(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165441
(43)【公開日】2023-11-16
(54)【発明の名称】水中気泡検知方法及びこれを用いた脱気剤の添加方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/032 20060101AFI20231109BHJP
【FI】
G01N29/032
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076424
(22)【出願日】2022-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】園田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】三枝 隆
(72)【発明者】
【氏名】二木 栄
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA02
2G047AA03
2G047BA01
2G047BB06
2G047BC03
2G047EA10
2G047EA12
(57)【要約】
【課題】繊維状物質及び気泡を含む水が送水管内にある場合であっても、水中の気泡を、的確かつ簡便に検知することができる水中気泡検知方法及びこれを用いた脱気剤の添加方法を提供する。
【解決手段】繊維状物質及び気泡を含む水中の気泡を、透過型超音波センサの受信部で受信した超音波の強度を測定して検知する、水中気泡検知方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状物質及び気泡を含む水中の気泡を、透過型超音波センサの受信部で受信した超音波の強度を測定して検知する、水中気泡検知方法。
【請求項2】
前記超音波の発振周波数が0.5MHz以上である、請求項1に記載の水中気泡検知方法。
【請求項3】
前記繊維状物質及び気泡を含む水が流水であり、超音波の強度を定期的に連続してモニタリングする、請求項1又は2に記載の水中気泡検知方法。
【請求項4】
前記繊維状物質及び気泡を含む水は、目開き20μmの篩残留分が100mg/L以上である、請求項1又は2に記載の水中気泡検知方法。
【請求項5】
前記繊維状物質を含む水は、製紙工程における水系スラリーである、請求項1又は2に記載の水中気泡検知方法。
【請求項6】
超音波の強度を測定する箇所における前記繊維状物質及び気泡を含む水の圧力を0.15MPa未満とする、請求項1又は2に記載の水中気泡検知方法。
【請求項7】
超音波の強度を測定する箇所における前記繊維状物質及び気泡を含む水の圧力を、該測定箇所よりも上流の水中気泡のモニタリング目的箇所の圧力の0.9~1.1倍とする、請求項3に記載の水中気泡検知方法。
【請求項8】
下記式(1)で表される超音波低下率を気泡量の指標とする、請求項1又は2に記載の水中気泡検知方法。
超音波低下率[%]=(R0-R1)/R0×100 (1)
(式中、R0:気泡を含まない水について測定した超音波受信強度、
R1:繊維状物質及び気泡を含む水について測定した超音波受信強度、
を表す。)
【請求項9】
請求項1又は2に記載の水中気泡検知方法を用いて、受信した超音波の強度に応じて、前記繊維状物質及び気泡を含む水中への脱気剤の添加量を制御する、脱気剤の添加方法。
【請求項10】
請求項8に記載の水中気泡検知方法を用いて、前記超音波低下率を気泡量の指標として、前記繊維状物質及び気泡を含む水中への脱気剤の添加量を制御する、脱気剤の添加方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状物質及び気泡を含む水中の気泡を検知する水中気泡検知方法及びこれを用いた脱気剤の添加方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙における抄紙工程等で発生する気泡、特に、水中に残存する気泡は、紙製品の品質や生産性に悪影響を与える。例えば、気泡や、気泡が核となって生じた凝集物が製品に混入すると、泡斑点と呼ばれる製品欠陥が生じる。また、水中気泡が、各種ポンプの回転数や送水管内での圧力、抄紙装置における液面の変動の原因となり、送水効率の低下や製品品質の低下等による生産性の低下を招く。
【0003】
このような気泡による弊害を防止するために、液面の気泡を目視観察したり、液面高さを計測したりして、これらの情報に基づいて消泡剤を添加することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1に、液面高さを超音波レベル計やレーザー距離計で測定することにより、液面における発泡の程度を検出することが記載されている。
また、特許文献2に、測定セル内を加圧及び減圧して、体積変化と内圧との関係から、溶存ガス量を測定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-76059号公報
