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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023165749
(43)【公開日】2023-11-17
(54)【発明の名称】金属浸出方法及び金属回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/06 20060101AFI20231110BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20231110BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20231110BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
C22B3/06
C22B23/00 102
C22B7/00 C
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023146452
(22)【出願日】2023-09-08
(62)【分割の表示】P 2023518890の分割
【原出願日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2022060711
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鹿田 慧
(72)【発明者】
【氏名】樋口 直樹
(72)【発明者】
【氏名】藤本 敦
(57)【要約】
【課題】銅を容易に除去しつつ、コバルト及び/又はニッケルの浸出率を向上させることができる金属浸出方法及び金属回収方法を提供する。
【解決手段】少なくとも、銅と、コバルト及びニッケルのうちの一種以上とを含む電池粉中の金属を浸出させる方法であって、複数回にわたって繰り返す浸出プロセスを有し、前記浸出プロセスが、前記電池粉中の金属を酸性浸出液で浸出させ、銅が溶け出す前に浸出を終了し、それにより得られる浸出後液から浸出残渣を取り出す第一浸出工程と、前記第一浸出工程の前記浸出残渣中の金属を酸性浸出液で浸出させ、銅が溶け出した後に浸出を終了し、浸出後液を得る第二浸出工程とを含み、前記浸出プロセスの第二浸出工程で得られる浸出後液を、当該浸出プロセスの次に行う浸出プロセスの第一浸出工程で酸性浸出液として使用し、少なくとも一回の浸出プロセスの第二浸出工程で、浸出後液から浸出残渣を取り出す。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、銅と、コバルト及びニッケルのうちの一種以上とを含む電池粉中の金属を浸出させる方法であって、
複数回にわたって繰り返す浸出プロセスを有し、前記浸出プロセスが、
前記電池粉中の金属を酸性浸出液で浸出させ、銅が溶け出す前に浸出を終了し、それにより得られる浸出後液から浸出残渣を取り出す第一浸出工程と、
前記第一浸出工程の前記浸出残渣中の金属を酸性浸出液で浸出させ、銅が溶け出した後に浸出を終了し、浸出後液を得る第二浸出工程と
を含み、
前記浸出プロセスの第二浸出工程で得られる浸出後液を、当該浸出プロセスの次に行う浸出プロセスの第一浸出工程で酸性浸出液として使用し、
少なくとも一回の浸出プロセスの第二浸出工程で、浸出後液から浸出残渣を取り出す、金属浸出方法。
【請求項2】
第一浸出工程の浸出を、酸性浸出液の酸化還元電位(銀/塩化銀電位基準)が0mV以上となる前に終了し、
第二浸出工程の浸出を、酸性浸出液の酸化還元電位(銀/塩化銀電位基準)が0mV以上になった後に終了する、請求項1に記載の金属浸出方法。
【請求項3】
第一浸出工程の浸出を、酸性浸出液の酸化還元電位(銀/塩化銀電位基準)が-300mVより高くなる前に終了する、請求項2に記載の金属浸出方法。
【請求項4】
第二浸出工程の浸出を、酸性浸出液の酸化還元電位(銀/塩化銀電位基準)が60mVより高くなる前に終了する、請求項2又は3に記載の金属浸出方法。
【請求項5】
第一浸出工程の浸出を、酸性浸出液の酸化還元電位(銀/塩化銀電位基準)の1時間当たりの上昇量が233mV以上となる前に終了し、
第二浸出工程の浸出を、酸性浸出液の酸化還元電位(銀/塩化銀電位基準)の1時間当たりの上昇量が233mV以上になった後に終了する、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属浸出方法。
【請求項6】
前記電池粉がコバルトを含み、
質量基準で、各回の浸出プロセスの第一浸出工程に供する前記電池粉のコバルト含有量と、当該浸出プロセスの第一浸出工程で使用する酸性浸出液のコバルトイオン含有量との合計を100%としたとき、各回の浸出プロセスにて、第一浸出工程で得られる浸出後液のコバルトイオン含有量と、第二浸出工程で得られる浸出後液のコバルトイオン含有量との合計が95%以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属浸出方法。
【請求項7】
前記電池粉がニッケルを含み、
質量基準で、各回の浸出プロセスの第一浸出工程に供する前記電池粉のニッケル含有量と、当該浸出プロセスの第一浸出工程で使用する酸性浸出液のニッケルイオン含有量との合計を100%としたとき、各回の浸出プロセスにて、第一浸出工程で得られる浸出後液のニッケルイオン含有量と、第二浸出工程で得られる浸出後液のニッケルイオン含有量との合計が95%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の金属浸出方法。
【請求項8】
前記浸出プロセスの第二浸出工程で得られる浸出後液を、次回の浸出プロセスの第一浸出工程で酸性浸出液として使用する際に、当該第一浸出工程に供する電池粉中の、銅よりも卑な金属の物質量が、当該浸出後液中の銅イオンの全てと置換反応を生じるのに必要となる卑な金属の物質量よりも多い、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属浸出方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の金属浸出方法における前記浸出プロセスの第一浸出工程で浸出残渣を取り出した後の浸出後液から、金属を回収する、金属回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書は、金属浸出方法及び金属回収方法について記載したものである。
