(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165713
(43)【公開日】2023-11-17
(54)【発明の名称】反応性付与化合物、反応性付与化合物の製造方法、および積層体
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20231110BHJP
【FI】
C07F7/18 U CSP
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023139995
(22)【出願日】2023-08-30
(62)【分割の表示】P 2022560788の分割
【原出願日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2020185196
(32)【優先日】2020-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021145578
(32)【優先日】2021-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】村岡 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】長牛 和樹
(72)【発明者】
【氏名】桑 静
(57)【要約】
【課題】基材の光劣化を抑制し、かつ、高い密着性が得られる反応性付与化合物、反応性付与化合物の製造方法、および積層体を提供する。
【解決手段】この反応性付与化合物は、1分子内に、下記式(1)で表されるシランカップリング部位と、ジアジリン基と、を備え、前記シランカップリング部位の数が2であるか、または、前記ジアジリン基の数が2である。
[化1]
[式(1)中の*は、隣接する炭素原子を表し、R
1、R
2およびR
3は、水素原子またはアルキル基を表し、R
1、R
2およびR
3は同一であっても異なっていてもよい。]
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子内に、下記式(1)で表されるシランカップリング部位と、
ジアジリン基と、を備え、前記シランカップリング部位の数が2であるか、または、前記ジアジリン基の数が2である、反応性付与化合物。
【化1】
[式(1)中の*は、隣接する炭素原子を表し、R
1、R
2およびR
3は、水素原子またはアルキル基を表し、R
1、R
2およびR
3は同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項2】
トリハロゲン化されたトリアジン環を備える化合物と、水酸基およびジアジリン基を備える化合物と、を反応させて、ジアジリン基を1つ以上付与されたジアジリン基付与化合物を得る、ジアジリン基付与工程と、
前記ジアジリン基付与化合物と、アミノ基および下記式(6)で表されるシランカップリング部位とを備える化合物と、を反応させるシランカップリング部位付与工程と、を
備える、反応性付与化合物の製造方法。
【化2】
[式(6)中の*は隣接する炭素原子を表し、R
1、R
2およびR
3は、水素原子またはアルキル基を表し、R
1、R
2およびR
3は同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項3】
前記ジアジリン基付与工程において、前記ジアジリン基を2つ付与する、請求項2に記載の反応性付与化合物の製造方法。
【請求項4】
下記式(18)の化合物と、3-アミノプロピルトリエトキシシランと、を反応させることで、下記式(4)の化合物を得る、請求項2または3に記載の反応性付与化合物の製造方法。
【化3】
【化4】
【請求項5】
下記式(20)の化合物と、3-アミノプロピルトリエトキシシランと、を反応させることで、下記式(13)の化合物を得る、請求項2または3に記載の反応性付与化合物の製造方法。
【化5】
【化6】
【請求項6】
前記ジアジリン基付与工程において、前記ジアジリン基を1つ付与する、請求項2に記載の反応性付与化合物の製造方法。
【請求項7】
下記式(15)の化合物と、3-アミノプロピルトリエトキシシランと、を反応させることで、下記式(12)の化合物を得る、請求項2または6に記載の反応性付与化合物の製造方法。
【化7】
【化8】
【請求項8】
下記式(17)の化合物と、3-アミノプロピルトリエトキシシランと、を反応させることで、下記式(14)の化合物を得る、請求項2または6に記載の反応性付与化合物の製造方法。
【化9】
【化10】
【請求項9】
第1基材と、
前記第1基材上に設けられ、請求項1に記載の反応性付与化合物から構成される、反応性付与化合物層と、
前記反応性付与化合物層上に設けられる、第2基材と、
を備える、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性付与化合物、反応性付与化合物の製造方法、および積層体に関する。
本願は、2020年11月5日に、日本に出願された特願2020-185196号、および2021年9月7日に、日本に出願された特願2021-145578号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
異なる材料が接合された複合材料、例えば、無機基材または高分子基材上に、金属膜が形成された積層体は、携帯電話の回路基板や車両の部材などに用いられている。
【0003】
積層体において、材料間の密着性が低いと材料間で剥離が生じてしまう。そのため、積層体において、密着性の向上は重要な特性である。材料間の密着性を向上する技術としては、例えば、基材の表面に凹凸を形成する技術がある。基材の表面の凹凸に金属膜の一部が入り込むことで、アンカー効果が発揮され密着性が向上する。
【0004】
しかし、例えば、回路基板用の基材の表面に凹凸があると、信号の伝達距離が長くなり、伝達ロスが発生する。そのため、回路基板用途では、基材の表面に凹凸を形成する技術を用いることは困難である。
【0005】
表面に凹凸を形成せずに、密着力を向上する技術としては、コロナ放電処理によって、基板上に水酸基を導入する技術がある。しかし、コロナ放電処理では、基材が劣化する可能性があり、また、導入される水酸基も少ないので、密着性向上には限界があった。
【0006】
表面に凹凸を形成せずに、密着力を向上する技術としては、他に、基材の表面に反応性を付与できる化合物と、基材の表面と、を反応させる技術がある。例えば、高分子材料と、ガラスや金属等の積層体の性能向上のために有機官能性シラン化合物が開発されている。この方法はカップリング剤、すなわち二官能性分子を用いるもので、高分子材料と接合対象(例えば金属)の双方に反応し、共有結合を形成するものである。具体的に言えば、シランカップリング剤は有機官能性シランモノマー類であり、二元反応性を持っているものである。この特性は分子の一端にある官能基が加水分解し、シラノールを形成、次いでガラス等上の類似官能基や、金属酸化物上のOH基との縮合などにより結合することを可能としている。シラン分子の他端にはアミノ基やメルカプト基など有機物と反応可能である官能基が存在する。このようにシランカップリング剤は有機物とその他材料を共有結合で結合させる分子として非常に有用なものとして知られている。
【0007】
特許文献1には、金属膜の形成方法であって、基体表面に特定化合物を含む剤が設けられる工程と、化合物の表面に、湿式めっきの手法により、金属膜が設けられる工程とを具備してなり、化合物は、一分子内に、OH基またはOH生成基と、アジド基と、トリアジン環とを有する化合物であり、前記基体はポリマーが用いられて構成されてなることを特徴とする金属膜形成方法が開示されている。アジド基を備える分子に紫外光を照射し、アジド基からナイトレンを生成し、生成したナイトレンと基材表面とが反応することで、高い密着性を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1の技術よりも現在、高い密着性が得られる方法が求められている。また、特許文献1の技術では、アジド基を備える分子に短波長の紫外光を照射するため、基材が劣化し、密着性が低下するという問題があった。
【0010】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、基材の光劣化を抑制し、かつ、高い密着性が得られる反応性付与化合物、反応性付与化合物の製造方法、および積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
<1> 本発明の一実施形態に係る反応性付与化合物は、1分子内に、下記式(1)で表されるシランカップリング部位と、ジアジリン基と、を備える。
【化1】
[式(1)中の*は、隣接する炭素原子を表し、R
1、R
2およびR
3は、水素原子またはアルキル基を表し、R
1、R
2およびR
3は同一であっても異なっていてもよい。]
<2> 上記<1>に記載の反応性付与化合物は、下記式(2)で表される化合物であってもよい。
【化2】
【化3】
【化4】
[式(2)中のXは、トリアジン環またはベンゼン環を表し、Z
1、Z
2およびZ
3は、O、NH、S、またはCH
2のいずれかを表し、m1、m2、m3は1~10の整数を表し、Y
1、Y
2およびY
3は、前記シランカップリング部位、または、上記式(3)若しくは(11)で表されるジアジリン基であり、Y
1、Y
2およびY
3の少なくとも1つは、前記シランカップリング部位であり、Y
1、Y
2およびY
3の少なくとも1つは、前記ジアジリン基であり、上記式(3)中の*は隣接する炭素原子を表し、R
4は任意の官能基であり、上記式(11)中の*は隣接する炭素原子を表し、R
5は任意の官能基であり、Aは、アリーレン基または2価の複素環基である。]
<3> <2>に記載の反応性付与化合物は、前記Xがトリアジン環であってもよい。
<4> 上記<2>または<3>の反応性付与化合物は、前記Z
1、Z
2およびZ
3がNHまたはOであってもよい。
<5> 上記<4>に記載の反応性付与化合物は、下記式(4)で表される化合物であってもよい。
【化5】
<6> 上記<4>に記載の反応性付与化合物は、下記式(12)で表される化合物であってもよい。
【化6】
<7> 上記<4>に記載の反応性付与化合物は、下記式(13)で表される化合物であってもよい。
【化7】
<8> 上記<4>に記載の反応性付与化合物は、下記式(14)で表される化合物であってもよい。
【化8】
<9> 本発明の一実施形態に係る反応性付与化合物の製造方法は、トリハロゲン化されたトリアジン環を備える化合物と、水酸基およびジアジリン基を備える化合物と、を反応させて、ジアジリン基を1つ以上付与されたジアジリン基付与化合物を得る、ジアジリン基付与工程と、前記ジアジリン基付与化合物と、アミノ基および下記式(6)で表されるシランカップリング部位とを備える化合物と、を反応させるシランカップリング部位付与工程と、を備える。
【化9】
[式(6)中の*は隣接する炭素原子を表し、R
1、R
2およびR
3は、水素原子またはアルキル基を表し、R
1、R
2およびR
3は同一であっても異なっていてもよい。]
<10> <9>に記載の反応性付与化合物の製造方法は、前記ジアジリン基付与工程において、前記ジアジリン基を2つ付与してもよい。
<11> <9>または<10>に記載の反応性付与化合物の製造方法は、下記式(18)の化合物と、3-アミノプロピルトリエトキシシランと、を反応させることで、下記式(4)の化合物を得てもよい。
【化10】
【化11】
