば、組成物に剪断応力が過度に加わることを抑制して一次シートの柔軟性を向上し、その結果、熱伝導シートの柔軟性を向上できる。また、第一ロールと第二ロールとの間隔が上記下限以上であれば、一次シートの積層数、折畳数又は捲回数を削減できる。即ち、積層体形成速度を向上し、熱伝導シートの生産性を向上できる。なお、本発明においては、高い剪断応力を加えて組成物を成形しているため、第一ロールと第二ロールとの間隔が上記下限以上であっても、一次シート中の黒鉛粒子が良好に配向し得る。
一方、第一ロールと第二ロールとの間隔が上記上限以下であれば、より高い剪断応力を加えて組成物を成形できるため、熱伝導シートの熱伝導性及び強度を向上できる。
【0055】
本発明の熱伝導シートの製造方法の別の実施形態において、組成物を成形して得られた一次シートは、X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した黒鉛粒子の(002)面配向度が0.80以上0.96以下である。このような製造方法によっても、熱伝導性及び柔軟性に優れると共に、強度に優れる熱伝導シートを製造できる。一次シートにおける黒鉛粒子の(002)面配向度は、0.80以上であることが好ましく、0.85以上であるこがより好ましく、0.90以上であることが更に好ましく、0.96以下であることが好ましい。
上記一次シートにおける黒鉛粒子の(002)面配向度が上記範囲内であれば、熱伝導シートの熱伝導性、柔軟性及び強度を向上できる。
なお、上記範囲の(002)面配向度を有する一次シートは、原料の組成物の組成及び成形条件を調整することにより製造できる。このような成形としては、例えば、組成物を、第一ロールと、第一ロールよりも外周速度が速い第二ロールとの間を通過させるロール成形等が挙げられる。第一ロールに対する第二ロールの外周速度比、第一ロールと第二ロールとの外周速度差、及び第一ロールと第二ロールとの間隔については、上述した範囲と同様の範囲にすることができる。
【0056】
<(B)積層体形成工程>
積層体形成工程では、一次シート成形工程で得られた一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、一次シートを折畳又は捲回して、樹脂及び黒鉛粒子を含む一次シートが厚み方向に複数形成された積層体を得る。ここで、一次シートの折畳による積層体の形成は、特に制限されることなく、折畳機を用いて一次シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。また、一次シートの捲回による積層体の形成は、特に制限されることなく、一次シートの短手方向又は長手方向に平行な軸の回りに一次シートを捲き回すことにより行うことができる。また、一次シートの積層による積層体の形成は、特に制限されることなく、積層装置を用いて行うことができる。例えば、シート積層装置(日機装社製、製品名「ハイスタッカー」)を用いれば、層間に空気が入り込むことを抑えることができるため、良好な積層体を効率的に得ることができる。
【0057】
なお、積層工程では、得られた積層体を、加熱しながら、積層方向に加圧(二次加圧)することが好ましい。積層体を加熱しながら積層方向に加圧する二次加圧を行うことにより、積層された一次シート相互間の融着を促進することができる。
【0058】
ここで、積層体を積層方向に加圧する際の圧力は、0.05MPa以上0.50MPa以下とすることができる。
また、積層体の加熱温度は、特に限定されないが、50℃以上170℃以下であることが好ましい。
更に、積層体の加熱時間は、例えば、10秒間以上30分間以下とすることができる。
【0059】
なお、一次シートを積層、折畳又は捲回して得られる積層体では、黒鉛粒子が積層方向に略直交する方向に配向していると推察される。例えば、黒鉛粒子の形状が鱗片形状である場合、当該鱗片形状が有する主面の長軸の方向は、積層方向に略直交していると推察される。
【0060】
<(C)スライス工程>
スライス工程では、積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、積層体のスライス片よりなる二次シートを得る。本工程にて得られた二次シートは本発明の熱伝導シートとしてもよい。
【0061】
積層体をスライスする方法としては、特に限定されず、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、二次シートの厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。
【0062】
積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されず、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材(例えば、鋭利な刃を備えたカンナ及びスライサー)を用いることができる。
【0063】
積層体をスライスする角度は、熱伝導シートの熱伝導性を高める観点からは、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが好ましい。
【実施例0064】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。また、体積分率等の算出に際して、各配合成分の体積として、各配合成分の質量をそれらの理論比重で除した値を採用した。
なお、実施例における各種の測定及び評価は以下の方法に従って行った。
【0065】
<ロットゲーリング法による一次シートの配向度の決定>
一次シート中の黒鉛粒子の(002)面配向度を決定した。
具体的には、まず、PANalytical製の「X’ Pert PRO MPD」を用いて、実施例及び比較例で得られた一次シートの表面のXRDプロファイルを得た。
得られたXRDプロファイルから、ロットゲーリング法に従って(002)面配向度を算出した。具体的には、下記の手順に従って(002)面配向度に関するロットゲーリングファクターf002を算出した。