【背景技術】
【0002】
近年は、製品寿命もしくは製造不良その他の理由より廃棄されたリチウムイオン電池廃棄物等の電池廃棄物から有価金属を回収することが、資源の有効活用の観点から広く検討されている。
【0003】
たとえばリチウムイオン電池廃棄物から金属を回収するには、たとえば、熱処理その他の処理を経て得られる電池粉を酸性浸出液と接触させ、その電池粉中のニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム、鉄等の金属を酸性浸出液に浸出させる。これにより、当該金属が溶解した浸出後液が得られる。
【0004】
次いで、たとえば特許文献1~3に記載されているように、中和や溶媒抽出により、浸出後液に溶解している各金属のうち、アルミニウム、鉄及びマンガンを順次に又は同時に除去する。その後、ニッケルやコバルトを溶媒抽出によって分離するとともに濃縮して回収する。
【0005】
このような金属の回収方法で、電池粉中の金属を酸性浸出液で浸出させることに関し、特許文献4には、「電池粉末を、該電池粉末に含まれる全金属成分を溶解するのに必要な0.9~1.5倍モル当量の硫酸を含む浸出液で浸出させ、浸出液の酸化還元電位ORP値(銀/塩化銀電位基準)が、0mVを超える前に浸出を終了する浸出工程とを含む、リチウムイオン電池の処理方法」が提案されている。この方法によると、「浸出液に添加した有価金属は十分に溶解する一方で、多くの銅は、浸出終了時に固体の状態とすることができる。」、「それにより、浸出液から固体の銅を容易に分離・除去することができて、浸出後液に溶解した銅の除去に要する処理を簡略化もしくは省略し、処理能率の向上およびコストの低減を実現することができる。」とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-180439号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2011/0135547号明細書
【特許文献3】特開2014-162982号公報
【特許文献4】特開2017-36489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4に記載されているように、銅を浸出終了時に固体の状態で残したときは、浸出後の固液分離により銅を容易に除去することができる。但し、この場合、銅が溶け出す前に浸出を終了することから、コバルトやニッケルを十分に浸出させることができなかった。
【0008】
一方、コバルトやニッケルの浸出率を向上させることを目的として、浸出時間を長くすると、銅が溶け出すので、銅の容易な分離及び除去が実現できなくなる。
【0009】
この明細書では、銅を容易に除去しつつ、コバルト及び/又はニッケルの浸出率を向上させることができる金属浸出方法及び金属回収方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この明細書で開示する金属浸出方法は、少なくとも、銅と、コバルト及びニッケルのうちの一種以上とを含む電池粉中の金属を浸出させる方法であって、複数回にわたって繰り返す浸出プロセスを有し、前記浸出プロセスが、前記電池粉中の金属を酸性浸出液で浸出させ、銅が溶け出す前に浸出を終了し、それにより得られる浸出後液から浸出残渣を取り出す第一浸出工程と、前記第一浸出工程の前記浸出残渣中の金属を酸性浸出液で浸出させ、銅が溶け出した後に浸出を終了し、浸出後液を得る第二浸出工程とを含み、前記浸出プロセスの第二浸出工程で得られる浸出後液を、当該浸出プロセスの次に行う浸出プロセスの第一浸出工程で酸性浸出液として使用し、少なくとも一回の浸出プロセスの第二浸出工程で、浸出後液から浸出残渣を取り出すというものである。
【0011】
この明細書で開示する金属回収方法は、上記の金属浸出方法における前記浸出プロセスの第一浸出工程で浸出残渣を取り出した後の浸出後液から、金属を回収するというものである。
【発明の効果】
【0012】
上述した金属浸出方法や金属回収方法によれば、銅を容易に除去しつつ、コバルト及び/又はニッケルの浸出率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一の実施形態の金属浸出方法を示すフロー図である。
図2】一の実施形態の金属浸出方法を適用することができる金属回収方法の一例を示すフロー図である。
図3】実施例1の一回目の浸出プロセスの第一浸出工程におけるpH及びORP並びに各金属濃度の経時変化を示すグラフである。
図4】実施例1の一回目の浸出プロセスの第二浸出工程におけるpH及びORP並びに各金属濃度の経時変化を示すグラフである。
図5】実施例1の二回目の浸出プロセスの第一浸出工程におけるpH及びORP並びに各金属濃度の経時変化を示すグラフである。
図6】実施例1の二回目の浸出プロセスの第二浸出工程におけるpH及びORP並びに各金属濃度の経時変化を示すグラフである。
図7】実施例1の三回目の浸出プロセスの第一浸出工程におけるpH及びORP並びに各金属濃度の経時変化を示すグラフである。
図8】実施例1の三回目の浸出プロセスの第二浸出工程におけるpH及びORP並びに各金属濃度の経時変化を示すグラフである。
図9】比較例の浸出工程を示すフロー図である。
図10】比較例の浸出工程におけるpH及びORP並びに各金属濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、上述した金属浸出方法及び金属回収方法の実施の形態について詳細に説明する。
一の実施形態の金属浸出方法は、少なくとも、銅と、コバルト及びニッケルのうちの一種以上とを含む電池粉中の金属を浸出させる方法である。この金属浸出方法には、図1に示すような、複数回にわたって繰り返す浸出プロセスを有するものである。浸出プロセスには、第一浸出工程及び第二浸出工程が含まれる。
【0015】
第一浸出工程では、電池粉中の金属を酸性浸出液で浸出させ、銅が溶け出す前に浸出を終了し、それにより得られる浸出後液から浸出残渣を取り出す。第一浸出工程では、銅が溶け出す前に浸出を終了することにより、図1に示すように、浸出残渣を取り出した後の浸出後液には、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンが含まれるが、銅イオンは実質的に含まれない。この浸出後液は、中和や溶媒抽出等の後工程に送ることができる。
