(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165517
(43)【公開日】2023-11-16
(54)【発明の名称】油中水型乳化組成物および該油中水型乳化組成物を用いた食品、並びに油中水型乳化組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23D 7/015 20060101AFI20231109BHJP
A23D 9/007 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
A23D7/015
A23D9/007
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076643
(22)【出願日】2022-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】武藤 祐貴
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DC06
4B026DG04
4B026DG06
4B026DG08
4B026DH03
4B026DK01
4B026DK05
4B026DK10
4B026DL03
4B026DX05
(57)【要約】
【課題】低油分および低飽和脂肪酸であっても、品質の高い油中水型乳化組成物を提供すること。
【解決手段】本技術では、20℃で液状である油脂:15質量%以上45質量%以下、パルミチン酸、およびステアリン酸から選択される1以上の飽和脂肪酸の含有量が90質量%以上の乳化剤A:1.7~6.5質量%、レシチンおよびHLBが5以下の乳化剤から選択される1以上の乳化剤B(ただし、乳化剤Aは含まない):0.05~0.5質量%、を含有する油相と、デキストリン、水溶性食物繊維、難消化性澱粉から選択される1以上の成分を含有する水相と、を含有する、油中水型乳化組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃で液状である油脂:15質量%以上45質量%以下、
構成脂肪酸の90質量%以上が、パルミチン酸および/またはステアリン酸である乳化剤A:1.7~6.5質量%、
レシチン、およびHLBが5以下の乳化剤から選択される1以上の乳化剤B(ただし、乳化剤Aは含まない):0.05~0.5質量%、
を含有する油相と、
デキストリン、水溶性食物繊維、難消化性澱粉から選択される1以上の成分を含有する水相と、
を含有する、油中水型乳化組成物。
【請求項2】
前記乳化剤Aは、上昇融点が45℃以上65℃以下、かつ、HLBが1以上5以下である、請求項1に記載の油中水型乳化組成物。
【請求項3】
前記油相は、極度硬化油を含有する、請求項1に記載の油中水型乳化組成物。
【請求項4】
前記水相は、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上の糖カルボン酸成分を含有する、請求項1に記載の油中水型乳化組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の油中水型乳化組成物が用いられた、飲食品。
【請求項6】
20℃で液状である油脂:15質量%以上45質量%以下、
構成脂肪酸の90質量%以上が、パルミチン酸および/またはステアリン酸である乳化剤A:1.7~6.5質量%、
レシチン、およびHLBが5以下の乳化剤から選択される1以上の乳化剤B(ただし、乳化剤Aは含まない):0.05~0.5質量%、
を含有する油相成分と、
デキストリン、水溶性食物繊維、難消化性澱粉から選択される1以上の成分を含有する水相成分と、
を混合する混合工程を含む、油中水型乳化組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中水型乳化組成物および該油中水型乳化組成物を用いた食品、並びに油中水型乳化組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品分野において、近年、低油分及び低飽和脂肪酸のファットスプレッド等の油中水型乳化組成物が注目されており、種々の開発が進んでいる。例えば、特許文献1では、油相が10~40重量%である油中水型乳化組成物に、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプンのいずれか1種以上を0.1~30重量%およびゼラチンを0.1~30重量%含有させることで、乳化安定性、組織状態、充填適性、風味発現性を向上し、微生物育成を抑制する技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献2では、脂肪酸組成中の飽和脂肪酸が1~15重量%及び36℃付近における電気伝導度が35分後に0.05~1.0mS/mである油相が5~35重量%である、風味発現性が良好であり、微生物育成が抑制された油中水型乳化組成物を提供するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-195427号公報