ロットゲーリングファクターf002は、対象とする結晶面から回折されるX線のピーク強度を用いて、下記式(1)により計算した。
002=(ρ-ρ0)/(1-ρ0)・・・(1)
ここで、式(1)中のρ0は、無配向サンプルのX線の回折強度(I0)を用いて計算した。具体的に、ρ0は、無配向サンプルにおける全回折強度の和(ΣI0(hkl))に対する、(002)面の回折強度の合計(ΣI0((002)面))の割合として、下記式(2)により算出した。なお、無配向サンプルとしては、粉末状の黒鉛粒子を用いた。
ρ0=ΣI0((002)面)/ΣI0(hkl)・・・(2)
式(1)中のρは、配向サンプル(一次シート)のX線の回折強度(I)を用いて計算した。具体的にρは、一次シートにおける全回折強度の和(ΣI(hkl))に対する、(002)面の回折強度の合計(ΣI((002)面))の割合として、下記式(3)により算出した。
ρ=ΣI((002)面)/ΣI(hkl)・・・(3)
なお、上記において、回折強度とは、XRDプロファイルにおける対象の配向面のピーク高さを意味する。(002)面配向の場合、回折強度とは、(002)面に相当する2Θ=27°のピーク高さを意味する。
【0066】
<一次シートの見た目の平滑性評価>
一次シートの見た目の平滑性を評価した。具体的には、実施例及び比較例で得られた一次シートの長手方向(一次シートの流れ方向)任意の30cmに亘って、その表裏を目視で確認し、以下の基準に従って評価した。
A:一次シートの裏表のいずれの面においても、シワは発生しなかった。
B:一次シートのいずれかの面において、長手方向に対し約90度の方向にシワが1本発生した。
C:一次シートのいずれかの面において、長手方向に対し約90度の方向にシワが2本以上発生した。
【0067】
<ロットゲーリング法による熱伝導シートの配向度の決定>
熱伝導シート中の黒鉛粒子の(110)面配向度を決定した。
具体的には、まず、PANalytical製の「X’ Pert PRO MPD」を用いて、実施例及び比較例で得られた熱伝導シートの表面のXRDプロファイルを得た。
得られたXRDプロファイルから、ロットゲーリング法に従って(110)面配向度を算出した。具体的には、上記一次シートの(002)面配向度に関するロットゲーリングファクターf002と同様にして、(110)面配向度に関するロットゲーリングファクターf110を算出した。
なお、(110)面配向の場合の回折強度とは、(110)面に相当する2Θ=77°のピーク高さを意味する。
【0068】
<黒鉛粒子の配向角度>
熱伝導シート中の黒鉛粒子の配向角度は、熱伝導シートを正八角形に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ製「SU-3500」)にて当該シートの上端から下端までが収まる倍率で観察した。なお、このときの倍率は700倍であった。この断面における黒鉛粒子の長軸に50本線を引き、熱伝導シートの表面に対する長軸の角度の平均を算出した。なお、角度が90°以上であった場合には補角を採用した。これを8面に対して実施し、8面の中で最も値の大きなものを熱伝導シート中の黒鉛粒子の配向角度とした。
【0069】
<一次シートの使用枚数>
実施例及び比較例において、高さ50mmの積層体を得る際に使用した一次シートの枚数を確認した。なお、一次シートを使用する枚数が多いほど生産に時間を要することを意味する。
【0070】
<熱伝導率測定>
熱伝導シートの主面内について、それぞれ、熱拡散率α(m/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)および比重ρ(g/m)を以下の方法で測定した。
[熱拡散率α(m/s)]
熱物性測定装置(株式会社ベテル製、製品名「サーモウェーブアナライザTA35」)を使用して熱拡散率を測定した。
[定圧比熱Cp(J/g・K)]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下における比熱を測定した。
[比重ρ(g/m)]
自動比重計(東洋精機社製、商品名「DENSIMETER-H」)を用いて比重(密度)(g/m)を測定した。
そして、得られた測定値を用いて下記式(4):
λ=α×Cp×ρ・・・(4)
に代入し、熱伝導シートの熱伝導率λ(W/m・K)を算出した。
【0071】
<引張強度及び引張破断伸度の測定>
JIS K7113に準拠したダンベル2号(ダンベル型、幅:3mm、長さ70mm)を用いて熱伝導シートを長手方向に打ち抜き成型し、試料片を作製した。この試験片を引張試験機(株式会社島津製作所製、製品名「AG-IS20kN」)にセットし、ロードセル:50N、チャック間距離:35mm、速度:25mm/分、温度:23℃の条件で引っ張り、引張強度(破断強度)及び引張破断伸度を測定した。
【0072】
<アスカーC硬度の測定>
熱伝導シートのアスカーC硬度の測定は、日本ゴム協会規格(SRIS)のアスカーC法に準拠し、硬度計(高分子計器社製、製品名「ASKER CL-150LJ」)を使用して、25℃の温度で行った。
具体的には、まず、実施例及び比較例で得られた熱伝導シートを幅25mm×長さ50mmの大きさに切り取り、9cmの高さになるまで重ね合わせることにより試験片を得た。得られた試験片を温度25℃に保たれた恒温室内に48時間以上静置した。次いで、指針が95以上98以下となるようにダンパー高さを調整し、試験片とダンパーとを衝突させた。当該衝突から60秒後の試験片のアスカーC硬度を、硬度計(高分子計器社製、製品名「ASKER CL-150LJ」)を用いて2回測定し、測定結果の平均値を熱伝導シートのアスカーC硬度とした。
温度を70℃に変更して同様の測定を行った。
【0073】
(実施例1)
<組成物の調製>
