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特開2023-166028水産養殖エビ及び水産養殖エビの養殖方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023166028
(43)【公開日】2023-11-17
(54)【発明の名称】水産養殖エビ及び水産養殖エビの養殖方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/59 20170101AFI20231110BHJP
   A23K 20/179 20160101ALI20231110BHJP
【FI】
A01K61/59
A23K20/179
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023171571
(22)【出願日】2023-10-02
(62)【分割の表示】P 2022079394の分割
【原出願日】2017-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2016159512
(32)【優先日】2016-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】株式会社ニッスイ
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】三並 宏
(72)【発明者】
【氏名】松岡 功介
(57)【要約】
【課題】
外観に優れた水産養殖エビ、およびその育成方法を提供する。
【解決手段】
カロテノイドを含有する飼料を給餌し、水温を23~32℃に設定して育成することにより、第2触覚が折れていない、第2触覚が体長より長い外観の改善された水産養殖エビが育成される。本発明の育成方法により育成された水産養殖エビは、体色および氷締めされた後の体色も改善される。
【選択図】 なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2触覚が折れていない水産養殖エビの育成方法であって、カロテノイドを含有する飼料を給餌し、水温を23~32℃に設定して育成することを特徴とする、育成方法。
【請求項2】
前記水産養殖エビの第2触覚が体長より長い、請求項1に記載の育成方法。
【請求項3】
前記カロテノイドが合成アスタキサンチンを含む、請求項1または2に記載の育成方法。
【請求項4】
前記カロテノイドを含有する飼料が、アスタキサンチンを50ppm以上含有する、請求項1ないし3のいずれかに記載の育成方法。
【請求項5】
陸上養殖による、請求項1ないし4のいずれかに記載の育成方法。
【請求項6】
DOは6.1mg/L以上に維持して育成する、請求項1ないし5のいずれかに記載の育成方法。
【請求項7】
明暗サイクルをつけて育成する、請求項1ないし6いずれかに記載の育成方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の育成方法により育成された、カロテノイドを含み、第2触覚が折れていない水産養殖エビ。
【請求項9】
第2触覚が体長より長い、請求項8に記載の水産養殖エビ。
【請求項10】
体色のa値が、-0.08以上である、請求項8または9に記載の水産養殖エビ。
【請求項11】
体色のb値が、0.15以上である、請求項8ないし10のいずれかに記載の水産養殖エビ。
【請求項12】
体色の彩度が、1.8以下である、請求項8ないし11のいずれかに記載の水産養殖エビ。
【請求項13】
体重が10g以上である、請求項8ないし12のいずれかに記載の水産養殖エビ。
【請求項14】
体長が5cm以上である、請求項8ないし13のいずれかに記載の水産養殖エビ。
【請求項15】
水産養殖エビがエビ目である、請求項8ないし14のいずれかに記載の水産養殖エビ。
【請求項16】
水産養殖エビがエビ目クルマエビ科リトペニウス属Litopenaeus vannameiである、請求項15に記載の水産養殖エビ。
【請求項17】
氷締め後2日間経過したときの体色のa値が、-1.26以上である、請求項8ないし16のいずれかに記載の水産養殖エビ。
【請求項18】
