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特開2023-165684細胞培養装置、及び、細胞群を生産する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165684
(43)【公開日】2023-11-17
(54)【発明の名称】細胞培養装置、及び、細胞群を生産する方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/02 20060101AFI20231110BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20231110BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20231110BHJP
   C12M 3/02 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
C12M1/02 A
C12M1/34 D
C12N5/071
C12M3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161196
(22)【出願日】2020-09-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠午
(72)【発明者】
【氏名】岡野定 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮介
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA07
4B029AA11
4B029BB11
4B029CC01
4B029DB01
4B029FA04
4B029FA10
4B065AA87X
4B065BC08
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】培養容器内での細胞塊、細胞複合体等の沈降を抑制して、高い収率性と時間効率性で細胞を培養することが可能な細胞培養装置、及び、細胞群を生産する方法を提供すること。
【解決手段】細胞培養装置は、複数の細胞の凝集体である細胞塊、及び細胞と培養担体との複合体である細胞複合体の少なくとも一方を含む懸濁液を収容する培養容器と、懸濁液を揺動させる駆動装置と、懸濁液中の少なくとも一部の領域における、細胞に関する細胞分布情報値、及び培養担体に関する担体分布情報値の少なくとも一方を測定する測定装置と、細胞分布情報値及び担体分布情報値の少なくとも一方の所定単位時間あたりの変化率と、変化率に対して設定される少なくとも1つ以上の閾値との関係に基づいて、駆動装置の揺動速度を制御する制御装置と、を具備する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の細胞の凝集体である細胞塊、及び前記細胞と培養担体との複合体である細胞複合体の少なくとも一方を含む懸濁液を収容する培養容器と、
前記懸濁液を揺動させる駆動装置と、
前記懸濁液中の少なくとも一部の領域における、前記細胞に関する細胞分布情報値、及び前記培養担体に関する担体分布情報値の少なくとも一方を測定する測定装置と、
前記細胞分布情報値及び前記担体分布情報値の少なくとも一方の所定単位時間あたりの変化率と、前記変化率に対して設定される少なくとも1つ以上の閾値との関係に基づいて、前記駆動装置の揺動速度を制御する制御装置と、
を具備する、細胞培養装置。
【請求項2】
前記測定装置は、
前記少なくとも一部の領域において電場を形成させる電極と、前記電場内のキャパシタンスを測定するキャパシタンス測定部と、を有する第1測定装置を含み、
前記第1測定装置は、前記キャパシタンスに基づいて、前記少なくとも一部の領域における前記細胞分布情報値を測定する、請求項1に記載の細胞培養装置。
【請求項3】
前記第1測定装置は、前記少なくとも一部の領域における導電率を測定する導電率測定部、をさらに有する、請求項2に記載の細胞培養装置。
【請求項4】
前記第1測定装置は、前記少なくとも一部の領域におけるpHを測定するpH測定部、をさらに有する、請求項2又は3に記載の細胞培養装置。
【請求項5】
前記測定装置は、
前記少なくとも一部の領域を撮像して1つ以上の画像を取得する撮像部、を有する第2測定装置を含み、
前記第2測定装置は、前記画像に基づいて、前記少なくとも一部の領域における前記細胞分布情報値及び前記担体分布情報値の少なくとも一方を測定する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項6】
前記細胞分布情報値は、前記少なくとも一部の領域における、前記懸濁液中の前記細胞のうちの生細胞数又は生細胞濃度である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項7】
前記担体分布情報値は、前記少なくとも一部の領域における、前記懸濁液中の前記培養担体の数又は前記培養担体の濃度である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項8】
測定対象となる前記細胞分布情報値及び前記担体分布情報値の少なくとも一方が前記所定単位時間において一定となる場合における前記変化率を0%とするとき、前記閾値は、前記変化率に対して、0%に設定される第1閾値を有する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項9】
前記閾値は、前記変化率に対して、0%よりも大きい値に設定される第2閾値をさらに有する、請求項8に記載の細胞培養装置。
【請求項10】
前記制御装置は、
前記変化率が前記第1閾値以上と判定された場合、前記駆動装置の前記揺動速度を増加させ、
前記変化率が前記第1閾値未満と判定された場合、前記駆動装置の前記揺動速度を減少させる、請求項8又は9に記載の細胞培養装置。
【請求項11】
前記制御装置は、
前記変化率が、複数の前記所定単位時間に渡って連続で前記第1閾値未満と判定された場合、前記駆動装置の前記揺動速度を0とする、請求項10に記載の細胞培養装置。
【請求項12】
前記制御装置は、
前記変化率が前記第2閾値以上と判定された場合、該判定時の前記揺動速度を維持させる、請求項10又は11に記載の細胞培養装置。
【請求項13】
前記駆動装置は、前記懸濁液を撹拌する撹拌機又は振盪機である、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項14】
前記培養容器の容量は、2.0L以上である、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項15】
前記少なくとも一部の領域は、前記懸濁液中であって前記培養容器の深さ方向における中央部分、及び前記懸濁液中であって前記培養容器の底面部分の少なくとも一方を含む、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
【請求項16】
複数の細胞の凝集体である細胞塊、及び前記細胞と培養担体との複合体である細胞複合体の少なくとも一方を含む懸濁液を収容する培養容器と、
前記懸濁液を揺動させる駆動装置と、
前記懸濁液中の複数の領域における、前記培養担体に関する担体分布情報値を各々測定する測定装置と、
前記複数の領域のうちの第1の領域における第1担体分布情報値と、前記複数の領域のうちの第2の領域における第2担体分布情報値とを比較演算することにより算出される担体分布情報相違値と、該担体分布情報相違値に対して設定される少なくとも1つ以上の閾値との関係に基づいて、前記駆動装置の揺動速度を制御する制御装置と、
を具備する、細胞培養装置。
【請求項17】
前記測定装置は、
前記複数の領域を撮像して1つ以上の画像を取得する撮像装置、を有する第3測定装置を含み、
前記第3測定装置は、前記第1の領域における前記画像に基づいて前記第1担体分布情報値を測定し、且つ前記第2の領域における前記画像に基づいて前記第2担体分布情報値を測定する、請求項16に記載の細胞培養装置。
【請求項18】
前記第1の領域は、前記懸濁液中であって前記培養容器の深さ方向における中央部分であり、
前記第2の領域は、前記懸濁液中であって前記培養容器の底面部分である、請求項16又は17に記載の細胞培養装置。
【請求項19】
複数の細胞の凝集体である細胞塊、及び前記細胞と培養担体との複合体である細胞複合体の少なくとも一方を含む懸濁液を培養容器内に収容する収容工程と、
駆動装置によって前記懸濁液を揺動させる揺動工程と、
前記懸濁液中の少なくとも一部の領域における、前記細胞に関する細胞分布情報値、及び前記培養担体に関する担体分布情報値の少なくとも一方を測定する測定工程と、
前記細胞分布情報値及び前記担体分布情報値の少なくとも一方の所定単位時間あたりの変化率と、前記変化率に対して設定される少なくとも1つ以上の閾値との関係を判定し、該判定の結果に基づいて前記駆動装置の揺動速度を決定する揺動速度決定工程と、
前記揺動速度決定工程によって決定された前記揺動速度を前記駆動装置に出力する出力工程と、