<12> 上記<9>または<10>に記載の反応性付与化合物の製造方法は、下記式(20)の化合物と、3-アミノプロピルトリエトキシシランと、を反応させることで、下記式(13)の化合物を得てもよい。
【化12】
【化13】
<13> <9>に記載の反応性付与化合物の製造方法は、前記ジアジリン基付与工程において、前記ジアジリン基を1つ付与してもよい。
<14> <9>または<13>に記載の反応性付与化合物の製造方法は、下記式(15)の化合物と、3-アミノプロピルトリエトキシシランと、を反応させることで、下記式(12)の化合物を得てもよい。
【化14】
【化15】
<15> 上記<9>または<13>に記載の反応性付与化合物の製造方法は、下記式(17)の化合物と、3-アミノプロピルトリエトキシシランと、を反応させることで、下記式(14)の化合物を得てもよい。
【化16】
【化17】
<16> 本発明の一態様に係る積層体は、第1基材と、前記第1基材上に設けられ、上記<1>~<8>のいずれか1つに記載の反応性付与化合物から構成される、反応性付与化合物層と、前記反応性付与化合物層上に設けられる、第2基材と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記態様によれば、基材の光劣化を抑制し、かつ、高い密着性が得られる反応性付与化合物、反応性付与化合物の製造方法、および積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例に係る反応性付与化合物を用いた積層体の断面模式図である。
【
図2】本発明の実施例に係る反応性付与化合物の推定光吸収スペクトルである。
【
図3】本発明の比較例に係る反応性付与化合物の光吸収スペクトルである。
【
図4】本発明の実施例1に係る反応性付与化合物の光吸収スペクトルである。
【
図5】本発明の実施例2に係る反応性付与化合物の光吸収スペクトルである。
【
図6】参考例1に係る反応性付与化合物に光照射をした際の光吸収スペクトルの変化を示す図である。
【
図7】参考例2に係る反応性付与化合物に光照射をした際の光吸収スペクトルの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る反応性付与化合物について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0015】
(反応性付与化合物)
本実施形態に係る反応性付与化合物は、1分子内に、下記式(1)で表されるシランカップリング部位と、ジアジリン基と、を備える。下記式(1)中の*は、隣接する炭素原子を表す。
【0016】
【0017】
本実施形態に係る反応性付与化合物は、シランカップリング部位を1以上備える。シランカップリング部位は、加水分解によりシラノール基を生じる部位である。生じたシラノール基は、積層体中の金属層の金属と反応し、密着性を改善する。即ち、本実施形態に係る反応性付与化合物を基材表面に吸着、シラノール基を生じさせることで、金属層との密着性が改善される。金属層との密着性は、反応性付与化合物中のシランカップリング部位が多いほど改善される。金属層との密着性が低い場合は、シランカップリング部位の数を増やすことが好ましい。
【0018】
上記式(1)中のシランカップリング部位のR1、R2およびR3は、水素原子またはアルキル基を表す。R1、R2およびR3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R1、R2およびR3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等があげられる。R1、R2およびR3のアルキル基としては、好ましくはメチル基、エチル基である。
【0019】
本実施形態に係る反応性付与化合物は、ジアジリン基を1以上備える。ジアジリン基は化学的に安定で、長波長側紫外線を照射することで、カルベンが生じる。カルベンは反応性が高く、カルベン近傍の分子と共有結合を形成することができる。そのため、本実施形態に係る反応性付与化合物を基材表面に塗布した後、または反応性付与化合物の溶液に基材を浸漬することで、基材表面に反応性付与化合物を吸着させた後、光を照射することで、基材と反応性付与化合物との間に共有結合を形成することができる。これにより、基材と本実施形態に係る反応性付与化合物との間に高い密着性を得ることができる。さらに、カルベンはアジド基から生じるナイトレンよりも高い密着性を得ることができるので、アジド基を用いた従来の反応性付与化合物よりも高い密着性が得られる。また、ジアジリン基は、アジド基およびカルベンを生じるジアゾメチル基よりも長波長側に吸収帯を有するので、樹脂の光劣化を抑制することができる。基材との密着性は、反応性付与化合物中のジアジリン基の数が多いほど改善される。密着性が低い基材を用いる場合などでは、ジアジリン基の数を増やすことが好ましい。
【0020】
反応性付与化合物は、下記式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0021】
【0022】
上記式(2)中のXは、トリアジン環またはベンゼン環を表す。Xは、シランカップリング部位とジアジリン基との間のスペーサとして機能する。また、上記式(2)中のXは、Z1、Z2、Z3との結合位置を調整することで、積層体の金属層との吸着に関係するシランカップリング部位と、積層体の基材との吸着に関係するジアジリン基との位置関係を調整することができる。これにより、基材と金属層との密着性を調整することができる。製造の容易性およびジアジリン基とシランカップリング部位との位置関係を調整するために、Xはトリアジン環が好ましい。トリアジン環は、1,2,3-トリアジン、1,2,4-トリアジン、および1,3,5-トリアジンのいずれでもよいが、特に1,3,5-トリアジンが好ましい。上記式(2)中のXがベンゼン環の場合、Z1、Z2、Z3との結合位置は、特に限定されないが、1位、3位、および5位に結合していることが好ましい。Xがベンゼン環である場合において、Z1、Z2、Z3以外の部分は、特に限定されず、水素原子でもよいし、水酸基、メチル基など任意の官能基でもよい。
【0023】
上記式(2)中のZ1、Z2およびZ3は、O、NH、S、またはCH2のいずれか1種であることが好ましい。Z1、Z2およびZ3は、製造の容易性、また、化学的な安定性などからOまたはNHが好ましい。Z1、Z2およびZ3は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0024】
m1、m2、m3の整数は、シランカップリング部位とジアジリン基との間のスペーサの長さを表す。m1、m2、m3の数を調整することで、基材とジアジリン基との接触頻度および金属層とシランカップリング部位との接触頻度を調整することができる。上記式(2)中のm1、m2、m3は1~10の整数であることが好ましい。m1、m2、およびm3は、1~6の整数が好ましい。m1、m2、m3の整数は、同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
Y1、Y2およびY3は、上記式(1)で表されるシランカップリング部位または下記式(3)若しくは(11)で表されるジアジリン基である。Y1、Y2およびY3の少なくとも1つは、上記式(1)で表されるシランカップリング部位である。上記式(2)において、シランカップリング部位の数は、1または2である。上記式(2)で表される反応性付与化合物は、シランカップリング部位を少なくとも1つ以上備えるので、反応性付与化合物と金属層との密着性との密着性を改善できる。金属層との密着性をより改善したい場合は、シランカップリング部位の数を2とする。
【0026】
Y1、Y2およびY3の少なくとも1つは、下記式(3)または式(11)で表されるジアジリン基(ジアジリン含有基)である。上記式(2)において、ジアジリン基の数は、1または2である。上記式(2)で表される反応性付与化合物は、ジアジリン基を少なくとも1つ以上備えるので、反応性付与化合物と基材との間に強固な共有結合を1以上形成することができる。そのため、本実施形態に係る反応性付与化合物は、基材との密着性に優れる。金属層との密着性をより改善したい場合は、ジアジリン基の数を2とする。なお、下記式(3)中の*は隣接する炭素原子を表す。下記式(3)中のR4は特に限定されず、任意の官能基である。ジアジリン基は、末端付近に存在することで、基材との接触頻度が向上するので、R4は、水素原子、メチル基、エチル基、またはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基であることが好ましい。特に、R4がトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基であると、光反応効率が向上するので好ましい。
【0027】
下記式(11)中の*は隣接する炭素原子を表す。下記式(11)中のR5は特に限定されず、任意の官能基である。ジアジリン基は、末端付近に存在することで、基材との接触頻度が向上するので、R5は、水素原子、メチル基、エチル基、またはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基であることが好ましい。特に、R5がトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基であると、光反応効率が向上するので好ましい。下記式(11)中のAは、アリーレン基、または2価の複素環基である。当該アリーレン基または2価の複素環基は、水素原子の一部または全部がハロゲン原子、アルキル基などで置換していてもよい。
【0028】
下記式(11)中Aのアリーレン基としては、例えば、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、1,4-ナフチレン基、1,5-ナフチレン基、2,6-ナフチレン基などが挙げられる。
【0029】
下記式(11)中Aの2価の複素環基としては、フラン、チオフェン、ピリジンなどの複素環を構成する炭素原子またはヘテロ原子に直接接合している水素原子のうち2個の水素原子を除いた2価の基が挙げられる。
【0030】
【0031】
【0032】
上記式(2)の具体例としては、例えば、下記式(5)で表されるN2,N4-ビス(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エチル)-N6-((3-トリエトキシシリル)プロピル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン、下記式(4)で表される4,6-ビス(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-N-((3-トリエトキシシリル)プロピル)-1,3,5-トリアジン-2-アミン、下記式(12)で表される6-(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-N2,N4-ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン、下記式(13)で表されるN-((3-トリエトキシシリル)プロピル)-4,6-ビス((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジン-2-アミン、下記式(14)で表されるN2,N4-ビス((3-トリエトキシシリル)プロピル)-6-((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミンなどが挙げられる。
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