【0016】
第一浸出工程で得られる浸出残渣は、第一浸出工程で溶け残ったコバルト及び/又はニッケルと銅とを含むものであり、そのコバルト及び/又はニッケルを浸出させるため、第二浸出工程に供される。第二浸出工程では、第一浸出工程の浸出残渣中の金属を酸性浸出液で浸出させ、銅が溶け出した後に浸出を終了し、浸出後液を得る。ここでは、銅が溶け出した後に浸出を終了することにより、浸出残渣中の銅の一部が浸出するとともに、コバルト及び/又はニッケルが十分に浸出する。
【0017】
少なくとも一回の浸出プロセスでは、第二浸出工程にて、浸出後液から浸出残渣を取り出すことが行われる。好ましくは、毎回の浸出プロセスの第二浸出工程で、浸出後液から浸出残渣を取り出す。これにより、第二浸出工程で浸出されなかった銅の残部を、浸出残渣として分離させて除去することができる。
【0018】
そして、浸出プロセスの第二浸出工程で得られる上記の浸出後液は、その浸出プロセスの次に行う浸出プロセス(次回の浸出プロセス)の第一浸出工程で酸性浸出液として使用する。次回の浸出プロセスの第一浸出工程では、その前の浸出プロセス(前回の浸出プロセス)の第二浸出工程から持ち込まれた上記の浸出後液中の銅イオンは、新たな電池粉中のコバルト及び/又はニッケル等の卑な金属との間での置換反応により析出して、浸出残渣に移行し、第二浸出工程に送られる。一方、前回の浸出プロセスから持ち込まれた浸出後液中のコバルトイオン及び/又はニッケルイオンは、第一浸出工程で新たな電池粉から溶け出したコバルトイオン及び/又はニッケルイオンとともに第一浸出工程の浸出後液中に含まれ、浸出残渣が取り出された後に後工程に送られる。
【0019】
上述したような浸出プロセスによれば、一回だけの浸出工程を行う場合に比して、銅を容易に除去しつつ、コバルト及び/又はニッケルを十分に浸出させることができる。
【0020】
この実施形態は、リチウムイオン電池廃棄物から有価金属等の所定の金属を回収するプロセスに用いることができる。ここでは、金属浸出方法を、図2に例示するようなリチウムイオン電池廃棄物に対する金属回収方法における金属浸出工程に適用した場合を例として説明する。但し、金属浸出方法は、これに限らず、リチウムイオン電池廃棄物の電池粉中の金属を酸性浸出液に浸出させる工程を含む種々の方法に用いることが可能である。また、銅と、コバルト及びニッケルのうちの一種以上とを含む電池粉を処理の対象にするのであれば、必ずしもリチウムイオン電池廃棄物のみに限定されない。リチウムイオン電池ではない電池廃棄物から得られる電池粉を使用することも可能である。
【0021】
(リチウムイオン電池廃棄物)
対象とするリチウムイオン電池廃棄物は、車載用もしくは民生用等のリチウムイオン二次電池で、電池製品の寿命や製造不良またはその他の理由によって廃棄されたものである。車載用のリチウムイオン二次電池としては、ハイブリッド自動車や電気自動車等の車両に搭載された車載用電池パックに含まれるもの等が挙げられる。民生用のリチウムイオン二次電池としては、携帯電話その他の種々の電子機器等で使用されるものがある。このようなリチウムイオン電池廃棄物からコバルトやニッケルその他の有価金属を回収することは、資源の有効活用の観点から求められている。なお、その他の有価金属としては、例えばマンガン、リチウムが含まれることがある。
【0022】
車載用のリチウムイオン二次電池を含む車載用電池パックは一般に、その周囲の筐体を構成する金属製のケースと、ケース内部に収容されて、複数のバッテリーセルを有するリチウムイオン二次電池等のバッテリーおよびその他の構成部品とを備える。車載用電池パックは、それを搭載する車両のスペース上の制約等に応じて様々な形状のものが存在するが、たとえば、平面視でほぼ長方形をなす直方体状等の、一方向に長い縦長の外形を有するものがある。
【0023】
リチウムイオン電池廃棄物は、通常、リチウム、ニッケル、コバルト及びマンガンのうちの一種以上の単独金属酸化物又は、二種以上の複合金属酸化物等からなる正極活物質が、アルミニウム箔(正極基材)上に、たとえばポリフッ化ビニリデン(PVDF)その他の有機バインダー等によって塗布されて固着された正極材と、炭素系材料等からなる負極材と、エチレンカルボナートもしくはジエチルカルボナート等の有機電解液その他の電解質とを含む。またその他に、リチウムイオン電池廃棄物には、銅、鉄等が含まれる場合がある。
【0024】
(前処理工程)
前処理工程には、熱処理、破砕処理及び篩別処理がこの順序で又は順不同で含まれ得るが、それらのうちの少なくとも一つの処理を省略することもある。リチウムイオン電池廃棄物に前処理工程を施すことで、電池粉が得られる。ここでは、リチウムイオン電池廃棄物に何らかの前処理工程をして、正極材成分が分離濃縮された粉を電池粉と呼ぶ。電池粉は、リチウムイオン電池廃棄物に対し、熱処理を行って又は熱処理を行わずに、破砕処理及び篩別処理を行うことにより正極材成分が濃縮されて粉状のものとして得られることもある。
【0025】
なおここでは、熱処理を行う場合の例について以下に詳細に説明するが、熱処理を行わない場合の一例としては、はじめにリチウムイオン電池廃棄物の残留電気を放電させ、次いで破砕処理及び篩別処理を行い、その後、それにより得られるアルミニウム箔付きの正極材を溶剤で処理してバインダーを溶かし、アルミニウム箔から正極材成分を分離して回収する手法等がある。
【0026】
熱処理を行う場合、熱処理では、上記のリチウムイオン電池廃棄物を加熱する。このときの雰囲気は、不活性雰囲気でもよいし、大気雰囲気でもよい。また、熱処理を加熱温度条件や雰囲気条件の異なる複数の段階に分けて行ってもよい。たとえば、はじめに不活性雰囲気下の熱処理を施し、その後に雰囲気を切り替えて、大気雰囲気下の熱処理を施してもよい。この熱処理の雰囲気は、後述する各雰囲気の特性や作業効率等の種々の要素を考慮して適宜選択することができる。
【0027】
