(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165705
(43)【公開日】2023-11-17
(54)【発明の名称】抗菌抗ウイルス剤、抗菌抗ウイルス性コーティング組成物、積層体、抗菌抗ウイルス性樹脂組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
A01N 59/20 20060101AFI20231110BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20231110BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20231110BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20231110BHJP
A01N 59/06 20060101ALI20231110BHJP
A01N 37/02 20060101ALI20231110BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20231110BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20231110BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20231110BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
A01N59/20
A01P3/00
A01P1/00
A01N59/16 Z
A01N59/06 Z
A01N37/02
C09D5/14
C09D201/00
C09D7/63
B32B9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023138804
(22)【出願日】2023-08-29
(62)【分割の表示】P 2023501483の分割
【原出願日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2021099353
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】宇治川 麻里
(72)【発明者】
【氏名】伊東 聡子
(72)【発明者】
【氏名】中野 宏明
(57)【要約】
【課題】抗菌抗ウイルス活性を有し、適用対象の外観への影響が低減された抗菌抗ウイルス剤を提供する。
【解決手段】脂肪酸金属塩および/又は金属錯体である抗菌抗ウイルス剤であって、前記脂肪酸金属塩と前記金属錯体の金属が、それぞれ独立に、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、アンチモン、銅、銀、亜鉛、モリブデン、バナジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、バリウム、ビスマス、鉛、金、白金又はレアアースである抗菌抗ウイルス剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸金属塩、ヘテロ原子含有配位子と金属イオンとの金属錯体、およびヘテロ原子含有配位子と脂肪酸金属塩との金属錯体からなる群から選択される1種以上である抗菌抗ウイルス剤であって、
前記脂肪酸金属塩の金属、前記ヘテロ原子含有化合物配位子と金属イオンとの金属錯体の金属、および前記ヘテロ原子含有化合物配位子と脂肪酸金属塩との金属錯体の金属が、それぞれ独立に、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、アンチモン、銅、銀、亜鉛、モリブデン、バナジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、バリウム、ビスマス、鉛、金、白金、又はレアアースである抗菌抗ウイルス剤。
【請求項2】
前記脂肪酸金属塩の金属、前記ヘテロ原子含有化合物配位子と金属イオンとの金属錯体の金属、および前記ヘテロ原子含有化合物配位子と脂肪酸金属塩との金属錯体の金属が、それぞれ独立に、ビスマス、ネオジム、マグネシウム、コバルト、銅、銀、亜鉛、鉛、イットリウム、ランタン、プラセオジム、サマリウム、ガドリニウムである請求項1に記載の抗菌抗ウイルス剤。
【請求項3】
前記脂肪酸金属塩が、炭素原子数1~22の脂肪酸の金属塩である請求項1又は2に記載の抗菌抗ウイルス剤。
【請求項4】
前記脂肪酸金属塩が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、2-エチル酪酸、ヘプタン酸、オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、イソノナン酸、ネオデカン酸、ナフテン酸、ステアリン酸又はオレイン酸の金属塩である請求項1~3のいずれかに記載の抗菌抗ウイルス剤。
【請求項5】
前記ヘテロ原子含有配位子が、ピコリン酸、2-{[(2-ジメチルアミノ)エチル]メチルアミノ}エタノール、1,2-プロパンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、1,4-ジエチルイミダゾール、8-キノリノール、5-クロロ-8-キノリノール、2,2’-ビピリジルおよびその誘導体、並びに2,2’-[プロパン-1,2-ジイルビス(アザニリリデンメタニリリデン)]ジフェノールおよびその誘導体から選択される1種以上のアミン配位子である請求項1~4のいずれかに記載の抗菌抗ウイルス剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の抗菌抗ウイルス剤と、バインダー樹脂とを含有する抗菌抗ウイルス性コーティング組成物。
【請求項7】
