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  • 特開-共重合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165484
(43)【公開日】2023-11-16
(54)【発明の名称】共重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/60 20060101AFI20231109BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20231109BHJP
   H01M 8/18 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
C08F220/60
H01M8/02
H01M8/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076522
(22)【出願日】2022-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 光紀
(72)【発明者】
【氏名】大泉 淳一
(72)【発明者】
【氏名】小柳津 研一
(72)【発明者】
【氏名】畠山 歓
(72)【発明者】
【氏名】塚本 彩乃
【テーマコード(参考)】
4J100
5H126
【Fターム(参考)】
4J100AM21P
4J100AM21Q
4J100AM24R
4J100BA32Q
4J100BA56Q
4J100BC65P
4J100CA05
4J100CA23
4J100DA55
4J100EA07
4J100EA09
4J100FA20
4J100HA01
4J100HB34
4J100HC36
4J100HD01
4J100HE12
4J100JA43
5H126AA03
5H126BB10
5H126GG17
5H126GG18
5H126JJ01
5H126RR01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】レドックスフロー電池用等として有用な活物質としての共重合体及び該共重合体を含む架橋ポリマー微粒子、並びに該共重合を含む水系電解液及び該架橋ポリマー微粒子を含む水系電解液、及び該水系電解液を用いたレドックスフロー電池を提供すること。
【解決手段】式(1)で表されるモノマーと親水性基を有する(メタ)アクリルアミドとを含む原料モノマーの共重合体。

(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるモノマーと親水性基を有する(メタ)アクリルアミドとを含む原料モノマーの共重合体。
【化1】

(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基である。)
【請求項2】
前記親水性基が、両性イオン基である、請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
前記両性イオン基が、アンモニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、ピペラジニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、トリアゾニウムカチオン、トリアジニウムカチオン、ピラジニウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、及びピリダジニウムカチオンから選ばれる少なくとも1種のカチオンと、スルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、及びリン酸アニオンから選ばれる少なくとも1種のアニオンとを含む、請求項2に記載の共重合体。
【請求項4】
前記両性イオン基が、アンモニウムカチオン及びスルホン酸アニオンを含む、請求項3に記載の共重合体。
【請求項5】
請求項1に記載の共重合体を含む架橋ポリマー微粒子。
【請求項6】
請求項1に記載の共重合体を含む水系電解液。
【請求項7】
請求項5に記載の架橋ポリマー微粒子が分散している水系電解液。
【請求項8】
前記架橋ポリマー微粒子のZ平均粒径が100nm以上1000nm以下である、請求項7に記載の水系電解液。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の水系電解液を正極側電解液として用いる、レドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体及び該共重合体を含む架橋ポリマー微粒子、並びに該共重合を含む水系電解液及び該架橋ポリマー微粒子を含む水系電解液、及び該水系電解液を用いたレドックスフロー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、持続可能型社会の実現に向けて、温室効果ガスを発生しない再生可能エネルギーの利用が盛んになっている。しかし、再生可能エネルギーの発電量は、季節、天候等に左右されやすいため、再生可能エネルギーを安定的に供給するための電力貯蔵用の蓄電池の需要が高まっている。このような産業用の蓄電池として、レドックスフロー電池が知られている。
【0003】
現在、一般的なレドックスフロー電池ではバナジウムが電解液中の活物質として用いられているが、バナジウムが希少金属であることから、供給不足の懸念及びコスト高が課題となっている。また、電解液として高濃度の硫酸を用いるため、安全性も課題となっている。そのため、バナジウムに代わる活物質の探索が続けられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、各チャンバーが、電解質溶媒中にそのままで存在する、溶解した状態で存在する、または分散した状態で存在する酸化還元活性成分で充填されており、そこに伝導性塩と場合によりさらなる添加剤とが溶解しているレドックスフローセルが開示されており、該酸化還元活性成分として、ポリ(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニルオキシ(TEMPO)メタクリレート-ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート)が開示されている。
また、特許文献2には、有機ポリマー流体を用いた液体バッテリーシステムであって、正極活性物質としてTEMPO官能基化ポリマーを用い、負極活性物質としてビオローゲン官能基化ポリマーを用いた液体バッテリーシステムが開示されている。
さらに、非特許文献1には、レドックス活性化合物としてのTEMPO構造を有するアクリル酸エステルと、溶解性コモノマーとしての両性イオン基を有するアクリル酸エステルとを共重合した共重合体をカソライト種として含む水系レドックスフロー電池が開示されている。
また更に、非特許文献2には、TEMPO由来の構造を含むナノ粒子をカソライトとして含む水系レドックスフロー電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2015-532764号公報
【特許文献2】中国特許出願公開第111564649号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hagemann et al., “(2,2,6,6-Tetramethylpiperidin-1-yl)oxy-Containing Zwitterionic Polymer as Catholyte Species for High-Capacity Aqueous Polymer Redox Flow Batteries” Chem. Mater. 2019, 31, 7987-7999.