不活性雰囲気下の熱処理は、具体的には、窒素、二酸化炭素及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも一種を含む雰囲気とすることができる。なかでも、主に窒素を含む雰囲気が好ましい。このような不活性ガスを流しながら熱処理を施してもよい。酸素はある程度微量であれば含まれていてもよく、熱処理時の酸素分圧は、ジルコニア式酸素濃度計により測定して0atm~4×10-2atmの範囲内に維持することができる。不活性ガスを熱処理炉内に導入する場合、不活性ガスの酸素濃度を0.05体積%~4.00体積%とし、熱処理炉内での流量を6m3/hr~60m3/hrとすることが好適である。またここでは、リチウムイオン電池廃棄物を加熱し、400℃~800℃の温度に到達させて維持することができる。
【0028】
大気雰囲気下の熱処理は、金属浸出工程における酸浸出での発泡現象を抑制することができる。不活性雰囲気下の熱処理の不完全な熱分解で生じた物質は、酸で浸出させる際に発泡の原因になり得る。
【0029】
大気雰囲気下の熱処理は、雰囲気の調整が不要になって簡便になるので好ましい。このとき、リチウムイオン電池廃棄物を加熱し、400℃~800℃の温度に到達させて維持することができる。
【0030】
熱処理には、たとえば、バッチ式であれば雰囲気式電気炉もしくは雰囲気式マッフル炉又は、連続式であればローラーハースキルンもしくはメッシュベルトキルン、プッシャーキルン等を用いることができる。なかでもローラーハースキルン、プッシャーキルンは、大量の処理に適している点で好ましい。
【0031】
破砕処理は、たとえば、リチウムイオン電池廃棄物の車載用電池パックのケースからバッテリーを取り出し、そのバッテリーの筐体を破壊するとともに、正極活物質が塗布されたアルミニウム箔から正極活物質を選択的に分離させるために行う。ここでは、種々の公知の装置ないし機器を用いることができるが、その具体例としては、ケース及びバッテリーを切断しながら衝撃を加えて破砕することのできる衝撃式の粉砕機、たとえば、サンプルミル、ハンマーミル、ピンミル、ウィングミル、トルネードミル、ハンマークラッシャ等を挙げることができる。なお、粉砕機の出口にはスクリーンを設置することができ、それにより、バッテリーは、スクリーンを通過できる程度の大きさにまで粉砕されると粉砕機よりスクリーンを通じて排出される。
【0032】
破砕処理後は、必要に応じて、破砕されたバッテリーを軽く解砕ないし粉化して粉末状にしてから、適切な目開きの篩を用いて篩別処理を施す。これにより、篩上には、たとえば、アルミニウムや銅等が残り、篩下には、アルミニウムや銅等がある程度除去されたリチウム、コバルト及びニッケル等を含む電池粉を得ることができる。
【0033】
なお、電池粉は、必要に応じて、次に述べる浸出プロセスの前に、水等の液体と接触させてリチウムを選択的に浸出させることができる。この場合、水道水、工業用水、蒸留水、精製水、イオン交換水、純水、超純水等を用いることができ、電池粉と液体との接触時の液温は、10℃~60℃とすることができる。リチウムの浸出で得られたリチウム溶解液に対しては、たとえば、溶媒抽出、中和、炭酸化等の処理を施すことにより、リチウム溶解液中のリチウムを炭酸リチウムとして回収することができる。これにより得られる炭酸リチウムは、必要に応じて精製が行われ、不純物品位を低下させてもよい。
【0034】
(浸出プロセス)
前処理工程後の電池粉又は、上記のリチウムの浸出後の残渣等としての電池粉には、少なくとも、銅と、コバルト及びニッケルのうちの一種以上の金属とが含まれる。典型的には、電池粉には、コバルト、ニッケル、マンガン、リチウム、アルミニウム、銅、鉄等が含まれ得る。金属浸出工程では、この電池粉を酸性浸出液と接触させることにより、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを含む浸出後液を得る。
【0035】
なお、pHについて、浸出時の酸性浸出液では-0.5~3.0とすることが好ましく、浸出が終了した後の浸出後液では0.5~2.0となることがある。浸出時は、たとえば、必要に応じて撹拌機を用いて酸性浸出液を100rpm~400rpmで撹拌し、液温を65℃~70℃とすることがある。
【0036】
この実施形態では、所定の浸出プロセスを複数回にわたって繰り返し、それにより、銅を除去しつつ、コバルト及び/又はニッケルの浸出率の向上を図る。具体的には、浸出プロセスでは、図1に示すように、第一浸出工程及び第二浸出工程が順次に行われる。ここでは、一例として、電池粉がコバルト、ニッケル及び銅を含む場合について説明するが、コバルト又はニッケルのいずれかを含まないことがある他、他の金属をさらに含むこともある。
【0037】
一回目の浸出プロセスでは、第一浸出工程にて、電池粉を酸性浸出液と接触させて電池粉中の金属を浸出させるが、銅が溶け出す前に浸出を終了し、固液分離により浸出後液から浸出残渣を取り出す。そうすると、銅イオンを含まず、コバルトイオン及びニッケルイオンを含む浸出後液が得られる。この浸出後液は、後述する不純物除去等の後工程に送られる。一方、浸出残渣は、溶けずに残ったコバルト及びニッケル並びに、銅を含有するものになる。この浸出残渣からさらにコバルト及びニッケルを浸出させるため、第二浸出工程を行う。
【0038】
第二浸出工程では、浸出残渣を酸性浸出液と接触させて、浸出残渣中の金属を浸出させる。このとき、銅が溶け出した後も浸出を継続させる。それにより、浸出残渣中のコバルトやニッケルのほぼ全てを浸出させることができる。銅が溶け出した後、コバルト及びニッケルが十分に浸出してから、浸出を終了させて固液分離により浸出残渣を取り出すと、浸出残渣は、実質的にコバルト及びニッケルを含まずに銅を含むものになる。浸出残渣が取り出された後の浸出後液には、コバルトイオン、ニッケルイオン及び銅イオンが含まれる。
【0039】
なお、第二浸出工程では、新たな電池粉を投入し、第一浸出工程の浸出残渣中の金属のみならず、新たな電池粉中の金属も浸出させてもよい。第二浸出工程では、銅が溶け出した後も浸出を継続させるので、新たな電池粉中のコバルトやニッケルも十分に浸出させることができる。
【0040】
