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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165327
(43)【公開日】2023-11-15
(54)【発明の名称】積層型撮像素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 27/146 20060101AFI20231108BHJP
   H10K 39/32 20230101ALI20231108BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
H01L27/146 F
H01L27/146 C
H01L27/30
H01L29/78 613Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076225
(22)【出願日】2022-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】堺 俊克
(72)【発明者】
【氏名】今村 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘人
(72)【発明者】
【氏名】相原 聡
【テーマコード(参考)】
4M118
5F110
【Fターム(参考)】
4M118BA05
4M118BA19
4M118CA14
4M118CB14
4M118CB20
4M118FB03
4M118FB09
4M118FB13
4M118FB23
4M118GC08
4M118HA22
4M118HA26
4M118HA27
5F110CC07
5F110DD01
5F110DD02
5F110DD05
5F110GG01
5F110GG15
5F110GG42
5F110GG43
5F110GG44
5F110QQ16
(57)【要約】
【課題】 素子全体の厚みを薄くしてコンパクト化を促進することができるとともに、光電変換層として有機膜を用いたことによる、下地回路への寄生容量成分の増加を抑制し得る垂直色分離型の積層型撮像素子を提供する。
【解決手段】 信号の読出し処理を行う信号読出し回路部111、121、131の上方位置に、上方からの光を光電変換する、画素電極116、126、136と対向電極114、124、134とで挟持した有機膜112、122、132を積層してなる光情報取得部110、120、130を少なくとも1つ備えてなる積層型撮像素子200において、画素電極116、126、136と対向電極114、124、134の間に有機膜112、122、132の比誘電率よりも低い比誘電率を有する無機材料からなる所定厚みの無機バッファ層113、123、133を配設した。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号の読出し処理を行う信号読出し回路部の上方位置に、上方からの光を光電変換する、画素電極と対向電極に挟持された有機膜を積層してなる光情報取得部を少なくとも1つ備えてなる積層型撮像素子であって、
前記画素電極と前記対向電極の間に該有機膜の比誘電率よりも低い比誘電率の無機材料からなる無機バッファ層が配設されたことを特徴とする積層型撮像素子。
【請求項2】
前記無機バッファ層が、前記有機膜と前記対向電極の間に配設されたことを特徴とする請求項1に記載の積層型撮像素子。
【請求項3】
3原色光の各々の色光に対応した前記光情報取得部が上下方向に積層されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の積層型撮像素子。
【請求項4】
前記無機バッファ層を構成する無機材料の比誘電率が3.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の積層型撮像素子。
【請求項5】
前記無機バッファ層を構成する無機材料の比誘電率が3.0以下であることを特徴とする請求項4に記載の積層型撮像素子。
【請求項6】
前記無機バッファ層を構成する無機材料が、酸化シリコン、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化アルミニウムおよびフッ化アルミニウムの中から選択される材料であることを特徴とする請求項1に記載の積層型撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型撮像素子に関し、詳しくは、薄膜トランジスタを備えた垂直色分離型の積層型撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現行のカメラにおいて、カラー画像を取得する手法としては、RGBの各色光毎に設けた3枚の撮像素子からの各出力を合成してカラー画像を取得する3板式と、RGBの各色光毎に感度を有する3種の画素を備えた1枚の撮像素子の出力を用いてカラー画像を取得する単板式の2つの方式が知られている。
