(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165302
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム及びその製造方法、並びに、積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20231108BHJP
B29C 55/02 20060101ALI20231108BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231108BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20231108BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B29C55/02
C08J5/18 CFD
C08J7/04 Z
B32B27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076180
(22)【出願日】2022-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹上 竜太
(72)【発明者】
【氏名】宮宅 一仁
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 忠
【テーマコード(参考)】
4F006
4F071
4F100
4F210
【Fターム(参考)】
4F006AA35
4F006AB39
4F006AB67
4F006BA11
4F006CA08
4F006EA05
4F006EA06
4F071AA46
4F071AA88
4F071AF11Y
4F071AF61Y
4F071AG28
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F100AD00D
4F100AK01C
4F100AK03C
4F100AK12C
4F100AK12H
4F100AK25C
4F100AK25H
4F100AK41A
4F100AK42A
4F100AK51C
4F100AK52B
4F100AR00B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100BA10D
4F100CA02C
4F100DD07C
4F100DE01C
4F100EH171
4F100EH17A
4F100EH462
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100EJ38
4F100EJ42
4F100JA03
4F100JA06
4F100JL14B
4F100YY00
4F100YY00A
4F100YY00C
4F210AA24
4F210AG01
4F210AG03
4F210AH33
4F210AR06
4F210QA02
4F210QA03
4F210QC06
4F210QD08
4F210QG01
4F210QG15
4F210QG18
4F210QL16
4F210QW07
4F210QW12
(57)【要約】
【課題】凹凸欠陥が抑制され且つ厚みムラが低減されたセラミックグリーンシートを製造しうる、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム、又はその応用を提供する。
【解決手段】ポリエステル基材と剥離層とを含むセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムであって、1m以上のフィルム幅を有し、上記ポリエステル基材の厚みが上記剥離層の厚みに対して40倍以上であり、示差走査熱量測定で測定されるプレピーク温度が160℃以上225℃以下であり、上記フィルム幅方向における結晶化度のバラツキが5.0%以下である、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム、上記剥離フィルムの製造方法、及び上記剥離フィルムを含む積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル基材と剥離層とを含むセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムであって、
1m以上のフィルム幅を有し、
前記ポリエステル基材の厚みが前記剥離層の厚みに対して40倍以上であり、
示差走査熱量測定で測定されるプレピーク温度が160℃以上225℃以下であり、
前記フィルム幅方向における結晶化度のバラツキが5.0%以下である、
セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
【請求項2】
前記フィルム幅方向に直交する方向における熱収縮率のバラツキ、及び、前記フィルム幅方向における熱収縮率のバラツキが、いずれも0.03%~0.50%である、請求項1に記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
【請求項3】
固有粘度(IV)が0.65dL/g以上である、請求項1に記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
【請求項4】
前記ポリエステル基材が実質的に粒子を含まない、請求項1に記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
【請求項5】
さらに粒子含有層を含み、
前記剥離層、前記ポリエステル基材、及び前記粒子含有層をこの順に含む、請求項1に記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
【請求項6】
前記粒子含有層が非ポリエステル樹脂を含む、請求項5に記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
【請求項7】
前記非ポリエステル樹脂が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、及びオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂である、請求項6に記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
【請求項8】
前記粒子含有層の最大突起高さSpが800nm以下である、請求項5に記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
【請求項9】
ポリエステル基材と剥離層とを含むセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの製造方法であって、
1m以上のフィルム幅を有するポリエステルフィルムを加熱する熱固定工程を含み、
前記熱固定工程において、ポリエステルフィルムの最高到達膜面温度を160℃以上225℃以下の範囲に制御し、かつ、フィルム幅方向における最高到達膜面温度のバラツキを5.0℃以下として加熱する、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムと、セラミックを含む層と、を含む、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム及びその製造方法、並びに、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高性能化及び小型化に伴い、電子機器に用いられる電子部品に対しても、高性能化及び小型化が求められている。電子部品の中でも、例えば、積層セラミックコンデンサは、基板への実装点数が増加しており、小型化の要求が強い。
積層セラミックコンデンサの製造においては、剥離フィルムが有する剥離層上に、セラミックスラリーを塗布し、乾燥してセラミックグリーンシートを形成する工程を含むことが一般的である。
【0003】
特許文献1には、積層セラミックコンデンサを製造する工程においてグリーンシート成形の支持体用フィルムとして、ポリエステルフィルムであって、少なくとも片側の表面が、全反射減衰法による赤外分光分析測定(ATR-IR測定)によって得られるトランス配座のポリエステルに由来する吸収ピークの強度をAt、ゴーシュ配座に由来する吸収ピークの強度をAg、トランス配座のポリエステルに由来する吸収ピークの強度とゴーシュ配座に由来する吸収ピークの強度との比(トランス配座比)をAt/Agとした場合に、次の(1)、(2)を満たすポリエステルフィルムが記載されている。
(1)表面から深さ0.5μmまでの領域におけるトランス配座比At
0.5/Ag
0.5が1.00以上1.50以下であること。
(2)上記トランス配座比At
0.5/Ag
0.5と、表面から深さ1.0μmまでの領域におけるトランス配座比At
1.0/Ag
1.0が次の(式1)を満たすこと。
(At
1.0/Ag
1.0)×1.1≦At
0.5/Ag
0.5・・・(式1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが、特許文献1に記載の、ポリエステルフィルムと離型層とを含む離型フィルムについて検討を行ったところ、かかる離型フィルムを用いて製造されるセラミックグリーンシートに、微小な凹形状の欠陥や微小な凸形状の欠陥(以下、凹凸欠陥ともいう)が生じたり、厚みムラが生じたりするといった知見を得た。
【0006】
本開示は上記の事情に鑑みてなされたものであり、本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、凹凸欠陥が抑制され且つ厚みムラが低減されたセラミックグリーンシートを製造しうる、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムを提供することである。
本開示の他の一実施形態が解決しようとする課題は、上記剥離フィルムを含む積層体を提供することである。
また、本開示の他の一実施形態が解決しようとする課題は、凹凸欠陥が抑制され且つ厚みムラが低減されたセラミックグリーンシートを製造しうる、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の実施形態を含む。
<1> ポリエステル基材と剥離層とを含むセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムであって、
1m以上のフィルム幅を有し、
前記ポリエステル基材の厚みが前記剥離層の厚みに対して40倍以上であり、
示差走査熱量測定で測定されるプレピーク温度が160℃以上225℃以下であり、
前記フィルム幅方向における結晶化度のバラツキが5.0%以下である、
セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
<2> 前記フィルム幅方向に直交する方向における熱収縮率のバラツキ、及び、前記フィルム幅方向における熱収縮率のバラツキが、いずれも0.03%~0.50%である、<1>に記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
<3> 固有粘度(IV)が0.65dL/g以上である、<1>又は<2>に記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
<4> 前記ポリエステル基材が実質的に粒子を含まない、<1>~<3>のいずれか1つに記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
<5> さらに粒子含有層を含み、
前記剥離層、前記ポリエステル基材、及び前記粒子含有層をこの順に含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
<6> 前記粒子含有層が非ポリエステル樹脂を含む、<5>に記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
<7> 前記非ポリエステル樹脂が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、及びオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂である、<6>に記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
<8> 前記粒子含有層の最大突起高さSpが800nm以下である、<5>~<7>のいずれか1つに記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム。
<9> ポリエステル基材と剥離層とを含むセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの製造方法であって、
1m以上のフィルム幅を有するポリエステルフィルムを加熱する熱固定工程を含み、
前記熱固定工程において、ポリエステルフィルムの最高到達膜面温度を160℃以上225℃以下の範囲に制御し、かつ、フィルム幅方向における最高到達膜面温度のバラツキを5.0℃以下として加熱する、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの製造方法。
<10> <1>~<8>のいずれか1つに記載のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムと、セラミックを含む層と、を含む、積層体。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、凹凸欠陥が抑制され且つ厚みムラが低減されたセラミックグリーンシートを製造しうる、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムが提供される。
本開示の他の一実施形態によれば、上記剥離フィルムを含む積層体が提供される。
また、本開示の他の一実施形態によれば、凹凸欠陥が抑制され且つ厚みムラが低減されたセラミックグリーンシートを製造しうる、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】従来技術において得られたセラミックグリーンシートの断面図である。
【
図2】剥離層の表面にスジ状のシワが発生した剥離フィルムの観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム及びその製造方法、並びに、積層体について詳細に説明する。但し、本開示は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0011】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において、「工程」との用語には、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0012】
本明細書において、「1m以上のフィルム幅を有する剥離フィルム」とは、フィルム幅が1m以上である長尺の剥離フィルムを意味する。
このため、本明細書において、「長手方向」とは、長尺の剥離フィルム及び剥離フィルムに含まれるポリエステル基材の長尺方向を意味し、剥離フィルムの製造時における剥離フィルムの「搬送方向」及び「機械方向」とも同義である。
本明細書において、「幅方向」とは、長手方向に直交する方向を意味する。本明細書において、「直交」は、厳密な直交に限られず、略直交を含む。「略直交」とは、90°±5°の範囲内で交わることを意味し、90°±3°の範囲内で交わることが好ましく、90°±1°の範囲内で交わることがより好ましい。
また、本明細書において、「フィルム幅」とは、剥離フィルムの幅方向の両端間の距離を意味する。