次いで、二回目の浸出プロセス(次回の浸出プロセス)では、一回目の浸出プロセス(前回の浸出プロセス)の第二浸出工程で得られた浸出後液を、第一浸出工程の酸性浸出液として使用する。なおこの際に、必要であれば、新しい酸性浸出液を加えてもよい。第一浸出工程では、そこに投入される新たな電池粉中の、銅よりも卑な金属により、上記の浸出後液中の銅イオンが置換反応で還元されて銅として析出し、浸出残渣に含まれる。また、第一浸出工程では、新たな電池粉からコバルト及びニッケルが溶け出すところ、銅が溶け出す前に終了するので、浸出残渣には、新たな電池粉に由来する銅並びに、溶けずに残ったコバルトやニッケルも含まれることになる。この浸出残渣は、固液分離により浸出後液から取り出されて、第二浸出工程での金属の浸出に供される。浸出残渣が取り出された浸出後液は、新たな電池粉から溶け出したコバルトイオン及びニッケルイオンのみならず、一回目の浸出プロセスから持ち込まれたコバルトイオン及びニッケルイオンも含まれ、後工程に送られる。
【0041】
このように前回の浸出プロセスの第二浸出工程で得られる浸出後液を、次回の浸出プロセスの第一浸出工程で酸性浸出液として使用する場合、次回の第一浸出工程に供する電池粉中の、銅よりも卑な金属の物質量は、前回の第二浸出工程で得られる浸出後液中の銅イオンの全てと置換反応を生じるのに必要となる卑な金属の物質量よりも多いことが望ましい。これにより、次回の第一浸出工程で、理論上、浸出後液中の銅イオンの全てを、電池粉中の卑な金属で有効に還元することができる。電池粉に含まれ得る金属のうち、銅よりも卑な金属としては、コバルト、ニッケル、マンガン、リチウム、鉄、アルミニウムが挙げられる。次回の浸出プロセスで投入する新たな電池粉中のそれらの金属の合計物質量が、前回得られた浸出後液中の銅イオンの全てと置換反応を生じるのに必要となる卑な金属の物質量よりも多ければよい。
【0042】
二回目の浸出プロセスの第二浸出工程は、一回目の浸出プロセスの第二浸出工程と同様にして行われるので、その再度の説明については省略する。第二浸出工程の固液分離は、毎回の浸出プロセスで行うことを要しない。第二浸出工程で固液分離を行わなかった場合、その浸出残渣を含む浸出後液が次回の浸出プロセスに送られ、浸出残渣中に銅が蓄積していく。複数回のうちの少なくとも一回の浸出プロセスの第二浸出工程で固液分離を行えば、その回の第二浸出工程にて銅を含む浸出残渣を分離させて除去することができる。好ましくは、各回の浸出プロセスにおける第二浸出工程で固液分離を行い、その都度、銅を含む浸出残渣を除去する。
【0043】
ここで、第一浸出工程の「銅が溶け出す前」とは、その回の浸出プロセスの第二浸出工程で得られる浸出後液よりも酸性浸出液中の銅イオン濃度が低い状態であることを意味する。例えば、酸性浸出液中の銅イオン濃度が0.01g/L以下であるときを、「銅が溶け出す前」とみなす場合がある。但し、この銅イオン濃度には、前回の浸出プロセスの第二浸出工程で得られ、今回の浸出プロセスの第一浸出工程で酸性浸出液として使用する浸出後液の銅イオン濃度は含まないものとする。前回の浸出プロセスの第二浸出工程で得られた浸出後液を、第一浸出工程で酸性浸出液として使用する場合、浸出前の比較的高い銅イオン濃度が、置換反応による銅の析出によって低下する傾向にある期間が終了し、例えば銅イオン濃度が一旦0.01g/L以下となった後、銅イオン濃度が0.01g/L以下となっている間を、「銅が溶け出す前」とみなすことができる。この場合、銅イオン濃度が0.01g/L以下となっている間(銅イオン濃度が0.01g/Lを超える前)に終了させることがある。
【0044】
またここで、第二浸出工程の「銅が溶け出した後」とは、その回の浸出プロセスの第一浸出工程で得られる浸出後液よりも酸性浸出液中の銅イオン濃度が高い状態であることを意味する。したがって、各回の浸出プロセスにおいて、第二浸出工程で得られる浸出後液の銅イオン濃度は、第一浸出工程で得られる浸出後液の銅イオン濃度よりも高くなる。例えば、酸性浸出液中の銅イオン濃度が0.01g/Lよりも高いときを、「銅が溶け出した後」とみなす場合がある。第二浸出工程では、例えば酸性浸出液の銅イオン濃度が0.01g/Lよりも高くなった後に、浸出を終了することがある。
【0045】
第一浸出工程や第二浸出工程では、酸性浸出液の酸化還元電位(銀/塩化銀電位基準)が、浸出前は0mVよりも十分に低いことがあり、浸出が進むに伴って次第に上昇する場合がある。以下、「酸化還元電位(銀/塩化銀電位基準)」のことを、単に「酸化還元電位」という。この酸化還元電位は、ORPと称することもある。
【0046】
第一浸出工程では、酸性浸出液の酸化還元電位が、好ましくは0mV以上となる前、より好ましくは-300mVより高くなる前に浸出を終了する。酸化還元電位が高くなると、銅イオン濃度がある程度上昇することがあり、浸出後液に銅イオンが含まれるおそれがあるからである。
【0047】
一方、第二浸出工程では、酸性浸出液の酸化還元電位が0mV以上になった後に浸出を終了することが好ましい。それにより、コバルトやニッケルの多くを浸出させることができて、コバルトやニッケルのロスが抑制される。但し、第二浸出工程では、銅が浸出されすぎることを抑制するため、酸性浸出液の酸化還元電位が60mVより高くなる前に浸出を終了することが好適である。
【0048】
また、第一浸出工程や第二浸出工程では、金属の浸出がある程度進むと、酸性浸出液の酸化還元電位の上昇速度が速くなる傾向がある。第一浸出工程では、銅の浸出を抑制するため、酸性浸出液の酸化還元電位の1時間当たりの上昇量が233mV以上となる前に終了することが好ましい。一方、第二浸出工程では、コバルトやニッケルをできる限り浸出させるとの観点から、酸性浸出液の酸化還元電位の1時間当たりの上昇量が233mV以上になった後に終了することが好ましい。ここで、酸化還元電位の1時間当たりの上昇量とは、所定の時期における酸化還元電位の値から、その時期の1時間前における酸化還元電位の値を差し引いた値を意味する。
【0049】
第一浸出工程や第二浸出工程では、たとえば、浸出時に行っていた撹拌機による撹拌を停止させ、固液分離又は新たな電池粉の投入等の次の操作を開始したことをもって、浸出が終了したとみなすことができる。浸出後液から浸出残渣を取り出すための固液分離は、フィルタープレスやシックナー等の公知の装置及び方法により行うことができる。
【0050】