【特許文献2】特開2016-178892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した特許文献1及び2や、市場で販売されている低油分および低飽和脂肪酸ファットスプレッドには、油相部に一般油脂及び加工油脂、水相部にゲル化剤(ゼラチン、加工澱粉等)あるいは食物繊維(イヌリン、難消化性デキストリン)などが配合されていることが多い。しかしながら、ゲル化剤を配合すると独特の風味(ゼラチン)や口どけの悪さ(加工澱粉)に影響し、食物繊維は風味や耐熱性などに影響が出る場合がある。また、加工油脂を配合すると、製造時に油脂を溶解する手間がかかるなど、商品設計上には、様々な課題があった。更に、従来の低油分および低飽和脂肪酸ファットスプレッドは、通常のマーガリンやファットスプレッドより美味しさが劣る点も大きな課題である。
【0006】
そこで、本技術では、低油分および低飽和脂肪酸であっても、品質の高い油中水型乳化組成物を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、低油分および低飽和脂肪酸であっても、品質の高い油中水型乳化組成物を得るために鋭意研究を行った結果、油相に特定の乳化剤を2種以上、特定の量で併用し、かつ、水相に特定の水相成分を含有させることで、低油分および低飽和脂肪酸であっても、品質の高い油中水型乳化組成物を得ることに成功し、本技術を完成させるに至った。なお、低油分とは、例えば、油相成分を50質量%以下、45質量%以下、42質量%以下とすることである。また、低飽和脂肪酸とは、例えば、飽和脂肪酸含有量を22質量%以下、20質量%以下、18質量%以下とすることである。
【0008】
即ち、本技術では、まず、20℃で液状である油脂:15質量%以上45質量%以下、
構成脂肪酸の90質量%以上が、パルミチン酸および/またはステアリン酸である乳化剤A:1.7~6.5質量%、
レシチン、およびHLBが5以下の乳化剤から選択される1以上の乳化剤B(ただし、乳化剤Aは含まない):0.05~0.5質量%、
を含有する油相と、
デキストリン、水溶性食物繊維、難消化性澱粉から選択される1以上の成分を含有する水相と、
を含有する、油中水型乳化組成物を提供する。
乳化剤Aは、上昇融点が45℃以上65℃以下、かつ、HLBが1以上5以下とすることもできる。
本技術に係る油中水型乳化組成物の前記油相には、極度硬化油を含有させることもできる。
本技術に係る油中水型乳化組成物の前記水相には、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上の糖カルボン酸成分を含有させることもできる。
【0009】
本技術では、次に、本技術に係る油中水型乳化組成物が用いられた、飲食品を提供する。
【0010】
本技術では、更に、20℃で液状である油脂:15質量%以上45質量%以下、
構成脂肪酸の90質量%以上が、パルミチン酸、およびステアリン酸選択される1種類以上である乳化剤A:1.7~6.5質量%、
レシチン、およびHLBが5以下の乳化剤から選択される1以上の乳化剤B(ただし、乳化剤Aは含まない):0.05~0.5質量%、
を含有する油相成分と、
デキストリン、水溶性食物繊維、難消化性澱粉から選択される1以上の成分を含有する水相成分と、
を混合する混合工程を含む、油中水型乳化組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本技術によれば、低油分および低飽和脂肪酸であっても、品質の高い油中水型乳化組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
<油中水型乳化組成物>
本技術に係る油中水型乳化組成物は、油相と、水相と、からなる油中水型乳化組成物である。油相には、油脂と、特定の乳化剤Aと、特定の乳化剤Bと、を少なくとも有する。また、水相には、特定の成分を少なくとも有する。更に、油相には、極度硬化油やその他の成分を含有させることもできる。また、水相には、糖カルボン酸成分やその他の成分を含有させることもできる。以下、各成分や特性について、詳細に説明する。
【0014】
(1)油相
油相には、油脂と、特定の乳化剤Aと、特定の乳化剤Bと、を少なくとも有する。また、極度硬化油やその他の材料を含有させることもできる。