【0013】
〔セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム〕
本開示のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムは、ポリエステル基材と剥離層とを含む。そして、本開示のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムは、1m以上のフィルム幅を有し、ポリエステル基材の厚みが剥離層の厚みに対して40倍以上であり、示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry、以下、「DSC」ともいう)で測定されるプレピーク温度が160℃以上225℃以下であり、フィルム幅方向における結晶化度のバラツキが5.0%以下である。
以下、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムを、単に、「剥離フィルム」ともいう。
【0014】
本発明者らは、特許文献1に記載されたポリエステルフィルムについて、特許文献1に記載のように離型層を形成してセラミックグリーンシート製造用として検討を行った。この検討により、特許文献1に記載されたポリエステルフィルムは、特許文献1に記載されている通り、長期保管後の離型層との密着性は良好ではあったが、かかるポリエステルフィルムと離型層とを含む離型フィルムを用いて製造されるセラミックグリーンシートにおいて、ピンホールなどの微小な凹形状の欠陥や凸形状の欠陥(すなわち、凹凸欠陥)が生じるといった知見を得た。
また、製造されるセラミックグリーンシートの一方の表面においてうねりが生じるといった知見も得た。具体的には、
図1に示すように、得られたセラミックグリーンシート10の一方の表面12において、上記離型フィルムのフィルム幅方向に沿って波状のうねり、すなわち、凹部と凸部とが連続的に連なった形状が見られた。さらに、上記のうねり(すなわち、凹部と凸部とが連続的に連なった形状)により、セラミックグリーンシートの全体にわたって厚みムラが生じていることも判明した。このようなセラミックグリーンシートの厚みムラは、製造されるセラミックコンデンサの容量をバラつかせる要因となるため、許容されるものではなかった。
なお、上記のうねりは、セラミックグリーンシートの剥離フィルムの剥離層の表面との接触面に生じており、剥離フィルムの剥離層の表面(すなわち、剥離面)にスジ状のシワが生じていることに起因する。剥離フィルムの剥離層の表面に生じるスジ状のシワは、剥離フィルムの長手方向に沿ってスジ状に延び、かつ、剥離フィルムの幅方向においては凹凸として現れるシワであって、例えば、
図2の実線で囲まれた領域の、長手方向に延びる凹凸形状として観察される。なお、
図2に示す画像(写真)は、剥離フィルムの剥離層の表面における観察領域の一部のみを示している。
【0015】
本開示の剥離フィルムによれば、凹凸欠陥が抑制され且つ厚みムラが低減されたセラミックグリーンシートを製造することができる。この理由は定かではないが、以下のように推測される。
本開示の剥離フィルムは、DSCで測定されるプレピーク温度が160℃以上225℃以下である。剥離フィルムのDSCのプレピーク温度を160℃以上とすることで、剥離フィルムの結晶化度のバラツキ及び熱収縮率差を小さくすることができ、剥離フィルム自体のフィルム幅方向における厚みムラ(例えば、上記スジ状のシワ)が低減されるものと推測される。そして、フィルム幅方向における厚みムラが低減された本開示の剥離フィルムを用いることで、上述のような厚みムラが低減されたセラミックグリーンシートを製造することができる。また、剥離フィルムのDSCのプレピーク温度を225℃以下とすることで、ポリエステル基材の熱分解によって生じるオリゴマーの生成を抑制することができ、生成したオリゴマーが剥離フィルムの表面へ析出することを抑制することができると推測される。その結果、剥離フィルムの表面の析出物が転写するが起因となって、セラミックグリーンシートに凹凸欠陥が生じることを抑制することができる。
また、本開示の剥離フィルムは、フィルム幅方向における結晶化度のバラツキが5.0%以下であることから、剥離フィルム自体のフィルム幅方向における厚みムラ(例えば、上記スジ状のシワ)が低減されているものと推測される。このように、フィルム幅方向における厚みムラが低減された本開示の剥離フィルムを用いることで、上述のような厚みムラが低減されたセラミックグリーンシートを製造することができる。
【0016】
本開示の剥離フィルムにおいて、ポリエステル基材の厚みは、剥離層の厚みに対して、40倍以上であり、80倍以上であることが好ましく、150倍以上であることがより好ましい。ポリエステル基材の厚みは、剥離層の厚みに対して、4000倍以下であることが好ましい。
このように、ポリエステル基材の厚みが剥離層の厚みよりも遥かに大きいことから、剥離フィルムの膜厚に占めるポリエステル基材の厚みが多いことになる。そのため、剥離フィルムにおける諸物性(具体的には、DSCで測定されるプレピーク温度、結晶化度、後述する、熱収縮率、固有粘度等)は、主として、ポリエステル基材における諸物性に大きく影響を受ける。
つまり、ポリエステル基材の厚みが剥離層の厚みより40倍以上であると、ポリエステル基材の諸物性を調整することで、剥離フィルムの諸物性を制御することができる。
【0017】
本開示の剥離フィルムにおいて、DSCで測定されるプレピーク温度は、160℃~225℃であり、凹凸欠陥が抑制され且つ厚みムラが低減されたセラミックグリーンシートを製造しうる観点から、160℃~220℃以下であることが好ましい。また、凹凸欠陥が抑制され且つ厚みムラが低減されたセラミックグリーンシートを製造しうる観点から、180℃~210℃であることが好ましい。
【0018】
本開示において、「DSCで測定されるプレピーク温度」は、DSC測定したときに最初に現れるピークの温度である。また、プレピーク温度は、ポリエステル基材を得る際の、熱固定時におけるポリエステルフィルムの最高到達膜面温度(熱固定温度ともいう)に相当する。そのため、本開示の剥離フィルムのDSCで測定されるプレピーク温度は、主として、ポリエステル基材のDSCで測定されるプレピーク温度に依存する。
剥離フィルムのDSCで測定されるプレピーク温度は、示差走査熱量測定(DSC)で常法により求められる値である。
【0019】
本開示の剥離フィルムのDSCのプレピーク温度を160℃~225℃とするためには、ポリエステル基材のDSCのプレピーク温度を160℃~225℃とすることが望ましい。
【0020】
本開示の剥離フィルムにおいて、フィルム幅方向における結晶化度のバラツキは、5.0%以下であり、4.5%以下であることが好ましく、厚みムラがより低減されたセラミックグリーンシートを製造しうる観点からは、4.0%以下であることがより好ましく、3.0%以下であることがさらに好ましい。
フィルム幅方向における結晶化度のバラツキの下限値は、特に制限はなく、0%であってもよいし、0%超であってもよいが、製造上、0.3%以上であることが多い。
本開示の剥離フィルムのフィルム幅方向における結晶化度のバラツキを5.0%以下とするためには、ポリエステル基材のフィルム幅方向における結晶化度のバラツキを5.0%以下とすることが望ましい。
【0021】
フィルム幅方向における結晶化度のバラツキの測定方法は、フィルム幅方向におけるフィルム全幅に対して、中央部(フィルムの幅方向の両端に対して等距離にある箇所)1点、両端2点の合計3点を切出し、切出した測定試料の結晶化度を測定し、中央部の結晶化度(すなわち、フィルム幅方向の中央部の結晶化度)から両端の結晶化度(すなわち、フィルム幅方向の端部の結晶化度)のうち値の小さい方の結晶化度を減算することにより算出される。なお、測定方法等の詳細は、実施例の欄に記載のとおりである。
【0022】
フィルム幅方向における結晶化度のバラツキは、フィルム幅長が1m以上である場合に顕著に生じやすい。これは、ポリエステル基材を製造する際に、ポリエステル基材の幅方向の端部での温度変化が大きいのに対し、幅方向の中央部付近では温度変化を生じにくいためである。
そのため、ポリエステル基材を製造する際の、幅方向の端部での温度変化を抑えることで、フィルム幅方向における結晶化度のバラツキを低減させることができる。
【0023】
本開示の剥離フィルムは、フィルム幅方向に直交する方向における熱収縮率のバラツキ、及び、フィルム幅方向における熱収縮率のバラツキが、いずれも、0.03%~0.50%であることが好ましく、厚みムラがより低減されたセラミックグリーンシートを製造しうる観点からは、0.03%~0.40%であることがより好ましく、0.03%~0.30%であることがさらに好ましい。
本開示の剥離フィルムのフィルム幅方向に直交する方向及びフィルム幅方向における熱収縮率のバラツキを0.03%~0.50%とするためには、ポリエステル基材のフィルム幅方向に直交する方向及びフィルム幅方向における熱収縮率のバラツキを0.03%~0.50%とすることが望ましい。また、ポリエステル基材の熱収縮率のバラツキは、ポリエステル基材の結晶化度のバラツキを調整することによって制御することができる。
【0024】
本開示の剥離フィルムにおける熱収縮率は、150℃で30分間の熱処理を行い、熱処理前後での剥離フィルムのフィルム長に基づき、以下の式から算出されるものである。
剥離フィルムの熱収縮率[%]=(熱処理前のフィルム長-熱処理後のフィルム長)/(熱処理前のフィルム長)×100)
【0025】
剥離フィルムの熱収縮率のバラツキは、フィルム幅方向におけるフィルム全幅に対して、中央部1点、両端2点の合計3点を切出し、熱収縮率を測定し、フィルム幅方向の中央部の熱収縮率からフィルム幅方向の両端の熱収縮率のうち中央部の熱収縮率との差が大きい方の熱収縮率を減算し、その絶対値から求める。このとき、フィルム長を測定する方向がフィルム幅方向であれば、フィルム幅方向における熱収縮率のバラツキが求められ、また、フィルム長を測定する方向がフィルム幅方向に直交する方向(すなわち、長手方向)であれば、フィルム幅方向に直交する方向における熱収縮率のバラツキが求められる。なお、測定方法等の詳細は、実施例の欄に記載のとおりである。
【0026】
本開示の剥離フィルムは、固有粘度(IV:Interisic Viscosity)が0.65dL/g以上であることが好ましく、0.65dL/g~0.75dL/gであることがより好ましい。
剥離フィルムの固有粘度(IV)が0.65dL/g以上であると、ポリエステル分子が大きくなり、分子が動きにくいものと推測される。そのため、固有粘度(IV)が0.65dL/g以上である剥離フィルムは、オリゴマーの析出を抑制することができ、凹凸欠陥が抑制されたセラミックグリーンシートを製造することができる。
固有粘度は、重合条件により調節することができる。
【0027】
固有粘度(IV)は、溶液粘度(η)と溶媒粘度(η0)の比ηr(=η/η0;相対粘度)から1を引いた比粘度(ηsp=ηr-1)を濃度で割った値を濃度がゼロの状態に外挿した値である。固有粘度(IV)は、ウベローデ型粘度計を用い、ポリエステルを1,1,2,2-テトラクロロエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒に溶解させ、25℃の溶液粘度から求められる。
【0028】
<ポリエステル基材>
本開示の剥離フィルムは、ポリエステル基材を含む。
ポリエステル基材は、主たる重合体成分としてポリエステル樹脂を含む、フィルム状の物体である。ここで、「主たる重合体成分」とは、フィルム状の物体に含まれる全ての重合体のうち最も含有量(質量)が多い重合体を意味する。
ポリエステル基材は、1種単独のポリエステル樹脂を含んでいてもよく、2種以上のポリエステル樹脂を含んでいてもよい。
【0029】
ポリエステル基材におけるポリエステル樹脂の含有量は、ポリエステル基材中の重合体の全質量に対して、85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましく、98質量%以上が特に好ましい。
ポリエステル樹脂の含有量の上限は、特に制限されず、ポリエステル基材中の重合体の全質量に対して、例えば100質量%以下の範囲で適宜設定できる。
ポリエステル基材がポリエチレンテレフタレートを含む場合、ポリエチレンテレフタレートの含有量は、ポリエステル基材中のポリエステル樹脂の全質量に対して、90質量%~100質量%が好ましく、95質量%~100質量%がより好ましく、98~100質量%が更に好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0030】
ポリエステル基材は、ポリエステル樹脂以外の成分(例えば、触媒、未反応の原料成分、粒子、水等)を含んでいてもよい。
【0031】
剥離フィルムの平滑性が向上する観点から、ポリエステル基材は、実質的に粒子を含まないことが好ましい。粒子としては、例えば、後述する粒子含有層が含む粒子が挙げられる。
本明細書において「粒子を実質的に含まない」とは、ポリエステル基材について、蛍光X線分析で粒子に由来する元素を定量分析した際に、粒子の含有量がポリエステル基材の全質量に対して50質量ppm以下であることで定義され、好ましくは10質量ppm以下であり、より好ましくは検出限界以下である。これは積極的に粒子をポリエステル基材中に添加させなくても、外来異物由来のコンタミ成分、原料樹脂、又は、ポリエステル基材の製造工程におけるライン若しくは装置に付着した汚れが剥離して、ポリエステル基材中に混入する場合があるためである。
【0032】
[ポリエステル基材の性状]
(厚み)
ポリエステル基材の厚みは、剥離性を制御できる観点で、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、40μm以下が更に好ましい。厚みの下限は特に制限されないが、強度が向上し、加工性が向上する観点で、3μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、20μm以上が更に好ましい。
ポリエステル基材の厚みは、剥離フィルムの主面に対して垂直な断面を有する切片を作製し、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)又は透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いて測定される、上記切片の5か所の厚みの算術平均値とする。
【0033】
ポリエステル基材の製造方法、及びポリエステル基材に含まれるポリエステル樹脂の詳細は、本開示の剥離フィルムの製造方法の欄にて、詳細に説明する。
【0034】
<剥離層>
剥離層は、剥離フィルムを剥離可能とするために設けられる。
セラミックグリーンシートは、この剥離層の表面(即ち、剥離層のポリエステル基材とは反対側の表面)である剥離面に形成される。即ち、剥離フィルムの剥離面には、セラミックグリーンシートが剥離可能に製造される。
なお、剥離層は、ポリエステル基材の表面に直接設けてもよく、他の層を介してポリエステル基材上に設けてもよいが、平滑性がより優れる観点で、ポリエステル基材の表面に直接設けることが好ましい。
【0035】
剥離層は、上記のようにセラミックグリーンシートを剥離可能に製造できればその構成は特に制限されないが、剥離剤を含むことが好ましい。
【0036】
以下、剥離層に含まれる成分について詳述する。
【0037】
[剥離剤]
剥離剤としては、特に制限されないが、例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アルキド樹脂、及び、各種ワックスが挙げられる。また、剥離剤は樹脂であることが好ましく、セラミックグリーンシートの剥離性により優れる観点から、シリコーン樹脂が好ましい。