前記バインダー樹脂が、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、ウレタン尿素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合樹脂およびアクリロニトリル/ブタジエン共重合樹脂からなる群から選択される1種以上である請求項6に記載の抗菌抗ウイルス性コーティング組成物。
【請求項8】
前記抗菌抗ウイルス剤由来の金属を樹脂固形分100質量部に対して0.01~30質量部の範囲で含有する請求項6又は7に記載の抗菌抗ウイルス性コーティング組成物。
【請求項9】
請求項6~8のいずれかに記載の抗菌抗ウイルス性コーティング組成物のコーティング層および基材を有する積層体。
【請求項10】
前記コーティング層が透明である請求項9に記載の積層体。
【請求項11】
請求項1~5のいずれかに記載の抗菌抗ウイルス剤および樹脂を含有する抗菌抗ウイルス性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の抗菌抗ウイルス性樹脂組成物を成形した成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌抗ウイルス剤、抗菌抗ウイルス性コーティング組成物、積層体、抗菌抗ウイルス性樹脂組成物および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症の拡大によって、衛生に対する人々の意識が急速に高まっている。生活用品においても、病原菌やウイルスへの感染の可能性を低減する「抗菌抗ウイルス」へのニーズが世界的に拡大している。例えばスマートフォンの外装、スマートフォンのタッチパネル、手すり、ドアノブ、洗面台、エレベーターボタンなどの各種プッシュボタン、公共交通機関の内装等の表面は、一日の中で複数回の利用が想定されるため、抗菌抗ウイルスへの対応が強く求められている。
【0003】
抗菌抗ウイルス剤としては、光触媒系(TiO2等)と金属系(Ag等)が知られており(例えば特許文献1)、これら金属単体又は金属化合物を適用対象に直接塗布したり、バインダー樹脂に混合してコーティング組成物とし、当該組成物を適用対象に塗布して用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の抗菌抗ウイルス剤である無機金属化合物を適用対象に直接塗布した場合、適用対象の色合いが変わってしまうほか、適用対象の触感がザラザラとした触感になってしまう問題がある。また、無機金属化合物とバインダー樹脂のコーティング組成物とした場合であっても、当該コーティング組成物から得られるコーティング層は、無機金属化合物によって色が濁ってしまうほか、バインダー樹脂が透明樹脂のときにはその透明性が損なわれてしまう問題があった。加えて、無機金属化合物を含有する組成物では、無機化合物は一般に粉体であるために分散化処理が必要で生産性の観点の問題もある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、樹脂に対する高い相溶性と抗菌抗ウイルス活性を有し、適用対象の外観への影響が低減された抗菌抗ウイルス剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、抗菌抗ウイルス剤を脂肪酸金属塩または金属錯体の形態とすることで適用対象の外観への影響を低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、脂肪酸金属塩、ヘテロ原子含有配位子と金属イオンとの金属錯体、およびヘテロ原子含有配位子と脂肪酸金属塩との金属錯体からなる群から選択される1種以上である抗菌抗ウイルス剤であって、前記脂肪酸金属塩、前記ヘテロ原子含有化合物配位子と金属イオンとの金属錯体、および前記ヘテロ原子含有化合物配位子と脂肪酸金属塩との金属錯体の金属が、それぞれ独立に、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、アンチモン、銅、銀、亜鉛、モリブデン、バナジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、バリウム、ビスマス、鉛、金、白金又はレアアースである抗菌抗ウイルス剤に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、樹脂に対する高い相溶性と抗菌抗ウイルス活性を有し、適用対象の外観への影響が低減された抗菌抗ウイルス剤が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0011】
[抗菌抗ウイルス剤]
本発明の抗菌抗ウイルス剤は、脂肪酸金属塩、ヘテロ原子含有配位子と金属イオンとの金属錯体、およびヘテロ原子含有配位子と脂肪酸金属塩との金属錯体からなる群から選択される1種以上であって、前記脂肪酸金属塩、前記ヘテロ原子含有化合物配位子と金属イオンとの金属錯体、および前記ヘテロ原子含有化合物配位子と脂肪酸金属塩との金属錯体中の金属が、それぞれ独立に、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、アンチモン、銅、銀、亜鉛、モリブデン、バナジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、バリウム、ビスマス、鉛、金、白金又はレアアースである。
【0012】
本発明の抗菌抗ウイルス剤は、脂肪酸金属塩または金属錯体の形態を取り、金属が有する抗菌抗ウイルス性と、脂肪酸または錯体配位子が有する有機物への高い相溶性によって、バインダー樹脂を含有するコーティング組成物に添加した場合に、得らえるコーティング層に抗菌抗ウイルス性を付与すると同時に、抗菌抗ウイルス剤によってコーティング層の透明性が損なわれるといった外観への影響を低減することができると考えられる。
【0013】