体色のb値が、-4.3以上である、請求項17に記載の水産養殖エビ。
【請求項19】
体色の彩度が、4.62以下である、請求項17または18に記載の水産養殖エビ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、水産養殖されたエビ及びこれを利用した応用品、並びにそのエビの水産養殖に用いられる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水産養殖システムで成育したエビの持つ問題点の一つは、体色が青色を帯びる、いわゆる青色エビの出現が問題になっている。エビの体色にはカロテノイド(例えばアスタキサンチン)が関与しており、青色エビ発生の主な原因は体内のカロテノイド含量が十分ではないことがわかっている。
カロテノイドは、食餌から直接得たものである場合と、食餌に含まれる他のカロテノイドが代謝により変換されたものである場合がある。
そのため、エビの養殖に使用される飼料(エビ用飼料)には、アスタキサンチン等のカロテノイドが添加されている(例えば、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-53455号公報
【特許文献2】特開平6-276956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エビ類の商品価値は鮮度や味のみならず、外観にも左右され、外観が良い方が高品質と評価される。エビ類の養殖は通常過密状態で行われるため、各個体が接近している。そのためエビ類の外観に重要な役割を果たしている触覚部分が欠損することが多く、その商品価値を減じてしまう要因の一つとなっている。また、上記特許文献1,2で開示された技術では、水産養殖エビの色の改善が一応認められるが、水産養殖エビにおける色以外の外観(形状など)は改善できず、また、色についても改善の余地が残されていた。また、エビは通常氷締めされた後市場を流通するが、氷締めされた後の色についても改善の余地があった。
かかる状況下、本明細書は、外観が優れた水産養殖エビを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本明細書は、以下の発明に係るものである。
<1> カロテノイドを含み、第2触覚が折れていない、水産養殖エビ。
<2> 水産養殖エビであって、陸上養殖により生産される、<1>に記載の水産養殖エビ。
<3> 体色のa値が、-0.08以上である、<1>又は<2>に記載の水産養殖エビ。
<4> 体色のb値が、0.15以上である、<1>ないし<3>のいずれかに記載の水産養殖エビ。
<5> 体色の彩度が、1.8以下である、<1>ないし<4>のいずれかに記載の水産養殖エビ。
<6> 体重が10g以上である、<1>ないし<5>のいずれかに記載の水産養殖エビ。
<7> 体長が5cm以上である、<1>ないし<6>のいずれかに記載の水産養殖エビ。
<8> 前記カロテノイドが合成アスタキサンチンである、<1>ないし<7>のいずれかに記載の水産養殖エビ。
<9> 水産養殖エビがエビ目である、<1>ないし<8>のいずれかに記載の水産養殖エビ。
<10> エビ目がクルマエビ上科である、<9>に記載の水産養殖エビ。
<11> エビ目がクルマエビ科である、<10>に記載の水産養殖エビ。
<12> クルマエビ科がリトペニウス属である、<11>に記載の水産養殖エビ。
<13> リトペニウス属がLitopenaeus vannameiである、<12>に記載の水産養殖エビ。
<14>アスタキサンチン50ppm以上含有する飼料を給餌することにより育成した、<1>ないし<13>に記載の水産養殖エビ。
【0006】
<15> <1>ないし<14>のいずれかに記載の水産養殖エビの育成方法。
<16> 陸上養殖により生産される<1>ないし<14>のいずれかに記載の水産養殖エビの生産方法。
<17> <1>ないし<14>のいずれかに記載の水産養殖エビ又はその加工品を含む、食品、飼料及び医薬。
【0007】
<18> 氷締め後2日間経過したときの体色のa値が、-1.26以上である水産養殖エビ。
<19> 体色のb値が、-4.3以上である、<18>に記載の水産養殖エビ。
<20> 体色の彩度が、4.62以下である、<18>又は<19>のいずれかに記載の水産養殖エビ。