なお、浸出プロセスは、第一浸出工程及び第二浸出工程のみならず、三回以上の浸出工程を含むものであってもかまわない。たとえば、第一浸出工程及び/又は第二浸出工程を、複数に分けて行うことも考えられる。このとき、複数に分けた第一浸出工程はいずれも、第二浸出工程で得られる浸出後液中の銅イオン濃度よりも酸性浸出液中の銅イオン濃度が低い状態となっている間に終了させる。例えば、複数の各第一浸出工程では、酸性浸出液の銅イオン濃度が0.01g/L以下となっている間に終了させることがある。また、複数に分けた第二浸出工程はいずれも、第一浸出工程で得られる浸出後液中の銅イオン濃度よりも酸性浸出液中の銅イオン濃度が高くなった後に、浸出を終了させる。例えば、複数の各第二浸出工程では、酸性浸出液の銅イオン濃度が0.01g/Lよりも高くなった後に、浸出を終了することがある。
【0051】
上述したような浸出プロセスを複数回繰り返すに当たっては、コバルトやニッケルが第二浸出工程の浸出残渣に移行すると、コバルトやニッケルのロスにつながるので、できる限りこれを抑制することが望ましい。具体的には、電池粉がコバルトを含む場合、質量基準で、対象となる浸出プロセスの第一浸出工程に供する電池粉のコバルト含有量と、その浸出プロセスの第一浸出工程で使用する酸性浸出液のコバルトイオン含有量の合計ないし総和を100%としたとき、各回の浸出プロセスのいずれにおいても、第一浸出工程で得られる浸出後液のコバルトイオン含有量と、第二浸出工程で得られる浸出後液のコバルトイオン含有量との合計が95%以上であることが好ましい。また、電池粉がニッケルを含む場合、質量基準で、対象となる浸出プロセスの第一浸出工程に供する前記電池粉のニッケル含有量と、その浸出プロセスの第一浸出工程で使用する酸性浸出液のニッケルイオン含有量の合計ないし総和を100%としたとき、各回の浸出プロセスのいずれにおいても、第一浸出工程で得られる浸出後液中のニッケルイオン含有量と、第二浸出工程で得られる浸出後液中のニッケルイオン含有量との合計が95%以上であることが好ましい。ここで、一回目の浸出プロセスの場合、上記の第一浸出工程で使用する酸性浸出液のコバルトイオン含有量及びニッケルイオン含有量は、ともにゼロである。また、二回目以降の各回の浸出プロセスでは、上記の第一浸出工程で使用する酸性浸出液のコバルトイオン含有量やニッケルイオン含有量は、その一つ前である前回の浸出プロセスの第二浸出工程で得られた浸出後液であって、第一浸出工程で酸性浸出液として使用される浸出後液のコバルトイオン含有量やニッケルイオン含有量を意味する。
【0052】
浸出プロセスを複数回繰り返したことにより各回の第一浸出工程で得られる浸出後液は、銅イオンがほぼ含まれず、コバルト及びニッケルを含むものである。この浸出後液はさらに、マンガン、リチウム、アルミニウム及び鉄からなる群から選択される少なくとも一種を含むことがある。
【0053】
(不純物除去・金属回収工程)
上述した各回の浸出プロセスの第一浸出工程で浸出残渣を取り出した後の浸出後液に対しては、不純物を除去した後、コバルトやニッケル等の金属を回収する工程を行うことができる。たとえば、不純物の除去としては、中和によるアルミニウムの一部及び鉄の除去や、溶媒抽出によるアルミニウムの残部及びマンガンの除去等がある。金属の回収では、溶媒抽出によりコバルト及びニッケルをそれぞれ順次に抽出するとともに逆抽出することにより、各々回収することができる。更に、コバルト及びニッケルを回収した抽出残液から種々の手法によりリチウムを回収することができる。例えば、抽出残液が硫酸リチウム水溶液である場合、その硫酸リチウム水溶液から水酸化リチウム水溶液を作製する水酸化工程、水酸化リチウム水溶液を析出させる晶析工程を行うことができる。
【実施例0054】
次に、上述した金属浸出方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0055】
(実施例1)
リチウムイオン電池廃棄物を処理して得られた電池粉に対し、図1に示すような浸出プロセスを3回繰り返し、浸出後液を得た。ここでは、各浸出プロセスにおける第一浸出工程及び第二浸出工程のpH、ORP、液中濃度の推移を確認した。具体的には、次のとおりである。
【0056】
一回目の浸出プロセスでは、Ni、Co、Mn、Li、Al及びFeの計6元素を浸出対象金属とし、重量及び品位から算出した電池粉中の各金属含有量から、浸出に必要な硫酸のモル当量を算出し、その1.1倍を酸性浸出液としての硫酸の添加量とした。
【0057】
一回目の浸出プロセスの第一浸出工程では、硫酸1.1倍モル当量に対して80%の量を120分かけて添加し、硫酸の添加終了時から300分後(銅が溶け出す前)に浸出を終了した。パルプ濃度は、浸出後のNi濃度が20g/Lとなるように調整した。液温は70℃とした。
第二浸出工程では、硫酸1.1倍モル当量に対して20%の量を30分かけて添加し、硫酸の添加終了時から300分後(銅が溶け出した後)に浸出を終了した。パルプ濃度は浸出後のNi濃度が10g/Lとなるように調整した。液温は70℃とした。
【0058】
一回目の浸出プロセスの第一浸出工程及び第二浸出工程のそれぞれについて、硫酸の添加終了時からのpH及びORP並びに各金属濃度の経時変化を、図3及び4に示す。ここで、各金属濃度は、浸出後液に対してICP発光分光分析装置による分析を行って測定した。第一浸出工程では、図3に示すように、反応中pHは1.14~1.61、ORPは-283mV~-340mVで推移した。また第一浸出工程では、液中濃度に関して、Niは15.6g/L、Coは16.4g/Lまで上昇し、Cuは0g/L(0.01g/L以下)であった。第二浸出工程では、図4に示すように、反応中pHは-0.15~0.02、ORPは-293mV~123mVで推移した。また第二浸出工程では、同図に示すように、液中濃度に関して、Niは10.3g/L、Coは8.0g/Lまで上昇し、Cuは8.0g/Lまで上昇した。なお、第二浸出工程では、酸性浸出液の酸化還元電位の1時間当たりの上昇量は、最も多いところ(グラフの傾きが急なところ)で303mVであった。
【0059】
二回目の浸出プロセスでは、一回目の浸出プロセスの第二浸出工程で得られた浸出後液を、第一浸出工程の酸性浸出液として使用し、それに伴い、硫酸添加割合を変更したことを除いて、一回目の浸出プロセスと実質的に同様にして行った。但し、第二浸出工程では、硫酸の添加終了時から180分後(銅が溶け出した後)に浸出を終了した。硫酸添加割合について、第一浸出工程では、硫酸1.1倍モル当量に対して80%とし、新たに添加する硫酸量は、式:(新規添加量、mol)=(1.1当量)×80(%)-(第二浸出工程の浸出後液中硫酸量)-(第二浸出工程の浸出後液中Cu量)とした。第二浸出工程では、全て新たに硫酸を添加し、その量は、硫酸1.1倍モル当量に対して20%の量とした。