【特許文献2】特開2005-133240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、液面高さが均等でない場合に気泡を正確に検知できず、また、送水管内等における気泡を検知することはできなかった。
また、特許文献2に記載の方法では、測定セル内の内圧変動のための操作を伴うため、測定に時間及び手間がかかり、また、繊維状物質の詰まり等により正確な検知が困難となる場合もあった。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、繊維状物質及び気泡を含む水が送水管内にある場合であっても、水中の気泡を、的確かつ簡便に検知することができる水中気泡検知方法及びこれを用いた脱気剤の添加方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、透過型超音波センサを用いることにより、送水管内の繊維状物質及び気泡を含む水についても、水中気泡を的確に検知できることを見出したことに基づくものである。
【0009】
本発明は、以下の手段を提供する。
[1]繊維状物質及び気泡を含む水中の気泡を、透過型超音波センサの受信部で受信した超音波の強度を測定して検知する、水中気泡検知方法。
[2]前記超音波の発振周波数が0.5MHz以上である、[1]に記載の水中気泡検知方法。
[3]前記繊維状物質及び気泡を含む水が流水であり、超音波の強度を定期的に連続してモニタリングする、[1]又は[2]に記載の水中気泡検知方法。
[4]前記繊維状物質及び気泡を含む水は、目開き20μmの篩残留分が100mg/L以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の水中気泡検知方法。
[5]前記繊維状物質を含む水は、製紙工程における水系スラリーである、[1]~[4]のいずれかに記載の水中気泡検知方法。
[6]超音波の強度を測定する箇所における前記繊維状物質及び気泡を含む水の圧力を0.15MPa未満とする、[1]~[5]のいずれかに記載の水中気泡検知方法。
[7]超音波の強度を測定する箇所における前記繊維状物質及び気泡を含む水の圧力を、該測定箇所よりも上流の水中気泡のモニタリング目的箇所の圧力の0.9~1.1倍とする、[3]~[6]のいずれか1項に記載の水中気泡検知方法。
[8]下記式(1)で表される超音波低下率を気泡量の指標とする、[1]~[7]のいずれかに記載の水中気泡検知方法。
超音波低下率[%]=(R0-R1)/R0×100 (1)
(式中、R0:気泡を含まない水について測定した超音波受信強度、
R1:繊維状物質及び気泡を含む水について測定した超音波受信強度、
を表す。)
【0010】
[9][1]~[7]のいずれかに記載の水中気泡検知方法を用いて、受信した超音波の強度に応じて、前記繊維状物質及び気泡を含む水中への脱気剤の添加量を制御する、脱気剤の添加方法。
[10][8]に記載の水中気泡検知方法を用いて、前記超音波低下率を気泡量の指標として、前記繊維状物質及び気泡を含む水中への脱気剤の添加量を制御する、脱気剤の添加方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水中気泡検知方法によれば、繊維状物質及び気泡を含む水が送水管内にある場合であっても、水中気泡を的確かつ簡便に検知することができる。
したがって、本発明の水中気泡検知方法は、製紙における原料パルプスラリーや白水等への脱気剤の添加等の工程において有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水中気泡検知方法は、繊維状物質及び気泡を含む水中の気泡を、透過型超音波センサの受信部で受信した超音波の強度を測定して検知する。
透過型超音波センサを用いることによって、繊維状物質及び気泡を含む水中の気泡を的確かつ簡便に検知することができる。
【0013】
繊維状物質及び気泡を含む水は、特に限定されるものではないが、例えば、製紙の各工程における水系スラリーであって、気泡を含むものが挙げられる。水系スラリーとしては、例えば、原料パルプスラリー、白水等が挙げられる。
透過型超音波センサによれば、水に含まれるパルプ等の繊維状物質や紙の填料等の影響を受けることなく、気泡のみを的確に検知することができる。
【0014】
透過型超音波センサは、超音波を発振する発振部と、この発信された超音波を受信する受信部とが対向して配置されており、発振部と受信部との間に測定対象が配置される。発振部から発振された超音波は、測定対象によって遮断又は反射されて、受信部で受信される超音波の強度が変化する。この受信部で受信された超音波の強度(以下、「超音波受信強度」とも言う。)を測定することによって、繊維状物質及び気泡を含む水中の気泡を検知し、気泡についての情報を得ることができる。