剥離剤は、架橋構造を有していることが好ましい。つまり、剥離層は、架橋膜であることが好ましい。
架橋構造を有する剥離剤を形成するためには、後述するように、架橋剤を含む剥離層形成用組成物を用いて剥離層を形成する方法が挙げられる。
【0038】
シリコーン樹脂とは、分子内にシリコーン構造を有する樹脂を意味する。シリコーン樹脂としては、硬化型シリコーン樹脂、シリコーングラフト樹脂、及び、アルキル変性等の変性シリコーン樹脂が挙げられ、反応性の硬化型シリコーン樹脂が好ましい。
反応性の硬化型シリコーン樹脂としては、付加反応系のシリコーン樹脂、縮合反応系のシリコーン樹脂、及び、紫外線又は電子線硬化系のシリコーン樹脂が挙げられる。
【0039】
付加反応系のシリコーン樹脂としては、例えば、末端又は側鎖にビニル基を導入したポリジメチルシロキサンとハイドロジエンシロキサンとを、白金触媒を用いて反応させて硬化させることにより得られる樹脂が挙げられる。
縮合反応系のシリコーン樹脂としては、例えば、末端にOH基を有するポリジメチルシロキサンと、末端にH基を有するポリジメチルシロキサンを、有機錫触媒を用いて縮合反応させることにより形成される、3次元架橋構造を有する樹脂が挙げられる。
紫外線硬化系のシリコーン樹脂としては、シリコーンゴム架橋と同じラジカル反応を利用するもの、不飽和基を導入して光硬化させるもの、紫外線又は電子線でオニウム塩を分解して強酸を生成し、エポキシ基を開裂させて架橋させるもの、及び、ビニルシロキサンへのチオールの付加反応で架橋するものが挙げられる。より具体的には、アクリレート変性されたポリジメチルシロキサン、及び、グリシドキシ変性されたポリジメチルシロキサンが挙げられる。
【0040】
[他の樹脂]
剥離層は、上記剥離剤としての樹脂以外に、剥離剤以外の樹脂(以下、「他の樹脂」ともいう。)を含んでいてもよい。
他の樹脂としては、公知の樹脂を利用することができる。その他の樹脂としては、例えば、紫外線硬化性樹脂、及び、熱硬化性樹脂が挙げられ、インライン塗布適性があり、凹凸欠陥がより抑制され且つ厚みムラがより低減されたセラミックグリーンシートを製造しうる観点から、熱硬化性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂として、具体的には、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、オレフィン樹脂、及び、ウレタン樹脂が挙げられ、良好な硬化膜が得られる観点から、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、及び、オレフィン樹脂が好ましい。
なお、後述する剥離層形成用組成物において、他の樹脂又は他の樹脂を合成する際のその原料となる化合物と、重合開始剤及び/又は触媒とを含んでいてもよく、剥離層は、重合開始剤及び/又は触媒の残渣物を含んでいてもよい。
【0041】
[添加剤]
剥離層は、上記剥離剤としての樹脂及びその他の樹脂以外に、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、界面活性剤、剥離力を調整するための軽剥離添加剤及び重剥離添加剤、密着向上剤、並びに、帯電防止剤が挙げられる。
【0042】
剥離層に含まれる剥離剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
剥離層における剥離剤の含有量は、剥離層の全質量に対して、0.1質量%~98質量%が好ましく、0.5質量%~50質量%がより好ましい。
剥離層における他の樹脂の含有量は、剥離層の全質量に対して、0質量%~98質量%が好ましく、1質量%~95質量%がより好ましい。
剥離層における剥離剤としての樹脂及び他の樹脂以外の残部は、上記の添加剤、剥離層形成用組成物に含まれる溶剤、重合開始剤、触媒等の残渣物であってよい。
【0043】
[剥離層の性状]
(厚み)
剥離層の厚みは、剥離性能及び剥離層表面の平滑性がバランス良く優れる観点で、10nm~1000nmが好ましく、30nm~700nmがより好ましい。
剥離層の厚みは、剥離フィルムの主面に対して垂直な断面を有する切片を作製し、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定される、上記切片の5か所の厚みの算術平均値とする。
【0044】
(剥離面の表面自由エネルギー)
剥離層の表面(すなわち、剥離面)の表面自由エネルギーは、5mJ/m2~50mJ/m2が好ましく、10mJ/m2~35mJ/m2がより好ましい。
剥離面の表面自由エネルギーが上記範囲であることで、セラミックグリーンシートが剥離しやすく、また、セラミックグリーンシートを製造する際のセラミックスラリーの塗布性が良好となる。
剥離面の表面自由エネルギーは、剥離層を形成する樹脂の種類及び添加剤により調整できる。
【0045】
なお、剥離面の表面自由エネルギーは、接触角計(例えば、協和界面化学社製「DROPMASTER-501」等)を用いて、25℃の条件にて、剥離面に精製水、ヨウ化メチレン及びエチレングリコールの液滴を滴下し、液滴が表面に付着してから1秒後の接触角を測定し、得られたそれぞれの接触角から北崎・畑の方法に従って算出することにより求められる。
上記の方法で得られる「表面自由エネルギー」は、表面自由エネルギーの極性成分及び水素結合成分の合計である。
【0046】
(剥離面の最大突起高さSp、面平均粗さSa)
剥離面に製造するセラミックグリーンシートを平滑にする観点で、剥離面はできるだけ平滑であることが好ましい。具体的には、剥離面の最大突起高さSpは、1nm~60nmが好ましく、1nm~40nmがより好ましい。
また、剥離面の面平均粗さSaは、0nm~10nmが好ましく、0nm~5nmがより好ましく、0nm~2nmが更に好ましい。
剥離面の最大突起高さSp及び面平均粗さSaは、剥離層を設ける際に剥離層に粒子を入れないこと、並びに、剥離層を形成する樹脂及び添加剤を選択することにより調整できる。
【0047】
なお、剥離面の最大突起高さSp及び面平均粗さSaは、剥離面の表面を、光学干渉計((株)日立ハイテク製「Vertscan 3300G Lite」)を用いて下記の条件で測定し、その後、内蔵されているデータ解析ソフトにて解析することにより求められる。
最大突起高さSpの測定では、測定位置を変えて5回測定し、得られる測定値の最大値を最大突起高さSpの測定値とする(内蔵されているデータ解析ソフトではPと表記される)。また、面平均粗さSaの測定では、測定位置を変えて5回測定し、得られる測定値の平均値を面平均粗さSaの測定値とする。具体的な測定条件は、以下の通りである。
測定モード:WAVEモード
対物レンズ:50倍
測定面積:186μm×155μm
【0048】
<粒子含有層>
本開示の剥離フィルムは、粒子含有層をさらに含むことが好ましく、剥離層、ポリエステル基材、及び粒子含有層をこの順に含むことがより好ましい。
【0049】
粒子含有層は、粒子を含む層のことをいう。
剥離フィルムに粒子含有層が設けられていると、剥離フィルムの搬送性を向上できる。具体的には、剥離フィルムにおいて、巻き品質を向上(ブロッキングを抑制)し、搬送時のキズ及び欠陥の発生を抑制し、高速搬送における搬送シワを低減できる。
【0050】
粒子含有層は、ポリエステル基材の表面に直接設けてもよく、他の層を介してポリエステル基材の表面に設けてもよいが、密着性がより優れる観点で、ポリエステル基材の表面に直接設けることが好ましい。
【0051】
また、粒子含有層は、粒子及びバインダーを含むことが好ましく、さらに、添加剤を含んでいてもよい。
【0052】
以下、粒子、バインダー、及び添加剤について説明する。
【0053】
(粒子)
粒子含有層に含まれる粒子の平均粒子径は、特に制限されず、10nm~2μmが好ましく、搬送性がより優れる観点及び転写痕が抑制できる観点から、30nm~1.5μmがより好ましく、30nm~500nmがさらに好ましい。
また、搬送性がより優れる点及び転写痕が抑制できる観点で、粒子含有層に含まれる粒子の平均粒子径が10nm~200nm(より好ましくは30nm~130nm)であり、粒子含有層の厚みが1nm~200nm(より好ましくは10nm~100nm)であり、かつ、粒子の平均粒子径が粒子含有層の厚みよりも大きいことが好ましい。
【0054】
粒子含有層に含まれる粒子としては、1種単独で用いてもよく、2種以上の粒子を用いてもよい。
粒子含有層が、粒子径の異なる2種以上の粒子を含む場合、粒子含有層は、平均粒子径が上記範囲内にある粒子を少なくとも1種含むことが好ましく、粒子径の異なる2種以上の粒子がいずれも平均粒子径が上記範囲内にある粒子であることがより好ましい。
【0055】
粒子含有層に含まれる粒子としては、例えば、有機粒子及び無機粒子が挙げられる。中でも、セラミックグリーンシートを製造した場合に、得られたセラミックグリーンシートを用いて製造されるセラミックコンデンサの不良率を抑制できる観点から、有機粒子が好ましい。
有機粒子としては、樹脂粒子が好ましい。樹脂粒子を構成する樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、スチレン樹脂、及び、スチレン-アクリル樹脂が挙げられる。樹脂粒子は、架橋構造を有していてもよい。架橋構造を有する樹脂粒子としては、例えば、ジビニルベンゼン架橋粒子が挙げられる。
なお、本開示において、アクリル樹脂とは、アクリレート又はメタクリレート由来の構成単位を含む樹脂を意味する。
無機粒子としては、例えば、シリカ粒子(二酸化ケイ素粒子ともいう)、チタニア粒子(酸化チタン粒子ともいう)、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、及び、アルミナ粒子(酸化アルミニウム粒子ともいう)が挙げられる。中でも、無機粒子は、ヘイズ、及び、耐久性がより向上する観点から、シリカ粒子であることが好ましい。
【0056】
粒子の形状は、特に制限されず、例えば、米粒状、球形状、立方体状、紡錘形状、鱗片状、凝集状、及び、不定形状が挙げられる。凝集状とは、1次粒子が凝集した状態を意味する。凝集状にある粒子の形状は制限されないが、球状又は不定形状が好ましい。
【0057】
凝集粒子としては、ヒュームドシリカ粒子が好ましい。入手可能な市販品としては、例えば、日本アエロジル(株)製のアエロジルシリーズが挙げられる。
非凝集粒子としては、コロイダルシリカ粒子が好ましい。入手可能な市販品としては、例えば、日産化学(株)製のスノーテックス(登録商標)シリーズが挙げられる。
【0058】
粒子含有層における粒子の含有量は、搬送性から、粒子含有層の全質量に対して、0.1質量%~30質量%が好ましく、1質量%~25質量%がより好ましく、1質量%~15質量%が更に好ましい。
また、粒子の含有量は、剥離フィルムの全質量に対して、0.0001質量%~0.01質量%が好ましく、0.0005質量%~0.005質量%がより好ましい。
【0059】
(非ポリエステル樹脂(バインダー))
粒子含有層は、非ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。粒子含有層に含まれる非ポリエステル樹脂は、バインダーとしての機能を有する。
【0060】
非ポリエステル樹脂とは、ポリエステル樹脂以外の樹脂を意味する。具体的に、非ポリエステル樹脂は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、スチレンブタジエン樹脂、及び、アクリロニトリルブタジエン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、及びオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。
【0061】
ここで、非ポリエステル樹脂(特に、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、及びオレフィン樹脂)と、ポリエステル樹脂とは、溶解度パラメータ(SP値)が離れている。つまり、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、及びオレフィン樹脂と、ポリエステル樹脂との相溶性が不十分であるので、オリゴマー等の不純物がポリエステル基材から粒子含有層を経由して搬送面に析出しにくくなる。これにより、ポリエステル基材に含まれる不純物に起因する突起が搬送面に生じにくくなると推察している。
【0062】
上記のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、及びオレフィン樹脂等の非ポリエステル樹脂としては、特に制限されず、公知の樹脂を利用できる。
非ポリエステル樹脂は、酸変性樹脂、すなわち、酸基含有非ポリエステル樹脂であることが好ましい。
また、粒子含有層は、ポリエステル樹脂を含んでいてもよい。
【0063】
アクリル樹脂は、(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含む樹脂であり、スチレンなどのビニル単量体を共重合していてもよい。アクリル樹脂としては、特に制限されないが、炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むことが好ましく、炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むことがより好ましい。
アクリル樹脂は、酸変性成分を有していてもよい。アクリル樹脂は、酸変性成分として、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を含んでいてもよい。また、(メタ)アクリル酸は、酸無水物を形成していてもよいし、アルカリ金属、有機アミン及びアンモニアから選択される少なくとも1つで中和されていてもよい。
【0064】
アクリル樹脂の酸価は、30mgKOH/g以下が好ましく、20mgKOH/g以下がより好ましい。酸価の下限は、特に制限されず、例えば、0mgKOH/gであるが、水分散体として塗布する観点からは、2mgKOH/g以上が好ましい。アクリル樹脂の酸価を上記範囲とする、及び/又は、炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むことで、より一層ポリエステル樹脂と相溶しにくい樹脂とすることができ、ポリエステル基材に含まれるオリゴマー等の不純物が粒子含有層に析出することがより抑制され、セラミックグリーンシートにおける凹凸欠陥をより抑制できる。
【0065】
オレフィン樹脂は、主鎖にオレフィンに由来する構成単位を含む樹脂であればよい。主鎖にオレフィンに由来する構造単位を有することで、ポリエステル樹脂と相溶しにくい樹脂とすることができ、ポリエステル基材に含まれるオリゴマー等の不純物が粒子含有層に析出することが抑制され、セラミックグリーンシートにおける凹凸欠陥を抑制することができる。
オレフィンとしては、特に制限されないが、炭素数2~6のアルケンが好ましく、エチレン、プロピレン、又は、ヘキセンがより好ましく、エチレンが更に好ましい。
ポリオレフィンが有するオレフィンに由来する構成単位は、ポリオレフィンの全ての構成単位に対して、50モル%~99モル%が好ましく、60モル%~98モル%がより好ましい。
【0066】
オレフィン樹脂としては、酸変性オレフィン樹脂が好ましい。酸変性オレフィン樹脂としては、例えば、上記オレフィン樹脂を、不飽和カルボン酸又はその無水物等の酸変性成分で変性した共重合体が挙げられる。
【0067】