(反応性付与化合物の作用)
本実施形態に係る反応性付与化合物は、光反応性窒素官能基であるジアジリン基と、シランカップリング部位と、を有するので、光(波長360nm付近)でジアジリン基が光分解して、高反応性の化学種であるカルベン(価電子が6個で電荷を持たない二配位の炭素)を発生する。このカルベンの部位が積層体の基材表面と共有結合を形成する。共有結合を形成後、この反応性付与化合物のシランカップリング部位が基材表面に固定される。シランカップリング部位は、溶媒などに含まれる水分による加水分解によってシラノール基を形成する。よって、この基材にシラノール基を介して他の材料(例えば金属層)と接合することのできる反応性を付与することができる。
【0039】
従来知られていた、アジド基とトリアジン環とを有する化合物は、光で分解して、アジド基の部位が高反応性の化学種(ナイトレン)を発生する。ここで、アジド基の部位に由来するナイトレンを発生する化合物に対して、本実施形態のカルベンを発生する反応性付与化合物は、より長波長の光で活性化することができる。
また、本実施形態のジアジリン基を有する反応性付与化合物は、アジド基を有していた従来の化合物に対して、接合強度が高い。例えば、反応性付与化合物が付与された樹脂を金属めっきした場合に、本実施形態の反応性付与化合物は、アジド基を有していた従来の化合物よりも金属が剥離しにくい。本開示の反応性付与化合物は、樹脂と金属との接合以外にも、シリコン樹脂同士の接合などの樹脂と樹脂との接合に応用することができる。また、本開示の反応性付与化合物は、樹脂とセラミックス、石英等の無機材料との接合などにも応用することもできる。
【0040】
(反応性付与化合物の製造方法)
本実施形態の反応性付与化合物は、例えば、トリアジン環またはベンゼン環を備える化合物にシランカップリング部位およびジアジリン基を導入する方法により適宜製造することができる。ここでは、トリハロゲン化されたトリアジン環を例に挙げて説明するが、ベンゼン環の場合も化学反応を利用して合成することができる。トリハロゲン化されたトリアジン環とは、トリアジン環の水素原子が3つハロゲンで置換されているものをいう。置換されているハロゲンとしては、塩素が好ましい。トリハロゲン化されたトリアジン環を備える化合物としては、塩化シアヌル、3,5,6-トリクロロ-1,2,4-トリアジン、4,5,6-トリクロロ-1,2,3-トリアジンが挙げられる。
【0041】
本実施形態に係る反応性付与化合物の製造方法は、トリハロゲン化されたトリアジン環を備える化合物と、水酸基およびジアジリン基を備える化合物と、を反応させて、ジアジリン基付与化合物を得る、ジアジリン基付与工程と、ジアジリン基付与化合物とアミノ基および下記式(6)で表されるシランカップリング部位とを備える化合物と、を反応させるシランカップリング部位付与工程と、を備える。下記式(6)中の*は、隣接する炭素原子を表す。ここでは、トリハロゲン化されたトリアジン環を備える化合物として、1,3,5-トリアジンが塩素化された塩化シアヌルを用いた例を説明するが、トリハロゲン化された他のトリアジン環を備える化合物の場合も同様の反応で、本実施形態に係る反応性付与化合物を得ることができる。
【0042】
【0043】
<ジアジリン基付与工程>
ジアジリン基付与工程では、塩化シアヌルと水酸基およびジアジリン基を備える化合物と、を反応させて、ジアジリン基付与化合物を得る。水酸基およびジアジリン基を備える化合物としては、例えば、2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エタノール、2-(3-ブチル-3H-ジアジリン-3-イル)エタノール、2-(3-ペンチル-3H-ジアジリン-3-イル)エタノール、(4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)フェニル)メタノールなどが挙げられる。
【0044】
2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エタノールを用いた場合の合成を以下に説明する。ジアジリン基を1つ付与する場合は、例えば、下記の式(7)の反応が挙げられる。下記の式(7)中のbaseは塩基を示し、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、トリエチルアミンなどを用いることができる。下記式(7)の反応で、下記式(15)の2,4-ジクロロ-6-(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-1,3,5-トリアジンを得ることができる。
【0045】
【0046】
【0047】
(4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)フェニル)メタノールを用いた場合の合成を以下に説明する。ジアジリン基を1つ付与する場合は例えば、下記の式(16)の反応が挙げられる。下記の式(16)中のbaseは塩基を示し、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、トリエチルアミンなどを用いることができる。下記式(16)の反応で、下記式(17)の2,4-ジクロロ-6-((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジンを得ることができる。反応時の温度は例えば、室温(20℃~30℃)である。
【0048】
【0049】
【0050】
ジアジリン基を2つ付与する場合、反応は例えば、下記の式(8)が挙げられる。下記の式(8)中のbaseは塩基を示し、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、トリエチルアミンなどを用いることができる。下記式(8)の反応で、下記式(18)の2-クロロ-4,6-ビス(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-1,3,5-トリアジンを得ることができる。トリアジン環に付与するジアジリン基の数はジアジリン基付与時の反応温度で制御することができる。1つだけ付与する場合は例えば、反応時の温度を室温とし、2つ付与する場合は、反応時の温度を例えば、40~50℃とする。反応温度は適宜設定することができる。
【0051】
【0052】
【0053】
(4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)フェニル)メタノールを用いてジアジリン基を2つ付与する場合、反応は下記の式(19)の通りとなる。下記の式(19)中のbaseは塩基を示し、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、トリエチルアミンなどを用いることができる。下記式(19)の反応で、下記式(20)の2-クロロ-4,6-ビス((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジンを得ることができる。トリアジン環に付与するジアジリン基の数はジアジリン基付与時の反応温度や配合比で制御することができる。
【0054】
【0055】
【0056】
<シランカップリング部位付与工程>
シランカップリング部位付与工程では、上記のジアジリン基付与工程で得られたジアジリン基付与化合物と、アミノ基および上記式(6)で表されるシランカップリング部位を備える化合物と、を反応させる。このシランカップリング部位付与工程を経て、本実施形態に係る反応性付与化合物を得ることができる。
【0057】
上記式(6)中のシランカップリング部位のR1、R2およびR3は、水素原子またはアルキル基を表す。R1、R2およびR3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R1、R2およびR3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等があげられる。R1、R2およびR3のアルキル基としては、好ましくはメチル基、エチル基である。
【0058】
アミノ基および上記式(6)で表されるシランカップリング部位を備える化合物の例としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0059】
上記式(7)で合成した2,4-ジクロロ-6-(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-1,3,5-トリアジンと3-アミノプロピルトリエトキシシランとの反応例を下記式(9)に示す。下記式(9)において、baseは塩基を示し、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、トリエチルアミンなどを用いることができる。下記式(9)の反応を経て、上記式(12)の6-(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-N2,N4-ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)-1,3,5-トリアジン―2,4-ジアミンを得ることができる。
【0060】
【0061】
上記式(8)で合成した2-クロロ-4,6-ビス(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-1,3,5-トリアジンと3-アミノプロピルトリエトキシシランとの反応例を下記式(10)に示す。下記式(10)において、baseは塩基を示し、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、トリエチルアミンなどを用いることができる。下記式(10)の反応を経て、上記式(4)の4,6-ビス(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-N-((3-トリエトキシシリル)プロピル)-1,3,5-トリアジン-2-アミンを得ることができる。
【0062】
【0063】
上記式(16)で合成した2,4-ジクロロ-6-((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジンと3-アミノプロピルトリエトキシシランとの反応例を下記式(21)に示す。下記式(21)において、baseは塩基を示し、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、トリエチルアミンなどを用いることができる。下記式(21)の反応を経て、上記式(14)のN2,N4-ビス((3-トリエトキシシリル)プロピル)-6-((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミンを得ることができる。
【0064】
【0065】
上記式(19)で合成した2-クロロ-4,6-ビス((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジンと3-アミノプロピルトリエトキシシランとの反応例を下記式(22)に示す。下記式(22)において、baseは塩基を示し、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、トリエチルアミンなどを用いることができる。下記式(22)の反応を経て、上記式(13)のN-((3-トリエトキシシリル)プロピル)-4,6-ビス((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジン-2-アミンを得ることができる。