上記3板式は、入射した光を色分解プリズムによって3原色光、すなわち赤(R)、緑(G)、青(B)の光に色分離し、この分離された各色光を、対応する各撮像素子に照射し、各々の撮像素子により得られた各色光の像を取得する。このため、入射光を効率よく利用でき、高画質な撮像が可能であるが、その一方で、色分解プリズムが必要であり小型化が困難である。
【0003】
他方、上記単板式は、1つの撮像素子の各画素にRGBのカラーフィルタを順次配置して色分離を行う。そのため、小型化が可能である反面、入射光のうち特定の波長域の光以外を吸収するカラーフィルタを用いているため、3板式に比べて光の利用効率が低く、画質の低下は避けられない。このように、3板式と単板式の方式には一長一短があるため、撮像素子の高画質化と小型化を両立させ得る撮像素子が望まれていた。
【0004】
そこで、撮像素子の高画質化と小型化の両立を目的として、R光、G光、B光それぞれにのみ感度をもつ有機光電変換膜(有機膜)と、光透過型の薄膜トランジスタ(TFT)を搭載した信号読出し回路とを交互に積層した構造により光の進行方向に色分離を行い、1枚の撮像素子を用いて全画素でRGBすべての情報を取得し得る垂直色分離型の有機撮像素子が、種々提案されている。
【0005】
具体的には、例えば1枚のガラス基板上に3層の有機膜およびTFTを用いた信号読出し回路を交互に直接積層したもの(下記特許文献1)や、ガラス基板上にTFTを用いた信号読出し回路と有機膜を成膜した素子を3枚積層したもの(下記特許文献2)、この特許文献2のものにおいて、最下部の有機膜および信号読出し回路をCMOSイメージセンサに置き換えたもの(下記特許文献3)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-217174号公報
【特許文献2】特開2005-51115号公報
【特許文献3】特開2019-102623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した各特許文献1~3に示された技術のように、信号読出し回路の上部に、有機膜および対向電極を順に形成する場合、膜の製造手法として、一般的なメタルマスクを用いた真空加熱蒸着法等の真空製膜法を用いようとすると、信号読出し回路のTFT上にも上記有機膜および対向電極が積層されてしまう。
このようにして膜形成された素子の場合、一般的に有機膜はSiよりも吸光度が高く、より薄い膜厚で光電変換層を形成することが可能であるとともに、有機膜と対向電極は画素以外を含む回路全面の上部に共通で形成される。有機膜の膜厚を薄く形成することができれば、素子全体の厚みを薄くできコンパクト化が図れるが、その一方で、画素電極と対向電極の間隔が短縮されるため、下地駆動回路への寄生容量成分が大きくなり、CR時定数が大きくなるため、撮像素子の駆動速度が低下するという問題が生じている。
【0008】
本発明は、上述の問題に鑑みなされたものであり、光電変換層として有機膜を用いることにより、素子全体の厚みを薄くしてコンパクト化を促進するとともに、有機膜を用いたことによる、下地回路への寄生容量成分の増加を抑制し得る垂直色分離型の積層型撮像素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するため、本発明の積層型撮像素子は以下のような構成とされている。
すなわち、本発明の積層型撮像素子は、
信号の読出し処理を行う信号読出し回路部の上方位置に、上方からの光を光電変換する、画素電極と対向電極に挟持された有機膜を積層してなる光情報取得部を少なくとも1つ備えてなる積層型撮像素子であって、
前記画素電極と前記対向電極の間に該有機膜の比誘電率よりも低い比誘電率の無機材料からなる無機バッファ層が配設されたことを特徴とするものである。
ここで、前記信号読出し回路部の上方に前記有機膜が積層されることが要件となるが、前記画素電極は前記信号読出し回路部と、同程度の上下方向位置に配されていてもよい。
【0010】
また、前記無機バッファ層が、前記有機膜と前記対向電極の間に配設されていることが好ましい。
また、3原色光の各々の色光に対応した前記光情報取得部が上下方向に積層されてなるものとすることができる。
また、前記無機バッファ層を構成する無機材料の比誘電率が3.5以下であることが好ましい。また、この比誘電率が3.0以下であることがさらに好ましい。
【0011】
また、前記無機バッファ層を構成する無機材料が、酸化シリコン、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化アルミニウムおよびフッ化アルミニウムの中から選択される材料であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の積層型撮像素子によれば、光電変換膜として有機膜を用いることにより吸光率を高めることができるとともに、有機膜よりも比誘電率の小さい無機バッファ層を厚み補償用(容量補償用)として、画素電極と対向電極との間に配設することで、下地読み出し回路への寄生容量成分を低減することができる。