を含む培養方法により、細胞群を生産する方法。
【請求項20】
複数の細胞の凝集体である細胞塊、及び前記細胞と培養担体との複合体である細胞複合体の少なくとも一方を含む懸濁液を培養容器内に収容する収容工程と、
駆動装置によって前記懸濁液を揺動させる揺動工程と、
前記懸濁液中の複数の領域における、前記培養担体に関する担体分布情報値を各々測定する測定工程と、
前記複数の領域のうちの第1の領域における第1担体分布情報値と、前記複数の領域のうちの第2の領域における第2担体分布情報値とを比較演算することにより算出される担体分布情報相違値と、該担体分布情報相違値に対して設定される少なくとも1つ以上の閾値との関係を判定し、該判定の結果に基づいて前記駆動装置の揺動速度を決定する揺動速度決定工程と、
前記揺動速度決定工程によって決定された前記揺動速度を前記駆動装置に出力する出力工程と、
を含む培養方法により、細胞群を生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞培養装置、及び、細胞群を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物医学的研究および臨床の分野においては、被検体から採取した試料を用いて生体外で培養した後、目的の試料(例えば、細胞や液性因子等)の選別および回収を経て、その後の研究および治療に用いることが行われる。例えば再生医療の分野においては、被検体から採取した細胞を培地中で増殖させた後、培地から、目的としない細胞や夾雑物を分離し、目的の細胞や液性因子を回収して使用する。
【0003】
ここで、細胞の培養プロセスにおいては、従前、多くの手作業が含まれていた。例えば、培養プロセス中、所定の時間間隔で懸濁液を採取して、該懸濁液中に含まれる細胞濃度又は細胞数を顕微鏡等で観察(測定)することで、培養が順調に進んでいるか、雑菌等のコンタミネーションが発生していないか、といった確認作業は、主に手作業で行われていた。しかしながら、培養プロセスにおいて頻繁な手作業が存在すると、懸濁液を頻繁に採取することに起因する培養細胞の収率低下や、雑菌等のコンタミネーションリスクの増加といった問題が生じる。昨今では、このような問題を低減する目的で、様々な自動化技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、撮像ユニットを用いて、懸濁液中に含まれる細胞(細胞塊)の統計データを取得する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2及び特許文献3には、細胞の播種作業に際して、培養容器内の細胞の分布状態(分散状態)を、撮像装置を用いて測定したうえで、細胞の分布状態に応じて駆動装置による培養容器の揺動を制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-54234号公報
【特許文献2】特開2010-99011号公報
【特許文献3】特開2006-320226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、細胞を浮遊培養(大量培養)する場合、浮遊培養の進行に伴って、複数の細胞の凝集体である細胞塊が生成される。また、懸濁液中において細胞を培養担体に担持させて浮遊培養する場合においては、浮遊培養の進行に伴って、培養担体に担持された細胞が該培養担体上で増殖するため、細胞と培養担体との細胞複合体の比重が次第に大きくなる。これらの結果、細胞塊や細胞複合体は、培養容器の底面に次第に沈降してしまう。
【0008】
培養容器の底面に多くの細胞塊、細胞複合体等が沈降してしまうと、細胞と培地との接触面積の減少、複数の培養担体間の凝集、浮遊状態にある細胞と培養担体との担持効率の低下等が誘引され、結果として、培養効率が低下するという問題が生じる。
【0009】
一方で、浮遊培養(大量培養)の場合においては、培養細胞(細胞群)の収率性と時間効率性の観点から、前述の問題が生じないように、培養容器内を管理することが強く求められる。
【0010】
そこで、様々な実施形態により、培養容器内での細胞塊、細胞複合体等の沈降を抑制して、高い収率性と時間効率性で細胞を培養することが可能な細胞培養装置、及び、細胞群を生産する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一態様に係る細胞培養装置は、複数の細胞の凝集体である細胞塊、及び前記細胞と培養担体との複合体である細胞複合体の少なくとも一方を含む懸濁液を収容する培養容器と、前記懸濁液を揺動させる駆動装置と、前記懸濁液中の少なくとも一部の領域における、前記細胞に関する細胞分布情報値、及び前記培養担体に関する担体分布情報値の少なくとも一方を測定する測定装置と、前記細胞分布情報値及び前記担体分布情報値の少なくとも一方の所定単位時間あたりの変化率と、前記変化率に対して設定される少なくとも1つ以上の閾値との関係に基づいて、前記駆動装置の揺動速度を制御する制御装置と、を具備する。
【0012】
また、一態様に係る前記細胞培養装置において、前記測定装置は、前記少なくとも一部の領域において電場を形成させる電極と、前記電場内のキャパシタンスを測定するキャパシタンス測定部と、を有する第1測定装置を含み、前記第1測定装置は、前記キャパシタンスに基づいて、前記少なくとも一部の領域における前記細胞分布情報値を測定する。
【0013】
また、一態様に係る前記細胞培養装置において、前記第1測定装置は、前記少なくとも一部の領域における導電率を測定する導電率測定部、をさらに有する。
【0014】
また、一態様に係る前記細胞培養装置において、前記第1測定装置は、前記少なくとも一部の領域におけるpHを測定するpH測定部、をさらに有する。
【0015】
また、一態様に係る前記細胞培養装置において、前記測定装置は、前記少なくとも一部の領域を撮像して1つ以上の画像を取得する撮像部、を有する第2測定装置を含み、前記第2測定装置は、前記画像に基づいて、前記少なくとも一部の領域における前記細胞分布情報値及び前記担体分布情報値の少なくとも一方を測定する。
【0016】
また、一態様に係る前記細胞培養装置において、前記細胞分布情報値は、前記少なくとも一部の領域における、前記懸濁液中の前記細胞のうちの生細胞数又は生細胞濃度である。
【0017】
また、一態様に係る前記細胞培養装置において、前記担体分布情報値は、前記少なくとも一部の領域における、前記懸濁液中の前記培養担体の数又は前記培養担体の濃度である。
【0018】
また、一態様に係る前記細胞培養装置において、測定対象となる前記細胞分布情報値及び前記担体分布情報値の少なくとも一方が前記所定単位時間において一定となる場合における前記変化率を0%とするとき、前記閾値は、前記変化率に対して、0%に設定される第1閾値を有する。
【0019】
また、一態様に係る前記細胞培養装置において、前記閾値は、前記変化率に対して、0%よりも大きい値に設定される第2閾値をさらに有する。
【0020】
また、一態様に係る前記細胞培養装置において、前記制御装置は、前記変化率が前記第1閾値以上と判定された場合、前記駆動装置の前記揺動速度を増加させ、前記変化率が前記第1閾値未満と判定された場合、前記駆動装置の前記揺動速度を減少させる。
【0021】
また、一態様に係る前記細胞培養装置において、前記制御装置は、前記変化率が、複数の前記所定単位時間に渡って連続で前記第1閾値未満と判定された場合、前記駆動装置の前記揺動速度を0とする。
【0022】
また、一態様に係る前記細胞培養装置において、前記制御装置は、前記変化率が前記第2閾値以上と判定された場合、該判定時の前記揺動速度を維持させる。
【0023】
また、一態様に係る前記細胞培養装置において、前記駆動装置は、前記懸濁液を撹拌する撹拌機又は振盪機である。
【0024】
また、一態様に係る前記細胞培養装置において、前記培養容器の容量は、2.0L以上である。
【0025】
また、一態様に係る前記細胞培養装置において、前記少なくとも一部の領域は、前記懸濁液中であって前記培養容器の深さ方向における中央部分、及び前記懸濁液中であって前記培養容器の底面部分の少なくとも一方を含む。
【0026】
別の態様に係る細胞培養装置は、複数の細胞の凝集体である細胞塊、及び前記細胞と培養担体との複合体である細胞複合体の少なくとも一方を含む懸濁液を収容する培養容器と、前記懸濁液を揺動させる駆動装置と、前記懸濁液中の複数の領域における、前記培養担体に関する担体分布情報値を各々測定する測定装置と、前記複数の領域のうちの第1の領域における第1担体分布情報値と、前記複数の領域のうちの第2の領域における第2担体分布情報値とを比較演算することにより算出される担体分布情報相違値と、該担体分布情報相違値に対して設定される少なくとも1つ以上の閾値との関係に基づいて、前記駆動装置の揺動速度を制御する制御装置と、を具備する。
【0027】
また、別の態様に係る前記細胞培養装置において、前記測定装置は、前記複数の領域を撮像して1つ以上の画像を取得する撮像装置、を有する第3測定装置を含み、前記第3測定装置は、前記第1の領域における前記画像に基づいて前記第1担体分布情報値を測定し、且つ前記第2の領域における前記画像に基づいて前記第2担体分布情報値を測定する。