【0015】
(1-1)油脂
本技術に係る油中水型乳化組成物に用いる油脂は、20℃で液状であることを特徴とする。本技術に係る油中水型乳化組成物では、20℃で液状であれば、油中水型乳化組成物に使用可能な油脂を1種または2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、菜種油(キャノーラ油含む)、大豆油、コーン油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、アーモンド油、カシューナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、あんず油、椿油、茶実油、エゴマ油、オリーブ油、カラシ油、米油、小麦胚芽油、ボラージ油、アボカド油、カヤ油、ヒマワリ油、キリ油、カポック油、ヘンプ油、エキウム油、パーム油、魚油、藻類油などが挙げられる。また、水素添加油脂、グリセリンと脂肪酸のエステル化油、エステル交換油、分別油脂なども適宜使用することができる。さらに、遺伝子組換えの技術を用いて品種改良した植物から抽出したものであってもよく、例えば、菜種油、ひまわり油、紅花油、大豆油などでは、オレイン酸含量を高めた高オレイン酸タイプの品種から得られた油脂を使用することができる。また、トリエチルヘキサノイン、ネオペンタン酸イソデシル、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの合成油脂等を挙げることができる。
【0016】
また、本技術に係る油中水型乳化組成物では、20℃で液状である油脂を15質量%以上45質量%以下含有することを特徴とする。油中水型乳化組成物中の前記油脂の含有量が、15質量%未満の場合、十分な硬さを得ることができない。一方、油中水型乳化組成物中の前記油脂の含有量が45質量%以下とすることで、低油分となり、近年のヘルシー志向に貢献することができる。
【0017】
本技術に係る油中水型乳化組成物において、20℃で液状である油脂の量は、15質量%以上45質量%以下の範囲であれば、本技術の効果を奏することができるが、本技術に係る油中水型乳化組成物中の20℃で液状である油脂の含有量の下限値としては、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。また、本技術に係る油中水型乳化組成物中の20℃で液状である油脂の含有量の上限値としては、好ましくは42質量以下%、より好ましくは40質量%以下である。
【0018】
(1-2)乳化剤A
本技術に係る油中水型乳化組成物に用いる乳化剤Aは、構成脂肪酸の90質量%以上が、パルミチン酸および/またはステアリン酸であることを特徴とする。
【0019】
また、本技術に係る油中水型乳化組成物では、乳化剤Aを、1.7~6.5質量%含有することを特徴とする。油中水型乳化組成物中の乳化剤Aの含有量が、1.7質量%未満の場合、油中水型乳化組成物の硬さが十分に出ない。一方、油中水型乳化組成物中の乳化剤Aの含有量が、6.5質量%を超える場合、油中水型乳化組成物のくちどけが悪くなる。
【0020】
本技術に係る油中水型乳化組成物において、乳化剤Aの量は、1.7~6.5質量%の範囲であれば、本技術の効果を奏することができるが、本技術に係る油中水型乳化組成物中の乳化剤Aの含有量の下限値としては、好ましくは1.9質量%以上、より好ましくは2.2質量%以上である。また、本技術に係る油中水型乳化組成物中の乳化剤Aの含有量の上限値としては、好ましくは6.0質量%以下、より好ましくは5.6質量%以下、さらに好ましくは5.3%以下である。
【0021】
本技術に係る油中水型乳化組成物に用いる乳化剤Aの上昇融点は、好ましくは45℃以上65℃以下、より好ましくは50℃以上60℃以下である。
【0022】
本技術に係る油中水型乳化組成物に用いる乳化剤AのHLBは、好ましくは1以上5以下、より好ましくは1.2以上4以下、より好ましくは1.5以上2以下である。
【0023】
本技術に用いる乳化剤Aは、構成脂肪酸の90質量%以上が、パルミチン酸および/またはステアリン酸であることを特徴とするが、93質量%以上であることが好ましく、96質量%以上であることがより好ましい。また、パルミチン酸およびステアリン酸の両方を含むことが好ましく、その場合、パルミチン酸の含有量は、22質量%以上42質量%以下が好ましく、27質量%以上37質量%以下がより好ましい。ステアリン酸の含有量は、62質量%以上82質量%以下が好ましく、63質量%以上73質量%以下がより好ましい。ベヘン酸に比べて、パルミチン酸やステアリン酸は融点が低いため、構成脂肪酸の90質量%以上が、パルミチン酸および/またはステアリン酸である乳化剤Aを用いることで、低温下で緻密な結晶を形成し、油中水型乳化組成物の物性が硬化しやすくなる特性がある。