【非特許文献2】Hatakeyama-Sato et al., “Hydrophilic Organic Redox-Active Polymer Nanoparticles for Higher Energy Density Flow Batteries” Applied Polymer Materials, 2019, 1, 188-196.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のレドックスフローセル、及び特許文献2に記載の液体バッテリーシステム、並びに非特許文献1及び2に記載されている水系レドックスフロー電池は、依然としてエネルギー効率に改善の余地があった。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決すべくなされたものであり、レドックスフロー電池用等として有用な活物質としての共重合体及び該共重合体を含む架橋ポリマー微粒子、並びに該共重合を含む水系電解液及び該架橋ポリマー微粒子を含む水系電解液、及び該水系電解液を用いたレドックスフロー電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記実情に鑑み、鋭意検討した結果、特定のポリマーを含む水系電解液を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1] 式(1)で表されるモノマーと親水性基を有する(メタ)アクリルアミドとを含む原料モノマーの共重合体。
【化1】

(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基である。)
[2] 前記親水性基が、両性イオン基である、[1]に記載の共重合体。
[3] 前記両性イオン基が、アンモニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、ピペラジニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、トリアゾニウムカチオン、トリアジニウムカチオン、ピラジニウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、及びピリダジニウムカチオンから選ばれる少なくとも1種のカチオンと、スルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、及びリン酸アニオンから選ばれる少なくとも1種のアニオンとを含む、[2]に記載の共重合体。
[4] 前記両性イオン基が、アンモニウムカチオン及びスルホン酸アニオンを含む、[3]に記載の共重合体。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の共重合体を含む架橋ポリマー微粒子。
[6] [1]~[4]のいずれかに記載の共重合体を含む水系電解液。
[7] [5]に記載の架橋ポリマー微粒子が分散している水系電解液。
[8] 前記架橋ポリマー微粒子のZ平均粒径が100nm以上1000nm以下である、[7]に記載の水系電解液。
[9] [6]~[8]のいずれかに記載の水系電解液を正極側電解液として用いる、レドックスフロー電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水系電解液中において優れた拡散性を示す共重合体及び該共重合体を含む架橋ポリマー微粒子を提供することができ、これら共重合体及び架橋ポリマー微粒子を含有する水系電解液を用いることで、エネルギー効率の高いレドックスフロー電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の架橋ポリマー微粒子が分散している水系電解液のサイクリックボルタモグラム(実線)及び比較例1の架橋ポリマー微粒子が分散している水系電解液のサイクリックボルタモグラム(破線)を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[共重合体]
本発明の共重合体は、式(1)で表されるモノマーと親水性基を有する(メタ)アクリルアミドとを含む原料モノマーの共重合体である。すなわち、本発明の共重合体は、式(1A)で表される構造と親水性基を有する(メタ)アクリルアミドと由来の構造とを含む。なお、本明細書に記載された化合物・構造は例示に過ぎず、本発明は明細書中に記載された化合物・構造の取り得る位置異性体の全てを含むものとする。
【0014】
【化2】
【0015】
式(1)中、Rは水素原子又はメチル基である。
【0016】
【化3】
【0017】
式(1A)中、Rは水素原子又はメチル基である。
【0018】
親水性基を有する(メタ)アクリルアミドが有する親水性基は、共重合体が水に溶解する限りいかなる親水性基でもよいが、例えば、アンモニウムカチオン;ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、ピペラジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン等の含窒素脂環式基由来のカチオン、ピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、トリアゾニウムカチオン、トリアジニウムカチオン、ピラジニウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、ピリダジニウムカチオン等の含窒素芳香族基由来のカチオン、及びスルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、リン酸アニオン等のアニオンが挙げられる。親水性基を有する(メタ)アクリルアミドは、これら親水性基を1種類又は複数種類有していてもよい。なかでも、アンモニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、スルホン酸アニオン、及びカルボン酸アニオンが好ましく、アンモニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、スルホン酸アニオン、及びカルボン酸アニオンがより好ましい。
親水性基としてのアンモニウムカチオンとしては、第一級アンモニウムカチオン、第二級アンモニウムカチオン、第三級アンモニウムカチオン、第四級アンモニウムカチオンのいずれでもよく、第三級アンモニウムカチオン及び第四級アンモニウムカチオンが好ましく、第四級アンモニウムカチオンがより好ましい。
【0019】