本発明において「抗菌」とは、菌の数を減少させる効果、菌を不活化させる効果、菌の感染性を低減させる効果等を包含する意味である。同様に、本発明において「抗ウイルス」とは、ウイルスの数を減少させる効果、ウイルスを不活化させる効果、ウイルスの感染性を低減させる効果等を包含する意味である。
【0014】
本発明において抗菌の対象となる菌は特に限定されず、細菌および真菌のいずれでもよい。細菌としては、大腸菌、緑膿菌、サルモネラ菌、モラクセラ菌、レジオネラ菌等のグラム陰性菌;黄色ブドウ球菌、クロストリジウム属細菌等のグラム陽性菌等が挙げられる。真菌としては、カンジダ菌、ロドトルラ、パン酵母等の酵母類;赤カビ、黒カビ等のカビ類が挙げられる。
【0015】
本発明において抗ウイルスの対象となるウイルスは特に限定されず、公知のエンベロープウイルス(エンベロープを有するウイルス)およびノンエンベロープウイルス(エンベロープを有さないウイルス)のいずれでもよい。
【0016】
上記エンベロープウイルスとしては、例えば、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、風疹ウイルス、エボラウイルス、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、ヘルペスウイルス、ムンプスウイルス、アルボウイルス、RSウイルス、SARSウイルス、肝炎ウイルス(例えば、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス等)、黄熱ウイルス、エイズウイルス、狂犬病ウイルス、ハンタウイルス、デングウイルス、ニパウイルス、リッサウイルス等が挙げられる。
【0017】
上記ノンエンベロープウイルスとしては、例えば、アデノウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、ヒトパピローマウイルス、ポリオウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、ヒトパルボウイルス、脳心筋炎ウイルス、ポリオーマウイルス、BKウイルス、ライノウイルス、ネコカリシウイルス等が挙げられる。
【0018】
以下、本発明の抗菌抗ウイルス剤について説明する。
【0019】
(脂肪酸金属塩)
本発明の抗菌抗ウイルス剤である脂肪酸金属塩は例えば下記一般式(1)で表される化合物である。
【0020】
【化1】
(前記一般式(1)中、
R
1は、水素原子または炭素原子数1~21のアルキル基であり、
n1は、1~4の範囲の整数であり、
M
1は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、アンチモン、銅、銀、亜鉛、モリブデン、バナジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、バリウム、ビスマス、鉛、金、白金又はレアアースである。)
【0021】
前記一般式(1)において、n1が2以上の整数である場合、複数のR1は互いに同じでもよく、異なってもよい。
【0022】
R1の炭素原子数1~21のアルキル基は、直鎖のアルキル基でもよく、分岐のアルキル基でもよく、脂環構造を含んでもよい。
【0023】
R1の水素原子または炭素原子数1~21のアルキル基は、脂肪酸金属塩の製造に用いるR1COOHで表される炭素原子数1~22のカルボン酸からカルボキシル基(COOH)を除いたカルボン酸残基に対応する。当該カルボン酸残基としては、ギ酸残基、酢酸残基、プロピオン酸残基、ブタン酸残基、ペンタン酸残基、ヘキサン酸残基、2-エチル酪酸残基、ヘプタン酸残基、オクタン酸残基、アクリル酸残基、メタクリル酸残基、オクチル酸残基(2-エチルヘキサン酸残基)、ネオデカン酸残基、ナフテン酸残基、イソノナン酸残基、桐油酸残基、トール油脂肪酸残基、ヤシ油脂肪酸残基、大豆油脂肪酸残基、アマニ油脂肪酸残基、サフラワー油脂肪酸残基、脱水ヒマシ油脂肪酸残基、キリ油脂肪酸残基、ラウリン酸残基、ミリスチン酸残基、パルミチン酸残基、ステアリン酸残基、イソステアリン酸残基、オレイン酸残基等が挙げられる。
【0024】
R1の炭素原子数1~21のアルキル基は、後述する基材密着性の観点から、好ましくは炭素原子数1~15のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~11のアルキル基である。
R1は、好ましくはギ酸残基、酢酸残基、プロピオン酸残基、ブタン酸残基、ペンタン酸残基、ヘキサン酸残基、2-エチル酪酸残基、ヘプタン酸残基、オクタン酸残基、2-エチルヘキサン酸残基、イソノナン酸残基、ネオデカン酸残基、ナフテン酸残基、ステアリン酸残基又はオレイン酸残基である。
【0025】
M1は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、アンチモン、銅、銀、亜鉛、モリブデン、バナジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、バリウム、ビスマス、鉛、金、白金又はレアアースであり、好ましくはビスマス、ネオジム、マグネシウム、コバルト、銅、銀、亜鉛、鉛、イットリウム、ランタン、プラセオジム、サマリウム、ガドリニウムであり、より好ましくはビスマス、ネオジム、マグネシウム、コバルト、銀、銅、鉛、イットリウム、ランタン、プラセオジム、サマリウム、ガドリニウムである。
脂肪酸金属塩の金属がビスマス、ネオジム、マグネシウム、ランタン、ガドリニウム、サマリウムであれば、抗菌抗ウイルス剤の添加による着色を起きにくくすることができる。
【0026】
尚、本発明においてレアアースとは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)から選択される1種以上を意味する。
【0027】
n1はM1の金属原子のイオン価数によって決定される数値であり、例えばM1がホウ素であればn1は3となり、M1がコバルトであれば、n1は2となる。