酸変性オレフィン樹脂の市販品としては、例えば、ザイクセンAC、A、L、NC及びN等のザイクセン(登録商標)シリーズ(住友精化(株)製)、ケミパールS100、S120、S200、S300、S650及びSA100等のケミパール(登録商標)シリーズ(三井化学(株)製)、ハイテックS3121及びS3148K等のハイテック(登録商標)シリーズ(東邦化学(株)製)、アローベースSE-1013、SE-1010、SB-1200、SD-1200、SD-1200、DA-1010及びDB-4010等のアローベース(登録商標)シリーズ(ユニチカ(株)製)、ハードレンAP-2、NZ-1004及びNZ-1005(東洋紡(株)製)、並びに、セポルジョンG315、VA407(住友精化(株)製)が挙げられる。
また、特開2014-076632号公報の[0022]~[0034]に記載の酸変性オレフィン樹脂も好ましく用いることができる。
【0068】
主鎖にウレタン結合を有する重合体であれば制限されず、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物との反応生成物等の公知のウレタン樹脂を利用できる。
塗布により製膜しやすい観点で、ウレタン樹脂は、酸性基を有するウレタン樹脂、又は、ウレタン樹脂と分散剤とを含む形態が好ましい。酸性基としては、カルボキシル基等が挙げられる。
ウレタン樹脂は、例えば、原料となるポリオール化合物及び/又はイソシアネート化合物のそれぞれの構造及び疎水性(親水性)を調整することで、ポリエステル樹脂と相溶しにくい樹脂とすることができ、ポリエステル基材に含まれるオリゴマー等の不純物が粒子含有層に析出することが抑制され、セラミックグリーンシートにおける凹凸欠陥を抑制することができる。凹凸欠陥をより抑制できる観点で、ウレタン樹脂は、ポリエステル構造を含むことが好ましい。
ウレタン樹脂の市販品としては、例えば、ハイドラン(登録商標)AP-20、AP-40N及びAP-201(以上、DIC(株)製)、タケラック(登録商標)W-605、W-5030及びW-5920(以上、三井化学(株)製)、スーパーフレックス(登録商標)210及び130、並びに、エラストロン(登録商標)H-3-DF、E-37及びH-15(以上、第一工業製薬(株)製)が挙げられる。
【0069】
粒子含有層に含まれる非ポリエステル樹脂は、架橋構造を有していてもよい。つまり、粒子含有層は、架橋膜であってもよい。
架橋構造を有する非ポリエステル樹脂を形成するためには、後述するように、架橋剤を含む粒子含有層形成用組成物を用いて粒子含有層を形成する方法が挙げられる。
【0070】
粒子含有層は、1種単独のバインダーを含んでいてもよく、2種以上のバインダーを含んでいてもよい。また、粒子含有層は、1種単独の非ポリエステル樹脂を含んでいてもよく、2種以上の非ポリエステル樹脂を含んでいてもよい。
バインダー(好ましくは非ポリエステル樹脂)の含有量は、凹凸欠陥を抑制する観点から、粒子含有層の全質量に対して、30質量%~99.8質量%が好ましく、50質量%~99.5質量%がより好ましい。
【0071】
(添加剤)
粒子含有層は、上記の粒子及びバインダー以外の添加剤を含んでいてもよい。
粒子含有層に含まれる添加剤としては、例えば、界面活性剤、ワックス、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、強化剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、防錆剤、及び、防黴剤が挙げられる。
【0072】
粒子含有層は、搬送面において、粒子により形成される突起が存在する箇所以外の領域の平滑性が向上する観点で、界面活性剤を含むことが好ましい。
界面活性剤としては、特に制限されず、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及び、炭化水素系界面活性剤が挙げられる。中でも、界面活性剤は、炭化水素系界面活性剤であることが好ましい。
【0073】
シリコーン系界面活性剤としては、疎水基としてケイ素含有基を有する界面活性剤であれば特に制限されず、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、及び、ポリメチルアルキルシロキサンが挙げられる。
シリコーン系界面活性剤の市販品としては、例えば、BYK(登録商標)-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、及び、BYK-349(以上、BYK社製)、並びに、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、及び、KF-6017(以上、信越化学工業(株)製)が挙げられる。
【0074】
フッ素系界面活性剤としては、疎水基としてフッ素含有基を有する界面活性剤であれば特に制限されず、例えば、パーフルオロオクタンスルホン酸、及び、パーフルオロカルボン酸が挙げられる。
フッ素系界面活性剤の市販品としては、例えば、メガファック(登録商標)F-114、F-410、F-440、F-447、F-553、及び、F-556(以上、DIC(株)製)、並びに、サーフロン(登録商標)S-211、S-221、S-231、S-233、S-241、S-242、S-243、S-420、S-661、S-651、及びS-386(AGCセイミケミカル(株)製)が挙げられる。
また、フッ素系界面活性剤としては、環境適性向上の観点から、パーフルオロオクタン酸(PFOA)及びパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)等の炭素数が7以上の直鎖状パーフルオロアルキル基を有する化合物の代替材料に由来する界面活性剤を使用することが好ましい。
【0075】
炭化水素系界面活性剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び、両性界面活性剤が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、及び、脂肪酸塩が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリアルキレングリコールモノ又はジアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールモノ又はジアルキルエステル、及び、ポリアルキレングリコールモノアルキルエステル・モノアルキルエーテルが挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、第1級~第3級アルキルアミン塩、及び、第4級アンモニウム化合物が挙げられる。
両性界面活性剤としては、分子内にアニオン性部位とカチオン性部位の両者を有する界面活性剤が挙げられる。
【0076】
アニオン性界面活性剤の市販品としては、例えば、ラピゾール(登録商標)A-90、A-80、BW-30、B-90、及び、C-70(以上、日油(株)製)、NIKKOL(登録商標)OTP-100(以上、日光ケミカル(株)製)、コハクール(登録商標)ON、L-40、及び、フォスファノール(登録商標)702(以上、東邦化学工業(株)製)、並びに、ビューライト(登録商標)A-5000、及び、SSS(以上、三洋化成工業(株)製)が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤の市販品としては、例えば、ナロアクティー(登録商標)CL-95、及び、HN-100(商品名:三洋化成工業(株)製)、リソレックスBW400(商品名:高級アルコール工業(株)製)、EMALEX(登録商標)ET-2020(以上、日本エマルジョン(株)製)、並びに、サーフィノール(登録商標)104E、420、440、465、及び、ダイノール(登録商標)604、607(以上、日信化学工業(株)製)、が挙げられる。
【0077】
炭化水素系界面活性剤の中でも、アニオン性界面活性剤及び/又はノニオン性界面活性剤が好ましく、アニオン性界面活性剤がより好ましい。
【0078】
アニオン性の炭化水素系界面活性剤は、平滑性がより向上する観点で、複数個の疎水性末端基を有することが好ましい。疎水性末端基は、炭化水素系界面活性剤が有する炭化水素基の一部であってよい。例えば、分岐鎖構造を有する炭化水素基を末端に有する炭化水素系界面活性剤は、複数個の疎水性末端基を有することになる。
複数個の疎水性末端基を有するアニオン性の炭化水素系界面活性剤としては、スルホコハク酸ジ-2-エチルヘキシルナトリウム(疎水性末端基を4つ有する)、スルホコハク酸ジ-2-エチルオクチルナトリウム(疎水性末端基を4つ有する)、及び、分岐鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩(疎水性末端基を2つ有する)が挙げられる。
【0079】
界面活性剤は1種用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
粒子含有層が界面活性剤を含む場合、界面活性剤の含有量は、粒子含有層の全質量に対して、0.1質量%~10質量%が好ましく、表面平滑性により優れる観点で、0.1質量%~5質量%がより好ましく、0.5質量%~2質量%が更に好ましい。
【0080】
ワックスとしては、特に制限されず、天然ワックスも合成ワックスでもよい。天然ワックスとしては、カルナバワックス、キャンデリラワックス、ミツロウ、モンタンワックス、パラフィンワックス、及び、石油ワックスが挙げられる。その他、国際公開第2017/169844号の[0087]の記載の滑り剤も使用できる。
ワックスの含有量は、粒子含有層の全質量に対して、0質量%~10質量%が好ましい。
【0081】
[粒子含有層の性状]
(厚み)
粒子含有層は、例えば、粒子及び非ポリエステル樹脂を含む組成物をポリエステルフィルムの一方の面上に塗布することにより形成する場合、粒子含有層の厚みが1μm以下になることが多い。
また、粒子含有層が積層されたポリエステルフィルムを、共押出成形によって形成する場合には、粒子含有層の厚みは、1μm~10μmになることが多い。
粒子含有層の厚みは、1nm~3μmが好ましく、塗布により製造する場合、製造適性、及び、ヘイズ低減の観点から、1nm~500nmが好ましく、1nm~250nmがより好ましく、10nm~100nmがさらに好ましく、20nm~100nmが特に好ましい。
粒子含有層の厚みは、剥離フィルムの主面に対して垂直な断面を有する切片を作製し、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定される、上記切片の5か所の厚みの算術平均値とする。
【0082】
(粒子含有層の表面自由エネルギー)
粒子含有層の表面(即ち、粒子含有層のポリエステル基材とは反対側の表面)における表面自由エネルギーは、25mJ/m2~65mJ/m2が好ましく、25mJ/m2~60mJ/m2が好ましく、25mJ/m2~50mJ/m2がより好ましく、30mJ/m2~45mJ/m2が更に好ましい。
粒子含有層の表面における表面自由エネルギーが上記範囲であることにより、ポリエステル基材に含まれるオリゴマー等の不純物が粒子含有層に析出することを抑制し、セラミックグリーンシートにおける凹凸欠陥を抑制することができる。
なお、オリゴマーとは、ポリエステルの重合時に生じる低分子量の副生成物ポリエスル基材に不純物として含まれる成分である。
【0083】
(粒子含有層の最大突起高さSp、表面の面平均粗さSa)
セラミックグリーンシート製造時におけるセラミックグリーンシートの凹凸欠陥をより抑制する観点から、粒子含有層の表面における最大突起高さSpは、800nm以下が好ましい。特に、粒子含有層が無機粒子を含む場合、粒子含有層の表面における最大突起高さSpは、300nm以下が好ましい。最大突起高さSpの下限は特に制限されないが、10nm以上が好ましい。
また、粒子含有層の表面における面平均粗さSaは0nm~10nmが好ましく、0nm~5nmがより好ましく、1nm~3nmが更に好ましい。
粒子含有層の表面の最大突起高さSp及び面平均粗さSaの測定方法は、上述した剥離面の最大突起高さSp及び面平均粗さSaの測定方法と同様である。
【0084】
<剥離フィルムの性状>
[厚み]
剥離フィルムの厚みは、剥離性がより優れる観点で、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、40μm以下が更に好ましい。また、剥離フィルムの厚みは、強度が向上し、加工性が向上する観点で、3μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、20μm以上が更に好ましい。
剥離フィルムの厚みは、連続式触針式膜厚計を用いて測定したものとする。なお、測定方法等の詳細は、実施例の欄に記載のとおりである。
【0085】
〔剥離フィルムの製造方法〕
本開示の剥離フィルムの製造方法について説明する。
本開示の剥離フィルムの製造方法は、上述した本開示の剥離フィルムが得られれば特に制限されず、公知の方法が挙げられる。
【0086】
中でも、剥離フィルムを生産性よく製造できる観点から、好ましい剥離フィルムの製造方法としては、
押出成形により、未延伸のポリエステルフィルムを形成する押出成形工程と、
未延伸のポリエステルフィルムを搬送方向及び幅方向のいずれか一方に延伸して一軸延伸されたポリエステルフィルムを形成する第1延伸工程、及び、一軸延伸されたポリエステルフィルムを搬送方向及び幅方向の他方に延伸して二軸延伸されたポリエステルフィルムを形成する第2延伸工程を、段階的又は同時に実施する延伸工程と、を含み、
押出成形工程と延伸工程との間、第1延伸工程と第2延伸工程との間、又は、延伸工程の後に、ポリエステルフィルムの一方の面に剥離層形成用組成物を付与して剥離層を形成する剥離層形成工程と、を含む製造方法が挙げられる。
【0087】
上記製造方法により、ポリエステル基材と剥離層とを含む剥離フィルムが得られる。すなわち、得られた剥離フィルムにおけるポリエステル基材は、未延伸のポリエステルフィルムが搬送方向及び幅方向それぞれに延伸されて得られたフィルム、すなわち、二軸延伸されたポリエステルフィルムであることが好ましい。
【0088】
また、本開示の剥離フィルムの製造方法は、押出成形工程と延伸工程との間、第1延伸工程と第2延伸工程との間、又は、延伸工程の後に、ポリエステルフィルムの他方の面に粒子含有層形成用組成物を付与して粒子含有層を形成する粒子含有層形成工程と、をさらに含むことが好ましい。
【0089】
上記製造方法により、剥離層、ポリエステル基材、及び粒子含有層をこの順に含む剥離フィルムが得られる。
【0090】
本開示の剥離フィルムの製造方法は、例えば、以下の態様であることが好ましい。
好ましい態様としては、上述した、押出成形工程、延伸工程、剥離層形成工程、必要に応じて行う粒子含有層形成工程の他に、
延伸工程にて延伸されたポリエステルフィルムを加熱して熱固定する熱固定工程と、
熱固定工程により熱固定されたポリエステルフィルムを、熱固定工程よりも低い温度で加熱して熱緩和する熱緩和工程と、
熱緩和工程により熱緩和されたポリエステルフィルムを冷却する冷却工程と、
を含むことが好ましい。
好ましい態様にて、熱固定工程における熱固定温度、熱緩和工程における熱緩和温度、及び冷却工程におけるポリエステルフィルムの冷却速度をそれぞれ後述する範囲内とすることで、剥離フィルムの剥離層の表面(すなわち、剥離面)に生じるスジ状のシワを抑制し易くなる。剥離フィルムの剥離層の表面に生じるスジ状のシワが抑制されることで、かかる剥離フィルムを用いて製造されるセラミックグリーンシートの厚みムラを抑制することができる。
つまり、厚みムラがより抑制されたセラミックグリーンシートを製造する観点からは、上記好ましい態様にて剥離フィルムを製造することが望ましい。
【0091】
以下、本開示の剥離フィルムの製造方法の好ましい一態様における各工程について説明する。なお、本開示の剥離フィルムの製造方法は、好ましい一態様に限定されず、以下の工程を適宜省略することができる。
【0092】
[押出成形工程]