カチオンの対アニオンとしては、例えば、ハロゲン化物イオン、スルホン酸アニオン、硫酸アニオン、カルボン酸アニオン、炭酸アニオン、ホスホン酸アニオン、リン酸アニオン等が挙げられ、ハロゲン化物イオン及びスルホン酸アニオンが好ましく、スルホン酸アニオンがより好ましい。ハロゲン化物イオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、及び臭化物イオンが好ましく、フッ化物イオン及び塩化物イオンがより好ましい。
アニオンの対カチオンとしては、例えば、プロトン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、及びアンモニウムカチオンが挙げられ、アルカリ金属イオン及びアンモニウムカチオンが好ましい。対カチオンとしてのアンモニウムカチオンは、アンモニウムカチオン(NH )、第一級アンモニウムカチオン、第二級アンモニウムカチオン、第三級アンモニウムカチオン、第四級アンモニウムカチオンのいずれでもよく、第四級アンモニウムカチオンが好ましい。
【0020】
本発明の共重合体が、水系電解液中において優れた拡散性を示すメカニズムは定かではないが、次のように考えられる。
本発明の共重合体が含むアミド基は親水性であるため、特許文献1及び2、並びに非特許文献1に記載される(メタ)アクリル酸エステル誘導体の共重合体と比べても、水系媒体への溶解性が高まる。また、本発明の共重合体は、式(1)で表されるモノマー由来の構造と親水性基を有する(メタ)アクリルアミド由来の構造とを含む。そのため、水系媒体中において本発明の共重合体は親水性基が水系媒体に配向した構造をとることができ、水系媒体への高い親和性を示す。
その結果、本発明の共重合体は、水系電解液中において優れた拡散性を示すと考えられる。
なお、本発明の効果に関する上記のメカニズムは推定であり、これに限定されるものではない。
【0021】
親水性基を有する(メタ)アクリルアミドが有する親水性基は、両性イオン基であることが好ましい。すなわち、親水性基を有する(メタ)アクリルアミドが、その構造中に上記カチオンから選ばれる1種類又は複数種類と、上記アニオンから選ばれる1種類又は複数種類とを含むことが好ましい。親水性基が両性イオン基であることで、共重合体の電解質を含む水系媒体への溶解性をより高めることができる。そのため、これらを含む水系電解液が優れた電気伝導度を示し、この水系電解液を用いるレドックスフロー電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0022】
親水性基を有する(メタ)アクリルアミドが有する親水性基が両性イオン基である場合、両性イオン基は、アンモニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、及びイミダゾリウムカチオンから選ばれる1つと、スルホン酸アニオン及びカルボン酸アニオンから選ばれる1つとを含むことが好ましく、アンモニウムカチオン及びピリジニウムカチオンから選ばれる1つと、スルホン酸アニオン及びカルボン酸アニオンから選ばれる1つとを含むことがより好ましく、アンモニウムカチオン及びスルホン酸アニオンを含むことが更に好ましい。
【0023】
親水性基が両性イオン基である場合、両性イオン基を有する(メタ)アクリルアミドは、式(2a)及び式(2b)で表される化合物であることが好ましい。
【化4】
【0024】
式(2a)中、Rは、水素原子又はメチル基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は以下の式(3)で表される基であり、ただし、R及びRの少なくとも一方は式(3)で表される基である。
【0025】
*-R-A-R-B (3)
式(3)中、R及びRは、それぞれ独立に、単結合、又はエーテル基、チオエーテル基、エステル基、及びアミド基を含んでいてもよい炭素数1~4のアルキレン基であり、*は窒素原子との結合位置を示す。
【0026】
は、アンモニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、ピペラジニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、トリアゾニウムカチオン、トリアジニウムカチオン、ピラジニウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、及びピリダジニウムカチオンから選ばれるカチオンである。
Bは、スルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、及びリン酸アニオンから選ばれる。ただし、式(2a)で表される化合物はスルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、及びリン酸アニオンから選ばれる少なくとも一つを有する。
ただし、Rが単結合である場合、Aは、式(3)が結合する窒素原子とA中の炭素原子で結合し、Rが単結合かつBがスルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、又はリン酸アニオンである場合、Aは、BとA中の炭素原子で結合する。
【0027】
【化5】
【0028】
式(2b)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは単結合、又はエーテル基、チオエーテル基、エステル基、及びアミド基を含んでいてもよい炭素数1~4のアルキレン基であり、nは、1又は2である。
【0029】
は、ピペラジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、及びトリアゾニウムカチオンから選ばれ、カチオン中の一つの窒素原子はAが結合したカルボニル基に結合し(メタ)アクリルアミド構造を形成する。
式(2b)で表される化合物において、Bは、式(2a)で表される化合物におけるBと同義である。
ただし、Rが単結合かつBがスルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、又はリン酸アニオンである場合、Aは、BとA中の炭素原子で結合する。
【0030】
~Rで表される炭素数1~4のアルキレン基とは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、1,1-ジメチルエチレン基、1,2-ジメチルエチレン基、及びエチルエチレン基である。
~Rで表されるエーテル基、チオエーテル基、エステル基、及びアミド基を含む炭素数1~4のアルキレン基とは、炭素数1~4のアルキレン基の構造中又は末端にエーテル基、チオエーテル基、エステル基、及びアミド基から選択されるいずれか一つを含む基であり、好ましくは以下の式(4a)~式(4f)で表される基である。