【0028】
本発明の抗菌抗ウイルス剤である脂肪酸金属塩は、脂肪酸ホウ酸金属塩の形態も包含する。当該脂肪酸ホウ酸金属塩は例えば下記一般式(2)で表される化合物である。
【0029】
【化2】
(前記一般式(2)中、
R
2は、水素原子または炭素原子数1~21のアルキル基であり、
M
2は、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、スズ、アンチモン、銅、亜鉛、モリブデン、バナジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、バリウム、ビスマス、鉛、金、白金又はレアアースである。)
【0030】
前記一般式(2)において、R2の炭素原子数1~21のアルキル基は、前記一般式(1)のR1の炭素原子数1~21のアルキル基と同じである。同様に、前記一般式(2)において、M2の金属は、前記一般式(1)のM1の金属と同じである。
【0031】
本発明の抗菌抗ウイルス剤として脂肪酸金属塩を使用する場合、使用する脂肪酸金属塩は1種単独でもよく、互いに構造が異なる2種以上の脂肪酸金属塩を使用してもよい。
【0032】
脂肪酸金属塩は公知の方法で製造することができ、市販品を用いてもよい。
【0033】
(金属錯体)
本発明の抗菌抗ウイルス剤であるヘテロ原子含有配位子と金属イオンとの金属錯体およびヘテロ原子含有配位子と脂肪酸金属塩との金属錯体は、金属イオンまたは脂肪酸金属塩とヘテロ原子含有配位子とが配位結合で錯体を形成している化合物である。
【0034】
ヘテロ原子含有配位子が金属錯体を形成する金属イオンとしては、本発明の抗菌抗ウイルス剤として説明した脂肪酸金属塩の金属と同じ金属のイオンを使用できる。
ヘテロ原子含有配位子が金属錯体を形成する脂肪酸金属塩としては、本発明の抗菌抗ウイルス剤として説明した脂肪酸金属塩と同じものを使用できる。
【0035】
金属錯体を形成するヘテロ原子含有配位子は、窒素、酸素、硫黄およびリンからなる群より選ばれる1種以上のヘテロ原子を分子内に有する配位子であればよい。当該ヘテロ原子含有配位子としては、例えば、N-メチルモルフォリン、ピリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、4-ジメチルアミノアミン(DMAP)、ジシアンジアミド(DICY)、トリ-n-ブチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ブチルアミン、1,2-プロパンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、オクチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-[[(2-ジメチルアミノ)エチル]メチルアミノ]エタノール、ピコリン酸、2,2’-[プロパン-1,2-ジイルビス(アザニリリデンメタニリリデン)]ジフェノール、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、1,4-ジエチルイミダゾール、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、8-キノリノール、5-クロロ-8-キノリノール、2,2’-ビピリジル及びその誘導体、2,2’-[プロパン-1,2-ジイルビス(アザニリリデンメタニリリデン)]ジフェノール及びその誘導体、2,2’-メチレンビス〔6-(2h-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール〕等のアミン化合物;トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムアセテート等の四級アンモニウム塩;トリメチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物;テトラメチルホスホニウムクロライド、テトラエチルホスホニウムクロライド、テトラプロピルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムブロマイド、トリメチル(2-ヒドロキシルプロピル)ホスホニウムクロライド、トリフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルホスホニウムクロライド等のホスホニウム塩;チオ乳酸、2-アミノチオフェノール、2,2’-ジチオジアニリン等の硫黄系化合物などが挙げられる。
【0036】
ヘテロ原子含有配位子は、好ましくはピコリン酸、2-{[(2-ジメチルアミノ)エチル]メチルアミノ}エタノール、1,2-プロパンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、1,4-ジエチルイミダゾール、8-キノリノール、5-クロロ-8-キノリノール、2,2’-ビピリジルおよびその誘導体、並びに2,2’-[プロパン-1,2-ジイルビス(アザニリリデンメタニリリデン)]ジフェノールおよびその誘導体から選択される1種以上のアミン配位子である。
【0037】
金属錯体を形成するヘテロ原子含有配位子は、1種単独でもよく、互いに構造が異なる2種以上でもよい。
【0038】
金属錯体において、金属イオンまたは脂肪酸金属塩とヘテロ原子含有配位子の比(モル比)としては、金属イオンまたは脂肪酸金属塩の金属原子1モルに対して、例えばヘテロ原子含有配位子が0.1~12モルとなる範囲であり、好ましくは0.3~10モルの範囲であり、さらに好ましくは0.5~10モルの範囲である。
【0039】
金属錯体において金属イオンがアルミニウムイオンである場合、当該アルミニウム錯体は、好ましくは下記一般式(3-1)で表されるアルミニウムキレート化合物および下記一般式(3-2)で表されるアルミニウムキレート化合物化合物から選択される1種以上である。