<21> 陸上養殖による生産方法であって、アスタキサンチン50ppm以上含有する飼料を給餌を行うことによる、水産養殖エビの育成方法。
<22> 水温は23~32℃に設定して育成するものである、<21>に記載の水産養殖エビの育成方法。
<23> DOは6.1mg/L以上に維持して育成するものである、<21>又は<22>に記載の水産養殖エビの育成方法。
<24> 明暗サイクルをつけて育成するものである、<21>ないし<23>のいずれかに記載の水産養殖エビの育成方法。
【発明の効果】
【0008】
本明細書によれば、優れた外観を有する水産養殖エビが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】エビの外観模式図(側面図)である。
図2】50ppm試験区及び100ppm試験区のエビのL値の推移を示すグラフである。
図3】50ppm試験区及び100ppm試験区のエビのa値の推移を示すグラフである。
図4】50ppm試験区及び100ppm試験区のエビのb値の推移を示すグラフである。
図5】50ppm試験区及び100ppm試験区のエビの彩度の推移を示すグラフである。
図6】50ppm試験区、100ppm試験区及び基本飼料区(コントロール)における第2触覚の長い個体(L)の割合を示すグラフである。
図7】50ppm試験区、100ppm試験区及び基本飼料区(コントロール)における第2触覚の短い個体(S)の割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本明細書について例示物等を示して詳細に説明するが、本明細書は以下の例示物等に限定されるものではなく、本明細書の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「AからB」又は「A~B」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。また、本明細書において、「Aおよび/またはB」という表現は、「AおよびBのいずれか一方または双方」を意味する。すなわち、「Aおよび/またはB」には、「Aのみ」、「Bのみ」、「AおよびBの双方」が含まれる。また、本明細書において示す「ppm」および「%」は、特に明示しない限り重量ppmおよび重量%を示す。
【0011】
1.水産養殖エビ
本明細書は、カロテノイドを含み、第2触覚が折れていない水産養殖エビに関する。
【0012】
本明細書の対象となる「エビ類」は、大きさに制限はなく、食品としての分類ではいわゆるロブスター(lobster)、プローン(prawn)、シュリンプ(shrimp)が含まれる。
また、学術的な分類において本明細書の対象となるエビとしてはエビ目とすることができ、エビ目のなかではクルマエビ上科とすることができる。クルマエビ上科のなかではクルマエビ科とすることができる。クルマエビ科(Penaeidae)の生物、例えばFarfantepenaeus、Fenneropenaeus、Litopenaeus、Marsupenaeus、Melicertus、Metapenaeopsis、Metapenaeus、Penaeus、Trachypenaeus、Xiphopenaeus属等に属するエビが挙げられる。
クルマエビ科のうち、例えば、食用エビとしては、クルマエビ(Marsupenaeus japonicus)、ミナミクルマエビ(Melicertus canaliculatus)、ウシエビ(ブラックタイガー)(Penaeus monodon)、コウライエビ(Penaeus chinensis)、クマエビ(Penaeus semisulcatus)、フトミゾエビ(Penaeus latisulcatus)、インドエビ(Fenneropenaeus indicus)、ヨシエビ(Metapenaeus ensis)、トサエビ(Metapenaeus intermedius)、Penaeus occidentalis、ブルーシュリンプ(Penaeus stylirostris)、レッドテールシュリンプ(Penaeus pencicillatus)、バナメイエビ(Litopenaeus vannamei)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