【0066】
【0067】
(積層体)
本実施形態に係る反応性付与化合物を用いた積層体の一例を次に説明する。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る積層体100は、基材(第1基材)1、反応性付与化合物層2、および金属層(第2基材)3を備える。以下、各部について説明する。
【0068】
(基材)
基材1としては、セラミックスなどの無機材料、または樹脂などが挙げられる。基材1の形態は、特に限定されず、板状でもよいし、粒状でもよい。基材1は第1基材の例である。
【0069】
樹脂としては、硬化性樹脂(例えば、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂)、熱可塑性樹脂、繊維強化樹脂、ゴム(加硫ゴム)、または、表面にこれらのポリマーを含む塗膜等が設けられた他の材質であっても良い。樹脂としては、具体的には、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂が挙げられる。ABS樹脂は、車両の部品等に用いられ、表面に金属めっきを施されることで、ABSと金属との接合した部位を有する積層体に用いられる。また、回路用の樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、または、液晶ポリマー、シクロオレフィンポリマー(COP)、フッ素系樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などが挙げられる。
【0070】
積層体100をプリント配線基板として用いる場合、配線のハンダ付けなどにおいて積層体100には熱負荷が加わる。また、積層体100を電子製品の可動部分に用いる場合には、十分な機械的強度が必要である。そのため、耐熱性、機械的強度および寸法安定性の点で優れた性質を持つポリイミド樹脂が好ましい。
【0071】
基材1の無機材料として、例えば、酸化ケイ素を含有する材質が挙げられる。その他、電子機器の部品、回路基板には無機および有機の各種素材を含む基板があり、表面に金属めっき等で回路が形成されることで、積層体として用いられる。
【0072】
基材1の樹脂には機械的強度の改善などの目的に応じ、タルクなどの無機粒子、滑剤、帯電防止剤などが含有されていてもよい。
【0073】
積層体100をプリント配線基板として用いる場合、その厚さは、特に限定されないが、例えば、基材1をフレキシブル配線基板に用いる場合は、基材1の厚さは1μm以上、200μm以下であることが好ましい。基材1の厚さが1μm未満の場合は、基材1の機械的強度の不足する可能性があるので好ましくない。基材1の厚さは、より好ましくは3μm以上である。またフィルムの厚さが200μmを超えると、折り曲げ性が低下する場合があるので、好ましくない。基材1の厚さは、より好ましくは150μm以下である。
【0074】
積層体100をプリント配線基板として用いる場合、基材1の算術平均粗さRaは、例えば、0.01~1μmである。算術平均粗さRaが0.01μm~1μmの間であれば、回路の微細化にも対応できる。また、算術平均粗さRaが0.2μm以下であれば、高周波域での伝送損失を低減できる。算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2013に従って、測定することができる。
【0075】
(反応性付与化合物層2)
反応性付与化合物層2は、基材1上に設けられ、本実施形態に係る反応性付与化合物から構成される。ここで、「基材1上に設けられ」には、基材1の表面に接するように反応性付与化合物層2を設けることだけでなく、基材1と反応性付与化合物層2との間に中間層を設けることも含まれる。また、基材1の表面に部分的に設けることも含まれる。
【0076】
反応性付与化合物層2の厚さは、基材1の全面を覆っていれば、特に限定されない。反応性付与化合物層2の厚さは、例えば、反応性付与化合物層2を構成する反応性付与化合物の単分子の厚さ以上(単分子層以上)であればよい。反応性付与化合物層2の厚さの上限は特に限定されないが、例えば、400nm以下である。
【0077】
(金属層)
金属層3は、反応性付与化合物層2上に設けられる。金属層3としては、銀、スズ、銅、銅合金などから構成される。積層体100がプリント基板の場合は、金属層3を構成する金属としては、電力損失、伝送損失の観点から導電率の高い銅および銅合金が好ましい。金属層は第2基材の例である。
【0078】
金属層の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1μm~50μmである。より好ましくは、金属層の厚さは2μm~10μmである。金属層の厚さが0.1μm~50μmであれば、十分な機械的強度が得られる。
【0079】
以上、本実施形態に係る積層体100について説明した。本実施形態では、第2基材として、金属層3を例に挙げて説明したが、本発明の第2基材は金属層3に限定されない。例えば、第2基材として、金属層の代わりに、液晶ポリマー、エポキシ樹脂、シリコン樹脂などからなる樹脂基材を用いてもよい。また、第2基材として、金属層の代わりに、セラミックス、石英などからなる無機基材を用いてもよい。また、本実施形態では、第2基材として金属層を用いた例を挙げたが、反応性付与化合物を介し、第1基材と第2基材とを接合することができれば、第2基材の形状は層状に限定されない。本開示の積層体の第1基材と第2基材との組み合わせは、例えば、樹脂とセラミックスなどの無機材料との組み合わせ、樹脂と金属との組み合わせ、セラミックスなどの無機材料と金属との組み合わせ、または、同種・異種の樹脂の組み合わせなどが可能である。
【0080】
(積層体の製造方法)
以下に、本実施形態に係る積層体の製造方法を説明するが、本実施形態に係る積層体の製造方法は以下の方法に限定されない。
【0081】
本実施形態に係る積層体を製造する際は、まず、基材(第1基材)1上に本実施形態に係る反応性付与化合物からなる反応性付与化合物層2を形成する。反応性付与化合物層2を形成する方法は、特に限定されない。例えば、反応性付与化合物を含む溶液を基材1の表面に塗布して反応性付与化合物層2を形成してもよい。または、反応性付与化合物を含む溶液に基材1を浸漬することで、反応性付与化合物層2を形成してもよい。
【0082】
反応性付与化合物を含む溶液を用いる場合、溶媒としては水、有機溶媒等を適宜選択できる。具体的には、水、アルコール、ケトン、芳香族炭化水素、エステルまたはエーテル等であってもよい。溶媒に対して反応性付与化合物は溶解せず分散していてもよい。溶液を用いた場合は、自然乾燥や加熱等によって溶液中の溶媒を揮散させてもよい。
【0083】
反応性付与化合物を含む溶液には増幅剤を添加してもよい。増幅剤としては、他の結合に寄与する化合物、例えばシランカップリング剤が挙げられ、光増感剤、例えばベンゾフェノン等が挙げられる。
【0084】
基材1上に反応性付与化合物層2を形成後、エネルギーを与えることで、反応性付与化合物のジアジリン基からカルベンを生じさせる。このカルベンと基材1とが反応することで、反応性付与化合物層2と基材1との間に高い密着性が得られる。
【0085】
エネルギーを与える手段としては、例えば光を照射することで行うことができる。本実施形態の反応性付与化合物のジアジリン基は、広い範囲の波長に反応して活性化するが、光による劣化を抑制するために、光は長波長側のものであることが好ましい。具体的には、300nm以上の波長であることが好ましく、450nm以下の波長であることが好ましい。光の照射には、既存の光照射装置が適宜使用できる。この際、活性化の効果を高めるために照射の前に反応性付与化合物層2を形成した基材1を加熱してもよい。
【0086】
反応性付与化合物層2にエネルギーを与え、基材1と反応性付与化合物層2との間の密着性を改善した後に、金属層(第2基材)3を設ける。めっき等により金属層3を設けてもよい。めっきの方法としては、乾式めっき(蒸着やスパッタ)による手法と、湿式めっきによる手法を適宜選択でき、両者を併用してもよい。金属層3を形成する際には、金属薄膜の形成には、無電解めっきや電気めっきと言った湿式めっきを使用することが好ましい。金属層3の形成前に、従来知られているめっき工程の前処理の工程を適宜適用することもできる。また、第2基材として、樹脂基材または無機基材などを反応性付与化合物層2の上に形成する場合は、公知の方法を用いることができる。
【実施例0087】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0088】
(試験条件)
試料の合成および合成した試料についての分析には、以下の機器、試薬を用いた。
・分析機器
核磁気共鳴スペクトル:JEOL JNM-ECA500 NMR測定装置(500 MHz)
質量分析:JEOL JMS-700 質量分析装置
・試薬
各種試薬:市販のものを用い必要に応じて定法により精製した。なお、2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エタノールは、amadis chemicalから購入した。(4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)フェニル)メタノールは東京化成工業から購入した。
各種反応溶媒:必要に応じて定法により乾燥・精製した。
シリカゲル:Wako-gel C-200(和光純薬)、シリカゲル 60N(関東化学)
【0089】
以下、試料の合成方法を説明する。
【0090】
(実施例1)
10mL枝付きフラスコをアルゴン雰囲気下とし、脱水THF(1.1mL),2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エタノール(0.39mL,4.07mmol,2.50eq.)およびジイソプロピルエチルアミン(0.54mL,4.07mmol,2.50eq.)を加えた後、0℃に冷却した。脱水THF(0.72mL)に溶かした塩化シアヌル(0.307g,1.63mmol,1.00eq.)を加え、遮光下で1時間撹拌した。室温(20~30℃)まで昇温した後、遮光下で16時間撹拌した。撹拌後、水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過した後、溶媒除去、真空乾燥を行うことで粗生成物として黄色液体(0.654g)を得た。粗生成物をヘキサン:クロロホルム=1:1を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製することで2,4-ジクロロ-6-(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-1,3,5-トリアジン(0.292g,1.18 mmol,72%)を黄色液体として得た。
【0091】
得られた化合物(2,4-ジクロロ-6-(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-1,3,5-トリアジン)の核磁気共鳴スペクトル分析および質量分析の結果を下記に示す。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ 1.14(s,3H,CH3),1.88(t,J=6.6Hz,2H,CH2),4.43(t,J=6.6Hz,2H,CH2);
13C NMR(126MHz,CDCl3):δ 20.1,23.7,33.6,65.4,170.8,172.7;
FAB-MS:m/z 248 [(M+H)+].