【0013】
すなわち、素子全体の厚みを薄くしてコンパクト化を促進することができるとともに、下地回路への寄生容量成分の増加を抑制し、CR時定数の増加を抑制して、撮像素子の駆動速度の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る積層型撮像素子の層構成の概念を示す断面図である。
図2図1に示す積層型撮像素子の層構成をより具体的に示す断面図である。
図3図2に示す積層型撮像素子のTFTの概略構成を示す断面図である。
図4図2に示す積層型撮像素子の製造方法における各製造工程を示す概略図である。
図5】本発明の実施例1、2に係る積層型撮像素子の有機光電変換部の層構成を示す概略断面図である。
図6】本発明の実施例1、2および比較例に係る積層型撮像素子の光電変換部(光電変換素子)の電流-電圧特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る積層型撮像素子について図面を用いて説明する。
図1は、実施形態に係る積層型撮像素子の層構成の概念を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る積層型撮像素子100は、基板50上に、第1色光情報取得部10、第2色光情報取得部20および第3色光情報取得部30、をこの順に積層したものである。なお、第1色光情報取得部10と第2色光情報取得部20の間には第1層間絶縁層15が、また、第2色光情報取得部20と第3色光情報取得部30の間には第2層間絶縁層25が各々介在して、隣接する光情報取得部間の絶縁がとられるように構成されている。
【0016】
第3色光情報取得部30、第2色光情報取得部20および第1色光情報取得部10は、順に、図1の上方から入射した光のうち、第3波長域の光(例えば赤色光領域の光)、第2波長域の光(例えば緑色光領域の光)および第1波長域の光(例えば青色光領域の光)を光電変換して、その色光の情報を取得する素子である。
【0017】
各色光情報取得部10、20、30は、各々が、対応する、光電変換部10a、20a、30aおよび信号読出し回路部11、21、31を備えている。各光電変換部10a、20a、30aは画素電極16、26、36、有機膜12、22、32、無機バッファ層13、23、33および対向電極14、24、34をこの順に積層してなり、各信号読出し回路部11、21、31はTFT111b、121b、131b(図2を参照)および配線111a、121a、131a(図2を参照)を備えている。
【0018】
上述した、上方から入射した光のうち、第3有機膜32において第3波長域の光(例えば赤色光)のみが吸収され、第3画素電極36および第3対向電極34間に印加された所定の電圧によって光電変換され、第3信号読出し回路部31において第3波長域の光情報が読み出される。なお、その余の第1波長域および第2波長域の光は透過される。
次に、第2有機膜22において第2波長域の光(例えば緑色光)のみが吸収され、第2画素電極26および第2対向電極24間に印加された所定の電圧によって光電変換され、第2信号読出し回路部21において第2波長域の光情報が読み出される。なお、第1波長域の光は透過される。
最後に、第1有機膜12において第1波長域の光(例えば青色光)が吸収され、第1画素電極16および第1対向電極14間に印加された所定の電圧によって光電変換され、第1信号読出し回路部11において第1波長域の光情報が読み出される。
【0019】
図2は、図1に示す積層型撮像素子の層構成をより具体的に示す断面図である。なお、図2に示す部材に付す符号は、図1の対応する部材の符号に100を加えて示し、重複する説明は簡便のため省略する。
図2により、各色光情報取得部110、120、130における、信号読出し回路部111、121、131(特に、TFT111b、121b、131b)と光電変換部110a、120a、130aの位置関係が示されている。
すなわち、各有機膜112、122、132で吸収された各波長域の光は光電変換され、その強度に応じた電荷が、対応する画素電極116、126、136に移動し、対応するTFT111b、121b、131bで読み出され、配線111a、121a、131aを通じて外部の回路に出力される。
【0020】
したがって、各画素電極116、126、136が占める領域に照射された光が信号値に寄与することになる。
ただし、各有機膜112、122、132、各無機バッファ層113、123、133および各対向電極114、124、134は素子の全領域に亘って、すなわち、TFT111b、121b、131bの上方にも積層される。
なお、各有機膜112、122、132と各対向電極114、124、134の間に各無機バッファ層113、123、133を配設することにより、各有機膜112、122、132の表面を各無機バッファ層113、123、133で覆うことができるため、各有機膜112、122、132の劣化を抑制し易いと考えられる。