【0024】
本技術に用いる乳化剤Aには、パルミチン酸、ステアリン酸以外の脂肪酸を含有することも可能である。乳化剤Aにおけるパルミチン酸、ステアリン酸以外の脂肪酸の合計含有量は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されないが、本技術では、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
本技術に係る油中水型乳化組成物に用いる乳化剤Aの具体的な種類は特に限定されないが、本技術では、特に、グリセリン脂肪酸エステルを用いることが好ましい。なお、グリセリン脂肪酸エステルとは、ポリグリセリン脂肪酸エステル、モノグリセリド、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(PGPR)を含む概念であり、これらの混合物であってもよい。乳化剤Aとしては、ポリグリセリン脂肪酸エステルを主成分とするものが好ましい。
【0026】
(1-3)乳化剤B
本技術に係る油中水型乳化組成物には、レシチン、およびHLBが5以下の乳化剤から選択される1以上の乳化剤B(ただし、乳化剤Aは含まない)を用いる。
【0027】
本技術に係る油中水型乳化組成物に用いるHLBが5以下の乳化剤BのHLBは、5以下の範囲であれば、本技術の効果を奏することができるが、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、さらに好ましくは1以下である。
【0028】
本技術に係る油中水型乳化組成物において、乳化剤Bの量は、0.05~0.5質量%の範囲であれば、本技術の効果を奏することができるが、本技術に係る油中水型乳化組成物中の乳化剤Bの含有量の下限値としては、好ましくは0.08質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。また、本技術に係る油中水型乳化組成物中の乳化剤Bの含有量の上限値としては、好ましくは0.45質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下である。
【0029】
本技術に係る油中水型乳化組成物に用いる乳化剤Bの具体的な種類は特に限定されないが、本技術では、特に、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル(ポリグリセリン脂肪酸エステル、モノグリセリド、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(PGPR)を含む)から選択される1以上の乳化剤を用いることが好ましい。特に、レシチン、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(PGPR)がより好ましく、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(PGPR)がさらに好ましい。
【0030】
(1-4)極度硬化油
本技術に係る油中水型乳化組成物には、1種または2種以上の極度硬化油を含有させることができる。極度硬化油を含有させることで、油中水型乳化組成物の硬さをより硬くすることができる。極度硬化油は、米油、菜種油、ハイエルシン菜種油、大豆油、コーン油、サフラワー油、ヒマワリ油、綿実油、パーム油、牛脂、豚脂、ヒマシ油等の1種又は2種以上を組み合わせの油脂を水素添加して、固体脂含量が20℃において50%以上にした硬化油である。
【0031】
本技術に係る油中水型乳化組成物において、極度硬化油の量は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、自由に設定することができる。本技術に係る油中水型乳化組成物中の極度硬化油の含有量の下限値としては、例えば0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。下限値を0.1質量%以上とすることで、硬さや温度安定性を付与することができる。本技術に係る油中水型乳化組成物中の極度硬化油の含有量の上限値としては、例えば5質量%以下、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。上限値を5質量%以下とすることで、良好なくちどけを維持しながら、硬さを付与することができる。
【0032】
(1-5)その他