【0092】
次に、50mL枝付きフラスコに2,4-ジクロロ-6-(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-1,3,5-トリアジン(0.500g,2.02mmol,1.00eq.)を入れ、アルゴン雰囲気下とした。脱水1,4-ジオキサン(10.1mL),3-アミノプロピルトリエトキシシラン(0.86mL,3.69mmol,1.83eq.)およびジイソプロピルエチルアミン(0.81mL,4.76mmol,2.36eq.)を加え、65℃まで昇温した後、遮光下で3時間撹拌した。撹拌後、水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過した後、溶媒除去、真空乾燥を行うことで粗生成物として無色液体(1.04g)を得た。粗生成物をクロロホルム:酢酸エチル=3:1を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製することで実施例1の6-(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-N2,N4-ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン(0.476g,0.770mmol,38%)を無色液体として得た。
【0093】
得られた化合物(6-(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-N2,N4-ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)-1,3,5-トリアジン―2,4-ジアミン)の核磁気共鳴スペクトル分析および質量分析の結果を下記に示す。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ 0.66(brt,4H,CH2),1.09(s,3H,CH3),1.23(t,J=6.9Hz,18H,CH3),1.67(brs,4H,CH2),1.77(brs,2H,CH2),3.33 and 3.40(each brs,total 4H,CH2),3.82(q,J=6.9Hz,12H,CH2),4.13 and 4.20(each brs,total 2H,CH2),5.14 and 5.24(brs,2H,NH);
13C NMR(126MHz,CDCl3):δ 7.75,18.4,20.1,23.0,24.1,34.1,43.3,58.5,61.4,16.3,170.0;
HR-FAB-MS:m/z calcd for C25H52N7O7Si2[(M+H)+]:618.3467;Found:618.3471.
【0094】
(実施例2)
10mL枝付きフラスコをアルゴン雰囲気下とし、脱水THF(1.1mL),2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エタノール(0.39mL,4.07mmol,2.50eq.)およびジイソプロピルエチルアミン(0.54mL,4.07mmol,2.50eq.)を加えた後、0℃に冷却した。脱水THF(0.72mL)に溶かした塩化シアヌル(0.308g,1.63mmol,1.00eq.)を加え、遮光下で1時間撹拌した。40℃まで昇温した後、遮光下で17時間撹拌した。撹拌後、水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過した後、溶媒除去、真空乾燥を行うことで粗生成物黄色液体(0.582g)を得た。粗生成物をヘキサン:クロロホルム=1:1を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製することで2-クロロ-4,6-ビス(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-1,3,5-トリアジン(0.227g,0.728mmol,45%)を黄色液体として得た。
【0095】
得られた化合物(2-クロロ-4,6-ビス(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-1,3,5-トリアジン)の核磁気共鳴スペクトル分析および質量分析の結果を下記に示す。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ 1.13(s,6H,CH3),1.85(t,J=6.4Hz,4H,CH2),4.37(t,J=6.4Hz,4H,CH2);
13C NMR(126MHz,CDCl3):δ20.2,23.8,33.8,64.4,171.9,172.9;
FAB-MS:m/z 312 [(M+H)+].
【0096】
次に、50mL枝付きフラスコに2-クロロ-4,6-ビス(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-1,3,5-トリアジン(0.396g,1.27mmol,1.00eq.)を入れ、アルゴン雰囲気下とした。脱水1,4-ジオキサン(8.5mL),3-アミノプロピルトリエトキシシラン(0.34mL,1.46mmol,1.15eq.)およびジイソプロピルエチルアミン(0.33mL,1.94mmol,1.53eq.)を加え、65℃まで昇温した後、遮光下で3時間撹拌した。撹拌後、水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過した後、溶媒除去、真空乾燥を行うことで粗生成物として黄色液体(0.645g)を得た。粗生成物をクロロホルム:酢酸エチル=4:1を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製することで実施例2の4,6-ビス(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-N-((3-トリエトキシシリル)プロピル)-1,3,5-トリアジン-2-アミン(0.501g,1.01mmol,80%)を黄色液体として得た。
【0097】
得られた化合物(4,6-ビス(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-N-((3-トリエトキシシリル)プロピル)-1,3,5-トリアジン-2-アミン)の核磁気共鳴スペクトル分析および質量分析の結果を下記に示す。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ 0.67(t,J=7.6Hz,2H,CH2),1.10(s,3H,CH3),1.11(s,3H,CH3),1.23(t,J=6.9Hz,9H,CH3),1.71(quint,J=7.6Hz,2H,CH2),1.79(t,J=6.3Hz,2H,CH2),1.81(t,J=6.3Hz,2H,CH2),3.44(q,J=7.6Hz,2H,CH2),3.83(q,J=6.9Hz,6H,CH2),4.22(t,J=6.3Hz,2H,CH2),4.28(t,J=6.3Hz,2H,CH2),5.80(brt,1H,NH);
13C NMR(126MHz,CDCl3):δ 7.73,18.4,20.12,20.14,22.9,23.97,24.01,33.9,43.5,58.5,62.3,62.4,168.1,171.3,171.9;
HR-FAB-MS:m/z calcd for C20H37N8O5Si[(M+H)+]:497.2656;Found:497.2652.
【0098】
(実施例3)
50mL枝付きフラスコに塩化シアヌル(1.00g,5.42mmol,1.00eq.)を入れ、アルゴン雰囲気下とした。脱水塩化メチレン(9.5mL)に溶解させた後、0℃に冷却した。脱水塩化メチレン(5.4mL)に溶かした(4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)フェニル)メタノール(1.17g,5.41mmol,1.00eq.)とジイソプロピルエチルアミン(1.01ml,5.94mmol,1.10eq.)を加え、遮光下で1時間撹拌した。室温(20~30℃)まで昇温した後、遮光下で1.5時間撹拌した。撹拌後、水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過した後、溶媒除去、真空乾燥を行うことで粗生成物として黄色液体(1.88g)を得た。粗生成物をヘキサン:クロロホルム=1:4を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製することで2,4-ジクロロ-6-((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジン(1.45g,3.98mmol,73%)を黄色液体として得た。
【0099】
得られた化合物(2,4-ジクロロ-6-((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジン)の核磁気共鳴スペクトル分析および質量分析の結果を下記に示す。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ 5.53(s,2H,CH2),7.23(d,J=8.6Hz,2H,benzene-H),7.51(d,J=8.6Hz,2H,benzene-H);
13C NMR(126MHz,CDCl3):δ 28.4(q,J=40.9Hz),70.7,122.1(q,J=275Hz),127.0,128.9,130.0,135.5,170.8,172.8;
19F NMR(471MHz,CDCl3):δ -65.0;
HR-FAB-MS:m/z calcd for C12H7Cl2F3N5O[(M+H)+]:363.9980;Found:363.9972.