【0060】
二回目の浸出プロセスの第一浸出工程及び第二浸出工程のそれぞれについて、硫酸の添加終了時からのpH及びORP並びに各金属濃度の経時変化を、図5及び6に示す。第一浸出工程では、図5に示すように、反応中pHは1.27~1.7、ORPは-250mV~-336mVで推移した。また第一浸出工程では、同図に示すように、液中濃度に関して、Niは15.3g/L、Coは16.2g/Lまで上昇し、Cuは0g/L(0.01g/L以下)であった。二回目の浸出プロセスでは、一回目の浸出プロセスの第二浸出工程で得られた浸出後液を第一浸出工程の酸性浸出液として使用している。それにも関わらず、硫酸の添加終了時においてCuは0g/Lとなっている。このことから、酸性浸出液に含まれていた銅イオンは、二回目の浸出プロセスで投入される新たな電池粉中の、銅よりも卑な金属により、置換反応で還元されていることが解かる。第二浸出工程では、図6に示すように、反応中pHは0.17~0.21、ORPは-312~34mVで推移した。また第二浸出工程では、同図に示すように、液中濃度に関して、Niは8.8g/L、Coは7.6g/Lまで上昇し、Cuは0.38g/Lまで上昇した。なお、第二浸出工程では、酸性浸出液の酸化還元電位の1時間当たりの上昇量は、最も多いところで306mVであった。
【0061】
三回目の浸出プロセスでは、二回目の浸出プロセスと同様に、前回の浸出プロセス(二回目の浸出プロセス)の第二浸出工程で得られた浸出後液を、第一浸出工程の酸性浸出液として使用した。硫酸添加割合も、二回目の浸出プロセスと同様とした。
【0062】
三回目の浸出プロセスの第一浸出工程及び第二浸出工程のそれぞれについて、硫酸の添加終了時からのpH及びORP並びに各金属濃度の経時変化を、図7及び8に示す。第一浸出工程では、図7に示すように、反応中pHは1.22~1.73、ORPは-327~-369mVで推移した。また第一浸出工程では、同図に示すように、液中濃度に関して、Niは15.1g/L、Coは15.6g/Lまで上昇し、Cuは0g/L(0.01g/L以下)であった。また、三回目の浸出プロセスでは、二回目の浸出プロセス同様、硫酸の添加終了時においてCuは0g/Lとなっている。このことから、酸性浸出液に含まれていた銅イオンは、三回目の浸出プロセスで投入される新たな電池粉中の、銅よりも卑な金属により、置換反応で還元されていることが解かる。第二浸出工程では、図8に示すように、反応中pHは0.27~0.46、ORPは-246~72mVで推移した。また第二浸出工程では、同図に示すように、液中濃度に関して、Niは8.0g/L、Coは7.1g/Lまで上昇し、Cuは1.8g/Lまで上昇した。なお、第二浸出工程では、酸性浸出液の酸化還元電位の1時間当たりの上昇量は、最も多いところで233mVであった。
【0063】
(実施例2)
リチウムイオン電池廃棄物を処理して得られた電池粉中の金属を、図1に示すような浸出プロセスの繰返しで浸出させた場合に、各金属が浸出後液や浸出残渣にどの程度分配されるのかを確認した。
【0064】
ここでは、電池粉に対し、図1に示すような浸出プロセスを5回繰り返して行った。各回の浸出プロセスにおいて、第一浸出工程では、硫酸1.1倍モル当量に対して80%の量を120分かけて添加し、硫酸の添加終了時から300分後(銅が溶け出す前)に浸出を終了した。パルプ濃度は、浸出後のNi濃度が20g/Lとなるように調整した。液温は70℃とした。二回目以降の浸出プロセスでは、前回の浸出プロセスの第二浸出工程で得られた浸出後液のすべてを、第一浸出工程の酸性浸出液として使用し、硫酸添加割合を、硫酸1.1倍モル当量に対して80%として、新たに添加する硫酸量は、式:(新規添加量、mol)=(1.1当量)×80(%)-(第二浸出工程の浸出後液中硫酸量)-(第二浸出工程の浸出後液中Cu量)とした。第二浸出工程では、硫酸1.1倍モル当量に対して20%の量を30分かけて添加し、ORPが0mV~100mVの範囲で浸出を終了した。終了時のORPは123mVであった。パルプ濃度は浸出後のNi濃度が10g/Lとなるように調整した。液温は70℃とした。
【0065】
各回の浸出プロセスにおける第一浸出工程(浸出1段目)及び第二浸出工程(浸出2段目)でのCo、Ni、Mn、Li、Cuの浸出後液(液)や浸出残渣(残渣)への分配率、投入量(Input)及び産出量(Output)の合計、それらの比を求めた結果、及び、反応終了条件を表1に示す。表1中の分配率は、質量基準にて、一回目の浸出プロセスで投入する電池粉中の各金属の含有量を100%とした割合で示している。また、1回目~5回目の浸出プロセスの各金属の分配率の合計を、表2に示す。表2中の分配率は、質量基準にて、1回目~5回目の浸出プロセスで投入された電池粉を合計した量(投入された総量)に含まれる各金属の含有量を100%とした割合で示している。また、「液:浸出1段目」とは、1回目~5回目の浸出プロセスにおける第一浸出工程(浸出1段目)で得られた浸出後液を合計した量の中に含まれる各金属の含有量を示しており、「液:浸出2段目」とは、5回目の浸出プロセスにおける第二浸出工程(浸出2段目)で得られた浸出後液中に含まれる各金属の含有量を示している。更に、「残渣:浸出2段目」とは、1回目~5回目の浸出プロセスにおける第二浸出工程(浸出2段目)で得られた残渣を合計した量の中に含まれる各金属の含有量を示している。更に、2回目~5回目の浸出プロセスで用いられた酸性浸出液であって、各回の前のプロセスにおける第二浸出工程で得られた浸出後液(前サイクル浸出2段目ろ液)中に含まれるCuの物質量と、2回目~5回目の浸出プロセスで新たに投入された電池粉に含まれる金属であって、Cuよりも卑な各金属の物質量と、これら各金属の全てと還元置換反応を生じることが可能なCuの物質量(Cu物質量換算)を、表3に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
表2より、Coについては、浸出後液に99.3%(浸出1段目97.5%+浸出2段目1.8%)、浸出残渣に0.7%それぞれ移行し、また、Niについては、浸出後液に96.8%(浸出1段目94.6%+浸出2段目2.2%)、浸出残渣に3.2%それぞれ移行したことが解かる。一方、Cuについては、第一浸出工程では浸出後液への分配率は0.0%であった。この結果から、最終的な浸出後液へのCuの混入を有効に抑えつつ、コバルト及び/又はニッケルを高い浸出率で浸出させることができたといえる。