【0028】
また、別の態様に係る前記細胞培養装置において、前記担体分布情報値は、前記複数の領域の各々における、前記懸濁液中の前記培養担体の数又は前記培養担体の濃度であり、前記第1担体分布情報値は、前記第1の領域における、前記懸濁液中の前記培養担体の数又は前記培養担体の濃度であり、前記第2担体分布情報値は、前記第2の領域における、前記懸濁液中の前記培養担体の数又は前記培養担体の濃度である。
【0029】
また、別の態様に係る前記細胞培養装置において、前記駆動装置は、前記懸濁液を撹拌する撹拌機又は振盪機である。
【0030】
また、別の態様に係る前記細胞培養装置において、前記培養容器の容量は、2.0L以上である。
【0031】
また、別の態様に係る前記細胞培養装置において、前記第1の領域は、前記懸濁液中であって前記培養容器の深さ方向における中央部分であり、前記第2の領域は、前記懸濁液中であって前記培養容器の底面部分である。
【0032】
一態様に係る細胞群を生産する方法は、複数の細胞の凝集体である細胞塊、及び前記細胞と培養担体との複合体である細胞複合体の少なくとも一方を含む懸濁液を培養容器内に収容する収容工程と、駆動装置によって前記懸濁液を揺動させる揺動工程と、前記懸濁液中の少なくとも一部の領域における、前記細胞に関する細胞分布情報値、及び前記培養担体に関する担体分布情報値の少なくとも一方を測定する測定工程と、前記細胞分布情報値及び前記担体分布情報値の少なくとも一方の所定単位時間あたりの変化率と、前記変化率に対して設定される少なくとも1つ以上の閾値との関係を判定し、該判定の結果に基づいて前記駆動装置の揺動速度を決定する揺動速度決定工程と、前記揺動速度決定工程によって決定された前記揺動速度を前記駆動装置に出力する出力工程と、を含む。
【0033】
別の態様に係る細胞群を生産する方法は、複数の細胞の凝集体である細胞塊、及び前記細胞と培養担体との複合体である細胞複合体の少なくとも一方を含む懸濁液を培養容器内に収容する収容工程と、駆動装置によって前記懸濁液を揺動させる揺動工程と、前記懸濁液中の複数の領域における、前記培養担体に関する担体分布情報値を各々測定する測定工程と、前記複数の領域のうちの第1の領域における第1担体分布情報値と、前記複数の領域のうちの第2の領域における第2担体分布情報値とを比較演算することにより算出される担体分布情報相違値と、該担体分布情報相違値に対して設定される少なくとも1つ以上の閾値との関係を判定し、該判定の結果に基づいて前記駆動装置の揺動速度を決定する揺動速度決定工程と、前記揺動速度決定工程によって決定された前記揺動速度を前記駆動装置に出力する出力工程と、を含む。
【発明の効果】
【0034】
様々な実施形態によれば、培養容器内での細胞塊、細胞複合体等の沈降を抑制して、高い収率性と時間効率性で細胞を培養することが可能な細胞培養装置、及び、細胞群を生産する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】一実施形態に係る細胞培養装置の構成を模式的に示す概略図である。
図2】一実施形態に係る細胞培養装置において、測定装置として第1測定装置が用いられる場合の構成を模式的に示す概略図である。
図3図2において点線で囲まれた領域を拡大して示すものであって、第1測定装置の一部を拡大して模式的に示す概略図である。
図4】一実施形態に係る細胞培養装置において、図1及び図2に示される駆動装置とは異なる、別の駆動装置の態様の一例を模式的に示す概略図である。
図5】一実施形態に係る制御装置の機能の一例を模式的に示すブロック図である。
図6】一実施形態に係る制御装置の判定部による判定結果と出力部が決定する駆動装置20の揺動速度との関係の一例を模式的に示す図である。
図7】一実施形態に係る制御装置の判定部による判定結果と出力部が決定する駆動装置20の揺動速度との関係の一例を模式的に示す図である。
図8】一実施形態に係る細胞培養装置において行われる動作の一部の一例を示すフロー図である。
図9】一実施形態に係る細胞培養装置による細胞の増殖状況に関し、時間経過に対するキャパシタンス及び生細胞数の変化を表す図である。
図10】一実施形態に係る細胞培養装置による細胞の増殖状況に関し、時間経過に対するキャパシタンス及び生細胞数の変化を表す図である。
図11】変形例1に係る細胞培養装置であって、測定装置として第2測定装置が用いられる場合の構成を模式的に示す概略図である。
図12】変形例2に係る細胞培養装置における第3測定装置の撮像装置(撮像部)によって撮像される画像の一例を示す図である。
図13】変形例3に係る細胞培養装置の構成を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付図面を参照して様々な実施形態を説明する。なお、図面において共通した構成要件には同一の参照符号が付されている。また、或る図面に表現された構成要素が、説明の便宜上、別の図面においては省略されていることがある点に留意されたい。さらにまた、添付した図面が必ずしも正確な縮尺で記載されている訳ではないということに注意されたい。
【0037】
1.細胞培養装置の構成
一実施形態に係る細胞培養装置の全体構成の概要について、図1及び図7を参照しつつ説明する。図1は、一実施形態に係る細胞培養装置1の構成を模式的に示す概略図である。図2は、一実施形態に係る細胞培養装置1において、測定装置30として第1測定装置300が用いられる場合の構成を模式的に示す概略図である。図3は、図2において点線で囲まれた領域Pを拡大して示すものであって、第1測定装置300の一部を拡大して模式的に示す概略図である。図4は、一実施形態に係る細胞培養装置1において、図1及び図2に示される駆動装置20とは異なる、別の駆動装置20の態様の一例を模式的に示す概略図である。図5は、一実施形態に係る制御装置40の機能の一例を模式的に示すブロック図である。図6及び図7は、一実施形態に係る制御装置40の判定部43による判定結果と出力部44が決定する駆動装置20の揺動速度との関係の一例を模式的に示す図である。
【0038】
一実施形態に係る細胞培養装置1において培養に供される細胞としては、浮遊培養が可能な細胞であれば特に制限はなく、浮遊性細胞であっても、接着性細胞であってもよい。また、細胞は、浮遊培養中に複数の細胞が接触して凝集体を形成するか、又は培養担体に接着して細胞と培養担体との複合体を形成可能であれば、培養中に単一の細胞として懸濁液中に浮遊してもよい。細胞は、動物由来の細胞であることが好ましく、哺乳動物由来の細胞であることがより好ましい。哺乳動物として、例えば、ヒト、サル、チンパンジー、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ラット、マウス、モルモット、イヌ、ネコ等が挙げられる。細胞は、例えば、皮膚、肝臓、腎臓、筋肉、骨、血管、血液、神経組織等の組織に由来する細胞であってよい。細胞は、通常は1種を単独で培養に供するが、2種以上を組み合わせて培養に供してもよい。細胞は、組織からの初代細胞であってもよく、不死化することによって確立された細胞株であってもよい。
【0039】
接着性細胞としては、例えば、体細胞、幹細胞等が挙げられる。体細胞として、例えば、内皮細胞、表皮細胞、上皮細胞、心筋細胞、筋芽細胞、神経細胞、骨細胞、骨芽細胞、線維芽細胞、脂肪細胞、肝細胞、腎細胞、膵細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、樹状細胞、マクロファージ等が挙げられる。
【0040】
一実施形態において、接着細胞は、幹細胞であってよい。幹細胞としては、間葉系幹細胞、造血系幹細胞、神経系幹細胞、骨髄幹細胞、生殖幹細胞等の体性幹細胞などを挙げることができ、間葉系幹細胞、又は骨髄間葉系幹細胞とすることができる。間葉系幹細胞とは、人体の様々な組織に存在し、骨芽細胞、軟骨細胞及び脂肪細胞等の間葉系の細胞の全て又はいくつかへの分化が可能な体性幹細胞を広義に意味する。幹細胞には、更に、人工多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cells;iPS細胞)、胚性幹細胞(Embryonic stem cell;ES細胞)が含まれていてもよい。
【0041】
浮遊性細胞としては、いずれも細胞であってもよい。例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(Chinese hamster ovary cell;CHO細胞)、ベロ細胞(Vero cell)、Jurkat、HL60、FM3A等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
懸濁液は、これらの細胞を、細胞の種類に応じた培地に懸濁して得ることができる。培養開始時の懸濁液の細胞の濃度は、例えば培養担体を懸濁液中に混入させる場合、1×10~2×10細胞/mL、5×10~1×10細胞/mL、又は1×10~5×10細胞/mLとすることができ、培養担体を懸濁液中に混入させない場合、5×10~2×10細胞/mL、1×10~1×10細胞/mL、又は5×10~1×10細胞/mLとすることができる。