【0040】
【化3】
(前記一般式(3-1)および(3-2)中、
R
311~R
316およびはR
321~R
326は、それぞれ独立に、炭素原子数1~22のアルキル基又は炭素原子数1~22のアルコキシ基である。)
【0041】
R311~R316およびはR321~R326の炭素原子数1~22のアルキル基および炭素原子数1~22のアルコキシ基のアルキレン基部分は、直鎖でもよく、分岐でもよく、脂環構造を含んでもよい。R311~R316およびはR321~R326のアルキル基およびアルコキシ基のアルキレン基部分の炭素原子数は、好ましくは1~9である。
【0042】
R311~R316およびはR321~R326の炭素原子数1~22のアルキル基は、好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0043】
R311~R316およびはR321~R326の炭素原子数1~22のアルコキシ基は、好ましくはメトキシ基、エトキシ基又はオレイルオキシ基である。
【0044】
アルミニウムキレート化合物の具体例としては、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビスオレイルアセトアセテート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0045】
本発明の抗菌抗ウイルス剤は、好ましくは非水溶性の抗菌抗ウイルス剤である。抗菌抗ウイルス剤が非水溶性であることで、日常の雨等の水がかかった場合であっても抗菌抗ウイルス性の持続性に優れる。
尚、本願において「非水溶性」とは、20℃で抗菌抗ウイルス剤1gを溶解させるのに必要な水の量が10ml以上であることを意味する。
【0046】
抗菌抗ウイルス剤であるヘテロ原子含有配位子と金属イオンとの金属錯体およびヘテロ原子含有配位子と脂肪酸金属塩との金属錯体は、公知の方法で製造することができ、金属単体または脂肪酸金属塩とヘテロ原子含有配位子を反応させることにより製造できる。また、当該金属錯体は市販品を用いてもよい。
【0047】
[コーティング組成物]
本発明のコーティング組成物は、本発明の抗菌抗ウイルス剤とバインダー樹脂とを含有する。
本発明の抗菌抗ウイルス剤はバインダー樹脂に対して高い相溶性を有するため、本発明の抗菌抗ウイルス剤を含有するコーティング組成物から得られるコーティング層は、抗菌抗ウイルス剤によって透明性が損なわれるといった外観への影響を低減することができる。また、本発明の抗菌抗ウイルス剤は基材との密着促進効果を示すことができ、本発明の抗菌抗ウイルス剤を含有するコーティング層は、基材との高い密着性を示すことができる。従って、基材と当該基材上に積層してなるコーティング層との積層体は、コーティング層が抗菌抗ウイルス性を示すと同時に、基材とコーティング層は高い密着性をも示すことができる。
【0048】
本発明のコーティング組成物における本発明の抗菌抗ウイルス剤の含有量は特に限定されず、例えば抗菌抗ウイルス剤由来の金属を樹脂固形分100質量部に対して0.01~30質量部の範囲で含有するとよく、好ましくは樹脂固形分100質量部に対して0.01~15質量部の範囲で含有し、より好ましくは樹脂固形分100質量部に対して0.01~10質量部の範囲で含有し、さらに好ましくは樹脂固形分100質量部に対して0.1~10質量部の範囲で含有する。
ここで「樹脂固形分」とは、コーティング組成物に含まれるバインダー樹脂等の固形分の総量を意味する。
【0049】
本発明のコーティング組成物に含まれる本発明の抗菌抗ウイルス剤は1種単独でもよく、2種以上でもよい。
【0050】
本発明のコーティング組成物に含まれるバインダー樹脂は、特に限定されず、例えばエマルジョン系樹脂、ラテックス系樹脂、熱硬化型樹脂、活性エネルギー線硬化型樹脂のいずれのタイプでも使用することができる。
【0051】
バインダー樹脂は、水性樹脂および非水溶性樹脂(溶剤系樹脂)のいずれでもよい。
尚、本願において「水溶性樹脂」とは、20℃で樹脂1gを溶解させるのに必要な水の量が10ml未満であることを意味する。「非水溶性樹脂」とは前記「水溶性樹脂」ではない樹脂をさす。
【0052】
バインダー樹脂の具体例としては、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、ウレタン尿素樹脂、アクリルウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン共重合樹脂およびアクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合(ABS)樹脂等が挙げられる。
バインダー樹脂は上記樹脂を変性したものも含み、例えばフェノール樹脂であればロジン変性フェノール樹脂も含む意味である。
【0053】
本発明のコーティング組成物に含まれるバインダー樹脂は1種単独でもよく、2種以上でもよい。
【0054】
本発明のコーティング組成物におけるバインダー樹脂の含有量は特に限定されず、例えばコーティング組成物の樹脂固形分総質量に対して10~100質量%の範囲で適宜設定するとよい。
【0055】
本発明のコーティング組成物は、本発明の抗菌抗ウイルス剤とバインダー樹脂とを含有すればよく、分散媒をさらに含有してもよい。分散媒は、コーティング組成物の粘度を調整する目的で添加されるもので、水性媒体でも油性媒体のいずれでもよい。
【0056】