クルマエビ科がリトペニウス属、特にバナメイエビ(Litopenaeus vannamei)は本明細書における対象のひとつである。
【0013】
また、エビには、遊泳性をもつ種と遊泳性をもたない種がある。遊泳性を持つ種の方が水槽を立体的に使用することができるため、過密状態での生産には適している。本明細書においてはどちらの種を用いてもよいが、過密状態の方が接触機会が多く第2触覚の欠損する可能性が高いため、遊泳性を持つ種とすることもできる。遊泳性を持つ種として例えば、サクラエビ(Lucensosergia lucens)、ホッコクアカエビ(Pandalus eous)、コウライエビ(Penaeus chinensis)、ヨシエビ(Metapenaeus ensis)、バナメイエビ(Litopenaeus vannamei)が挙げられる。
【0014】
「水産養殖エビ」とは、水産養殖されたエビであり、淡水または海水(人工海水含む)のいずれかで養殖された任意のエビが含まれる。エビは人工的な条件が課される系内に収容されている場合が含まれる。このような系は、この甲殻類群に適した態様の畜産を行うことができるものであり、使用、加工、および/または販売に供するためにエビの成育および収穫を管理することができる。
【0015】
「カロテノイド」は、緑色植物とある種のカビ、酵母、キノコ、細菌などのつくる黄色ないし赤色また紫色の水不溶のポリエン色素をいう。「カロテノイド」は、カロテンやキサントフィル等の黄色~赤色色素に分類される任意の分子が含まれる。この中でも、アスタキサンチン、特には人工的に合成された合成アスタキサンチンは本明細書の対象となるカロテノイドのひとつである。合成アスタキサンチンの詳細については後述する。本明細書の1の実施態様では水産養殖エビでは、0.1%以上、0.3%以上、0.5%以上、0.8%以上、1%以上のカロテノイドを含む。
【0016】
「第2触覚」とは、一般にひげと呼ばれている触覚である(図1参照)。「第2触覚が折れていない」とは、第2触覚に折損がないことを意味する。この場合、左右の2本の第2触覚の長さが同程度である。本明細書の水産養殖エビは、第2触覚の長さが体長より長い場合が含まれる。この第2触覚が欠損してしまうと、商品としての価値を減じてしまう。また、第2触覚が欠損すると、エビの健康状態にも影響が考えられる。通常第2触覚は折損がないと体長以上になるため、本明細書においては体長以下の長さとなる第2触覚をもつ個体は、第2触覚に折損ありとした。第2触覚は根元から定規により測定した。
【0017】
エビの体色は、市場において特に重要である。ボイルした状態では、赤の発色が価値が高く、一方で、生食の状態では白色が価値が高い。「体色のa値」、「体色のb値」及び「体色の彩度」は、それぞれ測定対象となるエビの第1腹節のa値、b値及び彩度を意味する。体色のa値、b値及び彩度は、測定対象となるエビの第1腹節を色彩色差計(例えば、CR-300:コニカミノルタ株式会社)により測定することができる。
【0018】
本明細書の水産養殖エビは、体色のa値が、-0.08以上、-0.06以上、-0.04以上、-0.02以上、0以上である場合がある。また、色のb値が、0.4以上、0.35以上、0.3以上、0.25以上、0.2以上、0.15以上である場合がある。また、体色の彩度が、1.8以下、1.75以下、1.7以下、1.65以下、1.6以下である場合がある。
【0019】
本明細書の水産養殖エビの体重が、10g以上、11g以上、12g以上、13g以上、14g以上、15g以上である場合がある。本明細書の水産養殖エビの体長が5cm以上、6cm以上、7cm以上、8cm以上、9cm以上、10cm以上、11cm以上、12cm以上である場合がある。なお、「体長」とは目の後部の甲の窪み(眼窩)から尾節の先端までの長さである(図1参照)。
【0020】
また、本明細書は、氷締めした後に特定の体色を有する水産養殖エビに関する。
【0021】
水産養殖エビの氷締めでは、氷は真水を製氷したものでもよいが、ある程度海水を水で薄めたものを製氷したものでもよく、海水を製氷したものとすることもできる。また、人工海水を用いることもできる。容器に水またはある程度海水を水で薄めたもの、または海水または人工海水を入れておき、前記氷も同容器に準備をする。エビを締める場合には、前記容器にエビを投入することにより行う。締めた後すぐに容器から取り出し、冷蔵保存を行う。