本技術に係る油中水型乳化組成物の油相には、20℃で液状である油脂、乳化剤A、乳化剤B、及び極度硬化油の他に、一般的な油中水型乳化組成物の油相に用いられている材料や各種添加剤を1種又は2種以上、自由に組み合わせて用いることができる。例えば、保存安定性向上、酸化安定性向上、熱安定性向上などを目的とした添加剤を配合することもできる。具体的には、例えば、トコフェロール、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、茶抽出物、ローズマリー抽出物、コエンザイムQ、オリザノール等の抗酸化剤、β-カロテン等の色素、香料、シリコーン、乳化剤(乳化剤A及び乳化剤Bを除く)等の添加剤が挙げられる。
【0033】
(2)水相
水相には、特定の成分を少なくとも有する。また、水相には、糖カルボン酸成分やその他の成分を含有させることもできる。
【0034】
(2-1)特定の成分
本技術に係る油中水型乳化組成物には、デキストリン、水溶性食物繊維、難消化性澱粉から選択される1以上の成分を含有することを特徴とする。これらの成分は市販品を適宜使用することができる。デキストリンは、澱粉原料を酸および/またはα-アミラーゼにより分解することによって得られるものである。水溶性食物繊維としては、イヌリン、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、イソマルトデキストリン、難消化性グルカンが挙げられる。難消化性澱粉は、健常人の消化管で消化吸収されない澱粉であり、特開2019-92474等に記載されているように、一般にRS1~RS4に分類されている。本技術では、特に、水溶性の成分、すなわち、デキストリン、水溶性食物繊維を用いることが好ましく、デキストリン、イヌリンがより好ましく、デキストリンがさらに好ましい。水溶性の成分を使用することで、よりくちどけが良好になる。デキストリンのDEは10以上30以下であることが好ましく、15以上28以下であることがより好ましく、21以上26以下であることがさらに好ましい。
【0035】
「DE(dextrose equivalent)」とは、デキストロース当量とも称され、還元糖をグルコースとして測定し、その全固形分に対する割合(下記数式(1)参照)を示す値である。このDE値は、澱粉の加水分解の程度(分解度)、すなわち糖化の進行の程度を示す指標である。なお、本発明においては、DEは「澱粉糖関連工業分析法」(澱粉糖技術部会編)のレイン・エイノン法に従って算出した値である。
【0036】
[数1]
DE=[(直接還元糖(グルコースとして表示))/全固形分]×100 ・・・(1)
【0037】
本技術に係る油中水型乳化組成物において、前記成分の量は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、自由に設定することができる。本技術に係る油中水型乳化組成物中の前記成分の含有量の下限値としては、例えば15質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは23質量%以上である。本技術に係る油中水型乳化組成物中の前記成分の含有量の上限値としては、例えば40質量%以下、好ましくは36質量%以下、より好ましくは33質量%以下である。下限値を15質量%以上、上限値を40質量%以下とすることで、油中水型乳化組成物の可塑性や保形性、硬さなどの物性が良好になる。
【0038】
(2-2)糖カルボン酸成分
本技術に係る油中水型乳化組成物には、糖カルボン酸成分を含有させることができる。本技術に係る油中水型乳化組成物に、糖カルボン酸成分を含有させることで、塩味を増強させることができる。その結果、例えば、食塩の量を低減させることが期待できる。糖カルボン酸成分は、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1以上である。糖カルボン酸としては、マルトビオン酸、イソマルトビオン酸、マルトトリオン酸、イソマルトトリオン酸、マルトテトラオン酸、マルトヘキサオン酸、セロビオン酸、ラクトビオン酸、パノース酸化物等が挙げられる。これらのうち、マルトビオン酸、マルトトリオン酸が好ましく、マルトビオン酸がより好ましい。また、糖カルボン酸の塩類を用いることが好ましく、カルシウム塩であることがより好ましく、マルトビオン酸カルシウムがさらに好ましい。
【0039】
本技術に係る油中水型乳化組成物において、糖カルボン酸成分の量は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、自由に設定することができる。本技術に係る油中水型乳化組成物中の糖カルボン酸成分の含有量の下限値としては、例えば0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。下限値を0.1質量%以上とすることで、十分な塩味増強効果が得られる。本技術に係る油中水型乳化組成物中の糖カルボン酸成分の含有量の上限値としては、例えば3質量%以下、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。上限値を3質量%以下とすることで、異味が生じにくく良好な風味の油中水型乳化組成物を得ることができる。。