【0043】
一実施形態に係る細胞培養装置1は、培養容器10と、駆動装置20と、測定装置30と、制御装置40と、から主に構成されるが、これら以外のものが含まれてもよい。例えば、培養容器内に収容される懸濁液を所定の温度に加温するためのヒーター等を別途設けてもよい。また、測定装置30と制御装置40とは、図1においては、別々に設けられているが、これに限定されず、測定装置30の少なくとも一部と制御装置40とが一体に形成されたものを用いてもよい。以下、細胞培養装置1の主要な構成要素の詳細を説明する。
【0044】
1-1.培養容器10及び培養容器10内の懸濁液
一実施形態に係る培養容器10は、一般的に知られたバイオリアクタを用いることができる。培養容器10の容量は、浮遊培養且つ大量培養を可能とするために、例えば0.3L以上、0.5L以上、1L以上、2L以上、5L以上、8L以上、又は10L以上とすることができる。培養容器10の容量の上限値としては、特に制限はないが、効率性及び経済性の観点から、例えば50L以下、40L以下、又は30L以下とすることができるが、80L以上、90L以上、100L以上、又は、それ以上であってもよい。
【0045】
培養容器10の形状については特に制限はなく、例えば、円柱状、角柱状、袋状のものを用いることができる。また、培養容器10の側面及び底面は、後述する撮像装置360(撮像部360)による懸濁液の撮像のために、撮像装置360から発射される照射光を通す材質、色、形状であることが好ましい。また、同様の理由から、培養容器10の周辺に配される他の構成要素(例えば、前述のヒーター等)は、撮像装置360から発射される照射光の進路とは異なる位置(該進路から外れた位置)において、培養容器10の側面及び底面の少なくともいずれかに配置されることが好ましい。
【0046】
培養容器10内には、細胞を含む懸濁液が収容されて浮遊培養に供される。ここで、培養に供される細胞の種類に応じて、適宜、培養担体も懸濁液中に混入される。培養担体としては、例えば、細胞の浮遊培養に用いられるマイクロキャリアとして公知であり、直径数百μmのマイクロビーズを用いることができる。これにより、目的の細胞が培養される際、培地中を浮遊するマイクロビーズ上に細胞を担持(接触)させて増殖させることで、当該細胞を、高い培養面積、且つ高密度で得ることができる。
【0047】
なお、培養担体を用いて培養する場合、培養担体の培養容器10内への投入際又は直後、細胞の種類、状態等に応じて駆動装置20の駆動を一定時間停止させてもよく、間欠駆動させてもよく、連続駆動させてもよい。間欠駆動とは、所定の時間にわたり駆動装置20の揺動を実行させることと、所定の時間にわたり駆動装置20の揺動を停止させることとを交互に実施することをいう。交互に実施することとは、揺動の実行と、揺動の停止との組み合わせを、2回以上繰り返すことであってよい(「揺動を実行させる」とそれに続く「揺動を停止させる」を組み合わせの1回と数える。)。揺動の実行に対応する時間と、揺動の停止に対応する時間は、同じであってもよいし異なっていてもよい。また、2回以上の繰り返しにおいて、各回の間で、揺動の実行に対応する時間が常に同じであってもよいし異なっていてもよい。同様に、各回の間で、揺動の停止に対応する時間が常に同じであってもよいし異なっていてもよい。揺動を停止させる時間は、懸濁液を培養容器10内で静置させる時間であってよい。間欠駆動において「揺動を実行させる」場合の駆動装置20の揺動速度としては、後述する駆動装置20の具体的な揺動速度と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0048】
揺動の実行に対応する時間としては、例えば、0.5~60分間であり、好ましくは1~20分間、より好ましくは3~10分間とすることができる。揺動の停止に対応する時間としては、例えば、0.1~10時間であり、好ましくは0.5~6時間、より好ましくは1~3時間とすることができる。「揺動を実行させる」とそれに続く「揺動を停止させる」の組み合わせの例としては、「『0.5~60分間、揺動させる』とそれに続く『0.1~10時間、揺動を停止させる』」が挙げられ、「『1~20分間、揺動させる』とそれに続く『0.5~6時間、揺動を停止させる』」が好ましく、「『3~10分間、揺動させる』とそれに続く『1~3時間、揺動を停止させる』」がより好ましい。
【0049】
間欠駆動を行う時間(2回以上の「『揺動を実行させる』とそれに続く『揺動を停止させる』」を行う合計の時間)は、例えば、1~80時間であり、好ましくは10~40時間であり、より好ましくは20~30時間である。
【0050】
間欠駆動を経た後は、通常の駆動(連続駆動)が実行される。後述する細胞培養装置1の様々な動作等は、基本的に連続駆動時に対応するものと理解されたい。連続駆動とは、所定の時間にわたり続けて揺動を行うことをいう。揺動を行う時間(前述の「異常」との判定により培養を停止する場合を除く。)は、例えば、1~14日であり、好ましくは2~10日であり、より好ましくは3~7日である。細胞の培養においては、例えば、懸濁液への培地の追加、培地交換などのために揺動が一時的に停止されることがある。ここでいう一時的な停止は、通常は、懸濁液を単に静置させる時間ではない。前記の揺動を行う時間は、一時的な停止前の揺動を行う時間と、一時的な停止後の揺動を行う時間の合計ではなくてよい。すなわち、揺動の停止によって、揺動を行う時間を区切って測定してもよい。
【0051】
前述の間欠駆動と連続駆動とは、連続して行ってもよいし、又は、間欠駆動と連続駆動との間に、所定の時間にわたり揺動しないことを含めてもよい。所定の時間は、例えば、0.1~24時間であり、好ましくは0.5~5時間であり、より好ましくは1~2時間である。揺動しないことは、懸濁液を静置させることであってよい。連続駆動の後に、間欠駆動を行ってもよく、間欠駆動及び連続駆動の組み合わせを繰り返し行ってもよい。
【0052】
間欠駆動及び連続駆動を含む培養時間の合計(前述の「異常」との判定により培養を停止する場合を除く。)は、培養する細胞の種類、目的、培養条件等に応じて、適宜設定することができる。
【0053】
培養担体の材質は、例えば、有機物、無機物又はこれらの複合材料であればよく、溶解性又は不溶解性のいずれであってもよい。有機物として、例えば、有機物としては、例えば、ポリスチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、(メタ)アクリル系ポリマー、(メタ)アクリルアミド系ポリマー、シリコーン系ポリマー、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の合成高分子、セルロース、デキストラン、コラーゲン、ポリガラクツロン酸、ポリアルギン酸、ゼラチン等の天然高分子などが挙げられるがこれらに限定されない。無機物としては、例えば、ガラス、セラミック、金属、合金、金属酸化物等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい一態様の培養担体として、少なくともポリスチレンを含むものが用いられる。
【0054】
また、培養担体には、細胞との担持性(接着性)を向上させるために、培養担体の表面には、カチオン性官能基が導入されていてもよい。カチオン性官能基として、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、アミノ基等の置換又は非置換のアミノ基を含む基が挙げられる。また、細胞の付着を促進する観点から、培養担体の表面には、細胞接着性ポリマーが配置されていてもよい。細胞接着性ポリマーとしては、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸、Matrigel(商標)(BD Biosciences)、ヒアルロン酸、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、ヘパラン硫酸、デキストラン、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸等が配置されていてもよい。
【0055】
培養担体の形状としては、例えば、球状、扁平状、円柱状、板条、角柱状等が挙げられる。培養担体は、球状培養担体を含むことが好ましい。培養担体は、内部に細孔を有する多孔質培養担体であっても、内部に細胞を有しない培養担体であってもよい。
【0056】
培養担体の平均粒子径(D50)は、細胞の増殖促進の観点から、例えば50~1,000μmであり、100~500μmであることが好ましく、150~250μmであることがより好ましい。培養担体の平均粒子径は、生理食塩水又は培地中のメジアン径(D50)として測定した値とする。培養担体の平均粒子径は、レーザー回折散乱式の粒子径分布測定装置により測定することができる。
【0057】