【0022】
本明細書の水産養殖エビは、氷締め後2日間後における、体色のa値が、-1.26以上、-1.0以上、-0.9以上、-0.8以上、-0.7以上、-0.6以上である場合がある。また、氷締め後2日間後における体色のb値が、-4.3以上、-4.0以上、-3.0以上、-2.0以上、-1.0以上、0以上、1.0以上、2.0以上である場合がある。また、氷締め後2日間後における体色の彩度が、4.62以下、4.0以下、3.5以下、3.0以下、2.5以下、2.0以下である場合がある。
【0023】
2.水産養殖エビの養殖方法(水産養殖エビの生産方法)
以下、本明細書の水産養殖エビの養殖方法(水産養殖エビの生産方法)について説明する。本明細書の養殖方法は、上述の本明細書の水産養殖エビを養殖する方法である。
本明細書の養殖方法によれば、1の実施態様においては色や第2触覚長さの面で外観に優れるエビを生産することができる。また別の実施態様においては、体形が変形したエビの発生が抑制されたエビを生産することができる。また別の実施態様においてはエビが養殖途中で死ぬ確率が減少し、歩留まりよく所定の大きさまで育てることができる。
【0024】
本明細書の養殖方法では、養殖設備に特に制限はなく、対象となるエビの種類や大きさなどを考慮して適宜選択すればよい。本明細書の養殖方法は、海や河川、湖沼等での養殖を行うことができる。また陸上養殖では、通常過密状態で育成するため、水産養殖エビの第2触覚の折損が多く生じる。そのため1つの実施態様としては陸上養殖で行うと有効である。
【0025】
養殖対象のエビの種類は上述の通りである。本明細書の養殖方法の対象となるエビは制限なく、稚エビから親エビを含む。
本明細書でいう「稚エビ」とは、体重1g未満のものを意味し、卵から稚エビに成長するまでものは含まれない。
また、「親エビ」とは上記幼エビより成長したエビを意味する。親エビは、例えば、バナメイエビの場合、通常、15g以上程度まで成長させて出荷される。
【0026】
本明細書の養殖方法では、カロテノイドを含有する飼料をエビに給餌する。このように給餌されたカロテノイドはエビに蓄積させることができる。カロテノイド源は特に制限はない。カロテノイドとしては、アスタキサンチン、特には合成アスタキサンチンがあげられる。合成アスタキサンチンとは、化学合成によって生産されたアスタキサンチンをいう。合成アスタキサンチンは3S,3S’-体、3S,3R’-体(meso-体)、3R,3R’-体、さらに分子中央の共役二重結合のcis-、trans-、例えば全cis-、9-cis体と13-cis体等の多数の異性体が含まれているため、天然アスタキサンチンと容易に区別することができる。カロテノイドは、アスタキサンチン以外にも例えば、ルテイン、リコペンなどを含んでいてもよい。
【0027】
好適な飼料としては、アスタキサンチン(特には合成アスタキサンチン)を50ppm以上、60ppm以上、70ppm以上、80ppm以上、90ppm以上、100ppm以上含有する飼料である。アスタキサンチンを飼料に含ませる方法としては、油に溶解させ、スプレーによる噴霧、添加後混合、またはその組み合わせにより行ってもよいし、飼料自体を製造する時に材料の1つとして加えてもよい。養殖対象のエビに、所定の濃度のアスタキサンチン含有する飼料の給餌量は、体重に対し1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、飽食給餌の場合がある。毎日1回給餌、2回給餌、3回給餌、4回給餌、5回給餌の場合がある。残餌料をモニターしながら継続的に給餌を行うこともできる。養殖対象のエビに、所定の濃度のアスタキサンチン含有する飼料を与える期間は、例えば、7日以上、14日以上、28日以上、35日以上、42日以上、49日以上、56日以上、63日以上、70日以上、77日以上、84日以上、90日以上である。このように陸上養殖で過密にエビを養殖する場合には、第2触覚の多くが折損を避けることができないところ、アスタキサンチン等のカロテノイドを多く含む飼料で飼育することにより第2触覚を比較的よく保持した状態の外観のよいエビを生産することができる。また、エビの第2触覚の折損が少ないことは、エビにとっても負担が少なく、健康な状態で飼育させることが可能となる。