**-(CHm1-O-(CHm2-*** (4a)
**-(CHm1-S-(CHm2-*** (4b)
**-(CHm1-COO-(CHm2-*** (4c)
**-(CHm1-OCO-(CHm2-*** (4d)
**-(CHm1-CONH-(CHm2-*** (4e)
**-(CHm1-NHCO-(CHm2-*** (4f)
【0031】
式(4a)~式(4f)中、m1は0以上3以下の整数であり、m2は1以上4以下の整数であり、m1+m2は1以上4以下である。**はA又はAとの結合位置を示し、***はBとの結合位置を示す。
ただし、m1が0の場合、式(4a)~式(4f)で表される基は、A又はA中の炭素原子と結合する。
【0032】
~Rで表される炭素数1~4のアルキレン基は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、及びブチレン基が好ましく、エチレン基、プロピレン基、及びブチレン基がより好ましく、エチレン基及びプロピレン基が更に好ましく、プロピレン基がより更に好ましい。
【0033】
両性イオン基中の、カチオン性基に対するアニオン性基のモル比(アニオン性基/カチオン性基)は、0.5以上が好ましく、0.75以上がより好ましく、そして2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、特に好ましくは1.0以下である。
【0034】
両性イオン基を含む(メタ)アクリルアミドとしては、次の式(2a-1)~式(2a-40)及び式(2b-1)~式(2b-4)のいずれかで表される化合物が好ましい。
【化6】

【化7】

【化8】
【0035】
式(2a-1)~式(2a-40)及び式(2b-1)~式(2b-4)中、Rは水素原子又はメチル基であり、R5a及びR6aは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキレン基であり、R5b及びR6bは、それぞれ独立に、炭素結合又は炭素数1~4のアルキレン基であり、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基である。
及びRで表される炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、及びイソブチル基が挙げられる。
【0036】
両性イオン基を含む(メタ)アクリルアミドとしては、式(2a-1)、式(2a-2)、及び式(2a-19)~式(2a-24)のいずれかで表される化合物がより好ましい。
【化9】
【0037】
両性イオン基を含む(メタ)アクリルアミドとしては、式(2a-1)で表される化合物が更に好ましい。
【化10】
【0038】
両性イオン基を含む(メタ)アクリルアミドとしては、式(2a-1-1)で表される化合物が更に好ましい。
【化11】
【0039】
本発明の共重合体において、式(1)で表されるモノマー由来の構造に対する親水性基を有する(メタ)アクリルアミド由来の構造のモル比(親水性基を有する(メタ)アクリルアミド由来の構造/式(1)で表されるモノマー由来の構造)は、共重合体の水系媒体中での溶解性を高める観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.03以上、更に好ましくは0.04以上であり、そして、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.7以下、更に好ましくは0.5以下である。
本発明の共重合体において、式(1)で表されるモノマーと親水性基を有する(メタ)アクリルアミドは、ランダムコポリマーを形成してもよく、ブロックコポリマーを形成していてもよい。
【0040】
(共重合体の調製)
本発明の共重合体を調製する方法としては、式(1’)で表されるモノマーと親水性基を有する(メタ)アクリルアミドとを、反応溶媒に溶解し又は無溶媒で、ラジカル重合開始剤を用いて共重合することで共重合体前駆体を得て、その後、共重合体前駆体中の式(1B)で表される構造のピペリジン部位を、酸化剤を用いてピペリジンN-オキシルラジカルへと酸化する方法が挙げられる。
【0041】
【化12】
【0042】
【化13】
【0043】
式(1’)及び式(1B)中、Rは水素原子又はメチル基である。
【0044】
反応溶媒を用いる場合、反応溶媒としては有機溶媒及び水系媒体のいずれも用いることができるが、水系媒体への高い溶解性を示す共重合体が得られる観点から、水系媒体を用いることが好ましい。
反応溶媒を用いる場合、反応溶媒100質量部に対する式(1’)で表されるモノマーと親水性基を有する(メタ)アクリルアミドとの合計質量は、反応性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上が更に好ましく、そして、20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5.0質量部以下が更に好ましい。
【0045】
反応溶媒として水系媒体を用いる場合、分散剤を用いることが好ましい。このような分散剤としては、例えば、ポリ(エチレン-ブロック-エチレングリコール)(PE-b-PEG)等のポリ(アルキレン-ブロック-アルキレングリコール);ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムなどのイオン性界面活性剤が好ましい。分散剤の量としては、式(1’)で表されるモノマーと親水性基を有する(メタ)アクリルアミドとの合計100質量部に対して、反応性の観点から、10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、25質量部以上が更に好ましく、そして、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、35質量部以下が更に好ましい。
【0046】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジブチルパーオキシド等の過酸化物、ペルオキソ二硫酸カリウム等の過硫酸塩、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が挙げられ、過硫酸塩が好ましく、ペルオキソ二硫酸カリウムがより好ましい。ラジカル重合開始剤の使用量は、式(1’)で表されるモノマーと親水性基を有する(メタ)アクリルアミドの合計100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上5質量部以下である。
【0047】
共重合反応を行う温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であり、そして、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下である。