【0100】
次に、20mL枝付きフラスコに2,4-ジクロロ-6-((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジン(0.300g,0.824mmol,1.00eq.)を入れ、アルゴン雰囲気下とした。脱水1,4-ジオキサン(6.04mL),3-アミノプロピルトリエトキシシラン(0.44mL,1.89mmol,2.29eq.)およびジイソプロピルエチルアミン(0.42mL,2.47mmol,3.00eq.)を加え、65℃まで昇温した後、遮光下で3時間撹拌した。撹拌後、水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過した後、溶媒除去、真空乾燥を行うことで粗生成物として黄色液体(0.360g)を得た。粗生成物をクロロホルム:酢酸エチル=4:1を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製することで実施例3のN2,N4-ビス((3-トリエトキシシリル)プロピル)-6-((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン(0.160g,0.218mmol,26%)を黄色液体として得た。
【0101】
得られた化合物(N2,N4-ビス((3-トリエトキシシリル)プロピル)-6-((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン)の核磁気共鳴スペクトル分析および質量分析の結果を下記に示す。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ 0.65 and 0.66(each brt,total 4H,CH2),1.22(t,J=6.9Hz,18H,CH3),1.68(brs,4H,CH2),3.33 and 3.39(each brs,total 4H,CH2),3.82(q,J=6.9Hz,12H,CH2),5.14,5.23 and 5.29(each brs,total 2H,NH),5.33(brs,2H,CH2),7.16(d,J=6.9Hz,2H,benzene-H),7.43-7.48(brm,2H,benzene-H);
13C NMR(126MHz,CDCl3):δ 7.75,18.4,23.0,23.1,28.4(q,J=40.9Hz),43.4,58.5,66.8,67.0,67.2,122.2(q,J=275Hz),126.5,127.9,128.3,128.4,128.5,138.9,166.8,167.3,167.6,170.0,170.4;
19F NMR(471MHz,CDCl3):δ -65.2.
【0102】
(実施例4)
50mL枝付きフラスコに塩化シアヌル(1.00g,5.42mmol,1.00eq.)を入れ、アルゴン雰囲気下とした。脱水塩化メチレン(9.5mL)に溶解させた後、0℃に冷却した。脱水塩化メチレン(5.4mL)に溶かした(4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)フェニル)メタノール(2.42g,11.9mmol,2.20eq.)とジイソプロピルエチルアミン(2.02ml,11.9mmol,2.20eq.)を加え、遮光下で1時間撹拌した。室温(20~30℃)まで昇温した後、遮光下で16時間撹拌した。撹拌後、水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過した後、溶媒除去、真空乾燥を行うことで粗生成物として黄色固体(3.32g)を得た。粗生成物をヘキサン:クロロホルム=1:4を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製することで2-クロロ-4,6-ビス((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジン(2.46g,4.52mmol,83%)を白色固体として得た。
【0103】
得られた化合物(2-クロロ-4,6-ビス((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジン)の核磁気共鳴スペクトル分析および質量分析の結果を下記に示す。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ 5.47(s,4H,CH2),7.21(d,J=8.4Hz,4H,benzene-H),7.47(d,J=8.4Hz,4H,benzene-H);
13C NMR(126MHz,CDCl3):δ 28.4(q,J=40.9Hz),69.8,122.1(q,J=275Hz),126.9,128.7,129.7,136.3,172.0,173.0;
19F NMR(471MHz,CDCl3):δ -65.0.
HR-FAB-MS:m/z calcd for C21H13ClF6N7O2[(M+H)+]:544.0723;Found:544.0722.
【0104】
次に、20mL枝付きフラスコに2-クロロ-4,6-ビス((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジン(0.266g,0.489mmol,1.00eq.)を入れ、アルゴン雰囲気下とした。脱水1,4-ジオキサン(5.35mL),3-アミノプロピルトリエトキシシラン(0.12mL,0.515mmol,1.05eq.)およびジイソプロピルエチルアミン(0.12mL,0.706mmol,1.44eq.)を加え、65℃まで昇温した後、遮光下で3時間撹拌した。撹拌後、水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過した後、溶媒除去、真空乾燥を行うことで粗生成物として黄色液体(0.339g)を得た。粗生成物をクロロホルム:酢酸エチル=4:1を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製することでN-((3-トリエトキシシリル)プロピル)-4,6-ビス((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジン-2-アミン(0.243g,0.333mmol,68%)を黄色液体として得た。
【0105】
得られた化合物(N-((3-トリエトキシシリル)プロピル)-4,6-ビス((4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)オキシ)-1,3,5-トリアジン-2-アミン)の核磁気共鳴スペクトル分析および質量分析の結果を下記に示す。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ 0.64(t,J=7.5Hz,2H,CH2),1.22(t,J=6.9Hz,9H,CH3),1.69(quint,J=7.5Hz,2H,CH2),3.41(q,J=7.5Hz,2H,CH2),3.82(q,J=6.9Hz,6H,CH2),5.36(s,2H,CH2),5.39(s,2H,CH2),5.91(t,J=7.5Hz,1H,NH),7.18(d,J=7.9Hz,4H,benzene-H),7.43(d,J=7.9Hz,2H,benzene-H),7.46(d,J=7.9Hz,2H,benzene-H);
13C NMR(126MHz,CDCl3):δ 7.73,18.4,22.8,28.4(q,J=40.9Hz),43.5,58.6,67.8,68.1,122.1(q,J=275Hz),126.6,128.2,128.5,128.9,129.0,138.0,168.1,171.3,171.9;
19F NMR(471MHz,CDCl3):δ -65.1.
【0106】
(参考例1)
10mL枝付きフラスコに2,4-ジクロロ-6-(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-1,3,5-トリアジン(0.110g,0.443mmol,1.00eq.)を入れ、アルゴン雰囲気下とした。脱水1,4-ジオキサン(2.21mL),プロピルアミン(0.08mL,0.974mmol,2.20eq.およびジイソプロピルエチルアミン(0.23mL,1.35mmol,3.05eq.)を加え、65℃まで昇温した後、遮光下で3時間撹拌した。撹拌後、水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過した後、溶媒除去、真空乾燥を行うことで粗生成物として白色固体(0.152g)を得た。粗生成物をクロロホルムを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製することで6-(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-N2,N4-ジプロピル-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン(0.130g,0.443mmol,100%)を白色固体として得た。
【0107】
得られた化合物(6-(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-N2,N4-ジプロピル-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン)の核磁気共鳴スペクトル分析および質量分析の結果を下記に示す。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ 0.95(t,J=7.2Hz,6H,CH3),1.09(s,3H,CH3),1.58(br sext,4H,CH2),1.74 and 1.78(br t and br s,total 2H,CH2),3.30 and 3.36(each br s,total 4H,CH2),4.13 and 5.07(each br s,total 2H,NH);
13C NMR(126MHz,CDCl3):δ 11.5,20.2,23.0,24.1,34.1,42.7,61.3,61.4,166.9,167.3,170.3;
HR-FAB-MS:m/z calcd for C13H24N7O [(M+H)+]:294.2042;Found:294.2044.
【0108】
(参考例2)
20mL枝付きフラスコに2-クロロ-4,6-ビス(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-1,3,5-トリアジン(0.280g,0.898mmol,1.00eq.)を入れ、アルゴン雰囲気下とした。脱水1,4-ジオキサン(5.58mL),プロピルアミン(0.09mL,1.10mmol,1.22eq.)およびジイソプロピルエチルアミン(0.23mL,1.35mmol,1.50eq.)を加え、65℃まで昇温した後、遮光下で3時間撹拌した。撹拌後、水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過した後、溶媒除去、真空乾燥を行うことで粗生成物として白色固体(0.300g)を得た。粗生成物をクロロホルムを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製することで4,6-ビス(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-N-プロピル-1,3,5-トリアジン-2-アミン(0.291g,0.870mmol,97%)を白色固体として得た。
【0109】
得られた化合物(4,6-ビス(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-N-プロピル-1,3,5-トリアジン-2-アミン)の核磁気共鳴スペクトル分析および質量分析の結果を下記に示す。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ 0.96(t,J=7.2Hz,3H,CH3),1.10(s,3H,CH3),1.11(s,3H,CH3),1.61(sext,J=7.2Hz,2H,CH2),1.79(t,J=6.6Hz,2H,CH2),1.82(t,J=6.9Hz,2H,CH2),3.40(q,J=7.2Hz,2H,CH2),4.23(t,J=6.6Hz,2H,CH2),4.29(t,J=6.9Hz,2H,CH2),5.65(br s,1H,NH);
13C NMR(126MHz,CDCl3):δ 11.4,20.2,22.8,24.0,24.1,34.0,42.9,62.3,62.5,168.2,171.3,171.9;
HR-FAB-MS:m/z calcd for C14H23N8O2 [(M+H)+]:335.1944;Found:335.1948.