【0021】
図3は、図2に示す積層型撮像素子200の各TFT111b、121b、131bの概略構成を示す断面図である。
TFT111b、121b、131bは、基板/層間絶縁層301(図2における基板150または層間絶縁層115、125に相当する)上に、ゲート電極302、ゲート絶縁膜303、半導体層304、ソース電極306a・ドレイン電極306b、および保護膜307を、この順で積層して構成される。
【0022】
また、上述したように、TFT111b、121b、131bは、対応する画素電極116、126、136と電気的に接続されており、光電変換により各画素電極116、126、136に移動した電荷がTFT111b、121b、131bに入力されるように構成されている。
具体的には、画素電極116、126、136に移動した電荷が、1画素(1つの色光情報取得部)あたり1つのTFT(選択用トランジスタ)111b、121b、131bのソース電極306aまたはドレイン電極306bに入力される回路を想定しているが、1画素(1色光情報取得部)あたり複数の選択用トランジスタを含む回路としてもよい。
【0023】
以下、図2に示す各部材についての補足的な説明を行う。
まず、上記第1~第3の各色光情報取得部110、120、130は、光の入射方向から見て矩形状をなしており、また、各有機膜112、122、132の構成材料のうち、青色光のみに感度を有する有機材料(上記例においては、第1有機膜112の構成材料)としては、例えば、クマリン誘導体やポルフィリン誘導体が挙げられ、緑色光のみに感度を有する有機材料(上記例においては、第2有機膜122の構成材料)としては、例えば、キナクリドン誘導体やペリレン誘導体が挙げられ、赤色光のみに感度を有する有機材料(上記例においては、第3有機膜132の構成材料)としては、例えば、フタロシアニン誘導体やナフタロシアニン誘導体が挙げられる。
【0024】
また、上記第1~第3の無機バッファ層113、123、133は、下地読出し回路の寄生容量成分を低減するため、各有機膜112、122、132の厚み補償用(容量補償用)に設けられたものである。すなわち、光電変換用に有機膜を用いると、Si層等を用いた場合と比べて吸光率を大幅に増大させることができるので、その厚みを薄くして、素子全体のコンパクト化を図ることができる。しかしながら、有機膜112、122、132の厚みを薄くすると、各画素電極116、126、136と、対応する各対向電極114、124、134の間隔が小さくなり、寄生容量成分が増大するため、CR時定数が大きくなり、撮像素子の駆動速度が低下してしまう。
【0025】
そこで、本実施形態の積層型撮像素子200においては、各画素電極116、126、136と、対応する各対向電極114、124、134の間に、無機バッファ層113、123、133を設けて有機膜112、122、132の厚み低下分を補償している。
ただし、無機バッファ層113、123、133を、比誘電率が有機膜112、122、132の構成材料よりも低い材料によって構成することにより、寄生容量成分の低下を図りつつ、素子全体の厚みも抑制するようにしている。すなわち、有機膜112、122、132と無機バッファ層113、123、133の合計厚みが、例えば従来の光電変換層としてSiを用いた場合よりも薄くなるように設定することが肝要である。
【0026】
無機バッファ層113、123、133の構成材料は、誘電体材料であることが望ましく、例えば、酸化シリコン、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム等の無機誘電体材料を用いることができる。また、それらを2種類以上積層したものを用いることもできる。なお、光透過性を有するものとすることが望ましい。
特に、比誘電率が有機膜112、122、132の構成材料の比誘電率よりも大幅に低いものが合成容量の低減という観点から望ましい。
【0027】
一般的に有機膜112、122、132を構成する材料の比誘電率は約4であることから、合成容量の大幅な低減という観点で、無機バッファ層113、123、133の構成材料の比誘電率としては、3.5以下であることが望ましく、3.0以下であることがさらに望ましい。
なお、無機バッファ層113、123、133に替えて、有機材料からなるバッファ層を用いることも考えられるが、有機膜112、122、132の構成材料と比誘電率が略同様の値となってしまい、寄生容量成分の低下を図りつつ、素子全体の厚みの増加を抑制することが難しくなることから、本実施形態においては、バッファ層の構成材料を無機材料としている。
【0028】