反応時間は、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上であり、そして、好ましくは24時間以下、より好ましくは18時間以下である。
【0048】
共重合体前駆体中の式(1B)で表される構造のピペリジン部位の酸化に用いる酸化剤としては、過酸化水素、m-クロロ過安息香酸等の過酸化物が挙げられ、好ましくは過酸化水素である。
酸化反応は、水系媒体中又はテトラヒドロフラン等の有機溶媒中で行うことが好ましい。反応温度は0℃以上25℃以下が好ましく、25℃が好ましい。反応時間は10分間以上が好ましく、30分間以上がより好ましく、そして、96時間以下が好ましく、84時間以下がより好ましい。
共重合体前駆体中の式(1B)で表される構造のピペリジン部位の酸化は、得られた共重合体前駆体をそのまま酸化反応に供してもよく、又は精製して酸化反応に供してもよい。共重合体前駆体を精製する場合、透析、沈殿精製、遠心分離等の常法を用いて精製することができる。また、酸化後の共重合体も、同様の方法で精製することができる。
【0049】
(共重合体の物性)
本発明の共重合体の数平均分子量は、5,000以上が好ましく、そして、50,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましく、25,000以下が更に好ましい。
【0050】
[架橋ポリマー微粒子]
本発明の架橋ポリマー微粒子は、上記共重合体を含む架橋ポリマーの微粒子である。
共重合体を含む架橋ポリマーとは、上記共重合体を架橋剤で架橋した架橋ポリマー、及び架橋剤を含む共重合体の原料ポリマーを共重合することで得られる架橋ポリマーを意味する。
本発明の架橋ポリマー微粒子は親水性基を有するため、水系媒体中において高い分散性を有する。そのため、レドックスフロー電池の活物質として用いることで、高いエネルギー効率を発揮することができる。
【0051】
本発明の架橋ポリマー微粒子において、式(1)で表されるモノマー由来の構造に対する親水性基を有する(メタ)アクリルアミド由来の構造のモル比(親水性基を有する(メタ)アクリルアミド由来の構造/式(1)で表されるモノマー由来の構造)は、架橋ポリマー微粒子の水系媒体中での分散性を高める観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.03以上、更に好ましくは0.04以上であり、そして、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.7以下、更に好ましくは0.5以下である。
本発明の架橋ポリマー微粒子において、式(1)で表されるモノマー由来の構造及び親水性基を有する(メタ)アクリルアミド由来の構造に対する架橋剤由来の構造のモル比(架橋剤由来の構造/式(1)で表されるモノマー由来の構造+親水性基を有する(メタ)アクリルアミド由来の構造)は、架橋ポリマー微粒子の水系媒体中での分散性を高める観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.03以上、更に好ましくは0.05以上であり、そして、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.15以下、更に好ましくは0.10以下である。
【0052】
本発明の架橋ポリマー微粒子が、水系電解液中において優れた拡散性を示すメカニズムは定かではないが、次のように考えられる。
本発明の架橋ポリマー微粒子は、式(1)で表されるモノマー由来の構造と親水性基を有する(メタ)アクリルアミド由来の構造と、架橋剤由来の構造とを含む。そのため、アミド基及び親水性基の働きにより、水系媒体中における架橋ポリマー微粒子分散性が良好となると考えられる。また、親水性基が両性イオン基である場合、架橋ポリマー微粒子の電解質を含む水系媒体への親和性をより高めることができる。
その結果、本発明の架橋ポリマー微粒子は水系電解液中で優れた分散安定性を示し、水系電解液中で長時間分散することができ、水系電解液中において優れた拡散性を示すと考えられる。そして、この水系電解液を用いるレドックスフロー電池のエネルギー密度を高めることができる。
なお、本発明の効果に関する上記のメカニズムは推定であり、これに限定されるものではない。
【0053】
(架橋ポリマー微粒子の調製)
共重合体の鎖状構造を架橋剤で架橋した架橋ポリマー微粒子の調製方法としては、例えば、上記共重合体中のアミノ基、カルボキシ基、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基等の一部を架橋剤で架橋する方法が挙げられる。
このような架橋剤としては、2以上のカルボキシ基を有する化合物、2以上のイソシアネート基を有する化合物、2以上のヒドロキシ基を有する化合物等が挙げられる。
【0054】
また、架橋剤を含む共重合体の原料ポリマーの共重合による架橋ポリマー微粒子の調製方法としては、式(1’)で表されるモノマーと、親水性基を有する(メタ)アクリルアミドと、2以上のラジカル重合性官能基を有する架橋剤とを、ラジカル重合開始剤を用いて共重合することで架橋ポリマー微粒子前駆体を得て、その後、架橋ポリマー微粒子前駆体中の式(1B)で表される構造のピペリジン部位を、酸化剤を用いてピペリジンN-オキシルラジカルへと酸化する方法が挙げられる。
【0055】
【化14】
【0056】
【化15】
【0057】
式(1’)及び式(1B)中、Rは水素原子又はメチル基である。
【0058】
このような架橋剤としては、例えば、分子内に2以上の(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物が好ましく、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’-エチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’-(1,2-ジヒドロキシエチレン)ビス(メタ)アクリルアミド、及び1,4-ビス(メタ)アクロイルピペラジンがより好ましく、N,N’-メチレンビス(アクリルアミド)及びN,N’-(1,2-ジヒドロキシエチレン)ビス(メタ)アクリルアミドが更に好ましい。
【0059】
架橋ポリマー微粒子前駆体の調製は、水系電解液中において優れた拡散性を示す架橋ポリマー微粒子が得られる観点から、水系媒体を用いることが好ましい。