懸濁液中の培養担体の濃度は、培養担体の形状、大きさ、表面積等に基づいて適宜調製可能であるが、例えば、0.01~100g/L、0.5~50g/L、又は1~20g/Lとすることができる。
【0058】
ここで、培養容器10内において、時間経過に伴って細胞の増殖(浮遊培養)が進むと、複数の細胞が凝集することで細胞塊が次第に形成される。また、懸濁液に培養担体が含められる場合においては、細胞と培養担体との複合体である細胞複合体が形成され、細胞は該細胞複合体上で増殖する。したがって、懸濁液には、細胞塊と細胞複合体の少なくとも一方が含まれる。なお、細胞懸濁液には、単一状態の細胞と、細胞が接着していない培養担体とのいずれか一方又は双方が含まれていてもよい。
【0059】
1-2.駆動装置20
一実施形態に係る駆動装置20は、培養容器10内に収容される懸濁液を揺動させるものであれば、特に制限なく用いることができる。駆動装置20としては、例えば図1及び図2に示すように、モータ21、モータ21の回転軸(図示せず)に連結するシャフト22、及びシャフト22の先端に連結する撹拌翼23、を有する撹拌機を用いることができる。
【0060】
また、駆動装置20として、例えば図4に示すような、一般的に知られる振盪機を用いて、該振盪機によって培養容器10を外側から振盪させることで懸濁液を揺動させてもよい。したがって、本開示において「揺動」とは、撹拌、振盪等、懸濁液を揺動させるあらゆる運動態様を含むことができる。同様に、本開示において、「揺動速度」とは、撹拌速度、振盪速度等、懸濁液を揺動させるあらゆる運動態様に係る速度を含むことができる。
【0061】
駆動装置20には、駆動源(駆動装置20として撹拌機が用いられる場合においては、図1に示すモータ21)の揺動速度(撹拌速度)を制御する後述する制御装置40からの指令を受信する受信部(図示せず)が別途設けられている。これにより、駆動装置20は、制御装置40の指令に対応する揺動速度を駆動源に伝達することができる。
【0062】
1-3.測定装置30
一実施形態に係る測定装置30は、培養容器10内の懸濁液中の少なくとも一部の領域における、細胞に関する細胞分布情報値、及び培養担体に関する担体分布情報値の少なくとも一方を、培養進行中に測定(算出)するものである。
【0063】
ここで、細胞分布情報値とは、例えば、少なくとも一部の領域における、懸濁液中の生細胞数又は生細胞濃度に換言することができるが、これに限定されない。つまり、細胞分布情報値は、少なくとも一部の領域の懸濁液中に、生細胞がどの程度分布しているかを表す値であればよく、場合によっては、複数の細胞が凝集することで形成される細胞塊の数としてもよい。
【0064】
他方、担体分布情報値とは、例えば、少なくとも一部の領域における、懸濁液中の培養担体の数又は培養担体の濃度に換言することができるが、これに限定されない。つまり、担体分布情報値とは、少なくとも一部の領域の懸濁液中に、培養担体がどの程度分布しているかを表す値であればよい。
【0065】
一実施形態に係る細胞培養装置1の測定装置30としては、例えば、図2等に示すような、第1測定装置300を用いることができる。なお、以下詳述する第1測定装置300は、細胞分布情報値のみ測定可能であるが、後述する変形例1に係る第2測定装置350は、細胞分布情報値及び担体分布情報値の両方を測定することが可能である。測定装置30として、第1測定装置300及び後述する第2測定装置350のどちらを利用するかについては、培養される細胞種、培養容器10の大きさ等に基づいて適宜に決定すればよいが、第1測定装置300は、生細胞数又は生細胞濃度を直接的に観察(管理)する場合に好適であり、第2測定装置350は、細胞塊や細胞複合体を直接的に観察(管理)する場合に好適である。
【0066】
第1測定装置300は、図2及び図3に示すように、図2において点線で囲まれた領域Pにおける培養容器10内の懸濁液中に挿入される略棒状の主部301と、該主部301上に設けられ、所定周波数の電気信号RFを発振して領域Pの懸濁液中に電場を形成させる電極310と、形成された電場内で分極した生細胞Ceの量に基づいて電場内のキャパシタンス(静電容量)を測定するキャパシタンス測定部320と、キャパシタンス測定部320によって測定されたキャパシタンスに基づいて、領域P内の細胞分布情報値(具体的には領域P内の生細胞数又は生細胞濃度)を演算する本体部330と、を有することができる。さらに、主部301には、領域Pの懸濁液の導電率を測定する導電率測定部340と、領域Pにおける懸濁液のpHを測定するpH測定部341と、の少なくとも一方、又はこれら双方が配置されていてもよい。導電率測定部340及びpH測定部341は、一般的に知られる公知のものを用いることができる。なお、図2に示すように、第1測定装置300において、主部301は複数(図2においては2つ)設けられてもよく、これに対応して、電極310、キャパシタンス測定部320、導電率測定部340、及びpH測定部341等も複数設けられてよい。
【0067】
電極310から発振される電気信号RFの周波数は、特に制限はないが、例えば、50kHz~20MHz、好ましくは100kHz~1MHz、より好ましくは400kHz~600kHzのものを用いることができる。なお、電極310からは複数種類の周波数の電気信号が発振されることが好ましい。電極310から多種の周波数の電気信号RFが発振されることにより、様々な粒径の生細胞ごとの生細胞数又は生細胞濃度を測定することができるため、領域Pの懸濁液に含まれる正確な生細胞数又は生細胞濃度を測定することができる。
【0068】
電極310によって電場が形成され、キャパシタンス測定部320によってキャパシタンスが測定される懸濁液中の領域Pの場所は、培養容器10内に懸濁液を収容したときに懸濁液の液面よりも下となる位置であれば、培養容器10内部における深さ方向のいずれの位置にあってもよい。例えば、領域Pの場所は、図2及び図3に示すように、培養容器10内の深さ方向における中央部分であってもよいし、培養容器10内の底面部分10xであってもよい。懸濁液中の領域Pの数は、培養容器内10に1箇所だけ設けてもよいし、複数箇所設けてもよい。領域Pを培養容器内10に複数箇所設ける場合には、培養容器10内の深さ方向において、互いに異なる位置に配置してもよいし、同じ位置に配置してもよい。後述する制御装置40による判定の正確性の観点からすれば、キャパシタンスを測定する部分(キャパシタンス測定部320)は、培養容器10内の複数の箇所で測定されることが好ましい。培養容器10内の懸濁液中、複数の箇所(複数の領域であって、例えば、後述する領域Q1~Q4)においてキャパシタンスを測定する場合には、第1測定装置300は、当該複数の箇所に対応する複数の電極310と複数のキャパシタンス測定部320(及びこれらに対応する主部301)を有するように設計すればよい。
【0069】
ところで、死滅細胞(細胞膜が破れた細胞)は、電場内で分極しないことが知られている。したがって、第1測定装置300は、懸濁液中の生細胞数又は生細胞濃度を正確に算出することができる。なお、キャパシタンスを用いて生細胞数又は生細胞濃度を測定する装置(キャパシタンスと生細胞数には比例関係があること)自体は、既に公知であるので、第1測定装置300の更なる詳細な説明は省略する。
【0070】
なお、第1測定装置300の本体部330によって演算された細胞分布情報値(生細胞数又は生細胞濃度)は、後述する制御装置40に所定の時間間隔(例えば、所定単位時間の間隔)で送信される。
【0071】
1-4.制御装置40
一実施形態に係る制御装置40は、例えば、中央処理装置(CPU)、主記憶装置、入出力インターフェース、入力装置、出力装置等がデータバス等により接続される一般的なハードウェアを用いることができる。制御装置40は、図1に示すように、端末装置として測定装置30と別体に設けられてもよいし、測定装置30の少なくとも一部(例えば、前述の第1測定装置300における本体部330)と制御装置40とが、一体的に構成されるようにしてもよい。
【0072】
一実施形態に係る制御装置40の機能としては、図5に示すように、主に、通信部41、記憶部42、判定部43、及び出力部44から構成される。
【0073】
通信部41は、測定装置30(一実施形態においては第1測定装置300)から、細胞分布情報値を受信し、受信した細胞分布情報値を記憶部42へ伝達する。また、通信部41は、後述するとおり、判定部43の判定結果に基づいて出力部44が決定(算出)する駆動装置20の揺動速度を、駆動装置20に対する制御指令として、駆動装置20に送信することができる(駆動装置20には、通信部41からの制御指令を受信する機能が搭載されている)。
【0074】
記憶部42は、通信部41から受信する細胞分布情報値、駆動装置20に対する制御指令、後述する閾値等を記憶することができる。
【0075】