【0110】
(比較例1)
50mL三口フラスコに撹拌子と塩化シアヌル(1.00g,5.42mmol)を入れ、次いでTHF(6mL)およびアセトニトリル(6mL)を加え、-10℃まで冷却した。トリメチルシリルジアゾメタン(2.0Mヘキサン溶液、3.0mL,6.0mmol)を加えた後、室温(20~30℃)まで昇温して6時間攪拌した。攪拌終了後、水を加え、混合溶液をジエチルエーテルにて抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過した後、ロータリーエバポレータにて濃縮、減圧乾燥することで茶色固体の粗生成物を得た。この粗生成物を、クロロホルム:ヘキサン=4:1を展開溶媒とするシリカゲルクロマトグラフィーにて分離、精製することで、2,4-ジクロロ-6-(ジアゾメチル)-1,3,5-トリアジン(0.689 g,3.63mmol,67%)を黄色固体として得た。
【0111】
次いで、50mL三口フラスコに撹拌子と2,4-ジクロロ-6-(ジアゾメチル)-1,3,5-トリアジン(0.758g,3.99mmol)を入れ、アルゴン雰囲気下にした後、乾燥1,4-ジオキサン(25mL)を加えた。トリエチルアミン(1.66mL,12.0mmol)を加えた後、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(2.14mL,9.18mmol)を加え、65℃で3時間撹拌した。撹拌終了後、水を加え、混合溶液をジエチルエーテルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過した後、ロータリーエバポレータにて濃縮、減圧乾燥することで黄色粘稠性オイルの粗生成物を得た。この粗生成物を、クロロホルムを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離、精製することで、反応性付与化合物である2,4-ビス[(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ]-6-ジアゾメチル-1,3,5-トリアジン(1.661g, 2.97 mmol, 74%)を黄色粘稠性オイルとして得た。
【0112】
得られた化合物(2,4-ビス[(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ]-6-ジアゾメチル-1,3,5-トリアジン)の核磁気共鳴スペクトル分析および質量分析の結果を下記に示す。
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ 0.66 (t,J=8.4Hz,4H,CH2),1.27(t,J=7.0Hz,18H,CH3),1.67(br s,4H,CH2),3.36(br s,4H,CH2),3.82(q,J=7.0Hz,12H,CH2),4.83-5.24(m,2H,NH),5.44(br s,1H, CH)
13C NMR (101 MHz, CDCl3)δ 7.7,18.3,23.0, 43.1, 51.5, 58.4, 146.8,165.1;
FAB-MS m/z [(M+H)+]: 560.3048
【0113】
(UV-vis吸収スペクトルシミュレーション)
反応性付与化合物のUV-vis吸収スペクトルのシミュレーションには、以下の理論計算プログラムを用いた。
・理論計算プログラム Gaussian 16,Revision C.01
UV-vis吸収スペクトルのシミュレーション方法:上記式(4)の反応性付与化合物のトリエトキシシリルプロピルアミノ基をメチルアミノ基に単純化したモデル化合物(本実施例2のトリエトキシシリルプロピルアミノ基をメチルアミノ基に置換したモデル化合物)を分子モデリングし、密度汎関数(DFT)計算により分子構造を最適化した。DFT計算の汎関数にはB3LYPを用い、基底関数には6-31G(d)を用いた。得られたモデル化合物の最適構造を用いて、時間依存密度汎関数(TD-DFT)計算を行うことでUV-vis吸収スペクトルのシミュレーション結果を得た。TD-DFT計算の汎関数にはB3LYPを用い、基底関数には6-31+G(d,p)を用いた。
【0114】
(UV-vis吸収スペクトル)
また、得られた実施例1~実施例4および比較例1についての分析には、以下の機器、試薬を用いた。
・測定機器 UV-vis吸収スペクトル:JASCO V-670
・試料溶液 実施例1と実施例2および比較例1の各化合物をアセトンで洗浄後、乾燥させた50 mLメスフラスコに、試料濃度が50μmoldm-3または2mmoldm-3となるように量り入れ、脱水エタノールでメスアップした。脱水エタノールを選択した理由は、それぞれの化合物に存在するエトキシシラン部分の加水分解を防ぐためである。
・測定:アセトンで洗浄、乾燥させた石英ガラスセル(1cm)に試料溶液を入れ、以下の条件で測定を行った。
UV-vis吸収スペクトル測定条件:バンド幅:2nm,走査速度:200nm/min,レスポンス:Fast,データ取り込み間隔:1nm
【0115】
図2にシミュレーションで得られた吸収スペクトルを示した。
図3に観測された比較例1のスペクトルを示す。
図2および3に示すように、ジアジリン基を有するモデル化合物の場合、ジアジリン基のn-π*遷移に由来する吸収が360nm付近に確認できるが、ジアゾメチル基を有する比較例1の場合は、360nm付近に吸収を確認できなかった。したがって、実施例2のシミュレーションによれば、比較例1のジアゾメチル基よりも長波長側の光でカルベンを生じさせることができるので、本開示の反応性付与化合物を用いれば、光劣化を抑制することができる。
【0116】
図4に実施例1の吸収スペクトルを示す。
図4(a)は、試料濃度50μmoldm
-3の吸収スペクトルであり、
図4(b)は、試料濃度2mmoldm
-3の吸収スペクトルである。また、
図5に実施例2の吸収スペクトルを示す。
図5(a)は、試料濃度50μmoldm
-3の吸収スペクトルであり、
図5(b)は、試料濃度2mmoldm
-3の吸収スペクトルである。下記表1に測定結果をまとめた。表1のλ
absは、光吸収波長(nm)を意味し、εは、モル吸光係数(dm
3mol
-1cm
-1)を意味する。
図4(a)および4(b)の横軸は、波長(nm)であり、縦軸は、吸光度(任意単位)である。
図5(a)および5(b)の横軸は、波長(nm)であり、縦軸は、吸光度(任意単位)である。
図4(b)および
図5(b)に示す通り、実施例1と実施例2ともに、400nm以下の紫外領域に二つの吸収帯が観測された。シミュレーション結果と照らし合わせて解析すると、360nm付近に観測された吸収帯は、ジアジリン基のn-π*遷移に由来する吸収、すなわちカルベンへの光分解を誘起する吸収として帰属できる。これより、ジアジリン基をもつ実施例1と実施例2は、波長の長い紫外光(UVA)照射によってカルベンを発生し、光劣化を抑制しつつ、基材表面との反応が可能であることが証明された。また、同様に実施例3および実施例4についても、357nm付近に光吸収のピークが確認された。
【0117】
【0118】
(ジアジリンユニットの光分解確認実験1)
次に、実施例1と実施例2のジアジリン基が波長の長い紫外光(UVA)(波長365nm)の照射によって、カルベンへ分解するかどうか確認実験を行った。実施例1の6-(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-N2,N4-ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)-1,3,5-トリアジン―2,4-ジアミンは、シランカップリング部位が加水分解するため、シランカップリング部位をもたず、取り扱いやすい参考例1の6-(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-N2,N4-ジプロピル-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミンを用いて確認実験を行った。同様に、実施例2の4,6-ビス(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-N-((3-トリエトキシシリル)プロピル)-1,3,5-トリアジン-2-アミンの代わりに、参考例2の4,6-ビス(2-(3-メチル-3H-ジアジリン-3-イル)エトキシ)-N-プロピル-1,3,5-トリアジン-2-アミンを用いて確認実験を行った。測定条件は以下の通りとなる。
・測定機器 UV-vis吸収スペクトル:JASCO V-670
・試料溶液 参考例1の化合物をアセトンで洗浄後、乾燥させた50mLメスフラスコに、試料濃度が4mmoldm-3となるように量り入れ、脱水メタノールでメスアップした。また、参考例2の化合物をアセトンで洗浄後、乾燥させた50mLメスフラスコに、試料濃度が2mmoldm-3となるように量り入れ、脱水メタノールでメスアップした。
・測定:アセトンで洗浄、乾燥させた石英ガラスセル(1cm)に試料溶液を入れ、以下の条件で測定を行った。
UV-vis吸収スペクトル測定条件:バンド幅:2nm,走査速度:200nm/min,レスポンス:Fast,データ取り込み間隔:1nm
・光源:AS ONEハンディUVランプ(254nm/365nm兼用)
・光照射条件:波長:365nm、時間0~40min