水系媒体100質量部に対する式(1’)で表されるモノマーと、親水性基を有する(メタ)アクリルアミドと、架橋剤との合計質量は、反応性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上が更に好ましく、そして、20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5.0質量部以下が更に好ましい。
【0060】
反応溶媒として水系媒体を用いることで水系電解液中において優れた拡散性を示す架橋ポリマー微粒子前駆体が得られるメカニズムは定かではないが、次のように考えられる。
式(1’)で表されるモノマーと、親水性基を有する(メタ)アクリルアミドと、架橋剤とを水系媒体中で重合する場合、親水性基を有する(メタ)アクリルアミドが水系媒体中で溶媒側に配向しながら共重合が進行すると考えられる。そのため、得られる架橋ポリマー微粒子前駆体の表面に親水性基が多く存在することで、水系媒体中における架橋ポリマー微粒子分散性が良好となると考えられる。その結果、本発明の架橋ポリマー微粒子は水系電解液中で長時間分散することができ、水系電解液中において優れた拡散性を示すと考えられる。
なお、本発明の効果に関する上記のメカニズムは推定であり、これに限定されるものではない。
【0061】
架橋ポリマー微粒子前駆体の調製では、分散剤を用いることが好ましい。分散剤としては、上記共重合体の調製で挙げた分散剤を用いることができ、好ましくはポリ(アルキレン-ブロック-アルキレングリコール)である。分散剤の量としては、式(1’)で表されるモノマーと、親水性基を有する(メタ)アクリルアミドと、架橋剤との合計100質量部に対して、反応性の観点から、10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、25質量部以上が更に好ましく、そして、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、35質量部以下が更に好ましい。
【0062】
ラジカル重合開始剤としては、上記共重合体の調製で挙げたラジカル重合開始剤を用いることができ、好ましくは過硫酸塩、より好ましくはペルオキソ二硫酸カリウムである。ラジカル重合開始剤の使用量は、式(1’)で表されるモノマーと、親水性基を有する(メタ)アクリルアミドと、架橋剤との合計100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上5質量部以下である。
【0063】
共重合反応を行う温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であり、そして、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下である。
反応時間は、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上であり、そして、好ましくは24時間以下、より好ましくは18時間以下である。
【0064】
架橋ポリマー微粒子前駆体中の式(1B)で表される構造のピペリジン部位の酸化に用いる酸化剤としては、過酸化水素、m-クロロ過安息香酸等の過酸化物が挙げられ、好ましくは過酸化水素である。
架橋ポリマー微粒子前駆体中の式(1B)で表される構造のピペリジン部位の酸化は、共重合体前駆体中の式(1B)で表される構造のピペリジン部位のピペリジン構造の酸化と同様の条件で行うことができる。
架橋ポリマー微粒子前駆体中の式(1B)で表される構造のピペリジン部位の酸化は、得られた架橋ポリマー微粒子前駆体をそのまま酸化反応に供してもよく、又は精製して酸化反応に供してもよい。架橋ポリマー微粒子前駆体を精製する場合、ろ過、透析、沈殿精製、遠心分離等の常法を用いて精製することができる。また、酸化後の架橋ポリマー微粒子も、同様の方法で精製することができる。
【0065】
(架橋ポリマー微粒子の物性)
本発明の架橋ポリマー微粒子のZ平均粒径は、架橋ポリマー微粒子の水系電解液中での良好な分散性を得る観点から、好ましくは100nm以上、より好ましくは300nm以上、更に好ましくは500nm以上であり、そして、好ましくは1000nm以下、より好ましくは950nm以下、更に好ましくは900nm以下である。
【0066】
[水系電解液]
本発明の水系電解液は、上記共重合体を含む水系電解液、又は上記架橋ポリマー微粒子が分散している水系電解液である。水系電解液中において、本発明の共重合体は水系媒体に溶解していてもよく、分散していてもよく、その両方であってもよい。
水系電解液の共重合体/及び又は架橋ポリマー微粒子の濃度は、好ましくは0.1mM以上、より好ましくは0.5mM以上、更に好ましくは1mM以上であり、そして、好ましくは20mM以下、より好ましくは15mM以下、更に好ましくは10mM以下である。
【0067】
(アルカリ金属塩及びアミン塩)
本発明の水系電解液は、上記の共重合体/及び又は架橋ポリマー微粒子に加え、導電性を高める支持電解質として働く、アルカリ金属塩及びアミン塩からなる群から選ばれる少なくとも一つを含む。
アルカリ金属塩としては、例えば、アルカリ金属のハロゲン化物塩;アルカリ金属の硫酸塩、アルカリ金属の硝酸塩、アルカリ金属のリン酸塩、アルカリ金属の炭酸塩等のアルカリ金属の無機酸塩;アルカリ金属のシュウ酸塩、アルカリ金属のクエン酸塩等のアルカリ金属の有機酸塩等が挙げられる。
アミン塩としては、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等が挙げられる。
これらの中でも、塩化リチウム、塩化ナトリウム又は塩化カリウムが好ましい。
【0068】
水系電解液中のアルカリ金属塩及びアミン塩の濃度は、塩の合計濃度が好ましくは0.1M以上、より好ましくは0.5M以上、そして好ましくは2M以下、より好ましくは1.5M以下である。
【0069】
(水系媒体)
本発明の水系電解液が含む水としては、特に限定されないが、好ましくは蒸留水、イオン交換水、超純水であり、コストの観点からより好ましくはイオン交換水である。
【0070】
水系電解液のpHは好ましくは6.0以上、より好ましくは6.5以上、更に好ましくは6.8以上であり、好ましくは8.0以下、より好ましくは7.5以下、更に好ましくは7.2以下に調整される。水系電解液のpHは、用いるアルカリ金属塩及びアミン塩の量及び種類により調整することが可能である。例えば、硫酸水素リチウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、硫酸アンモニウム、リン酸二水素リチウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二リチウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、塩化アンモニウム等を用いることができる。