【0015】
本発明では、例えば、容器内の繊維状物質及び気泡を含む水や、送水管内を通水している繊維状物質及び気泡を含む水等を測定対象とすることができる。
気泡を含まない水をブランクとし、ブランクについて測定した超音波受信強度をR0、繊維状物質及び気泡を含む水について測定した超音波受信強度をR1とし、{(R0-R1)/R0×100}[%]を求め、この値を、超音波低下率と定義する。
超音波低下率は、水中気泡について、環境因子の影響が軽減された数値であり、気泡量の指標とすることができる。
なお、本発明の透過型超音波センサでの測定は、繊維状物質が超音波受信強度に及ぼす影響がほとんどないと考えられる場合は、ブランクの気泡を含まない水は、繊維状物質を含まないものであってもよい。
【0016】
水中気泡は、測定対象の繊維状物質及び気泡を含む水にかかる圧力による影響を受けやすい。このため、透過型超音波センサによる測定は、大気圧下での水中気泡のモニタリングを目的とする場合は、透過型超音波センサの測定部、すなわち、超音波の強度を測定する箇所における前記繊維状物質及び気泡を含む水の圧力は、好ましくは0.15MPa未満、より好ましくは0.1MPa以下、さらに好ましくは0.05MPa以下であり、また、0MPa以上である。
【0017】
また、大気圧よりも高い圧力下での水中気泡のモニタリングを目的とし、透過型超音波センサによる測定箇所が、前記繊維状物質及び気泡を含む流水の下流部である場合、透過型超音波センサの測定部、すなわち、超音波の強度を測定する箇所における流水の圧力は、上流の水中気泡のモニタリング目的箇所と同等程度の圧力であることが好ましく、より好ましくは、上流の水中気泡のモニタリング目的箇所の圧力の0.8~1.1倍、さらに好ましくは0.85~1.05倍である。
【0018】
透過型超音波センサの発振部からの超音波の発振周波数は、0.5MHz以上であることが好ましく、より好ましくは1MHz以上、さらに好ましくは2MHz以上、よりさらに好ましくは3MHz以上である。発振周波数が0.5MHz以上であれば、水中気泡をより的確に検知することができ、また、繊維状物質や無機粒子状物質が混在していても、水中気泡の測定が可能である。
また、発振周波数は、水中気泡に対する感度の観点から、好ましくは50MHz以下、より好ましくは20MHz以下、さらに好ましくは10MHz以下である。
【0019】
前記繊維状物質及び気泡を含む水が送水管内等の流水であるような場合に、超音波の強度を定期的に連続してモニタリングすることもできる。この場合には、自動で定期的に測定できる計器を用いることにより、効率的なモニタリングが可能となる。このような連続でのモニタリングによる超音波低下率の蓄積データに基づいて、気泡数及び気泡径に対応する情報を得ることができ、これらの情報に基づいて、水中気泡の気泡径分布や体積分布、気泡量を推定することができる。
【0020】
透過型超音波センサは、繊維状物質及び気泡を含む水を測定対象とした、上記のような定期的な連続したモニタリングに好適である。透過型超音波センサは、測定対象の水が、目開き20μmの篩残留分が100mg/L以上である場合における長時間の連続したモニタリングにも適している。
容積式気泡測定装置による測定は、測定対象の繊維状物質及び気泡を含む水に対する圧力を変化させる必要があるため、測定操作が煩雑となり、時間がかかり、また、繊維状物質が多いほど、測定セル等における詰まりが生じやすくなる。
これに対して、透過型超音波センサは、測定対象の繊維状物質及び気泡を含む水には非接触であり、繊維状物質の濃度による影響を受けることなく測定操作を行うことができ、より簡便に、より長時間のモニタリングができる。
【0021】
上記のような本発明に係る水中気泡検知方法は、繊維状物質及び気泡を含む水中、特に、製紙工程の水系スラリーに、脱気剤を添加する際に有用であり、透過型超音波センサの受信部で受信した超音波の強度に応じて、脱気剤の添加量を制御することができる。
【0022】
また、上述したように、超音波低下率が気泡量の指標となることから、繊維状物質及び気泡を含む水中への脱気剤の添加量を、該水系スラリーについて測定された超音波低下率に基づいて制御することもできる。このような超音波低下率を気泡量の指標とした水中気泡検知方法も、脱気剤の添加方法に有用である。
【実施例0023】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は下記の例により限定されるものではない。
【0024】
[測定方法]
下記試験における試料の物性についての各種測定方法は以下のとおりである。
【0025】
<超音波低下率>
透過型超音波センサにて、送水管の側周面に接する発振部から送水管の径方向に超音波を発振し、径方向の反対側の側周面に接する受信部で受信した超音波の強度を測定した。