また、上記第1~第3の画素電極116、126、136(特に、第2~第3の画素電極126、136)と、第1~第3の対向電極114、124、134は、光透過性を有する材料とする。光透過性を有する材料としては、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム・酸化亜鉛(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)等が挙げられる。その他にも、光の透過率を高くすることができる程度に、厚みが十分に薄い(10nm以下が望ましい)アルミニウム、銀、金等の金属材料を用いることもできる。
【0029】
また、第1~第3の信号読出し回路部111、121、131に用いられるTFT111b、121b、131bは、光透過性を有する半導体材料からなるものとすることが好ましい。このような半導体材料としては、酸化亜鉛(ZnO)やアモルファス酸化物半導体であるインジウム・ガリウム・酸化亜鉛(InGaZnO)等が挙げられる。
【0030】
また、上記基板150の構成材料としては、ガラス、シリコン、酸化シリコン、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化アルミニウム、プラスチックフィルム、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の材料を用いることができる。上記第1~第2の層間絶縁層115、125も上記基板150の構成材料と同様の構成材料を用いることができるが、特に、光透過率の良好な材料とすることが肝要である。
【0031】
次に図4を用いて、図2に示す積層型撮像素子200の製造方法の各工程について説明する。この図4においては、簡便のため、積層型撮像素子200の1画素を作製する様子を示しているが、実際の積層型撮像素子の作成においては、このような画素をアレイ状に縦横に配列してなる画素群を同時に作製することになる。
なお、各工程は真空加熱蒸着法、スパッタ法、CVD法等を用いて成膜する。
【0032】
まず、基板150上に配線111aおよび第1画素電極116を形成し(図4(A))、続いてTFT111bを形成する(図4(B))。
次に、第1画素電極116およびTFT111bの上部に第1有機膜112を積層し(図4(C))、その上部に第1無機バッファ層113を積層する(図4(D))。
次に、第1対向電極114を積層する(図4(E))。
これにより第1色光情報取得部110を形成する工程が終了する。
【0033】
このようにして作成された第1色光情報取得部110の上方に、この第1色光情報取得部110と同様にして形成する第2色光情報取得部120および第3色光情報取得部130を順次積層する。ただし、第1色光情報取得部110と第2色光情報取得部120の間には第1層間絶縁層115を形成し、第2色光情報取得部120と第3色光情報取得部130の間には第2層間絶縁層125を形成する(図4(F))。
【0034】
また、最後に、最上層として、図示しない保護膜を積層しておくことが好ましい。
このようにして、図2に示す、カラー撮像用の積層型撮像素子200の作製が完了する。
なお、第1色光情報取得部110は青色光取得用として、第2色光情報取得部120は緑色光取得用として、第3色光情報取得部130は赤色光取得用として、形成することが好ましい。
【0035】
(変更態様)
本発明の積層型撮像素子は、上記実施形態のものに限られるものではなくその他の種々の態様の変更が可能である。
例えば、光電変換部を構成する各層については、上記実施形態のものに限られるものではなく、例えば、他の層を上述した層間に挟むようにすることも可能である。
また、無機バッファ層の材料(比誘電率)は、上記実施形態のものに限られるものではなく、対応する有機層の構成材料よりも比誘電率が低い種々の無機材料を用いることが可能である。
【0036】
また、上記実施形態のものでは、基板側から、青色光に対応する第1有機膜を備えた光電変換部、緑色光に対応する第2有機膜を備えた光電変換部、および赤色光に対応する第3有機膜を備えた光電変換部を、この順に積層するようにしているが、各色光に対応する有機膜を備えた光電変換部の積層順はこれに限られものではなく、他の順番で積層することも可能である。
また、光を透明な基板側から入射するように構成することも可能である。
【0037】
また、光電変換部と信号読出し回路部からなる光情報取得部は、1つまたは2つ、さらには4つ以上の所定数だけ設けて、積層するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、RGBの3原色光を各々変換する光情報取得部を備えているが、遠赤外光や紫外光等の非可視光を含めた波長域範囲で、1つまたは複数個の所定波長域の光を各々取得する光情報取得部を設けるようにしてもよい。
【実施例0038】
(作製されたサンプルの層構成)
以下に、本実施形態の積層型撮像素子に係る光電変換部の具体的なサンプルとして、図5に示す層構成の、実施例1に係る光電変換部と実施例2に係る光電変換部を作製した。また、これら実施例1に係る光電変換部と実施例2に係る光電変換部に対する、比較例に係る光電変換部も作製した。実施例1に係る光電変換部、実施例2に係る光電変換部および比較例に係る光電変換部の構成を以下に説明する。