【0071】
本明細書において、水系電解液の組成は、水系電解液を注液された電池が出荷される時の組成を意味する。ただし、必ずしも水系電解液の組成を出荷時に分析する必要はなく、水系電解液の製造時又は非水系電解液の電池への注液時などにおいて構成成分の含有量を測定するなどして、出荷時の組成が所望の範囲となるように電池を作製すればよい。
すなわち、水系電解液は、水系電解液を調製する際に各構成成分の比率が予め規定した組成となるように混合すればよい。また、水系電解液を調製した後で、水系電解液そのものを分析に供して組成を確認することができる。また、完成した水系電解液二次電池から水系電解液を回収して、分析に供してもよい。水系電解液の回収方法としては、電池容器の一部又は全部を開封し、或いは電池容器に孔を設けることにより、電解液を採取する方法が挙げられる。開封した電池容器を遠心分離して電解液を回収してもよいし、抽出溶媒(例えば、純水やメタノール、アセトニトリル等が好ましい)を開封した電池容器に入れて又は電池素子に抽出溶媒を接触させて電解液を抽出してもよい。このような方法にて回収した水系電解液を分析に供することができる。また、回収した水系電解液は分析に適した条件とするために希釈して分析に供してもよい。
【0072】
水系電解液の分析方法としては、水系電解液の組成の種類等によっても最適な手法は異なるが、具体的には、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析、核磁気共鳴(以下、NMRと省略することがある)、ガスクロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィー等の液体クロマトグラフィー等による分析が挙げられる。以下、NMRによる分析方法を説明する。不活性雰囲気下で、水系電解液を重溶媒中に溶解させ、NMR管に入れてNMR測定を行う。また、NMR管として二重管を用い、一方に水系電解液を入れ、もう一方に重溶媒を入れて、NMR測定を行ってもよい。重溶媒としては、重水、重メタノール、重アセトニトリル、重ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。水系電解液の構成成分の濃度を決定する場合は、重溶媒中に規定量の標準物質を溶解させて、スペクトルの比率から各構成成分の濃度を算出することができる。また、予め水系電解液を構成する成分の一種以上の濃度を、ガスクロマトグラフィーのような別の分析手法で求めておき、濃度既知の成分とそれ以外の成分とのスペクトル比から濃度を算出することもできる。用いる核磁気共鳴分析装置は、プロトン共鳴周波数400MHz以上の装置が好ましい。測定核種としてはH、13C、31P、19F、11B等が挙げられる。
これらの分析手法は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用して用いてもよい。
【0073】
[レドックスフロー電池]
本発明の一実施態様であるレドックスフロー電池は、水系電解液を循環させる正極側循環機構及び負極側循環機構、並びに電池セルを有する。電池セルは水系電解液を循環させることで酸化還元反応を進行させ充電と放電を行う。電池セルは正極を収容する正極室と、負極を収容する負極室と、正極室と負極室を仕切るセパレータと、を備える。正極室及び負極室は、それぞれ正極側循環機構及び負極側循環機構により供給される正極側電解液及び負極側電解液が循環可能となっている。本実施態様のレドックスフロー電池では、本発明の水系電解液を正極側電解液として含む。すなわち、本発明の共重合体及び架橋ポリマー微粒子は正極活物質である。
【0074】
(負極側電解液)
負極側電解液は正極側電解液と同様に水系電解液を用いる。負極側電解液は、正極側電解液である本発明の水系電解液が含む支持電解質と同じ支持電解質を含む。
負極側電解液が含む活物質(負極活物質)としては、レドックスフロー電池に通常用いられる活物質を用いることができ、例えばバナジウムイオン、チタンイオン、クロムイオン、バナジウムイオン等の金属イオン、2,3-ジメチルアントラキノン、2,7-アントラキノンジスルホン酸アニオン、9,10-アントラキノン-4,5-ジヒドロキシ-2,7-ジスルホン酸等のアントラキノン誘導体、4,4’-ジメチルビピリジン等の4,4’-ビピリジン誘導体等が挙げられる。負極活物質としては、アントラキノン誘導体又は4,4’-ビピリジン誘導体を含むポリマーを用いてもよい。負極活物質と、正極側電解液が正極活物質として含む共重合体及び/又は架橋ポリマー微粒子との酸化還元電位の差は、好ましくは1.0V以上、より好ましくは1.1V以上、更に好ましくは1.2V以上である。このような負極活物質としては、9,10-アントラキノン-4,5-ジヒドロキシ-2,7-ジスルホン酸や4,4’-ビピリジン誘導体等が挙げられる。本発明の共重合体とこれら負極活物質とを組み合わせて用いることで、レドックスフロー電池の起電力を高めることができる。
【0075】
(正極及び負極)
正極及び負極としては、比表面積が大きい電子伝導体を用いることができ、例えば多孔質金属、カーボンフェルト、カーボンペーパー、カーボンナノチューブシート等が挙げられる。正極には正極端子が接続され、負極には負極端子が接続され、正極端子及び負極端子は充放電装置に接続されている。充放電装置は、充電時には電池セルの充電時に正極と負極に電圧を印加し、放電時には正極と負極を介して電池セルから電力を取り出す。
【0076】
(セパレータ)
セパレータとしては、多孔質膜を用いることができ、例えば、陰イオン交換膜、陽イオン交換膜、ポリプロピレンの多孔質膜、ポリエチレンの多孔質膜、芳香族ポリアミドの不織布セパレータ、セルロースの不織布セパレータ等が挙げられる。
【0077】
(正極側循環機構及び負極側循環機構)
正極側循環機構は、正極側タンク、正極側ポンプ、及び正極側配管を有し、正極側タンクに貯蔵する正極側電解液を、正極側ポンプの働きにより正極側配管を通じて電池セルの正極室に正極側電解液を流入させる。電池セルで充放電された正極側電解液は、正極室から流出され、正極側タンクに戻る。正極側タンクの流出部又は正極側タンクと電池セルの間には正極活物質の流失を制限する正極フィルタが設けられていてもよい。正極フィルタによって正極活物質が電池セルに流入することを防止することができ、正極活物質と負極活物質が混合することによる電池セルの故障や劣化を防ぐことができる。正極側ポンプは正極側循環機構のどの位置に設けられていてもよいが、好ましくは正極側タンクと電池セルの間である。
負極側循環機構は、負極側タンク、負極側ポンプ、及び負極側配管、並びに任意に負極フィルタを有する。これらの配置及び働きは、正極側循環機構の対応する各部と同様である。