押出成形工程は、押出成形により、未延伸のポリエステルフィルムを形成する工程である。
より具体的には、原料となるポリエステル樹脂を含む溶融樹脂をフィルム状に押し出して、未延伸のポリエステルフィルムを形成する工程である。
【0093】
押出成形法は、例えば押出機を用いて原料樹脂の溶融体を押し出すことによって、原料樹脂を所望の形状に成形する方法である。
押出ダイから押し出された溶融体は、冷却されることによってフィルム状に成形される。例えば、溶融体をキャスティングロールに接触させ、キャスティングロール上で溶融体を冷却及び固化することで、溶融体をフィルム状に成形できる。溶融体の冷却においては、更に、溶融体に風(好ましくは冷風)を当てることが好ましい。
【0094】
以下、本工程で用いるポリエステル樹脂について説明する。
粒子を実質的に含まないポリエステル基材を作製するためには、押出成形の際に、粒子を含まないポリエステル樹脂のペレットを用いることが好ましい。
【0095】
(ポリエステル樹脂)
本工程で用いられるポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とジオール成分とを共重合させて合成されるものである。
また、ポリエステル樹脂は、カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上である多官能モノマー(以下、「3官能以上の多官能モノマー」又は単に「多官能モノマー」ともいう。)に由来する構成単位を含むものであることが好ましい。
【0096】
ポリエステル樹脂は、例えば、ジカルボン酸成分とジオール成分とを周知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができ、更に好ましくは、これに3官能以上の多官能モノマーを共重合させて得られる。
また、ポリエステル樹脂は、末端封止剤に由来する構造が導入されていてもよい。
【0097】
以下、ジカルボン酸成分、ジオール成分、多官能モノマー、及び末端封止剤について説明する。
【0098】
-ジカルボン酸成分-
ジカルボン酸成分としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸化合物、脂環式ジカルボン酸化合物、及び、芳香族ジカルボン酸化合物等のジカルボン酸、並びに、それらジカルボン酸のメチルエステル化合物及びエチルエステル化合物等のジカルボン酸エステルが挙げられる。中でも、芳香族ジカルボン酸、又は、芳香族ジカルボン酸メチルが好ましい。
【0099】
脂肪族ジカルボン酸化合物としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、及び、エチルマロン酸が挙げられる。
脂環式ジカルボン酸化合物としては、例えば、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、及び、デカリンジカルボン酸が挙げられる。
【0100】
芳香族ジカルボン酸化合物としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルインダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、及び、9,9’-ビス(4-カルボキシフェニル)フルオレン酸、並びに、それらのメチルエステル体が挙げられる。
中でも、テレフタル酸、又は、2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
【0101】
ジカルボン酸成分は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ジカルボン酸化合物として、テレフタル酸を使用する場合、テレフタル酸単独で用いてもよく、イソフタル酸等の他の芳香族ジカルボン酸、又は、脂肪族ジカルボン酸と併用してもよい。
【0102】
-ジオール成分-
ジオール成分としては、例えば、脂肪族ジオール化合物、脂環式ジオール化合物、及び、芳香族ジオール化合物が挙げられ、中でも、脂肪族ジオール化合物が好ましい。
【0103】
脂肪族ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、及び、ネオペンチルグリコールが挙げられ、エチレングリコールが好ましい。
脂環式ジオール化合物としては、例えば、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、及び、イソソルビドが挙げられる。
芳香族ジオール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、1,3-ベンゼンジメタノール,1,4-ベンゼンジメタノール、及び、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンが挙げられる。
【0104】
ジオール成分は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0105】
-多官能モノマー-
多官能モノマーとしては、例えば、カルボン酸基の数(a)が3以上のカルボン酸、これらのエステル誘導体及び酸無水物、水酸基数(b)が3以上の多官能モノマー、並びに、一分子中に水酸基とカルボン酸基の両方を有し、カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上であるオキシ酸類が挙げられる。
多官能モノマーとしては、上記多官能モノマーのカルボキシ末端に、l-ラクチド、d-ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類及びその誘導体、又は、そのオキシ酸類が複数個連なった化合物等を付加させたものも好適である。
【0106】
多官能モノマーに由来する構成単位とその含有量としては、特開2013-047317号公報の[0037]~[0039]に記載の内容も参照でき、上記公報の内容は、本明細書に組み込まれる。
多官能モノマーとしては、特開2013-047317号公報の[0068]~[0072]に記載された多官能モノマーも利用でき、上記公報の記載内容は、本明細書に組み込まれる。
【0107】
多官能モノマーは、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0108】
-末端封止剤-
ポリエステル樹脂を得る際には、必要に応じて、末端封止剤を用いてもよい。末端封止剤を用いることで、ポリエステル樹脂の末端に末端封止剤に由来する構造が導入される。
末端封止剤としては、制限されず、公知の末端封止剤を利用できる。末端封止剤としては、例えば、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド系化合物、及び、エポキシ系化合物が挙げられる。
末端封止剤としては、特開2014-189002号公報の[0055]~[0064]、及び、特開2013-047317号公報の[0040]~[0051]に記載の内容も参照でき、上記公報の内容は、本明細書に組み込まれる。
【0109】
末端封止剤は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0110】
-ポリエステル樹脂の製造-
ポリエステル樹脂を製造する際には、上述のように、エステル化反応及び/又はエステル交換反応が用いられる。
得られるポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレート(PEN)が挙げられ、中でも、PETが好ましい。また、PETの中でも、ゲルマニウム(Ge)系触媒、アンチモン(Sb)系触媒、アルミニウム(Al)系触媒、及びチタン(Ti)系触媒から選ばれる1種又は2種以上を用いて重合されたものが好ましく、Ti系触媒を用いて重合されたものがより好ましい。
【0111】
以下、ポリエステル樹脂の製造方法の好ましい一態様について説明する。ポリエステル樹脂の製造方法は、この好ましい一態様に限定されない。
ポリエステル樹脂の製造方法の好ましい一態様は、少なくともジカルボン酸成分とジオール成分とを用い、エステル化反応生成物を得るエステル化反応工程と、エステル化反応工程で得られたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を得る重縮合反応工程と、を含む。
【0112】
・エステル化反応工程
エステル化反応工程では、ジカルボン酸成分とジオール成分とを、触媒の存在下で重合する。
具体的には、まず初めに、ジカルボン酸成分及びジオール成分を、マグネシウム化合物及びリン化合物の添加に先立って、Ti系触媒である有機キレートチタン錯体と混合する。有機キレートチタン錯体等のTi系触媒は、エステル化反応に対しても高い触媒活性を有することから、好ましい。このとき、ジカルボン酸成分及びジオール成分を混合した中にTi系触媒を加えてもよいし、ジカルボン酸成分(又はジオール成分)とTi系触媒を混合してからジオール成分(又はジカルボン酸成分)を混合してもよい。また、ジカルボン酸成分とジオール成分とTi系触媒とを同時に混合するようにしてもよい。混合は、その方法に特に制限はなく、従来公知の方法により行なうことが可能である。
【0113】
エステル化反応工程に用いるTi系触媒としては、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体が好ましいものとして挙げられる。ここで、配位子となる有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、トリメリット酸、リンゴ酸等を挙げることができる。中でも、Ti系触媒としては、クエン酸又はクエン酸塩を配位子とする有機キレート錯体が好ましい。
また、Ti系触媒としては、特開2013-047317号公報の[0080]に記載のTi系触媒、及び[0082]~[0084]、[0086]に記載のチタン化合物が利用でき、上記公報の内容は、本明細書に組み込まれる。
【0114】
ポリエステルを重合する際において、Ti系触媒は、系中の濃度が、チタン元素換算値で、1ppm~50ppm、より好ましくは2ppm~30ppm、さらに好ましくは3ppm~15ppmとなるように用いることが好ましい。この量でTi系触媒を用いることで、ポリエステル樹脂には、1ppm以上50ppm以下のチタン元素が含まれることとなる。
【0115】
エステル化反応工程では、ジカルボン酸成分及びジオール成分に加え、Ti系触媒(例えば、有機キレートチタン錯体)を存在させた系中に、添加剤としてのマグネシウム化合物を添加し、次いで、添加剤としてのリン化合物を添加することが好ましい。
【0116】
添加剤であるマグネシウム化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム塩が挙げられる。中でも、エチレングリコールへの溶解性の観点から、酢酸マグネシウムが好ましい。
【0117】
マグネシウム化合物は、系中の濃度が、Mg元素換算値で、50ppm以上、好ましくは50ppm~100ppm、より好ましくは60ppm~90ppm、更に好ましくは70ppm~80ppmとなるように用いることが好ましい。
【0118】
添加剤として用いるリン化合物は、5価のリン化合物であることが好ましく、置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルであることがより好ましい。リン化合物として具体的には、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等の、炭素数2以下の低級アルキル基を置換基として有するリン酸エステル〔(OR)3-P=O;R=炭素数1又は2のアルキル基〕が好ましい。
【0119】
リン化合物は、系中の濃度が、P元素換算値で、50ppm~90ppm、好ましくは60ppm~80ppm、より好ましくは60ppm~75ppm以下となるように用いることが好ましい。
【0120】
エステル化反応工程の好ましい態様としては、エステル化反応が終了する前に、ジカルボン酸成分及びジオール成分に、Ti元素換算値で1ppm~30ppmのクエン酸又はクエン酸塩を配位子とするキレートチタン錯体を添加後、該キレートチタン錯体の存在下に、Mg元素換算値で60ppm~90ppm(より好ましくは70ppm~80ppm)の弱酸のマグネシウム塩を添加し、該添加後にさらに、P元素換算値で60ppm~80ppm(より好ましくは65ppm~75ppm以下)の、芳香環を置換基として有しない5価のリン酸エステルを添加する態様が挙げられる。
【0121】
上記態様において、キレートチタン錯体(有機キレートチタン錯体)、マグネシウム塩(マグネシウム化合物)、及び5価のリン酸エステル(リン化合物)の各々については、それぞれ、全添加量の70質量%以上が、上記の順序で添加されることが好ましい。
【0122】
また、エステル化反応工程におけるエステル化反応は、少なくとも2個の反応槽を直列に連結した多段式装置を用いて、エチレングリコールが還流する条件下で、反応によって生成した水又はアルコールを系外に除去しながら実施することができる。
このとき、ジカルボン酸成分とジオール成分とは、これらが含まれたスラリーを調製し、反応槽に連続的に供給することが好ましい。
【0123】
エステル化反応工程におけるエステル化反応は、一段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
エステル化反応を一段階で行なう場合、エステル化反応温度は230℃~260℃が好ましく、240℃~250℃がより好ましい。
エステル化反応を二段階に分けて行なう場合、第一反応槽のエステル化反応の温度は230℃~260℃(より好ましくは240℃~250℃)であり、また、圧力は1.0kg/cm2~5.0kg/cm2(より好ましくは2.0kg/cm2~3.0kg/cm2)であることが好ましい。また、第二反応槽のエステル化反応の温度は230℃~260℃(より好ましくは245℃~255℃)であり、また、圧力は0.5kg/cm2~5.0kg/cm2(より好ましくは1.0kg/cm2~3.0kg/cm2)であることが好ましい。
エステル化反応を三段階以上に分けて実施する場合は、中間段階のエステル化反応の条件は、上記第一反応槽と最終反応槽の間の条件に設定するのが好ましい。
【0124】
・重縮合反応工程
重縮合反応工程では、エステル化反応工程で生成されたエステル化反応生成物(オリゴマー等)を重縮合反応させて重縮合物を生成する。
重縮合反応は、一段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。中でも、重縮合反応は、多段階に分けて行うことが好ましい。
【0125】
重縮合反応を、例えば、三段階に分けて行う場合、各反応槽における条件を以下ようにすることが好ましい。第一反応槽は、温度が255℃~280℃(より好ましくは265℃~275℃)であり、圧力が100torr~10torr:13.3×10-3~1.3×10-3MPa(より好ましくは50torr~20torr:6.67×10-3MPa~2.67×10-3MPa)であることが好ましい。第二反応槽は、温度が265℃~285(より好ましくは270℃~280℃)であり、圧力が20torr~1torr:2.67×10-3MPa~1.33×10-4MPa(より好ましくは10torr~3torr:1.33×10-3MPa~4.0×10-4MPa)であることが好ましい。最終反応槽内である第三反応槽は、温度が270℃~290℃(より好ましくは275℃~285℃)であり、圧力が10torr~0.1torr:1.33×10-3MPa~1.33×10-5MPa(より好ましくは5torr~0.5torr:6.67×10-4MPa~6.67×10-5MPa)であることが好ましい。
【0126】