気泡を含まない水をブランクとし、ブランクについての超音波受信強度R0に対する、試料についての超音波受信強度R1の低下率{(R0-R1)/R0×100}[%]を、超音波低下率とした。
なお、特に断りのない限り、超音波の発振周波数は、3MHzとし、また、前記超音波低下率は、1分間隔で10回測定した値の平均値として求めた。
【0026】
<水中気泡量(容積式気泡測定装置)>
容積式気泡測定装置にて、測定セル内に試料を密封し、加圧時(最大:0.5MPa)と減圧時(最小:-0.08MPa)の体積変化から水中気泡量を5分間隔で測定した。
【0027】
<平均気泡径>
測定対象の液を流量10L/分で通水し、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(「LA-300」、株式会社堀場製作所製;以下、同じ。)にて、メディアン径(D50)を測定し、これを平均気泡径とした。
【0028】
<SS(Suspended Solids:浮遊物質)濃度>
JIS P 8225:2003の試料固形分濃度の測定方法に準じた方法で測定した。
【0029】
<目開き20μmの篩残留分>
試料を目開き20μmのステンレス製篩に空けて、水道水で十分に洗浄した後、篩上の残渣を回収した。この残渣を105℃で3時間乾燥した後の重量(絶乾重量)を測定した。絶乾重量[g]/試料体積[mL]×1000000の式により、目開き20μmの篩残留分[mg/L]を算出した。
【0030】
[試験1](超音波強度による気泡検知確認)
平均気泡径100μmの気泡を含む水、CSF(Canadian Standard Freeness:カナダ標準ろ水度)420mLのLBKP(Leaf Bleached Kraft Pulp:広葉樹晒クラフトパルプ)の水分散液(スラリー)、又は、平均粒径4μmの炭酸カルシウムの水分散液を用いて、下記表1に示す各種試料を調製した。
ここで言う「平均気泡径100μmの気泡を含む水」とは、水道水に界面活性剤(α-オレフィンスルホン酸ナトリウムとポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミドの混合物)を添加し、空気を流量0.05、0.1又は0.15L/分で送り込み、流量10L/分で撹拌ポンプに通して(気泡量0.5、1.0又は1.5体積%)、平均気泡径が100μmとなるように、界面活性剤の添加量を調整した水である。
LBKP又は炭酸カルシウムの分散液は、例1‐8及び例1-9では、界面活性剤を例1-6(気泡量1.0体積%)と同じ添加量で添加して、また、例1-10~例1-13では、界面活性剤を例1-6(気泡量1.0体積%)の添加量の0.01質量%の添加量で添加して、流速10L/分で撹拌ポンプに送水した。
撹拌ポンプを通水した各試料を、送水管に流量10L/分で送水し、超音波式水中気泡測定装置にて、超音波低下率を測定した。測定結果を表1に示す。
なお、ブランクは、界面活性剤非添加、かつ、空気を送り込まずに送水した水道水である。
【0031】
【0032】
表1に示したように、気泡量が多くなるほど、超音波低下率が大きくなることが確認された(例1-1、例1-6及び例1-7)。また、超音波の発振周波数が高いほど、超音波低下率が大きく、水中気泡が検知されやすいと言える(例1-2~例1-6)。
一方、LBKP又は炭酸カルシウムの水分散液(例1-10~例1-13)は、超音波低下率が小さく、分散物による超音波強度の低下はし難いことが確認された。
また、LBKP又は炭酸カルシウムの水分散液が気泡を含む場合(例1-8及び例1-9)、気泡の検知は、気泡を含む水(例1-6)とほぼ同等程度であった。このことから、製紙工程において、LBKP等のパルプ繊維や炭酸カルシウム等の填料等を主要成分とするパルプスラリーについても、水中気泡の選択的な検知が可能であると言える。
【0033】
[試験2](超音波低下率と気泡量及び気泡径との相関)
曝気した水道水に、界面活性剤(α-オレフィンスルホン酸ナトリウムとポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミドの混合物)を、添加量を調整して添加し、表2に示す各気泡量となるように、送水管に送水した。この送水管内に空気を送り込み、流量10L/分で、直列に連結した透過型超音波センサ及びレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置に送水し、0.1秒間隔で10分間、超音波低下率及び気泡径を測定した。
なお、超音波低下率が0.5%未満の場合は、検知誤差範囲内であり、気泡は含まれていないものとみなした。
超音波低下率が0.5%以上の気泡の出現率及び平均値、並びに気泡径の測定結果を表2に示す。
なお、ブランクは、空気を送り込まずに送水した。
【0034】
【0035】
界面活性剤の添加量が多くなると、超音波低下率の平均値が小さくなり、平均気泡径が小さくなる傾向が見られた(例2-1~例2-4)。このことから、超音波低下率は、気泡径(気泡サイズ)の指標になると言える。