【実施例0078】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
<架橋ポリマー微粒子の調製>
300mLナスフラスコ中に式(1’-1)で表されるモノマー3.0g(14mmol)、式(2a-1-1)で表されるアクリルアミド誘導体0.21g(0.75mmol)、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(架橋剤)0.15g(0.97mmol)、PE-b-PEG(分散剤)0.96g、及び水120mLを加え、窒素雰囲気下において70℃で15分間メカニカルスターラーを用いて撹拌(300rpm)した。その後、ペルオキソ二硫酸カリウム(ラジカル重合開始剤)32.4mg(0.12mmol)を加え、窒素雰囲気下でさらに12時間撹拌した。反応終了後放冷し、透析による精製後に吸引濾過を経て得られたウェットケーキを常温で真空乾燥を行い、架橋ポリマー微粒子前駆体を得た(収率:88%)。
【化16】

その後、架橋ポリマー微粒子前駆体と30%過酸化水素水4mL(39mmol)を混合し、室温(25℃)で72時間撹拌することで架橋ポリマー微粒子を調製した(収率:69%)。
【0080】
<粒径の測定>
1MのNaCl水溶液に上記で調製した架橋ポリマー微粒子を加え、ホモジナイザー(BRANSON SONIFIER 250 advanced、日本エマソン株式会社製)で15分間分散(Out Control=3)させることで、濃度5mMに相当する架橋ポリマー微粒子の分散液を調製した。DLS測定システム(Zetasizaer nano series、スペクトリス株式会社製)で測定した、架橋ポリマー微粒子のZ平均粒径は、約840nmであった。
【0081】
<電気化学測定>
1MのNaCl水溶液に上記で調製した架橋ポリマー微粒子を加え、ホモジナイザー(BRANSON SONIFIER 250 advanced、日本エマソン株式会社製)で15分間分散(Out Control=3)させることで、濃度5mMに相当する架橋ポリマー微粒子の分散液として水系電解液を調製した。この溶液に、作用極として炭素電極(グラッシーカーボンディスク電極、φ3mm、BAS株式会社製、型番002012)、参照電極として銀塩化銀電極(Ag/AgCl(飽和KCl)、BAS株式会社製、型番013613)、対極に白金線(φ0.5、BAS株式会社製、型番012961)を使用し、走査速度50mV/sでサイクリックボルタンメトリー測定を行った。得られたサイクリックボルタモグラムを図1に実線で示す。架橋ポリマー微粒子の酸化還元電位E1/2は0.58V(vs.Ag/AgCl)、拡散係数Dは1.6×10-6cm/sであった。
【0082】
(比較例1)
<架橋ポリマー微粒子の調製>
300mLナスフラスコに式(1’)で表されるモノマー5.0g(24mmol)、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(架橋剤)0.25g(1.6mmol)、PE-b-PEG(分散剤:シグマアルドリッチ社製、数平均分子量2250)1.5g、水150mLを加え、窒素雰囲気下において70°Cで15分間メカニカルスターラーを用いて撹拌(300rpm)した。その後、ペルオキソ二硫酸カリウム(ラジカル重合開始剤)50mg(0.18mmol)を加え、窒素雰囲気下でさらに12時間メカニカルスターラーを用いて撹拌した。反応終了後放冷し、透析による精製後に真空乾燥を行い、白色固体として共重合体を得た(収率:85%)。
300mLナスフラスコに上記で得た共重合体3.0g(14mmol)及びTHF90mLを加え、超音波洗浄機を用いて15分間分散させた。その後、m-クロロ過安息香酸(純度>65%)5.8g(33mmol)を加え、室温(25℃)で1時間反応させた。反応終了後、ヘキサン:ジエチルエーテル=2:1溶媒を加えることで生じた沈殿を精製し、遠心分離、真空乾燥を行うことで、ピペリジン部位がピペリジンN-オキシルラジカルとなった共重合体を橙色の微粒子として得た(収率:79%)。
【0083】
<粒径の測定>
実施例1と同様に、比較例1の微粒子の粒径を測定したところ、粒径は約340nmであった。
【0084】
<電気化学測定>
実施例1と同様に、比較例1の微粒子が分散した水系電解液のサイクリックボルタンメトリー測定を行った。得られたサイクリックボルタモグラムを図1に破線で示す。比較例1の微粒子の酸化還元電位は、E1/2=0.59V(vs.Ag/AgCl)であり、拡散係数Dは0.25×10-6cm/sであった。
【0085】
実施例1及び比較例1の結果から、本発明の架橋ポリマー微粒子は、親水性基を有さない架橋ポリマー微粒子と比較して、水系分散液における拡散係数が大きく、水系電解液中において本発明の架橋ポリマー微粒子は分散性に優れていることが分かった。また、実施例1の架橋ポリマー微粒子が分散した水系電解液及び比較例1の微粒子が分散した水系電解液を24時間室温(25℃)下で静置したところ、実施例1の水系分散液では架橋ポリマー微粒子が分散したままであったことに対して、比較例1の微粒子は全て沈殿していた。このことから、本発明の架橋ポリマー微粒子が分散安定性に優れることが分かる。
これらのことから、本発明の架橋ポリマー微粒子が分散している水系電解液を用いることで、エネルギー効率の高いレドックスフロー電池とすることができることが分かる。
【0086】
また、非特許文献1には、式(1)で表されるモノマーに対応するTEMPO構造を有するメタクリ酸エステル由来の構造と、式(2a-1-1)で表されるアクリルアミド誘導体に対応する両性イオン基を有するメタクリ酸エステル由来の構造とを含む共重合体(以下、「p(TEMPO-co-両性イオン基)」という)が記載されている。p(TEMPO-co-両性イオン基)を5mMの濃度で溶解した水系電解液のサイクリックボルタンメトリー測定を実施例1と同様の条件で行ったところ、p(TEMPO-co-両性イオン基)の拡散係数Dは0.38×10-6cm/sであった。
この結果からも、本発明の架橋ポリマー微粒子は分散性が高く優れた拡散性を示し、本発明の架橋ポリマー微粒子が分散している水系電解液を用いることで、エネルギー効率の高いレドックスフロー電池とすることができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の水系電解液をレドックスフロー電池等の電解液として用いることにより、エネルギー効率のレドックスフロー電池を提供できる。従って、本発明のレドックスフロー電池の用途としては、太陽光発電や風力発電により生成された電力を貯蔵する産業用の蓄電池としてのみならず、家庭用の蓄電池としても用いることができる。
図1