分散媒の具体例としては、水、1-ブタノール、イソブタノール、1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の単官能アルコール、各種ジオール、グリセリン等の多価アルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、プロピレングリコール、1,2ブタンジオール、3-メチル-1,3ブタンジオール、1、2ペンタンジオール、2-メチル-1,3プロパンジオール、1,2ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール等のジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールAの炭素原子数2又は3のアルキレンオキサイド(平均付加モル数1以上16以下)付加物である芳香族ジオール、水素添加ビスフェノールA等の脂環式ジオールポリオキシプロピレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、シクロヘキサンジオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、エチルカルビトール、γ-ブチロラクトン、各種脂肪酸等が挙げられる。
【0057】
本発明のコーティング組成物に含まれる分散媒は1種単独でもよく、2種以上でもよい。
【0058】
本発明のコーティング組成物における分散媒の含有量は特に限定されず、例えばコーティング組成物の固形分濃度が30~80質量%の範囲となるように適宜設定するとよい。
【0059】
本発明のコーティング組成物は、可塑剤をさらに含有してもよい。
コーティング組成物に可塑剤を添加することによって、得られるコーテイング層に柔軟性を与え基材に対する追従性を向上させることができる。
【0060】
可塑剤としては、特に限定はされず、例えば、フタル酸エステル、非芳香族二塩基酸エステル、脂肪族エステル、ポリアルキレングリコールのエステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステル、塩素化パラフィン、炭化水素系油、プロセスオイル、ポリエーテル、エポキシ可塑剤類、ポリエステル系可塑剤等が挙げられ、好ましくはフタル酸エステルである。
可塑剤の具体例としては、ジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ(2-エチルヘキシル)フタレート、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケート、ジブチルセバケート、コハク酸イソデシル、トリクレジルホスフェート、トリブチルホスフェート、エポキシ化大豆油、エポキシステアリン酸ベンジル等が挙げられる。
【0061】
本発明のコーティング組成物に含まれる可塑剤は1種単独でもよく、2種以上でもよい。
【0062】
本発明のコーティング組成物における可塑剤の含有量は特に限定されず、例えばコーティング組成物の樹脂固形分100質量部に対して0.1~50質量部の範囲で適宜設定するとよい。
【0063】
本発明のコーティング組成物は、本発明の抗菌抗ウイルス剤、バインダー樹脂、並びに任意に分散媒および/または可塑剤を含有すれすればよく、本発明の効果を損なわない範囲でその他添加剤を含有してもよい。当該その他添加剤としては、顔料、艶消し剤、硬化剤、硬化促進剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、増粘剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、帯電防止剤、滑剤、防腐剤等が挙げられる。
【0064】
本発明のコーティング組成物を基材表面に塗工し、得られた塗膜に対してバインダー樹脂に適した硬化方法(熱硬化、活性エネルギー線硬化など)を適用することでコーティング層を形成することができる。
【0065】
コーティング組成物の塗工方法については、公知公用の塗工方法であればいずれの方法も使用でき、例えば、ロールコーター、静電塗装、バーコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、デイッピング塗布、スプレー塗布等の方法が挙げられる。
【0066】
塗工対象である基材は特に限定されず、例えば、紙、合成紙、鋼板、アルミ箔、ガラス、木材、織布、編布、不織布、石膏ボード、木質ボード、樹脂基材等が挙げられる。
【0067】
上記樹脂基材の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリエチレンフィルム(LLDPE:低密度ポリエチレンフィルム、HDPE:高密度ポリエチレンフィルム)、ポリプロピレンフィルム(CPP:無延伸ポリプロピレンフィルム、OPP:二軸延伸ポリプロピレンフィルム)、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、エポキシ樹脂フィルム、メラミン樹脂フィルム、トリアセチルセルロース樹脂フィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ABS樹脂フィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、ポリフッ化ビニル樹脂フィルム、ポリフッ化ビニリデン樹脂フィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム等が挙げられる。
使用する樹脂基材は、コロナ処理などの表面処理を施してもよい。
【0068】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は本発明の抗菌抗ウイルス剤と樹脂とを含有する。
本発明の抗菌抗ウイルス剤を含有する樹脂組成物はコーティング用途だけでなく、そのものを成形することによって抗菌抗ウイルス性を示す成形体とすることができる。
【0069】
本発明の樹脂組成物が含有する樹脂は、本発明のコーティング組成物が含有するバインダー樹脂と同じものを使用できる。また、本発明の樹脂組成物は、本発明のコーティング組成物が含有可能な成分と同じものを含有することができる。
【0070】