【0040】
本技術に係る油中水型乳化組成物が糖カルボン酸を含有する場合、本技術に係る油中水型乳化組成物中の食塩の含有量の下限値としては、例えば0.5質量%以上、好ましくは0.8質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上とすることができる。本技術に係る油中水型乳化組成物中の食塩の含有量の上限値としては、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.8質量%以下、さらに好ましくは1.6質量%以下とすることができる。
【0041】
(2-3)その他
本技術に係る油中水型乳化組成物の水相には、デキストリン、水溶性食物繊維、難消化性澱粉から選択される1以上の成分、及び糖カルボン酸の他に、一般的な油中水型乳化組成物の水相に用いられている材料や各種添加剤を1種又は2種以上、自由に組み合わせて用いることができる。例えば、ゼラチンや加工澱粉(前記難消化性澱粉を除く)、食物繊維(前記水溶性食物繊維を除く)、増粘剤、食塩、砂糖類、酸味料、乳製品、香料、着色料等を挙げることができる。
【0042】
(3)硬さ
本技術に係る油中水型乳化組成物の硬さは、特に限定されず、本技術に係る油中水型乳化組成物の目的や用途に応じて、自由に設計することができる。本技術に係る油中水型乳化組成物の硬さは、例えば25gf以上、好ましくは30gf以上、より好ましくは40gf以上に設定することができる。また、例えば200gf以下、好ましくは150gf以下、より好ましくは120gf以下に設定することができる。その結果、作業性や保存性を向上させることができる。
【0043】
なお、本技術において、油中水型乳化組成物の硬さは、下記の方法で測定した値である。
[硬さ]
破断応力(gf)の測定には、英弘精機株式会社製 Texture Analyser TA TXplusを用いた。容器に充填した試料の温度を、5℃に調整し、治具は直径1mmで、これを0.5mm/秒で表面より12mm貫入させた際の破断応力(gf)を測定した。
【0044】
(4)用途
本技術に係る油中水型乳化組成物は、食品分野、スキンケア、メイクアップ、ヘアケア、フレグランスなどの化粧品分野、およびグリスなどの工業用分野等で用いることができる。本技術に係る油中水型乳化組成物は、温度変化の影響を受け難いため、全ての分野において、作業性や保存性を向上させることができる。より好ましくは、食品分野での使用である。
【0045】
<油中水型乳化組成物の製造方法>
本技術に係る油中水型乳化組成物は、その組成に特徴があって、その製造方法については、特に限定されず、一般的な油中水型乳化組成物の製造方法を自由に選択して用いることができる。例えば、油相調製工程と、水相調製工程と、油相と水相を混合する混合工程と、必要に応じて捏和工程と、その他の工程と、を行うことで、本技術に係る油中水型乳化組成物を製造することができる。好ましくは、捏和工程を含む。以下、各工程について、詳細に説明する。
【0046】
(1)油相調製工程
油相調製工程は、前述した油相に含有させる成分を用いて油相を調製する工程である。例えば、20℃で液状である油脂と、乳化剤Aと、乳化剤Bと、必要に応じて極度硬化油とを混合し、次いで加熱融解し、所望により、他の材料や各種添加剤を添加して、油相を調製することができる。
【0047】
油相を調製する際の加熱温度は特に限定されず、油相に用いる材料の種類等に応じて、自由に設定することができる。油相調製工程における加熱温度は、例えば50~80℃、好ましくは60~70℃、より好ましくは63~65℃に設定することができる。
【0048】
(2)水相調製工程
水相調製工程は、前述した油相に含有させる成分を用いて油相を調製する工程である。例えば、水に、前記成分と、必要に応じて糖カルボン酸成分、その他の材料や各種添加剤を添加し、混合して分散させたり、加熱溶解させて水相を調製することができる。
【0049】
水相を調製する際の加熱温度は特に限定されず、水相に用いる材料の種類等に応じて、自由に設定することができる。水相調製工程における加熱温度は、例えば40~70℃、好ましくは50~60℃、より好ましくは53~55℃に設定することができる。
【0050】
(3)混合工程
混合工程は、油相成分と、水相成分と、を混合する工程である。混合および撹拌は、油相を加温した状態で実施することが望ましい。また、混合および撹拌は、加圧、減圧、常圧下で実施することが可能である。