判定部43は、測定装置30から通信部41が受信する(記憶部42が記憶する)細胞分布情報値に基づいて、所定単位時間あたりの細胞分布情報値の変化率(以下、単に「変化率」ともいう。)をモニタリングする。さらに、判定部43は、当該変化率と、当該変化率に対して予め設定される閾値とを比較し、当該変化率と閾値との関係を所定単位時間毎に判定する。例えば、判定部43は、当該変化率が閾値以上であるか、又は閾値未満であるか、を判定する。ここで、変化率の算出にあたっては、例えば所定単位時間を1時間(60分)に設定する場合、当該1時間の開始時の細胞分布情報値と終了時(つまり、開始時から60分後)の細胞分布情報値とを比較演算することで、当該1時間における細胞分布情報値の変化率を算出することができる。また、例えば所定単位時間を1時間(60分)に設定する場合において、当該1時間の開始時から10分おきに計7回(つまり、開始時、10分後、20分後、30分後、40分後、50分後、及び終了時)細胞分布情報値を取得して、開始時から10分後までの細胞分布情報値の変化率、10分後から20分後までの細胞分布情報値の変化率、20分後から30分後までの細胞分布情報値の変化率、30分後から40分後までの細胞分布情報値の変化率、40分後から50分後までの細胞分布情報値の変化率、50分後から終了時までの細胞分布情報値の変化率、を算出し、これら計7回の変化率の平均値を所定単位時間あたりの細胞分布情報値の変化率としてもよい。なお、前述したとおり、キャパシタンスと生細胞数には比例関係があることから、所定単位時間あたりの細胞分布情報値の変化率に代えて、所定単位時間あたりのキャパシタンスの変化率を用いてもよい。この場合、測定装置30は、測定したキャパシタンスに関する情報(キャパシタンス値)を、本体部330にて演算された細胞分布情報値とともに、又は本体部330にて演算された細胞分布情報値に代えて、後述する制御装置40に所定の時間間隔(例えば、所定単位時間の間隔)で送信すればよい(したがって、本開示において、「細胞分布情報値の変化率」には、「キャパシタンスの変化率」も包含されるものとする)。
【0076】
変化率に関する所定単位時間は、特に制限はないが、例えば、10分~24時間の間で適宜に設定すればよい。但し、駆動装置20の揺動速度を細かく制御して、培養される細胞(培養される細胞の集合体を、本開示において「細胞群」ともいう。)の収率性と効率性を最大化する観点でいえば、所定単位時間を、例えば、30分~1時間とすることが好ましい。
【0077】
前述の閾値としては、例えば、前述の変化率に対して、「0%」に1つ設定される(この場合における閾値を、「第1閾値」ともいう。)。変化率が0%とは、測定対象となる前述の細胞分布情報値が所定単位時間において(所定単位時間の開始時と終了時で)一定となる場合を意味するものであって、変化率が0%より大きい場合は、細胞分布情報値が増加していることを意味し、変化率が0%未満の場合は、細胞分布情報値が減少していることを意味する。前述の判定部43は、例えば、変化率が0%以上(第1閾値以上)の場合に細胞の増殖が「正常」と判定し、変化率が0%未満(第1閾値未満)の場合に細胞の増殖が「異常」と判定することができる。なお、「正常」及び「異常」との具体的な判定内容については、適宜に変更すればよい。
【0078】
なお、閾値として、前述の第1閾値に加えて、0%よりも大きい値に別の閾値(この場合における別の閾値を、「第2閾値」ともいう。)をさらに設定してもよい。第2閾値としては、例えば、変化率が10%~90%の範囲のいずれかの値に対して設定することができる。このように、第1閾値に加えて第2閾値を設定することにより、判定部43による判定のバリエーションを増やし、駆動装置20の揺動速度を細かく制御することが可能となる。つまり、判定部43は、例えば、変化率が第2閾値以上の場合に細胞の増殖が「正常」と判定し、変化率が第1閾値以上第2閾値未満の場合に細胞の増殖が「やや低調」と判定し、変化率が第1閾値未満の場合に細胞の増殖が「異常」と判定することができる。なお、この場合における「正常」、「やや低調」、及び「異常」との具体的な判定内容についても、適宜に変更すればよい。
【0079】
出力部44は、前述の判定部43の判定結果に基づいて、駆動装置20の揺動速度(駆動装置20として撹拌機が用いられる場合においては、撹拌速度)の値を決定する。判定部43の判定結果と出力部44が決定する駆動装置20の揺動速度との関係について、図6及び図7を参照しつつ説明する。図6及び図7において、所定単位時間(図6においては、所定単位時間A~所定単位時間J、図7においては、所定単位時間A~所定単位時間I)の長さが全て一定(例えば、前述のとおり1時間)とし、隣接する所定単位時間の終了時と開始時は、実質的に同じと理解されたい(つまり、所定単位時間Aの終了時と、所定単位時間Bの開始時は、実質的に同じ)。
【0080】
まず、変化率(Xt)に対する閾値として、前述の第1閾値のみが設定されている場合について、図6を参照しつつ説明する。この場合において出力部44は、或る所定単位時間(例えば、図6における所定単位時間A)の終了時において、判定部43が前述のとおり「正常」(変化率が第1閾値「0」以上)と判定すると、該判定時(つまり、所定単位時間Aの時)の駆動装置20の揺動速度を増加させるように、新たな揺動速度を出力する(なお、新たな揺動速度が出力された時点が、次の所定単位時間Bの開始時となる)。
【0081】
一方、出力部44は、或る所定単位時間(例えば、図6における所定単位時間E)の終了時において、判定部43が前述のとおり「異常」(変化率が第1閾値「0」未満)と判定すると、該判定時(つまり、所定単位時間Eの時)の駆動装置20の揺動速度を減少させるように、新たな揺動速度を出力する(なお、新たな揺動速度が出力された時点が、次の所定単位時間Fの開始時となる)。この揺動速度の減少を実行した結果、再び変化率が第1閾値(変化率が第1閾値「0」)以上となる場合には、判定部43は「正常」と判定するため、上記の場合と同様に、駆動装置20の揺動速度を増加させる新たな揺動速度が出力されることとなる(図6における、所定単位時間F~所定単位時間G参照)。
【0082】
なお、出力部44は、判定部43による所定単位時間毎の判定が複数回連続で「異常」(つまり、変化率が第1閾値未満)と判定された場合、駆動装置20の駆動を停止すべく、揺動速度0を出力する(図6における所定単位時間G~所定単位時間J参照)。所定単位時間の判定が複数回連続で「異常」と判定される場合には、培養容器10内に雑菌等のコンタミネーションの発生、駆動装置20の揺動速度が速すぎることに起因する生細胞へのダメージ等による問題が生じている可能性が考えられるため、即座に細胞の培養を停止する必要がある。ここで、前述の「複数回連続」とは、所定単位時間毎の判定が2回連続であってもよいし、3回連続であってもよいし、4回連続以上であってもよく、細胞の種類や培養条件に応じて適宜に設定すればよい。一実施形態においては、導電率測定部340によって測定される懸濁液中の導電率、及びpH測定部341によって測定される懸濁液のpHの少なくともいずれか一方の測定値に基づいて、前述のような問題を把握するようにしてもよい。
【0083】
次に、変化率(Xt)に対する閾値として、前述の第1閾値に加えて第2閾値Yも設定されている場合について、図7を参照しつつ説明する。この場合の出力部44は、或る所定単位時間(例えば、図7における所定単位時間A)の終了時において、判定部43が前述のとおり「やや低調」(変化率Xtが「Y>Xt≧0」)と判定すると、該判定時(該所定単位時間Aの時)の駆動装置20の揺動速度を増加させるように、新たな揺動速度を出力する(なお、新たな揺動速度が出力された時点が、次の所定単位時間Bの開始時となる)。
【0084】
次に、出力部44は、或る所定単位時間(例えば、図7における所定単位時間D)の終了時において、判定部43が前述のとおり「正常」(変化率Xtが「Y≦Xt」)と判定すると、該判定時(該所定単位時間Dの時)の揺動速度を維持する。
【0085】
さらに、出力部44は、或る所定単位時間(例えば、図7における所定単位時間F)の終了時において、判定部43が前述のとおり「異常」(変化率Xtが「Xt<0」)と判定すると、該判定時(該所定単位時間Fの時)の揺動速度を減少させるように、新たな揺動速度を出力する(なお、新たな揺動速度が出力された時点が、次の所定単位時間Gの開始時となる)。なお、図7に示される場合においても、図6の場合と同様、所定期間にわたって複数回連続で「異常」と判定された場合、駆動装置20を停止すべく、出力部44は揺動速度0を出力する。
【0086】
ところで、図6及び図7に示される場合における、駆動装置20の具体的な揺動速度、及び揺動速度の増減の程度は、細胞の種類、培養容器10の容量等に応じて適宜に設定すればよい。但し、駆動装置20の揺動速度が速すぎると、細胞を傷つけてしまう恐れがあるため、具体的な揺動速度としては、10mm/s~100mm/s、好ましくは20mm/s~80mm/s、より好ましくは30mm/s~60mm/s、の範囲内で設定されうる。なお、この際の揺動速度は、駆動装置20として撹拌機が用いられる場合には、撹拌翼23の回転速度を意味する。
【0087】
2.一実施形態に係る細胞培養装置1の動作