本発明の樹脂組成物の成形方法は、使用する樹脂に適した成形方法を採用すればよく、射出成形、押出成形、加圧成形(プレス成形)、圧空成形や真空成形等の溶融成形法やキャスト法が挙げられる。
【0071】
本発明のコーティング組成物を用いて得られるコーティング層および本発明の樹脂組成物を用いて得られる成形体は、抗菌抗ウイルス活性を有する材として人間の手が触れる箇所に好適に用いることができる。適用用途としては、スマートフォン外装、パソコン外装、タッチパネル、手すり、ドアノブ、洗面台、エレベーターボタン等のプッシュボタン、室内内装品(壁紙、フローリングなど)、各種包装材、各種繊維製品、医療装備品(医療用手袋、医療用眼鏡など)等の、幅広い用途に利用可能である。
【実施例0072】
以下、実施例と比較例とにより、本発明を具体的に説明する。
尚、本発明は下記実施例に限定されない。
【0073】
(合成例1:脂肪酸金属塩(Cu)の調製)
ネオデカン酸217.1質量部と水酸化ナトリウム36.0質量部を80℃で反応させ、更に硫酸銅100.0質量部を加え80℃で反応させた。副生する硫酸ナトリウムを水洗後、130℃で減圧脱水し石油系炭化水素76.2質量部を加えてネオデカン酸銅溶液(脂肪酸金属塩(Cu))301.6質量部を得た。得られた脂肪酸金属塩(Cu)中の銅含有量は8質量%であった。
【0074】
(合成例2:脂肪酸金属塩(Co)の調製)
2-エチルヘキサン酸319.0質量部と水酸化コバルト100.0質量部を130℃で反応し、130℃で減圧脱水後、石油系炭化水素134.2質量部を加えて2-エチルヘキサン酸コバルト溶液(脂肪酸金属塩(Co))502.3質量部を得た。得られた脂肪酸金属塩(Co)中のコバルト含有量は12質量%であった。
【0075】
(合成例3:脂肪酸金属塩(Nd)の調製)
ネオデカン酸224.8質量部と酸化ネオジム60.0質量部を130℃で反応し、130℃で減圧脱水後、シクロヘキサン306.9質量部を加えてネオデカン酸ネオジム溶液(脂肪酸金属塩(Nd))570.0質量部を得た。得られた脂肪酸金属塩(Nd)中のネオジム含有量は8.8質量%であった。
【0076】
(合成例4:脂肪酸金属塩(Bi)の調製)
2-エチルヘキサン酸330.6質量部と酸化ビスマス125.0質量部を130℃で反応し、130℃で減圧脱水後、2-エチルヘキサン酸ビスマス溶液(脂肪酸金属塩(Bi))439.5質量部を得た。得られた脂肪酸金属塩(Bi)中のビスマス含有量は25質量%であった。
【0077】
(合成例5:脂肪酸金属塩(Mg)の調製)
2-エチルヘキサン酸461.4質量部と水酸化マグネシウム71.9質量部、石油系炭化水素411.4質量部を110℃で反応させ、90℃で減圧脱水後、ブチルジグリコール35.9質量部を加えて2-エチルヘキサン酸マグネシウム溶液(脂肪酸金属塩(Mg))1000質量部を得た。得られた脂肪酸金属塩(Mg)中のマグネシウム含有量は3.0質量%であった。
【0078】
(合成例6:脂肪酸金属塩(La)の調製)
ネオデカン酸83.1質量部と酸化ランタン21.5質量部を130℃で反応し、130℃で減圧脱水後、シクロヘキサン107.6質量部を加えてネオデカン酸ランタン溶液(脂肪酸金属塩(La))208.5質量部を得た。得られた脂肪酸金属塩(La)中のランタン含有量は8.8質量%であった。
【0079】
(合成例7:脂肪酸金属塩(Pr)の調製)
ネオデカン酸166.6質量部と酸化プラセオジム45.0質量部を130℃で反応し、130℃で減圧脱水後、シクロヘキサン220.0質量部を加えてネオデカン酸プラセオジム溶液(脂肪酸金属塩(Pr))422.0質量部を得た。得られた脂肪酸金属塩(Pr)中のプラセオジム含有量は8.8質量%であった。
【0080】
(合成例8:脂肪酸金属塩(Sm)の調製)
ネオデカン酸137.1質量部と酸化サマリウム37.6質量部を130℃で反応し、130℃で減圧脱水後、シクロヘキサン196.3質量部を加えてネオデカン酸サマリウム溶液(脂肪酸金属塩(Sm))364.7質量部を得た。得られた脂肪酸金属塩(Sm)中のサマリウム含有量は8.8質量%であった。
【0081】
(合成例9:脂肪酸金属塩(Gd)の調製)
ネオデカン酸149.3質量部と酸化ガドリニウム43.0質量部を130℃で反応し、130℃で減圧脱水後、シクロヘキサン230.2質量部を加えてネオデカン酸ガドリニウム溶液(脂肪酸金属塩(Gd))415.1質量部を得た。得られた脂肪酸金属塩(Gd)中のガドリニウム含有量は8.8質量%であった。
【0082】
(合成例10:脂肪酸金属塩(Nd2)の調製)
2-エチルヘキサン酸192.8質量部と酸化ネオジム60.0質量部を130℃で反応し、130℃で減圧脱水後、シクロヘキサン338.5質量部を加えて2-エチルヘキサン酸ネオジム溶液(脂肪酸金属塩(Nd2))581.6質量部を得た。得られた脂肪酸金属塩(Nd2)中のネオジム含有量は8.8質量%であった。
【0083】
(合成例11:金属錯体(Mn)の調製)
ネオデカン酸マンガン溶液(Mn:6.5質量%)291質量部とベンジルアルコール1235質量部の溶液に8-ヒドロキシキノリン50質量部を加え50℃で1時間反応し、ネオデカン酸マンガンと8-ヒドロキシキノリンの錯体溶液(金属錯体(Mn))1576質量部を得た。得られた金属錯体(Mn)中のマンガン含有量は、1.2質量%であった。
【0084】
上記の他、2-エチルヘキサン酸イットリウムである脂肪酸金属塩(Y)、2-エチルヘキサン酸鉛である脂肪酸金属塩(Pb)および2-エチルヘキサン酸銀である脂肪酸金属塩(Ag)の市販品をそれぞれ準備した(2-エチルヘキサン酸イットリウムは富士フイルム和光純薬株式会社製、2-エチルヘキサン酸鉛はDIC株式会社製、2-エチルヘキサン酸銀は富士フイルム和光純薬株式会社製。)。
【0085】
(実施例1-13および比較例1-2:ウレタン尿素樹脂コーティング基材の製造)