以上のようにして、ポリエステル樹脂が合成される。合成されたポリエステル樹脂は、ポリエステル基材の原料として用いられる。
合成されたポリエステル樹脂には、光安定化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、易滑剤(微粒子)、核剤(結晶化剤)、結晶化阻害剤などの添加剤を更に含有させてもよい。
【0127】
・固相重合工程
上述の工程を得て得られたポリエステル樹脂は、さらに固相重合することが好ましい。ポリエステル樹脂を固相重合することで、ポリエステル基材の含水率、結晶化度、固有粘度(IV)等を制御することができる。
【0128】
固相重合工程では、ペレット状にしたポリエステル樹脂を用いる。
ポリエステル樹脂の固相重合は、連続法(タワーの中に樹脂を充満させ、これを加熱しながらゆっくり所定の時間滞流させた後、順次送り出す方法)でもよく、バッチ法(容器の中に樹脂を投入し、所定の時間加熱する方法)でもよい。
固相重合は、真空中又は窒素雰囲気下で行なうことが好ましい。
ポリエステル樹脂の固相重合温度は、好ましくは150℃~250℃、より好ましくは170℃~240℃、さらに好ましくは180℃~230℃である。
また、固相重合時間は、好ましくは1時間~100時間、より好ましくは5時間~100時間、さらに好ましくは5時間~75時間、特に好ましくは5時間~30時間である。固相重合時間が上記範囲内であると、固有粘度(IV)を好ましい範囲に容易に制御できる。
【0129】
[延伸工程]
延伸工程は、未延伸のポリエステルフィルムを搬送方向及び幅方向のいずれか一方に延伸して一軸延伸されたポリエステルフィルムを形成する第1延伸工程、及び、一軸延伸されたポリエステルフィルムを搬送方向及び幅方向の他方に延伸して二軸延伸されたポリエステルフィルムを形成する第2延伸工程を、段階的又は同時に実施する工程である。
第1延伸工程及び第2延伸工程の一方は、ポリエステルフィルムを搬送方向に延伸(以下、「縦延伸」ともいう。)する縦延伸工程であり、第1延伸工程及び第2延伸工程の他方は、ポリエステルフィルムを幅方向に延伸(以下、「横延伸」ともいう。)する横延伸工程である。延伸時には、それぞれの方向にポリエステル高分子が配列する。
【0130】
上記延伸工程は、縦延伸及び横延伸を同時に行う同時二軸延伸であってもよく、縦延伸及び横延伸を段階的に分けて行う逐次二軸延伸であってもよい。逐次二軸延伸の態様としては、例えば、縦延伸、横延伸の順に行う態様;縦延伸、横延伸、縦延伸の順に行う態様;及び、縦延伸、縦延伸、横延伸の順に行う態様が挙げられる。中でも、逐次二軸延伸の態様は、縦延伸、横延伸の順に行う態様が好ましい。
以下、縦延伸、横延伸の順に行う態様について説明するが、上記製造方法はその態様に限られない。
【0131】
縦延伸工程における延伸倍率は、適宜設定されるが、2.0倍~5.0倍が好ましく、2.5倍~4.0倍がより好ましく、2.8倍~4.0倍が更に好ましい。
縦延伸工程における延伸速度は、800%/秒~1500%/秒が好ましく、1000%/秒~1400%/秒がより好ましく、1200%/秒~1400%/秒が更に好ましい。ここで、「延伸速度」とは、縦延伸工程において1秒間に延伸されたポリエステルフィルムの搬送方向の長さΔdを、延伸前のポリエステルフィルムの搬送方向の長さd0で除した値を、百分率で表した値である。
縦延伸工程においては、未延伸のポリエステルフィルムを加熱することが好ましい。加熱により縦延伸が容易になるためである。
【0132】
横延伸工程においては、横延伸前に、一軸延伸されたポリエステルフィルムを予熱することが好ましい(予熱工程ともいう)。一軸延伸されたポリエステル基材を予熱することで、一軸延伸されたポリエステル基材を容易に横延伸できる。
横延伸工程における一軸延伸されたポリエステルフィルムの幅方向の延伸倍率(横延伸倍率)は特に制限されないが、上記縦延伸工程における延伸倍率より大きいことが好ましい。
横延伸工程における延伸倍率は、3.0倍~6.0倍が好ましく、3.5倍~5.0倍がより好ましく、3.5倍~4.5倍が更に好ましい。
横延伸工程における延伸速度は、8%/秒~45%/秒が好ましく、10%/秒~30%/秒がより好ましく、15%/秒~20%/秒が更に好ましい。
【0133】
[粒子含有層形成工程]
粒子含有層形成工程は、ポリエステルフィルムの一方の面に粒子含有層形成用組成物を付与して粒子含有層を形成する工程である。
粒子含有層形成工程は、例えば、押出成形工程と第1延伸工程との間、第1延伸工程と第2延伸工程との間、又は、延伸工程の後に実施される。中でも、粒子含有層形成工程は、第1延伸工程と第2延伸工程との間に実施されることが好ましい。
粒子含有層形成工程により得られる粒子含有層については、上記粒子含有層の項目において説明した層と同義である。
以下、粒子含有層形成用組成物を付与する態様について説明する。
【0134】
まず、粒子含有層形成用組成物について説明する。
粒子含有層形成用組成物は、上記粒子含有層の項目で説明した成分、及び、溶剤を混合することにより調製できる。
溶剤としては、例えば、水、及び、アルコールが挙げられる。
【0135】
粒子含有層形成用組成物は、1種単独の溶剤を含んでいてもよく、2種以上の溶剤を含んでいてもよい。
溶剤の含有量は、粒子含有層形成用組成物の全質量に対して、80質量%~99.5質量%が好ましく、90質量%~99質量%がより好ましい。
すなわち、粒子含有層形成用組成物において、溶剤以外の成分(固形分)の合計含有量は、粒子含有層形成用組成物の全質量に対して、0.5質量%~20質量%が好ましく、1質量%~10質量%がより好ましい。
【0136】
粒子含有層形成用組成物における溶剤以外の各成分については、粒子含有層形成用組成物の固形分の全質量に対する各成分の含有量が、上記の粒子含有層の全質量に対する各成分の好ましい含有量と同じになるように、粒子含有層形成用組成物における各成分の含有量を調整することが好ましい。
【0137】
また、粒子含有層形成用組成物は、架橋剤を含んでいてもよい。
架橋剤としては、特に制限されず、公知のものを使用できる。架橋剤としては、例えば、メラミン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、及び、オキサゾリン化合物が挙げられる。
メラミン化合物、エポキシ化合物、及びイソシアネート化合物の詳細については、特開2015-163457号公報の[0081]~[0083]の記載を参照することができる。
カルボジイミド化合物としては、特開2017-087421号公報の[0038]~[0040]の記載を参照することができる。
カルボジイミド化合物及びイソシアネート化合物については、国際公開第2018/034294号の[0074]~[0075]の記載を参照することができる。
オキサゾリン化合物については、特開2013-058746号公報の[0111]~[0117]、及び特開2015-160434号公報の[0038]~[0048]の記載を参照することができる。
架橋剤としては、国際公開第2017/169844号の[0082]~[0084]の記載を参照することもできる。
【0138】
架橋剤の含有量は、粒子含有層の全質量に対して、0質量%~50質量%が好ましい。
粒子含有層形成用組成物における、バインダーに対する架橋剤の質量比は、2質量%~50質量%が好ましい。
【0139】
粒子含有層形成用組成物の付与方法は特に制限されず、公知の方法を利用できる。付与方法としては、例えば、スプレーコート法、スリットコート法、ロールコート法、ブレードコート法、スピンコート法、バーコート法、及び、ディップコート法が挙げられる。
【0140】
粒子含有層の形成における加熱温度は、180℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、120℃以下が更に好ましい。下限は特に制限されず、60℃以上であってよい。
【0141】
また、ポリエステルフィルムと粒子含有層との密着性を向上させるために、粒子含有層を設ける前に、ポリエステルフィルムの表面に対して、アンカーコート、コロナ処理、及び、プラズマ処理等の前処理を施してもよい。
【0142】
[剥離層形成工程]
剥離層形成工程は、ポリエステルフィルムの一方の面に剥離層形成用組成物を付与して剥離層を形成する工程である。
剥離層形成工程は、押出成形工程と第1延伸工程との間、第1延伸工程と第2延伸工程との間、又は、延伸工程の後に実施される。
【0143】
中でも、厚みムラが低減された剥離フィルムを製造する観点から、剥離層形成工程は、押出成形工程と第1延伸工程との間、又は、第1延伸工程と第2延伸工程との間に実施されることが好ましい。
すなわち、剥離層形成工程は、未延伸のポリエステルフィルム又は一軸延伸されたポリエステルフィルムの片面に、剥離層形成用組成物を付与して剥離層を形成する工程であることが好ましい。剥離層形成工程を上記のタイミングで実施することにより、製造工程におけるポリエステルフィルムの加熱時間が短くなり、熱履歴の影響を小さくすることができるため、剥離フィルムのスジ状のシワを抑制することができ、結果として、セラミックグリーンシートの厚みムラを低減できる。
【0144】
剥離層形成工程が延伸工程の後に実施される場合、後述する冷却工程の後に行われることが好ましく、後述する巻取り工程、及び、トリミング工程の後に行われることがより好ましい。
剥離層形成工程により形成される剥離層については、上記剥離層の項目において説明した層と同義である。
【0145】
まず、剥離層形成用組成物について説明する。
剥離層形成用組成物は、上記剥離層の欄で説明した成分、及び、溶剤を含むことが好ましい。
溶剤としては、例えば、水、アルコール、エーテル、ケトン、及び、芳香族炭化水素が挙げられる。
【0146】
剥離層形成用組成物は、1種単独の溶剤を含んでいてもよく、2種以上の溶剤を含んでいてもよい。
溶剤の含有量は、剥離層形成用組成物の全質量に対して、80質量%~99.5質量%が好ましく、90~99質量%がより好ましい。
即ち、剥離層形成用組成物において、溶剤以外の成分(固形分)の合計含有量は、剥離層形成用組成物の全質量に対して、0.5質量%~20質量%が好ましく、1質量%~10質量%がより好ましい。
【0147】
剥離層形成用組成物における溶剤以外の各成分については、剥離層形成用組成物の固形分の全質量に対する各成分の含有量が、上記の剥離層の全質量に対する各成分の好ましい含有量と同じになるように、剥離層形成用組成物における各成分の含有量を調整することが好ましい。
【0148】
剥離層形成用組成物の付与方法は特に制限されず、公知の方法を利用できる。付与方法の具体例は、粒子含有層形成工程で述べたとおりである。
【0149】
剥離層の形成における加熱温度は、180℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、120℃以下が更に好ましい。下限は特に制限されず、60℃以上であってよい。
【0150】
また、ポリエステルフィルムと剥離層との密着性を向上させるために、剥離層を設ける前に、ポリエステルフィルムの表面に対して、アンカーコート、コロナ処理、及び、プラズマ処理等の前処理を施してもよい。
【0151】
[熱固定工程]
本開示の剥離フィルムの製造方法は、延伸工程の後に、延伸工程で得られたポリエステルフィルムに対する加熱処理として、熱固定工程を有していてもよい。
熱固定工程においては、延伸工程にて延伸されたポリエステルフィルムを加熱して熱固定する。熱固定によってポリエステル樹脂を結晶化させることにより、ポリエステル基材の収縮を抑えることができる。
【0152】
熱固定工程は、1m以上のフィルム幅を有するポリエステルフィルムを加熱する工程であることが好ましい。そして、この熱固定工程では、ポリエステルフィルムの最高到達膜面温度を160℃以上225℃以下の範囲に制御し、かつ、フィルム幅方向における最高到達膜面温度のバラツキを5.0℃以下として加熱する、ことが好ましい。
なお、最高到達膜面温度は、熱固定時のポリエステルフィルムの表面における最高到達温度であり、熱固定温度とも呼ばれる。最高到達膜面温度は、放射温度計によって測定することができる。ポリエステルフィルムの最高到達膜面温度は、フィルムの幅方向における中央部の表面温度を指す。また、フィルム幅方向における最高到達膜面温度のバラツキは、フィルム幅方向における上記中央部1点、両端2点の合計3点での表面温度を測定し、中央部の表面温度から両端の表面温度のうち値の小さい方の表面温度を減算することにより算出される。
なお、上述の方法により、熱固定時のポリエステルフィルムの表面における最高到達温度を測定し、目的とする温度になったか否かを計測し、加熱条件を調整することで、ポリエステルフィルムの最高到達膜面温度を制御することができる。
上記のように最高到達膜面温度が160℃~225℃に制御されるとき、剥離フィルムのDSCで測定されるプレピーク温度を160℃~225℃とすることができる。また、フィルム幅方向における最高到達膜面温度のバラツキを0.5℃以下とすることで、剥離フィルムのフィルム幅方向における結晶化度のバラツキを5.0%以下とすることができる。
フィルム幅方向における最高到達膜面温度のバラツキは、3.0℃以下とすることがより好ましく、2.0℃以下とすることがさらに好ましく、1.5℃以下とすることが特に好ましい。
【0153】
また、熱固定時のポリエステルフィルムへの加熱は、ポリエステルフィルムの一方の側からのみ行なってもよいし、両側から行なうようにしてもよい。例えば、押出成形工程で溶融体がキャスティングドラム上で冷却されたときには、成形されたポリエステルフィルムは一方の面とその反対側の面とで冷やされ方が異なっているため、フィルムがカールしやすくなっている。そのため、熱固定工程での加熱を、押出成形工程でキャスティングドラムと接触させた面に対して行なうようにすることが好ましい。熱固定工程での加熱面をキャスティングドラムと接触させた面、すなわち冷却面とすることで、カールを解消することができる。
このとき、加熱は、熱固定工程での加熱面における加熱直後の表面温度が、加熱面と反対側の非加熱面の表面温度に比べて0.5℃~5.0℃の範囲で高くなるように行なわれることが好ましい。熱固定時の加熱面の温度がその反対側の面より高く、その表裏間の温度差が0.5℃~5.0℃であることで、フィルムのカールがより効果的に解消される。カールの解消効果の観点からは、加熱面とその反対側の非加熱面との間の温度差は、0.7℃~3.0℃がより好ましく、0.8℃~2.0℃が更に好ましい。
【0154】
ポリエステルフィルムの長手方向と直交する幅方向の端部は、延伸の際にクリップ等が取り付けられる等で温度が低下しやすく、幅方向において温度バラツキ、ひいては結晶化度のバラツキを招きやすい。そのため、熱固定時にポリエステルフィルムの幅方向の端部を加熱することが好ましい。特に、赤外線ヒータ等の輻射加熱器により、熱固定時のポリエステルフィルムの幅方向の端部を、輻射加熱する態様がより好ましい。輻射加熱したときには、フィルム幅方向における温度バラツキを3.0℃以内に狭めることが好ましい。これにより、フィルム幅方向での結晶化度のバラツキを5.0%以下、好ましくは3.0%以下とすることができる。
【0155】
なお、熱固定工程に加え、更に、予熱工程、延伸工程、及び熱緩和工程の少なくとも1つにおいて、ポリエステルフィルムの幅方向端部を赤外線ヒータ等の輻射加熱器により輻射加熱する態様に構成されてもよい。幅方向端部への加熱は、幅方向における温度バラツキ、ひいては結晶化度のバラツキを軽減するものであり、熱固定時のみならず、予熱、延伸、熱緩和のいずれか1つ又は2つ以上の工程でさらに加熱を行なうことでより高い改善効果が期待できる。
【0156】
熱固定工程における熱固定温度、すなわち、ポリエステルフィルムの最高到達膜面温度は、上述のように、160℃~225℃であることが好ましく、160℃~220℃であることがより好ましく、180℃~210℃であることがさらに好ましい。