前述のとおり説明した細胞培養装置1における一連の動作について、図8乃至図10を参照しつつ、さらに詳細に説明する。図8は、一実施形態に係る細胞培養装置1において行われる動作の一部の一例を示すフロー図である。図9及び図10は、一実施形態に係る細胞培養装置1による細胞(例えば、間葉系幹細胞)の増殖状況に関し、時間経過に対するキャパシタンス及び生細胞数の変化を表す図である。なお、以下に説明する一連の動作において、閾値は、前述にて説明した、第1閾値及び第2閾値の両方が予め設定されているものとする。また、図9及び図10中、点線は、キャパシタンス値(pF/cm)を示し、黒丸は生細胞数(個/mL)を示す。
【0088】
図8に示されるように、まず、培地を含む培養容器10内に、培養に供される細胞が収容されて浮遊培養が開始される。その後、所定時間経過すると、ステップ(以下、「ST」という。)500において、複数の細胞の凝集体である細胞塊を含む懸濁液が培養容器10内で形成(収容)される(収容工程)。なお、細胞の種類に応じ、培養容器10内に培養担体が予め収容される場合において、浮遊培養開始後所定時間経過すると、細胞と培養担体との複合体である細胞複合体が培養容器10内で形成(収容)される。
【0089】
次に、ST501において、駆動装置20が、培養容器10内の懸濁液を予め決められた駆動方法(一定時間停止、間欠駆動、連続駆動、等)で揺動する(揺動工程)。なお、駆動装置20による懸濁液の揺動は、ST500の前から開始されていてもよい。
【0090】
次に、ST502において、測定装置30(第1測定装置300)が、懸濁液中の少なくとも一部の領域(領域P)における細胞分布情報値(生細胞数又は生細胞濃度)を測定する(測定工程)。なお、このST502に係る測定工程においては、後述の変形例にて詳述される担体分布情報値が、測定装置30(第2測定装置350)によって測定されてもよい。
【0091】
次に、ST503において、測定装置30(第1測定装置300)が、測定した細胞分布情報値(生細胞数又は生細胞濃度)を制御装置40へ送信する。なお、ST502において担体分布情報値が測定される場合、このST503においては、測定装置30(第2測定装置350)が、測定した担体分布情報値(培養担体数又は培養担体濃度)を制御装置40へと送信してもよい。
【0092】
次に、ST504において、制御装置40の判定部43が、細胞分布情報値の所定単位時間あたりの変化率と、予め設定される閾値(例えば、前述の第1閾値及び第2閾値)との関係を所定単位時間毎に判定し、その判定結果を出力部44に送信する。なお、ST502において担体分布情報値が測定される場合、このST504においては、制御装置40の判定部43は、担体分布情報値の所定単位時間あたりの変化率と、予め設定される閾値(例えば、後述の第3閾値及び第4閾値)との関係を所定単位時間毎に判定し、その判定結果を出力部44に送信してもよい。
【0093】
次に、ST505において、判定部43の判定結果に基づいて、制御装置40の出力部44が駆動装置20の揺動速度を決定する(揺動速度決定工程)。
【0094】
そして、ST506において、制御装置40の通信部41が、出力部44によって決定された駆動装置20の揺動速度を、駆動装置20への制御指令として、該駆動装置20へ出力する(出力工程)。これにより、駆動装置20は、当該制御指令に従った揺動速度を出力する。
【0095】
以降、細胞培養装置1は、細胞の培養プロセスを続行する限り、ST502~ST506に関する各動作を繰り返す(ST507)。生細胞数(生細胞濃度)が目標の値に到達した場合、駆動装置20の揺動速度に係わらず、細胞分布情報値の変化率が所定期間「0」で一定となった場合、又は、培養途中において、判定部43による所定単位時間毎の判定が複数回連続で「異常」となった場合等には、一連の動作は終了する(停止される)。なお、前述の「生細胞数(生細胞濃度)の目標の値」は、培養対象となる細胞の種類、培養スケール、用途等によって異なるが、例えば、培養開始時の細胞濃度の5倍~100倍、5倍~50倍、又は10~30倍の生細胞数(生細胞濃度)とすることができる。
【0096】
次に、ST500~ST506の一連の動作に基づく細胞の増殖状況について、図9及び図10を参照しつつ説明する。図9及び図10に関し、所定単位時間は1時間(60分)で設定される。また、図9及び図10に関し、判定部43の判定に基づく前述の「変化率」には、「細胞分布情報値の変化率」の代わりに「キャパシタンスの変化率」が用いられている。
【0097】
図9を参照すると、特に、時間t1~t2にかけて、所定単位時間における変化率(キャパシタンスの変化率)が予め設定された第2閾値(前述のY)以上となっていることから、この間、駆動装置20の揺動速度(撹拌翼の回転速度)は、所定単位時間毎(1時間毎)に増加する。逆にいえば、所定単位時間毎に駆動装置20の揺動速度を増加させることで、変化率も第2閾値以上に増加している。このことから、培養容器10内において、細胞塊、細胞複合体等の沈降は抑制されて、細胞の増殖(細胞群の生産)が効率的に実行されていることが理解される。時間t2以降においては、駆動装置20の揺動速度に係わらず、キャパシタンスの変化率が一定期間に渡って「0」であることから、細胞の増殖(細胞群の生産)が実質的に終了(生細胞数が目標の値に到達)したものと理解される。なお、図9において、一時的にキャパシタンスの値が降下している箇所が示されているが、これは培地交換に由来するキャパシタンス値の一時的なブレであり、駆動装置20の揺動速度の制御に影響を与えるものではない点を付言する。
【0098】
一方、図10を参照すると、図10に示される場合は、基本的に図9に示される場合と同様であるものの、時間t3付近において、キャパシタンスの変化率が急激に低下し、時間t3以降における変化率は、所定単位時間毎の判定が複数回連続で第1閾値(0)未満(異常)となる。したがって、図10に示される場合においては、制御装置40は、最終的に、駆動装置20の揺動速度を停止すべく0とする。なお、図10に示されるように、変化率が急激に低下する場合を想定して、変化率が0未満となる値(例えば、-10%等)に対して別途の閾値をさらに設けてもよい。このように、一実施形態に係る細胞培養装置1は、異常と判定された場合に適切に培養を停止することができるので、異常と判定された原因の究明、不必要な培養進行の防止等の観点で時間効率性上有用である。
【0099】
3.変形例
次に、前述にて説明した一実施形態に係る細胞培養装置1の変形例について説明する。
【0100】
3-1.変形例1
変形例1に係る細胞培養装置1について、図11を参照しつつ説明する。図11は、変形例1に係る細胞培養装置1であって、測定装置30として第2測定装置350が用いられる場合の構成を模式的に示す概略図である。
【0101】
変形例1に係る細胞培養装置1は、前述にて説明した一実施形態に係る細胞培養装置1とほぼ同様であるが、第1測定装置300に代わって第2測定装置350を適用するものである。したがって、変形例1に係る細胞培養装置1においては、第2測定装置350について以下のとおり詳細を説明し、その他の構成要素の詳細な説明は省略する。
【0102】
変形例1に係る細胞培養装置1に適用される第2測定装置350は、培養容器10内の少なくとも一部の領域の懸濁液中に含まれる培養担体(図11における参照符号MC)を撮像して画像(動画であってもよい)を取得する撮像部360と、撮像部360によって撮像された画像に基づいて、当該領域における担体分布情報値を測定する本体部370と、を有することができる。なお、第2測定装置350による担体分布情報値の「測定」とは、画像に基づいて担体分布情報値を「算出」することを含む。ところで、懸濁液中に培養担体MCが混入される場合、細胞は主に培養担体MC上で増殖するため、細胞と培養担体MCとの複合体である細胞複合体が形成されることとなる。
【0103】
撮像部360は、一般的に知られる画像センサ等、被対象物を所定間隔で連続的に撮像して、二次元又は三次元の画像を取得することが可能なものを用いることができる。また、撮像部360は、培養容器10内を深さ方向にみて、一様に撮像することができる大型のものを用いてもよいし、図11に示すように、複数(例えば、図11においては4つ)の小型の撮像部361乃至364を、培養容器10に対して深さ方向に並べて配置してもよいし、これら4つの撮像部361乃至364を、培養容器10の外周面において、異なる周位置(例えば、撮像部361を「12時の位置」、撮像部362を「3時の位置」、撮像部363を「6時の位置」、撮像部364を「9時の位置」)に配してもよい。また、場合によっては、図11に示される撮像部361のみを設けるようにしてもよい。
【0104】
本体部370は、撮像部360が撮像することにより取得した画像を連続的に入手して、該画像に含まれる培養担体MCを画像認識したうえで、該画像に含まれる培養担体MCの数を、担体分布情報値としてカウントできる機能を有するものである。具体的には、本体部370による担体分布情報値のカウントは、例えば、撮像部361乃至364のいずれか一つが撮像することにより取得した画像を連続的に入手して、その画像をもとに実行されてもよい。或いは、本体部370による担体分布情報値のカウントは、例えば、撮像部361乃至364の少なくとも2つが撮像することにより取得した画像を各々連続的に入手して、各撮像部から取得した画像に基づく担体分布情報値を各々算出したうえで、それらの平均値を最終的な担体分布情報値として算出するようにしてもよい。また、本体部370は、撮像部360(撮像部361乃至364)によって、懸濁液中の細胞塊の数、及び細胞複合体上の細胞の数(生細胞数)を、細胞分布情報値としてカウントできる機能を有していてもよい。