ウレタン尿素樹脂(DIC株式会社製「バーノックEPL-925」)に、表1および2に示す抗菌抗ウイルス剤を抗菌抗ウイルス剤の金属量が前記ウレタン尿素樹脂の固形分の1質量%になるようにそれぞれ混合し、コーティング組成物をそれぞれ調製した。比較例1では抗菌抗ウイルス剤を添加せず、比較例2では実施例1の脂肪酸金属塩(Cu)の添加した固形分量(NV.51質量%)と同量の銀無機化合物(ノバロンIV1000(東亞合成株式会社製))を添加して、コーティング組成物をそれぞれ調製した。
調製したコーティング組成物をアプリケーターを用いてガラス基材上にwet膜厚152μmとなるように塗布した後、得られたコーティング基材を室温で12時間乾燥後、さらに80℃で60分間乾燥させ、ウレタン尿素樹脂コーティング層とガラス基材からなるウレタン尿素樹脂コーティング基材を製造した。
【0086】
(実施例14-16および比較例3:水性アクリル樹脂コーティング基材の製造)
水性アクリル樹脂(DIC株式会社製「ボンコートCG-6150」)に、表3に示す抗菌抗ウイルス剤を抗菌抗ウイルス剤の金属量が前記水性アクリル樹脂の固形分の1質量%になるようにそれぞれ配合し、コーティング組成物をそれぞれ調製した。調製したコーティング組成物をアプリケーターを用いてガラス基材上にwet膜厚152μmとなるように塗布した後、得られたコーティング基材を室温で12時間乾燥後、さらに80℃で60分間乾燥させ、水性アクリル樹脂コーティング層とガラス基材からなる水性アクリル樹脂コーティング基材を製造した。
【0087】
(実施例17および比較例4:ウレタンアクリレート樹脂コーティング基材の製造)
ウレタンアクリレート樹脂(DIC株式会社製「ルクシディア17-806」)に表4に示す抗菌抗ウイルス剤を抗菌抗ウイルス剤の金属量が前記ウレタンアクリレート樹脂の固形分の1質量%になるように配合し、さらに樹脂固形分の5質量%になるように光開始剤イルガキュア184を配合し、溶媒で希釈してコーティング組成物をそれぞれ調製した。調製したコーティング組成物をバーコーターを用いてガラス基材上にwet膜厚30μmとなるように塗布した後、得られたコーティング基材を60℃で5分間乾燥させ、窒素雰囲気下で照射線量200mJ/cm2で硬化して、ウレタンアクリレート樹脂コーティング層とガラス基材からなるコーティング基材を製造した。
【0088】
製造したコーティング基材について、比較例1、3、4を実質的に抗菌抗ウイルス剤を含まないブランク試験片、実施例1-17および比較例2を抗菌抗ウイルスコーティング試験片とし、以下の抗ウイルス性試験および抗菌性試験を行った。結果を表1-4に示す。
【0089】
(抗ウイルス性試験)
抗ウイルス性評価は、JIS R 1706:2020のフィルム密着法を参考に、バクテリオファージQβを対象に行った。
ブランク試験片表面と抗菌抗ウイルスコーティング試験片表面へのウイルス接種作用条件は暗所25℃で4時間とした。ブランク試験片と抗菌抗ウイルスコーティング試験片における4時間反応後のバクテリオファージQβ感染価より、以下の計算式を用いて抗ウイルス活性値を算出した。結果を表1に示す。抗ウイルス活性値は2.0以上であれば、抗ウイルス効果があると評価する。
V=Log(A/B)=Log(A)-Log(B)
V:抗ウイルス活性値
Log(A):ブランク試験片の4時間反応後の感染価の常用対数値
Log(B):抗菌抗ウイルスコーティング試験片の4時間反応後の感染価の常用対数値
【0090】
(抗菌性試験)
抗菌性評価はサンアイバイオチェッカーFC(三愛石油株式会社製)を用いて行った。予め室温で1週間放置した井戸水をサンバイオチェッカーの培地面に滴下し、コーティング基材のコーティング層と接触させマスキングテープで固定した。この試料を30℃で2日間培養し、いずれかの培地にコロニーが形成されたものを×、いずれの培地にもコロニーが形成されなかったものを○とした。
【0091】
(透明性試験)
製造したコーティング基材のコーティング層の透明性を目視で確認し、以下の基準で評価した。
○:濁りが確認されない
×:濁りが確認される
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
表1-4において、比較例1、3および4ではコーティング層は抗菌抗ウイルス剤を含んでおらず(コーティング層はバインダー樹脂のみからなる)、これらと比較して本願実施例1-17では本発明の抗菌抗ウイルス剤を添加することによって、透明性が損なわれることなく抗菌性が得られていることが分かった。
比較例2の抗菌抗ウイルス剤は、銀無機化合物のノバロンIV1000(東亞合成株式会社製)であり、比較例2の抗菌抗ウイルス剤は無機化合物であるためにウレタン尿素樹脂とは相溶せず、抗菌抗ウイルス剤を分散させるために組成物調製にディスパーを使用した。比較例2では得られたコーティング層に白濁が確認され、コーティング層の透明性が損なわれていることが分かった。
【0097】
(実施例18-19および比較例5:印刷物の製造)
ウレタン尿素樹脂15.0g、白インキミルベース30.0gおよび混合有機溶剤(EtAc/IPA=60/40(質量比))36.0gのベース塗料に、表5に示す抗菌抗ウイルス剤を抗菌抗ウイルス剤の金属量がベース塗料の固形分の0.5質量%となるように添加して、塗料組成物を調製した。
調製した塗料組成物を版深35μmグラビア版を備えたグラビア校正機により、コロナ処理二軸延伸ポリプロピレンフィルム(以下OPPフィルム)に印刷して45℃で乾燥し、印刷物を得た。得られた印刷物について以下の評価を行った。
【0098】
(密着性評価)
製造した印刷物を1日放置後、印刷面にセロハンテープを貼り付け、これを急速に剥がしたときの印刷皮膜の外観の状態を以下の基準で目視判定した。
A:印刷皮膜が全く剥がれなかった。
B:印刷皮膜の50~80%がフィルムに残った。
C:印刷皮膜の50%以下がフィルムに残った。
【0099】
【0100】
表5の結果から、本発明の抗菌抗ウイルス剤を添加することによって、コーティング層の基材との密着性が向上していることが分かる。