また、超音波低下率が0.5%以上の気泡の出現率は、気泡を含まない場合(ブランク)は0%であり、平均気泡径が同程度である場合(例2-5、例2-3及び例2-6)は、気泡量の増加に伴って、大きくなった。このことから、超音波低下率が0.5%以上の気泡の出現率は、水中気泡数の指標になると言える。
したがって、超音波低下率のデータ分布に基づいて、水中気泡の気泡径分布、体積分布、及び水中気泡量を推定することが可能である。
【0036】
[試験3](連続測定試験)
製紙工程で採取した、下記表3に示す各種試料を、送水管に流量10L/分で送水し、透過型超音波センサ又は容積式水中気泡測定装置を設置した送水経路の閉塞状態を7日間経過観察した。
なお、スライム発生による閉塞防止のため、試験開始時に、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを50mg/L添加した。
各試料について、透過型超音波センサ及び容積式気泡測定装置のそれぞれを使用した場合に、閉塞状態となった時間を表3に示す。
【0037】
【0038】
表3に示したように、白水回収クリア水(例3-6)は、SS濃度が低く、かつ、目開き20μmの篩残留分が少なく、透過型超音波センサ及び容積式気泡測定装置のいずれの気泡測定装置を使用した場合でも、7日以上、閉塞は見られなかった。
SS濃度が高く、かつ、目開き20μmの篩残留分が多い、他の試料(例3-1~例3-5)は、透過型超音波センサを使用した場合は、7日以上、閉塞が見られなかった。一方、容積式気泡測定装置を使用した場合は、通水と密封、及び、加圧と減圧のための切り換えバルブ付近で、2日以内に閉塞が見られた。
このことから、透過型超音波センサによれば、繊維状物質を含む水の気泡の検知を、容積式気泡測定装置よりも長期間、連続して行うことができると言える。
【0039】
[試験4](脱気剤添加)
段ボール原紙製造装置のインレットスラリーに、脱気剤(高級アルコールとパラフィンとの混合物の乳化物)を、表4に示す各添加量で添加し、流量10L/分で撹拌ポンプに通した後、脱気槽内で30秒間滞留させて脱気した。なお、インレットスラリー中の気泡量は、該インレットスラリーを孔径5μmのフィルターでろ過したろ液において、流量10L/分で撹拌ポンプに送水したとき、平均気泡径100μmの気泡が2体積%になるように調整した。
脱気したスラリーを、送水管に流量10L/分で送水し、透過型超音波センサ又は容積式水中気泡測定装置で、超音波低下率及び気泡量を測定した。測定結果を表4に示す。
【0040】
【0041】
脱気剤の添加量が多いほど、超音波低下率が小さく、気泡量が低下することが確認された。脱気剤による脱気効果が超音波低下率に反映されていることから、透過型超音波センサで測定した超音波低下率に基づいて、脱気剤の添加量を調整することが可能であると言える。
【0042】
[試験5](圧力の影響(1))
段ボール原紙製造装置におけるファンポンプ出口(圧力0.4MPa)の原料スラリーを、送水管に流量10L/分で送水し、透過型超音波センサの測定部における圧力を変化させて、超音波低下率を測定した。測定結果を表5に示す。
【0043】
【0044】
表5に示したように、測定部の圧力が高くなると、超音波低下率が小さくなり、0.15MPa以上になると、著しく小さくなる傾向が見られた(例5-4~例5-7)。このことから、例えば、大気圧でのワイヤー上のスラリーの気泡量の測定を目的とする場合は、圧力0.15MPa未満で測定することが好ましく、0.1MPa以下で測定することがより好ましいと言える。
【0045】
[試験6](圧力の影響(2))
上質紙製造装置におけるファンポンプ出口(圧力0.25MPa)の原料スラリーを、送水管に流量10L/分で送水し、透過型超音波センサ又は容積式水中気泡測定装置で、測定部における圧力を変化させて、超音波低下率及び気泡量を測定した。測定結果を表6に示す。
【0046】
【0047】
容積式水中気泡測定装置で測定した気泡量は、測定部の圧力によらず、ほぼ同等であった。容積式水中気泡測定装置では、測定時に加圧及び減圧操作を伴うため、測定部の圧力とは関係なく、溶存気体が気泡となり、容積基準の気泡量の測定値は溶存気体も含む値となるためであると考えられる。
これに対して、超音波低下率は、測定部の圧力が0.20MPa以上では、ほぼ同等であったが(例6-1~例6-3)、0.15MPa以下では、著しく大きくなる傾向が見られた(例6-4~例6-7)。透過型超音波センサによる測定時には、ファンポンプ出口の圧力よりも一定以上低くなると、溶存気体が気泡となって検知されるためであると推測される。
このことから、大気圧よりも圧力が高い状態となる送水ポンプ出口付近での圧力と同等程度の圧力下で、超音波低下率を測定することにより、ポンプによる送水効率を低下させる要因となる気泡のモニタリングを的確に行うことが可能となると言える。