【0105】
また、本体部370は、培養担体MCを直接画像認識してカウントする機能を有する代替として、画像の色彩や濃淡に基づいて、画像に含まれる培養担体濃度を、担体分布情報値として演算できる機能を有するものであってもよい。このような場合には、本体部370を、予め様々な培養担体濃度に対応する色彩や濃淡を大量に学習させて、色彩又は濃淡と培養担体濃度とを関連付けたデータを記憶させておき、このデータに基づいて、撮像部360が取得した画像に含まれる培養担体濃度を算出するようにしてもよい。
【0106】
本体部370は、以上のとおり算出した培養担体MCの数又は培養担体濃度を、制御装置40へと送信し、制御装置40は、一実施形態と同様の処理及び制御を実行する。なお、本体部370は、前述のとおり、細胞塊の数(及び細胞複合体上の細胞の数)をカウントする場合においては、その細胞塊の数(及び細胞複合体上の細胞の数)を、培養担体MCの数とともに、又は培養担体MCの数に代えて、制御装置40へと送信することもできる。
【0107】
ここで、変形例1において、第2測定装置350が、担体分布情報値としての培養担体MCの数(又は培養担体濃度)を演算する場合には、所定単位時間あたりの担体分布情報値の変化率に対する第3閾値(一実施形態における第1閾値に相当)が設定されることとなる。さらに、必要に応じて、所定単位時間あたりの担体分布情報値の変化率に対する第4閾値(一実施形態における第2閾値に相当)が、さらに予め設定されていてもよい。したがって、変形例1における判定部43による判定は、所定単位時間あたりの担体分布情報値の変化率をもとに実行されることとなる。この場合の第3閾値及び第4閾値は、一実施形態における第1閾値及び第2閾値と同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0108】
また、変形例1において、第2測定装置350が、担体分布情報値としての培養担体MCの数(又は培養担体濃度)と、細胞分布情報値としての細胞塊の数(及び細胞の数)の両方を演算する場合、第2測定装置350は、細胞分布情報値及び担体分布情報値の両方を制御装置40に送信してもよい。この場合、変形例1における制御装置40の判定部43による判定バリエーションは増加し、例えば、以下表1のように設定することも可能となる。なお、以下表1のように設定される場合における細胞分布情報値及び担体分布情報値は、例えば、図11における上から2つ目の撮像部363又は上から3つ目の撮像部362が撮像する画像に基づいて取得されるものとする。
【0109】
【表1】
【0110】
第2測定装置350が細胞分布情報値及び担体分布情報値の両方を演算する場合、表1に示すように、例えば、状況1~状況5に関する各判定に対応して駆動装置20の揺動速度を予め設定することができるので、駆動装置20の揺動速度をきめ細かく制御できる。したがって、培養容器10内での細胞塊、細胞複合体等の沈降を効率的に抑制して、細胞群の生産に関し、収率性と時間効率性をさらに向上させることが可能となる。
【0111】
3-2.変形例2
次に、変形例2に係る細胞培養装置1について、図12を参照しつつ説明する。図12は、変形例2に係る細胞培養装置1における第3測定装置351の撮像装置360(撮像部360)によって撮像される画像の一例を示す図である。
【0112】
変形例2に係る細胞培養装置1は、前述にて説明した図11に示される変形例1に係る細胞培養装置1とほぼ同一であるが、第2測定装置350に代わって第3測定装置351を適用するものである。したがって、変形例2に係る細胞培養装置1においては、第3測定装置351について以下のとおり詳細を説明し、その他の構成要素に関する詳細な説明は省略する。なお、第3測定装置351の物理的構成は、図11に示される第2測定装置350と同じである。
【0113】
変形例2に係る第3測定装置351は、変形例1に係る撮像部360と同じものを撮像装置360として用いることができる。そのうえで、第3測定装置351は、培養容器10内の懸濁液中の複数の領域における担体分布情報値を各々測定し、該複数の領域のうちの第1の領域における第1担体分布情報値と、該複数の領域のうちの第2の領域における第2担体分布情報値とを比較演算することで、担体分布情報相違値を演算する。そして、当該担体分布情報相違値と、これに対して予め設定される少なくとも1つ以上の閾値との関係に基づいて、駆動装置20の揺動速度を制御するものである。
【0114】
ここで、第1担体分布情報値とは、第1の領域における担体分布情報値(具体的には、培養担体の数又は培養担体の濃度)であり、第2担体分布情報値とは、第2の領域における担体分布情報値を意味する。
【0115】
さらに詳細を説明すると、変形例2に係る撮像装置360は、図11及び図12に示すように、複数(例えば、図11では4つ)の小型のものが用いられてもよいし、1つの大型の撮像装置360が用いられてもよい。そのうえで、例えば、撮像装置360が、図11及び図12に示すように、4つの小型の撮像装置361乃至364(又はこれらのうちの少なくとも2つの撮像装置)である場合、これらの各撮像装置361乃至364は、対応する懸濁液の領域Q1乃至Q4(又は領域Q1乃至Q4のうちの少なくとも2つの領域)を撮像する。
【0116】
そして、各撮像装置361乃至364は、各領域で撮像して取得した画像を本体部371へ送信する。これにより、本体部371は、領域Q1乃至Q4(又はこれらの領域のうちの少なくとも2つの領域)における各々の担体分布情報値を測定し、測定された各々の担体分布情報値を制御装置40へ送信する。
【0117】
本体部371から領域Q1乃至Q4(又はこれらの領域のうちの少なくとも2つの領域)における各々の担体分布情報値を取得する制御装置40は、例えば、領域Q3(第1の領域に相当)における担体分布情報値(第1担体分布情報値)と、領域Q1(第2の領域に相当)における担体分布情報値(第2担体分布情報値)とを比較演算して、担体分布情報相違値を演算する。担体分布情報相違値とは、例えば、第1担体分布情報値から第2担体分布情報値を減算して得られる。
【0118】
さらに制御装置40の判定部43は、このように演算された担体分布情報相違値をモニタリングし、この担体分布情報相違値に対して予め設定される閾値との関係に基づいて、一実施形態と同様に、「正常」、「異常」等の判定を実行する。
【0119】
例えば、領域Q3における担体分布情報値(第1担体分布情報値)から領域Q1における担体分布情報値(第2担体分布情報値)を減算した値が略0であれば、培養担体は、懸濁液中に均一に分散していると考えられるため「正常」と判定することができ、減算した値が0を大きく下回る場合には、培養担体が沈降等していると考えられるため「異常」と判定することができる。したがって、培養容器10内での細胞塊、細胞複合体等の沈降を効率的に抑制して、細胞群の生産に関し、収率性と時間効率性をさらに向上させることが可能となる。
【0120】
3-3.変形例3
次に、変形例3に係る細胞培養装置1について、図13を参照しつつ説明する。図13は、変形例3に係る細胞培養装置1の構成を模式的に示す概略図である。
【0121】
変形例3に係る細胞培養装置1は、一実施形態に係る細胞培養装置1に適用される第1測定装置300と、変形例1(及び変形例2)に係る細胞培養装置1に適用される第2測定装置350(及び第3測定装置351)の両方が適用されるものである。したがって、変形例3に係る制御装置40は、第1測定装置300と第2測定装置350(及び第3測定装置351)から、細胞分布情報値及び担体分布情報値(場合によっては、細胞分布情報値だけでもよい)に関する多数の値を受信することができる。したがって、制御装置40の判定部43の判定バリエーションを最も多くすることができる。その結果、駆動装置20の揺動速度をさらにきめ細かく制御できる。これにより、培養容器10内での細胞塊、細胞複合体等の沈降をさらに効率的に抑制して、細胞群の生産に関し、収率性と時間効率性をさらに向上させることが可能となる。
【0122】
以上、前述の通り、様々な実施形態を例示したが、上記実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数等は適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0123】
1 細胞培養装置
10 培養容器
20 駆動装置
21 モータ
23 撹拌翼
30 測定装置
40 制御装置
300 第1測定装置
310 電極
320 キャパシタンス測定部
350 第2測定装置
351 第3測定装置
360 撮像部、撮像装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13