【0051】
本発明に係る油中水型乳化組成物を製造する装置は、特に限定されないが、例えば、撹拌機、加熱用や冷却用のジャケットなどを備えた加温や冷却が可能な撹拌槽、邪魔板等を備えた通常の撹拌・混合装置を用いることができる。回転数、撹拌時間などの撹拌条件は、原材料が均一に混合されれば、特に制限されない。撹拌機における撹拌翼の形状は特に制限されないが、例えば、プロペラ型、かい十字型、ファンタービン型、ディスクタービン型またはいかり型などとすることができる。
【0052】
(4)捏和工程
本技術に係る油中水型乳化組成物の製造方法では、捏和工程を行うことができる。捏和工程では、前記混合工程にて調製された混合物を、急冷・練り合わせを行うことができる。捏和工程では、油脂の結晶化と練捏が連続的に行われる。この捏和工程により一定の粘度が付与されるため、低温~室温に油脂組成物を保管しても粘度変化が少なく、良好な作業性が付与される。
【0053】
捏和工程における具体的な方法は特に限定されないが、例えば、マーガリンやショートニング等を製造する急冷捏和装置(パーフェクターやコンビネーター等)を用いて、急冷捏和を行うことができる。
【0054】
捏和工程における冷却温度は特に限定されず、油中水型乳化組成物の目的や用途等に応じて、自由に設定することができる。捏和工程における冷却温度は、例えば10~35℃、好ましくは10~20℃、より好ましくは13~17℃に設定することができる。
【0055】
(5)その他の工程
本技術に係る油中水型乳化組成物の製造方法では、本技術の効果を損なわない限り、油中水型乳化組成物の製造方法で行われる他の工程を、自由に行うことができる。例えば、油脂の結晶を安定化させるために温度調整工程、即ち、テンパリング工程等を行うことができる。
【0056】
テンパリング工程を行う場合の条件は、油中水型乳化組成物の目的や用途等に応じて、自由に設定することができる。例えば、10~30℃にて、24~72時間、テンパリングを行うことが可能である。
【0057】
<食品、食品の製造方法>
本技術に係る食品は、前述した本技術に係る油中水型乳化組成物を用いることを特徴とする。本技術に係る油中水型乳化組成物は、油中水型乳化組成物を用いることができるあらゆる食品に適用することができる。
【0058】
本技術に係る食品としては、例えば、本技術に係る油中水型乳化組成物をそのまま用いた食品(ファットスプレッド、バター様食品、マーガリン、チーズ様食品、フィリング、各種クリーム)、必要に応じて他の材料と混ぜた食品(ドレッシング、飲料、調味料など)、本技術に係る油中水型乳化組成物を炒め油やほぐし油として用いた食品(野菜類、きのこ類、獣肉類、魚介類、麺類、米飯類等を炒めたもの、加熱調理後にほぐし油を加えて混合したもの)、本技術に係る油中水型乳化組成物を練り込み用油として用いた食品(野菜類、きのこ類、獣肉類、魚介類、植物性たん白等を用いた加工食品、パン類、菓子類、麺類、アイスクリーム類、クリーム類、揚げ物類等)、本技術に係る油中水型乳化組成物をフライ用油として用いた食品(野菜類、きのこ類、獣肉類、魚介類、麺類、米飯類等に衣などをつけて油ちょうしたもの)、炊飯油として用いた米飯等を挙げることができる。
【0059】
なお、本技術は、以下のように構成することも可能である。
[1]
20℃で液状である油脂:15質量%以上45質量%以下、
構成脂肪酸の90質量%以上が、パルミチン酸および/またはステアリン酸である乳化剤A:1.7~6.5質量%、
レシチン、およびHLBが5以下の乳化剤から選択される1以上の乳化剤B(ただし、乳化剤Aは含まない):0.05~0.5質量%、
を含有する油相と、
デキストリン、水溶性食物繊維、難消化性澱粉から選択される1以上の成分を含有する水相と、
を含有する、油中水型乳化組成物。
[2]
前記乳化剤Aは、上昇融点が45℃以上65℃以下、かつ、HLBが1以上5以下である、[1]に記載の油中水型乳化組成物。
[3]
前記油相は、極度硬化油を含有する、[1]または[2]に記載の油中水型乳化組成物。
[4]
前記水相は、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上の糖カルボン酸成分を含有する、[1]から[3]のいずれか一項に記載の油中水型乳化組成物。
[5]
[1]から[4]のいずれか一項に記載の油中水型乳化組成物が用いられた、飲食品。
[6]
20℃で液状である油脂:15質量%以上45質量%以下、
構成脂肪酸の90質量%以上が、パルミチン酸および/またはステアリン酸である乳化剤A:1.7~6.5質量%、
レシチン、およびHLBが5以下の乳化剤から選択される1以上の乳化剤B(ただし、乳化剤Aは含まない):0.05~0.5質量%、