【0028】
水質は定期的に確認し、適切な範囲に収まるように調整する。pHを5~10、または6~9、または7~8で飼育する。pHが低下または上昇した場合アルカリ剤や酸を投入したり、換水率を調整したりして調整する。水温は、23~32℃、または25~30℃、または27~29℃を維持するようにして飼育する。水温は太陽光、ヒーター等を用いて加温したり、クーラー、氷等を用いて冷却することにより調整することができる。
【0029】
3.水産養殖エビ又はその加工品を含む応用品
本明細書に係る水産養殖エビは、そのまま使用してもよいし、さらに抽出、粉砕などの加工を行ってもよい。また、水産養殖エビ又はその加工品と任意の成分を組み合わせて、水産養殖エビを含有する組成物としてもよい。任意成分の配合割合は、その目的に応じて適宜選択して決定することができる。特に陸上養殖のように、厳密に生産管理することができる場合については、生食として市場に提供することができる。そのような用途のうち制限されるものではないが、具体例としては、食品、飼料、医薬等が挙げられる。
【0030】
本明細書の水産養殖エビ及びその加工品の対象となる、食品は特に限定されるものではなく、そのまま、または各種の食品と混ぜて使用することもできる。例えば、食品として、ソーセージ、ハム、魚介加工品などの食品類が挙げられる。また、本明細書の水産養殖エビ及びその加工品は、畜産、水産養殖用の飼料として用いることもできる。
【0031】
また、本明細書の水産養殖エビ及びその加工品は、医薬品や医薬部外品、機能性食品の原料として用いることができる。ここでいう「機能性食品」とは、一般食品に加えて、健康の維持の目的で摂取する食品および/または飲料を意味し、保健機能食品である特定保健用食品や栄養機能食品や、健康食品、栄養補助食品、栄養保険食品等を含む概念である。
なお、医薬品、医薬部外品、機能性食品として製品化する場合には、それぞれに認められている様々な添加剤、具体的には、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤漂白剤、防菌防黴剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料等を添加していてもよい。
【実施例0032】
以下に実施例を挙げて本明細書をより具体的に説明するが、本明細書はこれらに限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]飼料の作成
アスタキサンチンはDSMニュートリションジャパン株式会社から購入した。製品は製品名 カロフィルピンクを購入して使用した。この商品は、化学合成によって生産されたものである。基本飼料は、表1の組成を3パスコンディショナーでペレットミルのために処方した。ペレットサイズは2.4mmで製造した。
基本飼料は測定したところ、アスタキサンチン2.5ppm含む。これは魚油にアスタキサンチンが含まれているためと考えられる。
アスタキサンチンを含む実験飼料は、基本飼料にアスタキサンチンを補填することによりアスタキサンチン50ppm、100ppmとなるように調製した。アスタキサンチンを魚油に溶解させ、基本飼料と一緒にビニール袋に入れてよく混合した。飼料は4℃で3日以上保管後使用した。
【0034】
【表1】
【0035】
[実施例2]エビの飼育方法
平均個体重14gのバナメイエビ(Litopenaeus vannamei)を飼育対象とした。飼育には100Lの円形水槽に水を80L入れて用いた。換水率を8~10回転/日に設定して流水管理とした。屋内に水槽を設置し、側面・底面からの光は遮断し、電灯は朝8時頃~夕方17時まで点灯とした。通気は中央部にエアストーンを沈めて行った。水温は28℃に設定し、DOは6.1mg/L以上に維持した。飼料は毎日給餌した。pH測定を毎日朝1回行った。
【0036】
[実施例3]エビの色の測定
エビの体色の測定は色彩色差計CR-300(コニカミノルタ株式会社)で行った。色はL表色系の数値で評価した。色彩色差計での測定部位は第1腹節とし、各サンプルの体の左側・右側の2カ所ずつ測定し、その平均値を使用した。