【0039】
(実施例1)
図5に示すような層構成となるように、実施例1に係る光電変換部400を真空加熱蒸着法で真空一貫にて作製した。
すなわち、インジウム錫酸化膜(ITO)を構成材料とする透明な画素電極402を付設したガラス基板401上に、赤色光に感度を有する亜鉛フタロシアニンを構成材料とする有機膜403を形成した。なお、有機膜403の厚みは100nmとした。
次に、この有機膜403の上部に、誘電率が2.2のフッ化アルミニウムを構成材料とする無機バッファ層404を形成した。なお、無機バッファ層404の厚みは10nmとした。
さらに、その上部に、アルミニウムを構成材料とする対向電極405を形成した。なお、対向電極405の厚みは50nmとした。
【0040】
(実施例2)
実施例2に係る光電変換部400´は、上記実施例1とは、無機バッファ層404の厚みを20nmとしたこと以外は、膜構成、成膜手法、共に同様にして作製した。
(比較例)
比較例に係る光電変換部は、上記実施例1とは、無機バッファ層404を形成しなかったこと以外は、膜構成、成膜手法、共に同様にして作製した。
【0041】
(作製されたサンプルの特性比較)
図6は、実施例1、2および比較例の、光照射時と暗時における電流-電圧特性を示すものである。図6から、フッ化アルミニウムからなる無機バッファ層404が10nmの厚さ(実施例1)または20nmの厚さ(実施例2)で挿入されていても、光電変換部400,400´のS/N比の決定に係る暗時と光照射時(入射光の波長は650nm、光量は50μW/cm2)の電流密度は、光電変換部400,400´の駆動電圧である-3V~-1Vの電圧範囲内で、ほとんど劣化することがなかった。これは、無機バッファ層404が有機膜403に対して電気的な劣化や光透過率の低下等の光学的な特性の劣化を引き起こさないことを示すものである。このことは、比較例の電流-電圧特性との比較からも明らかである。
【0042】
上記実施例の場合において、画素電極402と対向電極405の電極間距離、無機バッファ層404を構成するフッ化アルミニウムの比誘電率(約2.2)、有機膜403を構成する亜鉛フタロシアニンの誘電率(約4)から、光電変換部400、400´の単位面積当たりの合成容量を求めた。
厚さ10nmのフッ化アルミニウムからなる無機バッファ層404を挿入した実施例1の場合の合成容量は約300μF/m2となり、無機バッファ層を挿入しない比較例の場合の合成容量の約354μF/m2に対して、約15%低減することができた。
また、厚さ20nmのフッ化アルミニウムからなる無機バッファ層404を挿入した実施例2の場合の合成容量は約260μF/m2となり、無機バッファ層を挿入しない比較例の場合の合成容量の約354μF/m2に対して、約26%低減することができた。
【0043】
(その他の実施例について)
なお、上記実施例1、2以外の他の実施例についても、上記と同様の結果が得られており、例えば、他の実施例として、厚さ30nmのSiO(誘電率約3.3)からなる無機バッファ層を、所定の有機膜(膜厚200nm)とアルミニウム対向電極の間に挿入した光電変換部を作製した。その結果、上記実施例1、2と同様に光電変換部のS/N比に劣化は見られなかった。
SiOからなる無機バッファ層を挿入した上記他の実施例の場合の合成容量は約112μF/m2となり、無機バッファ層を挿入しない比較例の場合の合成容量の約126μF/m2に対して、約11%低減することができた。
なお、無機バッファ層の構成材料としてSiOを用いた場合は、屈折率がフッ化アルミニウムよりも大きく(SiOの屈折率:1.7-2.0、フッ化アルミニウムの屈折率:1.36)、有機膜の屈折率(1.7-1.8)と近いため、屈折率整合が容易という利点を享受することができた。
【符号の説明】
【0044】
10、20、30、110、120、130 色光情報取得部
10a、20a、30a、110a、120a、130a、400、400´ 光電変換部
11、21、31、111、121、131信号読出し回路部
12、22、32、112、122、132 有機膜
13、23、33、113、123、133 無機バッファ層
14、24、34、114、124、134 対向電極
15、25、115、125 層間絶縁層
16、26、36、116、126、136 画素電極
50、150 基板
100、200 積層型撮像素子
111a、121a、131a 配線
111b、121b、131b TFT
301 基板/層間絶縁層
302 ゲート電極
303 ゲート絶縁膜
304 半導体層
306a ソース電極
306b ドレイン電極
307 保護膜
401 ガラス基板
402 画素電極(ITO)
403 有機膜(亜鉛フタロシアニン)
404 無機バッファ層(フッ化アルミニウム)
405 対向電極(アルミニウム)
図1
図2
図3
図4
図5
図6