を含有する油相成分と、
デキストリン、水溶性食物繊維、難消化性澱粉から選択される1以上の成分を含有する水相成分と、
を混合する混合工程を含む、油中水型乳化組成物の製造方法。
【実施例0060】
以下、実施例に基づいて本技術を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本技術の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0061】
<実験例1>
実験例1では、油中水型乳化組成物に用いる各種材料の違いによる各種効果への影響を検証した。
【0062】
(1)油中水型乳化組成物の製造
下記の表2に示す配合で、油相に用いる材料を、加熱しながら混合・撹拌して油相を調製した。また、下記の表2に示す配合で、水相に用いる材料を、それぞれ混合・撹拌して水相を調製した。調製した水相を、調製した油相へ撹拌しながら少しずつ添加して混合・乳化させ、60℃まで昇温し、30分間、混合・殺菌を行い、油中水型乳化組成物を製造した。製造した油中水型乳化組成物を、氷水を使用して、ビーカーを冷却しながら、5分間、混合・撹拌した後、容器に充填して、5℃にて24時間保存した。
【0063】
なお、各乳化剤は、下記の表1に記載の市販品を使用した。なお、乳化剤中の飽和脂肪酸含有量および飽和脂肪酸の分析は、以下の方法で分析した。
【0064】
[乳化剤の飽和脂肪酸含有量および飽和脂肪酸の分析方法]
基準油脂分析試験法2.4.2.3-2013 に準じて、試料をキャピラリーガスクロマトグラフ法で測定した。
【0065】
【0066】
(2)評価
製造した各油中水型乳化組成物のくちどけ、硬さ、温度安定性、及び味・風味について、下記の評価基準に基づき、評価を行った。5名の専門パネルが下記の評価基準に基づいて協議し、評価した。
【0067】
[くちどけ]
5℃で保管した油中水型乳化組成物を口に入れた際のくちどけを、専門パネルにより以下の評価基準で評価した。
3:非常に良好
2:良好
1:悪い
【0068】
[硬さ]
破断応力(gf)の測定には、英弘精機株式会社製 Texture Analyser TA TXplusを用いた。容器に充填した試料の温度を、5℃に調整し、治具は直径1mmで、これを0.5mm/秒で表面より12mm貫入させた際の破断応力(gf)を測定した。
【0069】
[可塑性]
5℃で保管した油中水型乳化組成物をへらに取り、紙の上に伸ばした際の可塑性を、専門パネルにより以下の評価基準で評価した。
3:非常に良好
2:良好
1:悪い
【0070】
[温度安定性]
各油脂組成物を10gガラスシャーレに充填し、35℃のインキュベーターで3時間静置させた後の油中水型乳化組成物の表面状態を観察し、専門パネルにより以下の評価基準で評価した。
3:全くオイルオフが無く良好
2:少しオイルオフをしているが問題なく良好
1:オイルオフが多く悪い
【0071】
[味・風味]
5℃で保管した実施例15~16の油脂組成物を口に入れた際、実施例13をコントロールとした時の実施例15、16の塩味の感じ方を、専門パネルにより以下の評価基準で評価した。
3:塩味を強く感じる
2:やや塩味を強く感じる
1:コントロールと変わらない
【0072】
(3)結果
結果を下記表2に示す。
【0073】
【0074】
(4)考察
表2に示す通り、20℃で液状である油脂:15質量%以上45質量%以下と、パルミチン酸、およびステアリン酸から選択される1以上の飽和脂肪酸の含有量が90質量%以上の乳化剤A:1.7~6.5質量%と、レシチンおよびHLBが5以下の乳化剤から選択される1以上の乳化剤B:0.05~0.5質量%と、デキストリン、水溶性食物繊維、難消化性澱粉から選択される1以上の成分と、を含有する実施例1~18は、くちどけ、硬さ、温度安定性、及び味・風味の全ての評価が良好であった。マルトビオン酸カルシウムを添加した実施例15および16では、食塩の含有量が少ないにも関わらず、良好な塩味と風味であった。また、極度硬化油を用いていない実施例1と、極度硬化油を用いた実施例9および10を比較すると、極度硬化油を用いることで、油中水型乳化組成物の硬さが向上することが分かった。
【0075】
一方、パルミチン酸、およびステアリン酸から選択される1以上の飽和脂肪酸の含有量が90質量%以下である乳化剤C-1~C-3を用いた比較例1~3、また、乳化剤Aの含有量が1.7質量%未満の比較例4は、硬さ、および可塑性の評価が劣っていた。また、乳化剤Aの含有量が6.5質量%を超える比較例5、また、液状油、乳化剤A、水相の特定の成分の含有量は本発明の範囲内であるが、乳化剤Bの含有量のみが0.5質量%を超える比較例6は、くちどけの評価が劣っていた。