基本飼料にアスタキサンチンを50ppmとなるようにした飼料(50ppmアスタキサンチン飼料)、100ppmとなるようにした飼料(100ppmアスタキサンチン飼料)を調製した。水中にそれぞれの飼料を6時間浸漬した後、アスタキサンチンの量がそれぞれおよそ50ppm、100ppmに維持されていることを確認した。それぞれを飼料として、平均個体重約14gのエビを準備し、各試験区16尾ずつ15日間飼育した。
各試験区16尾のL値、a値、b値の平均値を各条件の値とした。飼育から1日目、2日目、3日目、6日目、8日目、9日目、12日目、15日目の午前中に測定を行った。結果は表2に示す。表2において、50ppmアスタキサンチン飼料、100ppmアスタキサンチン飼料を与えた試験区をそれぞれ「50ppm試験区」、「100ppm試験区」と記載する。
また、図2図3図4及び図5に、50ppm試験区及び100ppm試験区のエビのL値、a値、b値及び彩度の推移をそれぞれ示す。アスタキサンチンを強化した飼料を給餌すると、L値、a値、b値が増加する傾向が確認された。
【0037】
【表2】
【0038】
[実施例4]成長と斃死率
基本飼料、50ppmアスタキサンチン飼料、100ppmアスタキサンチン飼料の3試験区を設定し、90日間それぞれの飼料を使用して飼育した。エビはそれぞれ16尾ずつ使用して行った。試験開始時、30日目、50日目、70日目、90日目に個体の体重を測定し、平均を計算した。結果は表4に示す。
また、90日経過後の斃死率について表5に示す。なお、生残率はサンプリング個体を含めないで計算した。自然死は全て脱皮個体が共食いされたことによる結果であった。表3、表4において、50ppmアスタキサンチン飼料、100ppmアスタキサンチン飼料を与えた試験区をそれぞれ「50ppm試験区」、「100ppm試験区」と記載する。アスタキサンチンを強化した飼料を与えた試験区は、成長もよく、生残率も高い結果となった。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
[実施例5]第2触覚の長さの測定
基本飼料、50ppmアスタキサンチン飼料、100ppmアスタキサンチン飼料の3区を設定し、90日間それぞれの飼料を使用して飼育した。エビはそれぞれ開始時平均個体重約14gの個体を各試験区16尾ずつ使用して行った。19日目、27日目、34日目、40日目、47日目、52日目、55日目、59日目、65日目、73日目、85日目、90日目に第2触覚の長さについて観察を行った。体長より長いものをL、2cm以下のものをS、LとSの中間のものをMとしてカウントした。結果を表5に示す。50ppm試験区、100ppm試験区及び基本飼料区(コントロール)における第2触覚の長い個体(L)の割合、第2触覚の短い個体(S)の割合をそれぞれ図6図7に示す。アスタキサンチン強化区が、第2触覚の長さが長いものが多いことが確認された。
【0042】
【表5】
【0043】
[実施例6]氷締め後の色の変化
50ppmアスタキサンチン飼料、100ppmアスタキサンチン飼料の2試験区を設定し、90日間それぞれの飼料を使用して飼育した。エビは海水に氷を入れた容器に投入することにより氷締めを行った。50ppm試験区7尾、100ppm試験区5尾をサンプリングし、氷締めを行い、色彩色差計でエビの体色の測定を行った。測定は色彩色差計CR-300(コニカミノルタ株式会社)を使用し、色はL表色系の数値で評価した。色彩色差計での測定部位は第1腹節とし、各サンプルの体の左側・右側の2カ所ずつ測定し、その平均値を使用した。氷締め直後、及び氷締め後2日間冷蔵保存したエビの体色を色差色差計で測定をした。結果を表6に示す。アスタキサンチンを強化していない試験区では、氷締め後時間がたつとbの値が大きくなる傾向があったが、アスタキサンチン強化区ではそれが抑えられていることが確認された。
【0044】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本明細書の水産養殖エビ又はその加工品は食品をはじめ、飼料、医薬などの原料として様々な応用品に使用できるため、産業的に有益である。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7