熱固定工程における加熱時間、すなわち、熱固定部での滞留時間は、5秒~50秒が好ましく、8秒~40秒がより好ましく、10秒~30秒が更に好ましい。ここで、滞留時間とは、ポリエステルフィルムが熱固定部内で加熱されている状態が継続している時間である。
【0157】
[熱緩和工程]
本開示の剥離フィルムの製造方法は、熱固定工程の後に、熱緩和工程を含むことが好ましい。
熱緩和工程においては、熱固定工程により熱固定されたポリエステルフィルムを、熱固定工程よりも低い温度で加熱することで熱緩和することが好ましい。熱緩和によってポリエステルフィルムの残留歪みを緩和できる。
熱緩和工程におけるポリエステルフィルムの表面温度(熱緩和温度)は、熱固定温度より、5℃以上低い温度が好ましく、15℃以上低い温度がより好ましく、25℃以上低い温度が更に好ましく、30℃以上低い温度が特に好ましい。即ち、熱緩和温度は、235℃以下が好ましく、225℃以下がより好ましく、210℃以下が更に好ましく、200℃以下が特に好ましい。
熱緩和温度の下限は、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、120℃以上が更に好ましい。
【0158】
[冷却工程]
本開示の剥離フィルムの製造方法は、熱緩和工程により熱緩和されたポリエステルフィルムを冷却する冷却工程を含むことが好ましい。
なお、熱固定工程後、熱緩和されたポリエステルフィルムを冷却する際の冷却速度を調整することで、剥離フィルムの剥離層の表面(すなわち、剥離面)に生じるスジ状のシワを抑制し易くなる。剥離フィルムの剥離層の表面に生じるスジ状のシワを抑制することで、かかる剥離フィルムを用いて製造されるセラミックグリーンシートの厚みムラを抑制することができる。
【0159】
冷却工程におけるポリエステルフィルムの冷却方法としては、例えば、ポリエステルフィルムに風(好ましくは冷風)を当てる方法、及び、温度調節可能な部材(例えば、温調ロール)にポリエステルフィルムを接触させる方法が挙げられる。
【0160】
冷却工程におけるポリエステルフィルムの冷却速度は、500℃/分~4000℃/分が好ましく、700℃/分~3000℃/分がより好ましく、1000℃/分~2500℃/分が更に好ましい。上記範囲であることで、剥離フィルムの剥離層の表面に生じるスジ状のシワを抑制し易くなり、厚みムラが抑制されたセラミックグリーンシートが製造することができる。
【0161】
冷却工程におけるポリエステルフィルムの冷却速度は、非接触式温度計を用いて、測定できる。例えば、まず、冷却工程開始時のポリエステルフィルムの表面温度と、冷却工程終了時のポリエステルフィルムの表面温度とを測定して、両者の温度差ΔT(℃)を得る。得られた温度差ΔT(℃)を、冷却工程時間taで割ることにより、冷却速度が求められる。
冷却工程開始時とは、搬送されているポリエステルフィルムに対し上述の冷却方法の適用され始めたときを指し、冷却工程終了時とは、ポリエステルフィルムに対し上述の冷却方法の適用が終了した時を指す。そして、冷却工程時間とは、冷却工程開始時から冷却工程終了時までの時間に該当する。
なお、ポリエステルフィルムの冷却速度は、上述の冷却方法における各種条件、及び、ポリエステルフィルムの搬送速度により、調整できる。
【0162】
なお、本開示の剥離フィルムの製造方法では、上述の、熱固定工程、熱緩和工程、及び冷却工程は、この順に連続して実施することが好ましい。これにより、ポリエステルフィルムに対する加熱及び冷却の繰返しによる負荷(熱履歴)を低減し、ポリエステルフィルムに内在する歪み等を低減して、剥離フィルムにおける上述のスジ状のシワを抑制することができるためである。
【0163】
上記冷却工程において、熱緩和されたポリエステルフィルムを幅方向に拡張する工程(拡張工程)を有することも好ましい。拡張工程を有することで、剥離フィルムにおける上述のスジ状のシワを抑制し易くなる。
拡張工程によるポリエステルフィルムの幅方向の拡張率、即ち、冷却工程の開始前におけるポリエステルフィルム幅に対する冷却工程の終了時におけるポリエステルフィルム幅の比率は、0%以上が好ましく、0.001%以上がより好ましく、0.01%以上が更に好ましい。
拡張率の上限は特に制限されないが、1.3%以下が好ましく、1.2%以下がより好ましく、1.0%以下が更に好ましい。
【0164】
[巻き取り工程]
本開示の剥離フィルムの製造方法は、上記の工程を経て得られたポリエステルフィルムを巻き取ることにより、ロール状のポリエステルフィルムを得る巻き取り工程を含んでいてもよい。
【0165】
[トリミング工程]
本開示の製造方法は、上記巻き取り工程を実施する前に、ポリエステルフィルムを搬送方向に沿って連続的に切断して、ポリエステルフィルムの幅方向の少なくとも一方の端部を切り取るトリミング工程を含んでいてもよい。
【0166】
[その他の条件]
本開示の剥離フィルムの製造方法の縦延伸工程以外の各工程におけるポリエステルフィルムの搬送速度は、特に制限されないが、横延伸工程、熱固定工程、熱緩和工程、及び、冷却工程において、生産性及び品質の点で、50m/分~200m/分が好ましく、80m/分~150m/分がより好ましい。
【0167】
なお、本開示の剥離フィルムの製造方法では、粒子含有層形成工程において、粒子含有層形成用組成物を付与して粒子含有層を形成する方法を述べたが、粒子含有層の形成方法は上記態様に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、共押出成形により、粒子含有層が積層された未延伸のポリエステルフィルムを形成する方法が挙げられる。
【0168】
特に、本開示の剥離フィルムの製造方法は、
未延伸のポリエステルフィルムを搬送方向に延伸する縦延伸工程と、
縦延伸工程で得られた一軸延伸されたポリエステルフィルムの一方の面に、粒子含有層形成用組成物を付与して粒子含有層を形成する工程と、
縦延伸工程で得られた一軸延伸されたポリエステルフィルムの他方の面に、剥離層形成用組成物を付与して剥離層を形成する工程と、
粒子含有層と剥離層とを有する一軸延伸されたポリエステルフィルムを加熱しながら幅方向に延伸する横延伸工程と、を含むことが好ましい。
【0169】
〔積層体〕
本開示の積層体は、上記本開示の剥離フィルムと、セラミックを含有する層と、を含む。
【0170】
剥離フィルムの詳細は、上記のとおりである。
セラミックを含有する層は、剥離フィルムの表面に直接設けてもよく、他の層を介して剥離フィルム上に設けてもよいが、平滑性がより優れる点で、剥離フィルムの表面に直接設けることが好ましい。
【0171】
セラミックを含有する層に含まれるセラミックとしては、セラミックグリーンシートに含まれるセラミックであれば特に制限はなく、例えば、チタン酸バリウム等の強誘電体材料、酸化チタン、チタン酸カルシウム等の常誘電体材料が挙げられる。
【0172】
セラミックを含有する層はバインダーを含むことが好ましい。バインダーとしては、セラミックグリーンシートに含まれるバインダーであれば特に制限はなく、例えば、ポリビニルブチラールが挙げられる。
【0173】
本開示の積層体は、例えば、剥離フィルムの剥離面上に、セラミック及び溶媒を含むセラミックスラリーを付与し、セラミックスラリーに含まれる溶媒を乾燥させることによって製造することができる。溶媒としては、例えば、エタノール及びトルエンが挙げられる。
【0174】
セラミックスラリーの付与方法は、特に制限されず、例えば、リバースロール法等の公知の方法が適用できる。
【0175】
なお、本開示の積層体から剥離フィルムを剥離することで、セラミックグリーンシートが得られる。つまり、本開示の積層体におけるセラミック粉末を含有する層が、セラミックグリーンシートになる。
【実施例0176】
以下に実施例を挙げて本開示を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び、処理手順は、本開示の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本開示の範囲は以下に示す具体例に制限されない。
【0177】
<ポリエステル樹脂の準備>
(ポリエステル樹脂PET-1の合成)
以下に示すように、テレフタル酸及びエチレングリコールを直接反応させて水を留去し、エステル化した後、減圧下で重縮合を行なう直接エステル化法を用いて、連続重合装置によりポリエステル樹脂を得た。
【0178】
(1)エステル化反応
第一エステル化反応槽に、高純度テレフタル酸4.7トンとエチレングリコール1.8トンを90分かけて混合してスラリー形成させ、3800kg/hの流量で連続的に第一エステル化反応槽に供給した。更にクエン酸がTi金属に配位したクエン酸キレートチタン錯体(VERTEC AC-420、ジョンソン・マッセイ社製)のエチレングリコール溶液を連続的に供給し、反応槽内温度250℃、攪拌下、平均滞留時間約4.3時間で反応を行なった。このとき、クエン酸キレートチタン錯体は、Ti添加量が元素換算値で9ppmとなるように連続的に添加した。このとき、得られたオリゴマーの酸価は600当量/トンであった。なお、本明細書中において、「当量/t」は1トンあたりのモル当量を表す。
【0179】
この反応物を第二エステル化反応槽に移送し、攪拌下、反応槽内温度250℃で、平均滞留時間で1.2時間反応させ、酸価が200当量/トンのオリゴマーを得た。第二エステル化反応槽は内部が3ゾーンに仕切られており、第2ゾーンから酢酸マグネシウムのエチレングリコール溶液を、Mg添加量が元素換算値で75ppmになるように連続的に供給し、続いて第3ゾーンから、リン酸トリメチルのエチレングリコール溶液を、P添加量が元素換算値で65ppmになるように連続的に供給した。
【0180】
(2)重縮合反応
上記で得られたエステル化反応生成物を連続的に第一重縮合反応槽に供給し、攪拌下、反応温度270℃、反応槽内圧力20torr(2.67×10-3MPa)で、平均滞留時間約1.8時間で重縮合させた。
【0181】
更に、第二重縮合反応槽に移送し、この反応槽において攪拌下、反応槽内温度276℃、反応槽内圧力5torr(6.67×10-4MPa)で滞留時間約1.2時間の条件で反応(重縮合)させた。
【0182】
次いで、更に第三重縮合反応槽に移送し、この反応槽では、反応槽内温度278℃、反応槽内圧力1.5torr(2.0×10-4MPa)で、滞留時間1.5時間の条件で反応(重縮合)させ、反応物(ポリエチレンテレフタレート(PET))を得た。
【0183】
次に、得られた反応物を、冷水にストランド状に吐出し、直ちにカッティングしてポリエステル樹脂のペレット<断面:長径約4mm、短径約2mm、長さ:約3mm>を作製した。
【0184】
得られたポリエステル樹脂について、高分解能型高周波誘導結合プラズマ-質量分析(HR-ICP-MS;SIIナノテクノロジー社製AttoM)を用いて以下に示すように測定した結果、Ti=9ppm、Mg=75ppm、P=60ppmであった。Pは当初の添加量に対して僅かに減少しているが、重合過程において揮発したものと推定される。
【0185】
(3)固相重合反応
上記のようにして得たポリエステル樹脂のペレットに対して、バッチ法で固相重合を実施した。すなわち、ポリエステル樹脂のペレットを容器に投入した後、真空にして撹拌しながら、150℃で予備結晶化処理し、その後190℃で7時間の固相重合反応を行なった。
以上のようにして、ポリエステル樹脂PET-1を得た。
【0186】
(ポリエステル樹脂PET-2~PET-4)
ポリエステル樹脂PET-1の合成において、固相重合時間を7時間から、12時間(P-2)、9時間(P-3)、又は0時間(P-4)に変更したほかは同様にして、ポリエステル樹脂PET-2~PET-4をそれぞれ得た。
【0187】
(ポリエステル樹脂PET-5)
ポリエステル樹脂PET-1の合成にて得られたポリエステル樹脂PET-1に、ポリエステル樹脂PET-1に対する含有量が1質量%となるように、シリカ粒子のエチレングリコール溶液を添加し、ポリエステル樹脂PET-5を得た。
【0188】
<実施例1>
(押出成形工程)
ポリエステル樹脂PET-1を、含水率20ppm以下に乾燥させた後、直径50mmの1軸混練押出機のホッパーに投入した。ポリエステル樹脂PET-1は、300℃に溶融し、下記押出条件により、ギアポンプ、濾過器(孔径20μm)を介し、ダイから押出した。
このとき、溶融樹脂の押出は、圧力変動を1%、溶融樹脂の温度分布を2%とする条件にて行なった。具体的には、押出機のバレルにおける背圧を、押出機のバレル内平均圧力に対して1%高い圧力とし、押出機の配管温度を、押出機のバレル内平均温度に対して2%高い温度として加熱した。ダイから押出すにあたり、溶融樹脂を冷却用のキャストドラム上に押出し、静電印加法を用いてキャストドラムに密着させた。溶融樹脂は、キャストドラムの温度を25℃に設定すると共に、キャストドラムに対面して設置された冷風発生装置から25℃の冷風をあてて冷却した。キャストドラムに対向配置された剥ぎ取りロールによって、未延伸ポリエステルフィルム(未延伸ポリエステルフィルム1)を剥離した。
【0189】
(縦延伸工程)
未延伸ポリエステルフィルム1を周速の異なる2対のニップロールの間に通し、下記条件で縦方向(搬送方向)に延伸し、一軸延伸されたポリエステルフィルム(縦延伸ポリエステルフィルム1)を作製した。
予熱温度 :80℃
縦延伸温度:90℃
縦延伸倍率:3.6倍
縦延伸応力:12MPa
【0190】
(粒子含有層形成工程、剥離層形成工程)
縦方向に一軸延伸されたポリエステルフィルム(縦延伸ポリエステルフィルム1)の片面に、下記に示す粒子含有層形成用組成物A1をバーコーターで塗布した。一軸延伸されたポリエステルフィルムの粒子含有層が塗布された面側とは反対側の面に、下記に示す剥離層形成用組成物L1をバーコーターで塗布した。形成された塗布膜を100℃の熱風にて乾燥させ、粒子含有層、及び、剥離層を形成した。すなわち、粒子含有層形成用組成物A1、及び、剥離層形成用組成物L1を一軸延伸されたポリエステルフィルムに、インライン塗布した。このとき、後述する横延伸後における、粒子含有層の厚みが60nm、及び、剥離層の厚みが60nmとなるように、粒子含有層形成用組成物A1、及び、剥離層形成用組成物L1の塗布量を調整した。
【0191】
[粒子含有層形成用組成物A1の調製]
下記に示す各成分を混合することにより、粒子含有混合液Aを調製した。調製された粒子含有混合液Aに対して、孔径が6μmであるフィルター(F20、(株)マーレフィルターシステムズ製)を用いたろ過処理、及び、膜脱気(2×6ラジアルフロースーパーフォビック、ポリポア(株)製)を実施し、粒子含有層形成用組成物A1を得た。
・有機粒子A(MP1000、綜研化学(株)製、非架橋アクリル粒子、固形分100質量%):8質量部
・有機粒子B(Nipol(登録商標)UFN1008、日本ゼオン(株)製、ポリスチレン水分散液、固形分20質量%):8質量部
・アクリル樹脂(メタクリル酸メチル、スチレン、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート及びアクリル酸を質量比59:8:26:5:2で重合させてなる共重合体の水分散液、固形分濃度25質量%):141質量部
・ウレタン樹脂(スーパーフレックス(登録商標)210、第一工業製薬(株)製、エステル系ウレタン水分散液、固形分濃度35質量%):38質量部
・アニオン性炭化水素系界面活性剤(ラピゾール(登録商標)A-90、スルホコハク酸ジ-2-エチルヘキシルナトリウム、日油(株)製、固形分濃度1質量%水希釈液):12質量部
・カルボジイミド系架橋剤(カルボジライト(登録商標)V-02-L2、日清紡績(株)製、ポリカルボジイミド樹脂に親水性セグメントを付与させた水性架橋剤、固形分濃度40質量%):20質量部
・ベンジルアルコール:4質量部