【0070】
また、表1から解かるように、CoとNiのいずれについても、各回の浸出プロセスで、新たに投入される電池粉中の含有量と、酸性浸出液として使用される浸出後液(前回の浸出プロセスで得られた浸出後液)中の含有量との合計(Input)に対する、第一浸出工程で得られる浸出後液中の含有量と、第二浸出工程で得られる浸出後液中の含有量との合計(Output)の割合(Output/Input)は、95%以上であった。
【0071】
さらに、各回の浸出プロセスにおける第二浸出工程において、浸出時の酸性浸出液の銅イオン含有量は、ORPが57mV(60mV以下)であるときは16.6質量%以下であったが、ORPが97mV(60mV超)になると42.8質量%と高い値であった。このことから、第二浸出工程では、銅が浸出されすぎることを抑制するため、酸性浸出液の酸化還元電位が60mVより高くなる前に浸出を終了することが好適であることが解かる。
【0072】
なお、各回の浸出プロセスにおいて、CoやNiと比べると微量ではあるものの、第二浸出工程で得られる浸出後液中にMnやLiも含まれている。したがって、最終的な浸出後液へのCuの混入を有効に抑えつつ、マンガンやリチウムを高い浸出率で浸出させているといえる。
【0073】
また、表3から解かるように、各回の浸出プロセスで新たに投入される電池粉に含まれる金属であって、Cuよりも卑な金属の物質量は、前回の第二浸出工程で得られる浸出後液中のCuイオンの全てと置換反応を生じるのに必要となる卑な金属の物質量よりも多い。このことから、各回の第一浸出工程で、理論上、浸出後液中のCuイオンの全てを、電池粉中の卑な金属で有効に還元することができることが解かる。
【0074】
(比較例)
図9に示すように1回だけの浸出工程で、電池粉中の金属の浸出を行った。ここでは、Ni、Co、Mn、Li、Al及びFeの計6元素を浸出対象金属とし、重量及び品位から算出した電池粉中の各金属含有量から、浸出に必要な硫酸のモル当量を算出し、その1.1倍を酸性浸出液としての硫酸の添加量とした。
【0075】
試験条件としては、硫酸全量を120minで添加し、硫酸の添加終了時から320min後に浸出を終了した。パルプ濃度は、浸出後のNi濃度が20g/Lとなるように調整した。反応終了はORP0mVを目標とした。液温は70℃とした。
【0076】
図10に、pH及びORP並びに各金属濃度の経時変化を示す。また、表4に、Co、Ni、Mn、Li、Cuの浸出後液(液)や浸出残渣(残渣)への分配率を示す。表4中の分配率は、質量基準にて、投入する電池粉中の各金属の含有量を100%とした割合で示している。
【0077】
【表4】
【0078】
表4より、Coについては、浸出後液に99.3%、浸出残渣に0.7%それぞれ移行し、また、Niについては、浸出後液に96.6%、浸出残渣に3.4%それぞれ移行したことが解かる。一方、Cuについては、浸出後液への移行は16.4%であり、浸出残渣への移行は83.6%であった。このことから、浸出後液に多くの銅が含まれていたといえる。
【0079】
以上より、先述した金属浸出方法によれば、銅を容易に除去しつつ、コバルト及び/又はニッケルを十分に浸出できることが解かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-09-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、銅と、コバルト及びニッケルのうちの一種以上とを含む電池粉中の金属を浸出させる方法であって、
前記電池粉が第一電池粉及び第二電池粉を含み、
前記第一電池粉中の金属を酸性浸出液で浸出させ、銅が溶け出した後に浸出を終了し、それにより得られる浸出後液から浸出残渣を取り出す浸出工程と、
前記第二電池粉中の金属を、前記浸出工程にて得られた前記浸出後液を含む酸性浸出液で浸出させ、銅が溶け出す前に浸出を終了し、浸出後液を得る脱銅浸出工程と
を含み、
前記脱銅浸出工程で得られた前記浸出後液から前記浸出残渣を取り出して、溶液を得る、金属浸出方法。
【請求項2】
前記第一電池粉が、金属の浸出により得られる浸出残渣を含む、請求項1に記載の金属浸出方法。
【請求項3】
前記第一電池粉がさらに、新たに投入される電池粉を含む、請求項2に記載の金属浸出方法。
【請求項4】
前記脱銅浸出工程で使用する前記酸性浸出液がさらに、新しい酸性浸出液を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属浸出方法。
【請求項5】
前記脱銅浸出工程での反応中のpHを前記浸出工程での反応中のpHよりも高くし、前記脱銅浸出工程の浸出時間を前記浸出工程の浸出時間よりも長くする、請求項1~のいずれか一項に記載の金属浸出方法。
【請求項6】
前記脱銅浸出工程に供する電池粉中の、銅よりも卑な金属の物質量が、前記浸出工程で得られる浸出後液中の銅イオンの全てと置換反応を生じるのに必要となる卑な金属の物質量よりも多い、請求項1~のいずれか一項に記載の金属浸出方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の金属浸出方法で得られた前記溶液から、金属を回収する、金属回収方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
この明細書で開示する金属浸出方法は、少なくとも、銅と、コバルト及びニッケルのうちの一種以上とを含む電池粉中の金属を浸出させる方法であって、前記電池粉が第一電池粉及び第二電池粉を含み、前記第一電池粉中の金属を酸性浸出液で浸出させ、銅が溶け出した後に浸出を終了し、それにより得られる浸出後液から浸出残渣を取り出す浸出工程と、前記第二電池粉中の金属を、前記浸出工程にて得られた前記浸出後液を含む酸性浸出液で浸出させ、銅が溶け出す前に浸出を終了し、浸出後液を得る脱銅浸出工程とを含み、前記脱銅浸出工程で得られた前記浸出後液から前記浸出残渣を取り出して、溶液を得るというものである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
この明細書で開示する金属回収方法は、上記の金属浸出方法で得られた前記溶液から、金属を回収するというものである。