樹脂として、常温常圧下で液体のニトリルゴム(NBR)(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol(登録商標) 1312」)70部と、常温常圧下で固体のニトリルゴム(NBR)(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol(登録商標) 3350)30部とを準備し、黒鉛粒子として膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC-300」、体積平均粒子径:50μm、アスペクト比=1.5)150部(樹脂及び黒鉛粒子の全体積に対して40体積%)を準備した。これらを加圧ニーダー(日本スピンドル社製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合し、組成物を得た。
【0074】
<一次シート成形工程>
次いで、得られた組成物500gを、第一ロール及び第二ロールを用いて、第一ロールと第二ロールとの間隔2mm、ロール温度25℃、シート搬出速度(第一ロールの外周速度)2m/分、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比(第二ロール/第一ロール):1.15/1の条件にて圧延加工(一次加圧)してシート状にした。シートの搬送方向を同一にして、圧延加工を繰り返した。合計で圧延加工を10回行い、厚み2mmの一次シートを得た。
得られた一次シートの一部について、上記に従って各種測定及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0075】
<積層体形成工程>
次いで、得られた一次シートを縦50mm×横50mmに裁断し、一次シートの厚み方向に25枚積層し、更に、温度120℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向に対してプレス(二次加圧)することにより、高さ約50mmの積層体を得た。
【0076】
<スライス工程>
次いで、二次加圧された積層体の積層面を0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」)を用いて、積層方向に対して0度の角度で(換言すれば、積層された一次シートの主面の法線方向に)スライスすることにより、縦50mm×横50mm×厚み0.30mmの二次シート(熱伝導シート)を得た。熱伝導シートは、熱伝導シートの厚み方向に対して垂直な方向(厚み方向に対する角度が90°の方向)に並列結合された条片により構成されている。この略垂直な方向における条片の幅は、一次シートの厚みとほぼ同じである。
得られた熱伝導シートについて、上記に従って各種測定及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2)
一次シート成形工程において、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比を1.50/1に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例3)
一次シート成形工程において、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比を1.03/1に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0079】
(実施例4)
一次シート成形工程において、第一ロールと第二ロールとの間隔を1mmに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0080】
(実施例5)
一次シート成形工程において、第一ロールと第二ロールとの間隔を3mmに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例6)
組成物の調製において、膨張化黒鉛の使用量を225部(樹脂及び黒鉛粒子の全体積に対して50体積%)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例7)
組成物の調製において、樹脂として、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG-101」)70部、及び常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(スリーエムジャパン株式会社製、商品名「ダイニオンFC2211」)30部を使用し、黒鉛粒子の使用量を90部(樹脂及び黒鉛粒子の全体積に対して40体積%)としたこと以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0083】
(比較例1)
一次シート成形工程において、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比を1/1に変更し、第一ロールと第二ロールとの間隔を1mmに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0084】
(比較例2)
一次シート成形工程において、圧延加工の回数を1回に変更したこと以外は、比較例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0085】
(比較例3)
一次シート成形工程において、第一ロールと第二ロールとの間隔を2mmに変更したこと以外は、比較例2と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1より、樹脂と、黒鉛粒子とを含み、X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した黒鉛粒子の(110)面配向度が0.11以上0.22以下である、実施例1~7の熱伝導シートは、熱伝導率が高いことから熱伝導性に優れ、アスカーC硬度が低いことから柔軟性に優れ、引張強度及び引張破断伸度が高いことから強度に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、熱伝導性及び柔軟性に優れると共に、強度に優れる熱伝導シート、及びこのような熱伝導シートの製造方法を提供できる。