【0119】
図6に参考例1の試料溶液に対し、光を照射した際の吸収スペクトルの変化を示す。
図7に、参考例2の試料溶液に対し、光を照射した際の吸収スペクトルの変化を示す。横軸は、波長、縦軸は吸光度(任意単位)である。
図6および
図7に示す通り、照射時間が長くなるほど、ジアジリン基のn-π*遷移に由来するピーク(360nm付近)が小さくなることが分かった。これは、ジアジリン基が光照射によってカルベンに光分解したことを示す。よって、波長365nmの光照射によって、ジアジリン基がカルベンへ分解可能であることが確認された。
【0120】
(ジアジリンユニットの光分解確認実験2)
ジアジリン基の光分解によってカルベンが発生していることを裏付けるため、参考例1と参考例2をそれぞれメタノールに溶解させ、365nmの紫外光を10分間照射する前後の溶液を質量分析することで光反応生成物を調査した。測定条件は以下の通りとなる。
・測定機器:JEOL JMS-700 質量分析装置
・試料溶液:サンプル瓶に試料を6mg量り入れ、3mLの脱水メタノールを加え試料溶液とした。
・光源:AS ONEハンディUVランプ(254nm/365nm兼用)
・測定:調整した試料溶液の一部を何も操作を加えずにサンプル瓶に入れ、それを紫外光照射前のサンプルとした。残りの調整溶液の一部を石英セルに入れ、その後石英セルにハンディUVランプで365nmの紫外光を10分間照射した後、その溶液をサンプル瓶に入れ、これを紫外光照射後のサンプルとした。それらを質量分析で分析した。
【0121】
紫外光照射前の参考例1の試料溶液の質量スペクトル(イオン化法:電子イオン化)では、参考例1の分子量に一致するm/z293の分子イオン(M+)ピークが検出された。一方、紫外光照射後の試料溶液の質量スペクトルでは、照射前には検出されなかった光反応生成物由来のm/z297の分子イオン(M+)ピークが検出された。このピークは、ジアジリン基が光分解して生じたカルベンがメタノールの水酸基(OH基)にOH挿入反応して生成する6-(3-メトキシブトキシ)-N2,N4-ジプロピル-1,3,5-トリアジン―2,4-ジアミンの分子量297に一致する。紫外光照射前の参考例2の試料溶液の質量スペクトル(イオン化法:高速原子衝撃イオン化)において、m/z335の分子イオンピークが検出された。m/z335がプロトン化分子イオン種と考えれば、このピークの質量は334となり参考例2の分子量334に一致する。紫外光照射後の参考例2の試料溶液の質量スペクトルにおいて、m/z343の分子イオンピークが検出された。m/z343がプロトン化分子イオン種と考えれば、このピークの質量は342となり、分子構造内の二つのジアジリン基が光分解して生じたカルベンがメタノールの水酸基(OH基)にOH挿入反応して生成する4,6-ビス(3-メトキシブトキシ)-N-プロピル-1,3,5-トリアジン―2-アミンの分子量342と一致する。光反応生成物として、カルベンがアルコールのOH結合に挿入反応した生成物が検出された結果から、波長365nmの光照射によって、ジアジリン基がカルベンへ分解可能であることが裏付けられた。
【0122】
(反応性付与化合物を用いた積層体の作製と剥離強度評価)
次に、実施例1、実施例2および実施例4の反応性付与化合物を用いた積層体を作製し、その剥離強度評価(密着性評価)を行った。評価用試料は下記の手順で準備した。
【0123】
「プレディップ溶液」
蒸留水50mLに10分間の超音波攪拌を行いながら、ローム・アンド・ハース電子材料製キャタプレップ404Aを4.25gとNaClを13.2g加え、プレディップ溶液を作製した。
【0124】
「キャタリスト溶液」
蒸留水50mLに10分間の超音波攪拌を行いながら、ローム・アンド・ハース電子材料製キャタプレップ404を12.5g加えた。キャタプレップ404が完全に溶解した後、ローム・アンド・ハース電子材料製キャタポジット44を1.5mL加え、キャタリスト溶液を作製した。
【0125】
「アクセラレータ溶液」
蒸留水47.5mLに10分間の超音波攪拌を行いながら、ローム・アンド・ハース電子材料製アクセラレータ―19Eを2.5g加え、アクセラレータ溶液を作製した。
【0126】
「無電解めっき溶液」
蒸留水42.6mLに10分間の超音波攪拌を行いながら、奥野製薬工業製アドカッパーIW-A 2.5mL、奥野製薬工業製アドカッパーC 0.75mL、奥野製薬工業製アドカッパー 4mL、および奥野製薬工業製無電解銅R-Nを0.15mL加え、無電解めっき溶液を作製した。
【0127】
アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂基板(ABS基板)には、三菱ケミカル社製ABS基板(1mm×30mm×厚さ130μm)を用いた。ABS基板をエタノールに浸漬し、10分間超音波を照射し、ABS基板を洗浄し、乾燥した。乾燥後、ABS基板の表面にコロナ放電装置(信光電気計装製Corona Master、電圧出力:12kV、照射距離:0.5mm)を用いて、3回コロナ処理を行った。その後、ABS基板を実施例1または実施例2のエタノール溶液(濃度0.1wt%)に10秒浸漬させ、乾燥することで反応性付与化合物層を形成した。なお、実施例4については、コロナ放電処理無とコロナ放電処理有りの場合で積層体を作製した。
【0128】
反応性付与化合物層を形成後のABS基板に対し、高圧水銀ランプまたはLEDランプで光を照射した。高圧水銀ランプおよびLEDともに光の主波長は365nmであり、紫外線積算照度計UVPF-A2(ピーク感度355nm)の測定結果から、照度はそれぞれ17mW/cm2、396mW/cm2であった。照射時間は、5分間とした。光照射後のABS基板をプレディップ溶液に1分間浸漬し、浸漬後洗浄せずに、50℃のキャタリスト溶液に1分間浸漬し、その後蒸留水で洗浄した。その後、ABS基板を乾燥せずに、アクセラレータ溶液に3分間浸漬し、蒸留水で洗浄した。洗浄後、濡れたままの状態でABS基板を32℃の無電解銅めっき液に15分間浸漬し、蒸留水およびエタノールで洗浄し乾燥を行った。乾燥後、銅層を形成したABS基板(積層体)を80℃で10分間アニーリングを行った。アニーリング後室温まで冷却した。冷却後、硫酸銅系電気銅めっき液にアニーリング後の積層体を浸漬し、電圧15V、電流密度0.02A/cm2で60分間銅めっきを行い、蒸留水で洗浄乾燥し、80℃で10分間アニーリングを行い、各実施例の反応性付与化合物を用いた積層体を得た。
【0129】
「剥離強度測定」
実施例1および実施例2の反応性付与化合物を用いた積層体の銅層部分に1cm幅の切れ込みを入れて密着試験機(イマダ製IMADA FORCE MEASUREMENT model mX2)を用いて、引張速度50mm/min、引張角度90°の条件で銅層とABS基板との剥離強度を測定した。得られた結果を表2に示す。また、実施例4のコロナ放電処理の有無の結果を表3に示す。
【0130】
【0131】
【0132】
表2に示す通り、高圧水銀ランプにて紫外光を照射した場合、実施例1および実施例2を反応性付与化合物として用いたいずれの積層体も高い剥離強度を示した。コロナ放電によって生じた基板表面上の水酸基(OH基)に対して、実施例1または実施例2から生じたカルベンがOH挿入反応を起こし、反応性付与化合物と基板表面との間で共有結合が形成されたことが高い密着性につながったと考えられる。
また、コロナ放電によって基板表面上に導入される水酸基の数は少ないため、そのままでは高い密着性を得ることは困難であるが、ジアジリン基の光反応を介して実施例1と実施例2の反応性付与化合物を基板表面に結合させてシラノール生成基を付与し、シラノールと銅層との間で結合を形成させることで密着性を改善できることが確認された。LEDランプを用いた場合では、分子内のジアジリン基数が1個の実施例1を用いた積層体よりも、ジアジリン基数が2個の実施例2を用いた積層体の方が高い剥離強度を示した。また、LEDランプよりも水銀ランプを用いたほうが、より高い剥離強度を示した。主波長を365nmとして紫外領域に幅広いスペクトルをもつ高圧水銀ランプを使用する場合には、カルベンが発生しやすく、反応性付与化合物と基板との光反応効率が高くなるため、分子内のジアジリン基の数に依存せず、いずれの反応性付与化合物を用いても高いめっき密着性が得ることができる。一方で、365nmを中心として狭いスペクトルをもつLEDランプを使用する場合では、カルベンが発生しにくく、反応性付与化合物と基板との光反応効率が低くなるため、ジアジリン基を多くもち、基板との反応確率が高い実施例2を用いた方が高い密着性を得ることができる。
一方、表3に示す通り、実施例4の反応性付与化合物を用いた場合、高圧水銀ランプまたはLEDランプを光反応光源に用いたいずれにおいても同程度の剥離強度を示した。加えて、コロナ処理をしない場合でも高い剥離強度を示した。これは、実施例4の反応性付与化合物が、3-トリフルオロメチル-3-フェニルジアジリン骨格を有することでジアジリン基の光分解効率が向上したこと及び発生したカルベンのO-H挿入反応のみならずC-H挿入反応が可能となったためと考えられる。
以上の結果から、ジアジリン基をもつ反応性付与化合物は、光反応性分子接合剤として非常に有用であると考えられる。
本発明の反応性付与化合物、反応性付与化合物の製造方法、および積層体によれば、基材の光劣化を抑制し、かつ、高い密着性が得られるので、産業上の利用可能性が高い。