・水:769質量部
【0192】
[剥離層形成用組成物L1の調製]
下記に示す各成分を混合することにより、混合液Lを調製した。調製された混合液Lに対して、粒子含有層形成用組成物A1と同様のろ過処理、及び、膜脱気を実施し、剥離層形成用組成物L1を得た。
・シリコーンエマルジョン(DEHESIVE(登録商標) EM 480 JP、旭化成ワッカーシリコーン(株)製):200質量部
・シリコーンエマルジョン(CROSSLINKER V72、旭化成ワッカーシリコーン(株)製):30質量部
・シランカップリング剤(KBM-403、信越化学工業(株)製):1質量部
・水:770質量部
【0193】
(横延伸工程)
粒子含有層及び剥離層を備えた縦延伸したポリエステルフィルム1(縦延伸ポリエステルフィルム1)を、縦延伸した方向(長手方向)と直交するフィルム幅方向に下記の条件にて緊張を与え、横延伸した。
<条件>
・予熱温度 :110℃
・延伸温度(横延伸温度) :120℃
・延伸倍率(横延伸倍率) :4.4倍
・延伸応力(横延伸応力) :18MPa
【0194】
(熱固定工程)
次いで、ポリエステルフィルムの最高到達膜面温度を下記範囲に制御しながら、熱風吹き出しノズルから出る熱風の風速を微調整することによって、幅方向における最高到達膜面温度のバラツキが下記範囲となるように加熱し、結晶化させた(熱固定工程)。このとき、フィルム幅方向の両端部を、フィルム成形工程でキャストドラムと接触したキャスト面側から赤外線ヒータ(ヒータ表面温度:450℃)で輻射加熱した。
・最高到達膜面温度(熱固定温度:T熱固定):下記表1に示す温度〔℃〕
・フィルム幅方向における最高到達膜面温度(熱固定温度:T熱固定)のバラツキ:下記表1に示す温度〔℃〕
なお、上記T熱固定(最高到達膜面温度)及びフィルム幅方向におけるT熱固定のバラツキは、既述の方法にて測定した値である。
【0195】
(熱緩和工程)
熱固定後のポリエステルフィルムを下記の温度に加熱し、フィルムの緊張を緩和した。このとき、フィルム幅方向の両端部を、熱固定工程と同様にキャスト面側から赤外線ヒータ(ヒータ表面温度:350℃)で輻射加熱した。
・熱緩和温度(T熱緩和):150℃
・熱緩和率:TD方向(フィルム幅方向)=5%
MD方向(フィルム幅方向に直交する方向)=5%
【0196】
(冷却工程)
次に、熱緩和後のポリエステルフィルムを冷却速度1500℃/分にて70℃まで冷却した。
【0197】
(フィルムの回収)
冷却終了後、ポリエステルフィルムの両端を20cmずつトリミングした。その後、両端に幅10mmで押出し加工(ナーリング)を行なった後、張力25kg/mで巻き取った。
【0198】
以上のようにして、フィルム幅1.5m、長さ7000m、厚み31μmの剥離フィルムを作製した。
剥離フィルムにおいて、ポリエステル基材の厚みは剥離層の厚みに対して517倍であった。
【0199】
<実施例2~実施例9、実施例12~実施例14>
剥離フィルムの製造工程、及び剥離フィルムの物性について、表1に記載のように適宜変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、剥離フィルムを作製した。
なお、粒子含有層形成用組成物A1中の樹脂(つまり、バインダー)の種類を変えることで、表1に記載の樹脂を含む粒子含有層を形成した。
【0200】
<実施例10>
剥離層を形成しないこと以外は、実施例7と同様にして、粒子含有層とポリエステル基材を含む二軸延伸フィルムを作製した。得られたフィルムを巻き出し、ポリエステル基材の粒子含有層とは反対側の面に、下記の剥離層形成用組成物L2を硬化後の厚みが60nmとなるように塗布した。形成された塗布膜を90℃で乾燥した後、120℃で1分間加熱することにより熱硬化して剥離層を形成し、剥離フィルムを作製した。
【0201】
[剥離層形成用組成物L2の調製]
下記に示す各成分を混合することにより、混合液Lを調製した。調製された混合液Lに対して、粒子含有層形成用組成物A1と同様のろ過処理、及び、膜脱気を実施し、剥離層形成用組成物L2を得た。
・アクリル樹脂(メタクリル酸メチル、ステアリルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート及びメタクリル酸を質量比47:26:20:7で重合させてなる共重合体、固形分40質量%トルエン溶液):1.75質量部
・ポリエステル変性シリコーン樹脂(BYK-370、ビックケミー・ジャパン(株)製、固形分濃度25質量%):0.05質量部
・熱重合性化合物(ヘキサメトキシメチルメラミン、東京化成工業(株)製、固形分10質量%):0.25質量部
・酸触媒(p-トルエンスルホン酸、富士フイルム和光純薬(株)製、固形分100質量%):0.02質量部
・メチルエチルケトン:58質量部
・トルエン:40質量部
【0202】
<実施例11>
押出成形工程において、ポリエステル樹脂PET-1とポリエステル樹脂PET-5とを共押出しすることにより未延伸フィルムを作製した以外は、実施例10と同様にして、剥離フィルムを作製した。
【0203】
<比較例1>
共押出しに用いるポリエステル樹脂を、ポリエステル樹脂PET-3とポリエステル樹脂PET-5とに変更し、熱固定温度:T熱固定を変更し、赤外線ヒータでの輻射加熱を行なわず、さらに、剥離フィルムの厚みを変更したこと以外は、実施例11と同様にして、剥離フィルムを作製した。
【0204】
<比較例2>
ポリエステル樹脂PET-1をポリエステル樹脂PET-4に変更し、熱固定温度:T熱固定を変更し、赤外線ヒータでの輻射加熱を行わなかったこと以外は、実施例10と同様にして、剥離フィルムを作製した。
【0205】
<比較例3>
押出成形工程において、ポリエステル樹脂PET-4とポリエステル樹脂PET-5とを共押出しすることにより未延伸フィルムを作製したこと、及び、熱固定温度:T熱固定を変更したこと以外は、実施例7と同様にして、剥離フィルムを作製した。
【0206】
<比較例4>
共押出しに用いるポリエステル樹脂を、ポリエステル樹脂PET-1とポリエステル樹脂PET-5とに変更し、熱固定温度:T熱固定を変更し、赤外線ヒータでの輻射加熱を行わず、さらに、剥離フィルムの厚みを変更したこと以外は、比較例3と同様にして、剥離フィルムを作製した。
【0207】
表1に記載の各成分の詳細は以下のとおりである。
なお、PET-1~PET-5は、上述の、ポリエステル樹脂PET-1~ポリエステル樹脂PET-5である。
【0208】
(樹脂)
・アクリル:アクリル樹脂(メタクリル酸メチル、スチレン、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート及びアクリル酸を質量比59:8:26:5:2で重合させてなる共重合体
・ウレタン:ウレタン樹脂(スーパーフレックス(登録商標)210、第一工業製薬(株)製、エステル系ウレタン水分散液)
・オレフィン:オレフィン樹脂(ザイクセンNC、住友精化(株)製)
【0209】
<測定>
作製した剥離フィルムを用いて、以下のような各種測定を行った。測定の結果は下記表1に示す。
【0210】
(1)DSCで測定されるプレピーク温度、固有粘度、及び剥離層の厚み
剥離フィルムのDSCで測定されるプレピーク温度、固有粘度、及び剥離層の厚みについては、既述の方法にて、測定した。
【0211】
(2)結晶化度のバラツキ
剥離フィルムのフィルム全幅に対して、中央部1点、両端2点の合計3点を、幅方向30mm、長手方向120mmで切出し、測定試料3点を得た。測定試料3点について、結晶化度を測定し、中央部の測定試料の結晶化度から両端の測定試料の結晶化度のうち値の小さい方の結晶化度を減算することにより、フィルム幅方向における結晶化度のバラツキを算出した。このとき、結晶化度は、フィルムの密度から算出した。
具体的には、フィルムの密度X(g/cm3)、結晶化度0%での密度Y(g/cm3)、結晶化度100%での密度Z(g/cm3)を用いて、下記の計算式により結晶化度Xc(%)を導出した。なお、密度の測定は、JIS K 7112:1999に準じて測定を行なった。
Xc={Z×(X-Y)}/{X×(Z-Y)}×100
【0212】
(3)熱収縮率のバラツキ
剥離フィルムを裁断し、幅方向30mm、長手方向120mmの大きさのサンプル片Mを得た。サンプル片Mに対し、長手方向で100mmの間隔となるように2本の基準線を入れ、無張力下で150℃の加熱オーブン中に30分間放置した。放置後、サンプル片Mを室温まで冷却して2本の基準線の間隔を測定し、この値をAmmとし、「100×(100-A)/100」を計算し、得られた値を長手方向における熱収縮率とした。
また、長手方向30mm、幅方向120mmの大きさのサンプル片Lを得、このサンプル片Lに対して、幅方向で100mmの間隔となるように2本の基準線を入れ、サンプル片Mと同様にして測定と計算とを行ない、得られた値を幅方向における熱収縮率とした。
上記の操作を、剥離フィルムのフィルム全幅に対して、中央部1点、両端2点の合計3点を切出したサンプルを用いて行ない、中央部の熱収縮率から両端の熱収縮率のうち中央部の熱収縮率との差が大きい方の熱収縮率を減算して絶対値を求め、長手方向(MD)と幅方向(TD)の各々における熱収縮率のバラツキとした。
【0213】
(4)厚みの測定
剥離フィルムに対して、接触式膜厚測定計(アンリツ社製)を用い、異なる位置にて5点、厚みを測定した。得られた測定値の算術平均値を求め、これを剥離フィルムの厚みとした。
【0214】
作製した剥離フィルムを用いて、粒子含有層における局所突起、厚みムラ、及びセラミックグリーンシートにおける凹凸欠陥に関する評価を行った。評価方法は以下のとおりである。
【0215】
<局所突起>
作製された剥離フィルムの粒子含有層表面を、光学干渉計(Vertscan 3300G Lite、(株)日立ハイテク製)を用いて下記の条件で測定し、その後、内蔵されているデータ解析ソフト(VS-Measure5)にて解析した。
測定位置を変えた100回の測定を行い、高さが50nmを超える突起の合計数を求めた。
(測定条件)
・測定モード:WAVEモード
・対物レンズ:50倍
・測定面積:186μm×155μm
【0216】
(評価基準)
A:最大突起高さSpが800nm以下であり、高さが50nmを超える突起の合計数が0個~2個
B:最大突起高さSpが800nm以下であり、高さが50nmを超える突起の合計数が3個~9個
C:最大突起高さSpが800nm超であるか、又は、高さが50nmを超える突起の合計数が10個以上
【0217】
<厚みムラ>
(黒色スラリーの調製)
黒色スラリーは、下記に示す各成分を混合し、ボールミルで分散することにより調製した。
・ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)製、エスレックBX-5):5質量部
・特許第5320652号公報の段落[0036]~[0042]の記載に従って作製した樹脂被覆カーボンブラック:10質量部
・トルエン及びエタノール質量比6:4の混合溶剤:45質量部
【0218】
各実施例及び比較例で作製された剥離フィルムを70m/分で搬送しながら、スリット状ノズルを用いて、上記黒色スラリーを、乾燥後の厚みが0.5μmになるように剥離層上に塗布した後、90℃の温度条件下で塗布膜を乾燥し、黒色層を形成した。
黒色層を設けた剥離フィルムをライトテーブルに置き、剥離フィルムから1m離れた位置で黒色層の色ムラを目視で観察し、下記評価基準に従って評価した。
【0219】
(評価基準)
A:黒色層の色ムラが確認されない。
B:黒色層の色ムラがわずかに確認された。
C:黒色層の色ムラがはっきりと確認された。
上記黒色層の色ムラが確認されない場合には、黒色層の厚みが均一、すなわち、厚みムラが生じていないことを示している。なお、色ムラが確認されない黒色層を形成できる剥離フィルムを用いることで、セラミックグリーンシートの全体的な厚みムラを抑制することができると推測される。
【0220】
<凹凸欠陥>
(セラミックスラリーの調製)
セラミックとしてのチタン酸バリウム粉末(BaTiO3;堺化学工業(株)製、製品名「BT-03」)100質量部、バインダーとしてのポリビニルブチラール樹脂(製品名「エスレック(登録商標)B・K BM-2」、積水化学工業(株)製)8質量部、可塑剤としてのフタル酸ジオクチル(製品名「フタル酸ジオクチル 鹿1級」、関東化学(株)製)4質量部、並びに、トルエン及びエタノールの混合液(質量比6:4)135質量部を混合した。ジルコニアビーズの存在下でボールミルを用いて混合液を分散させ、得られた分散液からビーズを除去することにより、セラミックスラリーを得た。
【0221】
各実施例及び各比較例で得られた剥離フィルムを幅250mm及び長さ10mに切断した。切断した剥離フィルムを、常温常湿(23℃、50%RH)下で12カ月間した。保管した後の剥離フィルムの剥離面全面に、下記のセラミックスラリーをダイコーターにて乾燥後の膜厚が1μmになるように塗工した。その後、得られた塗膜を乾燥機にて100℃で2分間乾燥させた。これにより、剥離フィルムと、セラミックを含有する層と、を含む積層体を得た。セラミックを含有する層は、積層体から剥離フィルムを剥離した後にセラミックグリーンシートとなることから、以下、積層体を、セラミックグリーンシート付き剥離フィルムという。
セラミックグリーンシート付き剥離フィルムを一度ロール状に巻き取った。その後、巻き出したセラミックグリーンシート付き剥離フィルムの剥離フィルム側から蛍光灯を照らして、セラミックグリーンシートの表面における1m2の領域を目視で観察し、ピンホール等の凹凸欠陥の有無を確認した。確認された凹凸欠陥の数に基づいて、凹凸欠陥を評価した。評価基準は以下のとおりである。
【0222】
(評価基準)
A:セラミックグリーンシートに凹凸欠陥が確認されなかった。
B:セラミックグリーンシートに1個~9個の凹凸欠陥が確認された。
C:セラミックグリーンシートに10個以上の凹凸欠陥が確認された。
【0223】
評価結果を表1に示す。
表1中、粒子含有層の形成方法が「インライン」と表記されていれば、上述の実施例1と同様、縦延伸工程と横延伸工程との間に、粒子含有層形成工程を行ったことを意味する。粒子含有層の形成方法が「共押出し」と表記されていれば、押出成形工程の際に、共押出しにて、未延伸のポリエステルフィルムと粒子含有層とを形成したことを意味する。
また、剥離層の形成工程が「インライン」と表記されていれば、上述の実施例1と同様、縦延伸工程と横延伸工程との間に、剥離層形成工程を行ったことを意味する。剥離層の形成工程が「オフライン」と表記されていれば、粒子含有層とポリエステル基材を含む二軸延伸フィルムを作製し、これを巻き取り、続いて、巻き出した後に、剥離層を形成したことを意味する。
【0224】
【0225】
実施例1~実施例14の剥離フィルムによれば、黒色層の色ムラが少なく、厚みムラが低減されたセラミックグリーンシートを製造することができるものと推測される。また、実施例1~実施例14の剥離フィルムによれば、凹凸欠陥の少ないセラミックグリーンシートを製造することができた。
【0226】
一方、比較例1、2の剥離フィルムは、DSCで測定されるプレピーク温度が225℃超であり、幅方向における結晶化度のバラツキが5.0%超であることから、厚みムラが大きいセラミックグリーンシートが製造されるものと推測され、更に、製造したセラミックグリーンシートに凹凸欠陥が多く見られた。
比較例3の剥離フィルムは、幅方向における結晶化度のバラツキが5.0%以下であるものの、DSCで測定されるプレピーク温度が225℃超であることから、製造したセラミックグリーンシートに凹凸欠陥が多く見られた。
比較例4の剥離フィルムは、DSCで測定されるプレピーク温度が160℃未満であり、幅方向における結晶化度のバラツキが5.0%超であることから、厚みムラが大きいセラミックグリーンシートが製造されるものと推測された。